説明

新規な分析方法およびキット

【課題】被分析試料を試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析対象物や被分析個体から採取し、得られた被分析試料中の被分析物質を高い特異性と優れた高感度で分析する分析方法およびキットの提供。
【解決手段】頭部および軸部を有し、毛細管現象を利用し液体を採取する手段が頭部に配置されている、被分析試料中の被分析物質を50%以上の回収率で選択的に回収する綿棒状の被分析試料採取器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具ならびに該試料採取器具を用いた、試料中の被分析物質を特異的に定性及び定量する分析方法、装置および該試料採取器具を含むキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場において、被分析試料中の被分析物質を簡便、迅速に測定できる装置、方法の提供が望まれている。例えば、イムノクロマトグラフィー式分析法による分析方法はその簡便性から急速に普及している。イムノクロマトグラフィー式分析法はその構造からラテラルフロー式、フロースルー式に大別される。いずれも被験体から被分析試料を採取し、その試料を試薬と混合、反応させ、その混合液をメンブレン等の固相部へ展開させ、予め固相部に備えられた試薬と反応させ、その反応結果を見ることで被分析物質を定性、定量する分析方法である。
【0003】
特表2002−508193号には個体の鼻道もしくは咽頭を綿棒でぬぐってまたは吸引して試料を得るインフルエンザウイルス感染を検出する方法が開示されている。
【特許文献1】特表2002-508193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、被分析試料を試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析対象物や被験体から採取し、得られた被分析試料中の被分析物質を高い特異性と優れた高感度で分析する分析方法およびキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来、被分析対象物や被験体から試料を採取するための被分析試料採取手段として、綿棒、白金耳、さじ形状の用具等を用いてきた。特に人体を被験体とし、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液又は咽頭ぬぐい液を被分析試料とする場合は、被分析試料採取手段として主として綿棒を用いてきた。これまで、測定方法や装置の特異性向上、高感度化の検討が行われてきたが、被分析試料採取手段の検討を含めた分析方法およびキットの検討は十分に行われてこなかった。
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、被分析試料中の被分析物質を高い回収率で回収する被分析物質を選択的に回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析物質を採取し、これを分析に供することで高い特異性、高感度の分析が行えることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の態様は、以下の通りである。
[1] 被分析試料中の被分析物質を50%以上の回収率で選択的に回収する綿棒状の被分析試料採取器具。
[2] 頭部および軸部を有し、毛細管現象を利用し液体を採取する手段が頭部に配置されている[1]の被分析試料採取器具。
[3] 頭部の軸方向垂直断面の形状または大きさが軸方向における位置で変化し、先端部に向かって軸部よりも太くなるように形成されており、頭部形状と毛細管現象を利用し液体を採取する手段部分の外形が相似である[1]または[2]の被分析試料採取器具。
[4] 毛細管現象を利用し液体を採取する手段が繊維状材料からなり、厚さが均一で0.5mm〜5mmである[1]〜[3]のいずれかの被分析試料採取器具。
[5] 毛細管現象を利用し液体を採取する手段において、天然物または人工物でできた繊維がブラシ状に配置され、綿棒軸部の軸中心に向かって垂直方向に配置され、繊度が1.0〜4.0dtexである[1]〜[4]のいずれかの被分析試料採取器具。
[6] [1]〜[5]のいずれかの被分析試料採取器具を用いて被分析試料を採取し、被分析試料中の被分析物質を測定することを特徴とする被分析物質を分析する方法。
[7] [1]〜[5]のいずれかの被分析試料採取器具の毛細管現象を利用し液体を採取する手段を、被分析物質を含む被分析試料と接触させ、該手段に被分析試料を保持させ、次いで前記手段から被分析物質を選択的に放出させ、放出した被分析物質を検出することを特徴とする、[6]の被分析物質を分析する方法。
[8] さらに、毛細管現象を利用し液体を採取する手段から選択的に放出させた被分析物質を被分析試料濾過器具で濾過し、被分析物質を検出することを特徴とする、[6]または[7]の被分析物質を分析する方法。
[9] [1]〜[5]のいずれかの被分析試料採取器具を含む被分析試料中の被分析物質を検出するためのキット。
[10] さらに、被分析試料濾過器具を含む[9]の被分析試料中の被分析物質を検出するためのキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いることにより、種々の物質が混在する被分析試料から測定しようとする被分析物質を高い回収率で選択的に回収することができ、従来の方法、装置に比べて特異性に優れた高感度の分析が行うことができ、従来法よりも簡便、迅速、正確且つ判定しやすい検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法は、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて行われる。また、本発明の装置およびキットは、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を含む。
【0010】
本発明の方法に用いられる分析方法およびその観察対象である反応形態は特に限定がない。例えば、抗原抗体反応等の免疫化学反応を用いた分析方法でもよいし、化学反応を用いた分析方法でもかまわないし、遺伝子を用いた方法でもかまわないし、それ以外の方法でもかまわない。免疫化学反応を用いた分析方法には例えば、沈降反応に分類されるSRID(Single radial immunodiffusion)法、免疫比ろう法または免疫比濁法、凝集反応に分類される直接凝集反応、間接凝集反応または逆受身凝集反応、標識法に分類されるRIA(Radioimmunoassay)法、EIA(Enzyme immunoassay)法または蛍光・発光免疫法、補体結合反応に分類される方法等があるが、いずれの方法でもかまわない。化学反応を用いた分析方法は例えば、酵素による分解反応を行わせて、その分解物や生成物を分析する方法や、加水分解、脱水反応、付加重合、縮合重合(縮重合)、酸化反応、還元反応および中和反応などの化学反応を行わせて、その分解物や生成物を分析する方法等があるが、いずれの形態でもかまわない。
【0011】
本発明の方法に用いられる分析方法は特に限定されない。例えば、顕微鏡による観察、分別培地による観察、凝集反応観察のためのスライドラテックス試薬、蛍光抗体法試薬、酵素免疫測定法試薬、代謝物検出試薬、イムノクロマト試薬、遺伝子や核酸を検出するための各種方法等があるが、いずれの方法でもかまわない。これら分析方法は手技によって行われても上記分析方法を応用した装置、キットによって行われても、免疫学的自動分析装置、生化学自動分析装置やPCR装置等の機械によって行われてもかまわない。
【0012】
本発明の方法においては、被分析物質を高い回収率で選択的に回収する被分析試料採取器具を用いて被分析試料を採取し、被分析試料採取手段から被分析試料を試験適用手段に移動させ分析を行うが、試験適用手段は特に限定されない。例えば、培地、プレート、マイクロプレート、プレパラート、試験管、チューブや遠心分離用チューブ、クロマトストリップ等あるが、いずれの試験適用手段でもかまわない。上記被分析試料の移動は特に限定がなく、塗抹、適当な液体への適当な液体へ溶解若しくは懸濁、又はその溶解液若しくは懸濁液の塗抹等によって行われるが、いずれの方法でもかまわない。また、被分析試料採取器具またはその一部をそのまま分析に供することもできるし、被分析試料採取器具と試験適用手段が一体となっていてもかまわない。
【0013】
本発明の方法に用いられる被分析対象物は特に限定がなく、土壌、大気、河川水、海水や培地、医療器具類のほか、壁、床、ドアノブ、エレベーターボタンやエスカレーターベルト等の動物やヒトから出される物質が付着する環境の物品等(以下、環境物等)が被分析対象物となりうる。
【0014】
本発明の方法に用いられる被験体は特に限定がない。動物、ヒトや微生物やあらゆる生物等が被験体となりうる。
【0015】
本発明の方法に用いられる被分析物質については特に限定はない。例えば、原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等いずれの物質も被分析物質となりうる。毒素、酵素、ポリペプチド、タンパク質、糖鎖、糖タンパク、脂質、DNA、RNA等の核酸いずれの物質も被分析物質となりうる。それら物質の全体でも、その物質の一部の断片でも被分析物質となりうる。また、それらを抗原とする抗体も被分析物質となりうる。
【0016】
本発明の方法に用いられる被分析試料に特に限定はないが、本発明の方法は本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析物質を採取する工程を含むので、前記採取器具が適用できる必要がある。具体的には、土中、空気中、水中、培地中の物質、医療器具類や環境物品への付着物そのものも被分析試料となりうるが、必要に応じて適当な液体へ溶解または懸濁させる等の処理を施すことでその溶液を被分析試料とすることができる。血液、尿、痰、唾液、嘔吐物や糞便等の動物やヒトの体内中の物質、体内へ出された物質や体外へ出された物質そのものも被分析試料となりうるが、必要に応じて適当な液体に溶解または懸濁させる等の処理を施すことでその溶液を被分析試料とすることができる。
【0017】
ここで、上記の被験体または被分析対象物から被分析試料が採取され、該被分析試料中に被分析物質が含まれる。本発明の試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いることにより、被分析試料から被分析物質が選択的に回収され得る。
【0018】
本発明の方法において用いられる本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析試料を採取した場合、被分析試料中に混在する多数の物質の中から特に被分析物質が選択的に回収できることをいう。本発明において、このような状態を被分析物質の吸着解離が非可逆的な状態であるともいう。
【0019】
本発明において、「被分析試料中の被分析物質を高回収率で選択的に回収する」は、「被分析試料中の被分析物質を高い解離率で解離する」ということもある。すなわち、本発明の試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具は、被分析試料中の被分析物質を高い解離率で解離する非可逆的な被分析試料採取器具であり、被分析対象物や被分析個体から採取する工程において採取した被分析試料を、次の工程、例えば被分析試料を液体に溶解もしくは懸濁させる等の処理を施す工程または被分析物質の検出に用いる試薬に供し、混合する工程等において、被分析物質を採取に用いた非可逆的な被分析試料採取器具に留める量を少なく、溶液中または試薬中に多く放出させる被分析試料採取手段を言う。
【0020】
被分析物質の回収率は被分析対象物または被験体から選択的に採取する工程で採取した被分析物質の総量に対する、次の工程、例えば液体に溶解または懸濁させる等の処理を施す工程または試薬に供する工程等において放出した被分析物質の総量の比で表すことができる。被分析試料から被分析物質を高回収率で選択的に回収する、すなわち、被分析試料中の被分析物質を高い回収率で回収するとは、本発明の採取器具を用いて被分析物質を含む被分析試料を採取し、該採取器具中に保持されている被分析試料を上記のように、液体に溶解もしくは懸濁させる等の処理に施すか、または検出に用いる試薬に供し混合した場合に、最終的に液体に溶解もしくは懸濁するか、または検出に用いる試薬に混合された量に対する被分析試料中に含まれる量の比を被分析試料中に含まれる種々の物質間で比較した場合、被分析物質の比が高いことをいう。この場合、被分析物質の比が他の物質に比べ高いことが望ましいが、他の物質が被分析物質の検出に影響を及ぼさない場合は、該物質と同等または低くてもよい。具体的には、被分析物質を含む被分析試料を被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて採取する工程で採取し、次の工程、例えば溶液に溶解もしくは懸濁させる等の処理を施す工程または被分析物質の検出に用いる試薬に供し、混合する工程等において器具中に保持されている物質を放出させる工程において、被分析物質が本発明の採取器具へ吸着等により保持したまま残る量が多いために試験に供される量が少ない場合は高い回収率で回収するとはいえず、逆に、被分析物質が本発明の採取器具へ保持されたまま残る量が少なく、試験に供される量が多い場合などは高い回収率で回収するという。
【0021】
本発明の試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の材料、構造および形態としては特に限定はないが、毛細管現象を利用し液体を採取する材料、構造および形態を有するものが望ましい。毛細管現象を利用して液体を採取する材料およびその構造としては、例えば細い繊維がより合わされ、織られ、編まれ、あるいは集合体として形成された物が利用でき、例えば布、織物、綿花状の物、海綿状の物が利用できる。材料は天然物、人工物いずれも利用でき、綿花や絹等の天然物や脱脂綿等の天然物の加工物、天然物の薬品処理物、ナイロン繊維等の人工物が利用できる。いずれの材料も組合せまたは層状に重ねて使用することもできる。本発明の試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の構造、形態としては特に限定がなく、毛細管現象を利用して液体を採取する上記の材料に特別な加工をすることなくそのまま利用しても良いし、毛細管現象を利用して液体を採取する材料を適当な形や大きさに形成させたものでもよいし、毛細管現象を利用して液体を採取する材料を紙、樹脂等でできた棒状の物の先端に適当な形や大きさをもって取り付けた綿棒状に形成してもよい。毛細管現象を利用し液体を採取する本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具は主として液体状の物質を毛細管現象を利用して採取するが、液体中の溶解物や混合物である固体や粘性物質も採取可能であり、この場合毛細管現象だけではなく、固体や粘性物質が本発明に器具の被分析試料採取部位に吸着等により結合することを利用して採取する。
【0022】
本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の材料、構造および形態は、被分析対象物、被験体、被分析試料および被分析物質に応じて適宜選択することができる。被分析物質を効率よく採取、試験に供するために、それらを適宜選択することができる。
【0023】
本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具は、採取した被分析試料全体を高い回収率で回収する被分析試料採取器具ではなく、被分析試料中の分析の対象である被分析物質を高い回収率で回収する被分析試料採取器具である。例えば、インフルエンザの感染を確認するために、ヒトの咽頭、鼻道または鼻腔中のウイルス抗原の存在または存在量を測定する試験において、咽頭、鼻道または鼻腔を従来の綿棒で拭い被分析試料を採取し、あるいは鼻腔中の物質を吸引して得られた物質を綿棒に吸収させる等により得られた被分析試料を試験に供する工程においては、綿棒中の綿部に存在する被分析物質である抗原が綿部に残ることが多く、この場合は高い特異性、高感度の分析を達成する上で好ましくなかった。しかし、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析物質を採取し、これを分析に供する方法によれば、高い特異性、高感度の分析、試験を行うことができる。
【0024】
また、土壌、大気、河川水、海水、培地、医療器具類や環境物等に存在、付着している細菌やその生成物、ウイルス等の被分析物質の存在または存在量を測定する試験において、被分析物質を綿棒で採取し、得られた被分析試料を試験に供する工程において、従来の綿棒中の綿部に存在する被分析物質である抗原が綿部に残ることが多く、この場合は高い特異性、高感度の分析を達成する上で好ましくなかった。しかし、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析物質を採取し、これを分析に供する方法によれば、高い特異性、高感度の分析、試験を行うことができる。
【0025】
本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いた場合の被分析物質の回収率は50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。
【0026】
以下に本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具ならびに該採取器具を用いる方法および該採取器具を含む装置もしくはキットについて具体例により説明する。
【0027】
図1に本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の1例を示す。軸部2と頭部3を備え、頭部3の表面に毛細管現象を利用し液体を採取する手段1を備える。軸部2および頭部3の材質に特に限定はないが、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1よりは液体吸収性に劣り、適度な硬度かつ適度な柔軟性を備えた物質がふさわしい。木、プラスチック、ウレタン樹脂、紙、金属の成型物が好ましく、それら材料の混合物の成型品でもかまわない。硬度、柔軟性や液体吸収性等の調整を目的として、必要に応じて薬品等で処理してもかまわない。軸部2と頭部3は別々の材料から作られていてもかまわないし、同じ材料から作られてもかまわない。また、別成型としてもよいし、一体成型としてもかまわない。毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の材質に特に限定はないが、例えば細い繊維がより合わされ、織られ、編まれ、あるいは集合体として形成された物が利用でき、例えば布、織物、不織物、綿花状の物、海綿状の物が利用できる。材料は天然物、人工物いずれも利用でき、綿花や絹等の天然物や脱脂綿等の天然物の加工物、天然物の薬品処理物、ナイロン繊維等の人工物が利用できる。いずれの材料も組合せまたは層状に重ねて使用することもできる。毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の配置の厚さは適宜選択することができるが、0.5〜5mm程度が好ましい。毛細管現象を利用し液体を採取する手段1、軸部2および頭部3は軸部の中心軸に対して通常は対象な形状であり、軸方向に対する垂直断面は軸を中心に円形であるが、必要に応じて形状を変えてもかまないし、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1を選択的に配置してもかまわない。
【0028】
従来の綿棒は図3に示すように、軸方向に対する垂直断面形状が軸方向いずれの部分においても実質的に等しい軸部に綿花を巻き付け綿球が形成される。この従来の綿棒は被分析試料を採集して被分析試料を綿棒から放出し試験に供するという本来の被分析試料採取器具の目的を考慮すると、必要以上に綿を要し、綿の深部まで被分析物質が入り込みそこに保持され、次の被分析物質を放出する工程において被分析試料中の被分析物質が十分に放出されないという問題がある。本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いれば、被分析試料中の被分析物質を高い回収率で選択的に回収できるので、高い特異性と優れた高感度で分析する分析方法が達成される。
【0029】
本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の一例として、綿棒状の器具が挙げられる。該綿棒状器具は、頭部3の軸方向垂直断面の形状または大きさが軸方向における位置で変化し、先端部に向かって軸部2よりも太くなるように形成される。具体的には、頭部3を予め最終的な採取器具の被分析物質を回収する部分である綿球部の形状と実質的に相似な形状に成型しておき、その頭部3に毛細管現象を利用し液体を採取する手段1を巻き付け、吹き付け、接着及び/又は溶着させること等により固着することで形成される。このような被分析試料採取器具は、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1に厚い部分がないため、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の内部に被分析物質を留まらせる可能性が低く、採取した被分析試料を次の工程、例えば液体に溶解もしくは懸濁させる等の処理を施す工程または被分析物質の検出に用いる試薬に供し混合する工程等において、被分析物質の被分析試料採取手段に留まる量が少ない。
【0030】
溶解または懸濁させる等の処理を施すための液は、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の深部まで十分に浸み込ませることによって被分析物質を高い回収率で回収することができる。しかし、毛細管現象を利用し液体を採取する部分が厚い場合、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の深部まで十分に浸み込ませることができず、被分析物質を溶解または解離させるための物質が溶解または解離させるための液体に含まれている場合などは特に、その作用が十分機能せず被分析物質が多く被分析試料採取手段に留ってしまう。
【0031】
本発明の試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具は、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1に厚い部分を含まず実質的に均一の厚さで、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の深部まで溶解または懸濁させる等の処理を施すための液を浸み込ませることができ、被分析物質を高い回収率で回収することができる。その結果、高い特異性と優れた高感度で分析する分析方法および装置を提供することが可能となる。毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の厚さは、その目的、材質に応じて適宜選択することができ、0.5〜5mm程度が好ましく、1〜2mm程度がより好ましい。
【0032】
図2に本発明の試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の別の1例を示す。軸部2と頭部3を備え、頭部3の表面に毛細管現象を利用し液体を採取する手段1を備える。軸部2および頭部3の材質および構造等は上記図1における説明と同様である。
【0033】
毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の材質に特に限定はないが、例えば細い繊維が頭部3に固着されることで形成される。固着の方法は問わないが、吹き付け、接着及び/又は溶着によって形成できる。材料は天然物、人工物いずれも利用でき、綿花や絹等の天然物や脱脂綿等の天然物の加工物、天然物の薬品処理物、ナイロン繊維等の人工物が利用できる。いずれの材料も組合せて使用することもできる。細い繊維はブラシ状に配置され、軸部の軸中心に向かって実質的に垂直方向に配置されるのが好ましい。
【0034】
細い繊維の太さはおよび配置密度はその目的、材質に応じて適宜選択することができるが、繊度は1.0〜4.0dtexが好ましく、また繊維の厚さは適宜選択することができるが、0.5〜5mm程度が好ましく、1〜2mm程度がより好ましい。
【0035】
毛細管現象を利用し液体を採取する手段1、軸部2および頭部3は綿棒中心軸に対して通常は対象な形状であり、軸方向に対する垂直断面は軸を中心に円形であるが、必要に応じて形状を変えてもかまわないし、毛細管現象を利用し液体を採取する手段1を選択的に配置してもかまわない。
【0036】
また、本発明の分析方法は、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具に加えて被分析試料濾過器具を用いることができる。被分析試料濾過器具に、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具の毛細管現象を利用し液体を採取する手段1より脱落する繊維状物質を捕捉することにより、無用な非特異反応を抑えることができる。被分析試料濾過器具はどのように適用、使用されてもかまわないが、例えば、採取した被分析物質を含む被分析試料を次の工程、例えば液体に溶解または懸濁させる等の処理を施す工程の後に適用されることが好ましい。採取した被分析物質を含む被分析試料を次の工程、例えば液体に溶解または懸濁させる等の処理を施す工程においては、被分析試料採取器具をしごく操作やこする操作等を行う場合があり、被分析試料採取器具の毛細管現象を利用し液体を採取する手段1の繊維状物質が脱落する可能性があり、この物質は非特異反応の原因となる場合がある。この繊維状物質を、被分析試料濾過器具を用いて捕捉することで非特異反応を抑制することができる。
【0037】
本発明は、本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具に加えて被分析試料濾過器具を含む分析装置および分析キットをも包含する。該分析装置および分析キットは、イムノクロマトグラフィー分析装置等の測定用装置、試薬等を含む。
【0038】
本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いて被分析試料を採取し、分析、試験に供することで、高い特異性と優れた高感度で分析することが可能である。分析、試験に特に限定はないが、医療現場において被検試料中の物質を簡便、迅速に測定するための分析や試験が挙げられ、例えば、イムノクロマトグラフィー式分析法による定性、定量する分析方法に適用可能である。患者の咽頭、鼻道または鼻腔中の被分析物質を高い回収率で選択的に回収する被分析試料採取器具で拭い被分析試料を採取し、あるいは鼻腔中の物質を吸引して得られた物質を被分析物質を高い回収率で選択的に回収する被分析試料採取器具に吸収する等して得られた被分析試料を、予め準備されたイムノクロマトグラフィー式分析装置に適用することで高い特異性、高感度の分析、試験を行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いてフロースルー式検出装置を用いたインフルエンザウイルスの検出
(1)抗体結合金コロイドの調製
10mLの金コロイド溶液(O.D.520=1.0)を取り、100mM炭酸カリウムでpHを7.0に調整した。プロテインAカラムでアフィニティー精製した抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を2mMホウ酸溶液で透析、遠心分離した後、2mMホウ酸溶液で100μg/mLの濃度になるように調製した。調製した抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体の最終濃度が4μg/mLとなる量を十分撹拌させながら金コロイドに加えた。5分後10%BSAを1mL加え、穏やかに10分間ローテーターで撹拌した。全量を遠心管に移し、14000rpm、30分、4℃で遠心した。遠心後上清を吸引廃棄し、得られた抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体結合金コロイドを、最終濃度が20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1%BSA、150mM塩化ナトリウムを含む溶液1mLに浮遊した。
【0040】
10mLの金コロイド溶液(O.D.520=1.0)を取り、100mM炭酸カリウムでpHを7.0に調整した。プロテインAカラムでアフィニティー精製した抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を2mMホウ酸溶液で透析、遠心分離した後、2mMホウ酸溶液で100μg/mLの濃度になるように調製した。調製した抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体の最終濃度が4μg/mLとなる量を十分撹拌させながら金コロイドに加えた。5分後10%BSAを1mL加え、穏やかに10分間ローテーターで撹拌した。全量を遠心管に移し、14000rpm、30分、4℃で遠心した。遠心後上清を吸引廃棄し、得られた抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体結合金コロイドを、最終濃度が20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1%BSA、150mM塩化ナトリウムを含む溶液1mLに浮遊した。
【0041】
(2)金コロイドの乾燥化
前項で作製した抗A型および抗B型インフルエンザモノクローナル抗体結合金コロイドを陽圧噴霧装置(BioDot社製、BioJet)を用いて、8.0O.D.520、10μL/cmの量及び速度で、10mmx300mmのポリスチレン不織布にそれぞれ噴霧した。次いで減圧装置内で1時間減圧乾燥し、乾燥金コロイドパッド(A型、B型)とした。使用時には10mmx7mm間隔で裁断し、用いた。
【0042】
(3)フロースルー検出装置の作製
検出装置にはイムノクロマトグラフィー式分析法の1形態であるフロースルー検出装置を用いた。フロースルー検出方法に使用される装置は、少なくとも分析対象物に対するレセプターが結合したシート状担体を含むものである。この装置を用いる方法は以下のとおりである。分析対象物を含む検体液を、前記分析対象物に対する第一のレセプターが結合した着色粒子と接触させ、次いで前記装置中のシート状担体を通過させることにより、前記シート状担体表面に、着色粒子/第一レセプター/分析対象物/第二レセプター複合体を形成し、これを検出する。この装置の模式図を図4及び図5に示す。図4は装置の平面図であり、図5は、図4のA−A切断端面図である。図4及び5において、5は、調製した試料(検体液)を滴下する開口部を有し、底面部に試料が通過するための穴6を備えた濃縮器である。左側の穴をAホールとし、右側の穴をBホールとする。7は分析対象物に対するレセプターが結合したシート状担体であり、8は液体を吸収する部材である。シート状担体にはニトロセルロースシートを用いた。
【0043】
本実施例では、着色粒子は金コロイド、第一レセプターは金コロイドに結合した抗インフルエンザモノクローナル抗体、分析対象物はインフルエンザウイルス抗原、そして第二レセプターはニトロセルロースシートに結合した抗インフルエンザモノクローナル抗体に相当する。
【0044】
ニトロセルロースシートへの固定化は抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を用いて以下のとおりに実施した。プロテインAカラムでアフィニティー精製した抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体及び抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を用意した。抗体が浮遊されている緩衝液をそれぞれSephadexG-25ゲル濾過カラムを用いて0.1%トレハロース加10mMクエン酸緩衝液(pH4.0)に置き換えた。280nmでの吸光度が1.0となるように0.1%トレハロース加10mM クエン酸緩衝液(pH4.0)で希釈し、抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を10μL/装置(デバイス)となるように検出装置のAホールのニトロセルロース上に滴下、抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を10μL/装置(デバイス)となるように検出装置のBホールのニトロセルロース上に滴下し、次いで45℃、40分間静置、乾燥した。装置を乾燥後、(2)で作製し、裁断した乾燥金コロイドパッド(A型)1枚をAホール中に、乾燥金コロイドパッド(B型)1枚をBホール中に立て掛けて、検出装置を完成させた。
【0045】
(4)試料
試料はインフルエンザと診断された患者4検体から入手した。
(5)検出方法
インフルエンザウイルスを含むと思われる試料を鼻腔から、図2に示す構造の本発明の非可逆的な被分析試料採取手段で検体を採取し、以下の検体浮遊液調製用媒体組成物1.5mLに浮遊させた。1w/v%BSA、20mM MES緩衝液(pH6.0)、50mM NaCl、4w/v%TritonX-100(商品名)、2w/v%アルギニン。
【0046】
その溶液をフィルター(孔径0.22μm)で濾過した後、検出装置(デバイス)のAホール内及びBホール内へ乾燥金コロイドパッドが浸る様にそれぞれ500μLずつ滴下した。液が膜部材に全て吸収された後、濃縮器を取り外し、Aホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にA型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(A型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中にA型インフルエンザウイルスが存在していないことになる。また、Bホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(B型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していないことになる。Aホール及びBホールともに着色していなければ、A型、B型インフルエンザウイルス共に存在していないことになる(陰性)。
【0047】
[比較例1]従来の被分析試料採取器具を用いたフロースルー式検出装置によるインフルエンザウイルスの検出
(1)金コロイド抗体の調製
実施例1同様に行った。
(2)金コロイド抗体の乾燥化
実施例1同様に行った。
(3)診断用メンブレンフィルターへの抗体の固定化、検出装置の作製
実施例1同様に行った。
(4)試料
実施例1と同じ試料を用いた。
(5)検出方法
インフルエンザウイルスを含むと思われる試料を吸引カテーテルにより採取した鼻腔吸引液から綿棒で検体を採取し、以下の検体浮遊液調製用媒体組成物1.5mLに浮遊させた。1w/v%BSA、20mM MES緩衝液(pH6.0)、50mM NaCl、4w/v%TritonX-100(商品名)、2w/v%アルギニン。従来の被分析試料採取器具としては、市販の綿棒(日本綿棒社製)を用いた。
【0048】
その溶液をフィルター(孔径0.22μm)で濾過した後、検出装置(デバイス)のAホール及びBホール内へ乾燥金コロイドパッドが浸る様にそれぞれ500μLずつ滴下した。液が膜部材に全て吸収された後、濃縮器を取り外し、Aホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にA 型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(A型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中にA型インフルエンザウイルスが存在していないことになる。また、Bホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(B型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していないことになる。Aホール及びBホールともに着色していなければ、A型、B型インフルエンザウイルス共に存在していないことになる(陰性)。
【0049】
実施例1および比較例1による結果を表1に示す。表1に示されるように、比較例1では、4つの陽性検体のうちの1つで陰性となったが、本発明の組成物を用いた実施例1では、すべてA型陽性であった。PCR法による確認試験においてもすべてA型陽性である事が確認できた。
【0050】
【表1】

【0051】
[実施例2]本発明の被分析試料中の被分析物質を選択的に高回収率にて回収し得る被分析試料採取器具を用いたフロースルー式検出装置によるインフルエンザウイルスの検出感度測定
(1)金コロイド抗体の調製
実施例1同様に行った。
(2)金コロイド抗体の乾燥化
実施例1同様に行った。
(3)診断用メンブレンフィルターへの抗体の固定化、検出装置の作製
実施例1同様に行った。
(4)被分析試料採取器具の準備
本発明の方法に用いる図2に示す被分析試料採取器具について、試料採取部位に応じ鼻用と咽頭用の2種を準備し、吸水量を測定した。吸水量の測定は以下の手順で行った。
1)検体浮遊液に浸す前の重量を量る。
2)検体浮遊液(比重:0.995)に20秒間浸した後、重量を量る
3)差を求め、1綿棒当たりの吸水量とする。
4)容量換算の平均値をそれぞれ被分析試料採取器具の吸水量とした。
上記手順で測定した吸水量の結果を表2に示す。
【0052】
(5)試料
試料はA型インフルエンザウイルス北京株(A/北京/262/95)およびB型インフルエンザウイルス山東株(B/山東/7/97)をイヌ腎臓上皮細胞由来の培養細胞であるMDCK(Madin-Darbycanine kidney)細胞中で増殖させた培養液をウイルス分離培地で希釈したものを使用した。
【0053】
(6)検出方法
200倍から6400倍の希釈倍数のウイルス希釈液を作製し、各被分析試料採取器具の上記で求めた吸水量分を、直接検体浮遊液(1.5 mL)に添加した場合(対照)と、各被分析試料採取器具に吸水させた後に浮遊液に浮遊した場合についてそれぞれどの倍率まで陽性と判別可能か確認した。
【0054】
浮遊液は以下の検体浮遊液調製用媒体組成物を用いた。1w/v%BSA、20mM MES緩衝液(pH6.0)、50mM NaCl、4w/v%TritonX-100(商品名)、2w/v%アルギニン。
【0055】
上記ウイルス希釈液と浮遊液の混合液1.5mLをフィルター(孔径0.22μm)で濾過した後、検出装置(デバイス)のAホール内とBホール内へ乾燥金コロイドパッドが浸る様にそれぞれ500μLずつ滴下した。液が膜部材に全て吸収された後、濃縮器を取り外し、抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にA型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(A型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中のインフルエンザウイルスの存在が確認できないことになる。また、Bホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(B型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していないことになる。Aホール及びBホールともに着色していなければ、A型、B型インフルエンザウイルス共に存在していないことになる(陰性)。
【0056】
[比較例2]従来の被分析試料採取器具を用いたフロースルー式検出装置によるインフルエンザウイルスの検出感度測定
(1)金コロイド抗体の調製
実施例1同様に行った。
(2)金コロイド抗体の乾燥化
実施例1同様に行った。
(3)診断用メンブレンフィルターへの抗体の固定化、検出装置の作製
実施例1同様に行った。
(4)被分析試料採取器具の準備
従来の方法に用いる図3に示す綿棒(日本綿棒社製病院用綿棒、鼻用:紙軸綿棒150mm−片綿3.0mmタイプ、咽頭用:紙軸綿棒150mm−片綿4.5mmタイプ)について、試料採取部位に応じ鼻用と咽頭用の2種を準備し、吸水量を測定した。吸水量の測定は実施例2同様に行った。
測定した吸水量の結果を表3に示す。
【0057】
(5)試料
実施例2と同じ試料を用いた。
(6)検出方法
200倍から6400倍の希釈倍数のウイルス希釈液を作製し、各綿棒の上記で求めた吸水量分を、直接検体浮遊液(1.5 mL)に添加した場合(対照)と、各綿棒に吸水させた後に浮遊液に浮遊した場合についてそれぞれどの倍率まで陽性と判別可能か確認した。
【0058】
浮遊液は以下の検体浮遊液調製用媒体組成物を用いた。1w/v%BSA、20mM MES緩衝液(pH6.0)、50mM NaCl、4w/v%TritonX-100(商品名)、2w/v%アルギニン。
【0059】
上記シード液と浮遊液の混合液1.5mLをフィルター(孔径0.22μm)で濾過した後、検出装置(デバイス)のAホール内とBホール内へ乾燥金コロイドパッドが浸る様にそれぞれ500μLずつ滴下した。液が膜部材に全て吸収された後、濃縮器を取り外し、Aホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にインフルエンザウイルスが存在していると確認される(A型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中のインフルエンザウイルスの存在が確認できないことになる。また、Bホールの抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を吸着させた部分の膜部材が金コロイドの色(例えば、赤色〜赤褐色)に着色していれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していると確認される(B型陽性)。色調の変化がなく膜部材の色のままであれば、試料中にB型インフルエンザウイルスが存在していないことになる。Aホール及びBホールともに着色していなければ、A型、B型インフルエンザウイルス共に存在していないことになる(陰性)。
【0060】
実施例2および比較例2による結果を表2および表3、表4および表5に示す。表2および表3に示されるように実施例2の吸水量は、鼻用、咽頭用共に比較例2の吸水量より少ないにもかかわらず、表4、表5に示されるように、実施例2は比較例2に比べ2倍感度が高く、また、対照試験のウイルス希釈液を直接検体浮遊液に添加した場合に比べて感度が劣ることなく検出可能であることが確認できた。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
本発明の方法は、被分析試料中の被分析物質を高い特異性と優れた高感度で分析できる優れた方法である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の被分析物質を高い回収率で選択的に回収する綿棒状の被分析物質採取器具の一例を示した図である。
【図2】本発明の被分析物質を高い回収率で選択的に回収する綿棒状の被分析物質採取器具の一例を示した図である。
【図3】従来の綿棒を示す図である。
【図4】本発明の方法で用いる分析装置の一例の平面図である。
【図5】図4のA−A切断端面図である。
【符号の説明】
【0067】
1:毛細管現象を利用し液体を採取する手段
2:軸部
3:頭部
4:デバイス
5:濃縮器
6:穴
7:シート状担体
8:液体吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析試料中の被分析物質を50%以上の回収率で選択的に回収する綿棒状の被分析試料採取器具。
【請求項2】
頭部および軸部を有し、毛細管現象を利用し液体を採取する手段が頭部に配置されている請求項1記載の被分析試料採取器具。
【請求項3】
頭部の軸方向垂直断面の形状または大きさが軸方向における位置で変化し、先端部に向かって軸部よりも太くなるように形成されており、頭部形状と毛細管現象を利用し液体を採取する手段部分の外形が相似である請求項1または2に記載の被分析試料採取器具。
【請求項4】
毛細管現象を利用し液体を採取する手段が繊維状材料からなり、厚さが均一で0.5mm〜5mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の被分析試料採取器具。
【請求項5】
毛細管現象を利用し液体を採取する手段において、天然物または人工物でできた繊維がブラシ状に配置され、綿棒軸部の軸中心に向かって垂直方向に配置され、繊度が1.0〜4.0dtexである請求項1〜4のいずれか1項に記載の被分析試料採取器具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の被分析試料採取器具を用いて被分析試料を採取し、被分析試料中の被分析物質を測定することを特徴とする被分析物質を分析する方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の被分析試料採取器具の毛細管現象を利用し液体を採取する手段を、被分析物質を含む被分析試料と接触させ、該手段に被分析試料を保持させ、次いで前記手段から被分析物質を選択的に放出させ、放出した被分析物質を検出することを特徴とする、請求項6記載の被分析物質を分析する方法。
【請求項8】
さらに、毛細管現象を利用し液体を採取する手段から選択的に放出させた被分析物質を被分析試料濾過器具で濾過し、被分析物質を検出することを特徴とする、請求項6または7に記載の被分析物質を分析する方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の被分析試料採取器具を含む被分析試料中の被分析物質を検出するためのキット。
【請求項10】
さらに、被分析試料濾過器具を含む請求項9記載の被分析試料中の被分析物質を検出するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−139556(P2007−139556A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333029(P2005−333029)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】