説明

新規の配位子とランタニド錯体、および造影剤としてのそれらの利用法

本発明は、金属、特にランタニドの配位子に関するものであり、Lnがランタニドであり、Lが配位子に対応し、nが0〜6の整数である、[Ln(L)(HO)]という一般式による配位錯体、ならびに、該錯体の利用能のある分子へのグラフトおよび該錯体の調製方法にも関するものである。さらに、本発明は、少なくとも一つの配位子および/または錯体および/または利用能のある分子を含有する造影剤および薬学的組成物にも関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はとりわけ、医療分野における磁気共鳴および光学共鳴によるイメージングを目的とした、新規の配位子とランタニド錯体および造影剤としてのそれらの利用法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法(MRI)はNMRに基づく医療診断の強力な技術の一つである。MRIによって得られる映像の信号の強度および映像の質を高めるために、造影剤が用いられる。
【0003】
ランタニド・イオン独自の分光学的特性および磁気特性は、これらの金属およびそれらの分子の錯体を、それらの医療分野および生化学分野の利用において、とりわけ、磁気共鳴画像法を目的とした造影剤として、また光学式トレーサーとして理想的なものにする。
【0004】
「International Union of Pure and Applied Chemistry」(IUPAC)によって発行されている規則によると、ランタニドとは、セリウム(Z=58)からルテチウム(Z=71)までの一連の化学元素を意味する。
【0005】
発光の持続時間が長く、放射スペクトルが十分に定義されているユウロピウム錯体(EuIII)とテルビウム錯体(TbIII)は、構造的問題および分析的問題を解決するための分光センサおよび発光センサとして、また蛍光イメージング・システムとして検出器の設計で用いられることが多いが、磁気モーメントが高く(S=7/2)、電子緩和が遅いガドリニウム(III)は、磁気共鳴画像法(MRI)を目的とする弛緩剤の設計には理想的な金属である。
【0006】
配位子の設計と構造は、医療分野での利用にとって本質的なものであり、配位化学の分野で研究対象となることが多い。
【0007】
特にポリ(アミノ)カルボキシレート配位子が研究されている。実際、その高い動力学的、そして熱力学的な安定性はインビボでの毒性を避けるために不可欠な特性である。
【0008】
今日では、市販で提供されているGdIIIのあらゆる造影剤は、分子量が小さい錯体であり、該錯体は、とりわけ1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−テトラ酢酸(Hdota)の大員環およびジエチレントリアミン−N,N’,N’’,N’’’−ペンタ酢酸(Hdtpa)非環状化合物のような、ポリ(アミノ)カルボン酸塩の8座配位子から得られるものである。
【0009】
したがって、これらの錯体では、緩和能は理論的に可能な最大のものよりも小さいのだが、これは、緩和の増加を決定し、そしてその増加の要因になっているあらゆるパラメータを同時に最適化していないことに起因している。
【0010】
先述のように、造影剤の核となる特性は「緩和能」である。緩和能は、環境水の分子のプロトンの緩和速度を高める錯体の適性として定義される。ガドリニウム(III)の常磁性錯体は、このイオンの特徴的な電子特性および磁気特性のため、造影剤として認められている。
【0011】
より高い緩和能は、磁気共鳴画像法(MRI)を目的とする次世代の造影剤には必要かつ不可欠な特徴である。
【0012】
より高い緩和能は、より多くの水分子のもとで得ることができるのだが、該分子は、これらの分子の交換速度の最適性と、回転相関時間および長い電子緩和時間に関連している。
【0013】
ガドリニウムは、水和した形[Gd(HO)3+では非常に毒性が強い金属である。あらゆるインビボでの毒性を避けるためには、不活性で、熱力学的に安定した錯体の形で用いられなければならない。さらに、金属を錯化する配位子は配位場所を自由にしておくことで、一つまたは複数の水分子が金属と結合し、緩和能を高められるようにしなければならない。
【0014】
近年では、ピコリネートの「腕」を備えた「四脚」構造または「三脚」構造を有し、また、良好な緩和特性を有する配位子のガドリニウム錯体が公開されている。
【0015】
しかし、緩和能を担う分子パラメータを理解することを目的として研究が行われてきたが、Gd(III)錯体の電子緩和の根底にある配位のメカニズムと特性は、未だにほとんど理解されておらず、分かっていないままである。このことは、理想的な電子緩和を有する新規配位子の設計を妨げ、また非常に難しくしているのだが、該電子緩和は、長い回転相関時間を伴う次世代高分子錯体にとっては特に重要である。
【0016】
また、水中で安定しており、強く光を放出するランタニド錯体の調製には、多座配位子の設計が必要であり、該高座配位子は、溶媒の水分子の中心金属を保護することができる光線感作物質を含んでいることで、O−H振動子によるランタニド金属の励起状態の非放射性不活性化を避けるようになっている。
【0017】
「四脚」構造を備えたN,N’−ビス[(6−カルボキシピリジン−2−イル)メチル]−エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸(H4bpeda)配位子は、水に可溶性であり、ガドリニウム・イオンに結合した水分子を伴う、ガドリニウムの9配位錯体となる。この錯体は水/プロトンの緩和能と、市販されている造影剤に匹敵するあるいはより好ましい水の交換速度を有し、また、現在までに知られている最も速い電子トランスバーサル緩和を有すると考えられる。
【0018】
完全に異なる緩和特性が、1,4,7−トリス[(6−カルボキシピリジン−2−イル)メチル]−1,4,7−トリアザシクロノナン(Htpatcn)という高度に対称的な9配位子の場合に観察されている。
【0019】
tpatcn配位子は非常に堅牢な9配位されたガドリニウム錯体へとつながるものである。この錯体は水の配位分子を含んでおらず、低電界で特に高い緩和能を有している。常磁性電子共鳴(PER)で得られた詳しい研究にしたがい、核磁気緩和による分散(NMRD)によって得られた[Gd(tpatcn)]のプロファイルに基づいて、遅いスピン電子緩和を評価したところ、この錯体の場合、ガドリニウム・キレートで観察された帯域の中で最も小さな幅を示した。
【0020】
ゼロ電界でのスピン電子緩和(およそ1500ps)は、このタイプの錯体で今日得られる最も高い値である(dotaについて650ps)。この錯体の遅い電子緩和は、高い対称性に関連した六つの窒素ドナー原子を含む、一般的ではない配位圏に割り当てられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、発光の強い錯体の調製に関して多くの研究がなされているにも関わらず、現状で市販されているランタニドを含んだ発光マーカーは、その調製の難しさのためにほとんどないままである。
【0022】
さらに、医療分野で用いられる二つの主要な非破壊技術である蛍光イメージングおよび核磁気共鳴画像法は、いくつかの不都合、とりわけ、蛍光イメージングの場合には組織への浸透性が浅く、磁気共鳴画像法の場合には感度が低いという不都合を有している。
【0023】
光学イメージングおよび磁気共鳴画像法を対象とする二機能の造影剤を利用することによって、さまざまな解像度と深度の同一の生体構造を検査することが可能となる。
【0024】
上述した二つの技術で用いられる二つの画像法の設計におけるさまざまな要求のために、今日では、良好な磁気特性と光学特性を同時に有するランタニド錯体の合成に用いられる分子の例はほとんどない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の目的は、先述した不都合を改善する、特にそれらの設計(二つの画像法)と水媒体での安定性に関する不都合を改善する新規のランタニド錯体を提案することである。
【0026】
本発明のもう一つの目的は、ランタニドを効果的に錯化させることができる新規の構造、特にガドリニウムとテルビウムを含んだ新規の造影剤を提案することである。
【0027】
本発明のもう一つの目的は、電子緩和の遅い新規の構造を備えた新規の造影剤を提案することである。
【0028】
本発明のもう一つの目的は、市販で提供されている造影剤の緩和能に匹敵する緩和能を有する新規の構造を備えた、新規の造影剤を提案することである。
【0029】
本発明のもう一つの目的は、ランタニドを効果的に錯化させることができるのと同時に、市販で提供されている造影剤の緩和能に匹敵する緩和能を備え、そして顕著な光学特性を有する新規の構造を提案することである。
【0030】
本発明のもう一つの目的は、顕著な光学特性を有する新規の構造を提案することである。
【0031】
本発明のその他の目的および利点は以下の説明によって明らかになるものであり、該説明は例として示すものであって、本発明を限定するものではない。
【0032】
本発明は、金属、とりわけ一般式(I)にしたがったランタニドの配位子に関するものである。
【0033】
【化1】

【0034】
該一般式において、
Aは、有機酸基、アルキル・エステルまたはアリール・エステルに対応し、
およびRは、個別に、互いに独立して、H、アルキル基またはアリール基に対応し、
およびZは、同一または異なっており、以下の一般式ZまたはZによるものである。
【0035】
【化2】

【0036】
該一般式において、
Gは、H、アルキル基またはアリール基によって独立的に置換されているO、N、P、SまたはCを表し、
〜Rは、個別にそれぞれ互いに独立して、H、アルキル基、またはアリール基に対応する。
【0037】
また、本発明は、
[Ln(L)(HO)]、
という一般式による配位錯体にも関するものであり、該一般式において、Lは本発明による配位子に対応し、nは0と6の間にある整数である。
【0038】
また、本発明は、配位子および/または錯体および/または利用能のある分子の調製方法にも関するものであり、該方法は、
−LGが反応活性基を表すとき、Z−LGおよび/またはZ−LGのもとで、Zおよび/またはZによって、とりわけ求核置換によってトリアザシクロノナン環の二つの窒素を官能化する過程と、
−Aがアルキル・エステルまたはアリール・エステルを表し、Rが個別に独立して、H、アルキル基またはアリール基に対応しているとき、先行過程の際に得られたトリアザシクロノナンをLG−C(RAのもとでC(RAによって官能化する過程、
を含むことを特徴としている。
【0039】
さらに、本発明は、生物学的利用能のある分子にグラフトされた配位子と錯体、ならびに、少なくとも一つのこれらの分子を含む造影剤および薬学的組成物にも関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、添付の図面に伴う以下の説明を読むことでより良く理解されるものであり、該図面において、
−図1は配位子の合成を概略的に表し、
−図2はHbpatcnおよびbpatcnMに対して標準化された滴定曲線を表し、
−図3aおよび図3bはそれぞれ、274nmで配位子を励起した後の、[Eu(bpatcn)]と[Tb(bpatcn)]の放射スペクトルを表し、
−図4はトリス緩衝液におけるHbpatcnの吸収スペクトル(......)と[Tb(bpatcn)]の励起スペクトルを表し、
−図5は[Ln(bpatcn)]のさまざまな立体異性体の相互変換による配座平衡を概略的に表している。
【0041】
まず、本発明は、金属、とりわけ一般式(I)にしたがったランタニドを対象とする配位子に関するものである。
【0042】
【化3】

【0043】
該一般式において、
Aは、有機酸基、アルキル・エステルまたはアリール・エステルに対応し、
およびRは、個別に、互いに独立して、H、アルキル基またはアリール基に対応し、
およびZは同一または異なっており、一般式(Z)または(Z)によるものである。
【0044】
【化4】

【0045】
該一般式において、
Gは、H、アルキル基またはアリール基によって独立的に置換されたO、N、P、SまたはCを表し、
〜Rは、個別にそれぞれ互いに独立して、H、アルキル基またはアリール基に対応する。
【0046】
アルキル基は、C1−C20において、好ましくはC1−C6において、場合によっては一置換または多置換、線形、分岐または環状、飽和または不飽和、架橋または非架橋とすることができ、一つまたは複数の置換基は、N、O、F、Cl、P、Si、BrまたはSといった一つまたは複数のヘテロ原子を含むことができる。このようなアルキル基のうち、とりわけ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tertブチル基およびペンチル基を挙げることができる。また、不飽和アルキル基のうち、エテニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、tertブテニル基、ペンテニル基およびアセチレニル基を挙げることができる。
【0047】
アリール基は、芳香族または複素芳香族の炭化構造、一置換または多置換の構造であり、それぞれが3〜8の原子を含んだ一つまたは複数の芳香族環または複素芳香族環で構成される構造とすることができ、一つまたは複数のヘテロ原子はN、O、PまたはSであってよい。
【0048】
選択的に、アルキル基またはアリール基が多置換であるとき、置換基は互いに異なっていてもよい。アルキル基およびアリール基の置換基のうち、とりわけ、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、置換されたまたはされていないアリール基、置換されたまたはされていないヘテロアリール基、アミノ基、シアノ基、アジド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ケト基、カルボキシ基、エテロキシ基、メトキシ基などのアルコキシ基を挙げることができる。
【0049】
好ましい実施態様によると、AはCOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、PO(OR)(OR’)、SOHまたはSOORに対応し、ここでRおよびR’はアルキル基またはアリール基を表している。
【0050】
有利には、RとR、RとRはそれぞれ二つずつ架橋アルキル基または架橋アリール基である。
【0051】
さらに、好ましくは、ZおよびZは以下の構造から選択される。
【0052】
【化5】

【0053】
該構造において、
およびR10は独立してH、アルキル基またはアリール基に対応している。
【0054】
特徴的な実施態様によると、Gは酸素を表す。
【0055】
および/またはZが、配位子に蛍光特性をもたらすことのできる少なくとも一つの基を含んでいることが有利であり、このような基はとりわけ、アリール基のような芳香族基とすることができる。
【0056】
また、本発明は、
[Ln(L)(HO)]、
という一般式による配位錯体にも関するものであり、該一般式において、Lは本発明で説明した配位子に対応し、nは0〜6の整数の変数であり、好ましくは1である。
【0057】
本発明による特徴的な実施態様によると、Lnはランタニドであり、該ランタニドは、好ましくはガドリニウム、テルビウム、ユウロピウム、ネオジム、エルビウムおよびイッテルビウムの中から選択される、酸化度が3のランタニドである。
【0058】
本発明のもう一つの特徴的な実施態様によると、本発明で説明した配位子および/または錯体はさらに、生物学的な利用能のある分子にグラフトすることができる。
【0059】
本発明による利用能のある分子とは、とりわけ、ヌクレオチド、ポリペプチド、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)、抗体、またはその他のあらゆる生物学的および/または医学的な利用能のある活性分子のような生体分子に対応する。それは、実験者が生体組織の中で、インビボまたはインビトロ技術を用い、また金属の磁気特性および金属固有の光学特性あるいは配位子によってもたらされうる蛍光性を用いて検出しようとするあらゆる分子である。
【0060】
グラフトはあらゆるタイプの結合によって行うことができる。したがって、永続的なグラフトについては共有結合を用いるのが望ましいのに対し、より可逆的なグラフトについては、水素相互作用を用いることができる。
【0061】
また、本発明は上記で定義した配位子および/または錯体および/または利用能のある分子の調製方法にも関するものであり、該方法は、
(1)LGが反応活性基を表すとき、Z−LGおよび/またはZ−LGのもとで、Zおよび/またはZによって、とりわけ求核置換によってトリアザシクロノナン環の二つの窒素を官能化する過程と、
(2)Aがアルキル・エステルまたはアリール・エステルを表し、Rが個別に独立して上記で定義したようにLG−C(RAのもと、(1)で得られたトリアザシクロノナンをC(RAによって官能化する過程、
を含んでいることを特徴としている。
【0062】
本発明の特徴的な実施態様によると、反応活性基LGは、好ましくはClまたはBrのようなハロゲン、トリフレート、トシラートまたはメシラートのようなスルホン塩酸から選択される。
【0063】
さらに、この方法は、とりわけクロマトグラフィによって行われる少なくとも一つの精製過程を含むことができる。過程の実施順序は変更することができ、官能化もLG−C(RAを用いた反応によって開始することができる。
【0064】
利用能のある分子へグラフトする補助過程も有利である。利用能のある分子は、錯体で利用可能であり、錯体に設けられている機能に基づき、またとりわけ、構造上に存在し、そして上記で提示したアルキル基またはアリール基に基づき、適合化されたあらゆる反応によって、複数の箇所で配位子または錯体にグラフトすることができる。グラフトは、錯体よりむしろ配位子を用いて行う方が好ましい。
【0065】
たとえば、ポリペプチドを加えるために、ペプチド結合を創出するのに適した機能を構造に設けることは有効である。アルキル基のうちの一つにある酸機能またはアルコール機能を利用することで、アルブミンのようなタンパク質と相互作用することのできるデンドロンまたは基のグラフトを可能にすることができ、ヌクレオチド塩基はDNAまたはRNAへのグラフトのために用いることができる。
【0066】
錯体を調製する場合、その方法はランタニド塩の混入過程を含み、該過程は、好ましくはLnCL・6HOのようなランタニド無機塩のもと水相で、錯体によるランタニド塩の捕集を促進するようにpHを調整しながら行われる。
【0067】
また、本発明は上記で説明した少なくとも一つの錯体および/または配位子および/または利用能のある分子を含んだ造影剤、ならびに、上記で定義した配位子および/または錯体および/または利用能のある分子から得ることのできる造影剤にも関するものである。
【0068】
本発明は、診断方法とりわけ医学的な画像法で利用可能な造影剤を調製するための、利用能のある分子にグラフトされたまたはされていない、上記で説明した配位子および/または配位錯体の利用にも関するものである。
【0069】
好ましくは、この方法は用いる錯体の磁気特性および/または蛍光特性を利用する。関係する方法はとりわけ、磁気共鳴画像法(MRI)、時間分解ルミネセンス顕微鏡法および蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)である。
【0070】
X線による回折像および放射性トレーサーの開発への応用も考えることができる。
【0071】
また、本発明は、上記で定義した、利用能のある分子にグラフトされたまたはされていない配位子および/または錯体および/または造影剤を少なくとも一つ含み、診断方法とりわけ医学的な画像法で利用可能な薬学的組成物にも対応している。
【0072】
さらに、組成物は、ヒトおよび/または動物の器官が受けつける水溶液のような、当業者に既知であり、造影剤の搬送に利用可能なあらゆる賦形剤を含むことができる。
【0073】
また、本発明は、診断方法とりわけ医学的な画像法で利用可能な薬学的組成物の調製を目的とした、上記で定義した少なくとも一つの配位子および/または錯体および/または利用能のある分子および/または造影剤の利用法にも関するものである。
【0074】
本発明に関わる診断方法とは画像法であり、より特徴的には核磁気共鳴画像法および蛍光画像法である。
【0075】
本発明の利点の一つは、定義した配位子が、カルシウムのような生体環境で見られる塩に比べ、ランタニドに対する強い親和性を有することである。この選択性は、インビボでの利用時に造影剤がまったくの無害であることを意味する。なぜなら、この選択性によって、Ca2+のような組織内に存在する塩との金属交換反応が避けられるからである。
【0076】
水への可溶性および生理学的安定性と関連する強い発光性は、[Tb(bpatcn)(HO)]のような錯体[Ln(L)H]が、蛍光免疫測定のような生物医学的応用を対象とした蛍光画像法の開発に適合化されていることを示している。
【0077】
本発明のもう一つの利点は、同一の組織内に同じ仕方で広がるが、さまざまな方法で検出することのできる同一の有機分子を含んだ化合物(異なる金属を備えている)を調製することが可能であることである。実際、少なくとも一つの芳香族があること、ならびに、第一の配位領域に水分子を含んだランタニド塩があることによって、これらの錯体にある二重の機能性が保証される。したがって、二つの異なる金属(GdまたはTb)を備えた同一の錯化された分子によって、同一の生物学的構造を二つの異なる技術(MRIおよび蛍光顕微鏡)で、したがってさまざまな解像度と深度によって検査することが可能となる。
【0078】
また、相関時間の長い造影剤としての高分子を調製する目的において、bpatcn3−のような配位子を簡単に官能化することによって、高い分子量を備えたシステムの緩和能において、電子緩和の最適化の影響を検査することが可能になる。
【0079】
さらに、NMRおよびPER検査によって、ガドリニウム錯体について観察された電子緩和の良好な特性は、高分子にグラフトした後、市販の造影剤を超える緩和能が達成されることを示している。
【0080】
最後に、配位子の簡単な官能化によって、セルイメージングのためにより疎水性の強い化合物を得ることができ、また、高分子系に該画像法を導入することが可能になることになる。
【実施例1】
【0081】
非限定的な例示として、Hbpatcn配位子とLn(bpatcn)錯体の調製を以下で説明する。
【0082】
bpatcn配位子を以下の要領で、図1に概略的に示しているように調製した。
【0083】
アルゴン雰囲気下で、1,4,7−トリアザシクロノナン三塩酸塩(0.431g、1.81mmol)とKCO(1.05g、7.62mmol)を、無水アセトニトリル(50mL)中の6−クロロメチルピリジン−2−カルボン酸塩(0.760g,3.81mmol)のエチル・エステル溶液に連続的に加えた。
【0084】
一時間にわたって室温で撹拌した後、反応混合物を18時間の間還流にかけた。無機塩を濾過し、溶媒を蒸発させ、次に、得られた産物をIII−活性アルミナカラムクロマトグラフィ(50g、CHCl/EtOH 98/2で計100)によって精製し、黄色油の形で1,4−ビス[(6−カルベトキシピリジン−2−イル)メチル]−1,4,7−トリアザシクロノナンが得られた(0.193g、24%)。
【0085】
次に、エチル・クロロアセテート(0.255g、2.08mmol)とKCO(0.288g、2.08mmol)を、無水アセトニトリル(60mL)中の1,4−ビス[(6−カルベトキシピリジン−2−イル)メチル]−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.860g、1.89mmol)の溶液に連続的に加えた。
【0086】
反応混合物を一晩還流にかけた。濾過と溶媒の蒸発後、得られた産物をIII−活性アルミナカラムクロマトグラフィ(90g、CHCl/EtOH 98/2で計100)によって精製し、黄色油の形で1−カルベトキシメチル−4,7−ビス[(6−カルベトキシピリジン−2−イル)メチル]−1,4,7−トリアザシクロノナンが得られた(0.568g,56%)。
【0087】
1MのKOH溶液(6.5mL)をエタノール(10mL)中の1−カルベトキシメチル−4,7−ビス[(6−カルベトキシピリジン−2−イル)メチル]−1,4,7−トリアザシクロノナン(0.321g、0.570mmol)溶液に加えた。反応混合物を一晩還流にかけた。溶媒の蒸発後、得られた油を水に溶解し、1.2MのHCl水溶液を添加することでpHを1.5に調整した。
【0088】
溶液をゆっくり蒸発させた後、白色結晶の形でHbpatcn・2.5KCl・2HCl・4HO配位子が得られた(0.310g、69%)。
【0089】
Ln(bpatcn)錯体を以下の要領で調製することができる。
【0090】
水(0.4mL)中のEuCl・6HOの溶液(0.13mmol)を、水(2mL)中のHbpatcn(0.15mmol)溶液に加えた。得られた溶液のpHは、1MのKOH水溶液を添加することで7.5に調整した。水の蒸発後、得られた固体をエタノール(20mL)に溶解した。得られた懸濁液を一晩4℃に冷やしておき、濾過によってKClを取り除いた。溶液をゆっくり蒸発させた後、白色微細結晶の形で錯体[Eu(bpatcn)]が得られた(66.3mg、65%)。
【0091】
同一の手順にしたがって[La(bpatcn)]錯体、[Lu(bpatcn)]錯体および[Gd(bpatcn)]錯体を単離した。
【0092】
ai=[H6−iL]3−i/[H5−iL]1−i[H]と定義されるHbpatcnを脱プロトン化する定数を電位差滴定法によって判定し、以下の値となった。すなわち、pKa1=2.2(2)、pKa2=2.3(2)、pKa3=3.7(3)、pKa4=5.42(3)およびpKa5=10.5(2)(0.1MのKCl、298K)である。
【0093】
bpatcnの場合およびそれらの錯体GdIIIとCaIIに対する滴定曲線を図2に示している。
【0094】
さまざまなpHにおける配位子の核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、第五のプロトン化(pH=10〜13)と第四のプロトン化(pH=4.5〜7)の間に、メチレン化した二つのプロトン(ピコリン酸とカルボン酸の側)の化学シフトに大きな変動があることを示している(0.3〜0.4ppm)。第二と第三のプロトン化(pH=1.5〜4.5)の間では、非常に大きな変動はピコリン酸基に近いメチレン化されたプロトンについてしか観察されなかった。大きな変動は、第二および第三のプロトン化の後、三つのピリジルプロトンの化学シフトにおいて観察された(Hと、ごくわずかにはH、Hにおいて。0.3〜0.2ppm)。
【0095】
プロトン化の曲線は、最初の二つの酸等価が同じようにさまざまなタイプの大員環の窒素原子(pKa4=5.42(3)、pKa5=10.5(2))をプロトン化したことを示している。次の二つの等価は、ピリジンと結合したカルボン酸基をプロトン化した(pKa2=2.3(2)、pKa3=3.71(3))。
【0096】
pKa1=(2.2(2))の値は1,4,7−トリアザシクロノナン−N,N’,N’’−トリ酢酸(Hnota)の配位子におけるカルボン酸基のプロトン化で観察された値(2.88(2))と一致しており、該値は、C.F.G.C.Geraldes,M.C.Alpoim,M.P.M,Marques,A.D.Sherry,M.Singh,Inorg.Chem.1985,24,3876−3881によって説明されている.
【0097】
2までのpHで、単離され、プロトン化したHbpatcn・2HCl配位子の結晶質構造では、すべてのカルボン酸と大員環のピコリン酸基に隣接する二つの窒素がプロトン化しており、該構造はまた、pKa1をカルボン酸のプロトン化に割り当てたこととも一致している。
【0098】
プロトン化の曲線および構造データは、カルボン酸基のプロトン化前の、Hnota配位子について観察された三つの大員環の窒素が部分的に同時にプロトン化したことと一致している。第三アミンとピリジンの窒素のプロトン化はより低いpHで起こり、関連するpKは判定されなかった。
【0099】
最も高いpKの二つの値は、1,4,7−トリアザシクロノナン環状トリアミン(10.42および6.82)の場合と、Hnotaによるトリアザの大員環配位子(11.3(1)および5.59(2))の場合における最も高いpKに類似している。
【0100】
pKa2およびpKa3の値は、Htpaaによる「三脚」構造を有する配位子(Htpaa=α、α’、α’’ニトリロトリ(6−メチル−2−ピリジンカルボン酸))におけるピコリン酸基のプロトン化について観察された値と一致している(pKa2=3.3(1)、pKa3=4.11(6))。
【0101】
ピリジンカルボン酸基の導入は、Hnta(ニトリロトリエタン酸)に対するHtpaa配位子の塩基性とHedtaに対するHbpeda配位子の塩基性が減少することの要因となっており、Hbpatcn配位子はあるタイプのプロトン化とHnota親配位子にほぼ匹敵するpKの値を有している。
【0102】
bpdeaと同族の配位子に関するpKaとlogβの値を以下の表に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
GdIIIおよびCaIIのHbpatcnによる錯体の安定性に関する定数を、2.5と8.5のpHの範囲において、1:1の割合にある金属:Hbpatcn(5.10−4M)混合物の直接滴定によって計算した。
【0105】
滴定データは、
Gd3++bpatcn3−⇔[Gd(bpatcn)]logKGdL=15.8(2)、
Ca2++bpatcn3−⇔[Ca(bpatcn)]logKCaL=8.18(7)、
という式によって表すことができる。
【0106】
pGd=13.6、pCa=6.30という値(一定の条件下、ここではpHが7.4、[M]total=1μM、[bpatcn]total=10μMでは、pMは金属Mについては−log[M]libreとして定義される)によって、生理学的条件における錯体の安定性を直接比較することが可能になり、該値は、市販の造影剤[Gd(dtpa−bma)(HO)]に比べて良好な安定性を示している(logKGdL=1.85、pGd=15.8、pCa=6.39)。
【0107】
pKaの値および、したがってHbpatcnとHnotaの塩基性は非常に似ているが、bpatcn3−のガドリニウム錯体の安定性は、nota錯体の安定性よりかなり高い(logKGdL=13.7)。
【0108】
bpatcn中にピリジル基の二つの電子ドナー窒素原子が追加的に存在することは、ガドリニウム錯体の安定性を高める結果になる(2.1ログ単位)。
【0109】
安定性に対する2−ピリジルメチルの貢献は、N,N’−ビス(2−ピリジニルメチル)エチレンジアミン−N,N’−ジアセテートを伴うGdIII錯体の場合については、2.6ログ単位と評価された。
【0110】
本出願に記載した結果は、ピリジンがガドリニウム錯体の安定性にかなり貢献し、ピリジンが6−メチル−2−ピリジンカルボン酸基の一部を構成するときにも貢献することを示している。
【0111】
また、bpatcn3−のカルシウム錯体の安定性に関する定数は、nota3−の定数に類似している。したがって、ドナー基N、つまり、bpatcn3−中のピリジル基は、上述のような配位子における、CaIIに対するGdIIIの選択性の原因となっている。生理学的な金属と比べてガドリニウムに対する配位子の高い選択性は、磁気共鳴画像法(MRI)にこれらの錯体を応用するためには非常に重要である。なぜなら、インビボでの金属交換反応に関連したGdIIIの解放はガドリニウム錯体の毒性の原因となるからである。
【0112】
bpatcn3−の吸収スペクトルとそれらの錯体EuIIIとTbIIIは、Euについては9050モル、Tbについては9100モルの吸収係数で、〜36500cm−1までという強い帯域を示している。これらの帯域は、配位子のπ→π、n→πという中心遷移の組み合わせに割り当てられている。
【0113】
図3aおよび図3bはそれぞれ、pH=7.4のユウロピウム錯体溶液とテルビウム錯体溶液の放射スペクトル(273nmでの励起後に得られた)と、Eu3+イオンとTb3+イオンの(J=0−6)という典型的な通常遷移を示している。
【0114】
ランタニド・イオンEuおよびTbは、その蛍光特性に関して、またとりわけ、可視領域での放射に関しては、bpatcn3−配位子によって効果的に感光化された。
【0115】
図4に示したように、金属と配位子の間における効果的なエネルギー移動は、励起スペクトルとTbキレートの吸収スペクトルの間の類似性によって示されている。
【0116】
0.1Mのトリス緩衝液の中、15%の実験誤差で、[Tb(dpa)3−(Hdpa=ジピコリン酸)との比較で計算された[Tb(bpatcn)(HO)](φ=43%)錯体の放射の量子収量は、今日までに観察されている最も高い値の一つを有し、中心金属に配位された水分子を含有するテルビウム錯体については最も高い値を示した。
【0117】
bpatcn3−発色団によるEuイオンの感光化はあまり効果的ではなかった。錯体の量子効率はより低く(φ=5%)、該効率は市販品で観察される発光センサの量子効率に近い。
【0118】
Tbイオンの非常に強力な発光性は、配位子から金属への効果的なエネルギー移動の結果であり、該発光性は、金属に配位された水分子の存在にもかかわらず、非放射性の不活性化に対する金属イオンの効果的な防御があることを示している。
【0119】
水中にあるテルビウム錯体で観察された持続時間の長い発光性(1.5ms)によって、励起状態にある金属から配位子へのエネルギーの復帰を含んだ脱励起過程は排除される。
【0120】
非放射性の脱励起過程の不効率性(テルビウムの場合にはより重要である)は、テルビウム錯体に対する高い発光性の量子効率の源となっている。
【0121】
水中での発光性と重水中での発光性の比較は、溶媒によって引き起こされる非放射性の脱励起過程が、ユウロピウム錯体の量子効率よりテルビウム錯体の量子効率にほとんど影響しないことを示している。
【0122】
以下の表は、bpatcnの発光団によって非常に効果的に金属Tbが感光化され、φ=48%という量子効率の値になり、該値は、現状で市販され、またB.Alpha,V.Balzani,J.M.Lehn,S.Perathoner, and N.Sabbatini,Angew.Chem,Int.Ed.Engl.,1987,26、1266;G.Mathis, Clin.Chem.,1993,39,195に説明されているセンサに存在しているテルビウム錯体の量子効率よりもかなり高い。
【0123】
【表2】

【0124】
ランタニド錯体の構造を判定するために、[Ln(bpatcn)]錯体(Ln=La、Eu、Lu)の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを調査し、[Ln(dota)]錯体と、1,4,7−トリアザシクロノナンの大員環の核を含有する配位子を伴ったランタニド錯体について公開されている結果と比較した。
【0125】
bpatcn3−配位子によるランタニド錯体は、すべてのドナー原子が配位されているとき(対称性C)、NMRスペクトルに対して24の信号を発信することとなった。ランタニド・イオンの堅牢な配位は、Ln−N−C−C−N環と懸濁中の「腕」のねじれ角に関連しているキラリティーから独立した二つの構造要素に源をあたえることができる。
【0126】
環は二つの鏡像異性構造(λλλおよびδδδ)を有することができ、「腕」は右回り(Δ)または左回り(Λ)のらせん形をとることができる。
【0127】
結果的に、ジアステレオ異性体の二つの鏡像異性体のペア(Λ(λλλ)/Δ(δδδ)またはΛ(δδδ)/Δ(λλλ))を形成することができ、また、図5に示したように、環(I)の変換または「腕」(II)の計画回転による相互変換を起こすことができる。
【0128】
堅牢な構造を伴ったジアステレオ異性体の二つのペアが存在することで、この存在によってH NMRに対して24の信号からなる二つのグループが生じることが予測されるのに対し、鏡像異性体の間で速い交換過程が存在することで、対称性Cを伴い、H NMRに対して12の信号しか有していない分子に説明がつく。
【0129】
また、非らせん形をしたキレートの「腕」の位置は、この非対称錯体にあってもよく、また、対称性Cを伴う異性体に対する説明となる。
【0130】
水中におけるトリアザ1,4,7−トリアザシクロノナン−N,N’,N’’−トリ酢酸(Hnota)の6座配位子のトリアニオン・配位子によるランタニド錯体に対する先行研究と、アセトニトリル中の1,4,7−トリス(カルバモイルメチル)−1,4,7−トリアザシクロノナンの6座配位子の中性配位子に対する研究は、これらの錯体の中に、五つのメンバーLn−N−C−C−Nによる環の二つの構造の間に急速な相互変換を伴う、トリアザの柔軟な核が存在することを示している。
【0131】
pH=7.1、温度が298Kの水におけるランタン錯体のプロトンのNMRスペクトルは12の信号を示し、ピリジンのプロトンに対しては三つの共鳴、ピリジンに近いCH基に対しては二つの共鳴(ダブレット)、アセテート基のプロトンに対しては一つの共鳴、そして大員環のエチレン化部分のプロトンに対しては重複した広い六つの共鳴を伴っている。
【0132】
これらの特徴は対称性Cを有する種が存在することと一致しており、該対称性において、ピコリネートの二つの「腕」は等価である。
【0133】
ピリジンに近いCH基のジアステレオトピックな特徴は、大員環の三つの窒素の配位が長い持続時間を有していることと、隣接する第四級窒素が非対称的な特徴を有していることで説明される。
【0134】
アセテート基のメチレンプロトンと大員環のエチレン化部分の初期のプロトンの化学シフトは、溶液中の配位子の立体配座的な可動性を必要とする。
【0135】
298Kと278Kの間にある温度の水におけるNMRスペクトルと、278Kと233Kの間にある温度の水−エタノール混合物におけるNMRスペクトルは、徐々に広くなる信号しか示さず、該信号はその代わりとなる動的過程の解釈を妨げるものである。
【0136】
pH=4.2、温度が298KであるDO溶液における、反磁性金属Lu(III)を伴ったbpatcn3−錯体のH NMRスペクトルは、24の信号からなる一組しか示さず、該信号は、ピリジンのプロトンに対しては6共鳴、大員環のエチレン部分のプロトンに対しては部分的に重複した12共鳴(6軸方向および6赤道方向)、そして「腕」のメチレンのプロトンに対しては6共鳴である。
【0137】
H−H NOESY実験に関連した2D−COSY実験によって、ピリジンのプロトンと懸濁中の「腕」のメチレンのプロトンの正確な付与が可能になった。NOEの強い効果(核オーバーハウザー効果)が、ピリジンに近いCHのプロトンH8a/8bとH8a’/8b’と、ピリジンのプロトンHとH9’の間に観察された。
【0138】
大員環のCH−CH基は、多重錯体、複錯体および三重錯体のグループを形成し、該錯体は部分的にしか割り当てることができない。
【0139】
「腕」のメチレンプロトン(ABカルテット)と大環状の核のプロトンのジアステレオトピックな性質は、隣接する第四級窒素の非対称的な性質から生じている。
【0140】
これらの特徴は、溶液中に対称性Cを備えた堅牢な構造が存在することにしたがっており、該対称性において、大員環と「腕」はNMRの時間スケールに結合されたままである。NMRスペクトルは4.2と9の間のpH範囲では変化しないままである。
【0141】
dota4−のランタニド錯体の場合、二つの異性体が室温の溶液中で観察され、318Kより高い温度については合体の振る舞いが観察されたのだが、該温度は二つの異性体の急速な相互交換に関連している。
【0142】
逆に、[Lu(bpatcn)]錯体では室温で単一の異性体が観察され、278Kと343Kの間におけるDOで得られたH RMNスペクトルは、この温度範囲ではほとんど変化しないスペクトルを示した。
【0143】
二次元EXSY実験を298Kの水中と343Kの水中で行った。室温ではいかなる交換も検出されなかったのに対し、343Kでは、水中での二次元EXSYのスペクトルは交雑信号を示しており、該交雑信号は対称面を生み出す二つの種類の間における交換を意味している。
【0144】
343Kでは、pH=9.1のDO溶液におけるbpatcn3−のEu(III)錯体に対するH NMRスペクトルは、Luの場合のように、対称性Cを備えた種類がこの温度で存在することにしたがい、同じ強度を備えた24の狭帯域信号からなる単一のグループを示した。
【0145】
信号は、1H−1H NOESY実験と関連する2D−COSY実験によって完全に割り当てられた。
【0146】
343Kで実施した二次元EXSY実験は、対称面によって接続された二つのプロトンのグループ間で12の交雑信号を示した。このことは、この温度では遅い交換状態にある鏡像異性体のペア(Δ(λλλ)/Λ(δδδ)またはΔ(δδδ)/Λ(λλλ))が溶液中に存在することに起因すると考えられる。
【0147】
これらの結果は、金属イオンが三つの「腕」に囲まれていることと、tpatcnの9座配位子の対称配位子によるランタニド錯体について先に観察されたように、ユウロピウムとルテチウムの場合に高い温度であっても、大員環が5窒素と3酸素によって結合されたままであることを示している。また、NMRテストに基づくと、tpatcn3−およびbpatcn3−のランタニド錯体について中心金属を中心とするドナー原子の類似した配置を期待することができる。
【0148】
三つのイミノカルボンキシル基をもつ「腕」を備えた1,4,7−トリアザシクロノナンの9配位子誘導体の場合に、同様の構造が観察された。
【0149】
同じ研究グループ(L.Tei,A.J.Blake,M.W.George,J.A.Weinstein,C.Wilson,M.Schroder,Dalton Trans.2003,1693−1700)は最近、同様の誘導体である、二つのイミノカルボキシル基をもつ「腕」を備えた、ビス−アニオンの1,4,7−トリアザシクロノナンの7座配位子による[Ln(L)(CHCOO)]ランタニド錯体の固体状態および溶液における構造を公開した。これらの錯体について、溶液中ではより柔軟な構造が観察されたのに対し、固体状態にある配位構造は両方の配位子で類似している。これは1,4,7−トリアザシクロノナン基が存在することの結果であり、該基が金属イオンLnに三角プリズム構造をとるように要求している。
【0150】
[Eu(bpatcn)(HO)]錯体のプロトンのNMRスペクトルは、温度が下がったときには強い拡張を受け、動的過程が減速することを示す。283Kより下では、信号はより狭くなり、278Kでは、スペクトルは343Kで得られるスペクトルに似て、少し広く、わずかにシフトした同じ24の信号を示す。NMRスペクトルを343Kと278Kの間で10K刻みに記録することで、より低い温度のスペクトルにおける信号変化の追跡と信号の割り当てが可能となった。
【0151】
bpatcn3−の9座配位によるガドリニウム錯体は画像フィールドで一定の緩和能を示したのだが、該緩和能は、現状で市販されている[Gd(dota)(HO)]および[Gd(dtpa)(HO)]2−の造影剤に存在する緩和能と、[Gd(bpdea)(HO)]の9座配位錯体で観察される緩和能に似ている。
【0152】
水の配位分子があるにも関わらず、bpatcn3−の分子構造はEuIIIおよびTbIIIの発光性の原因となっており、持続時間が長く、非常に高い量子効率を備えた発光性のあるテルビウム錯体を産生する。
【0153】
その強い発光性は、水中での可溶性と安定性と関連しており、このことによって[Tb(bpatcn)(HO)]錯体は、生物医学における発光センサとして利用するためのすばらしい候補になっている。PER計算によって、画像フィールドにおけるこの錯体の電子緩和を評価することができた。Gd(bpatcn)錯体の電子緩和は市販の造影剤で見られる緩和よりも遅い。この特徴は、錯体が高分子システムに含まれたときにはより大きな緩和能へとつながることになる。
【0154】
上述したシステムは既存のものでは珍しい二機能センサの一つを構成し、また、最も強力な発光性を有するセンサを構成する。
【0155】
当然、当業者の手の届く範囲で、本発明の範囲を超えない限り、その他の実施態様を考案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】配位子の合成を概略的に表す図である。
【図2】Hbpatcnおよびbpatcn Mに対して標準化された滴定曲線を表す図である。
【図3a】274nmで配位子を励起した後の、[Eu(bpatcn)]の放射スペクトルを表す図である。
【図3b】274nmで配位子を励起した後の、[Tb(bpatcn)]の放射スペクトルを表す図である。
【図4】トリス緩衝液におけるHbpatcnの吸収スペクトル(......)と[Tb(bpatcn)]の励起スペクトルを表す図である。
【図5】[Ln(bpatcn)]のさまざまな立体異性体の相互変換による配座平衡を概略的に表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)にしたがった、金属、特にランタニドに対する配位子であり、
【化1】

該一般式において、
Aが有機酸基、アルキル・エステルまたはアリール・エステルに対応し、
およびRが、個別に、互いに独立して、H、アルキル基またはアリール基に対応し、
およびZが同一または異なっており、一般式(Z)または(Z)によるものであり、
【化2】

該一般式において、
Gが、H、アルキル基またはアリール基によって独立的に置換されたO、N、P、SまたはCを表し、
〜Rが、個別に互いに独立して、H、アルキル基またはアリール基に対応する配位子。
【請求項2】
RおよびR’がアルキル基またはアリール基を表すとき、AがCOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、PO(OR)(OR’)、SOHまたはSOORに対応することを特徴とする、請求項1に記載の配位子。
【請求項3】
とR、RとRがそれぞれ二つずつ、架橋アルキル基または架橋アリール基であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の配位子。
【請求項4】
およびZが、
【化3】

という構造から選択され、該構造において、RおよびR10が、個別に独立してH、アルキル基またはアリール基に対応し、Gが、H、アルキル基またはアリール基によって独立的に置換されたO、N、P、SまたはCを表すことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の配位子。
【請求項5】
Gが酸素を表すことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載の配位子。
【請求項6】
および/またはZが、配位子に蛍光特性をもたらすことのできる少なくとも一つの基を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載の配位子。
【請求項7】
基が芳香族基であることを特徴とする、請求項6に記載の配位子。
【請求項8】
[Ln(L)(HO)
という一般式にしたがった配位錯体であり、該一般式において、Lnがランタニドであり、Lが、請求項1〜請求項7のいずれか一つに記載の配位子に対応し、nが0と6の間の整数である、配位錯体。
【請求項9】
ランタニドが、ガドリニウム、テルビウム、ユウロピウム、ネオジム、エルビウムおよびイッテルビウムの中から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の錯体。
【請求項10】
利用能のある分子にグラフトされることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれか一つに記載の配位子および/または錯体。
【請求項11】
利用能のある分子が生体分子であることを特徴とする、請求項9に記載の配位子および/または錯体。
【請求項12】
上記で定義した配位子および/または錯体および/または利用能のある分子の調製方法であり、
−LGが反応活性基を表すとき、トリアザシクロノナン環の二つの窒素を、Z−LGおよび/またはZ−LGのもとで、Zおよび/またはZによって、とりわけ求核置換によって官能化する過程と、
−Aがアルキル・エステルまたはアリール・エステルを表し、Rが個別に独立してH、アルキル基またはアリール基に対応するとき、先行過程の際に得られたトリアザシクロノナンを、LG−C(RAのもとで、C(RAによって官能化する過程、
を含んでいることを特徴とする調製方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか一つに記載の配位子および/または錯体および/または利用能のある分子を少なくとも一つ含んでいることを特徴とする造影剤。
【請求項14】
請求項1〜請求項10のいずれか一つに記載の、利用能のある分子にグラフトされたまたはされていない、少なくとも一つの配位子および/または錯体および/または造影剤を含むことを特徴とする薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−523773(P2009−523773A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550805(P2008−550805)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000109
【国際公開番号】WO2007/083036
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(506330704)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】