説明

新規サポニン及びその製造方法、並びに抗真菌剤、皮膚化粧料及び飲食品

【課題】抗真菌活性を有するサポニン、抗真菌活性を有するサポニンの製造方法、並びに抗真菌剤、当該抗真菌剤を配合した皮膚化粧料及び飲食品を提供する。
【解決手段】抗真菌剤の有効成分として、下記式(I)で表されるサポニン又は当該サポニンを含有するモッコク抽出物を含有させ、当該抗真菌剤を皮膚化粧料及び飲食品に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規サポニン及びその製造方法、並びに酵母、糸状菌、カビ等の真菌類の防除に有用な抗真菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
菌類は、細胞内に核を有し、キチン、グルカン、セルロース等の多糖からなる細胞壁を有する。菌類の一つとして知られる真菌類は真核細胞生物であり、原核細胞生物である細菌類とは細胞構造が異なっている。真菌類のうち、卵形又は楕円形の単細胞型で発育し、出芽により増殖するものは酵母(yeast)と呼ばれ、一般に多核の糸状の栄養体で形成するものは糸状菌(カビ:mold,filamentous fungi)と呼ばれる。
【0003】
真菌類は、飲食品、化粧料等の製品の開封後に大気中から混入する場合も多く、その繁殖によって飲食品、化粧料等の製品の変質や腐敗を起こす。また、真菌類は真菌性皮膚疾患、例えば、水虫やたむし等の白癬や横癬、癜風、カンジダ症の起因菌となる。
【0004】
そこで、飲食品や化粧料等の製品の保存性向上、真菌性皮膚疾患の予防、治療又は改善を目的として、合成品又は天然物由来の種々の抗真菌剤が開発されているが、人の口や皮膚を経由して体内に入ることが多いため、これらの用途の抗真菌剤としては、合成品よりも安全性の高い天然物由来のものが好ましい。さらに、添加対象物の色、匂い、味、物性等には悪影響を及ぼさないものであることが望まれる。
【0005】
抗真菌活性を有する天然物由来のサポニンとしては、ユッカ(Yucca)由来のステロイドサポニン(特許文献1,2参照)、チャ(Camellia sinensis)又はユチャ(Camellia oleifera)由来のサポニン(特許文献3,4参照)等が知られている。
【特許文献1】特開平7−149608号公報
【特許文献2】特開2001−39812号公報
【特許文献3】特開平9−249577号公報
【特許文献4】特開平9−110712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗真菌活性を有するサポニン、抗真菌活性を有するサポニンの製造方法、並びに抗真菌剤、当該抗真菌剤を配合した皮膚化粧料及び飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、モッコク抽出物から抗真菌活性を有するサポニンを単離・同定ことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のサポニン、サポニンの製造方法、並びに抗真菌剤、当該抗真菌剤を配合した皮膚化粧料及び飲食品を提供する。
【0009】
(1)下記式(I)で表されるサポニン。
【0010】
【化1】

【0011】
(2)下記式(I)で表されるサポニンの製造法であって、下記工程(a)〜(c)を含む前記製造方法。
(a)モッコクを水、親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒で抽出する工程
(b)前記工程(a)で得られた抽出物を吸着剤に吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で溶出する工程
(c)前記工程(b)で得られた溶出液を、移動相として、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒を用いた液体クロマトグラフィーにより分画する工程
【0012】
【化2】

【0013】
(3)下記式(I)で表されるサポニン又は該サポニンを含有するモッコク抽出物を有効成分として含有する抗真菌剤。
【0014】
【化3】

【0015】
(4)抗酵母剤、抗皮膚糸状菌剤又は抗カビ剤である前記(3)記載の抗真菌剤。
(5)前記(3)又は(4)記載の抗真菌剤を配合した皮膚化粧料。
(6)前記(3)又は(4)記載の抗真菌剤を配合した飲食品。
【発明の効果】
【0016】
安全性の高い天然物であるモッコクから得られる上記式(I)で表されるサポニン又は当該サポニンを含有するモッコク抽出物は、強力な抗真菌活性を示すので、これを抗真菌剤として利用することにより、飲食品、化粧料等の保存性を向上させることができるともに、真菌性皮膚疾患を予防、治療又は改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のサポニンは、下記式(I)で表されるものである。以下、下記式(I)で表されるサポニンを「モッコクサポニン」と呼ぶ。
【0018】
【化4】

【0019】
モッコクサポニンが、上記式(I)で表される22−O−(2,4−オクタジエノイル)−3β,15α,16α,22α,28−ペンタヒドロキシオレアン−12−エン 3−O−α−L−ラムノピラノシル(1→2)−β−D−ガラクトピラノシル(1→3)−[β−D−グルコピラノシル(1→2)]−β−D−グルクノピラノサイドの構造をとることは、後述する実施例において確認されており、モッコクサポニンは、モッコク(学名:Ternstroemia gymnanthera )から単離された新規物質である。
【0020】
モッコクサポニンは、モッコクから単離することができるが、モッコク以外の植物にも存在する可能性がある。したがって、モッコクサポニンの単離源は、モッコクに限定されるものではなく、モッコクサポニンを含有するいずれの植物を用いてもよい。
【0021】
モッコクサポニンは、例えば、モッコク抽出物に、液−液分配抽出、各種クロマトグラフィー、膜分離等、サポニンを濃縮するのに有効な精製操作を施した後、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)等を用いた液体クロマトグラフィーにより処理することで得ることができる。
【0022】
モッコクサポニンは、具体的には、下記工程(a)〜(c)により得ることができる。
工程(a)
工程(a)は、モッコクを水、親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒で抽出する工程である。
【0023】
抽出原料として用いるモッコクの部位は特に限定されるものではなく、例えば、葉部、枝部、幹部等の地上部、果皮等の部位を抽出原料として用いることができるが、これらのうち、特に幹部等を抽出原料に用いることが好ましい。なお、モッコク(Ternstroemia gymnanthera)は、常緑の中高木であり、本州の千葉県以西、四国、九州、南西諸島、朝鮮半島南部から東南アジア、インド、スリランカにかけて広く分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0024】
モッコク抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。抽出原料の乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、抽出原料は、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として用いてもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、抽出原料からの極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0025】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合液を、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが特に好ましい。
【0026】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純粋、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらの各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等は含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0027】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0028】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として用いる場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比を1:99〜99:1(容量比)とすることができる。
【0029】
モッコクからモッコクサポニンを抽出する際の抽出方法は、特に限定されるものではなく、室温又は還流加熱下で、任意の装置を用いることができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて時々攪拌しながら、1〜48時間静置して可溶性成分を抽出した後、ろ過して固形物を除去し、得られた抽出液から抽出溶媒を留去し、乾燥することにより抽出物が得られる。抽出溶媒量は通常、抽出原料の1〜100倍量(質量比)であり、抽出温度は、通常20〜90℃である。
【0030】
工程(b)
工程(b)は、前記工程(a)で得られた抽出物を吸着剤に吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で溶出する工程である。
【0031】
工程(b)は、前記工程(a)で得られた抽出物のサポニン含量を高めるとともに、脱色、脱臭、活性向上等を目的として精製する工程である。
【0032】
抽出物に含まれる親水性有機溶媒は、吸着剤に吸着させる前に、必要に応じて留去する。親水性有機溶媒を留去した抽出物は、例えば、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させた後、吸着剤に吸着させる。
【0033】
溶解、懸濁又は溶出に用いられる水溶性溶媒として、上記した親水性有機溶媒を用いることができるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノールを用いることが好ましい。水及び水溶性溶媒の混合溶媒を用いる場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とメタノールとの混合溶媒を使用する場合、水とメタノールとの混合比を90:10〜1:99(容量比)、好ましくは40:60〜20:80(容量比)とすることができる。
【0034】
吸着剤は、サポニンを吸着し得る限り特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、合成吸着樹脂、活性炭、キレート樹脂、シリカゲル、アルミナゲル系吸着剤、多孔質ガラス等の公知の吸着剤を単独で又は組み合わせて用いることができる。好ましくは、多孔質性合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP−20、セパビーズSP−207(いずれも三菱化学社製)等の多孔性合成吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィーと、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)であるクロマトレックスODS、DM1020T(富士シリシア化学社製)等を充填剤として用いた逆相カラムクロマトグラフィーとを併用する。
【0035】
工程(c)
工程(c)は、前記工程(b)で得られた溶出液を、移動相として水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒を用いた液体カラムクロマトグラフィーにより分画する工程である。
【0036】
液体クロマトグラフィーによる分画方法は、特に制限されるものではなく、通常の方法で行うことができる。例えば、固定相としては、シリカゲル、ODS、イオン交換樹脂等の公知の担体を単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0037】
水溶性溶媒としては、上記した親水性有機溶媒を用いることができるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノール、アセトニトリル等を用いることが好ましい。水及び水溶性溶媒を用いる場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とメタノールとの混合溶媒を使用する場合、水とメタノールとの混合比を2:8〜4:6(容量比)、好ましくは3:7(容量比)とすることができる。
【0038】
液体クロマトグラフィーを利用してモッコクサポニンを含有する画分を分画することにより、精製されたモッコクサポニンを得ることができる。
【0039】
以上のようにして得られるモッコクサポニン、又はモッコクサポニンを含有するモッコク抽出物は抗真菌活性を有しているので、この活性を利用して、これらを抗真菌剤として用いることができる。
【0040】
本発明の抗真菌剤は、モッコクサポニン、又はモッコクサポニンを含有するモッコク抽出物を有効成分として含有する。
【0041】
本発明において、「モッコク抽出物」には、モッコクサポニンを含有する限り、モッコクを抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0042】
本発明の抗真菌剤は、モッコクサポニン、又はモッコクサポニンを含有するモッコク抽出物のみから構成されていてもよいが、薬学的に許容される賦形剤その他任意の添加剤を用いて製剤化してもよい。製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶解剤等の添加剤を用いて、粉末状、顆粒状、錠剤状等、任意の剤形に製剤化することができる。また、製剤化にあたっては、その他の抗菌剤、保存料その他任意の成分を用いることができる。
【0043】
本発明の抗真菌剤が抗真菌活性を発揮し得る真菌類としては、特に限定されるものではないが、例えば、Saccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシエ)、Candida albicans(カンジダ・アルビカンス)、Hansenula anomala(ハンセヌラ・アノマラ)、Pichia carsonii(ピキア・カルソニー)、Debaryomyces hansenii(デバリオマイセス・ハンセニイ)、Kloeckera apiculata(クロエッケラ・アピキュラータ)、Zygosaccharomyces rouxii(ジゴサッカロミセス・ロキシイ)等の子嚢菌酵母;Cryptococcus neoformans(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)、Malassezia furfur(マラセジア・フルフル)、Cryptococcus laurentii(クリプトコッカス・ラウレンティ)、Rhodosporidium toruloides(ロドスポリジウム・トルロイデス)等の担子菌酵母;Trichophyton rubrum(トリコフィトン・ルブルム)、Trichophyton mentagrophytes(トリコフィトン・メンタグロフィテス)、Epidermophyton floccosum(エピダーモフィトン・フロッコサム)、Microsporum canis(ミクロスポルム・カニス)等の皮膚糸状菌;Penicillium frequentans(ペニシリウム・フレクエンタンス)、Cladosporium cladosporioides(クラドスポリウム・クラドスポリオイデス)、Aspergillus restrictus(アスペルギルス・レストリクタス)、Eurotium rubrum(ユーロチウム・ルブルム)等のカビ類等が挙げられる。すなわち、本発明の抗真菌剤は、抗酵母剤、抗皮膚糸状菌剤又は抗カビ剤として用いることができる。
【0044】
本発明の抗真菌剤は、保存性の向上、又は真菌性皮膚疾患の予防、治療若しくは改善を目的として、飲食品、皮膚化粧料等に配合することができる。本発明の抗真菌剤の配合量は、その組成、剤形、添加対象物の種類によって異なるが、一般的には、添加対象物中におけるモッコクサポニンの濃度が、約0.0001〜0.1質量%になるように配合することが好ましい。
【0045】
本発明の抗真菌剤を配合し得る皮膚化粧料としては、特に限定されるものではなく、その具体例としては、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、入浴剤、化粧水、ジェル、洗顔料、シャンプー、リンス、育毛剤、石鹸、液体ボディ洗顔料、防臭化粧品(例えば、口臭用化粧品、歯磨き粉、洗口剤)等が挙げられる。
【0046】
皮膚化粧料には、抗真菌活性の妨げにならない限り、皮膚化粧料の製造に通常使用される各種主剤及び助剤を用いることができる。また、抗真菌活性に関し、本発明の抗真菌剤のみが主剤となるものに限られるわけではない。
【0047】
皮膚化粧料において、本発明の抗真菌剤とともに皮膚化粧料構成成分として利用可能なものとしては、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素消去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等が挙げられる。なお、本発明の抗真菌剤とともに上記成分を併用した場合、本発明の抗真菌剤と併用された上記成分との間の相乗効果が、通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0048】
本発明の抗真菌剤を配合し得る飲食品としては、特に限定されるものではないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、醗酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、製造例及び試験例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0050】
〔製造例1〕モッコクからの抽出物の製造
抽出原料としてモッコクの幹部の粉砕物1500gを、表1に示す2種類の抽出溶媒5000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら3時間、80℃に保った後、ろ過した。ろ液を40℃で減圧下に濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥して抽出物(粉末状)を得た。2種類の抽出溶媒を用いて上記抽出処理を行ったところ、得られた抽出物(試料a,b)の収率は表1のとおりであった。なお、抽出溶媒が混合物の場合、以下に示す混合比は質量基準によるものである。
【0051】
【表1】

【0052】
得られたモッコクメタノール抽出物116gを、水500mLを加えて懸濁させ、多孔性樹脂(ダイアイオンHP−20,300g)に付し、水5L、60%メタノール5L、メタノール5Lの順で溶出させた。次いで、メタノール5Lで溶出させた画分に含まれるメタノールを留去して、メタノール溶出画分27gを得た。次いで、メタノール溶出画分26gを、クロロホルム:メタノール:水=10:5:1(容量比)の混合溶媒に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル 60,メルク社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、シリカゲルに吸着させた。次いで、移動相としてクロロホルム:メタノール:水=10:5:1(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、サポニン濃縮物13gを得た。
【0053】
得られたサポニン濃縮物を、アセトニトリル:水=1:1(容量比)の混合溶媒に溶解し、ODS(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、ODSに吸着させた。次いで、移動相としてアセトニトリル:水=1:1(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、サポニン濃縮物3.3gを得た。
【0054】
得られたサポニン濃縮物を下記の条件で液体クロマトグラフィーを用いて分画し、モッコクサポニン(1.7g)を単離した。
【0055】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:YMC−Pack Ph(YMC社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相流量:9mL/min
検出:RI
【0056】
単離したモッコクサポニンについてESI−マススペクトル、H−NMR及び13C−NMR分析を行なった。結果を下記に示す。
【0057】
<ESI−マススペクトル>
m/z 1281(M+Na)
【0058】
H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
0.76(3H,s,Oct-8-H3)、0.82(3H,s,25-H3)、1.02(3H,s,26-H3)、1.05(3H,s,24-H3)、1.05(3H,s,29-H3)、1.15(3H,s,23-H3)、1.26(3H,s,30-H3)、1.26(2H,br,Oct-7-H2)、1.43(3H,d,J=1.5Hz,Rha-6-H3)、1.83(3H,s,27-H3)、1.94(2H,dd,J=14.2Hz、Oct-6-H2)、3.02(1H,dd-like,18-H)、4.87(1H,d-like,GlcA-1-H)、5.48(1H,br,Oct-4-H)、5.80(1H,br,Oct-2-H)、5.80(1H,br,Oct-5-H)、5.80(1H,br,Glc-1-H)、6.04(1H,br,Gal-1-H)、6.18(1H,br,Rha-1-H)、7.40(1H,dd,J=15.0Hz,Oct-3-H)
【0059】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
13.8(Oct-8-C)、15.9(25-C)、17.0(24-C)、17.7(26-C)、18.4(Rha-6-C)、19.0(6-C)、21.3(27-C)、22.2(Oct-7-C)、24.1(2-C)、25.2(30-C)、26.6(11-C)、28.2(23-C)、32.1(20-C)、33.6(29-C)、35.1(Oct-6-C)、36.8(7-C)、37.1(10-C)、39.1(1-C)、39.8(4-C)、41.6(14-C)、41.9(18-C)、41.9(19-C)、45.5(17-C)、47.2(21-C)、47.3(9-C)、48.0(8-C)、55.7(5-C)、62.1(Gal-6-C)、63.2(28-C)、63.7(Glc-6-C)、67.6(15-C)、69.9(Rha-5-C)、71.3(GlcA-4-C)、71.3(Gal-4-C)、72.6(Rha-3-C)、72.7(16-C)、72.7(Glc-4-C)、72.8(Rha-2-C)、74.0(Rha-4-C)、74.6(22-C)、76.0(Gal-3-C)、76.4(Gal-2-C)、76.5(Glc-2-C)、77.1(Gal-5-C)、77.4(GlcA-5-C)、78.1(Glc-3-C)、78.5(Glc-5-C)、79.5(GlcA-2-C)、82.9(GlcA-3-C)、89.7(3-C)、101.4(Gal-1-C)、102.4(Rha-1-C)、102.8(Glu-1-C)、105.3(GlcA-1-C)、120.9(Oct-2-C)、124.9(12-C)、129.0(Oct-4-C)、143.9(Oct-5-C)、144.5(13-C)、144.7(Oct-3-C)、167.1(Oct-1-C)、171.9(GlcA-6-C)
【0060】
以上の結果から、モッコクメタノール抽出物から単離されたモッコクサポニンが、下記式(I)で表される22−O−(2,4−オクタジエノイル)−3β,15α,16α,22α,28−ペンタヒドロキシオレアン−12−エン 3−O−α−L−ラムノピラノシル(1→2)−β−D−ガラクトピラノシル(1→3)−[β−D−グルコピラノシル(1→2)]−β−D−グルクノピラノサイドであることが確認された。
【0061】
【化5】

【0062】
〔試験例1〕抗酵母活性試験
製造例1により得られたモッコクメタノール抽出物、モッコク50%エタノール抽出物及びモッコクサポニンについて、下記の酵母6種類A〜Fに対する抗酵母活性を、ポテトデキストロース寒天培地を用いた寒天培地希釈法における最小生育阻止濃度・MIC(μg/mL)を求めることにより測定した。
A:Saccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシエ)
B:Candida albicans(カンジダ・アルビカンス)
C:Hansenula anomala(ハンセヌラ・アノマラ)
D:Pichia carsonii(ピキア・カルソニー)
E:Cryptococcus laurentii(クリプトコッカス・ラウレンティ)
F:Rhodosporidium toruloides(ロドスポリジウム・トルロイデス)
なお、培養は温度30℃で2日間行い、生育の有無は肉眼で判定した。結果を表2に示す(抗菌活性が強いほど最小阻止濃度・MICは小さい)。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すように、モッコクメタノール抽出物、モッコク50%エタノール抽出物及びモッコクサポニンは、抗酵母活性を有することが確認された。特にモッコクサポニンは、優れた抗酵母活性を有することが確認された。
【0065】
〔試験例2〕抗皮膚糸状菌試験
製造例1により得られたモッコクメタノール抽出物、モッコク50%エタノール抽出物及びモッコクサポニンについて、下記の皮膚糸状菌Gに対する抗皮膚糸状菌活性を、サブロー寒天培地を用いた寒天培地希釈法における最小生育阻止濃度・MIC(μg/mL)を求めることにより測定した。
G:Trichophyton mentagrophytes(トリコフィトン・メンタグロフィテス)
なお、培養は温度30℃で4日間行い、生育の有無は肉眼で判定した。結果を表3に示す(抗菌活性が強いほど最小阻止濃度・MICは小さい)。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示すように、モッコクメタノール抽出物、モッコク50%エタノール抽出物及びモッコクサポニンは、抗皮膚糸状菌活性を有することが確認された。特に、モッコクサポニンは、優れた抗皮膚糸状菌活性を有することが確認された。
【0068】
〔試験例3〕抗カビ試験
製造例1により得られたモッコクメタノール抽出物、モッコク50%エタノール抽出物及びモッコクサポニンについて、下記のカビH〜Kに対する抗カビ活性を、ポテトデキストロース寒天培地又はM40Y培地を用いた寒天培地希釈法における最小生育阻止濃度・MIC(μg/mL)を求めることにより測定した。
H:Penicillium frequentans(ペニシリウム・フレクエンタンス)
I:Cladosporium cladosporioides(クラドスポリウム・クラドスポリオイデス)
J:Aspergillus restrictus(アスペルギルス・レストリクタス)
K:Eurotium rubrum(ユーロチウム・ルブルム)
なお、培養は温度25℃で4日間行い、生育の有無は肉眼で判定した。カビH及びIはポテトデキストロース寒天培地、カビJ及びKはM40Y寒天培地で培養した。結果を表4に示す(抗菌活性が強いほど最小阻止濃度・MICは小さい)。
【0069】
【表4】

【0070】
表4に示すように、モッコクメタノール抽出物、モッコク50%エタノール抽出物及びモッコクサポニンは、抗カビ活性を有することが確認された。特にモッコクサポニンは、優れた抗カビ活性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のサポニン、抗真菌剤、皮膚化粧料及び飲食品は、酵母、糸状菌、カビ等の真菌類に起因する真菌性皮膚疾患の予防、治療又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるサポニン。
【化1】

【請求項2】
下記式(I)で表されるサポニンの製造法であって、下記工程(a)〜(c)を含む前記製造方法。
(a)モッコクを水、親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒で抽出する工程
(b)前記工程(a)で得られた抽出物を吸着剤に吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で溶出する工程
(c)前記工程(b)で得られた溶出液を、移動相として、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒を用いた液体クロマトグラフィーにより分画する工程
【化2】

【請求項3】
下記式(I)で表されるサポニン又は該サポニンを含有するモッコク抽出物を有効成分として含有する抗真菌剤。
【化3】

【請求項4】
抗酵母剤、抗皮膚糸状菌剤又は抗カビ剤である請求項3に記載の抗真菌剤。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の抗真菌剤を配合した皮膚化粧料。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の抗真菌剤を配合した飲食品。

【公開番号】特開2008−13520(P2008−13520A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188416(P2006−188416)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】