説明

新規スピロ化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】発光効率が高く駆動電圧の低い有機発光素子の提供。
【解決手段】下式A−1と異なる、例えば、下式B−1で示される縮合多環化合物で示されるスピロ化合物。また、B−1において、ジベンゾチオフェン骨格を、ジベンゾフラン骨格あるいはフルオレン骨格に代えた縮合多環化合物で示されるスピロ化合物でも良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規スピロ化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有する素子である。これら一対の電極から電子および正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態にもどる際に光を放出する。
【0003】
非特許文献1には、以下に示す構造A−1とその合成法が記載されている。
また、特許文献1には、有機発光素子用材料としてA−1にアリール基が置換した例えばA−2やA−3が記載されている。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第02/088274号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society, Vol.52,1930 P2881
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はT1(最低励起三重項準位)が高く、化学的に安定で結晶性の低い安定なアモルファス膜を形成し得る、新規スピロ化合物を提供することを目的とする。また、それを有する有機発光素において発光効率が高く、かつ駆動電圧の低い有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とするスピロ化合物を提供する。
【0010】
【化3】


[1]
【0011】
一般式[1]において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれ、それぞれ同じでも異なっていても良い。Xは硫黄原子、酸素原子または炭素原子のいずれかである。また、Xが炭素原子の場合、Xは炭素数1以上4以下のアルキル基を1つまたは2つ有してもよく、2つの場合、Xが有する前記炭素数1以上4以下のアルキル基はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、T1(最低励起三重項準位)が高く、化学的に安定で結晶性の低い安定なアモルファス膜を形成し得る、新規スピロ化合物を提供できる。また、本発明の新規スピロ化合物を有機発光素子に用いることで、発光効率が高く、かつ駆動電圧の低い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機発光素子とこの有機発光素子に接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、下記一般式[1]に示されることを特徴とするスピロ化合物である。
【0015】
【化4】


[1]
【0016】
一般式[1]において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれ、それぞれ同じでも異なっていても良い。Xは硫黄原子、酸素原子または炭素原子のいずれかである。
【0017】
乃至Rの炭素数1以上4以下のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。
【0018】
Xが炭素原子の場合、炭素数1以上4以下のアルキル基が1つまたは2つ置換されていても良い。
【0019】
X炭素原子の場合の置換する1以上4以下のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。Xが炭素原子の場合、炭素数1以上4以下のアルキル基を2つ有する場合、それらは同じでも異なっていてもよい。好ましくはいずれも同じである。更に好ましくはいずれもがメチル基かエチル基かプロピル基のいずれかである。
【0020】
本実施形態に係る縮合多環化合物であるスピロ化合物B−1は、上記のA−1に比べ、以下の2つの性質が異なる。
1.安定なアモルファス膜を形成する。
2.イオン化ポテンシャル(IP)が低い。
【0021】
【化5】

【0022】
1についての説明
A−1はC2対称性があり分子の対称性が高く、分子が小さいため、結晶化しやすい構造といえる。一方、B−1は対称性がない構造でかつA−1より分子が大きいため、結晶化しにくい構造といえる。
したがって、本発明による、下記一般式[1]で表される構造のスピロ化合物は、例えば真空蒸着やスピンコート法により膜化した場合、結晶化しにくい、安定したアモルファス膜となる。
【0023】
2についての説明
本発明による、上記一般式[1]で表される構造のスピロ化合物は、Xに電子供与性のある硫黄原子、酸素原子またはアルキル基で置換されても良い炭素原子から選ばれため、A−1に比べイオン化ポテンシャルが低い。
したがって、上記一般式[1]で表されるスピロ化合物を、発光層と発光層に隣接する正孔輸送層とを少なくとも有する有機発光素子における発光材料用ホストとして使用する場合、素子の駆動電圧が低くなる。これはスピロ化合物のイオン化ポテンシャルが低い(HOMO順位が真空準位に近い)ためであり、正孔輸送層から正孔が注入しやすいからである。なおこの場合、ホスト材料とは発光層の主成分である。副成分は発光ドーパント(ゲスト材料)である。発光ドーパントが発光し、ホスト材料はこの発光ドーパントに励起子や、電子あるいは正孔を供給する。そしてこの場合、正孔輸送層のHOMO準位は、ホスト材料のHOMO準位よりも浅い(真空準位に近い)。
【0024】
さらに、本発明に係るスピロ化合物B−1は上記A−2あるいはA−3に比べ、以下の性質が異なる。
A−2及びA−3は基本骨格A−1に自由回転できる置換基が結合している。自由回転できる置換基は、A−2の場合アントラセン、A−3の場合カルバゾールのことである。
【0025】
一方、本発明による、下記一般式[1]で表されるスピロ化合物は自由回転できるアリール基が結合していない。そのため自由回転できる結合よりも熱エネルギーによる結合の開裂がしにくいと本発明者は考える。
【0026】
また、本発明による、下記一般式[1]で表されるスピロ化合物は、Rが全て水素原子で、Xが硫黄原子である場合、希薄溶液中でのT1(最低励起三重項準位)は2.86eVであり、非常に高い。例えばA−2のように基本骨格A−1にアントラセン等の縮合多環化合物が置換基として結合しているが、その置換基由来の低いT1が影響し、結果として化合物のT1が低い。これに対して下記一般式[1]で表されるスピロ化合物は母骨格にアリール基が置換していないためT1が高い。
【0027】
尚、T1の測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を77Kに冷却し、励起波長350nmにて燐光発光成分を測定し、第一発光ピークを用いた。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0028】
以上により、下記一般式[1]で表されるスピロ化合物を、有機発光素子のホスト材料として使用すると、スピロ化合物はイオン化ポテンシャルが低いので、正孔輸送層等の発光層に隣接する有機化合物層から正孔が注入しやすく、素子の駆動電圧が低くなる。また、希薄溶液中でのT1は2.86eVである。このエネルギー準位は、青燐光発光ドーパントの燐光発光準位とほぼ同じである。そのためスピロ化合物を青燐光発光素子用のホスト材料として使用する場合、ホスト材料からゲスト材料へ効率よくエネルギーが移動され、その結果高効率な青燐光発光素子を提供することができる。さらに、青領域より長波長な緑、赤燐光発光素子でも同様なことが言える。
【0029】
ここで、ホスト材料とは、発光層が有する化合物の中で最も重量比が大きい化合物である。また、ゲスト材料とは、発光層が有する化合物の中で、重量比がホスト材料よりも小さく、かつ主たる発光をする化合物である。また、青発光とは2.85eVから2.48eVのエネルギー領域、つまり435nmから500nmに、発光スペクトル波形のピークトップを持つ発光領域である。
【0030】
さらに、本発明による、下記一般式[1]で表されるスピロ化合物を有機発光素子における発光層として使用する場合、真空蒸着やスピンコート法により製膜された膜が結晶化しにくい、安定したアモルファス膜を形成することにより、長寿命な素子を提供する。
【0031】
本発明に係る一般式[1]におけるスピロ化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
(例示化合物の性質)
1)B群について
B群に例示するスピロ化合物は一般式[1]においてXが硫黄原子であるものである。このうちアルキル基が置換されたものはイオン化ポテンシャルが無置換体と比べてさらに低い。また、例示しているスピロ化合物はいずれもT1が無置換体B−1と同等である。
2)C群について
C群に例示するスピロ化合物は一般式[1]においてXが酸素原子であるものである。Xが硫黄原子であるものに比べ、化学的にさらに安定である。アルキル基が置換されたものはイオン化ポテンシャルが無置換体と比べてさらに低い。また、例示しているスピロ化合物はいずれもT1が無置換体C−1と同等である。
3)D群について
D群に例示するスピロ化合物は一般式[1]においてXが炭素原子であるものである。Xが硫黄原子や酸素原子であるものに比べ、極性が低い。アルキル基が置換されたものはイオン化ポテンシャルが無置換体と比べてさらに低い。また、例示しているスピロ化合物はいずれもT1が無置換体D−1と同等である。
【0036】
具体的な化合物の構造をB乃至D群で示したが、式[1]に示すR乃至Rの位置を次の一般式でより具体的に説明する。
【0037】
【化9】

【0038】
R1の場合、結合位置は上記一般式の1乃至4である。同様にR2の場合5乃至8、R3の場合9乃至12、R4の場合13乃至16である。
R1乃至R4はこれら位置のいずれにあってもアルキル基である場合イオン化ポテンシャルを下げることができる。より好ましくは、R1の場合2あるいは3、R2の場合6あるいは7、R3の場合10あるいは11、R4の場合14あるいは15である。
R5の場合、結合位置は上記一般式の17乃至20である。R5はこれら位置のいずれにあってもアルキル基である場合イオン化ポテンシャルを下げることができる。より好ましくは18あるいは19である。
【0039】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0040】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置された有機化合物層とを有し、この有機化合物層が一般式[1]で示されるスピロ化合物を有する素子である。
【0041】
本発明に係るスピロ化合物を用いて作製される有機発光素子としては、基板上に、順次陽極、発光層、陰極を設けた構成のものが挙げられる。有機発光素子は電極が供給する電子および/または正孔が再結合することでエネルギーが発生する。他にも順次陽極、正孔輸送層、電子輸送層、陰極)を設けた構成のものが挙げられる。また順次陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を設けたものや順次陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を設けたものが挙げられる。他にも順次、陽極、正孔輸送層、発光層、正孔・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、陰極を設けたものが挙げられる。ただしこれら5種の多層型の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係るスピロ化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の一般式[1]で表されるスピロ化合物を発光層のホスト材料またはゲスト材料として用いることができる。特に発光層のホスト材料として用いることが好ましい。
【0043】
特に435nmから500nmの領域に発光スペクトル波形のピークを持つ、すなわち青領域に発光する燐光発光材料をゲスト材料として用い、本発明のスピロ化合物をホスト材料として用いて発光層が構成される場合効率が高い。そのような構成の発光層を有する有機発光素子は三重項エネルギーのロスが少ないためであると考える。
【0044】
なお、本発明に係るスピロ化合物をホスト材料として用いる場合、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に係るスピロ化合物以外にも、正孔注入性材料、正孔輸送性材料、ホスト材料、ゲスト材料、電子注入性材料、電子輸送性材料等を有機発光素子の中に適宜使用することができる。これら材料は低分子系あるいは高分子系のどちらでもよい。
【0046】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0047】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0048】
ホスト材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、など)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)およびポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0049】
ゲスト材料としては、以下に示す、燐光発光性のIr錯体や、プラチナ錯体等が挙げられる。
【0050】
【化10】

【0051】
また、蛍光発光性のドーパントを用いることもでき、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0052】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0053】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0054】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0055】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0056】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0057】
有機発光素子を有する基材はガラスやポリエチレンテレフタレートシート(PETシート)等の絶縁部材でもよい。PETシートは可撓性部材の一例でもある。またドープされたあるいはノンドープの半導体部材でもよく、半導体基材とは例えばシリコン基板である。絶縁部材も半導体基材も可視光に透明であっても半透明であっても不透明であってもよい。
【0058】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。照明装置は基材に有機発光素子と、交流の電源から直流を得るコンバータを有する。
【0059】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は基材上に複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子を有する。スイッチング素子は発光のオンオフをスイッチする素子であってもよい。スイッチング素子の一例としてトランジスタ素子、例えばTFT素子がある。有機発光素子の陽極または陰極とこのTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0060】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像入力装置でもよい。画像入力装置は携帯電話、スマートフォン、タブレット型PC等の携帯端末でもよい。また、表示装置はデジタルカメラ等の撮像装置であってもよい。またインクジェットプリンタが有する表示部として用いてもよい。具体的には外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0061】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図1を用いて説明する。
【0062】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0063】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための保護層としての防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0064】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0065】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0066】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、トランジスタやMIM素子を用いてよい。
【0067】
トランジスタは単結晶あるいは多結晶あるいはアモルファスのシリコンを有する薄膜トランジスタ素子等を用いてもよい。
【0068】
薄膜トランジスタは絶縁性表面に配置されており、TFT素子とも呼ばれる。
【0069】
トランジスタは他にもシリコン結晶基板の表面近傍に設けられたものや、シリコン結晶基板に設けられたエピタキシャル層に設けられたものであってもよい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
[例示化合物B−1の合成]
以下に示す合成スキームにより合成した。
【0072】
【化11】

【0073】
化合物a−1の合成
300ml三ツ口フラスコに、ジベンゾチオフェン、3.0g(16.3mmol)、無水フタル酸、2.24g(15.1mmol)、塩化メチレン100mlを入れ、氷冷下で攪拌下、塩化アルミニウム、6gを添加した。室温に昇温し、3時間攪拌した。反応後有機層を氷水200mlにあけ、濃塩酸10mlを加え、1時間撹拌後、クロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、ヘプタン50mlを添加し結晶を析出させ、ろ過した。灰白色固体4.5g(収率83%)を得た。
【0074】
化合物a−2の合成
100ml三ツ口フラスコに、窒素雰囲気中、化合物a−1、4.5g(13.5mmol)、ポリリン酸20ml及びクロロホルム20mlを入れ、氷冷下で攪拌下、a−4、6gを添加した。80度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層を氷水200mlにあけ、クロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−2(黄色固体)2.3g(収率54%)を得た。
【0075】
化合物a−3の合成
100ml三ツ口フラスコに、窒素雰囲気中、化合物a−2、2.2g(7.0mmol)及びTHF50mlを入れ、窒素雰囲気中、氷冷下で攪拌下、a−4(0.5MTHF溶液)、56mlを添加した。室温に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層を氷水100mlにあけ、クロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−3(黄色固体)1.5g(収率46%)を得た。
【0076】
化合物a−5の合成
50ml三ツ口フラスコに、窒素雰囲気中、化合物a−3、1.5g(3.2mmol)及び酢酸20mlを入れ、室温で攪拌下、濃塩酸、3mlを添加した。100度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層を氷水100mlにあけトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−5(黄色固体)1.3g(収率90%)を得た。
【0077】
化合物a−6の合成
100ml三ツ口フラスコに、窒素雰囲気中、化合物a−5、1.2g(2.7mmol)及びTHF50mlを入れ、窒素雰囲気中、氷冷下で攪拌下、a−4(0.5MTHF溶液)、21mlを添加した。室温に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層を氷水100mlにあけ、クロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−6(黄色固体)950mg(収率58%)を得た。
【0078】
例示化合物B−1の合成
50ml三ツ口フラスコに、窒素雰囲気中、化合物a−6、950mg(1.57mmol)及び酢酸10mlを入れ、室温で攪拌下、濃塩酸、2mlを添加した。100度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層を氷水100mlにあけトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物B−1(白色固体)730mg(収率79%)を得た。
質量分析法により、例示化合物B−1のM+である586を確認した。
【0079】
また、HNMR測定により、例示化合物B−1の構造を確認した。
H NMR(CDCl,400MHz)σ(ppm):7.98−7.94(m,4H),7.61(d,1H),7.57(d,1H),7.46−7.42(m,4H),7.31−7.15(m,11H),6.88(s,1H),6.80‐6.77(m,2H),6.43‐6.40(m,2H)
【0080】
以下の化合物についてトルエン希薄溶液中でのT1を測定した。
例示化合物B−1のT1の測定値は434nmであった。
尚、T1の測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を77Kに冷却し、励起波長350nmにて燐光発光スペクトルを測定し、第一発光ピークをT1として用いた。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0081】
(実施例2)
[例示化合物C−1の合成]
実施例1と同様にして、ジベンゾチオフェンをジベンゾフランに変えて、例示化合物C−1を合成した。
質量分析法により、例示化合物C−1のM+である570を確認した。
【0082】
(実施例3)
[例示化合物D−2の合成]
実施例1と同様にして、ジベンゾチオフェンを9,9−ジメチル−9H−フルオレンに変えて、例示化合物C−1を合成した。
質量分析法により、例示化合物C−1のM+である596を確認した。
【0083】
(実施例4)
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。正孔注入層(40nm) b−1
正孔輸送層(10nm) b−2
発光層(30nm) ホストB−1、ゲスト:b−3 (重量比 10%)
正孔・エキシトンブロッキング層(10nm) b−4
電子輸送層(30nm) b−5
金属電極層1(1nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0084】
【化12】

【0085】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、印加電圧をかけた。電圧は5.2V時の発光輝度が2005cd/m、電流密度3.7mA/cm、発光効率は27.5cd/Aで、CIE色度座標(0.21,0.48)の青発光が観測された。
【0086】
(実施例5)
実施例4において、発光層ホストB−1をC−1に変えた他は同様にして、有機発光素子を作成した。
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、印加電圧をかけた。電圧は5.2V時の発光輝度が2012cd/m、電流密度3.6mA/cm、発光効率は26.6cd/Aで、CIE色度座標(0.21,0.46)の青発光が観測された。
【0087】
(実施例6)
[例示化合物D−7の合成]
実施例1と同様にして、ジベンゾチオフェンを2−ターシャルブチル−9,9−ジメチル−9H−フルオレンに変えて、例示化合物D−7を合成した。
質量分析法により、例示化合物D−7のM+である652を確認した。
【符号の説明】
【0088】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするスピロ化合物。
【化1】


[1]
一般式[1]において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれ、それぞれ同じでも異なっていても良い。Xは硫黄原子、酸素原子または炭素原子のいずれかである。また、Xが炭素原子の場合、Xは炭素数1以上4以下のアルキル基を1つまたは2つ有してもよく、2つの場合、Xが有する前記炭素数1以上4以下のアルキル基はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【請求項2】
前記一般式[1]において、Xが硫黄原子または酸素原子であることを特徴とする請求項1に記載のスピロ化合物。
【請求項3】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された有機化合物層とを有し、前記有機化合物層は請求項1または2のいずれかに記載のスピロ化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層はホスト材料とゲスト材料とを有する発光層であり、前記ホスト材料が前記スピロ化合物であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記ゲスト材料は燐光を発光する化合物であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素を有し、前記画素は、請求項4乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有する表示装置。
【請求項7】
画像を表示するための表示部と画像情報を前記表示部へ入力するための入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至5のいずれかに記載の有機発光素子と前記有機発光素子と接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする画像入力装置。
【請求項8】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子とコンバータを有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229195(P2012−229195A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14365(P2012−14365)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】