説明

新規の放線菌分類群MAR2(「マリノフィラス」)からの生物活性物質の産生方法

本発明は、放線菌の新規群を単離するため、ならびに特徴的なヌクレオチド配列および系統発生学的解析に基づいて本群のメンバーを同定するための方法を提供する。本群は、系統発生学的に他の公知の全ての放線菌と区別され、複数の新種を含む新規の属を表す。本群のメンバーは、その16S rRNA遺伝子配列中に存在する特徴的なMAR2ヌクレオチドにより、および標準的な系統樹法により、識別されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、微生物の単離法および生物活性物質を産生するための微生物の使用法に関し、より具体的には、放線菌属、およびその属を用いて生体分子を産生する方法に関する。
【0002】
助成金情報
本発明は、National Institute of Healthによって授与される政府援助助成金番号CA 44848を用いて達成された。米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
関連出願
本出願は、35 U.S.C.§119(e)の下で2003年10月24日に出願された米国特許仮出願第60/514,127号の、および35 U.S.C.§120の下で2004年6月21日に出願された米国特許出願第10/873,657号の恩典を主張するものであるが、これは参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0004】
背景情報
薬学研究者たちは、新規の抗生物質および抗腫瘍生体分子の供給源として、放線菌、グラム陽性菌、真菌様のフィラメントを有する土壌細菌を長期間開発してきた。さらに、薬学研究者たちは、新規薬物の産生のためのモデルおよび出発原料として、放線菌由来の天然抗生物質を長い間使用してきた。著名な例は、抗生物質であるアクチノマイシン、ストレプトマイシン、およびバンコマイシンである。主に土壌中で生存することが知られているこれらの微生物のレパートリーは、現在までに十分に研究されている。約120種の薬物が陸生放線菌にその起源を有しており、50年を超える間非常に豊富であったが、この供給源からの化学的多様性が10年を上回る以前から低下し始めた。
【0005】
海洋放線菌は、ごく最近になって発見された。その陸生類縁体と同様に、これらの微生物は、いくつかの高生物活性物質を作製する。最近、米国のチームが、これらの海洋細菌の一つにおいて新規の抗腫瘍物質を発見した。生体分子サリノスポラミドAは、いくつかの型のヒト癌の強力な阻害剤である。この生体分子は、「サリノスポラ(Salinospora)」と呼ばれる新規細菌属のメンバーである海洋放線菌CNB-392株によって産生される。サリノスポラ株は、大西洋、太平洋、紅海、およびカリフォルニア湾から1,000メートルを超えて採取された堆積物のほか、浅瀬において採取される泥堆積物からも回収されている。深海中においては、光はなく、非常に高圧かつ低温である。
【0006】
試料(1立方センチメートル当たり約10億個の微生物を含む)をふるい分け、遺伝学的方法により特異的微生物を同定し、抗癌特性および抗生物質特性に関してそれらの代謝産物をスクリーニングするために、新規の方法も開発された。前もって試験されたサリノスポラ100株からは、80%が癌細胞の増殖を阻害する分子を産生し、約35%が病原性細菌および真菌を殺す能力を示した。サリノスポラミドAは、特定の結腸癌、肺癌、および乳癌の強力な阻害剤であり、細胞内プロテアソームの阻害により作用することが示されている。
【0007】
しかしながら、海洋微生物の培養は研究室において困難であることが分かっている。この現象を説明するために多くの解釈が提示されている。生態生理学的観点からは、土壌細菌を増殖させるのに通常用いられるものなどの栄養豊富培地のいずれにおいても増殖することのできない偏性貧栄養性(obligate oligotrophs)が存在すると論じられてきた。栄養豊富な外部状況への突然の曝露により、同化と異化の間の不均衡に起因する自殺反応が誘導されるとさえ提唱された。したがって、当技術分野において、放線菌などの海洋細菌を単離しかつ培養するための改良法が必要である。
【0008】
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)などの病原性アクチノバクテリアを含む病原性細菌の抗生物質耐性は、細菌性疾患の治療において医師が直面する周知の問題である。従って、ヒトにおける、ならびに家畜および飼育動物(farm animal)を含むその他の哺乳動物における細菌感染の治療において既存の抗生物質に対する耐性を回避するのに有効な新規抗生物質および薬物が、当技術分野においてさらに必要である。
【0009】
多くの型の癌細胞もまた薬物耐性を示す。従って、例えば既存の抗生物質に対する耐性を回避しうる新規薬理特性および特有な構造を有するものなどの新規抗癌剤もまた、緊急に必要である。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、MAR2と名付けられた新規の海洋放線菌分類群を提供し、これについては属名「マリノフィラス(Marinophilus)」が提唱されている。この新規分類群が生物活性物質の重要な供給源であることを示す証拠が、本明細書において提示される。
【0011】
従って、ひとつの態様において、本発明は、図3の大腸菌MG1655株の配列アラインメントを参照して付番された、16S RNA遺伝子の304位のウリジン、16S rRNA遺伝子の671位のシチジン、16S rRNA遺伝子の735位のグアニジンを含む、新規の属のメンバーである単離された海洋放線菌を提供する。本群のメンバーは標準的な系統樹法を用いて別個の分岐群を形成し、この分類群の全メンバーは、定義上、MAR2分岐群に入らない微生物よりも、MAR2分岐群のメンバーにより密接に関係している。
【0012】
もうひとつの態様において、本発明は、少なくとも一つの生体分子を産生させるためMAR2群の本発明の海洋放線菌を塩含有増殖培地中で培養することにより、関心対象の活性を有する生体分子を産生するための方法を提供する。少なくとも一つの生体分子を含む海洋放線菌または増殖培地を回収し、海洋放線菌細胞または増殖培地から生体分子を抽出する。関心対象の活性を有する生体分子を産生するため、関心対象の活性の存在について抽出された生体分子を試験する。
【0013】
さらにもう一つの態様において、本発明は、塩含有増殖培地中でMAR2群(「マリノフィラス」)の本発明の放線菌株を増殖させる工程、放線菌または増殖培地を回収する工程、および、薬理活性を有する生体分子の存在について放線菌または増殖培地を解析する工程を含む、薬物発見法を提供する。
【0014】
さらにもう一つの態様において、本発明は、生体分子を産生するためにMAR2群の本発明の海洋放線菌を塩含有増殖培地中で増殖させ、生体分子を含む海洋放線菌または増殖培地を回収し、かつ生体分子を産生するために海洋放線菌または増殖培地から生体分子を抽出することにより、生体分子を産生する方法を提供する。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、海洋放線菌の新規分類群を工業目的のために利用する方法を記載する。この新規分類群のメンバーは、生物活性代謝産物を産生し、完全に新しい作用機序を有する新しい種類の生体分子を産生する可能性を有する。従って、この群を利用することは、現在利用可能なものよりも優れた新規薬学的物質の発見をもたらしうる。これらの微生物は科学にとって新規であり、かつ莫大な規模の供給源に相当するため、この発見は大きな意義を有する。
【0016】
ひとつの態様において、MAR2群(「マリノフィラス」)の海洋放線菌の新規株が説明される。新しく単離された海洋放線菌細菌は、16S rRNA遺伝子配列解析により識別することができる新規分類群に属する。定義上、この群のメンバーは、PAUP 4.0(Sinauer Associates, Inc., Sunderland, MA)などの標準的な系統樹法を用いて、緊密な系統発生学的分岐群を形成するが、この分岐群の全てのメンバーは、本分岐群に入らない株よりもより密接に、互いと関連している。さらに、MAR2メンバーを、次のような特有な特徴的ヌクレオチドによって識別することができる:その304位のウリジン、その671位のシチジン、およびその735位のグアニジン。一部のMAR2株はこれらの特徴の全てを有さない可能性があり、かつ、これらの特徴を有する一部の株はMAR2群に属さない可能性がある。従って、ひとつの態様において、本発明は、図3の大腸菌MG1655株のアラインメントを参照して付番されたとおり、16S RNA遺伝子の304位のウリジン、16S rRNA遺伝子の671位のシチジン、および16S rRNAの735位のグアニジンを含む新規分類群のメンバーである単離された海洋放線菌を提供する。
【0017】
ひとつの態様において、単離されたMAR2放線菌は、定義された16S rRNA遺伝子を有すると特徴づけられる。そのようなrRNA遺伝子は、配列表中に記載されたSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6 、またはSEQ ID NO:7に示されるとおりのDNA配列を含むヌクレオチド配列から転写されうる。特定の局面において、単離された海洋放線菌は、ストレプトミセス科(Streptomycetaceae)ファミリーのファミリー特異的な特徴的ヌクレオチドを全て含む。さらに、特定の局面において、単離された海洋放線菌は、SEQ ID NO:1からSEQ ID NO:7のヌクレオチド配列の少なくとも一つと、80%、90%、95%、または99%同一であるヌクレオチド配列によってコードされる16S rRNA配列を有する。上述の変異ヌクレオチド配列を有する単離された海洋放線菌はさらに、ナトリウム含有培地中で培養されうる。
【0018】
関連する局面において、その下(ブダペスト条約)での特許手続および規制を目的とした微生物寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条項に従って、2003年6月20日に、CNQ140株が、アクセッション番号PTA-5276の下でAmerican Type Culture Collection(ATCC)、Manassas、VA、USAに寄託されたが、これはしたがって、ブダペスト条約の条項に従い維持されて利用可能となる。そのような株の利用可能性は、いかなる政府の権限下においても、その特許法に従って認可された権利に違反して本発明を実行するための特許実施権として解釈されるべきではない。
【0019】
本明細書に開示された、MAR2分類群に属する単離された海洋放線菌は、サンディエゴおよびグアム島の近辺の様々な場所から回収された試料から培養された。
【0020】
本発明は、馴化培地を産生するためにMAR2海洋放線菌を塩含有培地中で増殖させて、治療活性または別の所望の生物活性を有する生体分子を、海洋放線菌からまたはMAR2海洋放線菌を増殖させた馴化培地から抽出することにより、治療活性を有する生体分子を産生するための方法を提供する。
【0021】
培養は、例えばA1培地中で行なうことができる。抽出は、例えば、吸着樹脂Amberlite XAD-7を用いて行なうことができるが、特定の局面において、これはアセトンを用いて溶出される。
【0022】
もうひとつの局面においては、本発明のMAR2海洋放線菌のインビトロ培養物を得るために、本発明のMAR2海洋放線菌を、ナトリウム含有培地中で1日間から15日間、好ましくは2日間から7日間、振盪させながらまたは振盪させずに増殖させることができる。関心対象の分泌生体分子をそこから抽出するために、培地を回収することができ、または、少なくとも一つの代謝産物などの関心対象の生体分子の抽出のために、放線菌を培養物から得ることができる。関連する局面において、代謝産物は抗癌活性、抗真菌活性、または抗生物質活性を有しうる。
【0023】
もうひとつの態様において、細菌調製物は、MAR2群に入る単離および精製された海洋放線菌株を一つまたは複数含むと想定され、ここで、代謝産物を含む生物活性組成物は、上記の培地/組成物上で株を培養することにより産生される。例えば配列決定法およびPAUP(最節約法を用いた系統発生学的解析、フロリダ州立大学(Florida State University))などの系統樹構築法を用いた、16S rRNA遺伝子配列解析に基づいて、そのような微生物は、ストレプトミセス科におけるMAR2系統型に入る放線菌を含みうる。MAR2分岐群のメンバーは、常に系統樹内で共に集団をなし、いかなる他の系統樹メンバーよりもより密接に互いと関連していると考えられる。
【0024】
もうひとつの態様において、MAR2群に属する一つまたは複数の放線菌株から、抗生物質特性および/または抗癌特性を有する生物活性組成物を産生するためおよび単離するための方法が開示される。この群に属する株は、ナトリウム含有培地を含んでもよいがこれに限定されるわけではない培地中で培養されうる。例えば、培地は、ある程度の海水または塩と、酵母抽出物、ペプトン、デンプン、およびグルコースなどの様々な栄養物を含み得る。株は、液体培地中で、半固体表面中で、または固体表面(例えば寒天)上で、培養されうる。
【0025】
さらに、得られる培養株を、吸着樹脂(これに制限される訳ではないが、例えばAmberlite XAD-7など)を用いて抽出でき、引き続いて、有機溶媒、例えばアセトンなどの極性有機溶媒を用いて溶出できる。培養物はまた、有機溶媒(例えば酢酸エチル)を用いて抽出されてもよく、または、凍結乾燥されてから有機溶媒(例えばメタノール)を用いて抽出されてもよい。関連する局面においては、得られる溶液を蒸発させて、残存溶質をカオトロピック剤(例えばDMSO)中で可溶化させるが、ここで、可溶化残渣は生物活性組成物を含む。
【0026】
もうひとつの態様において、生物活性組成物は、例えばカラムクロマトグラフィ、HPLC、向流クロマトグラフィ、または当業者によく知られる任意の方法を用いて、MAR2群に属する海洋放線菌の培養株の抽出物から単離される。一旦精製型になれば、NMRおよび他のスペクトル法により、これらの生体分子の構造を解明することができる。本明細書で用いられる「抽出物」とは、例えば全細胞、細胞断片、成分、特徴付けられていない分子および化合物の混合物、ならびに個別の分子および化合物を意味する。
【0027】
関連する局面において、二次代謝産物は、薬学的活性、農芸化学的活性、またはその他のバイオテクノロジー関連の活性についてアッセイされうる。例えば、単離された生物活性組成物は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)およびHCT-116ヒト癌細胞に対して有効である。
【0028】
ひとつの態様において、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2 、SEQ ID NO:3 、SEQ ID NO:4、 SEQ ID NO:5、 SEQ ID NO:6 、またはSEQ ID NO:7を含む単離された核酸が想定され、ここで、そのような核酸はDNAまたはRNAでありうる。関連する局面において、そのような核酸はベクターとの結合を含みうる。さらなる局面において、宿主細胞は、上述の核酸を含むベクターを包含しうる。
【0029】
もうひとつの態様において、例えばデフォルトパラメータを用いた公開または私有のデータベースのBLAST比較検索を実行する工程を含む、MAR2分岐群に属する株を同定するための方法が想定され、ここで、細菌株の16S rRNA遺伝子配列が、データベースの配列比較インターフェースを通じて比較される。さらに、得られたヒットのサブセットを含むテキストファイルを作製することができ、ここで、テキストファイルは、配列適合インターフェースを用いて公開または私有のリボソームデータベース上で解析される。さらに、BLAST検索からのヒットのサブセットと細菌のMAR2株の配列との間の配列相同性を決定することができ、かつ、リボソームデータベースの配列一致インターフェースによって作製される配列アラインメント間の類似性に基づいて、MAR2群に属する株を同定することができる。
【0030】
本発明はまた、MAR2群の海洋放線菌の株を増殖させる工程、放線菌抽出物または馴化増殖培地を回収する工程、および、薬学的活性を有する生体分子の存在について抽出物または培地を解析する工程を含む、薬物発見法も想定する。生体分子は、例えば、薬学的物質、抗生物質、抗真菌物質、および/または抗癌物質でありうる。分子の産生を担う遺伝子は、異種宿主内でクローニングおよび発現されうる。
【0031】
関連する局面において、そのような薬学的に活性な生体分子および薬学的に許容される担体を含む生物活性組成物が意図される。
【0032】
以下の実施例は、本発明を限定することではなく、本発明を説明することを意図する。
【0033】
実施例1
本発明は、放線菌の新規群の単離のため、および、特徴的なヌクレオチド配列に基づいたこの群のメンバーの同定のための方法を提供する。この群は他の全ての公知の放線菌(図1)と系統発生学的に区別され、複数の新種を含む新規の属を表す。本群のメンバーは、その特徴的なヌクレオチド配列により識別されうる。風乾され、滅菌した乳鉢と乳棒を用いて粉砕され、滅菌スポンジでA1培地(1%デンプン、0.4%酵母抽出物、0.2%ペプトン、1.6%寒天、100%海水)に繰り返し押し付けられた海洋堆積物から、特定の株を培養することができる。生物活性物質の産生のために、そのような株を液体A1培地中で培養し、吸着樹脂AmberliteXAD-7を用いて全培養物を抽出する。アセトンを用いて樹脂を溶出し、ロータリー蒸発によってアセトンを除去する。抽出物をDMSO中で可溶化し、研究室アッセイで抗癌活性について試験する。ここまでは、一定範囲の細胞傷害活性を示す粗抽出物を用いたヒト結腸癌細胞株HCT-116に対する活性について、以下の株を試験した:CNH990<0.8 μg/ml、CNQ703=21.0 μg/ml、CNQ732=59.7 μg/ml、 CNR252=44.4 μg/ml。CNH990株の抽出産物のクロマトグラフィ分離により、画分の強度が増大し、構造的に前例のない生物活性代謝産物の存在を示す複合NMRスペクトルが得られた。
【0034】
本明細書に記載した新規放線菌分類群を単離して同定する方法は、新規生物活性代謝産物の供給源である微生物を提供する。これらの代謝産物は、新規薬物としての、および他の天然産物用途のための、潜在的有用性を有すると考えられる。
【0035】
MAR2単離株の純粋な培養物から得られたゲノムDNAを、以下の一般的な真正細菌プライマーを利用するPCRを用いて増幅した。

PCR産物を、製造業者のプロトコールに従って、Qiagen QIAquick(商標)PCR精製キットを用いて精製した(Qiagen Inc.、Chatsworth、CA)。追加のフォワードプライマー

と共にフォワードプライマーFC27を、ならびに追加のリバースプライマー

と共にリバースプライマーRC1492を用いて、全PCR産物の上鎖および下鎖の両方の配列決定を行なった。隣接する配列を組み合わせて、二次的な16S rRNA遺伝子配列に合わせて整列させた。
【0036】
現在公知のMAR2単離株全ての16S rRNAの配列を、大腸菌株MG1655の16S rRNA遺伝子(rrsA)配列の二次構造と比較するのに、RDP(リボソームデータベースプロジェクト)8.1版(2002年12月19日更新;B.L.Maidakら(2001)Nucleic Aids Res 29:173-174)内のアラインメントが用いられた(図3)。公開データベースから得られる二次構造に対する整列化の手順は、それにより特徴的ヌクレオチドが報告されている、「分子定規」を作製するための標準的な方法である。「リボソームデータベースプロジェクトII」と題するRDP法を用いた16S rRNA配列の配列アラインメントのために用いられるさらなる手順は、インターネット上のrdp.cme.msu.eduにおいて入手可能である。全ての公知のMAR2単離株の16S rRNA遺伝子配列(株に応じて1486bpから1503bp)(SEQ ID NO:1からSEQ ID NO:7)(図2を参照されたい)を、この大腸菌付番システムを用いて、8位のヌクレオチドから1507位のヌクレオチドまで解析した。この手順により決定されたストレプトミセス科の他の属全てからマリノミセス(MAR2)分岐群を区別する16S rRNAの特徴的ヌクレオチドは、上述されている。
【0037】
実施例2
CNQ140 MAR2株の放線菌から生体分子を抽出するために、以下のプロトコールが用いられた。前もって洗浄したAmberliteXAD-7樹脂(20 g)を、培養物1リットルに添加し、1時間混合した。内容物を濾過により回収し、脱イオン水(1リットル)を用いて洗浄し、その後、アセトン(250 ml)を用いて溶出した。各連続抽出工程からの抽出液を、HCT-116結腸癌細胞株に対する腫瘍細胞細胞傷害活性(IC50)について試験した。抽出の第一の工程により抽出画分Q140-3が得られ、これは、結腸癌細胞株HCT-116に対して1.2 μg/mlのIC50を示すた。C-18逆相HPLCおよび65%MeCN水溶液の溶媒混合液を用いる第二の精製工程により、四つの異なる生体分子が得られたが、その全てが結腸癌細胞株に対する活性を保持している。これらのCNQ140由来の生体分子は、同じく、薬物耐性病原細菌を殺すか、増殖を実質的に阻害する。
【0038】
下記の表1におけるデータにより示されるように、本発明の方法によってMAR2株CNQ140から得られる生体分子は、HCT-116ヒト結腸腺癌細胞、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、およびバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(VREF)に対する試験において明らかにされたとおり、抗癌活性および抗生物質活性の両方を有する。
【0039】
【表1】

【0040】
参考文献の表

【0041】
上記実施例を参照して、本発明の態様を記載したが、修正および改変もまた含まれることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】選択されたMAR2単離株のほぼ完全な16s rDNA配列から決定された系統発生学的関係、ならびにストレプトミセス科の中で現在認められている二つの属の代表例であるキタサトスポラ(Kitasatospora)(Kと略される)およびストレプトミセス(Streptomyces)(Sと略される)を示す(AndersonおよびWellington、2001;Zhangら、1997)。系統樹は近隣結合法を用いて作成された。ブートストラップ値は、1000回の再サンプリングから計算されたが、60%以上の値が算出された場合に、それぞれの結節点に示している。グリコミセス・テヌイス(Glycomyces tenuis)、ピリメリア・アヌラタ(Pilimelia anulata)、およびミクロモノスポラ・オリバステロスポラ(Micromonospora olivasterospora)を外集団として用いた。
【図2】図2Aから図2Gは、MAR2単離株のための16S rRNA遺伝子配列をコードするDNA配列を提供する。図2A=CNQ695(SEQ ID NO:1);図2B=CNQ03(SEQ ID NO:2);図2C=CNQ732(SEQ ID NO:3); 図2D=CNR252(SEQ ID NO:4);図2E=CNP027(SEQ ID NO:5);図2F=CNQ140(SEQ ID NO:6);および図2G=CNQ259(SEQ ID NO:7)。
【図3】図3Aから図3Bは、MAR2単離株の16S rRNA遺伝子における特徴的ヌクレオチドの定義のために用いられた、大腸菌株MG1655 rrsA遺伝子配列(SEQ ID NO:8)のヌクレオチド4033120から4034661を提供する。この配列はGenBank登録:U00096の一部である(Blattnerら、Science、227(5331)、p.1453-1474(1997))。原核生物配列の整列化のために、ミシガン州立大学(Michigan State University)(Coleら、(2003))によって主催されるリボソームデータベースプロジェクトにより開発された標準的な二次構造鋳型(または「分子定規」)に対して、配列を整列化するための位置合わせスペーサーとして長音記号を挿入している。この整列化配列における長音記号は、一塩基を表すというよりはむしろ、比較のために標準的な二次構造鋳型に対して大腸菌配列を整列化するのに用いる位置決め役となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋放線菌が、MAR2特有の以下の特徴的ヌクレオチドを有する16S rRNA遺伝子を含む新規属のメンバーである、単離された海洋細菌:
その304位のウリジン、その671位のシチジン、および735位のグアニジン。
【請求項2】
16S rRNA遺伝子が、SEQ ID NO:1、2、3、4、5、6、または7に記載の配列を含む核酸によりコードされる、請求項1記載の単離された海洋放線菌。
【請求項3】
SEQ ID NO:1〜7のヌクレオチド配列の少なくとも一つと約80%から約99%同一であるヌクレオチド配列によりコードされる16S rRNA遺伝子配列を有する、請求項2記載の単離された海洋放線菌。
【請求項4】
属が、放線菌ファミリーであるストレプトミセス科(Streptomycetaceae)の全ファミリー特異的な特徴的ヌクレオチドをさらに含む、請求項1記載の単離された海洋放線菌。
【請求項5】
関心対象の活性を有する生体分子を産生する方法であって、以下の工程を含む方法:
少なくとも一つの生体分子を産生させるために、塩含有増殖培地中で請求項1記載の海洋放線菌を培養する工程;
少なくとも一つの生体分子を含む海洋放線菌または増殖培地を回収する工程;
海洋放線菌または増殖培地から生体分子を抽出する工程;および
関心対象の活性を有する生体分子を産生するために、関心対象の活性の存在について抽出された生体分子を試験する工程。
【請求項6】
関心対象の活性が、抗生物質活性、抗真菌活性、抗ウイルス活性、および抗癌活性から選択される薬学的活性である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
薬学的活性が抗生物質活性である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
薬学的活性が抗真菌活性である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
薬学的活性が抗癌活性である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
増殖培地が海水を含む、請求項5記載の方法。
【請求項11】
以下の工程を含む、薬物発見法:
塩含有増殖培地中で請求項1記載の放線菌の株を増殖させる工程;
放線菌または増殖培地を回収する工程;および
薬理活性を有する生体分子の存在について放線菌または増殖培地を解析する工程。
【請求項12】
解析が、抗菌活性についてのアッセイを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
解析が、抗ウイルス活性についてのアッセイを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
解析が、抗癌活性についてのアッセイを含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
解析が、抗真菌活性についてのアッセイを含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
増殖培地が海水を含む、請求項11記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、生体分子を産生するための方法:
生体分子を産生するために、塩含有増殖培地中で請求項1記載の海洋放線菌を増殖させる工程;
生体分子を含む海洋放線菌または増殖培地を回収する工程;および
生体分子を産生するために、海洋放線菌または増殖培地から生体分子を抽出する工程。
【請求項18】
増殖培地が海水を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
抽出工程が、増殖培地を分画する工程を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
抽出工程が、吸着樹脂の使用を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
吸着樹脂が、有機溶媒を用いて溶出される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
生体分子が海洋放線菌の二次代謝産物である、請求項16記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2008−502304(P2008−502304A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536869(P2006−536869)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/035219
【国際公開番号】WO2005/039500
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(592130699)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】