説明

新規ステロイド産生細胞

【課題】 移植等によりステロイドホルモン欠損症等のステロイドホルモン分泌異常の治療に利用できる新規ステロイド産生細胞を提供する。
【解決手段】 骨髄細胞若しくは多能性幹細胞中に、ステロイドホルモン合成に関与する因子を導入することにより前記細胞から分化させたことを特徴とするステロイド産生細胞が提供される。また、当該ステロイド産生細胞の製造方法、使用、その細胞から分泌されたホルモンを用いた薬剤組成物、その細胞を用いた様々な疾患に対する治療方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステロイド産生細胞の生成に関するものであり、より具体的には、それにより生成された新規ステロイド産生細胞、その生成方法に関するものである。またこの発明は、そのようにして生産された細胞の使用にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ステロイドホルモンは、アトピー性皮膚炎の外用・内服の他、気管支喘息やリウマチで用いられる「ステロイド剤」として知られている。このステロイド剤は強力な免疫抑制作用を有しており幅広い疾患の治療に使用されているが、副作用の観点からその使用は慎重に行わなければならないとされている。
【0003】
一方、生体内で産生されるステロイドホルモンは、生体維持に非常に重要な役割を果たすホルモンである。生体内におけるステロイドホルモンの産生が不足すると、ブドウ糖の調節維持、Na・Kバランスの調節、タンパク質の合成促進、炎症反応・免疫応答の制御、性的発達、生殖機能等が低下する。このステロイドホルモンが様々な理由により欠落、低下した場合、「ステロイドホルモン欠損症」と呼ばれる病態が引き起こされる。
【0004】
このステロイドホルモン欠損症の一つに副腎皮質機能不全がある。この副腎皮質機能不全は、副腎ステロイドホルモンの欠落のために起こるものであり、具体的な症状としては、ストレス対応ホルモンである糖質コルチコイドのコルチゾールの分泌欠落のために全身倦怠感が非常に強くなり、医学的な所見として低血圧、低血糖、低Na血症、高K血症、色素沈着などが見られることがある。副腎ステロイドホルモンの絶対的不足や、感染などのストレスを契機に必要量が急増により、最悪の場合、急性副腎不全となり死に至る場合がある。副腎皮質機能不全症では多くの場合鉱質コルチコイドホルモンであるアルドステロンの分泌も悪いため、低Na血症、高K血症がさらに助長される。
【0005】
他のステロイドホルモン欠損症としては、性腺機能不全が挙げられる。性腺機能不全は、様々な病因、例えば遺伝的要因、腫瘍、炎症、手術、放射線照射などによって性腺(男性であれば睾丸、女性であれば卵巣)からの性腺ステロイドホルモンの分泌が低下する病態を指す。基本的には命を左右する問題ではないが、10〜20代といった若い人に生じた場合、二次性徴が障害され「男らしさ・女らしさ」の欠如からコンプレックスの問題が生じる可能性がある。またこれと同時に、将来の生殖能力に影響を及ぼす問題となり得る。またこのような生殖系への影響だけでなく、性腺系ホルモンが長期間欠落することによって、骨粗鬆症や動脈硬化を起こしやすくなるという問題もある。
【0006】
これらステロイドホルモン欠損症に対する現在の治療法としてステロイドホルモン補充療法が確立されており、例えば非特許文献1に記載されているように多くの利益を供与している。しかし特に副腎皮質機能不全の場合、一生涯補充を継続する必要である。一般的には糖質コルチコイドが補充されるが、それだけでは電解質失調が是正されない場合、鉱質コルチコイドも追加される。患者によってはそれのみでは定量内服投与となり、感染症などでステロイド必要量が急増した場合などの対応が難しく、またステロイド過剰が続けば様々な副作用の可能性がある。
【0007】
従って、遺伝子治療やステロイド産生細胞移植といった新たな治療法が切望されているが、決定的な治療方法は現在のところまだ開発されていない。
【0008】
【非特許文献1】Laureti,S.,Falorni,A.,and Santeusanio,F."Improvement of treatment of primary adrenal insufficiency by administration of cortisone acetate in three daily doses."J Endocrinol Invest.2003(11):1071〜1075
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ステロイドホルモン欠損症等のステロイドホルモン分泌異常の治療に利用できる新規ステロイド産生細胞を提供することを目的とするものであり、具体的には、生理的に多様なステロイドホルモンを分泌できるステロイド産生細胞、その製造方法、使用、その細胞から分泌されたホルモンを用いた薬剤組成物、その細胞を用いた様々な疾患に対する治療方法を提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
最近、多くの研究により、骨髄細胞の移植は様々な臓器の造血系・間葉系細胞群再生に寄与している可能性が示唆されている。つまり骨髄細胞は様々な臓器に分化する多能性前駆細胞を含んでいるのではないかと考えられている。骨髄幹細胞は、造血系・間葉系細胞群に成長することは知られているが、本発明以前にはステロイド産生細胞に分化することは知られていなかった。しかし本発明者らは、骨髄細胞が副腎皮質・性腺と同じく間葉系由来である筋や脂肪等に分化できることに着目し、骨髄細胞からステロイド産生細胞を分化させるという新たな知見を得、これに基づいて誠意検討、実験を重ねた結果、以下に述べるいくつかの性質を併せ持つステロイド産生細胞の生成に成功したものである。
【0011】
すなわち、本発明の第1の主要な観点によれば、骨髄細胞中にステロイドホルモン合成に関与する因子を導入し、前記骨髄細胞から分化させたことを特徴とするステロイド産生細胞が提供される。
【0012】
このような構成によれば、移植等によりステロイドホルモン欠損症等のステロイドホルモン分泌異常の治療に利用できる新規ステロイドホルモン産生細胞を得ることができる。
【0013】
ここで、前記骨髄細胞は、これに限定するものではないが、骨髄幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、造血幹細胞、及び多能性前駆細胞を含むものである。
【0014】
また、本発明の第2の主要な観点によれば、多能性幹細胞中にステロイドホルモン合成に関与する因子を導入し、前記多能性幹細胞から分化させたことを特徴とするステロイド産生細胞が提供される。ここで多能性幹細胞とは、間葉系幹細胞、造血幹細胞を含む体性多能性幹細胞であることが好ましい。
【0015】
前記多能性幹細胞は骨髄細胞由来のものであることが好ましい。ただし、この発明の多能性幹細胞は骨髄由来のものに限定されるものではなく、多能性幹細胞が存在する組織由来のものであればよい。
【0016】
前記ステロイド合成に関与する因子は、これに限定されるものではないが、ステロイドホルモン合成酵素の転写調節因子である。このステロイドホルモン合成酵素の転写因子は、Steroidogenic factor 1(SF−1)であることが好ましい。
【0017】
本発明の1の実施形態によれば、前記ステロイド産生細胞において産生されるステロイドホルモンは、プレグネノロン(pregnenolone)、プロゲステロン(progesterone)、デオキシコルチコステロン(deoxycorticosterone)、コルチコステロン(corticosterone)、18ヒドロキシコルチコステロン(18−hydroxycorticosterone)、アルドステロン(aldosterone)、17αヒドロキシプレグネノロン(17α−hydroxypregnelone)、17αヒドロキシプロゲステロン(17α−hydroxyprogesterone)、11デオキシコルチゾール(11−deoxycortisol)、コルチゾール(cortisol)、DHEA(dehydroepiandrosterone)、アンドロステンジオン(androstenedione)、エストロン(estrone)、アンドロステンジオール(androstenediol)、テストステロン(testosterone)、エストラジオール(estradiol)から成るステロイドホルモンのうち1つ若しくはそれ以上である。
【0018】
また、前記ステロイド産生細胞は、ステロイドホルモンを所定期間以上に亘って分泌するものである。そして、この所定期間は少なくとも2週間以上であることが好ましい。このことにより、治療の頻度を少なくすることができ、患者の負担を減らすことが可能になる。
【0019】
さらに、本発明の1実施形態によれば、前記ステロイド産生細胞は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)反応性である。また、ここでACTH反応性は用量依存性である。これにより、例えば副腎不全の患者に対して本発明で得られたステロイド産生骨髄細胞を移植した場合、生体の副腎皮質のステロイドが不足していればACTHが分泌され、前記細胞より副腎皮質ステロイドが分泌され、反対に過剰であればACTHが抑制され、その結果副腎皮質ステロイド分泌も抑制され得る。
【0020】
本発明の1実施形態によれば、前記ステロイド産生細胞は、レチノイン酸含有培地、若しくはレチノイン酸とhCG(ヒト絨毛性刺激ホルモン)含有培地で培養することによって、性腺ステロイドホルモンを産生するものである。
【0021】
また本発明の第3の主要な観点によれば、(a)骨髄細胞を用意する工程と、(b)前記骨髄細胞中でステロイドホルモン合成に関与する因子を導入し、前記骨髄細胞をステロイド産生細胞へと分化させる工程とを有することを特徴とするステロイド産生細胞の生産方法が提供される。このことで、治療に有効な多様なステロイドホルモンを分泌できるステロイド産生細胞を製造することが可能になる。
【0022】
本発明の1実施形態によれば、前記方法はさらに、レチノイン酸含有培地、若しくはレチノイン酸とhCG(ヒト絨毛性刺激ホルモン)含有培地で培養する工程を有し、性腺ステロイド産生細胞に分化誘導することを特徴とするステロイド産生細胞の生産方法である。
【0023】
本発明の第4の主要な観点によれば、前記ステロイド産生細胞から分泌された生理的に多様なステロイドホルモンと、薬学的に許容される担体からなる薬剤組成物が提供される。このようにして得られた薬剤組成物によれば、ステロイドホルモン欠損症等のステロイドホルモン分泌異常、各種自己免患などを有効に治療することが可能になる。
【0024】
この発明の更なる特徴及び顕著な効果は次に記載する発明の実施の形態の項の記載から当業者にとって明らかになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
上述したように、本発明によれば、骨髄細胞若しくは多能性幹細胞中でステロイド合成酵素に関与する因子を導入し、前記細胞から分化させてなるステロイド産生細胞が提供される。
【0027】
骨髄細胞及び多能性幹細胞
最近、多くの研究により、骨髄細胞の移植は様々な臓器の造血系・間葉系細胞群再生に寄与している可能性が示唆されている。つまり骨髄細胞は様々な臓器に分化する多能性前駆細胞を含んでいるのではないかと考えられている。骨髄幹細胞は、造血系・間葉系細胞群に成長することは知られているが、本発明以前にはステロイド産生細胞に分化することは知られていなかった。しかし、本発明者らは、骨髄細胞が副腎皮質・性腺と同じく間葉系由来である筋や脂肪等に分化できることに着目し、骨髄細胞からステロイド産生細胞を分化させるという新たな知見を得、これに基づいて誠意検討、実験を重ねた結果、以下に述べるいくつかの好ましい性質を併せ持つステロイド産生細胞の生成に成功した。
【0028】
ここで、骨髄細胞及び多能性幹細胞は、ステロイド産生細胞に分化できるものであれば良く、人やマウス等の哺乳類に限定されるものではない。また前記細胞の採取方法は、公知の方法でよい。
【0029】
ステロイド合成酵素の転写調節因子の導入
骨髄細胞及び多能性幹細胞をステロイド産生細胞に分化させるには、ステロイド合成に関与する因子を導入等してステロイドホルモンを合成させる必要があると考えられる。
【0030】
ここで、ステロイドホルモン合成酵素の組織特異的転写因子であるSF−1、別名adrenal 4 binding protein(Ad4BP)は、核内レセプタースーパーファミリーに属し、多くのステロイド産生遺伝子に関与すると報告されている(1)。このSF−1ノックアウトマウスにおいて副腎と性腺の完全な欠如が観察されたため、SF−1はステロイド産生及びステロイド産生組織成長に特に重要であると考えられている。
【0031】
一方、胚性幹細胞内で持続的にSF−1を発現させたところ、この胚性幹細胞はステロイド生産能を獲得し、cAMP及びレチノイン酸依存的にP450sccが誘導され、プロゲステロンを産生したとの実験報告もある。しかし、このステロイド産生能はプロゲステロン分泌レベルに制限されており、また外来基質でありミトコンドリア外膜を通過する20α−hydroxycholesterolの添加が必要なため、生理的分泌が生じない。しかしこれらの結果は、SF−1がステロイド産生細胞分化の鍵を握っていることを強く示唆するものである。
【0032】
本発明者らはSF−1の骨髄細胞への導入によりステロイド産生細胞が生成されるかを検証するために、ウシSF−1を有するアデノウイルス(Adx−bSF−1)を作成し、マウス由来の長期培養骨髄細胞にAdx−bSF−1を感染させると、著明な量の多様なステロイドが産生されることを明らかにした。
【0033】
ただし、本発明においては、前記転写調節因子は、Steroidogenic factor 1(SF−1)に限定されるものではなく、前記細胞中でステロイドホルモンを合成させるために必要である因子であればよい。
【0034】
また、本発明において骨髄細胞中で目的遺伝子を導入・強制発現させる方法としては、本発明の1実施例に従うと、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、HIVベクターなどのベクターを用いて行われる。しかし、このようなウイルス由来などのベクターを用いた方法だけでなく、エレクトロポレーション、タンパク質直接導入法などの公知技術を用いて行われ得るものである。
【0035】
さらに、前記骨髄細胞等をステロイド産生細胞に分化させる方法は、ステロイドホルモン合成に関与する内因性因子の導入だけでなく、外因性因子を作用させる方法も可能であると考えられる。すなわち、前記骨髄細胞を外因性因子を含有する培養液と培地で培養することにより、目的ステロイド産生細胞に分化させることも可能である。
【0036】
新規ステロイド産生細胞、その機能及びその使用
本発明の新規ステロイド産生細胞によれば、以下の、プレグネノロン(pregnenolone)、プロゲステロン(progesterone)、デオキシコルチコステロン(deoxycorticosterone)、コルチコステロン(corticosterone)、18ヒドロキシコルチコステロン(18−hydroxycorticosterone)、アルドステロン(aldosterone)、17αヒドロキシプレグネノロン(17α−hydroxypregnelone)、17αヒドロキシプロゲステロン(17α−hydroxyprogesterone)、11デオキシコルチゾール(11−deoxycortisol)、コルチゾール(cortisol)、DHEA(dehydroepiandrosterone)、アンドロステンジオン(androstenedione)、エストロン(estrone)、アンドロステンジオール(androstenediol)、テストステロン(testosterone)、エストラジオール(estradiol)から成るステロイドホルモンの少なくとも1以上が産生される。
【0037】
本発明者らの解析によれば、本発明によるステロイド産生細胞によるステロイドホルモンの産生は、合成酵素転写調節因子を導入したことによる骨髄細胞中におけるステロイドホルモン合成酵素量の増加に起因するものであると思われる。すなわち、本発明によるステロイド産生細胞においては、前記転写調節因子を強制発現させることにより前記ステロイドホルモン合成酵素のmRNA発現が増強されることがRT−PCRを用いた実験より判明した。さらに抗チトクロームP450scc抗体を用いた免疫染色の実験より、前記ステロイドホルモン合成酵素の発現がタンパク質レベルで増強されることが示されたものである。
【0038】
また、本発明で得られたステロイド産生骨髄細胞は、一定期間以上の安定したステロイドホルモンの産生(少なくとも2週間、好ましくは3週間以上)が必要と考えられるところ、本実施例によれば、ステロイドホルモンの産生は少なくとも112日間続いた。RT−PCRによる分析によれば、この長期に亘る持続的なステロイド産生能は、内因性マウスSF−1の誘導によるものではなく、導入されたアデノウイルス由来ウシSF−1に起因するものであることが確認された。すなわち、アデノウイルスによるウシSF−1の発現が低レベルであっても前記骨髄細胞の長期・多様なステロイド産生には十分である、若しくは前記SF−1はステロイド産生の開始には必要であるが維持には重要でないのではないかと考えられる。
【0039】
また、フローサイトメトリーの結果より、前記ステロイド産生細胞は、多能性を持ち未熟な造血系/間葉系幹細胞に起源することが示唆された。
【0040】
さらに、本新規ステロイド産生細胞によれば、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に反応しステロイドの分泌がコントロールできることが判明した。また、このACTH反応性は用量依存性である。この点においても本発明で得られたステロイド産生細胞は有益であると考えられる。例えば副腎不全の患者に対して本発明で得られたステロイド産生骨髄細胞を移植した場合、生体の副腎皮質のステロイドが不足していればACTHが分泌され、前記細胞より副腎皮質ステロイドが分泌され、反対に過剰であればACTHが抑制され、その結果副腎皮質ステロイド分泌も抑制され得るからである。
【0041】
本発明者らはさらに、本新規ステロイド産生細胞が培養条件によってどのような影響を受けるかを検討した。実験の結果、本新規ステロイド産生細胞は、レチノイン酸含有培地、若しくはレチノイン酸とhCG(ヒト絨毛性刺激ホルモン)含有培地で培養することによって、性腺ステロイドホルモンを産生することができることを明らかにした。従来技術として、レチノイン酸が副腎ホルモン(コルチコステロン)産生を誘導することは知られていたが、性腺ホルモンの産生を誘導することは、本発明以前には知られていないことであった。
【0042】
また本発明で得られたステロイド産生細胞は、移植した場合、生体内でステロイドを移植局所高濃度に分泌できると推測される。すなわち必要な部位で必要なだけステロイドが分泌され、なおかつ全身的にステロイド過剰にならないので、重大な副作用を起こすことがないと考えられる。
【0043】
以上の知見に基づくと、本発明で得られたステロイド産生骨髄細胞を自己細胞移植などの手段を用いて使用することにより、ステロイドホルモン欠損症等のステロイドホルモン分泌異常へのステロイド細胞移植、アレルギー/自己免疫疾患治療、移植臓器の拒絶予防などへの応用といった新しい治療法を提供すると考えられる。すなわち、本発明によれば、上記新規ステロイド産生細胞を生体内の目的箇所に移植することによるステロイドホルモン欠損症等のステロイドホルモン分泌異常、自己免疫疾患、移植臓器の拒絶予防等の治療方法が提供される。
【0044】
また、上記知見に基づくと、前記で得られた新規ステロイド産生細胞から分泌されたステロイドホルモンと、薬学的に許容される担体とを有することを特徴とする薬剤組成物が提供される。前記薬剤組成物は、アトピー性皮膚炎の外用・内服の他、気管支喘息やリウマチ等の治療用の「ステロイド剤」として用いてもよい。またステロイド欠損症、アレルギー、自己免疫疾患等の治療用として用いることも可能である。
【0045】
さらに、本発明で得られた骨髄細胞の副腎若しくは性腺ステロイド産生細胞への多分化能は、副腎・性腺細胞分化の組織、部位、細胞特異的機序を解明する重要なモデルになり得ると推測される。
【0046】
また、上述したように、本発明の1実施形態で得られたステロイド産生細胞は、骨髄細胞中の骨髄幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞等の多能性幹細胞から分化したものであると推測される。公知のように、間葉系幹細胞は脂肪や筋にも存在する。従って、間葉系幹細胞、造血幹細胞であれば、骨髄細胞由来のものでなくても、本発明のステロイド産生細胞に分化し得るものと考えられる。骨髄以外からも採取できる場合、広い選択肢と、高い簡便性・安全性が期待できるという利点がある。
【0047】
次に、以下の実施例において本発明に係る新規ステロイド産生細胞の生成の一例を説明する。
【実施例】
【0048】
本発明者らはSF−1の骨髄細胞への導入によりステロイド産生細胞が生成されるかを検証するために、まず、ウシSF−1を有するアデノウイルス(Adx−bSF−1)を作成し、長期培養骨髄細胞にAdx−bSF−1を感染させた。ことにより当該骨髄細胞からは著明な量の多様なステロイドが産生され、ステロイド産生細胞が生成されたことを明らかにした。以下、この検証工程を詳しく説明する。
【0049】
SF−1を含むアデノウイルスベクターの作製
Adenovirus Expression Vector Kit(Takara、Osaka、Japan)を用いてヒト型5−アデノウイルスベクターから由来したリコンビナント(組換え)ベクターを作製した。
【0050】
ウシSF−1/Ad4BP cDNA(岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所、諸橋憲一郎教授より分与)をBamHI及びEcoRI消化し、CAGプロモーターを有するリコンビナントコスミドベクターpAxCAwt(Takara)のSwaIサイトに挿入した。前記リコンビナントウシSF−1アデノウイルスベクター(Adx−bSF−1)はMiyakeら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:132,1996参照)の報告に基づいた製造方法に従い作製した。
【0051】
陰性対照として、β−ガラクトシダーゼ遺伝子のみを移入するアデノウイルスベクターを構築した。このベクターをAdx−LacZとした。
【0052】
マウス骨髄細胞の採取と長期培養
3ヶ月齢の雄B6−GFP(green fluorescence protein)マウス(C57BL/6Tg14(act−EGFP)osbY01)は山田(京都大学)より寄贈された。また、別の実験においては4ヶ月齢の雄129SVJマウスも用いた。前記骨髄細胞は、いくつかの調整を加えた従来技術を用いて培養した。簡潔には、マウスから前記骨髄細胞を培養液中に流し出すことによって新鮮な完全骨髄細胞を回収した。培養液Aは、2mML−グルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、0.0125μg/mlアンホテリシン(Sigma−aldrich、Irvine、UK)、10−7Mヒドロコルチゾン(Nikkenkayaku、Japan)及び20%ドナーウマ血清(Lot6603F及び7307F、ICN Biochemicals、Aurora、Ohio)を含有するα−MEMを含む。回収した細胞を75cm2組織培養フラスコ(Nalge Nunc、Rochester、NY)に播種し、培養液Aと共に37゜C、5% CO2でインキュベートした。接着細胞を数週間培養しトリプシン処理した後、使用するまでcell bankerで−80゜C貯蔵した。実験で必要な際、比較的精製された細胞集団を増殖することを目標に、前記貯蔵BMCsを120〜180日間(継代数12〜18)培養液Aで培養した。この細胞集団から5X105BMCsを再び培養液Aと共に60mmシャーレ(Nunc)に播種した。前記BMCsがサブコンフルエントに増殖した際、前記細胞をアデノウイルスで約10プラーク形成ユニット/細胞で感染させた。全ての実験の対照として、前記BMCsをβ−ガラクトシダーゼ(Adx−LacZ)を発現するリコンビナントアデノウイルスで感染した。
【0053】
前記BMCsから分泌された培養液中のステロイド含有量の測定
培養液中に分泌された以下のホルモン:プロゲステロン(P4)、デオキシコルチコステロン(DOC)、コルチコステロン(B)、17α−ヒドロキシプロゲステロン(17α−OHP4)、11−デオキシコルチゾール(S)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、Δ4−アンドロステンジオン(Δ4−A)、及びテストステロン(T)の含有量を、市販のRIA kit(Diagnostic Products Corp.、LA)を用いてSRL Co.Ltd.(Tokyo、Japan)と共同研究で測定した(各特異的なRIAシステムはSRLによって開発された)。培養液中への前記P4及びDOCの分泌量は、合成1−24ACTH(Shionogi Co.、Osaka、Japan)の存在下/非存在下でも確認された。P4、DOC、B、17α−OHP4、S、DHEA、Δ4−A、及びTのそれぞれの検出限界は、0.1ng/ml、0.02ng/ml、20.0ng/ml、0.1ng/ml、0.04ng/ml、0.2ng/ml、0.1ng/ml、及び0.05ng/ml以下である。
【0054】
免疫細胞化学(immunocytochemistry)
ZenonラビットIgG標識キット(Molecular probes,Inc.、OR)を用いて抗ラビットチトクロームP450scc抗体(RDI、NJ)によって、若しくは対照として免疫前血清によって、129VJマウスからのBMCsの免疫細胞化学研究を行った。前記細胞は35mmシャーレ中のコラーゲンタイプIメンブレン(Asahi technoglass、Tokyo、Japan)に播種され、4%パラホルムアルデヒドで4゜C、1時間固定された。その後は製造者取扱説明書に従った。蛍光は蛍光顕微鏡(BX−51;Olympus、Tokyo、Japan)を用いて観察された。
【0055】
リアルタイムPCR定量
StAR、ACTH受容体(ACTH−R)、及びP450scc、P450c17、P450C11、P450C21、P450ald、3β−HSD、及び17β−HSDタイプ3を含む様々なステロイド産生酵素の定量分析をLightCycler(Poche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany)を用いたリアルタイムPCRによって行った。前記培養BMCs及びY−1細胞からはRNasy mini kit(Qiagen)を用いて、及びマウス精巣、副腎からはIsogen(Wako Pure Chemical Industries、Osaka、Japan)を用いて総RNAを単離した。テンプレートとして5μgの総RNAを用いて第一鎖(First−strand)相補DNAを合成し、製造取扱説明書に従ってLightCyclerにおいてPCRを実行した。用いたセンス/アンチセンスプライマーはMukaiらによって報告されたものである(Conditionally immortalized adrenocortical cell lines at undifferentiated states exhibit inducible Expression of glucocorticoid−synthesizing genes;Eur.J.Biochem.269,69〜81,2002)。PCR条件は要望に応じて利用できる。LightCycler Software Ver.3.5で決定された蛍光強度が増幅の幾何学位相にある時に、閾値が測定された。産物は2%アガロースゲルに供された。各PCR産物のヌクレオチド配列を適切なプライマーを用いてダイレクトシークエンスで確認した。前記mRNAの相対的な発現レベルは、それらのβ−アクチンに対して、及び対照であるマウス副腎皮質性Y−1細胞、若しくはマウス精巣若しくは副腎に対するその割合で較正された。
【0056】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーの基本的なプロトコールは公知の方法に従った。簡潔には、3X105BMCsをPE(フィコエリトリン)結合性抗マウスc−kit、CD11b、CD34、CD44、CD45、及びSca−1モノクローナル抗体(BD Biosciences、Japan)、若しくはアイソタイプ適合PE結合性ラットIgG(BD Biosciences)と共に4゜C、30分間インキュベートした。前記細胞はFACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson)で解析された。
【0057】
統計
1−factor(1因子)ANOVA(分散分析)が統計評価のために用いられた。P<0.05は統計的に有意であるとみなされた。
【0058】
長期培養骨髄細胞へのAdx−bSF−1の感染
(1)BMCsから分泌された培養液中のステロイド含有量の測定
本発明者らはSF−1の骨髄細胞への導入によりステロイド産生細胞が生成されるかを検証するために、上記の方法を用いてウシSF−1を有するアデノウイルス(Adx−bSF−1)を作成した。実験の結果、本発明者らは長期培養骨髄細胞にAdx−bSF−1を感染させると、多様なステロイドが産生されることを明らかにした。
【0059】
雄GFPマウスの長期(123日)培養骨髄細胞にAdx−bSF−1若しくは対照としてAdx−LacZを感染させ、7日間培養した。その後4日間培養した培養液中のステロイド量を測定した。この結果を図1に示す。図1(a)〜(h)はそれぞれGFPマウスからの長期培養BMCsの培養液中へのプロゲステロン(P4)、デオキシコルチコステロン(DOC)、コルチコステロン(B)、17α−ヒドロキシプロゲステロン(17α−OHP4)、11−デオキシコルチゾール(S)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、Δ4−アンドロステンジオン(Δ4−A)、及びテストステロン(T)の基礎分泌量を示している。図中の値は平均値±SD(n=3)で示された。S、及びLはそれぞれAdx−bSF−1で形質移入されたBMCs、及びAdx−LacZで形質移入されたBMCsを示す。図1に示すように、Adx−bSF−1感染骨髄細胞は著明な量のプロゲステロン(P4)、デオキシコルチコステロン(DOC)、コルチコステロン(B)、17α−ヒドロキシプロゲステロン(17α−OH P4)、11−デオキシコルチゾール(S)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、Δ4−アンドロステンジオン(Δ4−A)、及びテストステロン(T)を生成したが、Adx−LacZ感染細胞は生成しなかった。Adx‐LacZ感染の対照細胞培養液では、Sを除きステロイドは全て検出されなかった。対照培養液中に検出された微量のSは、恐らくS抗体のhydrocortisoneへのクロスリアクション(9.5%)であり、ステロイド前駆体は生成されないと考えられる。
【0060】
前記骨髄細胞におけるAdx−bSF−1発現のステロイドホルモン合成酵素への影響
(1)RT−PCRによる測定(mRNA発現に対する効果)
次に、上記実験で用いられた細胞のReal‐time reverse transcriptase‐polymerase chain reaction(RT−PCR)を行った。その結果を図2に示す。図2(a)〜(f)はそれぞれStAR、P450scc、3β−HSD、P450c11、P450c17、17β−HSDタイプ3及びACTH−RのリアルタイムPCRの結果を示すグラフである。さらに、40サイクル以上で増幅され、エチジウムブロマイド染色されたアガロースゲルにおける実際の特異的PCRバンドを、図の下に示してある。相対的mRNA発現レベルはβ−アクチンで較正された。S、及びLはそれぞれAdx−bSF−1で形質移入されたBMCs、及びAdx−LacZで形質移入されたBMCsを指し示す。Adx−LacZで感染された対象細胞からはStAR、P450scc、3β−HSD、P450c11、17β−HSDタイプ3の有意なPCR産物は得られなかった。値は平均値±SD(n=3)で示された。*はP<0.05を示している。これらのグラフより、ステロイドホルモン合成酵素であるsteroidogenic acute regulatory protein(StAR)、P450scc、3β−hydroxysteroid dehydrogenase(3β−HSD)、P450c11、P450c17、及び17β−HSDタイプ3のmRNA発現は、Adx−bSF−1感染11日目の骨髄細胞で認められた。一方Adx−LacZ感染細胞では認められなかった。P450aldのmRNAは証明できなかった。副腎皮質刺激ホルモン受容体(ACTH−R)はAdx−LacZ感染細胞でも発現していたが発現レベルはとても低かった(副腎発現の2/1000)にも関わらずAdx−bSF−1感染細胞では更に低下した。
【0061】
すなわち、対照Y−1細胞の発現に対する相対比はStAR、P450scc、及び3β−HSDの場合に発現される;マウス副腎の発現に対してはP450c11及びACTH−Rの場合に発現される;マウス精巣の発現に対してはP450c17及び17β−HSDタイプ3の場合に発現される。Adx−LacZで感染された対象細胞からはStAR、P450scc、3β−HSD、P450c11、17β−HSDタイプ3の有意なPCR産物は得られなかった。以上の結果より、前記骨髄細胞にbSF−1を発現させることにより、ステロイドホルモン合成酵素のmRNA発現を増強することが判明した。
【0062】
同様の結果が129VJマウスでも観察されており、血統により殆ど差はないと示唆された(データは示さず)。
【0063】
(2)免疫細胞化学による観察(タンパク質発現に対する効果)
上に記載された抗体を用いた129VJマウス骨髄細胞の免疫染色の結果を図3に示している。図3より、ステロイドホルモン合成酵素であるP450sccの発現が明らかになった。緑色蛍光細胞はP450sccに対してポジティブであることを示している。陰性対照として、免疫前血清と細胞は反応しなかった(データは示さず)。すなわち、前記骨髄細胞にbSF−1を発現させることにより、ステロイドホルモン合成酵素タンパク質の発現量を増強することが判明した。
【0064】
本発明においてステロイド産生細胞は、副腎と性腺のステロイドの混合、つまりDOC、B、DHEA、Δ4−A、及びTを同時に産生している。ステロイドホルモン合成酵素であるP450c17はヒト副腎に発現しているがマウス副腎では発現していないため、本発明における前記骨髄細胞でのP450c17の著明は発現は、ステロイドの混合性産生が種を越えて生じることを示唆している。
【0065】
またこれらの結果より、ステロイド産生細胞への分化において前記骨髄細胞は多能性を有する、ステロイド産生組織の共通の起源が存在する;つまり本発明で得られた骨髄細胞由来ステロイド産生細胞が幹細胞である可能性が示唆された。そこで次にフローサイトメトリーを用いて、この仮定を検討した。
【0066】
骨髄細胞から分化させたステロイド産生細胞が(造血系/間葉系)幹細胞であるかの検討
(1)フローサイトメトリーによる前記骨髄細胞表面マーカーの解析
フローサイトメトリーを用いて、前記骨髄細胞表面マーカーを解析した結果を図4に示した。前記フローサイトメトリー実験は図1の実験において使用したものと同じBMCsを用いてアデノウイルスの感染前に行われた。図4(a)〜(f)はそれぞれ、細胞表面マーカーであるc−kit、CD11b、CD34、CD44、CD45、Sca−1を示す。実験の結果より、造血細胞に特異的なCD45、及び造血前駆細胞に特異的なCD34は陰性であった。また単球、マクロファージのマーカーであるCD11bも陰性であった。マウス間葉系幹細胞のマーカーは完全には明らかにされておらず議論の余地があるが、潜在的マーカーであるCD44は前記骨髄細胞では陰性であった。一方、造血系及び間葉系の幹細胞・前駆細胞マーカーであるc−kit及びSca−1は陽性であった。
【0067】
本発明で得られる骨髄細胞は不均一ではあるが、恐らくステロイド産生細胞は多能性を有し未熟な幹細胞に起源すると考えられた。また長期培養骨髄細胞は0.05mM ascorbic acid、10mM β−glycerophosphate、及び0.1μM dexamethasoneで処理することにより、アルカリフォスファターゼに染まる骨芽細胞様に分化した(データは示さず)。これは長期培養骨髄細胞が間葉系の性質を持つという傍証となる。
【0068】
長期培養骨髄細胞のACTH反応性の確認
上でACTH−Rの発現が確認されたため、次に骨髄細胞のACTH反応性をP4及びDOCを測定することで検討した。雄GFPマウスの長期(100日)培養骨髄細胞にAdx−bSF−1若しくはAdx−LacZを感染させ、感染後3〜4日毎に2.4nM〜2.4μMのACTHで刺激し、培養液中のステロイドを測定した。Adx−bSF−1若しくはAdx−LacZで感染した(Day0)後、細胞は0、4、7、11、14、18、21、25、28日目に2.4nMから2.4μMのACTHで処理された。ACTHを添加する前に、培養液を回収し前記ステロイド濃度を測定した。図5はその結果を示したグラフであり、図5(a)、(b)はそれぞれGFPマウスから採取された培養BMCsからのプロゲステロン(P4)及びDOCの分泌に対するACTHの影響を示す。図中の値は平均値±SD(n=3)で示された;a、b、c、d、及びeはそれぞれ0、2.4、24、240nM及び2.4μMのACTHを示している。対照(ACTH非存在下)に対して*はP<0.05、**はP<0.01を示している。実験の結果より、ACTHはAdx−bSF−1感染骨髄細胞においてこれらのステロイドを用量依存的に生成した。しかしAdx−LacZ感染細胞では生成されなかった(データは示さず)。
【0069】
これらの結果より、長期培養骨髄細胞へのbSF−1の導入により、基礎状態と同様にACTH刺激状態でも多様なステロイドを分泌するステロイド産生細胞に分化することを示している。
【0070】
また、2.4μMのACTHによる、ステロイド産生酵素であるP450scc、3β−HSD、P450c21、P450c11及び17β−HSDのmRNA誘導もリアルタイムPCRによって確認された。しかしACTH−RのmRNA誘導は確認されなかった(図6)。実験に用いられた細胞は、Adx−bSF−1での感染(Day0)の後、BMCsは0、4、及び7日目に2.4μM ACTHで処理し、4日間培養した。11日目に、前記細胞の総RNAを抽出し、リアルタイムPCRを行った。図6(a)〜(f)はそれぞれ、2.4μM ACTHの存在下(右下下がり斜線柱)及び非存在下(白柱)におけるP450scc、3β−HSD、P450c21、P450c11、17β−HSDタイプ3、及びACTH−RのmRNAの発現を示す図である。図中の値は平均値±SD(n=3)で示されている。相対的mRNA発現レベルはβ−アクチンで較正された。対照Y−1細胞の発現に対する相対比はP450scc及び3β−HSDの場合に発現される;マウス副腎に対してはP450c21、P450c11、及びACTH−Rの場合に発現される;マウス精巣に対しては17β−HSDタイプ3の場合に発現される。対照(ACTH非存在下)に対して*はP<0.05、**はP<0.01を示している。
【0071】
骨髄細胞からの長期ステロイド産生能の測定
Adx−bSF−1感染によって、骨髄細胞のステロイド産生がどの程度の期間続くのかを検討した。長期(180日)培養骨髄細胞にAdx−bSF−1若しくはAdx−LacZを感染させ、培養液中のP4及びDOCを3〜4日毎に測定した。その結果は図7に示しており、図7(a)、(b)はそれぞれGFPマウスからの長期培養BMCsの培養液中におけるプロゲステロン(P4)及びデオキシコルチコステロン(DOC)の基礎分泌量の時間経過(タイムコース)を示す。図中の値は複製(2つ組の)シャーレの平均値を示している。黒柱はAdx−bSF−1で感染された細胞から分泌された前記ステロイドを示している。P4及びDOCの分泌はAdx−LacZで感染させたBMCsからの培養液中では検出不可能であった(データは示さず)。図7より、明らかなP4及びDOCの産生は少なくとも112日間続いた。アデノウイルスの半減期(2〜3週間)から考えると、この長期ステロイド産生は予想を超えたものである。
【0072】
また図7における0、14、21、及び49日目に得られた細胞から抽出したRNAを用いてbSF−1のRT−PCRを行った。電気泳動は1.5%アガロースゲルを用いて行い、染色のためにエチジウムブロマイドを使用した。図8はその結果を示しており、Y−1、V、(−)、S及びLはそれぞれY−1細胞(ネガティブコントロール)、Adx−bSF−1(ポジティブコントロール)、感染前のBMCs、Adx−bSF−1で形質移入したBMCs、及びAdx−LacZで形質移入したBMCsを示している。Adx−bSF−1由来bSF−1の発現の実験において内因性マウスSF−1の発現は確認することができず、アデノウイルス由来ウシSF−1のみが検出された(図8)。この結果は長期持続ステロイド産生は内因性マウスSF−1から誘導されるものではなく、アデノウイルス由来ウシSF−1に起因するものであることが示唆された。
【0073】
性腺ホルモン産生細胞への分化誘導
本発明者らはさらに、本発明のステロイド産生細胞が培養条件によってどのような影響を受けるかを検討した。上述した方法と同様に、長期培養骨髄細胞(LTBMCs)にウシSF−1発現ウイルスもしくはコントロールウイルスを感染させ、レチノイン酸(ATRA)、及びレチノイン酸とhCG(ヒト絨毛性刺激ホルモン)をウイルス感染時及び培地交換時に添加し(day 0、4、7、11、14)、day14〜18に培養した培地のホルモンを測定した。この結果を図9A、9B(ATRAを培地に添加した場合)、及び図10A、10B(ATRAとhCGを培地に添加した場合)に示した。実験の結果より、コルチコステロン(副腎ホルモン)とテストステロン(性腺ホルモン)の産生が促進されることが明らかになった。特にテストステロンの産生の促進が顕著に見られたため(図9Bより)、本発明のステロイド産生細胞はレチノイン酸含有培地で培養することによって、性腺ホルモン産生細胞への分化が誘導されたことが示唆された。
【0074】
レチノイン酸が副腎細胞を刺激し、副腎ホルモンの産生が促進されることは公知であるが、性腺ホルモンの産生を誘導することは、本発明によって初めて明らかにされた。
【0075】
本発明の特定の好ましい実施形態及び実施例は上記で記載され、例証されているが、本発明はこれらの一実施形態や一実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1(a)〜(h)はそれぞれGFPマウスからの長期培養BMCsの培養液中へのプロゲステロン(P4)、デオキシコルチコステロン(DOC)、コルチコステロン(B)、17α−ヒドロキシプロゲステロン(17α−OHP4)、11−デオキシコルチゾール(S)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、Δ4−アンドロステンジオン(Δ4−A)、及びテストステロン(T)の基礎分泌量を示すグラフ。
【図2】図2(a)〜(f)はそれぞれStAR、P450scc、3β−HSD、P450c11、P450c17、17β−HSDタイプ3及びACTH−RのリアルタイムPCRの結果を示すグラフ。
【図3】図3は、129VJマウスから採取したBMCsの抗チトクロームP450scc抗体を用いた免疫染色像を示した図。
【図4】図4(a)〜(f)はそれぞれ培養BMCsにおける表面マーカーであるc−kit、CD11b、CD34、CD44、CD45、Sca−1発現のフローサイトメトリー解析の結果を示す図。
【図5】図5(a)、(b)はそれぞれGFPマウスから採取された培養BMCsからのプロゲステロン(P4)及びDOCの分泌に対するACTHの影響を示すグラフ。
【図6】図6(a)〜(f)はそれぞれ、2.4μM ACTHの存在下(右下下がり斜線柱)及び非存在下(白柱)におけるP450scc、3β−HSD、P450c21、P450c11、17β−HSDタイプ3、及びACTH−RのリアルタイムPCRを示すグラフ。
【図7】図7(a)、(b)はそれぞれGFPマウスからの長期培養BMCsの培養液中におけるプロゲステロン(P4)及びデオキシコルチコステロン(DOC)の基礎分泌量の時間経過(タイムコース)を示すグラフ。
【図8】図8は、アガロースゲルにおけるAdx−bSF−1由来bSF−1の発現を示す図。
【図9】図9は、129VJマウスから採取したAdx−bSF−1感染BMCsをレチノイン酸(濃度0〜10−4M)含有培地で培養した場合のコルチコステロン産生量(a)と、テストステロン産生量(b)を示す図。
【図10】図10は、129VJマウスから採取したAdx−bSF−1感染BMCsを、様々な培養条件(コルチゾール、レチノイン酸、hCG(ヒト絨毛性線刺激ホルモン)含有)で培養した場合のコルチコステロン産生量(a)と、テストステロン産生量(b)を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄細胞中にステロイドホルモン合成に関与する因子を導入することで前記骨髄細胞から分化させたことを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項2】
多能性幹細胞中にステロイドホルモン合成に関与する因子を導入することで前記多能性幹細胞から分化させたことを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項3】
請求項2記載のステロイド産生細胞において、
前記多能性幹細胞は、骨髄細胞由来であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項4】
請求項2記載のステロイド産生細胞において、
前記多能性幹細胞は、間葉系幹細胞、及び造血幹細胞を含む体性多能性幹細胞であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項5】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイドホルモン合成に関与する因子は、ステロイドホルモン合成酵素の転写調節因子であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項6】
請求項5記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイドホルモン合成酵素の転写調節因子はSteroidogenic factor 1(SF−1)であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項7】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイド産生細胞は、ステロイドホルモンを所定期間以上に亘って分泌するものであることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項8】
請求項7記載のステロイド産生細胞において、
前記所定期間は少なくとも2週間以上であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項9】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイド産生細胞は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)反応性であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項10】
請求項9記載のステロイド産生細胞において、
前記ACTH反応性はACTH用量依存性であることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項11】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイド産生細胞は、プレグネノロン(pregnenolone)、プロゲステロン(progesterone)、デオキシコルチコステロン(deoxycorticosterone)、コルチコステロン(corticosterone)、18ヒドロキシコルチコステロン(18−hydroxycorticosterone)、アルドステロン(aldosterone)、17αヒドロキシプレグネノロン(17α−hydroxypregnelone)、17αヒドロキシプロゲステロン(17α−hydroxyprogesterone)、11デオキシコルチゾール(11−deoxycortisol)、コルチゾール(cortisol)、DHEA(dehydroepiandrosterone)、アンドロステンジオン(androstenedione)、エストロン(estrone)、アンドロステンジオール(androstenediol)、テストステロン(testosterone)、エストラジオール(estradiol)から成るステロイドホルモンの少なくとも1つを産生するものであることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項12】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイド産生細胞は、レチノイン酸含有培地で培養することによって、性腺ステロイドホルモンを産生するものであることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項13】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞において、
前記ステロイド産生細胞は、レチノイン酸及びhCG(ヒト絨毛性刺激ホルモン)含有培地で培養することによって、性腺ステロイドホルモンを産生するものであることを特徴とするステロイド産生細胞。
【請求項14】
(a)骨髄細胞を用意する工程と、
(b)前記骨髄細胞中にステロイドホルモン合成に関与する因子を導入し、前記骨髄細胞をステロイド産生細胞へと分化させる工程と
を有することを特徴とするステロイド産生細胞の生産方法。
【請求項15】
請求項14記載のステロイド産生細胞の生産方法において、
前記骨髄細胞を、レチノイン酸含有培地で培養する工程をさらに有し、性腺ステロイド産生細胞に分化誘導することを特徴とするステロイド産生細胞の生産方法。
【請求項16】
請求項14記載のステロイド産生細胞の生産方法において、
前記骨髄細胞を、レチノイン酸とhCG(ヒト絨毛性刺激ホルモン)含有培地で培養する工程をさらに有し、性腺ステロイド産生細胞に分化誘導することを特徴とするステロイド産生細胞の生産方法。
【請求項17】
請求項1若しくは2記載のステロイド産生細胞から分泌されたステロイドホルモンと、薬学的に許容される担体とを有することを特徴とする薬剤組成物。
【請求項18】
請求項17記載の薬剤組成物において、
前記薬剤組成物は、ステロイドホルモン分泌異常を治療するためのものであることを特徴とする薬剤組成物。
【請求項19】
請求項17記載の薬剤組成物において、
前記薬剤組成物は、自己免疫性疾患を治療するためのものであることを特徴とする薬剤組成物。
【請求項20】
請求項17記載の薬剤組成物において、
前記薬剤組成物は、臓器移植時における免疫抑制剤として用いるものであることを特徴とする薬剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−122040(P2006−122040A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191617(P2005−191617)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】