説明

新規のビタミンD2酵母調製物、製造方法、および使用方法

本発明は、新規の酵母、より詳細には、ビタミンDを強化した新規の酵母に関する。一態様において、本発明は、紫外線照射後にそのガス発生力を保持し、かつ、ビタミンD、特に、ビタミンD2を高濃度で含むパンおよび他の焼成食品の製造に使用することができる酵母を含む。本発明は、新規のD2強化酵母の製造方法ならびに本発明の新規の酵母の使用方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年10月27日に出願された、「新規のビタミンD2酵母調製物、製造方法、および使用(Novel Vitamin D2 Yeast Preparation,A Method For Producing The Same,And Use Thereof)」と題された米国仮特許出願に基づく優先権を主張するものであり、その内容全体が参照によりここに組み込まれている。
【0002】
本発明は、新規の酵母、より詳細には、ビタミンDを強化した新規の酵母に関する。一態様において、本発明は、紫外線照射後にそのガス発生力を保持し、かつ、ビタミンD、特に、ビタミンD2を高濃度で含むパンおよび他の焼成食品の製造に使用することができる酵母を含む。本発明は、新規のD2強化酵母の製造方法ならびに本発明の新規の酵母の使用方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
ビタミンDは、血中のカルシウムおよびリンを正常値に維持するのに必須のホルモン前駆体である。人体は、日光に見られる紫外線に皮膚を曝している間に十分なビタミンD、特にビタミンD3(コレカルシフェロール)を産生することができる。生活スタイルまたは意識的な選択の結果として、多くの個人は、日光に曝されるのが不十分であり、その結果、十分な量のビタミンDが産生されない。従って、食料供給源を通じてビタミンDを入手できることがますます重要になっている。従来より、食事におけるビタミンDの主要源は、強化ミルクであった。しかしながら、一人当たりのミルク消費量の低下により、大部分の人々は適正レベルのビタミンDを欠く結果となっている。
【0004】
ミルクや他の乳製品に加えて、パンは、ビタミンDを含む強化ビタミンを広範囲の消費者に提供する費用効果的な方法として見られている。一般に、パン製造者は、調合物にいくつかの栄養物を添加するのに一連の高価で面倒な工程を経る必要がある。一般に、ビタミンD3は、かかる栄養物の1つである。残念なことに、その動物起源により、D3は、全人口に対して許容される添加物ではない。
【0005】
血清カルシウムやリンの調節因子としてのビタミンDの役割は十分に確立しているが、より最近の研究では、十分な量のビタミンDに関連して他の多くの健康効果を明らかにしている。これらの例としては以下のものが挙げられる。
細胞分化:分裂の速い細胞は増殖していく。分化は増殖を軽減し、異なる細胞に特定の機能を与えるのに重要である。増殖は成長や創傷治癒に必要であるが、制御されないと突然変異や癌を招く可能性がある。活性型のビタミンDは、増殖を阻害し、細胞分化を刺激する。
免疫力:ビタミンDは、強力な免疫系調節因子であり、自己免疫を阻害することがある。
インスリン分泌:VDR(ビタミンD受容体)は、膵臓のインスリン分泌細胞によって発現される。動物研究により、活性ビタミンDは、インスリン需要が高い状態においてインスリン分泌の役割を果たすことが示唆される。ヒトへのデータは限られるが、ビタミンDは、インスリン分泌や2型糖尿病における耐糖能に効果を有し得ることが示唆される。
血圧:十分な量のビタミンDは、高血圧のリスクを減らすことで、ある種の高血圧症に役割を果たし得る。
【0006】
ビタミンDは、多形で発生し、限定的ではないが、D1、D2、D3、D4、およびD5が挙げられる。商業的に、ビタミンD3は、強化ミルク中に見られる形であり、一般的かつ商業的に、ラノリン(羊)または魚から導出されている。ビタミンD3に加えて、ビタミンD2も生物学的に利用可能であり、よく吸収され、動物の骨石灰化に積極的役割を有することが示されている(Bioavailability of Vitamin D2 from irradiated mushrooms:an in vivo study.Jasinghe,V.J.ら、British Journal of Nutrition,93:951−955(2005))。
【0007】
酵母(特に、サッカロミセス)は、特に、ビタミンBの良好な供給源として高い栄養価をもつことが知られている。例えば、ビール酵母は、ヒトの栄養補助食品として長年商業的に販売されている。トルラ、カンジダ、およびクルイベロマイセスなどの他の酵母も、成長因子やビタミンの供給源として、ヒトに使用する栄養補助食品および/または動物飼料のいずれかとして使用されている。この製品群は、栄養性酵母として知られ、酵母バイオマスまたは純粋で死んだ酵母細胞からなる(Chapter 6:Yeast Technology,in Microbial Technology,Henry J.Peppler(ed.),Reinhold Publishing Corporation(1967))。
【0008】
しかしながら、酵母は、それ自体にはビタミンDを含まないが、特異的ステロールであるエルゴステロールは、紫外光で照射されるとビタミンD2に変換される特性を持っている。
【0009】
紫外光は、酵母内のエルゴステロールをビタミンD2に変換できるだけでなく、紫外光は、ウイルス、バクテリア、かび、および酵母を含む多くの微生物を不活性化させて殺すことがよく知られている(Wolfe R.L.Ultraviolet disinfection of potable water,current technology and research needs.Environ Sci Technol 1990;24(6):768−73;Hijnen W.A.M.,Beerendonk E.F.,and Medema G.J.Inactivation credit of UV radiation for viruses,bacteria and protozoan(oo)cysts in water:A review.Water Res.2006;40:3−22;Green C.F.,Scarpino P.V.,Jensen P.,Jensen N.J.,and Gibbs S.G.Disinfection of selected Aspergillus spp using ultraviolet germicidal irradiation.Can.J.Microbiol 2004;50:221−224)。具体的には、240〜280nmの波長(紫外)による電磁放射は、微生物不活性化の有効な因子として十分に確立されている。紫外線は、核酸に回復不能な損傷を引き起こすことで微生物を不活性化する。核酸のピリミジン二量体および他の光分解生成物の生成は、DNA複製および転写を阻害するため、細胞またはウイルスが増殖するのを防ぐ。従って、生酵母を含有する組成物への照射は、一般に、酵母の不活性化(殺活)をもたらし、ある商業用に照射酵母を用いることを困難または不可能にする。照射され、不活性化(即ち、死滅)した酵母は、ビタミンD3が安価になり、補助飼料としてより普及する前に、動物飼料として長年にわたって販売された。事実、紫外線照射は、微生物を死滅させるのに非常に有効であり、近年、飲用水の殺菌および廃水処理に広く用いられるようになった(Kruithol J.C.,Van der Leer R.C.,Hijnen W.A.M.Practical experiences with UV disinfection in The Netherlands.J Water SRT−AQUA 1992;41(2),88−94;Liberti L.,Notarnicola M.,Lopez A.and Petruzzelli D.Advanced treatment for municipal wastewater reuse in agriculture.UV disinfection:bacteria inactivation、parasite removal and by−product formation.Desalination 2002;152:315−324;Whitby G.E.and Palmateer G.The effect of UV transmission,suspended solids,wastewater mixtures and photoreactivation on microorganisms in wastewater treated with UV light.Water Sci Technol 1993;27:379−386)。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決するものである。一般的に知られていたこととは反対に、酵母に照射することでビタミンD2が豊富な酵母、特にパン酵母を生成できることが分かった。不活性になるのではなく、本発明の酵母は、照射後にもその育成力のほとんどを維持した。この生のビタミンD強化酵母は、様々な焼き菓子(パンなど)の栄養価を高めるのに用いることができ、パン屋自体の作業の簡略化に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の酵母を照射するのに有用な紫外光バイオリアクターの図である。
【図2】本発明の酵母を照射するのに有用な別の紫外光バイオリアクターの図である。
【図3】異なる波長での紫外線照射中の酵母におけるビタミンD2強化動態を示すグラフである。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ビタミンDが豊富な酵母組成物に関する。より詳細には、本発明は、ビタミンD2が強化されている酵母を含む組成物に関する。一態様において、本発明は、酵母のエルゴステロール含有量をビタミンD2に変換するため紫外線処理された生酵母を含む組成物に関する。
【0013】
本発明の一態様において、ビタミンD強化酵母は、紫外線処理後にもその育成力のほとんどを維持する。本発明のさらに別の態様において、ビタミンD強化酵母は、照射による処理前に存在したその育成力の少なくとも50%を維持する。
【0014】
本発明の別の態様において、ビタミンD強化酵母のビタミンD含有量は、少なくとも10倍に増加し、より好ましくは、少なくとも50倍に増加する。
【0015】
本発明のさらに別の態様において、酵母は、サッカロミセス属のパン酵母菌株である。
【0016】
別の態様において、本発明は、酵母が栄養性酵母である、ビタミンD強化酵母を含む組成物を考える。一実施形態において、栄養性酵母は、カンジダ、トルラ、およびクルイベロマイセスからなる群から選択される。
【0017】
別の態様において、本発明は、ミネラル(カルシウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、および生理的な他のミネラル)および/またはビタミン(ビタミンB群および生理的な他のビタミン)も豊富なビタミンD強化酵母菌株を含む。
【0018】
別の態様において、本発明は、ビタミンD強化酵母がクリーム酵母、圧搾酵母、粉砕酵母、冷凍酵母、フリーズドライ酵母、活性乾燥酵母、またはインスタント乾燥酵母の形である組成物を含む。一実施形態において、本発明の酵母は、安定化クリーム酵母である。
【0019】
別の態様において、本発明は、ビタミンD強化酵母を有する組成物を含み、ベーキングに有用な酵素をさらに含む。種々の実施形態において、対象酵素は、アミラーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、およびリパーゼからなる群から選択される。
【0020】
さらに別の態様において、本発明の組成物は、乳酸菌を含有するビタミンD強化酵母調製物をさらに含む。本発明の一実施形態において、乳酸菌は、乳酸杆菌属由来である。
【0021】
別の態様において、本発明は、酵母が熱または他の手段により不活性化している、ビタミンD強化酵母組成物を含む。
【0022】
本発明の別の態様は、パン、クラッカー、スポーツバー、ビスケット等、および他の焼き菓子、並びに他の機能性食品および栄養補助食品の製造におけるビタミンD強化酵母組成物の使用である。
【0023】
本発明は、動物用途の栄養物またはビタミン源として上述の調製物の少なくとも1つの使用をさらに考える。
【0024】
本発明は、発酵飲料およびザウアークラウトなどの発酵食品における栄養物またはビタミン源として上述の組成物の1つ以上の使用も考える。
【0025】
本発明は、酵母の育成力を実質的に維持し、酵母に紫外線を照射することを含み、酵母のビタミンD含有量を増加させる方法も考える。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ビタミンDは、ヒトおよび他の動物の両方にとって良好な健康状態に不可欠なものである。ヒトは、日光の紫外線に曝している際に、ビタミンD、即ち、ビタミンD3を生成することができる。さらに、ビタミンDは、食事手段、最も具体的には、強化ミルクを通じて入手可能である。太陽の下で費やす時間が少なく、かつ、ミルクの消費が減っている個人、とりわけ成人では、ビタミンDのこれらの供給源は、良好な健康状態に必要なビタミンDの量を提供するのに不十分になってきている。
【0027】
強化パンおよびシリアルは、食事における様々なビタミンやミネラルの補助供給源であるが、しかしながら、パン製造者は、調合物にこれらの栄養物を添加するのに一連の高価で面倒な工程を経る必要がある。ビタミンD2は、かかる栄養物の1つである。市販のビタミンDは、高価で、動物源から単離されるため、少なくとも一部の人々には受容されない添加物である。
【0028】
従って、必要とされているのは、効率的で、安価なビタミンDを生成する方法であり、ここで、ビタミンDは動物源由来ではなく、工程は従来のベーキングに対応するものである。
【0029】
本発明は、酵母自体にビタミンD含有量を高めた新規の酵母組成物を提供することでこれらの問題を解決する。本発明の一態様において、酵母は、ビタミンD2が強化されている。一実施形態において、酵母は、紫外光の照射によりビタミンD2が強化されている。
【0030】
本発明のさらに別の態様において、ビタミンD2強化酵母は、紫外線処理後にその育成力のほとんどを維持する。より詳細には、本発明は、酵母が照射による処理前に存在するその育成力の少なくとも50%を維持するビタミンD強化酵母組成物を考える。別の実施形態において、酵母は、同等の非照射酵母と比較した場合に、その育成力の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、および少なくとも85%を維持する。
【0031】
本発明の別の態様において、ビタミンD強化酵母のビタミンD含有量は、少なくとも10倍に増加し、より好ましくは、少なくとも50倍に増加する。別の実施形態において、本発明の酵母のビタミンD含有量は、同等の非照射酵母と比較した場合に、少なくとも80倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも800倍、少なくとも1,000倍、少なくとも5,000倍、少なくとも8,000倍、および少なくとも11,000倍に増加する。
【0032】
ビタミンD強化酵母は、任意の数の形であってもよく、クリーム酵母、圧搾酵母、粉砕酵母、冷凍酵母、フリーズドライ酵母、活性乾燥酵母、またはインスタント乾燥酵母が挙げられる。一実施形態において、本発明の酵母は、安定化クリーム酵母であり、特に、同時係属米国特許出願第11/474,058号に記載の安定化クリーム酵母であり、その内容を参照によって本明細書に組み込んだものとする。
【0033】
本発明のビタミンD強化酵母は、照射後に追加的な処理を施してもよい。例えば、本発明は、前記酵母が熱または他の手段によって不活性化しているビタミンD強化酵母組成物を考える。
【0034】
さらに、本発明は、乳酸菌も含有するビタミンD強化酵母の組成物を考える。本発明の一実施形態において、乳酸菌は乳酸杆菌属由来である。
【0035】
本発明は、酵母が高窒素、タンパク質、活性または出芽酵母であるビタミンD強化酵母組成物も考える。そのような高活性または出芽としては、限定的ではないが、サッカロミセス属、クルイベロマイセス属、およびトルラスポラ属などから由来の生酵母細胞が挙げられる。特に、本発明は、サッカロマイセス・セレヴィシエ属のビタミンD強化酵母を考える。本発明は、1つ以上の酵母属の組み合わせも含む。
【0036】
加工助剤は、組成物を発酵混合物または生地に添加した場合に最終生成物の特性が改善されるような量で、本発明の組成物に添加することができる。以下に説明するように、加工助剤は、栄養物、化学添加剤、および酵素に分けることができる。
【0037】
栄養成分としては、無機窒素(尿素および窒素塩など)、有機窒素(酵母、酵母自己消化物、酵母抽出物、または発酵可溶分など)、リン(窒素およびリンの塩など)、ミネラル(塩など)、およびビタミンを挙げることができる。ミネラル加工助剤としては、限定的ではないが、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、および生理的な他のミネラルを挙げることができる。ビタミン加工助剤としては、生理的な任意のビタミンを挙げることができ、限定的ではないが、ビタミンB群が挙げられる。
【0038】
適当な化学添加剤は、アスコルビン酸、臭素酸塩、およびアゾジカーボンアミドなどの酸化剤、および/または、L−システインおよびグルタチオンなどの還元剤である。ベーキングに使用されることが多い好適な酸化剤は、アスコルビン酸であり、小麦粉1kg当たり5〜300mgの量をもたらすような量で組成物に添加する。他の適当な化学添加剤は、モノ/ジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(DATEM)、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)、またはステアロイル乳酸カルシウム(CSL)などの生地改良剤として作用する乳化剤、または、グリセロールモノステアレート(GMS)または胆汁塩などのクラム軟化剤として作用する乳化剤、トリグリセリド類(脂肪)またはレシチンなどの脂肪質、および他のものである。好適な乳化剤は、DATEM、SSL、CSL、またはGMSである。好適な胆汁塩は、コール酸塩、デオキシコール酸塩、およびタウロデオキシコール酸塩である。
【0039】
適当な酵素は、でんぷん分解酵素、アラビノキシランや他のヘミセルロース分解酵素、セルロース分解酵素、酸化酵素、脂肪分解酵素、タンパク質分解酵素である。好適なでんぷん分解酵素は、αアミラーゼなどの内因性アミラーゼ、βアミラーゼおよびグルコアミラーゼなどの外因性アミラーゼである。好適なアラビノキシラン分解酵素は、ペントサナーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、および/またはアラビノフラノシダーゼであり、特に、アスペルギルスまたはバシラス属由来のキシラナーゼである。好適なセルロース分解酵素は、セルラーゼ(即ち、エンド−1,4−ベータ−グルカナーゼ)、特に、アスペルギルス、トリコデルマ、またはフミコラ属由来のセロビオヒドロラーゼである。好適な酸化酵素は、リポキシゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、およびラッカーゼである。好適な脂肪分解酵素は、リパーゼ、特に、アスペルギルスまたはフミコラ属由来の真菌性リパーゼ、ホスホリパーゼA1および/またはA2などのホスホリパーゼがある。好適なタンパク質分解酵素は、チオールプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、およびアスパルチルプロテアーゼのクラスに属するものなどの内因性プロテイナーゼのみならず、アミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼのクラスに属する、ペプチダーゼとも呼ばれる外因性プロテイナーゼがある。さらに、穀物中のタンパク質から遊離アミノ窒素を生成する微生物および植物プロテアーゼも添加することができる。
【0040】
酵素は、動物、植物、または微生物起源から生じることができ、当該技術分野では周知の古典的工程によってこれらの供給源から得ることができ、あるいは、組換えDNA技術を介して製造してもよい。好適な生産工程は、菌類、酵母、またはバクテリアを増殖させ、本質的に、あるいは、遺伝子組み換え(組換えDNA技術)の結果として所望の酵素を生成する発酵工程を含む。これらの工程は、当該技術分野では周知である。酵素は、発酵もろみ液内の微生物によって分泌されるのが好ましい。発酵工程の最後に、細胞バイオマスは、通常、分離され、もろみ液の酵素濃度に応じて、さらに濃縮させ、限外濾過などの公知の技術によって随意的に洗浄してもよい。随意的に、酵素の濃縮物、または、かかる濃縮物の混合物は、噴霧乾燥などの公知の技術によって乾燥させてもよい。
【0041】
本発明の組成物は、任意の数の使用に適用してもよい。一態様において、本発明の組成物は、ベーキング、特に、商業用ベーキングに使用してもよい。本発明の組成物は、限定的ではないが、パン、クラッカー、スポーツバー、ビスケット、および他の焼き菓子を含む任意の種類の焼き菓子を製造するのに使用してもよい。
【0042】
そのようなビタミンD強化酵母調製物は、ベーキング業界にとって興味深いだけでなく、一般的な、飲用アルコール(蒸留)、醸造、ベーキング、発酵飲料、およびあらゆる発酵工程にも適用可能である。
【0043】
本発明の別の目的は、本発明のビタミンD強化酵母を生産発酵槽に直接添加またはピッチングすることを含む、エタノールを生産する新規工程であり、それにより増殖工程の必要が無くなる。
【0044】
追加的な使用としては、栄養物またはビタミン源としての調製物の製造を含む。一実施形態において、本発明のビタミンD強化酵母は、動物用途に使用される。別の実施形態において、本発明の上述の組成物は、発酵飲料およびザウアークラウトなどの発酵食品の栄養物またはビタミン源として使用される。
【0045】
本発明は、酵母の育成力を実質的に維持して、酵母に紫外線を照射することを含み、酵母のビタミンD含有量を増加させる方法も考える。紫外線は、任意の波長であってよいが、好ましくは、253〜366ナノメートルである。本発明の他の態様としては、255nm〜270nm、270nm〜290nm、290nm〜310nm、310nm〜330nm、330〜350、および350〜366nmの間(その値を含む)の紫外線波長を用いることを含む。一実施形態において、使用される紫外線は、約254nmの波長を有する。別の実施形態において、使用される紫外線は、302nmの波長を有する。さらに別の実施形態において、使用される紫外線は、約365nmの波長を有する。
【0046】
本発明は、任意の特定の種類の酵母に限定されるものではなく、特に、本発明は、酵母がサッカロミセスであるビタミンD強化酵母組成物に限定されるものではない。事実、商業用ベーキングおよび発酵工程で使用される全ての種類を本発明が含むことは、当該技術分野の技術者には明らかであろう。
【0047】
(実施例)
実施例1
酵母の商業生産
商業用発酵に使用される酵母の生産は、それ自体、多段階工程である。一般に、製パン工業用酵母の製造業者は、最終酵母製品の純度および生存度を保証する方法で、大量に包装され、保存され、出荷されなければならない酵母を生産する必要がある。
【0048】
パン酵母生産は、適当な酵母菌株の純粋培養管または凍結バイアルで開始することが多い。この酵母は、小型圧力容器であるプレピュア培養タンクの接種材料として機能し、ここで播種を厳密な滅菌状態下で培地で増殖させる。繁殖後、この容器の中身をより大きな純粋培養発酵槽に移し、通気させ、再び滅菌状態下で増殖を行う。これらの初期段階は、セットバッチ発酵によって実施される。セットバッチ発酵では、全ての増殖培地および栄養物は、接種前にタンクに導入する。
【0049】
純粋培養容器から、一連の徐々により大きな播種および準播種用の発酵槽に生育細胞を移す。これらの後期段階は、フェドバッチ発酵によって実施される。フェドバッチ発酵中、糖蜜、リン酸、アンモニア、およびミネラルを制御した速度で酵母に供給する。この速度は、繁殖を最大にし、アルコールの生成を最小にするのにちょうど十分な糖および栄養物を酵母に供給するよう設計されている。さらに、これらのフェドバッチ発酵は、完全に滅菌されていない。これらの発酵槽に必要な大量の空気の滅菌を保証したり、多くのパイプ、ポンプ、および遠心分離機を通じた全移送中に滅菌状態を達成したりするために加圧タンクを用いることは経済的ではない。無菌状態をできるだけ保証するよう機器の広範囲のクリーニング、パイプやタンクの蒸気洗い、および空気の濾過を実行する。
【0050】
準播種発酵の最後に、使われた糖蜜から酵母を分離する一連の分離機に容器の中身を送り込む。その後、酵母を冷水で洗浄し、準播種の酵母貯蔵タンクに送り込み、ここで酵母クリームは、商業用発酵タンクに接種するのに用いるまで、およそ華氏34度で保持される。これらの商業用発酵槽は、発酵工程の最終工程であり、しばしば最終発酵または商業発酵(trade fermentation)と呼ばれる。
【0051】
商業発酵は、50,000ガロンまでの常用容量をもつ大型発酵槽で行う。商業用発酵を開始するため、セット水と呼ばれる大量の水を発酵槽に送り込む。次に、ピッチングと呼ばれる工程で、貯蔵タンクからの準播種酵母を発酵槽に移す。播種酵母の添加後、通気、冷却、および栄養物の添加を始め、15〜20時間の発酵を開始させる。発酵の開始時、液体の播種酵母と追加の水は、発酵槽容量の約1/3〜1/2しか占めない。発酵の経過中に栄養物を絶え間なく加えることで、発酵槽はその最終容量に達する。増える細胞集団の増殖を支援するためより多くの栄養物を供給する必要があるため、栄養物の添加速度は、発酵の全過程において増す。酵母細胞の数は、この発酵中に約5〜8倍に増える。
【0052】
容器の底に配置した一連の穴あき管を通じて空気を発酵槽に提供する。空気流の速度は、1分当たりで、発酵槽1容量当たり約1容量の空気である。酵母増殖中に大量の熱が生成され、内部冷却コイルによって、または、もろみ液としても知られる発酵液体を外部熱交換器を通じて送り込むことによって冷却を行う。栄養物の添加、pHの調整、温度、および空気流は、注意深く監視され、全生産工程中においてコンピュータシステムで制御される。発酵の全過程で、温度はおよそ華氏86度に保たれ、pHは一般に4.5〜5.5の範囲である。
【0053】
発酵の最後に、発酵槽のもろみ液をノズル型遠心分離機で分離し、水で洗浄し、再び遠心分離し、15〜24%(18%の範囲であることが多い)の固体濃度の酵母クリームを生成する。酵母クリームを華氏約45度に冷却し、別の、冷蔵したステンレス製クリームタンクに保存する。クリーム酵母は、タンク車に直接充填し、適切なクリーム酵母操作システムを備えた顧客に送達することができる。あるいは、酵母クリームは、プレートやフレームフィルタープレス、または回転真空濾過システムに送り込むことができ、27〜33%の酵母固形物を含有するケーキ様の軟度に脱水することができる。このプレスケーキ酵母を粉々にし、50ポンドの袋に詰め、パレットに重ね合わせる。酵母は、プレス作業およびパッケージング作業中に温度が上昇するので、粉砕酵母の袋は、十分な換気とパレットの留置により冷却空気に自由にアクセス可能な冷蔵庫で一定時間冷却しなければならない。その後、パレット化した粉砕酵母の袋は、冷蔵トラックで顧客に配送される。クリーム酵母は、流動層乾燥機または同様の種類の乾燥機を用いて乾燥酵母(92〜97%固形物)にさらに加工することも可能である。
【0054】
実施例2
活性パン酵母クリームへの紫外線照射
A.活性
図1に示すように実験室規模の紫外光バイオリアクターを用いて、約20%が固形物の商業用酵母クリームに直接照射した。光バイオリアクター構成は、紫外線ランプと、浅い矩形のプラスチック容器と、電磁撹拌機とを備えていた。光バイオリアクター構成の中心は、短波(254nm)、中域(302nm)、および長波(365nm)の3つの切換可能な紫外線チューブを備えた、UVPからの8W紫外線ランプであった。まず、中域波長を用いた(302nm)。クリーム酵母表面の上5〜10cmに紫外線ランプを設置し、酵母クリームとは決して接触させなかった。酵母クリームは紫外光にほぼ不透明であるため、全酵母細胞が表面に移動し、酵母細胞中のプロビタミン(エルゴステロール)の全分子が紫外線を受けるように照射中に酵母クリームを攪拌する必要がある。浅い容器は、酵母細胞を表面に運ぶことができ、かつ、酵母においてより高いビタミンD2変換効率を達成する意図でより頻繁に照射されるように、薄層の酵母クリームを達成するために用いた。商業用酵母クリーム30mLを矩形容器に充填し、1時間連続的に照射した。照射中、酵母クリームを連続的に混合した。実験は室温で行った。1時間の照射後、酵母のビタミンD2含有量は、2,370から1,980,000IU/100g(乾燥重量)へと835倍に増加し;準播種酵母の甘味生地(sweet dough)活性は、CO2の456ccから424ccへとたった約10%ほど減少した。従って、酵母ベーキング活性のほとんどが1時間の紫外線照射後も保持されながら、酵母のビタミンD2は飛躍的に強化された。
【0055】
ビタミンD2分析をCovance Laboratories Incで行った。HPLCを用いて、ビタミンD2を公定法により測定した(Official Methods of Analysis of AOAC INTERNATIONAL(2000)17th Ed.,AOAC INTERNATIONAL,ゲイサーズバーグ,メリーランド州,米国,Official Methods 982.29)。
【0056】
酵母の甘味生地活性は、SJAファーメントグラフで測定した。スイート・ドウの成分を表1に示す。生地をSJAファーメントグラフで35℃にて60分間インキュベートし、達成した全ガス発生容量を酵母甘味活性として表した。
表1.スイート・ドウの作り方
【表1】

B.紫外線波長の効果
【0057】
酵母ビタミンD2強化への波長の効果を調べるため、酵母クリームへの紫外線照射を短波(254nm)、中波(302nm)、および長波(365nm)のそれぞれ3つの異なる波長を用いて、上の実施例1と実質的に同様に行った。各波長において、ビタミンD2強化への照射時間の効果を評価するために、2つの異なる照射時間(2時間および4時間)を用いた。実験は室温で行った。
【0058】
光バイオリアクターによる表面への紫外線照射の実験では、7つの乾燥酵母試料(オーブン乾燥)を生成し、ビタミンD2分析のためCovanceに送った。7つの酵母試料に対するビタミンD2含有量を表2に示す。対照試料は、紫外線照射前の酵母クリームから調製した。他の6つの酵母試料は、酵母クリームを3つの異なる波長(254、302、および365nm)で2時間または4時間照射することで得た。6つの試料全てにおいて、照射用酵母クリームのサイズは400mLであった。表2は、紫外線波長が酵母のビタミンD2強化に強く影響したことを示す。ここでも、254および302nmの紫外線波長で酵母のビタミンD2を飛躍的に強化できることが分かった。254nmで照射した酵母試料と比べて、302nmの波長で照射された酵母試料でより高いビタミンD2含有量が達成された。興味深いことに、365nmで照射された酵母試料では、ビタミンD2がはるかに低い結果となることが観察され、波長365nmは、酵母のビタミンD2強化に効果が弱いことを示唆している。従って、ビタミンD2酵母生成の理想的な波長は302nmである。図3は、反応のゼロ次動態を反映した以下のデータのグラフである。
【表2】

表2.ビタミンD2強化における紫外線波長および照射時間の効果(IU=ビタミンD2
国際単位)。
【0059】
実施例3
大型バッチの紫外線照射
別の実験では、より大きな容量の加工が可能なように設計された図2に示すような紫外光バイオリアクターで酵母クリームの照射を行った。Atlantic Ultraviolet Corporationからの波長254nmの紫外線をもつ14ワット紫外線ランプを備えた20リットル光バイオリアクターに商業用酵母クリーム15リットルを充填した。石英スリーブを通じて紫外線ランプを酵母クリームに浸漬した。ライトニング攪拌器で強い攪拌を行い、酵母細胞を照射領域に頻繁に動かし、石英スリーブ付近の潜在的付着を防ぐことで高透過率の紫外線を維持した。15リットルの酵母クリームを連続的に混合し、室温で8時間照射した。8時間の照射後、酵母のビタミンD2含有量は、2,370から198,000IU/100g(乾燥重量)へと84倍に増加し、酵母の甘味生地活性は、600ccから550ccへとわずか10%ほど減少した。ここでも、酵母ベーキング活性のほとんどを保持しながら、酵母のビタミンD2は飛躍的に強化された。予想されたように、この実験で達成された酵母ビタミンD2含有量は、酵母クリームの加工容量がはるかに多かったため、前の実験で達成したものよりもはるかに少なかった。
【0060】
実施例4
不活性酵母への紫外線照射
Lallemand Denmarkにて製造された商業用不活性酵母(製品コード213625、ロット番号5196D)でも紫外線照射実験を行った。不活性乾燥酵母を水道水に溶解させ、10%固形物のクリームを作った。図1に示した光バイオリアクター構成を用いて、得られた酵母クリーム30mLを室温で1時間直接照射した。紫外線照射の結果、酵母のビタミンD2含有量は、324から3,810,000IU/100g(乾燥重量)へと増え、対照と比較して11759倍と飛躍的に強化された。従って、紫外線照射工程も、不活性酵母に適当であった。
【0061】
実施例5
商業用ビタミンD2強化酵母生産の標準化
ビタミンD強化活性パン酵母の生産において酵母のビタミンD2含有量を安定して達成するために、高強度ビタミンD2強化酵母のある一部を通常の商業用酵母クリームとブレンドすることで生産を標準化することが推奨された。高強度ビタミンD2強化酵母は、クリーム、ケーキ、およびIDY(インスタント乾燥酵母)の形で調製することができる。
【0062】
表3は、通常の酵母クリームとビタミンD2強化活性酵母クリームとで作ったパン試料に対する酵母の使用を示す。ビタミンD2強化活性酵母クリームの酵母ビタミンD2含有量は、約1,600,000IU/100g(高強度)であった。白パンと全粒小麦粉パンの両方において、ビタミンD2強化活性酵母クリームの使用は、用いた全酵母の約8%であった。この割合により、パン50グラム当たり400IUのビタミンD2含有量を達成した。そのようなパンを1日当たり50gまたは2枚消費することで、人々は、ビタミンD(400IU)のRDA(推奨量)を満たすことができる。パン製造者は、ビタミンDを過剰にしたくないため、通常、RDAのビタミンD含有量の一部を提供することで満足している。パン製造者が、パン2枚(1日のパン1人前)当たりRDAを20%提供したい場合、ビタミンD2強化活性クリーム酵母の一部は、用いた全酵母の約1.6%になる。一方、パン製造者が、パン2枚当たりRDAを10%だけ提供したい場合、ビタミンD2強化活性クリーム酵母の部分は、用いた全酵母の約0.8%になる。そこで、約0.8%のビタミンDを強化した活性クリーム酵母(紫外線照射され、酵母に1,600,000IU/100gのビタミンD2を達成)と、99.2%の通常のクリーム酵母とを配合することで、1日のパン1人前当たり10%のRDAを目標とするビタミンDを強化した活性クリーム酵母を容易に製造することができる。例えば、紫外線照射されたクリーム酵母800リットルと、通常のクリーム酵母99,200リットルとを配合することで、ビタミンDに対して10%のRDAを目標とするビタミンDを強化した活性クリーム酵母100,000リットル作ることができる。この場合、約1000リットルの小型光バイオリアクターを設計、製作し、800リットルの紫外線照射されたクリーム酵母を生産することができると考えられる。小型光バイオリアクターとは、設備投資が少ないだけでなく、運転費も少ないことを意味する。標準化されたビタミンD2強化活性酵母クリームも、通常の液体酵母と同程度に活性であることが予想される。従って、ビタミンD2強化活性酵母クリームは、付加価値生産品として販売されるであろう。
【0063】
別の選択としては、インスタント乾燥酵母(IDY)の形で大量の高強度ビタミンD2強化酵母を生産することである。あるビタミンD2含有量を有するビタミンD2強化活性酵母クリームは、特定量のビタミンD2強化IDYを通常酵母クリームと配合することで容易に製造することができる。IDYの保存寿命ははるかに長いため、この選択の利点は、より長い期間にわたって使用することができる高強度のビタミンD2強化酵母をより大量に生産できる点である。この選択の欠点は、妥当な時間でバッチ処理できるように、乾燥前に酵母クリームを照射するためのはるかに大きな紫外光バイオリアクターが必要になる点である。
【0064】
表3.通常のクリーム酵母と、ビタミンDを強化した活性クリーム酵母とで作った4つのパンに対する酵母の使用。
【表3】

【0065】
実施例6
パンの製造
高レベルのビタミンDを有するパンの生産における処理パン酵母の効果を実証するため、2枚のパン調合物(白および全粒小麦粉)を4つの酵母試料(1つの対照と、3つのビタミンD強化酵母)で試験した。これにより、全部で8つのパン試料を調製した。8つのパン試料に対する生地調合物の詳細を表4に示す。通常、2枚または50gのパンを1日のパン1人前と見なす。ビタミンD強化酵母で作られたパンにおいて、パン50グラム当たり400IUのビタミンD含有量を達成するため生地に必要なビタミンD2強化酵母の量は、ビタミンD強化酵母試料の初期ビタミンD含有量に基づいて算出した。算出では、350gのパンは400gの生地から作ることができると仮定した。
【0066】
標準的な混合後、生地の温度は、24〜28℃であるべきである。生地に15分の中間ねかしを行い、その後、400gの生地片を計り、丸くし、シート状にし、Nussex成型機で成型した。成形生地片をベーキングパンに置き、華氏112度、相対湿度89%で97mmの高さに到達するまでねかした。その後、華氏440度(226.7℃)で17分間ナショナルオーブンで焼いた。パンを冷凍して、ビタミンD2分析用に送った。
【0067】
パンのビタミンD2含有量を評価するため、上述した8つのパン試料をビタミンD2分析のため社外研究所に送った。最初の試験は、パン試料を室温で約4日間保存した後に行った。室温でパンを保存中にビタミンD2の損失が発生したか調べるため、第2のビタミンD2分析は、14日経ったパン試料で行った。ビタミンD2測定にはHPLC(Silliker AOAC法)を用いている。
【0068】
表4
【表4】

【0069】
表5は、室温で4日と14日間保存した後の8つの調製パン試料のビタミンD2含有量を示す。ビタミンD2強化酵母を用いることでパンのビタミンD2を飛躍的に強化できることがうまく実証された。対照パンと比較して、ビタミンD2強化酵母で作ったパンは、はるかに高いビタミンD2含有量を得た。これらの結果も、パンの製造プロセス中に著しいビタミンD2の損失は生じなかったことを示し、これにより、高いビタミンD2回収効率が達成された。高いビタミンD回収効率は、酵母のビタミンD2が高温(227℃)のベーキング工程に影響を受けにくかったことを示唆している。
【0070】
室温で保存中、パンは酸素や光と接触するようになる。パンのビタミンD2は、潜在的な酸化および光化学反応により安定しない場合があると懸念された。しかしながら、パンのビタミンD2保存寿命の研究では、この推測は支持されなかった。表5に示すように、14日経ったパンのビタミンD2含有量は、4日経ったパンのものと同様であった。パンを室温で14日間(2週間)保存した後も、著しいビタミンD損失はなかった。従って、パンのビタミンD2は、保存に対し安定であった。現状では、パンの保存寿命は14日間まで可能であったので、この観察は重要である。14日間の結果により、パンのビタミンD2は、少なくとも2週間安定かつ有効であることをパン製造者に保証するものである。さらに、14日間のビタミンD2結果も4日間の結果を裏付けた。
【0071】
表5.室温で4日および14日間保存後の8つのパン試料のビタミンD2含有量
【表5】

【0072】
実施例7
ピザ生地の製造
実施例6において、ビタミンD強化パン酵母を用いた研究用パン製造試験を行った。ビタミンD2強化酵母を用いることでパンのビタミンDを飛躍的に強化できることがうまく実証された。通常のパン酵母で作った対照パンと比較して、ビタミンD強化酵母で作ったパンは、はるかに高いビタミンD含有量を得た。酵母のビタミンDはパンに良好に保持され、かつ、非常に良いビタミンD2回収効率が達成された。これは、酵母のビタミンDが高温(227℃)のベーキング工程に影響を受けにくかったことを示唆している。パンのビタミンDの良好な保存性を実験結果も示した。パンを室温で2週間保存した後も、著しいビタミンD損失は観察されなかった。
【0073】
ビタミンDパン酵母の概念の妥当性をさらに検査するため、ビタミンD強化パン酵母を用いて工業用試験(ピザクラスト用生地)を商業用製パン所で行った。工業用試験で用いたビタミンD強化パン酵母は、ビタミンD2を15IU/g含有する液状であった。小麦粉226lb当たり、または、生地385lb当たりかかるビタミンD2強化液体酵母24lbを用いて、1食当たり約33%のビタミンRDAを供給した(1人前の大きさは、144gのピザクラストであった)。6インチのピザクラストを製造し、24時間バルクねかしを行った。全てのピザクラストを熱圧し、部分的に焼いた。その後、トッピングを行い、華氏−68度で22分間CO2凍結した。試験用ピザクラスト試料(ビタミンD強化パン酵母で製造)と対照用ピザクラスト試料(通常のパン酵母で製造)の両方をビタミンD2分析のためにCovance Laboratoriesに送った。Covance Laboratoriesからの分析結果(表6)に基づいて、試験用ピザクラスト試料で検出された実際のビタミンD2含有量は、理論(期待)ビタミンD2含有量に非常に近かった。ビタミンD2強化酵母クリームは、1食当たり33%のビタミンD RDAまたは1食当たり128IUを目標に調製した。検出したピザクラスト1食当たりの実際のビタミンD2含有量は、127IUまたは32%のビタミンRDAであった。それに対し、対照用ピザクラスト試料で検出されたビタミンD2含有量は、1食当たり20IU未満であり、試験用ピザクラスト試料よりもはるかに低かった。先述の研究所パン試験と同様、ビタミンD強化酵母を用いたことによりパンの著しいビタミンD強化が観察された。商業用ピザ生地試験においても非常に良好なビタミンD回収効率が達成された。
【0074】
表6.試験用および対照用ピザクラスト試料間のビタミンD2含有量の比較
【表6】

【0075】
実施例8
ピザ生地の製造
ピザクラストでの商業用試験が成功した後、ビタミンD強化パン酵母での第2工業用試験を別の商業用製パン所で行った。ハンバーガー用パンの生産に対する試験を行った。試験で用いたビタミンD強化パン酵母は、22IU/gのビタミンD2含有量をもつ液状のものであった。1食当たり約10%のビタミンRDAを供給するため(1人前の大きさは、160gのハンバーガー用パンであった)、小麦粉1000lb当たり、または、生地1769lb当たりかかるビタミンD2強化液体酵母54lbを用いた。試験用ハンバーガー用パン試料(ビタミンD強化パン酵母で製造)と対照用ハンバーガー用パン試料(通常のパン酵母で製造)の両方をビタミンD2分析のためにCovance Laboratoriesに送った。ハンバーガー用パン試料の分析結果を表7にまとめる。生地へのビタミンD強化パン酵母の使用に基づいて、試験試料の理論(期待)ビタミンD2含有量は、1食当たり40IUであった。表7に示すように、2つの試験ハンバーガー用パン試料で検出された実際のビタミンD2含有量は、それぞれ、1食当たり43.4IUと44.6IUであり、理論値に非常に近かった。最初の工業用試験と同様、ここでも非常に良好なビタミンD2の物質収支が実証された。2つの試験用ハンバーガー用パン試料も非常によく似たビタミンD2含有量であり、2つの対照用ハンバーガー用パン試料もそうであった
ため、再現するための再現性が良好であることを示した。
【0076】
表7.試験用および対照用ハンバーガー用パン試料間のビタミンD2含有量の比較
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線処理して、そのエルゴステロール含有量をビタミンD2に変換した酵母を含む組成物。
【請求項2】
前記酵母が、紫外線処理後にその育成力のほとんどを保持している請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酵母が、サッカロミセス属のパン酵母菌株である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記酵母が栄養性酵母である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記栄養性酵母が、カンジダ属、トルラ属、およびクルイベロマイセス属からなる群から選択される請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記酵母が、ミネラルが豊富な酵母菌株である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ミネラルが、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、およびマンガンからなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記酵母が、ビタミンD2以外のビタミンが豊富な酵母菌株である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記酵母が、クリーム酵母、安定化クリーム酵母、圧搾酵母、粉砕酵母、冷凍酵母、フリーズドライ酵母、活性乾燥酵母、およびインスタント乾燥酵母からなる群から選択される請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が酵素を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記酵素が、アミラーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、およびリパーゼからなる群から選択される請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記酵母調製物が、パンの風味に寄与する乳酸菌を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記酵母が熱または他の手段により不活性化している請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の組成物を用いて製造された焼き菓子。
【請求項15】
パン、クラッカー、スポーツバー、およびビスケットからなる群から選択された請求項14に記載の焼き菓子。
【請求項16】
組成物を非ヒト動物に送達する請求項1乃至13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の組成物を用いて製造された発酵製品。
【請求項18】
前記発酵製品が、発酵飲料および発酵食品からなる群から選択される請求項17に記載の発酵製品。
【請求項19】
前記発酵製品がザウアークラウトである請求項18に記載の発酵製品。
【請求項20】
ビタミンD含有量を高めた酵母を含む組成物。
【請求項21】
前記酵母が、サッカロミセス属のパン酵母菌株である請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記酵母が栄養性酵母である請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記栄養性酵母が、カンジダ属、トルラ属、およびクルイベロマイセス属からなる群から選択される請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記酵母が、ミネラルが豊富な酵母菌株である請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
前記ミネラルが、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、およびマンガンからなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記酵母が、ビタミンD2以外のビタミンが豊富な酵母菌株である請求項20に記載の組成物。
【請求項27】
酵母組成物を照射する工程を含み、前記酵母は照射後もその育成力を実質的に全て維持する、酵母のビタミンD含有量を増加させる方法。
【請求項28】
前記酵母のビタミンD含有量が、少なくとも1,000%増加する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記酵母のビタミンD含有量が、少なくとも8,000%増加する請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記酵母のビタミンD含有量が、少なくとも80,000%増加する請求項29に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−507375(P2010−507375A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533626(P2009−533626)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001916
【国際公開番号】WO2008/049232
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(509098962)ラルマン ユーエスエー,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】