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新規な金属サレン錯体化合物
説明

新規な金属サレン錯体化合物

【課題】自己磁性を有する新規な金属サレン錯体化合物及びその誘導体を提供する。
【解決手段】下式等で表される金属サレン錯体化合物。




[式中、Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己磁性を有する新規な金属サレン錯体化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に薬剤は生体内に投与され患部に到達し、その患部局所において薬理効果を発揮することで治療効果を引き起こすが、薬剤が患部以外の組織(つまり正常組織)に到達しても治療にはならない。
【0003】
したがって、いかにして効率的に患部に薬剤を誘導するかが重要である。薬剤を患部に誘導する技術はドラッグ・デリバリと呼ばれ、近年研究開発が盛んに行われている分野である。このドラッグ・デリバリには少なくとも二つの利点がある。一つは患部組織において十分に高い薬剤濃度が得られることである。薬理効果は患部における薬剤濃度が一定以上でないと生じず、低い濃度では治療効果が期待できない。
【0004】
二つめは薬剤を患部組織のみに誘導して、正常組織への副作用を抑制することができる。
【0005】
このようなドラッグ・デリバリが最も効果を発揮するのが抗がん剤によるがん治療である。抗がん剤は細胞分裂の活発ながん細胞の細胞増殖を抑制するものが大半であるため、正常組織においても細胞分裂の活発な組織、例えば骨髄あるいは毛根、消化管粘膜などの細胞増殖を抑制する。
【0006】
このため抗がん剤の投与を受けたがん患者には貧血、抜け毛、嘔吐などの副作用が発生する。これら副作用は患者にとって大きな負担となるため、投薬量を制限しなければならず、抗がん剤の薬理効果を十分に得ることが出来ないという問題がある。
【0007】
この抗悪性腫瘍薬の中で、アルキル系抗悪性腫瘍薬は、核酸蛋白などにアルキル基(-CH2-CH2-)を結合させる能力をもつ抗がん剤の総称である。DNAをアルキル化してDNA複製を阻害し、細胞死をもたらす。この作用は細胞周期に無関係に働きG0期の細胞にもおよび、増殖が盛んな細胞に対する作用が強く、骨髄、消化管粘膜、生殖細胞、毛根などに障害を与えやすい。
【0008】
また、代謝拮抗系抗悪性腫瘍薬は、核酸や蛋白合成過程の代謝物と類似の構造をもつ化合物であり、核酸合成を阻害するなどして細胞を障害し、分裂期の細胞に特異的に作用する。
【0009】
また、抗腫瘍性抗生物質は、微生物によって産生される化学物質であり、DNA合成抑制、DNA鎖切断などの作用を持ち抗腫瘍活性を示す。
【0010】
また、微小管阻害薬は、細胞分裂の際に紡錘体を形成したり、細胞内小器官の配置や物質輸送など、細胞の正常機能の維持に重要な役割を果たしている微小管に直接作用することで抗腫瘍効果を示す。微小管阻害剤は細胞分裂が盛んな細胞や神経細胞などに作用を及ぼす。
【0011】
また、白金製剤は、DNA鎖または鎖間結合あるいはDNA蛋白結合を作ってDNA合成を阻害する。シスプラチンが代表的薬剤であるが腎障害が強く、多量の補液が必要とされる。
【0012】
また、ホルモン類似薬系抗悪性腫瘍薬は、ホルモン依存性の腫瘍に対して有効である。男性ホルモン依存性の前立腺がんに対して女性ホルモンを投与したり抗男性ホルモン剤を投与したりする。
【0013】
また、分子標的薬は、それぞれの悪性腫瘍に特異的な分子生物学的特徴に対応する分子を標的とした治療法である。
【0014】
また、トポイソメラーゼ阻害薬は、DNAに一時的に切れ目を入れてDNA鎖のからまり数を変える酵素である。トポイソメラーゼIは、環状DNAの一方の鎖に切れ目を入れ、もう一方の鎖を通過させた後、切れ目を閉じる酵素であり、トポイソメラーゼ阻害薬IIは環状DNAの2本鎖両方を一時的に切断し、その間を別の2本鎖DNAを通過させ、再び切れ目をつなぎ直す酵素である。
【0015】
さらに、非特異的免疫賦活薬は、免疫系を活性することによってがん細胞の増殖を抑制する。
【0016】
抗がん剤は細胞分裂の活発ながん細胞の細胞増殖を抑制するものが大半であるため、正常組織においても細胞分裂の活発な組織、例えば骨髄あるいは毛根、消化管粘膜などの細胞増殖を抑制してしまう。このため抗がん剤の投与を受けた癌患者には貧血、抜け毛、嘔吐などの副作用が発生する。
【0017】
これら副作用は患者にとって大きな負担となるため投薬量を制限しなければならず、抗がん剤の薬理効果を十分に得ることが出来ないという問題がある。さらに最悪の場合、副作用によって患者が死亡してしまう恐れがある。
【0018】
そこで、ドラッグ・デリバリによって抗がん剤をがん細胞まで誘導し、がん細胞に集中して薬理効果を発揮させることによって、副作用を抑えつつ効果的にがん治療を行うことができると期待されている。同種の問題が、局所麻酔剤でも存在する。局所麻酔剤は、痔疾患.口内炎、歯周病、虫歯、抜歯、あるいは手術等による粘膜や皮膚等の居所的なかゆみや疼痛を処理ずるために用いられている。代表的な居所麻酔剤として、リドカイン(商品名キシロカイン)が知られているが、リドカインは即効性に優れているものの、抗不整脈作用を有する。
【0019】
また、脊椎麻酔を行う際.脊髄液の中に麻酔薬であるリドカインを注入すると脊髄液中を拡散し、最悪の場合は頸部の脊髄に達することで呼吸機能が停止し重篤副作用をもたらす懸念がある。
【0020】
そこで、ドラッグ・デリバリによって、抗がん剤をがん細胞まで誘導し、がん細胞に集中して薬理効果を発揮させることによって、副作用を抑えつつ効果的にがん治療を行うことができると期待されている。
【0021】
また、ドラッグ・デリバリによって、局所麻酔剤の拡散を防止して、薬効持続と副作用の軽減を達成することが期待されている。
【0022】
ドラッグ・デリバリの具体的な手法としては、例えば、担体(キャリア)を用いたものがある。これは患部に集中しやすい担体に薬剤を載せて、薬剤を患部まで運ばせようというものである。
【0023】
担体として有力視されているのが磁性体であり、薬剤に磁性体である担体を付着させ、磁場によって患部に集積される方法が提案されている(例えば、特開2001−10978号公報参照)。
【0024】
しかしながら、磁性体担体をキャリアとして使用する場合、経口投与が困難なこと、担体分子が一般に巨大であること、担体と薬剤分子との間の結合強度、親和性に技術的な問題があることがわかり、そもそも実用化が困難であった。
【0025】
そこで、本発明者は、有機化合物の基本骨格に対して、正又は負のスピン電荷密度付与する側鎖が結合され、全体として外部磁場に対して磁気共有誘導される範囲の適性を持ち、人体や動物に適用された際に、体外からの磁場によって局所的に磁場が与えられている領域で保持され、元来保有している医薬効果を前記領域において発揮するようにした、局所治療薬を提案した(WO2008/001851号公報)。同公報には、このような薬剤として、鉄サレン錯体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2001−10978号公報
【特許文献2】WO2008/001851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、自己磁性を有する新規な金属サレン錯体化合物及びその誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記目的を達成するために、本発明は、下記の(I)式で示される、自己磁性を有する新規な金属サレン錯体化合物であることを特徴とする。
(I)

【0029】
X及びYは、NとMとの間の配位結合を含む5員環構造、又は、その6員環構造であり、Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素である。X及びYが共に前記5員環構造の場合、b,gは無く、さらに、前記(I)は、下記(i)〜(iv)のいずれかである。
【0030】
(i)a〜hのそれぞれは、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
(ii)(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、ヘテロ環式構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記ヘテロ環式構造との縮合体を構成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造構造は、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、ピラゾロン、イミダゾール、2−イソイミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、1,2−ピラン、チアジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトキサジン(orthoxazine)、オキサジン、ピペリジン、ピペラジン、トリアジン、デオキサン(Dioxane)、モルフォリン、を含む、3−7員環式構造の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造の側鎖は、ハロゲン、−R、−O−R(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iii)
(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、
ベンゼン、又は、ナフタレン、及び、アントラセンを含む縮合環式構造の一つの一部を形成して、前記(I)化合物と前記縮当環式構造との縮合体を形成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、下記(A)〜(G)の何れかであり、
前記縮合環式構造の側鎖は、ハロゲン、R−O−:(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iv)
a,hは下記化合物を含む環状炭化水素構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記環状炭化水素構造の縮合体を形成するものであり、



又は


b〜g、及び、前記環状炭化水素構造の側鎖は、それぞれ、水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。
【0031】
(A)−COR,−C(=O)R(Rは、水素、又は、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素である。)
(B)−CO(OCHCHOCH
(C)

(D)


(Rはアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ないし、ウラシルからなる核酸の一つ又は複数が結合されたものである。)、
(E)−NHCOH、又は、−NR2(R、R2は、水素、同一又は異なる、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素)
(F)−NHR3−、−NHCOR3、−CO2−R3、−S−S−R3、又は、−R3(R3は、水素、又は、水酸基等の脱離基が脱離して縮合した置換化合物であり、当該置換化合物は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、核酸、及び、医薬分子の少なくとも一つからなる機能性分子である。)
(G)塩素、臭素、弗素などのハロゲン原子
【0032】
前記(I)式で示される金属サレン錯体化合物は、磁性のキャリアを含むことなく、自身で磁性を有する有機化合物である、したがって、他の本発明は、この金属サレン錯体を有効成分として含有し、人間又は動物の体内に投与されたのち外部磁場を照射することにより、その目的組織に誘導される磁性医薬であることを特徴とする。
【0033】
さらに、前記(I)式に係る金属サレン錯体は、癌等の腫瘍の治療に有効である。したがって、他の本発明は、前記磁性医薬を有効成分とする前記磁性医薬を有効成分とする抗腫瘍であることを特徴とする。
【0034】
前記金属サレン錯体の磁性を利用して、体外から磁性を金属サレン錯体に供給することによって、患部に金属サレン錯体を誘導するシステムを実現できる。したがって、他の本発明は、前記金属サレン錯体を有効成分とする、抗癌剤等の磁性薬を体内に投与した後、外部磁場を照射することにより患部に誘導する方法であることを特徴とする。さらに、他の本発明は、磁性薬を体内に適用する手段と、体内に適用された前記薬に磁場を供給する手段と、前記磁場を患部に移動する手段と、を備える、磁性医薬の誘導システムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、自己磁性を持った新規な金属サレン錯体化合物、及びこれを用いて、磁性医薬、抗腫瘍薬、磁性医薬の誘導方法及びシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1はラットL6細胞の培地がある角型フラスコに棒磁石を接触させた状態を示した模式図である。
【図2】図1において、角型フラスコ底面の一端から他端までを撮影し、細胞数を算出した結果を示すグラフである。
【図3】磁気誘導装置の斜視図である。
【図4】マウスに金属サレン錯体を静注した後磁場を適用した腎臓のMRIの測定結果を示すグラフである。
【図5】マウスにおけるメラノーマ成長に対するサレン錯体の効果を示す、マウスの尾腱の組織の写真である。
【図6】マウスにおけるメラノーマ成長に対するサレン錯体の効果を示すグラフである。
【図7】マウスにおけるメラノーマ成長に対するサレン錯体の効果を示すためのヒストロジカル試験を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
前記(I)で示される自己磁性金属サレン錯体化合物の好適な形態は、下記の(II)乃至XIである。
(II)
X,Y:6員環構造
(a〜h)=H

【0038】
(III)
X,Y:6員環構造
(c,f)=C(O)H
(a,b,d,e,g,h)=H

【0039】
(IV)
X,Y:5員環構造、(a,c,d,e,f,h)=H

【0040】
(V)
X,Y:6員環構造
(a,b,g,h):H
(e,f),(g,h):フランの一部を構成し、フランは主骨格に縮合している。
M:Fe


【0041】
(VI)
X,Y:6員環構造
(a,h):シクロヘキサンの一部を構成し、シクロヘキサンは主骨格に縮合している。
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
(b,g):H
M:Fe


【0042】
(VII)
X,Y:6員環構造
(a,h):ベンゼンの一部を構成
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
(b,g):H
M:Fe


【0043】
(VIII)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):アントラセンを構成
(a,b,g,h):H
M:Fe


【0044】
(IX)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):アントラセンを構成
(a,b,g,h)=H
(V)の異性体
M:Fe


【0045】
(X)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
ベンゼンのメタ位置の側鎖がハロゲン(臭素)である。
(a,b,g,h):H
M:Fe


【0046】
(XI)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
ベンゼンのメタ位置の側鎖がメトキシル基である。
(a,b,g,h):H
M:Fe

【0047】
前記(I)式の金属サレン錯体化合物は、外部磁場によって誘導可能な磁性を備えるために、その側鎖の電荷移動の絶対値は0.5電子(e)未満であることが好ましい。係る側鎖を構成する既述のR3としては、例えば、WO 2010/058280に記載の置換化合物を用いることができる。同公報の内容は本願明細書の記載事項を成す。
【0048】
前記(I)式で示される金属サレン錯体化合物が体内に投与されたのち外部磁場を照射することにより、目的組織に誘導されるために、金属サレン錯体化合物の磁力の強度及びこれを有効成分として含む医薬の磁化の強度は、それぞれ0.5〜1.5emu/gの範囲である。磁性医薬としては、注射剤又は輸液剤が主であるが、散剤でもよい。注射剤、輸液剤の溶媒としては、生理食塩水を好適に利用できる。磁性医薬は、金属サレン錯体を有効成分として、例えば、50重量%以上含有するものであり、その他、金属サレン錯体の有効性、物性、化学的性質に影響が与えないか、少ない、賦形剤、安定化剤、第2医薬成分を含有してもよい。既述の金属サレン錯体化合物は抗癌剤として利用できる。
【0049】
磁性医薬を人又は動物の体内に適用した後、これに磁場を供給する手段としては、永久磁石、或いは、MRI等の誘導磁場がある。外部磁場の強度としては、0.5〜1Tの範囲が好ましく、特に、0.8〜1.0Tの範囲が好ましい。前記磁場を患部に移動する手段としては、前記永久磁石を移動させるX−Yテーブルの他、MRIがある。患部組織へ磁場を供給する形態としては、体表面から供給する形態、患部組織近傍の血管に磁場発生手段を設置する形態がある。体表面から磁場を供給するために、体前面及び/又は体後面から磁場を供給する形態がある。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
金属サレン錯体化合物(II)の合成
(第1の合成例)
金属サレン錯体(II)を次の反応式に従って合成した。

【0051】
(化合物1の合成)
グリシン・メチル・エステル一塩酸塩(glycine methyl ester monohydrochloride)(10.0g, 0.079mol)を含むギ酸エチル(ethyl formate)溶液(60mL)にp-TsOH (10 mg)を加えた。そして、その溶液を加熱して沸騰させた。沸騰中にトリエチルアミン(triethylamine)を数滴滴下し、その混合液を24時間還流した。その後、その溶液を室温まで冷却した。白いトリエチルアミン塩酸塩をろ過した。ろ過物を20mLまで濃縮した。得られた溶液をマイナス摂氏5度まで冷却し、ろ過を行った。ろ過物である、赤茶色の濃縮溶液(化合物1)を得た。
【0052】
(化合物2の合成)
化合物1に、CH2Cl2(20mL)を溶かした。その後に、ethane-1,2-diamine(1.2g)、そして、酢酸(HOAc)(20μL)を加えた。反応させた混合溶液を6時間還流させた。そして、反応混合溶液を室温まで冷却し、4グラムの黄色い油状の濃縮物(化合物2)を得た。得られた化合物2の純度を、シリカゲルを用いたフラッシュコラムクロマトグラフィーによって向上させた。
【0053】
(化合物0の合成)
メタノール(50ml)の中に化合物2、triethylamineをいれ、10mlメタノールの中に、金属塩化物(鉄サレン錯体化合物の合成の際は、FeCl3(4H2O)である。)溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、これを真空中で乾燥した。得られた化合物をジクロロメタン400mlで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、真空中で乾燥させて化合物0(金属サレン錯体化合物(II))を得た。
【0054】
(第2の合成例)
金属サレン錯体(II)を次の反応式に基づいて合成した。


【0055】
氷上の酢酸でpH6に調整しながら無水メタノール(50mL)の中に3.4gの3-メチルアセチルアセトン(化合物2)と0.9gのエチレンジアミン(化合物1)を入れて化合物3を合成した。得られた溶液を15分間還流し、これが半分の体積になるまで蒸発させた。その後、同体積の水を加えて析出させたところ1.4gの白い化合物(化合物3)を合成した。
【0056】
その後、化合物3(1.2g、5mmol)をメタノール(50mL)に入れ、FeSO4・7H2O (1.4 g, 5 mmol)を加えたところ、青白い緑の溶液が得られた。混合溶液を、8時間、室温、窒素雰囲気で攪拌したところ、色が徐々に茶色になった。その後、溶液を蒸発させてその体積を半分にした後、同体積の水を加えた。次いで、真空引きでメタノールを蒸発させたて茶色の塊を得た。その塊を集めて水で洗浄し、真空引きで乾燥したところ目的の化合物0(鉄サレン錯体化合物(II))が360ミリグラム得られた。
【0057】
(第3の合成例)
金属サレン錯体(II)を次の反応式に基づいて合成した。

【0058】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し1.07gの中間体を得た。
【0059】
窒素雰囲気下、中間体(1.07mg, 3.4 mmol)、配位原子(0.70g, 3.4 mmol)、脱気デカリン30mLを反応容器に仕込み、還流下1時間攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン10mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、0.17gの生成物(鉄サレン錯体化合物(II))を得た。
【0060】
(実施例2)
金属サレン錯体化合物(III)の合成
金属サレン錯体化合物(III)を次の反応式に基づいて合成した。


【0061】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.78g, 4.5mmol)、脱気メタノール20mLを仕込み、アセチルアセトン(0.91g, 9.9mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し0.58gの中間体を得た(収率 67%)。
【0062】
窒素雰囲気下、中間体(240mg, 0.75 mmol)、配位原子(210mg, 0.75 mmol)、脱気デカリン10mLを反応容器に仕込み、還流下30分攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン3mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、101mgの生成物(金属サレン錯体化合物(III))を得た。
【0063】
(実施例3)
金属サレン錯体化合物(IV)の合成
金属サレン錯体化合物(IV)を次の反応式に基づいて合成した。




【0064】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。CH2Cl2(10mL)に溶かした化合物1の溶液(60mg, 1.0 mmol)に化合物2(120mg, 2.0 mmol)とSiO2 (1g)を加えた。得られた溶液を、反応させるため終夜、室温で攪拌したところ化合物3が合成された。その後、得られた化合物を窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを入れ、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、析出した結晶をろ過したところ茶色の目的化合物(金属サレン錯体化合物(IV))を得た。
【0065】
(実施例4)
前記(V)〜(XI)の化合物は、WO 2010/058280の明細書第43〜47頁に記載の方法によって合成する。側鎖である臭素、又は、メトキシル基の主骨格への付加は、サレンに金属錯体の結合を形成する際に、ベンゼン環のOH基とはパラの位置でベンゼン環に結合している保護基(NHBoc)を臭素、又は、メトキシル基で置換する。(c,d),(e,f)がアントラセンを構成する(VIII)及び(IX)の化合物では、出発物質として、パラニトロフェノールに代えて、下記化合物を使用する。


(a,h)がシクロヘキサンを構成する金属サレン錯体(VI)、さらに、(a,h)がベンゼンを構成する金属サレン錯体(VII)の合成については、Journal of thermal Analysis and Calorimetry, Vol.75(2004)599-606 のExperimental の600Pに記載の方法によって、金属と配位結合する前の目的のサレンを作成する。
【0066】
(実施例5)
金属サレン錯体(II)〜(XI)のそれぞれの水溶液をポンプでガラス管を循環させながら永久磁石でトラップされるか否か検討する。金属サレン錯体の水溶液の循環速度は100 mm/s、ガラス管の直径は1.3mm、ガラス管の表面と永久磁石の距離は1.35 mm、化合物の濃度は10 mg/mLである。磁石は市販されている断面円形状の棒磁石(直径20mm x 長さ150mm、信越化学の型番N50、最大磁束密度0.8T)を用いる。各金属錯体は磁石にラップする領域でトラップされたことを確認する。
【0067】
(実施例6)
ラットL6細胞が30%のコンフルエントの状態の時に、既述の方法によって得られた、金属(鉄)サレン錯体(II)〜(XI)のそれぞれについて、金属サレン錯体の粉末(10mg)を磁石に引き寄せられるのが目視できる程度の量を培地(PBS)に散布して48時間後に培地の状態を写真撮影する。図1はラットL6細胞の培地がある角型フラスコに棒磁石を接触させた状態を示した模式図である。次いで、48時間後角型フラスコ底面の一端から他端までを撮影し、細胞数を算出した結果を図2に示す。図2において磁石から近位とは、角型フラスコ底面における磁石端面の投影面積内を示し、磁石から遠位とは、角型フラスコ底面において磁石端面と反対側にある領域を示す。
【0068】
図2に示すように、磁石から近位では各金属サレン錯体が引き寄せられてそれらの濃度が増し錯体のDNA抑制作用によって細胞数が遠位よりも極端に低いことが分かる。この結果、金属サレン錯体と、磁気発生手段とを備えたシステムによって、個体の目的とする患部や組織に薬剤を集中して存在させることが可能となる。
【0069】
次に、誘導装置を用いた誘導例について説明する。この誘導装置は、図3に示すように重力方向に互いに向き合う一対の磁石230,232がスタンド234とクランプ235によって支持されており、磁石の間には金属板236が置かれている。一対の磁石間に金属板、特に鉄板をおくことにより、局所的に一様で強力な磁界を作り出すことができる。この誘導装置は磁石の代わりに電磁石を用いて発生磁力を可変にすることができる。また、XYZ方向に一対の磁力発生手段を移動できるようにして、テーブル上の固体の目的とする位置に磁力発生手段を移動させることができる。
【0070】
この磁界の領域に固体組織を置くことにより、組織に薬剤を集中させることができる。体重約30グラムのマウスに既述の金属サレン錯体(薬剤濃度5mg/ml(15mM))を静注して開腹し、右の腎臓を前記一対の磁石の間に来るようにマウスを鉄板の上に置く。使用した磁石は、信越化学工業株式会社製品番:N50(ネオジウム系永久磁石) 残留磁束密度:1.39-1.44 Tである。このとき、右側の腎臓に与えられた磁場は約0.3(T)で左側の腎臓に与えられる磁場はその約1/10である。
【0071】
左の腎臓及び磁界を適用しない腎臓(Control)と共に、マウスの右腎に磁界を加えて10分後MRIでSNRをT1モード及びT2モードで測定した。その結果、図4に示すように、磁界を加えた右腎(RT)が左腎(LT)及びControlに比較して薬剤を組織内に留め置くことができることが確認された。
【0072】
図5に、マウスにおけるメラノーマ成長に対するサレン錯体の効果を示す。メラノーマは、培養メラノーマ細胞(クローンM3メラノーマ細胞)の局所的移植によって、マウス尾腱においてin vivoに形成された。サレン錯体を尾腱の静脈から静脈投与し(50 mg/kg)、市販の棒磁石(630mT、円筒状ネオジウム磁石、長さ150mm、直径20mm)を用いて、局所的に磁場を印加した。棒磁石の適用は、サレン錯体を10〜14日注入した直後に、メラノーマサイトに3時間穏やかに接触させることにより行った。
【0073】
棒磁石の適用は、磁場強度が、メラノーマ延長が予想される部位に最大強度となるように、150mm以下のマウス尾腱に対して2週間の成長期間、行った。金属サレン錯体の初回注入の12日後に、メラノーマ染色された部位を評価することによって、メラノーマの延長を評価した。図6に示すように、金属サレン錯体の代わりに、塩水を注入した塩水グループ(saline)では、メラノーマ拡張は最大であった(100±17.2%)。
【0074】
一方、磁場を適用せずにサレン錯体を注入したSCグループでは、メラノーマ拡張は緩やかに減少した(63.68±16.3%)。これに対して、磁場を適用しつつ金属サレン錯体を注入したSC+Magグループでは、ほとんどのメラノーマが消失した(9.05±3.42%)。
【0075】
図7に示すように、ヒストロジカル試験を、組織部の腫瘍増殖マーカーであるanti-Ki-67抗体及びanti-Cyclin D1抗体を用いて、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE)及び免疫組織染色(Ki,CyclinD1)により行った。その結果、金属サレン錯体を注入した場合(SC)の投与前において顕著であったメラノーマの腫瘍拡張が減少し、さらにサレン錯体の投与時に磁場の適用が組み合わされた場合、サレン錯体の投与後にはメラノーマの腫瘍はほとんどが消失することが分かった(楕円状の点線)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)式で示される、自己磁性を有する新規な金属サレン錯体化合物。
(I)


X及びYは、NとMとの間の配位結合を含む5員環構造、又は、その6員環構造であり、
Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素であり、
X及びYが共に前記5員環構造の場合、b,gは無く、
さらに、前記(I)は、下記(i)〜(iv)のいずれかである。
(i)a〜hのそれぞれは、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
(ii)(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、ヘテロ環式構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記ヘテロ環式構造との縮合体を構成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造は、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、ピラゾロン、イミダゾール、2−イソイミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、1,2−ピラン、チアジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトキサジン(orthoxazine)、オキサジン、ピペリジン、ピペラジン、トリアジン、デオキサン(Dioxane)、モルフォリン、を含む、3−7員環式構造の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造の側鎖は、ハロゲン、−R、−O−R(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iii)
(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、
ベンゼン、又は、ナフタレン、及び、アントラセンを含む縮合環式構造の一つの一部を形成して、前記(I)化合物と前記縮当環式構造との縮合体を形成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、下記(A)〜(G)の何れかであり、
前記縮合環式構造の側鎖は、ハロゲン、R−O−:(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iv)
a,hは下記化合物を含む環状炭化水素構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記環状炭化水素構造の縮合体を形成するものであり、


又は


b〜g、及び、前記環状炭化水素構造の側鎖は、それぞれ、水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。

(A)−COR,−C(=O)R(Rは、水素、又は、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素である。)
(B)−CO(OCHCHOCH
(C)

(D)


(Rはアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ないし、ウラシルからなる核酸の一つ又は複数が結合されたものである。)、
(E)−NHCOH、又は、−NR2(R、R2は、水素、同一又は異なる、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素)
(F)−NHR3−、−NHCOR3、−CO2−R3、−S−S−R3、又は、−R3(R3は、水素、又は、水酸基等の脱離基が脱離して縮合した置換化合物であり、当該置換化合物は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、核酸、及び、医薬分子の少なくとも一つからなる機能性分子である。)
(G)塩素、臭素、弗素などのハロゲン原子
【請求項2】
前記(I)が下記化合物(II)である、請求項1記載の金属サレン錯体化合物。
(II)

【請求項3】
前記(I)が下記化合物(III)である請求項1記載の金属サレン錯体化合物。

【請求項4】
前記(I)が下記化合物(IV)である請求項1記載の金属サレン錯体化合物。

【請求項5】
前記(I)が下記化合物(V)である請求項1記載の金属サレン錯体化合物。
(V)



【請求項6】
前記(I)が下記(VI)又は(VII)である請求項1記載の金属サレン錯体化合物。
(VI)


(VII)

【請求項7】
前記(I)が、下記(VIII)又は(IX)である、請求項1記載の金属サレン錯体化合物。
(VIII)


(IX)

【請求項8】
前記(I)が下記(X)又は(XI)である請求項1記載の金属サレン錯体化合物。
(X)


(XI)

【請求項9】
前記(I)式の金属サレン錯体化合物の側鎖の電荷移動が0.5電子(e)未満である、請求項1乃至8の何れか1項に記載の金属サレン錯体化合物。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに1記載の前記(I)式で示される金属サレン錯体化合物を含み、体内に投与されたのち外部磁場を照射することにより、目的組織に誘導される磁性医薬。
【請求項11】
請求項10記載の前記磁性医薬を有効成分とする抗腫瘍薬。
【請求項12】
請求項10又は11記載の薬を体内に投与した後、外部磁場を照射することにより患部に誘導する方法。
【請求項13】
体内に適用された請求項10又は11記載の薬に磁場を供給する手段と、前記磁場を患部に移動する手段と、を備える、磁性医薬の誘導システム。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28543(P2013−28543A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163621(P2011−163621)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(505328683)
【Fターム(参考)】