説明

新規ジホスフィン化合物、その製造方法及びそれを含む金属錯体

【課題】不斉合成用触媒である遷移金属錯体の配位子として用いた際に、反応収率及びエナンチオ選択性が良好であって、しかも容易に合成できる新規ジホスフィン化合物を提供する。
【解決手段】下記式で、代表的なジホスフィン化合物およびそれを配位子とした金属錯体を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジホスフィン化合物、その製造方法及びそれを含む金属錯体に関する。当該ジホスフィン化合物が配位子として遷移金属に配位した金属錯体は、不斉合成用触媒として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、ジホスフィン化合物は遷移金属錯体における配位子として広く使用されてきた。このとき、光学活性なジホスフィン化合物を配位子として用いた光学活性な遷移金属錯体は、不斉合成に用いることができる。そのようなジホスフィン化合物において不斉触媒として優れた性能を有するものとして、ビフェニル基やビナフチル基を有する軸不斉光学活性体が提案されている。
【0003】
非特許文献1には、そのような軸不斉光学活性体であるジホスフィン化合物が提案されている。なかでも、下記式に示すBINAP[(1,1-binaphthalene)-2,2-diylbis(diphenylphosphine)]を配位子として用いた遷移金属錯体は、不斉合成用触媒として優れた性能を示すことが知られていて、最も汎用的に用いられている不斉配位子の一つである。しかしながら、反応の種類や条件によっては、BINAPを含む不斉触媒を用いた場合に、反応の進行が不十分となったり、エナンチオ選択性が不十分となったりする場合があった。一方、下記式に示すMeO-BIPHEP[(6,6'-dimethoxybiphenyl-2,2'-diyl)bis(diphenylphosphine)]を配位子として用いた遷移金属錯体も、不斉合成用触媒として広く用いられているが、反応収率やエナンチオ選択性の面で不十分な場合があった。MeO-BIPHEPについては、特許文献1にも記載されている。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
特許文献2には、MeO-BIPHEPのリン原子に結合している4個のフェニル基の全てが、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基に置き換わっているジホスフィン化合物を不斉配位子として用いて、環状ケトンの不斉還元反応を行った例が記載されている。しかしながら、本願実施例にも示すように、このような電子求引基を有するジホスフィン化合物を用いた場合であっても、やはり反応の種類や条件によっては反応収率やエナンチオ選択性の面で不十分な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平6−506475号公報
【特許文献2】特開2001−270865号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Helvetica Chimica Acta, vol. 74, p.370-389 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、不斉合成用触媒である遷移金属錯体の配位子として用いた際に、反応収率及びエナンチオ選択性が良好であって、しかも容易に合成できる新規ジホスフィン化合物を提供することを目的とするものである。また、そのようなジホスフィン化合物の製造方法及びそれを含む金属錯体を提供することを目的とするものである。さらには、そのような金属錯体からなる不斉合成用触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記式(1)で表されるジホスフィン化合物である。
【0011】
【化3】

【0012】
[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基を示す。同一のベンゼン環に結合しているR、R、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。Arは、下記式(2)で表される置換フェニル基を示す。]
【0013】
【化4】

【0014】
[式中、R、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子又は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、0〜2個の置換基が水素原子である。]
【0015】
このとき、R、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子であることが好ましい。また、前記ジホスフィン化合物が、軸不斉光学活性体であることも好ましい。
【0016】
本発明の好適な実施態様は、前記ジホスフィン化合物が配位子として遷移金属に配位した金属錯体である。このとき、当該遷移金属が、周期律表の第8族、第9族又は第10族に属する金属であることが好ましい。また、軸不斉光学活性体である前記金属錯体は、不斉合成用触媒として好適に用いることができる。
【0017】
また本発明は、下記式(3)
【0018】
【化5】

【0019】
[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基を示す。同一のベンゼン環に結合しているR、R、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0020】
で表される光学活性なジホスフィン化合物を、トリホスゲンと四級アンモニウム塩とを混合して調製された反応剤と反応させる、下記式(4)
【0021】
【化6】

【0022】
[式中、R、R、R及びRは前記式(3)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物の製造方法である。
【0023】
このとき、上記製造方法によって得られた前記式(4)で表される光学活性なジホスフィン化合物に、下記式(5)
【0024】
【化7】

【0025】
[式中、Arは、下記式(2)で表される置換フェニル基を示し、Mは、Li又はMg−Xを示す。ここでXはハロゲン原子を示す。]
【0026】
【化8】

【0027】
[式中、R、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子又は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、0〜2個の置換基が水素原子である。]
で表される有機金属化合物と反応させる下記式(1)
【0028】
【化9】

【0029】
[式中、R、R、R及びRは、前記式(3)に同じ。Arは、前記式(2)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物の製造方法が、好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0030】
本発明のジホスフィン化合物は、不斉合成用触媒である遷移金属錯体の配位子として用いた際に、反応収率及びエナンチオ選択性が良好であって、しかも容易に合成できる。したがって、各種の不斉合成反応に好適に用いることができる。また、本発明のジホスフィン化合物の合成方法は、そのようなジホスフィン化合物などを、高い光学純度で容易に合成できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のジホスフィン化合物は、下記式(1)で表されるものである。
【0032】
【化10】

【0033】
[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基を示す。同一のベンゼン環に結合しているR、R、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。Arは、下記式(2)で表される置換フェニル基を示す。]
【0034】
【化11】

【0035】
[式中、R、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子又は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、0〜2個の置換基が水素原子である。]
【0036】
本発明のジホスフィン化合物の特徴は、MeO-BIPHEPに代表されるような、6位及び6’位にアルコキシ基を有するビフェニル骨格を含む芳香族ジホスフィンにおいて、リン原子に結合しているフェニル基の3〜5個の水素原子がフッ素原子又はパーフルオロアルキル基に置換されていることである。リン原子に結合している4個のフェニル基の全てにおいて、強力な電子求引基をそれぞれ3個以上有することによってホスフィンの電子密度が制御される。本発明のジホスフィン化合物を不斉合成用触媒の配位子として用いた場合には、このような強力な電子求引効果によって、高活性の不斉触媒を提供することができる。また、水素原子よりも大きいフッ素原子あるいはパーフルオロアルキル基の存在によって、配位子の立体制御能が向上することも期待できる。さらに、ビフェニル骨格において、6位及び6’位にアルコキシ基を有することによって、ジホスフィン化合物の合成が容易になる。
【0037】
上記式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。
【0038】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが例示される。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチル−2−プロピル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基などが例示される。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシル基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、2−メチル−2−プロポキシ基、1−ペンチルオキシ基、1−ヘキシルオキシ基などが例示される。
【0039】
炭素数1〜10のフッ素化アルキル基は、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたもの(パーフルオロアルキル基)と、アルキル基中の一部の水素原子がフッ素原子で置換されたものを含み、直鎖状でも分岐状でもよい。本発明のジホスフィン化合物を触媒の配位子として用い、フッ素系の溶媒を用いる不斉合成反応などにおいて触媒の溶解性が良好である。アルキル基中の一部の水素原子がフッ素原子で置換されたものとしては、例えば、下記式(6)で示されるものなどを用いることができる。
【0040】
【化12】

【0041】
[式中、mは1〜9の整数であり、nは0〜8の整数であり、m+nは1〜9の整数である。]
【0042】
炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基は、アルコキシ基中の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたもの(パーフルオロアルコキシ基)と、アルコキシ基中の一部の水素原子がフッ素原子で置換されたものを含み、直鎖状でも分岐状でもよい。本発明のジホスフィン化合物を触媒の配位子として用い、フッ素系の溶媒を用いる不斉合成反応などにおいて触媒の溶解性が良好である。アルコキシ基中の一部の水素原子がフッ素原子で置換されたものとしては、例えば、下記式(7)で示されるものなどを用いることができる。
【0043】
【化13】

【0044】
[式中、mは1〜9の整数であり、nは0〜8の整数であり、m+nは1〜9の整数である。]
【0045】
合成しやすさの面からは、R、R及びRが、いずれも水素原子であることが好ましい。
【0046】
は、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基を示す。炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜10のフッ素化アルキル基としては、R、R及びRと同じものを使用することができる。このように、ビフェニル骨格の6位及び6’位にアルコキシ基を有することによって、ジホスフィン化合物の合成が容易になる。中でも、Rがメチル基であること、すなわち、ビフェニル骨格の6位及び6’位にメトキシ基が結合していることが、合成しやすくて好ましい。
【0047】
同一のベンゼン環に結合しているR、R、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。この場合、R及びRが互いに結合して環を形成していることが好ましい。
【0048】
上記式(2)において、R、R、R、R及びRで示される5つの置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子又は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、0〜2個の置換基が水素原子であることが重要である。このような強力な電子求引基を多数有することによって、触媒の配位子として用いた際に、従来の電子供与性を有する不斉配位子では反応性が不十分であったり、エナンチオ選択性が不十分であったりした反応においても、不斉合成反応の収率及びエナンチオ選択性を大きく改善できる場合がある。
【0049】
炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基などが例示される。なかでも合成しやすさや立体障害の面からトリフルオロメチル基が好適である。
【0050】
、R、R、R及びRで示される5つの置換基のうち、少なくとも1つがフッ素原子であることが、立体障害の面から好ましい。フッ素原子の数は2個以上であることがより好ましく、3個以上であることがさらに好ましい。
【0051】
以上説明した本発明のジホスフィン化合物は、ラセミ体であってもよい。この場合には、例えば遷移金属に配位させて錯体を形成させてから光学分割して光学活性な金属錯体を得ることもできる。しかしながら、金属錯体の調製の容易性の観点からはジホスフィン化合物自体が光学活性体であることが好ましく、この場合、軸不斉光学活性体となる。すなわち、下記式(1−R)又は下記式(1−S)からなる光学活性体であることが好ましい。
【0052】
【化14】

【0053】
[式中、R、R、R及びRは前記式(1)に同じ。]
【0054】
【化15】

【0055】
[式中、R、R、R及びRは前記式(1)に同じ。]
【0056】
本発明の好適な実施態様は光学活性体であるジホスフィン化合物が遷移金属に配位した金属錯体である。
【0057】
このような金属錯体に用いられる好適な遷移金属は、周期律表の第8族、第9族又は第10族に属する金属である。具体的には、ロジウム、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、鉄、イリジウムなどが例示される。この場合、ハロゲン化物、カルボニル錯体、オレフィン錯体、エノラート錯体などの遷移金属塩又は遷移金属錯体に本発明のジホスフィン化合物を配位させた金属錯体が好適である。
【0058】
このような遷移金属錯体は、予め錯体として単離したものを準備してから不斉合成反応に用いてもよいし、本発明のジホスフィン化合物と遷移金属化合物とを混合することによって反応系中で金属錯体を形成させてもよい。操作の容易性の観点からは、後者の方法が好適に採用される。触媒の使用量は、通常、原料化合物に対して0.1〜10モル%であり、好適には1〜5モル%である。用いられる溶媒は、原料化合物、反応剤及び本発明のジホスフィン化合物を溶解させることのできる溶媒であればよく、トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;塩化メチレンなどの含ハロゲン炭化水素などが例示される。このとき、水を共存させた混合溶媒とすることもできる。反応によって様々な溶媒を選択することができる。
【0059】
本発明のジホスフィン化合物を配位子とする触媒を使用した不斉合成反応は特に限定されない。不斉水素化反応、不斉付加反応、不斉異性化反応、不斉交差カップリング反応などの各種の不斉合成反応に用いることができる。本願実施例では、ホウ素化合物(ボロン酸)のα,β−不飽和化合物(α,β−不飽和ケトン)への1,4−付加反応の例において、光学収率よく反応が進行することが示されている。
【0060】
本発明のジホスフィン化合物を合成する方法は特に限定されるものではないが、好適な合成方法は、下記式(4)
【0061】
【化16】

【0062】
[式中、R、R、R及びRは前記式(1)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物に、下記式(5)
【0063】
【化17】

【0064】
[式中、Arは、前記式(2)で表される置換フェニル基を示し、Mは、Li又はMg−Xを示す。ここでXはハロゲン原子を示す。]
で表される有機金属化合物と反応させる下記式(1)
【0065】
【化18】

【0066】
[式中、R、R、R、R及びArは、既に説明したとおり。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物の製造方法である。
【0067】
この方法によれば、ラセミ化を起こすことなく、上記式(4)で表される光学活性なジホスフィン化合物から、上記式(1)で表される光学活性なジホスフィン化合物を得ることができる。
【0068】
式(5)において、Mがリチウム原子である場合には、式(5)で表される化合物は有機リチウム化合物である。また、MがMg−Xである場合には、式(5)で表される化合物はグリニャール化合物である。グリニャール化合物におけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを採用することができる。
【0069】
式(5)で表される有機リチウム化合物は、Ar−Hで示される置換ベンゼン又はAr−Xで示される置換ベンゼンに対してn−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム化合物を反応させて、前記置換ベンゼン中の水素原子又はハロゲン原子をリチウム原子に置き換える方法などによって合成される。また、式(5)で表されるグリニャール化合物は、Ar−Xで示される置換ベンゼンに対して金属マグネシウムを反応させる方法などによって合成される。これらの場合の反応溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒が用いられ、テトラヒドロフラン(THF)やジエチルエーテルなどのエーテルが好適に用いられる。
【0070】
このようにして合成された式(5)で表される化合物は、そのまま式(4)で表される化合物と反応させることが好ましい。このときの反応溶媒は、式(5)で表される化合物を合成した時の溶媒をそのまま用いることができるし、他の有機溶媒を加えてもよい。ラセミ化や副反応を防止する観点からは、反応温度は−80〜20℃であることが好ましい。式(4)で表される化合物に対する収率を向上させるためには、式(4)で表される化合物に対して過剰量の式(5)で表される化合物を反応させることが好ましい。具体的には、式(4)で表される化合物1モルに対して4〜50モルの式(5)で表される化合物を反応させることが好ましく、8〜20モルの式(5)で表される化合物を反応させることがより好ましい。
【0071】
また、式(4)で示される化合物の製造方法としては、下記式(3)
【0072】
【化19】

【0073】
[式中、R、R、R及びRは前記式(1)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物を、トリホスゲンと四級アンモニウム塩とを混合して調製された反応剤と反応させる、下記式(4)
【0074】
【化20】

【0075】
[式中、R、R、R及びRは前記式(1)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物の製造方法が好適である。この製造方法によって、危険性の高いホスゲンを使用することなく、しかもラセミ化を起こすことなく、光学的に純粋な式(4)で表される光学活性なジホスフィン化合物を得ることができる。なお、この製造方法によって得られる式(4)で表される化合物は、式(1)で示されるジホスフィン化合物を製造するのに用いられるのみならず、その他の化合物を合成する中間体として用いることもできる。
【0076】
ここで、式(3)で表される化合物は、既知の方法にしたがって合成することができる。その製造方法の一例を下記式(I)に示す。
【化21】

【0077】
従来の合成方法では、式(3)で表される化合物から、式(4)で表される化合物を合成するときに、毒性の高いホスゲンが用いられている。本発明者らがホスゲンの代わりに、固体であって、取扱いの容易なトリホスゲン(炭酸ビス(トリクロロメチル))を用いたところ、単にトリホスゲンを用いたのでは、得られる式(4)で示されるジホスフィン化合物の一部がラセミ化してしまうことが明らかになった。これに対し、トリホスゲンと四級アンモニウム塩とを予め混合して調製した反応剤を用いることによって、ラセミ化を防止することができ、光学的に純粋な式(4)で表される化合物を得ることができた。
【0078】
トリホスゲンと混合される四級アンモニウム塩は、特に限定されないが、脂肪族四級アンモニウム塩であることが好ましく、有機溶媒への溶解性の観点から、炭素数が10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。炭素数は、通常50以下である。四級アンモニウム塩のカウンタアニオンは特に限定されないが、ハロゲンイオン、例えば塩素イオンが代表的である。このような四級アンモニウム塩としては、例えば、N−メチル−N,N−ジオクチルオクタン−1−アミニウムクロライド(コグニス社から「アリコート(Aliquat:登録商標)336」として市販されている。)などが、特に好適に用いられる。
【0079】
トリホスゲンと四級アンモニウム塩を混合する際には、密封した容器中で両者を十分に混合する。このとき、トリホスゲン1モルに対して四級アンモニウム塩を0.01〜0.2モル使用することが好ましく、0.05〜0.07モル使用することがより好ましい。反応温度は好適には0〜70℃であり、より好適には30〜40℃である。反応時間は好適には2〜100時間であり、より好適には24〜48時間である。用いられる溶媒は、両者を溶解する有機溶媒であれば特に限定されず、トルエン、ヘキサンなどが例示される。
【0080】
こうして予め調製された反応剤の溶液と、式(3)で表される化合物とを反応させる。このとき、式(3)で表される化合物の溶液を予め調製しておき、溶液同士を混合して反応させることが好ましい。混合時の温度は、好適には−80〜0℃であり、より好適には−80〜−70℃である。その後必要に応じて昇温させて、好適には0〜50℃、より好適には20〜30℃で反応させる。このときの反応時間は好適には2〜100時間であり、より好適には24〜48時間である。反応に用いられる溶媒は、両者を溶解する有機溶媒であれば特に限定されず、トルエン、塩化メチレンなどが例示される。反応終了後は、必要に応じて溶媒を除去して、前述の要領で有機リチウム化合物やグリニャール化合物と反応させることができる。また、それ以外の反応に用いることもできる。
【実施例】
【0081】
合成例1
300 ml三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で水素化アルミニウムリチウム (95%) (760 mg、20.0 mmol) を加え、-78℃に冷却しTHF (12 ml) を加えた。次いで、トリメチルシリルクロライド(2.50 ml、19.7 mmol) を約5分かけて滴下し、-78℃で15分攪拌後、室温でさらに2時間攪拌した。その後、-30℃まで冷却し、(R)-[6’-(ジエトキシホスホリル)-6,2’-ジメトキシビフェニル-2-イル]リン酸ジエチルエステル (1.56 g、3.21 mmol)のTHF溶液 (12.0 ml) を10分以上かけて滴下し、30℃の恒温槽で72時間反応させた。十分に脱気した水 (4.0 ml) を、注意深く滴下して反応を停止し、さらに十分に脱気した水酸化ナトリウム水溶液 (30 wt%) (12.0 ml) を加えた。反応器内の固体成分が白色に変化するまで攪拌し、THF (約20 ml × 3回) を用いて抽出及び残渣の洗浄を行い、別途用意した三つ口フラスコ (不活性ガス雰囲気)に移した。そこへ、十分脱気した飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、洗浄操作を行った。水層を除去した後、有機層を硫酸ナトリウムで脱水し、有機層のみを別のフラスコに移し、溶媒留去・減圧乾燥を行うことで、目的化合物を得、そのまま、下記合成例2の反応に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.57 (d, 1JP-H = 204.6 Hz, 4H), 3.73 (s, 6H), 6.92 - 6.95 (m, 2H), 7.24 - 7.29 (m, 4H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = -127.2 (s).
【0082】
【化22】

【0083】
合成例2
30 ml 耐圧試験管を充分に乾燥させ、トリホスゲン (1.83 g、6.17 mmol)を入れ、「Aliquat(登録商標)336」 (170 mg、0.421 mmol) のトルエン溶液 (10.0 ml) を加え、すばやく栓をし、35℃で2日間、激しく攪拌した。その後、その反応溶液及び、上記合成例1で合成した(R)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ビスホスフィンの塩化メチレン溶液 (20.0 ml) を-78℃に冷却し、カニュラーを用いて、トルエン溶液を、塩化メチレン溶液に混合させた。ゆっくりと室温に戻してからさらに2日間攪拌し、溶媒を留去することで目的化合物とAliquat(登録商標) 336の混合物を得た。Aliquat(登録商標) 336は取り除かずに、そのまま下記合成例3の反応に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.77 (s, 6H), 7.11(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.63 (m, 2H), 7.86 (d, J = 8.1 H, 2H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 158.1 (s).
【0084】
【化23】

【0085】
合成例3
200 ml三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で、マグネシウム (542 mg、22.3 mmol) 及び、触媒量のヨウ素を加え、THF (5.0 ml) を加えた。1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン (0.20 ml、1.7 mmol) を加え、ヨウ素の色が消失したことを確認した。そこへ、1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン (2.0 ml、17 mmol) のTHF溶液(14.0 ml) を約25分かけて滴下し、更に室温下で1時間攪拌した。その後、反応溶液を-78℃まで冷却し、上記合成例2で合成した(R)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ホスフォナスジクロライドのTHF溶液 (37.5 ml) を約30分かけて滴下した。滴下終了後、徐々に室温まで戻し、18時間反応させた。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、THFを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、硫酸ナトリウムで脱水の後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。カラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 8/1及びヘキサン/塩化メチレン = 3/1) によって精製することにより、目的化合物を得た。(43% Yield (合成例1からの3step)、>99% ee) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.44 (s, 6H), 6.60 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 6.66 - 6.72 (m, 4H), 6.74 - 6.81 (m, 4H), 6.89 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.35 - 7.40 (m, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ = 55.0, 112.1, 116.3 - 117.6 (m), 125.5, 130.1, 131.5 - 132.1 (m), 132.5 - 133.0 (m), 135.8, 139.9 (dt, 1JF-C = 255.4 Hz, 2JF-C = 15.3 Hz), 140.1 (dt, 1JF-C = 255.1 Hz, 2JF-C = 15.3 Hz), 151.2 (dm, 1JF-C = 254.2 Hz), 157.4 - 157.5 (m). 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -159.7 - -159.3 (m, 4F), -134.3 (dd, 3J = 21.0 Hz, 4J = 7.0 Hz, 4F), -133.7 (dd, 3J = 21.0 Hz, 4J = 7.0 Hz, 4F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 10.2 (s). IR (KBr) : 1610, 1518, 1410, 1317, 1256, 1082, 1045, 856, 754 cm-1. M.p. 131 - 132°. Anal. calc. for C38H20F24O2P2 : C 57.16, H 2.52%. Found : C 56.99, H 2.91. [α]D29.0 = -25.5°. HPLC (Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH = 200 : 1, flow rate = 0.4 ml/min) : tR = 14.1 min ((S)-isomer), tR = 15.9 min ((R)-isomer).
【0086】
【化24】

【0087】
合成例4
30 ml 耐圧試験管を充分に乾燥させ、トリホスゲン (1.13 g、3.81 mmol)を入れ、Aliquat(登録商標) 336 (92.5 mg、0.229 mmol) のトルエン溶液 (6.5 ml) を加え、すばやく栓をし、35℃で2日間、激しく攪拌した。その後、その反応溶液及び、別途単離した(S)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ビスホスフィン (570 mg、2.05 mmol)の塩化メチレン溶液 (15.0 ml) を-78℃に冷却し、カニュラーを用いて、トルエン溶液を、塩化メチレン溶液に混合させた。ゆっくりと室温に戻してからさらに2日間攪拌し、溶媒を留去することで目的化合物とAliquat(登録商標) 336の混合物を得た。Aliquat(登録商標) 336は取り除かずに、そのまま下記合成例5の反応に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.77 (s, 6H), 7.11(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.63 (m, 2H), 7.86 (d, J = 8.1 H, 2H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 158.1 (s).
【0088】
【化25】

【0089】
合成例5
200 ml三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で、マグネシウム (320.9 mg、13.2 mmol) 及び、触媒量のヨウ素を加え、Et2O (1.5 ml) を加えた。1-ブロモ-3,4,5-トリフルオロベンゼン (1.4 ml、12 mmol) のEt2O溶液 (11.5 ml) を約25分かけて滴下し、更に室温下で30分攪拌した。その後、Et2O (26.0 ml) を加えて反応液を希釈し、-78℃まで冷却した。そこへ上記合成例4で合成した(S)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ホスフォナスジクロライドのTHF溶液 (20.0 ml) を約30分かけて滴下した。滴下終了後、徐々に室温まで戻し、2時間反応させた。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、THFを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、硫酸ナトリウムで脱水の後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 8/1及びヘキサン/塩化メチレン = 3/1) によって精製することにより、目的化合物を得た。(32% Yield (合成例4からの2step)、>99% ee) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.44 (s, 6H), 6.60 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 6.66 - 6.72 (m, 4H), 6.74 - 6.81 (m, 4H), 6.89 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.35 - 7.40 (m, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 55.0, 112.1, 116.3 - 117.6 (m), 125.5, 130.1, 131.5 - 132.1 (m), 132.5 - 133.0 (m), 135.8, 139.9 (dt, 1JF-C = 255.4 Hz, 2JF-C = 15.3 Hz), 140.1 (dt, 1JF-C = 255.1 Hz, 2JF-C = 15.3 Hz), 151.2 (dm, 1JF-C = 254.2 Hz), 157.4 - 157.5 (m). 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -159.7 - -159.3 (m, 4F), -134.3 (dd, 3J = 21.0 Hz, 4J = 7.0 Hz, 4F), -133.7 (dd, 3J = 21.0 Hz, 4J = 7.0 Hz, 4F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 10.2 (s). IR (KBr) : 1610, 1518, 1410, 1317, 1256, 1082, 1045, 856, 754 cm-1. M.p. 131 - 132°. Anal. calc. for C38H20F24O2P2 : C 57.16, H 2.52%. Found : C 56.99, H 2.91. [α]D22.1 = +22.3°. HPLC (Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH = 200 : 1, flow rate = 0.4 ml/min) : tR = 14.1 min ((S)-isomer), tR = 15.9 min ((R)-isomer).
【0090】
【化26】

【0091】
合成例6
300 ml三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で水素化アルミニウムリチウム (95%) (949 mg、23.8 mmol) を加え、-78℃に冷却しTHF (15 ml) を加えた。次いで、トリメチルシリルクロライド(3.10 ml、24.4 mmol) を約5分かけて滴下し、-78℃で15分攪拌後、室温でさらに2時間攪拌した。その後、-30℃まで冷却し、(S)-[6’-(ジエトキシホスホリル)-6,2’-ジメトキシビフェニル-2-イル]リン酸ジエチルエステル (1.95 g、4.01 mmol)のTHF溶液 (15.0 ml) を10分以上かけて滴下し、30℃の恒温槽で72時間反応させた。十分に脱気した水 (4.0 ml) を、注意深く滴下して反応を停止し、さらに十分に脱気した水酸化ナトリウム水溶液 (30 wt%) (12.0 ml) を加えた。反応器内の固体成分が白色に変化するまで攪拌し、THF (約20 ml × 3回) を用いて抽出及び残渣の洗浄を行い、別途用意した三つ口フラスコ (不活性ガス雰囲気)に移した。そこへ、十分脱気した飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、洗浄操作を行った。水層を除去した後、有機層を硫酸ナトリウムで脱水し、有機層のみを別のフラスコに移し、溶媒留去・減圧乾燥を行うことで、目的化合物を得、そのまま下記合成例7の反応に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.57 (d, 1JP-H = 204.6 Hz, 4H), 3.73 (s, 6H), 6.92 - 6.95 (m, 2H), 7.24 - 7.29 (m, 4H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = -127.2 (s).
【0092】
【化27】

【0093】
合成例7
30 ml 耐圧試験管を充分に乾燥させ、トリホスゲン (2.37 g、7.99 mmol)を入れ、Aliquat(登録商標) 336 (190 mg、0.470 mmol) のトルエン溶液 (13.4 ml) を加え、すばやく栓をし、35℃で2日間、激しく攪拌した。その後、その反応溶液及び、上記合成例6で合成した(S)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ビスホスフィンの塩化メチレン溶液 (25.0 ml) を-78℃に冷却し、カニュラーを用いて、トルエン溶液を、塩化メチレン溶液に混合させた。ゆっくりと室温に戻してからさらに2日間攪拌し、溶媒を留去することで目的化合物とAliquat(登録商標) 336の混合物を得た。Aliquat(登録商標) 336は取り除かずに、そのまま下記合成例8の反応に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.77 (s, 6H), 7.11(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.63 (m, 2H), 7.86 (d, J = 8.1 H, 2H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 158.1 (s).
【0094】
【化28】

【0095】
合成例8
300 ml三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で、2,3,5,6-テトラフルオロベンゾトリフルオリド(8.83 g、40.5 mmol) をTHF(40 ml)に溶解させ、-85℃まで冷却した。次いで、1.63 M n-ブチルリチウム (24.5 ml、39.9 mmol) を約25分かけて滴下し、更に90分攪拌した。この後、上記合成例7で合成した(S)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ホスフォナスジクロライドのTHF溶液 (50.0 ml) を約40分かけて滴下し、-85℃のまま48時間反応させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、THFを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、硫酸ナトリウムで脱水の後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 8/1)によって精製することにより、目的化合物を得た。(65% Yield (合成例6からの3step)、>99% ee) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.30 (s, 6H), 6.81 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.06 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.40 - 7.45 (m, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 54.9, 110.5 - 111.5 (m), 112.1, 117.2 - 118.3 (m), 120.6 (q, 1JF-C = 275.6 Hz), 124.8, 127.9 - 128.4 (m), 130.5, 130.7, 143.1 (dd, 1JF-C = 263.1 Hz, 2JF-C = 18.6 Hz), 144.1 (dd, 1JF-C = 263.6 Hz, 2JF-C = 17.6 Hz), 146.9 (dm, 1JF-C = 246.2 Hz), 148.8 (dm, 1JF-C = 251.6 Hz), 157.8 - 158.0 (m). 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -141.7 - -141.6 (m, 4F), -140.1 - -139.9 (m, 4F), -127.9 - -127.7 (m, 4F), -125.4 - -125.2 (m, 4F), -57.7 (t, 4J = 21.0 Hz, 6F), -57.6 (t, 4J = 21.0 Hz, 6F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = -49.3 (m). IR (KBr) : 1651, 1568, 1475, 1327, 1263, 1184, 1157, 1043, 978, 935, 716 cm-1. M.p. > 200°(dec., darkening from 200°). Anal. calc. for C42H12F28O2P2 : C 44.16, H 1.06%. Found : C 44.05, H 1.28. [α]D19.3 = -55.7°(c 1.0, CHCl3). HPLC (Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH = 200 : 1, flow rate = 0.5 ml/min) : tR = 9.8 min ((S)-isomer), tR = 13.8 min ((R)-isomer).
【0096】
【化29】

【0097】
合成例9
30 ml 耐圧試験管を充分に乾燥させ、トリホスゲン (1.13 g、3.81 mmol)を入れ、Aliquat(登録商標) 336 (100 mg、0.248 mmol) のトルエン溶液 (6.5 ml) を加え、すばやく栓をし、35℃で2日間、激しく攪拌した。その後、その反応溶液及び、別途単離した(R)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ビスホスフィン (533 mg、1.91mmol)の塩化メチレン溶液 (15.0 ml) を-78℃に冷却し、カニュラーを用いて、トルエン溶液を、塩化メチレン溶液に混合させた。徐々に室温に戻し、さらに2日間攪拌し、溶媒を留去することで目的化合物とAliquat(登録商標) 336の混合物を得た。Aliquat(登録商標) 336は取り除かずに、そのまま下記合成例10の反応に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.77 (s, 6H), 7.11(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.63 (m, 2H), 7.86 (d, J = 8.1 H, 2H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 158.1 (s).
【0098】
【化30】

【0099】
合成例10
300 mlの三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で、2,3,5,6-テトラフルオロベンゾトリフルオリド(4.37 g、20.0 mmol) をTHF(20 ml)に溶解させ、-85℃まで冷却した。次いで、1.59 M n-ブチルリチウム (12.5 ml、19.9 mmol) を約25分かけて滴下し、更に130分攪拌した。この後、上記合成例9で合成した(R)-[6,6’-ジメトキシ[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ホスフォナスジクロライドのTHF溶液 (25.0 ml) を約40分かけて滴下し、-85℃のまま14時間反応させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、THFを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 15/1) によって精製することにより、目的化合物を得た。(52% Yield (合成例9からの2step)、>99% ee) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.30 (s, 6H), 6.81 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.06 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.40 - 7.45 (m, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 54.9, 110.5 - 111.5 (m), 112.1, 117.2 - 118.3 (m), 120.6 (q, 1JF-C = 275.6 Hz), 124.8, 127.9 - 128.4 (m), 130.5, 130.7, 143.1 (dd, 1JF-C = 263.1 Hz, 2JF-C = 18.6 Hz), 144.1 (dd, 1JF-C = 263.6 Hz, 2JF-C = 17.6 Hz), 146.9 (dm, 1JF-C = 246.2 Hz), 148.8 (dm, 1JF-C = 251.6 Hz), 157.8 - 158.0 (m). 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -141.7 - -141.6 (m, 4F), -140.1 - -139.9 (m, 4F), -127.9 - -127.7 (m, 4F), -125.4 - -125.2 (m, 4F), -57.7 (t, 4J = 21.0 Hz, 6F), -57.6 (t, 4J = 21.0 Hz, 6F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = -49.3 (m). IR (KBr) : 1651, 1568, 1475, 1327, 1263, 1184, 1157, 1043, 978, 935, 716 cm-1. M.p. > 200° (dec., darkening from 200°). Anal. calc. for C42H12F28O2P2 : C 44.16, H 1.06%. Found : C 44.05, H 1.28. [α]D25.4 = +53.7°(c 1.0, CHCl3). HPLC (Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH = 200 : 1, flow rate = 0.5 ml/min) : tR = 9.8 min ((S)-isomer), tR = 13.8 min ((R)-isomer).
【0100】
【化31】

【0101】
合成例11
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、上記合成例3で合成したジホスフィン (9.6 mg、12 μmol)、μ-ジクロロテトラエチレンロジウム(I) (2.3 mg、6.0 μmol)、塩化メチレン (0.5 ml) を加え、室温下で2時間攪拌した。その後、塩化メチレンを留去することで、目的化合物を得た。1H NMR (300 MHz,CDCl3) : δ = 3.53 (s, 12H), 6.53 - 6.60 (m, 8H), 7.04 - 7.09 (m, 4H), 7.16 - 7.22 (m, 8H), 7.62 (br s, 8H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 55.1, 111.5, 118.6 - 118.9 (m), 122.2, 126.0 - 126.6 (m), 127.6 - 128.2 (m), 129.5, 133.3 - 134.0 (m), 140.2 (dt, 1JF-C = 257.7 Hz, 2JF-C = 15.0 Hz,), 141.1 (dt, 1JF-C = 257.1 Hz, 2JF-C = 15.5 Hz), 149.8 (dm, 1JF-C = 253.1 Hz), 157.5. 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -157.9 - -157.7 (m, 4F), -157.3 - -157.1 (m, 4F), -134.7 - 134.6 (m, 8F), -134.3 (br s, 8F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 50.2 (d, 1JRh-P = 196 Hz).
【0102】
【化32】

【0103】
合成例12
30 mlフラスコに、上記合成例10で合成したジホスフィン (183 mg、0.160 mmol) 、テトラカルボニルジ-μ-クロロ二ロジウム(I) (31.1 mg、80.2 μmol)、エタノール (約20 ml) を加え、室温下で20時間攪拌した。エタノールを留去し、残渣をヘキサン (約10 ml) で3回洗浄し、乾燥させることで、目的化合物を得た。ここで得られた錯体は空気中で非常に安定であったため、下記反応例2において、ここで得られた錯体をそのまま触媒として用いた。(71% Yield) 1H NMR (300 MHz, acetone-d6) : δ = 3.45 (s, 12H), 6.86 - 6.90 (m, 4H), 7.27 - 7.38 (m, 8H). 13C NMR (75 MHz, acetone-d6) : δ = 55.9, 111.2 - 112.9 (m), 113.5, 116.5 - 117.5 (m), 121.6 (q, 1JF-C = 274.0 Hz), 123.0, 124.7 - 125.0 (m), 130.5 - 130.6 (m), 132.4 - 133.3 (m), 141.5 - 150.5 (m), 158.8 - 158.9 (m). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6) : δ = -139.6 - -139.2 (m, 4F), -138.1 (br s, 4F), -137.4 (br s, 4F), -136.2 (br s, 4F), -129.9 (br s, 4F), -121.7 (br s, 4F), -118.6 - -118.5 (m, 4F), -106.8 - -106.7 (m, 4F), -53.9 - -53.8 (m, 12F), -53.3 - -53.1 (m, 12F). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6) : δ = 8.3 (d, 1JRh-P = 206 Hz). IR (KBr) : 1475, 1329, 1186, 1155, 982, 937, 716, 669 cm-1. Anal. calc. for C84H24Cl2F56O4P4Rh2 : C 41.03, H 0.98%. Found : C 40.76, H 1.35.
【0104】
【化33】

【0105】
合成例13
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、ジホスフィン (13.5 mg、12 μmol)、μ-ジクロロテトラエチレンロジウム(I) (2.3 mg、6.0 μmol)、塩化メチレン (0.5 ml) を加え、室温下で2時間攪拌した。その後、塩化メチレンを留去することで、目的化合物を得た。1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.33 (s, 12H), 6.33 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.43 - 6.49 (m, 4H), 6.90 - 6.95 (m, 4H), 7.49 (s, 4H), 7.76 - 7.79 (m, 8H), 7.84 (s, 4H), 8.48 (br s, 8H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 55.4, 112.3, 121.8, 122.7 (q, 1JF-C = 272.8 Hz), 122.9 (q, 1JF-C = 272.8 Hz), 123.2, 125.8 - 125.9 (m), 129.3 - 133.3 (m), 134.3, 157.7. 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -65.1 (s, 24F), -64.4 (s, 24F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 51.1 (d, 1JRh-P = 193 Hz).
【0106】
【化34】

【0107】
合成例14
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、上記合成例5で合成したジホスフィン (86.5 mg、0.108 mmol)、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロ白金(II) (51.9 mg、0.109 mmol)、1,2-ジクロロエタン (5.0 ml) を加え、60℃で26時間攪拌した。その後、1,2-ジクロロエタンを留去し、塩化メチレン/ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより、目的化合物を得た。(88 % Yield) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) : δ = 3.66 (s, 6H), 6.57 - 6.63 (m, 2H), 6.77 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.15 - 7.25 (m, 6H), 7.51 (br s, 4H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 55.7, 114.1, 118.9 - 119.8 (m), 121.7 - 122.0 (m), 122.8 - 123.0 (m), 124.5 -124.6 (m), 126.2 - 126.4 (m), 127.2 - 128.3 (m), 130.7 - 130.9 (m), 141.7 (dt, 1JF-C = 260.5 Hz, 2JF-C = 15.2 Hz,), 142.3 (dt, 1JF-C = 261.7 Hz, 2JF-C = 15.2 Hz), 150.3 (dm, 1JF-C = 257.1 Hz), 157.9 - 158.0 (m). 19F NMR (282 MHz, CDCl3) : δ = -153.8 - -153.7 (m, 2F), -152.4 - -152.3 (m, 2F), -132.3 - -132.2 (m, 4F), -131.1 (br s, 4F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3) : δ = 9.9 (s, 1JPt-P = 3621 Hz). IR (KBr) : 1616, 1589, 1524, 1464, 1418, 1290, 1269, 1242, 1153, 1088, 1049, 853, 762, 644, 629 cm-1.
【0108】
【化35】

【0109】
合成例15
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、上記合成例8で合成したジホスフィン (171 mg、0.150 mmol)、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロ白金(II) (71.5 mg、0.151 mmol)、1,2-ジクロロエタン (9.0 ml) を加え、80℃で3日間攪拌した。その後、1,2-ジクロロエタンを留去し、塩化メチレン/ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより、目的化合物を得た。(83 % Yield) 1H NMR (300 MHz, acetone-d6) : δ = 3.61 (s, 6H), 7.12 - 7.15 (m, 2H), 7.48 - 7.58 (m, 4H). 13C NMR (75 MHz, acetone-d6) : δ = 56.6, 108.1 - 109.5 (m), 111.2 - 112.5 (m), 113.9 - 115.1 (m), 116.0, 121.3 (q, 1JF-C = 274.6 Hz), 121.4 (q, 1JF-C = 274.6 Hz), 124.7, 125.0 - 125.6 (m), 130.6, 132.0 - 132.2 (m), 134.8, 136.6, 142.3 - 151.0 (m), 159.1 - 159.3 (m). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6) : δ = -137.4 - -137.2 (m, 2F), -136.4 - -136.0 (m, 4F), -135.7 - -135.4 (m, 2F), -129.6 - -129.5 (m, 2F), -119.7 - -119.5 (m, 2F), -116.6 - -116.5 (m, 2F), -107.5 - -107.3 (m, 2F), -53.6 - -53.5 (m, 6F), -53.4 - -53.2 (m, 6F). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6) : δ = -26.1 (s, 1JPt-P = 3745 Hz). IR (KBr) : 1479, 1464, 1329, 1271, 1155, 1038, 982, 943, 770, 716 cm-1. Anal. calc. for C42H12Cl2F28O2P2Pt : C 35.82, H 0.86%. Found : C 36.07, H 1.12.
【0110】
【化36】

【0111】
反応例1
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、上記合成例3で合成したジホスフィン(19.2 mg、24.0 μmol)、μ-ジクロロテトラエチレンロジウム(I) (4.7 mg、12 μmol)、塩化メチレン (1.0 ml) を加え、室温下で2時間攪拌した。その後、塩化メチレンを留去し、KOH (22.8 mg、0.40 mmol)、充分に脱気したトルエン (1.6 ml) 及び水 (0.16 ml) を加え、室温で1時間激しく攪拌した。次いで、20℃以下に冷却し、フェニルボロン酸 (107.3 mg、0.880 mmol) 及び2-シクロヘキセン-1-オン (77 μl、0.80 mmol) を加え、20℃で3時間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 5/1) によって精製することにより、目的化合物を得た。(99% Yield、99 %ee)
【0112】
【化37】

【0113】
反応例2
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、上記合成例12で合成した[(diphosphine)RhCl]2 (14.8 mg、6.0 μmol)、KOH (11.3 mg、0.20 mmol)、充分に脱気したトルエン (0.80 ml) 及び水 (80 μl) を加え、室温で1時間激しく攪拌した。次いで、20℃以下に冷却し、フェニルボロン酸 (53.6 mg 、0.440 mmol) 及び2-シクロヘキセン-1-オン (39 μl、0.40 mmol) を加え、20℃で3時間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 5/1)によって精製することにより、目的化合物を得た。(86 % Yield、96% ee)
【0114】
【化38】

【0115】
反応例3
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、上記合成例10で合成したジホスフィン (13.5 mg、12.0 μmol)、μ-ジクロロテトラエチレンロジウム(I) (2.3 mg、6.0 μmol)、塩化メチレン (0.5 ml) を加え、室温下で2時間攪拌した。その後、塩化メチレンを留去し、KOH (11.4 mg、0.20 mmol)、充分に脱気したトルエン (0.80 ml) 及び水 (80 μl) を加え、室温で1時間激しく攪拌した。次いで、20℃以下に冷却し、フェニルボロン酸 (53.6 mg、0.440 mmol) 及び2-シクロヘキセン-1-オン (39 μl、0.40 mmol) を加え、20℃で5時間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出後、カラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 5/1)によって精製することにより、目的化合物を得た。(76% Yield、97 %ee)
【0116】
【化39】

【0117】
反応例4
20 mlシュレンク管を十分に乾燥させ、アルゴン雰囲気下で、(R)-BINAP (7.5 mg、12 μmol)、μ-ジクロロテトラエチレンロジウム(I) (2.3 mg、6.0 μmol)、塩化メチレン (0.5 ml) を加え、室温下で2時間攪拌した。その後、塩化メチレンを留去し、KOH (11.2 mg、0.200 mmol)、充分に脱気したトルエン (0.80 ml) 及び水 (80 μl) を加え、室温で1時間激しく攪拌した。次いで、20℃以下に冷却し、フェニルボロン酸 (53.6 mg、0.440 mmol) 及び2-シクロヘキセン-1-オン (39 μl、0.40 mmol) を加え、20℃で3時間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行い、1H NMR測定を行ったところ、目的物が全く生成していないと分かった。
【0118】
【化40】

【0119】
【表1】

【0120】
上記表にも示されるように、Arで示される置換フェニル基の置換基のうち3〜5個の置換基がフッ素原子又はパーフルオロアルキル基である反応例1及び2では、2個の置換基がフッ素原子又はパーフルオロアルキル基である反応例3に比べて、収率が良好である。また、得られる反応生成物の光学純度も高い。一方、(R)-BINAPを用いた反応例4では、反応が進行しなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジホスフィン化合物。
【化1】

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基を示す。同一のベンゼン環に結合しているR、R、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。Arは、下記式(2)で表される置換フェニル基を示す。]
【化2】

[式中、R、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子又は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、0〜2個の置換基が水素原子である。]
【請求項2】
、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子である請求項1記載のジホスフィン化合物。
【請求項3】
軸不斉光学活性体である請求項1又は2記載のジホスフィン化合物。
【請求項4】
請求項3記載のジホスフィン化合物が配位子として遷移金属に配位した金属錯体。
【請求項5】
遷移金属が、周期律表の第8族、第9族又は第10族に属する金属である請求項4記載の金属錯体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の金属錯体からなる不斉合成用触媒。
【請求項7】
下記式(3)
【化3】

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基を示す。同一のベンゼン環に結合しているR、R、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物を、トリホスゲンと四級アンモニウム塩とを混合して調製された反応剤と反応させる、下記式(4)
【化4】

[式中、R、R、R及びRは前記式(3)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法によって得られた前記式(4)で表される光学活性なジホスフィン化合物に、下記式(5)
【化5】

[式中、Arは、下記式(2)で表される置換フェニル基を示し、Mは、Li又はMg−Xを示す。ここでXはハロゲン原子を示す。]
【化6】

[式中、R、R、R、R及びRで示される置換基のうち、3〜5個の置換基がフッ素原子又は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、0〜2個の置換基が水素原子である。]
で表される有機金属化合物と反応させる下記式(1)
【化7】

[式中、R、R、R及びRは、前記式(3)に同じ。Arは、前記式(2)に同じ。]
で表される光学活性なジホスフィン化合物の製造方法。


【公開番号】特開2010−173958(P2010−173958A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17385(P2009−17385)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】