説明

新規な置換ジフェニルカルバゾール誘導体、該誘導体よりなるホスト材料及び該誘導体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】新規な置換ジフェニルカルバゾール誘導体、該誘導体よりなるホスト材料、及び該誘導体を含有する有機EL素子の提供。
【解決手段】式(1)で示される置換ジフェニルカルバゾール誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な置換ジフェニルカルバゾール誘導体、該誘導体よりなるホスト材料、及び該誘導体を含む有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の実用化に向けた研究開発が、国内外の電気メーカーや材料メーカーなどによって進められている。しかし、既に世間で知られている液晶表示素子や発光ダイオードなどのディスプレイと互角に使用されるためには、消費電力の低減及び素子の長寿命化が必須の課題である。
そこで、この問題を解決する目的で、近年リン光材料による有機EL素子の検討がなされている(非特許文献1)。
リン光材料は、従来の蛍光材料と異なり、三重項励起状態を使用することができるため量子効率が非常に高く、エネルギー失活がほとんどなく内部発光量子収率でほぼ100%に達する材料である(非特許文献2〜4)。
しかし、このリン光材料は濃度消光を起こしやすいため蛍光材料と同様にホスト材料との併用が必要になってくる(非特許文献5)。
高効率発光を得るためには、輸送材料やホスト材料の最適化を図らないといけないが、リン光材料は蛍光材料と異なり三重項エネルギーを完全に閉じ込めないと満足な効果が得られない。特に青色の材料に関してはエネルギーレベルが非常に高い。そのためこれまで使用されていた4,4′−ジ(N−カルバゾール)−1,1′−ビフェニル(CBP)では十分なエネルギーの閉じ込めができない。残念なことに、この青色リン光エネルギーを満足に閉じ込めることのできるワイドギャップ化されたホスト材料はこれまでほとんどなく、青色リン光材料の開発を妨げる一つの要因になっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.A.Baldo,D.F.O’Brien,Y.You,A.Shoustikov,S.Sibley,M.E.Thompson and S.R.Forrest:Nature(London)395 p.151(1998)
【非特許文献2】C.Adachi,M.A.Baldo and S.R.Forrest:Appl.Phys.Lett.,77 p.904(2000)
【非特許文献3】C.Adachi,M.A.Baldo,S.R.Forrest,S.Lamansky,M.E.Thompson and R.C.Wrong:Appl.Phys.Lett.,78,1622(2001)
【非特許文献4】C.Adachi,R.C.Wrong,P.Djurovich,V.Adamovich,M.A.Baldo,M.E.Thompson,and S.R.Forrest:Appl.Phys.Lett.,79,2082(2001)
【非特許文献5】C.Adachi,M.A.Baldo and S.R.Forrest:J.Appl.Phys.,87,8049(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な置換ジフェニルカルバゾール誘導体、該誘導体よりなるホスト材料、及び該誘導体を含有する有機EL素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 下記一般式(1)で示されることを特徴とする置換ジフェニルカルバゾール誘導体。
【化1】

(式中、R〜Rは水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R〜R20は水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式
【化2】

で示されるジフェニルアミノ基、トリフェニルメチル基のいずれかであり、R21〜R45は、水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
2) 1)記載の置換ジフェニルカルバゾール誘導体よりなるホスト材料。
3) 1)記載の置換ジフェニルカルバゾール誘導体を用いた有機EL素子。
4) 1)記載の置換ジフェニルカルバゾール誘導体を発光層に用いた有機EL素子。
5) 発光層に用いる発光材料としてリン光材料を用いた3)又は4)記載の有機EL素子。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規な置換ジフェニルカルバゾール誘導体、該誘導体よりなるホスト材料、及び該誘導体を含有する有機EL素子を提供できる。
本発明の置換ジフェニルカルバゾール誘導体は、従来のカルバゾール置換ホスト材料とは異なりホールと電子のキャリアーバランスがよい。またキャリア注入性が高く、駆動電圧を低くすることができるため発光効率(視感効率)が向上する。エネルギーギャップも3.4eVと十分に広く、発光に多くのエネルギーが必要な青色リン光ドーパントとの組み合わせでも十分な効果が期待できる。
よって本発明の置換ジフェニルカルバゾール誘導体は、素子の高効率化のために必要であり、工業的に極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1で作製した4−(N,N−ジフェニル)アミノフェニル−3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール(PhCzTPA)のMassスペクトル。
【図2】実施例1で作製したPhCzTPAのH−NMRスペクトルの全体図。
【図3】実施例1で作製したPhCzTPAのH−NMRスペクトルの芳香族部分の拡大図。
【図4】実施例2で作製した(4−トリフェニルメチル)フェニル−3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール(PhCzTPM)のMassスペクトル。
【図5】実施例2で作製したPhCzTPMのH−NMRスペクトルの全体図。
【図6】実施例2で作製したPhCzTPMのH−NMRスペクトルの芳香族部分の拡大図。
【図7】実施例3の真空条件下のTGAの図。
【図8】実施例3の大気圧下のTGAの図。
【図9】実施例3の液体クロマトグラフィーの図。
【図10】実施例4の真空条件下のTGAの図。
【図11】実施例4の大気圧下のTGAの図。
【図12】実施例4の液体クロマトグラフィーの図。
【図13】実施例7のPhCzTPAのUV−vis吸収スペクトル(λmax)。
【図14】実施例7のPhCzTPAのPLスペクトル(λex)。
【図15】実施例8のPhCzTPMのUV−vis吸収スペクトル(λmax)。
【図16】実施例8のPhCzTPMのPLスペクトル(λex)。
【図17】実施例9〜10及び比較例3のUV−vis吸収スペクトル。
【図18】実施例9〜10及び比較例3のPLスペクトル。
【図19】実施例11〜12及び比較例4のストリークカメラによる発光寿命の図。
【図20】実施例13〜14及び比較例5の発光量子効率の図。
【図21】実施例15〜16及び比較例6の有機EL素子の図。
【図22】実施例15〜16及び比較例6のエネルギーダイアグラムの図。
【図23】実施例15〜16及び比較例6の電流密度−電圧特性(線形表示)の図。
【図24】実施例15〜16及び比較例6の電流密度−電圧特性(対数表示)の図。
【図25】実施例15〜16及び比較例6の輝度−電圧特性の図。
【図26】実施例15〜16及び比較例6の電力効率−電圧特性の図。
【図27】実施例15〜16及び比較例6の電流効率−電圧特性の図。
【図28】実施例15〜16及び比較例6の外部量子効率−輝度特性の図。
【図29】実施例15〜16及び比較例6のELスペクトルの図。
【図30】本発明の有機EL素子の構成例を示す図。
【図31】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図32】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図33】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図34】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図35】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図36】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図37】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明の置換ジフェニルカルバゾール誘導体における炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基などを例示することができる。
またアルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基、ターシャリーブトキシ基を例示することができる。
またアルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ノルマルプロピルアミノ基、ジノルマルプロピルアミノ基、メチルノルマルプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、メチルイソプロピルアミノ基、ノルマルブチルアミノ基、ジノルマルブチルアミノ基、メチルノルマルブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基、ターシャリーブチルアミノ基、ジターシャリーブチルアミノ基、メチルターシャリーブチルアミノ基などを例示することができる。
【0009】
本発明の置換ジフェニルカルバゾール誘導体は、下記の反応により製造できる。
【化3】

(式中、R〜Rは水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R〜R20は水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式

【化4】

で示されるジフェニルアミノ基、トリフェニルメチル基のいずれかであり、R21〜R45は、水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、Xはハロゲンである。)
【0010】
上記製造法について具体的に説明する。
上記式で示される反応は、一般的にウルマン反応と言われているカップリング反応である。ただし、一般的なウルマン反応は、反応溶媒にニトロベンゼンやテトラリンといった高沸点溶媒を使用し、反応温度が150℃以上と温度が高い上に収率も低い。
最近温和な条件で収率も良い反応条件が学術論文等で報告されている。本発明の置換ジフェニルカルバゾール誘導体の製造も下記式で表わされるL−プロリンとヨウ化銅を反応触媒として使用し温和な条件で製造できる。
【化5】

反応で使用する塩基類は、アルカリ金属を含むものであれば特に限定されない。例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムのような水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなような炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムのような重炭酸塩、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属のアルコラートや酢酸塩などの有機塩基が挙げられる。中でも炭酸塩やアルコラートが好ましく、特に溶媒類に可溶な炭酸塩が好ましく、反応時間を考慮した場合には炭酸カリウムが好ましい。
反応溶媒は、原料のカルバゾール化合物とアリールハライドを溶かすものであれば特に限定されることはない。例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられるが、反応温度を考慮すれば、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0011】
以下に本発明の置換ジフェニルカルバゾール誘導体の具体例を示す。なお、例示化合物においてメチル基は他のアルキル基(エチル基やプロピル基など)と置き換えることができる。
【0012】
【化6】

【0013】
【化7】

【0014】
【化8】

【0015】
【化9】

【0016】
【化10】

【0017】
【化11】

【0018】
【化12】

【0019】
【化13】

【0020】
【化14】

【0021】
【化15】

【0022】
【化16】

【0023】
【化17】

【0024】
【化18】

【0025】
【化19】

【0026】
【化20】

【0027】
【化21】

【0028】
【化22】

【0029】
【化23】

【0030】
本発明の新規な置換ジフェニルカルバゾール誘導体は高いキャリア輸送性能を有する。従って、ホスト材料として使用することができる。これらはいずれも蒸着又は塗布により層形成を行うのが望ましい。
また、有機ELに使用する場合には、適当な発光材料と組み合わせて使用することができるし、発光層に用いる場合にはホスト材料として使用することができる。
【0031】
次に本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に複数層の有機化合物を積層した素子であり、発光層の発光材料として本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を含有する。
発光層は、発光材料とホスト材料から構成される。多層型の有機EL素子の構成例としては、陽極(例えばITO)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール注入層(正孔注入層)/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極等の多層構成で積層したものが挙げられる。また、必要に応じて陰極上に封止層を有していてもよい。
ホール輸送層、電子輸送層、及び発光層のそれぞれの層は、各機能を分離した多層構造であることが望ましい。またホール輸送層、電子輸送層はそれぞれの層で注入機能を受け持つ層(ホール注入層及び電子注入層)と輸送機能を受け持つ層(ホール輸送層及び電子輸送層)を別々に設けることもできる。
【0032】
以下本発明の有機EL素子の構成要素に関して、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極からなる素子構成を例として取り上げて説明する。本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。
基板の素材については特に制限はなく、例えば、従来の有機EL素子に慣用されているものが使用でき、ガラス、石英ガラス、透明プラスチックなどからなるものを用いることができる。
【0033】
前記陽極としては、仕事関数の大きな金属単体(4eV以上)、仕事関数の大きな金属同士の合金(4eV以上)又は導電性物質及びこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の例としては、金、銀、銅等の金属、ITO(インジウム−スズオキサイド)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性透明材料、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子材料が挙げられる。陽極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリング、塗布などの方法により形成することができる。陽極のシート電気抵抗は数百Ω/cm以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
【0034】
前記陰極としては、仕事関数の小さな金属単体(4eV以下)、仕事関数の小さい金属同士の合金(4eV以下)又は導電性物質及びこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の例としては、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金などが挙げられる。陰極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作製することができる。
陰極のシート電気抵抗は数百Ω/cm以下が好ましい。陰極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
本発明の有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、陽極又は陰極の少なくとも一方の電極は透明又は半透明であることが好ましい。
【0035】
前記ホール輸送層は、ホール伝達化合物からなるもので、陽極より注入されたホールを発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に正孔伝達化合物が配置されて陽極からホールが注入された場合、少なくとも10−6cm/V・秒以上のホール移動度を有するホール伝達物質が好ましい。本発明の有機EL素子のホール輸送層に使用するホール伝達物質は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料においてホールの電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子のホール輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0036】
ホール伝達物質の例としては、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、N,N,N′,N′−テトラフェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N′−ジ(m−トリル)−N,N′−ジフェニル−4,4−ジアミノフェニル(TPD)、N,N′−ジ(1−ナフチル)−N,N′−ジフェニル−4,4−ジアミノフェニル(α−NPD)等のトリアリールアミン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、及び水溶性のPEDOT−PSS(ポリエチレンジオキサチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
ホール輸送層は、これらの他のホール伝達化合物の一種又は二種以上からなる一層で構成されたものでよく、前記のホール伝達物質とは別の化合物からなるホール輸送層を積層したものでもよい。
【0037】
ホール注入材料の例としては、下記化学式で示されるPEDOT−PSS(ポリマー混合物)やDNTPDが挙げられる。式中のnは繰り返し単位数である。
【化24】

ホール輸送材料の例としては、下記化学式で示されるTPD、DTASi、α−NPDなどが挙げられる。

【化25】

【0038】
前記電子輸送層は、電子輸送材料からなるもので、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に電子輸送材料が配置されて陰極から電子が注入された場合、少なくとも10−6cm/V・秒以上の電子移動度を有する電子輸送材料が好ましい。該電子輸送材料は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料において電子の電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子の電子輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
電子輸送材料の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)のようなキノリン錯体、1−N−フェニル−2−(p−ビフェニルイル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TAZ)のようなトリアジン誘導体、1,4−ジ(1,10−フェナントロリン−2−イル)ベンゼン(DPB)のようなフェナントロリン誘導体、フッ化リチウムのようなハロゲン化アルカリ金属などが挙げられる。
AlqとTAZの化学式を次に示す。
【化26】

【0039】
上記の他に、下記化学式で示されるトリアジン誘導体の電子輸送材料(TmPyPhTAZ、特開2007−137829号公報参照)やビスフェノール誘導体の電子輸送材料(tetra−pPyPhBP、特開2008−063232号公報参照)などを用いることもできる。
【化27】

【化28】

電子輸送層は、上記電子輸送材料の一種又は二種以上からなる一層で構成されたものでよいが、これらとは別の化合物からなる電子輸送層を積層したものでもよい。
【0040】
電子注入材料の例としては、下記化学式で示されるフッ化リチウム(LiF)や8−ヒドロキシキノリノラトリチウム錯体(Liq)、フェナントロリン誘導体のリチウム錯体(LiPB、特開2008−106015号公報参照)、フェノキシピリジンのリチウム錯体(LiPP、特開2008−195623号公報参照)が挙げられる。

【化29】

【0041】
本発明の有機EL素子の発光層では、発光材料として本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を使用するが、その他の任意の発光材料を選択して該錯体と併用することができる。
併用する発光材料としては、ペリレン誘導体、ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体(例えばクマリン1、クマリン540、クマリン545など)、ピラン誘導体(例えばDCM−1、DCM−2、DCJTBなど)、有機金属錯体〔例えばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Almq)等の蛍光材料や、[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジル−N,C2′]イリジウム(III)ピコリレート(FIrpic)、トリス{1−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピラゾラート−N,C2′}イリジウム(III)(Irtfmppz)、ビス[2−(4′,6′−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2′]イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレート(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)(Irppy)等のリン光材料〕などが挙げられる。
【0042】
発光層は、一般にホスト材料と発光材料(ドーパント)から形成される[Appl.Phys.Lett.,65 3610(1989)]が、本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を発光層に使用する場合にはホスト材料が必要であり、例えば下記化学式で示される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)−1,1′−ビフェニル(CBP)、1,4−ジ(N−カルバゾリル)ベンゼン−2,2′−ジ[4″−(N−カルバゾリル)フェニル]−1,1′−ビフェニル(4CzPBP)などを用いる。
【化30】

【0043】
発光材料は、ホスト材料に対して好ましくは0.01〜40重量%であり、より好ましくは0.1〜20重量%である。発光材料としては、下記に示す従来公知のFIrpic、Irppy3、Fir6等を挙げることができる。
【化31】

【0044】
本発明の有機EL素子は、ホール注入性をさらに向上させる目的で陽極と有機化合物の層の間に有機導電体から構成されるホール注入層を設けてもよい。ここで使用されるホール注入材料としては、本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体の他に銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、PEDOT−PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を含むEL素子のホール注入層、ホール輸送層の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば乾式製膜法(真空蒸着法、イオン化蒸着法など)、湿式製膜法(溶媒塗布法:スピンコート法、キャスト法、インクジェット法など)を使用することができる。電子輸送層の製膜については、湿式製膜法で行うと下層が溶出する恐れがあるため乾式製膜法(真空蒸着法、イオン化蒸着法など)に限定される。素子の作製については上記の製膜法を併用しても構わない。
真空蒸着法によりホール輸送層、発光層、電子輸送層などの各層を形成する場合、真空蒸着条件は特に限定されるものではない。通常10−5Torr程度以下の真空下で50〜500℃程度のボート温度(蒸着原温度)、−50〜300℃程度の基板温度で、0.01〜50nm/sec.程度蒸着することが好ましい。正孔輸送層、発光層、電子輸送層の各層を複数の化合物を使用して形成する場合、化合物を入れたボートをそれぞれ温度制御しながら共蒸着することが好ましい。
【0045】
ホール注入層、ホール輸送層を溶媒塗布法で形成する場合、各層を構成する成分を溶媒に溶解又は分散させて塗布液とする。溶媒としては、炭化水素系溶媒(ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エーテル系溶媒(ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等)、非プロトン性溶媒(N,N′−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)、水等が挙げられる。溶媒は単独で使用しても複数の溶媒を併用してもよい。
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等の各層の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常5〜5,000nmになるようにする。
【0046】
本発明の有機EL素子は、酸素や水分等の接触を遮断する目的で保護層(封止層)を設けたり、不活性物質中に素子を封入して保護することができる。不活性物質としては、パラフィン、シリコンオイル、フルオロカーボン等が挙げられる。保護層に使用する材料としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、光硬化性樹脂等がある。
【0047】
図30〜図37に、本発明の有機EL素子の好ましい構成例を示す。
図30は、基板1上に、陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。これはキャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、材料選択の自由度が増すために、発光の高効率化や発光色の自由度が増すことになる。
図31は、基板1上に、陽極2、ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、ホール注入層7を設けることにより、陽極2とホール輸送層5の密着性が高くなり、陽極からのホールの注入が良くなり、発光素子の低電圧化に効果がある。
図32は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4から電子の注入が良くなり、発光素子の低電圧化に効果がある。
図33は、基板1上に、陽極2、ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陽極2からホールの注入が良くなり、陰極4からの電子注入が良くなり、低電圧駆動に最も効果がある構成である。
【0048】
図34〜図37は有機EL素子の中にホールブロック層を挿入した構成例である。
ホールブロック層は、陽極から注入されたホールあるいは発光層3で再結合により生成した励起子が、陰極4に抜けることを防止する効果を有し、有機EL素子の発光効率の向上に効果がある。ホールブロック層9については、発光層3と陰極4の間、発光層3と電子輸送層6の間、あるいは発光層3と電子注入層8の間に挿入することができる。好ましいのは発光層3と電子輸送層6の間である。
ホール輸送層5、ホール注入層7、電子輸送層6、電子注入層8、発光層3、ホールブロック層9のそれぞれの層は、一層構造であっても多層構造であってもよい。
なお、図30〜図37は、あくまでも基本的な素子構成であり、本発明の有機EL素子の構成はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
実施例1
4−(N,N−ジフェニル)アミノフェニル−3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール(PhCzTPA)の合成
【化32】

200mLのナス型フラスコに、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フェニルカルバゾール、ブロモトリフェニルアミン、炭酸カリウム、L−プロリンを入れ、窒素バブリングを1時間行った。その後、CuIを入れて、140℃で窒素気流下還流した。薄層クロマトグラフ(SiO,展開溶媒:ヘキサン:トルエン=4:1)によりブロモトリフェニルアミン〔Rf(固有値):0.69〕の消費を確認した後、反応混合物を室温に戻した。有機層を酢酸エチル(20mL×3)で抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別し、減圧下溶媒を留去した。
得られた粘体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン:トルエン=8:1)で分離精製し、粘体を得た。目的物の同定はMassスペクトル、H−NMRスペクトルにより行った。Massスペクトルの結果を図1に、H−NMRスペクトルの全体図を図2に、芳香族部分の拡大図を図3に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ8.40(d,2H,J=1.4Hz),7.75〜7.68(m,6H),7.53〜7.10(m,22H)ppm;MS:m/z563[M]
【0051】
実施例2
(4−トリフェニルメチル)フェニル−3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール(PhCzTPM)の合成
【化33】

50mLの3つ口フラスコに、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フェニルカルバゾール、4−ヨードフェニル−トリフェニルメタン、炭酸カリウム、L−プロリンを入れ、窒素バブリングを1時間行った。その後、CuIを入れて、140℃で窒素気流下還流した。薄層クロマトグラフ(SiO,展開溶媒:ヘキサン:トルエン=2:1)にて4−ヨードフェニル−トリフェニルメタン(Rf:0.69)の消費を確認した後、反応混合物を室温に戻した。有機層を酢酸エチル(20mL×3)で抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別し、減圧下溶媒を留去した。得られた粘体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン:トルエン=8:1)で分離精製し、粘体を得た。目的物の同定はMassスペクトル、1H−NMRスペクトルにより行った。Massスペクトルの結果を図4に、H−NMRスペクトルの全体図を図5に、芳香族部分の拡大図を図6に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ8.40(d,2H,J=1.4Hz),7.74〜7.66(m,6H),7.56〜7.24(m,27H)ppm;MS:m/z638[M]
【0052】
実施例3
実施例1で合成したPhCzTPAの昇華精製を行った。
昇華温度は、真空条件下のTGA(加熱減量試験)と大気圧条件下のTGAの温度を参考に決定した。真空条件下のTGAの5%重量減少温度は、241℃、大気圧条件の5%重量減少温度は、423℃であり、ここから昇華温度は、300℃と見積もった。
その他の条件は、第2炉側の温度200℃、窒素流量は70mL/min.とした。
仕込み量0.98gに対して、2回の昇華精製後、0.59g(収率60%)の昇華物を得ることができた。
昇華物については高速液体クロマトグラフィーで純度測定を行い元素分析で確認した。高速液体クロマトグラフィーの移動相は、THF:HO=2:1を使用し、保持時間7分目にピークが現れ、その結果は、99.7%であった。
元素分析の結果は、計算値for C4230:C,89.65;H,5.37;N,4.98%.に対して、実測値:C,89.60;H,5.42;N,4.96%.であり良好な結果を示した。真空条件下のTGAの結果を図7に、大気圧下のTGAの結果を図8に、液体クロマトグラフィーの結果を図9にそれぞれ示す。
【0053】
実施例4
実施例2で合成したPhCzTPMの昇華精製を行った。
昇華温度は、真空条件下のTGA(加熱減量試験)と大気圧条件下のTGAの温度を参考に決定した。真空条件下のTGAの5%重量減少温度は、258℃、大気圧条件の5%重量減少温度は、441.3℃であり、ここから昇華温度は、310℃と見積もった。
その他の条件は、第2炉側の温度200℃、窒素流量は70mL/min.とした。
仕込み量0.8gに対して、2回の昇華精製後、0.48g(収率60%)の昇華物を得ることができた。
昇華物については、高速液体クロマトグラフィーで純度測定を行い元素分析で確認した。高速液体クロマトグラフィーの移動相は、THF:HO=2:1を使用し、保持時間8分目にピークが現れ、その結果は、99.8%であった。
元素分析の結果は、計算値for C4935N:C,92.27;H,5.53;N,2.20%.に対して、実測値:C,92.21;H,5.75;N,2.17%.であり良好な結果を示した。真空条件下のTGAの結果を図10に、大気圧下のTGAの結果を図11に、液体クロマトグラフィーの結果を図12にそれぞれ示す。
【0054】
実施例5〜6、参考例1
実施例3で精製したPhCzTPA及び実施例4で精製したPhCzTPMのガラス転移温度(Tg)を測定した(実施例5〜6)。
試料を繰り返し加熱冷却することにより、DSC(示差走査熱量測定)のチャート上に明確なガラス転移温度が現れる。
測定の結果、PhCzTPAのガラス転移温度(Tg)は104.93℃、PhCzTPMのTgは131.51℃であった。
実施例5〜6のTgと実施例3〜4の大気圧条件下のTGAの結果(Td5)を表1に示す。また、本出願人の特願2009−31371に記載された下記式で表わされる4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)トリフェニルホスフィンオキシド(PhCzPO)のTgと大気圧条件下のTGAの結果(Td5)を、参考例1として表1に示す。なお、表中のMwは分子量を、Tm(℃)は融点を意味する。
【化34】


【表1】

【0055】
実施例7〜8、参考例2
実施例3で精製したPhCzTPA及び実施例4で精製したPhCzTPMの希薄溶液中での光学特性評価を行った(実施例7〜8)。
UV−vis吸収スペクトル(λmax)、フォトルミネッセンス(PL)スペクトル(λex)は、各々の溶液中の濃度が1×10−5Mとなるように調整して測定した。
溶媒はクロロホルム、THF、トルエンの3種を用いた。参考例2として、前述したPhCzPOの希薄溶液中での光学特性評価を行った。結果をまとめて表2に示す。
【表2】

実施例7のPhCzTPAのUV−vis吸収スペクトル(λmax)の結果を図13に、PLスペクトル(λex)の結果を図14に示す。また実施例8のPhCzTPMのUV−vis吸収スペクトル(λmax)の結果を図15に、PLスペクトル(λex)の結果を図16に示す。
PhCzTPAもPhCzTPMも、用いる溶媒によってUV−vis吸収スペクトルのピークの位置に変化はない。一方、PLスペクトルは用いる溶媒によって、トルエン→THF→クロロホルムの順でスペクトルの長波長化が見られたが、それほど大きな変化ではなかった。
【0056】
実施例9〜10、参考例3
実施例3で精製したPhCzTPA及び実施例4で精製したPhCzTPMの蒸着膜での光学特性評価を行った(実施例7〜8)。
これらの蒸着膜のUV−vis吸収スペクトル、PLスペクトル、AC−3によるイオン化ポテンシャルの測定を行った。参考例3として、前述したPhCzPOの薄膜中での光学特性評価を行った。結果を表3に示す。

【表3】

λabsは、UV−vis吸収スペクトルの最大吸収波長、λexは、PL測定時の励起波長、λemは、PLの発光波長である。PhCzTPA、PhCzTPM及びPhCzPOのUV−vis吸収スペクトルを図17に、PLスペクトルを図18に示す。
【0057】
有機ELは全固体型の発光素子である。そのため固体状態での光学特性が重要である。一般的に材料のイオン化ポテンシャルは大気中の光電子分光法(AC−3)、エネルギーギャップはUV−vis吸収スペクトルの吸収端から見積もられる。
表3にPhCzTPA、PhCzTPM及びPhCzPOにおけるイオン化ポテンシャル(Ip)、電子親和力(Ea)とエネルギーギャップ(Eg)の結果を示す。
Ipはイオン化ポテンシャル測定装置(理研計器AC−3など)を用いて測定し、測定するサンプルがイオン化を開始したところの電圧(eV)の値を読む。
Eaは、IpからEgを引いた値である。
IpはAC−3の実測値であり、Egについては、蒸着機で作成した薄膜を紫外−可視吸光度計で薄膜の吸収曲線を測定する。その薄膜の短波長側の立ち上がりのところに接線を引き、求まった交点の波長W(nm)を次の式に代入し目的の値を求める。それによって得た値がEgになる。
Eg=1240÷W
例えば接線を引いて求めた値W(nm)が470nmの時のEgの値は
Eg=1240÷470=2.63(eV)
と言うことになる。
また、Eaは下記式で求められる。
Ea=Ip−Eg
例えばIpの値が5.85(eV)であれば、
Ea=5.85−2.63=3.22(eV)となる。
UV−vis吸収スペクトルでは、PhCzPO<PhCzTPA<PhCzTPMの順で吸収端の長波長化が見られた。PhCzTPAとPhCzPOはEg=3.35eVと同程度であるが、π共役が拡張したPhCzTPAではEg=3.30eVとわずかに小さくなった。PLスペクトルでは、PhCzPO→PhCzTPA→PhCzTPMの順で長波長化がみられた。AC−3によるイオン化ポテンシャルを測定したところ、トリフェニルアミンを有するPhCzTPAは0.2eV程度HOMOが浅くなっている。これは、カルバゾール部位よりもイオン化が容易であるトリフェニルアミン部位を有しているからであると考えられる。
また、PhCzTPMではPhCzPOと同様のHOMOを得た。これは、PhCzPOとPhCzTPMにおけるHOMOがジフェニルカルバゾール上に存在しているからであると考えられる。
【0058】
実施例11〜12、参考例4
実施例3で精製したPhCzTPA及び実施例4で精製したPhCzTPMのストリークカメラによる発光寿命測定を行った(実施例11〜12)。ストリークカメラによる発光寿命測定はホスト−ゲスト系の励起状態のエネルギー移動に関する知見を得るために極めて重要である。ゲストの発光強度は時間(t)、発光寿命(I)を用いて次式で表される。
I(t)=Aexp(−t/I)+Aexp(−t/I

FIrpicを11wt%ドープした際に得られたI、Aの値とそれらの割合を表4に示す。参考例4として、前述したPhCzPOにドープしたものの測定結果も示す。
また、それぞれの結果を図19に示す。
【表4】

【0059】
実施例13〜14、参考例5
実施例11〜12及び参考例4で作成したFIrpicの11wt%ドープ膜を使用し発光量子効率測定を行った。測定結果を図20に示す。
有機ELの発光効率は発光層の発光量子効率(ηPL)に比例する。したがって、FIrpic11wt%ドープ膜のηPL測定は素子特性を解析する上で決定的に重要である。また、発光量子効率(ηPL)、リン光寿命(τ)、放射速度定数(kr)、無放射速度定数(knr)の関係式は以下のように表される。
ηPL=kr/(kr+knr)、τ=1/(kr+knr)
ηPLの測定結果と上記の式から得られた各パラメーターを、表5にまとめた。
【表5】

【0060】
実施例15〜16、参考例6
実施例3で精製したPhCzTPA及び実施例4で精製したPhCzTPMをホスト材料に使用した有機EL素子を作成した(実施例15〜16)。参考例6として、前述したPhCzPOをホストに使用した有機EL素子も作成した。素子の構成を図21に示す。
ホール輸送層には下記式で示される1,1−ビス〔4−N,N−ジ(p−トリル)アミノフェニル〕シクロヘキサン(TAPC)を使用した。
【化35】

電子輸送層には下記式で示される3,3",5,5"−テトラ(ピリジン−3−イル)−1,1′,3′,1"−ターフェニル(BmPyPB)を使用した
【化36】

素子構成は次のとおりであり、いずれもガラス基板を用いている。
実施例15:ITO/TAPC(ホール輸送層、40nm)/PhCzTPA:11wt%FIrpic(発光層、10nm)/BmPyPB(電子輸送層、50nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、100nm)
実施例16:ITO/TAPC(ホール輸送層、40nm)/PhCzTPM:11wt%FIrpic(発光層、10nm)/BmPyPB(電子輸送層、50nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、100nm)
参考例6:ITO/TAPC(ホール輸送層、40nm)/PhCzPO:11wt%FIrpic(発光層、10nm)/BmPyPB(電子輸送層、50nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、100nm)

【0061】
各素子のエネルギーダイアグラムを図22に、電流密度−電圧特性を図23(線形表示)と図24(対数表示)に、輝度−電圧特性を図25に、電力効率−電圧特性を図26に、電流効率−電圧特性を図27に、外部量子効率−輝度特性を図28に、ELスペクトルを図29に示す。
また1cd/m発光時の発光開始電圧、100cd・m時と1000cd・m時の電圧、電力効率、電流効率及び外部量子効率を表6に示す。
【表6】

上記表中の用語の意味は次のとおりである。
Turn on voltage:発光開始電圧
voltage:電圧
Power efficiency:電力効率
Current efficiency:電流効率
Quantum efficiency:量子効率

【0062】
エネルギーダイアグラムの図22からみて、作製した素子において、発光層以外の各層の材料のTエネルギーは、TAPC(T=2.98eV)、BmPyPB(T=2.77eV)であり、FIrpic(T=2.77eV)の閉じ込めが十分可能であると考えられる。
図29のELスペクトルでは、FIrpicの発光のみであり、周辺材料の発光は見られなかった。このことから、キャリアは完全に発光層内に閉じ込められ、周辺材料へのエネルギー移動による発光はないと考えられる。
素子特性評価したところ、100cd/mの電力効率(ηp)と電流効率(ηc)はPhCzTPA>PhCzTPM>PhCzPOとなり、3,6−ジフェニルカルバゾールの9位への電子供与性基の導入が効果的である事が明らかとなった。アミン類は代表的なホール輸送材料であり、5.6eV〜の浅いHOMO準位を有する。トリフェニルアミンを導入したことにより、PhCzTPAのHOMO準位が浅くなったと考えられる。その結果、高いホール注入性を獲得し、低電圧駆動を可能にしたと考えられる。
本発明の素子系ではHOMOの深いFIrpicをドーパントとして用いているため、発光層内にホールが入りにくく電子過多であることが示唆される。FIrpicを用いた青色リン光素子用のホスト材料の分子設計指針では、発光層内へホールを効率良く注入できるホストが駆動電圧を下げ電力効率を向上させるのに有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の有機EL素子は、通常直流駆動の素子として使用できる。直流電圧を印加する場合は、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として通常1.5〜20V程度印加すると発光が観察される。また、交流駆動の素子としても使用できる。交流電圧を印加する場合には、陽極がプラス、陰極がマイナスの状態になった時に発光する。
また、本発明の有機EL素子は、例えば電子写真感光体、フラットパネルディスプレイなどの平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト、計器等の光源、各種発光素子、各種表示装置、各種標識、各種センサー、各種アクセサリーなどに使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
2 陽極(ITO)
3 発光層
4 陰極
5 正孔(ホール)輸送層
6 電子輸送層
7 正孔(ホール)注入層
8 電子注入層
9 ホールブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする置換ジフェニルカルバゾール誘導体。
【化37】

(式中、R〜Rは水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R〜R20は水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式
【化38】

で示されるジフェニルアミノ基、トリフェニルメチル基のいずれかであり、R21〜R45は、水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【請求項2】
請求項1記載の置換ジフェニルカルバゾール誘導体よりなるホスト材料。
【請求項3】
請求項1記載の置換ジフェニルカルバゾール誘導体を用いた有機EL素子。
【請求項4】
請求項1記載の置換ジフェニルカルバゾール誘導体を発光層に用いた有機EL素子。
【請求項5】
発光層に用いる発光材料としてリン光材料を用いた請求項3又は4記載の有機EL素子。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167046(P2012−167046A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28471(P2011−28471)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(394013644)ケミプロ化成株式会社 (63)
【Fターム(参考)】