説明

新規カルバ糖前駆体とそれらの製造方法、およびそれらを用いた生理活性カルバ糖アミン誘導体の製造方法

【課題】ライソゾーム病治療剤として有用な生理活性カルバ糖アミン誘導体の新規な製造方法、および上記カルバ糖アミン誘導体の製造において、製造中間体として有用である新規なカルバ糖前駆体およびその製造方法を提供する。
【解決する手段】下記一般式(1)
【化1】


[式中、R〜Rの一部または全部は水素原子もしくは炭素数2〜15のアシル基を表す。]の化合物、および当該化合物のカルボニル基をメチレン基に変換し、生じたジエンに対しハロゲン付加を行い、続いて置換反応によってアシルオキシル基を導入し、その後アルキルアミノ基を導入することにより、生理活性カルバ糖アミン誘導体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規カルバ糖前駆体とそれらの製造方法、およびそれらを用いて医薬剤として有用なバリエナミン型カルバ糖アミン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内小器官の一つライソゾームに存在する分解酵素が遺伝的に欠損または変異していると、細胞内外に異物が蓄積してしまう。このような現象によって引き起こされる疾病はライソゾーム病として知られている。ライソゾーム病の中でも特に、糖加水分解酵素であるライソゾーマル-β-グルコシダーゼの変異が病因となるものがゴーシェ(Gaucher)病として知られ、同じくライソゾーマル-β-ガラクトシダーゼの変異が病因となるものが、GM1ガングリオシドーシスと名付けられ、一般に認知されている。
【0003】
これらの疾病に対し、酵素補充療法が現在までの主な治療法となっているが、酵素製剤は中枢神経に到達しにくく脳を含む神経系に対する治療効果が見られないこと、また高価な酵素製剤の点滴治療を生涯にわたって続けなければならないことなどが問題点として挙げられる。
【0004】
このような状況下、糖加水分解酵素の変異によって生じるライソゾーム病の新しい治療法を担う低分子化合物として、一般式(2)−A(特許文献1および非特許文献1参照)で表されるバリエナミン型のカルバ糖アミン誘導体、またその酸付加塩(特許文献2参照)が開発された。
【0005】
【化1】

【0006】
〔式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数2〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を表す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。また、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を表す。保護基としては、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。〕
【0007】
これらバリエナミン型カルバ糖アミン誘導体には遺伝的な変異により低下した酵素活性を上昇させる効果があることが認められているが(特許文献1、非特許文献2および非特許文献3参照)、化合物自体の製造に関し、非特許文献1に記載の方法ではその過程においてラセミ体の光学分割を含み、一般式(2)−A化合物の製造に十数工程を要している。加えて特許文献2の製造方法では、市販のメチル−α−D−グルコピラノシドより出発し一般式(2)−Aの製造に二十数工程を必要としている。
【0008】
これら上記の製造法において、目的化合物を医薬品として供給することを考慮すると工程数が長く、手間も掛かるため十分であるとは言えなかった。
【0009】
一方、クエルシトール類縁化合物のひとつである(−)−2−デオキシ−シロ−イノソース
【0010】
【化2】

は、(−)−ビボ−クエルシトール分子中の5つの水酸基の中で、唯一アキシャル方向に向いているヒドロキシル基が酸化され、カルボニル基に変換された構造を持つ。さらに、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースはグルコースなどのピラノース類と構造が類似し、ピラン環の酸素がメチレンに置換された構造であることから、ピラノース類よりも安定な擬似糖として、各種医農薬の構成成分、また光学活性な出発原料として利用法が考えられている物質である。
【0011】
なお、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを出発原料にしてバリオールアミンを製造する方法は特許文献3によって公知であるが、最終生成物であるバリオールアミンは本発明よって開示される一般式(2)で表されるバリエナミン型カルバ糖アミンとは構造、生理活性なども異なり、製造方法も異とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第03/022797号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/101493号パンフレット
【特許文献3】特開2005−053899号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、1996年、6巻、p.929−932
【非特許文献2】Biochimica et Biophysica Acta、2004年、1689巻、p.219−228
【非特許文献3】Biochimica et Biophysica Acta、2007年、1772巻、p.587−596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
糖加水分解酵素の遺伝的な変異が病因となるライソゾーム病の治療薬候補化合物として、下記一般式(2)
【0015】
【化3】

【0016】
〔式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数2〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。また、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を示す。保護基としては、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。〕
で表されるカルバ糖アミン誘導体およびその酸付加塩が開発されてきたが、従来の製造方法は光学分割や比較的長い工程を必要としており、医薬として供給するためにはより簡便かつ短い工程での製造方法が切望されていた。本発明はこのような課題を解決するべくなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した。特に、一般式(2)で表されるライソゾーム病治療薬候補カルバ糖アミン誘導体に化学構造が類似しているクエルシトール類縁体化合物、具体的には(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースに注目し、これを原料とすれば、上記の既知製造方法と比較して光学分割を含まず、かつより短い工程で有利に目的物を製造し得るのではないかと考え、検討した。
【0018】
その結果、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを原料とし、まず酸触媒存在下でヒドロキシル基のアシル保護化を行い原料のアシル化体を得、次に適当な酸性条件下におくことによって一般式(1)
【0019】
【化4】

〔式中、R〜Rの一部または全部は水素原子もしくは炭素数2〜15のアシル基を示す。〕で表される新規なカルバ糖前駆体を得ることに成功した。
【0020】
さらに上述した一般式(1)で表されるカルバ糖前駆体を用い、本発明者らはライソゾーム病治療薬候補化合物である一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体の製造に成功した。まず、一般式(1)で表される化合物のカルボニル部分をメチレン化し、ジエン体を得た。これにハロゲンを1,4−付加させ、生じた第1級ハロゲン基をアシルオキシル基で置換、次いでアルキルアミノ基を導入して、一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を得ることが出来た。加えて、適当な酸と処理することによって一般式(2)の酸付加塩も得られた。このように、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースから一般式(2)までは6工程、一般式(2)の酸付加塩までは7工程にて製造することに成功し、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本特許の発明は以下の通りである。
[1]一般式(1)で表される絶対配置を有することを特徴とする新規カルバ糖前駆体が提供される。
[2](−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを出発原料とし、酸触媒存在下においてアシル化を行い、得られたアシル化体を酸性条件下においてβ位アシルオキシル基を脱離させ、α,β−不飽和ケトンを生成させることを特徴とする請求項1記載の一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体の製造方法が提供される。
[3]一般式(1)で表されるカルバ糖前駆体のカルボニル基をメチレン基に変換し、生じたジエンに対しハロゲンによる付加を行った後に、置換反応によってアシルオキシル基を導入し、さらにアルキルアミノ基を導入することを特徴とする一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明により提供される前記一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体は、医薬や農薬の光学活性中間体や出発原料等として有用である。
また、ゴーシェ(Gaucher)病などのライソゾーム病に対する治療薬候補として有用である前記一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体は、本発明の一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体より4工程、一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体の原料となる(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースから一般式(2)までは6工程にて製造することができる。すなわち、本発明により、一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を簡便、安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
一般式(2)の化合物の式中のRで示されるヒドロキシル基の保護基としては、特に断りがない限り、糖の化学で一般に用いられる保護基、例えばアシル型保護基、エーテル型保護基、アセタール型保護基、ケタール型保護基、オルトエステル型保護基などが用いられる。より具体的には、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。
【0024】
一般式(2)の化合物の式中のRで示されるヒドロキシル基の保護基の種類は、すべて同じであってもよいし、2種以上の異なった保護基を含んでいてもよい。また、例えば環状アセタール型、環状ケタール型、環状オルトエステル型、環状カルボナート型、環状ボロナート型、あるいはスタンオキサン型保護基の場合のように複数の水酸基を1個の保護基で保護してもよい。
【0025】
一般式(1)の化合物の式中、R〜Rの一部または全部はそれぞれ独立に水素原子もしくは炭素数2〜15のアシル基を示す。
【0026】
また、一般式(2)の化合物の式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数3〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を示す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。
【0027】
なお、原料となる(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースは、例えば特開2005−000072号に記載されている方法に従って容易に製造することが出来る。具体的には、エンテロバクター属に属する微生物を安価なミオ−イノシトールに作用させることによって、ミオ−イノシトールを(−)−ビボ−クエルシトールに変換し、さらにグルコノバクター属に属する微生物を(−)−ビボ−クエルシトールに作用させ、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを安価かつ大量に得ることが出来る。さらに、特開2006−262846号に記載の方法のように、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を組み込んだ形質転換酵母をD−グルコースに作用させ、その培養液を処理して(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを得る方法も利用できる。
【0028】
以下に、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースから一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体を経て一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を製造する方法を工程別に説明する。製造工程の概略は以下の<製造工程式1>に示した。
【0029】
<製造工程式1>
【0030】
【数1】

【0031】
なお、一般式(4)〜(6)の化合物の式中のRで示されるヒドロキシル基の保護基としては、一般式(2)と同義である。加えて、一般式(5)、(6)化合物の式中のXで示される部分は任意のハロゲン原子を表す。具体的には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子である。
【0032】
<製造工程A-1>
本工程は、出発原料である(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースのヒドロキシル基を保護する工程を含む。ヒドロキシル基の保護基としては、後の工程でそれらの一部を脱離させるため、ヒドロキシル基の保護だけでなく適当な脱離能も備えるアシル基を用いる。アシル基としては、一般に知られたアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などが用いられるが、収率、コスト面、反応の容易性など考慮するとアセチル基が好ましい。
【0033】
このアシル化反応は例えば適当な酸を触媒とし、反応試剤として酸無水物などを用いる慣用の方法によって行われる。反応溶媒としてはこの反応に悪影響を及ぼさない溶媒が使用できるが、原料が溶解しにくくとも生成物が溶解すれば良く、また、例えばアセチル化を行う際には反応原料である(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを1重量部として5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部の無水酢酸を反応試剤兼溶媒として用いる条件下でも行うことが出来る。酸触媒としては例えば硫酸や塩酸などの鉱酸、パラ−トルエンスルホン酸やカンファースルホン酸などの有機酸、三フッ化ホウ素、トリメチルシリルトリフラート、イットリビウムトリフラート、スカンジウムトリフラート、塩化鉄、塩化ジルコニウムなどのルイス酸が挙げられるが、例えばアセチル化を行う場合、上記に記した条件の無水酢酸中、三フッ化ホウ素を反応原料である(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースの1.5〜5当量、好ましくは2〜3当量用いることにより、(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースのアセチル保護体を高収率で得ることが出来る。
【0034】
通常、反応温度は特に限定されないが、反応試剤を加える際に発熱することがあるので、試剤を加えるときは冷却下(−5〜5℃)で行うことが好ましい。反応は常温(15〜25℃)でも問題なく進行する。反応は例えば冷却下(−5〜5℃)において塩基性水溶液を加えることによって終了させることが出来、反応終了後は、分液操作など一般的な方法により処理し、さらに再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(3)で示される目的の化合物を得ることが出来る。または特に精製を行わずに次の製造工程へ進むことも出来る。
【0035】
<製造工程A−2>
(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースのヒドロキシル基をアシル型保護基で保護した後、α位がメチレンである側のβ位(C−5)アシルオキシル基[一般式(3)中、ROで表したアシルオキシル基]を脱離させることで、一般式(1)によって表される化合物が得られる。製造工程A−1で得られた化合物に対し、適当な酸を用いることによって上記β位アシルオキシル基の選択的脱離を引き起こすことが可能であり、本製造工程の目的物である一般式(1)で表される化合物を得ることが出来る。酸としては例えば反応試剤と溶媒を兼ねることが出来、操作の容易性などで有利となる酢酸を、反応原料の2.5〜10重量部、好ましくは4〜6重量部用いることが好ましい。
【0036】
通常、反応温度は特に限定されず、常温(15〜25℃)、あるいは加熱(常温から溶媒が還流する温度までが適当である)下に反応が行われる。反応終了後は、減圧濃縮、分液操作など一般的な方法により処理し、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(1)で示される目的の化合物を得ることが出来る。
【0037】
<製造工程A−3>
本工程は、前製造工程によって得られた一般式(1)化合物中のカルボニル基をメチレン化する工程を含む。このメチレン化反応においては、保護基であるアシル基に影響及ぼさず、またカルボニル化合物のα位水素を引き抜きにくいような条件下で一炭素増炭できる慣用の方法が用いられる。例えばNysted試薬および適当なルイス酸を用いたメチレン化が行われる。反応溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルムなど、この反応に悪影響を及ぼさない溶媒が単独または混合溶媒として使用されるが、反応物の溶解性からテトラヒドロフランとジクロロメタンを混合して用いることが好ましい。適当な酸としては、四塩化チタン、三塩化チタン、三フッ化ホウ素、塩化ジルコニウムなどのルイス酸が単独又は混合して使用されるが、反応性などの点から四塩化チタンを用いることが好ましい。
【0038】
以下、本製造工程を行う際の望ましい形態を述べる。反応原料に対し1〜5当量、好ましくは1.5〜3.5当量のNysted試薬を用い、これと反応原料をテトラヒドロフランに懸濁し、反応溶液とする。続いて、原料の1.5〜3.5当量の四塩化チタンを0.5〜1.5モル濃度、好ましくは1モル濃度となる容量のジクロロメタンに溶解したものを、前述の反応溶液に加える。通常、反応温度は特に限定されないが、反応試剤を加える際に発熱することがあるので、試剤を加えるときは冷却下(−20〜5℃)で行うことが好ましい。反応は常温(15〜25℃)でも問題なく進行する。反応終了後は、ろ過、分液操作など一般的な方法により処理し、さらに再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(4)で示される目的の化合物を得ることが出来る。
【0039】
<製造工程A−4>
本工程は、製造工程A−3によって得られた化合物のジエン部分にハロゲン分子を1,4−付加させる工程を含む。ハロゲン分子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、実験操作としては塩素、臭素を用いることが好ましく、さらには取り扱いの容易さから、常温で液体である臭素を用いることが好ましい。ハロゲン分子は反応原料の0.95〜1.3当量、好ましくは1.0〜1.15当量用いる。反応溶媒としては、特に反応に悪影響を及ぼさないものとして四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどを用いることが出来、例えば四塩化炭素を用いる際の容量は反応原料を1重量部として30〜100重量部、好ましくは50〜60重量部用いる。ハロゲン付加の好ましい方法としては、ハロゲンを直接または用いる溶媒に希釈した状態で加える。
【0040】
反応温度は特に限定されないが、通常、常温(15〜25℃)で行われる。反応終了後は、分液操作または窒素等の不活性ガスによるバブリングなど一般的に知られた方法により処理し、再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(5)で示される目的の化合物を得ることが出来る。通常、得られる化合物は第2級ハロゲン基の部分に、ハロゲンがそれぞれエカトリアルとアキシャルに導入された2種類の立体異性体の混合物となる。
【0041】
<製造工程A−5>
製造工程A−4によって得られたジハロゲン化物である一般式(5)化合物の構造中、第2級ハロゲン基はそのままに、第1級ハロゲン基のみを選択的にアシルオキシル基に置換することによって、本工程の目的物である一般式(6)で示される化合物が得られる。この置換反応については、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、以下同様に安息香酸塩、イソ酪酸塩、サリチル酸塩、乳酸塩、などのカルボン酸塩を用いる方法が挙げられる。上記のなかでも、コスト面、入手のしやすさ、また製造工程A−1で述べた理由から、化合物中のアシル基として特にアセチル基を用いる場合は、同様にアセチルオキシル基を導入したほうが、後の脱保護反応やその精製時の工程が単純化され容易になることから、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムを用いる方法が好ましい。反応試剤は反応原料の1.0〜1.3当量、好ましくは1.1〜1.2当量用いる。反応溶媒としては、この反応に悪影響を及ぼさない溶媒が単独または混合溶媒として使用されるが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒が用いられ、なかでも比較的除去の容易なN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。溶媒の容量としては、反応原料を1重量部として12〜45重量部、好ましくは20〜25重量部用いる。
【0042】
通常反応温度は特に限定されないが、反応は常温(15〜25℃)でも問題なく進行する。反応終了後に分液操作、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(6)で示される目的の化合物を得ることが出来る。または特に精製を行わずに次の製造工程へ進むことも出来る。
【0043】
<製造工程A−6>
続いて有機アミンを一般式(6)化合物中の第2級ハロゲン基と立体選択的に置換させ、本製造工程の目的物である一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を得ることが出来る。このようなアミノ化の方法については、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの反応に悪影響を及ぼさない適当な非プロトン性極性溶媒に当該化合物を溶解し、これに導入したい有機アミンを加えればよい。このとき、反応原料である一般式(6)化合物には2種類の立体異性体が含まれるが、異性体をそれぞれ単離した後に、または混合物のままでも、当該アミノ化反応に付すといずれも等しく同一の化合物、すなわち目的物である一般式(2)化合物を与える。このようにして種々の有機アミンを導入することが出来るが、特にn−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミンなどのアルキルアミン、なかでもn−オクチルアミンを用いれば、前述の特許文献1、非特許文献2および非特許文献3に記載されている、医薬剤として有用な化合物を得ることが出来る。
【0044】
本製造工程の好ましい形態としては、例えば製造工程A−5から未精製で反応を行う場合、製造工程A−5の反応原料である一般式(5)化合物を1当量として、2〜7当量、好ましくは2.5〜5当量の有機アミンを用いる。また、溶媒としては、比較的除去が容易であるアセトニトリルが好ましく、反応原料1重量部に対して10〜30重量部を用いることが出来る。反応温度は特に限定されないが、加熱(50〜80℃、好ましくは60〜70℃)下に反応が行われる。得られた一般式(2)化合物はシリカゲルカラムやイオン交換樹脂カラムなどを用いて精製することにより、より純度の高いものを得ることが出来る。加えて、一般式(2)化合物を適当な酸で処理することにより、その酸付加塩を製造できる。本発明で製造される一般式(2)化合物の塩としては、薬学的に許容できる酸との塩が用いられる。このような塩としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機塩、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸などの有機塩が用いられる。
【0045】
なお、所望により、一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体に対し脱保護化反応を行うことで、特に一般式(2)−Aで表されるカルバ糖アミン誘導体が得られる。脱保護化反応は慣用の方法で行うことが出来るが、一般式(2)化合物中に含まれるアシル型保護基を脱保護する場合、求核性を持つ塩基を用いてもよい。好ましくはメタノール中、反応原料と1.0〜2.0当量のナトリウムメトキシドとを反応させることによって当該保護基の脱保護反応が可能である。加えて、一般式(2)−Aで表されるカルバ糖アミン誘導体は、一般式(2)の化合物と同様の方法で精製することが出来、またその酸付加塩を製造できる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。実施例1〜5までの製造工程を下記の<製造工程式2>に示した。
【0047】
<製造工程式2>
【0048】
【数2】

【0049】
上記において、Acはアセチル基、Meはメチル基、Octylはオクチル基、THFはテトラヒドロフラン、DMFはN,N−ジメチルホルムアミドを表す。
【0050】
下記実施例における反応生成物の解析における薄層クロマトグラフィーには、メルク社製シリカゲルTLC、60F254を用い、NMR構造解析には、日本電子社製JNM−ECS400装置または、日本電子社製Lambda300装置を用いた。旋光度の測定には、HORIBA社製SEPA−200装置を使用し、解析した。また、反応生成物の精製に使用したシリカゲルカラムクロマトグラフィーには、和光純薬社製Wako−gelC−300を用いた。
【0051】
<実施例1>(2S,3R,4S)-2,3,4-Triacetoxycyclohex-5-en-1-one,化合物1’の合成(化合物の番号は、一般式の番号と同じ、以下同様。)
無水酢酸28mLに氷浴下、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体3.75mL(29.6mmol)を加えた。冷却しながら出発原料である(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを2.00g(12.3mmol)を加え、室温に戻しながら1.5時間攪拌した。氷浴中で冷却しながら80mLの酢酸エチルで希釈した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mLを加え、そのまま15分間攪拌した。有機相を分離し、水相を80mLの酢酸エチルで抽出した後、合わせた有機相を飽和炭酸ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水それぞれ50mLで洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した後、エタノールおよびトルエンを加え共沸しながら減圧濃縮し3.60gの白色粉末を得た。ここから2.00gを取って10mLの酢酸に溶解し、攪拌しながら2.5時間加熱還流した。室温まで放冷した後、溶媒をエタノールおよびトルエンで共沸させながら減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=97/3)によって精製し、1.52gの1’を得た(2工程収率83%)。
RF = 0.50 (クロロホルム/酢酸エチル=9/1), C12H14O7 MW: 270.24(計算値), [a]D25=63.6o (c 1.00, CHCl3), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ(ppm): 2.04, 2.08, 2.13 (s, each 3H), 5.40 (d, 1H, J = 11.6 Hz), 5.57 (dd, 1H, J = 8.6, 11.5 Hz), 5.81 (ddd, 1H, J = 2.0, 2.3, 8.6), 6.17 (dd, 1H, J = 2.4, 10.4 Hz), 6.73 (dd, 1H, J = 2.0, J = 10.4 Hz), 13C-NMR (75MHz/CDCl3) δ(ppm): 20.32, 20.52, 20.59, 70.77, 71.88, 74.23, 128.74, 145.56, 169.45, 169.59, 169.90, 189.88
【0052】
<実施例2>(1S,2R,3R)-1,2,3-Triacetoxy-4-methylenecyclohex-5-ene,化合物4’の合成
ナスフラスコに市販のNysted reagent(20%テトラヒドロフラン懸濁液、Sigma−Aldrich社製)を19.3g(8.45mmol)測り取り、氷塩浴中にて冷却しながら攪拌した。これに、761mg(2.82mmol)の化合物1’を4.0mLのテトラヒドロフランに溶解させたものを加えた。続けて冷却しながら、四塩化チタン618μL(5.64mmol)を5.6mLのジクロロメタンで希釈した溶液を15分かけて滴下した。室温に戻し1時間攪拌した後、再び氷塩浴中にて冷却しながら、60mLのトルエンで希釈し、3M塩酸水溶液20mLをゆっくり加えた。有機相を取り、水相を60mLのトルエンで抽出し、合わせた有機相を40mLの飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)によって精製し、186mgの化合物4’を得た(収率25%)。
RF = 0.41 (ヘキサン/酢酸エチル=4/1), C13H16O6 MW: 268.26(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ(ppm): 2.01, 2.03, 2.10 (s, each 3H), 5.02 (brs, each 1H), 5.25 (dd, 1H, J = 8.6, 11.5 Hz), 5.81 (ddd, 1H, J = 2.0, 2.3, 8.6 Hz), 6.17 (dd, 1H, J = 2.4, 10.4 Hz)
【0053】
<実施例3>(1R,2S,3R,6R)- and (1R,2S,3R,6S)-1,2,3-Triacetoxy-6-bromo-4-(bromomethyl)cyclohex-4-ene,化合物5’の合成
350mg(1.31mmol)の化合物4’を6.0mLの四塩化炭素に溶解させ、続いて臭素68μL(1.3mmol)/四塩化炭素6.0mL溶液をゆっくり滴下して加えた。そのまま室温で15分間攪拌した後、45mLのクロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水それぞれ15mLで洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン/酢酸エチル=97/3)によって精製し、537mgの化合物5’を得た(異性体混合物として収率96%、異性体比(α/β=0.8/1)。
RF = 0.27, 0.22 (トルエン/酢酸エチル=95/5), C13H16Br2O6 MW: 428.07(計算値), 1H-NMRより異性体混合比はα/β=0.8/1
【0054】
<実施例4>(1S,2S,3R,6R)-4-(Hydroxymethyl)-6-octylaminocyclohex-4-ene-1,2,3-triol,化合物2’の合成
157mg(0.367mmol)の化合物5’を3.7mLの無水N,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、酢酸ナトリウム35mg(0.42mmol)を加えた。室温で19時間攪拌した後、反応溶液を40mLの酢酸エチルで希釈し、これを13mLの水で2回、13mLの飽和食塩水で1回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。
得られた残渣を3.7mLのアセトニトリルに溶解し、n−オクチルアミン304μL(1.84mmol)を加えた。60−70℃に加温しながら17時間攪拌した後、室温まで放冷した。続いて反応溶液に1.10mLの0.5Mナトリウムメトキシド/メタノール溶液を加えた。室温で2.5時間攪拌した後、溶液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸/クロロホルム/メタノール=10/87/3→10/70/20)によって精製し、目的物が含まれる画分を濃縮した。濃縮物を強酸性イオン交換樹脂(デュオライトC20[H]、住友ケムテックス社製)カラム(80%メタノール水溶液→メタノール/25%アンモニア水=8/2)によって遊離塩基とし、化合物2’を11mg(2工程収率10%)得た。
RF = 0.50 (酢酸/メタノール/クロロホルム=1/3/6), C15H29NO4 MW: 287.40(計算値), [α]D22=-69o (c 1.0, MeOH), 1H-NMR (300MHz / CD3OD) δ(ppm): 0.894 ( t, 3H, J=6.4 Hz), 1.30-1.33 (m, 10H), 1.51-1.53 (m, 2H), 2.56-2.60, 2.72-2.78 (m, 2H), 3.05-3.26 (m, 1H), 3.38-3.51 (m, 2H), 4.07-4.14 (m, 3H), 5.64 (s, 1H), 13C-NMR (75MHz/CDCl3) δ(ppm): 14.52, 23.65, 28.33, 30.32, 30.58, 32.92, 47.09, 61.20, 62.92, 73.75, 78.17, 122.25, 122.36, 141.53
【0055】
<実施例5>(1S,2S,3R,6R)-4-(Hydroxymethyl)-6-octylaminocyclohex-4-ene-1,2,3-triol hydrochloride,化合物2’’の合成
化合物2’を11mg(0.038mmol)取り、1Nの塩酸水溶液1mLに溶解させた。エタノールで数回共沸し、減圧濃縮した。減圧乾燥後、12mgの化合物2’’が得られた(収率97%)。
RF = 0.39 (酢酸/メタノール/クロロホルム=1/3/6), C15H30ClNO4 MW: 323.86(計算値), [α]D22=-73o (c 1.00, H2O), 1H-NMR (300MHz/CD3OD) δ(ppm): (300MHz/D2O) δ(ppm)= 0.901 (t, 3H, J =6.4 Hz), 1.31-1.43 (m, 10H), 1.71-1.76 (m, 2H), 3.10-3.27 (m, 2H), 3.66 (dd, 1H, J=8.0, 10.1 Hz), 3.82 (dd, 1H, J=9.2, 10.1 Hz), 3.99-4.02 (m, 1H), 4.20-4.29 (m, 3H), 5.75 (s, 1H), 13C-NMR (75MHz/D2O, dioxane as internal reference) δ(ppm): 13.82, 22.40, 26.07, 26.14, 28.52, 28.58, 31.42, 44.98, 59.99, 61.23, 70.18, 71.71, 75.95, 114.98, 144.96

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

〔式中、R〜Rの一部または全部は水素原子もしくは炭素数2〜15のアシル基を示す。〕
で表される絶対配置を有することを特徴とする新規カルバ糖前駆体。
【請求項2】
(−)−2−デオキシ−シロ−イノソースを出発原料とし、酸触媒存在下においてアシル化を行い、得られたアシル化誘導体を酸性条件下においてβ位アシルオキシル基を脱離させ、α,β−不飽和ケトンを生成させることを特徴とする請求項1記載の一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるカルバ糖前駆体のカルボニル基をメチレン基に変換し、生じたジエンに対しハロゲン付加を行い、続いて置換反応によってアシルオキシル基を導入し、その後アルキルアミノ基を導入することを特徴とする一般式(2)
【化2】

〔式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数2〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を表す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。また、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を表す。保護基としては、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。〕
で表されるカルバ糖アミン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−158523(P2012−158523A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17242(P2011−17242)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(511026289)
【Fターム(参考)】