説明

新規な癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子

【課題】 優れた発熱効率を示す新規な癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子を提供すること。
【解決手段】 本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、マグネシウムが鉄に対して0.5〜7原子%添加されてなり、一辺が10〜50nmの立方状の形状を有し、保磁力が30〜300Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である磁気特性を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた発熱効率を示す癌焼灼治療に適した新規な強磁性酸化鉄粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
癌焼灼治療は、癌細胞が正常細胞よりも熱による損傷を受けやすいことを利用し、癌を焼灼して治療する方法であるが、近年、強磁性酸化鉄粒子を体内に導入して癌腫瘍に集積させ、外部から交流磁界を印加して磁気ヒステリシス損失により発熱させることで癌を焼灼する方法の研究が進められている(例えば特許文献1)。磁性粒子を用いて癌を焼灼する方法については、超常磁性酸化鉄粒子に外部から交流磁界を印加して発熱させる方法が従来から研究されているが、この方法は、磁気モーメントの揺らぎを磁界に共鳴させることで磁界のエネルギーを吸収するために極めて高い周波数が必要な上、本質的に発熱効率が低いことから実用化に至っていないのが現状である。これに対し、強磁性酸化鉄粒子を用いる方法は、比較的低い周波数で高効率の発熱が可能である点において優れていることから実用化が期待されている。けれども、現時点において必ずしも満足できる発熱効率が達成できているわけではなく、従って、発熱効率の向上を図るための研究が精力的に行われている。強磁性酸化鉄粒子の発熱効率を向上させるための方法としては、例えば、磁気ヒステリシス損失を大きくするために磁気ヒステリシス曲線の保磁力や角型比(飽和磁化に対する残留磁化の比)を大きくする方法が考えられるが、保磁力を大きくする方法は、大きな保磁力に応じた高い印加磁界が必要になるため、装置が大掛かりで高価になるといったことから実用的でない。一方、角型比を大きくする方法は、大掛かりで高価な装置を必要としないため実用的な方法であると言える。しかしながら、これまでに提案されている強磁性酸化鉄粒子は球状や楕円状の形状を有するため、磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくするためにはコバルトなどの異種元素を添加する必要があった。このため、角型比が大きくなると保磁力も大きくなることから、保磁力があまり大きくならないようにするためには、異種元素の添加量を制限しなければならず、そのため、角型比を大きくすることができてもせいぜい0.35程度までであり、それ故、角型比を大きくすることによる発熱効率の向上にも限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−89991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、優れた発熱効率を示す新規な癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて研究を重ねる過程において、異種元素を添加することで強磁性酸化鉄粒子の磁気特性を変化させることができることに着目した。特許文献1には、強磁性酸化鉄粒子にコバルトを添加することで保磁力が大きくなることが記載されている他、マグネシウムを添加することで保磁力が小さくなることが記載されている。特許文献1に記載されているマグネシウムが添加された強磁性酸化鉄粒子は、製造の際にアルカリとしてアンモニアを使用した球状の形状を有するものである。ところが本発明者らが鋭意検討を行ったところ、製造の際にアルカリとして水酸化ナトリウムを使用してマグネシウムが添加された強磁性酸化鉄粒子を製造すると、全く意外なことにも形状が立方状となることで形状磁気異方性に基づいて保磁力が適度に大きくなるとともに角型比も大きくなること、磁気ヒステリシス曲線の立ち上がりがシャープになること、そしてこれらの結果として、磁気ヒステリシス損失が大きくなることで発熱効率の向上を図ることができることを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、請求項1記載の通り、マグネシウムが鉄に対して0.5〜7原子%添加されてなり、一辺が10〜50nmの立方状の形状を有し、保磁力が30〜300Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である磁気特性を有することを特徴とする。
また、請求項2記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、請求項1記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子において、酸化鉄がマグネタイト、ガンマ酸化鉄、マグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄のいずれかであることを特徴とする。
また、本発明の請求項1記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法は、請求項3記載の通り、2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液にアルカリとして水酸化ナトリウムを混合することで得られる沈殿物を水熱反応に付することを特徴とする。
また、本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子分散組成物は、請求項4記載の通り、請求項1記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子を注射用媒体に分散させてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた発熱効率を示す新規な癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得たマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子のTEM写真である。
【図2】実施例2で得たマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子のTEM写真である。
【図3】実験例1において測定した、マグネシウムが添加されたマグネタイト粒子と、コバルトが添加されたマグネタイト粒子のそれぞれの磁気ヒステリシス曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、マグネシウムが鉄に対して0.5〜7原子%添加されてなり、一辺が10〜50nmの立方状の形状を有し、保磁力が30〜300Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である磁気特性を有することを特徴とするものである。
【0010】
酸化鉄の種類は、癌焼灼治療に用いることができる強磁性酸化鉄であれば特段限定されるものではなく、例えば、マグネタイト(Fe)、ガンマ酸化鉄(γ−Fe)、マグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄などが挙げられる。
【0011】
本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、例えば、2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液にアルカリとして水酸化ナトリウムを混合することで得られる沈殿物(鉄とマグネシウムの水酸化物を含む)を水熱反応に付することで製造することができる。マグネシウムが添加された強磁性酸化鉄粒子を製造する方法として、2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液にアルカリを混合することで得られる沈殿物を水熱反応に付する方法は、特許文献1に記載された公知の方法であるが、前述の通り、特許文献1に記載されているマグネシウムが添加された強磁性酸化鉄粒子は、アルカリとしてアンモニアを使用することで製造された、球状の形状を有する保磁力がマグネシウムを添加しない場合に比較して小さくなったものである。これに対し、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用すると、形状が立方状となることで形状磁気異方性に基づいて保磁力が適度に大きくなるとともに角型比も大きくなること、磁気ヒステリシス曲線の立ち上がりがシャープになること、そしてこれらの結果として、磁気ヒステリシス損失が大きくなることで優れた発熱効率を示す、マグネシウムが添加された強磁性酸化鉄粒子を製造することができることは驚きに値する。
【0012】
2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液は、例えば、2価の鉄化合物(塩化第一鉄や硫酸第一鉄や硝酸第一鉄など)と3価の鉄化合物(塩化第二鉄や硫酸第二鉄や硝酸第二鉄など)とマグネシウム塩(塩化マグネシウムや硫酸マグネシウムなど)を水に溶解することで調製することができる。2価の鉄化合物に対する3価の鉄化合物の配合比は、2価の鉄化合物1モルに対して3価の鉄化合物0.1〜3モルが望ましい。2価の鉄化合物と3価の鉄化合物に対するマグネシウム塩の配合比は、2価の鉄化合物と3価の鉄化合物1モルに対してマグネシウム塩0.01〜0.1モルが望ましい。この配合比を採用することでマグネシウムが鉄に対して0.5〜7原子%添加された強磁性酸化鉄粒子を容易に製造することができる。鉄に対するマグネシウムの添加量が0.5原子%を下回るとマグネシウムを添加する効果が得られない恐れがある一方、7原子%を超えると強磁性酸化鉄粒子の本質的な磁気特性に悪影響を与える恐れがある。水溶液中の2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩の合計濃度は0.1〜10モル/Lが望ましい。2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を全て鉄とマグネシウムの水酸化物に変換するためには水酸化ナトリウムは鉄とマグネシウムの少なくとも3倍量必要である(モル比)。従って、2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩に対する水酸化ナトリウムの混合比は、2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩1モルに対して3〜15モルが望ましい。2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液への水酸化ナトリウムの混合は、例えば2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液に水酸化ナトリウムを溶解させた水溶液を撹拌しながら混合することで行えばよい。混合に際しての両水溶液の温度はマグネシウムが添加された強磁性酸化鉄粒子の大きさに影響を与える。例えば両水溶液の温度が−5〜30℃の場合、一辺が10〜50nmの立方状の形状を有する粒子を容易に製造することができる。2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液に水酸化ナトリウムを混合することで得られる沈殿物の水熱反応は、例えば沈殿物をオートクレーブなどの耐圧容器に仕込んで110〜220℃で1〜5時間行えばよい。水熱反応の温度が低すぎると粒子が立方状の形状に成長しにくくなる一方、高すぎると成長しすぎて所定の大きさの粒子が得にくくなる。
【0013】
以上のようにして得られる酸化鉄はマグネタイトであるが、マグネタイトは空気中において200〜300℃で1〜30分間加熱酸化することでガンマ酸化鉄に変換することができる。また、加熱酸化の温度条件を例えば200℃よりも低くすればマグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄を得ることができる。
【0014】
本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の磁気特性は、保磁力が30〜300Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である。本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、立方状の形状を有しているので(本発明において立方状の意味は厳格に解釈されるべきではなく当業者が立方状であると認識するに足るものであればよい)、これまでに提案されている球状や楕円状の形状を有する強磁性酸化鉄粒子では期待することができない形状磁気異方性に基づく保磁力の増加を達成することができる。また、形状磁気異方性に基づいて保磁力を増加させた本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、コバルトなどの異種元素を添加することで結晶磁気異方性に基づいて保磁力を増加させたこれまでに提案されている球状や楕円状の形状を有する強磁性酸化鉄粒子に比較して磁気ヒステリシス曲線の角型比が大きい。また、本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、磁気ヒステリシス曲線の立ち上がりがシャープである。そしてこれらの結果として、本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、磁気ヒステリシス損失が大きいことで、優れた発熱効率を示す。本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、標的とする癌腫瘍に集積させるべく、例えば生理食塩水や純水などの注射用媒体に1〜10重量%の濃度で分散させた分散組成物として提供され、必要に応じてこれを注射用媒体でさらに希釈した上で静脈内投与される。癌腫瘍に集積させた強磁性酸化鉄粒子に対する外部からの交流磁界の印加は、例えば、周波数が10〜200kHz、最大印加磁界が100〜1000Oeの条件で1回あたり1〜60分間行えばよい。
【0015】
なお、本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子に対し、注射用媒体への分散性を高めるためや癌腫瘍への集積性を高めるための表面処理を行ってもよい。注射用媒体への分散性を高めるための表面処理としては、例えば粒子の表面にSiO被膜などの無機膜や有機膜を形成する方法が挙げられる。癌腫瘍への集積性を高めるための表面処理としては、例えば粒子の表面に癌細胞に親和性を有する糖鎖や抗体などを結合させる方法が挙げられる。粒子の表面への糖鎖や抗体などの結合は、予め粒子の表面に自体公知の方法によりカルボキシル基やアミノ基などの官能基を付与してから行うことが望ましい。また、粒子の表面を金で被覆しておけば、チオール結合を介して各種の高分子化合物を粒子の表面に強固に結合させることができる。また、強磁性酸化鉄粒子を注射用媒体に分散させる際、ポリエチレングリコールなどの多価アルコールを例えば強磁性酸化鉄粒子に対して10〜1000重量%の割合で添加することで、強磁性酸化鉄粒子の注射用媒体への分散性をより高めることができる。
【0016】
また、本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の磁気特性を補完や増強させるために、マグネシウム以外の異種元素(コバルト、白金、亜鉛、ニッケル、チタンなど)を強磁性酸化鉄粒子に添加してもよい。なお、異種元素の添加量は鉄に対して0.1〜10原子%とすることが望ましい。添加量が少なすぎると異種元素を添加する効果が得られにくくなる一方、多すぎると粒子が立方状の形状に成長しにくくなる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0018】
実施例1:
0.15モルの塩化第一鉄と0.25モルの塩化第二鉄と0.01モルの塩化マグネシウムを500mLの水に溶解した。また、2.5モルの水酸化ナトリウムを500mLの水に溶解した。前者の水溶液を25℃で撹拌しながらそこに25℃の後者の水溶液を10分間かけて滴下した後、30分間撹拌を続けることで、鉄とマグネシウムの水酸化物を含む沈殿物を得た。撹拌を停止した後、1時間放置してから沈殿物を含む懸濁液の容量が200mLになるように上澄液を除去した。こうして調製した沈殿物を含む懸濁液をオートクレーブに仕込んで150℃で2時間水熱反応に付すことで、マグネシウムが鉄に対して約2.5原子%添加されたマグネタイト粒子を得た(マグネシウムの含有量は蛍光X線分析法により測定し、マグネタイトであることはX線回折での構造解析により確認した。以下同じ)。得られたマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1に示す。図1から明らかなように、この方法によって得たマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子のいくつかは一辺が約40nmの面を有する立方状の形状を有していた(粒子の奥行きも約40nm:TEM写真における粒子の重なり具合や重なった粒子の電子線の通過度合いなどに基づく決定。以下同じ)。このマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子の保磁力は130Oe、飽和磁化は73.2emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.35であった(DMS社製の試料振動型磁力計を用いて最大印加磁界13000Oeで測定、以下同じ)。
【0019】
実施例2:
塩化マグネシウムの使用量を0.02モル、水溶液の温度を10℃、水熱反応温度を130℃にすること以外は実施例1と同様にして、マグネシウムが鉄に対して約5原子%添加されたマグネタイト粒子を得た。得られたマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図2に示す。図2から明らかなように、この方法によって得たマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子のいくつかは一辺が約25nmの面を有する立方状の形状を有していた。このマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子の保磁力は85Oe、飽和磁化は68.5emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.30であった。
【0020】
比較例1:
アルカリとして水酸化ナトリウムのかわりにアンモニアを使用すること以外は実施例1と同様にして、マグネシウムが鉄に対して約2.5原子%添加されたマグネタイト粒子を得た。この方法によって得たマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子のいくつかは直径が約18nmの球状の形状を有していた。このマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子の保磁力は40Oe、飽和磁化は66.9emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.20であった。
【0021】
比較例2:
塩化マグネシウムを使用しないこと以外は実施例1と同様にしてマグネタイト粒子を得た。この方法によって得たマグネタイト粒子のいくつかは直径が約20nmの球状の形状を有していた。このマグネタイト粒子の保磁力は60Oe、飽和磁化は75.3emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.25であった。
【0022】
比較例3:
塩化マグネシウムを使用しないこと以外は比較例1と同様にしてマグネタイト粒子を得た。この方法によって得たマグネタイト粒子のいくつかは直径が約18nmの球状の形状を有していた。このマグネタイト粒子の保磁力は50Oe、飽和磁化は74.0emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.23であった。
【0023】
比較例4:
塩化マグネシウムのかわりに塩化コバルトを使用し、水酸化ナトリウムのかわりにアンモニアを使用すること以外は実施例1と同様にして、コバルトが鉄に対して約1.5原子%添加されたマグネタイト粒子を得た。この方法によって得たコバルトが添加されたマグネタイト粒子のいくつかは直径が約30nmの球状の形状を有していた。このコバルトが添加されたマグネタイト粒子の保磁力は125Oe、飽和磁化は78.6emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.32であった。
【0024】
実験例1:
実施例1で製造したマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子と比較例4で製造したコバルトが添加されたマグネタイト粒子のそれぞれの、DMS社製の試料振動型磁力計を用いて最大印加磁界400Oeで測定した磁気ヒステリシス曲線を図3に示す。図3から明らかなように、前者(Mg−Fe)の磁気ヒステリシス曲線と後者(Co−Fe)の磁気ヒステリシス曲線を比較すると、400Oe印加時の磁化量は前者が後者よりも大きい。これは前者が後者よりも磁気ヒステリシス曲線の立ち上がりがシャープであることによる。また、上記の通り、前者と後者は保磁力についてはほぼ同等であるが、角型比は前者が後者よりも大きい。前者のこれらの磁気特性は形状が立方状であることによる形状磁気異方性に基づくものと考えられ、前者は400Oeという低い印加磁界であっても磁気ヒステリシス損失が大きいことで優れた発熱効率を示す癌焼灼治療に適したものであることがわかった。
【0025】
製剤例1:
実施例1で製造したマグネシウムが添加されたマグネタイト粒子を純水に3.6重量%の濃度で分散させた静脈内投与用分散組成物を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、優れた発熱効率を示す新規な癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムが鉄に対して0.5〜7原子%添加されてなり、一辺が10〜50nmの立方状の形状を有し、保磁力が30〜300Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である磁気特性を有することを特徴とする癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子。
【請求項2】
酸化鉄がマグネタイト、ガンマ酸化鉄、マグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子。
【請求項3】
2価の鉄化合物と3価の鉄化合物とマグネシウム塩を含む水溶液にアルカリとして水酸化ナトリウムを混合することで得られる沈殿物を水熱反応に付することを特徴とする請求項1記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子を注射用媒体に分散させてなることを特徴とする癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子分散組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−34655(P2013−34655A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172978(P2011−172978)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】