説明

新規な1,3,5−トリス(アリールアミノ)ベンゼン類とその利用

【課題】分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有し、その極性溶媒に溶解させた溶液を用いる塗布法によって製膜することができる新規な1,3,5−トリス(アリールアミノ)ベンゼン類と、そのように塗布法によって形成された少なくとも1つの機能層を備えながら、高い性能を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】一般式(I)


(式中、X1からX6はそれぞれ独立に、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する置換アリール基を示す。)で表される1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な1,3,5−トリス(アリールアミノ)ベンゼン類とその利用、詳しくは、その1,3,5−トリス(アリールアミノ)ベンゼン類を含む機能層を少なくとも1つ有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子は、低電圧直流駆動、高効率、高輝度を有し、また、薄型化できるので、バックライトや照明装置のほか、ディスプレイ装置として、その実用化が進められている。
【0003】
この有機エレクトロルミネッセンス素子は、代表的には、透明基板、例えば、ガラス基板上にITO膜(酸化インジウム−酸化スズ膜)のような透明電極からなる陽極が積層され、この陽極上に、例えば、いずれも機能層である正孔注入層、正孔輸送層及び発光層と、更に、金属電極からなる陰極とがこの順序にて積層されてなるものであり、上記陽極と陰極は外部の電源に接続されている。このほかにも、電極を含めて、種々の層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来、このような有機エレクトロルミネッセンス素子の製作においては、例えば、正孔注入層や正孔輸送層の機能層は、多くの場合、それ自体でアモルファス膜を形成し得る低分子量有機化合物を蒸着法によって陽極上に製膜して形成している(例えば、特許文献2及び3参照)。しかし、一般に、このような蒸着法によって機能層を形成するためには、高価な蒸着装置を必要とするうえに、大面積の層を形成し難く、また、生産性が悪いという問題がある。
【0005】
更に、一般に、それ自体、アモルファス膜を形成し得る低分子量有機化合物は、多くの有機溶剤に溶解し、従って、そのような低分子量有機化合物を真空蒸着して、機能層を形成したとき、多くの場合、その上に更に有機溶剤を含む溶液を塗布して層を形成すれば、上記機能層を溶解させて、その性能を損なうおそれがある。
【0006】
そこで、近年、正孔注入剤や正孔輸送剤としての機能を有すると共に、水やアルコールのような極性溶媒に溶解する低分子量有機化合物や高分子量有機重合体の開発が進められている。例えば、正孔輸送剤として機能し、水に溶解する高分子量有機重合体として、代表的には、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸(PSS)を有する3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなるポリマー混合物が知られているが、しかし、その正孔輸送剤としての性能は十分であるとはいい難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−1972号公報
【特許文献2】特開平1−224353号公報
【特許文献3】特開平9−188653号公報
【特許文献4】特開2008−031496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の有機エレクトロルミネッセンス素子における上述した問題を解決するためになされたものであって、所謂スターバースト化合物に属するが、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有し、極性溶媒に溶解するので、その極性溶媒に溶解させた溶液を用いる塗布法によって機能層を形成することができる新規な1,3,5−トリス(アリールアミノ)ベンゼン類と、そのように塗布法によって形成された少なくとも1つの機能層、好ましくは、正孔注入層を備えながら、高い性能を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、X1からX6はそれぞれ独立に一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R1からR6はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、mは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示し、X1からX6の少なくとも1つにおいて、R1からR6の少なくとも1つはヒドロキシル基である。)
で表される1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類が提供される。
【0014】
更に、本発明によれば、上記1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む少なくとも1つの層、好ましくは、正孔注入層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、有機電子材料として機能し、特に、正孔注入及び/又は輸送剤としてすぐれた機能を有すると共に、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有するので、非極性溶媒には溶解しないが、極性溶媒に溶解する。従って、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を極性溶媒に溶解して溶液とし、基材上に塗布することによって機能層を形成することができる。例えば、好ましい一態様によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子の製作において、塗布法によって、正孔注入層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい一例を示す断面図である。
【図2】本発明によるN,N’,N”−トリフェニル−N,N’,N”−トリス(p−ヒドロキシフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンの赤外線吸収スペクトルである。
【図3】本発明によるN,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニル)−N,N’,N”−トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンの赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による新規な1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、一般式(I)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、X1からX6はそれぞれ独立に一般式(II)
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R1からR6はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、mは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示し、X1からX6の少なくとも1つにおいて、R1からR6の少なくとも1つはヒドロキシル基である。)
で表される。このような1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有する。
【0022】
一般式(II)で表されるアリール基は、mが0であるとき、(置換)フェニル基であり、mが1であるとき、(置換)ビフェニリル基であり、mが2であるとき、(置換)テル(ter)フェニル基であり、好ましくは、mは0又は1であり、従って、アリール基は、好ましくは、(置換)フェニル基又は(置換)ビフェニリル基である。
【0023】
このような一般式(II)で表されるアリール基において、R1からR6がそれぞれ独立に炭素原子数1から6のアルキル基であるとき、そのアルキル基の具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル基を挙げることができ、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、R1からR6がそれぞれ独立にシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基はシクロペンチル又はシクロヘキシル基である。
【0024】
本発明による好ましい1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、一般式(III)
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、X1からX3はそれぞれ独立に一般式(IV)
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、R6からR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、nは0、1又は2である。)
で表される第1のアリール基を示し、X1からX3の少なくとも1つにおいて、R6からR10の少なくとも1つはヒドロキシル基であり、Y1からY3はそれぞれ独立に一般式(V)
【0029】
【化7】

【0030】
(式中、R11からR15はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基を示し、pは0、1又は2である。)
で表される第2のアリール基を示す。)
で表される。このような1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有する。
【0031】
一般式(IV)で表される第1のアリール基は、nが0であるとき、(置換)フェニル基であり、nが1であるとき、(置換)ビフェニリル基であり、nが2であるとき、(置換)テル(ter)フェニル基であり、好ましくは、nは0又は1であり、従って、第1のアリール基は、好ましくは、(置換)フェニル基又は(置換)ビフェニリル基である。
【0032】
上記一般式(IV)で表されるアリール基において、R6からR10がそれぞれ独立に炭素原子数1から6のアルキル基であるとき、そのアルキル基の具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル基を挙げることができ、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、R6からR10がそれぞれ独立にシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基はシクロペンチル又はシクロヘキシル基である。
【0033】
また、上記一般式(V)で表される第2のアリール基において、R11からR15がそれぞれ独立に炭素原子数1から6のアルキル基であるとき、そのアルキル基の具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル基を挙げることができ、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、R11からR15がそれぞれ独立にシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基はシクロペンチル又はシクロヘキシル基である。
【0034】
特に、本発明によれば、X1からX3はそれぞれ独立に前記一般式(IV)で表される第1のアリール基であって、X1からX3の少なくとも1つにおいて、R6からR10の1つはヒドロキシル基であり、残余は水素原子であり、X1からX3の残余の第1のアリール基においては、R6からR10の1つはヒドロキシル基であり、残余は水素原子であるか、又はR6からR10の全部が水素原子であることが好ましい。
【0035】
また、上記一般式(V)で表される第2のアリール基において、R11からR15は、すべてが水素原子であるか、又はR11からR15のうち、1つがアルキル基であり、残余が水素原子であることが好ましく、R11からR15のうち、1つがアルキル基であるとき、そのアルキル基はメチル基であることが好ましく、そのアルキル基の置換位置は、限定されるものではないが、通常、p−位置が好ましい。
【0036】
本発明において、より好ましい1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、一般式(VI)
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、X1からX3はそれぞれ独立に一般式(VII)
【0039】
【化9】

【0040】
(式中、R6からR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、nは0、1又は2である。)
で表される第1のアリール基を示し、X1からX3のそれぞれにおいて、R6からR10の少なくとも1つはヒドロキシル基であり、Y1からY3はそれぞれ独立に一般式(VIII)
【0041】
【化10】

【0042】
(式中、R11からR15はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基を示し、pは0、1又は2である。)
で表される第2のアリール基を示す。)
で表される。
【0043】
一般式(VII)で表される第1のアリール基は、nが0であるとき、(置換)フェニル基であり、nが1であるとき、(置換)ビフェニリル基であり、nが2であるとき、(置換)テル(ter)フェニル基であり、好ましくは、nは0又は1であり、従って、アリール基は、好ましくは、(置換)フェニル基又は(置換)ビフェニリル基である。
【0044】
また、上記一般式(VII)で表される第1のアリール基において、R6からR10がそれぞれ独立に炭素原子数1から6のアルキル基であるとき、そのアルキル基の具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル基を挙げることができ、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、R6からR10がそれぞれ独立にシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基はシクロペンチル又はシクロヘキシル基である。
【0045】
更に、上記一般式(VIII)で表される第2のアリール基において、R11からR15がそれぞれ独立に炭素原子数1から6のアルキル基であるとき、そのアルキル基の具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル基を挙げることができ、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、R11からR15がそれぞれ独立にシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基はシクロペンチル又はシクロヘキシル基である。
【0046】
特に、本発明によれば、X1からX3はそれぞれ独立に前記一般式(VII)で表される第1のアリール基であって、X1からX3のそれぞれにおいて、R6からR10の少なくとも1つはヒドロキシル基であり、残余は水素原子であることが好ましい。
【0047】
また、上記一般式(VIII)で表される第2のアリール基において、R11からR15のうち、1つがアルキル基であり、残余が水素原子であることが好ましく、R11からR15のうち、1つがアルキル基であるとき、そのアルキル基はメチル基であることが好ましく、そのアルキル基の置換位置は、限定されるものではないが、通常、p−位置が好ましい。
【0048】
本発明による最も好ましい1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、一般式(IX)
【0049】
【化11】

【0050】
(式中、Xは一般式(X)
【0051】
【化12】

【0052】
(式中、qは0、1又は2である。)
で表される第1のアリール基であり、Yは一般式(XI)
【0053】
【化13】

【0054】
(式中、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基であり、rは0、1又は2である。)
で表される第2のアリール基である。)
で表される。
【0055】
上記一般式(X)で表される第1のアリール基は、qが0であるとき、ヒドロキシフェニル基であり、qが1であるとき、ヒドロキシビフェニリル基であり、qが2であるとき、ヒドロキシテル(ter)フェニル基である。本発明において、好ましくは、qは0又は1である。本発明において、ヒドロキシル基の置換位置は、限定されるものではないが、通常、p−位置が好ましい。従って、一般式(X)で表される第1のアリール基は、好ましくは、4−ヒドロキシフェニル基又は4’−ヒドロキシビフェニリル基である。
【0056】
また、上記一般式(XI)で表される第2のアリール基において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基であり、Rがアルキル基であるとき、そのアルキル基の具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル基を挙げることができ、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、Rがシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基はシクロペンチル又はシクロヘキシル基である。しかし、好ましくは、Rは水素原子又はメチル基であり、その置換位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは、p−位置である。従って、一般式(XI)で表される第2のアリール基は、好ましくは、フェニル基、4−メチルフェニル基、ビフェニリル基又は4’−メチルビフェニリル基である。
【0057】
従って、本発明による好ましい1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類の具体例として、例えば、次式(1)
【0058】
【化14】

【0059】
で表されるN,N’,N”−トリフェニル−N,N’,N”−トリス(p−ヒドロキシフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(2)
【0060】
【化15】

【0061】
で表されるN,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−N,N’,N”−トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(3)
【0062】
【化16】

【0063】
で表されるN,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニル)−N,N’,N”−トリフェニルベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(4)
【0064】
【化17】

【0065】
で表されるN,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニル)−N,N’,N”−トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(5)
【0066】
【化18】

【0067】
で表されるN,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニル)−N,N’,N”−トリス(ビフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(6)
【0068】
【化19】

【0069】
で表されるN,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニリル)−N,N’,N”−トリス(4’−メチルビフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(7)
【0070】
【化20】

【0071】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(ビフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(8)
【0072】
【化21】

【0073】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(4’−メチルビフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(9)
【0074】
【化22】

【0075】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(ターフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(10)
【0076】
【化23】

【0077】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(4”−メチルターフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(11)
【0078】
【化24】

【0079】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリフェニルベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(12)
【0080】
【化25】

【0081】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(13)
【0082】
【化26】

【0083】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(ビフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン、次式(14)
【0084】
【化27】

【0085】
で表されるN,N’,N”− トリス(4”−ヒドロキシターフェニリル)−N,N’,N”−トリス(4’4−メチルビフェニリル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン等を挙げることができる。
【0086】
このような本発明による好ましい1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、例えば、1,3,5−トリハロベンゼン1モル部と保護基でヒドロキシル基を保護したヒドロキシアリールアミン3モル部を、好ましくは、炭化水素溶媒中、不活性ガス雰囲気下に塩基とパラジウム触媒を用いて加熱下に脱ハロゲン化水素反応させて、保護基で保護したヒドロキシル基を有する1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を得、得られた反応混合物からこれを抽出した後、シリカゲルクロマトグラフィーに付して精製し、必要に応じて、更に、再結晶精製した後、上記ヒドロキシル基を脱保護することによって得ることができる。
【0087】
また、別の製造方法として、1,3,5−トリアリールアミノベンゼン3モル部と保護基でヒドロキシル基を保護したヒドロキシアリールハライド1モル部を、好ましくは、炭化水素溶媒中、不活性ガス雰囲気下に塩基とパラジウム触媒を用いて加熱下に脱ハロゲン化水素反応させて、保護基で保護したヒドロキシル基を有する1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を得、この後、上述したように処理して、目的とする1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を得ることができる。
【0088】
本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有し、好ましい態様によれば、分子内に3つのヒドロキシル基を有するので、例えば、エタノールのような極性溶媒に溶解するが、トルエンのような非極性溶媒には溶解しない。更に、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、有機電子材料、特に、有機エレクトロルミネッセンス素子における機能層である正孔注入層、正孔輸送層又は発光層を形成するための有機電子材料として有用であり、特に、正孔注入層又は正孔輸層を形成するための送正孔注入剤又は正孔輸送剤として好適に用いることができる。
【0089】
従って、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造において、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を極性溶媒に溶解させてなる溶液を適宜の基材上に塗布し、乾燥することによって、正孔注入層又は正孔輸送層を形成することができる。但し、本発明による1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類の用途は、上記正孔注入剤又は正孔輸送剤の限定されるものではない。
【0090】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい一例を第1図に示すように、例えば、ガラスのような透明基板1上にITOからなる透明な陽極2が密着して積層、支持されており、この陽極上に正孔注入層3aと正孔輸送層3bと発光層4と金属又はその化合物からなる陰極5がこの順序で積層されてなるものである。上記陽極と陰極は外部の電源6に接続されている。従って、このような有機エレクトロルミネッセンス素子においては、陽極から正孔注入層と正孔輸送層を経て発光層に正孔が容易に注入され、発光層には上記陰極から電子が注入され、そこで、この発光層において、上記陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが再結合して発光を生じ、この発光層における発光が上記透明電極(陽極)と透明基板を通して外部に放射される。
【0091】
更に、本発明においては、場合によっては、前述したように、発光層と陰極との間に電子輸送層が積層されてもよく、また、余分な正孔が陰極側に抜け出るのを防止するために、ブロッキング層を設けてもよい。このように、本発明において、有機エレクトロルミネッセンス素子の層構造は、特に、限定されるものではない。
【0092】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子は、上述した本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む少なくとも1つの機能層を有し、好ましくは、上記正孔注入及び/又は輸送層が前述した1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類からなる正孔注入及び/又は輸送剤を含む。上述したように、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、極性溶媒に溶解するので、例えば、そのエタノール溶液を前記透明電極上に塗布し、乾燥して、正孔注入層を形成することができる。また、場合によっては、従来から知られている低分子量有機化合物を透明電極上に真空蒸着して正孔注入層を形成した後、この上に本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類のエタノール溶液を塗布し、乾燥して、正孔輸送層を形成することができる。この場合において、前述したように、正孔注入層を形成する低分子量有機化合物は、通常、非極性溶媒には溶解するが、極性溶媒には溶解しないので、上記正孔注入層上に本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類のエタノール溶液を塗布しても、正孔注入層は極性溶媒に溶解しない。
【0093】
本発明において、正孔注入層と正孔輸送層はいずれも、その膜厚は、通常、10〜200nmの範囲であり、好ましくは、20〜80nmの範囲である。勿論、透明電極上に本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類からなる単層の正孔注入輸送層を形成することができる。
【0094】
このようにして、例えば、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を用いて、透明電極上に正孔注入層を形成し、その上に、常法に従って、例えば、α−NPD等の正孔輸送剤からなる正孔輸送層を積層し、更に、この上に発光層と陰極を積層すれば、有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。同様に、適宜に形成した正孔注入層上に本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類からなる正孔輸送層を積層し、更に、この上に発光層と陰極を積層すれば、有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0095】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子は、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む少なくとも1つの層を有し、好ましくは、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む正孔注入及び/又は輸送層を有している。しかし、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含むそのような少なくとも1つの機能層、好ましくは、本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む正孔注入及び/又は輸送層以外の層、即ち、透明基板、本発明による上記機能層と組み合わせるその他の層、例えば、通常の正孔注入及び/又は輸送層、陽極、発光層、電子輸送層及び電極は、従来から知られているものが適宜に用いられる。陽極としては、酸化インジウム−酸化スズ(ITO)からなる透明電極が好ましく用いられ、陰極には、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀等の単体金属やこれらの合金、例えば、Al−Mg合金、Ag−Mg合金、フッ化リチウム等が用いられ、透明基板としては、通常、ガラス基板が用いられる。
【0096】
例えば、通常の正孔輸送剤としては、従来から知られている低分子量有機化合物、例えば、前述したようなα−NPD(4、4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル)やTPD(4、4’−ビス(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)ビフェニルが用いられ、また、通常の正孔注入剤としては、銅フタロシアニン等が用いられる。その膜厚は、通常、10〜200nmの範囲であり、好ましくは、20〜80nmの範囲である。有機発光層には、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3 )が用いられ、その膜厚は、通常、10〜200nmの範囲であり、好ましくは、20〜80nmの範囲である。また、有機エレクトロルミネッセンス素子が電子輸送層を含むときは、その膜厚は、通常、10〜200nmの範囲であり、好ましくは、20〜80nmの範囲である。
【0097】
本発明による1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、その用途において何ら限定されるものではなく、上述した有機エレクトロルミネッセンス素子における正孔注入剤、正孔輸送剤、発光層におけるホスト剤のほか、例えば、太陽電池における有機半導体、電子写真装置における電荷輸送材料等にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0098】
実施例1
N,N’,N”−トリフェニル−N,N’,N”−トリス(p−ヒドロキシフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン(前記式(1)の化合物)を次のスキームに従って合成した。
【0099】
【化28】

【0100】
t−ブチルジメチルシリル基にてヒドロキシル基が保護された4−ヒドロキシフェニルフェニルアミン(式(a)の化合物)6.0g、1,3,5−トリブロモベンゼン(式(b)の化合物)3.19g、ナトリウムt−ブトキシド5.82g及びキシレン80mLを200mL容量の三口フラスコに仕込み、攪拌しながら、120℃に加熱した。次いで、この混合物を上記温度に保ちながら、これに酢酸パラジウム0.02gとトリt−ブチルホスフィン0.04gを加え、攪拌下に120℃で6時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物をトルエンにて抽出し、この抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した後、トルエン/エタノール(容量比1/5)から再結晶して、式(c)の化合物3.34gを白色固体として得た。次いで、この式(c)の化合物にテトラヒドロフラン中にてフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムを作用させて、目的とする前記式(1)の化合物2.2gを得た。
【0101】
融点:125℃
ガラス転移温度:観測されず
元素分析値:
C H N
計算値 80.36 5.30 6.69
測定値 80.32 5.40 6.60
赤外線吸収スペクトル(KBr法):
図2に示す。
質量分析による分子量((M+1)/Z):628
【0102】
実施例2
N,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニル)−N,N’,N”−トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン(前記式(4)の化合物)を次のスキームに従って合成した。
【0103】
【化29】

【0104】
t−ブチルジメチルシリル基にてヒドロキシル基が保護された4’−ブロモ−4−ヒドロキシル基ビフェニル(式(d)の化合物)10.0g、N,N’,N”− トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミン(式(e)の化合物)1.97g、ナトリウムt−ブトキシド2.88g及びキシレン50mLを100mL容量の三口フラスコに仕込み、攪拌しながら、120℃に加熱した。次いで、この混合物を上記温度に保ちながら、これに酢酸パラジウム0.01gとトリt−ブチルホスフィン0.02gを加え、攪拌下に120℃で6時間反応を行った。反応終了後、得られた反応生成物をトルエンにて抽出し、この抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した後、トルエン/エタノール(容量比2/7)から再結晶して、式(f)の化合物2.79gを白色固体として得た。次いで、この式(f)の化合物にテトラヒドロフラン中にてフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムを作用させて、目的とする前記式(4)の化合物1.7gを得た。
【0105】
この化合物100gを室温で溶解させるための溶媒の最小量を求めたところ、エタノールは60mLであった。しかし、トルエンの場合には、300mLまでの量では、溶解させることができなかった。
【0106】
融点:169℃
ガラス転移温度:123℃
元素分析値:
C H N
計算値 84.25 5.72 4.68
測定値 84.42 5.61 4.55
赤外線吸収スペクトル(KBr法):
図3に示す。
質量分析による分子量((M+1)/Z):899
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明による1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、分子内に少なくとも1つのヒドロキシアリール基を有し、好ましい態様によれば、分子内に3つのヒドロキシアリール基を有するので、例えば、エタノールのような極性溶媒に溶解するが、トルエンのような非極性溶媒には溶解せず、一方において、本発明による1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類は、有機電子材料として、例えば、正孔注入性及び正孔輸送性にすぐれているので、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造において、正孔注入剤又は正孔輸送剤として好適に用いることができる。
【0108】
特に、有機エレクトロルミネッセンス素子の製作において、本発明による1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を極性溶媒に溶解させてなる溶液を適宜の基材上に塗布し、乾燥することによって、即ち、塗布法によって、正孔注入層又は正孔輸送層を形成することができ、しかも、この際、基材が非極性溶媒には溶解するが、極性溶媒には溶解しない有機化合物を含む場合であっても、そのような基材上に塗布法によって、本発明による1,3,5−1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む機能層を形成して、性能にすぐれる有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、X1からX6はそれぞれ独立に一般式(II)
【化2】

(式中、R1からR6はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、mは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示し、X1からX6の少なくとも1つにおいて、R1からR6の少なくとも1つはヒドロキシル基である。)
で表される1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。
【請求項2】
一般式(III)
【化3】

(式中、X1からX3はそれぞれ独立に一般式(IV)
【化4】

(式中、R6からR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、nは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示し、X1からX3の少なくとも1つにおいて、R6からR10の少なくとも1つはヒドロキシル基であり、Y1からY3はそれぞれ独立に一般式(V)
【化5】

(式中、R11からR15はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基を示し、pは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示す。)
で表される1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。
【請求項3】
一般式(VI)
【化6】

(式中、X1からX3はそれぞれ独立に一般式(VII)
【化7】

(式中、R6からR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基、炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基又はヒドロキシル基であり、nは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示し、X1からX3のそれぞれにおいて、R6からR10の少なくとも1つはヒドロキシル基であり、Y1からY3はそれぞれ独立に一般式(VIII)
【化8】

(式中、R11からR15はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1から6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基を示し、pは0、1又は2である。)
で表されるアリール基を示す。)
で表される1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。
【請求項4】
一般式(IX)
【化9】

(式中、Xは一般式(X)
【化10】

(式中、qは0、1又は2である。)
で表される第1のアリール基であり、Yは一般式(XI)
【化11】

(式中、Rは水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数5若しくは6のシクロアルキル基であり、rは0、1又は2である。)
で表される第2のアリール基である。)
で表される1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。
【請求項5】
N,N’,N”−トリフェニル−N,N’,N”−トリス(p−ヒドロキシフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンである請求項1に記載の1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。
【請求項6】
N,N’,N”− トリス(4’−ヒドロキシビフェニル)−N,N’,N”−トリス(4−メチルフェニル)ベンゼン−1,3,5−トリアミンである請求項1に記載の1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む少なくとも1つの機能層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の1,3,5−トリス(ジアリールアミノ)ベンゼン類を含む正孔注入層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−280635(P2010−280635A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136760(P2009−136760)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】