説明

新規のポリアミノポリケチド抗生物質およびその使用

本発明は、新規のポリアミノポリケチド抗生物質、その製造方法、ならびに、例えばこれらの抗生物質を用いた、バイオフィルム形成の阻害もしくは除去のための、または細菌感染症の治療のための、これらの抗生物質の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2008年11月7日に米国特許商標庁に対して出願された「ポリアミノポリケチド抗生物質およびその製造方法、ならびに細菌感染症を治療する方法」("Polyamino polyketide antibiotics and method of manufacturing thereof and method of treating bacterial infections")に関する出願であって、米国仮出願番号61/112,280を正式に付与された出願を参照し、かつ、この出願に基づく優先権を主張する。2008年11月7日に出願された上記出願の内容は、あらゆる目的のために参照することにより本明細書に組み込まれ、この目的には、発明の詳細な説明、特許請求の範囲、または図面に記載された、本明細書に含まれないあらゆる要素または部分を組み込むことが含まれる。
【0002】
<発明の技術分野>
本発明は、新規のポリアミノポリケチド抗生物質、その製造方法、ならびにこれらの抗生物質を用いた、細菌感染症の治療方法、および細菌性バイオフィルムの除去またはバイオフィルム形成の阻害に関する。
【背景技術】
【0003】
抗生物質の発見とその後の世界中での臨床適用は、近代医学の画期的な進歩の一つである。しかしながら、多剤耐性のスーパー細菌の出現は、重要な社会的および健康上の関心事となってきている。抗生物質耐性菌による感染症は、臨床環境および院内環境において一層一般的になりつつある。抗生物質の使用に関するダーウィン説の結論にあるように、抗生物質耐性の選択は避けられないことである。したがって、新しい抗生物質の同定および新しい治療法の開発は、細菌感染症の制御および予防にとって重要な意義を有する。
【発明の概要】
【0004】
第一の態様において、本発明は、式Iの化合物
【化1】

[式中、
R1は、水素、非置換または置換C1-C10アルキル、非置換または置換C1-C10アルケニル、非置換または置換C1-C10アルキニル、非置換または置換C3-C8シクロアルキル、非置換または置換C1-C10アルコキシ、非置換または置換C3-C8シクロアルコキシ、非置換または置換C6-C14アリール、非置換または置換5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、非置換または置換5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、-OR、-C(O)R、-C(O)OR、-C(O)NRR'、-NRR'、-S(O)2R、-S(O)2OR、および-S(O)2NRR'から選択され、
RおよびR'は独立して、水素、非置換または置換C1-C10アルキル、非置換または置換C1-C10アルケニル、および非置換または置換C1-C10アルキニルからなる群より選択される]、
あるいは、その互変異性体、幾何異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ形態、医薬上許容可能な塩、またはプロドラッグに関する。
【0005】
別の態様において、本発明は、本発明の化合物を含む組成物に関する。
【0006】
更なる態様において、本発明は、例えば抗菌剤または抗生物質などの医薬として使用するための本発明の化合物に関する。
【0007】
別の態様において、本発明はまた、対象における細菌感染症の治療または予防のための、1以上の本発明の化合物の使用に関する。
【0008】
さらに別の態様において、本発明は、治療有効量の1以上の本発明の化合物を治療を必要とする対象に投与することを含む、対象における細菌感染症を治療する方法に関する。
【0009】
さらに別の態様において、本発明は、バイオフィルムの除去/処理のための、またはバイオフィルムの形成の阻害のための、本発明の化合物または組成物の使用に関する。
【0010】
別の態様において、本発明はまた、
(a)Dickeya属の微生物を培養するステップと
(b)上記化合物を上記微生物から単離するステップ
とを含む、本発明の化合物を生成する方法を包含する。
【0011】
これらの態様の一つにおいて、Dickeya属の微生物はDickeya zeae種である。さらに別の態様において、本発明は、本発明の任意の化合物を産生する、Dickeya zeae DZ1株またはその変異株に関する。DZ1株は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection; ATCC)において、受託番号PTA-10319にて寄託されている。
【0012】
別の態様において、本発明はまた、Dickeya zeaeから単離することにより入手可能なポリアミノポリケチド化合物に関する。これらの化合物は、抗菌効果を有し得る。一つの特定の態様において、これらの化合物の単離のために用いられるDickeya zeaeは、Dickeya zeae DZ1株またはその変異株である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の詳細な説明>
<定義>
他に述べられなければ、本明細書および特許請求の範囲において用いられる下記の用語は、下記に述べられる意味を有する。
【0014】
用語「Dickeya」は、「Dickeya」属(分類単位名(taxon identifier)204037)を表すその一般的な意味に従って用いられ、これは、エンテロバクター科(Enterobacteriaceae)ファミリー(http://www.uniprot.org/taxonomy/204037に従う分類)に属し、コメなどの植物において腐敗病の原因となる既知の植物病原体である。用語「Dickeya zeae」は、Dickeya属に属する種を表すもので、これもまた当技術分野において知られており、分類単位名204042(http://www.uniprot.org/taxonomy/204042に従う分類)が付与されている。(Samsonらの「Transfer of Pectobacterium chrysanthemi (Burkholder et al. 1953) Brenner et al. 1973 and Brenneria paradisiaca to the genus Dickeya gen. nov. as Dickeya chrysanthemi comb, nov. and Dickeya paradisiaca comb. nov. and delineation of four novel species, Dickeya dadantii sp. nov., Dickeya dianthicola sp. nov., Dickeya dieffenbachiae sp. nov. and Dickeya zeae sp. nov.」Int. Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2005) Jul; 55 (Pt 4): 1415-27もまた参照。)本発明で用いることができるDickeya属の適切な種の他の例は、いくつか言及しただけでも、Dickeya dadantii、 Dickeya dieffenbachiae、Dickeya paradisiacal、Dickeya sp. 2187を含む。
【0015】
用語「変異株」は、DZ1株(ATCC受託番号PTA-10319)との関連で用いられる場合、ならびに所望の生物学的活性(すなわち1以上の式Iの化合物の産生)が親株の生物学的活性と同様であるか同一である変異株または変異体を得るための方法との関連で用いられる場合には、親株の変異体を表す。本明細書にて定義される「親株」は、突然変異の前の元のDZ1株である。変異株は、人間の介入無しに自然界において発現し得る。変異株はまた、当業者に知られた様々な方法および組成物による処理によって得ることができる。例えば、DZ1株は、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホンなどの化学物質を用いて、またはガンマ線、X線、もしくはUVを用いた照射によって、または当技術分野において熟練した者によく知られている他の手段によって、処理することができる。DZ1株の変異株または変異体はまた、例えば、関連する酵素またはタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現または欠失により、定方向の遺伝子工学技術により得ることができる。変異株が得られると、式Iの化合物の収量を増加させることができるか、あるいは、変更された式Iの化合物(親株のDZ1株により産生される式Iの化合物とは異なる式Iの化合物を意味する)の産生を引き起こし得る。親株のDZ1株に由来するこのような変異体および遺伝子工学技術による変異体のすべてはまた、本発明に含まれる。
【0016】
「アルキル」は、直鎖状または分岐鎖状の基を含む飽和脂肪族炭化水素を表す。好ましくは、アルキル基は1〜10個の炭素原子を有する(数値範囲(例えば「1〜10」)が本明細書において述べられる時は必ず、その基(この場合にはアルキル基)が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子など、最大10個であり10個を含む炭素原子を含み得ることを意味する)。より詳細には、アルキル基は、1〜6個の炭素原子を有する中程度の大きさのアルキル基であってもよく、あるいは、1〜4個の炭素原子を有する低級アルキル基(例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、iso-ブチル、tert-ブチルなど)であってもよい。アルキル基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換される場合には、置換基は、1つまたは複数(例えば1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの基)であって、それぞれ、C3-C8シクロアルキル、C6-C14アリール、5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、ヒドロキシ、C1-C10アルコキシ、C3-C8シクロアルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロ、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、ニトロ、シリル、スルフィニル、スルホニル、アミノ、および-NR10R11(ここで、R10およびR11は独立して、水素、C1-C4アルキル、C3-C8シクロアルキル、C6-C14アリール、カルボニル、アセチル、スルホニル、アミノ、およびトリフルオロメタンスルホニルからなる群より選択されるか、あるいはR10およびR11は、これらが結合する窒素原子と一緒に結合して5員環または6員環のヘテロ脂環式環を形成する)からなる群より選択される。
【0017】
「シクロアルキル」基は、3〜8個の環原子からなる、すべてが炭素原子である単環(すなわち、隣接結合炭素原子対を共有する環)を表すものであって、これらの環の1つ以上が、完全共役π電子系を有していない(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなど)。シクロアルキル基の非限定的な例は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、アダマンタン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、およびシクロヘプタトリエンである。シクロアルキル基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換される場合には、置換基は、1つまたは複数(例えば1つまたは2つの基)であって、それぞれ、C1-C10アルキル、C3-C8シクロアルキル、C6-C14アリール、5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、ヒドロキシ、C1-C10アルコキシ、C3-C8シクロアルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロ、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、ニトロ、シリル、スルフィニル、スルホニル、アミノ、および-NR10R11(R10およびR11は上記に定義されるとおりである)からなる群より選択される。
【0018】
「アルケニル」基は、少なくとも2つの炭素原子と少なくとも1つの炭素-炭素二重結合とからなる、本明細書において定義されるようなアルキル基(例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、またはペンテニル、およびその構造異性体形態(例えば、1-または2-プロペニル、1-、2-、または3-ブテニル)など)を表す。
【0019】
「アルキニル」基は、少なくとも2つの炭素原子と少なくとも1つの炭素-炭素三重結合とからなる、本明細書において定義されるようなアルキル基(例えば、アセチレン、エチニル、プロピニル、ブチニル、またはペンチニル、および上述したようなその構造異性体形態)を表す。
【0020】
「アリール」基は、6〜14個の環原子からなる、すべてが炭素原子である単環式基または縮合多環式基(すなわち、隣接結合炭素原子対を共有する環)を表すものであって、完全共役π電子系を有する。アリール基の非限定的な例は、フェニル、ナフタレニル、およびアントラセニルである。アリール基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換される場合には、置換基は、1つまたは複数(例えば1つ、2つ、または3つの基)であって、それぞれ、C1-C10アルキル、C3-C8シクロアルキル、C6-C14アリール、5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、ヒドロキシ、C1-C10アルコキシ、C3-C8シクロアルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロ、トリハロメチル、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、ニトロ、シリル、スルフィニル、スルホニル、アミノ、および-NR10R11(R10およびR11は上記に定義されるとおりである)からなる群より選択される。好ましくは、置換基は独立して、クロロ、フルオロ、ブロモ、メチル、エチル、ヒドロキシ、メトキシ、ニトロ、カルボキシ、メトキシカルボニル、スルホニル、またはアミノから選択される。
【0021】
「ヘテロアリール」基は、5〜10個の環原子からなる、単環または縮合芳香環(すなわち、隣接結合炭素原子対を共有する環)であって、1つ、2つ、3つ、または4つの環原子が、窒素、酸素、および硫黄からなる群より選択され、残りの環原子は炭素である基を表す。ヘテロアリール基の非限定的な例は、ピリジル、ピロリル、フリル、チエニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,2,5-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、1,3,4-トリアジニル、1,2,3-トリアジニル、ベンゾフリル、イソベンゾフリル、ベンゾチエニル、ベンゾトリアゾリル、イソベンゾチエニル、インドリル、イソインドリル、3H-インドリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノリジニル、キナゾリニル、フタラジニル(pthalazinyl)、キノキサリニル、シンノリニル(cinnnolinyl)、ナフチリジニル(napthyridinyl)、キノリル、イソキノリル、テトラゾリル、5,6,7,8-テトラヒドロキノリル,5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリル、プリニル、プテリジニル、ピリジニル、ピリミジニル、カルバゾリル、キサンテニル、またはベンゾキノリルである。ヘテロアリール基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換される場合には、置換基は、1つまたは複数(例えば1つまたは2つの基)であって、それぞれ、C1-C10アルキル、C3-C8シクロアルキル、C6-C14アリール、5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、ヒドロキシ、C1-C10アルコキシ、C3-C8シクロアルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロ、トリハロメチル、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、ニトロ、シリル、スルフィニル、スルホニル、アミノ、および-NR10R11(R10およびR11は上記に定義されるとおりである)からなる群より選択される。好ましくは、置換基は独立して、クロロ、フルオロ、ブロモ、メチル、エチル、ヒドロキシ、メトキシ、ニトロ、カルボキシ、メトキシカルボニル、スルホニル、またはアミノから選択される。
【0022】
「ヘテロ脂環式」基は、5〜10個の環原子からなる単環または縮合環であって、環の中に1つ、2つ、または3つのヘテロ原子(窒素、酸素、および-S(O)n(nは0〜2である)からなる群より選択される)を含み、残りの環原子は炭素である基を表す。環はまた、1つ以上の二重結合を有していてもよい。しかしながら、環は、完全共役π電子系を有しない。ヘテロ脂環式基の非限定的な例は、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、イミダゾリジン、テトラヒドロピリダジン、テトラヒドロフラン、チオモルホリン、テトラヒドロピリジンなどである。ヘテロ脂環式基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。置換される場合には、置換基は、1つまたは複数(例えば1つ、2つ、または3つの基)であって、それぞれ、C1-C10アルキル、C3-C8シクロアルキル、C6-C14アリール、5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、ヒドロキシ、C1-C10アルコキシ、C3-C8シクロアルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロ、トリハロメチル、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、ニトロ、シリル、スルフィニル、スルホニル、アミノ、および-NR10R11(R10およびR11は上記に定義されるとおりである)からなる群より選択される。置換基は例えば、独立して、クロロ、フルオロ、ブロモ、メチル、エチル、ヒドロキシ、メトキシ、ニトロ、カルボキシ、メトキシカルボニル、スルホニル、またはアミノから選択される。
【0023】
「ヒドロキシ」基は-OH基を表す。
【0024】
「アルコキシ」基は、本明細書において定義されるような、-O-非置換アルキル基および-O-置換アルキル基を表す。例には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
「シクロアルコキシ」基は、本明細書において定義されるような、-O-シクロアルキル基を表す。一つの例は、シクロプロピルオキシである。
【0026】
「アリールオキシ」基は、本明細書において定義されるような、-O-アリール基および-O-ヘテロアリール基の両方を表す。例には、フェノキシ、ナフチルオキシ(napthyloxy)、ピリジルオキシ、フラニルオキシなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
「メルカプト」基は-SH基を表す。
【0028】
「アルキルチオ」基は、本明細書において定義されるような、S-アルキル基およびS-シクロアルキル基の両方を表す。例には、メチルチオ、エチルチオなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
「アリールチオ」基は、本明細書において定義されるような、-S-アリール基および-S-ヘテロアリール基の両方を表す。例には、フェニルチオ、ナフチルチオ(napthylthio)、ピリジルチオ、フラニルチオなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
「スルフィニル」基は-S(O)-R"基を表し、ここでR"は、本明細書に置いて定義されるような、水素、ヒドロキシ、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール(環炭素原子を介して結合)、およびヘテロ脂環式基(環炭素原子を介して結合)からなる群より選択される。
【0031】
「スルホニル」基は-S(O)2R"基を表し、ここでR"は、本明細書に置いて定義されるような、水素、ヒドロキシ、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール(環炭素原子を介して結合)、およびヘテロ脂環式基(環炭素原子を介して結合)からなる群より選択される。
【0032】
「トリハロメチル」基は-CX3基を表し(ここでXは本明細書おいて定義されるハロ基である)、例えばトリフルオロメチル、トリクロロメチル、トリブロモメチル、ジクロロフルオロメチルなどである。
【0033】
「カルボニル」は-C(=O)-R"基を表し、ここでR"は、本明細書に置いて定義されるような、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール(環炭素原子を介して結合)、およびヘテロ脂環式基(環炭素原子を介して結合)からなる群より選択される。典型的な例には、アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、ホルミル、シクロプロピルカルボニル、ピリジニル カルボニル、ピロリジニル カルボニル(pyrrolidin-lylcarbonyl)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
「チオカルボニル」基は、本明細書において定義されるようなR"を有する-C(=S)-R"基を表す。
【0035】
本明細書において互換的に用いられる「C-カルボキシ」および「カルボキシ」は、本明細書において定義されるようなR"を有する-C(=O)O-R"を表し、例えば-COOH、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどである。
【0036】
「0-カルボキシ」基は、本明細書において定義されるようなR"を有する-OC(=O)R"基を表し、例えばメチルカルボニルオキシ、フェニルカルボニルオキシ、ベンジルカルボニルオキシなどである。
【0037】
「アセチル」基は-C(=O)CH3基を表す。
【0038】
「カルボン酸」基は、R"が水素であるC-カルボキシ基を表す。
【0039】
「ハロ」または「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を表す。
【0040】
「シアノ」基は-CN基を表す。
【0041】
「ニトロ」基は-NO2基を表す。
【0042】
「O-カルバミル」基は、本明細書において定義されるようなR10およびR11を有する-OC(=O)NR10R11基を表す。
【0043】
「N-カルバミル」基は、本明細書において定義されるようなR10およびR11を有するR11OC(=0)NR10-基を表す。
【0044】
「O-チオカルバミル」基は、本明細書において定義されるようなR10およびR11を有する-OC(=S)NR10R11基を表す。
【0045】
「N-チオカルバミル」基は、本明細書において定義されるようなR10およびR11を有するR11OC(=S)NR10-基を表す。
【0046】
「アミノ」基は、-NR10R11基を表し(ここでR10およびR11は独立して、水素または非置換低級アルキルである)、例えば-NH2、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルアミノ、メチルアミノなどである。
【0047】
「C-アミド」基は、本明細書において定義されるようなR10およびR11を有する-C(=O)NR10R11基を表す。例えば、R10は水素または非置換C1-C4アルキルであり、R11は水素、任意にヘテロ脂環式基、ヒドロキシ、またはアミノで置換されるC1-C4アルキルである。例えば、-C(=O)NR10R11は、アミノカルボニル、ジメチルアミノカルボニル、ジエチルアミノカルボニル、ジエチルアミノエチルアミノカルボニル、エチルアミノエチルアミノカルボニルなどであってよい。
【0048】
「N-アミド」基は、本明細書において定義されるようなR10およびR11を有するR11C(=O)NR10-基を表し、例えばアセチルアミノなどである。
【0049】
「医薬組成物」は、本明細書に記載される1以上の化合物、またはその生理学的/医薬上許容可能な塩もしくはプロドラッグと、他の化学物質成分(例えば生理学的/医薬上許容可能な担体および賦形剤)との混合物を表す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0050】
式Iの化合物はまた、プロドラッグとして作用してもよい。「プロドラッグ」は、in vivoで親薬物へと変換される物質を表す。プロドラッグは、親薬物よりも投与するのが容易であり得る場合もあるので、有用であることが多い。例えば、プロドラッグは経口投与によって生物学的利用可能であり得るが、一方、親薬物は経口投与によって生物学的利用可能でない。プロドラッグはまた、親薬物よりも医薬組成物における溶解度が改善されていることがある。プロドラッグの非限定的な例は、水溶性であることが移動にとって不利である細胞膜の通過を促進するためにエステル(「プロドラッグ」)として投与されるが、その後、水溶性であることが有利である細胞内に一旦到達すると、代謝により加水分解されて活性本体であるカルボン酸になる、本発明の化合物である。プロドラッグは、酵素的過程および代謝的加水分解を含む、様々な機序により親化合物に変換されてよい。
【0051】
プロドラッグの別の例は、単鎖ポリペプチド(例えば、2〜10アミノ酸のポリペプチドであるが、これに限定されない)であってもよく、このポリペプチドは、本発明の化合物のカルボキシ基に末端アミノ基を介して結合し、in vivoで加水分解または代謝されて活性分子を放出する。式Iの化合物のプロドラッグは、本発明の範囲に含まれる。
【0052】
さらに、式Iの化合物が、例えばヒトなどの生物の体内で酵素により代謝されて、抗生作用または抗細菌作用を有する代謝物を生成することが企図される。このような代謝物は、本発明の範囲に含まれる。
【0053】
本明細書において用いられる場合には、「生理学的/医薬上許容可能な担体」は、生物に対して重大な刺激・炎症を引き起こさず、かつ、投与される化合物の生物学的な活性および特性を損なわない、担体または希釈剤を表す。
【0054】
「医薬上許容可能な賦形剤」は、医薬組成物に添加されて化合物の投与をさらに促進する不活性物質を表す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類および様々な種類のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、およびポリエチレングリコール類が含まれる。
【0055】
本明細書において用いられる場合には、用語「医薬上許容可能な塩」は、親化合物の生物学的な有効性および特性を保持する塩を表す。このような塩には、(1)親化合物の遊離塩基と、無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸など)または有機酸(例えば酢酸、シュウ酸、(D)-もしくは(L)-リンゴ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、またはマロン酸など)、好ましくは塩酸または(L)-リンゴ酸との反応により得られる酸付加塩;あるいは、(2)親化合物に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えばアルカリ金属イオン(例えばナトリウムもしくはカリウム)、アルカリ土類金属イオン(例えばマグネシウムもしくはカルシウム)、またはアルミニウムイオンにより置換される際か、あるいは有機塩基(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなど)と配位結合する際のいずれかにおいて形成される塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
用語「抗生物質」または「抗菌剤」は、細菌などの微生物の増殖を阻害、排除、または予防する化合物に関する。
【0057】
「細菌感染症」は、微生物または細菌(例えば病原菌)による生物の感染症に関する。細菌は、例えば、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、アエロモナス(Aeromonas)属、ボルデテラ(Bordetella)属、ボレリア(Borrelia)属、ブルセラ(Brucella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、クラミジア(Chlamydia)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エルウィニア(Erwinia)属、エシェリキア(Escherichia)属、フランシセラ(Francisella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、レジオネラ(Legionella)属、レプトスピラ(Leptospira)属、リステリア(Listeria)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、ナイセリア(Neisseria)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リケッチア(Rickettsia)属、サルモネラ(Salmonella)属、シゲラ(Shigella)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococccus)属、トレポネーマ(Treponema)属、ベイロネラ(Veillonella)属、ビブリオ(Vibrio)属、またはエルシニア(Yersinia)属から選択されてよい。病原菌の具体的な例は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、エルウィニア・クリサンセミ(Erwinia chrysanthemi)、または大腸菌(Escherichia coli)である。
【0058】
「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、および「治療(treatment)」は、細菌感染症および/またはそれに付随する症状を緩和または排除する方法を指す。
【0059】
「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」、および「予防(prevention)」は、細菌感染症の発症を妨げる方法、すなわち予防方法を指す。
【0060】
「対象」は、生体、例えば哺乳動物(ヒトを含む)を指す。
【0061】
「治療有効量」は、治療される疾患/感染症の1以上の症状をある程度まで軽減する、投与される化合物の量を指す。
【0062】
<発明を説明する実施形態>
本発明は、Dickeya zeae種およびDickeya属に属する株に由来する分離株が細菌性病原体に対する殺菌性の化合物を産生するという、本発明者の驚くべき発見に基づく。
【0063】
<化合物>
殺菌性の化合物は、典型的には、式Iの化合物
【化2】

[式中、
R1は、水素、非置換または置換C1-C10アルキル、非置換または置換C1-C10アルケニル、非置換または置換C1-C10アルキニル、非置換または置換C3-C8シクロアルキル、非置換または置換C1-C10アルコキシ、非置換または置換C3-C8シクロアルコキシ、非置換または置換C6-C14アリール、非置換または置換5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、非置換または置換5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、-OR、-C(O)R、-C(O)OR、-C(O)NRR'、-NRR'、-S(O)2R、-S(O)2OR、および-S(O)2NRR'から選択され、
RおよびR'は独立して、水素、非置換または置換C1-C10アルキル、非置換または置換C1-C10アルケニル、および非置換または置換C1-C10アルキニルからなる群より選択される]、
あるいは、その互変異性体、幾何異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ形態、医薬上許容可能な塩、またはプロドラッグである。
【0064】
本発明の化合物の特定の実施形態において、R1は水素または-C(O)Rであり、Rは非置換または置換C1-C10アルキル(例えば、3-アミノ-4,6-ジヒドロキシ-2-メチル-ヘプタン-7-イルなどの、置換ヘプタニル)である。
【0065】
特定の実施形態において、本発明の化合物は、式II(本明細書においてゼアミンIとも称される)または式III(本明細書においてゼアミンIIとも称される)を有する。
【化3】

【0066】
<用途>
本発明の一つの実施形態において、本発明の化合物は、対象すなわち生物における細菌感染症を治療または予防するための方法において用いられる。細菌感染症は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌によって引き起こされ得る。細菌感染症は、例えば、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、アエロモナス(Aeromonas)属、ボルデテラ(Bordetella)属、ボレリア(Borrelia)属、ブルセラ(Brucella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、クラミジア(Chlamydia)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エルウィニア(Erwinia)属、エシェリキア(Escherichia)属、フランシセラ(Francisella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、レジオネラ(Legionella)属、レプトスピラ(Leptospira)属、リステリア(Listeria)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、ナイセリア(Neisseria)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リケッチア(Rickettsia)属、サルモネラ(Salmonella)属、シゲラ(Shigella)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococccus)属、トレポネーマ(Treponema)属、ベイロネラ(Veillonella)属、ビブリオ(Vibrio)属、またはエルシニア(Yersinia)属の細菌によって引き起こされ得る。一つの特定の実施形態において、感染症は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、エルウィニア・クリサンセミ(Erwinia chrysanthemi)、または大腸菌(Escherichia coli)によって引き起こされる。細菌感染症に罹患する対象は、哺乳動物(例えばヒトなど)であってよい。
【0067】
別の実施形態において、本発明は、バイオフィルムの除去/処理のための、またはバイオフィルム形成の阻害のための、本発明の化合物または組成物の使用に関する。
【0068】
これに関連して、グラム陰性菌およびグラム陽性菌の両方を含む広範囲にわたる微生物が、様々な条件下においてバイオフィルムを形成しバイオフィルムとして存在するということが注目される(Costertonら,1999;Sutherland, 2001)。バイオフィルムは、保護性および接着性のマトリックスの分泌により特徴付けられる微生物細胞の複合体凝集物である。ほとんどの場合において、バイオフィルムは、ポリマー物質の細胞外マトリックスにより相互に連絡される、微生物細胞を有する表面付着性コミュニティであると認識されるが、時折、非付着性または弱付着性(loosely attached)の細菌細胞凝集物もまた観察され得る。バイオフィルムの発生は、付着、マイクロコロニーの形成、バイオフィルムの成熟、および分散を含むいくつかの重要なステップに分けることができ、それぞれのステップにおいて、細菌は、異なる構成成分および分子(鞭毛、IV型繊毛、DNA、およびエキソポリサッカライドを含む)を補充し得る。バイオフィルムを形成する細菌は、環境における細菌生残能力の増加、および効果的な根絶を妨げるバイオフィルムの保護性の性質のために、環境、産業、および健康管理の分野において重篤な問題を引き起こす。例えば、慢性感染症に関連する細菌性バイオフィルム、ならびに医療装置および船舶に関連するバイオフィルムは、健康管理または産業の重要な問題である(Costertonら,1999; O'Tooleら, 2000b; DonlanおよびCosterton, 2002; ParsekおよびSingh, 2003;また、An S.ら(2010), The Impact and Molecular Genetics of Bacterial Biofilms, 212〜226ページ(Environmental Molecular Microbiology, Caister Academic Press, ISBN 978-1-904455-52-3に収載)も参照)。
【0069】
これに関連して、用語「バイオフィルム(biofilmまたはbiofilms)」は、本明細書において、当技術分野におけるその通常の意味に従い、表面に付着して増殖し、微生物の集合体がその中で保護性の環境に組み込まれる細胞外ポリマーの粘液層を産生する微生物群であると定義されることが注目される(総説は下記を参照:Costertonら, Ann. Rev. Microbiol. 49: 711-45, 1995, An Sら,上記、または国際特許出願WO 2003/039529もまた参照)。バイオフィルムは、このようなポリマーマトリックスに組み込まれた細菌が従来の抗菌剤に対して耐性を獲得するので、重大な問題を提起する。例えばシュードモナス・エルギノーサ(P. aeruginosa)細胞は、アルギン酸粘液マトリックスにおいて増殖するが、抗生物質(例えば、アミノグリコシド系抗生物質、P-ラクタム系(P-lactam)抗生物質、フルオロキノロン剤)および殺菌剤に対して耐性であることが実証された(Govan & Deretic, Microbiol. Rev. 60: 539-74, 1996)。バイオフィルムが介在する耐性獲得についていくつかの機序が提案されている(Costertonら, Science 284: 1318-22, 1999)。
【0070】
ほとんどの自然界、医療および産業的セッティング(settings)において、細菌は大部分、バイオフィルムの中に見出される。飲料水管、船体、歯科用器具または医療用装置は、典型的な、細菌がコロニーを形成する表面である。一方では、バイオフィルムは、産業分野において腐食作用により機器(materials)の寿命を減少させており、この過程はまた、「生物付着」と称される。他方では、ヒトにおけるすべての細菌感染症の3分の2は、バイオフィルムに関連する(Lewis, Antimicrob. Agents Chemother. 45: 999-1007, 2001)。例えば、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)は、嚢胞性繊維症の肺組織、コンタクトレンズ、およびカテーテル管といった多様な表面に、感染性のバイオフィルムを形成する(Sticklerら, Appl. Environm. Microbiol. 64: 3486-90, 1998)。よって、シュードモナス・エルギノーサ(P. aeruginosa)のバイオフィルム形成を阻害すれば、その結果として、バイオフィルム形成能力を減少させることになり、したがって抗菌剤治療に対する感受性を増加させることになる。
【0071】
上記と並んで、本発明の化合物は、例えば、上述の<用途>の第一段落に列挙された細菌に適用することができる。下記において、本発明の化合物が様々な用途において抗菌剤として用いられ得ることが説明される。
【0072】
第一の実施形態において、化合物は、細菌増殖の阻害および細菌の生理機能の妨害によって、細菌により引き起こされる哺乳動物(特にヒト)の疾患を治療するのに有用である。このような疾患には、心内膜炎、呼吸器および肺の感染症(好ましくは、免疫無防備状態および嚢胞性繊維症の患者)、菌血症、中枢神経系感染症、耳感染症(外耳炎を含む)、眼感染症、骨および関節の感染症、尿路感染症、胃腸感染症、ならびに皮膚組織および柔組織の感染症(創傷感染症、膿皮症、および皮膚炎)が含まれ、これらのすべてが、例えばシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)によって引き起こされ得る。さらに、化合物はまた、いくつか挙げただけでも、例えば、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)による肺感染症(好ましくは、免疫無防備状態および嚢胞性繊維症の患者)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas lcydrophila)による胃腸炎および創傷感染症、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chrofnobacterium violaceum)による熱帯および亜熱帯地域の敗血症、大腸菌(Escherichia coli)による出血を伴う下痢および溶血性尿毒症症候群(HUS)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)およびエルシニア・シュードツベルクローシス(Y. pseudotuberculosis)により引き起こされるエルシニア症、ならびにセラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens)による輸血関連敗血症および瘻孔性膿皮症(fistulous pyoderma)の治療に用いることができる。
【0073】
本発明の化合物はまた、植物の病気を予防および/または治療するのに用いることができ、細菌の増殖の阻害と細菌の生理機能の妨害により、細菌性植物病原体の毒性を減少または消失させる。このような病気には、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)によるクラウンゴール腫瘍、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、およびエルウィニア・クリサンセミ(Erwinia chrysanthemi)による軟腐病、パントエア・ステワルティイ(Pantoea stewartii)によるトウモロコシ感染症(sweet corn and maize infections)、ならびにカルストーマ・ソラナセアルム(Kalstoma solanacearum)による立枯病が含まれる。
【0074】
別の実施形態において、化合物は、動物の疾患、例えば魚類の疾患(例えば、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)およびビブリオ・アングイラルム(Vibrio anguillarum)による敗血症、アエロモナス・サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)によるサケ科のせっそう病,ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)によるエビの感染症、ならびにエルシニア・ラッケリ(Yersinia ruckeri)によるエンテリック・レッドマウス病の予防および/または治療に用いることができるが、例えばゼノラブダス・ネマトフィルス(Xenorhabdus nematophilus)による昆虫の病気の予防および/または治療にもまた用いることができる。
【0075】
本発明はまた、例えばAHLシグナル伝達系などの系(これに限定されない)を用いる細菌性病原体の毒性を減少させるための方法を提供する。一つの実施形態において、方法は、式(I)の化合物を用いて生物または非生物の表面を処理することによりその表面から細菌性バイオフィルムを除去、減少、分離(detach)、または分散(disperse)させるために提供される。この方法はまた、細菌のコロニー形成が開始され得る前に式(I)の化合物を用いて生物または非生物の表面を処理することにより、その表面にバイオフィルムが形成されるのを予防するのに有用である。用語「バイオフィルム」は、単一の種類の生物または2以上の生物の混合物のいずれかを含む細胞凝集物を表す。後者の場合において、これらのフィルムは、「混合バイオフィルム」と称される。本発明の化合物が、細菌による損傷や病気を予防および/または治療するために、例えば環境、産業、および医療における適用など、広範囲にわたる様々な異なる分野において適用され得ることは、当業者に明らかである。
【0076】
一つの態様において、式(I)の化合物は、私的および公的な場所におけるあらゆる種類の表面に用いることができ、グラム陰性菌またはグラム陽性菌を妨害することによりコロニー形成およびバイオフィルム形成を防止および/または処理するのが有益である。式(I)の化合物は、化合物の溶液として、単独で、または他の物質(例えば、従来の界面活性剤、好ましくはドデシル硫酸ナトリウム、または洗浄剤、殺微生物剤、防かび剤、抗生物質、pH調整剤、香料、染料または着色剤)とともに、表面に適用することができる。殺菌剤との組み合わせにおいて、例えば、式(I)の化合物が毒性またはバイオフィルム形成を阻害し、一方殺菌剤が病原体を死滅させる。
【0077】
一つの実施形態において、化合物は、例えば殺菌剤、洗浄剤、家庭用洗浄剤、および粉末洗浄剤などの洗浄溶液中および処理溶液中において、スプレーまたは定量吐出液体(dispensable liquid)の形態で、局所使用のための抗菌剤として用いることができる。一つの実施形態において、これらの液体は、食事の準備をする場所および個人衛生の場所における窓、床、衣服、台所および浴室の表面、ならびに他の表面に適用することができる。
【0078】
さらに、式(I)の化合物は、個人衛生物品、洗面用品(toiletries)、および化粧用品(cosmetics)において抗菌成分として用いることができる。このような洗面用品の例には、口腔衛生物品が含まれ得る。口腔衛生物品は、口腔衛生を改善するために口腔に使用されるあらゆる組成物を指す。これらの組成物は、口腔洗浄剤組成物のような水溶液の形態、練り歯磨(toothpaste)もしくは歯磨剤(dentifrice)組成物のようなジェル(gels)の形態、ロゼンジ錠のような固体の形態、またはチューインガム組成物のような充填剤との組合わせの形態であってよい。これに関連して、歯磨剤(dentrice)は、許容可能な口腔衛生を維持するのを助けるために用いられるペースト、液体、または粉末を指す。個人衛生物品の例には、石鹸、シャンプー、シャワージェル、軟膏、クリーム、ローション、デオドラント、ならびにコンタクトレンズ用の殺菌剤および保存液が含まれるが、これらに限定されない。化粧用品の例には、いくつか挙げただけでも、化粧品(make-up)、アイライナー、口紅、リップグロスが含まれる。したがって、一つの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含む上述の組成物に関する。
【0079】
別の実施形態において、化合物は、例えば船体、製紙、油回収、および食品加工などの産業的セッティング(industrial settings)において、細菌性バイオフィルムを防止または処理するのに用いることができる。化合物はまた、水処理施設または飲料水分配システムに適用することができ、このような場所では、コロニーが形成される表面(例えばシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)による)は、例えば水管、水噴射ジェット装置、熱交換器、冷却塔などの水溶液系の内側であり得る。現在までのところ、殺微生物剤がこれらの問題に対処する好ましいツールであるが、殺微生物剤は細菌に対して高い特異性を有しないので、ヒトに対してもまた有毒であることが多い。これは、本発明の化合物を適用することにより、回避することができる。
【0080】
さらなる実施形態において、本発明は、医療用装置に関連する細菌感染症を阻害および/または予防するための方法に関する。本発明は、物品の表面にバイオフィルムが形成されるのを阻害および/または予防するために、式(I)の化合物を用いてコーティングした物品および/または含浸させた物品を提供する。物品は、手術用具、血液バッグシステム、または医療用装置(例えば人工心臓弁、人工関節、人工喉頭、ステント、シャントなどの永久埋め込み型器具、または気管内チューブもしくは胃腸チューブ、ペースメーカー、手術用ピン、もしくは留置カテーテルなどの永久埋め込み型ではない器具のいずれかなど)であってよい。留置カテーテルの例は、尿道カテーテル、血管カテーテル、腹膜灌流用カテーテル、中心静脈カテーテル、および無針コネクタである。カテーテルの材料は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ラテックス、テフロン(登録商標)、ポリウレタン、およびシリコーン、これらの混合物、または同様のポリマー材料であり得る。
【0081】
これに関連して、カテーテルに関連する細菌感染症のリスクを減少させるために、それぞれクロルヘキシジン/銀スルファジアジンおよびミノサイクリン/リファンピシンなどの防腐剤または抗菌剤をコーティングした、および/または含浸させたいくつかのカテーテルが開発されてきたことが注目される。さらに、採取バッグ、あるいは外側表面シースと管腔シリコーンシースとの間に挟まれた層は、抗菌活性の急速な消失を克服するように構築されてきた。それにもかかわらず、従来の抗生物質に対する細菌の耐性リスクの出現は、抗生物質でコーティングされたカテーテルの日常的な使用を制限する。
【0082】
しかしながら、本発明の化合物は、細菌における高感度のシグナル伝達機構を標的とする新規の治療戦略ゆえに耐性獲得のリスクが低い、カテーテル関連細菌感染症を効果的に減少させる可能性を提供する。一つの適用形態は、カテーテルの内側表面および外側表面の両方についてカテーテル材料をコーティングすること、および/または含浸させることである。式(I)の化合物はまた、カテーテル関連デポー剤から周囲環境へと連続して放出される抗菌剤の混合物中に含まれてもよい。
【0083】
<投与および医薬組成物>
本発明の化合物またはその医薬上許容可能な塩は、ヒト患者に対してそのまま投与することができ、あるいは、前述の物質が適切な担体または賦形剤と混合される医薬組成物で投与することができる。医薬品を製剤化および投与するための技術は、「Remington's Pharmacological Sciences」(Mack Publishing Co., Easton, PA., 最新版)において見出すことができる。
【0084】
本明細書で使用される場合には、「投与する」または「投与」は、生物に対して、細菌感染症の予防または治療を目的として、本発明の式(I)の化合物もしくはその医薬上許容可能な塩を送達すること、または本発明の式(I)の化合物もしくはその医薬上許容可能な塩を含む医薬組成物を送達することを指す。
【0085】
適切な投与経路には、経口投与、直腸内投与、経粘膜投与、もしくは消化管投与、または筋肉内注射、皮下注射、髄内注射、鞘内注射、直接心室内注射、静脈内注射、硝子体内注射、腹腔内注射、鼻腔内注入、もしくは眼内注入が含まれ得るが、これらに限定されない。好ましい投与経路は、経口投与および非経口投与である。
【0086】
あるいは、化合物は、任意にデポー剤または徐放性製剤の形態で、例えば化合物の管(vessel)内への直接的な注入による、全身的な方法よりはむしろ局所的な方法で投与されてよい。
【0087】
本発明の医薬組成物は、例えば従来の混合工程、溶解工程、粒状化工程、糖衣錠(dragee)製造工程、湿式粉砕工程、乳化工程、カプセル化工程、封入工程、または凍結乾燥工程を用いて、当技術分野においてよく知られている工程により製造されてよい。
【0088】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、活性化合物を調製物へと加工するのを容易にし医薬上用いることができる、賦形剤および補助剤を含む1つ以上の生理学的に許容可能な担体を用いて、従来の方法で製剤化してよい。適切な製剤は、選択される投与経路に因る。
【0089】
注射のために、本発明の化合物は、水溶液、好ましくは生理学的に適合性のある緩衝液(例えばハンクス溶液、リンゲル溶液、もしくは生理食塩水緩衝液)にて製剤化してもよい。経粘膜投与のために、通過すべきバリアに適した浸透剤が製剤において用いられる。このような浸透剤は、当技術分野において一般的に知られている。
【0090】
経口投与のために、化合物は、活性化合物を当技術分野でよく知られている医薬上許容可能な担体と組合わせることにより製剤化することができる。このような担体は、本発明の化合物が、患者による経口摂取用の、錠剤、丸剤、ロゼンジ錠、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤化されるのを可能にする。経口使用のための医薬調製物は、固体の賦形剤を用いて、必要であれば他の適切な補助剤を添加した後、任意に、得られる混合物を粉砕し、粒子の混合物を加工して製造され、錠剤または糖衣錠のコアを得ることができる。有用な賦形剤は、特に、例えば糖などの充填剤(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む)、セルロース調製物(例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン)、ならびにゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの他の物質である。必要であれば、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸などの崩壊剤が添加されてもよい。アルギン酸ナトリウムなどの塩もまた用いられてよい。
【0091】
糖衣錠のコアは、適切なコーティングを施される。この目的のために、任意にアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポール(登録商標)ゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含み得る、濃縮糖液を使用してよい。同定のために、または活性化合物の用量の種々の組合わせを特徴づけるために、染料または顔料を錠剤または糖衣錠コーティングに添加することができる。
【0092】
経口使用できる医薬組成物には、ゼラチンで作られる押し込み型(push-fit)カプセル剤、ならびにゼラチンと可塑剤(例えばグリセロールまたはソルビトールなど)とから作られる軟質密封カプセル剤が含まれる。押し込み型カプセル剤は、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および任意に安定化剤と混合して、活性成分を含むことができる。軟質カプセル剤において、活性化合物は、例えば脂肪油、流動パラフィン、または液状ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁されてよい。これらの製剤においてもまた、安定化剤が添加されてよい。
【0093】
化合物はまた、非経口投与、例えばボーラス注射または連続注入による投与のために製剤化され得る。注射用製剤は、例えばアンプルまたは複数回投与用容器などの単位投与形態で、保存剤を添加して提供されてよい。組成物は、油性または水性のベヒクル中の懸濁剤、液剤、またはエマルションなどの形態をとってよく、例えば懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの製剤化用物質を含んでよい。
【0094】
非経口投与用の医薬組成物には、活性化合物の水溶性形態(例えば塩であるが、これに限定されない)の水溶液が含まれる。
【0095】
さらに、活性化合物の懸濁剤は、親油性ベヒクル中に調製されてもよい。適切な親油性ベヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、オレイン酸エチルおよびトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームなどの物質が含まれる。水性注射用懸濁剤は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの、懸濁剤の粘度を増加させる物質を含んでよい。任意に、懸濁剤はまた、適切な安定化剤、および/または化合物の溶解度を増加させて高濃度溶液の調製を可能にする物質を含み得る。
【0096】
あるいは、活性成分は、使用する前に、適切なベヒクル(例えば滅菌発熱性物質除去蒸留水)と構成するための粉末形態であってよい。
【0097】
化合物はまた、例えば従来の坐剤用基剤(例えばカカオ脂または他のグリセリド)を用いて、坐剤または保持浣腸剤(retention enemas)などの直腸用組成物に製剤化してもよい。
【0098】
先に述べた製剤に加えて、化合物はまた、デポー調製物として製剤化されてもよい。このような長時間作用型製剤は、埋め込み(例えば、皮下もしくは筋肉内)により、または筋肉内注射により投与され得る。本発明の化合物は、この投与経路のために、適切なポリマー材料もしくは疎水性材料を用いて(例えば、薬理上許容可能な油脂を用いたエマルションに)、イオン交換樹脂を用いて、または難溶性の誘導体(例えば難溶性の塩であるが、これに限定されない)として、製剤化され得る。
【0099】
本発明の疎水性化合物のための医薬担体の非限定的な例は、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、および水相を含む共溶媒系(例えばVPD共溶媒系など)である。VPDは、3% w/vのベンジルアルコール、8% w/vの非極性界面活性剤ポリソルベート80、および65% w/vのポリエチレングリコール300の溶液であり、無水エタノールを加えて容積を合わせてある。VPD共溶媒系(VPD: D5W)は、VPDを5%デキストロース水溶液を用いて1:1に希釈されたVPDから構成される。この共溶媒系は、疎水性化合物をよく溶かし、それ自体は全身投与の際にも低毒性である。
【0100】
当然なことながら、このような共溶媒系の比率は、その溶解特性および毒性を損なうことなしに、相当の範囲で変化させることができる。さらに、共溶媒成分の同一性は変更してよく、例えば、他の低毒性非極性界面活性剤をポリソルベート80の代わりに用いてよく、ポリエチレングリコールの割合の大きさを変更してもよく、他の生体適合性ポリマー(例えばポリビニルピロリドン)をポリエチレングリコールと置き換えてもよく、また、他の糖類または多糖類をデキストロースと置き換えてもよい。
【0101】
あるいは、疎水性医薬化合物のための他の送達システムを用いてもよい。リポソームおよびエマルションは、疎水性薬物のための送達ベヒクルまたは担体のよく知られている例である。さらに、ジメチルスルフォキシドのようなある種の有機溶媒も使用できるが、毒性がより大きくなるという犠牲を伴うことが多い。
【0102】
さらに、化合物は、治療剤を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスなどの、徐放性システムを用いて送達されてよい。
【0103】
種々の徐放性材料が確立されており、当業者によく知られている。徐放性カプセルは、それらの化学的性質に応じて、数週間から100日を超えるまでの期間、化合物を放出し得る。治療剤の化学的性質および生物学的安定性に応じて、安定化のためのさらなる方策が用いられ得る。
【0104】
本明細書において医薬組成物はまた、適切な固相もしくはゲル相の担体または賦形剤を含み得る。このような担体または賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、および、ポリエチレングリコールのようなポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0105】
本発明の化合物の多くは、これらの特許請求の範囲に記載された化合物が負または正に荷電した種を形成し得る、生理学的に許容可能な塩として提供され得る。化合物が正に荷電した部分を形成する塩の例には、化合物中のカルボン酸基またはスルホン酸基が適切な塩基(例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)など)と反応することにより形成される、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、およびマグネシウム塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
本発明で用いるのに適した医薬組成物には、活性成分が意図される目的(例えば細菌感染症の治療)を達成するのに充分な量で含有される組成物が含まれる。
【0107】
より詳細には、治療有効量は、細菌感染症の症状を予防、緩和、もしくは改善、または治療される対象の生存期間を延長するのに有効な化合物の量を意味する。
【0108】
治療有効量の決定は、特に本明細書において適用される詳細な開示に照らして、充分に当業者の能力の範囲内である。
【0109】
本発明の方法において用いられるあらゆる化合物について、治療有効量または用量は、記載されるアッセイからまず、見積もることができる。その後、用量は、動物モデルにおいて使用するために処方され、それにより、実施例において決定されるようなMIC(すなわち、細菌の増殖の阻害を達成する試験化合物の最小濃度)を含む循環濃度範囲を達成することができる。このような情報はその後、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために用いることができる。
【0110】
本明細書において記載される化合物の毒性および治療有効性は、細胞培養物または実験動物において標準的な薬学的方法により(例えば、対象となる化合物についてMICおよびLD50を決定することにより)決定することができる。これらの細胞培養アッセイおよび動物を用いた研究から得られるデータは、ヒトにおいて使用するための用量の範囲を処方するのに用いることができる。用量は、使用される投薬形態および用いられる投与経路によって変更され得る。的確な製剤、投与経路、および用量は、患者の状態を考慮して個々の医師により選択され得る。
【0111】
投薬量および投与間隔は、抗菌効果を維持するのに充分な、活性種の血漿レベルを提供するために個々に調整され得る。これらの血漿レベルは、最小有効濃度(MEC)と称される。
【0112】
MECを達成するのに必要な投薬量は、個々の特性および投与経路に因るものである。HPLCアッセイまたはバイオアッセイは、血漿濃度を決定するのに用いることができる。
【0113】
投与間隔はまた、MEC値を用いて決定することができる。
【0114】
化合物は、MECを10-90%、好ましくは30〜90%、最も好ましくは50〜90%超えるレベルに投与時の血漿レベルを維持する投与計画を用いて、投与されなければならない。
【0115】
局所投与または選択的摂取の場合において、薬物の有効な局所濃度は、血漿濃度とは関連しないかもしれないが、当技術分野において知られている他の方法が、的確な投薬量および投与間隔を決定するのに用いられ得る。
【0116】
投与される組成物の量は、当然のことながら、投与される対象、病気の重篤度、投与方法、処方する医師の判断などに因ってよい。
【0117】
必要であれば、組成物は、パックまたは定量吐出器具(例えば、EMEAまたはFDAなどの規制当局により認可されているキットなど)で提供されてよく、これらは、活性成分を含有する1以上の単位投与形態を含んでよい。パックは、例えば、金属箔またはプラスチック箔(例えばブリスターパック)を含み得る。パックまたは定量吐出器具には、投与についての説明書が添付され得る。
【0118】
パックまたは定量吐出器具にはまた、医薬品の製造、使用、または販売を規制する政府機関によって指示された形態で、容器に関連する注意書きが添付され得るものであり、この注意書きは、組成物の形態について、またはヒトもしくは動物(veterinary)への投与について、政府機関による認可を反映するものである。
【0119】
適合性の医薬担体中に製剤化される本発明の化合物を含む組成物はまた、調製され、適切な容器に入れられ、そして指示された病態の治療に関するラベルを付けられてよい。
【0120】
<製造>
別の態様において、本発明は、本発明の化合物を製造する方法に関する。これらの方法は、Dickeya zeae(またはDickeya属に属する別の適切な種)を培養するステップと、Dickeya zeaeから上記化合物を単離するステップとを含むことができる。ある実施形態において、培養するステップは、酵母エキスブロスまたは最小培地におけるDickeya zeaeのインキュベーションを含み得る。この酵母ブロスは、Bacto(商標)トリプトン、酵母エキス、スクロース、NaCl、寒天、および/または硫酸マグネシウムを含み得る。最小培地は、リン酸カリウム、硫酸ナトリウム、マンニトール、グリセロール、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、および/または塩化マンガンを含み得るものであり、pH 7.0を有し得る。培養するステップは、24時間および/または28℃で実施されてよい。
【0121】
培養されたDickeya zeaeからの本発明の化合物の単離は、遠心分離による細胞からの上清の分離、上清の塩基性化、回転蒸発(rotary evaporation)による上清の濃縮、有機溶媒(例えばn-ブタノール:酢酸エチルの混合物(2:1))による上清の抽出、抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー、および/または逆相HPLC(例えば逆相勾配HPLC)を含み得る。
【0122】
本発明の方法の一つの実施形態において、Dickeya zeaeは、Dickeya zeae DZ1株(ATCC受託番号:PTA-10319)またはその変異株である。
【0123】
本明細書において例として記載される発明は、本明細書において具体的には開示されていない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定なしに、適切に実施され得る。したがって、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などは、広く、限定なしに読まれるべきである。さらに、本明細書に置いて用いられる用語および表現は、記載された用語のとおりに用いられ、限定された用語では用いられておらず、そして、このような用語および表現の使用に際し、示され記載されている特徴のあらゆる等価物またはその部分を排除する意図はないが、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本発明は好ましい実施形態および任意の特徴により具体的に開示されているが、本明細書において開示された、本発明において具体化された本発明の変更および変形は、当業者によって参照されてよいこと、および、このような変更および変形は本発明の範囲に含まれるとみなされることが理解されるべきである。
【0124】
本発明は、本明細書において広く、包括的に記載されてきた。包括的な開示の範囲に含まれるより狭い範囲の形式およびサブグループのそれぞれはまた、本発明の一部を形成する。このことは、削除された事柄が本明細書において具体的に説明されているかどうかにかかわらず、包括的記載から任意の事項を除外する但し書きまたは消極的限定を有する本発明の包括的記載を含む。
【0125】
他の実施形態は、下記の特許請求の範囲および非限定的な実施例の範囲に含まれる。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ形式を用いて記載される場合には、当業者は、それによって、本発明がまた、任意の個々の構成要素またはマーカッシュ形式で記載された構成要素のサブグループを用いて記載されることを認識するものである。
【図面の簡単な説明】
【0126】
本発明をよりよく理解するために、そして本発明が実際にどのように実施されるのかを実証するために、例示された実施形態が、添付される図面を参照して、非限定的な実施例のみを用いて下記に記載される。
【0127】
【図1】図1は、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) PAO1によるバイオフィルム形成に対するゼアミンIの影響を示す。図1Aは、それぞれ14 mlのポリスチレンチューブに入ったシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) PAO1に対する、1 μm、2 μm、4 μm、および8 μmの濃度のゼアミンIの影響を示す。溶媒対照として、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) PAO1株は、1つのチューブ中でLB培地(「LB」)において、ならびに別のチューブ中でLBおよびメタノール(「MeOH」)において培養された。図1Bに示されるように、それぞれのポリスチレンチューブ中の細菌培養物の増殖は、600 nmにおける光学密度として測定される。図1Cに示されるように、それぞれのポリスチレンチューブ中のバイオフィルムの増殖は、570 nmにおける光学密度として測定された。
【0128】
【図2】図2は、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) PAO1によるバイオフィルムを分散させることに対する、ゼアミンIの影響を示す。図2Aは、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) PAO1に対する、15 μmおよび20 μmの濃度のゼアミンIの影響を示す。溶媒対照として、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa) PAO1株は、1つのチューブ中でLB培地(「LB」)において、ならびに別のチューブ中でLBおよびメタノール(「MeOH」)において培養された。それぞれのポリスチレンチューブ中のバイオフィルムの増殖は、それぞれ570 nm(図2B)および600 nm(図2C)における光学密度として測定された。
【実施例】
【0129】
[実施例1]
<培養条件およびゼアミンIの単離>
大腸菌(E. coli)DH5αに対してアッセイされる場合に殺菌性化合物を産生するDickeya zeae DZ1株(米から単離)が用いられた。D. zeae株は、酵母エキスブロス(YEB)寒天培地((1リットルあたり)1O gのBacto(商標)トリプトン、5 gの酵母エキス、5 gのスクロース、5 gのNaCl、15 gの寒天、および1 mM MgSO4.7H2O (pH 7.0)を含む)で、28℃にて24時間増殖させた。単一コロニーは、YEBブロス(250 mlの円錐フラスコ中50 ml)に接種するために用いられ、出発培地を調製するために28℃(200 rpm)で一晩インキュベーションされた。最小培地(K2HPO4 10.5 g/l、KH2PO4 4.5 g/l、(NH4)2SO4 2 g/l、マンニトール2 g/l、グリセロール 2 g/l、MgSO4.7H2O 0.2 g/l、FeSO4 5 mg/l、CaCl2 10 mg/l、およびMnCl2 2 mg/l; pH 7.0)は、出発培地(0.2% v/v)を接種され、28℃、120 rpmで24時間培養された。細胞は、13,000 rpm、15℃で15分間の遠心分離により除去された。上清は、5 M NaOHを用いてpH 10に調整された。塩基性化の後、上清は、回転蒸発により10倍に濃縮され、3倍容の有機溶媒(n-ブタノール : 酢酸エチル = 2:1)を用いて2回抽出された。抽出物は、回転蒸発によって有機溶媒を除去した後、Sephadex LH-20にてゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)にかけた。GFCの溶出にはMeOHが用いられた。バイオアッセイの後、抗菌活性を有する画分を合わせた。さらなる精製は、C18逆相カラムを用いた勾配HPLCにてMeOH水溶液を用いて溶出することにより(0〜5分 5%、5〜50分 5%〜75%、50〜51分 75%〜95%、51〜55分 95%、55〜56分 95%〜5%、および56〜60分 5%)実施した。保持時間が31.0分の主たる活性画分(ゼアミンI)と保持時間が29.4分の少ない方の活性画分(ゼアミンII)が構造解析に用いられた。
【0130】
<抗菌バイオアッセイ>
殺菌活性は、Zhangら(Zhangら(1998). Factors affecting biosynthesis by Xanthomonas albilineans of albicidin antibiotics and phytotoxins. J. Appl. Microbiol. 85: 1023-1028)によって以前に記載された方法に従い、大腸菌(Escherichia coli)DH5α株を用いてアッセイされた。手短に言えば、DH5α株を一晩培養したLB培養物を滅菌水で10倍に希釈し、100マイクロリットルの希釈物を5 mlの1 %アガロース溶液に添加し、温度を50℃に維持しながらオートクレーブで滅菌処理した。バイオアッセイ用プレートは、20 mlのLB寒天培地を含むプレートに混合物を添加することにより調製した。バイオアッセイは、バイオアッセイ用プレートの直径4 mmのウェルに、20マイクロリットルの細菌上清または細菌画分を添加することにより実施された。プレートを37℃で一晩インキュベーションした後、阻害領域の試験を行った。
【0131】
<最小阻止濃度(MIC)の決定>
ゼアミンIの最小阻止濃度(MIC)の決定は、NCCLSガイドライン(4)に従って実施された。手短に言えば、ゼアミンIおよび対照抗生物質の2倍連続希釈液を含む96ウェルのプレートが、LB液体培地を用いて調製された。その後、最終密度がそれぞれ106 CFU/mlおよび107 CFU/mlになるように希釈した後、試験される細菌株の一晩培養した新鮮なLB培養物を上記のプレートに接種した。その後、プレートは、穏やかに振とうしながら、試験される株の好ましい培養温度によって30℃または37℃でインキュベーションした。24時間後、プレートを回収し、OD6O0を測定した。MICは、目に見える増殖をさせない抗生物質の最小濃度として定義された。MICアッセイは、それぞれの回において3連で、2回繰り返した。
【0132】
<抗菌化合物の精製>
DZ1株は、最小培地において、LB培地においてよりも著しく多量の抗菌化合物を産生した。大規模精製において、最小培地において培養された約30リットルのDZ1培養物が回収された。上清は、溶媒による抽出、Sephadex LH-20を用いたゲル濾過クロマトグラフィー、およびC18逆相カラムを用いた勾配HPLCにより処理された。保持時間が31.0分の主たる活性画分(ゼアミンI)と保持時間が29.4分の少ない方の活性画分(ゼアミンII)が構造解析に用いられた。
【0133】
<構造解析>
すべての抗菌化合物のうち40%未満(固体重量)を示すゼアミンIIは、無色固体として単離された。精密ESIMSにより、分子式がC40H88ON5, [M+H]/e, 654.6993, (理論値 654.6983)であることが明らかになった。MSデータにより、環も二重結合も有しない飽和構造が裏付けられた。通常のESI分析においては、655、638、621、604、587、および569にピークがあり、これらのピークはM+H、M+H-NH3、M+H-2NH3、M+H-3NH3、M+H-4NH3、およびM+H-4NH3-H2Oを示した。これらのフラグメントは、骨格の中に4つの2級アミノ基と1つの2級ヒドロキシル基が存在することを示唆した。1Hスペクトルおよび13Cスペクトルにより、1級アミノ基の存在が明らかになった。EI分析においてC-C結合開裂がこれらのアミノ基の位置を同定するために用いられた。EI分析においては、638、592、566、464、438、337、331、227、および100にピークがあった。
【0134】
無色固体であるゼアミンI(式II)は、すべての抗菌化合物のうち主たる(固体重量で60%を超える)抗菌成分として現れる。精密ESIMSにより、分子式がC49H105O4N6, [M+H]/e, 841.8218, (理論値 841.8192)であることが明らかになった。ESI分析においては、842のピーク以外に、655、638、621、604、587、および569にピークがあり、これらのピークは、ゼアミンIの分析においてM+H、M+H-NH3、M+H- 2NH3、M+H-3NH3、M+H-4NH3およびM+H-4NH3-H2Oを示した。これらのデータは、ゼアミンIがゼアミンIIの加水分解生成物または前駆体であり得ることを示した。EI分析において、この加水分解された成分は、638、592、566、464、438、337、331、227、および100にピークを示し、これは、下記に示される40炭素側鎖とよく合致する。
【化4】

【0135】
その構造はさらに、1Dおよび2D NMRスペクトルを解析することにより証明された。ゼアミンIの1Hスペクトルは、推定される加水分解された成分または前駆体(ゼアミンII)と比較して、2つのオキシメチンプロトン、4つのメチレンプロトン、2つのメチンプロトン、および2つのダブレットメチル基を示した。13Cスペクトルにおいては、δ 174 ppmにシグナルがあった。これは、ゼアミンIIと比較して、アミドのカルボニル基が余分に存在することを示唆した。3つの余分なメチン炭素は60〜70 ppmに存在する。COSYスペクトルにより、(C-1'からC-9'までの)フラグメントにおけるプロトン間の重要な相互関係が明らかになった。δ 4.24 ppm (3'-H) およびδ 4.04 ppm (5'-H)における2つのオキシメチンプロトンの両方は、δ 1.73 ppm (4'-H)におけるメチレンプロトンとの相互関係を示した。3'-Hはまた、δ 2.41 ppm (2H, 2'-H)におけるメチレンプロトンと相互関係を示した。5'-Hからδ 2.90 ppm (6'-H)におけるメチンプロトンへの別の相互関係もまた存在した。2つのダブレットメチル基(δ 1.09 ppmおよびδ 1.04 ppm)とδ 2.05 ppm (7'-H)におけるメチンプロトンとの間の相互関係が存在し、このメチンプロトンは6'-Hとの相互関係を示した。H-2'からδ 174.0 ppm (C-1')におけるカルボニル炭素へのHMBC相関、ならびにH-8'からC-6' (δ 62.1 ppm)、C-7' (δ 26.2 ppm)、およびC-9' (δ 18.1 ppm)へのHMBC相関により、構造(式II)が確認された。
【0136】
<ゼアミンIはポリケチドである>
培養培地にグリセロールを余分に加えることによりゼアミン化合物の収量が増加し、それらのゼアミンの構造がポリケチドと同様の構造を共有しているという発見に基づき、本発明者らは、ゼアミンIの構造におけるいくつかのフラグメントがポリケチドシンターゼ(PKS)により合成される可能性があると仮定した。この仮説は、13C標識実験により確認された(表1)。[2-13C]酢酸ナトリウムを添加することにより、C-1、C-4、C-2'、C-4'、およびC-5'からC-9'以外の他の偶数番号の炭素において13C同位体が濃縮された。C-2、C-3、C-1'、C-3'、およびC-5'からC-9'以外の他の奇数番号の炭素における同位体濃縮が、[1-13C]酢酸ナトリウムを供給した実験において観察された。したがって、C-5'からC-9'により形成されるアミノイソブチル部分は、PKSによっては合成されず、例えばバリンなどのアミノ酸に由来する可能性がある。酢酸単位の配置を決定するために、さらなる供給実験において[1,2-13C]酢酸塩が用いられた(表2)。データは、ゼアミンIにおいて、アミノイソブチル部分を除き、残りの44個の炭素が22個の酢酸単位に由来することを示唆する。
【0137】
<ゼアミンIは強力な抗生物質である>
ゼアミンIの最小阻止濃度(MIC)は、細菌性病原体の範囲について決定された。結果は、ゼアミンIがグラム陰性およびグラム陽性の両方の細菌性病原体に対する非常に強力な抗生物質であることを示し、MICは20 μg/ml未満のレベルであった(表3)。これに対し、一般的に用いられる抗生物質であるアンピシリンは、これらの細菌性病原体の増殖を阻止するために、高用量が必要であった。
【0138】
<NMRデータ>
ゼアミンIの1H NMR (MeOH-d4, 400 MHz): δ =0.95 (t, J= 6.6 Hz, 3H, 40-H3), 1.04 (d, J= 6.8 Hz, 3H, 9'-H3), 1.09 (d, J= 6.8 Hz, 3H, 8'-H3), 1.73 (m, 2H, 4'-H2), 2.05 (m, 1H, 7'-H), 2.41 (m, 2H, 2'-H2), 2.90 (m, 1H, 6'-H), 3.17 (m, 4H, 11-H, 19-H, 27-H および 35-H), 3.30 (m, 1H, 1-H), 3.59, (m, 1H, 3-H), 4.04 (m, 1H, 5'-H), 4.24 (m, 1H, 3'-H); 他のプロトンは1.5 ppm〜1.7 ppmおよび1.3 ppm〜1.5 ppmに密集していた。
【表1】

【表2】

【表3】

【0139】
[実施例2]
<シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)PAO1によるバイオフィルム形成に対するゼアミンIの影響>
シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)によるバイオフィルム形成に対するゼアミンIの影響は、2つのアプローチを用いて試験した。まず第1に、シュードモナス・エルギノーサ(P. aeruginosa)PAO1株を一晩培養した培養物は、新鮮なLB培地中にて最終コロニー形成単位(CFU)が約2 x 107になるように希釈した。希釈された培養物(2 ml)を14 mlのポリスチレンチューブ(17 x 100 mm; FALCON, 352057)に移し、その中に、ゼアミンIをそれぞれ最終濃度1 μm、2 μm、4 μm、および8 μmで添加した。細菌培養物は、250 rpmで振とうしながら37℃で、図1に記載されている時間インキュベーションした。OD600における測定のために、細菌懸濁物(浮遊性の細胞)を注意深く除去した。チューブ壁に付着している細菌細胞(バイオフィルム)は、0.1%クリスタルバイオレット(Sigma)を用いて室温で15分間にわたり着色し、その後、チューブを水で数回洗浄した。チューブを室温で空気乾燥させ、その後写真撮影した。定量のために、付着細胞(バイオフィルム)を3 mlの75%エタノール中に懸濁させた。570 nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。各々の実験は、少なくとも3回繰り返した。
【0140】
結果は、最終濃度2 μM以上でゼアミンIはバイオフィルム形成および細菌増殖を阻害することを示した(図1A、1B、1C)。これに対し、溶媒対照として、LB培地(LB)、および10 μlのメタノールを含むLB培地において培養した場合には、病原体がバイオフィルムを形成した。
【0141】
[実施例3]
<シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)PAO1によるバイオフィルムを分散させることに対する、ゼアミンIの影響>
バイオフィルムを分散させることにおいて、ゼアミンIの効果を試験した。実施例1に記載したのと同じ条件下で、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)PAO1株を5時間培養したところ、バイオフィルムの形成が確認され(図1A、1B、1C)、その後、ゼアミンIをそれぞれ最終濃度15および20 μMで添加した。同じ条件下で18時間インキュベーションした後、細菌細胞の密度およびバイオフィルムを測定した。
【0142】
結果は、ゼアミンIを用いた処理により、チューブ壁からバイオフィルムが基本的に除去されたことを示した(図2A)。定量分析は、ゼアミンIを用いた処理により、バイオフィルムが85%を超えて減少することを示した(図2B)。同様に、細菌の増殖もまた著しく減少した(図2C)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物
【化1】

[式中、
R1は、水素、非置換または置換C1-C10アルキル、非置換または置換C1-C10アルケニル、非置換または置換C1-C10アルキニル、非置換または置換C3-C8シクロアルキル、非置換または置換C1-C10アルコキシ、非置換または置換C3-C8シクロアルコキシ、非置換または置換C6-C14アリール、非置換または置換5〜10員環ヘテロアリール(1〜4個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、非置換または置換5〜10員環ヘテロ脂環式環(1〜3個の環原子は独立して窒素、酸素、もしくは硫黄から選択される)、-OR、-C(O)R、-C(O)OR、-C(O)NRR'、-NRR'、-S(O)2R、-S(O)2OR、および-S(O)2NRR'から選択され、
RおよびR'は独立して、水素、非置換または置換C1-C10アルキル、非置換または置換C1-C10アルケニル、および非置換または置換C1-C10アルキニルからなる群より選択される]、
あるいは、その互変異性体、幾何異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ形態、医薬上許容可能な塩、またはプロドラッグ。
【請求項2】
R1が水素またはC(O)Rであり、Rが非置換または置換C1-C10アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Rが置換ヘプタニルである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
Rが3-アミノ-4,6-ジヒドロキシ-2-メチル-ヘプタン-7-イルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
式IIまたは式IIIの化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【化2】

【請求項6】
請求項1〜5に記載の化合物のいずれかを含む組成物。
【請求項7】
個人衛生物品、洗面用品(toiletry)、または化粧用品(cosmetic)である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
洗面用品(toiletry)が口腔衛生物品である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
口腔衛生物品が、練り歯磨(toothpaste)、口腔洗浄液、ジェル(gel)、歯磨剤(dentifrice)組成物、口腔洗浄剤組成物、およびチューインガム組成物からなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
医薬組成物である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
医薬上許容可能な担体をさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
医薬品として使用するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
細菌感染症の治療または予防用の医薬品の製造のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物または請求項6に記載の組成物の使用。
【請求項14】
感染症がグラム陰性菌またはグラム陽性菌に因るものである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
細菌感染症が、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、アエロモナス(Aeromonas)属、ボルデテラ(Bordetella)属、ボレリア(Borrelia)属、ブルセラ(Brucella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、クラミジア(Chlamydia)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エルウィニア(Erwinia)属、エシェリキア(Escherichia)属、フランシセラ(Francisella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、レジオネラ(Legionella)属、レプトスピラ(Leptospira)属、リステリア(Listeria)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、ナイセリア(Neisseria)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リケッチア(Rickettsia)属、サルモネラ(Salmonella)属、シゲラ(Shigella)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococccus)属、トレポネーマ(Treponema)属、ベイロネラ(Veillonella)属、ビブリオ(Vibrio)属、またはエルシニア(Yersinia)属による感染症である、請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
細菌感染症が、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、エルウィニア・クリサンセミ(Erwinia chrysanthemi)、または大腸菌(Escherichia coli)による感染症である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
治療有効量の請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物または請求項6に記載の組成物を治療を必要とする対象に投与することを含む、対象の細菌感染症を治療する方法。
【請求項18】
細菌感染症がグラム陰性菌またはグラム陽性菌に因るものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
細菌感染症が、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、アエロモナス(Aeromonas)属、ボルデテラ(Bordetella)属、ボレリア(Borrelia)属、ブルセラ(Brucella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、クラミジア(Chlamydia)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エルウィニア(Erwinia)属、エシェリキア(Escherichia)属、フランシセラ(Francisella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、レジオネラ(Legionella)属、レプトスピラ(Leptospira)属、リステリア(Listeria)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、ナイセリア(Neisseria)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リケッチア(Rickettsia)属、サルモネラ(Salmonella)属、シゲラ(Shigella)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococccus)属、トレポネーマ(Treponema)属、ベイロネラ(Veillonella)属、ビブリオ(Vibrio)属、またはエルシニア(Yersinia)属による感染症である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
細菌感染症が、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、エルウィニア・クリサンセミ(Erwinia chrysanthemi)、または大腸菌(Escherichia coli)による感染症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
バイオフィルムの除去/処理のための、またはバイオフィルムの形成の阻害のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物または請求項6に記載の組成物の使用。
【請求項22】
医療用物品、機器(instrument)、もしくは装置(device)におけるバイオフィルムの除去またはバイオフィルム形成の阻害のための、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
個人衛生物品、洗面用品(toiletry)、もしくは化粧用品(cosmetic)におけるバイオフィルムの除去またはバイオフィルム形成の阻害のための、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
洗面用品(toiletry)におけるバイオフィルムの除去またはバイオフィルム形成の阻害のための、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
洗面用品(toiletry)が口腔衛生物品である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
口腔衛生物品が、練り歯磨(toothpaste)、口腔洗浄液、ジェル(gel)、歯磨剤(dentifrice)組成物、口腔洗浄剤組成物、およびチューインガム組成物からなる群より選択される、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
産業的セッティング(industrial settings)におけるバイオフィルムの除去またはバイオフィルム形成の阻害のための、請求項21に記載の使用。
【請求項28】
産業的セッティング(industrial settings)が、船体、食品加工システム、油回収装置、および製紙工場からなる群より選択される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
環境セッティング(environmental settings)におけるバイオフィルムの処理またはバイオフィルム形成の阻害のための、請求項21に記載の使用。
【請求項30】
環境セッティング(environmental settings)が、水分配システムまたは冷却水システムである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
(a)Dickeya属の微生物を培養するステップと
(b)請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を前記微生物から単離するステップ
とを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を生成する方法。
【請求項32】
前記Dickeya属の微生物がDickeya zeaeである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
培養するステップが、グリセロールを含む培地でDickeya zeaeをインキュベーションすることを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
単離するステップが、ゲル濾過クロマトグラフィーおよび/または勾配HPLCによる精製を含む、請求項31〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
Dickeya zeaeが、Dickeya zeae DZ1株(ATCC受託番号:PTA-10319)またはその変異株である、請求項31〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を産生する、Dickeya zeae DZ1株(ATCC受託番号:PTA-10319)またはその変異株。
【請求項37】
Dickeya属の微生物から単離することにより入手可能なポリアミノポリケチド化合物。
【請求項38】
前記微生物がDickeya zeaeである、請求項37に記載のポリアミノポリケチド化合物。
【請求項39】
抗菌効果を有する、請求項37または38に記載の化合物。
【請求項40】
Dickeya zeaeが、Dickeya zeae DZ1株(ATCC受託番号:PTA-10319)またはその変異株である、請求項38に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−508009(P2012−508009A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535542(P2011−535542)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000414
【国際公開番号】WO2010/053455
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】