説明

新規な生物材料薬物送達および表面改変組成物

【課題】より良好な外科医が動かす特性、潤滑性特性、結び目の滑り特性および/または結び目のきつさ特性を示しながら、縫合糸への改善された接着もまた示す、コーティングを有する縫合糸を提供すること。
【解決手段】エマルジョンを含有する医療デバイスコーティングであって、少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせて含有する油相;ならびに、抗菌タンパク質、ペプチド、これらのフラグメント、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の抗菌成分を含有する水相、を含有する、コーティング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療デバイス(例えば、縫合糸、メッシュ、ステープル、クリップ、吻合リング、骨プレートおよび骨ねじ、薬学的に活性な成分の持続放出および/または制御放出のためのマトリックスなど)の製造において特に有用な組成物に関する。いくつかの実施形態において、これらの組成物は、医療デバイスのためのコーティングとして利用され得る。
【背景技術】
【0002】
Ethicon,Inc.(Somerville,N.J.)およびUnited States Surgical Corporation(Norwalk,Conn.)から市販されている、DEXONTM、VICRYL(登録商標)、およびPOLYSORBTMなどの合成吸収性マルチフィラメント縫合糸が、産業において公知である。
【0003】
合成吸収性縫合糸のための縫合糸コーティングもまた、公知である。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、および特許文献13を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,624,256号明細書
【特許文献2】米国特許第4,190,720号明細書
【特許文献3】米国特許第4,582,052号明細書
【特許文献4】米国特許第4,605,730号明細書
【特許文献5】米国特許第4,700,704号明細書
【特許文献6】米国特許第4,705,820号明細書
【特許文献7】米国特許第4,788,979号明細書
【特許文献8】米国特許第4,791,929号明細書
【特許文献9】米国特許第4,994,074号明細書
【特許文献10】米国特許第5,047,048号明細書
【特許文献11】米国特許第5,100,433号明細書
【特許文献12】米国特許第5,133,739号明細書
【特許文献13】米国特許第5,352,515号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
縫合糸コーティングの1つの重要な性質は、縫合糸の取り扱い特徴(例えば、外科医が動かすこと、潤滑性、結び目の滑りおよび/または結び目のきつさ)を増強する能力である。コーティングが医療デバイス(例えば、縫合糸)に接着する能力、および接着したままである能力は、別の重要な特徴である。市販の外科手術用縫合糸(例えば、POLYSORBTM)は、優れた取り扱い特徴を有するが、より良好な外科医が動かす特性、潤滑性特性、結び目の滑り特性および/または結び目のきつさ特性を示しながら、縫合糸への改善された接着もまた示す、コーティングを有する縫合糸を提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
エマルジョンを含有する医療デバイスコーティングであって、
少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせて含有する油相;ならびに
抗菌タンパク質、ペプチド、これらのフラグメント、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の抗菌成分を含有する水相、
を含有する、コーティング。
(項目2)
前記生体吸収性ポリマーが、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のモノマーから誘導される結合を含む、上記項目に記載のコーティング。
(項目3)
前記生体吸収性ポリマーがグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目4)
前記生体吸収性ポリマーがラクチド/グリコリドコポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目5)
前記少なくとも1種の抗菌成分が、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、ディフェンシン、カテリシジン、ヒスタチン、セクロピン、マガイニン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目6)
前記コーティングが、ビニルピロリドンホモポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、および必要に応じてさらなるモノマーまたはポリマーと組み合わせたこれらのブレンドからなる群より選択されるビニルピロリドン成分をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目7)
前記コーティングが、脂肪酸、脂肪酸塩および脂肪酸エステルの塩からなる群より選択される1種以上の脂肪酸成分をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目8)
前記脂肪酸成分が、ラクチル酸ステアロイルカルシウム、ラクチル酸ステアロイルマグネシウム、ラクチル酸ステアロイルアルミニウム、ラクチル酸ステアロイルバリウム、ラクチル酸ステアロイル亜鉛、ラクチル酸パルミチルカルシウム、ラクチル酸パルミチルマグネシウム、ラクチル酸パルミチルアルミニウム、ラクチル酸パルミチルバリウム、ラクチル酸パルミチル亜鉛、ラクチル酸オレイルカルシウム、ラクチル酸オレイルマグネシウム、ラクチル酸オレイルアルミニウム、ラクチル酸オレイルバリウム、およびラクチル酸オレイル亜鉛からなる群より選択される脂肪酸エステルの塩を含む、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目9)
前記医療デバイスが、ステープル、クリップ、薬物送達デバイス、ステント、ピン、ねじ、縫合糸、人工靭帯、人工腱、織られたメッシュ、組織足場、凍結乾燥された生物学的メッシュ、複合メッシュ、ガーゼ、包帯、および成長マトリックスからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目10)
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、二硫化炭素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目11)
前記有機溶液対前記水溶液の比が、約1:1〜約20:1であり得る、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目12)
エマルジョンを含有する医療デバイスコーティングであって、
少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせて含有する油相;
少なくとも1種の界面活性剤;ならびに
ラクトフェリン、ラクトフェリシン、ディフェンシン、カテリシジン、ヒスタチン、セクロピン、マガイニン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の抗菌成分を含有する水相、
を含有する、コーティング。
(項目13)
前記生体吸収性ポリマーが、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノンおよびジオキセパノンからなる群より選択される1種以上のモノマーから誘導される結合を含む、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目14)
前記生体吸収性ポリマーがグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目15)
前記生体吸収性ポリマーがラクチド/グリコリドコポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目16)
前記少なくとも1種の界面活性剤が、アルコールエトキシレート、グリセロールエステル、ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸のグリコールエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目17)
前記コーティングが、ビニルピロリドンホモポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、および必要に応じてさらなるモノマーまたはポリマーと組み合わせられたこれらのブレンドからなる群より選択されるビニルピロリドン成分をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目18)
前記コーティングが、脂肪酸、脂肪酸塩および脂肪酸エステルの塩からなる群より選択される1種以上の脂肪酸成分をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目19)
前記脂肪酸成分が、ラクチル酸ステアロイルカルシウム、ラクチル酸ステアロイルマグネシウム、ラクチル酸ステアロイルアルミニウム、ラクチル酸ステアロイルバリウム、ラクチル酸ステアロイル亜鉛、ラクチル酸パルミチルカルシウム、ラクチル酸パルミチルマグネシウム、ラクチル酸パルミチルアルミニウム、ラクチル酸パルミチルバリウム、ラクチル酸パルミチル亜鉛、ラクチル酸オレイルカルシウム、ラクチル酸オレイルマグネシウム、ラクチル酸オレイルアルミニウム、ラクチル酸オレイルバリウム、およびラクチル酸オレイル亜鉛からなる群より選択される脂肪酸エステルの塩を含む、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目20)
前記医療デバイスが、ステープル、クリップ、薬物送達デバイス、ステント、ピン、ねじ、縫合糸、人工靭帯、人工腱、織られたメッシュ、組織足場、凍結乾燥された生物学的メッシュ、複合メッシュ、ガーゼ、包帯、および成長マトリックスからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目21)
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、二硫化炭素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
(項目22)
前記有機溶液対前記水溶液の比が、約1:1〜約20:1であり得る、上記項目のうちのいずれかに記載のコーティング。
【0007】
(摘要)
布、医療デバイス、包装材料などに使用するための抗菌コーティングが提供される。
【0008】
(要旨)
本開示は、医療デバイスまたはこのようなデバイスのためのコーティングを形成するために利用され得る、組成物を提供する。例えば、ある実施形態において、本開示の医療デバイスは、少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせた少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを含有する油相と、少なくとも1種の抗菌成分(例えば、抗菌タンパク質、ペプチド、これらのフラグメント、およびこれらの組み合わせ)を含有する水相とを含有するエマルジョンを含有する、コーティングを備え得る。
【0009】
他の実施形態において、本開示の医療デバイスコーティングは、少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせた少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを含有する油相と、少なくとも1つの界面活性剤と、少なくとも1種の抗菌成分(例えば、ラクトフェリン、ラクトフェリシン(lactoferricin)、ディフェンシン、カテリシジン、ヒスタチン、セクロピン、マガイニン、およびこれらの組み合わせ)を含有する水相とを含有する、エマルジョンを含有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、医療デバイス(縫合糸が挙げられる)のために適切なコーティングを提供する。ある実施形態において、本開示のコーティングは、エマルジョンとして適用され得、このコーティングは、医療薬剤(ある実施形態において、抗菌剤)を含有する。得られるコーティングは、溶液として適用されるコーティングと比較して、縫合糸への改善された接着性、および改善された抗菌特性を有し得る。
【0011】
コーティングとして使用するために適切な任意のポリマーが、本開示に従うコーティングとして利用され得る。ポリマーは、生体吸収性であっても非吸収性であってもよい。ある実施形態において、生体吸収性ポリマーが、本開示のコーティングを形成する際に利用され得る。コーティングとして利用され得る生体吸収性ポリマーとしては、例えば、グリコリド、ラクチド、グリコール酸、乳酸、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノンなどが挙げられる1種以上のモノマーから誘導される結合を含むポリマー、ならびにこれらのホモポリマー、コポリマーおよび組み合わせが挙げられる。
【0012】
ある実施形態において、本開示のコーティングを形成するためのエマルジョンにおいて利用され得る適切な材料としては、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、カプロラクトン、アルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、PEG/PPGコポリマー)、および上記のものの種々の組み合わせを有する、ホモポリマー、コポリマー、および/またはブレンドが挙げられる。
【0013】
例えば、ある実施形態において、コーティングを形成するために利用されるポリマー材料としては、米国特許第5,716,376号(その全開示は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるような、カプロラクトン含有コポリマーが挙げられ得る。このようなカプロラクトン含有コポリマーは、主要量のε−カプロラクトンと、少量の少なくとも1種の他の共重合性モノマーまたはこのようなモノマーの混合物とを、多価アルコール開始剤の存在下で重合させることによって、得られ得る。
【0014】
ε−カプロラクトンと共重合され得るモノマーとしては、アルキレンカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート);ジオキサノン;ジオキセパノン;吸収性環状アミド;クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル;エステル化可能なヒドロキシ酸(α−ヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸および乳酸)およびβ−ヒドロキシ酸(例えば、β−ヒドロキシ酪酸およびγ−ヒドロキシ吉草酸)が挙げられる);ポリアルキルエーテル(例えば、ポリエチレングリコール)ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。ある実施形態において、グリコリドが、生体吸収性ポリマーにおいて、ε−カプロラクトンとのコモノマーとして利用され得る。
【0015】
コーティングとして利用される生体吸収性ポリマーを調製する際に利用され得る適切な多価アルコール開始剤としては、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ジペンタエリトリトール、アリトール、ズルシトール、グルシトール、アルトリトール、イジトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトールなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、マンニトールが利用される。
【0016】
多価アルコール開始剤は一般に、少量(すなわち、全モノマー混合物の約0.01重量%〜約5重量%、ある実施形態においては、全モノマー混合物の約0.1重量%〜約3重量%)で使用され得る。
【0017】
コーティングとして利用される、得られる生体吸収性コポリマーは、約70重量%〜約98重量%のε−カプロラクトン由来の単位、ある実施形態においては、約80重量%〜約95重量%のε−カプロラクトン由来の単位を含み得、このコポリマーの残りの部分は、他の共重合性モノマー(例えば、グリコリド)から誘導される。いくつかの実施形態において、約90/10の重量%の比のカプロラクトン/グリコリドコポリマーが、本開示に従うコーティングを形成するために適切な生体吸収性ポリマーとして利用され得る。
【0018】
他の実施形態において、コーティングとして利用される生体吸収性ポリマーは、ラクチドとグリコリドとのコポリマーであり得る。このコポリマー中のラクチドの量は、約50重量%〜約90重量%、ある実施形態においては、約60重量%〜約80重量%であり得、一方で、このコポリマー中のグリコリドの量は、約10重量%〜約50重量%、ある実施形態においては、約20重量%〜約40重量%であり得る。いくつかの実施形態において、約70/30重量%の比のラクチド/グリコリドコポリマーが、生体吸収性ポリマーとして利用され得る。
【0019】
他の実施形態において、グリコリドとトリメチレンカーボネートとのコポリマーが、本開示のコーティングを形成するためのエマルジョンにおいて利用され得る。このようなコポリマーを形成する方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、米国特許第4,300,565号(その全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示される方法が挙げられる。グリコリドとトリメチレンカーボネートとの適切なコポリマーは、このコポリマーの約60重量%〜約75重量%、ある実施形態においては、このコポリマーの約65重量%〜約70重量%の量のグリコリドを有し得、トリメチレンカーボネートは、このコポリマーの約25重量%〜約40重量%、ある実施形態においては、このコポリマーの約30重量%〜約35重量%の量で存在する。
【0020】
本開示のコーティングを形成する際に有用なエマルジョンを形成するための他の適切な材料としては、ある実施形態において、グリコリドと、ジオキサノンと、トリメチレンカーボネートとのコポリマーが挙げられる。このような材料としては、例えば、コポリマーの約55重量%〜約65重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約58重量%〜約62重量%、いくつかの実施形態においては、約60重量%の量のグリコリド;コポリマーの約10重量%〜約18重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約12重量%〜約16重量%、いくつかの実施形態においては、約14重量%の量のジオキサノン;およびコポリマーの約17重量%〜約35重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約22重量%〜約30重量%、いくつかの実施形態においては、約26重量%の量のトリメチレンカーボネートを有するコポリマーが挙げられ得る。
【0021】
他の実施形態において、グリコリドと、ラクチドと、トリメチレンカーボネートと、ε−カプロラクトンとのコポリマーが、本開示のコーティングを形成するために利用され得る。このような材料としては、例えば、コポリマーの約14重量%〜約20重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約16重量%〜約18重量%、いくつかの実施形態においては、約17重量%の量のカプロラクトン;コポリマーの約4重量%〜約10重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約6重量%〜約8重量%、いくつかの実施形態においては、コポリマーの約7重量%の量のラクチド;コポリマーの約4重量%〜約10重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約6重量%〜約8重量%、ある実施形態においては、約7重量%の量のトリメチレンカーボネート;およびコポリマーの約60重量%〜約78重量%、ある実施形態においては、コポリマーの約66重量%〜約72重量%、ある実施形態においては、約69重量%の量のグリコリドを有するランダムコポリマーが挙げられる。
【0022】
これらのコポリマーを形成する方法もまた、当業者の知識の範囲内である。ある実施形態において、個々のモノマーが、開始剤(例えば、エチレングリコール)および触媒(例えば、オクタン酸スズ)の存在下で合わせられ得る。これらの材料は、約4時間〜約8時間、ある実施形態においては、約5時間〜約7時間、他の実施形態においては、約6時間という適切な時間にわたって、合わせられ得る。いくつかの場合において、この混合物は、不活性雰囲気下(例えば、窒素ガス下)に保持され得る。次いで、この混合物は、約80℃〜約120℃、ある実施形態においては、約90℃〜約110℃、いくつかの場合においては、約100℃の温度まで、約5分間〜約30分間、ある実施形態においては、約10分間〜約20分間、他の実施形態においては、約15分間という適切な時間にわたって、加熱され得る。次いで、この反応混合物は、約130℃〜約170℃、ある実施形態においては、約140℃〜約160℃、ある実施形態においては、約150℃の温度まで、約5分間〜約30分間、ある実施形態においては、約10分間〜約20分間、他の実施形態においては、約15分間という適切な時間にわたって、加熱され得る。次いで、この混合物は、約170℃〜約190℃、ある実施形態においては、約180℃の温度で加熱され得、そして約14時間〜約24時間、ある実施形態においては、約16時間〜約20時間、いくつかの実施形態においては、約18時間にわたって、重合させられ得る。
【0023】
上記ポリマーの任意の組み合わせもまた、本開示のコーティングを形成するために利用され得る。
【0024】
なお他の実施形態において、本開示のコーティングを形成するために利用されるポリマー材料は、第一の成分(少なくとも部分的に、ポリオキシアルキレンコポリマーから作製される)と、第二の成分(生体吸収性のポリマー、オリゴマー、またはコポリマー(上に記載された生体吸収性のポリマーおよびコポリマーが挙げられる)であり得る)とのブレンドまたはエマルジョンであり得る。
【0025】
例えば、この第一の成分は、ポリアルキレンブロックコポリマーから少なくとも部分的に作製されたポリマーであり得る。適切なポリオキシアルキレンブロックコポリマーとしては、A−B構造またはA−B−A構造を有するブロックコポリマーが挙げられ、ここで「A」は、式−O(CH−の反復単位(ここでnは1〜4である)から作製されるブロックであり、そして「B」は、Aブロックの反復単位とは異なる反復単位から作製されるブロックであり、式−O(CH−の基から選択され、ここでnは1〜4である。特に有用な実施形態において、コポリマーは、「PEO−PPO−PEO」として指定されるものであり、ここで「PEO」は、式−OCHCH−の反復単位のブロックを表し、そして「PPO」は、式−OCHCHCH−の反復単位のブロックを表す。特に有用なものは、式HO(CO)(CO)(CO)Hのトリブロックコポリマーであり、ここでaおよびcは独立して、約1単位〜約150単位であり、そしてbは、約10単位〜約200単位であり、その全体的な分子量は、1,000ダルトン〜50,000ダルトンである。このようなポリオキシアルキレンブロックコポリマーは代表的に、当業者によって「ポロキサマー」と称される。ある実施形態において、有用なポロキサマーとしては、aとcとが等しく、そしてbが約10単位〜約200単位であるポロキサマーが挙げられる。
【0026】
本開示のコーティング組成物の第一の成分を形成するために利用され得るポリオキシアルキレンブロックコポリマーの例としては、商品名PLURONIC(登録商標)(BASF Corp.)またはSYNPERONIC(登録商標)(ICI)のもとで販売されているポロキサマーが挙げられる。PLURONIC(登録商標)コポリマーは、特定の文字と数字との組み合わせにより識別される。アルファベットの指定は、その製品の物理的形態を説明する。「L」は液体を表し、「P」はペーストを表し、「F」は固体形態を表す。数字の指定における最初の数字(3桁の数においては2つの数字)を300倍したものは、疎水性成分(プロピレンオキシド)のおよその分子量を示す。最後の数字を10倍したものは、その分子のおよその親水性(エチレンオキシド)含有量を重量%により示す。従って、例えば、PLURONIC(登録商標)F68は、固体材料である。その疎水性(プロピレンオキシド)成分の分子量は、約1800(6×300)である。その親水性(エチレンオキシド)成分は、この分子の約80重量%(8×10)を占める。
【0027】
ポロキサマーは、およそ3つの主要なカテゴリーに分割され得、これらのカテゴリーの全てが、本開示のブレンドの第一のポリマー成分を作製する際に有用であり得る。これらのカテゴリーはすなわち、エマルジョン形成性ポロキサマー、ミセル形成性ポロキサマー、および水溶性ポロキサマーである。ポロキサマーの特徴および挙動を決定する種々の要因は、分子量、PPO:PEO比、温度条件、濃度、およびイオン性物質の存在である。従って、本開示の組成物を形成する際に使用され得る、現在市販されているポロキサマーには、広範な特徴が存在する(特に、この組成物が医療薬剤をさらに含有し、そして薬物送達目的で利用される場合)。
【0028】
1つの実施形態において、本開示のコーティング組成物の第一のポリマー成分を形成するために利用され得る適切なポロキサマーとしては、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロックコポリマー(ポロキサマー188として公知であり、商品名PLURONIC(登録商標)F68としてBASF(Parsippany,N.J.)により販売されている)が挙げられる。本開示の組成物において利用され得る他のポロキサマーとしては、ポロキサマー403(PLURONIC(登録商標)P123として販売されている)、ポロキサマー407(PLURONIC(登録商標)P127として販売されている)、ポロキサマー402(PLURONIC(登録商標)P122として販売されている)、ポロキサマー181(PLURONIC(登録商標)L61として販売されている)、ポロキサマー401(PLURONIC(登録商標)L121として販売されている)、ポロキサマー185(PLURONIC(登録商標)P65として販売されている)、およびポロキサマー338(PLURONIC(登録商標)F108として販売されている)が挙げられる。
【0029】
ポリオキシアルキレンブロックコポリマーは、いくつかの特定の有用な実施形態において、第一のポリマー成分を形成するために、さらなる生体適合性の生分解性モノマーと反応させられ得る。ポリオキシアルキレンブロックコポリマーと反応させられ得る適切なモノマーとしては、例えば、α−ヒドロキシ酸、ラクトン、カーボネート、エステルアミド、酸無水物、アミノ酸、オルトエステル、アルキレンアルキレート、アルキレンオキシド、生分解性ウレタン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ポロキサマーに添加され得る適切な生体適合性の生分解性モノマーの具体的な例としては、グリコリド、ラクチド、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、p−ジオキサノン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらのモノマーは、単独でかまたは組み合わせで、第一のポリマー成分の総重量の約90重量%まで、ある実施形態においては、第一のポリマー成分の総重量の約10重量%〜約75重量%、他の実施形態においては、第一のポリマー成分の総重量の約30重量%〜約65重量%を構成し得、ポリオキシアルキレンブロックコポリマーは、この第一のポリマー成分の残りの部分を構成する。もちろん、他のモノマーが最初に反応させられてポリマー(ホモポリマーまたはブロックコポリマー(例えば、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーなど))を形成し、その後、ポリオキシアルキレンブロックコポリマーと反応してもよいことが理解されるべきである。このような反応を実施するために適切な条件は、当業者の知識の範囲内である。
【0030】
いくつかの実施形態において、ポリオキシアルキレンブロックコポリマー成分に加えて、第一の生体適合性ポリマー成分は、少なくとも部分的に、ε−カプロラクトンから(単独または他のモノマーと組み合わせて)作製される。1つのこのような実施形態において、ポリオキシアルキレンブロックコポリマーは、主要量のε−カプロラクトン、および少量の少なくとも1種の他の重合性モノマーまたはこのようなモノマーの混合物を含有する、ε−カプロラクトンポリマーと反応させられる。別の実施形態において、ポリオキシアルキレンブロックコポリマーは、主要量のε−カプロラクトン、および少量の少なくとも1種の他の共重合性モノマーまたはこのようなモノマーの混合物を含有するモノマー混合物と、多価アルコール開始剤の存在下で(米国特許第6,177,094号に開示されるように)反応させられる。これらのモノマーの重合は、種々の型のモノマー付加(すなわち、同時、連続的、同時の後に連続的、連続的の後に同時など)のすべてを想定する。ε−カプロラクトンと共重合させられ得る適切なモノマーとしては、グリコリド、ラクチド、p−ジオキサノンおよびトリメチレンカーボネートが挙げられる。
【0031】
1つの実施形態において、第一のポリマー成分は、約40%〜約95%(w/w)のε−カプロラクトン、約5%〜約15%(w/w)のグリコリド、および約5%〜約50%(w/w)のポロキサマー188を含有するコポリマーを含有する。いくつかの実施形態において、本開示の組成物を形成する際に利用される第一のポリマー成分は、約51%のε−カプロラクトン、約9%のグリコリド、および約40%のポロキサマー188を含有する生体吸収性ターポリマーであり得、これは、POLYTRIBOLATE(登録商標)(Tyco Healthcare,Mansfield,Mass.)として市販されている。
【0032】
第一のポリマー成分(生体吸収性ターポリマーが挙げられる)を形成するための方法は、標準的な反応条件を使用して、当業者の知識の範囲内であり、これらの反応条件は、第一のポリマー成分を形成するために利用されるモノマーおよびポロキサマーに依存して変動し得る。いくつかの実施形態において、モノマーおよびポロキサマーは、触媒(例えば、オクタン酸スズ)の存在下で、時々、不活性雰囲気(例えば、窒素ガス)下で合わせられ得る。他の実施形態において、この重合を減圧下で(例えば、約1トル(約133.3Pa)未満の圧力で)行うことが望ましくあり得る。ある実施形態において、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)は、反応容器内で、さらなるモノマー(例えば、ε−カプロラクトンおよびグリコリド)と、オクタン酸スズの存在下で合わせられ得、約170℃〜約185℃、ある実施形態においては、約175℃〜約180℃(例えば、約178℃)という適切な温度まで加熱され得る。これらのモノマーは、適切な時間にわたって重合させられ得、この時間は、約4時間〜約6時間、ある実施形態においては、約4.25時間〜約4.75時間であり得る。この時間の後に、融解した生体吸収性ポリマー成分が押し出され得る。必要ではないが、いくつかの実施形態において、この生体吸収性ポリマー成分は、約100℃〜約120℃、ある実施形態においては、約107℃〜約113℃の温度まで、約25時間〜約35時間、ある実施形態においては、約28時間〜約32時間にわたって加熱することにより、さらなる熱処理に供され得る。いくつかの場合において、この第二の熱処理は、減圧下で、約1トル(約133.3Pa)未満の圧力で行われることが望ましくあり得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、第一のポリマー成分は、医療デバイスまたは基材のためのコーティングを形成するために有効な抗菌量で、単独で利用され得る。所定の成分の「有効な抗菌量」とは、その成分が感染に関連する細菌の増殖を妨げ、そして創傷の治癒を促進する量である。このようなコーティングは、いくつかの場合においては14日間またはより長期間にわたって、臨床感染のレベルでの表面への細菌コロニー形成を防止し得る。
【0034】
しかし、本開示の組成物は、必要に応じて第二のポリマーまたはオリゴマーと組み合わせて、上記コポリマーを含有する第一のポリマー成分を含有し得る。第二の成分として使用するために適切なポリマーおよび/またはオリゴマーとしては、上に記載された生体吸収性ポリマーが挙げられ、ラクチド、グリコリド、ラクチド−co−グリコリド、乳酸、ラクトン、グリコール酸、カーボネートなど、ならびにジオキサノン、エステルアミド、酸無水物、アミノ酸、オルトエステル、ジオキセパノン、アルキレンアルキレート、アルキレンオキシド、吸収性ウレタン、吸収性ナイロン、ならびにこれらのホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
【0035】
いくつかの実施形態において、第二の成分は、2つ以上のモノマー(ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(PEG−PPG)、ポリスチレン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、C〜C12アクリレートモノマー、C〜C12メタクリレートモノマー、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸、アクリル酸スルホプロピルカリウム、メタクリル酸スルホプロピルカリウム、および2−メタクリロイルホスホリルコリンが挙げられる)から誘導され得る。いくつかの実施形態において、第二の成分は、約85%〜95%(w/w)のε−カプロラクトンおよび5%〜15%(w/w)のグリコリドを含有する、ε−カプロラクトンとグリコリドとのコポリマーであり得る。
【0036】
他の実施形態において、第二の成分は、ビニルピロリドン成分であり得、ビニルピロリドンホモポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、およびこれらのブレンドが挙げられ、必要に応じて、本明細書中に記載されるさらなるモノマーまたはポリマーと組み合わせられる。このようなコポリマーは、種々の分子量(例えば、約10,000g/mol〜約10,000,000g/mol)のものであり得る。
【0037】
利用される場合、少なくとも部分的にポリオキシアルキレンコポリマーから作製される第一のポリマー成分の量は、生体吸収性成分の約2重量%〜約100重量%、ある実施形態においては、約5重量%〜約80重量%、他の実施形態においては、約10重量%〜約50重量%の量で、本開示の組成物中に存在し得る。本開示のブレンドまたはエマルジョン中の第二の成分の量は、本開示の組成物の約98重量%まで、ある実施形態においては、約20重量%〜約95重量%、他の実施形態においては、約50重量%〜約90重量%であり得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、少なくとも部分的にポリオキシアルキレンコポリマーから作製される第一のポリマー成分は、第二の成分と合わせられて、ブレンドを形成し得る。他の実施形態において、少なくとも部分的にポリオキシアルキレンコポリマーから作製される第一のポリマー成分は、第二の成分と合わせられて、エマルジョンまたは懸濁物を形成し得る。
【0039】
他の実施形態において、本開示のブレンドまたはエマルジョンを形成するために利用されるポリマー成分は、基材をコーティングするために、別々に添加され得る。このような場合、この基材は、最初に、これらの成分(すなわち、少なくとも部分的にポリオキシアルキレンコポリマーから作製される第一のポリマー成分、または第二の成分)のうちのいずれでコーティングされてもよく、その後、他方が塗布される。従って、ある実施形態において、この基材は、ε−カプロラクトンと、グリコリドと、必要に応じて脂肪酸成分(例えば、脂肪酸エステルの塩(例えば、ステアロイル−2−ラクチル酸カルシウム))とを含有する生体吸収性ポリマーを含有する第一の組成物を使用して、最初にコーティングされ得る。第一のコーティングが塗布された後に、第二の成分(例えば、ε−カプロラクトンと、グリコリドと、ポロキサマー188とのコポリマー(例えば、市販のPOLYTRIBOLATE(登録商標)コポリマー))が塗布され得る。塗布の条件に依存して、これらの2つの成分は、別々のコーティングとして塗布されてもよく、またはこれらの2つの成分は、順番に塗布されて、(例えば溶媒の蒸発速度を制御することにより)基材の表面上で互いに合わせられてもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、本開示のコーティングを形成するために使用されるエマルジョンはまた、脂肪酸成分(脂肪酸、脂肪酸塩、または脂肪酸エステルの塩を包含する)を含有し得る。適切な脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよく、そして約12個より多い炭素原子を有する高級脂肪酸が挙げられる。適切な飽和脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、およびラウリン酸が挙げられる。適切な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸が挙げられる。さらに、脂肪酸のエステル(例えば、トリステアリン酸ソルビタンまたは硬化ヒマシ油)が使用され得る。
【0041】
適切な脂肪酸塩としては、C以上の脂肪酸、特に、約12個〜約22個の炭素原子を有する脂肪酸の、多価金属イオン塩、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸の、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩が挙げられる、脂肪酸塩が、本開示のいくつかの実施形態において有用であり得る。有用であり得る他の塩としては、市販の「食品等級」のステアリン酸カルシウムが挙げられ、これは、約3分の1のC16脂肪酸および3分の2のC18脂肪酸、ならびに少量のC14脂肪酸およびC22脂肪酸の、混合物を含有する。
【0042】
本開示に従うコーティングを形成するために利用されるエマルジョンに含有され得る脂肪酸エステルの適切な塩としては、ラクチル酸ステアロイルのカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、または亜鉛塩;ラクチル酸パルミチルのカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、または亜鉛塩;および/あるいはラクチル酸オレイルのカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩、または亜鉛塩;が挙げられる。ある実施形態において、ステアロイル−2−ラクチル酸カルシウム(例えば、商標VERVのもとでAmerican Ingredients Co.,Kansas City,Mo.から市販されているステアロイル−2−ラクチル酸カルシウム)が利用され得る。利用され得る他の脂肪酸エステル塩としては、ラクチル酸ステアロイルリチウム、ラクチル酸ステアロイルカリウム、ラクチル酸ステアロイルルビジウム、ラクチル酸ステアロイルセシウム、ラクチル酸ステアロイルフランシウム、ラクチル酸パルミチルナトリウム、ラクチル酸パルミチルリチウム、ラクチル酸パルミチルカリウム、ラクチル酸パルミチルルビジウム、ラクチル酸パルミチルセシウム、ラクチル酸パルミチルフランシウム、ラクチル酸オレイルナトリウム、ラクチル酸オレイルリチウム、ラクチル酸オレイルカリウム、ラクチル酸オレイルルビジウム、ラクチル酸オレイルセシウム、およびラクチル酸オレイルフランシウムが挙げられる。
【0043】
利用される場合、コーティング中の脂肪酸成分の量は、このコーティングを形成するために利用される全組成物の約5重量%〜約50重量%であり得る。ある実施形態において、脂肪酸成分は、コーティングを形成するために利用される全成分の約10重量%〜約20重量%の量で存在し得る。
【0044】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物に蝋を含有させることが、望ましくあり得る。利用され得る適切な蝋としては、ポリエチレン蝋、エチレンコポリマー蝋、ハロゲン化炭化水素蝋、硬化植物油、蜜蝋、カルナウバ蝋、パラフィン、微結晶性ワックス、カンデリラ蝋、鯨蝋、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
他の実施形態において、ω−6脂肪酸(アラキドン酸が挙げられる)が、本開示の組成物に添加され得る。
【0046】
なおさらなる実施形態において、リン脂質が、本開示の組成物に添加され得る。適切なリン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)、モノアシルホスファチジルコリン(MAPC)、ジアシルホスファチジルコリン(DAPC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、プラスマロゲン、スフィンゴミエリン、セラミド、シリアチン、リン脂質基を有するポリマー、およびこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、ホスホリルコリン基を有するコポリマー(例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他のモノマー(メタクリレート(例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリロイルオキシエチルフェニルカルバメート、およびフェニルメタクリロイルオキシエチルカルバメート)が挙げられる)とのコポリマー)が、本開示の組成物に添加され得る。
【0047】
ある実施形態において、ポリマー(例えば、上に記載されたカプロラクトン/グリコリドコポリマー)は、コーティングの約45重量%〜約60重量%の量で存在し得、そして脂肪酸成分(例えば、脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩)は、コーティングの約40重量%〜約55重量%の量で存在し得る。他の実施形態において、ポリマー(例えば、上に記載されたカプロラクトン/グリコリドコポリマー)は、コーティングの約50重量%〜約55重量%の量で存在し得、そして脂肪酸成分は、コーティングの約45重量%〜約50重量%の量で存在し得る。
【0048】
ある実施形態において、グリコリド/カプロラクトンポリマーとラクチル酸ステアロイルカルシウムとの、52/48の重量%の混合物が、コーティングとして利用され得る。
【0049】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物はまた、1種以上の医療薬剤を含有し得、この医療薬剤は、インビボで生体吸収性ブレンドから放出される。本明細書中で使用される場合、「医療薬剤」は、その最も広い意味で使用され、そして臨床用途を有する任意の物質または物質の混合物を包含する。従って、医療薬剤は、それ自体が薬理学的活性を有しても有さなくてもよい(例えば、染料)。本開示の生分解性ブレンドと組み合わせられ得るかまたは混合され得る医療薬剤のクラスの例としては、抗菌薬、鎮痛薬、解熱薬、麻酔薬、鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、心臓血管薬剤、診断剤、交感神経様作用薬、コリン様作用薬、抗ムスカリン薬、鎮痙薬、ホルモン、増殖因子、成長因子、筋弛緩薬、アドレナリン作用性ニューロン遮断薬、抗腫瘍薬、免疫抑制薬、胃腸薬、利尿薬、ステロイド、多糖類、および酵素が挙げられる。医療薬剤の組み合わせが使用され得ることもまた意図される。
【0050】
本開示の生体吸収性ブレンドに医療薬剤として含有され得る適切な抗菌剤としては、トリクロサン(triclosan)(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルとしてもまた公知)、クロルヘキシジンおよびその塩(酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、および硫酸クロルヘキシジンが挙げられる)、銀およびその塩(酢酸銀、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、乳酸銀、ラウリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、パルミチン酸銀、銀タンパク、および銀スルファジアジンが挙げられる)、ポリミキシン、テトラサイクリン、アミノグリコシド(例えば、トブラマイシンおよびゲンタマイシン)、リファンピシン、バシトラシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール、ミコナゾール、キノロン(例えば、オキソリン酸、ノルフロキサシン、ナリジクス酸、ペフロキサシン(pefloxacin)、エノキサシンおよびシプロフロキサシン)、ペニシリン(例えば、オキサシリンおよびピプラシル(pipracil))、ノンオキシノール9、フシジン酸、セファロスポリン、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、ポリマー薬物、抗菌タンパク質およびペプチド(例えば、ラクトフェリンおよびラクトフェリシンB)、ならびにこれらの組み合わせが、本開示のブレンドまたはエマルジョン中に医療薬剤として含有され得る。ラクトフェリンおよび/またはラクトフェリシンBは、ヤギ、ウシなどの動物、ヒト、またはヒト組み替え供給源から得られ得る。本開示の組成物に含有され得る他の抗菌剤としては、ディフェンシン、カテリシジン、ヒスタチン、セクロピン、マガイニン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
本開示の組成物に医療薬剤として含有され得る他の医療薬剤としては、局所麻酔薬;非ステロイド性抗受精剤;副交感神経様作用剤;精神療法剤;トランキライザ;うっ血除去薬;鎮静催眠薬;ステロイド;スルホンアミド;交感神経様作用剤;ワクチン;ビタミン;抗マラリア薬;抗片頭痛薬;抗パーキンソン剤(例えば、L−ドパ);鎮痙薬;抗コリン作用性剤(例えば、オキシブチニン);鎮咳薬;気管支拡張薬;心臓血管薬剤(例えば、冠状血管拡張薬およびニトログリセリン);アルカロイド;鎮痛薬;麻酔薬(例えば、コデイン、ジヒドロコデイノン、メペリジン、モルヒネなど);非麻酔薬(例えば、サリチレート、アスピリン、アセトアミノフェン、d−プロポキシフェンなど);オピオイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ナルトレキソンおよびナロキソン);抗癌剤;鎮痙薬;制吐薬;抗ヒスタミン薬;抗炎症剤(例えば、ホルモン剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、非ホルモン剤、アロプリノール、インドメタシン、フェニルブタゾンなど);プロスタグランジンおよび細胞傷害性薬剤;エストロゲン;抗菌剤;抗真菌剤;抗ウイルス剤;抗凝固薬;鎮痙薬;抗うつ薬;抗ヒスタミン薬;ならびに免疫学的薬剤が挙げられる。
【0052】
本開示の組成物(例えば、生体吸収性のブレンドまたはエマルジョン)に含有され得る適切な医療薬剤の他の例としては、ウイルスおよび細胞、ペプチド(例えば、黄体化ホルモン放出ホルモンアナログ(例えば、ゴセレリンおよびエキセンジン(exendin)))およびタンパク質、アナログ、ムテイン、ならびにその活性フラグメント(例えば、免疫グロブリン、抗体、サイトカイン(例えば、リンホカイン、モノカイン、ケモカイン))、血液凝固因子、造血因子、インターロイキン(IL−2、IL−3、IL−4、IL−6)、インターフェロン(β−IFN、α−IFNおよびγ−IFN)、エリスロポイエチン、ヌクレアーゼ、腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子(例えば、GCSF、GM−CSF、MCSF)、インスリン、酵素(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ、組織プラスミノゲン賦活剤)、癌抑制因子、血液タンパク質、性腺刺激ホルモン(例えば、FSH、LH、CGなど)、ホルモンおよびホルモンアナログ(例えば、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンおよび黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH))、ワクチン(例えば、腫瘍抗原、細菌抗原およびウイルス抗原);ソマトスタチン;抗原;血液凝固因子;増殖因子または成長因子(例えば、神経発育因子、インスリン様成長因子);タンパク質インヒビター、タンパク質アンタゴニスト、およびタンパク質アゴニスト;核酸(例えば、アンチセンス分子、DNAおよびRNA);オリゴヌクレオチド;ならびにリボザイムが挙げられる。
【0053】
存在する医療薬剤の量は、選択される特定の医療薬剤に依存するが、代表的に、使用される量は、組成物の0.01重量%〜10重量%の範囲である。
【0054】
ある実施形態において、本開示の組成物は、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、これらの組み合わせなどを有し得る。ラクトフェリンとは、乳汁および他の体液中の、80kDaの分子量を有する糖タンパク質であり、そして宿主の防衛系において重要な役割を果たす。ラクトフェリシンは、プロテイナーゼであるペプシンによるラクトフェリンの加水分解により生成するペプチドであり、ラクトフェリンより高い抗菌活性を有する。
【0055】
ラクトフェリン(LF)は、80kDaであり、そしてラクトフェリシン(LFC)は、LFのペプシン加水分解産物である。ラクトフェリンは、多くの種(ヒトおよびウシが挙げられる)の乳汁中に見出される、鉄結合糖タンパク質である。ラクトフェリンは、外分泌液(例えば、胆汁、唾液および涙液)中にもまた存在する。哺乳動物の上皮細胞と多形核細胞との両方が、このタンパク質を放出し得る。感染中の乳汁への白血球の移動は、乳汁中のLF濃度の劇的な増加を伴う。好中球の特定の顆粒中のLFの存在およびその炎症反応における放出は、免疫調節において役割を果たすと考えられている。LFはまた、DNAに結合することが示されており、これは、様々な分子の転写活性化をもたらし得る。多くの報告が、LFを、感染および過剰な炎症に対する宿主防御における重要な因子であると認めている。このタンパク質は、その鉄で制限された形態で、多くの病原性微生物の増殖を阻害することが示されている。LFがBifidobacterium spp.の増殖を、その鉄レベルとは無関係に促進する能力が、実証されている。培地中での鉄の結合は、LFが微生物の増殖阻害を誘導する最も周知の機構である。グラム陰性微生物のLF媒介性静菌作用はまた、リポ多糖類(LPS)のリピドAとの相互作用および外膜の細孔形成タンパク質(ポーリン)との相互作用を包含し、微生物の壁の完全性および透過性を変化させ得る。Staphylococcus epidermidisの陰イオン性リポテイコ酸へのLFの結合は、負電荷を低下させ、ペプチドグリカンへのリボザイムのより大きいアクセス可能性を可能にすることが提唱されている。グラム陽性ウシ乳腺炎病原体におけるLFまたはLFCの他の抗菌機構は、記載されていない。
【0056】
本開示のコーティングは、他の任意の成分(例えば、安定剤、増粘剤、着色剤など)を含有し得る。これらの任意の成分は、このコーティングの総重量の約10%までで存在し得る。
【0057】
ある実施形態において、本開示に従う縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の外科手術用針に取り付けられて、針付き縫合糸を製造し得る。創傷は、針付き縫合糸を組織に通して創傷閉鎖を作製することにより、縫合され得る。次いで、この針がこの縫合糸から除去され得、そしてこの縫合糸が結ばれ得る。この縫合糸は組織内に残り得、そしてその低下した細菌コロニー形成および/またはその増強された抗菌特性によって、その組織の汚染および感染を防止することを補助し得、これによって、創傷の治癒を促進し、そして感染を最小にする。この縫合糸コーティングはまた、有利には、外科医が縫合糸を組織に通す能力を増強し、そして外科医がこの縫合糸を結び得る容易さおよび信頼性を増加させる。
【0058】
本開示の組成物は、当業者の知識の範囲内である任意の技術を使用して調製され得る。組成物を形成するために利用されるポリマーの両方が同じ溶媒に可溶性である場合、適切な量の各ポリマーがその溶媒に溶解され得、そして医療デバイスに溶液として塗布され得る。この溶媒の蒸発の際に、このブレンドのコーティングがこの医療デバイス上に残る。いくつかのブレンドは、通常の混合により得られ得る。他の実施形態において、この生体吸収性ブレンドが医療薬剤を送達するために利用される場合には特に、この医療薬剤をこの組成物に、例えば、ボールミル、ディスクミル、サンドミル、アトリションミル(attritor)、ロータステータミキサー、超音波処理などのプロセスにより混合することが望ましくあり得る。他の実施形態において、これらの2つのポリマーは、溶融ブレンドされ得、そして医療デバイスを形成またはコーティングするために使用され得る。本発明のブレンドを作製および使用するための他の方法は、当業者に容易に明らかになる。
【0059】
あるいは、本開示の組成物の2つの成分が互いに、またはこの組成物を形成するために利用される溶媒と、完全には混和性ではない場合、エマルジョンが形成され得、そして当業者に公知である任意の手段によって、薬物送達デバイスが挙げられる医療デバイス、または医療デバイスのためのコーティングを形成するために、利用され得る。
【0060】
医療薬剤が使用される場合、この医療薬剤は、溶液に入れられ得、そして本開示の組成物が、別の溶液に入れられ得、そしてこれらの2つの溶液が合わせられて、エマルジョンまたは懸濁物を形成し得る。界面活性剤、乳化剤、または安定剤の形態の、生体適合性分散剤が、このブレンドに添加されて、本開示の組成物全体への医療薬剤の分散を補助し得る。
【0061】
アジュバントが添加されて、上に記載された組成物を滅菌または防腐し得る。このようなアジュバントとしては、非イオン性界面活性剤が挙げられ、これらとしては、アルコールエトキシレート、グリセロールエステル、ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸のグリコールエステル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい非イオン性界面活性剤は、ステアリン酸、オレイン酸、およびラウリン酸のグリセロールエステル、脂肪酸のエチレングリコールエステルおよび/またはジエチレングリコールエステル、ならびにこれらの組み合わせである。
【0062】
本明細書中に記載される組成物は、非毒性である。本明細書中のブレンドおよびまたはエマルジョンは、その特定の物理的性質(これらが調製されるポリマーの性質によりかなり影響を受ける)に依存して、種々の移植可能な医療デバイスおよびプロテーゼ(例えば、クリップ、ステープル、縫合糸、縫合糸コーティングなど)の全体または一部の製造において、使用され得る。縫合糸に塗布される場合、本明細書中の組成物を含有するコーティング組成物は、適切な潤滑性、結び目の縛り付け、および結び目のきつさの特徴を有する縫合糸を生じる。
【0063】
本開示の組成物が医療デバイスを形成するために使用される場合、これらのデバイスは、このブレンドを、当業者に公知である温度および圧力で射出成形することにより、製造され得る。代表的に、射出成形装置への供給物は、ペレット形態の、2つのポリマー成分の溶融ブレンドである。これらの成分は、加工中の加水分解を回避する目的で、射出成形されるときに非常に乾燥しているべきである。融解後、外科手術用デバイスが、従来の手順により包装および滅菌され得る。このデバイスをアニーリングして、残留する応力およびひずみを除き、このデバイスの形状を安定化させ、そして部品内の欠損を減少または排除することが望ましくあり得る。アニーリングは、代表的に、この医療デバイスをガラス転移温度より高い温度(この温度において、鎖の移動度が最大である)まで再度加熱し、次いで、再導入を回避するようにこのデバイスを次第にゆっくりと冷却することを包含する。ポリマー構造体をアニーリングするための手順、条件および装置は、当該分野において周知である。
【0064】
本開示の組成物が医療デバイスのための吸収性コーティングとして使用される場合、このコーティングは、任意の公知の技術(例えば、押し出し、成形および/または溶媒キャスティングなど)を使用して形成され得る。この組成物は、単独で使用されても、吸収性組成物とブレンドされても、非吸収性成分とブレンドされてもよい。広範な種々の外科手術用物品が、本明細書中の組成物でコーティングされ得る。これらの物品としては、クリップおよび他のファスナー、ステープル、縫合糸、ピン、ねじ、プロテーゼデバイス(例えば、人工腱および人工靭帯)、創傷用包帯、薬物送達デバイス、織られたメッシュ、凍結乾燥された生物学的メッシュ、複合メッシュ、ガーゼ、成長マトリックス、吻合リング、ならびに他の移植可能なデバイスが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物でコーティングされた繊維は、他の繊維(吸収性または非吸収性のいずれか)と編まれるかまたは織られて、メッシュまたは布を形成し得る。
【0065】
1つの実施形態において、本開示の組成物は、コーティングが塗布されるべきいずれのポリマーデバイスに対しても非溶媒である溶媒に溶解されることによって、コーティングとして塗布され得る。次いで、本開示の組成物を含有する溶液は、医療デバイスをこの溶液に浸漬すること、この医療デバイスをブラシまたは他のアプリケータに通すこと、あるいはこの医療デバイスの表面に溶液を噴霧することによって、医療デバイスに塗布され得る。本開示の組成物を溶解する際に使用するために適切な溶媒としては、揮発性溶媒(例えば、塩化メチレンおよびアセトン)が挙げられるが、これらに限定されない。次いで、このコーティング溶液で濡らされた医療デバイスが引き続いて、この溶媒を気化させて除去するために充分な時間にわたって充分な温度で、乾燥オーブン内を通過させられ得るかまたは乾燥オーブン内に保持され得る。所望であれば、縫合糸コーティング組成物は、必要に応じて、さらなる成分(例えば、色素、抗生物質、防腐剤、増殖因子、成長因子、抗炎症剤など)を含有し得る。
【0066】
溶液として塗布される場合、利用される溶媒の量は、本開示の組成物を塗布するために利用される溶液の約85重量%〜約99重量%、ある実施形態においては、約90重量%〜約98重量%であり得る。この溶液は、上に記載されたブレンドまたはエマルジョン、および任意のさらなる医療薬剤またはアジュバントを含有する。いくつかの実施形態において、溶媒は、本開示の組成物を塗布するために利用される溶液の約95重量%で存在し得る。
【0067】
他の実施形態において、本開示のコーティング組成物は、エマルジョンとして塗布され得る。ある実施形態において、エマルジョンは、第一のポリマー成分を水に溶解すること;第二のポリマーを有機溶媒に溶解することにより有機溶液を得ること;この有機溶液とこの水溶液とを接触させることにより混合物を得ること;およびこの混合物を乳化させることによりエマルジョンを得ることにより調製され得る。
【0068】
この有機溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、二硫化炭素、これらの組み合わせなどであり得る。
【0069】
ある実施形態において、この混合物中の有機溶液対水溶液の比は、約1部の有機溶液対約1部の水溶液から、約20部の有機溶液対約1部の水溶液まで(すなわち、約1:1〜約20:1)であり得る。
【0070】
他の実施形態において、水溶液または有機溶液は、コーティングのポリマー成分を含有し得、生物活性薬剤が、他方の相内に存在する。
【0071】
ある実施形態において、本開示のコーティング組成物は、油中水(W/O)エマルジョンを含有する。W/Oエマルジョンを調製する任意の方法が本開示により想定されることが理解されるべきであるが、W/Oエマルジョンは、油相を水相で乳化させて、外観が乳状であるエマルジョンを得ることにより、調製され得る。
【0072】
疎水性薬学的薬剤について、油相は、水と非混和性である有機溶媒に溶解した、少なくとも1つのポリマーおよび少なくとも1つの疎水性薬学的薬剤を含有し得る。従って、疎水性薬学的薬剤については、本開示のコーティング組成物は、少なくとも1つのポリマーおよび少なくとも1つの薬学的薬剤を、水非混和性の有機溶媒に溶解させて油相を得ること、およびこの油相を水相で乳化させて乳状エマルジョンを得ることにより、調製され得る。
【0073】
別の実施形態において、薬学的薬剤は、水溶性または親水性である。親水性薬学的薬剤について、油相は、水と非混和性である有機溶媒に溶解した少なくとも1つの生体分解性生体適合性ポリマーを含有し得、そして水相は、水に溶解した少なくとも1つの水溶性または親水性薬学的薬剤を含有し得る。
【0074】
従って、水溶性または親水性の薬学的薬剤について、コーティング組成物は、少なくとも1つの生体適合性生分解性ポリマーを水非混和性有機溶媒に溶解して油相を得ること、少なくとも1つの水溶性または親水性の薬学的薬剤を水に溶解して水相を得ること、およびこの油相をこの水相で乳化させて乳状エマルジョンを得ることにより、調製され得る。
【0075】
他の実施形態において、この水溶液は、生物活性薬剤を含有し得、そしてこの混合物中の有機溶液対水溶液の比は、約3部の有機溶液対約1部の水溶液から、約20部の有機溶液対約1部の水溶液まで(すなわち、約3:1〜約20:1)であり得る。
【0076】
他の実施形態において、有機溶液は、疎水性生物活性薬剤を含有し、そしてこの混合物中の有機溶液対水溶液の比は、約1部の有機溶液対約1部の水溶液から、約8部の有機溶液対約1部の水溶液まで(すなわち、約1:1〜約8:1)であり得る。
【0077】
この水相は、当業者に明らかであるように、水中での薬学的薬剤の安定性を増強する他の薬剤をさらに含有し得る。例えば、この水相は、pH、塩などの調整または維持のための、薬学的に受容可能な緩衝剤をさらに含有し得る。
【0078】
必要に応じて、この水相は、1種または複数の乳化剤をさらに含有し得る。このような薬剤は、以下でさらに議論されるように、コーティング組成物の粘度を調整するために有用であり得る。存在する場合、この乳化剤は、水相の約0.1%〜約10%(w/v)、ある実施形態においては、約1%〜約3%(w/v)の量で存在し得る。
【0079】
適切な乳化剤としては、例えば、脂肪アルコール(例えば、ポリビニルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびオレイルアルコール);脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸およびオレイン酸);脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸グリセロール);ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商標TWEENTM(Hercules Inc.,Wilmington,Del.の登録商標;Sigma Chemical Co.,St.Louis,Mo.から入手可能)のもとで市販されているもの);ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール);トリエタノールアミン脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸トリエタノールアミン);脂肪酸塩(例えば、オレイン酸ナトリウム);ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);酢酸セルロース;ポロキサマー(例えば、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー(商標PLURONIC F−68TMおよびPLURONIC F−127TM(BASFの登録商標;Sigma Chemical Co.,St.Louis,Mo.から入手可能)のもとで販売されている));第四級アンモニウム化合物(例えば、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DMAB));ならびに油(例えば、鉱油、ペトロラタム、綿実油、ヤシ油、ゴマ油、落花生油、ミリスチン酸イソプロピルおよびパルミチン酸イソプロピル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
上記説明は、本発明に従う、医療デバイス、薬物送達デバイス、またはコーティング組成物としての、ブレンドまたはエマルジョンの、必要に応じて医療薬剤またはアジュバントと組み合わせての使用を記載するが、類似の方法および手順が利用され得、この場合、本開示の組成物は、医療薬剤またはアジュバントと組み合わせられた1つのポリマーから少なくとも部分的に作製され、第二の成分(これは、ポリマーまたはオリゴマーであり得る)は添加されない、コーティングを含む。当業者に容易に明らかであるように、本開示の組成物を形成する際に同じかまたは類似の溶媒、処理条件などが利用され得る。
【0081】
本明細書中の組成物は、任意の型の医療デバイスに塗布され得るが、この組成物は、縫合糸のためのコーティングとして特に有用であり得る。縫合糸に塗布される組成物の量は、この縫合糸の構造(例えば、モノフィラメントであるかマルチフィラメントであるか)、この縫合糸のサイズおよびその組成に依存して変動する。マルチフィラメント縫合糸について、フィラメントの数および編組または撚りのきつさもまた、コーティングの量に影響を与え得る。
【0082】
このコーティングは、モノフィラメント縫合糸とマルチフィラメント編組縫合糸との両方に塗布され得、これらの縫合糸もまた、いくつかの実施形態において、生体吸収性であり得る。縫合糸(生体吸収性編組縫合糸を含む)のために利用される適切な生体吸収性のモノマーおよびポリマーとしては、ラクチド、グリコリド、トリメチルカーボネート、ε−カプロラクトン、カプロラクタム、ポリエステル、ナイロンなどが挙げられる。このコーティングは、ベースの縫合糸基材の約0.5%〜約15%(w/w)、ある実施形態においては、ベースの縫合糸基材の約1%〜約5%(w/w)の量で存在し得る。コーティングの厚さは、多数の要因に依存するが、1ミクロン未満の厚さから、数ミリメートルの厚さまでであり得る。
【0083】
本開示の組成物は、医療デバイスのためのコーティングとして利用される場合、このデバイスの表面特性(例えば、細胞およびタンパク質の接着、潤滑性、薬物送達、タンパク質またはDNAの送達など)を改善する。生体吸収性ブレンドコーティングは、細菌接着/コロニー形成、デバイス自体により引き起こされる感染または増悪を防止する際、およびこのデバイスの取り扱い特性を改善する際に、特に有用であり得る。
【0084】
本開示の組成物はまた、フィルムおよび/または発泡体に形成され得、これは次に、創傷(例えば、切り傷、深い傷、潰瘍および火傷)に適用されて、治癒を補助し得る。医療薬剤(例えば、創傷治癒剤および抗菌剤)が組み込まれて、損傷した組織の治癒を速め得る。この様式で、種々の増殖因子、成長因子、抗生物質および抗真菌剤が、本開示の生体吸収性ブレンドに組み込まれ得る。
【0085】
医療薬剤が本開示の生体吸収性ブレンドに組み込まれる場合、本開示の組成物は、即時に放出し得るか、遅延放出し得るか、または持続放出し得る、医療薬剤の部位特異的放出を提供するための薬物送達デバイスとして利用され得る。即時放出系は、薬物投与を即座に提供する。遅延放出系は、薬物の反復的な断続的な投与を提供する。持続放出系は、長期間にわたる薬物のゆっくりした放出を達成し、そして治療有効濃度の薬物を標的部位に維持する。本明細書中の組成物と混合される医療薬剤は、代表的に、生体吸収性移植物および/または生体吸収性コーティングが分解するにつれて、この生体吸収性移植物および/または生体吸収性コーティングから拡散することにより、遅延放出治療または持続放出治療を提供する。
【0086】
任意の公知の技術が、エマルジョンを物品(ある実施形態においては、縫合糸)に塗布するために使用され得る。適切な技術としては、浸漬、噴霧、ワイピングおよびブラッシングが挙げられる。エマルジョンで濡らされた物品は、引き続いて、このエマルジョンを形成する際に利用されたあらゆる液体を蒸発させて除去するために充分な時間および温度で、乾燥オーブンを通過させられ得るかまたは乾燥オーブン内に保持され得る。
【0087】
本開示のコーティングでコーティングされた物品は、細菌に対する抵抗性の改善を必要とする任意の材料から形成され得る。このような物品としては、布、包装材料、医療デバイスなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本開示のコーティングでコーティングされ得る布としては、天然繊維、合成繊維、天然繊維のブレンド、合成繊維のブレンド、および天然繊維と合成繊維とのブレンドから作製された布が挙げられる。布を形成するために利用される適切な材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ポリエステル/ポリエーテル、ポリウレタン、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な材料の具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、およびナイロン6,6が挙げられる。
【0089】
本開示のコーティングでコーティングされ得る医療デバイスとしては、縫合糸、ステープル、メッシュ、パッチ、スリング、ステント、移植片、クリップ、ピン、ねじ、リベット、鋲、骨プレート、薬物送達デバイス、創傷用包帯、織られたデバイス、不織デバイス、編組デバイス、接着障壁、組織足場、および他の移植物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
医療デバイスは、その医療デバイスの意図される用途のために適切な物理特性を有する任意の材料から形成され得る。従って、医療デバイスは、吸収性材料、非吸収性材料、およびこれらの組み合わせから形成され得る。医療デバイスを形成するために利用され得る適切な吸収性材料としては、トリメチレンカーボネート、カプロラクトン、ジオキサノン、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。医療デバイスを形成するために利用され得る適切な非吸収性材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンド)が挙げられる。
【0091】
1つの実施形態において、本開示に従って処理される医療デバイスは、縫合糸であり得る。本開示に従う縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよく、そして任意の従来の材料(生体吸収性材料と非生体吸収性材料との両方が挙げられ、例えば、外科手術用ガット、絹、綿、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)、ポリアミド、ポリグリコール酸、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)およびグリコリド−ラクチドコポリマーなどである)から作製され得る。
【0092】
ある実施形態において、縫合糸は、ポリオレフィンから作製され得る。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドが挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリプロピレンが、縫合糸を形成するために利用され得る。ポリプロピレンは、アイソタクチックポリプロピレンであっても、アイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレンとの混合物であっても、アイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンとの混合物であってもよい。
【0093】
他の実施形態において、縫合糸は、合成吸収性ポリマー(例えば、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、アルキレンカーボネート(すなわち、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)、ジオキサノン、ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせから作製されるポリマー)から作製され得る。利用され得る1つの組み合わせは、グリコリドとラクチドとをベースとするポリエステル(グリコリドとラクチドとのコポリマーが挙げられる)を含む。
【0094】
上記のように、縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。この縫合糸がモノフィラメントである場合、このような縫合糸を製造する方法は、当業者の知識の範囲内である。このような方法は、縫合糸材料(例えば、ポリオレフィン樹脂)を形成する工程、およびこの樹脂を押し出し、延伸し、そしてアニーリングして、モノフィラメントを形成する工程を包含する。
【0095】
この縫合糸がマルチフィラメントから作製される場合、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、編組、織ることおよび/または編むこと)を使用することにより作製され得る。これらのフィラメントはまた、不織縫合糸を製造するために、融合、接着、のり付け、コーティング、重ね押し出し(over extruding)(シース/コア)などにより合わせられ得る。これらのフィラメント自体は、縫合糸形成プロセスの一部として糸を形成するために、延伸、配向、捲縮、加撚、混繊または空気絡ませ(air entangle)を行われ得る。
【0096】
ある実施形態において、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編組により製造され得る。編組は、当業者の知識の範囲内である任意の方法によりなされ得る。例えば、縫合糸および他の医療デバイスのための編組構築物は、米国特許第5,019,093号、同第5,059,213号、同第5,133,738号、同第5,181,923号、同第5,226,912号、同第5,261,886号、同第5,306,289号、同第5,318,575号、同第5,370,031号、同第5,383,387号、同第5,662,682号、同第5,667,528号、および同第6,203,564号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。一旦、縫合糸が構築されると、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の手段により滅菌され得る。
【0097】
いくつかの場合において、管状の編組(すなわち、シース)が、編組機の中心を通して供給されるコア構造体の周りに構築され得る。公知の管状編組縫合糸(コアを有するものを含む)は、例えば、米国特許第3,187,752号、同第3,565,077号、同第4,014,973号、同第4,043,344号、および同第4,047,533号に開示されている。
【0098】
本開示に従ってコーティングされた縫合糸は、抗菌特性を有し得る。本開示においてコーティングされた縫合糸はまた、コロニー形成に対して抵抗性であるその滑らかな表面に部分的に依存して、細菌コロニー形成に抵抗し得る。ある実施形態において、本開示の縫合糸は、細長い構造を有し得、そして少なくとも1つのポリマーフィラメント(ある実施形態においては、複数のフィラメント)から形成され得る。これらのフィラメントは、生理学的条件下で吸収性であるポリマーから形成され得、そして本開示のコーティングが、その表面に配置され得る。
【0099】
本開示に従う医療デバイス(例えば、縫合糸)および包装材料は、当業者の知識の範囲内である技術に従って滅菌され得る。例えば、縫合糸などの医療デバイスは、エチレンオキシド処理、γ線放射、電子線放射、プラズマ処理、これらの組み合わせなどに供されて、この縫合糸およびその上の任意のコーティングが滅菌され得る。
【0100】
布(個々の繊維および複数の繊維から作製された布を含む)は、類似の様式で形成および/またはコーティングされ得る。
【0101】
本開示のコーティングは、物品の処理、取り扱いおよび保存中に、この物品の表面に付着したままである。このことは、任意の物品から任意の包装材へ、任意の包装材から任意の物品へ、環境へなどのコーティングの損失または移動を最小にする。
【0102】
以下の実施例は、ポリマー組成物の具体的な実施形態の例示であり、これらのポリマー組成物の限定であると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0103】
(実施例1)
生体適合性の生分解性ポリマーを、以下のように製造した。1ガロン(約3.78×10−3)の反応容器を洗浄し、そして1トル(約133.3Pa)未満の圧力に達するまで減圧に供した。1000±1グラムのポロキサマー188(PLURONIC(登録商標)F68)をこの1ガロンの反応容器に入れ、その後、減圧を再度適用して、約1トル未満の圧力を得た。その温度を約105℃まで上昇させ、そしてPLURONIC(登録商標)F68をこの反応器内で約14(±4)時間乾燥させた。この期間中、1275±1グラムのε−カプロラクトンを3リットルの丸底フラスコに入れ、そして225±1グラムのグリコリドを500mlの丸底フラスコに入れた。PLURONIC(登録商標)F68の乾燥の終了の75分〜90分前に、このε−カプロラクトンとグリコリドとを、105℃の温度まで加熱したオーブンに入れた。PLURONIC(登録商標)F68の乾燥が完了した後に、このグリコリドをこの反応器に添加し、続いてこのε−カプロラクトンを添加した。次いで、この反応器に窒素を満たし、次いで295μLのオクタン酸スズを触媒としてこの反応器に添加した。
【0104】
次いで、この反応器を178℃(±3℃)まで加熱し、そしてこの反応を4.5(±0.25)時間続けさせた。この反応が完了した後に、重合した生体吸収性ポリマーを押し出し、そして最低約16時間冷却した。
【0105】
次いで、得られた生体吸収性ポリマーを、さらなる熱処理に供した。生体吸収性ポリマーを減圧オーブンに入れ、これを110℃(±3℃)の温度で、1トル未満の減圧下30±2時間加熱した。加熱後、このポリマーを減圧下で最低6時間冷却した。
【0106】
この生体吸収性ポリマーのNMRを、Bruker AC300 NMR分光計を利用して実施した。得られたプロトンスペクトルは、この生体吸収性ポリマーの成分の同定を可能にするピークを有した。
【0107】
得られた生体吸収性ターポリマーは、約40重量%のPLURONIC(登録商標)F68、約51重量%のカプロラクトイル基、約9重量%のグリコイル基、および1%以下の残留カプロラクトンモノマーを有することがわかった。
【0108】
(実施例2)
細菌の付着およびコロニー形成を防止し、そして増強された縫合糸取り扱い特徴(低下した組織抵抗が挙げられる)を提供するモノフィラメント外科手術用縫合糸を、以下のように調製した。実施例1のポリマーを、2%、5%および10%(w/w)の濃度で塩化メチレンに溶解した。モノフィラメントポリブタエステル(ブチレンテレフタレートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとのコポリマー)の外科手術用縫合糸を、各溶液でディップコーティングによりコーティングして、この縫合糸上に均一なコーティングを作製した。得られたコーティングレベルは、それぞれ2%、5%および10%の溶液について、縫合糸の重量に基づいて、1.08%、3.64%および6.80%であった。10%溶液からのコーティングは、臨床感染のレベルにおいて、少なくとも8日間、縫合糸の細菌コロニー形成を防止することがわかった。逆に、他のモノフィラメント(コーティングされていないポリブタエステル縫合糸を含む)は、3日のみで、臨床感染のレベルに達した。
【0109】
(実施例3)
米国特許第5,716,376号(この開示は、この参照により本明細書中に参考として援用される)の実施例に記載されるようなカプロラクトン/グリコリドコポリマーとラクチル酸ステアロイルカルシウムとの混合物でコーティングされた、グリコリド/ラクチドコポリマーから作製された編組マルチフィラメントを、実施例1のポリマーでコーティングした。コーティングポリマーを塩化メチレン中で溶媒和し(2%、5%および10%(w/w))、そしてこれらの縫合糸をディップコーティングによりこれらの3つの溶液のうちの1つでコーティングした。このさらなるコーティングポリマーは、コーティングされていない縫合糸またはEthiconのVICRYL(登録商標)Plus縫合糸(グリコリド/ラクチドコポリマーから作製され、トリクロサンを含むコーティングを有する縫合糸)において観察されたよりも効果的な様式で、細菌の接着およびコロニー形成を防止した。
【0110】
(実施例4)
実施例1の生体吸収性ポリマーを、米国特許第5,716,376号の実施例3の溶液(得られる溶液の約2%、5%および10%(w/w)に相当するε−カプロラクトン/グリコリドコポリマーおよびラクチルステアリン酸カルシウムを含有する)とブレンドした。
【0111】
マルチフィラメント編組グリコリド/ラクチド外科手術用縫合糸を、この縫合糸をこの生体吸収性ブレンドを有する溶液中でディップコーティングし、そして加熱によりその溶媒を除去して使用可能な外科手術用縫合糸を製造することにより、この生体吸収性ブレンドでコーティングした。
【0112】
(実施例5)
銀イオンおよび/または銀ガラス粒子を含有する、抗菌外科手術用縫合糸コーティングを、以下のように調製する。実施例1の生体吸収性ポリマーを10%(w/w)の濃度で塩化メチレン中で溶媒和させる。種々の銀塩(硝酸塩、クエン酸塩、スルファジアジン塩、乳酸塩など)の懸濁物/溶液を、逆浸透(RO)水中で、高速混合しながら調製する。水/有機物エマルジョンを、生体吸収性ポリマーコーティング溶液:銀懸濁物/溶液の8:2〜2:8の範囲の比で調製する。エマルジョンを激しく攪拌しながら形成し、そして外科手術用縫合糸を、ディップコーティング技術によりコーティングした。このコーティングは、ベース縫合糸基材の0.5%〜15%(w/w)、ある実施形態においては、約1%〜約5%(w/w)の量で存在する。銀イオンを含有するポリマーコーティングは、縫合糸材料上への細菌コロニー形成を防止する。
【0113】
(実施例6)
市販のコーティングなしのPOLYSORBTM縫合糸(USSC)を、1%(w/v)ポリビニルピロリドン水溶液(PVPはAldrich製であった)でディップコーティングし、そして約40℃で一晩減圧下で乾燥させた。約5cmの長さの縫合糸ストランドを包装し、そしてエチレンオキシドにより滅菌した。ストランドを、以下のように、抗コロニー形成特性についてアッセイした。E.coli(ATTC培養物から)の細菌ストックを、Log8のMcFarland標準物質から調製し、そしてLog3のストック濃度まで希釈した。縫合糸ストランドを15mlのガラス遠心管に入れ、そしてLog3 E.coli(約10ml)を接種し、そして約37℃剪断下(これらをロッキングバスに供することによる)で一晩インキュベートした。
【0114】
これらのストランドを取り出し、そして新鮮なトリプシンダイズブロス(TSB)中で約5秒間超音波処理し、新鮮なTSBに移し、そして約10分間ボルテックスして、接着性細菌を除去した。このボルテックス工程後、約1mlのTSBを普通寒天培地にプレートし、そして一晩インキュベートし、そしてコロニー形成ユニット(CFU)について計数した。PVPでコーティングしたPOLYSORBは、標準的なPOLYSORB縫合糸と比較して、log6の低下を示した。
【0115】
(実施例7)
PVPのトップコートを、グリコリド/カプロラクトンポリマーとラクチル酸ステアロイルカルシウムとの52/48重量%混合物のコーティングを有するPOLYSORB縫合糸に、それぞれ1%(w/v)および2%(w/w)の濃度の、PVPの水溶液またはPVPの有機溶液のいずれかを使用して、塗布した。コーティングを、DeitzおよびSchellのコーティング装置を使用して、40メートル/分の線速度を用い、約100℃の温度のオーブン内で加熱して調製した。得られた縫合糸を、実施例1において上に記載されたように一晩乾燥させた。
【0116】
(実施例8)
ラクチド/グリコリドコポリマー(約70重量%のラクチドおよび約30重量%のグリコリド)を含むPVPのブレンドコーティング、グリコリド/カプロラクトンコポリマー(約90重量%のカプロラクトンおよび約10重量%のグリコリド)を含むPVPのブレンドコーティング、および両方のコポリマー(すなわち、70/30ラクチド/グリコリドコポリマーと90/10カプロラクトン/グリコリドコポリマー)を含むPVPのブレンドコーティング剤を実施例1において上に記載されたようにディップコーティングした。これらのコポリマーのストック溶液を調製し、そしてPVPを添加して、0.1%〜5%(w/w)の最終PVP溶液濃度の範囲を達成した。全ての溶液が、塩化メチレンを溶媒として利用した。これらの溶液をディップコーティングし、そして実施例1に記載されるように乾燥させた。いくつかの組成物を、水性PVP溶液でトップコートした。トップコートは、水性PVP(1%w/v(10mg/ml))を含有し、この中で、予めコーティングされた縫合糸を浸漬コーティング(1分以下)により水性PVPでオーバーコートして、PVPのトップ障壁層を提供した。
【0117】
(実施例9)
様々な低分子量PVPブレンドコーティングの上に重ねた高分子量PVPトップコートの組み合わせのうちのいくつかは、疎水性ポリマーまたはそのブレンドに組み込まれて、生理学的水性環境にある場合に、縫合糸上へのより長いPVP滞留時間を与えることにより、耐コロニー形成効力および持続時間を延長する。高分子量PVPは、900,000g/molを超える分子量を有し得、一方で、低分子量PVPは、100,000g/mol未満の分子量を有し得る。PVPを含む疎水性ポリマーとしては、シリコーン/PEGのコポリマーまたはブレンドが挙げられ得る。
【0118】
上記説明は多くの詳細を含むが、これらの説明は、本明細書中の開示の範囲の限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の特に有用な実施形態の例示であると解釈されるべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲により規定されるような本開示の範囲および趣旨内で、他の多くの可能性を予測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョンを含有する医療デバイスコーティングであって、
少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせて含有する油相;ならびに
抗菌タンパク質、ペプチド、これらのフラグメント、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の抗菌成分を含有する水相、
を含有する、コーティング。
【請求項2】
前記生体吸収性ポリマーが、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のモノマーから誘導される結合を含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記生体吸収性ポリマーがグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
前記生体吸収性ポリマーがラクチド/グリコリドコポリマーを含有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
前記少なくとも1種の抗菌成分が、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、ディフェンシン、カテリシジン、ヒスタチン、セクロピン、マガイニン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
前記コーティングが、ビニルピロリドンホモポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、および必要に応じてさらなるモノマーまたはポリマーと組み合わせたこれらのブレンドからなる群より選択されるビニルピロリドン成分をさらに含有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
前記コーティングが、脂肪酸、脂肪酸塩および脂肪酸エステルの塩からなる群より選択される1種以上の脂肪酸成分をさらに含有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
前記脂肪酸成分が、ラクチル酸ステアロイルカルシウム、ラクチル酸ステアロイルマグネシウム、ラクチル酸ステアロイルアルミニウム、ラクチル酸ステアロイルバリウム、ラクチル酸ステアロイル亜鉛、ラクチル酸パルミチルカルシウム、ラクチル酸パルミチルマグネシウム、ラクチル酸パルミチルアルミニウム、ラクチル酸パルミチルバリウム、ラクチル酸パルミチル亜鉛、ラクチル酸オレイルカルシウム、ラクチル酸オレイルマグネシウム、ラクチル酸オレイルアルミニウム、ラクチル酸オレイルバリウム、およびラクチル酸オレイル亜鉛からなる群より選択される脂肪酸エステルの塩を含む、請求項7に記載のコーティング。
【請求項9】
前記医療デバイスが、ステープル、クリップ、薬物送達デバイス、ステント、ピン、ねじ、縫合糸、人工靭帯、人工腱、織られたメッシュ、組織足場、凍結乾燥された生物学的メッシュ、複合メッシュ、ガーゼ、包帯、および成長マトリックスからなる群より選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、二硫化炭素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項11】
前記有機溶液対前記水溶液の比が、約1:1〜約20:1であり得る、請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
エマルジョンを含有する医療デバイスコーティングであって、
少なくとも1種の生体吸収性ポリマーを少なくとも1種の有機溶媒と組み合わせて含有する油相;
少なくとも1種の界面活性剤;ならびに
ラクトフェリン、ラクトフェリシン、ディフェンシン、カテリシジン、ヒスタチン、セクロピン、マガイニン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の抗菌成分を含有する水相、
を含有する、コーティング。
【請求項13】
前記生体吸収性ポリマーが、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノンおよびジオキセパノンからなる群より選択される1種以上のモノマーから誘導される結合を含む、請求項12に記載のコーティング。
【請求項14】
前記生体吸収性ポリマーがグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含有する、請求項12に記載のコーティング。
【請求項15】
前記生体吸収性ポリマーがラクチド/グリコリドコポリマーを含有する、請求項12に記載のコーティング。
【請求項16】
前記少なくとも1種の界面活性剤が、アルコールエトキシレート、グリセロールエステル、ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸のグリコールエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項12に記載のコーティング。
【請求項17】
前記コーティングが、ビニルピロリドンホモポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、および必要に応じてさらなるモノマーまたはポリマーと組み合わせられたこれらのブレンドからなる群より選択されるビニルピロリドン成分をさらに含有する、請求項12に記載のコーティング。
【請求項18】
前記コーティングが、脂肪酸、脂肪酸塩および脂肪酸エステルの塩からなる群より選択される1種以上の脂肪酸成分をさらに含有する、請求項12に記載のコーティング。
【請求項19】
前記脂肪酸成分が、ラクチル酸ステアロイルカルシウム、ラクチル酸ステアロイルマグネシウム、ラクチル酸ステアロイルアルミニウム、ラクチル酸ステアロイルバリウム、ラクチル酸ステアロイル亜鉛、ラクチル酸パルミチルカルシウム、ラクチル酸パルミチルマグネシウム、ラクチル酸パルミチルアルミニウム、ラクチル酸パルミチルバリウム、ラクチル酸パルミチル亜鉛、ラクチル酸オレイルカルシウム、ラクチル酸オレイルマグネシウム、ラクチル酸オレイルアルミニウム、ラクチル酸オレイルバリウム、およびラクチル酸オレイル亜鉛からなる群より選択される脂肪酸エステルの塩を含む、請求項18に記載のコーティング。
【請求項20】
前記医療デバイスが、ステープル、クリップ、薬物送達デバイス、ステント、ピン、ねじ、縫合糸、人工靭帯、人工腱、織られたメッシュ、組織足場、凍結乾燥された生物学的メッシュ、複合メッシュ、ガーゼ、包帯、および成長マトリックスからなる群より選択される、請求項12に記載のコーティング。
【請求項21】
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、二硫化炭素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項12に記載のコーティング。
【請求項22】
前記有機溶液対前記水溶液の比が、約1:1〜約20:1であり得る、請求項12に記載のコーティング。

【公開番号】特開2010−279691(P2010−279691A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119919(P2010−119919)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】