説明

新規な製品

【課題】超非付着性のナノ被膜を表面に有する実験用消耗品を提供する。
【解決手段】実験用消耗品を式(I)


[式中R1、R2及びR3は独立に水素、アルキル、ハロアルキル又は場合によりハロ置換されたアリールより選択され、また、R4はX-R5基であり、式中R5はアルキル又はハロアルキル基であり、また、Xは結合、式-C(O)O(CH2)nY-で示される基(式中nは1ないし10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である)、又は-(O)pR6(O)q(CH2)t-基(式中R6は場合によりハロ置換されたアリールであり、pは0又は1、qは0又は1であり、また、tは0ないし10の整数であり、ただしqが1ならばtは0以外である)である。]で示される化合物を含んでなるパルスプラズマに、該消耗品の表面を暴露することによって形成される高分子被膜を有する実験用消耗品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面への試薬の付着、残留を防止するよう処理した実験用消耗品の形での新規な製品並びにその生造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実験用機器及び特に実験用消耗品は、その表面への試薬やサンプルの付着、残留を防ぐ意味で、試薬又はサンプル付着性が可能な限り低いことが要求される。特に、研究又は分析特に医学又は法医学診断などのために行われる生化学及び化学反応ではしばしばごく少量のサンプル又は試薬が使用される。そうしたサンプル又は試薬が取り扱いに際して直接接触する実験用機器の表面にかなり高い比率で付着、残留するとしたら、相当の影響が結果に及びかねない。また、試薬はきわめて高価なものも多いため、こうした形での試薬の浪費による経済的影響もある。
【0003】
この問題に対処するため種々の試みがなされてきた。残留を少なくするための、ピペットチップの生産に使用されるような超平滑表面又は固体材料の創製を狙いとした方法が例として挙げられる。またピペットチップの高分子浸漬コーティングで移行する添加剤を撥液剤に添加することを狙いとした方法も例として挙げられる。
【0004】
プラズマ堆積技術は種々の表面特に布帛表面に高分子被膜を堆積させる方法として大いに普及してきた。この技術は、通常の湿式化学法と比べて廃棄物をほとんど発生させないクリーンな乾式法として評価されている。この方法では、電場に置いた有機分子からプラズマを発生させる。基材の存在下にこれを行うと、プラズマ中の化合物のラジカルが基材上で重合する。通常の高分子合成法ではモノマー種に酷似する繰り返し単位を含む化学構造が生成しやすいが、プラズマを使用して生成される高分子網目はきわめて複雑なものになることもある。得られる被膜の特性は基材の性質や使用モノマーの性質、堆積条件などに依存する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、特定のタイプのモノマーを特定の堆積条件下で使用すれば、超非付着性のナノ被膜を表面に有する実験用消耗品が生産可能であることを見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、実験用消耗品を式(I)
【化1】

【0007】
[式中R1、R2及びR3は独立に水素、アルキル、ハロアルキル又は場合によりハロ置換されたアリールより選択され、またR4はX-R5基(式中R5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合である)であるか、式-C(O)O(CH2)nY-で示される基(式中nは1ないし10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である)であるか、又は-(O)pR6(O)q(CH2)t-基(式中R6は場合によりハロ置換されたアリールであり、pは0又は1、qは0又は1であり、また、tは0であるか又は1ないし10の整数であり、ただしqが1ならばtは0以外である)である。]
で示される化合物を含んでなるパルスプラズマに、該消耗品の表面上に高分子層を堆積させるに足る時間にわたり、暴露することによって形成される高分子被膜を有する実験用消耗品が提供される。
【0008】
この高分子層は実験用消耗品の表面を改質するが、特にその撥油撥水性を高め、場合により超非付着性にする。
【0009】
「気相状態の」という表現は本明細書では、単体又は混合体の気体又は蒸気、それにエアロゾルをいう。
【0010】
用語「実験用消耗品」は本明細書では、病院や研究所などの医療環境での使用を含めた通常の実験室での使用に際して液体試薬、極性及び無極性溶媒又はサンプルと接触する任意の機器をいう。一般にその種の機器は単回使用の使い捨て器具であろうが、ある種の洗浄又は清浄処理後などに繰り返し使用されるものもあろう。
【0011】
実験用消耗品の具体例はピペットチップ、ろ過膜、マイクロプレート(96穴プレートを含む)、イムノアッセイ用製品(側方流動装置など)、遠心管(微量遠心管を含む)、マイクロチューブ、試料管、試験管、採血管、平底チューブ、無菌製造容器、一般実験機器、ビュレット、キュベット、針、皮下注射器、サンプル用バイアル/瓶、ねじ口容器、計量瓶などである。これらは多用な素材たとえば熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ポリオレフィン、アセタール、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、炭化水素又はフッ化炭素たとえばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP又はTPX(登録商標))、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオキシメチレン(POM)、ナイロン(PA6)、ポリカーボネート(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシ(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)及びガラスなどから製造することができる。
【0012】
特定の実施形態では、実験用消耗品はピペットチップである。前記の方法を用いることにより、非常に有利なピペットチップが生産された。特に、この方法を用いることの主要な特長、利点として、ピペットチップの内外両面が被膜で覆われ、改質されるため、全表面への付着をずっと少なくし、液体の浪費を抑えサンプルの回収を最大化することが可能になる。
【0013】
この方法で処理した実験用消耗品は撥水撥油性のほか耐目詰まり性をも有する。また有用な「振り切り乾燥」特性も備えるため、洗浄後の汚染リスクが小さくなる。
【0014】
さらに、改質物質又は層は表面に分子的に結合するため溶出物がまったくなく、改質層は装置の一部分と化す。被膜を施したピペットチップの表面は表面エネルギーがポリプロピレンよりもずっと小さいため、物質の付着が少なくなろう。その結果、使用ピペットチップへの液体の残留は(写真で示すように)ほとんど解消される。すなわち、これらのピペットチップを使用すれば、得られる結果は正確性と信頼性が高まること、また試薬コストが場合によっては10%余りも下げられることを意味する。
【0015】
同様の有利性は、特定の少量サンプル又は試薬を取り扱うために使用する他の実験用消耗品たとえばマイクロプレート(96穴プレートを含む)、遠心管(微量遠心管を含む)及びマイクロチューブなどでも期待される。
【0016】
針や注射器が内部への液体の残留をほぼ一掃するように製造しうるというのは、物質特に薬物などの正確な投与が確実に行えることを意味し、大きな強みとなる。
本発明の表面改質が大いにプラスとなる別種の実験用消耗品は膜である。これにはろ過膜として使用されるものやイムノアッセイ装置に使用されるものなどがある。これらの膜は多孔質材料を素材とする。素材の細孔は液体を通過させる必要がある。ろ過膜の場合、特定の粒径を超える粒子は膜表面上に保持される。イムノアッセイに使用される膜の場合、膜の細孔は液体と金又はラテックス粒子などのような小粒子を通過させる必要がある。これらの膜はこうした機能を果たしうるものの、一般に、液体吸収性の材料たとえばセルロースを素材とする。これは、使用中に飽和状態になるため、相当量の液体が膜内に残留することを意味し、ごく少量の液体が使用される場合には問題となる。
【0017】
本発明に従って処理した膜は、表面に堆積させた被膜が分子数個分の厚さしかないので、多孔性を維持する。そのため、液体さらには小粒子さえも、特に液体に正圧をかけるか膜の反対側に負圧をかけると、処理前と同様に膜を通過する。しかし、もっと大きな粒子は通過しない。とは言え、液体は膜の素材に付着しない、あるいは吸収されないため、ほぼ全量が膜を通過しよう。
【0018】
プラズマ重合が効率的に起こる厳密な条件は高分子の性質、実験用消耗品の性質などの因子に応じて異なるが、通常の方法、技術を用いて求められよう。
【0019】
本発明の方法に用いる好適なプラズマは非平衡プラズマたとえば高周波(Rf)、マイクロ波又は直流電流(DC)で生成させるプラズマなどを含む。プラズマが働く圧力は公知のように大気圧でも減圧でもよい。しかし、プラズマは特に高周波(Rf)で生成させる。
【0020】
気相プラズマの生成には種々のタイプの装置が使用しうる。そうした装置は一般に、そのなかでプラズマを生成させる容器すなわちプラズマ室を具備する。そうした装置の具体例はたとえばその内容を本明細書の一部として援用する国際公開WO2005/089961号及びWO02/28548号パンフレットで開示されているが、他にも数多くの、通常のプラズマ生成装置が利用可能である。
【0021】
一般に、処理対象品をプラズマ室内に、気相状態で堆積させる物質と共に置き、プラズマ室内にグロー放電を起こし、適当な電圧を印加するが、電圧はパルス状でもよい。
【0022】
プラズマ室内の使用気体はモノマー化合物単体の蒸気を含んでもよいが、キャリアガス特にヘリウム又はアルゴンなどの不活性ガスとの混合体でもよい。特にヘリウムは、モノマーの断片化を最小限に抑えられるため、キャリアガスとして好ましい。
【0023】
混合体として使用するとき、好適には、キャリアガスに対するモノマー蒸気の相対量は常法に従って求める。モノマー添加量は使用する特定モノマーの性質、処理対象の実験用消耗品の性質、プラズマ室の大きさなどにある程度左右されよう。一般に通常のプラズマ室の場合には、モノマー導入量は毎分50〜250mgたとえば毎分100〜150mgである。ヘリウムなどのキャリアガスは好適には定流量たとえば5〜90sccm(立方センチメートル毎分)特に15〜30sccmの流量で導入する。場合によっては、キャリアガスに対するモノマーの比は100:1ないし1:100の範囲内たとえば10:1ないし1:100の範囲内である。その厳密な比はプロセスの要求流量が確実に実現されるように定める。
【0024】
あるいはモノマーは、たとえばその内容を本明細書の一部として援用する国際公開WO2003/097245号及びWO03/101621号パンフレットで開示されている要領で、ネブライザーなどのエアロゾル装置を使用してプラズマ室に導入してもよい。
【0025】
場合により、プラズマ室内に予備的な連続プラズマをたとえば2〜10分間たとえば約4分間発生させてもよい。これは、モノマーを表面に付着させやすくし、重合の進行に伴い被膜を表面上に「成長」させるようにするための、表面前処理工程としての意味をもつ。この前処理工程はモノマーをプラズマ室に導入する前に、不活性ガスだけの存在下に行ってもよい。
【0026】
次いで好適には、プラズマをパルスプラズマに切り換えて、少なくともモノマーが存在するときに、重合を進行させるようにする。
【0027】
いずれの場合も、グロー放電は好適にはたとえば13.56MHzの高周波電圧を印加して点火する。高周波電圧は好適には電極を使用して印加する。電極はプラズマ室内部、外部いずれの電極でもよいが、プラズマ室が比較的大きい場合には内部電極とする。
【0028】
気体、蒸気、混合気体又はエアロゾルは好適には少なくとも1sccmの流量で、好ましくは1〜100sccmの範囲内の流量で、導入する。
【0029】
モノマー蒸気は好適には、パルス電圧を印加しながら、モノマーの性質に応じて毎分80〜300mgたとえば毎分約120mgの流量で導入する。
【0030】
気体又は蒸気はプラズマ領域内に引き込ませてもポンプで送り込んでもよい。特に、プラズマ室を使用するときは、排気ポンプを使用してプラズマ室を減圧し、気体又は蒸気をプラズマ室内に引き込ませるのもよいし、液体の場合と同様にプラズマ室内にポンプで送り込む又は噴射するのもよい。
【0031】
重合は好適には、0.1〜200mtorr好適には約80〜100mtorrの圧力に維持した式(I)で示される化合物の蒸気を使用して行う。
【0032】
印加場は好適には電力レベルが40〜500W、好適にはピーク電力レベルが約100Wであり、パルス場として印加される。パルスの印加は、平均電力をごく低くするようなシーケンスで、たとえばオン時間:オフ時間比が1:500ないし1:1500の範囲内に収まるようなシーケンスで行う。そうしたシーケンスの具体例は、オン時間が20〜50μsたとえば約30μsであり、オフ時間が1000〜30000μs特に約20000μsであるようなシーケンスである。こうして得られる一般的な平均電力は0.01Wである。
【0033】
パルス場印加時間は、式(I)で示される化合物及び実験用消耗品の性質にもよるが、好適には30秒〜90分、好ましくは5〜60分である。
【0034】
使用プラズマ室は好適には、多数の実験用消耗品を、たとえば50万本までのピペットチップを同時に収納するに足る容量とする。
【0035】
本発明に従う実験用消耗品を生産するための特に好適な装置及び方法は国際公開WO2005/089961号パンフレットで開示されており、その内容は本明細書の一部として援用する。
【0036】
特にこのタイプの大容量プラズマ室を使用するときは、プラズマはパルス場としての電圧を使用して、平均電力0.001〜500W/m3、たとえば0.001〜100W/m3、好適には0.005〜0.5W/m3で生成させる。
【0037】
これらの条件は、大きなプラズマ室を使用して、たとえばプラズマ帯の容量が500cm3超、たとえば0.5m3以上、たとえば0.5m3〜10m3、好適には約1m3であるプラズマ室を使用して、高品質被膜を堆積させるのに特に好適である。このようにして形成される被膜は機械的強度に優れる。
【0038】
プラズマ室の寸法は処理対象の特定の実験用消耗品を収納するように選定する。たとえば、立方体型のプラズマ室は一般に広範囲の用途に好適であろうが、もし必要なら、長く伸ばした直方体型のプラズマ室にしても、また円筒型や他の任意好適な形状にしてもよい。
【0039】
プラズマ室はバッチ法を見越した密封性容器でもよいし、また連続法への使用を可能にする実験用消耗品の入口と出口を備えたものでもよい。特に後者の場合には、プラズマ室内にプラズマ放電を発生させるために必要な圧力条件を、大容量ポンプを使用して、維持する。「笛吹き音を伴う漏出」のある装置ではそれが普通である。しかし、ある種の品目は大気圧又は大気圧に近い圧力で処理することが可能であり、「笛吹き音を伴う漏出」の必要がない。
【0040】
使用モノマーは前述の式(I)で示されるモノマー類から選定する。R1、R2、R3及びR5の好適なハロアルキル基はフルオロアルキル基である。このアルキル鎖は直鎖、分岐鎖いずれでもよいし、環状部分を含んでもよい。
R5のアルキル鎖は好適には炭素原子を2個以上、好適には2〜20個、好ましくは6〜12個含む。
R1、R2及びR3のアルキル鎖は一般に炭素原子数1〜6であるのが好ましい。
好ましくは、R5はハロアルキル基であり、なお好ましくはペルハロアルキル基、特に式CmF2m+1(式中mは1以上、好適には4ないし12の整数、たとえば4、6又は8である)で示されるペルフルオロアルキル基である。
R1、R2及びR3のアルキル基は好適には炭素原子数が1ないし6である。
一実施形態では、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つは水素である。特定の実施形態ではR1、R2及びR3はすべて水素である。ただし、さらなる実施形態ではR3はメチル又はプロピルなどのアルキル基である。
【0041】
Xが-C(O)O(CH2)nY-基であるとき、nは好適なスペーサー基を与える整数である。特にnは1ないし5、好ましくは約2である。
Yの好適なスルホンアミド基は式N(R7)SO2-で示される基を含む(式中R7は水素又はアルキル、たとえばC1-4アルキル、特にエチル又はメチルである)。
【0042】
一実施形態では、式(I)で示される化合物は式(II)
CH2=CH-R5 (II)
(式中R5は式(I)との関連で定義したとおりである。)
で示される化合物である。
【0043】
式(II)で示される化合物では、式(I)のXは結合である。
ただし、好ましい実施形態では式(II)で示される化合物は式(III )
CH2=CR7C(O)O(CH2)nR5 (III )
(式中nとR5は式(I)との関連で定義したとおりであり、R7は水素、C1-10アルキル又はC1-10ハロアルキルである。)
で示されるアクリレートである。特にR7は水素又はC1-6アルキル、たとえばメチルである。式(III )で示される化合物の具体例は式(IV)
【0044】
【化2】

【0045】
(式中R7は前記のとおりであり、また特に水素であり、xは1ないし9、たとえば4ないし9、好ましくは7である。その場合には、式(IV)で示される化合物は1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレートである。)
で示される化合物である。
【0046】
さらなる態様では、本発明は液体サンプルの実験用消耗品への残留を減らす方法であって、該消耗品を式(I)
【0047】
【化3】

【0048】
[式中R1、R2及びR3は独立に水素、アルキル、ハロアルキル又は場合によりハロ置換されたアリールであり、またR4はX-R5基(式中R5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合である)であるか、式-C(O)O(CH2)nY-で示される基(式中nは1ないし10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である)であるか、又は-(O)pR6(O)q(CH2)t-基(式中R6は場合によりハロ置換されたアリールであり、pは0又は1、qは0又は1であり、またtは0であるか又は1ないし10の整数であり、ただしqが1ならばtは0以外である)である。]
で示される化合物を気相状態で含んでなるパルスプラズマに、該消耗品の表面に高分子層を堆積させるに足る時間にわたり、暴露する工程を含む方法を提供する。
【0049】
好適には、実験用消耗品はプラズマ堆積室内に置き、該プラズマ堆積室内にグロー放電を起こし、また電圧をパルス場として印加する。
【0050】
この方法に使用する好適なモノマー及び反応条件は前記のとおりである。
以下、実施例をもって本発明を詳しく説明する。
【実施例】
【0051】
実施例1
ピペットチップ
一組のポリプロピレン製ピペットチップを処理容量約300リットルのプラズマ室内に置いた。プラズマ室を必要な気体又は蒸気の供給管に、質量流量制御器及び/または質量流量計並びに混合噴射装置を適宜介して、接続した。
プラズマ室を基準圧の3〜10mtorrまで排気し、次いで80mtorrに達するまでヘリウムを20sccmで導入した。次に300W、13.56MHzの高周波を使用して連続プラズマを4分間発生させた。
その後、式
【0052】
【化4】

【0053】
で示される1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレート(CAS# 27905-45-9)を毎分120ミリグラムずつプラズマ室内に導入し、プラズマをオン時間30マイクロ秒、オフ時間20ミリ秒のパルスプラズマに切り換え、ピーク電力レベルを100Wとして40分間保った。40分経過後、処理用気体及び蒸気とともにプラズマ出力を止め、プラズマ室を排気して基準圧に戻した。次いで空気を入れて大気圧に戻し、ピペットチップを取り出した。
【0054】
処理したピペットチップは、表面エネルギーがTeflon(登録商標)(PTFE)よりもずっと低い超非付着性の、ピンホールのない改質層で被覆されていることが見い出された。この被膜はピペットチップの内外両面に分布し、分子的に付着していた。
このピペットチップは液体の残留がほぼ解消され、最大限のサンプル回収を可能にするなど、性能が著しく向上していた。
【0055】
実施例2
ろ紙
実施例1と同じ方法を用いて、セルロースろ紙(Whatman No.1)をプラズマ室内に置き、同じ条件下で処理した。プラズマ改質処理したろ紙は外観が変わらず、風合いも同じなので、見ても触れても区別がつかないと判明した。撥水性も表面に水玉が形成され、それが楽に転げまわるほどである。だが、本発明の方法は細孔を塞ぐものではないので、そうした水滴も十分な圧力が加わればこの細孔性ろ紙を透過させられた。処理したろ紙は濡れないままで、ろ過機能を果たすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験用消耗品を式(I)
【化1】

[式中R1、R2及びR3は独立に水素、アルキル、ハロアルキル又は場合によりハロ置換されたアリールより選択され、また、R4はX-R5基(式中R5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合である)であるか、式-C(O)O(CH2)nY-で示される基(式中nは1ないし10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である)であるか、又は-(O)pR6(O)q(CH2)t-基(式中R6は場合によりハロ置換されたアリールであり、pは0又は1、qは0又は1であり、また、tは0であるか又は1ないし10の整数であり、ただしqが1ならばtは0以外である)である。]
で示される化合物を含んでなるパルスプラズマに、該消耗品の表面上に高分子層を堆積させるに足る時間にわたり暴露することによって形成される高分子被膜を有する実験用消耗品。
【請求項2】
ピペットチップ、ろ過膜、マイクロプレート、イムノアッセイ用製品、遠心管、マイクロチューブ、試料管、試験管、採血管、平底チューブ、無菌製造容器、一般実験機器、ビュレット、キュベット、針、皮下注射器、サンプル用バイアル/瓶、ねじ口容器又は計量瓶より選択される請求項1に記載の実験用消耗品。
【請求項3】
ピペットチップである請求項2に記載の実験用消耗品。
【請求項4】
実験用消耗品はプラズマ堆積室内のパルスプラズマに暴露される先行請求項のいずれか1項に記載の実験用消耗品。
【請求項5】
式(I)で示される化合物は式(II)
CH2=CH-R5 (II)
(式中R5は請求項1のとおりである)であるか、又は式(III )
CH2=CR7C(O)O(CH2)nR5 (III )
(式中nとR5は請求項1のとおりであり、また、R7は水素、C1-10アルキル又はC1-10ハロアルキルである)
で示される化合物である先行請求項のいずれか1項に記載の実験用消耗品。
【請求項6】
式(I)で示される化合物は式(III )で示される化合物である請求項5に記載の実験用消耗品。
【請求項7】
式(III )で示される化合物は式(IV)
【化2】

(式中R7は請求項4のとおりであり、xは1ないし9の整数である)
で示される化合物である請求項6に記載の実験用消耗品。
【請求項8】
式(IV)で示される化合物は1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレートである請求項7に記載の実験用消耗品。
【請求項9】
液体サンプルの実験用消耗品への残留を減らす方法であって、該消耗品を式(I)
【化3】

[式中R1、R2及びR3は独立に水素、アルキル、ハロアルキル又は場合によりハロ置換されたアリールであり、また、R4はX-R5基(式中R5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合である)であるか、式-C(O)O(CH2)nY-で示される基(式中nは1ないし10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である)であるか、又は-(O)pR6(O)q(CH2)t-基(式中R6は場合によりハロ置換されたアリールであり、pは0又は1、qは0又は1であり、また、tは0であるか又は1ないし10の整数であり、ただしqが1ならばtは0以外である)である。]
で示される化合物を気相状態で含んでなるパルスプラズマに、該消耗品の表面に高分子層を堆積させるに足る時間にわたり、暴露する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
実験用消耗品をプラズマ堆積室内に置き、該プラズマ堆積室内にグロー放電を起こし、また、電圧をパルス場として印加する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
印加電圧は電力レベルが40〜500Wである請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
電圧はオン時間:オフ時間比が1:500ないし1:1500の範囲内に収まるようなシーケンスでパルス化される請求項9ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
電圧は電源オン時間が20〜50μsであり、電源オフ時間が1000〜30000μsであるようなシーケンスでパルス化される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
電圧はパルス場として30秒〜90分間印加される請求項9ないし13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
電圧はパルス場として5〜60分間印加される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
予備工程で連続プラズマが実験用消耗品に印加される請求項9ないし15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
予備工程は不活性ガスの存在下に行われる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
式(I)で示される気相状態の化合物を、パルス電圧を印加しながら、毎分80〜300mgの流量でプラズマ中に導入する請求項9ないし17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
プラズマを平均電力0.001〜500W/m3での電圧で生成させる請求項9ないし18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
プラズマを平均電力0.001〜100W/m3での電圧で生成させる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
プラズマを平均電力0.005〜0.5W/m3での電圧で生成させる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
式(I)で示される化合物は式(II)
CH2=CH-R5 (II)
(式中R5は請求項1のとおりである)であるか、又は式(III )
CH2=CR7C(O)O(CH2)nR5 (III )
(式中nとR5は請求項1のとおりであり、また、R7は水素、C1-10アルキル又はC1-10ハロアルキルである)
で示される化合物である請求項9ないし21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
式(I)で示される化合物は式(III )で示される化合物である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
式(III )で示される化合物は式(IV)
【化4】

(式中R7は請求項4のとおりであり、xは1ないし9の整数である)
で示される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
式(IV)で示される化合物は1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレートである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
実施例に関連して詳述したような実験用消耗品。
【請求項27】
実施例に関連して詳述したような、実験用消耗品への液体サンプルの残留を減らす方法。

【公開番号】特開2013−99745(P2013−99745A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−287581(P2012−287581)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−550842(P2008−550842)の分割
【原出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(508216699)ピーツーアイ リミティド (12)
【Fターム(参考)】