説明

新規トリプシンインヒビター

【課題】 トリプシンに対し、強力な阻害作用を有する新規なトリプシンインヒビターを提供する。
【解決手段】 シロナタマメ(Canavalia gladiata)の抽出物の分子量7000〜8000の画分からなるトリプシンインヒビターとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シロナタマメ(Canavalia gladiata)由来の新規なトリプシンインヒビターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】プロテアーゼインヒビターは、動、植物界にわたって広く存在することが知られている。例えば、動物界においては、ラットの肝臓や表皮、ヒトの白血球や尿、ウシの初乳などの中に見出されているし、植物界においては、大豆、瓜類などの中に見出されている。これらのプロテアーゼインヒビターは、血液凝固のような生理活性作用の制御因子としての機能を有し、脳梗塞、心筋梗塞などの血栓性疾患の治療、予防に用いられている。このプロテアーゼインヒビターの中で、トリプシンに対して強い阻害活性を有するものとしては、これまでウシ膵臓塩基性トリプシンインヒビター[「ジャーナル・オブ・ジェネラル・フィジオロジー(J.Gen.Physiol.)」,第19巻,第991ページ(1936)]、大豆トリプシンインヒビター[同誌,第29巻,第149ページ(1946)]、ウシ初乳中のトリプシンインヒビター(「フェデレーション・プロシーディング(Federation Proc.)」,第9巻,第194ページ(1950)]などが知られていたが、最近、牛乳及びホエーに含有される分子量60000〜70000の範囲の酸性タンパク質がトリプシンに対して強い阻害活性を有することが見出された(特開平7−82296号公報)。他方、植物由来のトリプシンインヒビターとしては、前記した大豆由来のもののほか、最近苦瓜又はその種子などからの熱湯抽出物が加熱乾燥して得られる粉末又は顆粒が見出されている(特開平8−143467号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、トリプシンに対し、強力な阻害作用を有する新規なトリプシンインヒビターを提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、植物由来の新規なトリプシンインヒビターを得るために、鋭意研究を重ねた結果、日本産のシロナタマメ(Canavalia gladiata)の抽出物から得られる分子量7000〜8000の画分が強力なトリプシンの阻害作用を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0005】すなわち、本発明は、シロナタマメの抽出物の分子量7000〜8000の画分からなるトリプシンインヒビターを提供するものである。これまでのトリプシンインヒビターは、通常10000以上の分子量を有しているのに対し、本発明のトリプシンインヒビターは、分子量7000〜8000という低分子量である上に、二量体構造を有するという点で、明らかに差異が認められる。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明のトリプシンインヒビターは、例えばシロナタマメ種子を粉砕し、脱脂後、脱イオン水を加えてかきまぜて全タンパク質を抽出し、硫酸アンモニウム飽和溶液により濃縮したのち、ゲルろ過、陰イオン交換樹脂及び逆相カラムを用いたクロマトグラフィーにより分離し、分子量7000〜8000の画分を分取することによって得ることができる。この際の脱イオン水による抽出は、弱酸性条件下2〜5℃の温度において10〜30時間かきまぜることによって行うのが好ましい。ゲルろ過、陰イオン交換樹脂及び逆相クロマトグラフィーにより、さらに細かく分画すると、分子量7810〜7820、7925〜7935及び7915〜7923の3つの活性画分が得られる。これらの活性画分はいずれも強力なトリプシン阻害作用を示す。
【0007】
【実施例】次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0008】なお、例中のトリプシンインヒビター活性の測定は次の方法により行った。すなわち、20mM−塩化カルシウムを含む1mM−塩酸中に所定量のトリプシンを溶解し、濃度1mg/mlのトリプシン溶液を調製した。別に、50mM−トリス塩酸緩衝溶液(pH7.5)を用いて0.5mM−ベンゾイルL‐アルギニン‐p‐ニトロアニリドを調製し、基質溶液とした。試料(プロテアーゼインヒビター)の水溶液10μlに、上記のトリプシン溶液15μlを添加後、37℃で10分間インキュベーションを行い、さらに上記の基質溶液150μlを添加して30分間インキュベーションを行った。次いで、30%酢酸50μlを加えて反応を停止させたのち、415nmの吸光度を測定した。この際、反応はすべて96穴マイクロプレート上で行い、吸光度はマイクロプレートリーダで測定した。
【0009】実施例シロナタマメ種子を粉砕し、石油エーテルで処理して脱脂し、乾燥することにより、シロナタマメ種子の脱脂粉末を得た。このようにして得たシロナタマメ種子の脱脂粉末100gに、脱イオン水500mlを添加し、塩酸を加えてpH4.0に調整したのち、4℃において1夜かきまぜることにより、全タンパク質の抽出を行った。次いで、この抽出液500mlに、硫酸アンモニウム粉末450gを加えてかきまぜたのち、全タンパクを沈殿として回収した。
【0010】次に、このようにして得た全タンパクの沈殿物を少量の脱イオン水に溶解後、脱イオン水及び0.2M−塩化ナトリウム含有リン酸緩衝溶液(pH7.1)を用いて、それぞれ24時間透析処理したのち、セントリプラス(アミコン社製)を用いて10mlまで濃縮した。この濃縮液の4mlを分取し、上記リン酸緩衝溶液で平衡化したハイロード26/60スーパーデックス200(HiLoad26/60Superdex200)カラム(アマーシャム・ファルマシア社製、26×600mm)に、流速2ml/分で通し、上記リン酸緩衝溶液を溶出バッファーとして用いて溶出することにより、ゲルろ過した。このようにして得た溶出パターンを図1に示す。各画分についてトリプシンインヒビター活性を測定したところ、60から67本目の画分に活性が認められたので、この画分を回収した。
【0011】次いで、この画分を50mM−トリス塩酸緩衝溶液(pH8.0)に対して24時間透析後、セントリプラスを用いて10mlまで濃縮した。この濃縮液5mlを分取し、トリス塩酸緩衝溶液で平衡化したUNO−Q1カラム(バイオ−ラッド社製、7×35mm)に流速1ml/分で通し、50mM−トリス塩酸溶液(pH8.0)及び0.5M−塩化ナトリウムを含む50mM−トリス塩酸溶液(pH8.0)を溶出バッファーとして用いて溶出することにより、陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。この結果、図2に示す溶出パターンが得られた。この際、溶出は0.5M−塩化ナトリウムを含む50mM−トリス塩酸溶液の濃度を鎖線で示すように直線的に増加させて行った。各画分について、トリプシンインヒビター活性を測定したところ、45〜48本目の画分に活性が認められたので、これらの画分を回収し、さらに逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)に付して精製した。
【0012】すなわち、これらの画分を遠心エバポレータで乾固したのち、0.1%−トリフルオロ酢酸に溶解し、それぞれ10μlずつを0.1%−トリフルオロ酢酸で平衡化したRP−HPLC−プアシル(Puresil)C18−120Åカラム(ウォーターズ社製、4.6×150mm)に流速0.5ml/分で通し、0.1%−トリフルオロ酢酸及び0.1%−トリフルオロ酢酸20%とアセトニトリル80%との混合物を溶出バッファーとして用いて溶出することにより、逆相高速液体クロマトグラフィーを行った。この結果を図3に示す。この際、溶出はトリフルオロ酢酸とアセトニトリルの混合物の濃度を図3の鎖線に示すように、直線的に増加させて行った。このようにして、図3に星印で示したように、45画分と46画分の合併画分からはA、47画分からはB、48画分からはCのトリプシンインヒビターが得られた。これらのトリプシンインヒビターの分子量を、TOF−MSで測定したところ、Aは7813、Bは7929、Cは7919であった。
【0013】
【発明の効果】本発明によれば、シロナタマメから強力なトリプシン阻害作用を示す新規なトリプシンインヒビターが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 シロナタマメ抽出物のゲルろ過による溶出パターン
【図2】 ゲルろ過により得られた活性画分の陰イオン交換クロマトグラム
【図3】 陰イオン交換クロマトグラフィーにより得られた活性画分の逆相HPLCの溶出パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シロナタマメ(Canavalia gladiata)の抽出物の分子量7000〜8000の画分からなるトリプシンインヒビター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−86530(P2000−86530A)
【公開日】平成12年3月28日(2000.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−279302
【出願日】平成10年9月16日(1998.9.16)
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【識別番号】220100014
【氏名又は名称】工業技術院九州工業技術研究所長
【Fターム(参考)】