説明

新規カチオン染料およびその製法

【課題】有機溶剤に対して優れた溶解性を有するカチオン染料を提供すること。
【解決手段】有機溶剤に対する溶解性の更なる改善は、一般式(1)
【化1】


(式中、CATn+は1価、2価、または3価の有機カチオンを表し、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、nは1〜3の整数、aは1〜3の整数を表す。)
で表されるカチオン染料を用いることで達成される。式(1)のカチオン染料は、樹脂との相溶性も優れ、着色濃度を幅広く調整することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルターなどの光学フィルター用の着色剤、プラスチックおよびプラスチック繊維の着色剤、フレキソ印刷インク、ボールペンペースト、伝統的用途における革および紙を着色するためのスタンプインク用着色剤、として用いることができる、新規なカチオン染料に関する。
【背景技術】
【0002】
今日多数の染料が知られている。そのほとんどの合成染料は、芳香環または複素環を含む化合物であり、イオン性(例えばすべての水溶性染料)または非イオン性化合物(例えば分散染料)のいずれかである。イオン性染料はさらに、カチオン染料とアニオン染料に分類できる。
【0003】
カチオン染料は、芳香環または複素環を骨格中に含む化合物で、非局在化する正の電荷を持つ有機カチオンと通常無機のアニオンからなる。この有機カチオンは、通常、置換されていてもよいアミノ基が共鳴に関与する化合物である。既知のカチオン染料の選択肢は非常に多いが、アニオンとして挙げられる主なものとしては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、アルキルまたはアリール硫酸、特にトシル酸、酢酸またはシュウ酸などで豊富にあるとは言えない。
また、カチオン染料はイオン性染料であるため、水に対する溶解性を示すものは多く存在するが、有機溶剤に対して優れた溶解性を示すものはあまり知られていない。
【0004】
特許文献1には、特定のアニオンを有するカチオン染料が開示されている。従来のカチオン染料に比べて溶解性が改善されたとの記載があるが、まだ改善する余地があった。また、特許文献2には、無機又は有機カチオンを有する特定のトリシアノボレートが開示されており、イオン性液体として用いることで、例えば潤滑材や油圧作動油等への応用に関して記載はあるが、着色剤として用いるカチオン染料に関する記載はまったくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−503477号公報
【特許文献2】国際公開第2010/086131号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、有機溶剤への良好な溶解性を有する染料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
有機溶剤に対する溶解性の更なる改善は、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、CATn+は1価、2価、または3価の有機カチオンを表し、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、nは1〜3の整数、aは1〜3の整数を表す。)
で表されるカチオン染料を用いることで達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカチオン染料は、有機溶剤に対する溶解性が優れるため、着色濃度を幅広く調整することが可能となる。また、樹脂との相溶性も優れている特徴を有する。
また一般的に染料は、顔料と比較して耐熱性が低いことが知られている。そのため例えば、光学フィルターやプラスチック繊維等の着色剤として用いた場合、製造プロセスに熱処理工程があると、染料が分解し退色してしまうことがあった。しかしながら、本発明のカチオン染料では、高濃度でカチオン染料を溶解して使用することができ、熱処理工程において一部のカチオン染料が分解してしまっても、残存するカチオン染料が多いため、充分な着色を残すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカチオン染料は、一般式(1)で表される。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、CATn+は1価、2価、または3価の有機カチオンを表し、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、nは1〜3の整数、aは1〜3の整数を表す。)
上記式(1)中、CATn+は、1価、2価、または3価の有機カチオンを表す。nは1〜3の整数を表す。有機カチオンは、カチオン染料として発色しさえすれば特に限定されない。例えば塩化物イオンをアニオンとする公知のカチオン染料における有機カチオンである。公知のカチオン染料におけるカチオン骨格は、例えば、アジン、キサンテン、アクリジン、シアニン、カルボシアニン、アザカルボシアニン、ジアザカルボシアニン、トリアザカルボシアニン、ヘミシアニン、ジアザヘミシアニン、アゾ、テトラゾリウム、ピリリウム、ベンゾピリリウム、チオピリリウム、ベンゾチオピリリウム、チアジン、オキサジン、トリアリールメタン、ジアリールメタン、キノリン、イソキノリン、イミド、ペリノン、メチンおよび4級化アザフルオレノンである。
【0014】
上記式(1)中、aは1〜3の整数であるので、本発明には、aが1であるトリシアノボレートアニオン:[B(CN)XR10;aが2であるジシアノボレートアニオン:[B(CN)(XR10;aが3であるモノシアノボレートアニオン:[B(CN)(XR10;のシアノボレートアニオン類が含まれる。ここで、aが1または2であると、2つ以上のシアノ基がホウ素上の電子密度を相対的に低下させ、アニオン安定性が向上するため好ましい。より好ましくはaは1である。
【0015】
また、上記式(1)中、Xは、酸素原子(−O−)または硫黄原子(−S−)を表し、溶媒溶解性を考慮すると、酸素原子(−O−)であることが好ましい。
【0016】
上記式(1)中、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表す。この有機置換基は、直鎖状、分岐鎖状、環状の何れであってもよく、これらの内2以上の構造を併せもっていてもよく、また、置換基を有していてもよい。さらに、有機置換基R10は不飽和結合を含んでいてもよい。有機置換基R10の主鎖の原子数は上述の通りであるが、有機置換基R10を構成する炭素の数(置換基を含む)は、1〜20の範囲であることが好ましく、より好ましくは、1〜10の範囲である。有機置換基R10の価数、即ち結合末端数は、一つでも二つ以上でもよい。有機置換基R10には、炭素および水素以外のヘテロ原子が含まれていてもよく、その数や位置にも特に制限は無い。したがって、一般式(1)中のXに隣接する原子の種類は、特に炭素に限定されるものではなく、例えばSiやAl等のヘテロ原子であってもよい。
【0017】
具体的な有機置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む飽和炭化水素基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基、シクロヘキセニルメチル基、フェニル基、トルイル基、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、シクロヘキシルフェニル基、ビニルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、メチレン基(メチリデン基)、エチレン基(エチリデン基)、プロピレン基(プロピリデン基)、シクロヘキセン(1,2−、1,3−、1,4−)基、フェニレン(o−、m−、p−)基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む不飽和炭化水素基;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基、フルオロフェニレン基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むハロゲン化炭化水素基;シアノメチル基、ジシアノメチル基、トリシアノメチル基、シアノエチル基、ジシアノエチル基、トリシアノエチル基、テトラシアノエチル基、シアノプロピル基、シアノブチル基、シアノオクチル基、シアノシクロヘキシル基、シアノフェニル基、シアノメチレン基、シアノエチレン基、ジシアノエチレン基、シアノシクロヘキセン基、シアノフェニレン基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むシアノ化炭化水素基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシシクロヘキシル基、メトキシビニル基、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ペンチルオキシメチル基、ヘキシルオキシメチル基、シクロヘキシルオキシメチル基、フェニルオキシメチル基、ビニルオキシメチル基、イソプロペニルオキシメチル基、tert−ブチルオキシメチル基、ナフチルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、ペンチルオキシエチル基、ヘキシルオキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、フェニルオキシエチル基、ビニルオキシエチル基、イソプロペニルオキシエチル基、tert−ブチルオキシエチル基、ナフチルオキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、メチレンオキシメチル基、エチレンオキシエチル基、フェニレンオキシフェニル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むアルコキシ化及び又はアリールオキシ化炭化水素基;アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、アセチルオキシメチル基、アセチルオキシエチル基、ベンゾイルオキシエチル基、ブチロラクチル基、カプロラクチル基、メトキシカーボネート基、エトキシカーボネート基、エチレンカーボネート基、プロピレンカーボネート基、グリセリンカーボネート基、メトキシエチレンオキシカーボネート基、メトキシプロピレンカルボニルオキシ基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むエステル結合を有する有機置換基;ジメチルアミノエチル基、ピロリジニルエチル基、ピロリドニルエチル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む含窒素有機置換基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミ等の、ヘテロ原子を有する有機置換基;などを挙げることができ、これらの有機置換基から選ばれる1種或いは2種以上の有機置換基とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
好ましい有機置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、エチレン基、プロピレン基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、シアノエチル基、アセチル基、プロパノイル基、メトキシカーボネート基、エトキシカーボネート基、メトキシエチレンオキシカーボネート基、メトキシプロピレンカルボニルオキシ基、トリメチルシリル基である。
【0019】
具体的なシアノボレートアニオンとしては、[B(CN)(OMe)]、[B(CN)(OEt)]、[B(CN)(Oi−Pr)]、[B(CN)(OBu)]、[B(CN)(OCHCHO)B(CN)2−、[B(CN)(OCO)B(CN)2−等のアルコキシトリシアノボレートアニオン;[B(CN)(OPh)]、[B(CN)(Op−MePh)]、[B(CN)(Om−MePh)]、[B(CN)(Oo−MePh)]等のアリールオキシシアノボレートアニオン;[B(CN)(OMe)、[B(CN)(OEt)、[B(CN)(Oi−Pr)、[B(CN)(OBu),[B(CN)(OPh)、[B(CN)(−OPhO−)]等のジアルコキシジシアノボレートアニオン;[B(CN)(OMe)、[B(CN)(OEt)、[B(CN)(Oi−Pr)、[B(CN)(OBu)等のトリアルコキシシアノボレートアニオン;[B(CN)(OPh)等のトリアリールオキシシアノボレートアニオン[B(CN)(SMe)]等のチオアルコキシトリシアノボレートアニオン;[B(CN)(OCF)]、[B(CN)(OC)]等のハロゲン化アルコキシシアノボレートアニオン類;[B(CN)(OCCN)]等のシアノ化アルコキシシアノボレートアニオン類;[B(CN)(OCOCH)]、[B(CN)(OCOC)]、[B(CN)(OCOOCH)]、[B(CN)(OCOOC)]、[B(CN)(OCHCHOCOOCH)]、[B(CN)(OCOCHCHCHOCH)]等のエステル系シアノボレートアニオン類;[B(CN)(OSiCH)]等のアルキルシロキシシアノボレートアニオン類等が挙げられる。好ましくは[B(CN)(OMe)]、[B(CN)(OEt)]、[B(CN)(Oi−Pr)]、[B(CN)(OBu)]、[B(CN)(OPh)]、[B(CN)(OMe)、[B(CN)(OCOCH)]、[B(CN)(OSiCH)]が挙げられる。
【0020】
本発明における好ましいカチオン染料の例を、下記式(a)〜(f)に示す。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
式(a)に示す着色剤は、カチオンがローダミンBのカチオンと同一であり、アニオンがトリシアノフェノキシボレートイオンであるカチオン染料である。式(b)に示す着色剤は、カチオンがアストラゾンオレンジRのカチオンと同一であり、アニオンがトリシアノメトキシボレートイオンであるカチオン染料である。式(c)に示す着色剤は、カチオンがアストラゾンピンクFGのカチオンと同一であり、アニオンがトリシアノエトキシボレートイオンであるカチオン染料である。式(d)に示す着色剤は、カチオンがベーシックブルー26のカチオンと同一であり、アニオンがトリシアノエトキシボレートイオンであるカチオン染料である。式(e)に示す着色剤は、カチオンがメチレンブルーのカチオンと同一であり、アニオンがトリシアノトリフルオロメトキシボレートイオンであるカチオン染料である。式(f)に示す着色剤は、アニオンがトリシアノブトキシボレートイオンであるシアニン系カチオン染料である。
【0028】
本発明のカチオン染料の製造方法は、特に制限されるものではないが、好ましい実施形態を記載する。
【0029】
本発明のカチオン染料は一般式(2)
【0030】
【化9】

【0031】
(式中、CATn+は1価、2価、または3価の有機カチオンであり、nは1〜3の整数を表し、AはCl、Br、I、BF、PF、ClO、硫酸イオン、トシル酸イオン、ヒドロ硫酸イオン、トリフレート、トリフルオロ酢酸イオン、酢酸イオンまたはシュウ酸イオンを示す。)
で表される化合物と、一般式(3)
【0032】
【化10】

【0033】
(式中、Em+は1価、2価、または3価の無機又は有機カチオンを表し、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、mは1〜3の整数、aは1〜3の整数を表す。)
で表される化合物とを反応させて得ることができる。
【0034】
式(2)において、CATn+は上記記載の有機カチオンである。Aは特に限定されないが、例えばCl、Br、I、BF、PF、ClO、CN、硫酸イオン、トシル酸イオン、ヒドロ硫酸イオン、トリフレート、トリフルオロ酢酸イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、またはシュウ酸イオンなどを挙げることができ、これらの中でも好ましくは、Cl、Br、I、BF、PF、ClOである。
【0035】
式(3)において、Em+は1価、2価、または3価の無機又は有機カチオンを表し、mは1〜3の整数を表す。Eとして具体的なものとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属または11および12族からの金属、アンモニウム、炭素数1〜4のアルキルを含むアルキルアンモニウム、ホスホニウム、炭素数1〜4のアルキルを含むアルキルホスホニウムまたはグアニジニウムなどを挙げることができ、これらの中でも好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数1〜4のアルキルを含むアルキルアンモニウム、炭素数1〜4のアルキルを含むアルキルホスホニウムであり、より好ましくは、アルカリ金属、炭素数1〜4のアルキルを含むアルキルアンモニウムである。X、R10は上記と同様の定義であり、mは1〜3の整数、aは1〜3の整数である。
【0036】
上記式(2)と式(3)との反応は、有機溶媒中、水中、もしくは有機溶媒と水の混合溶液中で実施することが出来る。上記の式(2)および式(3)で表される原料をそれぞれ有機溶媒、水、もしくは有機溶媒と水の混合溶液に溶解させた後に混合し塩交換反応することにより目的のカチオン染料を得る。反応して得たカチオン染料は晶析、再沈殿、濾過、抽出、濃縮等の操作で取り出すことが可能であり、必要に応じて精製して不純物を除き純度を高めてもよい。このような精製方法としては、有機溶媒、水、有機溶媒と水の混合液による洗浄、アルカリ性もしくは酸性水溶液等による分液抽出洗浄、酸化剤もしくは還元剤による処理、クロマトグラフィー、再結晶、晶析、再沈殿、活性炭等を用いた吸着洗浄等による精製など公知の精製方法を用いることができる。これらの精製法は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
本発明の製造において使用可能な有機溶媒としては例えば、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジオキサン、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ジメトキシエタン、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールが挙げられる。これらの中でも好ましいものとしては、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、メタノール、エタノールが挙げられ、特に好ましくは、メタノール、エタノールが挙げられる。
【0038】
本発明のカチオン染料製造時の反応温度は、カチオンおよびアニオンの反応性、溶解性を勘案し決定すればよく、0℃〜100℃の温度において、好ましくは10℃〜60℃において、特に好ましくは20〜40℃の温度において実施することができる。また、反応時間は5分〜20時間、好ましくは10分〜10時間である。
【0039】
上記式(1)および式(2)中のアニオンは一般式(4)
【0040】
【化11】

【0041】
(式中、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、aは1〜3の整数を表す。)
で表される。例えば、一般式(4)において、aが1であるアニオンは国際公開第2010/086131号に記載された方法に準じて合成することが可能である。
【0042】
本発明のカチオン染料は、優れた溶解性を有することから、多くの用途において着色用部材として適する。例えば、LCD、カラー撮像管素子、有機ELディスプレイおよび電子ペーパーに用いるカラーフィルター;PDPに用いるカットフィルター(例えば、波長590nmのNe光カットフィルター);光学センサー(人体、放射温度計、測長、振動など)に用いる光学フィルター;可視光通信システムにおけるアイソレーター、反射防止フィルム、WDM用フィルター;LED,有機EL(照明)に於ける色調調整用色素;レーザー保護めがね用レンズコーティングの着色;プラスチック繊維、布地、ガラスの着色;フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット用の着色インク;CDレコーダー(CD−R)、DVDレコーダー(DVD+R、DVD+RW)、ブルーレイディスク(BD−ROM、BD−R、BD−RE)用着色剤等を挙げることが出来る。
【0043】
また一般的に染料は、顔料と比較して耐熱性が低いことが知られている。そのため例えば、光学フィルターやインクなど様々な用途の着色剤として用いても製造プロセスにおける熱処理があると、染料が分解し退色してしまう。その際、本発明のカチオン染料を用いれば、溶解性が非常に優れているので、高濃度でカチオン染料を溶解して用いることができ、製造プロセスにおいて一部のカチオン染料が分解してしまっても、着色を残すことが可能となる。尚、本発明のカチオン染料に於ける一般式(4)で表されるアニオンは構造の対称性が低いため、カチオンとのイオン結合に由来する緻密な構造をとり辛い。そのため、イオン間相互作用が弱くなり、溶媒和を受け易くなり溶解性が向上すると推定されるが、本発明はこの推定メカニズムに限定されない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
<NMR測定>
Varian社製「Unity Plus」(400MHz)を用いて、H−NMRおよび19F−NMRスペクトルを測定し、プロトンおよびフッ素のピーク強度に基づいて試料の構造を分析した。11B−NMRスペクトルの測定には、Bruker社製「Advance 400M」(400MHz)を使用した。
なお、NMRスペクトルの測定は、重ジメチルスルホキシドに、濃度が1質量%〜5質量%となるように反応溶液または得られた塩を溶解させた測定試料を、室温(25℃)、積算回数64回で測定した。H−NMRスペクトルの測定では、テトラメチルシランを標準物質とし、19F−NMRスペクトルの測定では、トリクロロフルオロメタンを標準物質とし、11B−NMRスペクトルの測定では、三フッ化ホウ素のジエチルエーテラートを標準物質とした。
【0046】
(合成例1) リチウムトリシアノメトキシボレートの合成
【0047】
【化12】

【0048】
温度計、攪拌装置を備えた容量50mLのフラスコに、0.66g(20mmol)のシアン化リチウムを加え、フラスコ内を窒素置換した。ここに、2.08g(20mmol)のホウ酸トリメチルと7.04g(71mmol)のトリメチルシリルシアニドを加え、70度に加熱し、この温度で18時間攪拌を続けた。
その後、得られた溶液から残留物を減圧留去し、1.97gのリチウムトリシアノメトキシボレートを得た。収率は77.7%であった。
【0049】
(実施例1)アストラゾンオレンジRのトリシアノメトキシボレートの合成
【0050】
【化13】

【0051】
0.30g(0.70mmol)のアストラゾンオレンジR(東京化成社製)を、44mlのイオン交換水に溶解させた。これとは別に9mLのイオン交換水に0.094g(0.73mmol)の合成例1で得られたメトキシトリシアノホウ酸リチウムを溶解させ、先に調製した染料水溶液にこの溶液を室温で撹拌しながら滴下した。反応混合物を、さらに5分間撹拌した。沈殿物を濾別し、濾物を100mlの酢酸エチルに溶解して、30mlのイオン交換水で分液洗浄を行なった後、エバポレーションし、溶媒を留去した。残留物を減圧下で60℃において乾燥し、0.32gのアストラゾンオレンジRのメトキシトリシアノホウ酸塩として得られ、収率は89.1%であった。得られた塩に対するH−NMRおよび11B−NMRの評価結果を以下に示す。

H−NMR(solv.DMSO−d6):δ1.52(s,6H),δ3.16(q,3H,J=3.2Hz),δ3.85(s,3H),δ4.02(s,2H),δ7.15(d,1H,J=16Hz),δ7.49(t,1H,J=7.6Hz),δ7.55−7.61(m,3H),δ7.72−7.81(m,7H),δ7.87−7.89(m,1H),δ8.01(d,1H,J=16Hz),8.43−8.45(m,1H)
11B−NMR(solv.DMSO−d6)δ−18.5(s)
【0052】
(実施例2)ローダミンBのトリシアノメトキシボレートの合成
【0053】
【化14】

【0054】
0.21g(0.44mmol)のローダミンB(東京化成社製)を、20mlのイオン交換水に溶解させた。これとは別に、5mlのイオン交換水に0.06g(0.48mmol)の合成例1で得られたメトキシトリシアノホウ酸リチウムを溶解させ、先に調製したローダミンB水溶液にこの溶液を室温で撹拌しながら滴下した。滴下後、1時間攪拌した。沈殿物を濾別し、濾物を100mlの酢酸エチルに溶解し、30mlのイオン交換水で分液洗浄を行なった後、エバポレーションし、溶媒を留去した。残留物を減圧下で60℃において乾燥し、0.32gのローダミンBが、メトキシトリシアノホウ酸塩として得られ、収率は85.0%であった。得られた塩に対するH−NMRおよび11B−NMRの評価結果を以下に示す。

H−NMR(solv.DMSO−d6):δ1.25(t,12H,J=6.8Hz),δ3.16(q,3H,J=3.2Hz),δ3.68(q,8H,J=6.8Hz),δ7.00−7.13(m,6H),δ7.50−7.52(m,1H),δ7.83−7.93(m,2H)、δ8.26−8.28(m,1H),δ13.17(s,1H)
11B−NMR(solv.DMSO−d6):δ−18.6(s)
【0055】
(実施例3)ローダミンBのトリシアノエトキシボレートの合成
【0056】
【化15】

【0057】
0.21g(0.44mmol)のローダミンB(東京化成社製)を、30mlのイオン交換水に溶解させた。これとは別に、7mlのイオン交換水に0.07g(0.48mmol)のエトキシトリシアノホウ酸リチウムを溶解させ、先に調製したローダミンB水溶液にこの溶液を室温で撹拌しながら滴下した。滴下後、3時間攪拌した。沈殿物を濾別し、濾物を100mlの酢酸エチルに溶解し、30mlのイオン交換水で分液洗浄を行なった後、エバポレーションし、溶媒を留去した。残留物を減圧下で50℃において乾燥し、0.21gのローダミンBが、エトキシトリシアノホウ酸塩として得られ、収率は81.7%であった。得られた塩に対するH−NMRおよび11B−NMRの評価結果を以下に示す。

H−NMR(solv.DMSO−d6):δ1.12(t,3H,J=7.2Hz),δ1.24(t,12H,J=6.8Hz),δ3.39(m,2H),δ3.67(q,8H,J=6.8Hz),δ6.99−7.11(m,6H),δ7.49−7.51(m,1H),δ7.82−7.93(m,2H)、δ8.25−8.27(m,1H),δ13.17(s,1H)
11B−NMR(solv.DMSO−d6):δ−19.1(s)
【0058】
(比較例1)アストラゾンオレンジRのテトラシアノボレートの合成
【0059】
【化16】

【0060】
撹拌装置を備えた容量100mLのビーカーにアストラゾンオレンジR(東京化成社製)0.42g(0.99mmol)を加え、これに62mLのイオン交換水をさらに加えた後、アストラゾンオレンジRが溶解するまで溶液を攪拌して、アストラゾンオレンジR水溶液を得た。これとは別に、容量50mLのビーカーにリチウムテトラシアノボレート0.13g(1.03mmol)およびイオン交換水12mLを加えて、予めリチウムテトラシアノボレート水溶液を調製しておき、当該水溶液をアストラゾンオレンジR水溶液に、室温において撹拌しながら滴下し、滴下後、5分間攪拌した。このようにして得た反応混合物から沈殿物を濾別し、得られた固体を100mLの酢酸エチルに溶解させ、30mLのイオン交換水で分液洗浄を行なった後、溶媒を留去した。残留物を60℃に保持した減圧乾燥機で乾燥することで、赤色固体(アストラゾンオレンジR−テトラシアノボレート塩)0.35gを得た。収率は84.0%であった。

H−NMR(solv.DMSO−d6):δ1.50(s,6H),δ3.85(s,3H),δ4.02(s,2H),δ7.17(d,1H,J=16Hz),δ7.47(t,1H,J=7.6Hz),δ7.55−7.61(m,3H),δ7.72−7.80(m,7H),δ7.86−7.89(m,1H),δ8.01(d,1H,J=16Hz),8.42−8.45(m,1H)
11B−NMR(solv.DMSO−d6):δ−38.5(s)
【0061】
(比較例2)アストラゾンオレンジRのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成
【0062】
【化17】

【0063】
0.800g(1.87mmol)の染料アストラゾンオレンジR(東京化成社製)を、118mlのイオン交換水に溶解させた。23.0mlのイオン交換水に0.565g(1.97mmol)のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを溶解させ、この溶液を先に調製したアストラゾンオレンジRの水溶液に室温で撹拌しながら滴下した。反応混合物を、さらに5分間撹拌した。沈殿物を濾別し、120mlの酢酸エチルと30.0mlのイオン交換水で分液洗浄を行なった後、エバポレーションし、溶媒を留去した。残留物を減圧下で60℃において乾燥し、1.03gのアストラゾンオレンジRが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩として得られ、収率は81.8%であった。

H−NMR(solv.DMSO−d6):δ1.44(s,6H),δ3.79(s,3H),δ3.96(s,2H),δ7.10(d,1H,J=16Hz),δ7.43(t,1H,J=7.6Hz),δ7.48−7.55(m,3H),δ7.66−7.74(m,7H),δ7.81−7.83(m,1H),δ7.94(d,1H,J=16Hz),8.36−8.38(m,1H)
11B−NMR(solv.DMSO−d6):δ−79.8(s)
【0064】
(比較例4)ローダミンBのテトラシアノボレートの合成
【0065】
【化18】

【0066】
攪拌装置を備えた容量100mLのビーカーにローダミンB(東京化成社製)0.21g(0.45mmol)を加え、これに31mLのイオン交換水をさらに加えた後、ローダミンBが溶解するまで溶液を攪拌してローダミンB水溶液を得た。これとは別に、容量50mLのビーカーにリチウムテトラシアノボレート0.06g(0.47mmol)およびイオン交換水12mLを加えて、予めリチウムテトラシアノボレート水溶液を調製しておき、当該水溶液をローダミンB水溶液に、室温において撹拌しながら滴下し、滴下後、5分間攪拌した。このようにして得た反応混合物から沈殿物を濾別し、得られた固体を100mLの酢酸エチルに溶解させ、30mLのイオン交換水で分液洗浄を行なった後、溶媒を留去した。残留物を50℃に保持した減圧乾燥機で3日間乾燥することで、赤色固体(ローダミンB−テトラシアノボレート塩)0.24g(0.43mmol)を得た。収率は95%であった。得られた塩に対するH−NMRおよび11B−NMRの評価結果を以下に示す。

H−NMR(solv.DMSO−d6):δ1.15(t,12H,J=2.8Hz),δ3.59(d,8H,J=2.8Hz),δ6.99(m,6H),δ7.45(m,1H),δ7.81(m,2H),δ8.20(m,1H),δ13.11(s,1H)
11B−NMR(solv.DMSO−d6):δ−38.5(s)
【0067】
<染料の溶解性評価>
上記の実施例1〜3比較例1〜2および比較例4の各カチオン染料の各種溶剤に対する溶解度を評価した。合わせて比較例3としてアストラゾンオレンジR(塩酸塩)、比較例5としてローダミンB(塩酸塩)を、それぞれ市販の試薬(東京化成社製)をそのまま用いて評価した。評価は、以下のように行った。
【0068】
各サンプル10mgをバイヤル瓶に採取し、室温(20℃)下、各サンプルを収容したバイヤル瓶に溶剤を加えて、採取したサンプルを溶解する最小の溶剤重量を求めた。求めた溶剤の重量から各サンプルの濃度(重量%)を算出し、これを溶解度とした。溶剤には、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート(PGMEA)、シクロヘキサノン(CHN)、N−メチルピロリドン(NMP)を用いた。評価結果は以下の通りであった。アストラゾンオレンジR塩の溶解度を表1に、ローダミンB塩の溶解度を表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明法によれば、上記一般式(1)で表される溶剤溶解性に優れたカチオン染料を得ることができ、種々の用途において着色用部材として適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるカチオン染料。
【化1】

(式中、CATn+は1価、2価、または3価の有機カチオンを表し、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、nは1〜3の整数、aは1〜3の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)中、aが1または2である請求項1に記載のカチオン染料。
【請求項3】
一般式(2)
【化2】

(式中、CATn+1価、2価、または3価のは有機カチオンであり、nは1〜3の整数、AはCl、Br、I、BF、PF、ClO、硫酸イオン、トシル酸イオン、ヒドロ硫酸イオン、トリフレート、トリフルオロ酢酸イオン、酢酸イオンまたはシュウ酸イオンを示す、)
で表される化合物と、一般式(3)
【化3】

(式中、Em+は1価、2価、または3価の無機又は有機カチオンを表し、XはO又はS、R10は、H又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、mは1〜3の整数、aは1〜3の整数を表す。)
で表される化合物とを反応させて得ることを特徴とする請求項1または2に記載のカチオン染料の製造方法。

【公開番号】特開2013−71962(P2013−71962A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210503(P2011−210503)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】