説明

新規イソプレニルアルカロイド、その製造法および用途

【課題】 抗腫瘍活性を有する海産海綿動物由来の新規化合物を提供する。
【解決手段】 ヤスピス属に属する海綿動物抽出液から単離した下記式(I)で表される化合物又はその製薬学的に許容される塩。
【化1】


(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであるか、R1とR2、R3とR4、R5とR6がそれぞれ結合して形成された二重結合のものであるか、又は、R1、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであり、R2とR3、R5とR6はそれぞれ結合して形成された二重結合のもののいずれかを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイソプレニルアルカロイド、その製造方法および用途に関する。本発明のイソプレニルアルカロイド化合物は癌細胞の増殖阻害作用を有し、医薬特に抗腫瘍活剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
これまでの精力的研究により、多くの抗腫瘍活性を有する化合物が実用化されている。一方、現在臨床で使用されている抗癌剤は癌の一時的な退縮、消失が見られるものの正常な細胞に対しても非選択的な毒性を併せ持つことから重篤な副作用を引き起こし、使用が制限されている。また、抗癌剤が無効な自然耐性癌の他にも、再発症を中心として見られる抗癌剤に対する耐性の獲得も臨床上の問題となっている。このような状況下、新たな抗腫瘍剤の創製が今なお切望されている。
海綿からの抽出物については多数の報告があり、抗腫瘍活性を有する化合物が得られたという報告も多数ある(特許文献1〜15参照)。しかし、いずれも本願発明の化合物とは骨格が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−004998号
【特許文献2】特開平05−009193号
【特許文献3】特開平05−059037号
【特許文献4】特開平05−059081号
【特許文献5】特開平05−213988号
【特許文献6】特開平06−001722号
【特許文献7】特開平06−305970号
【特許文献8】特開平08−198798号
【特許文献9】特開平08−269085号
【特許文献10】特開昭63−198678号
【特許文献11】特開平01−052781号
【特許文献12】特開2001−302663号
【特許文献13】特開2001−527076号
【特許文献14】特開2003−238588号
【特許文献15】特開2004−231552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然物由来の新規物質を見出し、抗腫瘍活性を有する新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは海産海綿動物の抽出液より、下記式(1)の構造を有する新規化合物を単離し、その活性を探索したところ、抗腫瘍活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は下記式(1)で表される新規化合物またはその製薬的に許容される塩に関する。以下、下記式(1)で表される化合物を化合物1と略称する。
【0007】
【化1】

【0008】
本発明は、以下の発明を要旨とする。
(1)一般式(I)で示される化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【0009】
【化2】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであるか、R1とR2、R3とR4、R5とR6がそれぞれ結合して形成された二重結合のものであるか、又は、R1、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであり、R2とR3、R5とR6はそれぞれ結合して形成された二重結合のもののいずれかを表す。)
(2)一般式(II)で示される(1)の化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【0010】
【化3】

(式中、R1とR2、R3とR4はそれぞれ結合して形成された二重結合のものであるか、又は、R2とR3が結合して形成された二重結合であり、R1、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであるもののいずれかを示す。)
(3)(1)又は(2)記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とする医薬組成物。
(4)(1)又は(2)記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
(5)ヤスピス属(Jaspis sp.)に属し、(1)又は(2)の化合物を生産する能力を有する海綿動物を有機溶媒で抽出し、その抽出物から(1)又は(2)の化合物を単離することを特徴とする、(1)又は(2)の化合物の製造法。
(6)(1)又は(2)の化合物より誘導されることを特徴とする一般式(III)で表される化合物又はその製薬学的に許容される塩。
【0011】
【化4】

(式中、
R9及びR10、R11及びR12 、R13及びR14はそれぞれ(以下ハロゲンをXと略称する)(X,X)、(H,X)、(X,H)、(OH,H)、(H,OH)、(X,OH)、(OH,X)、(H,NH2)、(NH2,H) のいずれかの組み合わせ、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
Rは、-NH、-N(低級アルキル)-Oから選ばれる任意のものであり、
R8は、-CH2NH2、-CH2NH(低級アルキル)、-CH2N (低級アルキル)2、-CH2OH、-CH2O(低級アルキル)から選ばれる任意のものである。)
【発明の効果】
【0012】
本発明化合物は抗腫瘍活性を有するので、抗腫瘍剤として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の化合物1は海綿動物、好ましくはヤスピス属に属する当該物質を産生する海綿動物を有機溶媒で抽出し、その抽出物より定法によって得ることができる。
【0014】
海綿動物から本発明化合物を単離するには、海綿動物代謝産物の抽出、精製の手段が利用できる。例えば、有機溶媒による抽出、分配、シリカゲルやODSを用いたカラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて、あるいは反復して使用することで精製できる。
【0015】
上記海綿動物から単離した本発明化合物を原料としてさらに、官能基に対して化学修飾することにより本発明化合物を中間体とする誘導体を合成することができる。本発明化合物には二重結合、アミノ基などの反応しやすい官能基が存在するのでそれらの化学修飾を容易に行うことができる。
誘導体化の手法としては、自体公知の方法、例えば、実験化学講座第4版25(日本化学会編)31-34頁の有機リチウム化合物を用いる合成反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第5版13(日本化学会編)355−356頁、420−422頁のジハロゲン化反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第5版13(日本化学会編)428−430頁のハロゲン化水素の付加反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第4版20(日本化学会編)75−76頁のBrownヒドロホウ素化反応あるいはそれに準ずる反応、Comprehensive
Organic Synthesis,(1991年),4巻,300-305頁のヒドロキシ水銀化−脱水銀化反応あるいはそれに準ずる反応、Journal of Organic Chemistry,(2005年),70巻,6721−6734頁のハロゲン化ヒドリンを経由するヒドロキシル化反応あるいはそれに準ずる反応、Journal of American Chemical Society,(1964年),86巻,3565−3566頁のBrownヒドロホウ素化アミノ化反応、実験化学講座第4版20(日本化学会編)213−214頁のエポキシドの合成反応あるいはそれに準ずる反応などが挙げられる。
【0016】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
愛媛県佐田岬沖で採集したヤスピス属の海綿動物1.8 kgをメタノールおよびエタノールで順次抽出し、抽出物を濃縮後、水(H2O) と酢酸エチルで二層分配した。得られた酢酸エチル層を減圧濃縮後、75%メタノール水溶液と酢酸エチルで二層分配した。75%メタノール水溶液画分を、逆相HPLC[C18 JAI, MeOH/H2O]を用いて、保持時間8.60〜9.32分のピークを分取した。得られたフラクションを分取薄層クロマトグラフィー(移動相:MeOH/CHCl3 1/4)によって精製した結果、ディユオアステラミン (duoasteramine 15.1 mg)を得た。上記の実施例で得られたディユオアステラミンの化学構造式と物理化学的性状を以下に示す。
【実施例2】
【0018】
単離した化合物1の物理的性状は下記の通りであった。またNMRスペクトルの結果を表1(1H NMRスペクトル(400 MHz, CD3OD)、13C NMRスペクトル(100 MHz, CD3OD))に示す。これらの情報から化合物1の構造を以下のとおり決定した。
【0019】
化合物1
(1) 色及び性状:黄色オイル状
(2) 分子式:C23H36N2O2
(3) 高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 373.2897(C23H36N2O2 + H)
理論値 m/z 373.2857
(4) 赤外吸収スペクトルλmax(KBr)cm-1:3346, 2964, 2928, 2871, 1652, 1598, 1537, 1449, 1386, 1310, 1247,1135, 973
(5) Rf値(Merck silica gel 60F254) :0.20(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=4/1)
(6) 構造式
【0020】
【化5】

【0021】
【表1】

【実施例3】
【0022】
HeLa細胞(ヒト子宮癌細胞)を用いて化合物1の細胞増殖阻害作用を評価した。HeLa細胞を、10% 牛胎児血清・MEM+GlutaMax-1 (Invitrogen) with NEAA(Non-essential amino acid, Invitrogen)培地にて、1000 cells/well/50uLの濃度で96穴培養プレートに巻き込み、37℃で24時間培養後、各種濃度に調製した試験化合物を50uL/wellでプレートに加え、37℃で72時間培養した。培養終了後、WST-8(Cell counting kit-8, 同仁化学研究所)を10uL/wellでプレートに加えて、吸光度(450nm)を測定し、試料濃度と阻害率からIC50値(50%阻害のための濃度)を求めた。その結果、化合物1は234 mMにおいて50%の細胞増殖阻害作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の化合物は抗腫瘍活性を有する。新規抗腫瘍剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであるか、R1とR2、R3とR4、R5とR6がそれぞれ結合して形成された二重結合のものであるか、又は、R1、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであり、R2とR3、R5とR6はそれぞれ結合して形成された二重結合のもののいずれかを表す。)
【請求項2】
一般式(II)で示される請求項1の化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【化2】

(式中、R1とR2、R3とR4はそれぞれ結合して形成された二重結合のものであるか、又は、R2とR3が結合して形成された二重結合であり、R1、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のものであるもののいずれかを示す。)
【請求項3】
請求項1又は2記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項5】
海産の海綿動物、好ましくは、ヤスピス属に属し、請求項1又は2の化合物を生産する能力を有する海綿動物を抽出し、その抽出物から請求項1又は2の化合物を単離することを特徴とする、請求項1又は2の化合物の製造法。
【請求項6】
請求項1又は2の化合物より誘導されることを特徴とする一般式(III)で表される化合物又はその製薬学的に許容される塩。
【化3】

(式中、
R9及びR10、R11及びR12 、R13及びR14はそれぞれ(以下ハロゲンをXと略称する)(X,X)、(H,X)、(X,H)、(OH,H)、(H,OH)、(X,OH)、(OH,X)、(H,NH2)、(NH2,H) のいずれかの組み合わせ、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
Rは、-NH、-N(低級アルキル)-Oから選ばれる任意のものであり、
R8は、-CH2NH2、-CH2NH(低級アルキル)、-CH2N (低級アルキル)2、-CH2OH、-CH2O(低級アルキル)から選ばれる任意のものである。)

【公開番号】特開2010−270058(P2010−270058A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122833(P2009−122833)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】