説明

新規インダゾール誘導体またはその塩およびその製造中間体、ならびに、それを用いた網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤

【課題】実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療剤を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死に対して抑制効果を有する。よって、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規インダゾール誘導体またはその塩、ならびにその製造中間体に関する。また本発明は、このインダゾール誘導体またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に血管新生を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
後眼部組織における網脈絡膜変性疾患には難治性のものが多く、失明の原因となる重篤な症状を示すものが少なくない。その代表的なものとして加齢黄斑変性、網膜色素変性症などが挙げられ、特に、加齢黄斑変性は、日本、米国、欧州などの先進国での、壮年から老年期における失明の主要原因となっている。
【0003】
加齢黄斑変性は黄斑部の加齢に起因する疾患であり、高齢化社会となった現在、その患者数は増加の一途をたどっている。加齢黄斑変性は、脈絡膜からの新生血管を伴う滲出型(wet type)と脈絡膜から発生する新生血管を伴わない萎縮型(dry type)に大別され、前者の滲出型には、レーザー光凝固術、新生血管抜去術、中心窩移動術などによる治療が行なわれているが、それらの治療には限界がある。また、最近、血管新生阻害剤であるベバシズマブ[bevacizumab、商品名:Avastin]、ラニビズマブ[ranibizumab、商品名:Lucentis]などによる治療もなされている。しかし、後者の萎縮型には、現在のところ有効な治療方法はなく、新たな薬剤の開発が望まれている。
【0004】
一方、欧州特許出願公開第1679308号明細書(特許文献1)には、下記式(1)で示される化合物を包含する一般式で表わされる化合物群が記載されている。また、特許文献1には、それらの化合物群がRhoキナーゼ阻害作用を有し、緑内障などの治療剤として有用であることが開示されている。また欧州特許出願公開第1870099号明細書(特許文献2)には、下記式(1)で示される化合物を包含する一般式で表わされる化合物群を有効成分とする網膜神経細胞保護剤が記載されている。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、これら特許文献1、2には、上記式(1)で示される化合物自体の開示はなく、また、上記式(1)で示される化合物による、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害などの実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患に対する予防または治療効果も具体的に記載、示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1679308号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1870099号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害に対し予防または治療効果を有する薬剤を見出すこと、また、それらの作用効果を有する新規化合物またはその塩、ならびにそれらの新規化合物の製造中間体を創製することは非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害に対し予防または治療効果を有する薬剤を見出す為に鋭意研究を行なった結果、上記式(1)で表される新規インダゾール誘導体またはその塩の創製に成功し、それらの新規化合物が、マウス光障害モデルにおける光受容体細胞死に対して抑制効果を有すること、ならびに、スペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死に対して抑制効果を有することを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
本発明は、下記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤である。以下、下記式(1)で表される化合物またはその塩を「本発明化合物(1)」と呼称する。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明における前記網脈絡膜変性疾患は、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、中でも、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0013】
本発明はまた、本発明化合物(1)自体についても提供する。
本発明はさらに、下記式(2)で表される化合物またはその塩についても提供する。以下、上記本発明化合物(1)の製造中間体である下記式(2)で表わされる化合物またはその塩を「本発明化合物(2)」と呼称し、また、本発明化合物(1)、本発明化合物(2)を「本発明化合物」と総称する。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Bocは、tert−ブトキシカルボニル基を示し、THPは、テトラヒドロピラニル基を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明化合物(1)は、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害など(好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害、特に好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性およびその疾患に伴う網脈絡膜障害)の予防または治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明化合物(1)は、下記式(1)で示されるインダゾール誘導体である、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミンおよびその塩であり、本発明化合物(2)は、下記式(2)で示される本発明化合物(1)の製造中間体である1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステルおよびその塩である。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
本発明化合物における「塩」とは、医薬的に許容される塩であることが好ましく、たとえば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸(D体、L体、メソ体)、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、乳酸、馬尿酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩、リチウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩、アンモニアなどの四級アンモニウムとの塩などが挙げられる。好ましくは、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸(D体、L体、メソ体)、メタンスルホン酸との塩が、特に好ましくは、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸(L体)、メタンスルホン酸が挙げられる。また、本発明化合物(1)は、無機酸、有機酸、アルカリ金属、または、アルカリ土類金属などと、任意の割合の塩を形成することができ、その各々、または、それらの混合物は、本発明に包含される。
【0021】
なお、本発明化合物に水和物および/または溶媒和物が存在する場合は、それらの水和物および/または溶媒和物も本発明化合物の範囲に含まれる。
【0022】
本発明化合物に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明化合物の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が種々変化する場合の各段階における結晶形およびその過程全体を意味する。
【0023】
本発明化合物の好ましい具体例として、以下の化合物またはその塩を挙げることができる。
【0024】
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 塩酸塩(以下、「化合物A」ともいう)、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 臭化水素酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 硫酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン リン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン フマル酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン マレイン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン コハク酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン L−酒石酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン メタンスルホン酸塩、
・1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステル。
【0025】
本発明化合物のさらに好ましい具体例として、以下の化合物またはその塩を挙げることができる。
【0026】
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1塩酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 2塩酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 3塩酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1臭化水素酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 2臭化水素酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 3臭化水素酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1硫酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1リン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 0.5フマル酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1フマル酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1.5フマル酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 0.5マレイン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1マレイン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1.5マレイン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 0.5コハク酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1コハク酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1.5コハク酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 0.5L−酒石酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1L−酒石酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1.5L−酒石酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 1メタンスルホン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 2メタンスルホン酸塩、
・1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 3メタンスルホン酸塩、
・1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステル。
【0027】
なお、本発明化合物の具体的な製造方法については、後述の実施例[製造例]の項で詳細に説明するが、代表的な製造方法としては、国際公開第2007/142323号に記載の方法により、本発明化合物(2)を製造した後に、該化合物を汎用される方法で脱保護および/または、それと同時および/または引き続き塩とすることで、本発明化合物(1)を製造することができる。
【0028】
本発明の予防または治療剤は、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤であって、上記式(1)で表される化合物(1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン)またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有することを特徴とする。その詳細については後述の[薬理試験]の項で説明するが、上記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は、マウス光障害モデルにおいて、その光受容体細胞死を抑制した。また、スペルミジン誘発の網膜色素上皮細胞死についても抑制効果を示した。このように、上記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤として有用である。
【0029】
本発明における「実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患」とは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害などからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくは、初期加齢黄斑変性、萎縮型加齢黄斑変性およびその疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0030】
また、本発明の予防または治療剤は、必要に応じて、医薬的に許容される他の活性成分および/または添加剤を加えて、単独製剤および/または配合製剤として、汎用される技術を用いて製剤化することができる。
【0031】
本発明の予防または治療剤は、患者に対して経口的または非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与など)、静脈内投与、経皮投与などが挙げられ、必要に応じて、医薬的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、たとえば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などが挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、たとえば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル剤、挿入剤などが挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本発明の予防または治療剤は、これらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアーなどのDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0032】
たとえば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖などの賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどの崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油などの滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ピロリドンなどのコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントールなどの矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0033】
注射剤は、塩化ナトリウムなどの等張化剤;リン酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤;メチルセルロースなどの増粘剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0034】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0035】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸などの生体分解性ポリマーを有効成分とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。
【0036】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、たとえばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0037】
本発明の予防または治療剤の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを1回または数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回または数回に分けて投与することができる。また、点眼剤または挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回または数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【0038】
以下に、製造例、薬理試験例および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
[製造例]
<実施例1:1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステルの合成>
4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−5−(4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラニル)−1H−インダゾール(130g、353mmol、国際公開第2007/142323号参照)のトルエン(720g)溶液に、アルゴン気流下、エタノール(140ml)、水(140ml)、リン酸カリウム2水和物(230g、933mmol)および2−ブロモ−5−(1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−エチルプロピル)ピリジン(100g、291mmol、国際公開第2005/035506号参照)を加えた。反応溶液中にアルゴンガスを10分間通気した。次いで、アルゴン気流下、20重量%トリシクロヘキシルホスフィン/トルエン溶液(10ml、6.22mmol)および酢酸パラジウム(700mg、3.11mmol)を加え、75℃で6時間加熱撹拌した。
【0040】
反応終了後、反応溶液に水(200ml)を加え分液した。有機層を飽和食塩水(300ml)で洗浄し、セライト(商品名)(20g)に通した後、減圧濃縮した。得られた残渣にヘプタン(1000ml)を加え、生成した固体を濾取し、ヘプタンで洗浄した。得られた固体を48℃で減圧乾燥することにより、下記式で表わされる1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステル(実施例化合物1)(104g)を白色粉末として得た。(収率66%)
【0041】
【化6】

【0042】
マススペクトル(CI,m/z):505([M+H])。
1H−NMRスペクトル(CDCl3):δ 0.50−0.55(m,2H),0.75−0.87(m,8H),1.40(brs,9H),1.63−2.37(m,10H),2.53−2.66(m,1H),3.71−3.79(m,1H),4.01−4.07(m,1H),4.81(brs,1H),5.72(dd,J=9.3,2,7,1H),7.47−7.59(m,3H),7.68(dd,J=8.2,2.4Hz,1H),8.21(s,1H),8.69(dd,J=2.4,0.7Hz,1H)。
【0043】
<実施例2:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 塩酸塩の合成>
1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステル(実施例化合物1、100g、198mmol)に、エタノール(250ml)、水(11ml)および38重量%塩化水素/エタノール溶液(179ml)を加え、アルゴン気流下、30℃から43℃で5時間撹拌した。
【0044】
反応溶液を12℃まで冷却し、同温度で0.3時間撹拌した。析出した固体を濾取した後、エタノール(100ml)で洗浄した。得られた固体(90g)にエタノール(270ml)を加え、75℃に加熱した。次いで、水(35ml)を加え、0.5時間加熱撹拌した。10℃に冷却し、生成した固体を濾取し、エタノール(200ml)で洗浄後、40℃で10時間乾燥し、白色固体(71g)を得た。
【0045】
得られた固体(70g)に、エタノール/水=2/1(v/v)の混合溶液(234ml)を加え、アルゴン気流下、70℃から75℃で0.5時間加熱撹拌した。10℃に冷却し、析出した固体を濾取後、エタノール90mlで洗浄した。50℃で2時間乾燥することにより、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 塩酸塩(実施例化合物2)(46g)を白色粉末として得た(収率62%)。
融点:>250℃(分解)。
マススペクトル(CI,m/z):321([M+H])。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.44−0.50(m,2H),0.97−1.04(m,8H),2.16−2.54(m,5H),7.58−7.69(m,2H),8.38−8.41(m,2H),8.73(dd,J=8.5,2.4Hz,1H),9.02(dd,J=2.4,0.5Hz,1H)。
【0046】
<実施例3:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 臭化水素酸塩の合成>
1−{6−[4−シクロプロピル−1−(テトラヒドロピラン−2−イル)−1H−インダゾール−5−イル]ピリジン−3−イル}−1−エチルプロピルカルバミン酸 tert−ブチルエステル(実施例化合物1、2.1g、4.2mmol)に、エタノール(20ml)および48重量%臭化水素溶液(10ml)を加え、40℃で4時間加熱撹拌した。溶媒を減圧留去し、50℃で残渣にエタノール(10ml)および水(2ml)を加えた。氷水冷却後、析出した固体を濾取し、エタノールで洗浄することにより白色固体(883mg)を得た。
【0047】
得られた白色固体(530mg)に、エタノール(5ml)および水(200μl)加え、70℃で0.5時間加熱撹拌した。室温まで冷却した後、析出した固体を濾取し、エタノールで洗浄後、60℃で1.25時間乾燥させることにより、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 臭化水素酸塩(実施例化合物3)(273mg)を白色粉末として得た(収率22%)。
融点:>221−223℃(分解)。
マススペクトル(CI,m/z):321([M+H])。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.45−0.50(m,2H),0.97−1.04(m,8H),2.17−2.53(m,5H),7.60(d,J=8.8Hz,1H),7.65−7.69(m,1H),8.39−8.42(m,2H),8.72(dd,J=8.8,2.4Hz,1H),9.02(dd,J=2.4,0.5Hz,1H)。
【0048】
<実施例4:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミンの合成>
1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン 塩酸塩(実施例化合物2、30.0g、76.3mmol)に、n―ブタノール(300ml)および4M水酸化ナトリウム水溶液(370ml)を加え、室温で1.5時間撹拌した。有機層を分離し、水(150ml)で洗浄後、有機層を濃縮し、固体(22.6g)を得た。
【0049】
得られた固体(22.6g)に、メタノール(160ml)を加え、60℃に昇温した。同温度で水(160ml)を加え、0.5時間撹拌後、10℃から15℃で1時間撹拌した。反応溶液を濾過した後、得られた固体を冷メタノール/水=1/1(v/v)混合溶液(46ml)で洗浄した。80℃で11時間減圧乾燥することにより、下記式で表わされる1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン(実施例化合物4)(21.5g)を白色粉末として得た(収率88%)。
【0050】
【化7】

【0051】
融点:208℃。
マススペクトル(CI,m/z):321([M+H])。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.41−0.47(m,2H),0.79−0.86(m,8H),1.75−2.04(m,4H),2.28−2.37(m,1H),7.42−7.49(m,2H),7.62(dd,J=8.3,0.7Hz,1H),7.93(dd,J=8.3,2.4Hz,1H),8.24(d,J=0.7Hz,1H),8.67(dd,J=2.4,0.7Hz,1H)。
【0052】
<実施例5:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン L−酒石酸塩の合成>
1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン(実施例化合物4、4.0g、12mmol)のエタノール(160ml)溶液に、L−酒石酸(2.8g、19mmol)のエタノール(85ml)溶液を室温で0.5時間かけて滴下し、同温度で0.67時間撹拌した。反応溶液を10℃に冷却し、析出した固体を濾取した。エタノール(40ml)で洗浄後、40℃で1時間減圧乾燥し、さらに60℃に昇温して11時間減圧乾燥させることにより、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン L−酒石酸塩(実施例化合物5)(5.4g)を白色固体として得た(収率92%)。
融点:215−216℃。
マススペクトル(CI,m/z):321([M+H])。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.41−0.46(m,2H),0.83−0.89(m,2H),0.95(t,J=7.4Hz,6H),2.10(dq,J=14.8,7.4Hz,2H),2.26(dq,J=14.8,7.4Hz,2H),2.34−2.42(m,1H),4.40(s,2H),7.46−7.52(m,2H),7.81(dd,J=8.3,0.5Hz,1H),7.97(dd,J=8.3,2.7Hz,1H),8.27(d,J=0.7Hz,1H),8.66−8.67(m,1H)。
【0053】
<実施例6:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン マレイン酸塩の合成>
マレイン酸(11mg、0.095mmol)のテトラヒドロフラン(110μl)溶液に、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン(実施例化合物4、10mg、0.031mmol)のテトラヒドロフラン(800μl)溶液を加え、室温で6日間静置した。析出した固体を濾取し、50℃で減圧乾燥することにより1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン マレイン酸塩(実施例化合物6)(11mg)を白色固体として得た(収率71%)。
融点:174−178℃。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.41−0.46(m,2H),0.83−0.90(m,2H),0.96(t,J=7.5Hz,6H),2.10(dq,J=14.8,7.5Hz,2H),2.21−2.42(m,3H),6.27(s,3H),7.46−7.53(m,2H),7.82(dd,J=8.5,0.6Hz,1H),7.94(dd,J=8.5,2.7Hz,1H),8.27(s,1H),8.65−8.66(m,1H)。
【0054】
<実施例7:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン フマル酸塩の合成>
フマル酸(11mg、0.095mmol)のテトラヒドロフラン(275μl)溶液に、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン(実施例化合物4、10mg、0.031mmol)のテトラヒドロフラン(667μl)溶液を加え、室温で3日間静置した。析出した固体を濾取し、50℃で減圧乾燥することにより1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン フマル酸塩(実施例化合物7)(8.8mg)を白色固体として得た(収率75%)。
融点:257℃。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.41−0.46(m,2H),0.82−0.94(m,8H),1.94−2.07(m,2H),2.18(dq,J=14.8,7.3Hz,2H),2.31−2.41(m,1H),6.68(s,1H),7.45−7.51(m,2H),7.76(dd,J=8.3,0.7Hz,1H),7.95(dd,J=8.3,2.4Hz,1H),8.26(d,J=0.7Hz,1H),8.66(dd,J=2.4,0.7Hz,1H)。
【0055】
<実施例8:1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン コハク酸塩の合成>
コハク酸(11mg、0.093mmol)のテトラヒドロフラン(275μl)溶液に、1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン(実施例化合物4、10mg、0.031mmol)のテトラヒドロフラン(667μl)溶液を加え、室温で6日間静置した。析出した固体を濾取し、50℃で減圧乾燥することにより1−[6−(4−シクロプロピル−1H−インダゾール−5−イル)ピリジン−3−イル]−1−エチルプロピルアミン コハク酸塩(実施例化合物8)(6.9mg)を白色固体として得た(収率58%)。
融点:218℃。
1H−NMRスペクトル(CD3OD):δ 0.41−0.46(m,2H),0.82−0.90(m,8H),1.94(dq,J=14.6,7.3Hz,2H),2.11(dq,J=14.6,7.3Hz,2H),2.30−2.40(m,1H),2.51(s,2H),7.44−7.51(m,2H),7.72(d,J=8.3Hz,1H),7.94(dd,J=8.3,2.4Hz,1H),8.25(d,J=0.7Hz,1H),8.66(d,J=2.4Hz,1H)。
【0056】
[薬理試験例]
1.マウス光障害モデルを用いた試験
マウス光障害モデルを用いて、化合物A(実施例化合物2)の薬理効果を評価した。なお、マウス光障害モデルは光照射により、網膜光受容細胞の細胞死を誘発させたモデル動物であり、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症などのモデル動物として汎用されている(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2005; 46: 979−987)。
【0057】
(マウス光障害モデルの作製方法および評価方法)
化合物A投与群および基剤投与群として、8週齢のBALB/c雄性マウスを、暗室にて暗順応を20時間施した後、白色蛍光灯で5000lux、2時間光照射を実施して、光障害を誘発した。その後、暗室にて暗順応を20時間施し、網膜電図(electroretinogram、以下、「ERG」ともいう)を測定した。得られた波形からa波およびb波の振幅(μV)を算出した。また、暗室にて暗順応を20時間施した後、光照射を行なわずにERGを測定した群を正常対照群とした。下記式1に従い、a波およびb波のそれぞれについて、振幅減弱抑制率(%)を算出した。なお、各群の例数は、3−4匹(6−8眼)である。
【0058】
[式1]
振幅減弱抑制率(%)=((Vx−V0)/(Vn−V0))×100
0:基剤投与群の振幅(μV)
n:正常対照群の振幅(μV)
x:化合物A投与群の振幅(μV)
(投与方法)
1)光照射前の単回投与時
・化合物A投与群:1%(w/v)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物A溶液を10mg/kgの用量で、光照射1時間前に1回、経口投与した。
【0059】
・正常対照群および基剤投与群:1%(w/v)メチルセルロース水溶液を、光照射1時間前に1回、経口投与した。
【0060】
(結果)
化合物Aを使用した場合の試験結果を以下の表1に示す。表1から明らかなように化合物Aは光照射によるERGのa波およびb波の減弱に対して、顕著な抑制作用を示した。
【0061】
【表1】

【0062】
(考察)
以上の結果から、化合物Aに代表される上記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は、光受容体細胞死を抑制することが分かった。よって、上記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療効果を有する。
【0063】
2.スペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死に対する効果
スペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死に対する化合物A(実施例化合物2)の効果および比較対照薬として、化合物Aと同様の作用機序(Rhoキナーゼ阻害作用)を有するY−39983を選択し、その効果についても評価した。スペルミジンはポリアミンの一種であり、網膜色素上皮細胞の細胞増殖を抑制する事が報告されている(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2007; 48: 455−.463)。網膜色素上皮細胞死は萎縮型加齢黄斑変性、脳回転状萎縮などの主要な病態なので(Eye., 1988; 2: 552−577、Am. J. Ophthalmol., 1991; 111: 24−33)、本モデルは萎縮型加齢黄斑変性、脳回転状萎縮などのモデルと考えられている。
【0064】
(スペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死の作製方法および化合物の評価方法)
ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE−19)を10%牛胎児血清(以下、「FBS」ともいう)含有ダルベッコ変法イーグル培地(以下、「DMEM」ともいう)/Ham’s F−12培地にて培養し、96 well プレートに1wellあたり10000cells/100μL/wellとなる様に播種した。薬物(化合物AまたはY−39983)処置群について、37℃、5%CO2/95% Airの条件下で一晩培養後、1%ダルベッコリン酸緩衝液(以下、「DPBS」ともいう)と、化合物A(1μM)またはY−39983(1μM)とを含む100μLのスペルミジン(250μM)含有培地に交換した。また、化合物A、Y−39983を含まない以外は同様の100μLのスペルミジン(250μM)含有培地に交換した群を溶媒処置群とした。なお、播種後、37℃、5%CO2/95% Airの条件下で一晩培養後、1%DPBSを含む100μLの10%FBS含有DMEM/Ham’s F−12培地に交換した群を正常対照群とした。培地交換の24時間培養後に、MTS法(Cancer Commun., 1991; 3(7): 207−212、J. Immunol. Methods., 1983; 65, 55−63)により生細胞数を評価した。すなわち、培地に20μLのMTS試薬を加えて、2時間後に490nmにおける吸光度(Abs490)(リファレンス波長は655nm)を測定して、生細胞数の指標とした。下記式2に従い、細胞死抑制率(%)を算出した。なお、各群の例数は4である。
【0065】
[式2]
細胞死抑制率(%)=((Absx−Abs0)/(Absn−Abs0))×100
Abs0:溶媒処置群の吸光度(Abs490)
Absn:正常対照群の吸光度(Abs490)
Absx:薬物処置群の吸光度(Abs490)
(結果)
化合物Aおよび比較対照薬であるY−39983を使用した場合の試験結果を以下の表2に示す。表2から明らかなように、化合物Aはスペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死に対して、顕著な抑制作用を示した。一方、Y−39983はスペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死を抑制しなかった。
【0066】
【表2】

【0067】
(考察)
以上の結果から、化合物Aに代表される上記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は、スペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死を抑制する。よって、上記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩は、萎縮型加齢黄斑変性、脳回転状萎縮などの実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療効果を有する。
【0068】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0069】
(処方例1:錠剤)
100mg中
化合物A 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
化合物A、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウムおよびヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物Aの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mgまたは50mgの錠剤を調製できる。
【0070】
(処方例2:眼軟膏)
100g中
化合物A 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンに、化合物Aを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/w)、0.1%(w/w)、0.5%(w/w)または1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
【0071】
(処方例3:注射剤)
10ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
化合物Aおよび塩化ナトリウムを滅菌精製水に加えて注射剤を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mgまたは50mgの注射剤を調製できる。
【0072】
(処方例4:点眼剤)
100ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物Aおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)または1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明化合物(1)は網膜光受容体細胞死およびスペルミジン誘発網膜色素上皮細胞死を抑制した。よって、本発明化合物(1)は実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害など(好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害、特に好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性およびその疾患に伴う網脈絡膜障害)の予防または治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤。
【化1】

【請求項2】
前記網脈絡膜変性疾患が、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の予防または治療剤。
【請求項3】
前記網脈絡膜変性疾患が、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の予防または治療剤。
【請求項4】
下記式(1)で表される化合物またはその塩。
【化2】

【請求項5】
下記式(2)で表される化合物またはその塩。
【化3】

(式中、Bocは、tert−ブトキシカルボニル基を示し、THPは、テトラヒドロピラニル基を示す。)

【公開番号】特開2012−6919(P2012−6919A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118031(P2011−118031)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】