説明

新規グルコース−6−リン酸定量方法および定量試薬

【課題】グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを使用しないグルコース−6−リン酸の新規な定量方法、定量試薬及び定量試薬キットを提供すること。
【解決手段】2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いてグルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースとリン酸へと変換する工程を含む、グルコース−6−リン酸の定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース−6−リン酸の定量方法、定量試薬、及び定量試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞内、組織内または生体内の全代謝物を研究するメタボロミクスにおいて、特定の代謝産物や化合物の測定法の重要性が高まっており、さらには、このような測定手法は研究分野に限らず、臨床診断などの医療現場や食品の栄養素分析と非常に幅広い分野への適応が求められてきた。それぞれの試料は様々な物質が混在していることから、複数の手法による確認が重要とされ、多様な測定方法が求められていることはもちろんであるが、既存手法には大きな問題を抱えるものもあり、まったく新しい手法の創出が求められている分析領域も多く存在している。
【0003】
例えば、グルコース−6−リン酸の既存測定方法としては、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを利用した手法が挙げられる(特許文献1)。前記手法では、NAD(P)+を共存させたグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼにより、グルコース−6−リン酸は酸化されて6−ホスホグルコン酸になり、NAD(P)+はNAD(P)Hとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−59566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の手法では340nmの吸収強度の変化を分析することから、試料中に340nmに吸収を持つ夾雑物が混在していた場合、グルコース−6−リン酸を測定することは困難であり、また、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼの阻害物質が混入していてももちろん大きな問題となる。さらには、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼのNAD+およびNADP+の選択性や、安定性なども無視することができないケースも多い。
本発明は、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを使用しないグルコース−6−リン酸の新規な定量方法、定量試薬、及び定量試薬キットを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、DOI合成酵素が高い基質特異性および安定性を有することを発見し、且つ、簡便なアッセイ方法と組み合わせることが可能であること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[10]に示すグルコース−6−リン酸の定量方法、定量試薬、定量試薬キット及び定量試薬キットに関するものである。
[1] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いてグルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースとリン酸へと変換する工程を含む、グルコース−6−リン酸の定量方法。
[2] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いてグルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースとリン酸へと変換する工程を含む、グルコース−6−リン酸に導くことが可能である物質又は補酵素の定量方法。
[3] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、グルコース−1−リン酸および/又はフルクトース−6−リン酸および/またはフルクトース−1,6−ビスリン酸に作用しない酵素である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、安定温度範囲が少なくとも46℃まで安定である耐熱性酵素である、[1]から[3]の何れかに記載の方法。
[5] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、pH6.0〜 8.0で安定な酵素である、[1]から[4]の何れかに記載の方法。
[6] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が下記の特性を有する酵素である、[1]から[2]の何れかに記載の方法。
(1)作用:本酵素は、グルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースへと変換する機能を有する。
(2)補酵素としてNAD+を利用
(3)至適pH範囲:7.0〜 7.7
(4)至適温度範囲:55 〜 70 ℃
(5)分子量:39000〜42000
(6)補因子:Co2+イオンの添加により活性向上
(7)安定温度範囲:少なくとも46℃ まで安定である。
(8)安定pH範囲:少なくとも6.0〜 8.0の範囲で安定である。
(9)比活性:1.0μmol/min/mg以上(反応温度65℃)
(10)グルコース−1−リン酸および/又はフルクトース−6−リン酸および/またはフルクトース−1,6−ビスリン酸に作用しない。
[7] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素である、[1]から[2]の何れかに記載の方法。
[8] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、配列番号2、4、6、8、10又は12で示されるアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸の欠失、付加、及び/又は置換を含み、配列番号2、4、6、8、10又は12で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有して且つ、高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を持つ2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素である、[1]から[6]の何れかに記載の方法。
[9] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を含む、[1]から[8]の何れかに記載の定量方法で使用するためのグルコース−6−リン酸定量試薬。
[10] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を含む、[1]から[8]の何れかに記載の定量方法で使用するためのグルコース−6−リン酸定量試薬キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を用いると、信頼性の高いグルコース−6−リン酸の測定データを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の至適pH範囲を示す(実施例3)。
【図2】図2は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定pH範囲を示す(実施例3)。
【図3】図3は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の至適温度範囲を示す(実施例3)。
【図4】図4は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定温度範囲を示す(実施例3)。
【図5】図5は、精製既知DOI合成酵素(BtrC)の安定温度範囲を示す(比較例1)。
【図6】図6は、グルコース−6−リン酸初発濃度と、反応後に遊離した無機リン酸濃度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
[DOI合成酵素]
本発明を実施するための形態(以下、本実施の形態という)のDOI合成酵素は、下記の特性を有し、
(1)作用:本酵素は、グルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソース(以下、DOIとする)へと変換する機能を有する。
また、下記に示す一部またはすべての特性を有する。
(2)補酵素としてNAD+を利用
(3)至適pH範囲:7.0〜 7.7
(4)至適温度範囲:55 〜 70 ℃
(5)分子量:39000〜42000
(6)補因子:Co2+イオンの添加により活性向上
さらには、下記に示す一部またはすべての特性を有することが好ましい。
(7)安定温度範囲:少なくとも46℃ まで安定である。
(8)安定pH範囲:少なくとも6.0〜 8.0の範囲で安定である。
(9)比活性:1.0μmol/min/mg以上(反応温度65℃)
(10)グルコース−1−リン酸および/又はフルクトース−6−リン酸および/またはフルクトース−1,6−ビスリン酸に作用しない。
【0011】
本実施の形態においてDOI合成酵素のアミノ酸配列に関しては特に限定されないが、配列番号2、4、6、8、10又は12に示す新規DOI合成酵素は、耐熱性やpH安定性などの面で優れた性能を有することからより好ましい。また、DOI合成酵素の機能が維持する限りは、これらのアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよく、例えば、配列番号2、4、6、8、10又は12に示されるアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性の範囲内で、配列番号2、4、6、8、10又は12で表されるアミノ酸配列の1個または複数個(例えば1から50個、好ましくは1から30個、さらに好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、さらに好ましくは1から3個)のアミノ酸の欠失、付加、及び/又は置換してもよい。
【0012】
DOI合成酵素中のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異を生じさせる方法としては、PCR法、エラープローンPCR法、DNAシャッフリング法やキメラ酵素を作製する手法等の公知の方法が利用できる。
【0013】
[DOI合成酵素遺伝子]
本実施の形態のDOI合成酵素遺伝子は、メタゲノムや微生物から単離・抽出した天然のものでも良く、また、その塩基配列に従ってPCR法、人工合成法等の公知の方法によって合成したものでも良い。また、新規DOI酵素キメラ遺伝子の作成には、既知DOI合成酵素遺伝子を組み合わせてもよく、例示される遺伝子としてはPaenibacillus sp.NBRC13157株、Streptoalloteichus hindustanus JCM3268、Streptomyces fradiae NBRC12773株などに由来するDOI合成酵素遺伝子が挙げられる。
【0014】
配列番号1、3、5、7、9又は11に新規DOI合成酵素遺伝子の塩基配列を例示するが、これらに限定されることなく上記記載のDOI合成酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDOI合成酵素遺伝子を用いても良い。
【0015】
[組換えベクター及び形質転換体]
本実施の形態の組換えベクターは、プラスミド等の公知のベクターに本実施の形態の遺伝子を連結(挿入)して得ることができる。前記ベクターは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。
【0016】
前記プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば pBR322, pBR325, pUC18, pUC119, pTrcHis, pBlueBacHis 等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば pUB110, pTP5 等)、酵母由来のプラスミド(例えば YEp13, YEp24, YCp50, pYE52 等)などが、ファージ DNAとしてはλファージ等が挙げられる。
【0017】
前記ベクターへの本実施の形態の遺伝子の挿入は、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が採用される。
【0018】
宿主内で外来遺伝子を発現させるためには、構造遺伝子の前に、適当なプロモーターを配置させる必要がある。前記プロモーターは特に限定されず、宿主内で機能することが知られている任意のものを用いることができる。なおプロモーターについては、後述する形質転換体において、宿主ごとに詳述する。また、必要であればエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、ターミネーター配列等を配置させてもよい。
【0019】
本実施の形態の形質転換体は、本実施の形態の組換えベクターを目的遺伝子が発現しうるように宿主中に導入することによって得ることができる。ここで宿主としては、本実施の形態のDNAを発現できるものであれば特に限定されず、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロテイ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、またサッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、その他COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf19、Sf21等の昆虫細胞を挙げることができる。
【0020】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、本実施の形態の組換えベクターが各細菌中で自律複製可能であるとともにプロモーター、リボゾーム結合配列、本実施の形態遺伝子、転写終結配列により構成されていることが望ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていても良い。大腸菌としてはエッシェリヒア・コリ(E. coli)K12、DH1、DH10B(Invitrogen社)、BL21-CodonPlus(DE3)-RIL(ストラタジーン社)、TOP10F等が挙げられ、枯草菌としてはバチルス・ズブチリス(B. subtilis)MI114、207-21 等が挙げられる。
【0021】
プロモーターとしては大腸菌等の宿主で機能するものであれば特に限定されず、例えばgapAプロモーター、gadAプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌由来のプロモーターや、T7プロモーター等のファージ由来のプロモーターを用いることができる。
【0022】
細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入できる方法であれば特に限定されないが、例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, SN et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69 : 2110 (1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0023】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セルビシエ(S. cerevisiae)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等が用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母で発現しうるもの、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα 1プロモーター、PHO5プロモーター、AOXプロモーター等を挙げることができる。
【0024】
酵母への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. : Methods. Enzymol., 194 : 180 (1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al. : Proc Natl. Acad. Sci. USA, 75 : 1929 (1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H. : J. Bacteriol., 153 : 163 (1983))等を挙げることができる。
【0025】
[DOI合成酵素の生産]
本実施の形態の酵素は、本実施の形態の形質転換体を適当な培地で培養し、その培養物から該酵素活性を有するタンパク質を採取することによって得ることができる。本実施の形態の形質転換体を培養する方法は、宿主に応じて決定すればよい。例えば、大腸菌や酵母等の微生物を宿主とする形質転換体の場合は、微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いても良い。
【0026】
培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加しても良い。プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加しても良い。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、インドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加しても良い。
【0027】
培養後、本実施の形態の酵素タンパク質が菌体内または細胞内に生産される場合は、細胞を破砕する。一方、本実施の形態のタンパク質が菌体外または細胞外に分泌される場合は、培養液をそのまま用いるか、遠心分離等によって回収する。
【0028】
タンパク質の単離・精製には、例えば硫安沈澱、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独であるいは適宜組み合わせて用いればよい。
【0029】
また本実施の形態のDOI合成酵素活性は、基質となり得る適当なグルコース−6−リン酸を含む反応液に該酵素を添加し、生成するDOIを検出する方法によって確認することができる。生成するDOIの確認は、非特許文献(Journal of Biotechnology 129, 502-509 (2007))に記載の方法などを用いることができる。
【0030】
DOI合成酵素活性を測定する方法としては、例えば、1000mMグルコース−6−リン酸溶液20μL、100mMNAD+溶液50μL、100mM塩化コバルト六水和物溶液50μLを含むpH7.0の150mMBis−Tris緩衝液900μLに適当な濃度のDOI合成酵素液100μLを混合し、5〜60分間程度反応させた後、酵素を失活させ、DOIを定量する方法などが挙げられる。
【0031】
精製されたDOI合成酵素の精製度の確認や分子量の測定は、電気泳動やゲル濾過クロマトグラフィー等によって行うことができる。また、酵素の至適温度範囲あるいは至適pH範囲は、反応温度あるいは反応pHを変化させて酵素活性を測定すればよい。さらにDOI合成酵素を種々のpH条件下又は温度条件下に一定時間さらした後に酵素活性を測定することにより、安定pH範囲及び安定温度範囲を調べることができる。例えば、各pH条件におけるDOI合成酵素の評価には、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜8.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0)を用いることができる。
【0032】
至適pH範囲とは、最大活性を100とするときの活性値が70以上の範囲であり、安定pH範囲とは最大活性を100とするときの活性値が70以上の範囲である。また、至適温度範囲とは、最大活性を100とするときの活性値が50以上の範囲であり、安定温度範囲は最大活性を100とするときの活性値が50以上の範囲である。
本実施の形態におけるDOI合成酵素の高温安定性とは、安定温度範囲が46℃以下、より好ましくは、50℃以下、さらにより好ましくは60℃以下、さらに特に好ましくは95℃以下まで安定なことである。高温安定性を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素としては、例えば、50℃で1時間インキュベートした後の残存酵素活性(最大活性を100とする相対活性)が50以上である酵素を選抜することができる。
本実施の形態における広範囲pH安定性を持つDOI合成酵素は、安定pH範囲が少なくともpH6.0〜7.0、好ましくはpH6.0〜7.4、より好ましくはpH6.0〜7.7、より好ましくはpH6.0〜8.0、特により好ましくはpH4.0〜9.0である特性を有する。
【0033】
本実施の形態によれば、前述の酵素を用いる際には、本実施の形態の酵素の作用を阻害しないかぎり、特別に精製程度等は限定されず、精製された本実施の形態の酵素の他、その酵素含有物を用いてもよい。
【0034】
[DOI合成酵素を含む定量試薬とその使用]
本実施の形態においては、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いてグルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースとリン酸へと変換することによって、グルコース−6−リン酸を定量することができる。即ち、本実施の形態によれば、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を含むグルコース−6−リン酸定量試薬が提供される。
【0035】
本実施の形態の定量試薬を用いて定量しうるグルコース−6−リン酸関連物質や補酵素としては、DOI合成酵素の基質であるグルコース−6−リン酸を導けるものであればいずれでもよいが、定量の対象となるグルコース関連物質や補酵素としては、例えばラクトース、マルトース、グリコーゲン、スターチ、シュークロース、グルコース、フルクトース、マンノース、クレアチンリン酸、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸、マルトース−6−リン酸、フルクトース−2−リン酸、L−ソルボース−6−リン酸、グルコース−1−リン酸、NAD、NADP、ウリジン三リン酸、アデノシン三リン酸、ウリジン二リン酸グルコース等が挙げられる。また、活性測定の対象となるグルコース関連酵素としては、例えばクレアチンキナーゼ、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、アミログルコシダーゼ、インベルターゼ、トランスアルドラーゼ、ガラクトース−1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、フルクトースジフォスファターゼ、グルコシダーゼ、アミラーゼなどが挙げられる。
【0036】
さらに本実施の形態によれば、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を含む、グルコース−6−リン酸定量試薬キットが提供される。
該グルコース−6−リン酸定量試薬キットには、緩衝剤としてトリス−塩酸緩衝剤、イミダゾール−酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グッドバッファー等の0.005〜2mol/l溶液が用いられ、他の酵素、発色剤および界面活性剤等が含有されていてもよい。
【0037】
該定量試薬キットに含有されてもよい他の酵素としては、前記グルコース関連酵素の他に、例えばヌクレオシドジホスホキナーゼ、ペルオキシダーゼ、NAD(P)Hオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、カタラーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ウリカーゼ等が挙げられる。発色剤としては、NAD(P)Hを直接発色させる場合にはテトラゾリウム塩、例えばテトラゾリウムブルー、ニトロテトラゾリウムブルー等が挙げられ、過酸化水素に導いて発色させる場合にはペルオキシダーゼの存在下でo−ジアニシジン、4−メトキシ−1−ナフトール、2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン)−6−スルホン酸等の単独試薬、4−アミノアンチピリンとフェノール、p−クロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール等のフェノール系化合物、N,N −ジメチルアニリン、N,N −ジエチルアニリン等のアニリン系化合物またはN,N −ジエチル−m−トルイジン等のトルイジン系化合物との組み合わせ試薬、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノヒドラゾンとN,N −ジメチルアニリンとの組み合わせ試薬、特開昭57−29297号公報あるいは特開昭59−74713号公報に記載の化合物等が挙げられ、界面活性剤としては、ポリエチレングリコール−モノ−p−イソ−オクチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0038】
該定量試薬キットは液体の状態ばかりでなく、全成分あるいは一部成分が凍結乾燥品の形で供給され、溶解液で該凍結乾燥品を溶解して最終的に作製されても構わない。この際に該定量試薬キットは、凍結乾燥品に含有されていても溶解液の側に含有されていても更にその両者に含有されていても構わない。
【0039】
該定量試薬組成物および該定量試薬キットを用いた場合、DOIおよびリン酸が系内に生成するがこれらの濃度を定量することにより対象物質の濃度等を同定することができる。該定量試薬組成物および該定量試薬キットのグルコース−6−リン酸転換率は50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また、該定量試薬組成物および該定量試薬キットのグルコース−1−リン酸およびフルクトース−6−リン酸などの脱リン酸活性は、グルコース−6−リン酸を基質としたときの活性の1/10以下、より好ましくは1/100以下である。DOIを定量する方法としては、例えば、非特許文献(Journal of Biotechnology 129, 502-509 (2007))に記載の方法が挙げられるが、好ましい簡便な手法としては、グルコース−6−リン酸からDOIを生成する際に遊離するリン酸を、p−メチルアミノフェノール還元法により測定する方法が挙げられる。本リン酸測定法は、すでに測定試薬キットとして市販されており(和光純薬工業株式会社、商品名:ホスファC−テストワコー)、その利用性は非常に高い。測定原理であるが、試料中の生成無機リン酸は添加する発色液中のモリブデン酸塩に結合してリンモリブデン酸となり、さらに硫酸p−メチルアミノフェノールにより還元されモリブデンブルーとして青色を呈する。この青色の吸光度を測定することにより試料中の無機リン濃度を求めることができ、簡易的には目視での判断も可能である。
【0040】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
(1)染色体DNAの調製
常法に従ってPaenibacillus sp.NBRC13157株の染色体DNAを調製した。
Paenibacillus sp.NBRC13157株をNR寒天プレート(1% Bacto Tryptone、0.2% Yeast Extract、1% エルリッヒカツオエキス、1.5% Bacto Agar、pH7.0)で、30℃、1日間培養してコロニーを形成させた。その1白金耳を、NR培地(1% Bacto Tryptone、0.2% Yeast Extract、1% エルリッヒカツオエキス、pH7.0)30mLを150mL三角フラスコに分注したものに接種して、30℃、180rpmで1日間培養した。この培養液を、4℃で、12,000g、1分間遠心分離して上清を除去し、菌体を回収した。
【0042】
得られた菌体をLysisバッファー(50mM Tris−HCl(pH 8.0)、20mM EDTA、50mM グルコース)に懸濁し、よく洗浄した。遠心分離して菌体を回収した後、Lysisバッファーに再懸濁し、これにリゾチームを加え37℃で45分間インキュベートした。次いでSDSとRNaseを添加し、37℃で45分間インキュベートした。そ\\Proteinase Kを添加し、50℃で60分間穏やかに振盪した。ここで得られた溶液をフェノール−クロロホルム、クロロホルムで処理後、エタノール沈殿し、析出した核酸をガラスピペットに巻きつけて回収した。この核酸を70%エタノールで洗浄後、乾燥し、TEに再溶解した。この操作により、約100μgの染色体DNAを調製した。
【0043】
(2)DOI合成酵素遺伝子の単離
上記(1)において調製した染色体DNAからDOI合成酵素遺伝子を増幅するためのPCRプライマーとして、センスプライマーは配列番号15の配列を有するオリゴDNAを、アンチセンスプライマーは配列番号16の配列を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。
【0044】
ここで得られたPCRプライマーを用い、上記(1)において調製した染色体DNAを鋳型としてPCR法によるDOI合成酵素遺伝子の増幅を行い、1107塩基対からなるPCR産物を取得した。
ここで得られたPCR産物の遺伝子配列をDNAシークエンサーで解析することで確認し、配列番号13の塩基配列を有する既知DOI合成酵素(BtrC)遺伝子を得た。また、配列番号14には、既知DOI合成酵素(BtrC)のアミノ酸配列を示した。
【0045】
(3)DOI合成酵素遺伝子の発現プラスミドベクターの構築及び形質転換
上記(2)で取得したPCR産物の平滑末端化、リン酸化を行い、pUC19に大腸菌由来のgapAプロモーター、SD配列、ターミネーターを連結したプラスミドにライゲーションした。このプラスミドベクターには大腸菌中で外来遺伝子として連結された遺伝子を効率的に転写できるgapAプロモーターが導入されており、グルコースを含む培地で組換え微生物を培養した場合においてもDOI合成酵素遺伝子を効率的に発現・製造させることができる。
ここで得られたプラスミドベクターを、塩化カルシウム法で調製した大腸菌JM109株のコンピテントセルにヒートショック法で形質転換し、組換え微生物を作製した。
【0046】
(4)耐熱性DOI合成酵素遺伝子の取得
上記(3)で取得したプラスミドベクターに対し、常法による変異導入を行うことで、配列番号1(DOIS−1)、配列番号3(DOIS−2)、配列番号5(DOIS−3)、配列番号7(DOIS−4)に記載の耐熱性DOI合成酵素遺伝子を得ることができる。また、これらの遺伝子配列に対応するそれぞれのアミノ酸配列を配列番号2、4、6又は8に示した。ここで取得したDOI合成酵素遺伝子についても(3)と同様に形質転換体の取得を行った。
【0047】
(5)広範囲pH安定型DOI合成酵素遺伝子の取得
上記(3)で取得したプラスミドベクターに対し、常法による変異導入を行うことで、配列番号9(DOIS−5)、配列番号11(DOIS−6)、に記載の広範囲pH安定型DOI合成酵素遺伝子を得ることができる。また、これらの遺伝子配列に対応するそれぞれのアミノ酸配列を配列番号10及び12に示した。
【0048】
[実施例2]
[精製酵素の取得]
実施例1で作製したDOI合成酵素(DOIS−1)の形質転換体を100mg/Lのアンピシリンを含むLBプレートで、37℃、一日間培養して、コロニーを形成させた。
次いで100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地30mLを150mL容の三角フラスコに入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、3〜8時間、OD(600nm)が0.5程度になるまで180rpmで回転振盪培養を行い、これを本培養の前培養液とした。
【0049】
500mL容の三角フラスコ36本に、2g/Lのグルコースと100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地を100mLずつ入れ、それぞれの三角フラスコに0.5mLの前培養液を添加し、37℃で、16時間、180rpmで回転振盪培養を行った。
次いでこの培養液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で数回洗浄しながら菌体を回収した。回収した菌体は、−80℃で凍結保存した。
【0050】
この凍結保存菌体を0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で懸濁し、リゾチーム(Sigma社製 卵白由来)を180mgとデオキシリボヌクレアーゼI(WaKo社製 ウシ由来 組換え体溶液)を60μL添加して、37℃で、5時間、120rpmで振盪し、菌体破砕を行った。
菌体破砕後の溶液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して菌体残渣を除去し、上清を回収した。
【0051】
この上清に硫酸アンモニウムを加えて30%飽和とし、4℃でしばらく攪拌した後に、生じた沈殿を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して除去し、上清を回収した。
この上清にさらに硫酸アンモニウムを加えて40.0%飽和とし、4℃でしばらく攪拌した後に、生じた沈殿を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、沈殿を回収した。次いでこの沈殿を0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)に溶解させた。
【0052】
この溶解液を4℃で、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)を加え、再度、濃縮するという脱塩操作を2〜3回繰り返した。
上記で得られた酵素溶液を、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「DEAE Sepharose FF」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、0〜0.4Mの塩化ナトリウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0053】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、10重量%の硫酸アンモニウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で懸濁し、10重量%の硫酸アンモニウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「HiTrap Phenyl FF (high sub)」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、10〜0重量%の硫酸アンモニウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「MonoQ 5/50 GL」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、0〜0.2Mの塩化ナトリウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0054】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物と0.1MNaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「HiLoad 16/60 Superdex 200」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に充填した後、同様の緩衝液で溶出を行った。
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、精製DOI合成酵素(DOIS−1)を得た。
【0055】
上記、一連の精製酵素取得実験と同様にして、精製DOI合成酵素(DOIS−2)、精製DOI合成酵素(DOIS−3)、精製既知DOI合成酵素(BtrC)を取得した。
【0056】
[実施例3]
[新規DOI合成酵素の評価]
実施例2で得られた精製DOI合成酵素を用いて、その作用に関する実験を行った。
(1)至適pH範囲
各pHにおける活性測定では、反応液に精製DOI合成酵素(DOIS−1)を適量添加し、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mM、各種緩衝液が100mMとなるようにして反応液を調整した。緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH6.0〜7.7)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0) を使用した。反応温度は30℃とし、生成するDOIを定量することで活性を測定した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図1に示す。本発明酵素における至適pH範囲は、pH7.0〜 7.7であった。
【0057】
(2)安定pH範囲
pH5.5〜8.0の範囲の100mMの緩衝液を用いて、精製DOI合成酵素(DOIS−1)を各pHで30℃、60分間インキュベートし、その残存酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜8.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0) を使用した。
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図2に示した。本酵素の安定pH範囲は、pH6.0〜 8.0であり、非常に幅広いpH範囲で安定であった。精製DOI合成酵素(DOIS−2)および精製DOI合成酵素(DOIS−3)も同様の結果を示した。
【0058】
(3)至適温度範囲
反応温度10〜70℃の各反応温度条件において、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の酵素活性測定を実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図3に示す。至適温度範囲は55〜70℃であり、反応温度65℃における比活性は1.8μmol(DOI)/min/mg(酵素)と非常に高い値を示した。
【0059】
(4)安定温度範囲
精製DOI合成酵素(DOIS−1)を添加して且つ、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなるように調整した100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)を、温度範囲25〜60℃の各温度で1時間インキュベートした後、それぞれの残存酵素活性を測定した。
【0060】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図4に示した。精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定温度範囲は50℃以下であり、精製DOI合成酵素(DOIS−2)および精製DOI合成酵素(DOIS−3)も同様の結果を示した。これらの高温安定性は、既知酵素にはない新規特性であった。
【0061】
また、安定化剤として作用することが知られているNAD+およびコバルトイオン非存在化でインキュベートした安定温度範囲試験を実施したところ、精製DOI合成酵素(DOIS−1)のインキュベート温度46℃における相対活性は38、インキュベート温度42℃における相対活性は89、インキュベート温度37℃における相対活性は100であった。
【0062】
(5)分子量
分離ゲル濃度が10%の「レディーゲルJ」(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量を求めたところ、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の分子量は約40,000であり、アミノ酸配列から推定される分子量40,656とほぼ一致した。
【0063】
[比較例1]
[既知DOI合成酵素の評価]
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する精製既知DOI合成酵素(BtrC)に関して、実施例3−(4)安定温度範囲と同様にして以下実験を行った。
精製既知DOI合成酵素(BtrC)を添加して且つ、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなるように調整した100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)を、温度範囲25〜60℃の各温度で1時間インキュベートした後、それぞれの残存酵素活性を測定した。
【0064】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図5に示した。精製既知DOI合成酵素(BtrC)の安定温度範囲は42℃以下であり、46℃での相対活性は23、50℃での相対活性は0と著しく低い熱安定性を示した。
【0065】
また、安定化剤として作用することが知られているNAD+およびコバルトイオン非存在化でインキュベートした安定温度範囲試験を実施したところ、精製既知DOI合成酵素(BtrC)のインキュベート温度42℃および46℃における相対活性は0、インキュベート温度37℃における相対活性は14であった。本実験からも既存酵素が著しく低い熱安定性を有することが示された。
【0066】
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する精製既知DOI合成酵素(BtrC)に関して、実施例3−(2)安定pH範囲と同様にして以下実験を行った。
精製既知DOI合成酵素(BtrC)を各pHで30℃、60分間インキュベートし、その残存酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜7.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0) を使用した。
【0067】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求めたところ、pH6における相対活性は27と非常に低い値であった。
【0068】
[実施例4]
[グルコース−6−リン酸の定量]
各種濃度(0.02、0.1、0.5、1、3,5、10mM)のグルコース−6−リン酸を含有した試料とDOI合成酵素を含有する定量試薬組成物を1:1で混合し、グルコース−6−リン酸の定量試験を実施した。定量試薬組成物は、適量のDOI合成酵素を含有し、且つ、10mM NAD+(オリエンタル酵母製)、10mM 塩化コバルト六水和物、150mM Bis−Tris緩衝液(pH7.0)を含んでなる。反応温度を30℃とし、それぞれのグルコース−6−リン酸濃度条件において十分な時間反応させた。反応後、遊離する無機リン酸濃度を市販の試薬キット(和光純薬工業株式会社、商品名:ホスファC−テストワコー)で測定したところ、誤差5%の範囲内でグルコース−6−リン酸初発濃度と対応した。グルコース−6−リン酸初発濃度と、反応後に遊離した無機リン酸濃度との関係を図6に示す。一方、上記グルコース−6−リン酸と同様の条件で、フルクトース−6−リン酸およびグルコース−1−リン酸の反応試験を実施したところ、遊離の生成無機リン酸は検出されなかった(グルコース−6−リン酸を基質とした場合の活性の11/100以下)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、研究分野、臨床診断などの医療現場および食品の栄養素分析と非常に幅広い分野で有効利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いてグルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースとリン酸へと変換する工程を含む、グルコース−6−リン酸の定量方法。
【請求項2】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いてグルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースとリン酸へと変換する工程を含む、グルコース−6−リン酸に導くことが可能である物質又は補酵素の定量方法。
【請求項3】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、グルコース−1−リン酸および/又はフルクトース−6−リン酸および/またはフルクトース−1,6−ビスリン酸に作用しない酵素である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、安定温度範囲が少なくとも46℃まで安定である耐熱性酵素である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、pH6.0〜 8.0で安定な酵素である、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が下記の特性を有する酵素である、請求項1から2の何れかに記載の方法。
(1)作用:本酵素は、グルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースへと変換する機能を有する。
(2)補酵素としてNAD+を利用
(3)至適pH範囲:7.0〜 7.7
(4)至適温度範囲:55 〜 70 ℃
(5)分子量:39000〜42000
(6)補因子:Co2+イオンの添加により活性向上
(7)安定温度範囲:少なくとも46℃ まで安定である。
(8)安定pH範囲:6.0〜 8.0
(9)比活性:1.0μmol/min/mg以上(反応温度65℃)
(10)グルコース−1−リン酸および/又はフルクトース−6−リン酸および/またはフルクトース−1,6−ビスリン酸に作用しない。
【請求項7】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素である、請求項1から2の何れかに記載の方法。
【請求項8】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、配列番号2、4、6、8、10又は12で示されるアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸の欠失、付加、及び/又は置換を含み、配列番号2、4、6、8、10又は12で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有して且つ、高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を持つ2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素である、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項9】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を含む、請求項1から8の何れかに記載の定量方法で使用するためのグルコース−6−リン酸定量試薬。
【請求項10】
2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を含む、請求項1から8の何れかに記載の定量方法で使用するためのグルコース−6−リン酸定量試薬キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−226976(P2010−226976A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75807(P2009−75807)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】