説明

新規スピロ構造化合物とその製造法

【課題】
新規スピロ構造化合物とその製造法の提供。
【解決手段】
下記式(1)
【化1】




(式中、R01およびR02は互いに同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。n01およびn02は同一または異なって1または2である。)
で表される含スピロ構造イミダゾリウム化合物と、塩基性条件下マレイン酸ジエステルと2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールを出発物質とするその簡便な製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピロ構造を有する新規イミダゾリウム化合物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
第4級アンモニウム塩は有機合成における相関移動触媒として重要な化合物であり、特に近年では、光学活性な第4級アンモニウム塩を用いた不斉合成の開発が注目されている。
このような背景から、不斉中心を有するこれまでにない新しい第4級アンモニウム塩を開発し、その製造法を確立することが急務となっている。
これに関し本発明者等は近年、スピロ骨格を有するピリジニウム塩およびキノリニウム塩の開発に成功している(非特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】笹井等著 ヘテロサイクルス(Heterocycles)61巻,p581−586(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これら不斉相間移動触媒には反応目的に応じた、種々多様性が要求されるところ、スピロ骨格を有するイミダゾリウム化合物に関しては、その合成例も、またその化合物の化学および物理的特性に基づく有用性ついても報告例がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、新たにスピロ骨格を有するイミダゾリウム化合物を開発し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記式(1)
【化1】


(式中、R01およびR02は互いに同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。n01およびn02は同一または異なって1または2である。)
で表される含スピロ構造イミダゾリウム化合物に関する。
【0007】
また、本発明は、上記含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)の製造法に関する。
具体的には、
1.下記式(2)
【化2】


(式中、Rは同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化3】


(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。nは1または2である。Xはハロゲン原子またはスルホニルオキシ基を表す。)
で表される1種類または2種類の2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールを、塩基性条件下で縮合することにより、下記式(4)
【化4】


(式中、R01、R02、R、n01、n02は前記と同じである。R01およびR02は互いに同一でも異なる基でもよく、n01およびn02も同一でも異なる数でもよい。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルを得る第一の工程、
2.次いで、該2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルのエステル部分を還元することにより、相当する下記式(5)
【化5】


(式中、R01、R02、n01、n02は前記と同じである。R01およびR02は互いに同一でも異なる基でもよく、n01およびn02も同一でも異なる数でもよい。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)−1,3-プロパンジオールに変換する第二の工程、
3.次いで、ハロゲン化試薬の存在下、分子内環化反応を行う第3の工程、
からなることを特徴とする、下記、含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)の製造法に関する。
【化6】


(式中、R01、R02、n01、n02は前記と同じである。R01およびR02は互いに同一でも異なる基でもよく、n01およびn02も同一でも異なる数でもよい。)
【0008】
更に、本発明は、
1.下記式(2)
【化7】


(式中、Rは同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3-1)
【化8】


(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。nは1または2である。Xはハロゲン原子またはスルホニルオキシ基を表す。)
で表される2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールを塩基性条件下で縮合させ、下記式(6)で表される2-(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルを得、
【化9】


(R、R、nは前記と同じ。)
その後、式(3-1)とは異なる下記式(3-2)
【化10】


(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。nは1または2である。Xは前記と同じ。但し、式(3-1)とは異なる化合物である。)
で表される2-置換-1-アル
キル-1H-イミダゾールを塩基性条件下で縮合することにより、下記式(4’)
【化11】


(式中、R〜R、nおよびnは前記と同じ。但し、RとR、またはnとnは同じでない。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルを得る工程からなる第一の工程、
2.次いで、化学式(4’)中、ジエステル部分を還元することにより相当する下記式(5’)
【化12】


(式中、R、R、n、nは前記と同じ。但し、RとR、またはnとnは同じでない。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)−1,3-プロパンジオールに変換する第二の工程、
3.次いで、ハロゲン化試薬の存在下、分子内環化反応を行う第3の工程からなることを特徴とする、含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1’)の製造法に関する。
【化13】


(式中、R、R、n、nは前記と同じである。但し、RとR、またはnとnは同じでない。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的簡便な方法で含スピロ構造イミダゾリウム化合物を製造することができ、得られる該化合物の塩はそれ自体イオン性液体として機能する。また、該化合物をキラル分割することで不斉合成触媒として機能し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の目的物である、上記式(1)で表される含スピロ構造イミダゾリウム化合物のR01、R02は同一または異なってもよい炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基であり、該アルキル基は直鎖であっても分枝鎖を有していてもよい。
01およびR02の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、およびtert−ブチル基、ヘキシル基、アリル基が挙げられる。
また、n01およびn02は同一または異なって1または2を表す。n01およびn02が共に1の場合が好ましい。
【0011】
本発明の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)は、マロン酸ジエステル(2)と2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾール(3)から3段階を経て製造することができる。以下にその詳細を示す。
【0012】
第1段階目は、塩基存在下、マロン酸ジエステル(2)と2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾール(3)を縮合させて2,2−ビス(1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステル(4)を得る反応である。
【0013】
原料のマロン酸ジエステル(2)に対して特に制限はなく、一般にマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジtert-ブチル、およびマロン酸ジベンジルなどが挙げられる。マロン酸ジエチルが好ましい。
【0014】
2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾール(3)は、市販品のN-置換イミダゾールまたは入手が困難である場合は窒素原子をR01またはR02に置換したものを原料として用い、n01=n02=1の場合、イミダゾールの2位炭素上のホルミル化、ホルミル基のヒドロキシメチル基への還元、さらに水酸基を置換基Xに変換することによって得ることができるが、この製法に限らない。マロン酸ジエステル(2)に対して0.5〜3当量が適量である。
【0015】
置換基Xはハロゲン原子またはスルホニルオキシ基を表す。ハロゲン原子の具体例としては塩素、臭素、よう素などが、またスルホニルオキシ基の具体例としてはメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基、およびm−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基などが挙げられるがこれに限らない。
【0016】
使用する塩基としては水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、または炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩などが挙げられるが、好ましくはアルカリ金属の水素化物であり、さらに好ましくは水素化ナトリウムである。塩基の使用量はマロン酸ジエステル(2)に対して1〜4当量が適量である。
【0017】
使用できる溶媒としては、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)やジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性極性溶媒、アセトンや2−ブタノンなどのケトン類、またはメタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒が挙げられるが、エーテル系溶媒または非プロトン性極性溶媒が好ましく、さらに好ましくはTHFである。使用量はマロン酸エステル(3)に対して2〜100倍(w/w)が適量である。
【0018】
01、R02が互いに異なる含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1’)が所望である場合、まずマロン酸ジエステル(2)とほぼ当量の2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾール(3-1)を反応させて2-(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステル(6)を得、さらに別の置換基を有する2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾール(3-2)を反応させることにより高収率で得ることができる。
なお、本発明では、R01とR02が異なる基であることを明確にする意味で、それぞれRとRと表現している。
【0019】
第2段階目は、2,2−ビス (1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステル(4、4’)の2つのエステルを還元することにより相当する2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)−1,3-プロパンジオール(5、5’)を得る反応である。用いる還元剤としては、エステル以外の部分が反応しないものであれば制限はなく、例えば水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ほう素リチウム、水素化ほう素ナトリウム、およびボラン-ジメチルスルフィド錯体などが挙げられるが、水素化リチウムアルミニウムが好ましい。当該ジエステル(4、4’)に対して1〜6当量が適量である。
【0020】
第3段階目は、ハロゲン化試薬の存在下、2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)−1,3-プロパンジオール(5、5’)を目的の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)に変換する反応である。
【0021】
この反応は、まずプロパンジオール誘導体(5、5’)の2つの水酸基をハロゲン化試薬により脱離性置換基であるハロゲン原子に置換し、続いて分子内の2つのイミダゾール環中にある置換基R01(R)、R02(R)で置換されていないほうの窒素原子が、ハロゲン原子に結合している2つの炭素原子にそれぞれ求核置換することによって分子内環化し、目的の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)を生成するという、2段階から成り立つ。この一連の反応は、1段階目に生成するハロゲン化体を単離することなく分子内環化する、いわゆるワンポット法で進行する。
【0022】
第3段階目で用いるハロゲン化試薬としては、水酸基以外の部分が反応しないものであれば制限はなく、例えば塩化チオニル、四塩化炭素−トリフェニルホスフィン、N−クロロコハク酸イミド−トリフェニルホスフィンなどの塩素化試薬、三臭化リン、臭素−トリフェニルホスフィン、四臭化炭素−トリフェニルホスフィン、N−ブロモコハク酸イミド−トリフェニルホスフィン、臭化トリメチルシランなどの臭素化試薬、およびよう素−トリフェニルホスフィン−イミダゾール、よう化メチル−トリフェニルホスファイト、よう化トリメチルシランなどのよう素化試薬が挙げられるが臭素化試薬が好ましく、特に三臭化リンが好ましい。当該プロパンジオール誘導体(5、5’)に対して1〜5当量が適量である。
【0023】
使用する溶媒としては、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンやヘプタンなどの脂肪族炭化水素、あるいはジエチルエーテルやTHFなどのエーテル類が挙げられるが、炭化水素系溶媒が好ましい。使用量はプロパンジオール誘導体(5、5’)に対して2〜100倍(w/w)が適量である。
【0024】
本発明である含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)は、様々な対アニオン(Y)との塩を構成することが可能であり、その種類によって融点が変化する。対アニオンの置換方法としては、所望の対アニオンのリチウム塩や銀塩などの金属塩存在下、アルコール溶媒中で攪拌する方法などが挙げられるがこれに限られない。対アニオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、よう素イオンなどのハロゲンイオン、四フッ化ほう素イオン、六フッ化リンイオン、トリフルオロメタンスルホニルオキシイオン、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドイオンなどの含フッ素化合物イオンなどが挙げられるがこれに限られない。
【0025】
本発明である含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)は、置換基R01(R)、R02(R)、および対アニオンの種類の組み合わせによりイオン性液体として得ることができる。イオン性液体が所望である場合、含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)の置換基R01(R)をプロピル基、置換基R02(R)をイソプロピル基とし、対アニオンをビストリフルオロメタンスルホニルイミドにすることにより得ることができるが、この組み合わせに限らない。
【0026】
本発明である含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)は、軸不斉を有することからその光学活性体が存在する。該イミダゾリウム化合物(1、1’)の光学活性体は、光学活性カラムを使用した高速液体クロマトグラフィーを用いたラセミ体の分割により得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例]
2-クロロメチル-1-プロピル-1H-イミダゾール塩酸塩
反応容器にn-プロピルイミダゾール=3.95g(0.035mol)およびTHF=100mLを仕込み、−44℃に冷却した。この溶液にn−ブチルリチウム=2.51g(0.039mol)を30分かけてゆっくり滴下した後、1時間攪拌した。得られた混合溶液にDMF=2.87g(0.039mol)をゆっくり滴下した後、室温下でさらに16時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えることにより反応を停止し、ジクロロメタンで抽出(75mL×3)した。得られた有機層を水、食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(溶媒:メタノール/ジクロロメタン)を用いて精製することにより1-プロピル-1H-イミダゾール-2-カルバルデヒドを収率71%で得た。
【0028】
次いで反応容器にプロピル-1H-イミダゾール-2-カルバルデヒド=3.50g(0.072mol)およびTHF=100mLを仕込み、0℃に冷却した。この溶液に水素化リチウムアルミニウム=0.329g(0.086mol)を加えた後、室温下で1時間攪拌した。得られた混合溶液を再び0℃に冷却し、飽和硫酸ナトリウム水溶液を沈殿が発生するまでするまで加えることにより反応を停止した。酢酸エチルを加えて得られた上澄み液をろ過し、さらにろ取物をジクロロエタンで洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し溶媒を留去することによって1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イル)メタノールを定量的に得た。
【0029】
反応容器に塩化チオニル=8.15g(0.068mol)および乾燥クロロホルム=20mL)を仕込み、乾燥下で0℃に冷却した。この溶液に1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イル)メタノール=3.20g(0.023mol)の乾燥クロロホルム溶液(50mL)を添加した後、室温下で16時間攪拌し、さらに40〜45℃で1時間攪拌した。溶媒を留去し、さらに真空乾燥することにより表題化合物を定量的に得た。なお、この表題化合物は水分により分解しやすい。
【0030】
[実施例1]
2-(1-イソプロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)-2-(1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)マロン酸ジエチル
反応容器にマロン酸ジエチル=2.46g(0.015mol)および乾燥THF=100mLを仕込み、0℃に冷却した。この溶液に水素化ナトリウム(60%)=0.615g(0.015mol)およびよう化ナトリウム=1.50g(0.010mol)を順次加えた。これに2-クロロメチル-1-プロピル-1H-イミダゾール塩酸塩=2.00g(0.010mol)をゆっくり滴下し、さらに水素化ナトリウム(60%)=0.451g(0.011mol)を加えた後、室温下で36時間攪拌した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、クラッシュアイス中に注ぐことにより反応を停止した。1N塩酸水溶液を用いて中和した後、ジクロロメタンで抽出(75mL×3)した。得られた有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン)を用いて精製することにより2-(1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)マロン酸ジエチルを収率57%で得た。
【0031】
反応容器に2-(1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)マロン酸ジエチル=0.960g(0.0034mol)および乾燥THF=100mLを仕込み、0℃に冷却した。この溶液に水素化ナトリウム(60%)=0.412g(0.010mol)を加え、室温下で1時間攪拌した。この溶液を再び0℃に冷却し、よう化ナトリウム=0.614g(0.041mol)および2-クロロメチル-1-イソプロピル-1H-イミダゾール塩酸塩=0.804g(0.0041mol)を順次加えた後、室温下で36時間攪拌した。得られた混合溶液をクラッシュアイス中に注ぐことによって反応を停止した。1N塩酸水溶液を用いて中和した後、ジクロロメタンで抽出(75mL×3)した。得られた有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(溶媒:メタノール/ジクロロメタン)を用いて精製することにより表題化合物を収率65%で得た。
【0032】
2-(1-イソプロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)-2-(1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)プロパン-1,3-ジオール
反応容器に2-(1-イソプロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)-2-(1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)マロン酸ジエチル=0.90g(0.002mol)およびTHF=50mLを仕込み、0℃に冷却した。この溶液に水素化リチウムアルミニウム=0.371g(0.0098mol)を加えた後、室温下で1時間攪拌した。得られた混合溶液を再び0℃に冷却し、飽和硫酸ナトリウム水溶液を沈殿が発生するまでするまで加えることにより反応を停止した。酢酸エチルを加えて得られた上澄み液をろ過し、さらにろ取物をジクロロエタンで洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し溶媒を留去することによって表題化合物を定量的に得た。
【0033】
1-イソプロピル-1,5,6,7-テトラヒドロ-ピロロ[1,2-a]イミダゾール-6-スピロ-6’-1’-プロピル-1’,5’,6’,7’-テトラヒドロ-ピロロ[1’,2’-a]イミダゾリウム ジブロミド
反応容器に2-(1-イソプロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)-2-(1-プロピル-1H-イミダゾール-2-イルメチル)プロパン-1,3-ジオール=0.50g(0.0015mol)およびトルエン=30mLを仕込み、0℃に冷却した。この溶液に三臭化リン=2mLをゆっくり滴下した後、還留下で48時間攪拌した。デカンテーションにより溶媒を取り除き、得られた赤色沈殿物をトルエン洗浄(2mL×3)した後、ジクロロメタンで抽出(50mL×3)した。有機層を水、食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去することにより表題化合物を収率33%で得た。赤色高粘性油状物。
【0034】
1-イソプロピル-1,5,6,7-テトラヒドロ-ピロロ[1,2-a]イミダゾール-6-スピロ-6’-1’-プロピル-1’,5’,6’,7’-テトラヒドロ-ピロロ[1’,2’-a’]イミダゾリウム ジ(ビストリフルオロメタンスルホニルイミド)
反応容器に1-イソプロピル-1,5,6,7-テトラヒドロ-ピロロ[1,2-a]イミダゾール-6-スピロ-6’-1’-プロピル-1’,5’,6’,7’-テトラヒドロ-ピロロ[1’,2’-a’]イミダゾリウム ジブロミド=41mg(0.091mmol)および水を仕込み、これにリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド=58mg(0.20mmol)を加えた後、室温下で16時間攪拌した。デカンテーションにより水を取り除き、得られた赤色高粘性油状物に水を加え、攪拌しながら十分に洗浄した。油状物をメタノールに溶解させてからろ過を行い、得られたろ液から溶媒を留去した後、65℃で4時間かけて真空乾燥することにより表題化合物の無水物を定量的に得た。得られた表題化合物は室温下で液体であった。
1H NMR (CD3OD, 270 MHz) δ 0.97 (t, J = 7.4 Hz,
3H), 1.55 (d, J = 6.8 Hz, 6H), 1.83-1.97 (m, 2H), 3.65 (d, J =
8.1 Hz, 4H), 4.09 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 4.19-4.64 (m, 1H + 4H), 7.46 (d, J
= 2.2 Hz, 1H), 7.52 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 7.60 (d, J = 1.9 Hz,
1H), 7.69 (d, J = 2.2 Hz, 1H)
13C NMR (CD3OD, 68 MHz) δ 11.0, 22.4, 22.5, 23.9, 37.1,
37.3, 51.8, 54.1, 57.4, 59.1, 59.5, 118.6, 119.4, 119.6, 123.3, 124.5, 127.2,
149.7, 150.7
MS : m/z 566 [M - N(CF3SO2)2]
【0035】
[実施例2〜7]
上記方法と同様な操作により得られたイミダゾリウム化合物(1)について、置換基(R、R)および対アニオン(2Y)を変えたときの融点を表1に示す。
【化14】

【0036】
参考までに実施例5の化合物を示す。
【化15】

【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の化合物であるイミダゾリウム化合物は、堅固なスピロ骨格由来の軸不斉を有しているため、不斉反応場として有効にはたらく。また、イオン性液体の性質を合わせ持つことから、不斉合成の触媒のみならず、光学活性溶剤や光学活性化合物の選択的イオン輸送体、あるいはイオン性液体型液晶など、新しい機能材料としての利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例5の化合物(X−=(CFSO)N、R01=R02=Me)のX線結晶構造解析によるORTEP図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】


(式中、R01およびR02は互いに同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。n01およびn02は同一または異なって1または2である。)
で表される含スピロ構造イミダゾリウム化合物。
【請求項2】
1.下記式(2)
【化2】


(式中、Rは同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化3】


(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。nは1または2である。Xはハロゲン原子またはスルホニルオキシ基を表す。)
で表される1種類または2種類の2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールを、塩基性条件下で縮合することにより、下記式(4)
【化4】


(式中、R01、R02、R、n01、n02は前記と同じである。R01およびR02は互いに同一でも異なる基でもよく、n01およびn02も同一でも異なる数でもよい。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルを得る第一の工程、
2.次いで、該2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルのエステル部分を還元することにより、相当する下記式(5)
【化5】


(式中、R01、R02、n01、n02は前記と同じである。R01およびR02は互いに同一でも異なる基でもよく、n01およびn02も同一でも異なる数でもよい。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)−1,3-プロパンジオールに変換する第二の工程、
3.次いで、ハロゲン化試薬の存在下、分子内環化反応を行う第3の工程、
からなることを特徴とする、下記、含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)の製造法。
【化6】


(式中、R01、R02、n01、n02は前記と同じである。R01およびR02は互いに同一でも異なる基でもよく、n01およびn02も同一でも異なる数でもよい。)
【請求項3】
1.下記式(2)
【化7】


(式中、Rは同一または異なる炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3-1)
【化8】


(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。nは1または2である。Xはハロゲン原子またはスルホニルオキシ基を表す。)
で表される2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールを塩基性条件下で縮合させ、下記式(6)で表される2-(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルを得、
【化9】


(R、R、nは前記と同じ。)
その後、式(3-1)とは異なる下記式(3-2)
【化10】


(式中、R、炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基を表す。nは1または2である。但し、式(3-1)とは異なる化合物である。)
で表される2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールを塩基性条件下で縮合することにより、下記式(4’)
【化11】


(式中、R〜R、nおよびnは前記と同じ。但し、RとRまたはnとnは同じでない。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)マロン酸ジエステルを得る工程からなる第一の工程、
2.次いで、化学式(4’)中、ジエステル部分を還元することにより相当する下記式(5’)
【化12】


(式中、R、R、n、nは前記と同じ。但し、RとRまたはnとnは同じでない。)
で表される2,2−ビス(1-アルキル-1H-イミダゾール-2-イルアルキル)−1,3-プロパンジオールに変換する第二の工程、
3.次いで、ハロゲン化試薬の存在下、分子内環化反応を行う第3の工程からなることを特徴とする、含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1’)の製造法。
【化13】


(式中、R、R、n、nは前記と同じである。但し、RとR、またはnとnは同じでない。)
【請求項4】
2-置換-1-アルキル-1H-イミダゾールのXがハロゲン原子である請求項2または3に記載の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)の製造法。
【請求項5】
ハロゲン化試薬が三臭化リンである請求項2〜4に記載の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1、1’)の製造法。
【請求項6】
01およびR02が同一または異なって、メチル基、エチル基、プロピル基、またはイソプロピル基から選択されるいずれかの基である請求項1に記載の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)。
【請求項7】
01およびn02が共に1である請求項1に記載の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)。
【請求項8】
請求項1、6または7記載の含スピロ構造イミダゾリウム化合物(1)と、その対アニオンとしてビストリフルオロメタンスルホニルイミドの組合せからなるイオン性液体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−76887(P2006−76887A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259127(P2004−259127)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】