説明

新規ダニアレルゲンおよびその利用

【課題】新規ダニアレルゲンを提供する。
【解決手段】新規ダニアレルゲンは、以下の(a)または(b)のタンパク質である:(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質;(b)特定のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、アレルゲン活性を有するタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニ(Dermatophagoides farinae等)に由来する新規なアレルゲンタンパク質、および当該アレルゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びに当該アレルゲンタンパク質が含まれるダニアレルギー性疾患の予防または治療薬をはじめとする当該ダニアレルゲンタンパク質の代表的な利用例に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や科学技術などの目覚しい発達、住居や食生活などの生活環境の変化により様々な疾患の原因メカニズムが解明され、その治療法や予防法などが開発されつつあるが、その一方で対価としていくつもの新たな疾患が生まれている。現在日本人の約30%が罹患していることが報告されているアレルギー疾患はその象徴ともいえる。その罹患率は日本のみならず世界中で年々増加しており、社会問題化している。I〜IV型の4つに大別されるアレルギー疾患の中でもI型と呼ばれる即時型のアレルギー患者が極めて増加している。アレルギー患者の増加についてはいくつかの仮説があるが、その中でも1989年イギリスのStrachan によって提唱された「衛生仮説」が有力であるとされている。科学の発展に伴って人々の生活は豊かになり、衛生レベルが飛躍的に向上した。それと同時に除菌ブームも重なり、日常生活において一昔前までは当然のように接触していた多くの病原菌や細菌などの数が減少し、それ故それまで病原菌やウイルスに対して作用するTh1に傾倒していたThバランスが崩れTh2に傾くようになった。実際にアレルギー疾患の患者数は発展途上国よりも先進国のほうが多いという報告もある。
【0003】
しかし、アレルギーのメカニズムは未だ全容解明には至っておらず、それ故明確な根治療法も確立していない。現状では主にステロイド剤、抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤などの外用薬による対症療法が行われている。しかしこの療法では各種アレルギー疾患の症状を和らげるだけにとどまり、完治することはない。そのため薬剤の永続的な投与が欠かせず、患者には肉体的かつ経済的に大きな負担が伴う。また、薬剤の様々な副作用も懸念されている。
【0004】
対症療法に代替する治療法として免疫療法(減感作治療法)が開発されている。患者が感作している抗原を体内に注入することにより、制御性T細胞(Treg)による免疫寛容を人工的に誘導する治療法である。免疫寛容とは抗原特異的に免疫応答が失われている状態を指す。抗原の注入により、Tregが誘導され、産生されるIL−10やTGF−βなどの抑制因子の作用により抗原特異的なTh2細胞の分化が抑制される。それに伴い、IL−4やIL−5、IL−3などのサイトカイン産生が抑制され、その結果としてIgE抗体産生も抑制される。また、IgE抗体と競合的にアレルゲンと結合するIgG遮断抗体の産生も免疫療法の作用機序の一つとして考えられている。現在の免疫療法では、アレルゲンの由来生物種の粗抽出物が抗原として患者に投与されているが、この方法では患者個々で感作するアレルゲンが異なることなどに起因するいくつかの副作用が懸念されている。つまりアレルゲンの由来生物種の粗抽出物(粗抗原)には、患者個々が感作している抗原タンパク質の他にもアレルゲンが含まれている。そのため、免疫療法によって新たな抗原に感作してしまうと言うこともある。また、死に至ることもある重篤なアナフィラキシーショックも引き起こしかねない。
【0005】
適切かつ効果的、安全な診断や治療法を確立するためにはアレルゲン情報を集積することが必須となるが、現状ではすべてのアレルゲンやそのエピトープを同定するには至っておらず、診断や免疫療法の確立にはこれらの全容解明が不可欠である。
【0006】
ところで、アトピー性皮膚炎や喘息など重篤なアレルギー疾患の主要因子として注目を浴びているのが屋内塵性ダニ(Dermatophagoides farinae、Dermatophagoides. pteronyssinus)である(非特許文献1を参照のこと)。これらのダニは居住空間に偏在しており、生活者は日常生活において慢性的にダニアレルゲンに暴露されることになるため、当該ダニアレルゲンの吸入を回避することは極めて困難である。また、ダニアレルゲンはヒトのみならず、ペットとして飼育されているイヌに対してもアトピー性皮膚炎などを引き起こす主な要因となっている。D. Pteronyssinusは乾燥を好むため、欧米を中心に広く分布している。一方、D. farinaeは高温多湿を好み、雨季が存在する日本を始め、アジアを中心に優位に生息している。これら2種は感作する患者が世界中で多く見られるため2大ダニアレルギー源として注目され、本発明者らを始めとする日本やアメリカ、シンガポールなどで、アレルゲンの分子クローニングや免疫化学的特性の解析などの研究が盛んに行われている(例えば非特許文献2および3を参照のこと)。
【0007】
1990年、DilworthらによってDer f 1のcDNAが単離された(非特許文献4を参照のこと)。患者反応頻度が高く、D. farinae由来の最重要アレルゲンとも言えるDer f 2は1985年にHaidaらによって初めて単離され(非特許文献5を参照のこと)、1986年にYasuedaらによりそのcDNAが単離された(非特許文献6を参照のこと)。これら2つのアレルゲンは主要ダニアレルゲンとして免疫化学的特性やIgEエピトープなど詳細な解析が行われている。
【0008】
また、本発明者らも、免疫スクリーニングを用いてDer f 6(非特許文献7を参照のこと)やDer f 10(非特許文献8を参照のこと)などを同定した。現在までに合計22個のD.farinae由来タンパク質がアレルゲンとしてAllergen nomenclature(http://www.allergen.org/Allergen.aspx)に登録されている。しかし、既知のダニアレルゲンの他にも主要な抗原は、数多く存在することが予想された。
【0009】
上述のとおり、効果的な特異的免疫療法を施行するためには分子種情報の集積が必須となるため、アレルゲン分子種の全容解明は急務である。アレルゲン分子種の網羅的解析を進めるべく、プロテオーム解析とアレルゲン解析とを融合したアレルゲンマッピング法が考案された。この方法はアレルゲン分子種の網羅的解析に適した手法の一つであり、アレルゲン(allergen)解析とプロテオーム(proteome)解析とを融合して、アレルゲノーム(allergenome)解析と呼ばれている。
【0010】
本発明者らはこれまでにダニアレルギー患者血清(40検体)を用いたD. farinae虫体抽出物(Dfb)の二次元免疫染色を行い、ダニアレルギー患者血清IgE抗体に対する陽性スポット113個を見出した。個々のダニアレルギー患者の血清を用いた二次元電気泳動においては、46±27個(最大100個、最小2個)のスポットが見出された。これらのスポットの中には、既知アレルゲン成分であるDer f 1、Der f 2、Der f 7、Der f 10などが含まれていた。また、Der f 2と同等の反応頻度を持ち、グループ2アレルゲンに分類される新規アレルゲンDFA22が同定された(特許文献1を参照のこと)。さらにイヌに対するアレルゲンであるDFA39も同定され、詳細な免疫化学的特性の解析が発明者らによって行われた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Beckmann P. et al. Mite allergen. Clin. Allergy Immunol.(2008)21: 161-82.
【非特許文献2】Kawamoto S. et al. Toward Elucidating the Full Spectrum of Mite Allergens-State of the Art. Journal of Bioscience and Bioengineering(2002)Vol.94: No.4: 285-235
【非特許文献3】Joelle L. et al. Mapping of Dermatophagoides farinae mite allergens by two-dimensional immunoblotting. J. Allergy Clin Immunol(1998)631-636
【非特許文献4】Dilworth RJ. et al. Sequence analysis of cDNA clone coding for a major house dust mite allergen Der f I. Clin Exp Allergy(1991)21: 25-32.
【非特許文献5】Haida M. et al. Allergens of the house dust mite Dermatophagoides farinae -immunochemical studies of four allergenic fractions. J. Allergy Clin. Immunol.(1985)75(5): 753-61
【非特許文献6】Yasueda H. et al. Comparative analysis of physicochemical and immunochemical properties of the two major allergens from Dermatophagoides pteronyssinus and the corresponding allergens from Dermatophagoides farinae. Int. Arch. Allergy Appl. Immunol.(1989)88(4): 402-407
【非特許文献7】Kawamoto S. et al. Cloning and expression of Der f 6, a serine protease allergen from the house dust mite, Dermatophaogides farinae. Biochimica et Biophysica Acta(1999)201-207
【非特許文献8】Aki T. et al. Immunochemical characterization of recombinant and native tropomyosins as a new allergen from the house dust mite, Dermatophagoides farinae. J. Allergy Clin. Immunol.(1995)96(1): 74-83.
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−35790号公報(公開日:平成20(2008)年2月21日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これまで同定されたダニアレルゲンタンパク質以外の未知のアレルゲンタンパク質に対して反応する患者も存在することが知られており、このような患者の場合、これまでに同定されたダニアレルゲンタンパク質のみを用いた減感作療法では十分な効果を得ることができない場合があった。よって、これまでに同定されていない新規ダニアレルゲンタンパク質を取得することが求められている。
【0014】
そこで本発明は、かかる問題点を解決するためには、これまでに単離されていない新規ダニアレルゲンタンパク質を取得し提供することを目的とした。さらに本発明は、新規ダニアレルゲンタンパク質を含むダニアレルギー性疾患の予防または治療薬等の当該ダニアレルゲンタンパク質の代表的な利用例を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae(「D. farinae」ともいう))抽出物の二次元免疫染色解析を行った結果、67.5%または62.5%のダニアレルギー患者の血清中IgE抗体と高頻度に反応し得る2つのスポットを見出すことに成功した。そして、当該2つのスポットから見出されたタンパク質を質量分析によって解析した結果、これらは互いにアイソフォーム(isoform)であることが示唆された。また、得られたアミノ酸配列をD. farinaeのTotal cDNA libraryのSequence TagをデータベースとしたBLAST検索にかけたところ、その配列はThioredoxin Peroxidase(Peroxiredoxin)という酵素と高い相同性を有していることが明らかになった。
【0016】
Peroxiredoxin(「Prx」と略記する)ファミリータンパク質はバクテリアから動物、ヒトまで全ての生物種で発見されている(Tomohiro Matsumura et al. Dimer-Oligomer Interconversion of Wild-type and Mutant Rat 2-Cys Peroxiredoxin;J. Biol. Chem.(2007)Vol. 283, Issue 1, 284-293)。哺乳動物のPrxの6つのisotypeの中で、4つ(PrxI〜IV)は配列中に2つの保存されたシステイン残基、Cys52とCys173(番号はPrxIのものである)を含み、それらは2−Cys Prxと呼ばれる。Prxは酸化的ストレスに対する防衛システムに関わるだけでなく、転写やアポトーシス、細胞性シグナル伝達のような重要な細胞プロセスの制御にも関わっている。Prxは電子供与体として還元型Thioredoxin(Trx)と共役することによってペルオキシダーゼ活性を示すことが知られている。過去の研究で小麦やトウモロコシのTrxがアレルゲン活性を持っていることが報告されている(Michael Weichel et al. Wheat and maize thioredoxins: A novel cross-reactive cereal allergen family related to baker’s asthma; J. Allergy Clin. Immunol.(2006)117: 676-81.)。しかし、Prxがアレルゲン活性として報告されたことはなく、本発明者らが今回見出したタンパク質は新規アレルゲンであると考えられた。
【0017】
すなわち本発明にかかるタンパク質は、以下の(a)または(b)のタンパク質である:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、アレルゲン活性を有するタンパク質。
【0018】
また本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記本発明にかかるタンパク質をコードすることを特徴としている。
【0019】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、下記の(c)または(d)であることを特徴としている:
(c)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(i)または(ii)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(ii)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0020】
また本発明にかかるベクターは、上記本発明にかかるポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
【0021】
また本発明にかかる形質転換体は、上記本発明にかかるベクターで形質転換されてなる形質転換体である。
【0022】
また本発明にかかる抗体は、上記本発明にかかるタンパク質に特異的に結合する抗体である。
【0023】
また本発明にかかるダニアレルギー性疾患治療薬は、上記本発明にかかるタンパク質を含有することを特徴としている。
【0024】
また本発明にかかるダニアレルギー性疾患の診断キットは、上記本発明にかかるタンパク質を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかるタンパク質は、ダニアレルギー患者血清IgEと高頻度に反応する新規アレルゲンタンパク質である。よって上記タンパク質によれば、新規のダニアレルギー性疾患の治療薬、予防薬および診断薬を提供することができる。
【0026】
また本発明にかかるポリヌクレオチド、ベクター、または形質転換体によれば、上記本発明にかかるタンパク質を、遺伝子工学的手法を用いて大量かつ簡便に生産することができる。
【0027】
また本発明にかかる抗体によれば、抗原抗体反応を利用することによって、上記本発明にかかるタンパク質の検出、および当該タンパク質の分離精製を行うことができる。また上記本発明の抗体を、患者に投与することによって、ダニアレルギー性疾患用の抗体医薬として利用することも可能である。
【0028】
よって本発明は、ダニアレルギー性疾患の治療、予防、診断において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】DFA67の全長塩基配列および推定アミノ酸配列を示す図である。
【図2】DFA67のアミノ酸配列について相同性検索(BLAST検索)を行った結果を示す図である。
【図3】DFA67、およびDFA67と相同性が高かったタンパク質を用いて作成された系統樹である。
【図4】DFA67のisoformの全長塩基配列および推定アミノ酸配列を示す図である。
【図5】DFA67のisoformのアミノ酸配列について相同性検索(BLAST検索)を行った結果を示す図である。
【図6】DFA67のisoform、およびDFA67のisoformと相同性が高かったタンパク質を用いて作成された系統樹である。
【図7】rDFA67を発現させた大腸菌の可溶性画分をSDS−PAGEに供した際の電気泳動像であり、(a)は銀染色の結果を示し、(b)はrDFA67(最終精製標品)をダニアレルギー患者血清IgEで免疫染色した結果を示す。
【図8】rDFA67のisoformを発現させた大腸菌の可溶性画分をSDS−PAGEに供した際の電気泳動像であり、(a)は銀染色の結果を示し、(b)はrDFA67のisoform(粗精製標品)をダニアレルギー患者血清IgEで免疫染色した結果を示す。
【図9】Dfbの二次元電気泳動像であり、(a)は銀染色を行った結果を示し、(b)はanti-rDFA67抗血清で免疫染色を行った結果を示し、(c)anti-rDFA67抗血清+anti-Derf2ポリクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示し、(d)はネガティブコントロール(免疫化前の血清)を用いた免疫染色を行った結果を示す。
【図10】Q-TOF型nano ESI MS/MSにより解析を行った結果であり、(a)はnDFA67の結果であり、(b)はrDFA67の結果であり、(c)はrDFA67の3つのMSピークについてMS/MS解析を行って決定したアミノ酸配列とDFA67の塩基配列から推定されるアミノ酸配列とを示す図である。
【図11】DTTを用いたperoxidase活性測定システムで、rDFA67の酵素活性を調べた結果を示す図である。
【図12】ダニに対するRAST値が3〜6の患者29検体、および健常者について血清中のrDFA67特異IgE量をELISA法により測定した結果を示す図である。
【図13】還元状態のrDFA67と非還元状態のrDFA67とを用いて、ダニアレルギー患者血清を用いた免疫染色を行い、IgE反応性を調べた結果を示す図であり、(a)は銀染色の結果を示し、(b)はダニアレルギー患者血清IgEで免疫染色を行った結果を示す。
【図14】還元状態のrDFA67のMSスペクトルである。
【図15】非還元状態のrDFA67のMSスペクトルである。
【図16】(a)は非還元状態のrDFA67のMSピークにおいて観測された分子量から、非還元状態のrDFA67のジスルフィド結合の位置を検討した結果であり、(b)は上記検討の結果から予想される非還元状態のrDFA67の立体構造の模式図である。
【図17】システインをセリンに置換した変異型rDFA67をSDS−PAGEに供した際の電気泳動像であり、(a)は還元状態の変異型rDFA67の銀染色の結果を示し、(b)は還元状態の変異型rDFA67をダニアレルギー患者血清IgEで免疫染色し、(c)は非還元状態の変異型rDFA67の銀染色の結果を示し、(d)は非還元状態の変異型rDFA67をダニアレルギー患者血清IgEで免疫染色した結果を示す。
【図18】Cys 71/76 Ser変異型rDFA67およびCys 52/71/76/172 Ser変異型rDFA67をSDS−PAGEに供した際に観察される低分子量側のサンプルのMSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。
【0031】
(1.本発明にかかるタンパク質)
本発明者らは、ダニに含まれるアレルゲンの網羅的解析を目指して、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)虫体抽出物(適宜「Dfb」と表記する)を2次元電気泳動により展開した後、ウェスタンブロット法によってダニアレルギー患者血清IgEと特異的かつ高頻度に反応するスポットを検索した。その結果、ダニアレルギー患者血清中IgEとの反応頻度が67.5%、62.5%と、主要アレルゲンであるDer f 1やDer f 2などと同様に高い反応頻度を示したSpot66およびSpot67を見出した。これらのスポットを質量分析にかけて得られたアミノ酸配列から、これらは互いにisoformであることが示唆された。
【0032】
また、得られたアミノ酸配列をD. farinaeのTotal cDNA libraryのSequence TagをデータベースとしたBLAST検索にかけたところ、その配列はThioredoxin Peroxidase(Peroxiredoxin)という酵素と高い相同性を有していることが明らかになった。Peroxiredoxin(Prx)ファミリータンパク質はバクテリアから動物、ヒトまで全ての生物種で発見されている(参考文献:Tomohiro Matsumura et al. Dimer-Oligomer Interconversion of Wild-type and Mutant Rat 2-Cys Peroxiredoxin;J. Biol. Chem.(2007)Vol. 283, Issue 1, 284-293,)。哺乳動物のPrxの6つのisotypeの中で、4つ(PrxI〜IV)は配列中に2つの保存されたシステイン残基、Cys52とCys173(アミノ酸の番号はPrxIのものである)を含み、それらは2-Cys Prxと呼ばれる。Prxは酸化的ストレスに対する防衛システムに関わるだけでなく、転写やアポトーシス、細胞性シグナル伝達のような重要な細胞プロセスの制御にも関わっている。Prxは電子供与体として還元型Thioredoxin(Trx)と共役することによってペルオキシダーゼ活性を示すことが知られている。酸化性ストレスの一つであるアレルギーに対する防御システムに関与するPrxに高い相同性を有するタンパク質が、アレルゲン性を有しているということは、非常に興味深いものである。過去の研究で、Prxがアレルゲンとして報告されたことはなく、Spot66(Spot67)のタンパク質は新規アレルゲンであると考えられた。上記スポットから得られたタンパク質を「DFA67」と命名し、さらに解析を行った。本発明の一実施形態は、かかるDFA67に関する。
【0033】
ここで本発明にかかるタンパク質は、以下の(a)または(b)のタンパク質である:(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、アレルゲン活性を有するタンパク質。
【0034】
ここで「アレルゲン活性」とは、肥満細胞上のIgEと結合し、アトピー性の人に即時型アレルギー反応を引き起こす活性のみならず、単に血清中のIgEと結合する活性をも含むものとする。したがって、例えば、あるタンパク質におけるアレルゲン活性の有無は、IgEの結合性を調べればよく、それを調べる方法として、具体的には、ウェスタンブロットやELISA等の公知の方法を挙げることができる。上記IgEの結合性の検討はは、後述する実施例のごとく、ダニアレルギー患者の血清を用いて行うことができる。本明細書において「ダニアレルギー患者」とは、ダニに対するRAST値が3以上の者を意味する。
【0035】
ここで上記「1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されていることを意味する。このような変異タンパク質は、上述したように、公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在する変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0036】
なお、本発明にかかるタンパク質は、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0037】
また、本発明にかかるタンパク質は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、HisやMyc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0038】
また、本発明にかかるタンパク質は、後述する本発明にかかるポリヌクレオチド(すなわち本発明のタンパク質をコードする遺伝子)を宿主細胞に導入して、そのタンパク質を細胞内で発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製された場合であってもよい。
【0039】
他の実施形態において、本発明にかかるタンパク質は、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明のタンパク質の付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、タンパク質のN末端に付加され得る。
【0040】
本発明にかかるタンパク質は、例えば、融合されたタンパク質の精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)にN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、タンパク質の最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、参考文献:Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、参考文献:Wilsonら、Cell 37:767(1984)によって記載されている。
【0041】
また本発明は、上記本発明にかかるタンパク質に含まれるペプチドであって、ダニアレルギー患者由来のT細胞を増殖させる活性を有するペプチドをも包含する。すなわち、上記ペプチドは、本発明のタンパク質の部分断片であって、特にT細胞によって特異的に認識されるエピトープ(以下「T細胞エピトープ」という)を含むものである。上記ペプチドのことを本明細書においては「部分ペプチド」と称する。
【0042】
上記「ダニアレルギー患者由来のT細胞を増殖させる活性」とは、ダニアレルギー性疾患患者(「ダニアレルギー患者」)由来の末梢血単核細胞群(T細胞が多く含まれる)を、上記部分ペプチドの存在下で培養したときに、該末梢血単核細胞群のDNA合成速度を、上記部分ペプチドの非存在下で培養した末梢血単核細胞群の2倍を越える速度、より好ましくは5倍以上の速度にする活性のことを意味する。
【0043】
上記部分ペプチドを同定する際には、まず本発明にかかるタンパク質のオーバーラップペプチドを合成する。ここで「オーバーラップペプチド」とは、本発明にかかるタンパク質(例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質)のアミノ酸配列に基づき、N末端からC末端に至る全アミノ酸残基をカバーするペプチドのことである。かかるオーバーラップペプチドは、市販されているペプチド自動合成装置により容易に合成することができる。これらのオーバーラップペプチドの中から、少なくとも一つのT細胞エピトープを含むペプチドを同定すればよい。
【0044】
またT細胞エピトープを同定するためには、ダニアレルギー患者の末梢血リンパ球から、本発明にかかるタンパク質を特異的に認識し、増殖応答するT細胞ラインを樹立する必要がある。一般に、患者毎に反応するT細胞エピトープが異なるため、患者毎にT細胞ラインを樹立することが望ましい。
【0045】
T細胞ラインを樹立するためには、通常患者の末梢血リンパ球を本発明にかかるタンパク質の存在下、7日間程度培養して抗原刺激によりT細胞を活性化し、さらに、活性化T細胞を、抗原と抗原提示細胞と共に7日間培養することを数回繰り返して抗原刺激することにより、抗原特異的T細胞ラインを作製することができる。
【0046】
しかしながら、T細胞が増殖因子のIL−2の存在下でよく増殖している場合は、抗原刺激は最初だけにすることが好ましい。T細胞ラインを数度抗原刺激すると、増殖率の高いT細胞が選択的に取れ、T細胞エピトープを含むペプチドを同定する場合において、エピトープによっては十分な増殖応答を示さない場合が生じるからである。
【0047】
なお、抗原刺激に使用する本発明にかかるタンパク質としては、ダニから取得した天然型のものが最も望ましいが、組換えタンパク質、あるいはオーバーラップペプチドの混合物も好適に使用できる。上記本発明にかかるタンパク質は、大腸菌で発現させ精製したものが利用され得る。
【0048】
また、上記で使用する抗原提示細胞としては、T細胞ラインと同一人の末梢血リンパ球を、マイトマイシンC処理あるいは放射線照射して増殖能力を失わせたものが望ましい。しかし、採血回数が多くなるため、Epstein−Barr virus(EBV)を自己のBリンパ球に感染させトランスフォーメーションを起こさせたものは、in vitroで増殖し続けリンパ芽球様細胞株(B細胞株)となるため、このB細胞株を抗原提示細胞として用いてもよい。B細胞株の樹立方法は既に確立されている(参考文献:組織培養の技術第二版、187-191 頁、日本組織学会編(1988.8.10))。
【0049】
それぞれの患者固有のT細胞ラインが認識する、T細胞エピトープを含むペプチドは以下のようにして同定される。ここで「認識する」という意味は、T細胞レセプターが抗原エピトープ(MHC分子を含めて)と特異的に結合し、その結果、T細胞が活性化されることを意味し、活性化の状態は、リンホカインの産生や、DNAの合成をブロモデオキシウリジン(BrdU)や[3H]チミジンの取込み量を指標として測定することにより観察される。例えば、T細胞ラインとマイトマイシンC処理した同一人のB細胞株とを、96穴平底プレートに播種し、オーバーラップペプチドと共に混合培養し、[3H]チミジンの取込み量(cpm)を液体シンチレーションカウンターで測定する。その際、[3H]チミジンの取込みは、個々の培養系で異なるため、例えば、個々のペプチドに対するT細胞ラインの[3H]チミジン取込み量(cpm)を、抗原を添加していないコントロールの[3H]チミジン取込み量(cpm )で除した数(stimulation index:SI)が2以上のものを上記ペプチドと同定する。
【0050】
次に本発明にかかるタンパク質の調製方法を説明する。本発明の一実施形態にかかるタンパク質は、従来既知の方法を用いてコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)から精製することができる。例えば、コナヒョウヒダニをPBS(phosphate buffer saline)等の緩衝液に懸濁し超音波等の方法により破砕する。破砕方法は超音波に限らず、リゾチームによって細胞膜を破壊しても良い。その後、遠心分離し上清を回収する。得られた上清から、IgEを用いたアフィニティー精製、タンパク質の荷電を利用したイオン交換クロマトグラフィー、タンパク質の分子量を利用したゲルろ過クロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーを用いて、精製することができる。また、精製されたタンパク質溶液を適当な緩衝液に透析することで不要な塩を除去することもできる。上記のタンパク質の精製工程は、タンパク質の分解を抑えるために低温で行うのが適しており、温度は4℃が特に適している。また、上記の精製に用いる緩衝液には、タンパク質の立体構造を安定に保つためDTT(dithiothreitol)等の還元剤を加えても良いし、タンパク質の分解を防ぐためにアプロチニンやロイペプチン等のプロテアーゼインヒビターを加えても良い。
【0051】
本発明にかかるタンパク質または部分ペプチドの化学的な合成には、通常市販のタンパク質(ペプチド)合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂などを挙げることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするタンパク質(ペプチド)の配列通りに、自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からタンパク質(ペプチド)を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のタンパク質または部分ペプチドを取得する。
【0052】
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、タンパク質(ペプチド)合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt,HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行った後に樹脂に添加することができる。
【0053】
部分ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。すなわち、本発明の部分ペプチドもしくは本発明のタンパク質を構成し得る部分ペプチドまたはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の参考文献(i)〜(v)に記載された方法が挙げられる。
(i)M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
(ii)SchroederおよびLuebke、ザ ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
(iii)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、 丸善(株) (1975年)
(iv)矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、 タンパク質の化学IV、 205、(1977年)
(v)矢島治明監修、続医薬品の開発 第14巻 ペプチド合成 広川書店
また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて所望の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られるペプチドまたは部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0054】
また本発明にかかるタンパク質は、遺伝子工学的手法を用いて組換えタンパク質として生成可能である。上記生成方法としては、当該分野において周知の方法を使用して行うことができ、例えば、後に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行うことができる。
【0055】
なお本発明にかかるタンパク質はダニ、特にコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)から見出されたものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他のダニ(例えば、Dermatophagoides pteronyssinus、Acarus siro、Blomia tropicalis、Dermatophagoides microceras、Euroglyphus maynei、Glycyphagus domesticus、Lepidoglyphus destructor、Tyrophagus putrescentiae、Psoroptes ovis)に由来するタンパク質をも包含する。
【0056】
(2.本発明にかかるポリヌクレオチド)
本発明にかかるポリペプチドは、上記本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドのことである。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0057】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0058】
また本発明にかかるポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0059】
本発明はさらに、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0060】
このような変異体としては、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0061】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0062】
本発明にかかるポリヌクレオチドの一実施形態は、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、下記の(c)または(d)であることを特徴としている:
(c)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(i)または(ii)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(ii)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0063】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0064】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0065】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。またDNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明にかかるポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0066】
本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0067】
あるいは、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0068】
(3.本発明にかかる抗体)
本発明は、本発明にかかるタンパク質と特異的に結合する抗体を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgY、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。本発明にかかる抗体は、本発明にかかるタンパク質を発現する生物材料を選択する際に有用である。また本発明にかかるタンパク質を含む粗溶液から、当該タンパク質を精製する際にも有用である。
【0069】
「抗体」は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。より具体的には以下の通りである。
【0070】
例えば、本発明にかかるタンパク質のモノクローナル抗体を作製する際には、まずモノクローナル抗体産生細胞を作製する。本発明のタンパク質は、温血動物に対して投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原で免疫された温血動物、例えばマウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。従来公知の方法を使用して、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることができる。なおモノクローナル抗体産生ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の分離精製は、公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法(例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法)に従って行うことができる。
【0071】
また本発明にかかるタンパク質のポリクローナル抗体を作製する際には、例えば、免疫抗原(タンパク質抗原)自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に対して、抗体産生が可能な部位に投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行われる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0072】
ここで、本明細書中で使用される場合、用語「本発明にかかるタンパク質と特異的に結合する抗体」は、本発明にかかるタンパク質抗原に特異的に結合し得る完全な抗体分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)フラグメント)を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去される。また、細胞のFcレセプターと結合することがないため、当該FabおよびF(ab’)フラグメントと細胞間の非特異的結合がほとんど生じない。(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983)(本明細書中に参考として援用される))。従って、これらのフラグメントが好ましい。
【0073】
さらに、本発明にかかるタンパク質のペプチド抗原に結合し得るさらなる抗体が、抗イディオタイプ抗体の使用を通じて2工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原であるという事実を使用し、従って、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従って、本発明にかかるタンパク質と特異的に結合する抗体は、動物(好ましくは、マウス)を免疫するために使用される。次いで、このような動物の脾細胞はハイブリドーマ細胞を産生するために使用され、そしてハイブリドーマ細胞は、本発明にかかるタンパク質と特異的に結合する抗体に結合する能力が本発明にかかるポリペプチド抗原によってブロックされ得る抗体を産生するクローンを同定するためにスクリーニングされる。このような抗体は、本発明にかかるポリペプチドと特異的に結合する抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、そしてさらなる本発明にかかるポリペプチドと特異的に結合する抗体の形成を誘導するために動物を免疫するために使用され得る。
【0074】
FabおよびF(ab’)ならびに本発明にかかる抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることが、明らかである。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生される。あるいは、本発明にかかるポリペプチド結合フラグメントは、組換えDNA技術の適用または合成化学によって産生され得る。
【0075】
このように、本発明にかかる抗体は、少なくとも、本発明にかかるタンパク質を認識する抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)フラグメント)を備えていればよいといえる。すなわち、本発明にかかるタンパク質を認識する抗体フラグメントと、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0076】
つまり、本発明の目的は、本発明にかかるタンパク質を認識する抗体を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgY、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0077】
(4.本発明にかかるタンパク質またはポリヌクレオチドの利用)
(4−1)ベクター
本発明は、本発明にかかるタンパク質を生成するために使用されるベクターを提供する。本発明にかかるベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
【0078】
本発明にかかるベクターは、上述した本発明にかかるポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されない。例えば、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0079】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明にかかるポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかるポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0080】
上記ベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pBR325、pUC18、pUC118)、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどを利用することができる。
【0081】
また本発明において利用可能なプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応した適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主が大腸菌(Escherichia coli)である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなどが挙げられる。
【0082】
また本発明にかかるベクターには、以上の他に、所望により当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを付加することができる。また、必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドにコードされたタンパク質と他のタンパク質(例えば、グルタチオンSトランスフェラーゼおよびプロテインA)との融合タンパク質として発現させることも可能である。このような融合タンパク質は、適当なプロテアーゼを使用して切断することによって、それぞれのタンパク質に分離することができる。
【0083】
本発明にかかるベクターには、少なくとも1つの選択マーカーが含まれていることが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、および大腸菌や他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0084】
上記選択マーカーを用いれば、本発明にかかるポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明にかかるタンパク質を融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明にかかるタンパク質をGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
【0085】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、例えば、大腸菌、昆虫細胞、動物細胞などの従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0086】
大腸菌の具体例としては、後述する実施例で用いられたもの他、Escherichia coli K12・DH1(参考文献:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 60:160(1968))、JM103(参考文献:Nucleic Acids Research, 9:309(1981))、JA221(参考文献:Journal of Molecular Biology, 120:517(1978))、およびHB101(参考文献:Journal of Molecular Biology, 41:459(1969))などが用いられる。
【0087】
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞などが用いられる。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
【0088】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明にかかるタンパク質(または部分ペプチド)を昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0089】
このように、本発明にかかるベクターは、少なくとも、本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0090】
つまり、本発明の目的は、本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得したベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0091】
(4−2)形質転換体または細胞
本発明は、上述した本発明にかかるタンパク質(または部分ペプチド)をコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体または細胞を提供する。ここで「形質転換体」とは、組織または器官だけでなく、生物個体を含むことを意味する。
【0092】
形質転換体または細胞の作製方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物、植物または動物を挙げることができる。
【0093】
本発明にかかるタンパク質(または部分ペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含む形質転換体は、当該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドが発現し得るように宿主細胞中に導入することにより得ることができる。
【0094】
宿主へのポリヌクレオチドの導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。また、ポリヌクレオチドを直接細胞または組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。
【0095】
ポリヌクレオチドが宿主に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行えばよい。
【0096】
PCR増幅産物については、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0097】
上記形質転換体を作製し、有性生殖あるいは無性生殖、または培養等することにより、上記形質転換体内で本発明にかかるタンパク質を生産することができるため、上記タンパク質を容易に大量調製することが可能となる。
【0098】
このようにして得られた、本発明にかかるベクターで形質転換された形質転換体は、当該技術分野で公知の方法に従って培養することができる。例えば、宿主が大腸菌の場合、培養は通常約15〜43℃、好ましくは37℃、で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、pHは約6〜8に調整された培地を用いて、通常約30〜40℃、好ましくは37℃、で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加えることもできる。
【0099】
(4−3)タンパク質の生産方法
本発明は、本発明にかかるタンパク質を生産する方法を包含する。一実施形態において、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴とする。
【0100】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、上記ベクターを無細胞タンパク質合成系に用いることができる。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットを用いればよい。好ましくは、本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0101】
また本実施形態の他の局面において、本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、組換え発現系を用いることができる。組換え発現系を用いる場合、本発明にかかるポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られる上記タンパク質を精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0102】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたタンパク質を精製する方法は、用いた宿主、精製されるタンパク質の性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のタンパク質を精製することが可能である。
【0103】
本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、本発明にかかるタンパク質を含む細胞または組織の抽出液から当該タンパク質を精製する工程をさらに包含することが好ましい。タンパク質を精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0104】
別の実施形態において、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、本発明にかかるタンパク質を天然に発現する細胞または組織から当該タンパク質を精製する方法であってもよい。本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、上述した抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明にかかるタンパク質を天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態にかかるタンパク質の生産方法は、上述したタンパク質を精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0105】
さらに他の実施形態において、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、本発明にかかるタンパク質を化学合成する方法であってもよい。当業者は、本明細書中に記載される本発明にかかるタンパク質のアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明にかかるタンパク質を化学合成できることを、容易に理解する。
【0106】
以上のように、本発明にかかるタンパク質を生産する方法によって取得されるタンパク質は、天然に存在する変異タンパク質であっても、人為的に作製された変異タンパク質であってもよい。
【0107】
変異タンパク質を作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、参考文献:Hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)を参照のこと)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異タンパク質を作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いることによって、変異タンパク質を作製することができる。変異タンパク質の作製には市販のキットを利用してもよい。
【0108】
このように、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、少なくとも、本発明にかかるタンパク質のアミノ酸配列、または本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。
【0109】
つまり、本発明は本発明にかかるタンパク質の生産方法を提供することにあるのであって、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0110】
(4−4)検出器具
本発明は、種々の検出器具をも包含する。本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリヌクレオチドもしくはそのフラグメントが基板上に固定化されたもの、または、本発明にかかるタンパク質もしくは抗体が基板上に固定化されたものであり、種々の条件下において、本発明にかかるポリヌクレオチドおよびタンパク質の発現パターンの検出または測定などに利用することができる。
【0111】
一実施形態において、本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリヌクレオチドおよび/またはオリゴヌクレオチドが基板上に固定化されていることを特徴とする。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態にかかる検出器具は、いわゆるDNAチップである。本明細書中で使用される場合、用語「DNAチップ」とは、合成したオリゴヌクレオチドを基板上に固定化した合成型DNAチップを意味するが、これに限定されず、PCR産物などのcDNAを基板上に固定化した貼付け型DNAマイクロアレイもまた包含する。DNAチップとしては、例えば、本発明の遺伝子と特異的にハイブリダイズするプローブ(すなわち、本発明にかかるオリゴヌクレオチド)を基板(担体)上に固定化したDNAチップが挙げられる。
【0112】
プローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する公知の方法(例えば、SAGE法(Serial Analysis of Gene Expression法、参考文献:Science 276:1268,1997;Cell 88:243,1997;Science 270:484,1995;Nature 389:300,1997;米国特許第5,695,937号)等が挙げられるがこれらに限定されない)によって決定することができる。
【0113】
なお、DNAチップの製造には、公知の方法を採用すればよい。例えば、オリゴヌクレオチドとして、合成オリゴヌクレオチドを使用する場合には、フィトリオグラフィー技術と固相法DNA合成技術との組み合わせにより、基板上でオリゴヌクレオチドを合成すればよい。一方、オリゴヌクレオチドとしてcDNAを用いる場合は、アレイ機を用いて基板上に張り付ければよい。
【0114】
また、一般的なDNAチップと同様、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置してポリヌクレオチドの検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なるポリヌクレオチドを並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基板上に固定化してDNAチップを構成してもよい。
【0115】
本実施形態にかかる検出器具に用いる基板の材質としては、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態にかかる検出器具は、種々の生物またはその組織もしくは細胞から作製したcDNAライブラリーを標的サンプルとする検出に用いられる。
【0116】
他の実施形態において、本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリペプチドまたは抗体が基板上に固定化されていてもよい。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態にかかる検出器具は、いわゆるプロテインチップである。
【0117】
本明細書中で使用される場合、用語「基板」は、目的物(例えば、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質)を担持することのできる物質が意図され、用語「支持体」と交換可能に使用される。好ましい基板(支持体)としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。目的物をこれらの基板に固定化する方法は、当業者に周知であり、例えば、参考文献:Nature 357:519−520(1992)に記載されている。
【0118】
本実施形態にかかる検出器具に用いる基板の材質としては、ポリペプチドまたは抗体を安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
【0119】
上記の方法以外のタンパク質(ポリペプチド)または抗体を基板上に固定化する方法としては、例えば、ニトロセルロース膜やPDVF膜にタンパク質(ポリペプチド)や抗体をドットブロットの要領でスポットする物理吸着法、または、タンパク質(ポリペプチド)や抗体の変性を軽減するために、スライドガラス上にポリアクリルアミドのパッドを接合して、これにタンパク質(ポリペプチド)や抗体をスポットする方法が挙げられる。さらに、タンパク質(ポリペプチド)や抗体を基板表面に吸着させるだけでなく、強固に結合させるため、アルデヒド修飾ガラスを利用した方法(参考文献:G.MacBeath,S.L.Schreiber,Science,289,1760(2000))を用いることもできる。また、基板上でのタンパク質(ポリペプチド)の配向を揃えて固定化する方法としては、オリゴヒスチジンタグを介して、ニッケル錯体で表面修飾した基板へ固定化する方法(参考文献:H.Zhu,M.Bilgin,R.Bangham,D.Hall,A.Casamayor,P.Bertone,N.Lan,R.Jansen,S.Bidlingmaier,T.Houfek,T.Mitchell,P.Miller,R.A.Dean,M.Gerstein,M.Snyder,Science,293,2101(2001))を用いることができる。
【0120】
本実施形態の好ましい局面において、本実施形態にかかる検出器具は、種々の生物またはその組織もしくは細胞からの抽出液を標的サンプルとする検出に用いられる。
【0121】
このように、本発明にかかる検出器具は、少なくとも、本発明にかかるポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、または本発明にかかるタンパク質もしくは当該タンパク質と特異的に結合する抗体が支持体上に固定化されていればよいといえる。また、本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、または本発明にかかるタンパク質もしくは当該タンパク質と結合する抗体が固定化されている基板を備えていればよいといえる。すなわち、これらの支持体(基板を含む)以外の構成部材を備える場合も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0122】
つまり、本発明の目的は、本発明にかかるタンパク質または本発明にかかるポリヌクレオチド、あるいは本発明にかかる抗体に結合するポリペプチドを検出する器具を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の支持体の種類、固定化方法に存するのではない。したがって、上記支持体以外の構成部材を包含する検出器具も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0123】
(4−5)本発明にかかるタンパク質を用いた抗体の精製
本発明で精製される抗体としては、動物に抗原を免疫することにより得られた抗血清、動物に抗原を免疫し免疫動物の脾臓細胞より作製したハイブリドーマ細胞が分泌するモノクローナル抗体、遺伝子組換え技術により作製された抗体、すなわち抗体遺伝子を挿入した抗体発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより取得された抗体などいかなるものでもよい。また、抗体のFc領域を融合させた融合タンパク質なども本発明では抗体として含まれる。また上記抗体はモノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。その抗体については、「(3)抗体」の記載を適宜参照できる。
【0124】
本発明にかかる抗体の精製方法は、例えば本発明にかかるタンパク質(またはその部分ペプチド)を固定した担体を用いたクロマトグラフィーにより達成される。本発明にかかるタンパク質(またはその部分ペプチド)が固定化される担体としては、アガロース、アクリル系合成樹脂のポリマー等があげられ、好ましくはアクリル酸エステルのポリマーがあげられる。そのほか市販のアフィニティー担体を適宜選択の上使用すればよい。例えば、HiTrap NHS-activated HP columns (Amersham Bioscience Corp製)、CNBr-activated Sepharose 4 Fast Flow Lab Packs(Amersham Bioscience Corp製)が利用可能である。また、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と表記する)システムを使用する場合は、一般に市販されているHPLCシステムであれば、いかなるものでもよい。例えば、LC−6A(Shimadzu社製)などがあげられる。固定化の方法については、担体に応じて適宜最適な方法を適用すればよい。
【0125】
(4−6)スクリーニング方法およびスクリーニングキット
本発明にかかるタンパク質は、アレルゲン活性を有するので、当該タンパク質の活性を阻害する化合物は、例えば、ダニアレルギー性疾患の予防または治療薬として使用できる。したがって、本発明にかかるタンパク質は、本発明にかかるタンパク質の活性を阻害する化合物のスクリーニングのための試薬として有用である。すなわち、本発明は、本発明にかかるタンパク質を用いることによって、本発明のタンパク質と特異的に結合し且つ当該タンパク質のアレルゲン活性を阻害する化合物(以下、適宜「阻害剤」と称する)のスクリーニング方法や、本発明にかかるタンパク質とIgEとの結合を阻害する抗体のスクリーニング方法などを包含する。
【0126】
本発明にかかるスクリーニング方法においては、上記した本発明にかかるタンパク質にIgEを接触させた場合と、上記した本発明にかかるタンパク質にIgEおよび試験化合物または抗体を接触させた場合における、当該タンパク質に対するIgEの結合量を測定して比較する。
【0127】
本発明にかかるスクリーニング方法としての具体例としては、例えば、IgEを本発明のタンパク質に接触させた場合と、IgEおよび試験化合物または抗体を当該タンパク質に接触させた場合における、IgEの当該タンパク質に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、IgEと当該タンパク質との結合を阻害する化合物または抗体のスクリーニング方法を挙げることができる。
【0128】
本発明にかかるスクリーニング方法の具体的な説明を以下にする。まず、本発明にかかるスクリーニング方法に用いられる本発明にかかるタンパク質としては、上記の本発明にかかるタンパク質を含有するものであれば何れのものであってもよい。例えば、本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体を用いて本発明にかかるタンパク質を大量発現した後、精製された本発明にかかるタンパク質が本発明に係るスクリーニング方法には適している。
【0129】
また本発明にかかるスクリーニング方法に用いられるIgEは、検出のために適当な化合物等で標識されているのが好ましい。標識化合物としては、例えば放射性同位元素(例、〔H〕、〔14C〕、〔32P〕、〔35S〕など)、蛍光物質(例、シアニン蛍光色素(例、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7(アマシャムバイオサイエンス社製)など)、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなど)、酵素(例、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素など)、発光物質(例、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)、ビオチン等を用いることができる。
【0130】
具体的には、IgEと本発明にかかるタンパク質との結合を阻害する化合物のスクリーニングを行うには、まず本発明にかかるタンパク質をマルチプート表面に固相化する。固相化の方法としては、例えばサンドイッチ法のように抗体を用いてプレート表面に固相化する等の公知の方法を用いることができる。当該プレートに、一定量の標識したIgEと試験化合物または抗体を混ぜた溶液を加える。溶液に用いるバッファーには、pH4〜10(望ましくはpH6〜8)のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどのタンパクと化合物または抗体との結合を阻害しないバッファーであればいずれでもよい。また、非特異的結合を低減させる目的で、CHAPS、ジギトニン、デオキシコレートなどの界面活性剤をバッファーに加えることもできる。非特異的結合量(NSB)を知るために大過剰の未標識のIgEを加えた試料も用意する。反応温度は特に制限されるものではないが、生体内に近い温度(例えば、20〜40℃)が好ましい。反応後、適量の同バッファーで洗浄した後、プレート上に残存するIgEを計測する。計測方法はIgEに標識した化合物を計測すればよく、例えば、IgEを放射性同位元素や酵素で標識していれば、それぞれ液体シンチレーションカウンターや酵素活性を測定することによって計測することができる。拮抗する物質がない場合のカウント(B)から非特異的結合量(NSB)を引いたカウント(B−NSB)を100%とした時、特異的結合量(B−NSB)が例えば50%以下になる試験化合物を拮抗阻害能力のある候補物質として選択することができる。
【0131】
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。抗体としては、本発明のタンパク質とIgEとの結合を特異的に阻害するのであれば、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも良い。
【0132】
一方、本発明にかかるスクリーニング用キットは、本発明にかかるタンパク質を含有するものである。また本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するものであってもよい。本発明にかかるスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物は、上記した試験化合物、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などから選ばれた化合物であり、本発明にかかるタンパク質のアレルゲン活性を阻害する化合物である。
【0133】
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物または抗体はダニアレルギー性疾患の予防または治療薬などの医薬として有用である。
【0134】
(4−7)本発明にかかる薬学的組成物
本発明にかかる薬学的組成物(ダニアレルギー性疾患用治療薬または予防薬)の一実施形態としては、本発明にかかるタンパク質が有効成分として含まれているものが挙げられる。上記薬学的組成物をダニアレルギー性疾患の減感作治療へ適用することによって、ダニアレルギー性疾患の症状を治療または予防することができる。
【0135】
また本発明にかかる薬学的組成物は、既述の阻害剤、または本発明にかかる抗体(特に本発明にかかるタンパク質とIgEとの結合を阻害する抗体)を含有するものであってもよい。上記阻害剤または本発明にかかる抗体は、本発明にかかるタンパク質のアレルゲン活性を阻害するものである。よって、本発明にかかる抗体や阻害剤を含有する薬学的組成物を、ダニアレルギー患者に投与すれば、本発明にかかる抗体や阻害剤が、体内に侵入したダニアレルゲンのIgEエピトープをトラップし、肥満細胞または好塩基球上のIgE分子架橋形成を阻害することができ、ダニアレルギー性疾患の症状を改善することができる。
【0136】
本発明にかかる薬学的組成物についてさらに詳しく説明すると、本発明にかかる薬学的組成物の一実施形態としては、例えば、本発明にかかるペプチドまたは抗体を0.01%(w/w)〜100%(w/w)、好ましくは0.05%(w/w)〜50%(w/w)、さらに好ましくは0.5%(w/w)〜5.0%(w/w)含んでなる。本発明にかかる薬学的組成物は、当該ペプチドまたは抗体単独の形態はもとより、それ以外に生理的に許容される、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、プルランなどの担体、賦形剤、免疫助成剤、安定剤、さらには必要に応じてステロイドホルモンやクロモグリク酸ナトリウムなどの抗炎症剤や抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤、抗タキキニン剤を含む1種または2種以上の他の薬剤と組み合わせた組成物としての形態を包含する。さらに、本発明の薬学的組成物は、投薬単位形態の薬剤をも包含し、その投薬単位形態の薬剤とは、本発明にかかるペプチドまたは抗体を、例えば、1日当たりの用量またはその整数倍(4倍まで)またはその約数(1/40まで)に相当する量を含有し、投与に適する物理的に分離した一体の剤形にある薬剤を意味する。このような投薬単位形態の薬剤としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、口腔剤、シロップ剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、注射剤などが挙げられる。
【0137】
本発明の薬学的組成物は、ダニアレルギー性疾患の治療、改善または予防を目的に、経口、経皮、点鼻、点眼または注射投与される。ヒトにおける投薬量は、投与の目的や方法、症状によっても異なるが、通常、対象者の症状や投与後の経過を観察しながら、成人1日当たり0.01mg〜1000mg、好ましくは1mg〜10mgを目安に、毎日1回〜毎月1回の頻度で、約1〜6ヶ月間、通常、用量を増やしながら反復投与される。
【0138】
(4−8)本発明にかかる診断キットおよびその利用
本発明にかかるダニアレルギー性疾患の診断キット(検出キット)は、本発明にかかるタンパク質を含むことを特徴としている。本発明にかかるタンパク質と被験者の血清との結合性(反応性)をELISA法等で検討することによって、被験者血清中にダニアレルゲンに対するIgE抗体が存在するか否かを判断することができ、被験者がダニアレルギー性疾患である(またはダニアレルギー性疾患を発症する可能性がある)か否かを検出(診断)することができる。
【0139】
なお本発明にかかる診断キット(検出キット)に含まれる本発明にかかるタンパク質は、一種類に限定されるものではなく、複数種類のタンパク質またはペプチドを包含するものであってもよい。例えば、本発明にかかるタンパク質の他に、ダニアレルゲンタンパク質(公知のDer fファミリータンパク質、Der pファミリータンパク質等)が含まれていてもよい。複数のダニアレルゲンタンパク質に対する被験者の反応を検出することによって、より正確にダニアレルギー性疾患(またはその可能性)を検出(診断)することができる。
【0140】
さらに、他のアレルゲンタンパク質(例えばスギ花粉アレルゲンなど)が本発明にかかる診断キット(検出キット)に含まれていてもよい。複数のアレルゲンタンパク質に対する被験者の反応を検出することによって、アレルギー症状の原因を正確かつ網羅的に検出することができる。
【0141】
また、本発明にかかる診断キットには、ELISA法を行うために必要な試薬(2次抗体、発色試薬等)、プレート(96ウェルプレート等)等が含まれていてもよい。またウェスタンブロット法を行うために必要なメンブレン、電気泳動用ゲル、電気泳動装置、ブロッティング装置、ブロッティング用試薬等が含まれていてもよい。上記構成が含まれることによって、上記診断(検出)をさらに簡便に行うことができる。
【0142】
また本発明にかかる診断キットは、本発明にかかるタンパク質が基板上に固定化されている検出器具が含まれている態様であってもよい。当該実施態様にかかる検出器具は、いわゆるプロテインチップである。
【0143】
本明細書中で使用される場合、用語「基板」は、目的物(例えば、ペプチドまたはタンパク質等)を担持することのできる物質が意図され、用語「支持体」と交換可能に使用される。好ましい基板(支持体)としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。目的物をこれらの基板に固定化する方法は、当業者に周知であり、例えば、参考文献:Nature 357:519−520(1992)に記載される。
【0144】
本実施態様にかかる検出器具に用いる基板の材質としては、ペプチドを安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
【0145】
上記の方法以外のペプチドを基板上に固定化する方法としては、例えば、ニトロセルロース膜やPDVF膜にポリペプチドや抗体をドットブロットの要領でスポットする物理吸着法、または、ポリペプチドや抗体の変性を軽減するために、スライドガラス上にポリアクリルアミドのパッドを接合して、これにペプチドをスポットする方法が挙げられる。さらに、ペプチドを基板表面に吸着させるだけでなく、強固に結合させるため、アルデヒド修飾ガラスを利用した方法(参考文献:G.MacBeath,S.L.Schreiber,Science,289,1760(2000))を用いることもできる。また、基板上でのペプチドの配向を揃えて固定化する方法としては、オリゴヒスチジンタグを介して、ニッケル錯体で表面修飾した基板へ固定化する方法(参考文献:H.Zhu,M.Bilgin,R.Bangham,D.Hall,A.Casamayor,P.Bertone,N.Lan,R.Jansen,S.Bidlingmaier,T.Houfek,T.Mitchell,P.Miller,R.A.Dean,M.Gerstein,M.Snyder,Science,293,2101(2001))を用いることができる。
【0146】
このように、本発明にかかかる診断キットには、少なくとも、本発明にかかるタンパク質が含まれていればよいといえる。その他にダニアレルギー性疾患の診断に必要な構成を備える場合も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0147】
(4−9)本発明にかかる検出方法
本発明はダニアレルギー性疾患の発症又は発症の可能性を検出する方法(以下「本発明にかかる検出方法」という)をも包含する。本発明にかかる検出方法は、本発明にかかるタンパク質と生体から採取された試料(たとえば被験者の血清、被験動物の血清等)と反応させる工程(反応工程)を含むことを特徴としている。本発明にかかるタンパク質と試料(被験者の血清等)との結合性(反応性)をELISA法等で検討することによって、試料(被験者の血清等)中にダニアレルゲンに対するIgE抗体が存在するか否かを判断することができ、被験者がダニアレルギー性疾患を発症している(またはその可能性)を検出(診断)することができる。
【0148】
当該反応工程を行う方法は特に限定されるものではなく、例えばELISA法、RIA法、ウェスタンブロット法、ドットブロット法等公知の方法を適宜選択の上、適用可能である。例えば、ELISA法を採用する場合は、マイクロタイタープレート上に本発明にかかるタンパク質を固定し、試料(被験者の血清等)をアプライして反応させればよい。なお試料(被験者の血清等)は、適当な濃度になるように緩衝液(リン酸緩衝液等)で希釈して使用することが好ましい。試料(血清)の濃度が高すぎると本発明にかかるタンパク質と非特異的に結合するからである。本発明にかかるタンパク質の固定量、反応温度、反応時間等の反応条件については、適宜検討の上、設定すればよい。なお、試料(被験者の血清等)と反応させるのは、本発明にかかるタンパク質に限定されるものではなく、その他のダニアレルゲンタンパク質や、その他公知のアレルゲンタンパク質等と反応させてもよい。したがって、上記マイクロタイタープレート上に固定する物質は、本発明にかかるタンパク質のみならず、その他のダニアレルゲンタンパク質や、その他公知のアレルゲンタンパク質等であってもよい。
【0149】
また本発明にかかる検出方法には、本発明にかかるタンパク質と試料(被験者の血清等)中に含まれるIgE抗体との結合を検出する検出工程が含まれていることが好ましい。本発明にかかるタンパク質に結合した試料(被験者の血清等)中に含まれるIgE抗体に、ペルオキシダーゼ、ガラクトシダーゼ等で標識した2次抗体(抗ヒトIgE抗体)を結合させ、さらに標識した酵素によって発色する基質を加え発色させることによって、本発明にかかるタンパク質と試料(被験者の血清等)中に含まれるIgE抗体との結合を容易かつ定量的に検出することができ、被験者がダニアレルギー性疾患である(またはその可能性がある)か否かを判断することができる。なお検出工程は、放射性同位体標識した2次抗体を用いても良く、また検出感度を向上させるべく2次抗体に対する抗体(3次抗体)を用いてもよい。なお検出には、適宜市販の抗体、および検出用試薬を適宜選択の上、利用すればよい。
【0150】
上記反応工程、検出工程には、当該工程に必要な操作(例えば、未反応の血清抗体等を反応系から除去する洗浄操作、マイクロタータープレートと抗体との非特異的な結合を防止するブロッキング操作等)が含まれていてもよい。また本発明にかかる検出方法には、生体(被験者、被験動物等)から採血する工程、採血した血液から遠心分離により血清を調製する血清調製工程等が含まれていてもよい。なお、ELISA法の具体的な方法については、実施例の記載を適宜援用することが可能である。
【0151】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0152】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0153】
〔実験材料および方法〕
特に記述されていない試薬は、タカラバイオ株式会社、ナカライテスク株式会社、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、東洋紡株式会社、和光純薬工業株式会社、または片山化学工業株式会社から購入された特級試薬が用いられた。また各種制限酵素はタカラバイオ株式会社から購入されたものを使用した。オリゴDNAはシグマ アルドリッチ ジャパン株式会社で合成されたものが使用された。
【0154】
(1.使用菌株、培地)
クローニング用大腸菌としてはcompetent high DH5α(東洋紡社製)が用いられ、組換えDFA67(以下「rDFA67」)の発現用大腸菌株としてはRosetta-gamiTM(DE3) pLysS Competent Cells(Novagen社製)が用いられた。
【0155】
DFA67はPrxに相同性を有しているが、Prxはすべての生物種において高度に保存されたCys残基を有しており、それが形成するジスルフィド結合が酵素活性に必須であることが知られている。そこで、本実施例では、rDFA67発現用大腸菌株としてNovagen社のE.coli Rosetta-gamiTMを用いることにした。これはOrigamiとRosettaの性質を兼ね備えた宿主で、細胞質中でのジスルフィド結合形成が大幅に強化され、大腸菌で使用頻度が少ないコドンに対応するtRNAを供給するプラスミド(pRARE)を含んでいる。
【0156】
<LB培地>
bacto tryptone 1%、bacto yeast extract 0.5%、NaCl 1%、(Ager 2%)
<2×YT培地>
bacto tryptone 1.6%、bacto yeast extract 1%、NaCl 0.5%、NaOHでpH7.2に調整
<SOB培地>
bacto tryptone 2%、bacto yeast extract 0.5%、NaCl 0.05%、250mM KCl 0.01%、2M Mg2+溶液(1M MgSO4・7H2O,1M MgCl2・6H2O) 1%(ポアサイズ0.20μmのフィルターでろ過滅菌し、使用直前に添加した)。上記の各培地はオートクレーブ滅菌し、必要に応じて以下の濃度になるように抗生物質を添加した(Ampicilin 50μg/ml、Kanamycin 15μ/ml、Chloramphenicol 34μg/ml、Tetracycline 12.5μg/ml、またはStreptomycin 50μg/ml)。
【0157】
(2.DFA67の全長cDNAの単離)
(2−1)コナヒョウヒダニ(D. farinae)
マウス・ラット・ハムスター用粉末飼料(オリエンタル酵母工業株式会社、Tokyo, Japan)と襖の混合培地(7:3)中で相対湿度75%、25℃において30日間培養したものを用いた。ダニ培養物を飽和食塩水に懸濁して遠心分離(4℃、3500rpm、15分間)し、その上清を含む浮遊物を濾過した。濾紙(Tokyo Roshi Kaisha, Ltd. 110 mm)上に回収されたダニ虫体を、使用するまで−80℃で保存した。
【0158】
(2−2)テンプレートDNAの調製
180℃、12時間乾熱滅菌した乳鉢にダニ虫体2g(−80℃凍結保存状態)、適量の液体窒素、TRIZOL(Invitorogen社製)20mlを加え、石英砂(ナカライテスク社製)により粉状になるまで破砕した。そこへ60℃に保温しておいた5mlのTRIZOLを加え、ボルテックスミキサーで30秒間攪拌した。60℃、15分間インキュベートした後、遠心分離(14,000rpm、1分間、4℃)した。その上清を1.5mlマイクロチューブに1mlずつ分注し、5分間、室温でインキュベートした。その後、各チューブに200μlずつクロロホルムを加え、ボルテックスミキサーでエマルジョンになるまで激しく攪拌した。3分間、室温でインキュベートし、遠心分離(14,000rpm、15分間、4℃)して、2層に分離した上層部分を別のマイクロチューブにとり、それに500μlのイソプロパノールを加え10分間、室温で静置した。遠心分離(14,000rpm、10分間、4℃)後、上清を除き、残存した沈殿に300μlの氷冷した4M LiClを加え、ピペッティングにより溶解し、遠心分離(6,500rpm、5分間、室温)した。その上清を除き、沈殿物に200μlの0.5% SDS-TE bufferと200μlのクロロホルムを加え、ボルテックスミキサーで攪拌した後、遠心分離(6,500rpm、10分間、室温)して、上層の水層部分を別のマイクロチューブにとった。その水層部分に1/10量の3M 酢酸ナトリウムと、2倍量のエタノールとを加え、5分間 −80℃で静置した。遠心分離(14,000rpm、10分間、4℃)して、上清を除いた沈殿(RNA)を75%エタノールでリンスし、遠心分離(14,000rpm、2分間)した。沈殿を風乾後、DEPC処理水に溶解し、total RNAサンプルとした。このサンプルからOligotex-dt30<super>mRNA Purification Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いてmRNAを精製した。さらに、BD SMARTTM RACE cDNA Amplification Kit(BD Biosciences 社)を用いてRACE用cDNAを合成した。
【0159】
(2−3)プライマーの設計
D. frainae ESTの結合配列の中で、他の生物種のタンパク質との相同性が比較的高い部分を選びRACE PCR用プライマーをForward、Reverse各2本ずつ設計した。
Forward primer 1:5’-GAT TTC ACG TTC GTA TGT CCA ACC G-3’(配列番号5)
Forward primer 2:5’-CAT TAG ATT TCA CGT TCG TAT GTC C-3’(配列番号6)
Reverse primer 1:5’-TTC ATC TAC GCT ACG TCC AAC TGG C-3’(配列番号7)
Reverse primer 2:5’-GGT TTC ATC TAC GCT ACG TCC-3’(配列番号8)
また、上記のプライマーを用いたRACE PCRで得られた配列を元に、以下のプライマーを設計した。
Forward primer 3:5’-TGC TGA TAC TAT TAA ACC GGC ACC A-3’(配列番号9)
Reverse primer 3:5’-TCA TCG GCA CGT TCA CTG AAT GCA A-3’(配列番号10)
(2−4)5’-RACE PCR
DNA polymeraseとしてTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ株式会社製、登録商標)を使用した。また、SMARTTM RACE cDNA Amplification Kit(タカラバイオ株式会社製)付属の10×Universal Primer A Mix(適宜「UPM」という)をForward Primerとして用いた。PCR反応にはGeneAmp(登録商標) PCR System 9600(Applied Biosystems社製)を使用した。以下に反応液組成および反応条件を示す。
【0160】
<反応液組成>
テンプレートDNA(100ng/μl) 2.5μl、10×UPM 5μl、Reverse primer 3(5μM) 2μl、TaKaRa Ex Taq(5 units/μl) 0.25μl、dNTP mixture(各2.5mM)4μl、10×Ex Taq buffer(20mM Mg2+ 添加)5μl、滅菌超純水 31.25μl、(合計50μl)。
【0161】
<反応条件>
94℃×5分間の後、94℃×30秒間→67℃×30秒間→72℃×1分間を30サイクル行った後、72℃×7分間とし、その後4℃一定とした。
【0162】
(2−5)3’-RACE PCR
DNA polymeraseとしてKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。Reverse primerとして10×UPM(タカラバイオ株式会社製)を用いた。以下に反応液組成および反応条件を示す。
【0163】
<反応液組成>
テンプレートDNA(100ng/μl) 2μl、Forward primer 3(5μM) 2μl、10×UPM 5μl、KOD ‐plus-(1 unit/μl) 1μl、dNTPs(2mM) 5μl、MgSO4(25mM) 2μl、10×Buffer for KOD -plus- 5μl、滅菌超純水 28μl、(合計50μl)。
【0164】
<反応条件>
96℃×2分間の後、98℃×10秒間→72℃×1分間→68℃×1分間を30サイクル行った後、4℃一定とした。
【0165】
(2−6)アガロースゲル電気泳動
アガロースをTAE buffer(20mM Tris/10mM 酢酸/1mM EDTA)中で完全融解させ、ゲル製作板上で固化させて電気泳動用ゲルを作製した。PCR産物に1/10容量の10×Loading buffer(タカラバイオ株式会社製)を加え、アガロースゲル中で電気泳動を行った(100V、約1時間)。マーカーは1Kb plus DNA ladder(Invitrogen社製)を使用した。泳動終了後、エチジウムブロマイドを1μl/mlとなるようにTAE bufferに加えた溶液にゲルを浸して10分間振とうした後、UVトランスイルミネーター上でバンドを確認した。
【0166】
(2−7)アガロースゲルからのDNA断片抽出
DNA断片をカッターナイフでアガロースゲルから切り出し、Rapid Gel Extraction System(MARLIGEN BIOSCIENCES社製)を用いてDNAを抽出した。実験操作はメーカー指定の方法で行われた。
【0167】
(2−8)3’末端へのdA付加(3’-RACE PCR産物のみ)
KOD -plus- DNA polymeraseは、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が強いため、PCR産物の末端は平滑化されており、直接TAクローニングに使用することができない。そこで、以下の反応液組成、反応条件で3’-RACE PCR産物の3’末端にdAを付加した。反応終了後、反応液全量をRapid PCR Purification Systems(MARLIGEN BIOSCIENCES社製)で精製した。実験操作はメーカー指定の方法で行われた。
【0168】
<反応液組成>
TaKaRa Ex Taq(5units/μl) 0.25μl、10×Ex Taq buffer(20mM Mg2+ 添加)5μl、dNTP mixture(各2.5mM) 4μl、ゲル抽出産物 40μl、(合計49.25μl)。
【0169】
<反応条件>
72℃で2時間ヒートブロックにて加熱した。
【0170】
(2−9)TAクローニング
pGEM(登録商標)-T Easy Vector Systems(Promega社製)を用いて、PCR産物をpGEM(登録商標)-T Easy Vectorにライゲーションした。反応液組成、反応条件を以下に示した。
【0171】
<反応液組成>
pGEM(登録商標)-T Easy Vector 1μl、2×Rapid Ligation Buffer 10μl、PCR産物 8μl、T4 DNA Ligase 1μl、(合計20μl)。
【0172】
<反応条件>
ピペッティングによって撹拌した後、室温で1〜2時間静置した。
【0173】
(2−10)コンピテントセルの調製
E. coli DH5αのグリセロールストックをLBプレート培地に播き、37℃で一晩培養した。シングルコロニーをピックアップしLB液体培地5mlに植菌し、37℃で12時間振とう培養を行った。バッフルつきの培養器に入ったSOB培地 50mlに前培養液を100μl植菌し、18℃で振とう培養を行った。OD600=0.5になったところで培養を終了し、氷上で5分間冷却した。遠心分離(4℃、3000rpm、5分間)により菌体を回収し、上清を除いた。氷冷したTransformation buffer(10mM PIPES、15mM CaCl2、250mM KCl)17mlを加え氷上で懸濁し、さらに5分間氷冷した。遠心分離(4℃、3000rpm、5分間)し、上清を除去した。Transformation buffer 4mlを加え氷上で懸濁し、室温のDMSOを300μl加え、懸濁後5分間氷冷した。100μlずつ遠心チューブに分注し、液体窒素に入れ凍結した。使用するまで、−80℃で保存した。E.coli Rosetta-gamiも同様にしてコンピテントセルを作製した。
【0174】
(2−11)E. coli DH5αへの形質転換
作製したE. coli DH5αコンピテントセル100μlにライゲーション反応液20μl(全量)を加え、15分間氷冷した。その後、42℃の恒温水槽で60秒間ヒートショックを行い、直ちに5分間氷冷した。全量をLBプレート培地(アンピシリン添加)に播き、37℃で約12時間培養した。
【0175】
(2−12)コロニーダイレクトPCR
コロニーのマスタープレートを作製した後、Taqポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いたコロニーダイレクトPCRでPCR産物が宿主細胞に挿入されているか確認を行った。以下に1コロニーあたりの反応液の組成および反応条件を示す。なおPCR終了後、反応液全量(10μl)に10×Loading buffer(タカラバイオ株式会社製)を1μl混合し、1.2%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、バンドを確認した。
【0176】
<反応液組成>
TaKaRa Ex Taq(5units/μl) 0.1μl、10×Ex Taq buffer(20mM Mg2+ plus) 1μl、dNTP mixture(各2.5mM) 0.8μl、T7 promoter -1(5μM) 1μl、SP6 promoter -1(5μM) 1μl、(合計10μl)。
【0177】
<反応条件>
94℃×5分間の後、94℃×30秒間→50℃×30秒間→72℃×1分間を30サイクル行った後、72℃×7分間とし、その後4℃一定とした。
【0178】
(2−13)DNA塩基配列の確認
コロニーダイレクトPCRによりDNA断片が挿入されていることが確認できたコロニーを、LB液体培地5ml(アンピシリン添加)に植菌して培養し、Rapid plasmid miniprep system(MARLIGEN BIOSCIENCES社製)を用いてプラスミドを抽出した。実験操作はメーカー指定の方法で行われた。
【0179】
得られたプラスミドの塩基配列をBigDye Terminator v3.1/1.1 Cycle Sequence Kit(Applied Biosystems社製)を用いたdideoxy法により決定した。実験操作はメーカー指定の方法で行われた。以下に反応液組成および反応条件を示す。
【0180】
<反応液組成>
プラスミド 150ng、T7 promoter -1 またはSP6 promoter -1(3.2μM) 1μl、5×BigDye Sequencing Buffer 1μl、Ready Reaction Premix 2μl、滅菌超純水で10μlにメスアップした。
【0181】
<反応条件>
96℃×1分間の後、96℃×10秒間→50℃×5秒間→60℃×4分間を25サイクル行った後、4℃一定とした。
【0182】
反応溶液全量に125mM EDTA 5μl、100% エタノール 60μlを混和し、室温で15分間静置し、15,000rpm、20分間、4℃で遠心分離した。上清を除去し、70%エタノールを60μl加え、15,000rpm、10分間、4℃で遠心分離し、乾燥後、Hi-Diホルムアミド 20μlによく懸濁し、精製した。シークエンス解析は、ABI PRISM(登録商標) 3100-Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)により行われた。操作はマニュアルに従って行われた。
【0183】
(3.DFA67のisoformのcDNA全長遺伝子配列の取得)
(3−1)5’-RACE PCR用プライマーの設計
上述Forward Primer 2で3’-RACE PCRを行った際に得られたDFA67のisoformと考えられる塩基配列を元に下記の5’-RACE PCR用プライマーを作製した。
Reverse primer 5:5’-AGG TGA ATC AAC GGA ACA TGC GAC A-3’(配列番号11)
(3−2)5’-RACE PCR
下記の反応液組成で5’-RACE PCRを行った。DNA polymerase としてKOD - plus-(東洋紡社製)を用いた。Forward primerにはUPM(タカラバイオ株式会社製)を用いた。
【0184】
<反応液組成>
KOD -plus-(5 units/μl) 1μl、10×Buffer for KOD -plus- 5μl、dNTPs(2mM) 5μl、MgSO4(25mM) 2μl、UPM 5μl、Reverse primer 5(5μM) 3μl、cDNA(5’) 200ng、滅菌超純水で50μlにメスアップした。
【0185】
<反応条件>
94℃×2分間の後、98℃×10秒間→68℃×2分間を30サイクル行った後、68℃×1分間とし、その後4℃一定とした。
【0186】
(4.rDFA67の発現および精製)
前述の通り、DFA67のアレルゲン活性にジスルフィド結合が重要な役割を果たしている可能性があるため、本研究で発現ベクターとしてpCold TF DNA(タカラバイオ株式会社製)を用いることにした。pCold TF DNAは、大腸菌シャペロンの一種であるtrigger factor(「TF」と略記する場合がある)を可溶化タグとする融合型のコールドショックベクターであり、発現精製用に6×His tagがついており、容易に精製することが可能である。
【0187】
(4−1)rDFA67発現用プライマーの作製
rDFA67発現用のプライマーとして以下のものを作製した。forward primer、reverse primerにはそれぞれNdeI、XbaIの制限酵素サイトを付加した(NdeIサイト:CAT ATG、XbaIサイト:TCT AGA)。
Forward primer 6:5’- CGC CAT ATG GCC GAA TAT AAT TAT CCA-3’(配列番号12)
Reverse primer 6:5’- GGC TCT AGA TCA ATT ATT TTT GCT GAA ATA TTC-3’(配列番号13)
(4−2)挿入DNAのPCR増幅
DNA polymeraseとしてKOD -Plus-(東洋紡社製)を用いた。反応液組成および反応条件を以下に示す。PCR産物から5μl取り、アガロースゲル電気泳動してバンドを確認した。その後、残りの45μlをRapid PCR Purification Systems(MARLIGEN BIOSCIENCES社製)を用いて精製した。
【0188】
<反応液組成>
KOD -plus-(1.0U/μl) 1μl、10×Buffer for KOD -plus- 5μl、2mM dNTPs 5μl、25mM MgSO4 2μl、Forward primer 6(5μM) 3μl、Reverse primer 6(5μM) 3μl、D.farinae cDNA(100ng/μl) 2.5μl、滅菌超純水 28.5μl、(合計50μl)。
【0189】
<反応条件>
94℃×2分間の後、98℃×10秒間→57℃×30秒間→68℃×1分間を35サイクル行った後、4℃一定とした。
【0190】
(4−3)制限酵素処理
下記反応液をそれぞれ37℃で7時間反応させた。反応液を全量アガロースゲル電気泳動し、MinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてDNAをゲルから抽出した。実験操作はメーカー指定の方法で行われた。ただし最終溶出は、滅菌超純水10μlで行われた。
【0191】
<挿入DNA>
精製産物 50μl、NdeI(4〜12 U/μl) 1μl、XbaI(8〜20 U/μl) 1μl、10×T buffer 6.5μl、BSA 6.5μl、(合計65μl)。
【0192】
<ベクターDNA>
pCold TF DNA(30ng/μl) 10μl、NdeI(4〜12 U/μl) 1μl、XbaI(8〜20 U/μl) 1μl、10×T buffer 3μl、BSA 3μl、滅菌超純水 12μl、(合計30μl)。
【0193】
(4−4)ライゲーション
上記のゲル抽出産物を用いて挿入DNAを、pCold TF DNAにライゲーションした。下記反応液を15℃で一晩インキュベートした。その後、反応液全量にE. coli DH5αコンピテントセルを100μl混和し、上述の方法で形質転換を行った。
【0194】
<反応液組成>
pCold TF DNA 5μl、挿入DNA 10μl、10×ligation buffer(Promega社製)1.78μl、T4 DNA ligase(Promega社製) 1μl、(合計17.8μl)。
【0195】
(4−5)コロニーダイレクトPCR
生育したコロニー15個をピックアップし、コロニーダイレクトPCRを行い挿入DNAの有無を確認した。反応液組成および反応条件を以下に示す。
【0196】
<反応液組成>
TaKaRa Ex Taq(5units/μl) 0.1μl、10×Ex Taq buffer(20mM Mg2+ 添加)1μl、dNTP mixture(各2.5mM) 0.8μl、pCold-TF-F1(5μM) 1μl、pCold-TF-R(5μM) 1μl、滅菌超純水 6.1μl、(合計 10μl)。
【0197】
<反応条件>
94℃×5分間の後、94℃×30秒間→55℃×30秒間→72℃×1分間を30サイクル行った後、72℃×7分間とし、その後4℃一定とした。
【0198】
挿入DNAが確認されたコロニーを、上述の方法で液体培養およびプラスミド抽出し、DNA塩基配列を確認した。
【0199】
(4−6)rDFA67の発現
プラスミド(30ng/μl) 5μlと、発現宿主 E.coli Rosetta-gamiコンピテントセル100μlとを混和し、上述の方法で形質転換を行った。LBプレート培地にはクロラムフェニコール、カナマイシン、テトラサイクリン、およびアンピシリンを添加した。シングルコロニーを2×YT培地5mlに植菌し、37℃で約18時間、280〜290rpmの条件で振とう培養を行った。この前培養液を本培養の2×YT培地に植菌し、37℃、140rpmで培養し、OD600=0.5になったところでIPTGを終濃度0.1〜1.0mMになるように加え、15℃で24時間発現誘導を行った。遠心分離(13,000rpm、10分間、4℃)により菌体を回収し、リン酸緩衝液(PBS)に懸濁後、超音波で菌体を破砕した。得られタンパク質を遠心分離(13,000rpm、10分間、4℃)により可溶性画分(上清)と不溶性画分(沈殿)とに分けた。これらを使用するまで−30℃で保存した。
【0200】
(4−7)His tagを利用した精製
5ml分の菌体超音波破砕物(可溶性画分) 1mlをHisTrap HP(GE Healthcare社製) 1mlカラムにアプライし、イミダゾール濃度20〜500mMのLinear gradientで溶出した。実験操作はメーカー指定の方法により行われた。
Binding buffer:20mM imidazole in phosphate buffer
Elution buffer:500mM imidazole in phosphate buffer
溶出画分をプールし、PD−10カラム(GE Healthcare社製)を用いてthrombin cleavage buffer(Novagen社製)に置換した。実験操作はメーカーの指定の方法により行われた。Buffer交換後のサンプル3.5mlにThrombin Cleavage Capture Kit(Novagen社製)に添付されているThrombinを1μl添加し、4℃で一晩反応させた。反応液全量を再びHisTrap HP 1mlカラムにアプライし、上述と同様にimidazole gradientで溶出させた。溶出画分をプールし、PD−10カラムを用いてPBSにバッファー交換した。100μlずつに分注し、使用するまで−30℃で凍結保存した。
【0201】
(4−8)Bradford法によるタンパク定量
Bio-Rad Protein Assay(Bio-Rad社製)を用い、タンパク質の定量を行った。標準として既知のタンパク濃度のBSAを用いた。実験操作はメーカー指定の方法により行われた。
【0202】
(5.DFA67のisoformの発現および精製)
(5−1)DFA67のisoform発現用プライマーの作製
取得したisoformの全長遺伝子配列により得られた推定アミノ酸配列から、N末端にシグナル配列を有していることが分かった。そこで、シグナル配列を含むタイプのものと、シグナル配列を含まないタイプのものの二種類を作製するため、以下のプライマーを設計した。forward primerにはNdeI制限酵素サイト(CAT ATG)を、reverse primerにはEcoRI制限酵素サイト(GAA TTC)を付加した。
ISOexpF1:5’-GTT CAT ATG GCC AAT ACA ATG ATG AT-3’(配列番号14)
ISOexpF2:5’-GGA CAT ATG GCT GAA CAA TGT CAA A-3’(配列番号15)
ISOexpR:5’-TTT GAA TTC TCA AAG TTC TGA TTT AGC-3’(配列番号16)
(5−2)挿入DNAのPCR増幅
下記の反応液組成および反応条件で挿入DNAの増幅を行った。PCR後の反応液をRapid PCR Purification Systems(MARLIGEN BIOSCIENCES社製)を用いて精製した。
【0203】
<反応液組成>
KOD-plus-(1.0U/μl) 1μl、10×buffer for KOD-plus- 5μl、2mM dNTPs 5μl、25mM MgSO4 2μl、ISOexpF1またはISOexpF2(5μM)3μl、ISOexpR(5μM) 3μl、cDNA(3’)(100ng/μl) 2.5μl、滅菌超純水 28.5μl、合計50μl。
【0204】
<反応条件>
94℃×2分間の後、98℃×10秒間→57℃×30秒間→68℃×1.5分間を35サイクル行った後、68℃×1分間とし、その後4℃一定とした。
【0205】
(5−3)制限酵素処理
下記の反応液組成で反応溶液を調製し、37℃で3時間インキュベートした。その後は、上述と同様にして、ライゲーション、E.coli DH5αへの形質転換、コロニーダイレクトPCR、液体培養、プラスミド抽出、およびDNAシークエンシングを行った。
【0206】
<挿入DNA>
精製産物 50μl、NdeI(4〜12 U/μl) 1μl、XbaI(8〜20 U/μl) 1μl、10×H buffer 5.77μl、(合計57.77μl)
<ベクターDNA>
pCold TF DNA(30ng/μl) 10μl、NdeI(4〜12 U/μl) 1μl、XbaI(8〜20 U/μl) 1μl、10×H buffer 3μl、滅菌超純水 15μl、(合計30μl)
(5−4)DFA67のisoformの発現および精製
上述と同様の方法で二種類のDFA67のisoformを発現させた。菌体破砕後の可溶性画分をHisTrapカラムでアフィニティー精製を行い、Thrombinでトリガーファクターを切り離した粗精製標品を取得した。
【0207】
(6.SDS-PAGEおよび免疫染色)
(6−1)SDS-PAGE
<試薬>
・A液(30%アクリルアミド溶液):アクリルアミドHQ 29.2g、ビスアクリルアミド 0.8g、蒸留水で100mlにメスアップ
・B液(1.5M Tris-HCl、pH8.8):Tris(hydroxymethyl aminometyhane) 18.2g、Sodium dodecylsulfate(SDS) 0.4g、HClにてpH8.8に調整後、蒸留水で100mlにメスアップ
・C液(0.5M Tris-HCl、pH6.8):Tris(hydoroxymethyl aminomethane) 6.1g、Sodium dodecylsufate(SDS) 0.4g、HClにてpH6.8に調整後、蒸留水で100mlにメスアップ
・D液(10% 過硫酸アンモニウム)
・TEMED
・染色液(エタノール:酢酸:水=9:2:9に、0.25% クマシーブリリアントブルーR−250(CBB溶液)を添加)
・脱色液(エタノール:酢酸:水=25:8:25)
・泳動用buffer(25mM Tris、192mM グリシン、0.1%SDS)
・2×sample buffer:0.5M Tris-HCl(pH6.8) 2ml、10% SDS 4ml、2-mercaptethanol 1.2ml、グリセロール 2ml、Bromo Phenol Blue 数滴、蒸留水で10mlにメスアップ。
【0208】
<装置>
・SDS−PAGE電気泳動装置(Dual Mini Slub)
・パワーサプライ(ATTO CROSS POWER 1000、アトー株式会社、Tokyo Japan)
・分子量マーカー:Amersham Biosciences社製LMW(Phosphorylase b 97,000、Bovine Serum Albumin 66,000、Ovalbumin 45,000、Carbonic Anhydrase 30,000、Soybean Trypsin inhibitor 20,100、α-Lactalbumin 14,400)。
【0209】
<方法>
SDS−PAGEは、Laemmliの不連続緩衝液系における電気泳動法に従って行われた。以下は、12.5%ミニスラブゲル2枚分の作製方法である。
(i)A液 7.5ml、B液 4.5ml、および蒸留水 6.0mlを混合し、アスピレーターで脱気した。その後、TEMED 10μl、およびD液 80μlを加えゲルが重合する前に速やかにスラブに8分目までいれた。
(ii)空気と分離ゲル溶液との接触を遮断し、良好な重合度と均一なゲル上端を得るため、水飽和ブタノールを分離ゲル溶液上に重層した。
(iii)重合が完了した後、重層した水飽和ブタノールを蒸留水で洗い流した。A液 0.9ml、C液 1.5ml、および蒸留水 3.6mlを混合し、アスピレーターで脱気して4.5%濃縮ゲル溶液を作製した。
(iv)濃縮ゲル溶液にTEMED 10μl、およびD液 20μlを加え、ゲルが重合する前に速やかにスラブにいれ空気が入らないようにコームを差し込んだ。
(v)重合が完了した後、装置に取り付け、ゲルとbufferとの間に空気が入らないように泳動bufferを満たした。各サンプルにsample bufferを加え、3分間煮沸し、分子量マーカーとサンプルとを泳動した。ゲル1枚当たり電圧1000V、電流30mAで泳動し、色素がゲルの先端まで達したところで泳動を終了した。
【0210】
(6−2)ミニゲルを用いた二次元電気泳動
<ダニ虫体抽出物(Dfb)の取得>
ダニ虫体をPBS(pH7.2)、0.1mM PMSF(フェニルメチルスルフォンフルオライド)、5mM EDTA、1mM monoiodoacetic acid、5mM EPNP(1,2-epoxy-3-(p-nitrophenoxy)-propane)中で乳鉢を用いてすり潰した後、−80℃で一晩凍結させた。その後凍結乾燥を行ったものをダニ虫体抽出物(Dfb)とし、使用するまで−80℃で保存した。
【0211】
<TCA沈殿>
Dfb 3.6gをlysis buffer(5M urea、2M thiourea、2% CHAPS、2% SB 3−10、1% DTT、2% AmpholineTM)36mlに溶解し、40000gで10分間遠心分離し不溶性成分を除去した。その後、60% TCA(トリクロロ酢酸)を終濃度20%となるように加え、氷上で1.5時間 静置した。静置後、3,500rpm、0℃で30分間遠心分離し、上清を捨て、沈殿を氷冷アセトン 10mlで洗浄した。洗浄後、3,500rpm、0℃で20分間遠心分離し、遠心後上清を捨て、沈殿に氷冷ジエチルエーテルを加え十分懸濁した。再度3,500rpm、0℃で20分間遠心分離し、上清を捨て、デシケーター内で減圧乾固させた。得られたタンパクをlysis bufferに十分懸濁し、タンパク濃度を測定後、使用するまで−80℃で保存した。
【0212】
<タンパク濃度測定>
標準として既知のタンパク濃度のBSAを用い、TCA沈殿後のDfbをBio-Rad Protein Assayを用いて発色させ、595nmの吸光度を測定することによってタンパク量をBSA換算タンパク濃度で算出した。
【0213】
<一次元電気泳動(等電点電気泳動)>
・Rehydration:
TCA沈殿処理後、lysis bufferに溶解した試料を25μg/200μl-lysis bufferに調整し、rehydration trayに供した後、Immobiline DryStrip gel 7 cm(GE healthcare社製)の膨潤と試料の吸着とを同時に行った。また、試料の乾燥防止のために、DryStrip Cover Fluidを適量重層した。なお、rehydrationは、室温で一晩行われた。
【0214】
・一次元電気泳動:
rehydration後のImmobiline DryStrip gelをMultiphorII水平型電気泳動装置上にゲル面が上、電極のマイナス側に塩基性、プラス側に酸性となるようにセットした。ゲルの上をDryStrip Cover Fluidで満たし、高温循環槽で温度を20℃に保ち、約12時間 電気泳動を行った。電気泳動後、Immobiline DryStrip gelはピペットに入れ、使用するまで−30℃で保存した。
・一次元電気泳動後のImmobiline DryStrip gelの平衡化:
Immobiline DryStrip gelをゲル面が上になるようにrehydration trayに並べ、equilibration buffer(A)(urea 7.2g、glycerol 7.5625g、10% SDS 2ml、0.5M Tris- HCl(pH6.8) 2ml、DTT 100mg/20ml−超純水)を1本当たり3〜4ml 加え、15分間 振盪してImmobiline DryStrip gelの電荷をキャンセルし、またジスルフィド結合を還元して開裂した。
【0215】
Equilibration buffer(B)(urea 7.2g、glycerol 7.5625g、10% SDS 2ml、0.5M Tris-HCl(pH6.8) 2ml、Iodoacetamide 0.9g、bromophenol blue 0.005g/20ml-超純水)を加え、15分間 振盪して完全に平衡化を行い、またシステイン残基をカルバミドメチル化した。
【0216】
<二次元電気泳動>
Acrylamide gel(15%)上に等電点電気泳動を行った後のDryStrip gelをゲル面が手前、酸性が左、塩基性が右にくるように乗せ、酸性側の左にLMW markerを2μl しみ込ませた濾紙を乗せてその上にBPBで着色した低融点アガロース(1%)を重層し固化した。アガロースが固化したら泳動槽electrophoresis bufferを入れ、ゲル1枚当たり20mAで約70分間電気泳動を行った。
【0217】
(6−3)銀染色
2D-銀染色試薬・II「第一」(第一化学薬品株式会社、Tokyo、Japan)キットを用い、タンパク質を染色した。操作はメーカー指定の方法により行われた。
【0218】
(6−4)免疫染色(ウエスタンブロッティング)
<anti-His抗体>
PVDFメンブレン(MILLIPORE社製)を100%メタノールに浸した後、転写buffer(メタノール 20%、泳動用buffer 10%)に浸し、ろ紙6枚を転写bufferに浸した。セミドライ式転写装置(ATTO社製)に、ろ紙3枚、メンブレン、SDS−PAGE後のゲル、ろ紙3枚の順にのせ、ゲルからPVDFメンブレンにタンパク質を転写した(1000V、58.5mA/1枚、1時間)。マーカー部分はCBB染色し、残りはBlocking buffer(3% スキムミルク、1% BSA in PBST)に浸し、1時間室温で振とうした。
【0219】
1次抗体anti-His Ab(Amersham Biosciences社製)をBlocking bufferで2万倍希釈した溶液にメンブレンを浸し、1時間 室温で振とうした。PBST(0.08% NaCl、0.002% KCl、0.029% Na2HPO4・12H2O、0.002% KH2PO4、0.05% tween20)で10分間×3回洗浄した。
【0220】
2次抗体anti-mouse IgG(SIGMA社製)をBlocking bufferで2万倍希釈した溶液にメンブレンを浸し、室温で1時間 振とうした。PBSTで10分間×3回洗浄し、メンブレンにECL-plus(GE healthcare社製)溶液をかけ、5分間 静置した。メンブレンをシールバック(AS ONE社製)に挟んで現像カセッターにセットし、レンドール(Fuji Photo Film社製)、3% 酢酸、レンフィックス(Fuji Photo Film社製)の順に浸し現像した。
【0221】
<anti-Dfb抗体>
上記の方法と同様の手順で行った。ただし、1次抗体はanti-Dfb Abをblocking bufferで4万倍希釈し、2次抗体はanti-rabbit IgGをblocking bufferで2万倍希釈した溶液を用いた。
【0222】
<anti-rDFA67抗血清>
上記の方法と同様の手順で行った。ただし、1次抗体はanti-rDFA67抗血清をblocking bufferで2万倍希釈し、2次抗体はanti-mouse IgG HRPをblocking bufferで2万倍希釈した溶液を用いた。
【0223】
<ダニアレルギー患者血清中IgE抗体>
上記の方法でSDS-PAGEおよびメンブレンへの転写を行った後、メンブレンをblocking buffer(5% スキムミルク、1% BSA in PBST)に浸し、室温で4時間 振とうさせた。PBSTで5分間×5回洗浄した。
【0224】
1次抗体(ダニアレルギー患者血清:鷹の橋中央病院より提供)をblocking bufferでメンブレン1枚につき1mlとなるように10倍希釈した溶液にメンブレンをシールバック中で浸し、4℃で一晩インキュベートした。PBSTで5分間×5回洗浄した。
【0225】
2次抗体(anti-IgE(ε), Human, Goat-Poly, Biotin conjugate:VECTOR社製)をメンブレン1枚につき1mlとなるようにblocking bufferで150倍希釈した溶液にメンブレンをシールバック中で浸し、室温で2時間インキュベートした。PBSTで5分間×5回洗浄した。Horseradish peroxidase(HRP)-streptoavidin(ZYMED社製)をメンブレン1枚につき1mlとなるようにblocking bufferで2000倍希釈した溶液にメンブレンをシールバック中で浸し、室温で1時間インキュベートした。PBSTで5分間×5回洗浄し、メンブレンにECL-plus(GE healthcare社製)溶液をかけ、5分間 静置した。以下は上記の手順で現像を行った。
【0226】
(7.rDFA67特異抗体の作製)
(7−1)BALB/cマウスの免疫化
精製標品rDFA67を抗原として用いた。抗原溶液(200μg/ml in PBS) 50μlと等量のTiterMax Gold(フナコシ社製)をルアーロック式シリンジで混合して乳化し、抗原・アジュバント溶液(100μg/ml)を作製した。これをBALB/c マウス(6週齢、メス)の腹腔へ注射した。注射は2週間毎に同量の抗原量で行い、充分な抗体価が得られるまで繰り返し行われた。
【0227】
採血は眼底採血法で行った。マウスを少量のジエチルエーテルで麻酔し、眼底静脈よりEM マイスターへマトクリット毛細管を用いて採血を行い、採取した血液を4℃にて2,000rpm、20分間遠心分離し、上清の血清を回収し、使用するまで−30℃で保存した。
【0228】
(7−2)rDFA67抗血清の抗体価測定
抗体価の測定は、96穴プレート(NUNC, Rochester, NY, USA)を使用し、ELISA法により行われた。rDFA67を1μg/mlとなるように100mM Sodium bicarbonate buffer(pH9.6)で希釈し、50μl/wellとなるようにプレートにアプライし、室温で2時間静置することで抗原コートを行った。コート後のプレートをWashing bufferで3回洗浄した。
【0229】
Blocking buffer(3% skim milk/PBST)で1万倍希釈した免疫各週の抗血清を50μl/wellずつプレートにアプライし、室温で2時間静置した。静置後のプレートをWashing bufferで3回洗浄した。
【0230】
Blocking Bufferで1万倍希釈したBiotin-labeled anti-mouse IgGを50μl/wellとなるようにプレートにアプライし、室温で2時間静置した。6回洗浄後、Blocking Bufferで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidinを、50μl/wellとなるようにプレートにアプライし、室温で1時間静置した。6回洗浄後、AttoPhosTM(Promega社製)を50μl/wellとなるようにプレートにアプライし、CytoFluorTMII(PerSeptive Biosystems社製)にて蛍光強度を測定した。
【0231】
(8.質量分析)
(8−1)銀染色法
2次元電気泳動後のゲルをfixing solution(50%メタノール、10%酢酸)中で20分以上振盪し、固定化した。固定後、ゲル1枚当たり、50% メタノールで10分間振盪後、超純水で10分間 振盪し親水処理を行った。次にenhancing solution(0.005% Na223・5H2O)で1分間 振盪後、超純水で2回洗浄した。洗浄後staining solution(0.1% AgNO3)で20分間振盪後、超純水で2回洗浄した。洗浄後developing solution(HCHO 80μl、Na2CO3 4g/ 超純水 200ml)で発色させた。適度に発色したら、酢酸を適量入れ発色を停止させた。すぐに使用しないゲルはstock solution(5% グリセロール / 50% メタノール)に入れ、4℃で保存した。
【0232】
(8−2)ゲル内消化
銀染色の後、保存液に保存しておいたゲルからメスでスポットを切り出し、ゲルを1mm3程度にカットし、100mM ammonium bicarbonateで膨潤させた。working solution(30mM potassium ferricyanide:100mM sodium thiosulfate=1:1)を加えゲルの色が溶液の色(黄色)になるまでボルテックスミキサーに供した。
【0233】
溶液を除去し、超純水でゲルが透明になるまで洗浄した。100mM ammonium bicarbonateを加え10分間 ボルテックスミキサーに2回かけた。その後、CH3CNを加え10分間 ボルテックスミキサーに供し、100mM ammonium bicarbonateを加え10分間 ボルテックスミキサーに供した。さらにCH3CNを加え、10分間ボルテックスミキサーに2回かけて完全にゲルが白くなるまで脱水を行った。
【0234】
真空エバポレーターで20分間ゲルを乾燥させ、trypsin溶液(10ng/μl trypsin、40mM ammonium bicarbonate、10%CH3CN)もしくはAsp N溶液(5ng/μl Asp N, 100mM ammonium bicarbonate)をゲルに加え、室温で5分間インキュベートした。ゲルの内部までtrypsin溶液が浸透し、十分に膨潤したことを確認してtrypsin dijestive buffer(40mM ammonium bicarbonate、10%CH3CN)をゲルの半分程度加え、37℃で16〜24時間 インキュベートした。その後、50%CH3CN/5% HC00H 50μlで30分、50%CH3CN/5% HCOOH 25μlで30分、75%CH3CN/5% HCOOH 25μlで30分間ボルテックスミキサーに供し、ペプチドを抽出した。真空エバポレーターで20μl程度まで濃縮した。
【0235】
(8−3)Ziptip による脱塩
ZipTip(登録商標) C18(millipore社製)を、マニュアルに従って使用した。前処理液(50%CH3CN)を5分間ピペッティングして樹脂中の気泡を除去し、平衡化液(20% HCOOH)を5分間ピペッティングして樹脂を平衡化した。濃縮したサンプルをピペッティングにより樹脂に吸着させ、洗浄液(20% HCOOH)を5分間ピペッティングして塩を除去した。溶出液(50%CH3CN、5% HCOOH)15μlをシリコンで被覆した遠心チューブに分注しておき、5分間ピペッティングすることによりサンプルを溶出させた。真空エバポレーターで3分間濃縮し、最終サンプルとした。
【0236】
(8−4)Q-TOF型 nano-ESI MS/MS
高濃度に濃縮し脱塩したサンプルをGELoader Tip(Eppendorff社製)を用いてNano Tip(HUMANIX社製)にアプライし、先端にサンプルを集めた。装置(QSTAR(登録商標) Applied Biosystems社製)にセット後、適切な電圧でMS スペクトルを得た。強度の強く綺麗なスペクトルをさらにMS/MS解析を行った。得られたMS/MSスペクトルをBioAnalyst(Software)によって解析し、アミノ酸配列を得た。
【0237】
(9.酵素活性測定)
(9−1)DTTシステム
700μlスケールで150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、50mM dithiothreitol(DTT)、30mM tert-Butyl hydroperoxide、200ng rDFA67(またはBSA(negative control))を含む反応溶液を調製し、DTTを添加した時間を0分として310nmの吸光度を測定し、酸化型DTTの産生量を測定した(参考文献:Beckmann P. et al. Mite allergen. Clin. Allergy Immunol.(2008)21: 161-82.)。コントロールとしてblank溶液も調製した。
【0238】
(10.ダニアレルギー患者血清を用いたELISA)
rDFA67、Der f 2(positive control)を0.5μg/mlになるようにbicarbonate buffer(0.1M NaHCO3、pH9.2〜9.5)で希釈し、96 well ELISAプレート(NUNC社製)に50μlずつアプライし、室温で2時間静置して抗原をコートした。
【0239】
ELISA washing buffer(4mM Na2HPO4・12H2O、0.77mM NaH2PO4、150mM NaCl、0.05% Tween20)で3回洗浄後、Blocking buffer(3% スキムミルク、1% BSA in PBST)を300μl/well加え、室温で4時間静置した。
【0240】
ELISA washing bufferで3回洗浄後、ダニRAST≧3の患者血清をBlocking bufferで10倍希釈し、50μl/well加え、4℃で一晩インキュベートした(1次抗体)。
【0241】
ELISA washing bufferで3回洗浄し、Goat Anti-Human IgE Biotin Conjugated(Biosource社製)を用いBlocking bufferで1万倍希釈し、50μl/well加え室温で2時間静置した(2次抗体)。
【0242】
ELISA washing bufferで4回洗浄し、Alkaline Phosphatase-Conjugated Streptavidin(Jackson Immuno Research社製)をBlocking bufferで1000倍希釈し、50μl/well加え室温で1時間静置した。ELISA washing bufferで6回洗浄し、AttoPhos(登録商標)Substrateを50μl/well加え、15分間発色させた後、ELISA reader WALLAC ARVOTM SX(PerkinElmer, Inc.製)で435nmの吸光度を測定した。
【0243】
(11.変異型DFA67の作製)
(11−1)プライマーの設計
下記のような変異用プライマーを設計した。変異導入部位(TCT)の両側には約15塩基ずつの正常なDFA67塩基配列を付加した。ただし、M-primer 3に限っては二重変異部位がプライマーの5’末端部分と重複するため、M-primer 2で変異を導入した後のプラスミドをテンプレートとできるよう、変異後の配列を付加した。
M-primer 1:5’-GAT TTT ACT TTT GTA TCT CCA ACG GAA ATT ATT GCA T-3’(配列番号17)
M-primer 2:5’-TTC CGT AAA ATG AAC TCT GAA GTA ATC GCT TGT-3’(配列番号18)
M-primer 3:5’-TCT GAA GTA ATC GCT TCT TCA ACT GAT AGT AAA T-3’(配列番号19)
M-primer 4:5’-GTA CAT GGT GAA GTT TCT CCA GTT AAT TGG AAA CCA GG-3’(配列番号20)
(11−2)プライマーの5’リン酸化
購入した上記プライマーは、5’末端がリン酸化されていないため、T4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ株式会社製)を用いて5’末端にリン酸基を付加した。下記の組成の反応液を37℃のwater bathで1時間インキュベートした。
【0244】
<反応液組成>
10×T4 Polynucleotide Kinase Buffer 1μl、100mM ATP 1μl、T4 Polynucleotide Kinase(10U/μl) 1μl、滅菌超純水 3μl、Primer(50μM) 4μl、(合計10μl)
(11−3)Polymerase、Ligase反応
AMAPTMMulti Site-Directed Mutagenesis Kit(MBL(登録商標) International Corporation製)を用いてPCRを行い、DFA67に変異を導入した。反応液組成、反応条件を以下に示す。PCR終了後、反応溶液全量にDpnI 0.5μlを加え、室温で10分間インキュベートした。
【0245】
<反応液組成>
リン酸化プライマー(20mM) 2μl、10×PCR Buffer with MgSO4 1.25μl、pfu DNA polymerase(Fermentas社製) 0.5μl、10×Ligase Buffer 1.25μl、dNTPs 0.5μl、DNA ligase 0.5μl、Template DNA(30ng/μl) 3μl、滅菌超純水 16μl、(合計25μl)。
【0246】
<反応条件>
65℃×5分の後、95℃×2分間とし、その後95℃×20秒間→55℃×20秒間→65℃×10分間を25サイクル行った後、75℃×7分間とし、その後4℃一定とした。
【0247】
(11−4)変異型プラスミドの取得
反応後の溶液全量にE.coli DH5αコンピテントセル100μl)を加え、前述の方法で形質転換した。シングルコロニー約10個をピックアップし、5ml LB液体培養を行い、前述の方法でプラスミドを抽出した。これらをT7 promoter -1またはSP6 promoter -1を用いて前述の方法でDNAシークエンシングを行った。
【0248】
(11−5)変異型rDFAの発現および精製
変異導入を確認したプラスミドを用いて、前述の方法でE.coli rosetta-gamiに形質転換し、変異型rDFA67を発現および精製した。
【0249】
(11−6)変異体の解析
前述の方法でSDS-PAGEを行い、銀染色および患者血清を用いた免疫染色を行った。
【0250】
〔結果〕
(1.DFA67およびDFA67のisoformの全長遺伝子配列取得と一次構造解析)
取得されたDFA67の全長塩基配列を図1に示す。DFA67の全長塩基配列長は1079bp、ORFは594bpであった。図1に示されたDFA67の全長塩基配列を配列番号23に示す。DFA67の塩基配列から推定されるアミノ酸数は198アミノ酸で、その理論分子量は22.4kDa、理論等電点は5.76であった。
【0251】
得られたアミノ酸配列を元に相同性検索(BLAST検索)を行ったところ、動物のPrx(Peroxiredoxin)と高い相同性を有していることが分かった(図2を参照のこと)。DFA67と相同性が高かったタンパク質のアミノ酸配列を配列番号24〜28にそれぞれ示す。また、高度に保存された3つのシステイン残基が存在していた。これらの配列を用いて系統樹を作製したところ、DFA67はダニやハエなどの無脊椎動物のPrxよりも、ヒトやサルなどの脊椎動物のPrxと近縁であることが分かった(図3を参照のこと)。
【0252】
RACE PCRの際、偶然DFA67のisoformと思われる配列が得られた。そこで、その配列を元にプライマーを設計し、再度RACE PCRを行いisoformの全長遺伝子配列を取得した(図4を参照のこと)。isoformの全長遺伝子配列は910bpで、ORFは783bpであった。図3に示されたisoformの全長塩基配列を配列番号29に示し、ORFの塩基配列を配列番号4に示す。また、推定アミノ酸数は261アミノ酸で、N末端に28アミノ酸からなるシグナル配列を有している可能性が高いことが分かった。シグナル配列を除く理論分子量は26.5kDaで、理論等電点は5.9であった。図3に示されたisoformのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0253】
この推定アミノ酸配列を元に相同性検索(BLAST検索)を行ったところ、様々な生物種のPrxと高い相同性を有していることが分かった(図5を参照のこと)。Isoformと相同性が高かったタンパク質のアミノ酸配列を配列番号30〜34にそれぞれ示す。また、これらの配列を元に系統樹を作製したところ、isoformは哺乳類のPrxよりもダニやカエルのPrxと近縁であることが分かった(図6を参照のこと)。
【0254】
(2.大腸菌発現系によるrDFA67およびisoformの発現と精製)
(2−1)rDFA67の発現および精製、並びにrDFA67と患者血清中IgEとの反応性
DFA67の免疫化学的特性を調べるにあたって、発現ベクターとしてTF融合タンパク質として低温発現が可能なpCold TF DNAを、宿主としてジスルフィド結合形成能が強化されたE.coli Rosetta-gamiを用いてrDFA67の可溶性発現を試みた。図7にその結果を示す。図7(a)はSDS−PAGE後にゲルを銀染色した結果を示し、レーン1は分子量マーカーであり、レーン2はpCold TFで形質転換が行われた大腸菌の可溶性画分であり、レーン3はpCold TF-rDFA67で形質転換が行われた大腸菌の可溶性画分であり、レーン4はレーン3の可溶性画分についてHis-tagアフィニティー精製を行った後のサンプル、レーン5はレーン4のサンプルをthrombin消化した後のサンプル、レーン6はレーン5のサンプルをHis-tagアフィニティー精製した後のサンプルの結果である。また図7(b)は、最終精製標品を患者血清IgEで免疫染色した結果である。
【0255】
発現させたTF−rDFA67をSDS-PAGEで確認したところ、理論分子量(TF 57kDa+rDFA67 22.4kDa)付近に強いバンドを確認することができた(図7(a)のレーン3を参照のこと)。
【0256】
続いてHis-tagを用いたアフィニティー精製を行ってTF−rDFA67を取得し、ThrombinによりTFを切り離した(図7(a)のレ−ン4および5を参照のこと)。再びHis-tagアフィニティー精製を行うことによりTFを除去し、rDFA67の最終精製標品を取得した(図7(a)のレ−ン6を参照のこと)。1mlの菌体培養液から約3μgのrDFA67が得られた。
【0257】
また、ダニアレルギー患者血清を用いた免疫染色を行ったところ、血清中IgEと強く反応することが分かった(図7(b)を参照のこと)。
【0258】
(2−2)DFA67 isoformの発現および精製、並びにDFA67 isoformと患者血清中IgEとの反応性
図8(a)に発現させたDFA67のisoformをSDS−PAGE後に銀染色した結果を示す。図8(a)のレーン1は分子量マーカーであり、レーン2はpCold TFで形質転換が行われた大腸菌の可溶性画分であり、レーン3はpCold TF-isoform(+signal)で形質転換が行われた大腸菌の可溶性画分であり、レーン4はpCold TF-isoformで形質転換が行われた大腸菌の可溶性画分であり、レーン5はレーン3の可溶性画分についてHis-tagアフィニティー精製を行った後、thrombin消化した後のサンプル(isoform(+signal)の粗精製標品)、レーン6はレーン4の可溶性画分についてHis-tagアフィニティー精製を行った後、thrombin消化した後のサンプル(isoformの粗精製標品)の結果である。また図8(b)はisoform(+signal)の粗精製標品(レーン1)、およびisoformの粗精製標品(レーン2)について患者血清IgEで免疫染色した結果を示す。
【0259】
isoformはN末端に28アミノ酸のシグナル配列を有しており、これがアレルゲン活性に関与している可能性を考慮して、シグナル配列を付加したものと除去したものとを同時に作製し、His-tagアフィニティー精製後にthrombin消化した粗精製標品を取得した(図8(a)レーン5および6の矢印部分を参照のこと)。また、これらの粗精製標品を用いてダニアレルギー患者血清免疫染色を行ったところ、シグナル配列を付加した場合も、除去した場合もIgE反応性は見られなかった(図8(b))。
【0260】
(3.天然型DFA67とrDFA67との同等性の確認)
(3−1)anti-rDFA67抗血清を用いた二次元免疫染色
作製したrDFA67と天然型DFA67(「nDFA67」という)との同等性を確認するため、BALB/cマウスを免疫化し、rDFA67に対する特異抗血清を取得した。それを用いてDfbの二次元免疫染色を行った。
【0261】
その結果を図9に示す。図9(a)は銀染色を行った結果であり、(b)はanti-rDFA67抗血清で免疫染色を行った結果を示し、(c)anti-rDFA67抗血清+anti-Derf2ポリクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示し、(d)はネガティブコントロール(免疫化前の血清)を用いた免疫染色を行った結果を示す。
【0262】
ポジティブコントロールであるDerf2の位置と比較し、anti-rDFA67抗血清によって得られたスポットはSpot 66、67、68、69であると推定された(図9(b)矢印参照)。なおSpot 66および67がDFA67に相当する。
【0263】
(3−2)質量分析によるアミノ酸配列の確認
rDFA67のアミノ酸配列を確かめるため、Q-TOF型nano ESI MS/MSにより解析を行った結果を図10に示す。図10(a)はnDFA67の結果であり、(b)はrDFA67の結果である。rDFA67からはnDFA67と同様のMSピークが確認された。またrDFA67についてスペクトル中の3つのピークを選択し、MS/MS解析を行ったところ、DFA67の塩基配列から推定されるアミノ酸配列と完全に一致した(図10(c))。図10(c)に表示されたアミノ酸配列を配列番号35〜40に示す。
【0264】
(4.酵素活性)
(4−1)DTTシステムによるperoxidase活性測定
DTTを用いたperoxidase活性測定システムでrDFA67の酵素活性について調べた結果を図11に示す。rDFA67またはBSAによって酸化されたDTTの量を310nmの吸光度から測定したところ、blankにおいてDTTが自然酸化されるのと比較して、rDFA67では酸化型DTTの量が有意に増加していたため、rDFA67はperoxidase活性を有していることが示唆された。
【0265】
(5.rDFA67の免疫化学的特性)
(5−1)患者血清IgEに対する反応性
ダニに対するRAST値が3〜6の患者29検体について血清中のrDFA67特異IgE量をELISA法により測定した結果を図12に示す。健常者の血清7検体の平均値に標準偏差の3倍を加えた値を図12中に破線で示しており、これよりも高い場合を陽性と判断した。その結果、29検体中14検体が陽性、すなわちrDFA67のダニアレルギー患者との反応頻度は48.3%であるということが分かった。
【0266】
(5−2)非還元状態におけるIgE反応性
還元状態(「還元型」ともいう)のrDFA67と非還元状態(「非還元型」ともいう)のrDFA67とを用いて、ダニアレルギー患者血清を用いた免疫染色を行い、IgE反応性を調べた結果を図13に示す。図13(a)は銀染色の結果であり、レーン1はLMW marker、レーン2は還元状態のrDFA67、レーン3は非還元状態のrDFA67をそれぞれ示す。また図13(b)はダニアレルギー患者血清IgEで免疫染色を行った結果であり、レーン1は還元状態のrDFA67、レーン2は非還元状態のrDFA67をそれぞれ示す。
【0267】
非還元状態のrDFA67は還元状態のrDFA67の約2倍の分子量にバンドがシフトしており、rDFA67は二量体を形成していることが示唆された(図13(a))。また、この実験に使用された患者のIgEに対しては、非還元状態のrDFA67では結合性が見られなかった。
【0268】
(5−3)質量分析による立体構造予測
rDFA67がジスルフィド結合を介してどのような立体構造を取っているのかを確認するため、還元(カルバミドメチル化)状態および非還元状態のrDFA67をSDS−PAGEにより分離し、得られたバンドをゲルから切り出し、Asp Nでゲル内消化してQ-TOF型nano ESI MSによりピークを解析した。還元状態のrDFA67のMSスペクトルを図14に示し、非還元状態のrDFA67のMSスペクトルを図15に示す。
【0269】
還元状態と非還元状態とのMSスペクトルには相違が見られた。非還元状態のrDFA67のMSピークにおいて観測された分子量から、非還元状態ではCys52とCys172、およびCys71とCys76がジスルフィド結合を形成していることが示唆された(図16(a))。図16(b)に非還元状態のrDFA67の立体構造の予想図を示す。
【0270】
(6.変異型rDFA67のIgE反応性)
システイン残基とIgE結合性との関係を明らかにするため、Cys 52/172 Ser変異体、Cys 71/76 Ser変異体、Cys 52/71/76/172 Ser変異体を作製し、非還元状態および還元状態におけるIgE結合性を免疫染色によって解析した。その結果を図17に示す。
【0271】
図17(a)は還元状態における銀染色の結果を示し、レーン1はLMW marker、レーン2はrDFA67、レーン3はCys 52/172 Ser 変異型rDFA67、レーン4はCys 71/76 Ser 変異型rDFA67、レーン5はCys 52/71/76/172 Ser 変異型rDFA67を示す。図17(b)は還元状態におけるダニアレルギー患者血清IgE免疫染色の結果を示し、レーン2はrDFA67、レーン3はCys 52/172 Ser 変異型rDFA67、レーン4はCys 71/76 Ser 変異型rDFA67、レーン5はCys 52/71/76/172 Ser 変異型rDFA67を示す。
【0272】
図17(c)は非還元状態における銀染色の結果を示し、レーン1はLMW marker、レーン2はrDFA67、レーン3はCys 52/172 Ser 変異型rDFA67、レーン4はCys 71/76 Ser 変異型rDFA67、レーン5はCys 52/71/76/172 Ser 変異型rDFA67を示す。図17(d)は非還元状態におけるダニアレルギー患者血清IgE免疫染色の結果を示し、レーン2はrDFA67、レーン3はCys 52/172 Ser 変異型rDFA67、レーン4はCys 71/76 Ser 変異型rDFA67、レーン5はCys 52/71/76/172 Ser 変異型rDFA67を示す。
【0273】
Cys 71/76 Ser変異型rDFA67とCys 52/71/76/172 Ser変異型rDFA67とにおいては還元状態でも2本バンドが見られた(図17(a)および(c)を参照のこと)。質量分析により、そのアミノ酸配列を調べた。その結果を図18に示す。図18の結果から、低分子量側のバンドは変異体の分解物である可能性が示唆された。分子量から推測すると、この分解物はN末端の8残基(約1kDa)がThrombinによって欠落したものであると考えられる。なお図18に表示されているアミノ酸配列を配列番号41〜43に示す。
【0274】
どの変異体も、非還元状態で分子量が変化していないことから、単量体になっているものと考えられた(図17(a)および(c)を参照のこと)。図17(c)ではCys 71/76 Ser変異型rDFA67は複数のバンドが見られているが、これは二量体形成に重要なCys52とCys172が残っているがCys71とCys76が存在していないことにより立体構造が乱れたためであると考えられる。
【0275】
IgE免疫染色においては、還元状態ではrDFA67および全ての変異型rDFA67でIgE結合性が見られた(図17(b))。しかしながら、非還元状態ではジスルフィド結合を形成していないCys 52/71/76/172 Ser変異体のみがIgE結合性を有していた(図17(d))。さらに、変異体の分解物と思われるバンドは還元状態でもIgE結合性を有していなかったため、N末端がIgE結合性に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
【0276】
〔総括〕
本発明では、二次元電気泳動によるIgE免疫染色でダニアレルギー患者の血清と67.5%の反応頻度を示したDFA67を新規アレルゲンとして見出した。そしてこのDFA67の免疫化学的な特性を調査した。DFA67は二次元電気泳動で等電点5〜5.5、分子量25kDaに分離される分子で、存在量は少ないものの、IgE反応頻度の高さから重要なアレルゲンであると考えられる。
【0277】
本発明者らは、質量分析によりDFA67のtrypsin消化物のMSスペクトルが得られ、さらにMS/MSを行うことによりDFA67の部分アミノ酸配列を得た。この部分アミノ酸配列をD.farinaeのTotal cDNA libraryのシークエンスタグをデータベースとしたBLAST検索にかけて得られた配列DF1625とDF538を繋げた配列を用いて相同性検索を行ったところ、Black-legged tickのTrx peroxidaseや、BovineやMouseなどの哺乳類に見られるPrx-4と高い相同性を有していた。しかし、完全に一致するタンパク質はデータベース上には存在せず、新規アレルゲンであることが示唆された。
【0278】
得られたアミノ酸配列からプライマーを設計し、D.farinae cDNAをテンプレートにした5’および3’ RACE PCRによってDFA67の全長遺伝子配列の単離に成功した(図1を参照のこと)。DFA67の推定アミノ酸配列について相同性検索を行ったところ、図2および3に示すように主に動物のPrxと高い相同性を有していることが分かった。PrxはTrxを電子供与体として過酸化水素を水へと還元する酵素で、バクテリアから高等動物に至るまで高度に保存されている。TrxやPrxは生体に有害な活性酸素種を除去する機能を有していることから、生体を酸化ストレスから保護するだけでなく、さまざまな生体応答を活性酸素の消去と特異的な標的分子との相互作用を介して制御していることが知られている。また、これらは細胞外に分泌されることによっても抗酸化や抗炎症作用を発揮し、細胞の内外から生体の保護を行うユニークな因子であるとされている。またさまざまな疾患において酸化ストレスの関与が明らかにされており、同時にこのような内因性の還元酵素群が酸化ストレス関連疾患に対して治療効果をもつことが示されつつある(参考文献:岡新一、淀井淳司(2006) チオレドキシンとペルオキシレドキシン−チオレドキシンによるレドックス制御: 医学のあゆみ Vol. 218, No. 1, 25-29)。
【0279】
酸化性ストレスの一つであるアレルギーに対して本来治療効果を有すると考えられるPrxに高い相同性を有するDFA67が、アレルゲン性を有しているということは、非常に興味深いものである。つまり、DFA67が新規ダニアレルゲンであることは、当業者に到底予想することができない結果であるといえる。
【0280】
Prxはホモロジーや機能から少なくとも5つのサブファミリーに分類することができ、DFA67はtypeIとtypeIIのPrxに、isoformはtypeIVのPrxに高い相同性が見られた(図2および5を参照のこと)。PrxにはN末端に近い部分にFTFVCPTE(配列番号21)というシステインを含み高度に保存されたドメインと、やや保存性は低いがC末端側に近い部分にGEVCP(配列番号22)という同じくシステインを含むドメインを有しており、前者のシステイン残基は活性に必須であり、後者はTrxと作用して活性を発揮する場合には必要とされる(参考文献:坂内四郎(2000) ペルオキシレドキシン−新しい生体抗酸化システム: 化学工業 5月号 27-3127)。
【0281】
DFA67がシステイン残基により保持される酵素活性によりアレルゲン性を有している可能性を視野に入れ、DFA67の詳細な免疫化学的な特性を解明する際に、天然型と同等の立体構造の保たれた組み換え型アレルゲン(rDFA67)を取得する必要があると考えた。そこで、発現ベクターに分子シャペロン(TF)融合タンパク質として低温発現が可能なpCold-TF DNAを、宿主にジスルフィド結合形成能が強化されたE.coli Rosetta-gamiを用いてrDFA67を発現させ、患者血清IgEと強く反応するrDFA67を取得した(図7を参照のこと)。菌体培養液1mlから約3μgのrDFA67を取得した。
【0282】
一方、isoformについてはHis-Tagアフィニティー精製を行い、thrombinでTFを切り離した粗精製品を取得したが、患者血清IgEとは全く反応しなかった(図8を参照のこと)。このことから、ダニアレルギーに関与するPrxはPrxIまたはPrxIIのグループに属しているものであることが推測された。
【0283】
rDFA67が天然型DFA67と同等の物であるかを確認するため、BALB/cマウスを免疫化し、rDFA67に対する特異抗血清を作製した。それを用いたDfbの二次元免疫染色の結果、Spot 66、67、68、69がanti-rDFA67抗血清と反応していた(図9を参照のこと)。Spot 66、68、69は質量分析によりSpot 67(DFA67に相当)のisoformである可能性が示唆された。また、rDFA67のアミノ酸配列をQ-TOF型nano ESI MS/MSで解析したところ、すべてDFA67遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列と完全に一致し(図10を参照のこと)、天然型DFA67と同等のアレルゲンが発現できたと判断した。
【0284】
PrxはN末端側とC末端側の保存されたシステイン残基が存在し、酸化状態ではそれが二分子間でジスルフィド結合した逆位の二量体を形成しており、Trxを電子供与体として還元され、過酸化水素を水へと還元することで自身は再び酸化されるという酸化還元サイクルを有していると考えられている。そこで、電子供与体としてDTTを、電子受容体としてt-Butyl hydroperoxideを用いたperoxidase活性測定系でrDFA67の酵素活性を測定したところ、rDFA67はperoxidase活性を有していることが分かった(図11を参照のこと)。
【0285】
またダニアレルギー患者血清を用いたELISAの結果、rDFA67はダニアレルギー患者血清中IgEと48.3%の反応頻度を示した(図12を参照のこと)。この結果は、二次元電気泳動で見られた天然型DFA67の反応頻度67.5%と比較して低い値となっている。これはグラム陰性菌である大腸菌で発現させているため、糖鎖修飾等の翻訳後修飾が行われず、アレルゲン活性が下がっていることが原因かもしれない。また、分子内もしくは分子間ジスルフィド結合形成によるIgE反応性の相違や、ブロットによる構造変化など、様々な要因が考えられる。しかし、アレルギー患者の中にはmajor allergenだけではなくminor allergenにも強く反応する患者が存在していることが明らかとなっており、これらの患者にとってはminor allergenも無視できない存在である。つまり、DFA67も重要なダニアレルゲンの一つであると言える。
【0286】
前述の通りrDFA67はperoxidase活性を有していたことから、酸化状態では二量体となっていることが示唆された。そこで、還元剤を加えない酸化状態(非還元状態)のrDFA67をSDS-PAGEにより分離したところ、還元状態のrDFA67の約二倍の分子量となっており、予想通り二量体を形成していることが示唆された(図13を参照のこと)。また、興味深いことにダニアレルギー患者血清を用いて免疫染色を行ったところ、酸化型(非還元型)rDFA67はダニアレルギー患者血清中IgEとの反応性が全く見られなかった(図13を参照のこと)。さらに、還元状態および非還元状態rDFA67のMSスペクトルを比較することによって、rDFA67は非還元状態でC52とC172、C71とC76がそれぞれジスルフィド結合を形成した二量体となっていることが示された(図14-16を参照のこと)。このことから、非還元状態では二量体を形成しエピトープ部分が覆い隠されている可能性や、四つ存在する分子内システインのいずれかがIgE結合性に関与している可能性が考えられる。
【0287】
分子内システイン残基がIgE結合性に関与しているのかを明らかにするため、部位特異的変異導入法を用いて分子内システイン残基をセリンで置換した変異体を作製することにした。先ほどから述べているように、PrxはN末端側およびC末端側のシステイン残基が酵素活性に重要な役割を果たしていることから、まずCys52とCys172の2つを変異させた変異体を作製した。この変異体はシステイン残基を欠いているため、野生型のような二量体を形成することができず、単量体になると予想された。さらに、Cys71とCys76をSerで置換した変異体と、4つ全てのCysをSerで置換した変異体も作製した。これらの変異体をSDS-PAGEで分離したところ、どの変異体も非還元状態で理論分子量付近にバンドが確認でき、単量体になっていることが示唆された(図17を参照のこと)。しかし、非還元状態では全てのCysをSerで置換した変異体のみ患者血清IgE結合性を示した(図17)。この結果から、システイン残基が直接のエピトープである可能性は低く、分子間および分子内ジスルフィド結合形成によりエピトープが覆い隠される、もしくは一次構造をIgEが認識しているという可能性が考えられた。
【0288】
Cys 71/76 Ser変異体とCys 52/71/76/172 Ser変異体とは還元状態で2本のバンドが見られるが、そのアミノ酸配列を調べた結果、下のバンドは変異体の分解物であると推察された(図18を参照のこと)。分子量から推定すると、このバンドはN末端の8残基(約1kDa)がThrombinによって消化されたものである可能性が示唆された。興味深いことに、この分解物はIgE反応性を有しておらず、この仮説が正しければ、IgEはrDFA67のN末端を認識する、もしくはN末端が存在することによる何らかの立体構造を認識する可能性が考えられた。
【0289】
本発明によって、全生物種において初めてPrxに相同性を有するアレルゲンDFA67の存在が明らかとなった。また、大腸菌を用いてrDFAを作製したところ、分子内および分子間ジスルフィド結合形成によりIgE反応性が低下する場合があるという非常にユニークな挙動を見せた。ハウスダスト等に含まれる天然型DFA67が二量体を形成していると仮定すると、感作の段階でDFA67特異抗体がどのように産生されるのか(例えば、ヒトに感作する時に抗原提示細胞によって単量体特異的な部位が認識され、DFA67特異抗体が作製される)については非常に興味深い。
【産業上の利用可能性】
【0290】
本発明は、アレルギー性疾患を示す患者に対して高頻度に反応する新規ダニアレルゲンタンパク質を提供する。よって本発明は、アレルギー治療薬(テーラーメード治療薬等)や予防薬の開発や、アレルギー診断(迅速・高感度アレルギー診断システム等)の分野において利用される。また、ダニアレルギーの基礎的研究においても奏効するため、ダニアレルギー疾患の根絶にも寄与し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、アレルゲン活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項3】
下記の(c)または(d)であることを特徴とする請求項2に記載のポリヌクレオチド:
(c)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)以下の(i)または(ii)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(ii)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターで形質転換されてなる形質転換体。
【請求項6】
請求項1に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質を含有することを特徴とするダニアレルギー性疾患治療薬。
【請求項8】
請求項1に記載のタンパク質を含有することを特徴とするダニアレルギー性疾患の診断キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図18】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図13】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2011−62098(P2011−62098A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213628(P2009−213628)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【Fターム(参考)】