説明

新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物、及びその製造方法

【課題】薬品、肥料等の有機化学工業用材料として有用な新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物を製造し得る製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(3)で表されるエステル化合物のカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第1工程と、第1工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第2工程と、を含む2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法である。
【化1】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬品、肥料等の有機化学工業用材料として有用な新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素原子は大きな電気陰性度を持ち、原子量が19と大きいにもかかわらずファンデルワールス半径が水素についで小さく、コンパクトで電子が密に詰まっている構造をもつ。それ故、含フッ素化合物は非含フッ素化合物とは違ったユニークな反応をし、耐熱性、耐薬品性など特異的性質をもつものも多く、その特異的構造は有機化学的分野から見ても非常に興味深い。
【0003】
含フッ素化合物として、ヘキサフルオロプロペンオキシド(HFPO)は、テフロン(登録商標)FEPなどの原料モノマーとして知られるヘキサフルオロプロペン(HFP)の酸化により得られ、含フッ素ポリエーテル系オリゴマーまたはポリマーの原料モノマーとして工業的に大量生産されており、安価でかつ容易に入手することができる。また、一部のHFPOの製造工程において、終末ガスの未回収HFPOはメタノールでトラップされ、以下の反応式に示すように反応し、大量のメチル2−メトキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオナート(以下、「Me−MTFPA」と称する。)が生成されるが、そのほとんどは未使用のまま分解処理されている。従って、Me−MTFPAを部分骨格とし、有用な骨格に誘導できれば、安価な原料で新規合成ルートを開発できることになり、有用である。
また、メタノールの代わりに種々のアルコールとHFPOとの反応を行えば、カルボニルα位に種々のアルコキシ基を持つ2−アルコキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオン酸エステルを合成できることはすでに明らかにされている(非特許文献1参照。)。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながら、Me−MTFPAを代表とする2−アルコキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオン酸エステルは、α−ハロエステルの一種であるが、一般的なα−ハロエステルとは異なる反応性を示し、新規合成ルートの開発は一筋縄では行かない。例えば、α−ブロモエステルに求核試薬としてナトリウム メトキシドを作用させると、α位のブロモがメトキシ基に置換され、これを亜鉛で処理すると、Reformatsky試薬が調製できる。これに対してMe−MTFPAに同様の操作を行っても反応はまったく進行しない。
【0006】
Me−MTFPAで上記の反応が進行しない理由は、2つ考えられる。1つ目は、フッ素であるためにハロゲンの脱離が起こりにくいこと、2つ目は、電子吸引基であるトリフルオロメチル基がsp炭素に直結しているため、求核置換反応が進行しにくいことである。これは、類似のトリフルオロエチルヨージドの場合に脱離能が高いヨウ素でも反応が進行しにくいこと(非特許文献2および3参照)から、脱離基がフッ素ではなお反応が起こりにくいと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石川延男,有機合成化学協会誌,1977,vol. 35,131.
【非特許文献2】T. Nakai, K. Tanaka, N. Ishikawa, Chem. Lett., 1976, 1263.
【非特許文献3】T. Nakai, K. Tanaka, N. Ishikawa, J. Fluorine Chem., 1977, 1379.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、薬品、肥料等の有機化学工業用材料として有用な新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物を提供することを目的とする。
また、本発明は、安価で容易に入手可能な原料を用いて製造することができる2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ヘキサフルオロプロペンオキシド(HFPO)を各種アルコールと反応させることによって容易に得られる2−アルコキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオン酸エステル(代表的には、メタノールとHFPOとの反応生成物であるMe−MTFPA)のカルボニルα位の特異な構造に着目し、このエステル誘導体の反応性を明らかにし、有機合成に活用すべく検討を行い、本発明を想到するに至った。
前記課題を解決する手段は以下の通りである。
【0010】
(1)下記一般式(1)で表される新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物。
【0011】
【化2】


[一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]たとえば、Rは、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基、アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基なども含む。
【0012】
(2)下記一般式(2)で表される新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物。
【0013】
【化3】


[一般式(2)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、R3は、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
【0014】
(3)下記一般式(3)で表されるエステル化合物のカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第1工程と、
前記第1工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第2工程と、
を含むことを特徴とする2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物。
【0015】
【化4】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]たとえば、Rは、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基、アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基なども含む。
【0016】
(4)下記一般式(3)で表されるエステル化合物のエステル基内のアルコキシ基をアルキル基又はアリール基で置換し、ケトン体を生成する第1工程と、
前記第1工程で得られたケトン体におけるカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第2工程と、
第2工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第3工程と、
を含むことを特徴とする2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法。
【0017】
【化5】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]たとえば、Rは、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基、アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基なども含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、薬品、肥料等の有機化学工業用材料として有用な新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物を提供することができる。
また、本発明は、安価で容易に入手可能な原料を用いて製造することができる2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物は、第1の態様によると、下記一般式(1)で表される。
【0020】
【化6】


[一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]たとえば、Rは、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基、アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基なども含む。
【0021】
本発明の化合物の一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基などの単純なアルキル基、フッ素やアルコキシ基などの置換基をもつアルキル基(たとえば、Rは、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基,アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基など)、ベンジル基などが挙げられる。
一方、Rは、炭素数1〜22のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、長鎖アルキル基、ベンジル基などが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。Rが置換基を有する場合、該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜18のアリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0022】
また、本発明の新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物は、第2の態様によると、下記一般式(2)で表される。
【0023】
【化7】


[一般式(2)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、R3は、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数1から6のアルキル基を表す。]
【0024】
一般式(2)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基などの単純なアルキル基、フッ素やアルコキシ基などの置換基をもつアルキル基(たとえば、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基,アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基など)、ベンジル基などが挙げられる。
一方、R3は、炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数1から6のアルキル基を表し、アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基などが挙げられる。Rが置換基を有する場合、該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜18のアリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0025】
以上の本発明の化合物は、以下に示す本発明の2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法により製造することができる。以下に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、第1の態様によると、下記一般式(3)で表されるエステル化合物のカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第1工程と、前記第1工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第2工程と、を含むことを特徴としている。
【0026】
【化8】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]たとえば、Rは、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基、アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基なども含む。
【0027】
前記一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基などの単純なアルキル基、フッ素やアルコキシ基などの置換基をもつアルキル基(たとえば、CF(CF(CH(m=0〜20,n=1〜2)のようなフルオロアルキル基,アルキル基中のCHがOに置換されたアルコキシアルキル基など)、ベンジル基などが挙げられる。
一方、Rは、炭素数1〜22のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、長鎖アルキル基、ベンジル基などが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。Rが置換基を有する場合、該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜18のアリール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0028】
以下に、本発明の製造方法の第1の態様について工程ごとに詳述する。なお、以下の説明において、一般式(3)で表されるエステル化合物の具体例として、Me−MTFPAを挙げて説明することがある。
【0029】
上述の通り、Me−MTFPAにおいては、一般的なα−ハロエステルの反応性とは異なる反応性を示し、カルボニル基のα位にアルキル基を導入しようとしても反応は進行しない。Me−MTFPAに対するKeckラジカルアリル化反応も然りである。
そこで、Me−MTFPAのカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換し、当該置換の後にKeckラジカルアリル化反応を行えば、結果的にMe−MTFPAのカルボニル基のα位のフッ素をアリル基に置換することができる。すなわち、安定な炭素-フッ素結合ではなく、他の炭素-ハロゲン結合(例えば、炭素-塩素、炭素-臭素結合)に変換すれば、結合の開裂がしやすくなる。
以下に、各工程について順次説明する。
【0030】
[第1工程]
第1工程は、前記一般式(3)で表されるエステル化合物のカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する工程である。
一般に、フッ素原子では原子核が電子を強く引きつけているため、他の元素との相互作用が低いと推察されるが、特定の元素(ホウ素、アルミニウム)との結合エネルギーが非常に大きく、この相互作用を利用すれば強固な炭素−フッ素結合を切断することができる場合がある(下記表1参照)。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明らは、上記のようなフッ素の性質を利用し、以下に示すように、Me−MTFPAにハロゲン化アルミニウム試薬(AlCl、AlBr)を作用させると、カルボニル基のα位のフッ素が、対応するハロゲン元素に速やかに置換されることを見出している。
【0033】
【化9】

【0034】
第1工程においては、例えば、−80〜−50℃に冷却した塩化アルミニウムのジクロロメタン溶液に、Me−MTFPAのジクロロメタン溶液を滴下し、−80〜−50℃の温度下、3〜4時間反応させることで置換反応を行うことができる。
各原料を溶解する溶媒としては、ジクロロメタンの他、1,1,2,2-テトラクロロエタン、HFE-7100, AK-225などを使用することができる。
【0035】
以上の反応により、Me−MTFPAのカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換することができる。そして、この置換後の化合物であれば、以下に示すKeckラジカルアリル化反応(第2工程)を進行させることができる。
【0036】
[第2工程]
第2工程は、前記第1工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す工程である。まず、Keckラジカルアリル化反応について説明する。
【0037】
(Keckラジカルアリル化反応)
Keckラジカルアリル化とは、ラジカル開始剤存在下のアリルトリブチルスタナンとのハロゲン化アルキルとのアリル−ハロゲン交換反応のことであり、以下の反応により進行する。
【0038】
【化10】

【0039】
一般的に提唱されている反応機構は、以下に示すように、まず第一段階でラジカル開始剤(AIBN:アゾビスイソブチロニトリル)からイソブチロニトリルラジカルが発生し、アリルトリブチルスタナンのC−C二重結合に付加し、スタニルラジカルが発生する。
【0040】
【化11】

【0041】
そして以下に示すように、スタニルラジカルがアルキルハライドのC−X結合をホモリティックに開裂させ、ハロゲンが脱離してスタニルハライドが生成すると同時に発生したアルキルラジカルがアリルトリブチルスタナンの不飽和結合部位に攻撃してアリル化が進行する。反応機構から、このラジカル反応の進行のためにはアルキルハライドに対して2当量のアリルトリブチルスタナンが必要となる。
【0042】
【化12】

【0043】
なお、停止反応としては,以下の反応が起こっていると考えられる。
【0044】
【化13】

【0045】
なお、Keckラジカルアリル化反応は、以下の(1)〜(8)の文献に記載されている。
(1)Grignon, J., Pereyre, M. Mechanism of the substitution of halogen derivatives by allylic organotin compounds. J. Organomet. Chem. 1973,61, C33-C35.
(2)Kosugi, M., Kurino, K., Takayama, K., Migita, T. Reaction of organic halides with allyltrimethyltin. J. Organomet. Chem. 1973, 56, C11-C13.
(3)Grignon, J., Servens, C., Pereyre, M. Reactivity of allylic organotin compounds with halogen derivatives. Synthetic aspects and mechanism.J. Organomet. Chem. 1975, 96, 225-235.
(4)Keck, G. E., Yates, J. B. Carbon-carbon bond formation via the reaction of trialkylallylstannanes with organic halides. J. Am. Chem. Soc.1982, 104, 5829-5831.
(5)Jarosz, S., Kozlowska, E. Synthesis and application of allyltin derivatives in organic chemistry. Pol. J. Chem. 1998, 72, 815-831.
(6)Walton, J. C. Homolytic substitution: a molecular menage a trois. Acc. Chem. Res. 1998, 31, 99-107.
(7)Marshall, R. L. Product subclass 28: allylstannanes. Science of Synthesis 2003, 5, 573-605.
(8)Thomas, E. J. Tin compounds. Science of Synthesis 2003, 5, 195-204.
【0046】
本発明においては、以上のようにして、第1工程により得られた化合物にKeckラジカルアリル化反応を施すことで、カルボニル基のα位のハロゲン元素をアリル基に置換することができる。
【0047】
第2工程のKeckラジカルアリル化反応は、反応の引き金として過酸化ベンゾイル(BPO)などのラジカル開始剤を用いるので、その分解温度以上の反応温度が必要となる。一般的には、有意な反応時間の設定には、ラジカル開始剤の半減期が重要であり、BPOを用いたKeckラジカルアリル化反応の場合には、反応温度80℃、反応時間24時間が一般的である。80℃より低い反応温度では、反応時間が長くなり経済的でない。反応温度を高くすると、反応時間が短縮されるが副反応の可能性やエネルギーの非効率が問題となる。また、溶媒としては、ラジカルとの反応性が低いことが必須であるが、沸点が80℃より高く、後処理で除去しやすいことも要因として重要である。たとえば、トルエンがもっとも使いやすい。
【0048】
次に、本発明の製造方法の第2の態様について説明する。
第2の態様による本発明の製造方法は、下記一般式(3)で表されるエステル化合物のエステル基内のアルコキシ基をアルキル基又はアリール基で置換し、ケトン体を生成する第1工程と、前記第1工程で得られたケトン体におけるカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第2工程と、第2工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第3工程と、を含むことを特徴としている。
【0049】
【化14】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、置換基を有していてもよいRは、炭素数1〜22のアルキル基を表す。]
【0050】
一般式(3)で表されるエステル化合物は、第1の態様において説明したのでここでは省略する。
【0051】
以下に、本発明の製造方法の第2の態様について詳述する。なお、以下の説明において、一般式(3)で表されるエステル化合物の具体例として、第1の態様に対する説明と同様に、Me−MTFPAを挙げて説明することがある。
【0052】
第2の態様においては、一般式(3)で表されるエステル化合物のエステル基内のアルコキシ基をアルキル基又はアリール基で置換してケトン体を生成し(第1工程)、このケトン体を生成後は、第1の態様と同様に、カルボニル基のα位のフッ素を塩素又は臭素に置換し(第2工程)、この第2工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す(第3工程)。第2の態様の第2工程及び第3工程は、第1の態様の第1工程及び第2工程と同じであり、第1工程のみを以下に説明する。
【0053】
[第1工程]
第1工程では、一般式(3)で表されるエステル化合物のエステル基内のアルコキシ基をアルキル基又はアリール基で置換し、ケトン体を生成する。当該置換反応では、例えば、以下に示すようにアリールリチウム(R−Li)を求核剤として用い、アリールケトン体の合成を行う。
【0054】
【化15】

【0055】
一方、アルキル基で置換する場合には、アルキルリチウム、たとえばn-butyllithiumを用いれば、ブチル 2,3,3,3-テトラフルオロ-2-メトキシプロピル ケトンの合成を達成できる。
【0056】
以上のように、目的のアリールケトン合成に、グリニャール試薬でなく、アリールリチウムを求核試薬として用いたのは、2倍モル量の臭化アリールマグネシウム(グリニャール試薬)を用いた場合には、カルボニル炭素に直結したメトキシ基が残存したケトンが生成してしまうことが本発明らの研究により明らかにされているためである。
【0057】
さらに具体的には、以下のように、Me−MTFPAのカルボニル炭素に直結するメトキシ基をフェニル基、ビフェニル基に置換する反応を行い、目的のプロピオフェノン骨格の化合物と4−プロピオニルビフェニル骨格の化合物を合成することができる。
【0058】
【化16】

【0059】
なお、4−プロピオニルビフェニル骨格の化合物は、以下のように、4−ブロモビフェニルをn−ブチルリチウムで処理して、4−リチウムビフェニルを発生させ、Me−MTFPAと反応させることで合成することができる。
【0060】
【化17】

【0061】
第1工程は、アルゴン雰囲気下,−50〜−90℃好ましくは−78℃に冷却したMe-MTFPAのTHF溶液に、アルキルリチウムやアリールリチウムのn−ヘキサン溶液、エーテル溶液あるいはTHF溶液をゆっくり滴下し、温度を維持したままで1時間から4時間、好ましくは2時間撹拌後,精製水を徐々に加え、室温まで昇温する。エーテルによる抽出、無水流酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去の後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにかけて目的のケトン体を得る。
【0062】
以上のようにして得られたケトン体に対し、第2工程及び第3工程を施し、カルボニル基のα位のフッ素をアリル化する。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
(1)2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−プロピオン酸メチルエステルの合成
アルゴン雰囲気下、塩化アルミニウム2.12g(16mmol)のCHCl溶液(20ml)を−78℃に冷却し、Me−MTFPA 1.90g(10mmol)のCHCl溶液(6ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で3時間撹拌後、飽和NHCl水溶液を徐々に加えながら室温まで昇温させ反応を停止させた。得られた反応混合物をCHCl抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣を蒸留した。収量は1.32g(6.4mmol)であり、収率は64%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0065】
【化18】

【0066】
得られた2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−プロピオン酸メチルエステルのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 0.29 (3F,s),Et2O
1H-NMRδ[ppm]3.66(OMe,3H,s),3.96((C=O)OMe,3H,s),CDCl3
IR[cm-1]1764(C=O)
MS[m/e] 147,149(M+-CO2Me),59(M+-CF3CCl(OMe))
【0067】
(2)2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテン酸メチルエステルの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン4.22g(13mmol)に2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−プロピオン酸メチルエステルに対し15mol%のAIBN 0.15g(0.90mmol)を加え、さらに2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−プロピオン酸メチルエステル1.24g(6mmol)のトルエン溶液6mlを加え、80℃で24時間撹拌した。常温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣を蒸留した。収量は1.08g(4.5mmol)であり、収率は75%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0068】
【化19】

【0069】
得られた2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテン酸メチルエステルのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 7.62 (3F,s), Et2O
1H-NMRδ[ppm] 2.72(2H,-CH2-,d) 3.83(Me,3H,s), 5.86(CH2=CH-,3H,m), CDCl3
IR [cm-1]1759(C=O)
MS[m/e] 153(M+-CO2Me),59(M+-CF3C(CH2CH=CH)(OMe))
【0070】
[実施例2]
(1)2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオン酸メチルエステルの合成
アルゴン雰囲気下、臭化アルミニウム2.80g(10mmol)のCHCl溶液(10ml)を−78℃に冷却し、Me−MTFPA 1.33g(7mmol)のCHCl溶液(4ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で3時間撹拌後、飽和NHCl水溶液を徐々に加えながら室温まで昇温させ反応を停止させた。得られた反応混合物をCHCl抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣を蒸留した。収量は0.67g(2.7mmol)であり、収率は38%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0071】
【化20】

【0072】
得られた2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオン酸メチルエステルのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm](3F,s)-2.34,Et2O
1H-NMRδ[ppm]3.92( OMe,3H,s),3.69( (C=O)OMe,3H,s),CDCl3
IR [cm-1] (C=O)
MS[m/e] 191,193(M+-CO2Me),59(M+-CF3CBr(OMe))
【0073】
(2)2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテオン酸メチルエステルの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン3.97g(12mmol)に2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオン酸メチルエステルに対し15mol%のAIBN 0.15g(0.90mmol)を加え、さらに2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオン酸メチルエステル1.51g(6mmol)のトルエン溶液6mlを加え、80℃で24時間撹拌した。室温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣を蒸留した。収量は0.83g(3.9mmol)であり、収率は65%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0074】
【化21】

【0075】
[実施例3]
(1)2,3,3,3−テトラフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンの合成
アルゴン雰囲気下、Me−MTFPA2.85g(15mmol)のTHF溶液(15ml)を−78℃に冷却し、1.2倍モル量のフェニルリチウム(1.04M solution in Cyclohexane−EtO)16.7ml(18mmol)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で2時間撹拌した。精製水を徐々に加えながら室温まで昇温し、反応を停止させ、EtO抽出、無水流酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去の後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=4:1)にかけた。収量は2.27g(9.3mmol)であり、収率は62%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0076】
【化22】

【0077】
得られた2,3,3,3−テトラフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm](3F,s)-1.32,(1F,s)-53.69,neat
1H-NMRδ[ppm] 3.64(OMe,3H,s) 7.51-8.13(5H,s),CDCl3
IR [cm-1] 1702(C=O)
MS[m/e] 131,(M+-(CO)Ph),105(M+-CF3CF(OMe))
【0078】
(2)2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンの合成
アルゴン雰囲気下、塩化アルミニウム1.04g(7.8mmol)のCHCl溶液(10ml)を−78℃に冷却し、2,3,3,3−テトラフルオロ−2−メトキシプロピオフェノン1.18g(5mmol)のCHCl溶液(3ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で3時間撹拌後、飽和NHCl水溶液を徐々に加えながら室温まで昇温させ反応を停止させた。得られた反応混合物をCHCl抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は0.78g(3.1mmol)であり、収率は62%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0079】
【化23】

【0080】
得られた2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 4.98 (3F,s),CH2Cl2
1H-NMRδ[ppm]3.74(OMe,3H,dd) 7.45-8.13(5H,m)
IR [cm-1]1708(C=O)
MS[m/e] 217(M+-Cl),105(M+-CF3CCl(OMe)) 147,149(M+-(CO)Ph)
【0081】
(3)2−メトキシ−1−フェニル−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノンの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン2.89g(9.3mmol)に2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンに対し15mol%のAIBN0.091g(0.56mmol)を加え、さらに2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノン0.92g(3.7mmol)のトルエン溶液3.7mlを加え、80℃で24時間撹拌した。常温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は0.52g(2.0mmol)であり、収率は54%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0082】
【化24】

【0083】
得られた2−メトキシ−1−フェニル−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 8.64 (3F,s), CDCl3
1H-NMRδ[ppm] 2.72(-CH2-,d), 3.83(3H,s), 5.86(CH2=CH-,m),CDCl3
IR [cm-1]1689(C=O)
MS[m/e] 153(M+-(C=O)Ph),105(M+-CF3C(CH2CH=CH)(OMe))
【0084】
[実施例4]
(1)3−テトラフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンの合成
アルゴン雰囲気下、4−ブロモビフェニル2.82g(12mmol)のTHF溶液(10ml)を−78℃に冷却し、TMEDA 1.8ml(12mmol)を加え、n−ブチルリチウム7.5ml(12mmol)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で1時間撹拌した後、Me−MTFPA1.90g(10mmol)のTHF溶液(10ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で2時間撹拌後、精製水を徐々に加えながら室温まで昇温し、反応を停止させ、EtO抽出、無水流酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去の後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は2.25g(7.21mmol)であり、収率は72%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0085】
【化25】

【0086】
得られた3−テトラフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] -7.76 (3F,s), -56.24 (1F,s), Et2O
1H-NMRδ[ppm]3.66(3H,s),7.24-7.73(9H,m),CDCl3
IR [cm-1]1697(C=O)
MS[m/e] 131,(M+-(CO)(p-bPh)),181(M+-CF3CF(OMe))
※p-bPhは、p-biphenylを示す。
【0087】
(2)2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンの合成
アルゴン雰囲気下、塩化アルミニウム1.88g(14mmol)のCHCl溶液(28ml)を−78℃に冷却し、2,3,3,3−テトラフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノン3.08g(9mmol)のCHCl溶液(5.4ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で3時間撹拌後、飽和NHCl水溶液を徐々に加えながら室温まで昇温させ反応を停止させた。得られた反応混合物をCHCl抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は2.39g(7.3mmol)であり、収率は81%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0088】
【化26】

【0089】
得られた2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 4.91 (3F,s), CDCl3
1H-NMRδ[ppm] 3.76(OMe,3H,s),7.40-8.23(9H,m),CDCl3
IR [cm-1]1693(C=O)
MS[m/e] 153,(M+- CF3CCl(OMe)(C=O)),181(M+-CF3CCl(OMe))
【0090】
(3)1−(4−ビフェニル)−2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノンの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン2.65g(8mmol)に2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンに対し15mol%のAIBN 0.098g(0.60mmol)を加え、さらに2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノン1.32g(4mmol)のトルエン溶液4mlを加え、80℃で24時間撹拌した。室温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は2.25g(2.88mmol)であり、収率は72%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0091】
【化27】

【0092】
得られた1−(4−ビフェニル)−2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm](3F,s)8.72, CDCl3
1H-NMR[ppm] 2.95(-CH-,3H),3.48(3H,s)
5.13-5.86(CH2=CH,m)7.39-8.26(9H,m),CDCl3
IR [cm-1]1671(C=O)
MS[m/e] 153(M+-(C=O)Ph),181(M+-CF3C(CH2CH=CH)(OMe))
【0093】
[実施例5]
(1)2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンの合成
アルゴン雰囲気下、臭化アルミニウム1.87g(7mmol)のCHCl溶液(10ml)を−78℃に冷却し、2,3,3,3−テトラフルオロ−2−メトキシプロピオフェノン1.18g(5mmol)のCHCl溶液(3ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で3時間撹拌後、飽和NHCl水溶液を徐々に加えながら室温まで昇温させ反応を停止させた。得られた反応混合物をCHCl抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は0.62g(2.1mmol)であり、収率は42%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0094】
【化28】

【0095】
得られた2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 5.57 (3F,s),CH2Cl2
1H-NMRδ[ppm]3.74(OMe,3H,dd), 7.44 -8.13 (5H,m),
IR [cm-1]1702(C=O)
MS[m/e] 217(M+-Br),105(M+-CF3CBr(OMe)) ,191,193(M+-(CO)Ph)
【0096】
(2)2−メトキシ−1−フェニル−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノンの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン3.01g(9mmol)に2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノンに対し15mol%のAIBN0.11g(0.68mmol)を加え、さらに2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシプロピオフェノン1.35g(4.5mmol)のトルエン溶液4.5mlを加え、80℃で24時間撹拌した。常温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=7:3)にかけた。収量は0.67g(2.6mmol)であり、収率は57%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0097】
【化29】

【0098】
[実施例6]
(1)2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンの合成
アルゴン雰囲気下、臭化アルミニウム2.30g(8.6mmol)のCHCl溶液(13.2ml)を−78℃に冷却し、2,3,3,3−テトラフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノン2.06g(6.6 mmol)のCHCl溶液(3.6ml)をゆっくり滴下した。そのまま−78℃で3時間撹拌後、飽和NHCl水溶液を徐々に加えながら室温まで昇温させ反応を停止させた。得られた反応混合物をCHCl抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は1.24g(3.3mmol)であり、収率は50%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0099】
【化30】

【0100】
得られた2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンのスペクトルデータを以下に示す。
19F-NMRδ[ppm] 7.25 (3F,s),CDCl3
1H-NMRδ[ppm] 3.77(OMe,3H,s),7.42-8.22 (9H,m), CDCl3
IR [cm-1]1691(C=O)
MS[m/e] ,(M+-(C=O)(p-bPh)),181(M+-CF3CBr(OMe))
【0101】
(2)1−(4−ビフェニル)−2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノンの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン1.98g(6mmol)に2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノンに対し15mol%のAIBN 0.074g(0.45mmol)を加え、さらに2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロ−2−メトキシ−(パラ−フェニル)−プロピオフェノン1.12g(3mmol)のトルエン溶液3mlを加え、80℃で24時間撹拌した。常温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−hexane:CHCl=3:2)にかけた。収量は0.52g(1.56mmol)であり、収率は52%であった。本合成過程の反応式を以下に示す。
【0102】
【化31】

【0103】
[比較例]
(1)2−メトキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテオン酸メチルエステルの合成
アルゴン雰囲気下常温で、アリルトリブチルスタナン1.98g(6mmol)に、Me−MTFPAに対し15mol%のAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)0.074g(0.45mmol)を加え、さらにMe−MTFPA0.57g(3mmol)のトルエン溶液3mlを加え、80℃で24 時間撹拌した。常温まで冷めた後、精製水を加え反応を停止させ、得られた反応混合物をEtO抽出、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、溶媒の減圧留去後、得られた油状残渣を19F−NMR、MSによって測定した。19F−NMR、MS測定の結果、原料ピークとの変化がみられなかったため反応は進まなかったと考えられる。
【0104】
以上の実施例1〜6で示したように、本発明の製造方法により、含フッ素化合物であるMe−MTFPAを出発物質として用い、2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物を製造することができたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物。
【化1】


[一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表される新規な2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物。
【化2】


[一般式(2)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、R3は、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
【請求項3】
下記一般式(3)で表されるエステル化合物のカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第1工程と、
前記第1工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第2工程と、
を含むことを特徴とする2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法。
【化3】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]
【請求項4】
下記一般式(3)で表されるエステル化合物のエステル基内のアルコキシ基をアルキル基又はアリール基で置換し、ケトン体を生成する第1工程と、
前記第1工程で得られたケトン体におけるカルボニル基のα位のフッ素を、塩素又は臭素に置換する第2工程と、
第2工程で得られた生成物に対しKeckラジカルアリル化反応を施す第3工程と、
を含むことを特徴とする2−アルコキシ−2−トリフルオロメチル−4−ペンテノイル化合物の製造方法。
【化4】


[一般式(3)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜22のアルキル基を表す。]

【公開番号】特開2010−265199(P2010−265199A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116835(P2009−116835)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】