説明

新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制方法及びひび割れ抑制剤、並びに既設コンクリートのひび割れ閉塞方法及びひび割れ閉塞剤

【課題】凍結融解に強く寒冷地でも使用可能であり、内部の水分蒸発を抑制するために緻密化性能及び保水性を持たせることが可能であると共に、安価かつ簡易に、新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れを抑制する手段の提供。
【解決手段】新規コンクリート構造物又は新規コンクリート二次製品における乾燥収縮ひび割れ抑制方法において、新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後、新規コンクリートにケイ酸リチウム系表面改質材を適用する乾燥収縮ひび割れ抑制工程を含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規コンクリート(新規コンクリート構造物又は新規コンクリート二次製品)の乾燥収縮ひび割れ抑制方法及びひび割れ抑制剤、並びに既設コンクリート(既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品)のひび割れ閉塞方法及びひび割れ閉塞剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物及びコンクリート二次製品に対する劣化事例が数多く報告されており、社会的な問題となっている。実構造物で早期劣化の要因として考えられる一つに、材齢の初期段階においてコンクリートの表面部に発生するひび割れが挙げられる。これにより、凍害、中性化、塩害等の様々な劣化機構がこのひび割れ部から局部的に促進され、耐久性が低下し、コンクリート中の鉄筋の腐食を招くと考えられる。
【0003】
特に、壁や床のように部材が薄く、かつ周囲の拘束が大きい構造体コンクリートの場合や養生不足により表層のみが早期に乾燥を受ける場合、コンクリートの乾燥収縮によってひび割れが発生し易い。このひび割れ幅が大きくなると漏水等の問題が起きる。また、近年の骨材資源の枯渇化や資源の有効利用への対策として再生骨材コンクリートを使用する場合、一般の砕石を用いたコンクリートと同程度のひび割れ抵抗性を有することが必要となる。しかし、再生骨材を用いた場合は乾燥収縮ひび割れが一般に生じ易くなると考えられ、上部構造体等の乾燥を受ける部位への使用が懸念されている。更には、高流動コンクリートを使用する場合、この調合では材料分離抵抗性を高めるために、粉体量を多くしたり、分離低減剤を用いたりしてモルタルの粘性を高めるほか、単位粗骨材量を小さくする傾向がある。このため、高流動コンクリートは通常のコンクリートと比較して自己収縮及び乾燥収縮が大きくなることやひび割れが発生し易くなることが懸念されている。
【0004】
ここで、新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制方法としては、収縮低減剤や膨張剤を適用する手法が提案されている。更には、新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制手法として、養生マットや透水型枠、塗膜養生剤の使用、更には埋め込み鉄筋の径を太くすること(非特許文献1)、配(調)合上の対策を講じること(非特許文献2)、水セメント比を大きくしたり低熱セメントを用いること(非特許文献3)、耐凍害性及び遮塩性があるとされている高炉スラグ微粉末を混和すること(非特許文献4)、が提案されている。
【非特許文献1】コンクリート工学年次論文報告集 12−1 1990 「乾燥収縮時における鉄筋のひび割れ制御効果に関する実験的研究」
【非特許文献2】コンクリート工学年次論文報告集 Vol.22,No.2,2000 「骨材品質が異なる再生骨材コンクリートの乾燥収縮ひび割れ性状」
【非特許文献3】コンクリート工学年次論文報告集 Vol.22,No.2,2000 「超軽量コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抵抗性に関する実験的研究」
【非特許文献4】コンクリート工学年次論文報告集 Vol.26,No.1,2004 「初期に導入したひび割れがコンクリートの耐久性へ及ぼす影響に関する研究」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、新規コンクリートの従来の乾燥収縮ひび割れ抑制手法の内、収縮低減剤を使用すると打設後のコンクリートから耐凍害性に重要な空気が逸脱しやすくなり、他方、鉄筋などによる適正な拘束が不足した状況下で膨張剤を使用しても凍結と融解の繰り返しによるひび割れが発生し易い(通常は300回程度繰り返し試験に耐える必要があるが、30回程度しか耐えられない)。そのため、寒冷地では使えず、使用される場所が限定される。加えて、当該低減剤を使用した場合、内部に侵入した薬剤は組織を緻密化せずまた保水力も無いため、内部の水分が蒸発し易く、更には当該低減剤の効果寿命も通常4週間程度と非常に短いという問題がある。また養生マットでは材料は安価で、施工も容易であるが、保水効果が少なく特に鉛直面で効果が劣る(マットの保水効果試験では、水平面で4日間、鉛直面では2日間のみ保水)こと複雑な面の保水が不可といった短所がある。透水型枠は面付近の水セメント比を低減させるため、コンクリート自体の強度、耐久性が向上し、その効果も明らかになっているが、施工に手間がかかること、表面がやや黒っぽくなるなどの点に注意が必要である。塗膜養生剤の場合、安価で施工方法も容易であるが、効果の定量的評価が不明確であり、湿潤面への施工が出来ないため工程管理が難しい点や、効果の持続期間が不明確であること、塗膜厚さの管理が困難であるなどの短所がある。更には、埋め込み鉄筋の径を太くしたりコンクリート材料の組成を変える等の手法の場合、コンクリート自体又はその内部の鉄筋に対して工夫を講じる必要があるので、コスト高に繋がる。そこで、本発明は、凍結融解に強く寒冷地でも使用可能であり、内部の水分蒸発を抑制するために緻密性及び保水性を持たせることが可能であると共に、安価かつ簡易に、新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れを抑制する手段を提供することを第一の目的とする。
【0006】
更に、既存コンクリートに乾燥収縮ひび割れが発生してしまった場合、幅0.2mm以上のひび割れの閉塞は、樹脂等の注入や被覆といった従来法で対処可能である。ここで、ひび割れの閉塞手法としてエポキシ系注入剤を使用することも提案されている。しかしながら、幅0.2mm以下の微細なひび割れの閉塞は、樹脂系注入剤(エポキシ系注入剤、アクリル系注入剤等)を使用すると粘性が高く微細なひび割れに入り込めないという問題がある。より具体的に説明すると、樹脂系注入剤を使用するに際しては、水の使用ができないので乾燥した状態での使用に限定される。したがって、ひび割れ内部には空気が存在している状態であるため、粘性の高い樹脂は入りづらくなるのである。そのため、樹脂系注入剤を用いてひび割れを閉塞するに際しては、ひび割れ上にシーリングをし、注入した反対側からバキュームをするといった、面倒な作業をする必要がある。更には、樹脂系注入剤を使用すると剤を適用した部分でのひび割れは防止できても、脆弱な他の部分、特に樹脂系注入剤の界面付近でひび割れが発生してしまう結果、全体としてひび割れを防止することができないという問題もある。そこで、本発明は、既設コンクリートの延命化のために、閉塞方法が未開発であった幅0.2mm以下の微細なひび割れの閉塞及び2次的なひび割れ発生の抑制とこれらの効果の長期耐久化を第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、新規コンクリート構造物又は新規コンクリート二次製品における乾燥収縮ひび割れ抑制方法において、
新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後(好適には14日以内に)、新規コンクリートにケイ酸リチウム系表面改質材を適用する乾燥収縮ひび割れ抑制工程
を含むことを特徴とする方法である。ここで、本特許請求の範囲及び本明細書における「湿潤養生」とは、コンクリートを湿潤状態に保つ養生を意味し、所定期間の型枠存置(セメントの種類に応じて、3日以上から10日以上)、散水、水噴霧などの他、高湿度に維持することを含む。
【0008】
本発明(2)は、前記乾燥収縮ひび割れ抑制工程後、シラン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を前記新規コンクリートに適用する耐久性向上工程(又は保水効果強化工程)
を更に含む、前記発明(1)の方法である。
【0009】
本発明(3)は、前記乾燥収縮ひび割れ抑制工程において、コンクリートが緻密化されコンクリート自体の耐久性が向上する、前記発明(1)又は(2)の方法である。
【0010】
本発明(4)は、ケイ酸リチウム系表面改質材を含むことを特徴とする、新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後(好適には14日以内に)新規コンクリートに適用するための、新規コンクリート構造物又は新規コンクリート二次製品の乾燥収縮ひび割れ抑制剤である。
【0011】
本発明(5)は、コンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上剤としても機能する、前記発明(4)の乾燥収縮ひび割れ抑制剤である。
【0012】
本発明(6)は、シラン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を含むことを特徴とする、前記発明(4)又は(5)の乾燥収縮ひび割れ抑制剤が適用された新規コンクリートに対して更に適用するための、新規コンクリートの耐久性向上剤(又は保水効果強化剤)である。
【0013】
本発明(7)は、既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品のひび割れ閉塞方法において、
ケイ酸リチウム系表面改質材及び炭酸カルシウム系充填材を既設コンクリートに適用するひび割れ閉塞工程
を有することを特徴とする方法である。
【0014】
本発明(8)は、前記炭酸カルシウム系充填材が棒状又は板状である、前記発明(7)の方法である。
【0015】
本発明(9)は、前記炭酸カルシウム系充填材が未焼成の貝殻由来のものである、前記発明(7)又は(8)の方法である。
【0016】
本発明(10)は、前記閉塞工程後、シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を既設コンクリートに適用するひび割れ閉塞耐久性向上工程
を有する、前記発明(7)〜(9)のいずれか一つの方法である。
【0017】
本発明(11)は、前記ケイ酸リチウム系表面改質材をひび割れ部以外にも適用してコンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上工程
を更に有する、前記発明(7)〜(10)のいずれか一つの方法である。
【0018】
本発明(12)は、ケイ酸リチウム系表面改質材及び炭酸カルシウム系充填材から構成されることを特徴とする、既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品のひび割れ閉塞剤である。
【0019】
本発明(13)は、前記炭酸カルシウム系充填材が棒状又は板状である、前記発明(12)の既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品のひび割れ閉塞剤である。
【0020】
本発明(14)は、前記炭酸状カルシウム系充填材が未焼成の貝殻由来のものである、前記発明(12)又は(13)のひび割れ閉塞剤である。
【0021】
本発明(15)は、ケイ酸リチウム系表面改質材が、コンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上剤としても機能する、前記発明(12)〜(14)のいずれか一つのひび割れ閉塞剤である。
【0022】
本発明(16)は、前記発明(12)〜(15)のいずれか一つのひび割れ閉塞剤が適用された既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品に対して更に適用するための、シラン系撥水剤を含有するひび割れ閉塞耐久性向上剤である。
【発明の効果】
【0023】
本発明(1)及び(4)によれば、新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後(好適には14日以内に)新規コンクリートにケイ酸リチウム系表面改質材を適用するという手法であるため、従来のような埋め込み鉄筋の径を太くしたりコンクリート材料の組成を変える等、コンクリート又はその内部の鉄筋に対して工夫を講じる手法と比較し、安価かつ簡易に新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れを抑制することができるという効果を奏する。更に、本発明(1)及び(4)によれば、ケイ酸リチウム系表面改質材とコンクリート内部のカルシウム成分とが反応して、コンクリート組織の緻密化性能があり保水性があるケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)が出来る。そのため、内部の水分の蒸発が抑制される結果、乾燥収縮を抑制できるという効果も奏する。加えて、本発明(1)及び(4)によれば、ケイ酸カルシウム水和物が出来る場所はもともと脆弱な場所(乾燥収縮による引張応力が集中してひび割れが出来易い場所)であり、脆弱部を補強することにより、全体の組織が均一化する結果、乾燥収縮による引張応力が分散して大きなひび割れに繋がらず、より一層乾燥収縮を防止できるという効果をも奏する。更には、本発明(1)及び(4)によれば、緻密化と微細ひび割れの防止により凍結融解の主原因となる水分の浸透を抑制することから、凍結融解に強く寒冷地でも使用可能であるという効果を奏する。尚、同じケイ酸系表面改質剤でも、ナトリウム系、カリウム系では浸透深さが数ミリ程度と浅い為、改質効果は小さい。また、リチウムを含有することで、ナトリウム系やカリウム系由来の水和物よりも保水効果が高い。
【0024】
本発明(2)及び(6)によれば、前記効果に加え、乾燥収縮ひび割れ抑制後の耐久性を向上するためにシラン系撥水剤を更に適用するので、遮水姓、遮塩性、乾湿繰り返し耐久性を強化することが可能となる。このように、その表面をシラン系撥水剤で効果補強することにより、乾燥収縮ひび割れ抑制効果が長期間持続するという顕著な効果を奏する。
【0025】
本発明(7)及び(12)によれば、ケイ酸リチウム系表面改質材と炭酸カルシウム系充填材とを組み合わせたひび割れ閉塞剤を既設コンクリートに適用することで、閉塞方法が未開発であった幅0.2mm以下の微細なひび割れの閉塞が可能になるという効果を奏する。更に、従来の樹脂系注入剤と異なり、水が存在する条件で使用される薬剤であるため、空気の存在により注入剤の侵入が阻害されることや複雑な作業を行う必要も無く、短期間で作業できるという効果をも奏する。更に、充填剤として炭酸カルシウムを使用しているので、セメント水和物の主成分であるカルシウム水和物に対して高い親和性を持つ結果、改質材がひび割れ内部で安定的に保持されるという効果を奏する。
【0026】
本発明(8)及び(13)によれば、前記効果に加え、炭酸カルシウム系充填材が棒状又は板状であるので、これら棒状又は板状部材が重なり合って内部に空間が形成される結果、改質剤による反応物の生成を阻害しないと共に、外力を緩和する空間を保持するという効果を奏する。尚、図27は、当該発明の作用機序図及び貝殻由来の棒状炭酸カルシウム系充填材の走査電機顕微鏡(SEM)による二次電子像である。図中1は貝殻由来の炭酸カルシウム系充填材でひび割れが充填されている状態で、粉末間に空間が形成されている様子を示す。2は1にケイ酸リチウム系表面改質剤を含浸させた状態で、粉末間に形成された空間へ容易に浸透する様子を示す。3は2の後に炭酸カルシウムから溶出したカルシウムイオンとケイ酸リチウム系表面改質剤成分が反応し、生成された反応物により、ひび割れ内面−粉末間のネットワークを形成した様子を示す。
【0027】
本発明(9)及び(14)によれば、前記効果に加え、炭酸カルシウム系充填材として貝殻由来のものを使用しているので、鉱物の炭酸カルシウムに比して高い強度、曲げ靭性を有しており、更には、未焼成という、微量たんぱく質(貝殻特有の炭酸カルシウムと微量たんぱく質複合体)が残存したものを使用しているので、より高い強度や曲げ靭性を有している結果、より一層のひび割れ閉塞を達成できるという効果を奏する。
【0028】
本発明(10)及び(16)によれば、前記効果に加え、ひび割れ閉塞後の耐久性を向上するためにシラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を更に適用するので、遮水姓、遮塩性、乾湿繰り返し耐久性を付与することが可能となる。このように、珪酸系改質材と充填材で0.2mm以下のひび割れを閉塞すると共に、その表面をシラン系撥水剤で効果補強することにより、補修効果がより長期間持続するという顕著な効果を奏する。
【0029】
更には、本発明(3)、(5)、(11)及び(15)によれば、ケイ酸リチウム系表面改質材を適用した新規又は既設コンクリートは凍結融解や塩害劣化に強くなるので、寒冷地や海岸域での使用にも対応可能であるという効果を奏する。ここで、当該理由を下記で述べる。まず、本発明者らは、ケイ酸リチウム系表面改質材を新設及び既設コンクリート構造物の表面に塗布するだけという比較的簡単な工法で、凍結融解や塩害による劣化やこれらによる複合劣化を防止又は抑止する技術を既に提案している(PCT/JP2005/003122)。以下、その作用機序を詳述する。
【0030】
当該表面改質材は、第一に、コンクリートに水分浸透性や塩分浸透性を低下させる性質を付与する。具体的には、該剤中のアルカリ金属配合リチウムシリケートが、骨材界面上や内部空隙に存在する水やコンクリートの細孔溶液成分である水酸化カルシウムと反応してゲルを形成する。このゲルの形成が、空隙の緻密化をもたらす結果、さまざまな劣化を促進する要因である水の侵入を阻害し、塩害の原因物質となる塩化物イオンについては、緻密化とともにゲル表面の電荷が負になり電気的に反発することでも拡散が抑制される。更に、ゲル化の際、凍結融解原因となるコンクリート内部の空隙水を取り込む事により、水で満たされない空隙が増加し、水及びゲルが凍結膨張する際の圧力を逃がす空間が作られる。
【0031】
第二に、当該表面改質材は、コンクリートのより深部にまで(例えば約40mmの深さまで)浸透するという性質を有している。この理由は、反応速度が従来のもの(水ガラス系改質剤等)と比較して非常に遅いためである(このためにコンクリート内部深くまで浸透できる)と理解される。従来の各種研究報告では、リチウム化合物は、コンクリートの各種劣化防止に効果的との報告が数多くなされている。しかし、この成分は、表面から1〜2mm程度しか浸透できないため、コンクリート混和材や表面塗膜材として利用できるに過ぎなかった。当該表面改質材は、深部浸透性というこの第二の性質に基づき、浸透型の表面塗布剤を提供したという点で画期的である。
【0032】
尚、理解の容易のため、図28を参照しながら当該表面改質材による作用機序を説明する。図28(a)はコンクリート断面の模式図であり、細骨材を含むモルタルマトリックス1、粗骨材2、細孔及びひび割れ等3が示されている。そして、図28(a)内の四角囲み部分を拡大した図が、図28(b)〜(d)である。図28(b)中3は、骨材界面の脆弱組織部も示し、4は細骨材、5は硬化セメントペーストである。3の内部には、カルシウム等のイオンを含んだ細孔溶液が存在する。コンクリート表面に当該表面改質材を塗布すると、ひび割れや空隙、骨材界面を通じて内部まで浸透する。図28(c)は、当該表面改質材6が空隙等に浸透した様子を示したものである。空隙内に浸透した当該表面改質材は、細孔溶液中の水酸化カルシウム及び水と反応し、ゲルを生成する。図28(d)に、当該表面改質材より生成されたゲル7の様子を示す。図28(d)内の四角囲み部分の実際の状態を示したものが、図28(e)である。
【0033】
以上を整理すると、当該表面改質材をコンクリート表面に塗布すると、アルカリ金属配合リチウムシリケートを主要成分とする薬剤が、連続空隙やひび割れ及び骨材の界面を伝い、コンクリート内部深く浸透していき、更に界面に接する組成の粗い部分の微細な空隙にも浸透する。また、界面上や空隙内部に存在する水及び水酸化カルシウムと反応しゲル化する際、その反応速度が従来に比して非常に遅く、この為、コンクリート内部深くまで浸透出来る。その結果、本発明は、新設及び既設コンクリート構造物の表面に塗布するだけという比較的簡単な工法で、凍結融解及び塩害による劣化やこれらによる複合劣化を、表面意匠を変化させることなく防止又は抑止できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の最良形態を説明する。尚、本発明の技術的範囲は当該最良形態には限定されない。以下、新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制技術をまず説明し、次いで既設コンクリートのひび割れ閉塞技術を説明することとする。
【0035】
《新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制技術》
当該技術は、水和が進行中の若材齢コンクリートに対して適用される。ここで、水和が進行中の若材齢コンクリートにひび割れが発生した場合、劣化は非常に早く進行する為、若材齢時のひび割れを抑制することは重要であり、コンクリート構造物の長期耐久性に大きく影響する。本発明によれば、乾燥収縮ひび割れの減少により、劣化要因となる水、塩分、炭酸ガス等の物質浸透が抑制される。以下、当該技術を詳述する。
(新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制剤)
本最良形態に係る新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制剤は、ケイ酸リチウム系表面改質材を含む。尚、当該乾燥収縮ひび割れ抑制剤は、前述のように、新規コンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上剤としても機能する。以下、当該乾燥収縮ひび割れ抑制剤を詳述する。
【0036】
・乾燥収縮ひび割れ抑制剤の組成
本乾燥収縮ひび割れ抑制剤は、ケイ酸リチウム(リチウムシリケート)系表面改質材を含む。ここで、好適なケイ酸リチウム系表面改質材は、リチウムシリケート水溶液にアルカリ金属イオン源を配合したものである。以下、本発明の構成要件について説明する。尚、本明細書において、「Li2O」、「Na2O」及び「K2O」は、等価酸化物換算表示である。
【0037】
「リチウムシリケート水溶液」とは、コロイダルシリカの一種でアルカリ部分がリチウムであるものをいう。ここで、「水溶液」とは、これら原料成分が完全に溶解していることを意味するのではなく、原料の少なくとも一部が何らかの形態で溶解している状態を指す。したがって、原料の一方(特にSiO2)がコロイド状で存在していても、原料の一部が溶解、一部がコロイド状になっていても、これらの状態をすべて包含する。また、液中でこれら原料は、どのような形態で存在していてもよい。
【0038】
「リチウムシリケート水溶液」は、珪石を水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液中で煮沸し、得られるコロイダルシリカ中のNa、KをLiに置換して製造可能である。また、市販品としては、例えば、日産化学工業株式会社製のリチウムシリケート45{水溶液100量部に対してSiO2 20.0〜21.0重量部、Li2O 2.1〜2.4重量部、SiO2/Li2Oモル比 4.5}が使用可能である。
【0039】
「アルカリ金属イオン源」は、水に添加した際、アルカリ金属イオンをリチウムシリケート水溶液中に存在させるものである限り特に限定されず、例えば、水に添加した際、アルカリ金属イオンに解離する物質、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物又はアルカリ金属塩(例えばアルカリ金属の炭酸塩)等の水溶性のアルカリ金属含有物質や、アルカリ金属自体やアルカリ金属イオン水溶液を挙げることができる。また、「アルカリ金属イオン」も特に限定されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのいずれでもよい。更に、リチウムシリケート水溶液に配合するアルカリ金属イオン源は、一種でなくともよく、同一のアルカリ金属イオンをリチウムシリケート水溶液中に存在させる複数種(例えば、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの組み合わせ)であっても、異なるアルカリ金属イオンをリチウムシリケート水溶液中に存在させる複数種(例えば、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの組み合わせ)であってもよい。
【0040】
好適なアルカリ金属イオンは、ナトリウムイオンとカリウムイオンとを組み合わせたものである。特に、ナトリウムイオンに対するカリウムイオンの比が、モル比で0.02〜2.7であることが好適であり、より好適には0.04〜1.8である。尚、この場合、好適なアルカリ金属イオン源は、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの組み合わせである。これらの組み合わせに関し、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの好適な配合比は、重量比(水酸化ナトリウム/水酸化カリウム)で1.3〜2.5(より好適には1.7〜2.2)である。
【0041】
更に、アルカリ金属イオン源の添加量は、モル比(アルカリ金属イオン換算)で、SiOに対して0.08〜1.8であることが好適であり、より好適には0.12〜1.2である。
【0042】
・乾燥収縮ひび割れ抑制剤の製造方法
次に、乾燥収縮ひび割れ抑制剤の必須成分であるケイ酸リチウム系表面改質材の原液の製造方法について説明する。本改質材の原液は、リチウムシリケート水溶液にアルカリ金属イオン源及び水を配合することにより製造される。また、製造に際し、混合方法や材料の投入する順序は基本的に問わない。
【0043】
ここで、好適なリチウムシリケート水溶液は、該水溶液の全重量に対しSiO2とLi2Oの合計重量が15〜30重量%(より好適には20〜25重量%)となるように、これら成分をモル比(SiO2/Li2O)3〜8(より好適には4〜5)の割合で水に添加して得られたものである。
【0044】
尚、アルカリ金属イオン源としてアルカリ金属の水酸化物を用いる場合には、発熱反応があるため、アルカリ金属の水酸化物を少量ずつ、リチウムシリケート水溶液に加える。
【0045】
リチウムシリケート水溶液にアルカリ金属イオン源を添加しよく攪拌した後、必要量の水を加えることにより、あるいは予め必要量の水を加えたリチウムシリケート水溶液にアルカリ金属イオン源を添加しよく攪拌することにより、本発明に係る改質剤の原液を得ることができる。尚、この水の添加は、粘度を低下させることを目的としてなされる。また、使用する水は、好適には、純水又はイオン交換水である。
【0046】
尚、製造に際して留意すべき点は、原材料であるリチウムシリケート水溶液は、氷点下環境においてはゲル化を起こし、+80℃以上において白濁固化するので、このように変質した材料は使用しないことが好適である。リチウムシリケート水溶液を保管する際、あるいは、本改質材を製造する際は、液温を+5〜60℃(より好適には+5〜25℃)の範囲で管理することが好ましい。
【0047】
このようにして得られた原液は、好適には、当該原液の全重量に対して、水を65〜85重量%(より好適には70〜80重量%)含有する。また、当該原液の好適な比重(浮子式比重計で測定、20℃)は、1.210〜1.270(より好適には1.230〜1.250)である。
【0048】
また、このようにして得られた原液の好適な粘度(音叉型振動式粘度計で測定、20℃)は、1.0〜15mPa・s(より好適には6.5〜9.5mPa・s)である。
【0049】
更に、このようにして得られた原液のpHは、11.0〜13.5の範囲であることが好適であり、より好適には11.9〜12.6の範囲である。また、希釈液のpHも、概ね上記範囲内であることが好適である。
【0050】
・耐久性向上剤の組成
本最良形態に係る耐久性向上剤は、シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を必須成分として含み、必要に応じて適量の各種乳化剤、防腐剤、pH調整剤、充填剤等を含んでいてもよい。ここで、シラン系撥水剤は、一般式:R−Si−(OR’)で示されるアルキルアルコキシシラン(Rは、炭素数1〜15のアルキル基、R’’は、炭素数1〜6のアルコキシ基を表す)を主成分としたもので、溶剤の使用、不使用は問わない。また、分子量も特に限定されず、低分子量から高分子量までのものまで適用が可能である。更に、シロキサン系撥水剤は、一般式,RaRbRcSiO(4−a−b−c)/2で表されるポリオルガノシロキサン(Rはメチル基、Rはアミノアルキル基、Rは水酸基又はアルコキシ基を表し、0<a+b+c<3の関係を有する)を主成分とするもので、溶媒の使用、不使用、分子量も特定しない。また、シランとシロキサンを混合したシラン・シロキサン系撥水剤でもよい。ここで、撥水剤中、有効成分(アルコキシシラン、ポリオルガノシロキサン等)は50〜90重量%の範囲が好ましい。また、シラン・シロキサン系撥水剤における、アルキルアルコシキシランとポリオルガノシロキサンの重量比は、好ましくは2:1〜10:1である。尚、本耐久性向上剤は、液状、乳液状、ジェル状、水性系、溶剤系のいずれでもよい。
【0051】
尚、これら撥水剤は、既知の製造法に従い得ることができる。例えば、当該撥水剤の製造方法は、シラン系撥水剤に関しては、例えば,特開昭63−69779号公報、特公平4−68274号公報、特開平4−300961号公報,特開平9−189030号公報等に記載されている。また、シロキサン系撥水剤に関しては、例えば、前掲の特公平4−68274号公報に記載されている。更に、シラン・シロキサン系撥水剤に関しては、特開2006−36586号公報に記載されている。また、市販品としては、アルキルアルコキシシランとして、プロテクトシルBHN、エンバイロシール(BASFポゾリス株式会社)、ニッペアクアシール200S/500S(日本ペイント株式会社)、スパンガード(ショーボンド建設株式会社製)、トスバリア100()、ハイドロシラン(菱洋株式会社)、シランコート(菊水化学工業株式会社)等、シロキサンとしてはハイドロシランCG(菱洋株式会社)、シラン・シロキサンとしては、マジカルリペラー(カジマリノベイト)、アクアペル(商品名)等を挙げることができる。
【0052】
(使用方法)
・適用対象となる新規コンクリート
本発明に係る乾燥収縮ひび割れ抑制剤の適用対象となる新規コンクリートは、新規コンクリートである限り特に限定されず、新規コンクリート構造物及び新規コンクリート二次製品のいずれも含む。また、コンクリートの種類も特に限定されず、例えば、普通コンクリート、高強度コンクリート、低発熱コンクリート、水中不分離コンクリート、水中コンクリート、工場製品コンクリート、海洋コンクリート、吹付けコンクリート、繊維補強コンクリート、プレパックドコンクリート、高流動コンクリート、軽量(骨材)コンクリート、鋼コンクリート合成構造、プレストレストコンクリート、再生骨材コンクリート等を挙げることができる。尚、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム等の混和材が混合されていてもよい。尚、特にひび割れが発生しやすい壁及び床に対して本発明に係る乾燥収縮ひび割れ抑制剤を適用するとより有効である。
【0053】
・適用方法
(1)乾燥収縮ひび割れ抑制剤の適用方法
次に、本発明に係る乾燥収縮ひび割れ抑制剤の適用方法を説明する。新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後好適には14日以内に、新規コンクリートに当該剤を適用する。ここで、「湿潤養生を打ち切った後好適には14日以内」である理由は、湿潤養生を打ち切った後は徐々に乾燥が進行し、条件にもよるが、14日を経過すると乾燥収縮によるひび割れが発生してしまうからである。尚、より好適には、湿潤養生を打ち切った後10日以内である。以下、本乾燥収縮ひび割れ抑制剤の適用方法の詳細(一例)を説明する。
【0054】
まず、本発明に係る乾燥収縮ひび割れ抑制剤の原液を、必要に応じて希釈(以下では、2倍希釈を例にとり説明する)し、よく攪拌する(工程1)。そして、本抑制剤をコンクリートに塗布する前に、塗布面のコンクリートを湿潤状態にするために水を散布する(工程2)。その後、コンクリートの湿潤状態を確認し、水で2倍希釈した本抑制剤を、低圧の噴霧器、刷毛、ローラー等(施工場所状況により選択)にて塗布しコンクリート面に浸透させる(工程3)。ここで、コンクリート1m2当たりの本改質剤の使用量は、例えば、100ml/m2(2倍希釈したもの)であり、原液ベースでは50ml/m2である。次いで、塗布後、乾燥する前に水を50ml/m、低圧にて散布し湿潤養生する(工程4)。工程2〜工程4を繰り返す(工程5)。表面に本抑制剤が残存しているかを確認する(工程6)。最終工程として低圧で散水し(50ml/m)、工程5で残存が確認された場合は、ブラッシング等で洗浄し、コンクリート表面に残存させないようにする(工程7)。その後自然乾燥させる(工程8)。また、施工時には、外気温が+5℃以上であることが好適であり、+5℃未満の場合は採暖養生等により温度管理をすることが好適である。
【0055】
(2)耐久性向上剤の適用方法
次に、本発明に係る耐久性向上剤の適用方法を説明する。まず、前記の乾燥収縮ひび割れ抑制剤の適用工程を終了した後、好適には、表面含水率を8%程度まで乾燥させる工程を実行する。但し、乾燥収縮ひび割れ抑制剤の適用工程後に連続施工してもよく、少なくとも翌日には耐久性向上剤の適用を行うことが好ましい。耐久性向上剤の当該適用工程は、シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を所定量(100〜300ml/m)塗布し、コンクリートに浸透させる手法で実施する。塗布後、表面が完全に乾燥するまで水分が供給されないように乾燥養生する。
【0056】
《既設コンクリートのひび割れ閉塞技術》
(既設コンクリートのひび割れ閉塞剤)
本最良形態に係る既設コンクリートのひび割れ閉塞剤は、ケイ酸リチウム系表面改質材及び貝殻棒状又は板状炭酸カルシウムから構成される。ここで、本最良形態に係るひび割れ閉塞剤は、いわゆる二剤型であり、炭酸カルシウム系充填材(A剤)とケイ酸リチウム系表面改質材(B剤)とから構成されている。しかしながら、これに限定されず、いわゆる一剤型であってもよい。その他、水酸化カルシウムやセメントなど2価以上の陽イオンを溶出可能な粉末を含有していてもよい(二剤型の場合にはいずれか一方又は両方に)。尚、B剤に係るケイ酸リチウム系改質材は、前述のように、既設コンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上剤としても機能する。以下、当該ひび割れ閉塞剤を詳述する。
【0057】
・ひび割れ閉塞剤の組成
まず、本最良形態に係るケイ酸リチウム系表面改質材(B剤)は、前述した乾燥収縮ひび割れ抑制剤で説明したものと同一であるので、説明を省略する。
【0058】
次に、本最良形態に係る炭酸カルシウム系充填材(A剤)は、炭酸カルシウムを主成分とし0.2mm以下のひび割れに侵入することが可能である限り、棒状・板状・粒状等その大きさや形状は特に限定されない。また、炭酸カルシウムの種類も限定されず、例えば、貝殻、卵殻、骨などの生物由来、鉱物由来、合成品のいずれであってもよい。
【0059】
但し、好適な炭酸カルシウム系充填材は、その形状が棒状又は板状であるものである。特に、平均粒径は3〜100μmで、棒状の場合の平均的なアスペクト比が1〜30程度であるものが好適である。このような棒状又は板状の充填材を使用すると、棒状部材又は板状部材同士が重なって内部空間が形成される。その結果、改質剤による反応物の生成が阻害されず、かつ、外力を緩和する空間が保持される。ここで、平均粒径の測定は、JISの標準篩を用いて求めた累積分布から得られる平均粒径である。また、アスペクト比は、任意の100個の充填材のSEM画像に基づき、計測、算出した値を指す。
【0060】
加えて、好適な炭酸カルシウム系充填材は、前記炭酸カルシウム系充填材が未焼成の貝殻由来のものである。ここで、原料となる貝としては、三層構造をなす貝殻の中間部の炭酸カルシウムが六方晶系の方解石型である二枚貝綱に属する貝類が適しており、多く食用に供されているため原料入手が容易な材料として、ホタテ、カキ、ホッキ、アサリ、シジミ等があり、貝殻が大きく、材料化における効率が優れている点でホタテが最適である。また、巻貝綱に属する貝類も利用可能である。更に、貝殻由来の炭酸カルシウム系充填材の中でも、微量たんぱく質が残存したままである未焼成のものがより好適である。貝殻特有の炭酸カルシウムと微量たんぱく質複合体の存在により、より高い強度や曲げ靭性を当該充填材が有する結果、より一層のひび割れ閉塞を達成できるからである。特に好適な貝殻由来の炭酸カルシウム系充填材は、炭酸カルシウムが96〜98%、ナトリウム、マグネシウム等のミネラルを1〜3%、1%以下のタンパク質で構成される。また、ホタテの場合は、炭酸カルシウムを主成分(約98%)とし、微量のタンパク質(0.8〜0.01%)、その他微量ミネラル(約1%)を含有している。
【0061】
・ひび割れ閉塞剤の製造方法
本発明に係るひび割れ閉塞材の内、ケイ酸リチウム系表面改質材に関しては、前述した乾燥収縮ひび割れ抑制剤で説明したものと同一であるので説明を省略する。次に、炭酸カルシウム系充填材に関しては、当該充填材として貝殻を用いる場合、水洗浄、低温で加熱殺菌(100〜250℃)後、ハンマーミル、ピンミル、スクリーンミル、ジェットミル等で粉砕して製造する(特開平10−257850号公報)。
【0062】
・ひび割れ閉塞耐久性向上剤の組成
本最良形態に係るひび割れ閉塞耐久性向上剤の組成は、前述した乾燥収縮ひび割れ抑制剤で説明したものと同一であるので、説明を省略する。
【0063】
・ひび割れ閉塞耐久性向上剤の製造方法
本最良形態に係るひび割れ閉塞耐久性向上剤の製造方法は、前述した乾燥収縮ひび割れ抑制剤で説明したものと同一であるので、説明を省略する。
【0064】
(使用方法)
・適用対象となる既設コンクリート
本発明に係るひび割れ閉塞剤の適用対象となる既設コンクリートは、既設コンクリートである限り特に限定されず、既設コンクリート構造物及び既設コンクリート二次製品のいずれも含む。また、コンクリートの種類も特に限定されず、例えば、普通コンクリート、高強度コンクリート、低発熱コンクリート、水中不分離コンクリート、水中コンクリート、工場製品コンクリート、海洋コンクリート、吹付けコンクリート、繊維補強コンクリート、プレパックドコンクリート、高流動コンクリート、軽量(骨材)コンクリート、鋼コンクリート合成構造、プレストレストコンクリート、再生骨材コンクリート等を挙げることができる。尚、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム等の混和材が混合されていてもよい。尚、特に従来技術では解決できなかった0.2mm以下のひび割れが生じている既設コンクリートに対して本発明に係るひび割れ閉塞剤を適用するとより有効である。
【0065】
・適用方法
(1)ひび割れ閉塞剤の適用方法
次に、本発明に係るひび割れ閉塞剤の適用方法の一例を説明する。まず、第一の手法例から説明すると、炭酸カルシウム系充填材(A剤)を水に5〜30%(好適には10〜20%)懸濁させ、スポイト、シリンジ等による注入、又はスプレー、刷毛、ローラ−等を用いて、ひび割れ部に含浸させる。ここで、水の吸収と共に充填材の体積が減少するので、水が乾燥したのちまでひび割れが閉塞されるよう、含浸工程を数回繰り返す。次に、ケイ酸リチウム系表面改質材(B剤)の2倍水希釈液を、スポイト、シリンジ等による注入、又はスプレー、刷毛、ローラ−等を用いて、炭酸カルシウム系充填材で充填したひび割れ部に含浸させる。含浸量はひび割れの規模により異なるが、ひび割れ幅0.2mm、ひび割れ深さ100mmの場合で100mm長あたり1〜10ml(好適には3〜8ml)程度である。次に、第二の手法例を説明すると、炭酸カルシウム系充填材を水に5〜30%(好適には10〜20%)懸濁させ、スポイト、シリンジ等による注入、又はスプレー、刷毛、ローラ−等を用いて、ひび割れ部に含浸させる。一度水を吸収させたのち、ケイ酸リチウム系表面改質剤(B剤)の2倍水希釈液を、スポイト、シリンジ等による注入、又はスプレー、刷毛、ローラ−等を用いて、炭酸カルシウム系充填材で充填したひび割れ部に含浸させる。表面を乾燥させた後、ひび割れ部の未閉塞箇所に対して上記工程を繰返し、ひび割れを閉塞させる。尚、より具体的な適用例を以下に挙げる。
1.ひび割れ幅が狭い(0.1mm以下)場合、HTC(実施例参照)の10%懸濁液をHTCとHTC−20(実施例参照)等量混合20%懸濁液の前に使用する方法。
2.ひび割れ幅が更に狭く、ほぼ目視できない(0.03mm以下程度)場合、B剤(ケイ酸リチウム系改質剤)のみを塗布する方法。
3.珪酸リチウム系表面改質剤との反応性を高める為にHTCとHTC−20及び水酸化カルシウムを等量混合し、10%懸濁液として使用する方法。
【0066】
尚、上記の第一の手法及び第二の手法はひび割れ部にのみ含浸・塗布する施工方法であるが、ひび割れ部のみを補修した場合、閉塞工程の後に更に乾燥収縮ひび割れが発生する可能性がある。これを防止する為、ひび割れ部の補修と同時にひび割れの発生しているコンクリート面全体に珪酸リチウム系表面改質材(B剤)を塗布含浸させることで、施工面全体の組織が均一化され、劣化につながるようなひび割れの発生を抑制することが可能となる。そこで、本発明に係るひび割れ閉塞剤の第三の手法例を説明すると、第一、第二の手法において、ひび割れ部を閉塞させた後、ケイ酸リチウム系表面改質剤(B剤)をひび割れが発生したコンクリート面全体に200ml/m2塗布するもので、ひび割れ閉塞工程後に新たに発生するひび割れを抑制するものである。
【0067】
(2)ひび割れ閉塞耐久性向上剤の適用方法
本最良形態に係るひび割れ閉塞耐久性向上剤の適用方法は、前述した乾燥収縮ひび割れ抑制剤で説明したものと同一であるので、説明を省略する。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を参照しながら具体的に本発明を説明する。尚、本発明は実施例によりいかなる限定も受けない。
【0069】
製造例
リチウムシリケート45(日産化学工業株式会社製、水溶液100重量部に対してSiO2 20.0〜21.0重量部、Li2O 2.1〜2.4重量部、SiO2/Li2Oモル比 4.5)85.70gをビーカーに計り取り、水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製、純度97%)4.12gをガラス棒でよく混ぜながら少量ずつ、投入した量が溶解しきってから順次加えた。水酸化ナトリウムが全量溶けきってから、水酸化カリウム(関東化学株式会社製、純度86%)1.96gを少量ずつ投入し、溶解しきったところへイオン交換水8.22gを静かに加え、ガラス棒でよく攪拌して本製造例に係るケイ酸リチウム系表面改質材の原液を得た(粘度:7.32mPa・s)。尚、表1に各成分の組成を示した(ここで、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの値は等価酸化物に換算したものである。
【表1】

【0070】
《実施例1(新規コンクリートの乾燥収縮ひび割れ抑制試験)》
【0071】
(1)ひび割れ抑制確認試験
<実験概要>
新規コンクリート(トンネル)の脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後14日以内に、新規コンクリート表面に乾燥収縮ひび割れ抑制剤を塗布してから所定期間経過後、目視によるひび割れの有無、蛍光剤塗布によるひび割れ確認、透気係数変化の確認を実施した。尚、比較のため、塗布しないエリアも設けた。以下、更なる詳細情報を記載する。
現場名:道南地方トンネル(海から約5km)
施工時期:平成19年11月
施工箇所:海側出口付近(出口から64Mまでを塗布)
状況確認:平成20年8月(施工より9ヶ月)
【0072】
<乾燥収縮ひび割れ抑制剤>
製造例で得られた原液を水で2倍希釈することにより得られた改質剤
【0073】
<塗布方法>
塗布面のコンクリートを高圧の水噴射により洗浄し、併せて湿潤養生を行なった後、前記改質剤100ml/m2を1次塗布として低圧スプレーを用いて、均一に散布、45分程度かけて浸透させた。その後水約50ml/m2を低圧スプレーにて散布、約30分間湿潤養生とした。2次塗布として前記改質剤100ml/m2を一次塗布と同様に散布、浸透させ、更に水50ml/m2による湿潤養生を行なった。2次養生後表面に残留した改質剤を散水及びブラッシングで除去し、施工を完了した。
【0074】
<結果>
【0075】
・目視状況
目視によるひび割れ確認では、無塗布箇所で0.2mm程度のひび割れを確認した(図1)が、施工箇所におけるひび割れは皆無であった(図2)。
【0076】
・目視範囲以下のひび割れ確認(蛍光剤含浸後の紫外線照射による確認)
無塗布箇所で確認された微細ひび割れ(図3及び図4)は、1本の長さが長く直線的なものであり、今後乾燥が進行した場合には大きなひび割れに進展する可能性が高い。他方、施工箇所で確認された微細ひび割れ(図5及び図6)は、1本の長さが短く、分岐するものであった。またひび割れ幅は、紫外線発光下でひび割れ幅が大きく見えているが、無塗布が0.2mm程度であるのに対し、本剤塗布では0.1mm程度と小さかった。本剤塗布による、改質効果が組織を均一化したことによる乾燥収縮の応力分散効果が示された。
【0077】
・透気係数変化
ひび割れを確認した箇所でトレント法透気係数試験により表層コンクリートの緻密化状況を確認した。透気係数は数値が小さいほど、空気を通しにくいことを示し、コンクリート寿命を左右する表層部の耐久性を示す指標である。測定結果を表2に示す。無塗布の透気係数0.34に対して本剤塗布の透気係数は0.18と約1/2に低減されており、塗布による緻密化がなされたことが示されている。
【表2】

【0078】
(2)ひび割れ抑制による表面強度変化確認試験
<実験概要>
新規コンクリート(橋脚)の脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後14日以内に、新規コンクリート表面に乾燥収縮ひび割れ抑制剤を塗布してから所定期間経過後、強度推定試験を実施した。尚、比較のため、塗布しないエリアも設けた。以下、更なる詳細情報を記載する。
現場名:道央地方山間部の道路橋脚
施工時期:平成19年10月
施工箇所:地面より5M高さまでの橋脚全周
状況確認:平成20年8月(施工より10ヶ月)
【0079】
<乾燥収縮ひび割れ抑制剤>
製造例で得られた原液を水で2倍希釈することにより得られた改質剤
【0080】
<塗布方法>
塗布面のコンクリートを高圧の水噴射により洗浄し、併せて湿潤養生を行なった後、前記改質剤100ml/m2を1次塗布として低圧スプレーを用いて、均一に散布、45分程度かけて浸透させた。その後水約50ml/m2を低圧スプレーにて散布、約30分間湿潤養生とした。2次塗布として前記改質剤100ml/m2を一次塗布と同様に散布、浸透させ、更に水50ml/m2による湿潤養生を行なった。2次養生後表面に残留した改質剤を散水及びブラッシングで除去し、施工を完了した。
【0081】
<結果>
機械インピーダンス法によるコンクリート表層部の強度推定試験を実施した。施工前後及び10ヶ月経過時の変化を確認した。図中の測定値は、強度指標値で数値が大きいほど強度が高いことを示す。図7(左)は施工前、図7(右)は施工直後、図8(左)は施工箇所の10ヶ月後、図8(右)は無塗布箇所の10ヶ月後の強度分布である。図7(右)及び(左)の間では1日しか経過しておらずほぼ変化は無いが、図8(左)に示す施工から10ヶ月後では全体に大きく強度が向上している。これに対して無塗布箇所ではほぼ施工前と同様のままである。改質剤の塗布の全体的な強度向上は、ひび割れ抑制効果による、耐久性の向上を意味すると考えられる。尚、これらの図の下に示した数値は、強度指標値(STR)の平均と〔〕内は換算式(Fc=STR*6.97−87.7)を用いて導いた推定強度(N/mm2)である。
【0082】
(3)シラン系撥水剤によるひび割れ抑制効果向上試験
<実験概要>
鋼製リングで内部拘束した新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後14日以内に、表面に乾燥収縮ひび割れ抑制剤を塗布し、一試験体では更に耐久性向上剤を塗布した。塗布後は恒温恒湿槽内で乾燥させ、乾燥による収縮量をひずみゲージを用いて測定し、ひび割れ発生までの時間を確認した。
供試体:配合はW/C50%のOPCコンクリートで、表3及び図9に寸法を示す。
乾燥条件:+20℃、湿度60%
【0083】
<乾燥収縮ひび割れ抑制剤>
製造例で得られた原液を水で2倍希釈することにより得られた改質剤
【0084】
<耐久性向上剤>
アルキルアルコキシシランを主成分とするシラン系撥水剤(商品名:プロテクトシルBHN)
【0085】
<塗布方法>
供試体の打設面及び底面をブラッシングし、汚れ、レイタンスを除去した後、散水して湿潤養生を行なった。その後、前記乾燥収縮ひび割れ抑制剤100ml/m2を1次塗布として刷毛を用いて、均一に塗布、45分程度かけて浸透させた。その後水約50ml/m2を刷毛にて塗布、約30分間湿潤養生とした。2次塗布として前記乾燥収縮ひび割れ抑制剤100ml/m2を一次塗布と同様に塗布、浸透させ、更に水50ml/m2による湿潤養生を行なった。乾燥収縮ひび割れ抑制剤塗布後1日乾燥させ、前記耐久性向上剤を200ml/m2塗布、含浸させた。
【表3】

【0086】
<結果>
コンクリートの乾燥収縮ひずみ測定結果を図10、表4に示す。ひび割れ発生時間は無塗布の472時間に対して、乾燥収縮ひび割れ抑制剤として用いたケイ酸リチウム系表面改質剤(図中珪酸Li)塗布では589時間と無塗布の128%の時間ひび割れ発生を抑制した。また、ケイ酸リチウム系表面改質剤の上塗りに耐久性向上剤(シラン系撥水剤)を塗布したもの(図中珪酸Li+シラン)では、735時間(対無塗布比155%)と、更に長時間ひび割れが抑制された。ケイ酸リチウム系表面改質剤による乾燥収縮ひび割れの抑制効果が確認された。また、ケイ酸リチウム系表面改質剤塗布後更にシラン系撥水剤を塗布することで更に効果が向上することも確認された。
【表4】

【0087】
(4)乾燥収縮ひび割れ抑制による耐凍害性検証
<実験概要>
材齢7日に乾燥収縮ひび割れ抑制剤を塗布。一面凍結融解試験を実施した。塩水を用いて表面剥離(スケーリング)耐久性を確認するもので、凍結融解作用に関しては、+20℃〜-20℃/12時間を1サイクルとして56サイクルまで繰返して実施した。
試験規格:RILEM-CDF試験
配合:W/C0.5 OPCコンクリート及びW/C0.45 BBコンクリート
寸法:100×100×200mm
【0088】
<乾燥収縮ひび割れ抑制剤>
製造例で得られた原液を水で2倍希釈することにより得られた改質剤
【0089】
<塗布方法>
材齢7日で型枠側面の1面に200ml/m2塗布。塗布後は材齢28日まで湿潤養生。
【0090】
<結果>
結果を図11及び図12に示す。まず、図11に示すように、通常規格の2倍期間の56サイクルまで実施した結果、OPC50コンクリートでは無塗布の剥離量0.26kg/m2に対して改質剤塗布は0.04kg/m2と無塗布の16%に低減されている。また、図12に示すように、BB45コンクリートでは無塗布の剥離量は42サイクル時点で限界量の1.5kg/m2を超え、56サイクルには2.03kg/m2となったが、改質剤塗布は0.40kg/m2と無塗布の19%に低減された。表面ににひび割れがあると、劣化が著しく進行するスケーリング劣化に、ケイ酸リチウム系表面改質剤が抑制効果を示したものである。
【0091】
《実施例2(既設コンクリートのひび割れ閉塞試験)》
(1)ひび割れ閉塞試験(模擬ひび割れ)
<実験概要>
既設コンクリート(φ100×100円柱)を中心より鉛直にカットし、開口幅を0.05、0.1、0,2、0.3mmに特定してから外部をアルミテープにより固定して作成した模擬ひび割れに、炭酸カルシウム系充填材(A剤)及びケイ酸リチウム系表面改質材(B剤)からなるひび割れ閉塞剤を塗布、含浸させることでひび割れを閉塞した。塗布後にひび割れ上部にアクリル円筒を接着し、円筒内に注入した水の吸収量変化を測定し、単位時間あたりの吸水速度を求めた。
【0092】
<ケイ酸リチウム系表面改質材>
製造例で得られた原液を水で2倍希釈することにより得られた改質剤
【0093】
<炭酸カルシウム系充填材>
貝殻由来の棒状炭酸カルシウム微粉末で平均粒径が5μmのHTC(北海道共同石灰(株)製)及び平均粒径が30μmのHTC-20(製品名)を表5に示す割合で水に混合したもの。
【表5】

【0094】
<塗布方法>
ひび割れ部に、上記炭酸カルシウム系充填材をスポイトを用いて含浸させた。各ひび割れ幅へ適用したA剤の種類及び使用量を表6に示す。それぞれの懸濁液をひび割れ上部まで充溢させてから、水分の吸収により体積が減少した部分に更に、各溶液を含浸させる工程を繰返して充填した。次に、ケイ酸リチウム系表面改質材(B剤)の2倍水希釈液を、スポイトによりそれぞれ1.2mlずつ含浸させた。
【表6】

【0095】
<結果>
図13、14、15に閉塞前、閉塞後の1、2回目及び3回目の吸水量変化を、表7に試験開始から2時間の吸水量から求めた吸水速度を示す。閉塞前は40mlの水量が0.05mmで20分、その他では1,2分で透過したが、閉塞後はいずれのひび割れ幅においても、2時間経過後もひび割れへの水の浸透が無く、吸水速度は0となった。また閉塞後2回目の測定でも、同様の結果となった。3回目の測定で幅0.2mmのみわずかに吸水が示されたが、閉塞剤によるひび割れの閉塞効果が良好に示された。
【表7】

【0096】
(2)ひび割れ閉塞試験(0.2mm程度の実際のひび割れ)
<実験概要>
壁面を模した実大構造物に発生した乾燥収縮ひび割れに対して、前記ひび割れ閉塞剤を用いて、ひび割れを閉塞した。閉塞の効果を吸水速度の測定により確認した。
供試体及びひび割れ概要:乾燥収縮ひび割れの発生を誘発するスリットを埋設した幅200×高さ900×長さ10,000mmのW/C60%、OPCコンクリートを屋外暴露し、10週間経過させたもの。ひび割れの幅は0.05〜0.2mm、ひび割れ長さは約350mm。
図16に供試体の全体及びひび割れ部を示す。
【0097】
<塗布剤>
貝殻棒状炭酸カルシウム溶液としてHTCの10%懸濁液(A−1)及びHTCとHTC−20等量混合20%懸濁液(A−3)、HTCとHTC−20等量混合30%懸濁液(A−4)、ケイ酸リチウム系表面改質剤(B剤)の4種類を用いた。
【0098】
<塗布方法>
前記A−1剤10ml程度をスポイト及びローラーを用いてひび割れ部に含浸させた。乾燥過程と含浸を繰返し0.05mm程度までのひび割れ部を閉塞させた。この後、前記A−2剤10ml程度を用い、A−1剤と同様の手法で0.1mm程度までのひび割れ部を閉塞させた。更にA−3剤10ml程度を用い、A−1剤と同様の手法で0.2mmまでのひび割れ部を閉塞させた。その後、ひび割れを含む壁面(ひび割れの左右300mmまで)に前記B剤をローラーで200ml/m2塗布、含浸させた。ひび割れ部には、B剤が吸収されなくなるまで多めに浸透させた。図17に閉塞前及び閉塞後のひび割れ部の様子を示す。
【0099】
<試験結果>
閉塞前後のひび割れ部及びひび割れの無い健全部の吸水速度変化を図18及び表8に示す。健全部では20分間の吸水量が1.4mlとわずかであるが、ひび割れ箇所は3分間で6mlを吸水した。これに対して閉塞後のひび割れ部の吸水は20分間に1.1mlと健全部より高い遮水性を示し、閉塞剤によるひび割れの閉塞効果が確認された。
【表8】

【0100】
(3)ひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)
微細ひび割れへの前記ひび割れ閉塞剤塗布による、その後の乾燥収縮ひび割れ進行抑制効果及び表面性能向上効果確認した。
【0101】
<試験概要>
打設後2年を経過したコンクリート製屋外構造物の柱にひび割れ閉塞B剤を塗布し(図19)、2年間の暴露期間による性状変化をひび割れ状態、表面強度、含水率の測定により確認した。尚、図19は、柱にB剤を塗布した際の状況(手前が西面)を示したものである。
【0102】
<試験体>
対象とした柱は500mm四方のもので、設計強度24Nの普通ポルトランドセメントコンクリートである。打設から3年を経過した時点で、雨がかり面となる西、北、南面の地上高1m付近にひび割れ閉塞剤のB剤(ケイ酸リチウム系改質剤)を高さ350mmの帯状に200ml/m2塗布、含浸させた。その後23ヶ月間、降雨、日照、風、気温変化のある暴露環境にさらした。
【0103】
<測定項目>
ひび割れ状態(目視及び蛍光剤塗布)、表面強度分布(コンクリートテスターCTS-02)、含水率
【0104】
<試験結果>
(ひび割れ変化)
前記B剤を塗布した西、北、南面のいずれも無塗布箇所に比べて、ひび割れの発生が抑制されていた。図20にひび割れ測定箇所の可視光による写真を、図21に同一箇所に蛍光剤を塗布し、紫外線を照射した写真を示す。図20より無塗布ではひび割れが確認できるが、B剤塗布ではひび割れは確認されない。図21では蛍光剤粒子が2μmと小さく、目視できる範囲のひび割れは蛍光剤の照射では確認しにくい状態となるが、B剤塗布が無塗布に比べて、ごく微細なひび割れが均一に導入されており、応力分散がなされていることが分かる。
【0105】
(表面強度変化)
西面、北面の表面強度変化を図22、図23に示す。図中の数値は、数値が高いと表面強度が大きく、数値が小さいと表面強度が小さいことを示すが、圧縮強度そのものを示すものでは無く、指標値である、いずれも左側に示す無塗布よりB剤塗布で強度の高い箇所が多く見られる。また、平均値から換算した圧縮強度では、西面が無塗布の23.1N/mm2に対してB剤塗布が24.1N/mm2、北面では同じく24.7N/mm2が26.5N/mm2と強度向上が見られた。
【0106】
(含水率変化)
測定の前日は降雨によりコンクリート含水率は多目であったが、図24に示すように、B剤塗布では表層の含水率が無塗布より少なく、ひび割れ部の閉塞効果から内部への水分移動を抑制している様子が示される。
【0107】
(4)シランによる耐久性向上試験
<試験方法>
実施例2と同様の試験方法で、幅0.2mmの模擬ひび割れにひび割れ閉塞剤、A,Bを用いて閉塞した後、耐久性向上剤としてアルキルアルコキシシランを主成分とするシラン系撥水剤(商品名:プロテクトシルBHN)をひび割れ部に0.4ml塗布した。
【0108】
<結果>
図25に閉塞後の1、2回目の吸水量変化を示す。測定は20時間まで実施したもので、前記ひび割れ閉塞剤A、Bのみの閉塞では1回目で2ml、2回目で3.5mlの吸水があったが、これにシランを塗布したものでは、1、2回目ともに吸水量は0となり、シラン系撥水剤による耐久性向上効果が確認された。
【0109】
(5)耐凍害性試験
<概要>
道北地域で約50年間凍害劣化を受けたコンクリートへの塗布による一面凍結融解試験を実施した。該当コンクリートは、長期の暴露により凍害劣化を受け、組織には微細ひび割れが多数発生しているものである。これに炭酸カルシウム系充填材(A剤)の10%懸濁液を塗布、含浸させたのち、試験面全体に珪酸リチウム系表面改質剤(B剤)を塗布し、一面凍結融解試験を実施した。
試験規格:RILEM-CIF(純水一面凍結融解試験)
供試体:配合不明 直径50mm高さ100mm 切断面への塗布
試験開始:塗布後14日間湿潤養生を行い、試験を開始した。
凍結融解条件:+20℃〜-20℃/12時間を1サイクルとして42サイクルまで凍結融解を繰返した。
<結果>
結果を図26に示す。当該図から分かるように、42サイクルまで実施した結果、無塗布の剥離量3.28kg/m2に対して珪酸リチウム系表面改質剤(B剤のみ)塗布では1.48kg/m2と無塗布の45%に低減されている。しかし、炭酸カルシウム系充填材(A剤)と珪酸リチウム系表面改質剤(B剤)を併用した場合の剥離量は0.11kg/m2と非常に小さく、無塗布比ではわずか3%に低減されている。微細ひび割れの閉塞にA剤の使用に有効であり、凍結融解耐久性についても向上効果が示された。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、実施例1における目視によるひび割れ確認の結果(無塗布箇所)である。
【図2】図2は、実施例1における目視によるひび割れ確認の結果(施工箇所)である。
【図3】図3は、実施例1における目視範囲以下のひび割れ確認(蛍光剤含浸後の紫外線照射による確認)の結果(無塗布箇所)である。
【図4】図4は、実施例1における目視範囲以下のひび割れ確認(蛍光剤含浸後の紫外線照射による確認)の結果(無塗布箇所)である。
【図5】図5は、実施例1における目視範囲以下のひび割れ確認(蛍光剤含浸後の紫外線照射による確認)の結果(施工箇所)である。
【図6】図6は、実施例1における目視範囲以下のひび割れ確認(蛍光剤含浸後の紫外線照射による確認)の結果(施工箇所)である。
【図7】図7は、実施例1におけるひび割れ抑制による表面強度変化確認試験の結果である。
【図8】図8は、実施例1におけるひび割れ抑制による表面強度変化確認試験の結果である。
【図9】図9は、実施例1におけるシラン系撥水剤によるひび割れ抑制効果向上試験の供試体を示したものである。
【図10】図10は、実施例1におけるシラン系撥水剤によるひび割れ抑制効果向上試験の結果である。
【図11】図11は、実施例1における乾燥収縮ひび割れ抑制による耐凍害性検証試験の結果である。
【図12】図12は、実施例1における乾燥収縮ひび割れ抑制による耐凍害性検証試験の結果である。
【図13】図13は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(模擬ひび割れ)の結果である。
【図14】図14は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(模擬ひび割れ)の結果である。
【図15】図15は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(模擬ひび割れ)の結果である。
【図16】図16は、ひび割れ閉塞試験(0.2mm程度の実際のひび割れ)における供試体の全体及びひび割れ部を示した図である。
【図17】図17は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.2mm程度の実際のひび割れ)の閉塞前及び閉塞後のひび割れ部の様子を示した図である。
【図18】図18は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.2mm程度の実際のひび割れ)の結果である。
【図19】図19は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)の様子を示した図である。
【図20】図20は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)の結果(ひび割れ測定箇所の可視光による写真)を示した図である。
【図21】図21は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)の結果(ひび割れ測定箇所に蛍光剤を塗布し、紫外線を照射した写真)を示した図である。
【図22】図22は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)の結果(表面強度変化)を示した図である。
【図23】図23は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)の結果(表面強度変化)を示した図である。
【図24】図24は、実施例2におけるひび割れ閉塞試験(0.05mm以下の実際のひび割れ)の結果(含水量変化)を示した図である。
【図25】図25は、実施例2におけるシランによる耐久性向上試験の結果である。
【図26】図26は、実施例2における耐凍害性試験の結果である。
【図27】図27は、当該発明の作用機序図及び貝殻由来の棒状炭酸カルシウム系充填材の走査電機顕微鏡(SEM)による二次電子像である。
【図28】図28は、表面改質材による本発明の作用機序の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新規コンクリート構造物又は新規コンクリート二次製品における乾燥収縮ひび割れ抑制方法において、
新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後、新規コンクリートにケイ酸リチウム系表面改質材を適用する乾燥収縮ひび割れ抑制工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記乾燥収縮ひび割れ抑制工程後、シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を前記新規コンクリートに適用する耐久性向上工程
を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥収縮ひび割れ抑制工程において、コンクリートが緻密化されコンクリート自体の耐久性が向上する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ケイ酸リチウム系表面改質材を含むことを特徴とする、新規コンクリートの脱型後に湿潤養生を行い、湿潤養生を打ち切った後新規コンクリートに適用するための、新規コンクリート構造物又は新規コンクリート二次製品の乾燥収縮ひび割れ抑制剤。
【請求項5】
コンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上剤としても機能する、請求項4記載の乾燥収縮ひび割れ抑制剤。
【請求項6】
シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を含むことを特徴とする、請求項4又は5記載の乾燥収縮ひび割れ抑制剤が適用された新規コンクリートに対して更に適用するための、新規コンクリートの耐久性向上剤。
【請求項7】
既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品のひび割れ閉塞方法において、
ケイ酸リチウム系表面改質材及び炭酸カルシウム系充填材を既設コンクリートに適用するひび割れ閉塞工程
を有することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記炭酸カルシウム系充填材が棒状又は板状である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記炭酸カルシウム系充填材が未焼成の貝殻由来のものである、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記閉塞工程後、シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を既設コンクリートに適用するひび割れ閉塞耐久性向上工程
を有する、請求項7〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記ケイ酸リチウム系表面改質材をひび割れ部以外にも適用してコンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上工程
を更に有する、請求項7〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
ケイ酸リチウム系表面改質材及び炭酸カルシウム系充填材から構成されることを特徴とする、既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品のひび割れ閉塞剤。
【請求項13】
前記炭酸カルシウム系充填材が棒状又は板状である、請求項12記載の既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品のひび割れ閉塞剤。
【請求項14】
前記炭酸カルシウム系充填材が未焼成の貝殻由来のものである、請求項12又は13記載のひび割れ閉塞剤。
【請求項15】
ケイ酸リチウム系表面改質材が、コンクリートを緻密化しコンクリート自体の耐久性を向上させるコンクリート耐久性向上剤としても機能する、請求項12〜14のいずれか一項記載のひび割れ閉塞剤。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれか一項記載のひび割れ閉塞剤が適用された既設コンクリート構造物又は既設コンクリート二次製品に対して更に適用するための、シラン系、シロキサン系又はシラン・シロキサン系撥水剤を含有するひび割れ閉塞耐久性向上剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−70403(P2010−70403A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237508(P2008−237508)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本建築学会、2008年度大会 学術講演梗概集 平成20年7月20日発行
【出願人】(506296477)LINACK株式会社 (2)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】