説明

新規な芳香族重合体

【課題】比較的大きい溶解度等の好ましい特性を有する芳香族重合体を提供する。
【解決手段】式(IV)で表される縮合多環芳香族部分を2以上有する芳香族重合体:


(G、G、A〜Aは、結合、水素原子、特定の置換基であり、Bは、ベンゼン環部分を有する縮合環であり、Yはカルコゲンである)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な芳香族重合体に関する。また、本発明はこのような新規な芳香族重合体の合成及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体化合物は、有機薄膜トランジスタ(TFT)、有機キャリア輸送層、有機発光デバイス等のための有機半導体層への利用に関して、様々な研究がなされている。特に、有機半導体化合物からなる有機半導体層を有する薄膜トランジスタは、低コスト且つ軽量のデバイスとして、現在のシリコンベーストランジスタを代替することが期待されている。また、有機半導体層は、軽量で且つフレキシブルであること等、有機材料に特有の利点を活用することで、スマートタグ、軽量ディスプレイ等への応用も期待されている。
【0003】
したがって、有機半導体層を形成するための有機半導体化合物に関しては多くの研究がなされている(特許文献1〜5、並びに非特許文献1〜3)。
【0004】
これらの有機半導体化合物のなかでも、縮合多環芳香族化合物、特に下記の式で表されるジナフトチエノチオフェン(DNTT)、又はその置換体若しくは類似の構造を有する縮合多環芳香族化合物が、材料の安定性、キャリアの移動度の半導体特性等に関して好ましいことが分かってきている。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、縮合多環芳香族化合物は、芳香族性が強く、結晶性が高いことから、有機溶媒等への溶解性がきわめて低く、塗布法で用いることが困難であった。したがって、縮合多環芳香族化合物を用いて有機半導体膜を得る場合には、蒸着法によって、縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体薄膜を得ることが一般的であった。
【0007】
なお、上記のDNTTは、縮合環の数が少ないことによって有機溶媒に対するわずかな溶解性を有しているものの、それでもなお、産業的に溶液法で用いるのには充分な溶解性を達成していなかった(特許文献4)。
【0008】
また、ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェン(C8−BTBT)のように溶液法で用いるのに充分な溶解性を有する低分子有機半導体化合物も知られているが、このような低分子有機半導体化合物を用いる場合には、溶液プロセスから析出する結晶のサイズのバラツキが大きく、それによって得られる有機半導体膜の特性が不均一になる傾向があった。したがって、このような有機半導体膜を用いた素子では、薄膜トランジスタ(TFT)アレイを形成した場合に、素子間の特性にバラツキが生じることがあった。さらに、上記のような低分子有機半導体化合物を溶液法で用いる場合には、溶液の粘度が低く、したがって充分な厚さの有機半導体膜を得ること、及び疎水性表面上に半導体膜形成を得ることが容易ではなかった。
【0009】
なお、DNTTのような縮合多環芳香族化合物を塗布法で用いて有機半導体薄膜を得るために、溶解度が大きく且つ分解してこのような縮合多環芳香族化合物を生成する前駆体を用いることも提案されている(特許文献5、非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−89413号公報
【特許文献2】特開2008−290963号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/077888号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/050726号公報
【特許文献5】国際公開WO2011/024804号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“Facile Synthesis of Highly π−Extended Heteroarenes, Dinaphtho[2,3−b:2‘,3‘−f]chalcogenopheno[3,2−b]chalcogenophenes, and Their Application to Field−Effect Transistors”, Tatsuya Yamamoto, and Kazuo Takimiya, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129 (8), pp 2224−2225
【非特許文献2】H. Uno et a1., Photoprecursor for pentacene, Tetrahedron Letters, 2005, Vol.46, No.12, PP.1981−1983
【非特許文献3】WANG, Y. eta1, Synthesis, characterization, and reactionsof 6,13−disubstituted 2, 3, 9, 10−tetrakis(trimethylsily1)pentacene derivatives, Tetrahedron, 2007, Vo1. 63, No. 35, pp. 8586−8597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記記載のように、DNTTは、縮合環の数が少ないことによって有機溶媒に対するわずかな溶解性を有しているものの、それでもなお、産業的に溶液法で用いるのには充分な溶解性を達成していなかった(特許文献4)。
【0013】
また、充分な溶解性を有する低分子有機半導体化合物から溶液法で用いる場合にも、得られる有機半導体膜を用いた素子間の特性にバラツキが生じるという問題があった。さらに、このような低分子有機半導体化合物を溶液法で用いる場合にも、溶液の粘度が低く、したがって充分な厚さの有機半導体膜を得ること、及び疎水性表面上に半導体膜形成を形成することが容易ではないという問題があった。
【0014】
したがって本発明では、上記のような問題を少なくとも部分的に解消する芳香族重合体、並びにこのような新規な芳香族重合体の合成及び使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の発明者等は、DNTT類似の構造の縮合多環芳香族部分を2以上有する芳香族重合体によって、上記のような問題を少なくとも部分的に解消できることを見出して、本発明に想到した。
【0016】
本発明の芳香族重合体は、下記式(IV)で表される縮合多環芳香族部分を2以上有する:
【0017】
【化2】

【0018】
(G及びGは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつG及びGうちの少なくとも1つが結合であり、
Bは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつ隣接する2つが互いに結合して芳香族基を形成していてもよい)。
【0019】
本発明の芳香族重合体では、縮合多環芳香族部分が、中心部の縮合ヘテロ環に隣接するベンゼン環に結合等を有することによって、縮合多環芳香族部分が、比較的大きい溶解度を提供することができる。これは、縮合多環芳香族部分の中心部の縮合ヘテロ環に隣接するベンゼン環、すなわち縮合多環芳香族部分の中心に近い位置に結合等が存在することによって、この部分の結晶性が低下しており、それによって溶解度が大きくなること、この結合等の極性によってこの部分の極性が大きくなること等によると考えられる。
【0020】
なお、特許文献4の一般式は、縮合ベンゼン環の水素が置換されたDNTTについても包含しているものの、具体的には、中心部の縮合ヘテロ環から最も離れた位置が置換されたDNTTを開示しているのみであり、中心部の縮合ヘテロ環に隣接するベンゼン環が置換された態様については具体的に開示していない。また、特許文献4では、中心部の縮合ヘテロ環に隣接するベンゼン環が置換されたDNTTを合成する具体的な方法は開示していない。
【0021】
また、本発明は、本発明の芳香族重合体の合成方法及び使用方法等に関する。また、本発明は、本発明の芳香族重合体を含有している溶液、有機半導体膜、有機半導体デバイス等に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】参考例2で得られたTIPS2置換体DNTTについての単結晶構造解析に基づく分子構造ORTEP図である。
【図2】参考例2で得られたTIPS2置換DNTTについての結晶パッキング(ステレオ)図である。
【図3】参考例3で得られた有機半導体素子についてのFET特性の伝達特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(定義)
本明細書の記載においては、記載を簡潔にするために、「炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基」との記載を、「アルキル基等」として表すものとする。
【0024】
ここで、「炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基」は、炭素原子数1〜40のトリアルキルシリルアルキニル基、特に下記の式を有するトリアルキルシリルアルキニル基であってよい:
【0025】
【化3】

【0026】
(R〜Rは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、特にメチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基からなる群より選択される基)。
【0027】
本明細書の記載において、「カルコゲン」は、酸素、硫黄、セレン、テルル、及びポロニウム、特に硫黄、及びセレン、より特に硫黄を意味している。
【0028】
本明細書の記載において、「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、及びアスタチン、特に塩素、臭素、及びヨウ素、より特に臭素を意味している。
【0029】
本明細書の記載において、隣接する2つの基が互いに結合して形成されている「炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基」は、例えば下記の構造を有する置換又は非置換の芳香族基であってよい:
【0030】
【化4】

【0031】
本明細書の記載において、「求ジエン型アルケンがベンゼン環に付加した炭素原子数2〜20の置換基(D)」に関して、求ジエン型アルケンとしては、特許文献5を参照することができる。このような求ジエン型アルケンを縮合多環芳香族部分のベンゼン環に付加させる方法については、特許文献5を参照することができる。
【0032】
なお、特許文献5に記載のように、縮合多環芳香族部分のベンゼン環に付加したこのような求ジエン型アルケンは、縮合多環芳香族部分の結晶性を低下させることによって、このような縮合多環芳香族部分を有する本発明の芳香族重合体の溶解度を大きくすることができる。また、このような縮合多環芳香族部分を有する本発明の芳香族重合体を溶液法で用いて半導体膜を製造する場合、この部分を含有する溶液の塗膜を加熱することによって、溶液からの溶媒の除去と併せて、求ジエン型アルケンを脱離させて除去することができる。
【0033】
具体的には、「求ジエン型アルケンがベンゼン環に付加した炭素原子数2〜20の置換基(D)」は、例えば下記式(B−1a)及び(B−2a)、特に下記式(B−1b)及び(B−2b)、より特に下記式(B−1c)及び(B−2c)の化合物を挙げることができる:
【0034】
【化5】

【0035】
(R、R、R及びRはそれぞれ独立に、結合、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択され、
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、
nは、1〜5の整数であり、且つ
Zは、結合(−)、酸素(−O−)、メチレン性炭素(−C(R−)、エチレン性炭素(−C(R)=)、カルボニル基(−C(=O)−)、窒素(−N(R)−)、及び硫黄(−S−)からなる群より選択され、且つnが2又はそれよりも大きいときにはそれぞれ異なっていてもよい(Rはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される))。
【0036】
より具体的には、求ジエン型アルケンとしては、下記の式(B−1−1)〜(B−2−3)の化合物を挙げることができる:
【0037】
【化6】

【0038】
(R及びRはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される)。
【0039】
(芳香族重合体)
本発明の芳香族重合体は、下記式(IV)で表される縮合多環芳香族部分を2以上有する:
【0040】
【化7】

【0041】
(G及びGは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつG及びGうちの少なくとも1つが結合であり、
Bは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【0042】
ここで、縮合多環芳香族部分は、例えば下記式(IV−1)で表される:
【0043】
【化8】

【0044】
(G〜Gは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつG〜Gうちの少なくとも1つが結合であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【0045】
ここで、式(IV−1)の縮合多環芳香族部分では、例えば、G及びGが、結合であり、かつG及びGが、水素原子である。
【0046】
この式(IV−1)の縮合多環芳香族部分は、特に、下記式(IV−1−1)で表される部分であってよい:
【0047】
【化9】

【0048】
縮合多環芳香族部分は、例えば下記式(IV−2)で表される:
【0049】
【化10】

【0050】
(G及びGは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつG及びGうちの少なくとも1つが結合であり、
Dは、求ジエン型アルケンがベンゼン環に付加した炭素原子数2〜20の置換基であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【0051】
ここで、式(IV−2)の縮合多環芳香族部分では、例えば、G及びGがいずれも結合である。
【0052】
この式(IV−2)の縮合多環芳香族部分は、特に、下記式(IV−2−1)で表される化合物であってよい:
【0053】
【化11】

【0054】
(G及びGは、結合であり、かつRについては上記記載のとおりである)。
【0055】
本発明の芳香族重合体は例えば、下記式(V)の繰り返し単位を有する:
−{(T)−(Q)}− (V)
(Tは、上記縮合多環芳香族部分であり;かつ
は、結合、又は二価の基)。
【0056】
また、本発明の芳香族重合体は例えば、下記式(V−1)の繰り返し単位を有する:
【0057】
【化12】

【0058】
(G及びGは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよく、かつ
は、結合、又は二価の基)。
【0059】
なお、Qとしての結合は、隣接する単位と結合可能であれば特に限定されず、例えば、単結合、二重結合、三重結合のいずれであってもよい。
【0060】
また、Qとしての二価の基は、隣接する単位と結合可能であれば特に限定されず、例えば、酸素、窒素等のヘテロ原子を伴っていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基であり、特に炭素原子数1〜20のアルキレン基、炭素原子数2〜20のアルケニレン基、炭素原子数2〜20のアルキニレン基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の二価芳香族基、炭素原子数2〜10の二価ケトン基、炭素原子数1〜20の二価アミノ基、炭素原子数1〜20の二価アミド基、炭素原子数1〜20の二価イミド基、炭素原子数1〜20の二価スルフィド基、及び炭素原子数1〜40の二価アルキルシリルアルキニル基からなる群より選択することができる。
【0061】
本発明の芳香族重合体は例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で得られる分子量が、1,000以上、2,000以上、3,000以上、4,000以上、又は5,000以上でよい。また、本発明の芳香族重合体は例えば、GPCによりポリスチレン換算で得られる分子量が、500,000以下、100,000以下、100,000以下、50,000以下、30,000以下でよい。
【0062】
(合成方法)
本発明の芳香族重合体を合成する方法は、下記の工程を含む:
【0063】
(a)有機溶媒、及び下記式(II)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する組成物を提供するステップ:
【0064】
【化13】

【0065】
(X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつX及びXうちの少なくとも1つがハロゲン原子であり、
Bは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい);
【0066】
(b)X及びXうちの少なくとも1つのハロゲン原子を置換可能な部分を2以上有する結合化合物を、上記組成物に添加して、2以上の上記縮合多環芳香族化合物を互いに結合させるステップ。
【0067】
工程(b)で用いられる結合化合物のハロゲン原子を置換可能な部分、すなわち芳香族ハロゲン化物のハロゲンを置換可能な部分としては、様々な部分が知られている。このような部分を用いる反応としては、溝呂木・ヘック反応、根岸カップリング、右田・小杉・スティルカップリング、薗頭カップリング、鈴木・宮浦カップリング、ブッフバルト・ハートウィッグ反応、熊田・玉尾・コリューカップリング等のカップリング反応が知られている。このカップリング反応を促進するために、加熱を行ってもよい。
【0068】
それぞれのカップリング反応の概略は下記のとおりである(Arは芳香族部分、Xはハロゲン、Rは水素、アルキル基等):
(1)溝呂木・ヘック反応
Ar−X + HC=CHR (+ Pd触媒) → Ar−HC=CHR
(2)根岸カップリング
Ar−X + R−Zn−X (+ Pd触媒) → Ar−R
(3)右田・小杉・スティルカップリング
Ar−X + R−Sn−R’ (+ Pd触媒) → Ar−R
(4)薗頭カップリング
Ar−X + R−C≡C−H (+ Pd触媒) + 塩基 → Ar−C≡C−R
(5)鈴木・宮浦カップリング
Ar−X + R−B(OH) (+ Pd触媒) + 塩基 → Ar−R
(6)ブッフバルト・ハートウィッグ反応
Ar−X + R−NH (+ Pd触媒) + 塩基 → Ar−NHR
(7)熊田・玉尾・コリューカップリング
Ar−X + R−Mg−X (+ Ni触媒) → Ar−R
【0069】
ここで用いることができる有機溶媒としては、式(II)で表される縮合多環芳香族化合物を溶解及び/又は分散させることができる任意の有機溶媒を挙げることができる。具体的には、この有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1、4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン(すなわち1,3,5‐トリメチルベンゼン)等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;及びジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒を考慮することができる。
【0070】
式(II)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する組成物への結合化合物の添加は、任意の方法で行うことができ、例えば結合化合物をそのまま添加すること、結合化合物を予め有機溶媒で希釈した上で添加すること等ができる。また、式(II)で表される化合物と結合化合物との反応を促進するために、加熱を行ってもよい。
【0071】
上記式(II)の化合物は、例えば下記式(II−1)で表される:
【0072】
【化14】

【0073】
(X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつX〜Xうちの少なくとも1つがハロゲン原子であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【0074】
上記式(II−1)の化合物では例えば、X及びXが、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつX及びXうちの少なくとも1つが、ハロゲン原子であり;かつX及びXが、水素原子である。
【0075】
上記式(II)の化合物は特に、下記式(II−1−1)で表される:
【0076】
【化15】

【0077】
上記式(II)の化合物は、例えば下記式(II−2)で表される:
【0078】
【化16】

【0079】
(X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつX及びXうちの少なくとも1つがハロゲン原子であり、
Dは、求ジエン型アルケンがベンゼン環に付加した炭素原子数2〜20の置換基であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【0080】
ここで、式(II−2)の化合物では、例えば、X及びXがいずれもハロゲン原子である。
【0081】
この式(II−2−1)の化合物は、特に、下記式(I−2−1)で表される化合物であってよい:
【0082】
【化17】

【0083】
(Rについては上記記載のとおりである)。
【0084】
式(I)、特に式(I−1)又は(I−2)の化合物では、A、A、A及びAが、特にA〜Aが水素原子であってよい。また、式(I)、特に式(I−1)又は(I−2)の化合物では、Yが、硫黄原子であってよい。
【0085】
(芳香族重合体含有溶液)
本発明の芳香族重合体含有溶液は、有機溶媒、及びこの有機溶媒に少なくとも部分的に溶解している本発明の芳香族重合体を含有している。
【0086】
この芳香族重合体含有溶液は、任意の濃度で本発明の芳香族重合体を含有することができ、例えば本発明の芳香族重合体を、0.01〜10質量%、0.05〜5質量%、0.1〜3質量%の濃度で含有することができる。
【0087】
ここで用いることができる有機溶媒としては、本発明の芳香族重合体を劣化させずかつ溶解することができる任意の有機溶媒を挙げることができる。具体的には、この有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1、4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン(すなわち1,3,5‐トリメチルベンゼン)等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;及びジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒を考慮することができる。
【0088】
(有機半導体膜の製造方法)
有機半導体膜を製造する本発明の方法は、本発明の芳香族重合体含有溶液を基材に塗布するステップ、及び基材に塗布された上記溶液から有機溶媒を除去するステップを含む。
【0089】
溶液の基材への塗布は、任意の様式で行うことができ、例えばキャスト法、スピンコート法、プリント法等によって行うこと等ができる。また、溶液の基材への塗布は、単に溶液を基材に滴下して行うこともできる。
【0090】
溶液から有機溶媒の除去は、塗布ステップと同時に行われるようにしてもよい。
【0091】
溶液から有機溶媒の除去は、加熱によって促進することもできる。この場合、本発明の芳香族重合体を実質的に分解させない任意の温度、例えば80℃以上、100℃以上、120℃以上、又は140℃以上であって、200℃以下、220℃以下、240℃以下、260℃以下の温度で加熱を行うことができる。このような加熱は例えば、溶液を塗布された基材を、加熱された電気ヒーター等の加熱された物体に直接に接触させること、加熱された炉等の加熱された領域に導入すること、赤外線、マイクロ波等の電磁波で照射すること等によって達成できる。
【0092】
なお、付加化合物を脱離させて有機半導体膜を構成することを意図している本発明の芳香族重合体、例えば例えば式(IV−2)の芳香族重合体では、有機溶媒を除去するのと併せて、Dで表される置換基を脱離させて除去することができる。この脱離反応は加熱によって促進することができる。
【0093】
(有機半導体デバイスの製造方法)
有機半導体デバイスを製造する本発明の方法は、有機半導体膜を製造する本発明の方法によって有機半導体膜を製造するステップを含む。
【0094】
またこの方法は随意に、有機半導体膜の上側又は下側に、電極層及び/又は誘電体層を形成するステップを更に含むことができる。
【0095】
(有機半導体デバイス)
第1の本発明の有機半導体デバイスは、本発明の芳香族重合体を含有する有機半導体膜を有する。
【0096】
ここで、有機半導体膜が本発明の芳香族重合体を含有していることは、有機半導体膜が少なくとも検知可能な量で、本発明の芳香族重合体を含有していることを意味する。
【0097】
したがって例えば、そのままの形で有機半導体膜を構成することを意図している本発明の芳香族重合体、例えば式(IV−1)の芳香族重合体では、この芳香族重合体が有機半導体の実質的な部分を構成しており、すなわち有機半導体膜が実質的に本発明の芳香族重合体から構成されている。
【0098】
特に本発明の有機半導体デバイスは、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、ゲート絶縁膜、及び有機半導体膜を有する薄膜トランジスタであって、ゲート絶縁膜によってソース電極及びドレイン電極とゲート電極とを絶縁し、且つゲート電極に印加される電圧によってソース電極からドレイン電極へと有機半導体を通って流れる電流を制御する薄膜トランジスタである。また特に本発明の有機半導体デバイスは、有機半導体膜を活性層として有する太陽電池である。なお、本発明に関して、「有機半導体デバイス」は、有機半導体膜を有するデバイスを意味しており、電極層、誘電体層等の他の層は、無機材料で作られていても、有機材料で作られていてもよい。
【実施例】
【0099】
以下の例において、目的化合物の構造は、必要に応じて、1H核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル)、質量分析スペクトル(MS)、及び単結晶構造解析により決定した。
【0100】
使用した機器は以下のとおりである。
H−NMR: JEOL ECA−500 (500MHz)
MS: Bruker AutoflexIII (MALDI)
単結晶構造解析: Rigaku RAXIS RAPIDS
GPC:日本分析工業株式会社製のLC−9101 カラム:JAIGEL−6H、JAIGEL−5H
【0101】
〈参考例1〉
特許文献2(特開2008−290963号公報(日本化薬株式会社、広島大学))に示される手法により、ジナフトチエノチオフェン(DNTT(Dinaphthothienothiophene))(下記構造式、MW=340.46)を合成した。
【0102】
【化18】

【0103】
上記のDNTT1,000mg(2.93mmol)を含有するメシチレン(すなわち1,3,5トリメチルベンゼン)100mLに、臭素(Br、MW=159.8)2341mg(14.65mmol)を加え、反応温度を40℃に4時間保ち、その後、放冷して、臭素2置換ジナフトチエノチオフェン(Br2置換DNTT)(下記構造式、Mw=498.25、1431mg、2.87mmol、収率98.1%)を得た。尚、反応物は、クロロホルムにより精製した。
【0104】
【化19】

【0105】
なお、Br2置換DNTTにおける臭素の置換位置は、参考例2におけるTIPS2置換DNTTの単結晶構造解析によるトリイソプロピルシリル(TIPS)基の位置により判定した。
【0106】
得られたBr2置換DNTTについてのH−NMR及びMS結果を下記に示す。
【0107】
H−NMR(500MHz,CDCl3,50℃): δ8.47(d,J=8.3Hz,2H),8.44(s,2H),7.97(d,J=8.3Hz,2H),7.66(t,J=8.3Hz,2H),7.59(t,J=8.3Hz,2H)
【0108】
MS(m/z): 497.513(ポジティブイオン観測)(ExactMass:495.86)
【0109】
〈参考例2〉
参考例1により合成したBr2置換DNTTに対して、薗頭カップリング法により、トリイソプロピルシリル(TIPS)基の導入を行った。
【0110】
具体的には、Br2置換DNTT(Mw=498.25)500mg(1.0mmol)に対して、Pd(PPhCl(Mw=701.90)191.3mg、CuI(Mw=190.45)134.1mg、ジイソプロピルアミン(Mw=101.20)0.706mL、CsCO(Mw=325.82)791.6mg、トリイソプロピルシリルアセチレン(Mw=182.38)1.698mLを加え、減圧脱気と窒素置換を3回行った後、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N−DMF)35mLを導入し、減圧脱気と窒素置換を再度3回行い、120℃で20時間にわったって攪拌して反応を行わせた。
【0111】
これにより、トリイソプロピルシリルアセチレン2置換ジナフトチエノチオフェン(TIPS2置換DNTT、下記構造式)(Mw=701.19)479.1mg(68.3mmol、収率68.0%)を得た。得られたTIPS2置換DNTTのクロロホルムへの溶解度は、0.2wt%であった。なお、原料として用いられたDNTTは、クロロホルムに対しては実質的に溶解しなかった。
【0112】
【化20】

【0113】
得られたTIPS2置換DNTTについてのH−NMR及びMS結果を下記に示す。
【0114】
H−NMR(500MHz,CDCl): δ8.61(d,J=8.0Hz,2H),8.41(s,2H),7.97(d,J=8.0Hz,2H),7.63(dd,J=8.0Hz,8.0Hz2H), 7.57(dd,J=8.0Hz,8.0Hz,2H),1.40〜1.47(m,6H),1.34(d,J=6.9Hz,36H)
【0115】
MS(m/z): 700.3(ExactMass:700.30)
【0116】
得られたTIPS2置換DNTTについての単結晶構造解析結果を下記に示す。
【0117】
a=8.2044(5)Å
b=8.4591(6)Å
c=14.488(1)Å
α=88.475(4)°
β=89.336(3)°
γ=89.555(4)°
V=1005.1(1)Å
【0118】
また、このTIPS2置換DNTT体についての単結晶構造解析に基づく分子構造ORTEP(Oak Ridge Thermal Ellipsoid Plot)図及び結晶パッキング(ステレオ)図を、それぞれ図1及び2に示す。
【0119】
〈参考例3〉
参考例2で得られたTIPS2置換DNTT(Mw=701.19)を、0.2wt%の濃度でクロロホルムに溶解させ、半導体素子作製用溶液を調整した。
【0120】
次に、300nmのSiO酸化膜付nドープシリコンウェハー(面抵抗1−10Ω・cm)に対して、UV−オゾン処理20分(アイUV−オゾン洗浄装置OC−250615−D+A、アイグラフィックス株式会社)を行った。また、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン((HMDS)1,1,1,3,3,3−hexamethyldisilazane)10mmol/トルエン溶液を調整して、この溶液中に、UVオゾン処理を行ったシリコン基板を24時間にわたって浸漬させて、シリコン基板の疎水化処理を行った。その後、真空蒸着法(サンユー電子、抵抗加熱方式蒸着装置:SVC−700TM/700−2)によって、チャネル幅50μm及びチャネル長1.5mmのソース/ドレイン金電極を作製した。
【0121】
シリコン基板を40℃に加熱しながら、チャネル部分に、半導体素子作成用溶液を滴下して溶媒を揮発させ、TIPS2置換DNTTからなる薄層を形成した。このようにして作製した素子を、真空下において70℃で1時間にわたって加熱処理することにより、クロロホルム溶媒を乾燥除去して、有機半導体素子を作製した。
【0122】
得られた有機半導体素子の有機半導体特性の測定を行ったところ、p型半導体を示した。また、この有機半導体素子は、キャリア移動度が1×10−3cm/Vsであり、オン/オフ比が10であり、かつ閾値電圧が−26Vであった。この有機半導体素子についてのFET特性の伝達特性を、図3に示す。ここで、図3では、ドレイン電圧(V)が−80Vのときの、ドレイン電流(I(A)又はI1/2(A1/2))(縦軸)とゲート電圧(V(V))(横軸)との関係を示している。
【0123】
〈参考例4〉
参考例1と同様にして、ジナフトチエノチオフェン(DNTT(Dinaphthothienothiophene))(MW=340.46)を合成した。
【0124】
上記のDNTT5,000mg(14.65mmol)を含有するメシチレン(すなわち1,3,5トリメチルベンゼン)500mLに、N−フェニルマレイミド(MW=173.17)12.68g(73.25mmol)を加え、反応温度を160℃に4時間保ち、その後、放冷し、分取精製して、DNTTにN−フェニルマレイミドが1つ付加したジナフトチエノチオフェン−N−フェニルマレイミド1付加体(DNTT−PMI1付加体、立体異性体であるEndo体及びExo体の混合物)(下記構造式、Mw=513.63)、376mg(0.73mmol、収率4.9%)を得た。尚、反応物は、HPLCにより立体異性体を分取し、Endo体132mg、及びExo体151mgを得た。
【0125】
【化21】

【0126】
【化22】

【0127】
上記のDNTT−PMI1付加体(Exo体)151mg(0.29mmol)を含有するメシチレン50mLに、臭素(Br、MW=159.8)235mg(1.47mmol)を加え、反応温度を40℃に1時間保ち、その後、放冷して、臭素2置換ジナフトチエノチオフェン−N−フェニルマレイミド1付加体(Br2置換DNTT−PMI1付加体)(下記構造式、Mw=673.44)186mg(0.276mmol、収率95.2%)を得た。
【0128】
【化23】

【0129】
得られたBr2置換DNTT−1PMI付加体についてのH−NMR及びMS結果を下記に示す。
【0130】
H−NMR(500MHz,CDCl): δ8.39(d,J=7.7Hz,1H),8.29(d,J=7.7Hz,1H),7.67(dd,J=7.7Hz,1H),7.64(dd,J=7.7Hz,1H),7.41〜7.44(m,2H),7.31〜7.32(m,3H),7.27〜7.29(m,2H),6.52〜6.54(m,2H),5.25(d,J=3.2Hz,1H),5.23(d,J=3.2Hz,1H),3.59(dd,J=3.2Hz,8.3Hz,1H),3.55(dd,J=3.2Hz,8.3Hz,1H)
【0131】
MS(m/z): 497.513(ExactMass:670.92)
【0132】
なお、MSでは、Br2置換DNTT−PMI1付加体からN−フェニルマレイミドが脱離したBr2置換DNTT(ExactMass:497.86)が観測されたことが推定される。
【0133】
〈参考例5〉
参考例4により合成したBr2置換DNTT−PMI1付加体に対して、薗頭カップリング法により、トリイソプロピルシリル(TIPS)基の導入を行った。
【0134】
具体的には、Br2置換DNTT−PMI1付加体(Mw=673.44)100mg(0.148mmol)に対して、Pd(PPhCl(Mw=701.90)28.1mg、CuI(Mw=190.45)20.0mg、ジイソプロピルアミン(Mw=101.20)0.11mL、トリイソプロピルシリルアセチレン(Mw=182.38)0.1mLを加え、減圧脱気と窒素置換を3回行った後、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N−DMF)7mLを導入し、減圧脱気と窒素置換を再度3回行い、120℃で20時間にわったって攪拌して反応を行わせた。
【0135】
これにより、トリイソプロピルシリルアセチレン2置換ジナフトチエノチオフェン−フェニルマレイミド1付加体(exo体)(TIPS2置換DNTT−PMI1付加体(exo体))(下記構造式、Mw=876.37)74.9mg(85.4mmol、収率57.7%)を得た。
【0136】
【化24】

【0137】
得られたTIPS2置換DNTT−PMI1付加体(exo体)についてのH−NMR及びMS結果を下記に示す。
【0138】
H−NMR(500MHz,CDCl): δ8.52〜8.54(m,1H),8.43〜8.45(m,1H),7.60〜7.64(m,2H),7.43〜7.46(m,2H),7.31〜7.33(m,3H),7.25〜7.29(m,2H),6.52〜6.54(m,2H),5.29(d,J=3.4Hz,1H),5.21(d,J=3.4Hz,1H),3.62(dd,J=3.4Hz,8.3Hz,1H),3.56(dd,J=3.4Hz,8.3Hz,1H),1.36〜1.43(m,6H),1.31(d,J=2.9Hz,12H),1.30(d,J=4.0Hz,24H)
【0139】
MS(m/z): 873.078(Exact Mass:875.37)
【0140】
〈実施例1〉
参考例1により合成したBr2置換DNTTに対して、薗頭カップリング法により、1,6−ヘプタジインを反応させ、DNTTのポリマー化を行った。
【0141】
具体的には、Br2置換DNTT(Mw=498.25)200mg(0.41mmol)に対して、Pd(PPhCl(Mw=701.90)110mg(0.15mmol)、CuI(Mw=190.45)60mg(0.31mmol)、CsCO(Mw=325.8)170mg(0.53mmol)を添加して、減圧脱気と窒素置換を5回行った。次に、ジイソプロピルアミン(Mw=101.2,d=0.72g/cm)0.14ml(1.00mmol)、ジメチルホルムアミド14ml、1,6−ヘプタジイン(Mw=92.14,d=0.81g/cm)0.20ml(1.70mmol)を添加し、減圧脱気と窒素置換を再度5回行い、120℃で12時間にわたり攪拌して反応を行わせた。
【0142】
これにより、1,6−ヘプタジイン結合ジナフトチエノチオフェン重合体(下記構造式)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の分子量は、5,000以上(ポリスチレン換算)であった。得られた重合体のクロロホルムへの溶解度は、0.1wt%以上であった。なお、原料として用いられたDNTTは、クロロホルムに対しては実質的に溶解しなかった。
【0143】
【化25】

1,6−ヘプタジイン結合ジナフトチエノチオフェン重合体(R=C
【0144】
〈実施例2〉
参考例1により合成したBr2置換DNTTに対して、薗頭カップリング法により、1,9−デカジインと反応させ、DNTTのポリマー化を行った。
【0145】
具体的には、Br2置換DNTT(Mw=498.25)200mg(0.41mmol)に対して、Pd(PPhCl(Mw=701.90)100mg(0.14mmol)、CuI(Mw=190.45)60mg(0.31mmol)、CsCO(Mw=325.8)170mg(0.53mmol)を添加して、減圧脱気と窒素置換を5回行った。次に、ジイソプロピルアミン(Mw=101.2,d=0.72g/cm)0.14ml(1.00mmol)、ジメチルホルムアミド14ml、1,9−デカジイン(Mw=134.22,d=0.82g/cm)0.28ml(1.70mmol)を添加し、減圧脱気と窒素置換を再度5回行い、120℃で12時間にわたり攪拌して反応を行った。
【0146】
これにより、1,9−デカジイン結合ジナフトチエノチオフェン重合体(下記構造式)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の分子量は、5,000以上(ポリスチレン換算)であった。得られた重合体のクロロホルムへの溶解度は、0.1wt%以上であった。
【0147】
【化26】

1,6−ヘプタジイン結合ジナフトチエノチオフェン重合体(R=C1014

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(IV)で表される縮合多環芳香族部分を2以上有する芳香族重合体:
【化1】

(G及びGは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつG及びGうちの少なくとも1つが結合であり、
Bは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【請求項2】
前記縮合多環芳香族部分が、下記式(IV−1)で表される、請求項1に記載の化合物:
【化2】

(G〜Gは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつG〜Gうちの少なくとも1つが結合であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【請求項3】
及びGが、結合であり、かつG及びGが、水素原子である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記縮合多環芳香族部分が、下記式(IV−1−1)で表される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体:
【化3】

(G及びGは、結合)。
【請求項5】
下記式(V)の繰り返し単位を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の芳香族重合体:
−{(T)−(Q)}− (V)
(Tは、前記縮合多環芳香族部分であり;かつ
は、結合、又は二価の基)。
【請求項6】
下記式(V−1)の繰り返し単位を有する、請求項1に記載の芳香族重合体:
【化4】

(G及びGは、それぞれ独立に、結合、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよく、かつ
は、結合、又は二価の基)。
【請求項7】
分子量が、1,000以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項8】
(a)有機溶媒、及び下記式(II)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する組成物を提供するステップ:
【化5】

(X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつX及びXうちの少なくとも1つがハロゲン原子であり、
Bは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい);
(b)X及びXうちの少なくとも1のハロゲン原子を置換可能な部分を2以上有する結合化合物を、前記組成物に添加して、2以上の前記縮合多環芳香族化合物を互いに結合させるステップ、
を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の芳香族重合体の合成方法。
【請求項9】
工程(b)の反応を、溝呂木・ヘック反応、根岸カップリング、右田・小杉・スティルカップリング、薗頭カップリング、鈴木・宮浦カップリング、ブッフバルト・ハートウィッグ反応、熊田・玉尾・コリューカップリングからなる群より選択されるカップリング反応によって達成する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記縮合多環芳香族化合物が、下記式(II−1)で表される、請求項8又は9に記載の方法:
【化6】

(X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつX〜Xうちの少なくとも1つがハロゲン原子であり、
Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択され、かつ
〜Aは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつA〜Aのうちの隣接する2つが、互いに結合して炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基を形成していてもよい)。
【請求項11】
及びXが、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、炭素原子数1〜20のスルフィド基、及び炭素原子数1〜40のアルキルシリルアルキニル基からなる群より選択され、かつX及びXうちの少なくとも1つが、ハロゲン原子であり、かつ
及びXが、水素原子である、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記縮合多環芳香族化合物が、下記式(II−1−1)で表される、請求項11に記載の方法:
【化7】

【請求項13】
有機溶媒、及び前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解している請求項1〜7のいずれか一項に記載の芳香族重合体を含有する、芳香族重合体含有溶液。
【請求項14】
請求項13に記載の溶液を基材に塗布するステップ、
基材に塗布された前記溶液から前記有機溶媒を除去するステップ、
を含む、有機半導体膜の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって有機半導体膜を製造するステップを含む、有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の重合体を含有する有機半導体膜を有する、有機半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−82781(P2013−82781A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222355(P2011−222355)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】