説明

新規のバシトラシン抗生物質

本発明は、メチレン−イソロイシンを含有する新規のバシトラシン化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質活性を有する新規の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)及びバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)により天然で産生される、密接に関連するペプチド抗生物質の一群は、バシトラシンと呼ばれる。バシトラシンは一般に、多数のグラム陽性細菌種及び少数のグラム陰性細菌種に対して活性である。
【0003】
幾つかのバシトラシンが特定されており、それらの中でもバシトラシンAが最も重要であり、高い活性を有する(非特許文献1)。バシトラシンAは、非リボソームペプチド合成のチオテンプレート機序により合成される、分岐環状ドデカペプチドラクタム抗生物質である(非特許文献2及び非特許文献3)。
【0004】
バシトラシンAの一次構造は、NH−L−Ile−L−チアゾリン−L−Leu−D−Glu−L−Ile−L−Lys−D−Orn−L−Ile−D−Phe−L−His10−D−Asp11−L−Asn12−COOHであり、L−Lysのε−アミノ基とL−Asn12のR−カルボキシル基との間で環化されている(非特許文献4)。
【0005】
非特許文献5では、バシトラシンは、以下の式を有するペプチド化合物として記述された。
【0006】
【化1】

式中、
Xは、Ile又はValであり、
かつ
Yは、Ile又はValである。
【0007】
特に、R及びRは、活性バシトラシンのN末端部分であり、R及びRは、より低活性のバシトラシンの酸化N末端部分である。しかしながら、Rは、不活性立体異性体である。
【0008】
従来技術
Ikaiらは、バシトラシンの活性が、疎水性に依存する可能性があることを示唆した:
「MIC及び微量成分の提唱構造を比較すると、バリンの位置が、N末端、7員ペプチド環、及び側鎖ペプチド部分の順で、各成分の活性に影響を与える(減少させる)ことが示唆される。この順序は、HPLCでの微量成分の溶出順序と関連しているため、活性は、それぞれの成分の疎水性に依存する可能性がある」(非特許文献6を参照)。
【0009】
Wagnerらは、バシトラシンの応用における既存の制限を克服するために、バシトラシンAに新規のヘテロ環を組み込むことを示唆した(非特許文献4)。
幾つかの非リボソーム的に合成されたペプチドは、異常アミノ酸を含む。例えば、サイクロスポリンAは、2(S)−アミノ−3(R)−ヒドロキシ−4(R)−メチル−6(E)−オクテン酸を含み、これは、サイクロフィリンの細胞内受容体に結合するために重要であり、したがってその免疫抑制活性にとって重要である(非特許文献7)。
【0010】
幾つかの非通常アミノ酸は、イソロイシンの構造に似ている:
・新規のメチオニン類似体である2−アミノ−5−メチル−5−ヘキセン酸は、ストレプトミセスの発酵ブロスから単離された(非特許文献8)。
【0011】
・4メチレン−ノルロイシン及び2−アミノヘプタ−6−エン酸は、式:C13NOを有する化合物である。
・4−メチル−ノルロイシンは、組換えタンパク質に組み込むことができるイソロイシン誘導体である(非特許文献9)。
【0012】
・2−アミノ−3−メチル−4−ペンテン酸は、タンパク質に組み込むことができる不飽和イソロイシン類似体である(非特許文献10)。
・アマニタ・ソリタリア(Amanita solitaria)の不飽和ノルロイシン。化学的及び薬理学的研究により、2−アミノ−ヘキサ−5−エン酸が開示されている(非特許文献11)。
【0013】
・セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)により産生される抗代謝剤であるベータ−メチルノルロイシン(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Epperson及びMing、Biochemistry、39巻14号、2000年、4037〜45頁
【非特許文献2】Wagnerら、J.Am Chem Soc.128巻、2006年、10513〜10520頁
【非特許文献3】Kleinkauf及びvon Dohren、Eur J Biochem、192巻、1号、1990年、1〜15頁
【非特許文献4】Wagnerら、J.Am Chem Soc.128巻、10513〜10520頁、2006年
【非特許文献5】Mingら、Journal of Inorganic Biochemistry、91巻、2002年
【非特許文献6】Ikaiら、Journal of Antibiotics、48巻、3号、1995年、233〜242頁
【非特許文献7】Offenzellerら、Journal of Biological Chemistry、268巻、35号 1993年
【非特許文献8】Takeuchiら、Journal of Antibiotics 32巻 11号 1118〜1124頁、1979年
【非特許文献9】Muramatsuら、J Pharm Biomed Anal、31巻、5号、2003年、979〜987頁
【非特許文献10】Mockら、Chembiochem 7巻 1号、2006年、83〜87頁
【非特許文献11】Chiltonら、Lloydia 36巻 2号、1973年、69〜73頁
【非特許文献12】Sugiuraら、J Antibiot、34巻 10号、1981年 1278〜82頁
【発明の概要】
【0015】
1つの態様では、本発明は、新規のバシトラシン化合物に関する。より詳しくは、本発明は、これまでに知られていないアミノ酸側鎖を含む新規のバシトラシン化合物に関する。
【0016】
理論により束縛されないが、本発明者らは、バチルス・スブチリス及びバチルス・リケニフォルミスでは、この側鎖が、バシトラシンの化学的修飾又はこれまでに知られていない天然アミノ酸の取りこみから生じると推測する。
【0017】
新規の側鎖を含むα−アミノ酸化合物の系統名は、2−アミノ−3−メチル−5−ヘキセン酸であり、その分子式は、C13NOである。
本発明者らは、2−アミノ−3−メチル−5−ヘキセン酸について、5−メチレン−イソロイシンという名称を提案し使用する。したがって、5−メチレン−イソロイシン側鎖は、構造−CH(CH)CHCH=CHを有する。
【0018】
したがって、本発明は、少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。そのようなバシトラシンは、少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシンの側鎖を含む。5−メチレン−イソロイシンの側鎖は、以下のように表すことができる:
【0019】
【化2】

本発明は、1つ又は複数の5−メチレン−イソロイシンの側鎖を含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
【0020】
本発明によるバシトラシンは、少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を、1位及び/又は5及び/又は8位に含む。そのような化合物は、以下の構造を有する。
【0021】
【化3】

式中、
、R、及びRの少なくとも1つは、−CH=CHであり、
かつ
、R、及びRは、独立して−H、−CH、又は−CH=CHである。
【0022】
上記の構造は、仮にR、R、及びRが全て−CHであった場合、バシトラシンAを包含すると解釈されるべきである。
したがって、バシトラシンAは、以下のように表されることになる。
【0023】
【化4】

本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を5位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンJ1という名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの溶出順序に基づいている。
【0024】
本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を8位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンJ2という名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの溶出順序に基づいている。
【0025】
本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を1位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンJ3という名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの溶出順序に基づいている。
【0026】
本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を5位及び8位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンK1という名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの予測される溶出順序に基づいている。
【0027】
本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び5位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンK2という名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの予測される溶出順序に基づいている。
【0028】
本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び8位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンK3という名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの予測される溶出順序に基づいている。
【0029】
本発明者らは、5−メチレン−イソロイシン残基を1位、5位、及び8位に含む本発明によるバシトラシンについて、バシトラシンLという名称を提案し使用する。この命名法は、C18カラムからの予測される溶出順序に基づいている。
【0030】
本発明の態様は、下記の本発明の説明及び/又は添付の特許請求の範囲に示されている特徴により得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】YMC−Pack Pro C18カラム(5μm、250×2.0mm)を30℃で使用して得られた、Axellia社製の市販ロット(BANN211412)の254nmにおけるUVクロマトグラムを示す図である。移動相は、メタノール/アセトニトリル/0.1M酢酸アンモニウムpH6.0/水 58:5:10:27、v/v/v/vで構成されていた。0.2ml/分の流速で、定組成条件を使用した。注入容積は、10μlであった。バシトラシンAを除いて、バシトラシンJ1、バシトラシンJ2、及びバシトラシンJ3と表示されている3つの微量成分は全て、バシトラシンAよりも12Da大きい分子量を有しており、目印が付けてある。
【図1B】対応するMS TICクロマトグラムを示す図であり、表示は、図1Aと同じである。
【図2A】バシトラシンAの構造を示す図であり、断片イオンの帰属は、下記のプロダクトイオンスペクトルの特徴的イオンについて実施されている。
【図2B】バシトラシンAのプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルを示す図であり、m/z 712.0([M+2H]2+)の前駆イオンが単離及び断片化された。
【図3A】バシトラシンAの環状部分の構造を示す図であり、断片イオンの帰属は、下記の二次生成プロダクトイオンスペクトルの特徴的イオンについて実施されている。
【図3B】バシトラシンAの二次生成プロダクトイオン(MS)スペクトルを示す図であり、連続する前駆イオンは、m/z 712.0([M+2H]2+)及びm/z 869.6([M+H])であった。
【図4A】バシトラシンJ1の構造を示す図であり、断片イオンの帰属は、下記のプロダクトイオンスペクトルの特徴的イオンについて実施されている。
【図4B】バシトラシンJ1のプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルを示す図であり、m/z 718.0([M+2H]2+)の前駆イオンが単離及び断片化された。
【図5A】バシトラシンJ2の構造を示す図であり、断片イオンの帰属は、下記のプロダクトイオンスペクトルの特徴的イオンについて実施されている。
【図5B】バシトラシンJ2のプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルを示す図であり、m/z 718.0([M+2H]2+)の前駆イオンが単離及び断片化された。
【図6A】バシトラシンJ2の環状部分の構造を示す図であり、断片イオンの帰属は、下記の二次生成プロダクトイオンスペクトルの特徴的イオンについて実施されている。
【図6B】バシトラシンJ2の二次生成プロダクトイオン(MS)スペクトルを示す図であり、連続する前駆イオンは、m/z 718.0([M+2H]2+)及びm/z 881.6([M+H])であった。
【図7A】バシトラシンJ3の構造を示す図であり、断片イオンの帰属は、下記のプロダクトイオンスペクトルの特徴的イオンについて実施されている。
【図7B】バシトラシンJ3のプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルを示す図であり、m/z 718.0([M+2H]2+)の前駆イオンが単離及び断片化された。
【図8A】5−メチレン−イソロイシン残基を5位に有するバシトラシン(=バシトラシンJ1)の構造を示す図である。
【図8B】5−メチレン−イソロイシン残基を8位に有するバシトラシン(=バシトラシンJ2)の構造を示す図である。
【図8C】5−メチレン−イソロイシン残基を1位に有するバシトラシン(=バシトラシンJ3)の構造を示す図である。
【図8D】5−メチレン−イソロイシン残基を5位及び8位に有するバシトラシン(=バシトラシンK1)の構造を示す図である。
【図8E】5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び5位に有するバシトラシン(=バシトラシンK2)の構造を示す図である。
【図8F】5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び8位に有するバシトラシン(=バシトラシンK3)の構造を示す図である。
【図8G】5−メチレン−イソロイシン残基を1位、5位、及び8位に有するバシトラシン(=バシトラシンL)の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義:
「バシトラシン」は、以下の構造(アミノ酸残基は上付きで付番されている)を含むペプチド化合物である。
【0033】
【化5】

式中、Xは以下の式であり、
【0034】
【化6】

Rは、イソロイシン、バリン、又は5−メチレン−イソロイシンのアミノ酸残基の側鎖であり、
Y及びZは、独立して、イソロイシン、バリン、又は5−メチレン−イソロイシンのアミノ酸残基であり、
式中、Thzは、以下のチアゾリン環であり、
【0035】
【化7】

2’は、Xに結合されており、4’は、Leuのα炭素に結合されており、
Leuは、ロイシンアミノ酸残基であり、
Gluは、グルタミンアミノ酸残基であり、
Lysは、Y及びOrnとペプチド結合を形成するリジンアミノ酸残基であり、そのε−アミンは、ペプチド結合によりアスパラギンのα−カルボキシル基に結合されており、
Ornは、オルニチンアミノ酸残基であり、
Pheは、フェニルアラニンアミノ酸残基であり、
Hisは、ヒスチジンアミノ酸残基であり、
Aspは、アスパラギン酸アミノ酸残基であり、
Asnは、Aspとペプチド結合を形成するアスパラギンアミノ酸残基であり、そのα−カルボキシル基は、ペプチド結合によりリジンのε−アミンに結合されている。
【0036】
本出願で使用される場合、「バシトラシン」は、生成方法に関わらず、上記の構造を有するあらゆる化合物を包含することが意図されている。したがって、用語「バシトラシン」には、バチルス・リケニフォルミスにより天然で産生される抗生物質化合物が含まれるが、上記の一次構造を有するin vitro生成化合物(合成物)及び半合成化合物も含まれる。また、「バシトラシン」は、pHに応じて変化する電荷に関わらず、上記の構造を有するあらゆる化合物を包含することが意図されている。また、「バシトラシン」は、立体化学に関わらず、上記の一次構造を有するあらゆる化合物を包含することが意図されている。また、「バシトラシン」は、上記の一次構造を有する化合物の塩及び水和物を包含することが意図されている。
【0037】
「少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を含むバシトラシン」は、イソロイシン又はバリン残基(複数可)が、1位及び/又は5位及び/又は8位で5−メチレン−イソロイシン残基と置換された場合に生成されることになる構造を含むあらゆるバシトラシンを包含することが意図されている。
【0038】
「1つの5−メチレン−イソロイシン残基を含むバシトラシン」は、イソロイシン又はバリン残基が、1位又は5位又は8位で5−メチレン−イソロイシン残基と置換された場合に生成されることになる構造を示すあらゆるバシトラシンを包含することが意図されている。
【0039】
「少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシンの側鎖を含むバシトラシン」は、「少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を含むバシトラシン」を包含することが意図されている。
【0040】
バシトラシンのN末端アミノ基及び/又はチアゾリン環が酸化されると、相当量の抗菌活性が失われる。例えば、低活性化合物バシトラシンFは、アミノ−チアゾリン部分の代りにケト−チアゾール部分を含む(Craigら、J.Org.Chem、22巻、1957年、1345〜1353頁)。
【0041】
D配置のアミノ酸は、非リボソーム的に合成された細菌ペプチドで一般的であり、リボソーム的に合成されたタンパク質ではあまり一般的でない。例えば、バシトラシンでは、4位、7位、9位、及び11位のアミノ酸残基は、通常D配置である(Glu、Orn、Phe、及びAsp)。
【0042】
5−メチレン−イソロイシンは、独立してR又はS配置であってもよい2つのキラル炭素原子を含む。
「アミノ酸残基」は、以下のものを含むペプチドの単位であり、
−NH−CHR−COOH(C末端残基)
又は
NH−CHR−CO−(N末端残基)
又は
NH−CHR−CO−(内部残基)
式中、Rは、
グリシンの場合は、−Hであり、
アラニンの場合は、−CHであり、
セリンの場合は、−OHであり、
システインの場合は、−CHSHであり、
イソロイシンの場合は、−CH(CH)CHCHであり、
ロイシンの場合は、−CHCH(CHであり、
バリンの場合は、−CH(CH、などである。
【0043】
「アミノ酸側鎖」は、「アミノ酸残基」のR基である。例えば、R基は、
5−メチレン−イソロイシンの場合は、−CH(CH)CHCH=CHであり、
イソロイシンの場合は、−CH(CH)CHCHであり、
ロイシンの場合は、−CHCH(CHであり、
バリンの場合は、−CH(CHである。
【0044】
「抗菌活性」は、
・細菌の増殖、代謝、若しくは生殖を阻害するか、又は
・細菌の死滅を増加させるか、又は
・細菌の病原性を低減するあらゆる活性である。
【0045】
効力とは、in vitro抗菌活性である。それは、IU/mgとして測定及び表すことができる。
バシトラシンのアミノ酸残基の「位置」は、イソロイシン、バリン、又は5−メチレン−イソロイシンであってもよい1位のN末端(本出願では、バシトラシンを示す図の全てにおいて左端にある)から付番されている。したがって、Lysは位置番号6であり、Asnは位置番号12である。
【0046】
バシトラシンでは、「1位」は、このアミノ酸残基が部分的にチアゾリン環に組み込まれているため、特別である。したがって、バシトラシンの1位のアミノ酸残基は、以下の通常N末端単位:
【0047】
【化8】

を含んでいないが、その代りに、チアゾリン又はその酸化誘導体に結合された
【0048】
【化9】

を含む。
【0049】
「組成物」は、2つ以上の異なる化合物を含む任意の混合物である。例えば、2つの活性医薬成分の混合物、又は1つの活性医薬成分及び1つ若しくは複数の医薬賦形剤の混合物である。
【0050】
本出願で使用される「成分」又は「成分(複数)」という用語は、組成物中の特定の化合物を指す。したがって、「微量成分」とは、組成物中に比較的少量で見出される化合物である。
【0051】
「医薬組成物」は、in vivoでの使用に好適な任意の組成物である。したがって、そのような組成物は、皮膚、皮下、静脈内、非経口的、経口的等に投与することができる。
【0052】
本発明は、少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基の側鎖を含む、新規のバシトラシン化合物に関する。
より詳しくは、本発明は、少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
【0053】
更により詳しくは、本発明は、少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を1位又は5位又は8位に含む、抗菌活性が向上された新規のバシトラシン化合物に関する。
更により詳しくは、本発明は、1つの5−メチレン−イソロイシン残基を1位又は5位又は8位に含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
【0054】
また、本発明は、2つの5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び5位に含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
また、本発明は、2つの5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び8位に含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
【0055】
また、本発明は、2つの5−メチレン−イソロイシン残基を5位及び8位に含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
また、本発明は、3つの5−メチレン−イソロイシン残基を1位及び5位及び8位に含む、抗菌活性を有する新規のバシトラシン化合物に関する。
【0056】
少なくとも1つの5−メチレン−イソロイシン残基を1位、5位、又は8位に含むバシトラシンは、in vitro及びin vivoの両方で、望ましくない細菌増殖を阻害するために使用することができる。したがって、これら化合物は、細菌感染症を有する動物又はヒトに投与すると、治療効果を示すことができる。
【0057】
5−メチレン−イソロイシンが、バシトラシンの1位、5位、又は8位に組み込まれると、その結果生じたアミノ酸側鎖は不飽和であり、5個の炭素原子を含む。イソロイシン及びバリン残基の側鎖は、それぞれ4個又は3個の炭素原子を含む。C18カラムからの溶出順序は、バシトラシンA、バシトラシンJ1、バシトラシンJ2、そしてバシトラシンJ3である(図1のクロマトグラムを参照)。したがって、イソロイシン側鎖を5−メチレン−イソロイシン側鎖と置換することにより、より疎水性のバシトラシンがもたらされるということは妥当である。
【0058】
【表1】

本発明の好ましい化合物は、バチルス・リケニフォルミスにより天然で産生されるバシトラシンJ1〜3、例えば、図8A〜8Cで視覚化されているバシトラシンJ1、バシトラシンJ2、及びバシトラシンJ3である。
【0059】
本発明の好ましい化合物は、天然発酵産物バシトラシンAと同じ立体化学を有するバシトラシンJ1〜3である。
本発明の好ましい化合物は、4位、7位、9位、及び11位のアミノ酸残基がD配置(Glu、Orn、Phe、及びAsp)であるバシトラシンJ1〜3、バシトラシンK1〜3、又はバシトラシンLである。
【0060】
略語:
Mil=5−メチレン−イソロイシン
Thz=チアゾリン
Ala=アラニン
Arg=アルギニン
Asn=アスパラギン
Asp=アスパラギン酸
Cys=システイン
Gln=グルタミン
Glu=グルタミン酸
Phe=フェニルアラニン
Gly=グリシン
His=ヒスチジン
Ile=イソロイシン
Lys=リジン
Leu=ロイシン
Met=メチオニン
Pro=プロリン
Ser=セリン
Thr=トレオニン
Trp=トリプトファン
Tyr=チロシン
Val=バリン
LC−MS=液体クロマトグラフィー質量分析
NMR=核磁気共鳴
V=容積
M=モル濃度
本出願で開示されたバシトラシンの生成は、LeeらによるJ Org Chem、61巻 12号、1996年、3983〜3986頁に記載のように固相合成により実施することができる。
【0061】
国際公開第199747313号には、本発明の新規バシトラシンを生成するために使用することができるバシトラシンペプチドの合成が記載されている。
或いは、新規のバシトラシンは、バチルス・リケニフォルミスのバシトラシン産生株で産生し、精製することにより得ることができる。
【0062】
本発明は、以下の例示的な例によってではなく、特許請求の範囲により規定される。
(実施例)
実験1:LC−MS
試料は、Axellia Pharmaceuticals社製の市販ロットを使用した。試料を水に溶解して2mg/mlの濃度にし、LC−MS分析前に0.45μmフィルター(VWR)でろ過した。Surveyor HPLCシステム(Thermo Fisher社製)は、4連液送ポンプ、脱気装置、サーモスタット付オートサンプラー(5℃に設定)、サーモスタット付カラム区画(30℃に設定)、及びダイオードアレイ検出器(254nmに設定)で構成されていた。HPLC条件は、Govaertsら(Rapid Communications in Mass Spectrometry、17巻、12号、1366〜1379頁)に記載の条件と同じであった。YMC−Pack Pro C18カラム(5μm、250×2.0mm)を使用した。移動相は、メタノール/アセトニトリル/0.1M酢酸アンモニウムpH6.0/水 58:5:10:27、v/v/v/vで構成されていた。0.1M酢酸アンモニウム溶液は、0.1M酢酸を添加することによりpH6.0に調整した。0.2ml/分の流速で、定組成条件を使用した。注入容積は、10μlであった。ESIインターフェースを備えたLXQ線形イオントラップ質量分析計(Thermo Fisher社製)を、HPLCシステムに接続した。調整は、バシトラシンAの2重プロトン化分子イオン([M+2H]2+)で実施した。ESIパラメータを、以下の通りに設定した:シースガス 35(任意単位)、補助ガス 10(任意単位)、スプレー電圧 5.0kV、キャピラリー温度 320℃、キャピラリー電圧 9.0V、チューブレンズ電圧 95V。MSパラメータを以下の通りに設定した:RFレンズオフセット −4.25V、レンズ0電圧 −3.0V、多重極0オフセット −4.5V、レンズ1電圧 −8.0V、ゲートレンズ電圧 −56V、多重極1オフセット −9.5V、多重極RF振幅 400V、正面レンズ電圧 −6.5V。LC−MS/MS分析及びLC−MS分析は、単離幅3及び衝突エネルギー16%で実施した。
【0063】
結果
Axellia Pharmaceuticals社製の典型的なロット(BANN211412)のUVクロマトグラム及びMSクロマトグラムは、図1A〜Bに示されている。UVクロマトグラムは、LC−MSと適合しないPh.Eur.HPLC法を使用したこのロットの対応するクロマトグラムと非常に類似している。バシトラシンAを除き、バシトラシンJ1、バシトラシンJ2、及びバシトラシンJ3と表示されている3つの微量成分は全て、バシトラシンAよりも12Da大きい分子量を有しており、図1において目印が付けてある。これら3つの成分の構造解明を本出願で記述するものとし、それらの構造から、それらの表示の根拠がわかるであろう。
【0064】
バシトラシンA
2重プロトン化分子イオン([M+2H]2+、m/z 712.0)が、単離及び断片化され、その結果生じたプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルは、図2Bに示されている。スペクトルは、m/z 1337.7/669.82+(Ileの喪失)、m/z 1224.7/613.12+(IleThzの喪失)、m/z 1111.7(IleThzLeuの喪失)、m/z 982.6/492.22+(IleThzLeuGluの喪失)、及びm/z 869.6(IleThzLeuGluIleの喪失)を有する、完全なひと揃いのy’’イオンを含んでいる。これら断片の帰属は、図2Aに視覚化されている。m/z 554.5(IleThzLeuGluIle)及びm/z 441.3(IleThzLeuGlu)を有するbイオンに加えて、対の結合切断に起因する断片イオンを、m/z 227.1(ThzLeu)、m/z 356.1(ThzLeuGlu)、及びm/z 469.2(ThzLeuGluIle)で見ることができる。
【0065】
バシトラシンAの環状部分の配列決定は、MS実験(712.0→869.6)において、m/z 869.6の環状部分断片イオンを更に単離及び断片化することにより実施した。図3Bを参照されたい。OrnとIleとの間の優先的開環により、図3Aに示されている2つの系列の断片イオンがもたらされる。1つの系列は、m/z 756.5(Ileの喪失)、m/z 609.4(IlePheの喪失)、m/z 472.4(IlePheHisの喪失)、及びm/z 357.4(IlePheHisAspの喪失)のプロダクトイオンを含む。もう一方の系列では、m/z 755.6(Ornの喪失)、m/z 627.4(OrnLysの喪失)、m/z 513.4(OrnLysAsnの喪失)、及びm/z 398.4(OrnLysAsnAspの喪失)のプロダクトイオンが見出される。したがって、これら断片イオンは全て、バシトラシンAの十分に確立されている配列を確認し、切断化パターンを比較することにより、未知のバシトラシン類似体の配列を解明する可能性があることを示している。
【0066】
バシトラシンJ1
バシトラシンAの場合と同じ方法を使用して、バシトラシンAと+12Da差をもたらす修飾の位置を決定することができた。2重プロトン化分子イオン([M+2H]2+、m/z 718.0)が、単離及び断片化され、その結果生じたプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルは、図4Bに示されている。スペクトルは、m/z 1349.7/675.82+(Ileの喪失)、m/z 1236.7/619.12+(IleThzの喪失)、m/z 1123.7(IleThzLeuの喪失)、m/z 994.6/498.12+(IleThzLeuGluの喪失)、及びm/z 869.6(IleThzLeuGluMilの喪失)を有する、完全なひと揃いのy’’イオンを含んでいる。これら断片の帰属は、図4Aに視覚化されている。m/z 566.4(IleThzLeuGluMil)及びm/z 441.3(IleThzLeuGlu)を有するbイオンに加えて、対の結合切断に起因する断片イオンを、m/z 227.1(ThzLeu)、m/z 356.1(ThzLeuGlu)、及びm/z 481.2(ThzLeuGluMil)で見ることができる。
【0067】
LC−MS実験(718.0→869.6)により、バシトラシンAの環状部分に対する対応する実験の場合と同じ特徴的な断片イオンがもたらされた。したがって、これら断片イオンは全て、この成分の5位が、Ileよりも12Da重い残基であることと一致しており、残りの配列は、バシトラシンAと同じであると考えられる。
【0068】
バシトラシンJ2
バシトラシンAの場合と同じ方法を使用して、バシトラシンAと+12Da差をもたらす修飾の位置を決定することができた。2重プロトン化分子イオン([M+2H]2+、m/z 718.0)が、単離及び断片化され、その結果生じたプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルは、図5Bに示されている。スペクトルは、m/z 1349.7/675.82+(Ileの喪失)、m/z 1236.7/619.22+(IleThzの喪失)、m/z 1123.7(IleThzLeuの喪失)、m/z 994.6/498.12+(IleThzLeuGluの喪失)、及びm/z 881.6(IleThzLeuGluIleの喪失)を有する、完全なひと揃いのy’’イオンを含んでいる。これら断片の帰属は、図5Aに視覚化されている。m/z 554.5(IleThzLeuGluIle)及びm/z 441.3(IleThzLeuGlu)を有するbイオンに加えて、対の結合切断に起因する断片イオンを、m/z 227.1(ThzLeu)、m/z 356.1(ThzLeuGlu)、及びm/z 469.2(ThzLeuGluIle)で見ることができる。これら断片から、バシトラシンAと異なる+12Da修飾が、分子の環状部分に位置することは明白である。
【0069】
バシトラシンJ2の環状部分の配列決定は、MS実験(718.0→881.6)において、m/z 881.6の環状部分断片イオンを更に単離及び断片化することにより実施した。図6Bを参照されたい。OrnとIleのと間の優先的開環により、図6Aに示されている2つの系列の断片イオンがもたらされる。1つの系列は、m/z 756.4(Milの喪失)、m/z 609.5(MilPheの喪失)、m/z 472.4(MilPheHisの喪失)、及びm/z 357.4(MilPheHisAspの喪失)のプロダクトイオンを含む。もう一方の系列では、m/z 767.4(Ornの喪失)、m/z 639.4(OrnLysの喪失)、m/z 525.4(OrnLysAsnの喪失)、及びm/z 410.4(OrnLysAsnAspの喪失)のプロダクトイオンが見出される。したがって、これら断片イオンは全て、この成分の8位が、Ileよりも12Da重い残基であることと一致しており、残りの配列は、バシトラシンAと同じであると考えられる。
【0070】
バシトラシンJ3
バシトラシンAの場合と同じ方法を使用して、バシトラシンAと+12Da差をもたらす修飾の位置を決定することができた。2重プロトン化分子イオン([M+2H]2+、m/z 718.0)が、単離及び断片化され、その結果生じたプロダクトイオン(MS/MS)スペクトルは、図7Bに示されている。スペクトルは、m/z 1337.8/669.82+(Milの喪失)、m/z 1224.8/613.22+(MilThzの喪失)、m/z 1111.7(MilThzLeuの喪失)、m/z 982.6/492.22+(MilThzLeuGluの喪失)、及びm/z 869.6(MilThzLeuGluIleの喪失)を有する完全なひと揃いのy’’イオンを含んでいる。これら断片の帰属は、図7Aに視覚化されている。m/z 566.4(MilThzLeuGluIle)及びm/z 453.4(MilThzLeuGlu)を有するbイオンに加えて、対の結合切断に起因する断片イオンを、m/z 227.1(ThzLeu)、m/z 356.1(ThzLeuGlu)、及びm/z 469.2(ThzLeuGluIle)で見ることができる。
【0071】
LC−MS実験(718.0→869.6)により、バシトラシンAの環状部分に対する対応する実験の場合と同じ特徴的な断片イオンがもたらされた。したがって、これら断片イオンは全て、この成分の1位が、Ileよりも12Da重い残基であることと一致しており、残りの配列は、バシトラシンAと同じであると考えられる。
【0072】
実験2:成分の単離
NMR分光法を用いて3つの成分の構造を解明するために、濃縮試料を調製しなければならなかった。理想的には、3つの成分の各々は、他の成分からの干渉シグナルがない「クリーンな」NMRスペクトルを得るために、約90%の純度に単離されているべきである。単離は、2段階で実施した。第1段階では、LiChroprep RP−18−カラム(25〜40μm、35×5cm)を使用して、3つの成分の前後に溶出する成分を除去した。移動相は、メタノール/アセトニトリル/0.03Mギ酸アンモニウムpH6.0 3.5:31.5:65、v/v/vで構成されていた。このようにして、3つの成分の総純度が約25%である精製物質を得た。第2段階では、YMC−Pack ODS−A−カラム(5μm、250×10mm)を使用して、3つの成分を互いから分離した。移動相は、メタノール/アセトニトリル/0.025M酢酸アンモニウムpH6.0 58:5:37、v/v/vで構成されていた。この2段階精製の最終的な結果は、4つの試料(試料B、B’、C、及びC’と表示されている)であり、試料B及びB’は類似しており、主としてバシトラシンJ1及びバシトラシンAを含有し、試料C及びC’は類似しており、主としてバシトラシンJ2及びバシトラシンJ3を含有していた(表1)。正しい成分が単離されたことを確認するために、LC−MSを全ての試料で実施した。試料B及びCの純度は、十分なNMR解明に必要であると通常考えられている純度よりもはるかに低かった。しかしながら、試料Bの他の主成分がバシトラシンAであったため、更なる精製をせずにNMR研究を試みることにした。バシトラシンAの含有量が豊富な試料(試料Aと表示されており、以前に調製されていた)に対するNMR研究を最初に実施することにより、基準化合物としての役割を果たすことに加えて、バシトラシンAに由来するシグナルを試料Bのスペクトルから取り除くことができることが期待された。試料Cは、バシトラシンJ2及びバシトラシンJ3の混合物を含有していたため、シグナルの重なり度合いが高いことが予測され、十分な構造解明は期待できない可能性かあった。しかしながら、これらの成分における修飾は、バシトラシンJ1と同じであると予想されるため(LC−MS試行から、実験1を参照)、LC−MSの結果と組み合わせたNMR実験により、十分な構造的根拠がもたらされる可能性があることが、依然として期待された。
【0073】
【表2】

実験3:精密質量測定
試料A、B’及びCを、精密質量決定により分析した(表2を参照)。バシトラシンJ1/バシトラシンA間の分子量差は、11.9998であった。バシトラシンJ2/バシトラシンA間の分子量差及びバシトラシンJ3/バシトラシンA間の分子量差は両方とも、それぞれ12.0000であった。これにより、成分バシトラシンJ1、バシトラシンJ2、及びバシトラシンJ3が、バシトラシンAよりも、1個多い炭素原子(精密質量12.0000)で構成される元素組成を有していたという更なる根拠がもたらされた。
【0074】
【表3】

実験4:NMR
NMRスペクトルは、303Kにて、95%リン酸緩衝液pH6.5/5%DO中の試料A、B、及びCの10mM溶液で記録した。実験は、Bruker社製600MHz分光計を用いて、2次元同核種プロトン化学シフト相関(DQF−COSY、TOCSY、NOESY)、ヘテロ核H−13C相関(HSQC、HMBC)、及びヘテロ核H−15N相関(HSQC)実験の標準的パルスシーケンスを使用して得られた。TOCSY実験の場合、20ms及び60msの混合時間を使用し、NOESY実験では、100ms、200ms、400ms、及び600msの混合時間を使用した。試料Cの場合は、DEPT(135)実験を得た。化学シフトは、内部的な2,2−ジメチル−2−シラペンタン−5−スルホン酸(0.5mM)を基準として使用して、p.p.m.で報告されている。
【0075】
結果
試料A(バシトラシンA)
アミノ酸スピン系の特定は、H検出モードの2D H−H化学シフト相関実験(DQF−COSY及びTOCSY)及びヘテロ核H−13C及びH−15N化学シフト相関(HSQC)により実施した。データは表3に要約されている。化学シフトデータは、Kobayashiら(1992年)のH化学シフトデータ(表3を参照)及びBMRBデータベースに見出される化学シフト統計(表3を参照)の両方と比較して、残基Ile、Thz、Leu、Glu、Ile、Lys、Orn、Ile、Phe、His、Asp、及びAsnの存在と一致する。
【0076】
アミノ酸残基の配列は、2D H−H(NOESY、表4)及びH−13C(HMBC、表5)相関実験で確立した。双極子カップリング(空間経由、NOESY)及び遠隔スカラーカップリング(HMBC)は、バシトラシンAの確立されている配列と合致した。
【0077】
【化10】

【0078】
【表4】






【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

試料B(バシトラシンJ1)
アミノ酸スピン系の特定を、H検出モードの2D H−H化学シフト相関実験(DQF−COSY及びTOCSY)及びヘテロ核H−13C及びH−15N化学シフト相関(HSQC)により実施した。データは表3に要約されている。残基Ile、Thz、Leu、Glu、Lys、Orn、Ile、Phe、His、Asp、及びAsnの化学シフトデータは、バシトラシンAの対応するデータとほぼ同一であり、同じ残基が、試料Bの主成分では未修飾であると判明したことを示す。注目すべきは、バシトラシンAのIleに対応するスピン系が、試料Aと比較して、この試料では著しく弱かったことである(試料Bが約20%のバシトラシンAを含有していたことに留意されたい)。
【0081】
これらのシグナルに加えて、H、H結合スピン系は、δ8.19(骨格アミドプロトン)、5.72、5.06、4.11、2.10、1.98、1.90、及び0.82との共鳴が見出された。δ5.72/138.2、δ5.06/120.1、δ4.11/60.8、δ2.10/38.8、δ1.90/38.8、δ1.98/36.7、及びδ0.82/17.9のHSQCクロスピークは、少なくとも6つのCH−基を示した。δ8.19/4.11、δ4.11/1.98、δ1.98/0.82のCOSYクロスピーク、及びδ8.19/60.8、δ4.11/175.7、δ4.11/36.7、δ4.11/17.9、δ0.82/60.8、及びδ0.82/36.7のHMBCクロスピークは、以下のエレメント−NHCH(CO)CHCHを明らかにした。これは、予想通りのNOE相関でも支持された。
【0082】
δ2.10/1.90のCOSYクロスピーク、及びδ4.11/38.8、δ0.82/38.8、δ1.90/36.7、及びδ1.90/17.9のHMBCクロスピークは、以下のエレメント−NHCH(CO)CH(CH)CHを明らかにした。これは、予想通りのNOE相関でも支持された。
【0083】
δ5.72/2.10、δ5.72/1.90、δ5.72/5.06のCOSYクロスピーク、及びδ5.72/38.8、δ1.90/138.2、δ5.06/38.8、及びδ1.90/120.1のHMBCクロスピークは、以下のエレメント−NHCH(CO)CH(CH)CHCH=CHを明らかにした。これは、予想通りのNOE相関でも支持された。この異常Ileアミノ酸類似体の化学シフトデータは全て、ChemDrawで生成された予測データと類似している(データ非表示)。
【0084】
アミノ酸残基の配列は、2D H−H(NOESY、表4)及びH−13C(HMBC、表5)相関実験で確立した。アミノ酸配列は、バシトラシンAと同じであることが見出された。そこでは、5位のIleが、異常Ile類似体(5−メチレン−イソロイシンと呼ぶ)により置換されている。このように、NMRデータは、LC−MSの結果及び精密質量決定と合致し、データは全て、以下のバシトラシンA類似体が試料Aに存在することを示している。
【0085】
【化11】

試料C(バシトラシンJ2及びバシトラシンJ3)
NMRデータは、試料Bに存在していた同じ異常Ile類似体の2つの残基が存在することを明らかにした(表6を参照)。試料A及びBについて取得した2D実験に加えて、試料Cに対してはDEPT(135)実験も実施した(表6)。この実験により、試料C中の2つの同じ異常Ileアミノ酸類似体の構造が、更に確認された。これらIle類似体のうちの一方は、N末端に位置しており(可視骨格アミドプロトンが欠如することにより示された)、したがって5−メチレン−イソロイシンと表示した。他方のIle類似体は、NOESY及びHMBC相関により明らかにされたように、8位に位置しており、したがって、5−メチレン−イソロイシンと表示した。このように、NMRデータは、LC−MS及び精密質量決定の結果と合致している。データは全て、試料Cに2つのバシトラシンA類似体が存在し、一方のバシトラシンA類似体の8位のIleが、異常Ile類似体で置換されており、第2のバシトラシンA類似体中の1位のIleが、異常Ile類似体で置換されていることを示している。
【0086】
【化12】

【0087】
【化13】

【0088】
【表7】


実験5:効力
試料A、B’及びC’の抗菌活性(表1を参照)を測定した。未知試料の抗菌活性を既知(標準)試料と比較することにより、効力と呼ばれることが多い比抗菌活性(本明細書ではIU/mgとして列挙されている)を測定した。具体的には、亜鉛バシトラシン標準物質を、0.07Mリン酸緩衝液pH6.0に溶解し、2.0、1.0、及び0.5IUバシトラシン/mlに希釈した。これら3つの標準溶液を、試験生物、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)を播種した寒天プレートに添加した。未知試料を溶解し、希釈し、標準物質同じプレートに添加した。32〜37Cで16〜24時間後、阻止領域を測定し、未知試料を標準物質と比較した。各試料の結果(IU/mgとして報告)は、表7に列挙されている。
【0089】
【表8】

試料Aは、表1に列挙されているように、93%(HPLCを用いて254nmで測定)バシトラシンAを含有していた(バシトラシンJ1、J2、又はJ3は含有していなかった)。したがって、バシトラシンAの比抗菌活性を77.4IU/mgと計算することができる。これは、以前の報告よりも低い。考え得る説明は、水又は塩の含有量、並びに微量成分の拮抗効果の可能性である。試料B’及びC’は、幾つかのバシトラシンの混合物を含有しているため、バシトラシンJ1、J2、又はJ3の正確な比抗菌活性(IU/mg)を報告することは可能ではない。しかしながら、利用可能なデータは、バシトラシンJ1、J2、及びJ3の効力は、バシトラシンAの効力と類似しているか、又はそれを超えていることを強く示している。また、試料B’及びC’は、水、塩、及び/又は相乗効果若しくは拮抗効果を有する成分を含有している可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
【化1】

(式中、R、R、及びRのうちの少なくとも1つは−CH=CHであり、かつ
、R、及びRは、独立して−H、−CH、又は−CH=CHである)
により表される化合物、その塩及び水和物。
【請求項2】
、R、及びRのうちの1つが−CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
、R、及びRのうちの2つが−CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
が−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
が−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
が−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
及びRが−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
及びRが−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
及びRが−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
、R、及びRが−CH=CHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
請求項1に記載の化合物を含む組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項13】
治療効果を有する請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
細菌感染症治療用の薬剤を調製するための、請求項1に記載の化合物の使用方法。
【請求項15】
in vitroバシトラシン合成中に、イソロイシン又はバリンを5−メチレン−イソロイシンに置換することにより請求項1に記載の化合物を生成する方法。

【図2A】
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【図3A】
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【図4A】
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【図5A】
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【図6A】
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【図7A】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2B】
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【図3B】
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【図4B】
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【図5B】
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【図6B】
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【図7B】
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【公表番号】特表2013−509367(P2013−509367A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535720(P2012−535720)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064523
【国際公開番号】WO2011/051073
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(505371232)クセリア ファーマシューティカルズ エーピーエス (13)
【氏名又は名称原語表記】Xellia Pharmaceuticals ApS
【住所又は居所原語表記】11 Dalslandsgade,DK−2300 Copenhagen S,DENMARK
【Fターム(参考)】