説明

新規トリメチレンカーボネート誘導体および該ポリマー

【課題】生体適合性が高いポリマーのトリメチレンカーボネート誘導体の提供。
【解決手段】下記式[I]を有するトリメチレンカーボネート誘導体:


(式中、Rは水素原子またはアルキル基を、Rは末端が水素原子、アルキル基またはベンジル基等であるオリゴエチレングリコールを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規トリメチレンカーボネート誘導体および該誘導体から得られるポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
「熱応答性高分子」として、主にポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAm)やポリビニルエーテル(PVE)類が知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、ポリエチレングリコール(PEG)やオリゴエチレングリコール(OEG)は熱応答性高分子として高分子に修飾できることが知られている(非特許文献2)。
【0004】
一方、「生分解性高分子」として知られているものには、主にポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGly)、およびポリトリメチレンカーボネート(PTMC)等がある。これらの中で、PTMCは分解後に毒性の少ないアルコール類と二酸化炭素に分解されるため、生体適合性が高いと期待される。しかし、PTMCは重合の難しさや強度の弱さのため、これまでに他の生分解性高分子ほど多くは研究例が報告されていない。
【0005】
ごく最近、ポリカーボネート骨格の側鎖に液晶性メソゲン骨格導入例(非特許文献3、非特許文献4)や、カルボン酸エステルを導入する例が報告されている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adv. Polym. Sci. 2008, 210, 169.
【非特許文献2】Macromolecules 2003, 36, 8312.
【非特許文献3】Polymer 1998, 39, 2951.
【非特許文献4】Polym. Prep. Japan 2010, 59,3127.
【非特許文献5】Macromolecules 2010, 43, 4943.
【非特許文献6】Biomaterials 2010, 31, 2358.
【非特許文献7】Polym. Prep. Japan, 2010, 59, 3800.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これまでにない全く新規なトリメチレンカーボネート誘導体、具体的には、側鎖がポリエーテルのみから形成されているトリメチレンカーボネート誘導体および該ポリマーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は下記化学式[I]を有するトリメチレンカーボネート誘導体および該ポリマーに関する。
【化1】

【0009】
式[I]中、Rは水素原子またはアルキル基、好ましくは炭素数C1〜C5の低級アルキル基、より好ましくはエチル基あるいはメチル基、さらにより好ましくはメチル基を表す。Rは下記化学式[II]を有する。
【化2】

【0010】
式[II]中、nは1〜20、好ましくは1〜10の整数を表す。Rは水素原子、アルキル基、好ましくは炭素数C1〜C5の低級アルキル基、より好ましくはエチル基あるいはメチル基、アリールアルキル基、例えばベンジル基あるいはトリフェニルメチル基、アルコキシアルキル基、例えばエトキシメチルあるいはメトキシメチルまたはアセチル基を表す。ベンジル基等のアリールアルキル基は、重合の際に末端OH基を保護し、重合後は取り除くことができるもので、アリールアルキル基以外にアルコキシアルキル基、例えばエトキシメチルあるいはメトキシメチルまたはアセチル基で保護していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、側鎖がポリエーテルのみから形成されている新規なトリメチレンカーボネート誘導体および該ポリマーを提供した。
本発明のポリマーは生体適合性に優れ、熱応答性および生分解性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンのH NMRスペクトル。
【図2】5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンのFT−IRスペクトル。
【図3】5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンのH NMRスペクトル。
【図4】5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンおよび5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンのFT−IRスペクトル。
【図5】2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチルプロパン−1,3−ジオールのH NMRスペクトル。
【図6】5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンおよび2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチルプロパン−1,3−ジオールのFT−IRスペクトル。
【図7】5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オンおよび5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オンのH NMRスペクトル。
【図8】5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オンおよび5−2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オンのFT−IRスペクトル。
【図9】ポリ(5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン)および5−(2−メトキシ−エトキシエチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オンのH−NMRスペクトル。
【図10】本発明ポリマー2の温度変化に対する透過光の変化を示す図。
【図11】本発明共重合ポリマーの温度変化に対する透過光の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般式[I]で表されるトリメチレンカーボネート誘導体は、側鎖にポリエーテル構造を有する新規なトリメチレンカーボネート誘導体である。
【0014】
一般式[I]中のnの値(鎖長)を1〜10の範囲内で変化させる、主鎖にメチル基(R)等のアルキル基を導入する、あるいはオリゴエチレングリコール(OEG)の末端Rを水素原子、メチル基あるいはエチル基等のアルキル基またはベンジル基等のアリールアルキル基にする、または共重合体調製の際にそれらを組合せたりすることで、親水性と疎水性のバランスを変化させ、応答する温度を調節することが可能となる。
【0015】
式[I]中における4位または6位の2つの水素原子はそれぞれ、その少なくとも一つがメチル基、エチル基などのアルキル鎖で置換された構造であってもよい。好ましくは4位または6位の水素原子がメチル基で置換された構造である。その場合の出発物質トリオールとしては、3−(ヒドロキシメチル)−2,4−ペンタンジオール)が挙げられる。生分解性の観点から、最も好ましくは水素原子のままであることである。
【0016】
式[I]で表されるトリメチレンカーボネート誘導体は、下記反応経路に示したように、出発物質トリオール中二つのアルコールのベンジル化による保護、残りのアルコールへのOEG鎖導入、脱保護、続いて二つのアルコール基のカーボネート化を経て合成することができる。
【0017】
【化3】

【0018】
出発物質トリオールとしては、例えばトリエチロールエタン(Rがメチル基)、2−メチロール−1,3−プロパンジオール(Rが水素原子)を使用するようにすればよい。これらの化合物は、東京化成株式会社およびAldrich社より市販されており化学試薬としてそれぞれ入手可能である。
【0019】
ジオールの保護(ベンジル化)は、例えばJ. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2002, 40, 70.に記載の方法あるいはZ. Zhong et al., Macromolecules. 2010, 43, 201.を参考にすることができる。その方法を簡単に述べれば、無水テトラヒドロフランを溶媒として、目的とするトリオールと少量のp−トルエンスルホン酸存在下、ベンズアルデヒドを当量ゆっくり滴下することでほぼ定量的に得られる。
【0020】
OEG鎖導入は、末端(R)がメチル基の場合、OEGとして、例えばp−トルエンスルホン酸−2−メトキシエチル(n=1)、p−トルエンスルホン酸トリエチレングリコールモノメチル(n=3)を使用し、上記のジオール保護体と反応させればよい。このようなp−トルエンスルホン酸−ポリエチレングリコールモノメチル(n=2〜10)は、東京化成(株)から入手可能であるポリエチレングリコールモノメチル(n=2〜10)とp−トルエンスルホン酸を反応させれば得られる。
【0021】
末端(R)がエチル基の場合、例えばトリエチレングリコールモノエチルエーテルとp−トルエンスルホン酸を反応させることでp−トルエンスルホン酸トリエチレングリコールモノエチルエーテルを得、上記のジオール保護体と反応させればよい。
【0022】
末端(R)がベンジル基の場合は、例えばトリエチレングリコールモノベンジルエーテルとp−トルエンスルホン酸を反応させることでp−トルエンスルホン酸トリエチレングリコールモノベンジルエーテルを得、上記のジオール保護体と反応させればよい。
【0023】
末端(R)が水素原子の場合、まずRがベンジル基のモノマーを合成し、DMF/メタノール(1/1)混合溶媒中に10%のパラジウム炭素を触媒とすることで脱保護反応することにより得ることができる。しかし、末端(R)が水素原子の場合のポリマーは、末端(R)が水素原子のモノマーをそのまま重合して得ることは非常に困難なので、後述するように末端Rがベンジル基等で保護されたモノマーを重合後にそれらの保護基を取り除くようにする。
【0024】
脱保護は、例えばメタノール/5N塩酸(1/1)にOEG鎖を導入した2−フェニル[1,3]−ジオキサンを溶解させ110℃で8時間還流を行ない、水溶媒とジクロロメタンにより抽出することで得ることができる。例えばW. Edwin et al., J. Org. Chem. 1987, 52, 2420.を参考にすればよい。
【0025】
カーボネート化は、例えばカルボニルジイミダゾールと脱保護されたジオール化合物を反応させることにより行なうことができる。
【0026】
式[I]で表されるトリメチレンカーボネート誘導体の別の合成法として、出発物質としてのトリオールをモノトシル化し、続いて残りの2つのヒドロキシル基のカーボネート化、トシル基の加水分解、OEG化を経る方法もある。
【0027】
ポリマー合成法
一般式[I]で表されるトリメチレンカーボネート誘導体は、ジアザビシクロウンデセンを触媒として、アルコール化合物を開始剤として開環反応させることにより重合することができる。
【0028】
【化4】

【0029】
ポリマーの重合度(DP)は、開始剤とモノマーのモル比を仕込みの段階で調整することにより変化させることができる。
【0030】
重合は、一般式[I]で表されるトリメチレンカーボネート誘導体であり、R、R、nが異なる誘導体モノマーを使用し、ホモポリマーを製造する方法と同様にして、それらを共重合することも可能である。
【0031】
一般式[II]におけるRが水素原子である場合のポリマーを製造するには、一般式[II]におけるRがベンジル基等の保護基で末端OHを保護したモノマーを重合し、高分子合成後、その保護基を取り除くようにする。例えば、Rがベンジル基の場合、活性化パラジウム炭素を用いて水素化分解するようにすればよい。水素化分解は例えば文献(J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 40, 70-75 (2002)を参考にすることができる。具体的には触媒に10%のパラジウム炭素を使用し、溶媒にジメチルホルムアミド/メタノール(1/1)を用いて60度24時間程度反応を行う。
【0032】
本発明で得られるポリマーは生体適合性に優れ、生分解性、感熱応答性を発揮させることができる。また、本発明のポリマーにおいては、トリメチレンカーボネート部分が生分解性の役割を、OEG鎖の部分が熱応答性の役割を担っている。
【0033】
重合または共重合されるポリマーは、必要とされる生体適合性、熱応答性および/または生分解性の程度に応じて、一般式[I]中のR、R、nを適宜選定することにより、さらに重合度も考慮し、適宜設計するようにすればよい。生体適合性、生分解性の観点からは、ポリマーにおける一般式[II]中におけるRは、水素原子、メチル基またはエチル基、より好ましくはメチル基またはエチル基とすることが好ましい。
【0034】
本発明において、「生分解性」とは加水分解、酵素分解、微生物分解によって消滅する性質をいう。本発明のポリマーは、生分解によりエチレングリコール、二酸化炭素、オリゴエチレングリコールへ分解される。
【0035】
本発明において「生体適合性」とは治療の際に炎症などの原因となる大きなpH変化を引き起こしにくいということを意味する。本発明のポリマーは、生分解により、毒性が低い、エチレングリコール、オリゴエチレングリコール等のアルコール類、二酸化炭素に分解されるので、分解後も生体適合性はよい。
【0036】
本発明において、「熱応答性」とは、水溶液中で温度に応じて溶解度が変化することを意味する。
【0037】
生分解性を重視する場合は、例えば、一般式[I]中のR、R、nとしてR=H、R=CH、n=1を選択し、重合度20〜50程度のポリマーを得るようにすればよい。
【0038】
生体適合性を重視する場合は、例えば、一般式[I]中のR、R、nとしてR=CH、R=C、n=4を選択し、重合度50〜200程度のポリマーを得るようにすればよい。
【0039】
感熱応答性を重視する場合は、例えば、一般式[I]中のR、R、nとしてR=CH、R=CH、n=3を選択し、重合度50〜200程度のポリマーを得るようにすればよい。
【0040】
本発明のトリメチレンカーボネート誘導体ポリマーは、容器、フィルム等のバイオプラスチック用材料、カテーテル、手術用縫合糸等の医療器具材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)キャリア用材料として使用できる。
【0041】
例えば、手術用縫合糸用材料として使用した場合は、本発明のポリマーは、生分解性、生体適合性があるので、ポリ乳酸やポリグルコール酸などと比べると、分解後にカルボン酸を生成しないために局所的なpH現象による炎症などのリスクが少ないと考えられる。
【0042】
カテーテル用材料として使用した場合、従来の体内留置型の金属材料と異なり、疾患が癒えた後に患部から無くなるので、健全な状態を取り戻すことができるだけでなく、新たな治療が必要な場合に処置を妨げることはないといった利点がある。
【0043】
また、本発明のトリメチレンカーボネート誘導体ポリマーは、その熱応答性という機能を利用して、体内に埋殖した後に患部を適切な形に修復させ、傷が癒えれば分解されるという材料に使用できる。例えば、心臓の弁付着部(弁輪部)が拡大して弁が不完全閉鎖となるために血液の逆流を生じてしまう収縮不全患者の治療において、弁近傍に取り囲むように存在する血管内部へ金属製のカテーテルを導入しこれを縮めることで心臓の弁輪部を縛る効果を引き出す治療法が報告されている(MONARC System, Edwards Lifesciences Corp.)。このような場合、材料にバネの縮む効果が必要となる。しかしながら、ひとたび治療に血管内部に金属材料を埋殖すると、健常状態に戻った後も不必要な異物が体内に残ることになるだけでなく、他の疾患が発症した場合に治療の妨げとなることが問題となっている。本発明のポリマーは、分解する成分で同じ治療が可能となり、処置後の再手術や他の治療においても妨げにならないという利点を有している。
【実施例】
【0044】
実施例1
モノマー1の合成
下記4段階の合成反応により、トリメチレンカーボネート誘導体モノマー1(5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン)を合成した。各段階の合成方法について以下に詳述する。なお、5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン)は、2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチル−トリメチレンカーボネートとも表現される。
【0045】
【化5】

【0046】
(1)5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの合成
(ジオールの保護)
無水テトラヒドロフラン480mLへ、トリエチロールメタン24.7gとp−トルエンスルホン酸(1.23g)を溶解させ撹拌した。この中へベンズアルデヒド25mLをゆっくり滴下した。16時間室温で撹拌を続け、アンモニア水溶液(28%)を0.38mL加えることで中和し反応を止めた。テトラヒドロフランをエバポレーションにより除去した後、メチレンクロリドと食塩水により抽出し、有機層を集めることで目的物を回収した(32.2g、収率75%)。
【0047】
5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの生成は、図1に示すH NMR(400MHz、室温、CDCl中)および図2に示すFT−IRにより確認した。
【0048】
(2)5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの合成
(OEGの導入)
窒素雰囲気下で油抜きをしたNaH 5.03g(126mmol)にDMF 14.0mLとTHF 70.0mLと5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン20.5g(98.5mmol)を加えて60℃で5時間撹拌した。p−トルエンスルホン酸−2−メトキシエチル25.0g(109mmol)を加えて60℃で14時間撹拌した。
【0049】
超純水とCHClを用いた抽出により生成物を有機層に溶解させ、シリカゲルクロマト秘グラフィーにより精製し、5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン18.7g(収率:71%)を得た。
【0050】
5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの生成は、図3に示すH NMR(400MHz、室温、CDCl中)および図4に示すFT−IRにより確認した。
【0051】
(3)2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチルプロパン−1,3−ジオールの合成
(脱保護)
5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン18.7g(70.3mmol)にメタノール70.0mLと5Mの塩酸70.0mLを加え、110℃で8時間還流を行った。
【0052】
超純水とCHClを用いた抽出により生成物を水層に溶解させ、溶媒を除去することで生成物10.6g(85%)を得た。脱水剤として硫酸マグネシウムを用いた蒸留により精製し、2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチルプロパン−1,3−ジオール6.46g(収率:52%)を得た。
【0053】
2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチルプロパン−1,3−ジオールの生成は、図5に示すH NMR(400MHz、室温、DO中)および図6に示すFT−IRにより確認した。
【0054】
(4)5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン(モノマー1)の合成
窒素雰囲気下で2−(2−メトキシ−エトキシメチル)−2−メチル−プロパン−1,3−ジオール6.46g(36.3mmol)をCHCl 25.0mLに溶解させ、粉末のモレキュラーシブス4A(MS4A)を加えて室温で3時間撹拌した。その後、カルボニルジイミダゾール(40mmol)を含むCHCl溶液160mLを加えて室温で20時間撹拌した。
【0055】
濾過後、溶媒を除去し、シリカゲルクロマトグラフィーにより5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン 3.90g(53%)を得た。
【0056】
5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オンの生成は、図7に示すH NMR(400MHz、室温、CDCl中)および図8に示すFT−IRにより確認した。
【0057】
実施例2
モノマー1(5−(2−メトキシ−エトキシメチル)−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン)の重合
得られたモノマー1 0.50g(2.45mmol)に真空蒸留したトルエンを加え、共沸により水を取り除き、開始剤としてベンジルアルコール(0.049mmol)を含むCHCl溶液0.60mL加え、触媒としてジアザビシクロウンデセン(DBU,0.049mmol)を含むCHCl溶液 0.60mL加え、室温で8時間反応させた。反応後、安息香酸を加え反応を停止させた。
【0058】
未精製の反応溶液のH NMR(400MHz、室温、CDCl中)より、重合が進行したことを確認した(図9)。
【0059】
未反応のモノマーと生成物のポリマーのプロトン比から変換率を93%と算出した。これより、8時間の反応時間でほぼ反応が完結していると考えられる。
【0060】
透析により精製し最終的には0.36g(以下、「ポリマー1」という)のポリマーを得た。
【0061】
実施例3
モノマー2の合成
モノマー1にエチレングリコール鎖をもう二つ分導入したモノマー2(5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン)をモノマー1と同様に下記4段階の合成反応により合成した。なお、5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンは、2−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−2−メチル−トリメチレンカーボネート
【0062】
【化6】

【0063】
(1)5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの合成
モノマー1の合成における5−ヒドロキシメチル−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの合成と同じである。
【0064】
(2)5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサンの合成
(OEGの導入)
窒素雰囲気下で油抜きをしたNaH 3.10g(77.5mmol)にTHF60.0mLと(5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン−5−イル)−メタノール13.1g(62.9mmol)を加えて50℃で5時間撹拌を行った。その後、p−トルエンスルホン酸トリエチレングリコールモノメチルエーテル20.0g(62.9mmol)を加えて50℃で15時間撹拌を行った。
【0065】
超純水とCHClの分液により生成物を有機層に溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン14.5g(65%) を得た。
【0066】
同定結果:MASS:m/z=355([M+1]+);H NMR(CDCl):δ 0.81(s,3H)、3.37(s,3H)、3.53−3.71(m,16H)、4.05(d,2H,J=11.7Hz)、5.41(s,1H)、7.33−7.37(m,3H)、7.46−7.49(m,2H)により行った。
【0067】
(3)2−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−2−メチルプロパン−1,3−ジオールの合成
(脱保護)
5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−2−フェニル−[1,3]−ジオキサン14.4g(40.5mmol)にメタノール40.0mLと5Mの塩酸40.0mLを加え、120℃で8時間還流を行った。
【0068】
溶媒を除去し、超純水とCHClの分液により生成物を水層に溶解させ、溶媒を除去することで2−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−2−メチルプロパン−1,3−ジオール8.96g(83%)を得た。
【0069】
同定結果:MASS:m/z=267([M+1]+);1H NMR(CDCl3):δ 0.79(s,3H)、3.39(s,3H)、3.52−3.74(m,18H)。
(4)5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン(モノマー2)の合成
窒素雰囲気下で2−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−2−メチルプロパン−1,3−ジオール8.50g(32.0mmol)をCHCl 20.0mLに溶解させ、粉末のモレキュラーシーブス4Aを加えて室温で3時間撹拌を行った。その後、カルボニルジイミダゾール6.60g(40.7mmol)を含むCHCl溶液80.0mLを加えて室温で15時間撹拌を行った。
【0070】
濾過後、溶媒を除去し、シリカゲルクロマトグラフィーにより5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン2.95g(32%)を得た。
【0071】
分析結果:MASS:m/z=293([M+1]+)。1H NMR(CDCl3):δ 0.94(s,3H)、3.38(s,3H)、3.45(s,2H)、3.54−3.66(m,12H)、4.07(d,2H,J=10.8Hz)、4.36(d,2H,J=10.8Hz)。図7(H−NMR)、図8(FT−IR)参照。
【0072】
実施例4
モノマー2(5−{2−[2−(2−メトキシ−エトキシ)−エトキシ]−エトキシメチル}−5−メチル−[1,3]−ジオキサン−2−オン)の重合
得られた新規モノマー0.50g(1.71mmol)に真空蒸留したトルエンを加え、共沸により水を取り除き、開始剤としてベンジルアルコール(0.049mmol)を含むCHCl溶液0.60mL加え、触媒としてジアザビシクロウンデセン(DBU,0.049mmol)を含むCHCl
溶液0.60mL加え、室温で8時間反応させた。反応後、酢酸を加え反応を停止させた。
【0073】
得られたポリマーを透析により精製し0.36gのポリマー(以下、「ポリマー2」という)を得た。
【0074】
評価
(1)分析結果
上記で得られたポリマー1およびポリマー2の分析結果を下記表1に示す。
【0075】
【表1】

注)
b:Biomacromolecules. 2007,8, 153を参考にした値を示した;
c:モノマー0.5gを使用した;
d:重合度(DP)および数平均分子量(Mn)、H−NMR(CDCl溶液、400MHz、室温)により決定した;
e:数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ポリ(メチルメタクリレート)CHCl標準溶液を使用しGPCにより決定した;
f:分子量分布(PDI)(=Mw/Mn)は、GPCにより決定した。
【0076】
(2)溶解性
ポリマー1の種々の溶媒に対する溶解性を調べた。溶解性は、ポリマー1mgを下記の溶媒1mlに溶解し、目視により沈殿物が確認できる場合は、溶けないと判断した。
溶媒としてヘキサン、ジオキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、クロロホルム、エチルアセテート等の無極性溶媒、THF、アセトン等の非プロトン性極性溶媒、エタノール、メタノール、メタノールとHOの1:1混合溶液、HO(0°)、HO(室温)等のプロトン性極性溶媒を使用した。ヘキサン、メタノールとHOの1:1混合溶液、水には不溶であった。
【0077】
ポリマー2をヘキサン、エチルアセテート、THF,アセトン、エタノール、メタノール、HOに1mg/mL(25℃)「の割合で使用し、上記と同様に溶解性を調べた。結果を下記表2に示した。
表2から分るように、ポリ(トリメチレンカーボネート)およびポリマー1は水に不溶であるが、ポリマー2は水に可溶である。
【0078】
【表2】

【0079】
(3)熱応答性
熱応答性を調べるために、ポリマー2を0.2wt%で超純水中に溶解させ、1センチ角のUVセルに導入して、温度変化に対する透過光を調べた。結果を図10に示す。鋭い転移が観測され、約43℃に下限臨界共溶温度(LCST)を有し、熱応答性を示すことが分かった。
【0080】
(4)熱応答性の制御
モノマー1とモノマー2を20:80のモル比で仕込み、実施例2および実施例4と同様の重合条件から共重合ポリマーを得た。
【0081】
得られた共重合ポリマーを上記(3)と同様にして、温度変化に対する透過光を調べた。結果を図11に示す。
【0082】
ポリマー2に比べて、LCSTが高温側にシフトしている。このことは、応答温度を自在に制御できることを示唆している。
【0083】
(4)生分解性
水晶発振子基板上にスピンコートにより薄膜を調製し、酵素分解によってその現象を追跡したところ、主鎖骨格となるトリメチレンカーボネートは徐々に分解して質量現象を示し、二時間半で約3分の1程度まで質量現象が観測された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のトリメチレンカーボネート誘導体のポリマーは、バイオプラスチック用材料、医療器具、ドラッグデリバリーシステム(DDS)キャリア用材料として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式[I]を有するトリメチレンカーボネート誘導体:
【化1】

(式中、Rは水素原子またはアルキル基を表す;Rは下記化学式[II]を有する:
【化2】

(式中、nは1〜20の整数を表す;Rは水素原子、アルキル基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基またはアセチル基を表す)。
【請求項2】
が水素原子または低級アルキル基である、請求項1に記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項3】
が水素原子またはメチル基である、請求項1に記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項4】
がメチル基である、請求項1に記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項5】
が、水素原子またはアルキル基である、請求項1〜4いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項6】
が、水素原子、低級アルキル基である、請求項1〜4いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項7】
が、水素原子、メチル基またはエチル基である、請求項1〜4いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項8】
が、メチル基またはエチル基である、請求項1〜4いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項9】
が、アリールアルキル基である、請求項1〜4いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項10】
が、ベンジル基である、請求項1〜4いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項11】
nが1〜10である、請求項1〜10いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体。
【請求項12】
請求項1〜11いずれかに記載のトリメチレンカーボネート誘導体から誘導されたポリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−232909(P2012−232909A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101393(P2011−101393)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】