説明

新規カルバ糖前駆体とそれらの製造方法、およびそれらを用いた生理活性カルバ糖アミン誘導体の製造方法

【課題】ライソゾーム病治療剤として有用な生理活性カルバ糖アミン誘導体の新規な製造方法、および上記カルバ糖アミン誘導体の製造において、製造中間体として有用である新規なカルバ糖前駆体およびその製造方法を提供する。
【解決する手段】下記一般式(1)
【化1】


〔式中、R〜Rの一部または全部はそれぞれ独立に水素原子もしくはヒドロキシル基の保護基を示す。RおよびRは炭素数2〜15のアシル基を示す。〕で表される絶対配置を有することを特徴とする新規カルバ糖前駆体および、当該前駆体をWittig反応条件に付し、生じたジエンに対しハロゲン付加を行い、続いて置換反応によってアシルオキシル基を導入し、その後アルキルアミノ基を導入することにより、生理活性カルバ糖アミン誘導体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規カルバ糖前駆体とそれらの製造方法、およびそれらを用いて医薬剤として有用なバリエナミン型カルバ糖アミン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内小器官の一つライソゾームに存在する分解酵素が遺伝的に欠損または変異していると、細胞内外に異物が蓄積してしまう。このような現象によって引き起こされる疾病はライソゾーム病として知られている。ライソゾーム病の中でも特に、糖加水分解酵素であるライソゾーマル−β−グルコシダーゼの変異が病因となるものがゴーシェ(Gaucher)病として知られ、同じくライソゾーマル−β−ガラクトシダーゼの変異が病因となるものが、GM1ガングリオシドーシスと名付けられ、一般に認知されている。
【0003】
これらの疾病に対し、酵素補充療法が現在までの主な治療法となっているが、酵素製剤は中枢神経に到達しにくく脳を含む神経系に対する治療効果が見られないこと、また高価な酵素製剤の点滴治療を生涯にわたって続けなければならないことなどが問題点として挙げられる。
【0004】
このような状況下、糖加水分解酵素の変異によって生じるライソゾーム病の新しい治療法を担う低分子化合物として、下記の一般式(2)−A(特許文献1および非特許文献1参照)で表されるバリエナミン型のカルバ糖アミン誘導体、またその酸付加塩(特許文献2参照)が開発された。
【0005】
【化1】

【0006】
〔式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数2〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。〕
【0007】
これらバリエナミン型カルバ糖アミン誘導体には遺伝的な変異により低下した酵素活性を上昇させる効果があることが認められているが(特許文献1および非特許文献2参照)、化合物自体の製造に関し、非特許文献1および非特許文献3に記載の方法ではその過程においてラセミ体の光学分割を含み、一般式(2)−Aの製造に十数工程を要している。加えて特許文献2の製造方法では、市販のメチル−α−D−グルコピラノシドより出発し一般式(2)−Aの製造に二十数工程を必要としている。
【0008】
これら上記の製造法において、目的化合物を医薬品として供給することを考慮すると工程数が長く、手間も掛かるため十分であるとは言えなかった。
【0009】
一方、クエルシトール類縁化合物のひとつである(+)−プロト−クエルシトール
【0010】
【化2】

は、理論的には4種類のメソ体と6対の光学異性体からなる計16種類の異性体が存在しうるクエルシトールの異性体のうち、植物界より見出されている3種の化合物、(+)−プロト−クエルシトール、(−)−プロト−クエルシトール、(−)−ビボ−クエルシトール、の一つである。
【0011】
クエルシトールはグルコースなどのピラノース類と構造が類似し、ピラン環の酸素がメチレンに置換された構造であることから、ピラノース類よりも安定な擬似糖として、各種医農薬の構成成分、また光学活性な出発原料として利用法が考えられている物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第03/022797号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/101493号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、2002年、10巻、p.1967−1972
【非特許文献2】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、2003年、26巻、p.15912−15917
【非特許文献3】Bioorganic and Medicinal Chemistry、2004年、12巻、p.995−1002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
糖加水分解酵素の遺伝的な変異が病因となるライソゾーム病の治療薬候補化合物として、下記一般式(2)
【0015】
【化3】

【0016】
〔式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数2〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を示す。保護基として、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。〕
で表されるカルバ糖アミン誘導体およびその酸付加塩が開発されてきたが、従来の製造方法は光学分割や比較的長い工程を必要としており、医薬として供給するためにはより簡便かつ短い工程での製造方法が切望されていた。本発明はこのような課題を解決するべくなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した。特に、上記一般式(2)で表されるライソゾーム病治療薬候補カルバ糖アミン誘導体に化学構造が類似しているクエルシトール類縁体化合物、具体的には(+)−プロト−クエルシトールに注目し、これを原料とすれば、上記の既知製造方法と比較して光学分割を含まず、かつより短い工程で有利に目的物を製造し得るのではないかと考え、検討した。
【0018】
その結果、(+)−プロト−クエルシトールのヒドロキシル基を選択的に保護化し、遊離した1個のヒドロキシル基の酸化、および保護化されたヒドロキシル基のうちトランス配置ジオールの選択的な脱保護化を行い、続いてアシル化反応条件に付すことにより、一般式(1)
【0019】
【化4】

【0020】
〔式中、R〜Rの一部または全部はそれぞれ独立に水素原子もしくはヒドロキシル基の保護基を示す。保護基としては、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。RおよびRは炭素数2〜15のアシル基を示す。〕
で表される新規なカルバ糖化合物前駆体を得ることに成功した。
【0021】
さらに上記一般式(1)で表されるカルバ糖前駆体を用い、本発明者らはライソゾーム病治療薬候補化合物である一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体の製造に成功した。まず、一般式(1)の化合物をWittig反応条件に付したところ、エノールエステル部分がメチレン化されたのみならず、一般式(1)中ROで表したアシルオキシル基の脱離が生じ、一段階の反応で目的物であるシクロヘキサン環に一炭素増炭したジエン体を得た。これにハロゲンを1,4−付加させ、生じた第1級ハロゲン基をアシルオキシル基で置換、次いでアルキルアミノ基を導入して一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を得た。加えて、適当な酸と処理することによって一般式(2)の酸付加塩も得られた。このように、(+)−プロト−クエルシトールから一般式(2)までは9工程、さらに一般式(2)の酸付加塩までは10工程にて製造することに成功し、本発明を完成した。
【0022】
すなわち、本特許の発明は以下の通りである。
[1]一般式(1)で表される絶対配置を有することを特徴とする新規カルバ糖前駆体が提供される。
[2](+)−プロト−クエルシトールを出発原料とし、ヒドロキシル基の保護化、次いでヒドロキシル基の酸化を行い、得られた前駆体に対し脱保護化、さらにアシル化反応条件に付すことによる[1]に記載の一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体の製造方法が提供される。
[3]一般式(1)で表されるカルバ糖前駆体をWittig反応条件に付し、生じたジエンに対しハロゲンによる付加を行った後に、置換反応によってアシルオキシル基を導入し、さらにアルキルアミノ基を導入することを特徴とする一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明により提供される前記一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体は、医薬や農薬の光学活性中間体や出発原料等として有用である。
また、GM1ガングリオシドーシスなどのライソゾーム病に対する治療薬候補として有用である前記一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体は、本発明の一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体より5工程、一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体の原料となる(+)−プロト−クエルシトールから一般式(2)までは9工程にて製造することができる。すなわち、本発明により、一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を簡便、安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
一般式(1)、(2)の化合物の式中のRで示されるヒドロキシル基の保護基としては、特に断りがない限り、糖の化学で一般に用いられる保護基、例えばアシル型保護基、エーテル型保護基、アセタール型保護基、ケタール型保護基、オルトエステル型保護基などが用いられる。より具体的には、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。
【0025】
一般式(1)、(2)の化合物の式中のRで示されるヒドロキシル基の保護基の種類は、すべて同じであってもよいし、2種以上の異なった保護基を含んでいてもよい。また、例えば環状アセタール型、環状ケタール型、環状オルトエステル型、環状カルボナート型、環状ボロナート型、あるいはスタンオキサン型保護基の場合のように複数の水酸基を1個の保護基で保護してもよい。
【0026】
一般式(1)の化合物の式中、R〜Rの一部または全部はそれぞれ独立に水素原子もしくはヒドロキシル基の保護基を示す。RおよびRは炭素数2〜15のアシル基を示す。
【0027】
また、一般式(2)の化合物の式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数3〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を示す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。
【0028】
なお、原料となる(+)−プロト−クエルシトールは、公知の方法により、例えば、ドングリやヤシの葉中などから抽出精製する方法(Annales de Chimie et de Physique、1849年、27巻、p.392−401参照)や、ハロベンゼンまたはシス(1s,2s)−1,2−ジヒドロ−3−ハロカテコールを出発原料として合成する方法(Synlett、1994年、p.899−901などを参照)により得ることができる。さらにはアグロバクテリウム属に属する微生物またはサルモネラ属に属する微生物を安価なミオ−イノシトールに作用させることによって、ミオ−イノシトールから光学純度の高い(+)−プロト−クエルシトールを容易に製造することが出来る(特開2000−004890号参照)。また、市販のものをそのまま原料として使用することができる。
【0029】
以下に、(+)−プロト−クエルシトールから一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体を経て一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を製造する方法を工程別に詳細に説明する。製造工程の概略は下記<製造工程式1>に示した。
【0030】
<製造工程式1>
【0031】
【数1】

【0032】
なお、一般式(3)〜(8)の化合物の式中のRで示されるヒドロキシル基の保護基としては、一般式(1)、(2)と同義である。加えて、一般式(7)、(8)化合物の式中のXで示される部分は任意のハロゲン原子を表す。具体的には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子である。
【0033】
<製造工程A−1>
本工程は、出発原料である(+)−プロト−クエルシトールのヒドロキシル基のうち、5位の部分を遊離させたまま、残りの1,2,3,4位のヒドロキシル基を選択的に保護する工程を含む。ヒドロキシル基の保護基としては、上記した糖化学において一般にヒドロキシル基の保護基として用いられる保護基が用いられ、また、保護基の種類はすべて同じであってもよいし、2種以上の異なった保護基を含んでいてもよい。さらに、環状アセタール型、環状ケタール型などのように複数の水酸基を1個の保護基で保護してもよい。好ましくは適当な酸を触媒として用い、環状アセタール型保護基によって、(+)−プロト−クエルシトールのトランス配置1,2−位のヒドロキシル基、およびシス配置3,4−位のヒドロキシル基をそれぞれ位置選択的に保護する方法が取られる。
【0034】
この場合、酸触媒としては例えば硫酸や塩酸などの鉱酸、パラ−トルエンスルホン酸やカンファースルホン酸などの有機酸、三フッ化ホウ素、トリメチルシリルトリフラート、イットリビウムトリフラート、スカンジウムトリフラート、塩化鉄、塩化ジルコニウムなどのルイス酸を、(+)−プロト−クエルシトールに対し0.1〜1モル当量用いることが出来るが、コスト面、収率等の点から塩酸、パラ−トルエンスルホン酸またはカンファースルホン酸を反応原料の0.05〜0.25当量用いることが好ましい。また、反応試剤としては、例えばベンズアルデヒド、α,α−ジメトキシトルエン、アセトン、2,2−ジメトキシプロパン、シクロヘキサノン、1,1−ジメトキシシクロヘキサンなどが挙げられ、特にα,α−ジメトキシトルエン、2,2−ジメトキシプロパン、1,1−ジメトキシシクロヘキサンなどの試剤を用いるならば、(+)−プロト−クエルシトールの5〜20当量加えることで反応を進行させることが出来る。さらにコスト面、収率等の点を考慮すると、2,2−ジメトキシプロパンを8〜12モル当量用いることが好ましい。反応溶媒としてはこの反応に悪影響を及ぼさない溶媒が使用できるが、例えばアセトンまたはN,N−ジメチルホルムアミドをそれぞれ独立に用いるか、混合して用いることが出来る。容量としては、アセトンを単独で用いる場合、原料である(+)−プロト−クエルシトールを1重量部としてアセトンを30〜120重量部、好ましくは50〜70重量部用い、N,N−ジメチルホルムアミドを単独またはアセトンと混合して用いる場合は5〜10重量部用いることが出来る。混合溶媒であれば、N,N−ジメチルホルムアミドとアセトンの容積比は、N,N−ジメチルホルムアミド:アセトン=1:1〜1.5:1の比率であることが好ましい。
【0035】
通常、反応温度は特に限定されず、常温(15〜25℃)、あるいは加熱(溶媒の種類等にもよるがN,N−ジメチルホルムアミドとアセトンの混合溶媒を上記の比の範囲内で用いた場合、70〜80℃が適当である)下に反応が行われる。反応終了後は、減圧濃縮、分液操作など一般的な方法により処理し、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(3)で示される目的の化合物を得ることが出来る。または特に精製を行わずに次の製造工程へ進むことも出来る。
【0036】
<製造工程A−2>
上記の製造工程で得られた一般式(3)の化合物は1,2,3,4位のヒドロキシル基が選択的に保護化されており、5位のヒドロキシル基が遊離状態で存在する。本工程ではこのヒドロキシル基を酸化し、カルボニル基へと変換する工程を含む。反応は公知の方法で行うことが出来るが、一例として挙げると、ジメチルスルホキシド中、三酸化硫黄−ピリジン錯体およびトリエチルアミンを用いて行うことが出来る。この場合、ジメチルスルホキシドは反応試剤と溶媒の役割を兼ね、製造工程A−3から未精製で反応を行う場合、出発原料である(+)−プロト−クエルシトールを1重量部として5〜15重量部、特には5〜7重量部用いることが好ましい。三酸化硫黄−ピリジン錯体は(+)−プロト−クエルシトールの1〜3当量、さらにコスト面、収率等の点から好ましくは2当量、またトリエチルアミンは三酸化硫黄−ピリジン錯体の1.5当量程度用いることが好ましい。その他、三酸化硫黄−ピリジン錯体およびトリエチルアミンの代わりに、活性化剤として無水酢酸などをジメチルホルムアミドと共に用いる方法も挙げられる。
【0037】
通常、反応温度は特に限定されないが、反応試剤を加える際に発熱することがあるので、試剤を加えるときは冷却下(−5〜5℃)で行うことが好ましい。反応は常温(15〜25℃)でも問題なく進行する。反応終了後は、分液操作など一般的な方法により処理し、さらに再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(4)で示される目的の化合物を得ることが出来る。
【0038】
<製造工程A−3>
製造工程A−2によって得られたカルボニル化合物の構造中、トランス−ジオール部分に結合している保護基を選択的に除去することにより、本工程の一般式(5)で示される目的物が得られる。保護基がアセタールである場合、適当な酸を注意深く作用させることにより、比較的強固なシス−ジオール保護基を保ったまま、トランス−ジオール保護基のみを選択的に除去することが出来る。酸としては上記にあげたような鉱酸、有機酸、ルイス酸も適用されるが、なかでもピリジニウム−パラ−トルエンスルホナートなどの弱有機酸が好ましい。これを反応原料の0.05〜0.3当量、好ましくは0.1〜0.2当量用いる。
【0039】
通常反応温度は特に限定されず、冷却下(−5〜5℃)あるいは常温(15〜25℃)下に反応が行われるが、冷却下に行うほうがシス−ジオール保護基の脱保護反応を防ぎやすいので好ましい。反応溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのプロトン性有機溶媒が適しているが、反応終了後に減圧濃縮する際の除去の容易さを考慮すると、特にメタノールが好ましい。容量は反応原料を1重量部として15〜60重量部、好ましくは25〜35重量部用いる。反応を終了させる際、例えばトリエチルアミンなどの塩基を用いて反応溶液を中和することにより、任意の時点で反応を終了することが出来る。反応終了後は、分液操作など一般的な方法により処理し、さらに再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(5)で示される目的の化合物を得ることが出来る。特に精製を行わずに次の工程に進むことも可能である。
【0040】
<製造工程A−4>
本工程は、製造工程A−3によって得られた一般式(5)化合物の構造中、遊離状態になったジオールのアシル化、さらには同時にカルボニル基をエノールエステルに変換する工程を含む。原料である一般式(5)化合物は通常のアシル化条件に付すと、ヒドロキシル基のアシル化のみならず、カルボニル基部分をエノールエステルに一段階で変換することが出来る。生成させるアシル基およびエノールエステルとしてはアセチル、ピバロイル、ベンゾイルなど一般に知られたものが挙げられるが、反応性、生成物の固化の容易性、反応試剤のコストおよび入手しやすさ等を考慮すると、なかでもベンゾイル化反応条件に付すことが好ましい。
【0041】
反応は、原料を適当なアシル化剤と共にピリジン中、またはトリエチルアミンなどの塩基を加えたN,N−ジメチルホルムアミド中で行うことが出来るが、反応終了後の除去の容易さ等を考慮するとピリジンが好ましい。溶媒の容量としては、製造工程A−3から未精製で反応を行う場合、製造工程A−3で原料として用いた一般式(4)化合物を1重量部として20〜80重量部、好ましくは35〜45重量部用いることが出来る。反応試剤としては塩化ベンゾイルや無水安息香酸が挙げられるが、反応性の高さから塩化ベンゾイルが好ましい。用いた原料に対して塩化ベンゾイルを6〜10当量、好ましくは7〜9当量作用させることで、遊離状態になったジオールのアシル化、さらには同時にカルボニル基をエノールエステルに変換し、本工程の目的物である一般式(1)で表される化合物を得ることが出来る。通常、反応温度は特に限定されないが、反応試剤を加える際に発熱することがあるので、試剤を加えるときは冷却下(−5〜5℃)で行うことが好ましい。反応は常温(15〜25℃)でも問題なく進行する。反応終了後は、分液操作など一般的な方法や、塩基性の水溶液を反応溶液に加え沈殿物を回収するなどの操作により処理し、さらに再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(1)で示される目的の化合物を得ることが出来る。
【0042】
<製造工程A−5>
本工程は、前製造工程によって得られた一般式(1)化合物中のエノールエステル基をメチレン化し、同時に図中ROで表したアシルオキシル基を脱離させる工程を含む。この反応は、一般に知られたWittig反応条件下で行うことが出来る。すなわち、原料である一般式(1)化合物をWittig反応条件に付すと、カルボニル基のメチレン化が起こるのみならず、一般式(1)中ROで表したアシルオキシル基が脱離し、結果として一般式(6)で表されるジエン化合物を得ることが出来る。
【0043】
このアシルオキシル基の脱離を伴うWittig反応に用いる試剤として、ホスホニウム塩としては例えばメチルトリフェニルホスホニウムブロミドが挙げられる。塩基としては、n−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、水素化ナトリウム、リチウムヘキサメチルジシラミド、カリウムヘキサメチルジシラミドなどの強塩基が挙げられるが、塩基の強さ、コスト等を考慮すると、なかでもn−ブチルリチウムが好ましい。上記のホスホニウム塩と塩基を反応原料に対し3〜8当量、収率および経済的な観点から、ホスホニウム塩は4〜6当量、塩基は3.5〜4.5当量の範囲で用い、特にホスホニウム塩が塩基よりも過剰となるように用いることが好ましい。反応溶媒としてはこの反応に悪影響を及ぼさない溶媒が単独または混合溶媒として使用されるが、例えばテトラヒドロフランが挙げられ、またよく乾燥しており出来るだけ水分を含まないものを用いることが好ましい。容量は反応原料を1重量部として10〜35重量部、好ましくは15〜20重量部用いる。
【0044】
通常、反応温度は冷却下(−78〜5℃)から常温(15〜25℃)までの範囲で反応が行われる。特に、反応溶液に塩基を加える際、また反応原料を加える際には冷却することが好ましい。反応終了後は、ろ過、分液操作など慣用の方法により処理し、再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(6)で示される目的の化合物を得ることが出来る。
【0045】
<製造工程A−6>
本工程は、製造工程A−5によって得られた化合物のジエン部分にハロゲン分子を1,4−付加させる工程を含む。ハロゲン分子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、実験操作としては塩素、臭素を用いることが好ましく、さらには取り扱いの容易さから、常温で液体である臭素を用いることが好ましい。ハロゲン分子は反応原料の1.0〜1.3当量、好ましくは1.0〜1.15当量用いる。反応溶媒としては、特に反応に悪影響を及ぼさないものとして四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどを用いることが出来、例えば四塩化炭素を用いる際の容量は反応原料を1重量部として30〜100重量部、好ましくは50〜60重量部用いる。ハロゲン付加の好ましい方法としては、ハロゲンを直接または用いる溶媒に希釈した状態で加える。さらに、反応原料が酸性に弱い保護基を持つ化合物である場合は、脱保護反応を防ぐために、例えば炭酸水素ナトリウムのような塩基を反応原料の1.0〜2.0当量、系中に添加することが好ましい。
【0046】
反応温度は特に限定されないが、通常、常温(15〜25℃)で行われる。反応終了後は、分液操作または窒素等の不活性ガスによるバブリングなど一般的に知られた方法により処理し、再結晶法、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(7)で示される目的の化合物を得ることが出来る。通常、得られる化合物は第2級ハロゲン基の部分に、ハロゲンがそれぞれエカトリアルとアキシャルに導入された2種類の立体異性体の混合物となる。
【0047】
<製造工程A−7>
製造工程A−6によって得られたジハロゲン化物である一般式(7)化合物の構造中、第2級ハロゲン基はそのままに、第1級ハロゲン基のみを選択的にアシルオキシル基に置換することによって、本工程の目的物である一般式(8)で示される化合物が得られる。この置換反応については、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、以下同様に安息香酸塩、イソ酪酸塩、サリチル酸塩、乳酸塩、などのカルボン酸塩を用いる方法が挙げられる。上記のなかでも、コスト面、入手のしやすさ、また製造工程A−4で述べた理由から、化合物中のアシル基として特にベンゾイル基を用いる場合は、同様にベンゾイルオキシル基を導入したほうが、後の脱保護反応やその精製時の工程が単純化され容易になることから、安息香酸塩ナトリウムまたは安息香酸カリウムを用いる方法が好ましい。反応試剤は反応原料の1.0〜1.3当量、好ましくは1.1〜1.2当量用いる。反応溶媒としては、この反応に悪影響を及ぼさない溶媒が単独または混合溶媒として使用されるが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒が用いられ、なかでも比較的除去の容易なN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。溶媒の容量としては、反応原料を1重量部として12〜45重量部、好ましくは20〜25重量部用いる。
【0048】
通常反応温度は特に限定されないが、反応は常温(15〜25℃)でも問題なく進行する。反応終了後に分液操作、カラムクロマトグラフィー等慣用の方法を用いて精製し、一般式(8)で示される目的の化合物を得ることが出来る。なお、カラムクロマトグラフィーによって精製することで、第2級ハロゲン基がエカトリアル位とアキシャル位に導入された異性体をそれぞれ単離することが出来る。
【0049】
<製造工程A−8>
続いて有機アミンを一般式(8)中の第2級ハロゲン基と立体選択的に置換させ、一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体を得ることが出来る。このようなアミノ化の方法については、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの反応に悪影響を及ぼさない適当な非プロトン性極性溶媒に当該化合物を溶解し、これに導入したい有機アミンを加えればよい。種々の有機アミンを導入することが出来るが、特にn−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミンなどのアルキルアミン、なかでもn−オクチルアミンを用いれば、前述の特許文献1または非特許文献2に記載されている医薬剤として有用な化合物を得ることが出来る。このような有機アミンは反応原料の1.5〜5当量、好ましくは2〜4当量を用いる。また、溶媒としては、比較的除去が容易であるアセトニトリルが好ましく、反応原料1重量部に対して10〜50重量部を用いる。反応温度は特に限定されないが、加熱(50〜80℃、好ましくは60〜70℃)下に反応が行われる。得られた一般式(2)化合物はシリカゲルカラムやイオン交換樹脂カラムなどを用いて精製することにより、より純度の高いものを得ることが出来る。加えて、一般式(2)化合物を適当な酸で処理することにより、その酸付加塩を製造できる。本発明で製造される一般式(2)化合物の塩としては、薬学的に許容できる酸との塩が用いられる。このような塩としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機塩、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸などの有機塩が用いられる。
【0050】
なお、所望により、一般式(2)で表されるカルバ糖アミン誘導体に対し脱保護化反応を行うことで、特に一般式(2)−Aで表されるカルバ糖アミン誘導体が得られる。脱保護化反応は慣用の方法で行うことが出来るが、一般式(2)および一般式(8)化合物中に含まれるアシル型保護基を脱保護する場合、求核性を持つ塩基を用いてもよい。好ましくはメタノール中、反応原料と0.2〜1.0当量のナトリウムメトキシドとを反応させることによって当該保護基の脱保護反応が可能である。また保護基としてアセタール型保護基を用いている場合は、適当な酸性条件下に置くことにより脱保護化反応を行うことが出来、例えば70〜90%の濃度の酢酸水溶液中で加熱下(好ましくは75〜85℃)反応させることによって当該保護基の脱保護反応が可能である。
【0051】
さらに本発明において、特にアシル型保護基の脱保護反応は前述のアミノ化反応の前後どちらでも行うことが可能であり、特に、一般式(8)化合物中のアシル型保護基を脱保護し、その後アミノ化反応を行うことによって一般式(2)−Aで表される化合物を製造することが出来る。このとき、反応原料である一般式(8)化合物には2種類の立体異性体が含まれるが、異性体をそれぞれ単離した後に、または混合物のままでも、アシル型保護基の脱保護反応に続いてアミノ化反応に付すと、いずれも等しく同一の化合物、すなわち目的物である一般式(2)−A化合物を与える。加えて、一般式(2)−Aで表されるカルバ糖アミン誘導体は、一般式(2)の化合物と同様の方法で精製することが出来、またその酸付加塩を製造できる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。実施例1〜11までの製造工程を下記<製造工程式2>に示した。
【0053】
<製造工程式2>
【0054】
【数2】

【0055】
上記において、Acはアセチル基、Bzはベンゾイル基、Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基、Octylはオクチル基、THFはテトラヒドロフラン、DMFはN,N−ジメチルホルムアミド、pyはピリジン、CSAは(±)−10−カンファースルホン酸、DMSOはジメチルスルホキシド、PPTSはピリジニウム−パラ−トルエンスルホナートを表す。
【0056】
下記実施例における反応生成物の解析における薄層クロマトグラフィーには、メルク社製シリカゲルTLC、60F254を用い、NMR構造解析には、日本電子社製JNM−ECS400装置または、日本電子社製Lambda300装置を用いた。旋光度の測定には、HORIBA社製SEPA−200装置を使用し、解析した。また、反応生成物の精製に使用したシリカゲルカラムクロマトグラフィーには、和光純薬社製Wako−gelC−300を用いた。
【0057】
<実施例1>(1R,4R,8S,9R)-6,6,11,11-Tetramethyl-5,7,10,12-tetraoxatricyclo[7,3,04,8,0]dodecan-2-one,化合物4’の合成(化合物の番号は、一般式の番号と同じ、以下同様。)
出発原料である(+)−プロト−クエルシトールを5.00g(30.5mmol)取りアセトン350mLに溶解させ、36.8mL(301mmol)の2,2−ジメトキシプロパンおよび、1.42g(6.09mmol)の(±)−10−カンファースルホン酸を加えた。室温で19時間攪拌し、30mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え10分間攪拌した。溶液をろ過して不溶物をろ別し、ろ液を減圧濃縮した。濃縮液を酢酸エチルで2回抽出した後、有機相を再び減圧濃縮した。得られた残渣を30mLのジメチルスルホキシドに加え、さらに氷浴中で冷却しながらトリエチルアミン12.7mL(91.5mmol)、続いて三酸化硫黄−ピリジン錯体を9.71g(61.0mmol)加えた。室温で4.5時間攪拌した後、30mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、150mLのジエチルエーテルで2回抽出した。有機相を水、飽和食塩水それぞれ100mLで洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた残渣を熱エタノールから再結晶し、3.94gの化合物4’を得た(2工程収率53%)。
RF = 0.47 (ヘキサン/酢酸エチル=1/1), C12H18O5 MW: 242.27(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.37, 1.45, 1.47, 1.49 (s, each 3H), 2.48 (dd, 1H, J = 10.8, 18.0 Hz), 2.98 (dd, 1H, J = 7.0, 18.0 Hz ), 3.55 (dd, 1H, J = 7.5, 10.3 Hz), 4.10 (ddd, 1H, J = 7.1, 10.8, 10.6 Hz), 4.47 (d, 1H, J = 8.4 Hz). 4.63 (dd, 1H, J = 7.5, 8.4 Hz)
【0058】
<実施例2>(1S,4R,5R,6S)-4,5-Dibenzoyloxy-2-(benzoyloxymethyl)-8,8-dimethyl-7,9-dioxabicyclo[4.3.0]non-8-ene,化合物1’の合成
10.0g(41.3mmol)の化合物4’を400 mLのメタノールに溶解し、氷浴中で冷却しながら2.07g(8.25mmol)のピリジニウム−パラ−トルエンスルホナートを加えた。4℃に冷却しながら23時間静置した後、トリエチルアミンで中和した。反応溶液を減圧濃縮した後、アセトンで2回共沸させて溶媒を除いた。
得られた残渣を400mLのピリジンに溶解させ、氷浴中で冷却しながら塩化ベンゾイル38.4mL(330mmol)を加えた。室温で21時間攪拌した後、氷を加えた飽和炭酸水素ナトリウム水溶液約500mLを注ぎ入れ、そのまま30分間攪拌した。生じた沈殿物をよく水洗した後にろ別し、エタノール/水から再結晶した。得られた結晶をトルエンおよびエタノールによって共沸させ混入した水を除き、減圧乾燥させて12.8gの化合物1’を得た(2工程収率60%)
RF = 0.35 (ヘキサン/酢酸エチル=4/1), [α]D25=-43.0o (c 1.0, CHCl3), C30H26O8 MW: 514.52(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.39, 1.63 (s, each 3H), 4.64 (dd, 1H, J = 6.0, 7.4 Hz), 5.01 (d, 1H, J = 6.0 Hz ), 5.81-5.91 (m, 2H, J = 7.5, 10.3 Hz), 5.95 (d, 1H, J = 2.6 Hz), 7.35-7.63 (m, 9H), 7.97-8.13 (m, 6H), 13C-NMR (75MHz / CDCl3) δ(ppm):26.42, 27.83, 69.44, 71.33, 72.25, 75.05, 112.23, 116.96, 128.38, 128.40, 128.60, 129.34, 129.52, 129.89, 130.27, 133.23, 133.30, 133.85, 146.34
【0059】
<実施例3>(1S,2S,6S)-2-(Benzoyloxy)-8,8-dimethyl-5-methylene-7,9-dioxabicyclo[4.3.0]non-3-ene,化合物6’の合成
メチルホスホニウムブロミド12.5g(35.0mmol)をナスフラスコに加え窒素置換した後、12mLの無水THFに懸濁し、ドライアイス−アセトン浴中で冷却した。これに14.2mL(23.4mmol)のn−BuLi(1.65Mヘキサン溶液)をシリンジでゆっくり加え、氷浴中に移して1時間攪拌した。再びドライアイス−アセトン浴中で冷却しながら、30mLの無水THFに溶解した3.00g(5.83mmol)の化合物1’をゆっくり加えた。容器を8mLの無水THFで2回リンスし、これらも加えた。4度に冷却しながら21時間攪拌した後、反応溶液をショートシリカゲルカラムに通し、ヘキサン/酢酸エチル=4/1の混合液60mL×3で溶出させた。続いて溶液を、セライト粉末を通じてろ過し、セライトを少量の酢酸エチルで洗浄した後、合わせた溶液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95/5)によって精製し、1.105gの化合物6’を得た(収率66%)。
RF = 0.45 (ヘキサン/酢酸エチル=4/1)、C17H18O4 MW: 286.32(計算値)、1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.43, 1.50 (s, each 3H), 4.37 (dd, 1H, J = 5.1, 5.5 Hz), 4.76 (d, 1H, J = 5.5 Hz), 5.43, 5.46 (each s, 2H), 5.67 (broad s, 1H), 5.78 (d, 1H, J = 9.9 Hz), 6.33 (d, 1H, J = 9.9 Hz), 7.39-7.44 ( m, 2H), 7.52-7.57 (m, 1H), 8.02-8.06 (m, 2H)
【0060】
<実施例4>(1S,4S,5R,6S)- and (1S,4R,5R,6S)-5-Benzoyloxy-4-bromo-2-(bromomethyl)-8,8-dimethyl-7,9-dioxabicyclo[4.3.0]non-2-ene,化合物7’の合成
1.36g(4.75mmol)の化合物6’を48mLの四塩化炭素に溶解させ、これに炭酸水素ナトリウム748mg(5.23mmol)を加え懸濁させた。続いて臭素280μL(5.46mmol)をゆっくり滴下して加えた。そのまま室温で30分間攪拌した後、100mLのクロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水それぞれ50mLで洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95/5→9/1)によって精製し、1.45gの化合物7’を得た(異性体混合物で収率68%、異性体比α/β=1.7/1)。
RF = 0.63 (トルエン/酢酸エチル=95/5), C17H18Br2O4 MW: 446.13(計算値), 1H-NMRより異性体混合比はα/β=1.7/1
【0061】
<実施例5>(1S,4R,5R,6S)- and (1S,4S,5R,6S)-5-Benzoyloxy-2-(benzoyloxymethyl)-4-bromo-8,8-dimethyl-7,9-dioxabicyclo[4.3.0]non-2-ene,化合物8’−α、8’−βの合成
1.41g(3.15mmol)の化合物8’を32mLのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させ、522mg(3.62mmol)の安息香酸ナトリウムを加え懸濁させた。室温で22時間攪拌した後、300mLの酢酸エチルで希釈し、100mLの水で2回、100mLの飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95/5)によって精製し、732mgの化合物8’−α(収率48%)、419mgの化合物8’−β(27%)を得た。
化合物8’-α: RF = 0.36 (ヘキサン/酢酸エチル=4/1), C24H23BrO6 MW: 487.34(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.39, 1.47 (s, each 3H), 4.73 (dd, 1H, J = 7.0, 7.0 Hz), 4.83 (d, 1H, J = 6.6 Hz), 4.91-4.94 (m, 1H), 5.03 (d, 2H, J = 24.2 Hz), 5.15 (dd, 1H, J = 3.8, 8.4 Hz), 6.22 (d, 1H, J = 5.9 Hz), 7.41-7.58 (m, 6H), 8.07-8.14 (m, 4H)
化合物8’−β:RF = 0.24 (ヘキサン/酢酸エチル=4/1), C24H23BrO6 MW: 487.34(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.41, 1.56 (s, each 3H), 4.36 (dd, 1H, J = 5.9, 7.9 Hz), 4.67 (br d, 1H, J = 7.5 Hz), 4.73 (d, 1H, J = 5.5 Hz), 4.99 (br s, 1H), 5.68 (dd, 1H, J = 7.7, 7.7 Hz), 6.17 (br d, 1H), 7.30-7.61 (m, 5H), 7.91-8.08 (m, 5H)
【0062】
<実施例6> (1S,5R,6R,7R)-9-(Hydroxymethyl)-7-bromo-2,4-dioxabicyclo[4.3.0]non-8-ene-6-ol,化合物 8’’−αの合成
実施例5で得られた二つの異性体のうち、化合物8’−αを692mg(1.40mmol)取り、14mLの無水メタノールに溶解させた。これに、1Mのナトリウムメトキシド/メタノール溶液498μL(0.49mmol)を加え、200μLのメタノールで容器をリンスしてこれも加えた。室温で2時間攪拌した後、さらに1Mナトリウムメトキシド/メタノール溶液を280μL(0.28mmol)加え、室温で30分間攪拌した。強酸性イオン交換樹脂(デュオライトC20[H]、住友ケムテックス社製)を反応溶液が中性になるまで加え、樹脂を除いた溶液を減圧濃縮した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1→2/1)によって精製し、254mgの化合物8’’−α(収率65%)を得た。
RF = 0.20 (ヘキサン/酢酸エチル=1/1), C10H15BrO4 MW: 279.13(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.34, 1.41 (s, each 3H), 3.65 (dd, 1H, J = 3.7, 7.9 Hz), 4.14-4.66 (m, 3H), 4.66-4.71 (m, 2H), 6.04 (d, 1H, J = 5.5 Hz)
【0063】
<実施例7> (1R,2S,4S,7S)-6-(Hydroxymethyl)-3,8,10-trioxatricyclo[5.3.02,4.0]decan-5-ene,化合物 8’’−βの合成
実施例5で得られた二つの異性体のうち、270mg(0.554mmol)の化合物8’−βを4.4mLの無水メタノールに溶解した。これに、1Mのナトリウムメトキシド/メタノール溶液580μL(0.58mmol)を加え、200μLのメタノールで容器をリンスしてこれも加えた。室温で1時間攪拌した後、0.1M塩酸/メタノール溶液を反応溶液のpHが中性付近になるまで加えた。溶液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1→2/1)によって精製し、48mgの化合物8’’−β(収率44%)を得た。
RF = 0.41 (ヘキサン/酢酸エチル=1/1), C10H14O4 MW: 198.22(計算値), 1H-NMR (300MHz/CDCl3) δ (ppm): 1.39 (s, 6H), 3.35 (dd, 1H, J = 3.9, 4.0 Hz), 3.54 (dd, 1H, J = 1.7, 3.7 Hz), 4.22 (br d, 2H, J = 4.8 Hz), 4.45 (d, 1H, J = 7.1 Hz), 4.79 (d, 1H, J = 6.2 Hz), 6.05 (br d, 1H, J = 2.9 Hz)
【0064】
<実施例8>(1S,2R,3S,6R)-4-(Hydroxymethyl)-6-octylaminocyclohex-4-ene-1,2,3-triol,化合物2’の合成(化合物8’’−αより)
187mg(0.670mmol)の化合物8’’−αを3.4mLのアセトニトリルに溶解させ、炭酸カリウム140mg(1.01mmol)およびn−オクチルアミン279μL(1.68mmol)を加えた。60−65℃に加温しながら22時間攪拌し、室温まで放冷した。溶液をろ過し、ろ液を減圧濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=97/3)によって精製し、目的物が含まれる画分を濃縮した。
得られた残渣を80%酢酸水溶液6.5mLに溶解し、80℃に加温しながら4時間攪拌した。反応溶液をトルエンと共沸させて減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸/クロロホルム/メタノール=10/86/4→10/60/30)によって精製し、目的物が含まれる画分を濃縮した。残渣を強酸性イオン交換樹脂(デュオライトC20[H])カラム(80%メタノール水溶液→メタノール/25%アンモニア水=8/2)によって遊離塩基とし、化合物2’を100mg(2工程収率52%)得た。
RF = 0.41 (酢酸/クロロホルム/メタノール=1/6/3), C15H29NO4 MW: 287.40(計算値), [α]D25=+1.8o (c 1.0, MeOH), 1H-NMR (300MHz/CD3OD) δ(ppm): 0.800 (t, 3H, J = 7.0 Hz), 1.21 (br, 10H), 1.43 (br, 2H), 2.42-2.48 (m, 1H), 2.60-2.69 (m, 1H), 3.00 (br d, 1H, J = 6.4 Hz), 3.24 (d, 1H, J = 8.4 Hz ), 3.34 (dd, 1H, J = 4.2, 10.2 Hz), 3.60 (dd, 1H, J = 8.2, 10.1 Hz), 4.03 (br s, 2H), 4.06 (d, 1H, J = 4.2 Hz), 5.62 (br s, 1H), 13C-NMR (75MHz/CDCl3) δ(ppm):14.40, 23.70, 28.42, 30.38, 30.60, 30.94, 32.99, 46.91, 61.80, 63.94, 68.16, 70.86, 73.89, 125.34, 140.65
【0065】
<実施例9>化合物2’の合成(化合物 8’’−βより)
化合物8’’−βを48mg(0.24mmol)取り、2.4mLのアセトニトリルに溶解させ、n−オクチルアミン100μL(0.606mmol)を加えた。60−70℃に加温しながら22時間攪拌、室温まで放冷した後、減圧濃縮した。シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=97/3)によって精製し、目的物が含まれる画分を濃縮した。
得られた残渣を80%酢酸水溶液2.5mLに溶解し、80℃に加温しながら4時間攪拌した。反応溶液をトルエンと共沸させて減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸/クロロホルム/メタノール=10/86/4→10/60/30)によって精製し、目的物が含まれる画分を濃縮した。残渣を強酸性イオン交換樹脂(デュオライトC20[H])カラム(80%メタノール水溶液→メタノール/25%アンモニア水=8/2)によって遊離塩基とし、化合物2’を33mg(2工程収率48%)得た。
【0066】
<実施例10>化合物2’の合成(化合物7’より)
1.07g(2.39mmol)の化合物7’を24mLのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、安息香酸ナトリウム396mg(2.75mmol)を加えた。室温で22時間攪拌した後、反応溶液を240mLの酢酸エチルで希釈し、これを80mLの水で2回、80mLの飽和食塩水で1回洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮した。
得られた残渣を無水メタノール20mLに溶解させ、これに1.2mLの1Mナトリウムメトキシド/メタノール溶液を加えた。室温で2時間攪拌し、強酸性イオン交換樹脂(デュオライトC20[H])を加え反応溶液を中和し、樹脂を除いた後に減圧濃縮した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1→2/1)によって精製し、化合物8’’−αを237mg、化合物8’’−βを91mg、さらに化合物8’−βのエステル基がすべて脱保護された化合物を86mg得た。この化合物をメタノールに溶解し、強塩基性イオン交換樹脂(デュオライトA116[OH−]、住友ケムテックス社製)カラムを数回通過させた後、溶液を減圧濃縮すると58mgの化合物8’’−βが得られた。
得られた化合物8’’−αおよび化合物8’’−βを合わせ、16mLのアセトニトリルに溶解し、炭酸カリウム176mg(1.27mmol)、続いてn−オクチルアミン663μL(4.00mmol)を加えた。60−70℃に加温しながら20時間攪拌した後、室温まで放冷した。溶液をろ過し、ろ液を減圧濃縮した後、得られた残渣を80%酢酸水溶液16mLに溶解し、80℃に加温しながら4時間攪拌した。反応溶液をトルエンと共沸させて減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸/クロロホルム/メタノール=10/86/4→10/60/30)によって精製し、目的物が含まれる画分を濃縮した。残渣を強酸性イオン交換樹脂(デュオライトC20[H])カラム(80%メタノール水溶液→メタノール/25%アンモニア水=8/2)によって遊離塩基とし、化合物2’を155mg(7’より4工程収率23%)得た。
【0067】
<実施例11>(1S,2R,3S,6R)-4-(Hydroxymethyl)-6-octylaminocyclohex-4-ene-1,2,3-triol hydrochloride,化合物2’’の合成
化合物2’を78mg(0.27mmol)取り、1Nの塩酸水溶液6mLに溶解させた。エタノールで数回共沸し、減圧濃縮した。減圧乾燥後、86mgの化合物2’’が得られた(収率98%)。
RF = 0.41 (酢酸/クロロホルム/メタノール=1/6/3), C15H30ClNO4 MW: 323.86(計算値), [α]D25=+9.8o (c 1.0, MeOH), 1H-NMR (300MHz/D2O) δ(ppm): 0.894 (t, 3H, J = 6.4 Hz), 1.31 (br, 10H), 1.72-2.78 (br, 2H), 3.09-3.28 (m, 2H), 3.72 (ddd, 1H, J = 1.5, 3.7, 10.0 Hz), 3.90 (br d, 1H, J = 8.6 Hz), 4.00 (dd, 1H, J = 8.9. 10.1 Hz ), 4.24 (br s, 2H), 4.31 (d, 1H, J = 4.0 Hz), 5.82 (d, 1H, J = 1.3 Hz), 13C-NMR (75MHz/D2O, dioxane as internal reference) δ(ppm):13.82, 22.38, 26.07, 26.12, 28.50, 28.57, 31.40, 44.98, 60.17, 62.18, 66.38, 67.23, 71.47, 117.09, 144.22

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される絶対配置を有することを特徴とする新規カルバ糖前駆体。
【化1】

[式中、R〜Rの一部または全部はそれぞれ独立に水素原子もしくはヒドロキシル基の保護基を示す。保護基としては、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを示す。RおよびRは炭素数2〜15のアシル基を示す。
【請求項2】
(+)−プロト−クエルシトールを出発原料とし、ヒドロキシル基の保護化、次いでヒドロキシル基の酸化を行い、得られた誘導体に対し脱保護化、さらにアシル化することによって得られる請求項1に記載の一般式(1)で表される新規カルバ糖前駆体の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるカルバ糖前駆体をWittig反応条件に付し、生じたジエンに対しハロゲン付加を行い、続いて置換反応によってアシルオキシル基を導入し、その後アルキルアミノ基を導入することを特徴とする一般式(2)
【化2】

[式中、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数2〜15のアシル基、炭素数2〜15のアリル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を表す。ただし、RおよびRは双方が同時に水素原子であることはない。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子またはヒドロキシル基の保護基を示す。保護基として、炭素数2〜15のアシル型保護基、炭素数1〜15のエーテル型保護基、炭素数3〜15のアセタール型保護基、炭素数3〜15のシリルエーテル型保護基、炭素数7〜15のアラルキル型保護基、または炭素数3〜15のアリル型保護基などを表す。また、窒素原子上に酸付加した塩であってもよい。]
で表されるカルバ糖アミン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−158524(P2012−158524A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17243(P2011−17243)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(511026289)
【Fターム(参考)】