説明

新規ジオスメチン化合物、その製造法、およびそれを含有する薬学的組成物

【課題】新規ジオスメチン(diosmetin)化合物およびその製造法の提供。
【解決手段】式(I):


[式中、R1、R2およびR3は、同じであるか、または異なってもよく、それぞれ、水素原子、またはグルクロン酸を表す]で示される化合物。慢性静脈疾患の予防または治療に有用な医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジオスメチン(diosmetin)化合物、その製造法、およびそれを含有する薬学的組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジオスメチン化合物、および静脈機能不全の処置におけるその活性は、欧州特許出願公開第0 709 383号公報(EP 0 709 383)に記載されている。
【0003】
本発明の化合物は、接着分子インヒビター、NADPH酸化酵素インヒビターおよび抗血小板凝集剤である。
【0004】
白血球接着阻害およびNADPHオキシダーゼ阻害という特性は、その病理学では、下肢微小循環ネットワークの白血球浸潤を伴う炎症が広範囲に記載されていることを考慮すると、慢性静脈疾患の処置に重要である[Verbeuren, T.J., Bouskela, E., Cohen, R.A. et al., Regulation of adhesion molecules: a new target for the treatment of chronic venous insufficiency, 2000, Microcirculation, 7, S41-S48]。
【0005】
血小板凝集阻害という特性は、静脈および動脈血栓症の予防および治療だけでなく、血小板が炎症性メジエーターによって活性化されることがあるか、または血栓症後症候群の患者に見られる、慢性静脈疾患の治療においても、本発明の化合物の抗血栓作用の可能性を立証するものである。
【0006】
慢性静脈疾患では、毛細血管/小静脈の細小血管障害の存在が立証されている。この細小血管障害は、静脈性高血圧の結果であり、毛細血管/小静脈濾過による問題(高浸透圧)、したがってまた微小浮腫による問題を生じる[Barbier et al., Microcirculation and rheology, 1994, Presse med., 23, 213-224]。無数の研究から、接着分子の循環レベルでの増加に付随する静脈性高血圧への内皮細胞の活性化の関与が示されている[Saharay, M., Shields, D.A., Georgiannos, S.N. et al., Endothelial activation in patients with chronic venous disease, 1998, Eur. J. Vasc. Surg., 15, 342-349;Verbeuren, T.J., Bouskela, E., Cohen, R.A. et al., Regulation of adhesion molecules: a new target for the treatment of chronic venous insufficiency, 2000, Microcirculation, 7, S41-S48]。本発明の化合物は、抗炎症活性ばかりでなく、抗高浸透圧活性も有する。
【0007】
更に、慢性静脈疾患では、フリーラジカル、したがってまたNADPHオキシダーゼ活性化の増大も立証されている。この酸化ストレスは、内皮細胞活性化および白血球浸潤と関連すると考えられる[Glowinski, J. & Glowinski, S., Generation of reactive oxygen metabolites by the varicose vein wall, 2002, Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg., 23, 5550-555]。
【0008】
内皮細胞の浸潤、ならびに接着分子およびNADPHオキシダーゼの誘導は、数多くの血管病理学で立証されている[Bedard, K. & Krause, K.H., The NOX family of ROS-generating oxidases: Physiology and pathophysiology, 2007, Physiol. Rev. 87, 245-313]。
【発明の概要】
【0009】
上記により、本発明の化合物は、静脈疾患、特に慢性静脈疾患のそのすべての段階(疼痛、毛細血管拡張症、静脈瘤、浮腫、栄養失調、潰瘍)での予防または治療;また血栓後症候群、糖尿病に付随する血管併発症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、肥満に付随するメタボリック症候群、肥満に付随する血管併発症、狭心症、下肢の動脈炎または脳血管発作の予防もしくは治療;主として静脈性または混合性脚潰瘍および糖尿足を含む慢性創傷の治癒;痔核発作の治療または予防;圧力潰瘍の治療または予防;ならびに多発性硬化症の治療に用いることができる。
【0010】
より具体的には、本発明は、式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、R1、R2およびR3は、同じであるか、または異なってもよく、それぞれ、水素原子、または式(A):
【0013】
【化2】

【0014】
で示される基を表す]
で示される化合物に関する。
1、R2およびR3のうち少なくとも一つが基(A)を表す化合物は、R1、R2およびR3が、それぞれ、水素原子を表す式(Ia)の化合物の代謝産物である。
【0015】
本発明は、式(I)の化合物を製造する方法であって、式(II):
【0016】
【化3】

【0017】
のジオスメチンから出発して、これを臭化メタリルと反応させて、式(III):
【0018】
【化4】

【0019】
で示される化合物を得て、これを加熱して、式(I)の化合物の、R1、R2およびR3がそれぞれ水素原子を表す特定の場合である、式(Ia):
【0020】
【化5】

【0021】
の化合物を得て、式(I)のその他の化合物を得るのが望ましいときは、これを、式(IV):
【0022】
【化6】

【0023】
[式中、Acはアセチル基を表す]
で示される化合物と反応させて、基(A)の酸官能基およびアルコール官能基を脱保護した後に、R1、R2およびR3のうち少なくとも一つがH以外である、式(I)の化合物を得る方法にも関する。
【0024】
式(I)の化合物が混合物として得られたときは、たとえば分取HPLCクロマトグラフィーによって、それらを分離し得る。
【0025】
1およびR3がそれぞれ水素原子を表し、R2が式(A)の基を表す、式(Ib)の化合物は、式(Ia)の化合物をアセチル化して、式(V):
【0026】
【化7】

【0027】
[式中、Acはアセチル基を表す]
で示される化合物を得て、これを式(IV)の化合物と反応させて、式(VI):
【0028】
【化8】

【0029】
[式中、Acはアセチル基を表す]
で示される化合物を得て、その酸官能基およびアルコール官能基を脱保護して、得ることもできる。
【0030】
本発明の化合物は、接着分子およびNADPHオキシダーゼインヒビター、ならびに抗血小板凝集剤である。
【0031】
そのため、それらは、静脈疾患、特に慢性静脈疾患のそのすべての段階(疼痛、毛細血管拡張症、静脈瘤、浮腫、栄養失調、潰瘍)での予防または治療;また血栓後症候群、糖尿病に付随する血管併発症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、肥満に付随するメタボリック症候群、肥満に付随する血管併発症、狭心症、下肢の動脈炎または脳血管発作の予防もしくは治療;主として静脈もしくは混合脚潰瘍および糖尿足を含む慢性創傷の治癒;痔核発作の治療または予防;圧力潰瘍の治療または予防;ならびに多発性硬化症の治療に有用である。
【0032】
本発明は、活性成分として、式(I)の化合物を、薬学的に許容され得る、非毒性かつ不活性の担体または賦形剤の一つもしくはそれ以上と組み合わせて含む薬学的組成物にも関するものである。
【0033】
本発明の薬学的組成物のうち、より特別には、経口、非経口(静脈内、筋内または皮下)、経皮もしくは貫皮、経鼻、直腸、舌下、眼内、または呼吸器投与に適したもの、また特に錠剤もしくは糖衣錠、舌下錠、ハードゼラチンカプセル剤、カプセル剤、坐剤、クリーム剤、軟膏、経皮ゲル剤、注射もしくは飲用可能な製剤、エアゾル、点眼剤および点鼻剤を挙げることができる。
【0034】
式(I)の化合物に加えて、本発明の薬学的組成物は、希釈剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色料、甘味料のような賦形剤または担体の一つもしくはそれ以上を含む。
【0035】
賦形剤または担体の例としては、
・希釈剤として:乳糖、デキストロース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセリンを、
・潤滑剤として:シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウムおよびカルシウム塩、ポリエチレングリコールを、
・結合剤として:ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、でん粉、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリビニルピロリドンを、
・崩壊剤として:寒天、アルギン酸およびそのナトリウム塩、発泡性混合物を
列挙し得る。
【0036】
この薬学的組成物中の式(I)の活性成分の百分率は、好ましくは5〜50重量%である。
【0037】
有用な投与量は、患者の年齢および体重、投与経路、障害の性質および重篤度、ならびに付随するいかなる処置の投与にも応じて変化し、1回またはそれ以上の投与で1日あたり0.5〜1,000mgの範囲にわたる。
【0038】
下記の実施例は、本発明を例示する。実施例に記載された化合物の構造は、慣用の分光分析の手法(赤外線、核磁気共鳴、質量分析)に従って決定した。
【0039】
略語
DMSO:ジメチルスルホキシド
NADPH:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の還元形
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
【実施例1】
【0040】
6,8,2’−トリス(イソブタ−2−エン−1−イル)ジオスメチン
【0041】
【化9】

【0042】
工程A:2−{4−メトキシ−3−[(イソブタ−2−エン−1−イル)オキシ]フェニル}−5,7−ビス[(イソブタ−2−エン−1−イル)オキシ]−4H−クロメン−4−オン
ジオスメチン30gに、炭酸カリウム69.3gおよびアセトン450mlを加えた。混合物を、還流にて4時間30分加熱し、次いで環境温度に戻し;次いで臭化メタリル54gを加えた。次いで、反応混合物を、還流にて一晩加熱し、次いで環境温度に戻し、濾過した。フィルターケーキを、アセトンで洗浄し、次いで濾液を蒸発させて、残渣を得て、これをトルエンから再結晶させて、標記化合物を得た。
【0043】
工程B:6,8,2’−トリス(イソブタ−2−エン−1−イル)ジオスメチン
前工程で得た化合物10gに、N,N−ジメチルアニリン120mlを加え、次いで、混合物を還流にて1時間加熱した。次いで、溶媒を減圧下で蒸発させ、得られた残渣を、イソプロパノールから再結晶させて、標記化合物を得た。
融点:141℃
【実施例2】
【0044】
(5−ヒドロキシ−2−[3−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル]−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−7−イル)−β−D−グルクロン酸
【0045】
【化10】

【0046】
工程A:5−ヒドロキシ−2−[3−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル]−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−7−イル−2,3,4−トリス−O−アセチル−β−D−グルクロン酸メチル
標記化合物は、刊行物Synth. Commun., 1999, 29(16), 2775-2781に記載の手順に従い、相間移動触媒反応によって、実施例1の化合物(250mg)を式(IV)の化合物(429mg)と反応させることによって得た。
【0047】
工程B:(5−ヒドロキシ−2−[3−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル]−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−7−イル)−β−D−グルクロン酸
工程Aで得られた化合物をメタノールに溶解し、次いで水酸化ナトリウムを加えた。混合物を、1時間30分還流させ、次いで、2N塩酸溶液で中和してから、蒸発乾固して、標記化合物を得た。
【実施例3】
【0048】
3−[5,7−ジヒドロキシ−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−2−イル]−6−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル−β−D−グルクロン酸
【0049】
【化11】

【0050】
工程A:5−ヒドロキシ−2−[3−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル]−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−7−イル=アセタート
実施例1の化合物(3g)をピリジンに溶解し、次いで、環境温度で無水酢酸(0.61ml)を加えた。次いで、反応混合物を16時間撹拌した後、蒸発乾固した。残渣を氷冷水に溶解し、次いでジクロロメタンで抽出し、乾燥、濾過、そして蒸発させた。それによって得られた未精製生成物を、シリカゲル上で、次いで逆相分取HPLCによって精製して、標記化合物を得た。
【0051】
工程B:3−[7−(アセチルオキシ)−5−ヒドロキシ−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−2−イル]−6−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル−2,3,4−トリス−O−アセチル−β−D−グルクロン酸メチル
前工程で得た化合物から出発して、実施例2の工程Aの手順に従って、標記化合物を得た。
【0052】
工程C:3−[5,7−ジヒドロキシ−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−2−イル]−6−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル−β−D−グルクロン酸
前工程で得た化合物から出発して、実施例2の工程Bの手順に従って、標記化合物を得た。
【0053】
薬理学的研究
以下の実施例で、用語「参照化合物」は、欧州特許出願公開第0 709 383号公報(EP 0 709 383)の実施例69を意味する。
【実施例4】
【0054】
血小板凝集のin vitro阻害
麻酔したNew Zealand系ウサギの頸動脈から、血液サンプルを0.109Mクエン酸塩に採取した。遠心分離によって、血小板に富む血漿を得た。次いで、遠心分離によって、血小板を洗浄した。
【0055】
洗浄した血小板を、タイロード緩衝液に再懸濁させた。この血小板懸濁液を、それぞれ同じ溶媒(0.1%DMSO)中で希釈した実施例1の化合物(30μM)または参照化合物(30μM)の存在下で、セルに入れ、次いで37℃の凝集検出計に撹拌しつつ入れた。2分後、コラーゲン(4μg/ml)を用いて凝集を生起し;次いで、応答を6分間記録した。血小板凝集を、濁度測定を用いて、すなわち、タイロードを入れたセル、および溶媒(0.1%DMSO)を入れたセルについて、血小板懸濁液を透過する光の百分率によって定量した。
【0056】
本発明のジオスメチン化合物、特に実施例1の化合物、および参照化合物の抗凝集効果を、血小板凝集の阻害百分率の関数として評価した(阻害百分率が高いほど、活性が高い)。実施例1の化合物(30μM)は、36.6±9.9%の阻害を生じたのに対し、参照化合物は、有意な効果を生じなかった(4.1±1.8%);(P<0.01、参照化合物に対する実施例1の化合物、スチューデントのt検定、n=7)。
【0057】
この試験は、実施例1の化合物の抗血小板凝集活性、したがってまた抗血栓作用の可能性を立証するものである。
【実施例5】
【0058】
白血球接着のin vivo阻害
体重90〜110gのハムスター3匹の3群を、この研究に用いた。麻酔30分前に、プラセボ(10%アラビアゴム)、実施例1の化合物(3mg/kg)または参照化合物(3mg/kg)の1回投与分をハムスターに経口的に与えた。動物は腹腔内投与により、50mg/kgのペントバルビタールで麻酔した。ハムスターを顕微鏡下に置き、頬袋を単離し、潅流液(NaCl:110.0mM、KCl:4.7mM、CaCl2:2.0mM、MgSO4:1.2mM、NaHCO3:18.0mM、Hepes:15.39mM、およびHepesNa+塩:14.61mM)中に浸漬した[Duling, The preparation and use of the hamster cheek pouch for studies of the microcirculation, 1973, Microvasc. Res., 5: 423-429;Svensjo et al., The hamster cheek pouch preparation as a model for studies of macromolecular permeability of the microvasculature, 1978, Uppsala J. Med. Sci., 83: 71-79]。
【0059】
頬袋への入口に取り付けたラテックス管を用いて、局所虚血を生起した。目盛り付き注射器を用いて、管の管内圧を200〜220mmHgに高めた。この全閉塞を30分間実施し、次いで、再潅流を45分間実施した。虚血の開始直後(100%として定義)、次いで再潅流後の異なる時間(0、15、30および45分)に、後毛細血管細静脈内の内皮細胞への白血球接着を6mm2の視野内で定量した。
【0060】
虚血再潅流によって生起される、ハムスター頬袋内の白血球接着のモデルにより、抗接着剤としての本発明のジオスメチン化合物、特に実施例1の化合物、および参照化合物の効果を確認することができる。
【0061】
実施例1の化合物および参照化合物の活性を、虚血/再潅流後の6mm2の視野について内皮細胞に接着する白血球の数の関数として評価したが、活性が高いほど、白血球数が少なく、したがって虚血後の接着白血球の数に対する接着白血球の百分率が低い。
【0062】
【表1】

【0063】
表1:虚血後(白血球数を100%と考える)、ならびに再潅流0、15、30および45分後の、頬袋の後毛細血管細静脈内の内皮細胞に接着する白血球の数に対する、実施例1の化合物または参照化合物のハムスターへの経口投与の効果。
**:p<0.01;***:p<0.001、プラセボ投与に対して、二元(時間および投与)分散分析(ANOVA)、次いでボンフェローニ検定(n=3)。
【0064】
実施例1の化合物は、虚血/再潅流後の内皮細胞に接着する白血球の数を、プラセボに比して明確かつ有意に低減することができる。実施例1の化合物の活性は、参照化合物のそれより強力であった。
【0065】
この試験は、実施例1の化合物の白血球接着に対する阻害活性、したがってまた静脈疾患、アテローム性動脈硬化症のような動脈性血管疾患、または糖尿病に付随する血管併発症の処置の可能性を立証するものである。
【実施例6】
【0066】
血管細胞接着分子1(VCAM−1)の発現のin vivo阻害
この研究では、アポリポタンパク質Eを欠くマウス(ApoE-/-、その大動脈に粥状班を自発的に発症する)8匹からなる4群を用いた。9週齢で、100mg/kgのストレプトゾトシンの5日間にわたる5回の腹腔内注射によって、マウスを糖尿病にさせた。第10週に、動物を4群、すなわち実施例1の化合物の対照群、実施例1の化合物の投与群(食餌中に130mg/kg/日を6週間)、参照化合物の対照群、参照化合物の投与群(食餌中に130mg/kg/日を6週間)に分けた。第15週に、イソフルランを用いて麻酔した後、動物を殺処分した。大動脈を取り出し、切開し、液体窒素中で凍結した。
【0067】
大動脈を凍結摩砕し、RNeasy(登録商標)なるマイクロキット(Qiagen)を用いて、総RNAを抽出した。次いで、Superscript(商標)IIIなる第一鎖cDNA合成キット(Invitrogen)を用い、総RNA1μgに対して逆転写を実施した。VCAM−1の発現を、現時式PCRによって定量し、3種類の参照遺伝子:すなわち、β−アクチン、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)およびグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)について正規化した。IQ(商標)SYBR(登録商標)Greenなるスーパーミックスキット(Biorad)を、cDNA2μl、および各プライマー150nMで用いた。サンプルを、95℃で5分間変性させ、下記のプロトコルに従って、40サイクルにわたって増幅した:95℃で20秒間の変性、そしてVCAM−1、β−アクチンおよびHPRTについては54℃、GAPDHについては56℃で1分間のハイブリダイゼーションおよび伸長。非投与動物のVCAM−1についてのしきいサイクル(それについての蛍光が、バックグラウンドノイズより有意に強いと見なされるサイクルとして定義される)を、参照遺伝子について正規化し(かつ100%であると見なし)、そうして投与動物のそれと比較した。
【0068】
用いた特異的プライマーは、下記のとおりである:
VCAM−1:5’−AGA GCA GAC TTT CTA TTT CAC−3’(センス)および5’−CCA TCT TCA CAG GCA TTT C−3’(アンチセンス);
β−アクチン:5’−AAG ACC TCT ATG CCA ACA CAG−3’(センス)および5’−AGC CAC CGA TCC ACA CAG−3’(アンチセンス);
HPRT:5’−AGC TAC TGT AAT GAT CAG TCA ACG−3’(アンチセンス);
GAPDH:5’−GCC TTC CGT GTT CCT ACC C−3’(センス)および5’−TGC CTG CTT CAC CAC CTT−3’(アンチセンス)。
【0069】
ApoEを欠くマウスに糖尿病を生起するモデルにより、本発明のジオスメチン化合物の抗接着剤としての効果を確認することができる。
【0070】
実施例1の化合物および参照化合物の活性を、非投与動物と比較した大動脈内でのVCAM−1発現レベルの関数として評価した(この活性が高いほど、VCAM−1発現レベルが低い)。実施例1の化合物を投与したマウスは、非投与マウスに比して65.9±10.1%のVCAM−1発現レベルを有した(P<0.01、スチューデントのt検定、n=8)のに対して、参照化合物を与えたものは、83.0±6.6%のVCAM−1発現レベルを有した(P<0.05、スチューデントのt検定、n=8)。
【0071】
実施例1の化合物は、糖尿病のApoE-/-マウスの大動脈内でのVCAM−1発現を、非投与群に比して明確かつ有意に低減することができる。実施例1の化合物の活性は、参照化合物のそれより強力である。
【0072】
この試験は、接着分子の発現に対する実施例1の化合物の阻害活性、したがってまた静脈疾患の処置のための、かつ動脈の病理、たとえば糖尿病に付随する血管併発症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、肥満に付随するメタボリック症候群、肥満に付随する血管併発症、狭心症、下肢の動脈炎、および脳血管発作における、可能性を立証するものである。
【実施例7】
【0073】
NADPHオキシダーゼの活性のin vitro阻害
この研究は、ヒト内皮細胞であるHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞、Clonetics Co.)について実施した。2%のFCS(ウシ胎児血清)およびEGM2(内皮成長培地、Clonetics Co.)で強化したEBM2培地(内皮基礎培地、Clonetics Co.)中で、細胞を培養した。
【0074】
細胞を、溶媒(0.1%DMSO、実施例1の化合物の対照)、EBM2(実施例2の化合物の対照、および実施例3の化合物の対照)、実施例1の化合物(100μM)、実施例2の化合物(100μM)、または実施例3の化合物(100μM)の存在下で15分間インキュベートし、次いでアンギオテンシンII(1μM)を30分間用いて活性化して、NADPHオキシダーゼを活性化した。細胞を、EBM2で洗浄し、次いでNADPHオキシダーゼの基質(NADPH、200μM)およびルシゲニン(lucigenin)(25μM)を加えた。NADPHオキシダーゼが生成するスーパーオキシド陰イオンによるルシゲニンの減少を、照度計を用いて定量した。対照群の毎秒カウント数(cps)を、投与群と比較した。対照群により得られたcpsを、100%のNADPHオキシダーゼ活性と見なした。
【0075】
アンギオテンシンIIによって生起される内皮NADPHオキシダーゼ活性を測定するというモデルにより、NADPHオキシダーゼ活性のインヒビターである薬剤としての本発明のジオスメチン化合物の効果を確認することができる。
【0076】
実施例1、2および3の化合物の活性を、得られたcpsの数の関数として評価した(この活性が高いほど、cpsの数が少ない)。
【0077】
【表2】

【0078】
表3:アンギオテンシンIIを用いた誘導後のNADPHオキシダーゼ活性に対する、ヒト内皮細胞への実施例1、2および3の化合物の投与の効果([化合物なしの]対照群の活性を100%と見なす)。
***p<0.01、実施例1の化合物の対照群、または実施例2および3の化合物の対照群に比して、スチューデントのt検定(n=3)
【0079】
実施例1、2および3の化合物は、ヒト内皮細胞におけるNADPHオキシダーゼ活性を明確かつ有意に低下させることができる。
【0080】
この試験は、血管NADPHオキシダーゼ活性に対する実施例1、2および3の化合物の阻害活性、したがってまた静脈疾患、ならびに動脈の病理、たとえばアテローム性動脈硬化症、高血圧、糖尿病に付随する血管併発症、および虚血性疾患におけるフリーラジカルを阻害するための可能性を立証するものである。
【実施例8】
【0081】
薬学的組成物
それぞれ活性成分10mgを含有する1,000錠を調合するための処方:
実施例1の化合物.........................10g
ヒドロキシプロピルセルロース....................2g
コムギデンプン..........................10g
乳糖..............................100g
ステアリン酸マグネシウム......................3g
タルク...............................3g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化12】


[式中、R1、R2およびR3は、同じであるか、または異なってもよく、それぞれ、水素原子、または式(A):
【化13】


で示される基を表す]
で示される化合物。
【請求項2】
6,8,2’−トリス(イソブタ−2−エン−1−イル)ジオスメチン、
(5−ヒドロキシ−2−[3−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル]−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−7−イル)−β−D−グルクロン酸、および
3−[5,7−ジヒドロキシ−6,8−ビス(イソブタ−2−エン−1−イル)−4−オキソ−4H−クロメン−2−イル]−6−メトキシ−2−(イソブタ−2−エン−1−イル)フェニル−β−D−グルクロン酸
から選ばれる、請求項1記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
請求項1記載の式(I)の化合物を合成する方法であって、式(II):
【化14】


のジオスメチンから出発して、これを臭化メタリルと反応させて、式(III):
【化15】


で示される化合物を得て、これを加熱して、式(I)の化合物の、R1、R2およびR3が、それぞれ、水素原子を表す特定の場合である、式(Ia):
【化16】


の化合物を得て、式(I)のその他の化合物を得るのが望ましいときは、これを、式(IV):
【化17】


[式中、Acはアセチル基を表す]
で示される化合物と反応させて、請求項1に定義されたとおりの基(A)の酸官能基およびアルコール官能基を脱保護した後に、R1、R2およびR3のうち少なくとも一つがH以外である、式(I)の化合物を得る方法。
【請求項4】
活性成分として、請求項1または2のいずれかに記載の式(I)の化合物を、薬学的に許容され得る、非毒性かつ不活性の担体または賦形剤の一つもしくはそれ以上と組み合わせて含む薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物の使用であって、静脈疾患の予防または治療;血栓後症候群、糖尿病に付随する血管併発症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、肥満に付随するメタボリック症候群、肥満に付随する血管併発症、狭心症、下肢の動脈炎もしくは脳血管発作の予防または治療;主として静脈もしくは混合脚潰瘍および糖尿足を含む慢性創傷の治癒;痔核発作の治療または予防;圧力潰瘍の治療または予防;ならびに多発性硬化症の治療に有用な医薬の製造の際の使用。
【請求項6】
請求項1または2に記載の化合物の使用であって、慢性静脈疾患の予防または治療に有用な医薬の製造における使用。
【請求項7】
静脈疾患の予防または治療;血栓後症候群、糖尿病に付随する血管併発症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、肥満に付随するメタボリック症候群、肥満に付随する血管併発症、狭心症、下肢の動脈炎もしくは脳血管発作の予防または治療;主として静脈もしくは混合脚潰瘍および糖尿足を含む慢性創傷の治癒;痔核発作の治療または予防;圧力潰瘍の治療または予防;ならびに多発性硬化症の治療に用いるための、請求項1または2のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
慢性静脈疾患の予防または治療に用いるための、請求項1または2のいずれかに記載の化合物。

【公開番号】特開2009−263354(P2009−263354A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−84080(P2009−84080)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】