説明

新規シルセスキオキサン誘導体及びそれから構成されるプロトン伝導膜

【課題】プロトン伝導膜の材料に用いられる新規なシルセスキオキサン誘導体、及び該誘導体から構成されるプロトン伝導膜を提供する。
【解決手段】ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造と、その末端に導入されているポリオキシエチレン構造と、その末端に導入されているリン酸基とを有する特定のシルセスキオキサン誘導体を用い、該誘導体から構成されるプロトン伝導膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端にリン酸基を有する新規シルセスキオキサン誘導体、及びこの誘導体から構成されるプロトン伝導膜に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導膜については、燃料電池やエレクトロクロミック素子、センサー等の種々のデバイスでの利用が知られている。このようなプロトン伝導膜については、その膜の材料を含めて、種々の技術の検討がなされている。
【0003】
このようなプロトン伝導膜に関する技術としては、例えば、フッ素系の膜において、高温時(例えば80℃以上)での耐久性や形状保持性の付与の観点から、シルセスキオキサン系樹脂を利用する技術が知られている(例えば、特許文献1〜6参照。)。この技術では、通常、幅広い温度域で一定のプロトン伝導性が得られる傾向にある一方で、フッ素系の膜のガラス転移温度が130℃付近にあることから、高温時で物性が変化することがある。
【0004】
またプロトン伝導膜に関する技術としては、燃料電池におけるメタノールのクロスオーバーを回避するための技術が知られており、このような技術としては、例えば、スルホン酸基やリン酸基等のアニオン性官能基を有するシルセスキオキサン(例えば、特許文献7及び8参照。)や、アニオン性官能基を有する化合物とシルセスキオキサンポリマーとの組み合わせ(例えば、特許文献9参照。)や、シルセスキオキサン(又はシロキサン)での架橋による膜(例えば、特許文献10参照。)が知られている。アニオン性官能基を有するシルセスキオキサンの使用は、通常、水溶性の過剰な増加を適度に抑制する点において好ましく、また、アニオン性官能基を有する化合物とシルセスキオキサンポリマーとを組み合わせる技術は、通常、シルセスキオキサンによって膜中の隙間を埋めて膜構造をより密に、かつ強固にする点において好ましく、さらに、シルセスキオキサンの架橋膜は、通常、膜の強固化と耐水性の付与の点において好ましい。
【0005】
またプロトン伝導膜に関する技術としては、例えば、シルセスキオキサンを含有する、フィルム化が可能な有機無機ハイブリッド型の組成物が知られている(例えば、特許文献11参照。)この技術は、通常、加湿しない条件でのプロトン伝導の点において好ましい。
【0006】
このようにプロトン伝導膜については種々の技術が検討されている。しかしながら、プロトン伝導膜を用い得るデバイスの用途の拡大や性能のさらなる向上が日々求められており、これに伴い、プロトン伝導膜について、プロトン伝導性の向上のみならず、種々の特性を兼ね備えたプロトン伝導膜や、新たな特性を有するプロトン伝導膜に関する技術の開発がますます求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−112906号公報
【特許文献2】特開2005−005046号公報
【特許文献3】特開2002−309016号公報
【特許文献4】特開2002−097272号公報
【特許文献5】特開2000−090946号公報
【特許文献6】特開2007−270053号公報
【特許文献7】特開2005−339961号公報
【特許文献8】特開2006−073357号公報
【特許文献9】特開2007−220672号公報
【特許文献10】特開2006−351448号公報
【特許文献11】特開2008−291097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プロトン伝導膜の材料に用いられる新規なシルセスキオキサン誘導体、及び該誘導体から構成されるプロトン伝導膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、プロトン伝導膜の材料について鋭意検討した結果、いわゆるダブルデッカー構造を有するシルセスキオキサン誘導体の末端にリン酸基を導入することによって、この化合物から構成される膜がプロトン伝導性を有することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、下記式(1−1)及び(2−1)のいずれかで表されるシルセスキオキサン誘導体を提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1−1)中、Xは独立して、下記式(X−1)又は(X−2)で表される置換基であり、Rは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル又はt−ブチルを表し、aは0〜1,000を表す。
【0013】
【化2】

【0014】
式(X−1)及び(X−2)中、R1は独立して炭素数1〜4のアルキル又はフェニル
を表し、mは独立して1〜10を表し、nは独立して0〜100を表す。
【0015】
【化3】

【0016】
式(2−1)中、Yは独立して、下記式(Y−1)、(Y−2)、又は(Y−3)で表さ
れる置換基であり、Rは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル又はt−ブチルを表し、bは1〜1,000を表す。
【0017】
【化4】

【0018】
式(Y−1)、(Y−2)、及び(Y−3)中、R1は独立して炭素数1〜4のアルキ
ル又はフェニルを表し、mは独立して1〜10を表し、nは独立して0〜100を表す。
【0019】
また本発明は、本発明の前記のシルセスキオキサン誘導体で構成されるプロトン伝導膜を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、中心部にダブルデッカー構造を有し、末端にリン酸基を有する新規なシルセスキオキサン誘導体を提供することができる。
【0021】
また本発明は、前記の新規なシルセスキオキサン誘導体から膜を構成することによって、プロトン伝導膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例における4DEG−DDSQ(線a)と4DEG−2P−DDSQ(線b)のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図2】CDCl3溶媒中における4DEG−2P−DDSQの1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】CDCl3溶媒中における4DEG−2P−DDSQの31P−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】4DEG−2P−DDSQのMSスペクトルを示す図である。
【図5】4DEG−2P−DDSQのXPSスペクトルを示す図である。
【図6】図5のXPSスペクトルの要部を拡大して示す図である。
【図7】相対湿度85%、種々の温度での4DEG−2P−DDSQのキャスト膜のプロトン伝導度を示す図である。
【図8】様々な相対湿度における種々の温度での4DEG−2P−DDSQのキャスト膜のプロトン伝導度を示す図である。
【図9】相対湿度0%、種々の温度での4DEG−2P−DDSQのキャスト膜のプロトン伝導度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の新規シルセスキオキサン誘導体は、下記式(1−1)及び(2−1)のいずれかで表される。
【0024】
【化5】

【0025】
式(1−1)中、Xは独立して、下記式(X−1)又は(X−2)で表される置換基であり、Rは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル又はt−ブチルを表し、aは0〜1,000を表す。また、式(2−1)中、Yは独立して、下記式(Y−1)、(Y−2)、又は(Y−3)で表される置換基で
あり、Rは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル又はt−ブチルを表し、bは1〜1,000を表す。
【0026】
【化6】

【0027】
式(1−1)における式(X−1)及び(X−2)中、R1は独立して炭素数1〜4の
アルキル又はフェニルを表し、mは独立して1〜10を表し、nは独立して0〜100を表す。
【0028】
【化7】

【0029】
また式(2−1)における式(Y−1)、(Y−2)、及び(Y−3)中、R1は独立
して炭素数1〜4のアルキル又はフェニルを表し、mは独立して1〜10を表し、nは独立して0〜100を表す。
【0030】
本発明のシルセスキオキサン誘導体は、ダブルデッカー型のシルセスキオキサンにエチレングリコール基を導入し、導入されたエチレングリコール基の末端にリン酸基を導入することによって得ることができる。
【0031】
例えば式(1−1)において、Xが式(X−1)又は(X−2)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、端部が架橋されていないダブルデッカー型のシルセスキオキサン誘導体(下記式中の(1))に、一端にビニル基を有し他端に水酸基を有しエチレングリコール基をさらに有していてもよいビニル基含有アルコール誘導体(下記式中の(i))を導入して中間体(下記式中の(1−0))を合成し、この中間体とオキシ塩化リンとをピリジン等の塩基の存在下で反応させて、中間体の末端の水酸基をリン酸基とすることによって得ることができる。
【0032】
【化8】

【0033】
例えば式(2−1)において、Yが(Y−1)又は(Y−2)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、端部がケイ素原子で架橋されているダブルデッカー型のシルセスキオキサン誘導体(下記式中の(2))に、ビニル基含有アルコール誘導体(下記式中の(i))を導入して中間体(下記式中の(2−0))を合成し、この中間体とオキシ塩化リンとをピリジン等の塩基の存在下で反応させて、中間体の末端の水酸基をリン酸基とすることによって得ることができる。
【0034】
【化9】

【0035】
例えば式(2−1)において、Yが(Y−3)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、端部がケイ素原子で架橋されているダブルデッカー型のシルセスキオキサン誘導体(下記式中の(2−2))に、ビニル基含有アルコール誘導体(下記式中の(i))を導入して中間体(下記式中の(2−3)を合成し、この中間体とオキシ塩化リンとをピリジン等の塩基の存在下で反応させて、中間体の末端の水酸基をリン酸基とすることによって得ることができる。
【化10】

【0036】
なお、前記式中のRは前記の式(1−1)及び(2−1)におけるRと、R1、m、及
びnは、それぞれ、前記の式(X−1)、(X−2)、(Y−1)、(Y−2)及び(Y−3)におけるR1、m、及びnと同じである。また前記式(i)中、lはそれぞれ0〜
9を表す。各式において、R、R1、m、及びnは、それぞれ同じであってもよいし異な
っていてもよい。
【0037】
本発明において、Rは、疎水性の観点からフェニル又はパーフルオロであることが好ましい。また、R1は、立体障害の低さの観点からメチルであることが好ましい。また、n
は、親水性の観点から1〜20であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜6であることがさらに好ましい。
【0038】
式(1−1)において、Xが式(X−1)で表される化合物は、前記中間体(1−0)とオキシ塩化リンとの反応において、反応温度を比較的高く、例えば45℃以上とすることによって得ることができる。式(1−1)において、Xが式(X−2)で表される化合物は、前記中間体(1−0)とオキシ塩化リンとの反応において、反応温度を低く、例えば0〜5℃程度とし、反応溶媒にジオキサンを用いることによって得ることができる。
【0039】
また、式(2−1)において、Yが式(Y−1)で表される化合物は、前記中間体(2−0)とオキシ塩化リンとの反応において、反応温度を比較的高く、例えば45℃以上とすることによって得ることができる。式(2−1)において、Yが式(Y−2)で表される化合物は、前記中間体(2−1)とオキシ塩化リンとの反応において、反応温度を低く、例えば0〜5℃程度とし、反応溶媒にジオキサンを用いることによって得ることができる。式(2−1)において、Yが式(Y−3)で表される化合物は、前記中間体(2−2)とオキシ塩化リンとの反応で得ることができる。
【0040】
式中のシルセスキオキサン誘導体(1)、(2)又は(2−2)とビニル基含有アルコール誘導体(i)との反応は、シルセスキオキサン誘導体(1)、(2)又は(2−2)の末端のシリル基のケイ素原子に、ビニル基含有アルコール誘導体(i)のビニル基の炭素原子を結合させる通常の反応条件によって行うことができる。このような反応条件としては、例えば、有機溶剤中、白金触媒の存在下での室温での反応条件が挙げられる。
【0041】
シルセスキオキサン誘導体(1)においてaが0の化合物は、例えば国際公開第04/024741号パンフレットに記載されているように、三つの加水分解性の基と一つのRとを有するシラン誘導体を、アルカリ金属水酸化物の存在下、テトラヒドロフランやアルコールのような含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させてダブルデッカー型のシルセスキオキサンを合成し、得られたシルセスキオキサンと、一つのクロロ基及び二つのR1
有するモノクロロシラン誘導体とを反応させることによって得ることができる。
【0042】
シルセスキオキサン誘導体(1)においてaが1以上の化合物は、例えば特開2008−150478に記載されているように、三つの加水分解性の基と一つのRとを有するシラン誘導体を、アルカリ金属水酸化物の存在下、テトラヒドロフランやアルコールのような含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させてダブルデッカー型のシルセスキオキサンを合成し、得られたシルセスキオキサンと、四つのクロロ基またはハロゲン、アルコキシ、アセトキシのようなシラノールと反応する官能基を有するシラン誘導体とを、シルセスキオキサンに対してシラン誘導体を1倍モル以上で反応させてシルセスキオキサン誘導体を合成し、得られたシルセスキオキサン誘導体と、一つのクロロ基及び二つのR1を有する
モノクロロシラン誘導体とを反応させることによって得ることができる。
【0043】
シルセスキオキサン誘導体(2)においてbが1の化合物は、例えば国際公開第03/024870号パンフレットに記載されているように、三つの加水分解性の基と一つのRとを有するシラン誘導体を、アルカリ金属水酸化物の存在下、テトラヒドロフランやアル
コールのような含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させてダブルデッカー型のシルセスキオキサンを合成し、得られたシルセスキオキサンとジクロロシランとを反応させて、末端がケイ素で架橋されたシルセスキオキサン誘導体を合成し、得られたシルセスキオキサン誘導体と、一つのクロロ基及び二つのR1を有するモノクロロシラン誘導体とを反応さ
せることによって得ることができる。
【0044】
シルセスキオキサン誘導体(2)においてbが2以上の化合物は、例えば特開2008−150478号公報に記載されているように、三つの加水分解性の基と一つのRとを有するシラン誘導体を、アルカリ金属水酸化物の存在下、テトラヒドロフランやアルコールのような含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させてダブルデッカー型のシルセスキオキサンを合成し、得られたシルセスキオキサンと、四つのクロロ基又はハロゲン、アルコキシ、アセトキシのようなシラノールと反応する官能基を有するシラン誘導体類とを、シルセスキオキサンに対してシラン誘導体を1倍モル未満で反応させることによって末端がケイ素で架橋されたシルセスキオキサン誘導体を合成し、得られたシルセスキオキサン誘導体と、一つのクロロ基及び二つのR1を有するモノクロロシラン誘導体とを反応させるこ
とによって得ることができる。
【0045】
シルセスキオキサン誘導体(2−2)においてbが1の化合物は、例えば国際公開第03/024870号パンフレットに記載されているように、三つの加水分解性の基と一つのRとを有するシラン誘導体を、アルカリ金属水酸化物の存在下、テトラヒドロフランやアルコールのような含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させてダブルデッカー型のシルセスキオキサンを合成し、得られたシルセスキオキサンと二つのクロロ基及び一つのR1
を有するジクロロシラン誘導体とを反応させることによって得ることができる。
【0046】
シルセスキオキサン誘導体(2−2)においてbが2以上の化合物は、例えば特開2008−150478号公報に記載されているように、三つの加水分解性の基と一つのRとを有するシラン誘導体を、アルカリ金属水酸化物の存在下、テトラヒドロフランやアルコールのような含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させてダブルデッカー型のシルセスキオキサンを合成し、得られたシルセスキオキサンと、四つのクロロ基またはハロゲン、アルコキシ、アセトキシのようなシラノールと反応する官能基を有するシラン誘導体とを、シルセスキオキサンに対してシラン誘導体を1倍モル以上で反応させてシルセスキオキサン誘導体を合成し、得られたシルセスキオキサン誘導体と、二つのクロロ基及び一つのR1を有するジクロロシラン誘導体とを反応させることによって得ることができる。
【0047】
シルセスキオキサン誘導体(1)、(2)又は(2−2)の前述の合成における出発原料である前記ケイ素化合物の多くは市販されており、このような市販品を用いることができるが、市販されていない化合物については、公知の技術(例えば、ハロゲン化シランとグリニャール試薬との反応等)により合成することができる。
【0048】
なお、シルセスキオキサン誘導体(1)、(2)又は(2−2)に代えて、ダブルデッカー型のシルセスキオキサンの端部の一方のみをシルセスキオキサン誘導体(1)と同じく開放し、他方をシルセスキオキサン誘導体(2)と同じくケイ素原子によって架橋し、それぞれの端部においてモノクロロシラン誘導体を反応させてなる、開放端と架橋端とを有するシルセスキオキサン誘導体(3)を用いることによって、このようなシルセスキオキサン誘導体(3)の構造を中心部に有する以外は式(1−1)や(2−1)と同じ構造を有するシルセスキオキサン誘導体を提供することも可能である。
【0049】
本発明のシルセスキオキサン誘導体は、FT−IR、1H−NMR、31P−NMR、M
S、及びXPS等の通常の分析装置を用いることによって同定することができる。
【0050】
本発明のプロトン伝導膜は、前述の本発明のシルセスキオキサン誘導体で構成される膜である。本発明のプロトン伝導膜の形成において、用いられる本発明のシルセスキオキサン誘導体は一種でも二種以上でもよい。
【0051】
本発明のプロトン伝導膜としては、例えば、本発明のシルセスキオキサン誘導体の溶液を適当な基材上に塗布し、溶剤を留去させることによって得られるキャスト膜が挙げられる。このような溶剤としては、例えばクロロホルムが挙げられる。本発明のプロトン伝導膜は、このようなキャスト膜以外にも、本発明のシルセスキオキサン誘導体によるプロトン伝導性が得られる範囲において、他の成分をさらに含有する膜であってもよいし、また他の成分をさらに含有してこの成分を利用して形成される膜であってもよい。
【0052】
本発明のプロトン伝導膜は、例えばプロトン伝導膜の通常の用途での利用が期待される。このような用途としては、例えば燃料電池、エレクトロクロミック素子、センサー等におけるプロトン伝導膜が挙げられるが、その物性に応じた新規な用途での利用も期待され、本発明のプロトン伝導膜の用途は、プロトン伝導性が得られる範囲において特に限定されない。
【実施例】
【0053】
合成例1 DD4Hの合成
DD4OH(下記式における化合物1、7,160g)、ジメチルクロロシラン(2,850g)、トルエン72.6kgを反応器に仕込み、窒素雰囲気下、トリエチルアミン(3,230g)を20分間で滴下した。このとき、溶液温度が35℃〜40℃になるよう滴下速度を調節した。滴下終了後、1時間攪拌を継続し、反応を完結させた。反応終了後、イオン交換水(16.7kg)を投入して過剰量のジメチルクロロシランを加水分解し、有機層と水層に分けた。有機層を水洗により中性とした後、ロータリーエバポレーターを用いて85℃で減圧濃縮を行い、得られた残渣をメタノール(19.95kg)で洗浄し、8,587.6gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(9.31kg)で洗浄し、減圧乾燥してDD4H(下記式における化合物2)を得た。
【0054】
【化11】

【0055】
合成例2 DDQ4Hの合成
DD4OH(56g)、テトラアセトキシシラン(42g)、酢酸エチル900mLを反応器に仕込み、窒素雰囲気下60℃で5時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却してイオン交換水100gを添加し、固形物を析出させた。固形物を濾過したのち50℃で濃縮して約850mLの溶剤を留去した。そして得られた濃縮液を濾過して固体を得た。得られた固体は70℃で2時間減圧乾燥を行い、白色固体(下記式における化合物3)を得た。次いで、ジメチルクロロシラン(23g)とトルエン400mLを別の反応器に仕込み、窒素雰囲気下トリエチルアミン(22g)を滴下した。次いで化合物3(48g)を酢酸エチル210mLに溶解して、反応液の温度が35℃以下に保たれるように前記の反応器中の溶剤に滴下し、3時間反応を行った。水(50g)加え30分間撹拌を継続した後、分液漏斗で有機相と水相に分けた。得られた有機相は水洗して中性としたのち、無
水硫酸マグネシウムで乾燥した。次に無水硫酸マグネシウムを濾過で除去したのち50℃で減圧濃縮した。得られた残渣にメチルアルコール(120mL)を加え、4時間撹拌した後濾過してDDQ4H(下記式における化合物4)を得た。
【0056】
【化12】

【0057】
合成例3 DDQDD4OHの合成
DD4OH(6.4g)、テトラアセトキシシラン(2.2g)、酢酸エチル120mLを反応器に仕込み、窒素雰囲気下75℃で4時間反応を行った。室温まで冷却した後、テトラアセトキシシラン(1.1g)を加えて75℃で1時間反応させた。得られた反応液を室温まで冷却したのち水を加え遠心分離を行い、固液分離を行った。得られた溶液にトルエンを(40mL)添加し、再度、遠心分離を行い、固液分離する操作を3度繰り返して行った。このようにして得られた濾液を、減圧濃縮を行うことでDDQDD4OH(下記式における化合物5)を得た。
【0058】
【化13】

【0059】
合成例4 DDQDD4Hの合成
DD4OHの代わりに合成例3で得られるDDQDD4OHを用いる以外は、合成例1
と同様の操作を行うことにより、DDQDD4H(下記式における化合物6)を得ることができる。
【0060】
【化14】

【0061】
合成例5 DDQDDQDD4OHの合成
DD4OH(1.0g)、テトラアセトキシシラン(0.8g)、酢酸エチル40mLを反応器に仕込み、窒素雰囲気下55℃で5時間反応を行った。室温まで冷却した後、DD4OH(6.4g)をテトラヒドロフラン20mLに溶解して添加し、55℃で6時間反応させた。て室温まで冷却したのち中和、水洗、濾過、濃縮を行い、白色固体(7.8g)得た。次に得られた白色固体に酢酸エチル(30mL)加え撹拌したのち固液分離を行った。そして得られた濾液にトルエン(40mL)を加え生成した固体を濾別した。さらに濾液にヘキサンを加えて再結晶を行うことでDDQDDQDD4OH(下記式における化合物7)を得た。
【0062】
【化15】

【0063】
合成例6 DDQDDQDD4Hの合成
DD4OHの代わりに合成例5で得られるDDQDDQDD4OHを用いる以外は、合成例1と同様の操作を行うことにより、DDQDDQDD4H(下記式における化合物8)を得ることができる。
【0064】
【化16】

【0065】
合成例7 4DEG−2P−DDSQの合成
DD4H(2.6g)とジ(エチレングリコール)ビニルエステル(1.37mL)をトルエン5mLに溶解させ、アルゴン雰囲気下、0℃で白金触媒(白金ジビニルテトラメチルジシロキサン(Pt(dvs))3重量%キシレン溶液)を10μL加え、室温で12時間反応させ、4DEG−DDSQ(下記式における化合物9)を得た。4DEG−DDSQ(1g)をピリジン(10mL)に溶解させ、過剰量(4DEG−DDSQに対して(40)モル当量)のPOCl3を加え、45℃で6時間反応させた。反応終了後、水
による分液操作により未反応のPOCl3を除去し、Xが式(X−1)で表される式(1
−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、aが0であり、mが1であり、
nが2である末端にリン酸部位を有する4DEG−2P−DDSQ(下記式における化合物10)を得た。
【0066】
【化17】

得られた合成物の構造をFT−IR、1H−NMR、31P−NMR、MS、及びXPS
により解析した。FT−IRスペクトルにおいて、4DEG−2P−DDSQ(図1における線b)は4DEG−DDSQ(図1における線a)に観測されたOH基由来の吸収(3,430cm-1)が消失し、4DEG−DDSQの末端のOH基がPOCl3と反応し
たことが確認された(図1)。さらにSi−O−Siかご形構造に由来するIR吸収が反応前後に変化がないことから反応前後においてSi−O−Siかご構造が維持されていることが確認された
【0067】
1H−NMR及び31P−NMRの測定はCDCl3を溶媒に用いて行った。1H−NMR
スペクトルは、フェニル基(40H,7.0〜7.6ppm)、エチレングリコール基(40H,3.0〜3.7ppm)、CH2−Siに由来するメチン基(8H,0.90p
pm)、Si(CH3)に由来するメチル基(12H,0.01ppm)のピークが観測
された(図2)。また31P−NMRよりリンに由来するピークが−21.4ppmに観測された(図3)。
【0068】
MSでは、MALDI−TOF質量分析装置としてブルカーダルトニクス社製のREFLEXIIIを用い、マトリックスにジスラアノールとトリフルオロ酢酸銀とを用い、ポ
ジティブモードで試料をイオン化し、加速電圧を20kVとして質量分析を行った。質量スペクトルでは、4DEG−DDSQのジアニノンと一つの銀イオンとからなる成分のピーク(図4中の矢印で示すピーク)が2,058(理論値は2,059.29)として検出された(図4)。
【0069】
XPSでは、パーキンエルマー社製のPHI5600を用い、炭素の1sピークを285.0eVとし、光電子の取り出し角度を45°としてX線光電子分光を行った。XPSスペクトルでは、リンが「PO3」の状態で存在することを示すリン由来のピークが13
4keVに検出された(図5及び図6)。
【0070】
これらの解析結果から、得られた合成物がリンを架橋基とする環状化合物10(4DEG−2P−DDSQ)であると同定した。
【0071】
合成例8 4DEG−4P−DDSQの合成
反応溶剤をジオキサン、反応温度を10℃以下とする以外は、合成例7と同様の操作を行うことにより、Xが式(X−2)で表される式(1−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、aが0であり、mが1であり、nが2である4DEG−4P−DD
SQ(下記式における化合物11)を得ることができる。
【0072】
【化18】

【0073】
合成例9 4DEG−2P−DDQSQの合成
DD4Hの代わりに合成例2で得られるDDQ4Hを用いる以外は、合成例7と同様の操作を行うことにより、Yが式(Y−1)で表される式(2−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、bが1であり、mが1であり、nが2である4DEG−2P
−DDQSQ(下記式における化合物12)を得ることができる。
【0074】
【化19】

【0075】
合成例10 4DEG−4P−DDQSQの合成
DD4Hの代わりに合成例2で得られるDDQ4Hを用いる以外は、合成例8と同様の操作を行うことにより、Yが式(Y−2)で表される式(2−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、bが1であり、mが1であり、nが2である4DEG−4P−
DDQSQ(下記式における化合物13)を得ることができる。
【0076】
【化20】

【0077】
合成例11 4DEG−2P−DDQDDSQの合成
DD4Hの代わりに合成例4で得られるDDQDD4Hを用いる以外は、合成例7と同様の操作を行うことにより、Yが式(Y−1)で表される式(2−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、bが2であり、mが1であり、nが2である4DEG−
2P−DDQDDSQ(下記式における化合物14)を得ることができる。
【0078】
【化21】

【0079】
合成例12 4DEG−4P−DDQDDSQの合成
DD4Hの代わりに合成例4で得られるDDQDD4Hを用いる以外は、合成例8と同様の操作を行うことにより、Yが式(Y−2)で表される式(2−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、bが2であり、mが1であり、nが2である4DEG−
4P−DDQDDSQ(下記式における化合物15)を得ることができる。
【0080】
【化22】

【0081】
合成例13 4DEG−2P−DDQDDQDDSQの合成
DD4Hの代わりに合成例6で得られるDDQDDQDD4Hを用いる以外は、合成例7と同様の操作を行うことにより、Xが式(X−1)で表される式(1−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、aが2であり、mが1であり、nが2である4D
EG−2P−DDQDDQDDSQ(下記式における化合物16)を得ることができる。
【0082】
【化23】

【0083】
合成例14 4DEG−4P−DDQDDQDDSQの合成
DD4Hの代わりに合成例6で得られるDDQDDQDD4Hを用いる以外は、合成例
8と同様の操作を行うことにより、Xが式(X−2)で表される式(1−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、aが2であり、mが1であり、nが2である4D
EG−4P−DDQDDQDDSQ(下記式における化合物17)を得ることができる。
【0084】
【化24】

【0085】
合成例15 2DEG−2P−DDSQの合成
DD4Hの代わりにDD2H(下記式における化合物18)を用いる以外は、合成例8と同様の操作を行うことにより、Yが式(Y−3)で表される式(2−1)においてRがフェニルでありR1がメチルであり、bが1であり、mが1であり、nが2である2DE
G−2P−DDSQ(下記式における化合物19)を得ることができる。
【0086】
【化25】

【0087】
[DEG−2P−DDSQから構成される膜のプロトン伝導度の測定]
合成例7で得られた4DEG−2P−DDSQをクロロホルムに0.07重量%の濃度で溶解し、得られた溶液を、平滑な表面を有する基材の表面に塗布し、膜厚が1μmのキャスト膜を作製し、相対湿度95%で種々の温度における前記キャスト膜のプロトン伝導度をインピーダンス測定により算出した。
【0088】
キャスト膜の膜厚は、レーザー顕微鏡によって測定した。インピーダンス測定には、誘電体測定システム126096型(ソーラトロン社製)を用い、測定周波数が1Hz〜10MHz、印加電圧10mVp-pの条件でインピーダンス測定を行った。
【0089】
インピーダンス測定において、種々の温度におけるインピーダンスの実部と挙部の関係を示すCole−Coleプロットでは、高周波数側において半円が示され、その半径は温度とともに減少した。この半円の半径を膜抵抗とし、前記キャスト膜のプロトン伝導度を算出した結果を図7に示す。プロトン伝導度は温度が増加するにつれて増加し、相対湿度(RH)が95%において35℃で4.8×10-3、55℃で2.7×10-2、85℃で1.5×10-1S/cmを示した。
【0090】
また、相対湿度を55〜95%の範囲で変更し、それぞれの湿度において温度を変更したときの前記キャスト膜のインピーダンスを前述と同様に測定し、このときのキャスト膜のプロトン伝導度を求めた。結果を図8に示す。
【0091】
また、相対湿度を0%で一定とし、温度を変更したときの前記キャスト膜のインピーダンスを前述と同様に測定し、このときのキャスト膜のプロトン伝導度を求めた。結果を図9に示す。プロトン伝導度は、165℃にピークを示し、100℃で2.58×10-5S/cm、165℃で2.00×10-4S/cmを示した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
プロトン伝導膜は、さらなる用途の拡大が期待される一方で、プロトン伝導性のみならず、成膜性、機械的特性、温度や湿度等の作動環境に対する環境特性、膜の構造や耐水性等、用途に応じた適当な特性を備えていることが求められている。本発明は、ダブルデッカー型のシルセスキオキサンを含む構造や、リン酸基がシルセスキオキサン誘導体の末端に導入されている構造等の特徴を有しており、このような特徴による特異なプロトン伝導性や、その最適化による新たな用途での利用が期待され、プロトン伝導膜を用いるデバイスの開発のさらなる発展が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1−1)及び(2−1)のいずれかで表されるシルセスキオキサン誘導体。
【化1】

(式(1−1)中、Xは独立して、下記式(X−1)又は(X−2)で表される置換基であり、Rは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル又はt−ブチルを表し、aは0〜1,000を表す。)
【化2】

(式(X−1)及び(X−2)中、R1は独立して炭素数1〜4のアルキル又はフェニル
を表し、mは独立して1〜10を表し、nは独立して0〜100を表す。)
【化3】

(式(2−1)中、Yは独立して、下記式(Y−1)、(Y−2)、又は(Y−3)で表さ
れる置換基であり、Rは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル又はt−ブチルを表し、bは1〜1,000を表す。)
【化4】

(式(Y−1)、(Y−2)、及び(Y−3)中、R1は独立して炭素数1〜4のアルキ
ル又はフェニルを表し、mは独立して1〜10を表し、nは独立して0〜100を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のシルセスキオキサン誘導体で構成されるプロトン伝導膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−7007(P2013−7007A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142262(P2011−142262)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】