説明

新規な二液型ポリウレタン組成物

本発明は、ポリオールによるポリイソシアネートの硬化を促進するためのリンモリブデン酸アルカリ金属塩(特にリンモリブデン酸ナトリウム)、およびリンモリブデン酸アルカリ金属塩を含有するポリウレタン組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオールによるポリイソシアネートの硬化を促進するためのリンモリブデン酸アルカリ金属塩、およびリンモリブデン酸アルカリ金属塩を含有するポリウレタン組成物に関する。
【0002】
本発明は特に、溶媒としての水の存在下でのポリオールによるポリイソシアネート(いわゆる二液型ポリウレタン水性ラッカー、すなわち2C PUR水性ラッカー)の硬化を促進するための触媒に関する。
【背景技術】
【0003】
ラッカー用溶媒としての水の使用は、近年著しく増加している。環境的側面が、この技術の開発において重要な役割を果たしている。この技術により、ラッカーを基材に適用するための有機溶媒の使用を著しく減らすことができる。このことは、オゾン分解と使用者の作業環境の改善とに有利に作用する、揮発性成分(いわゆるVOC、すなわち揮発性有機化合物)放出量の実質的な低下を伴う。更に、塗装工場からの排気の燃焼を多くの場合省くことができるので、コストが抑えられる。
【0004】
従来のラッカー組成物、すなわちラッカー塗りする基材にラッカーを適用するために有機溶媒を使用するラッカー組成物のための、ポリウレタンを生じる(ポリ)アルコールと(ポリ)イソシアネートとの反応を促進する多くの触媒が記載されてきた。所望のラッカー特性をより迅速に得るために、所望の加工時間に依存して、適当な反応性の触媒を選択することができる。典型的に使用される触媒は、錫化合物(特に錫(IV)化合物)に基づく触媒を包含し、ジラウリン酸ジブチル錫、すなわちDBTLが特に好ましい。この化合物はおそらく、いわゆる二液型ポリウレタン(2C PUR)ラッカー用途向けに、最も頻繁に使用されている触媒である。錫塩または有機錫化合物は、イソシアネートをアルコールまたはポリオールと迅速に反応させる。別の態様として、ビスマス化合物および亜鉛化合物を使用することもできる。これらの化合物は通常、錫化合物より長いポットライフおよび反応時間を有する。ジルコニウム(IV)アセチルアセトナートのようなジルコニウムキレート化合物の使用も記載されている。この化合物はとりわけ、Journal of Coatings Technology 2002, 74(930), 31-36に記載されている。常套の触媒の関連した概説は、例えばFlorioによってPaint & Coatings Industry 2000, 16, 80に記載されている。しかしながら、別の典型的なポリウレタン触媒、例えば、鉄(III)アセチルアセトナートまたは対応するニッケル化合物またはコバルト化合物を耐光性ラッカーに使用することはできない。なぜなら、これらの触媒は一般に、着色錯体を形成するからである。
【0005】
従来の溶媒に基づく組成物とは異なって、ラッカー用溶媒として水を使用する際は、別のことも考慮しなければならない。この課題の概説は、例えばW. BlankによるProgress in Organic Coatings 1999, 35, 19、WO 98/41322および同特許文献に引用されている文献に記載されている。
【0006】
これらのラッカー組成物では、イソシアネートと水との反応速度と比較してイソシアネートとアルコールとの反応速度を考慮する必要がある。イソシアネートと水との反応によりカルバミン酸誘導体が生成するが、更に反応すると対応するアミンおよび二酸化炭素が生成する。生じた二酸化炭素はフィルムにおいて気泡として現れることがあり、これはフィルムの品質を下げる。このため、二酸化炭素の生成は望ましくない。脱カルボキシル化カルバミン酸から遊離されたアミンは遊離イソシアネートと反応し、ウレアを生成することがある。ウレアの過剰な生成は、組成物のポットライフの短縮として、典型的には、ラッカー塗り工程後の表面光沢の低下およびラッカー特性の低下として発現する。
【0007】
このように、イソシアネートと水との反応は、二次反応および特性の急速な低下の故に望ましくない。従って、触媒未添加ラッカー組成物と比べて特性の低下を防ぐためには、水とイソシアネートとの反応は推奨されない。(ポリ)アルコールとイソシアネート成分との反応を優先させることが望ましい。
【0008】
更に、先行技術の触媒は通常、水系において限定された寿命しか有さない。すなわち、触媒は、水の作用により、程度の差はあるが迅速に加水分解される。このことは特に、通常の系においてよく使用される錫(IV)化合物(例えば先に記載したDBTL)またはWO 00/47642にも記載されているようなカルボン酸ビスマス、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス(III)(K-Kat, King Industries(米国コネティカット州ノーウォーク在))に当てはまる。
【0009】
また、産業界で2C水性PUR用途に使用されるポリオール成分のほとんどは、バインダーの親水化のため、すなわち水中でのポリオール成分の配合を可能にするために使用される(第三級アミンで中和された)カルボキシル基を含有する。特定の状況下では、錯体形成の故に、このカルボキシル基は、2C水性組成物用触媒として使用される有機錫化合物の触媒活性を阻害することがある。このことは、高荷電ルイス酸の全て、例えばチタン(IV)化合物、ジルコニウム(IV)化合物などに当てはまる。多数の親水化ポリイソシアネートおよび親水化バインダーと共に一般に使用することができると考えられる触媒は、このような親水化剤との相互作用を示してはならない。
【0010】
近年、錫化合物およびジルコニウム化合物が、2C水性組成物用触媒として記載されている。WO 98/41322によると、ジルコニウム(IV)アセチルアセトナートは、水系における二液型ポリウレタンラッカーフィルムの硬化促進に寄与し、得られるラッカーフィルムは、光沢およびブルームに関して触媒未添加の場合のフィルムより質的に劣ることはないと考えられる。しかしながら、WO 98/41322は、従来の有機溶媒に基づくラッカー組成物の例しか記載していない。親水化バインダー(ポリオール)と親水化ポリイソシアネートとの反応により得られるラッカーの例(この例では、親水化剤と触媒との相互作用が予想される)は記載されていない。WO 98/41322は、触媒反応を開始させるためにラッカーフィルムの適用後にまず蒸発させなければならない錯化剤(アセチルアセトン)の添加も教示している。この手順は、ポットライフ中の触媒活性を最少化するために必要である。この錯化剤を使用しないのであれば、非実用的な許容できない程度までポットライフは短くなる。この錯化剤は、環境汚染をやはりもたらして使用者の作業環境を悪化させる、付加的な揮発性有機成分であるという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO 98/41322
【特許文献2】WO 00/47642
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Coatings Technology 2002, 74(930), 31-36
【非特許文献2】Paint & Coatings Industry 2000, 16, 80
【非特許文献3】Progress in Organic Coatings 1999, 35, 19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、水の存在下でのイソシアネートとアルコールまたはポリオールとの反応を促進するため、すなわち一般的に言えば2C PUR水性組成物の硬化を促進するための触媒を見出すことである。加工時間の関数としての一般的なラッカー特性は、本発明の触媒の使用により悪影響を受けてはならず、ポットライフは短縮されてはならない。理想的には、ポットライフは、本発明の触媒の存在によって悪影響を受けない。本発明の触媒は、加水分解に対して安定でなければならず、極めて少量の活性物質に対しても十分な活性を示さなければならない。更に、生態学的観点および経済的観点(価格)も考慮されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
意外なことに、この課題は、リンモリブデン酸アルカリ金属塩、例えばリンモリブデン酸ナトリウム(NaPO・12MoO・xHO)によって解決できることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この化合物は、加工時間(ポットライフ)の短縮を伴わずに、水中でのポリイソシアネートとポリオールとの反応を促進する活性触媒である。他の添加剤、例えば錯化剤を添加する必要はない。触媒を使用せずに形成したラッカーフィルムと質的に少なくとも同等である、高品質なポリウレタンラッカー被膜が得られる。
【0016】
例えば酸化状態6のモリブデン化合物(例えばモリブデン酸リチウムおよびモリブデン酸ナトリウム)の効果は既に、US−A 2 916 464に記載されているが、これらの化合物は、水の存在下でのポリエステルポリオールとトルイレンジイソシアネート(TDI)との反応によるポリウレタンフォームの調製に使用されている。更に意外なことは、リンモリブデン酸アルカリ金属塩(好ましくはリンモリブデン酸ナトリウム)を用いて、フォームではない高品質な気泡不含有の耐光性ラッカーフィルムを製造できることである。
【0017】
ここで、硬化時間、すなわち、十分に適用された2C PUR水性ラッカーまたは被覆剤が最終特性(例えば振子硬度、乾燥)に達するのに必要とされる時間が、触媒としてのリンモリブデン酸アルカリ金属塩(好ましくはリンモリブデン酸ナトリウム)の添加によって、触媒未添加の場合と比べて実質的に短縮できることが確立された。従って、被覆物品は、より早く使用することができる。
【0018】
硬化反応の促進は、白色ラッカーまたは赤色ラッカー(実施例2および3参照)のような着色組成物においても観察される。触媒量は、必要に応じて増やさなければならない。
【0019】
従って、本発明は、
(a)場合により有機溶媒または溶媒混合物の存在下にある、場合により親水化されていてよいポリイソシアネート、
(b)水中および場合により有機溶媒または溶媒混合物の存在下にある、場合により親水化されていてよいイソシアネート反応性基含有化合物、
(c)リンモリブデン酸アルカリ金属塩、好ましくはリンモリブデン酸ナトリウム、および
(d)任意に、他の助剤および添加剤
を本質的に含有することを特徴とする二液型ポリウレタン被覆組成物であって、成分(a)+(b)の量が20〜99.9999重量部であり、成分(c)の量が0.0001〜5重量部であり、成分(d)の量が0〜75重量部であり、個々の成分(a)〜(d)の重量部の和が100である組成物を提供する。
【0020】
二液型ポリウレタン組成物は、好ましくは水性二液型のラッカー組成物または接着剤組成物、特に好ましくはラッカー組成物である。
【0021】
本発明はまた、ラッカー組成物および助剤の成分(a)〜(d)を添加する順序を随意に変更できることを特徴とする、一般的な成分(a)〜(d)からなる二液型ポリウレタン組成物の製造方法も提供する。
【0022】
本発明はまた、ラッカー、塗料および他の系(例えば接着剤またはエラストマー)を調製するための、本発明の二液型ポリウレタン組成物の使用も提供する。
【0023】
本発明はまた、本発明の2C PUR組成物で被覆した基材も提供する。
【0024】
本発明において二液型組成物とは、成分(a)および(b)を、それらの反応性の故に独立した容器に保存しなければならない被覆剤を意味すると理解される。2つの成分は、もっぱら適用直前に混合され、次いで一般に、付加的な活性化を伴わなくても反応する。
【0025】
(ポリ)イソシアネート成分(a)は、室温で液体であるかまたはこの目的のために溶媒で希釈されている、脂肪族的、脂環式的、芳香脂肪族的および/または芳香族的に結合した遊離イソシアネート基を含有する所望の有機ポリイソシアネートからなる。ポリイソシアネート成分(a)は、23℃で10〜15,000mPas、好ましくは10〜5000mPasの粘度を有する。特に好ましくは、ポリイソシアネート成分(a)は、2.0〜5.0の(平均)NCO官能価と10〜2000mPasの23℃での粘度を有し、もっぱら脂肪族的および/または脂環式的に結合したイソシアネート基を含有するポリイソシアネートまたはポリイソシアネート混合物からなる。
【0026】
二液型ポリウレタン水性ラッカーから特に高い技術標準のラッカー被膜を得るために、遊離NCO基含有ポリイソシアネートを架橋剤として使用することが好ましい。適当な架橋性樹脂の例は、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(Desmodur(登録商標) W, Bayer AG(レーフエルクーゼン在))、1,3−ジイソシアナトベンゼン、2,4−ジイソシアナトトルエンおよび/または2,6−ジイソシアナトトルエン(TDI)、ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)およびω,ω’−ジイソシアナト−1,3−ジメチルシクロヘキサン(HXDI)に基づくポリイソシアネートである。好ましいポリイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタンおよびω,ω’−ジイソシアナト−1,3−ジメチルシクロヘキサン(HXDI)に基づくポリイソシアネートである。
【0027】
前記ジイソシアネートは、場合によりそれ自体で使用することができるが、通常は、前記ジイソシアネートの誘導体を使用する。適当な誘導体は、ビウレット基、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、ウレタン基、イミノオキサジアジンジオン基、オキサジアジントリオン基、カルボジイミド基、アシルウレア基およびアロファネート基を含有するポリイソシアネートである。
【0028】
好ましい誘導体は、イソシアヌレート構造、イミノオキサジアジンジオン構造およびウレトジオン構造を含有する誘導体である。イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサンおよびビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(Desmodur(登録商標) W)からの前記構造要素を含有する、低モノマー含量のラッカーポリイソシアネートが特に好ましい。
【0029】
TIN(トリイソシアナトノナン)のようなトリイソシアネートも適している。
【0030】
(ポリ)イソシアネート成分(a)は、場合により親水化されていてもよい。例えばカルボキシレート基、スルホネート基および/またはポリエチレンオキシド基および/またはポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシド基で変性することにより、水溶性または水分散性ポリイソシアネートを得ることができる。
【0031】
ポリイソシアネートは、例えば半化学量論量の親水性一価ポリエーテルアルコールと反応させることにより、親水化することができる。そのような親水化ポリイソシアネートの調製方法は、例えばEP−A 0 540 985の第3頁第55行〜第4頁第5行に記載されている。EP−A 0 959 087の第3頁第39〜51行に記載されているアロファネート基含有ポリイソシアネートも適しており、これは、アロファネート化条件下で低モノマー含量のポリイソシアネートとポリエチレンオキシドポリエーテルアルコールとを反応させることにより調製される。DE−A 10 007 821の第2頁第66行〜第3頁第5行に記載されている、トリイソシアナトノナンに基づく水分散性ポリイソシアネート混合物も適しており、イオン性基(スルホネート基、ホスホネート基)で親水化されたポリイソシアネート、例えばDE−A 10 024 624の第3頁第13行〜33行またはWO 01/88006に記載されているものも適している。乳化剤の添加による外部親水化も可能である。
【0032】
使用されるポリイソシアネート成分(a)のNCO含量は、例えばいわゆるポリエーテルアロファネートの場合(ポリエーテルで親水化した場合)、5〜25重量%の範囲であってよい。スルホン酸基で親水化した場合のNCO含量は、4〜26重量%の範囲であってよい。これらの数値は、例として記載しているにすぎない。
【0033】
使用されるイソシアネート成分の一部、例えば存在するイソシアネート基の3分の1までは、イソシアネート反応性成分でブロックされていてもよく、この場合、ブロックトイソシアネート成分は、後の工程で、更なる架橋をもたらすために更なるポリオールと反応することができる。
【0034】
これらのポリイソシアネートに適したブロック剤の例は、一価アルコール、例えば、アセトキシム、メチルエチルケトキシムまたはシクロヘキサノンオキシムのようなオキシム、ε−カプロラクタムのようなラクタム、フェノール、ジイソプロピルアミンまたはジブチルアミンのようなアミン、ジメチルピラゾールまたはトリアゾール、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチルまたはマロン酸ジブチルである。
【0035】
脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族イソシアネート(特に好ましくは脂肪族または脂環式イソシアネート)に基づく遊離イソシアネート基を含有する低粘性の疎水性または親水化ポリイソシアネートを使用することが好ましい。なぜなら、その使用により、ラッカーフィルムが特に高い水準の特性を有するからである。本発明のバインダー分散体の利点は、これらの架橋剤と組み合わせると最も明確に現れる。これらのポリイソシアネートは一般に、23℃で10〜3500mPasの粘度を有する。必要に応じて、前記範囲内の値まで粘度を低下するために少量の不活性溶媒と混合したポリイソシアネートを使用することができる。架橋性成分として、トリイソシアナトノナンをそれ自体でまたは混合物として使用することもできる。
【0036】
基本的にはもちろん、種々のポリイソシアネートの混合物を使用することも可能である。
【0037】
適当なイソシアネート反応性基含有化合物(b)の例は、ヒドロキシル基、スルホネート基および/またはカルボキシレート基(好ましくはカルボキシレート基)および任意にスルホン酸基および/またはカルボキシル基(好ましくはカルボキシル基)を含有するポリマーであり、前記ポリマーは、オレフィン性不飽和モノマー(いわゆるポリアクリレート−ポリオール)、ジオールとジカルボン酸の化合物(いわゆるポリエステル−ポリオール)、ジオール、ジカルボン酸およびジイソシアネートの化合物(いわゆるポリウレタン−ポリオール)、および/または前記ポリオールのハイブリッド系(例えば、ポリアクリレート−ポリエステル−ポリオール、ポリアクリレート−ポリウレタン−ポリオールまたはポリエステル−ポリウレタン−ポリオール)からなり、これらは、好ましくは500〜50,000、特に1000〜10,000のゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された数平均分子量M、16.5〜264mgKOH/g、好ましくは33〜165mgKOH/gのヒドロキシル価、0〜150mgKOH/g、好ましくは0〜100mgKOH/gの(非中和スルホン酸基および/またはカルボキシル基に基づく)酸価、および5〜417ミリグラム当量/100g、好ましくは24〜278ミリグラム当量/100gのスルホネート基および/またはカルボキシル基含量を有する。
【0038】
これらのアニオン性基がカルボキシレート基であることが特に好ましい。種々のバインダーの概説は、例えばEP−A 0 959 115の第3頁第26〜54行に記載されている。しかしながら、単純ジオール成分を使用することも可能である。基本的に、水中に溶解または分散したイソシアネート反応性基含有バインダーが、バインダー成分(b)として適している。これは例えば、水中に分散したポリウレタンまたはポリウレアも包含し、それらは、ウレタン基またはウレア基に存在する活性水素原子によってポリイソシアネートと架橋することができる。しかしながら、ポリオール、すなわち遊離OH基含有化合物が好ましい。
【0039】
バインダー成分(b)は一般に、被覆剤の調製において、10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%の水溶液および/または水性分散体として使用され、一般に、23℃で10〜10mPas、好ましくは100〜10,000mPasの粘度、および5〜10、好ましくは6〜9のpH値を有する。場合により、補助溶媒を使用してもよい。
【0040】
バインダー成分(b)の分子量およびバインダー成分のアニオン性基または遊離酸基(特にカルボキシル基)含量に依存して、ポリマー含有水系は、真の分散体またはコロイド的に分散した分散体または分子的に分散した分散体になるが、一般に、いわゆる「部分分散体」、すなわち部分的に分子的分散した分散体であり部分的にコロイド的分散した分散体である水系になる。
【0041】
成分(a)のイソシアネート基と成分(b)のイソシアネート反応性基(例えばヒドロキシル基)の比(NCO:OH比)の範囲は広い。例えば、ラッカー用途では、0.2:1.0〜4.0:1.0の比が有用である。好ましい範囲は0.35:1〜2.0:1.0、特に1.0:1.0〜1.5:1.0である。
【0042】
リンモリブデン酸アルカリ金属塩の場合、用いる触媒量は非常に少ない。一般に、成分(a)〜(d)の全てに基づいて1〜10,000ppmの活性物質量で作用することができ、好ましい範囲は1〜5000ppm、特に1〜1000ppmである。触媒の効果は、添加方法には依存しない。例えば、触媒を添加用水に直接配合することもできる。別の態様では、触媒を成分(a)および/または(b)に配合することもできる。
【0043】
本発明のバインダー水性分散体の調製前、調製中または調製後、および少なくとも1種の架橋剤を添加することよる被覆剤の調製の際、ラッカー技術において通常使用される助剤および添加剤(d)、例えば、消泡剤、増粘剤、顔料、分散剤、成分(c)とは異なる触媒、皮張り防止剤、沈降防止剤または乳化剤を添加することもできる。
【0044】
本発明の二液型ポリウレタン組成物は、溶媒として、水、および場合により有機溶媒または有機溶媒混合物を含有する。
【0045】
有機溶媒として、既知の溶媒を使用することができ、ラッカー産業で使用されている有機溶媒、例えば、キシレン、酢酸ブチル、酢酸エチル、ブチルグリコールアセテート、ブトキシル、メトキシプロピルアセテート、Solvesso(登録商標) 100(Exxon Mobile Chemicals)のような炭化水素(別の態様として、ソルベントナフサを使用することもできる)またはN−メチルピロリドンが好ましい。
【0046】
有機溶媒は通常、使用するとしても、例えば使用するポリイソシアネート(a)を予備希釈するのに或いは水中に溶解または分散したバインダー成分(b)を調製するのに必要とされる最少量でしか使用しない。
【0047】
本発明の二液型ポリウレタン組成物から、自体既知の方法によって、ラッカー、塗料および他の組成物を調製する。使用するポリイソシアネート成分(a)およびバインダー成分(b)の性質のため、ラッカー混合物を調製するのに基本的に適した手順は単に、成分(c)および(d)を併用して、成分(a)と(b)を合わせ、次いで、それらの成分を撹拌または十分混合するというものである。使用する出発物質に依存して、より早い撹拌速度(例えば2000rpm)で混合するために、溶解機を使用することもできる。実際は多くの場合、例えばロッドを用いて、単に撹拌することによって、完全な混合が十分に達成される。選択した調製方法とは無関係に、本発明の二液型ポリウレタン水性組成物は先に記載した個々の成分(a)〜(d)を含有し、成分(a)+(b)の量は20〜99.9999重量部、成分(c)の量は0.0001〜5重量部、成分(d)の量は0〜75重量部であってよく、個々の成分(a)〜(d)の重量部の和は100である。
【0048】
得られた水性被覆剤は、フィルムの特性水準に対する高い要求を満たす水性塗料組成物および水性被覆組成物が使用される応用分野の全て、例えば、無機建築材料表面の被覆、木材および木質材のラッカー塗およびシーリング、金属表面の被覆(金属被覆)、アスファルトまたはビチューメンを含有するカバーの被覆およびラッカー塗、種々のプラスチック表面のラッカー塗およびシーリング(プラスチック被覆)、並びに高光沢ラッカーおよび高光沢仕上エナメルに適している。
【0049】
バインダー分散体を含有する水性被覆剤は、例えば工業的ラッカー塗並びに自動車の下塗りおよび修理ラッカー塗の分野において、一回限りの生産および大量生産において使用することができる、下塗剤、充填剤、着色仕上エナメルおよびワニス、並びにワンコートラッカーを調製するために使用される。
【0050】
本発明の水性被覆剤の好ましい使用は、通常の加工温度、好ましくは室温〜140℃での、金属表面またはプラスチック或いは床材の被覆またはラッカー塗である。フィルムの非常に良好な光学特性並びに高水準の耐溶剤性および耐薬品性に加えて、これらの被覆剤は、迅速に乾燥し、迅速にフィルム最終特性に達する。
【0051】
被膜は、非常に広範な吹付法、例えば圧縮空気吹付法、HVLP吹付法、無気吹付法、空気混合吹付法または静電吹付法によって製造することができる。しかしながら、本発明の触媒を含有するラッカーおよび被覆剤は、他の方法、例えばハケ塗、ロール塗またはナイフ塗布によって適用することもできる。
【0052】
記載してきたように、被験ラッカーまたは被覆剤の最終特性は、リンモリブデン酸ナトリウムを用いることにより、触媒未添加の場合よりはるかに迅速に得ることができる。ワニスだけでなく、(着色)仕上エナメル、水性充填剤、下塗剤および他の被覆剤、例えば高濃度充填剤入り床被覆剤の硬化も促進される。仕上エナメルで顔料着色する場合であってもやはり、ラッカー硬化の著しい促進が見られる。
【0053】
以下において、実施例によって、記載した触媒の効果を示す。
【実施例】
【0054】
二液型ポリウレタン水性ラッカー組成物用触媒の有効性を調べる一環として、ラッカーフィルムの硬度(振子硬度)の発現を、硬化時間の関数として、ケーニッヒ/DIN 53157に従って測定した。ラッカーフィルムの耐薬品性/耐溶剤性および光沢も調べた。実施例は明らかに、ラッカーフィルムの振子硬度の上昇によって、硬化の促進を示している。
【0055】
使用したポリイソシアネート成分(a):
(a1)Bayhydur(登録商標) VP LS 2319、ポリエーテル基によって親水化されたヘキサメチレンジイソシアネート三量体、NCO含量18.0±0.5重量%、23℃での粘度約4500mPas、Bayer AG(レーフエルクーゼン在)。調製方法は、EP−A 0 959 087に記載されている。
(a2)Desmodur(登録商標) XP 2410、ヘキサメチレンジイソシアネート三量体に基づく非親水化ポリイソシアネート、NCO含量23重量%、室温での粘度約700mPas、Bayer AG(レーフエルクーゼン在)。調製方法は、DE−A 19 611 849(例えば実施例4および5)並びにDE−A 19 824 485(例えば実施例3)に記載されている。
(a3)Bayhydur(登録商標) XP 2451(親水化ヘキサメチレンジイソシアネート三量化および二量化生成物、Bayer AG(レーフエルクーゼン在))。粘度1400mPas、NCO含量18.8重量%。
【0056】
使用したポリオール成分(b):
(b1)Bayhydrol(登録商標) VP LS 2235-1、固体樹脂のOH含量3.3重量%、ポリアクリレート−ポリオール、Bayer AG(レーフエルクーゼン在)。このポリオールは、水中に分散されており、親水化のためのカルボキシル基を含有する。
【0057】
(b2)PUR−PAC−ポリオール。ポリウレタンからのハイブリッドバインダー(PUR−PAC分散体は、PUR分散体におけるアクリレートの重合によって、(ジイソシアネートを添加してプレポリマーを生成した後にヒドロキシカルボン酸で親水化し、次いで、水中に分散し、ジアミンの添加により連鎖延長した)ポリウレタン分散体から得られる)。実験室用製品RSC 1392、Bayer AG(レーフエルクーゼン在)。調製方法:47部のヘキサヒドロフタル酸無水物および53部の1,6−ヘキサンジオールから調製され、53のOH価および3未満の酸価を有するポリエステルの99.2gを、9.6gの1,4−ブタンジオールおよび0.2gのオクタン酸錫(II)と一緒に80℃に加熱し、溶液が均質になるまでこの温度で維持する。次いで、31.2gのDesmodur(登録商標) W(Bayer AG(ドイツ国レーフエルクーゼン在))を2分間にわたって撹拌しながら添加し、反応混合物を140℃に加熱し、140℃で2時間撹拌する。46.7gのプロピレングリコールn−ブチルエーテルを添加することによってプレポリマーを溶解し、溶液を更に10分間撹拌する。105.2gのヒドロキシプロピルアクリレート、41.2gのスチレンおよび16.8gの2−エチルヘキシルアクリレートの溶液を、2時間にわたって計量添加する。同時に、24.0gのジ−tert−ブチルペルオキシドおよび24.0gのプロピレングリコールn−ブチルエーテルの溶液を、3.5時間にわたって滴加する。溶液1の添加が完了した時点で、38.8gのヒドロキシプロピルメタクリレート、19.6gのn−ブチルアクリレート、8.6gのスチレンおよび5.0gのアクリル酸の混合物を、1時間にわたって直接計量添加する。溶液2の添加の後、反応混合物を140℃で更に2時間撹拌し、次いで100℃に冷却し、6.5gのジメチルエタノールアミンを添加し、混合物を10分間均質化する。529.3gの水を5分間にわたって添加することにより、分散させる。これにより、固体樹脂に基づいて4.5重量%のOH含量を有し、173.3nmの平均粒度を有する39.3重量%分散体を得る。ハイブリッド樹脂は、21,382g/molの平均分子量Mを有する。
【0058】
(b3)親水化ポリエステル−ポリオール。これは、実験室用製品WPC 19004(Bayer AG(レーフエルクーゼン在))である。水希釈性ポリエステル−ポリオールの調製方法:334gのネオペンチルグリコール、638gの1,4−シクロヘキサンジメタノール、733gのトリメリット酸無水物および432gのε−カプロラクタムを一緒に、撹拌機、加熱器、自動温度調節器、窒素注入口、塔、水分離器および受器を備えた反応器に計量添加し、撹拌および窒素流通しながら、塔頂温度が103℃を超えないように混合物を230℃に加熱する。この工程中に、反応水が分離される。酸価が5mgKOH/g以下になるまで、縮合を継続する。次いで、混合物を150℃に冷却し、870gのネオペンチルグリコール、827gのトリメチロールプロパンおよび1874gのフタル酸無水物を添加する。続いて、撹拌および窒素流通しながら、塔頂温度が103℃を超えないように混合物を220℃に加熱する。この工程中に、反応水が更に分離される。蒸留が終了した時点で、水分離器を蒸留橋に取り替え、塔頂温度が90℃未満に低下するまで混合物を220℃で撹拌する。塔を取り除き、増大した窒素流を伴って、酸価が5mgKOH/g以下になるまで縮合を継続する。次いで、混合物を140℃に冷却し、418gのトリメリット酸無水物を添加し、酸価が約35mgKOH/gになるまで170℃で撹拌を継続する。ポリエステルの調製方法におけるこの時点までに、合計で約1770gのポリエステル樹脂を、サンプリングおよび他の抜き取りによって取り出したことになる。次いで、混合物を130℃に冷却し、210gのジプロピレングリコールジメチルエーテルを添加し、100℃で1時間溶解させる。続いて、生成した溶液を、134gのN,N−ジメチルエタノールアミンおよび3174gの脱イオン水からなる50℃に加熱した混合物に、50℃で1時間かけて撹拌しながら添加する。得られた生成物を約47重量%の固形分になるよう更なる水で調節し、ポリエステル−ポリオールの46.7重量%の(空気循環炉に125℃で60分間投入した試料について不揮発性画分として測定した)固形分、16.3mgKOH/(供給形態に基づく)gの酸価、116mgKOH/(固体樹脂に基づく)gのOH価および2306mPasの23℃での粘度を有する青みがかった不透明な分散体を得る。この分散体は、約2.4重量%のジプロピレングリコールジメチルエーテル、約1.7重量%のN,N−ジメチルエタノールアミンおよび約49.2重量%の水を含有する。生成物は、水で更に希釈することができ、二液型ポリウレタン水性ラッカーへの使用に適している。
【0059】
(b4)Bayhydrol(登録商標) XP 2457(アニオン性ポリアクリレート−ポリオール、水分散性、Bayer AG(レーフエルクーゼン在)):粘度20〜200mPas、OH含量0.8重量%。
【0060】
使用した触媒成分(c)−リンモリブデン酸ナトリウム:
Aldrich(ドイツ国タウフキルヘン在)社製のリンモリブデン酸ナトリウム(c)を、更なる変性を伴わずに、10%水溶液として使用した。
【0061】
使用した出発物質のパーセントまたは部は、重量%または重量部と理解される。
【0062】
実施例1
二液型PUR水性ワニスの硬化挙動へのリンモリブデン酸ナトリウムの影響
【表1】

【0063】
リンモリブデン酸ナトリウムを、更なる変性を伴わずに、10%水溶液として使用した。原ラッカー(成分1)の全成分を一緒に混合して脱気した。次いで、ラッカー成分(成分1および2)を、溶解機を用いて2000rpmで2分間混合した。適用前に、完成したラッカー混合物に触媒を添加し、続いて、先に記載したように機械的に混合した。ラッカーフィルムを、ガラス板上にナイフ塗布した。
【0064】
硬化後、ラッカー組成物の振子硬度を測定した(ラッカー表面による振子の減衰;より高い値であれば、より良好により硬化したラッカーフィルム)。
【表2】

本発明の組成物によって、ポットライフの短縮を伴わずに、初期硬度が著しく向上したことが見出された。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)場合により親水化されていてよいポリイソシアネート、
(b)水中および場合により有機溶媒または有機溶媒混合物の存在下にある、場合により親水化されていてよいイソシアネート反応性基含有化合物、
(c)リンモリブデン酸アルカリ金属塩、および
(d)任意に、他の助剤および添加剤
を本質的に含有することを特徴とする二液型ポリウレタン被覆組成物であって、成分(a)+(b)の量が20〜99.9999重量部であり、成分(c)の量が0.0001〜5重量部であり、成分(d)の量が0〜75重量部であり、これら重量部の和が100である組成物。
【請求項2】
ラッカー組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(c)としてリンモリブデン酸ナトリウムを使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
接着剤組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ポリイソシアネート(a)として、脂肪族的に結合したイソシアネート基を含有するポリイソシアネートを使用することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ポリイソシアネート(a)として、芳香族的に結合したイソシアネート基を含有するブロックトポリイソシアネートを使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
ポリイソシアネート(a)として、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよび4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンに基づくポリイソシアネートを使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
ポリイソシアネート(a)が親水化されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
成分(a)または(b)の調製中に成分(a)または(b)に成分(c)を配合することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
即用組成物の調製中に混合物に成分(c)を配合することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
付加的な水または溶媒の配合前に、成分(c)を他の成分の1つ以上に添加することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項12】
ラッカー、塗料、シーラントおよび接着剤を調製するための、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の組成物で被覆、シールまたは接着された基材。

【公表番号】特表2013−506746(P2013−506746A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532542(P2012−532542)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064527
【国際公開番号】WO2011/042350
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】