説明

新規デンドリマー及びその用途

【課題】特にカーボンナノチューブ用分散剤として好適な新規デンドリマーを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるデンドリマー。




[式中、Aの両側にある括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は繰返し結合されていてもよく、Aは、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基又は上記一般式(2)で示される2価の有機基から選択されるコアユニットであり、[式中、Rは炭素数4〜20の2価の脂肪族炭化水素基であり、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1〜20の整数である。];Bは、分岐ユニットであり;Cは、延長ユニットであり;Dは、末端ユニットであり;Xは、任意の構成単位であり、炭化水素基以外の2価の置換基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤として有用な新規デンドリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブに代表される炭素材料、特にカーボンナノチューブ薄膜に期待される用途は広く、例えば、半導体色素としての性質を利用した太陽電池用薄膜、導電性を利用した透明電極用薄膜、生体適合性を利用したバイオインターフェース薄膜などの研究開発が行われている。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(以下「SWNTs」と略記することがある)、二層カーボンナノチューブをはじめとする比較的安価で導電性の高い多層カーボンナノチューブ(以下「MWNTs」と略記することがある)、ピーポッドと呼ばれる分子内包カーボンナノチューブなどに分類される。分子内包カーボンナノチューブは、様々な分子を内包することができ、半導体的な性質を自在にチューニングすることが可能なことから次世代の半導体材料として期待されている。
【0003】
ここで、カーボンナノチューブは炭素材料特有の高い凝集力のため分散性や混和性が低いことが知られている。カーボンナノチューブの分散性や混和性を向上させる方法として、非特許文献1には、ドデシルスルホン酸ナトリウムに代表される低分子界面活性剤を分散剤として用いることが記載されている。また、ポリマーとの相互作用を利用するポリマーラッピングと呼ばれる方法(非特許文献2)やポルフィリン誘導体とカーボンナノチューブ表面とのπ−π相互作用によりカーボンナノチューブを可溶化させる方法(非特許文献3)等も知られている。
【0004】
しかしながら、これら非特許文献に記載された方法では、長さが1μm未満のカーボンナノチューブ(以下「短いカーボンナノチューブ」と略記することがある。)や、直径が0.8〜1.2nm未満の範囲にあるカーボンナノチューブ(以下「細いカーボンナノチューブ」と略記することがある。)を分散することはできても、長さが1μm以上のカーボンナノチューブ(以下「長いカーボンナノチューブ」と略記することがある。)、分散剤との相互作用が比較的弱いとされる直径が1.2〜1.8nmの範囲にある直径の大きなカーボンナノチューブ(以下「太いカーボンナノチューブ」と略記することがある。)、二層カーボンナノチューブをはじめとする多層カーボンナノチューブ、及びピーポッドと呼ばれる分子内包カーボンナノチューブ等を高濃度でかつ安定的に分散することが困難であった。特に、カーボンナノチューブ薄膜を透明電極として用いる場合には、高い導電性が要求される観点から長いカーボンナノチューブが分散されたカーボンナノチューブ薄膜が望まれていた。
【0005】
上記ポリマーラッピングによる分散は、比較的多くのカーボンナノチューブに適用できるとされているが、この方法ではカーボンナノチューブのバンドル構造をバラバラにすることは困難で、分散の際にバンドル構造が保たれたままであるとされている。したがって、透明電極など、高濃度での分散かつカーボンナノチューブを一本一本バラバラにした形での分散状態が要求される用途への応用が困難であった。
【0006】
このように、上述の低分子界面活性剤を分散剤として用いる方法やポリマーラッピングによる分散では、カーボンナノチューブ表面への分散剤の吸着を厳密にコントロールすることが難しく、また、超分子複合体と呼ばれるカーボンナノチューブが低分子分散剤や高分子分散剤で包まれた状態において、カーボンナノチューブ表面に存在する官能基やその官能基密度を制御することも困難であった。
【0007】
また、本発明者らは、カーボンナノチューブの分散性や混和性を向上させる観点から、狙い通りの官能基を表面に多数配置することが可能なデンドリマー型分散剤について報告している。具体的には、アントラセン骨格を焦点部位に持つポリアミドアミンデンドロン(非特許文献4)、フラーレン骨格を焦点部位に持つポリアミドアミンデンドロン(非特許文献5)、ドデカメチレン骨格をコアに持つポリアミドアミンデンドリマー(非特許文献6)等のデンドリマー型分散剤について報告しており、単層カーボンナノチューブの分散が可能である。しかしながら、デンドリマー型分散剤を用いた場合であっても、多層カーボンナノチューブをはじめ、長いカーボンナノチューブや太いカーボンナノチューブの分散は困難であるとともに、アントラセンやフラーレン等を焦点部位として用いた場合にはコスト高となる問題もあり、改善が望まれていた。
【0008】
一方、カーボンナノチューブ薄膜を作製するにあたっては、ピロリジン誘導体を用いてカーボンナノチューブに化学修飾を施す方法(非特許文献7)、やカーボンナノチューブとポリマーとを複合化する方法(非特許文献8)等が報告されている。しかしながら、カーボンナノチューブ表面に化学反応等により官能基を導入することによって分散性を向上させる方法では、官能基の導入や反応後の処理に多くの手間がかかるためプロセスが煩雑になるとともに、コスト高となる問題があった。また、カーボンナノチューブとポリマーとを複合化する方法では、高濃度での分散が困難であるとともに、膜厚を薄くすることが難しいという問題があった。更に、カーボンナノチューブ薄膜を多層化する技術として、プラズマ処理により膜表面の親和性を高める方法(非特許文献9)等が提案されているが、大面積の処理が困難であるとともに、コスト高となる問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hong-Zhang Geng et al.,Absorption spectroscopy of surfactant-dispersed carbon nanotube film:Modulation of electronic structures, Chem. Phys. Lett. 2008, 455, p.275-278
【非特許文献2】Wenhui Yi et al., Thethird-order optical nonlinearities of carbon nanotube modified conjugatedpolymer in the femtosecond and nanosecond regimes, J. Appl. Phys. 2006, 100,094301
【非特許文献3】Jinyu Chen et al., NoncovalentFunctionalization of Single-Walled Carbon Nanotubes with Water-SolublePorphyrins, J. Phys. Chem. B 2005, Vol.109, No.16, p.7605-7609
【非特許文献4】Atula S. D. Sandanayaka et al.,Light-induced Electron Transfer on the Single Wall Carbon Nanotube Surroundedin Anthracene Dendron in Aqueous Solution, Chem. Lett. 2006, Vol.35, No.10,p.1188-1189
【非特許文献5】Yutaka Takaguchi et al.,Fullerodendron-assisted Dispersion of Single-walled Carbon Nanotubes viaNoncovalent Functionalization, Chem. Lett. 2005, Vol.34, No.12, p.1608-1609
【非特許文献6】池内亮太他,「アルキル鎖をコアに持つポリアミドアミンデンドリマーを用いた単層カーボンナノチューブの可分散化」,2008年,第57回高分子討論会,No.2,p.3183
【非特許文献7】Viviana Lovat et al., CarbonNanotube Substrates Boost Neuronal Electrical Signaling, Nano Lett. 2005,Vol.5, No.6, p.1107-1110
【非特許文献8】Ronald H. Schmidt et al., TheEffect of Aggregation on the Electrical Conductivity of Spin-CoatedPolymer/Carbon Nanotube Composite Films, Langmuir 2007, Vol.23, No.10, p.5707-5712
【非特許文献9】Sumit Chaudhary et al.,Hierarchical Placement and Associated Optoelectronic Impact of Carbon Nanotubesin Polymer-Fullerene Solar Cells, Nano Lett. 2007, Vol.7, No.7, p.1973-1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、分散性に優れた界面活性剤、特にカーボンナノチューブ用分散剤として好適な新規デンドリマーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、下記一般式(1)で示されるデンドリマーを提供することによって解決される。
【化1】

[式中、Aの両側にある括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は繰返し結合されていてもよく、
Aは、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基又は下記一般式(2)で示される2価の有機基から選択されるコアユニットであり、
【化2】

[式中、Rは炭素数4〜20の2価の脂肪族炭化水素基であり、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1〜20の整数である。];
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基から選択される少なくとも1種からなる分岐ユニットであり;
Cは、酸素原子又は2価の有機基から選択される少なくとも1種からなる延長ユニットであり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、及びポリエチレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基からなる末端ユニットであり;
Xは、任意の構成単位であり、炭化水素基以外の2価の置換基である。]
【0012】
このとき、一般式(1)で示されるデンドリマーからなる界面活性剤が好適な実施態様であり、このような界面活性剤からなるカーボンナノチューブ用分散剤が好適な実施態様である。また、一般式(1)で示されるデンドリマーを分散剤として用いるカーボンナノチューブの分散方法も好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、一般式(1)で示される新規デンドリマーを提供することができる。こうして得られたデンドリマーは、分散性に優れているため界面活性剤として好適に用いられ、カーボンナノチューブ用分散剤としてより好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SWNTs分散溶液を作製する際のフローチャートである。
【図2】SWNTs分散溶液の写真である。
【図3】デンドリマーの種類を変えてSWNTsを分散した際の可視近赤外吸収スペクトル図である。
【図4】単層カーボンナノチューブ薄膜のラマンスペクトル図である。
【図5】単層カーボンナノチューブ薄膜のAFM画像である。
【図6】SWNTsをTHF中で分散した際の可視近赤外吸収スペクトル図である。
【図7】MWNTs分散溶液、及びMWNTs/PVA複合膜を作製する際のフローチャートである。
【図8】MWNTs分散溶液の写真である。
【図9】MWNTsを水中で分散した際の可視近赤外吸収スペクトル図である。
【図10】MWNTs/PVA複合膜の写真である。
【図11】MWNTs/PVA複合ゲルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のデンドリマーは、下記一般式(1)で示されるものであり、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基又は下記一般式(2)で示される2価の有機基から選択されるコアユニットを有する。このようなコアユニットを有する下記一般式(1)で示されるデンドリマーは新規化合物である。
【0016】
【化3】

[式中、Aの両側にある括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は繰返し結合されていてもよく、
Aは、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基又は下記一般式(2)で示される2価の有機基から選択されるコアユニットであり、
【化4】

[式中、Rは炭素数4〜20の2価の脂肪族炭化水素基であり、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1〜20の整数である。];
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基から選択される少なくとも1種からなる分岐ユニットであり;
Cは、酸素原子又は2価の有機基から選択される少なくとも1種からなる延長ユニットであり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、及びポリエチレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基からなる末端ユニットであり;
Xは、任意の構成単位であり、炭化水素基以外の2価の置換基である。]
【0017】
上記一般式(1)において、Aは、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基又は上記一般式(2)で示される2価の有機基から選択されるコアユニットである。Aがこのようなコアユニットであることにより、上記一般式(1)で示されるデンドリマーを界面活性剤として用いた際に優れた分散性を示すこととなる。特に、カーボンナノチューブ用分散剤として用いた場合には、細いカーボンナノチューブや短いカーボンナノチューブを分散できるだけでなく、太いカーボンナノチューブや長いカーボンナノチューブの分散性に優れるとともに、多層カーボンナノチューブの分散性にも優れる。このことは、本発明のデンドリマーが主鎖の鎖長が一定以上であるコアユニットを有することにより、カーボンナノチューブ表面との相互作用が強くなる効果を有し、その結果優れた分散性を示すためであると本発明者らは推察している。
【0018】
主鎖の鎖長が20未満の場合、分散性が低下するおそれがあり、特に太いカーボンナノチューブや長いカーボンナノチューブの分散性が低下するおそれがあり、22以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましく、28以上であることが更に好ましい。
【0019】
ここで、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく用いられる。
【0020】
また、主鎖の鎖長が20〜300である上記一般式(2)で示される2価の有機基において、Rは炭素数4〜20の2価の脂肪族炭化水素基であり、Rは1種類の置換基であってもよく、複数種類の置換基を含んでいてもよく、nは1〜20の整数である。Rの炭素数が4未満の場合、分散性が低下するおそれがあり、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。炭素数4〜20の2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく用いられる。このようなアルキレン基としては、例えば、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)において、Aの両側にある括弧内の構造は分岐構造単位を表したものであり、分岐構造単位は、分岐ユニットであるBと延長ユニットであるCとが結合されたBC構造を有するものである。この分岐構造単位は繰返し結合されていてもよく、この分岐構造単位の繰返しが多いほど、分散性の向上が期待できると本発明者らは推察している。
【0022】
上記一般式(1)における分岐構造単位において、Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基から選択される少なくとも1種からなる分岐ユニットである。Bがこのような分岐ユニットであることにより、枝分かれ構造を有する本発明のデンドリマーが得られることとなる。分岐ユニットであるBの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。
【0023】
【化5】

【0024】
また、上記一般式(1)における分岐構造単位において、Cは、酸素原子又は2価の有機基から選択される少なくとも1種からなる延長ユニットである。延長ユニットであるCの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。
【0025】
【化6】

【0026】
また、上記一般式(1)で示される本発明のデンドリマーは、BC構造を有する上記分岐構造単位における延長ユニットCに、前述の分岐ユニットBが更に結合されてなる。このように延長ユニットCに結合された分岐ユニットBは、BC構造におけるBの構造と同じでも異なっていてもよいが、効率良く合成できる観点から同じ構造であることが好ましい。
【0027】
更に、上記一般式(1)で示される本発明のデンドリマーは、上記分岐構造単位における延長ユニットCに結合された分岐ユニットBに、末端ユニットであるDが結合されてなる。末端ユニットであるDは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、及びポリエチレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基からなる。このように、本発明では所望の末端ユニットであるDをデンドリマー骨格に配置することができるため、種々の溶媒を用いた場合であっても分散質、特にカーボンナノチューブの分散性が良好になるという利点を有する。末端ユニットであるDは、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、糖鎖、ポリエチレングリコール鎖、アミノ基、エステル基及びメソゲン基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。水系の分散溶媒中で分散させる観点からは、末端ユニットであるDが水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、ポリエチレングリコール鎖及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0028】
上記アルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
上記エステル基としては、−COO−又は−OCO−で示される基を含むものであり、また、上記水酸基及びその塩、並びに上記カルボキシル基及びその塩の塩としては、カリウム、ナトリウム、リチウム、セシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩が好適に使用される。中でも、カリウム又はナトリウムから選択される少なくとも1種の金属の塩がより好適に使用される。
【0030】
上記メソゲン基とは、剛直で配向性の高い置換基を意味し、芳香族炭化水素基及び脂環式炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種を2つ以上含む2価の置換基であることが好ましい。メソゲン基の具体例としては、ビフェニル、ジフェニルエーテル、スチルベン、ジフェニルアセチレン、ベンゾフェノン、フェニルベンゾエート、フェニルベンズアミド、1,2−ジフェニルプロペン、N−ベンジリデンベンゼンアミン、1,2−ジベンジリデンヒドラジン、アゾベンゼン、2−ナフトエート、フェニル−2−ナフトエート、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン等の構造を含む2価の置換基が挙げられる。末端ユニットからなるDがメソゲン基を含む場合、基板への相互作用によるアンカリングの観点からメソゲン基の末端がシアノ基もしくはメルカプト基であることが好ましい。
【0031】
上記糖鎖としては、各種糖がグリコシド結合でつながったものだけでなく、アルドン酸やウロン酸に代表される糖が酸化されて得られる糖酸や、これらアルドン酸やウロン酸などの糖酸が脱水縮合して得られる糖酸ラクトン等が挙げられる。糖鎖の具体例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロースなどの単糖類;スクロース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、パラチノースなどの二糖類;ラフィノース、ラクトスクロース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、スタキオースなどのオリゴ糖;エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール;グルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸などのアルドン酸;グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などのウロン酸;グルコノラクトン、ガラクトノラクトン、マンノノラクトン、グルクロノラクトン、ガラクツロノラクトン、マンヌロノラクトンなどの糖酸ラクトン等が挙げられる。
【0032】
末端ユニットであるDの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。
【0033】
【化7】

[式中、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は金属原子であり、Rは炭素数1〜14のアルキル基であり、Rは糖鎖又はポリエチレングリコール鎖であり、mは1〜6の整数である。]
【0034】
上記式中において、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は金属原子である。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。中でも、Rとしてはメチル基又はエチル基が好適に使用され、メチル基がより好適に使用される。また、上記Rにおける金属原子としては、上述で例示された金属原子と同様のものが好適に使用される。
【0035】
上記式中において、Rは炭素数1〜14、好適には1〜6のアルキル基であり、Rの説明のところで例示されたアルキル基と同様のものが挙げられる。中でも、Rとしては、メチル基、エチル基、ドデシル基、テトラデシル基が好適に使用される。
【0036】
上記式中において、Rは糖鎖又はポリエチレングリコール鎖である。Rにおける糖鎖としては、上述で例示された糖鎖と同様のものが挙げられる。中でも、グルコノラクトン等に代表される糖酸ラクトンが好適に使用される。
【0037】
また、上記一般式(1)で示される本発明のデンドリマーは、コアユニットであるAと分岐ユニットであるBとの間が任意の構成単位であるXにより結合されていてもよい。Xは、炭化水素基以外の2価の置換基であり、具体例としては、−O−、−CO−、−COO−及び−OCO−からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
以上説明したA、B、C、D及びXで構成される一般式(1)で示されるデンドリマーの種類としては、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリフェニルエーテルデンドリマー、ポリフェニルエステルデンドリマー、ポリアミドデンドリマー、ポリイミンデンドリマー、ポリエーテルデンドリマー等が挙げられる。
【0039】
一般式(1)で示される本発明のデンドリマーは、後述の実施例からも分かるように以下のようにして得ることができる。例えば、主鎖の鎖長が32であるジアミン化合物(C30(NH)に対して、アクリル酸メチルを反応させて−0.5世代メチルエステルデンドリマー(C30−G0.5(COOMe))を得て、次いで、ジエチルアミンと反応させて0世代ポリアミドアミンデンドリマー(C30G0(NH)を得て、更にアクリル酸メチルと再度反応させることにより、本発明のデンドリマーである0.5世代メチルエステルデンドリマー(C30G0.5(COOMe))を得ることができる。また、得られた本発明のデンドリマーである0.5世代メチルエステルデンドリマーに対して、ジエチルアミンとアクリル酸メチルとを用いた反応を繰返してデンドリマーを成長させることにより、世代の数が増えた、即ち一般式(1)における分岐構造単位が繰返されたデンドリマーを得ることができる。この分岐構造単位の繰返しが多いほど末端ユニットであるDの数を増やすことができ、分散性の向上が期待できると本発明者らは推察している。
【0040】
一般式(1)で示される本発明のデンドリマーは、界面活性剤として用いた場合に優れた分散性を示す。特にカーボンナノチューブ用分散剤として用いた場合には、細いカーボンナノチューブや短いカーボンナノチューブを分散できるだけでなく、太いカーボンナノチューブや長いカーボンナノチューブの分散に優れ、また、多層カーボンナノチューブの分散にも優れている。したがって、本発明のデンドリマーを用いる意義が大きい。
【0041】
また、一般式(1)で示される本発明のデンドリマーを分散剤として用いるカーボンナノチューブの分散方法も本発明の好適な実施態様であり、後述の実施例からも分かるように、水中でも有機溶媒中でもカーボンナノチューブの均一分散が可能となる。こうして得られるカーボンナノチューブ分散液に対して、スピンコート法等に代表される簡便な薄膜形成方法を採用することにより、カーボンナノチューブ薄膜を容易に作製することができる。また、カーボンナノチューブとプラスチック材料との複合膜を作製することもできる。
【0042】
このように、本発明のデンドリマーは従来困難であった太いカーボンナノチューブや長いカーボンナノチューブの薄膜形成が可能となるため、ITO電極代替材料をはじめとする透明導電膜材料、太陽電池材料、燃料電池材料、プラスチック複合材料等に好適に用いることができる。また、本発明のデンドリマーを用いることにより、溶液プロセスを用いた薄膜形成が容易となるため、超薄膜と呼ばれる膜厚が10nm以下の薄膜の作製が可能となるとともに、薄膜表面の制御により従来困難であった多層膜の作製も可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。実施例中、NMRはJEOL製「AL300」(300MHz)、IRはThermo Nicolet製「Avatar300T2」、MALDI−TOF−MSはBruker製「Autoflex」、可視近赤外吸収スペクトルはShimazu製「UV−3150」、ラマンスペクトルはJobin−Yvon製の装置を用いて測定した。また、原子間力顕微鏡(AFM)はSeiko製「SPA400−DFM」を用いた。
【0044】
(実施例1)
合成例1[主鎖の鎖長が32である末端Br化合物2の合成]
300 ml二口フラスコに1,10-ジブロモデカン(22.50 g, 75 mmol)、K2CO3(22.77g, 165 mmol)、DMF(150 ml)を入れ、アルゴンガスを封入しパラフィルムを巻き、65℃で加熱撹拌した。その後、1,10-デカンジオール1(5.22 g, 30 mmol)をDMF(50 ml)に溶かした溶液を、2時間かけて滴下し、3日間、65℃で加熱攪拌した。室温まで冷ました後に、2%の塩酸(400 ml)を氷浴中で滴下した。その後、クロロホルムとイオン交換水で分液を行った。有機層を抽出し、5%のNaOH水溶液(100 ml)で3回、イオン交換水(250 ml)で2回洗った。その後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ひだ折り濾紙を用いて濾別し、濾液をエヴァポレーターで濃縮し、溶媒を留去した。得られたオイル状の物を、ジエチルエーテル(10 ml)中で攪拌し、析出してきた白色の粉末である化合物2(10.18 g)を収率56%で得た。化学反応式を以下に示す。
【0045】
【化8】

【0046】
化合物2 :1H-NMR (300 MHz, CDCl3)δ 1.25 (36H, s), 1.60 (8H, q), 1.86 (4H, q), 3.44 (4H, t, J = 6.6 Hz), 3.67(8H, t, J = 6.6 Hz); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ 26.0, 28.1, 28.5, 28.6, 29.7, 29.8, 30.1, 32.6, 33.6, 72.6; IR (KBr): 3396, 3329, 2920, 2850, 1463, 1361, 1058, 1018, 615 cm -1.
【0047】
合成例2[主鎖の鎖長が32である末端NH2化合物3の合成]
100 mlナスフラスコに化合物2(66.10 mg, 0.11 mmol)とフタルイミドカリウム(59.90 mg, 0.32 mmol)、DMF(10 ml)を量り入れ、70℃で2日間加熱攪拌した。室温まで冷ました後、分液漏斗に移し、クロロホルムと食塩水で分液を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ひだ折り濾紙を用いて濾別し、濾液をエヴァポレーターで溶媒を除去して白色沈澱を得た。得られた沈殿物にメタノールを加えて超音波照射により懸濁させ、それを吸引濾過した後、真空乾燥を行うことで白色粉末のフタルイミド化合物を得た。さらにフタルイミド化合物にベンゼン(10 ml)を加えて加熱しながら溶解させた後にエタノール(10 ml)、ヒドラジン一水和物(H2NNH2・H2O; 1.50 ml)を加え、3時間還流させた。室温まで冷ました後、白色の沈殿物をひだ折り濾過により取り除き、濾液をエヴァポレーターにより濃縮し、溶媒を留去した。その後、分液漏斗に移し、クロロホルム、イオン交換水を用いて分液を行った。有機層を抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ひだ折り濾紙を用いて濾別し、濾液をエヴァポレーターにより濃縮した。その後、真空乾燥を行ったところ、白色固体の化合物3を得た(42.6 mg, 0.09 mmol, 収率 80%)。化学反応式を以下に示す。
【0048】
【化9】

【0049】
合成例3[主鎖の鎖長が32である0.5世代末端メチルエステルデンドリマー6の合成]
化合物3(400 mg, 0.83 mmol)を精秤し、メタノール(30 ml)に溶かした溶液を100 mlナス型フラスコに加えた。次に、アクリル酸メチル(1.40 ml, 16.5 mmol)を加え、45℃で3日間攪拌を行った。その後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカ, eluent: CHCl3:MeOH = 50:1)によって精製したところ、-0.5世代末端メチルエステルデンドリマー4(677 mg, 0.82 mmol, 収率 99%)を得た。次に、エチレンジアミン(7.77 ml)を100 mlナス型フラスコに入れ、合成したデンドリマー4(268 mg, 0.32 mmol)を精秤し、メタノール(30 ml)に溶かした溶液をエチレンジアミン中に滴下し、室温で1日攪拌を行った。その後、濃縮、ジエチルエーテルで再沈澱を行った得た化合物5に、メタノール(30 ml)を加え溶液にし、アクリル酸メチル(2.20 ml)を加え、45℃で5日間攪拌を行った。その後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカ, eluent: CHCl3:MeOH = 20:1)によって精製を行ったところ、0.5世代末端メチルエステルデンドリマー6(273 mg, 0.17 mmol, 収率52%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0050】
【化10】

【0051】
0.5世代末端メチルエステルデンドリマー6 :1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.26 (36H, d), 1.46-1.56 (12H, br), 2.35-2.46 (28H, m), 2.52-2.56 (8H, t, J = 6.0 Hz), 2.74-2.79 (24H, t, J = 6.6 Hz), 3.28-3.30 (8H, m), 3.36-3.41 (8H, t, J = 6.8 Hz), 3.68 (24H, s), 7.23 (4H, br); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ 26.12, 26.15, 26.6, 27.6, 29.4, 29.54, 29.56, 29.6, 29.7, 32.6, 33.3, 37.0, 49.2, 49.6, 51.5, 53.0, 53.2, 70.90, 70.93, 172.2, 172.9; IR (ATR): 2929, 2854, 1737, 1657, 1650, 1438, 1259, 1198, 1176 cm-1; MALDI-TOF-MS, for C82H152N10O22: m/z calcd, 1630.11 [MH+]; found, 1629.77.
【0052】
合成例4[主鎖の鎖長が32である0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー7の合成]
0.5世代末端メチルエステルデンドリマー6(34.4 mg, 0.02 mmol)をテトラヒドロフラン(2 ml)に溶かし、遠沈管に入れ、KOH(85.5%)(10.9 mg, 0.19 mmol)をメタノール(3.2 ml)に溶かしたもの(0.13 ml)を遠沈管に滴下し、室温で5時間攪拌し、留去することにより、0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー7(38.3 mg, 0.02 mmol, 収率 99%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0053】
【化11】

【0054】
0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー7 :1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ 1.26 (36H, s), 1.48-1.50 (12H, br), 2.30-2.36 (24H, m), 2.43 (4H, br), 2.60-2.64 (8H, t, J = 6.6 Hz), 2.72-2.86 (16H, t, J = 7.5 Hz), 3.25-3.30 (8H, m), 3.34-3.38 (8H, t, J = 6.6 Hz); IR (ATR): 3389, 2928, 2854, 1643, 1564, 1401 cm -1.
【0055】
(実施例2)
合成例5[主鎖の鎖長が76である末端Br化合物8の合成]
300 ml二口フラスコに化合物2(8.88 g, 14.5 mmol)、K2CO3(4.40 g, 31.9 mmol)、DMF(150 ml)を入れ、アルゴンガスを封入しパラフィルムを巻き、65℃で加熱撹拌した。その後、1,10-デカンジオール1(1.15 g, 6.60 mmol)をDMF(30 ml)に溶かした溶液を、2時間かけて滴下し、3日間、65℃で加熱攪拌した。室温まで冷ました後に、2%の塩酸(250 ml)を氷浴中で滴下した。その後、クロロホルムとイオン交換水で分液を行った。有機層を抽出し、5%のNaOH水溶液(100 ml)で3回、イオン交換水(100 ml)で2回洗った。その後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ひだ折り濾紙を用いて濾別し、濾液をエヴァポレーターで濃縮し、溶媒を留去した。得られた金色でオイル状の物を、(ジエチルエーテル:ヘキサン = 1:4)(100 ml)中で3時間攪拌し、上澄み溶液をデカンテーションにより取り除いた。その後、少量のアセトンにとかし、ペンタン中、3日間、4℃で攪拌し、析出してきた粉末である化合物8(5.50 g)を収率67%で得た。化学反応式を以下に示す。
【0056】
【化12】

【0057】
化合物8 :1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.23-1.46 (84H, m), 1.62 (28H, m), 3.56 (4H, t, J = 6.5 Hz), 4.05 (24H, t, J = 6.5 Hz); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ 26.0, 28.1, 28.7, 29.7, 30.2, 32.8, 33.7, 72.4; IR (KBr): 3332, 2918, 1738, 1469, 1259, 1057, 610 cm -1.
【0058】
合成例6[主鎖の鎖長が76である末端NH2化合物9の合成]
100 mlナスフラスコに化合物8(100 mg, 0.08 mmol)とフタルイミドカリウム(59.90 mg, 0.32 mmol)、DMF(10 ml)を量り入れ、70℃で2日間加熱攪拌した。室温まで冷ました後、分液漏斗に移し、クロロホルムと食塩水で分液を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ひだ折り濾紙を用いて濾別し、濾液をエヴァポレーターで溶媒を除去して白色沈澱を得た。得られた沈殿物にメタノールを加えて超音波照射により懸濁させ、それを吸引濾過した後、真空乾燥を行うことで白色粉末のフタルイミド化合物を得た。さらにフタルイミド化合物にベンゼン(10 ml)を加えて加熱しながら溶解させた後にエタノール(10 ml)、ヒドラジン一水和物(1.50 ml)を加え、3時間還流させた。室温まで冷ました後、白色の沈殿物をひだ折り濾過により取り除き、濾液をエヴァポレーターにより濃縮し、溶媒を留去した。その後、分液漏斗に移し、クロロホルム、イオン交換水を用いて分液を行った。有機層を抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ひだ折り濾紙を用いて濾別し、濾液をエヴァポレーターにより濃縮した。その後、真空乾燥を行ったところ、白色固体の化合物9を得た(71.5 mg, 0.07 mmol, 収率 80%)。化学反応式を以下に示す。
【0059】
【化13】

【0060】
合成例7[主鎖の鎖長が76である0.5世代末端メチルエステルデンドリマー12の合成]
化合物9(300 mg, 0.28 mmol)を精秤し、メタノール(30 ml)に溶かした溶液を100 mlナス型フラスコに加えた。次に、アクリル酸メチル(0.95 ml, 11.1 mmol)を加え、45℃で3日間攪拌を行った。その後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカ, eluent: CHCl3:MeOH = 50:1)によって精製したところ、-0.5世代末端メチルエステルデンドリマー10(391 mg, 0.28 mmol, 収率 99%)を得た。次に、エチレンジアミン(7.77 ml)を100 mlナス型フラスコに入れ、合成したデンドリマー10(391 mg, 0.28 mmol)を精秤し、メタノール(30 ml)に溶かした溶液をエチレンジアミン中に滴下し、室温で1日攪拌を行った。その後、濃縮、ジエチルエーテルで再沈澱を行って得た化合物11に、メタノール(30 ml)を加え溶液にし、アクリル酸メチル(2.20 ml, 25.5 mmol)を加え、45℃で5日間攪拌を行った。その後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカ, eluent: CHCl3:MeOH = 20:1)によって精製を行ったところ、0.5世代末端メチルエステルデンドリマー12(267 mg, 0.12 mmol, 収率43%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0061】
【化14】

【0062】
0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー12 : IR (ATR): 2929, 2854, 1737, 1657, 1650, 1438, 1259, 1198, 1176 cm -1.
【0063】
合成例8[主鎖の鎖長が76である0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー13の合成]
0.5世代末端メチルエステルデンドリマー12(50.0 mg, 0.02 mmol)をテトラヒドロフラン(2 ml)に溶かし、遠沈管に入れ、KOH(85.5%)(10.9 mg, 0.19 mmol)をメタノール(3.2 ml)に溶かしたもの(0.13 ml)を遠沈管に滴下し、室温で5時間攪拌し、留去することにより、0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー13(54.3 mg, 0.02 mmol, 収率 99%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0064】
【化15】

【0065】
0.5世代末端カルボキシレートデンドリマー13 : IR (ATR): 3389, 2928, 2854, 1643, 1564, 1401 cm -1.
【0066】
[水中におけるSWNTs分散試験]
図1のフローチャートに示されるように、ねじ口試験管に単層カーボンナノチューブ1 mgと実施例1により得られたコアユニットにおける主鎖の鎖長が32のポリエーテルからなるデンドリマー(C30G0.5(COOK))1 μmol、D2O 10 mlを加えサンプルを調製し、室温で、1時間超音波処理を行い、8000 Gで、40分間遠心分離を経て、図2で示される黒色透明な上澄み溶液を作製した。得られた黒色透明な上澄み溶液中で分散されたカーボンナノチューブについて、可視近赤外吸収スペクトルを用いた分析を行った。同様に、主鎖の鎖長が6のアルキル鎖からなるデンドリマー(C6G0.5(COOK))、及び主鎖の鎖長が10のアルキル鎖からなるデンドリマー(C10G0.5(COOK))を用いてカーボンナノチューブの分散試験を行い、可視近赤外吸収スペクトルを用いた分析を行った。得られたスペクトルを図3に示す。更に、HiPcoチューブを用いて塗布法により得られたカーボンナノチューブ薄膜のラマンスペクトル分析、及び原子間力顕微鏡(AFM)を用いた分析を行った。得られた結果を図4及び図5に示す。
【0067】
図3の可視近赤外吸収スペクトルから分かるように、C6G0.5(COOK)、及びC10G0.5(COOK)と比べて、主鎖の鎖長が32のポリエーテルからなる本発明のデンドリマー(C30G0.5(COOK))を用いた場合には、吸光度の値が高く、分散状態が安定であることが分かる。また、図4のラマンスペクトル及び図5のAFM画像から、本発明のデンドリマーを用いることで長いカーボンナノチューブや太いカーボンナノチューブの分散が可能であることが確認された。
【0068】
[有機溶媒(THF)中におけるSWNTs分散試験]
水中におけるSWNTs分散試験と同様にして、ねじ口試験管に単層カーボンナノチューブ1 mgと実施例1により得られたコアユニットにおける主鎖の鎖長が32のポリエーテルからなるデンドリマー(C30G0.5(COOK))1 μmol、THF 10 mlを加えサンプルを調製し、室温で、1時間超音波処理を行い、8000 Gで、40分間遠心分離を経て、黒色透明な上澄み溶液を作製した。得られた黒色透明の上澄み溶液中で分散されたカーボンナノチューブについて、可視近赤外吸収スペクトルを用いた分析を行ったところ、図6に示されるようにSWNTsに特徴的なピークが観測された。このことは有機溶媒中にも、SWNTsの分散が可能であること明らかとなった。また、メタノールなどへの分散も可能であった。
【0069】
[MWNTs分散試験]
図7のフローチャートに示されるように、ねじ口試験管に多層カーボンナノチューブ(MWNTs)5 mgと実施例1により得られたコアユニットにおける主鎖の鎖長が32のポリエーテルからなるデンドリマー(C30G0.5(COOK))1 μmol、H2O 10 mlを加えサンプルを調製し、室温で、1時間超音波処理を行い、8000 Gで、40分間遠心分離を経て、図8で示される黒色透明な上澄み溶液を作製した。得られた黒色透明な上澄み溶液中で分散されたカーボンナノチューブについて、可視近赤外吸収スペクトルを用いた分析を行った。得られたスペクトルを図9に示す。本発明のデンドリマーは、SWNTsの分散だけでなくMWNTsの分散も可能であることが分かる。
【0070】
[MWNTs/PVA複合膜の作製]
MWNTs分散試験と同様にして黒色透明な上澄み溶液を得て、次いで、図7のフローチャートに示されるように、多層カーボンナノチューブとポリビニルアルコールとの複合膜を作製した。得られたMWNTs/PVA複合膜の写真を図10に、MWNTs/PVA複合ゲルの写真を図11に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるデンドリマー。
【化1】

[式中、Aの両側にある括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は繰返し結合されていてもよく、
Aは、主鎖の鎖長が20〜300である2価の脂肪族炭化水素基又は下記一般式(2)で示される2価の有機基から選択されるコアユニットであり、
【化2】

[式中、Rは炭素数4〜20の2価の脂肪族炭化水素基であり、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1〜20の整数である。];
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基から選択される少なくとも1種からなる分岐ユニットであり;
Cは、酸素原子又は2価の有機基から選択される少なくとも1種からなる延長ユニットであり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、及びポリエチレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基からなる末端ユニットであり;
Xは、任意の構成単位であり、炭化水素基以外の2価の置換基である。]
【請求項2】
請求項1記載のデンドリマーからなる界面活性剤。
【請求項3】
請求項2記載の界面活性剤からなるカーボンナノチューブ用分散剤。
【請求項4】
請求項1記載のデンドリマーを分散剤として用いるカーボンナノチューブの分散方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−189552(P2010−189552A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35490(P2009−35490)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省特別電源所在県科学技術振興事業「ものづくり高度化に関する基盤技術研究事業」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】