説明

新規カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ及びその検出方法

【課題】カスガマイシン耐性に関与する新規な遺伝子を単離し、カスガマイシン耐性菌を迅速に、かつ高精度に検出しうる手段を提供する。
【解決手段】下記(a)〜(d)のいずれかのDNAからなる遺伝子:(a)特定な配列の塩基配列からなるDNA、(b)(a)の塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、(c)(a)の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、(d)(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ及びその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カスガマイシンは、放線菌の一種であるストレプトマイセス・カスガエンシス(Streptomyces kasugaensis)が産生するアミノ配糖体抗生物質である。カスガマイシンは、α−イノシトール、アミノ糖であるカスガミン及びアミジンカルボン酸から構成され、数あるアミノ配糖体抗生物質の中でも特異な化学構造を有している。
【0003】
一般に、アミノ配糖体抗生物質は、その化学構造が特定の修飾酵素により修飾されることで不活化されうる。当該修飾酵素として、アミノ基をアセチル化するアセチル基転移酵素(アセチルトランスフェラーゼ)、水酸基をアデニリル化するアデニリル基転移酵酵素(アデニリルトランスフェラーゼ)、水酸基をリン酸化するリン酸基転移酵素(ホスホトランスフェラーゼ)等が知られているが、これらの修飾酵素は基質特異性が比較的低く、類似構造のアミノ配糖体抗生物質全般に作用しうる。したがって、上記修飾酵素を有する微生物は、複数種類のアミノ配糖体抗生物質に対して交差耐性を示しうる(例えば、非特許文献1)。
しかし、特異な化学構造を有するカスガマイシンについては、医療現場で出現した薬剤耐性菌が産生するアミノ配糖体抗生物質の修飾酵素によって不活化された事例は知られていない(非特許文献2)。
【0004】
カスガマイシン産生菌であるストレプトマイセス・カスガエンシスは、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼを産生してカスガマイシンの2’−位のアミノ基をアセチル化し、これにより自己が産生するカスガマイシンに対する耐性を獲得している(図1、特許文献1、非特許文献3)。
ストレプトマイセス・カスガエンシス由来のカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子として、Kac273及びKac338が報告されている。Kac273及びKac338は、カスガマイシン生合成遺伝子クラスターに座乗しており、カスガマイシン産生時に同時に産生される仕組みになっている。
特許文献1には、Kac273を含む組換えプラスミドで大腸菌を形質転換すると、形質転換株はカスガマイシン耐性を獲得する一方、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の他のアミノ配糖体抗生物質に対しては依然として感受性を有することが記載されており、Kac273がコードするアセチルトランスフェラーゼのカスガマイシンに対する基質特異性の高さが示されている。
【0005】
カスガマイシンは、糸状菌が引き起こすイネいもち病に対して卓効を示すことから、水稲の病害を防ぐ目的で使用されている。また、カスガマイシンは、糸状菌に限らず、植物病原細菌に対しても抗菌活性を示すことが知られており、例えば、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病、イネ苗立枯細菌病、ウメかいよう病、キウイフルーツかいよう病、キウイフルーツ花腐病、リンゴ火傷病等の細菌性病害に対しても広く使用されている。
一方、カスガマイシンに対する耐性菌の存在も報告されている。カスガマイシン耐性糸状菌の存在は、イネいもち病菌であるマグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)やテンサイ褐斑病菌であるセルコスポラ・ベチコラ(Cercospora beticola)において確認されており(非特許文献4、5)、また、カスガマイシン耐性植物病原細菌の存在は、イネ褐条病菌であるアシドボラクス・アベナエ亜種アベナエ(Acidovorax avenae subsp. avenae)やイネもみ枯細菌病菌であるバークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)において確認されている(非特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−23187号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Clinical Microbiology Reviews、Vol.16、No.3、pp.430-450、2003年
【非特許文献2】The Japanese Journal of Antibiotics、Vol.52、No.1、pp.57-67、1999年
【非特許文献3】The Journal of Antibiotics、vol.51、3、pp.341-352、1998年
【非特許文献4】日本植物病理学会報、第39巻、第3号、pp.239-240、1973年発行、
【非特許文献5】日本植物病理学会報、第51巻、第1号、pp.112、1985年発行
【非特許文献6】日本植物病理学会報、第57巻、第1号、pp.117-118、1991年発行
【非特許文献7】日本植物病理学会報、第73巻、第3号、pp.278、2007年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
植物病原細菌により引き起こされる上記のイネ褐条病やイネもみ枯細菌病は、水稲の種子伝染性病害である。種子流通によるカスガマイシン耐性菌の拡散を防止するためには、カスガマイシン耐性菌に感染した種籾をいち早く特定し、代替手段により防除や感染種籾の除去を施すことが重要である。
しかし、これまでイネ褐条病菌やイネもみ枯細菌病菌等におけるカスガマイシン耐性獲得機構についての知見はなく、生化学的な手法によりカスガマイシン耐性菌を高精度かつ迅速に検出・同定する手段は知られていない。
【0009】
本発明は、カスガマイシン耐性に関与する新規な遺伝子を単離し、カスガマイシン耐性菌を迅速に、かつ高精度に検出しうる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、カスガマイシンに対する耐性を有するイネ褐条病菌及びイネもみ枯細菌病菌から、カスガマイシンの2’−位のアミノ基をアセチル化する活性を有する、新規なアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の単離に成功した。また、本発明者らは、このアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を検出することで、カスガマイシン耐性菌の検出を迅速かつ高精度に行えることを見い出した。本発明は、これらの知見に基づき完成するに至ったものである。
【0011】
本発明の課題は下記の手段により達成された。
<1>下記(a)〜(d)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1の塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号1の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<2><1>に記載の遺伝子の存在を検出することを含む、カスガマイシン耐性菌の検出方法。
<3>下記(e)〜(h)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド、及び
下記(i)〜(l)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド
をプライマーセットとして用いる核酸増幅反応により<1>に記載の遺伝子の存在を検出する、<2>に記載の検出方法:
(e)配列番号5の塩基配列、又は配列番号5の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(f)配列番号7の塩基配列、又は配列番号7の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(g)配列番号9の塩基配列、又は配列番号9の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(h)配列番号11の塩基配列、又は配列番号11の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(i)配列番号6の塩基配列、又は配列番号6の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(j)配列番号8の塩基配列、又は配列番号8の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(k)配列番号10の塩基配列、又は配列番号10の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(l)配列番号12の塩基配列、又は配列番号12の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
<4>前記(e)〜(h)から選ばれるオリゴヌクレオチド、又は前記(i)〜(l)から選ばれるオリゴヌクレオチドからなる、カスガマイシン耐性菌を検出するための核酸増幅用プライマー。
<5>前記(e)〜(h)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド、及び前記(i)〜(l)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドよりなる、カスガマイシン耐性菌を検出するための核酸増幅用プライマーセット。
<6>下記(m)〜(o)のいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質:
(m)配列番号2のアミノ酸配列、
(n)配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、かつカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列、
(o)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。
<7><6>に記載のタンパク質の存在を検出することを含む、カスガマイシン耐性菌の検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遺伝子は、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードしており、この遺伝子を発現させることで、カスガマイシンをアセチル化し、これによりカスガマイシンを不活化することができる。また、本発明の遺伝子は、生化学的手法によりカスガマイシン耐性菌を検出するためのマーカーとすることができる。
本発明のカスガマイシン耐性菌の検出方法によれば、生化学的手法により、カスガマイシン耐性菌を迅速かつ高精度に検出することができる。
本発明のカスガマイシン耐性菌検出用プライマー及びプライマーセットは、生化学的手法によるカスガマイシン耐性菌の迅速かつ高精度な検出に寄与する。
本発明のタンパク質は、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有し、カスガマイシンをアセチルし、これによりカスガマイシンを不活化することができる。また、本発明のタンパク質は、生化学的手法によりカスガマイシン耐性菌を検出するためのマーカーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼによるカスガマイシンのアセチル化機構を示す図である。
【図2】BgKacの塩基配列と、既知のアセチルトランスフェラーゼとの塩基配列の同一性を示すアラインメントである。
【図3】BgKacタンパク質のアミノ酸配列と、既知のアセチルトランスフェラーゼとのアミノ酸配列の同一性を示すアラインメントである。
【図4】BgKacタンパク質が、アセチルCoAをアセチル基供与体として、カスガマイシンの2’−アミノ基にアセチル基を転移する活性を有することを示すHPLCの溶出プロファイルである。図4中、IはBgKacタンパク質液とカスガマイシン塩酸塩とアセチルCoA・トリリチウム塩との混合液を、IIはBgKacを有さない大腸菌DH5αのタンパク質液とカスガマイシン塩酸塩とアセチルCoA・トリリチウム塩との混合液を、IIIはカスガマイシン塩酸塩とアセチルCoA・トリリチウム塩との混合液を、IVはBgKacタンパク質液とカスガマイシン塩酸塩との混合液を、30℃で1時間反応させた反応液の溶出プロファイルを示す。また、図4中、Aはアセチル化カスガマイシンのピークを示し、Bはカスガマイシンのピークを示す。
【図5】カスガマイシン感受性菌株又は耐性菌株を試料とし、配列番号5及び6の塩基配列からなる2種類のプライマーを用いて、PCRによりBgKacをコードするDNAを増幅し、これをアガロース電気泳動後に染色した結果を示す写真である。図5中、(I)はイネもみ枯細菌病菌の結果を示し、レーン1〜3がカスガマイシン感受性菌株、レーン4〜21がカスガマイシン耐性菌株の結果を示す。また、図5中、(II)はイネ褐条病菌の結果を示し、レーン1がカスガマイシン感受性菌株、レーン2〜10がカスガマイシン耐性菌株の結果を示す。図5中Mは分子量マーカーを示し、Cは陽性コントロールの結果を示す。
【図6】カスガマイシン感受性菌株又は耐性菌株を試料とし、配列番号7及び8の塩基配列からなる2種類のプライマーを用いて、PCRによりBgKacの部分配列からなるDNAを増幅し、これをアガロース電気泳動後に染色した結果を示す写真である。図6中、(I)はイネもみ枯細菌病菌の結果を示し、レーン1〜3がカスガマイシン感受性菌株、レーン4〜12がカスガマイシン耐性菌株の結果を示す。また、図6中、(II)はイネ褐条病菌の結果を示し、レーン1〜3がカスガマイシン感受性菌株、レーン4〜10がカスガマイシン耐性菌株の結果を示す。図6中Mは分子量マーカーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
[本発明の遺伝子]
本発明の遺伝子は、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する特定のタンパク質をコードするDNAからなる。このカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼは、図1に示すように、アセチル基供与体から、受容体であるカスガマイシンの2’−位のアミノ基にアセチル基を転移する活性を有する。上記アセチル基供与体としては、通常、アセチルCoAが利用される。
カスガマイシンは、2’−位のアミノ基がアセチル化されると、抗菌活性を失って不活化される。
【0016】
本発明の遺伝子は、配列番号1の塩基配列からなるDNA、又は配列番号1の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAより構成される。
本明細書において塩基配列の同一性とは、比較する2つの塩基配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大の塩基配列の同一性(%)をいう。塩基配列の同一性を決定する目的のためのアラインメントは、通常の方法を用いて行うことができ、例えばBLASTのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアや、DNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング社)並びにGENETYX(ゼネティックス社)等の市販のソフトウェアを使用することもできる。
【0017】
また、本発明の遺伝子は、配列番号1の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるDNAより構成されてもよい。
本明細書中、配列番号1の塩基配列において、「1又は数個」とは、好ましくは1〜100の整数、より好ましくは1〜50の整数、さらに好ましくは1〜30の整数、特に好ましくは1〜20の整数、殊更好ましくは1〜10の整数である。
【0018】
また、本発明の遺伝子は、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAより構成されてもよい。
本明細書において、「配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」の「ストリンジェントな条件」とは、塩基配列の同一性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の同一性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より好ましくは、65℃、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する温度及び塩濃度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、通常の方法で行うことができる。
【0019】
本発明の遺伝子には、ゲノムDNA中に存在するDNAからなる遺伝子、ゲノムDNAから単離されたDNAからなる遺伝子及びcDNA等の人工的に合成したDNAからなる遺伝子が包含される。
また、本発明の遺伝子には、上述したDNAの1本鎖から構成されるもの、及び上述したDNAと当該DNAに相補的な塩基配列からなるDNAとの2本鎖から構成されるものの両者が含まれる。
【0020】
本発明の遺伝子は、配列番号1の塩基配列に基づき通常の方法で作製したプライマー対を用いて、イネ褐条病菌やイネもみ枯細菌病菌等におけるカスガマイシン耐性菌のcDNA又はゲノミックDNAを鋳型として通常の方法でPCRを行うことにより得ることができる。カスガマイシン耐性のイネ褐条病菌やイネもみ枯細菌病菌は、農業試験場等の公的機関から入手することができる。
また、本発明の遺伝子は、通常の方法により化学合成して得ることもできる。さらに、本発明の遺伝子は、配列番号1の塩基配列を断片化し、各断片の塩基配列からなる2本鎖DNAを化学合成し、これらを順次連結することで得ることもできる。
さらに、上記のようにして得られたDNAに部位特異的変異(site−directed mutagenesis)を導入することで、該DNAの特定のバリアント、すなわち、該DNAと特定の塩基配列同一性を有するDNAを得ることができ、このような特定のバリアントも本発明の遺伝子に含まれうる。
【0021】
上記配列番号1の塩基配列は、後述する実施例で示すように、カスガマイシン耐性のイネもみ枯細菌病菌より得られた新規なカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードするDNAの塩基配列(783塩基長)である。
【0022】
また、配列番号3の塩基配列は、本発明の遺伝子の塩基配列に包含されるものであり、カスガマイシン耐性イネ褐条病菌より得られた新規なカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードするDNAの塩基配列(783塩基長)である。配列番号3の塩基配列は、配列番号1の塩基配列における第234番目の塩基シトシン(C)がグアニン(G)に、第258番目の塩基チミン(T)がグアニン(G)に、第436番目の塩基チミン(T)がアデニン(A)に置換された配列である。
【0023】
アミノ配糖体抗生物質に耐性を付与するアセチルトランスフェラーゼは、アミノ配糖体に対する作用部位及び基質特異性の違いによって、4種類のグループに大別される(AAC(1)、AAC(3)、AAC(2’)及びAAC(6’)、Clinical Microbiology Reviews、Vol.16、No.3、pp.430-450、2003年 参照)。しかし、配列番号1及び3の塩基配列は、既知のアミノ配糖体抗生物質に対するアセチルトランスフェラーゼをコードするDNAの塩基配列とは配列同一性が低く(70%以下)、配列番号1及び3の塩基配列からなるDNAにコードされるアセチルトランスフェラーゼは、上記4つのグループのいずれにも分類することができなかった。
【0024】
[本発明のタンパク質]
本発明のタンパク質は、上述した本発明の遺伝子にコードされる、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質である。
【0025】
本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である。
本明細書において、アミノ酸配列の同一性とは、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大のアミノ酸配列の同一性(%)をいう。アミノ酸配列の同一性を決定する目的のためのアラインメントは、通常の方法を用いて行うことができ、例えばBLASTのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアや、DNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング社)並びにGENETYX(ゼネティックス社)等の市販のソフトウェアを使用することもできる。
【0026】
また、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなってもよい。
本明細書中、配列番号2のアミノ酸配列において、「1又は数個」とは、好ましくは1〜50の整数、より好ましくは1〜30の整数、さらに好ましくは1〜20の整数、特に好ましくは1〜10の整数、殊更好ましくは1〜5の整数である。
【0027】
本発明のタンパク質は、本発明の遺伝子を発現させることで得ることができる。本発明の遺伝子の発現は通常の方法で行うことができ、例えば、本発明の遺伝子をコードするDNAを所望のプロモーターの下流に連結した発現ベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して発現させることで、宿主細胞中に本発明のタンパク質を得ることができる。宿主細胞は原核細胞であっても真核細胞であってもよい。原核細胞としては、大腸菌、枯草菌、放線菌等が挙げられる。また、真核細胞としては、酵母、カビ、植物細胞などが挙げられる。宿主細胞中に得られた本発明のタンパク質は、イオン交換カラム、ゲル濾過カラム、ヒドロキシアパタイトカラム、疎水性カラム等を適宜組合わせて用いて通常の方法により精製又は部分精製することもできる。また、ヒスチジンタグ等のタグペプチドとの融合体として発現させることで、該タグペプチドに対するアフィニティーカラムを用いて精製することもできる。
【0028】
また、本発明のタンパク質は、カスガマイシン耐性を獲得したイネ褐条病菌やイネもみ枯細菌病菌等の植物病原細菌から単離・精製することで得ることもできる。当該単離・精製は通常の方法で行うことができ、例えば、イオン交換カラム、ゲル濾過カラム、ヒドロキシアパタイトカラム、疎水性カラム等の複数のカラムを組み合わせたカラムクロマトグラフィーにより行うことができる。
【0029】
上述した精製工程で得られる画分のカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼの活性は、カスガマイシンを基質として、カスガマイシンのアミノ基へのアセチル基転移活性を指標に測定することができる。アミノ基がアセチル化されたカスガマイシンはHPLCを用いて常法により定量することができる。
【0030】
上記配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質は、上述した配列番号1の塩基配列にコードされるタンパク質であり、少なくとも特定のカスガマイシン耐性イネもみ枯細菌病菌が有するカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼである。
【0031】
また、配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質は、上述した配列番号3の塩基配列にコードされるタンパク質であり、少なくとも特定のカスガマイシン耐性イネ褐条病菌が有するカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼである。
配列番号4のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列における第146番目のアミノ酸セリン(S)がスレオニン(T)に置換された配列である。
【0032】
[本発明のカスガマイシン耐性菌の検出方法]
本発明のカスガマイシン耐性菌の検出方法(以下、単に、本発明の検出方法と呼ぶことがある。)は、本発明の遺伝子、又は本発明のタンパク質の存在の有無を検出する方法である。試料中から当該遺伝子又はタンパク質の存在を検出したときには、試料中にカスガマイシン耐性菌が存在し、又は存在していたと判断することができる。また、試料中から当該遺伝子又はタンパク質の存在が検出できない場合には、試料中にカスガマイシン耐性菌が存在しない、存在する可能性が低い、又は存在数が所定数より少ないと判断することができる。
【0033】
(本発明の遺伝子の検出方法)
本発明の遺伝子の存在は、シークエンス法、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、Loop−Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法)等の遺伝子工学的手法により検出することができる。上記遺伝子工学的手法は通常の方法を採用することができる。
ここで、「本発明の遺伝子の存在の検出する」とは、本発明の遺伝子の全部を検出すること、及び本発明の遺伝子の一部を検出することの双方を含む概念である。
本発明の遺伝子の存在の検出は、本発明の遺伝子を特徴づける塩基配列、すなわち、本発明の遺伝子に特異的な塩基配列の存在を検出することが好ましい。本発明の遺伝子に特異的な塩基配列は、例えば、既知のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子をコードする塩基配列とのアラインメントにより特定することができる。
【0034】
本発明の遺伝子の存在の検出には、本発明の遺伝子を含むゲノムDNA領域に存在する特異的な塩基配列又はこの塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(以下、検出用オリゴヌクレオチドと呼ぶことがある。)を好適に用いることができる。ここで、本発明の遺伝子を含むゲノムDNA領域とは、本発明の遺伝子をコードする領域のみならず、該領域に連続的につながって存在する非翻訳領域を併せた領域をも含む概念である。
上記検出用オリゴヌクレオチドとして、例えば、配列番号5、7、9及び11の塩基配列、又は該塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/もしくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。これらのオリゴヌクレオチドは、下記(a)〜(d)のいずれかのDNAの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、下記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの5’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1の塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0035】
また、上記検出用オリゴヌクレオチドとして、配列番号6、8、10及び12の塩基配列又は該塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/もしくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドも例示することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの3’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号6の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
【0036】
本明細書において、配列番号5〜12の塩基配列において「1もしくは数個」とは、5’側に塩基が付加される場合においては1〜10の整数であることが好ましく、1〜5の整数であることがより好ましく、1〜3の整数であることがさらに好ましく、1又は2であることが特に好ましい。また、3’側に塩基が付加される場合並びに塩基の欠失、置換及び/又は挿入の場合においては、1〜5の整数であることが好ましく、1〜3の整数であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましい。
【0037】
また、上記検出用オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにおけるストリンジェントな条件とは、50℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、50℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より好ましくは55℃、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する温度及び塩濃度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、通常の方法で行うことができる。
【0038】
上記の配列番号5〜12の各塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/もしくは付加された塩基配列を有する各オリゴヌクレオチドは、それぞれ、配列番号5〜12の各塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAに、上記のストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであることが好ましい。
【0039】
上記検出用オリゴヌクレオチドは目的に応じて、放射性物質、酵素、蛍光物質、発光物質等で標識して用いることもできる。
【0040】
本発明の遺伝子の存在の検出に用いうるハイブリダイゼーション法においては、上記検出用オリゴヌクレオチドを、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNAを含みうる試料溶液に添加して、該ゲノムDNAと標識した上記検出用オリゴヌクレオチドとをストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることができる。
該ゲノムDNA中に本発明の遺伝子が存在する場合には、標識された上記検出用オリゴヌクレオチドが、本発明の遺伝子を構成するDNA中に存在する特異的な配列部分とハイブリダイズするため、ハイブリダイズした上記検出用オリゴヌクレオチドの標識を検出することで、カスガマイシン耐性菌を検出することができる。かかる標識の検出手段としては、例えば検出用オリゴヌクレオチドが放射性同位元素で標識されている場合にはオートラジオグラフィー等、蛍光物質で標識されている場合には蛍光顕微鏡等、化学発光物質で標識されている場合には感光フイルムを用いた解析やCCDカメラを用いたデジタル解析等が挙げられる。上記ハイブリダイゼーション反応は、試料中のゲノムDNAを固相担体に固定化させた状態で実施することが好ましい。これにより未反応のオリゴヌクレオチドを洗浄により除去することができ、正確な検出が可能になる。
【0041】
別のハイブリダイゼーション反応の形態として、上記検出用オリゴヌクレオチドを固相に固定化された捕捉プローブとして用いることもできる。この場合、該捕捉プローブと、検出対象である本発明の遺伝子又はその一部を構成するDNAの塩基配列のうち、該捕捉プローブの結合部位とは異なる部位に結合する標識核酸プローブとの組み合わせでサンドイッチアッセイを行うこともできるし、ゲノムDNA自体を標識して捕捉プローブに捕捉された標的核酸を検出することもできる。
【0042】
上記検出用オリゴヌクレオチドは、シークエンス法、核酸増幅反応において、DNAポリメラーゼによる複製開始点を提供するプライマーとしても好適に用いることができる。
【0043】
上記シークエンス法は通常の方法で行うことができる。すなわち、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNAを含みうる試料溶液をサンプルとして、上記検出用オリゴヌクレオチドのうちいずれか一種をプライマーとし、塩基としてdNTPとddNTPの混合物の存在下で常法によりPCR反応を行わせた産物をシークエンサーで解析する。上記ゲノムDNA中に本発明の遺伝子が存在する場合には、本発明の遺伝子が有する塩基配列を確認することができ、これによりカスガマイシン耐性菌を検出することができる。
【0044】
核酸増幅法においては、通常には、ペアとなって標的核酸を増幅するために、少なくとも2種類のプライマーをプライマーセットとして用いる。PCR法においては、好ましくは、下記(e)〜(h)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドと、下記(i)〜(l)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドとをプライマーセットとして用いる。
(e)配列番号5の塩基配列、又は配列番号5の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(f)配列番号7の塩基配列、又は配列番号7の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(g)配列番号9の塩基配列、又は配列番号9の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(h)配列番号11の塩基配列、又は配列番号11の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(i)配列番号6の塩基配列、又は配列番号6の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(j)配列番号8の塩基配列、又は配列番号8の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(k)配列番号10の塩基配列、又は配列番号10の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(l)配列番号12の塩基配列、又は配列番号12の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0045】
上記(e)〜(h)のオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの5’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
また、上記(i)〜(l)のオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの3’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号6の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
【0046】
本明細書において、上記(e)〜(l)のオリゴヌクレオチド(塩基配列5〜12の塩基配列又は該塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/もしくは付加された塩基配列を有する各オリゴヌクレオチド)をハイブリダイズさせる際のストリンジェントな条件とは、50℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、50℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より好ましくは55℃、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する温度及び塩濃度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、通常の方法で行うことができる。
【0047】
上記(e)、(i)、(f)、(j)、(g)、(k)、(h)及び(l)の各塩基配列からなる各オリゴヌクレオチドは、それぞれ、配列番号5、6、7、8、9、10、11及び12の各塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであることが好ましい。
【0048】
核酸増幅法は、通常には、下記(i)〜(iii)の工程を少なくとも含む。
(i)カスガマイシン耐性菌を含みうる試料(例えば、カスガマイシン耐性菌でありうる菌株、種子、種子を浸した浸種液、羅病苗、羅病株、環境水等)又はそのDNA抽出物と、dNTPと、DNAポリメラーゼと、上記プライマーセットとを混合して核酸増幅用反応液を調製する工程、
(ii)上記核酸増幅用反応液を核酸増幅反応に付する工程、
(iii)増幅された核酸を検出する工程。
【0049】
PCR法の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を90℃〜98℃程度で10〜60秒間程行い、プライマーを1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を50〜65℃程度で数秒〜数分間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を65〜75℃程度で数秒〜数分間行い、これらを1サイクルとしたものを30〜40サイクル程度行うことができる。また、リアルタイムPCR法を用いれば、標的DNAを精度よく定量することもでき、これにより検出対象である微生物の数を測定することも可能になる。PCRはサーマルサイクラーを用いて行う。
一方、LAMP法等の等温増幅反応では、60℃付近の等温で増幅反応が進行するので、サーマルサイクラーを要せず、恒温槽で反応を進行させることができる。LAMP法においては、通常は4種類のオリゴヌクレオチドプライマーが必要になるが、このようなプライマーの設計は専用のソフトウェアを用いて行うことができる。
【0050】
配列番号5〜12の各塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのうち2種をプライマーセットとして用いて本発明の遺伝子を検出する際において、プライマーセットを構成しうるプライマーの組み合わせの例を下記表1に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
【表1】

【0052】
核酸増幅反応により増幅したDNA断片の確認は通常の方法で行うことができる。例えば核酸増幅反応時に蛍光物質や放射性物質などで標識されたヌクレオチドを取り込ませる方法、増幅産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、増幅産物の塩基配列を解読する方法、増幅産物である2本鎖DNAに蛍光物質を入り込ませて発光させる方法、増幅産物による反応液の濁度を検出する方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0053】
PCR法で使用するDNAポリメラーゼは、Taqポリメラーゼ等の高温耐性のDNAポリメラーゼであることが好ましい。また、等温増幅反応においてはAacDNAポリメラーゼやBstDNAポリメラーゼ等の鎖置換型のDNAポリメラーゼを用いる。
核酸増幅用反応液には試料、プライマー、dNTP、DNAポリメラーゼ等の他、プライマーと標的DNAとのハイブリダイゼーションや使用するDNAポリメラーゼに適した緩衝液等の他の成分を含ませてもよい。また、リアルタイムPCR法では、目的に応じて、さらに蛍光標識等がなされた標識プローブを含ませてもよい。
【0054】
PCR法において、2種類のプライマー(1種類のプライマーペア)からなるプライマーセットを用いると、増幅される塩基配列は実質的に1種類であり、3種類以上のプライマー(2種類以上のプライマーペア)からなるプライマーセットを用いると、増幅される塩基配列は実質的に2種類以上となる。また、2種類以上の該部分塩基配列は一部重複していてもよい。2種類以上の該部分塩基配列が一部重複しているケースとしては、1つのプライマーに対して、対になるプライマーが2種類以上含まれる場合が挙げられる。
【0055】
検出対象となる本発明の遺伝子の塩基配列が、配列番号1及び3で示されるように、制限酵素HindIIIの切断部位(AAGCTT)が一箇所存在するものである場合には、PCR−RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法により正確に目的遺伝子を確認することも可能である。
【0056】
(本発明のタンパク質の検出方法)
本発明のタンパク質の存在は、本発明のタンパク質に特異的に結合する分子を用いて行うことが好ましい。本発明のタンパク質に特異的に結合する分子としては、本発明のタンパク質に対する抗体やアプタマー等が挙げられるが、本発明のタンパク質に対する抗体を用いることが好ましい。上記抗体やアプタマーは、目的に応じて、放射性物質、酵素、蛍光物質、発光物質等で標識して用いることができる。
抗体を用いた検出手段としては、イムノアッセイの分野において通常用いられる手段を採用することができ、例えば、ラテックス凝集法、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定法(ELISA法)、イムノクロマト法などにより本発明のタンパク質を検出することができる。
【0057】
本発明のタンパク質の検出に用いる抗体は、本発明のタンパク質に結合能を有する抗体であれば特に制限はなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また、抗体をペプシンやパパインのようなタンパク質分解酵素で分解し、抗原に対する結合性を維持した、F(ab’)フラグメント、Fab’フラグメント、Fabフラグメントや、2本のH鎖同士を結びつけているジスルフィド結合を還元して乖離させて、1本のH鎖と1本のL鎖からなるフラグメントとしたものも含まれる。また、本発明における抗体には、単鎖抗体やその2量体(ダイアボディー)もしくは3量体(トリアボディー)、又はミニボディーも含まれる。本発明に使用する抗体として、一般的に用いられているマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、トリ由来のもの等が使用できるがこれらに限定されず、本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体であれば何れも使用できる。
【0058】
本発明のタンパク質の検出に用いる抗体は、通常の方法で取得することができる。例えば、本発明の遺伝子の全部又は一部を発現させて得たタンパク質を免疫原として用い、動物に免疫して、該動物から本発明のタンパク質に選択的に反応する抗体を取得することができる。また、本発明のタンパク質のアミノ酸配列から本発明のタンパク質に特徴的なアミノ酸配列を選択し、該アミノ酸配列からなるペプチドを化学的に合成して、これを動物に免疫して、該動物から本発明のタンパク質に選択的に反応する抗体を取得することができる。
動物を免疫する方法は通常の手法が適用でき、それに必要な免疫プロトコールは当業者にとって容易に決定し得る。例えば、アジュバントと混合した免疫原を適当な宿主動物(マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマまたはその他の哺乳類)に注射することにより、動物を免疫することができる。免疫原の注射は、適当な力価の抗血清が得られるまで続けられる。
【0059】
また、本発明のタンパク質の検出に用いるモノクローナル抗体は、免疫された動物から得た細胞と不死化細胞とを融合することによって得られる融合細胞(ハイブリドーマ)から得ることができる。免疫された動物がマウスであれば、マウスに免疫原を免疫した後、当該マウスから回収した脾臓細胞とマウスミエローマ細胞を用いてケーラーとミルシュタインの方法(ネイチャー256巻495頁1975年)により目的のハイブリドーマを得ることが可能である。目的とする抗体を産生するハイブリドーマは、ハイブリドーマの培養液の抗体価を調べることで選択することができる。
抗体は、アフィニティークロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー等の通常の方法により精製することができる。
【0060】
本発明のタンパク質の検出は、本発明のタンパク質におけるエピトープの異なる2種類の抗体を用いて、サンドイッチイムノアッセイの原理により行うことが好ましい。この場合において、一方の抗体は捕捉抗体として固相に固定化され、もう一方の抗体は、標識され、検出用抗体として機能する。
【0061】
サンドイッチELISA法では、本発明のタンパク質に対する抗体が固定化されたウェルを用意し、非特異的な吸着を防ぐために、BSAやカゼイン等により当該ウェルをブロッキングしておく。ここにカスガマイシン耐性菌を含みうる試料から調製したタンパク質溶液を入れ、抗体が失活しにくい温度(例えば4〜40℃)で数分〜数日インキュベートする。続いてタンパク質溶液を捨て、リン酸緩衝液等でウェルを洗浄後、固定化抗体が結合するエピトープとは異なるエピトープに結合する標識された抗体を加え、再び数分〜数日インキュベートし、ウェルを洗浄後、ウェル内に存在する標識を検出する。上記タンパク質溶液中に本発明のタンパク質が存在する場合には、標識のシグナルが高くなるため、これにより、試料中のカスガマイシン耐性菌の存在の有無を判別することができる。
【0062】
また、イムノクロマト法においては、上記サンドイッチELISAにおける固定化抗体をメンブレンのテストライン上に固定化しておき、上記サンドイッチELISAにおける標識抗体をコンジュゲートパッドに保持した状態のテストストリップを調製する。カスガマイシン耐性菌を含みうる試料から調製したタンパク質溶液をコンジュゲートパッドに直接又は間接的に添加すると、毛細管現象により、当該溶液が標識抗体と液相中で反応しながらコンジュゲートパッドからメンブレンへと進んでいく。タンパク質溶液中に本発明のタンパク質が存在する場合には、メンブレンのテストライン上に標識抗体と本発明のタンパク質とからなる複合体がトラップされる。したがって、テストライン上に存在する標識を検出することにより、試料中のカスガマイシン耐性菌の存在の有無を判別することができる。
【0063】
本発明のカスガマイシン耐性菌の検出方法により、カスガマイシンに耐性を示す植物病原細菌、例えばカスガマイシンに耐性を示すイネもみ枯細菌病菌およびイネ褐条病菌、あるいはイネ苗立枯細菌病菌、ウメかいよう病菌、キウイフルーツかいよう病菌、キウイフルーツ花腐細菌病菌、リンゴ火傷病菌、キュウリ斑点細菌病菌、トマト斑点細菌病菌、トマトかいよう病菌、トマト軟腐病菌、ピーマン斑点細菌病菌、トウガラシ類斑点細菌病菌、タマネギ軟腐病菌、ネギ軟腐病菌、レタス腐敗病菌(非結球レタスを含む)、レタス斑点細菌病菌(非結球レタスを含む)、キャベツ黒腐病菌、キャベツ軟腐病菌、ブロッコリー黒腐病菌、スイカ褐斑細菌病菌、スイカ果実汚斑細菌病菌、ナタネ黒腐病菌、セルリー軟腐病菌、ダイコン軟腐病菌、ダイコン黒斑細菌病菌、ゴボウ黒斑細菌病菌、ニンジン軟腐病菌、インゲンかさ枯病菌、アズキ褐斑細菌病菌、アズキ茎腐細菌病菌、オクラ葉枯細菌病菌、ジャガイモ軟腐病菌、テンサイ斑点細菌病菌、ニンニク春腐病菌、カンキツかいよう病菌、モモせん孔細菌病菌、ホオズキ軟腐病菌、ホオズキ斑点細菌病菌、ユリ軟腐病菌等を検出することができる。すなわち、本発明のカスガマイシン耐性菌の検出方法により、カスガマイシンに対する耐性を獲得したイネもみ枯細菌病菌やイネ褐条病菌のみならず、本発明に係る遺伝子が他の細菌へ菌種を越えて伝播されることにより耐性を獲得した細菌を検出することも可能である。
【0064】
[本発明の核酸増幅用プライマー]
本発明の核酸増幅用プライマーは、前記(e)〜(h)から選ばれるオリゴヌクレオチド、又は、前記(i)〜(l)から選ばれるオリゴヌクレオチドからなり、核酸増幅法又はシークエンス法等によるカスガマイシン耐性菌の検出に用いられる。核酸増幅法は好ましくはPCR法である。
【0065】
上記(e)〜(h)のオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの5’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
また、上記(i)〜(l)のオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの3’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号6の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
【0066】
上記(e)、(i)、(f)、(j)、(g)、(k)、(h)及び(l)の各塩基配列からなる各オリゴヌクレオチドは、それぞれ、配列番号5、6、7、8、9、10、11及び12の各塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであることが好ましい。
【0067】
本発明のプライマーには、上記オリゴヌクレオチドが標識されたものが含まれる。当該標識としては、例えば、放射性物質、酵素、蛍光物質、発光物質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
また、本発明のプライマーを構成する上記オリゴヌクレオチドには、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)等やこれらのキメラ核酸の他、DNAやRNAにおけるホスホジエステル結合の一部又は全部をホスホロチオエート結合等の他の結合に置き換えた核酸が含まれる。
本発明のプライマーは、通常の方法で化学合成することができるし、試薬メーカーから購入することもできる。
【0069】
[本発明の核酸増幅用プライマーセット]
本発明の核酸増幅用プライマーセットは、前記(e)〜(h)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド、及び、前記(i)〜(l)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドよりなり、核酸増幅法、好ましくはPCR法によるカスガマイシン耐性菌の検出に用いられる。
【0070】
上記(e)〜(h)のオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAの塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの5’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
また、上記(i)〜(l)のオリゴヌクレオチドは、上記(a)〜(d)のいずれかのDNA、又は、カスガマイシン耐性菌のゲノムDNA中に存在しうる、上記(a)〜(d)のいずれかのDNAと、当該DNAの3’側に連続的につながる非翻訳領域との連結部分を含む領域の塩基配列からなるDNA(例えば、配列番号6の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA)に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうることが好ましい。
【0071】
上記(e)、(i)、(f)、(j)、(g)、(k)、(h)及び(l)の各塩基配列からなる各オリゴヌクレオチドは、それぞれ、配列番号5、6、7、8、9、10、11及び12の各塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであることが好ましい。
【0072】
上記プライマーセットを構成するプライマーは、標識されていてもよい。当該標識としては、例えば、放射性物質、酵素、蛍光物質、発光物質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、上記プライマーセットを構成するプライマーには、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)等やこれらのキメラ核酸の他、DNAやRNAにおけるホスホジエステル結合の一部又は全部をホスホロチオエート結合等の他の結合に置き換えた核酸が含まれる。
【0073】
本発明のプライマーセットは、該プライマーセットを構成するプライマーが混合された状態のものであってもよいし、別々により分けられた状態であってもよい。また、乾燥状態であっても、緩衝液等の水溶液に溶解した状態であってもよい。また、無機塩、有機塩、防腐剤、安定化剤等と共存させた状態であってもよい。
【0074】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
[調製例1] イネもみ枯細菌病菌からのカスガマイシン耐性に係る遺伝子の単離
本発明者らは、カスガマイシンに感受性を示す大腸菌DH5αを宿主として用い、クローニングベクターとしてpBlueScriptII SK+を用いる系を利用して、カスガマイシン耐性イネもみ枯細菌病菌の総DNAからカスガマイシン耐性に係る遺伝子をショットガン法によりクローニングすることを試みた。
具体的には、カスガマイシン耐性イネもみ枯細菌病菌の総DNAおよびクローニングベクターを制限酵素EcoR1で処理した後連結し、これを用いてヒートショック法により大腸菌DH5αを形質転換した。この形質転換体を、アンピシリンを50μg/mL、及びカスガマイシンを200μg/mL添加した培地に培養したところ、カスガマイシン耐性のコロニーが得られた。
【0076】
次に、このコロニーからプラスミドDNAを回収し、制限酵素EcoRIで処理した後、アガロースゲル電気泳動を行ったところ、このプラスミドDNAが約5.6kbのDNA断片を有する事を確認した。このDNA断片は、制限酵素HindIIIの認識配列を1カ所有しており、HindIIIで処理して得た2種類のDNA断片をそれぞれプラスミドに組み込んで再度大腸菌DH5αを形質転換したところ、これらの形質転換体はいずれもカスガマイシンに対して感受性を示した。従って、このHindIII認識部位を含む塩基配列からなるDNA部分がカスガマイシン耐性に係る遺伝子であると判断し、HindIII切断部位の前後の塩基配列を解析し、配列番号1の塩基配列で示されるオープンリーディングフレームを見い出した。配列番号1の塩基配列からなるDNAをBgKacと命名した。
【0077】
上記5.6kbのDNA断片を有するプラスミドをテンプレートとして、配列番号5の塩基配列からなるプライマーと配列番号6の塩基配列からなるプライマーとを用いて、BgKacをPCRにより増幅し、制限酵素HincIIで処理したクローニングベクターpUC118に連結し、これを用いて大腸菌DH5αを形質転換した。得られた形質転換体について、最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
BgKacを有する形質転換大腸菌(表2中のpUC118−BgKac)は、BgKacを有しないpUC118で形質転換体した形質転換大腸菌(表2中のpUC118)と比較して、カスガマイシンに対して顕著に高い耐性を示したが、ネオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシンに対しては、BgKacを有する大腸菌も有さない大腸菌も同等の感受性を示した。
【0080】
BgKacの塩基配列をQuery配列として、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)法を用い、BLASTX(DNA配列×アミノ酸配列DB)プログラムによりホモロジー検索を行った。その結果、BgKacはSinorhizobium melilotiBurkholderia cenocepacia、及びBurkholderia sp. 383のGCN5ファミリー N−アセチルトランスフェラーゼと塩基配列でわずか43.7〜59.8%の同一性しか示さず、アミノ酸配列でもわずか55.9〜65.8%の同一性しか示さなかった(図2及び3)。上記の検索されたGCN5ファミリー N−アセチルトランスフェラーゼによりアセチル化される化合物は不明である。
【0081】
[試験例1] BgKacタンパク質のアセチルトランスフェラーゼ活性の評価
アミノ配糖体抗生物質アセチルトランスフェラーゼは、細菌の菌体内においてアミノ配糖体抗生物質をアセチル化し、該アミノ配糖体抗生物質を不活化させることが知られている。そこで、BgKacがコードしているタンパク質が、カスガマイシンをアセチル化することを示すため、カスガマイシンのアセチル化試験を行った。本試験例で用いるBgKacタンパク質液(酵素液)の調製は、以下のようにして行った。
【0082】
調製例1において作製したBgKacを有する形質転換大腸菌DH5αを培養して菌体を集菌した後、氷冷下超音波にて菌体を破砕した。この菌体破砕液を20,000Gで5分間遠心処理を行った。得られた上清を低温下でゲル濾過カラム(Sephadex G−25)にアプライし、緩衝液(50mM Tris−HCl、pH7.5)でタンパク質画分を溶出させ、BgKacタンパク質液(総タンパク質濃度;20mg/mL)とした。
【0083】
基質としてカスガマイシン塩酸塩(和光純薬社製)を1mM、アセチル基供与体としてアセチルCoA・トリリチウム塩(Boehringer Mannheim GmbH社製)を2mM、BgKacタンパク質液を12.5μl添加した緩衝液(100mM Tris−HCl、pH7.5)を用意し(全容量200μL)、30℃として1時間反応させることでカスガマイシンのアセチル化反応を行わせ、反応産物をHPLCにより分析した。検出は230nmの波長の吸収により行った。
対照として、アセチルCoA・トリリチウム塩の代わりに蒸留水を加えたもの、BgKacタンパク質液の代わりに、コントロールプラスミド(pUC118)で形質転換したBgKacを有さない大腸菌DH5αのタンパク質液を加えたものについても同様の分析を行った。
結果を図4に示す。
【0084】
図4の結果から、BgKacタンパク質が、アセチルCoAをアセチル基供与体として、カスガマイシンの2’−アミノ基にアセチル基を転移する活性を有することがわかった。
【0085】
[試験例2] BgKacタンパク質によるカスガマイシンの不活化
上記BgKacタンパク質液を用いて、カスガマイシン感受性イネもみ枯細菌病菌のカスガマイシンによる生育阻止を指標としたペーパーディスク検定(バイオアッセイ)を行った。その結果、上記BgKacタンパク質液とアセチルCoAとを添加した場合に、カスガマイシンによる検定菌の生育阻止効果の明らかな減少が認められた。
【0086】
[試験例3]
BgKacの塩基配列のホモロジー検索の結果に基づき、配列番号5から12の塩基配列からなる各オリゴヌクレオチドをBgKac増幅用のプライマーとして設計した。
配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとして、配列番号6の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとしてそれぞれ用い、PCRによりカスガマイシン耐性菌の検出を試みた。
イネもみ枯細菌病菌については、カスガマイシン感受性菌3菌株及びカスガマイシン耐性菌18菌株を試験した。
また、イネ褐条菌については、カスガマイシン感受性菌1菌株及びカスガマイシン耐性菌9菌株を試験した。
PCRは、変性温度を94℃で45秒とし、60℃で45秒のアニーリング反応及び72℃で1分の伸長反応からなる増幅サイクルを30サイクル行った。
PCR後の反応液を、アガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイドでDNAを検出した結果を図5に示す。
【0087】
図5に示すように、イネもみ枯細菌病菌及びイネもみ褐条病菌のいずれにおいても、カスガマイシン感受性菌においては目的の大きさのDNA断片の増幅を認めなかった。一方、カスガマイシン耐性菌においては、いずれの菌種においても、目的の大きさのDNA断片の増幅を認めた。
【0088】
[試験例4]
配列番号7の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとして、配列番号8の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとしてそれぞれ用い、PCRによりカスガマイシン耐性菌の検出を試みた。
イネもみ枯細菌病菌については、カスガマイシン感受性菌3菌株及びカスガマイシン耐性菌9菌株を試験した。
また、イネ褐条菌については、カスガマイシン感受性菌3菌株及びカスガマイシン耐性菌7菌株を試験した。
PCRは、変性温度を98℃で10秒とし、63℃で30秒のアニーリング反応及び68℃で1分の伸長反応からなる増幅サイクルを30サイクル行った。
PCR後の反応液を、アガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイドでDNAを検出した結果を図6に示す。
【0089】
図6に示すように、イネもみ枯細菌病菌及びイネもみ褐条病菌のいずれにおいても、カスガマイシン感受性菌においては目的の大きさのDNA断片の増幅を認めなかった。一方、カスガマイシン耐性菌においては、いずれの菌種においても、目的の大きさのDNA断片の増幅を認めた。
【0090】
[試験例5]
試験例3及び4において増幅されたDNA断片の塩基配列をシークエンス解析し、該DNA断片が、BgKacより増幅されたものであることを確認した。
【0091】
上記の結果は、本発明の遺伝子又はタンパク質の有無を検出することで、カスガマイシン耐性菌を迅速に、かつ高精度に検出できることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1の塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号1の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなるDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子の存在を検出することを含む、カスガマイシン耐性菌の検出方法。
【請求項3】
下記(e)〜(h)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド、及び
下記(i)〜(l)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド
をプライマーセットとして用いる核酸増幅反応により請求項1に記載の遺伝子の存在を検出する、請求項2に記載の検出方法:
(e)配列番号5の塩基配列、又は配列番号5の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(f)配列番号7の塩基配列、又は配列番号7の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(g)配列番号9の塩基配列、又は配列番号9の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(h)配列番号11の塩基配列、又は配列番号11の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(i)配列番号6の塩基配列、又は配列番号6の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(j)配列番号8の塩基配列、又は配列番号8の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(k)配列番号10の塩基配列、又は配列番号10の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、
(l)配列番号12の塩基配列、又は配列番号12の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/もしくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
前記(e)〜(h)から選ばれるオリゴヌクレオチド、又は前記(i)〜(l)から選ばれるオリゴヌクレオチドからなる、カスガマイシン耐性菌を検出するための核酸増幅用プライマー。
【請求項5】
前記(e)〜(h)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド、及び前記(i)〜(l)から選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチドよりなる、カスガマイシン耐性菌を検出するための核酸増幅用プライマーセット。
【請求項6】
下記(m)〜(o)のいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質:
(m)配列番号2のアミノ酸配列、
(n)配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、かつカスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列、
(o)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、カスガマイシンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。
【請求項7】
請求項6に記載のタンパク質の存在を検出することを含む、カスガマイシン耐性菌の検出方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−187008(P2012−187008A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50824(P2011−50824)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】