説明

新規ナノカーボン分散剤、ナノカーボン分散液、ならびにそれらを用いるナノカーボン薄膜の製造方法およびナノカーボン薄膜

【課題】溶媒中でのナノカーボンの分散安定性とナノカーボンの集合体形成後の高い電気伝導性とを両立可能なナノカーボン分散剤およびそれを使用して得られるナノカーボン分散液、ならびにナノカーボン薄膜を簡便な操作により製造可能で、生産性に優れたナノカーボン薄膜の製造方法およびそれにより得られるナノカーボン薄膜を提供する。
【解決手段】嵩高いヘミアセタールエステル構造を、繰り返し単位で有する特定のナノカーボン分散剤、これを使用して得られるナノカーボン分散液、並びにこれらを使用するナノカーボン薄膜の製造方法とすることにより、導電性、光透過性に優れたナノカーボン薄膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なナノカーボン分散剤およびそれを含むナノカーボン分散液、ならびにそれらを用いるナノカーボン薄膜の製造方法およびそれを用いて製造されるナノカーボン薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機EL素子ディスプレイ、プラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、青色発光ダイオード等において、透光性と導電性とを併せ持つ透明導電膜の果たす役割は重要であり、その需要は全世界的に急激な増加傾向にある。透明導電膜材料として現在最も広く用いられているのはITO(酸化インジウムスズ)であるが、その原料であるインジウムは、2050年の総需要量は現有埋蔵量の72倍に達すると予想される等、埋蔵資源の枯渇や市場価格の高騰が懸念される希少金属である。また、新興国における需要の増大もかかる傾向に拍車をかけると予想されることから、透明導電膜材料に関する代替技術の開発が強く望まれている。
【0003】
一方、電子デバイスの小型軽量化やナノテクノロジーの進歩に伴い、導電性等の機能を有する物質のナノスケールでのパターニング技術が関心を集めている。カーボンナノチューブを始めとするナノカーボンは、ユニークな電気・力学的特性を有することから、ナノスケールのデバイスにおける配線材料等の導電性部材としての応用が期待されており、ナノカーボンを用いた微細パターンの形成について検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ナノ粒子等の複数の物体相互の間隙に液架橋部を形成し、前記液架橋部を形成する液体を完全に蒸発させ、前記複数の物体を溶解させ再度固化させることでマトリックスとし、該マトリックスにカーボンナノチューブが構造化して配置されることで、構造体として固定化することを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1、2には、修飾(酸化切断)したカーボンナノチューブの自己組織化膜を製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2では、カルボキシルアニオン基を有するカーボンナノチューブとカチオン性脂質とから成るポリイオンコンプレックスの有機溶媒分散溶液を60%以上の相対湿度下に基板上にキャストしてキャストフィルムを作製する工程、および前記キャストフィルムに酸処理を施して前記カチオン性脂質を除去する工程を含むことを特徴とするハニカム状構造の導電性カーボンナノチューブフィルムを製造する方法が開示されている。この方法は、溶媒の蒸発潜熱によって空気中の水分子が溶液表面に結露し、その結露した水滴を鋳型にして規則性の高い多孔質薄膜を自発的に形成することを利用して、高湿度下で高分子溶液を基板上にキャストするのみで多孔質薄膜を得る方法(非特許文献3参照)をカーボンナノチューブフィルムの製造に適用したものである。
【0007】
また、カーボンナノチューブ等のナノカーボンは凝集しやすいため、所望の構造を有するナノカーボンの微細構造を再現性よく作製するために、ナノカーボンを溶媒中に安定に分散させ、凝集を抑制する技術が重要である。非特許文献4〜9には、ナノカーボンの表面と相互作用し、凝集を抑制しつつ溶媒中にナノカーボンを安定に溶解または分散させることができる種々の分散剤、および光照射、温度変化、pH変化、塩濃度の変化等に応じて、分散剤を用いて溶媒中に分散させたナノカーボンの凝集状態を制御する技術が開示されている。非特許文献10、11には、ポリ(アクリル酸t−ブチル−b−スチレン)とのラジカルカップリングによりSWNT(single wall nanotube)を官能化させ、有機溶媒中への溶解性を向上させると共に、t−ブチルエステルの脱保護により溶媒中での凝集性を制御させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3991602号公報
【特許文献2】特開2009−13004号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Adv. Mater. Vol.19, 2535(2007)
【非特許文献2】Adv. Funct. Mater. Vol.19 311(2009)
【非特許文献3】G. Widawski, M. Rawiso, B. Francois, Nature, 369,387-389(1994)
【非特許文献4】Angewante Chemie International Edition, Vol.45,No.48, 8138(2006)
【非特許文献5】Langmuir, Vol.24, No.17, 9233(2008)
【非特許文献6】Nano Letters, Vol.6, No.5, 911(2006)
【非特許文献7】Macromolecules, Vol.38, No.4, 1172(2005)
【非特許文献8】J. Am. Chem. Soc., Vol.129, No.7, 1898(2007)
【非特許文献9】Angewandte Chemie International Edition, Vol.47,No.24, 4577(2008)
【非特許文献10】Nano Letters, Vol.7, No.6, 1480(2007)
【非特許文献11】J. Am. Chem. Soc., Vol.125, No.51, 16015(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法では、「鋳型」としてナノ粒子等の物質を用意する必要がある。そのため、本方法には、製造コストが高くなる、構造を変化させるために大きさや形状の異なる物質を用意する必要がある、粒子の凝集による構造の変動の可能性等の課題がある。
また、特許文献2記載の導電性カーボンナノチューブフィルムの製造方法では、カーボンナノチューブの分散性を向上させるために、濃硝酸や王水等の酸化剤を用いてカーボンナノチューブの酸化切断やカルボキシル基の導入を行っている。そのため、本方法には、(1)危険な酸化剤を使用する作業を伴う、(2)酸化処理によりカーボンナノチューブが特性低下を引き起こす、(3)製膜性および製膜再現性に乏しい等の課題がある。
【0011】
ナノカーボンの分散剤には、ナノカーボン同士の凝集を抑制するために比較的嵩高い置換基が導入されていることが多い。そのため、このような分散剤を用いて溶媒中に均一に溶解または分散させたナノカーボン分散液を用いて、キャスト法等の方法によりナノカーボン薄膜を形成させた場合、ナノカーボン同士の間隔が大きくなり、これが界面抵抗増大の原因となり、電気伝導性が低下するという問題が生じるおそれがある。非特許文献4〜11には、ナノカーボンの分子集合体の形成の前後で嵩高い置換基による立体反発を変化させることについては何ら記載がない。
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、立体反発の大きさを変化させることにより、溶媒中でのナノカーボンの分散安定性とナノカーボンの集合体形成後の高い電気伝導性とを両立可能なナノカーボン分散剤およびそれを使用して得られるナノカーボン分散液、ならびに高性能のナノカーボン薄膜を簡便な操作により製造可能で、生産性に優れたナノカーボン薄膜の製造方法およびそれにより得られるナノカーボン薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の(1)〜(4)のいずれかに記載のナノカーボン分散剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
(1)下記の式(I)で表される繰り返し単位を有するナノカーボン分散剤。
【0014】
【化1】

【0015】
式(I)において、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子(H)およびメチル基(CH)からなる群より選択され、
は、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のアルキレン基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30のアリーレン基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30の置換アルキレン基、および骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30の置換アリーレン基のいずれかであり、
pは0または1の整数であり、
は、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のアルキル基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30のアリール基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30の置換アルキル基、および骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30の置換アリール基のいずれかであり、
pは0または1の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子(H)および炭素数1〜3のアルキル基からなる群より選択され、
は、ナノカーボンと相互作用し、その表面に吸着可能な官能基を含む原子団であり、
mおよびnは、それぞれ自然数であり、両者の間には、
5≦(m+n)≦1000、および
0.5≦m/(m+n)≦1なる関係が成立する。
(2)前記原子団Rが、ナノカーボンのπ電子系と相互作用可能な1または複数の官能基を含む上記(1)記載のナノカーボン分散剤。
(3)前記官能基が、アリール基、置換アリール基、アミノ基、およびアミド基からなる群より選択される上記(2)記載のナノカーボン分散剤。
(4)前記官能基が、9−アントラニル基および1−ピレニル基のいずれかである上記(3)記載のナノカーボン分散剤。
【0016】
本発明の第2の態様は、下記の(5)〜(8)のいずれかに記載のナノカーボン分散液を提供することにより上記課題を解決するものである。
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項記載のナノカーボン分散剤が表面に吸着したナノカーボンが有機溶媒中に均一に溶解または分散しているナノカーボン分散液。
(6)前記有機溶媒が疎水性有機溶媒である上記(5)記載のナノカーボン分散液。
(7)前記ナノカーボンがカーボンナノチューブである上記(5)または(6)記載のナノカーボン分散液。
(8)前記カーボンナノチューブが酸化剤による酸化処理を受けていない上記(7)記載のナノカーボン分散液。
【0017】
本発明の第3の態様は、下記の(9)〜(13)のいずれかに記載のナノカーボン薄膜の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
(9)上記(1)から(4)のいずれか1項記載のナノカーボン分散剤を含む有機溶媒中にナノカーボンを溶解または分散したナノカーボン分散液を調製する工程Aと、
前記キャスト液を基材上にキャストし、前記有機溶媒を蒸発させ、キャストフィルムを作製する工程Bとを有するナノカーボン薄膜の製造方法。
(10)前記工程Bの後に、前記キャストフィルムを溶解または膨潤させない溶媒に酸を溶解した酸溶液に該キャストフィルムを接触させる工程Cをさらに有する上記(9)記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
(11)前記工程Aにおいて、前記ナノカーボンがカーボンナノチューブである上記(9)または(10)記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
(12)前記工程Aにおいて、前記カーボンナノチューブとして、酸化剤による酸化処理を受けていないものを使用する上記(11)記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
(13)前記工程Aにおいて、前記有機溶媒が疎水性有機溶媒であり、前記工程Bにおいて、前記キャストフィルムの作製を相対湿度60%以上の雰囲気中で行うことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
【0018】
本発明の第4の態様は、下記の(14)〜(16)のいずれかに記載のナノカーボン薄膜の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
(14)上記(9)から(13)のいずれか1項記載の方法で製造されるナノカーボン薄膜。
(15)面抵抗率が10Ω/□以下である上記(14)記載のナノカーボン薄膜。
(16)可視光の透過率が60%以上である上記(14)または(15)記載のナノカーボン薄膜。
【発明の効果】
【0019】
本発明のナノカーボン分散剤は、ナノカーボンと相互作用可能で、その表面に吸着する原子団の作用により、ナノカーボンの表面に容易に吸着すると共に、嵩高いヘミアセタールエステル構造を有しているため、立体反発により溶媒中でのナノカーボン同士の凝集を抑制し、均一な分散状態を維持できる。また、ヘミアセタールエステルは酸等の作用により容易に分解し、カルボン酸とビニルエーテルを生じる。そのため、ナノカーボンの分子集合体を作製後に酸を接触させることにより、立体反発を低減させ、ナノカーボン分子集合体の電気伝導性を向上させることができる。また、本発明のナノカーボン分散剤は、酸化処理を受けていないカーボンナノチューブ等も溶媒中に安定に分散させることができる。
【0020】
本発明のナノカーボン分散液は、高い分散安定性を有し、キャストフィルム等のナノカーボン分子集合体を形成後に酸処理を行うことにより、高い電気伝導性を有するナノカーボン分子集合体を与えることができる。
【0021】
本発明のナノカーボン薄膜の製造方法では、高価であり取り扱いが煩雑なナノ粒子等の鋳型を用意する必要がないため、製造コストを低減できると共に製造工程を簡略化できる。また、本発明のナノカーボン薄膜の製造方法では、ナノカーボンの酸化処理が不要であるため、硝酸や王水等の危険な薬品を使用する作業を行う必要がない。また、さらに、本発明のナノカーボン薄膜の製造方法では、キャストフィルムの製造に用いる溶媒の種類、相対湿度や温度を制御することによりナノカーボン薄膜の構造および特性を比較的容易に制御できる。また、酸処理によるヘミアセタールエステルの分解は固液界面でも進行するため、固体状態のナノカーボン薄膜に対しても適用可能であり、成膜後の酸処理による電気伝導性および光透過率の調節が可能である。
【0022】
また、原料となるナノカーボンの酸化処理を行わない場合、本発明のナノカーボン薄膜は、ナノカーボンが本来有する優れた電子・機械的特性を維持している。
【0023】
以上述べたように、本発明によると、立体反発の大きさを変化させることにより、溶媒中でのナノカーボンの分散安定性とナノカーボンの集合体形成後の高い電気伝導性とを両立可能なナノカーボン分散剤およびそれを使用して得られるナノカーボン分散液、ならびに高性能のナノカーボン薄膜を簡便な操作により製造可能で、生産性に優れたナノカーボン薄膜の製造方法およびそれにより得られるナノカーボン薄膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例11において製造した単層カーボンナノチューブ(SWNT)を含むナノカーボン分散液(左)およびそれに酸を添加した場合(右)のSWNTの分子状態の変化を示す図である。
【図2】実施例12において製造した酸処理前のナノカーボン薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図3】実施例12において製造した酸処理後のナノカーボン薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図4】実施例14において製造した酸処理前のナノカーボン薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第1の実施の形態に係るナノカーボン分散剤(以下、「ナノカーボン分散剤」と略称する場合がある。)は、下記の式(I)で表される繰り返し単位を有している。
【0026】
【化2】

【0027】
式(I)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子(H)およびメチル基(CH)からなる群より選択される。
【0028】
式(I)において、Xは、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のアルキレン基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30のアリーレン基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30の置換アルキレン基、および骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30の置換アリーレン基のいずれかであり、pは0または1の整数である。好ましい−[O−X−の具体例としては、単結合(p=0)、エチレン基(−CHCH−)およびフェニレン基(−C−)が挙げられる。
【0029】
式(I)において、Rは、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のアルキル基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30のアリール基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30の置換アルキル基、および骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30の置換アリール基のいずれかである。Rの炭素数が3(アリール基の場合は5)より小さいと、十分な立体反発をもたらすことができず、Rの炭素数が30を超えると、原料の入手が困難になると共に、ナノカーボン分散剤の溶解性が低下する等の弊害が現れる。Rの好ましい例としては、炭素数10〜20の直鎖アルキル基であり、その具体例としては、ドデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0030】
式(I)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子(H)および炭素数1〜3のアルキル基からなる群より選択される。RおよびRの好ましい例は、水素原子(H)、メチル基およびエチル基である。
【0031】
式(I)において、Rは、ナノカーボンと相互作用し、その表面に吸着可能な官能基を含む原子団である。Rは、ナノカーボンのπ電子系と相互作用可能な1または複数の官能基を含んでいることが好ましい。Rが複数の官能基を含む場合、それらは互いに同一の種類に属するものであってもよく、異なる種類に属していてもよい。Rに含まれる官能基の具体例としては、アリール基、置換アリール基、アミノ基、およびアミド基が挙げられる。好ましい官能基としては、多環縮合式芳香族が挙げられ、具体的には、9−アントラニル基(下式(II)参照)、1−ピレニル(下式(III)参照)基等が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
好ましいナノカーボン分散剤の例としては、下記の式(I’)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
式(I’)において、Xは、−O−および−NH−のいずれかであり、R7は、ナノカーボンと相互作用し、その表面に吸着可能な官能基、より好ましくはナノカーボンのπ電子系と相互作用可能な官能基であり、その具体例としては、上記の9−アントラニル基(式(II)参照)、1−ピレニル(式(III)参照)基等が挙げられる。
【0036】
式(I)において、mおよびnは、それぞれ自然数であり、両者の間には、
5≦(m+n)≦1000、および
0.5≦m/(m+n)≦1なる関係が成立する。
(m+n)およびm/(m+n)の好ましい範囲は、それぞれ下記のとおりである。
10≦(m+n)≦100
0.7≦m/(m+n)≦1
【0037】
本発明の第2の実施の形態に係るナノカーボン分散液(以下、「ナノカーボン分散液」と略称する場合がある。)は、本発明の第1の実施の形態に係るナノカーボン分散剤が表面に吸着したナノカーボンが有機溶媒中に均一に溶解または分散している。ナノカーボン分散液は、ナノカーボン分散剤を含む有機溶媒中にナノカーボンを溶解または分散することにより調製される。
【0038】
ナノカーボン分散液の調製に使用される「ナノカーボン」とは、最短径が1ミクロン未満のナノオーダーサイズである炭素の同素体およびその構成原子の一部が窒素、酸素、ホウ素、ケイ素、リン、硫黄等のへテロ原子で置換された炭素材料をいう。これらの最短径は走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡等で確認できる。ナノカーボンの具体例としては、フラーレン、金属内包フラーレン、フラーレンポリマー、カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ(SWNT)および多層カーボンナノチューブ(MWNT))、カーボンナノホーン、カーボンファイバー、ナノグラフェン、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類等の共役π電子系を分子の少なくとも一部に有するものが挙げられるが、ダイヤモンド様炭素(DLC)やナノダイヤモンド等の共役π電子系を有しないものであってもよい。
【0039】
各種用途により好ましいナノカーボンは異なるが、例えば導電性の付与を目的とする場合は、多層カーボンナノチューブ、金属性単層カーボンナノチューブ、多層グラフェンなどが好ましく、またラマン分光分析により1590cm−1付近に観測されるグラファイト構造由来のピーク(Gバンド)、および1350cm−1付近に観測されるグラファイト構造欠損由来のピーク(Dバンド)のピーク強度比(Gバンド/Dバンド)が高い方が好ましい。好ましくはピーク強度比(Gバンド/Dバンド)が5以上さらに好ましくは10以上である。また透明性を重視する際はナノカーボンの最短経が小さいほどよく、50nm以下、さらに好ましくは10nm以下の最短径を有するナノカーボンである。
【0040】
ナノカーボン分散液の調製に用いることができる「疎水性有機溶媒」は、水に任意に混和しない有機溶媒であり、揮発性、価格、安全性、使用するナノカーボンおよびナノカーボン分散液の種類等に応じて適宜選択される。好ましい疎水性有機溶媒の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、任意の2以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0041】
ナノカーボン分散液は、ナノカーボン分散剤以外の分散剤をさらに含んでいてもよい。分散剤は、キャスト液に用いられる溶媒に可溶で、ナノカーボンと親和性を有する官能基を有する任意の化合物を用いることができる。分散剤としては、ナノカーボンの共役π電子系と相互作用可能なアリール基またはヘテロアリール基を有する低分子または高分子化合物が好ましく用いられ、これらの官能基を有する有機高分子が特に好ましい。有機高分子は、最終生成物であるナノカーボン薄膜において、複数のナノカーボン分子同士、およびナノカーボン薄膜と基材とを結びつける結合剤として作用する。そのため、ナノカーボン薄膜の機械的強度や可撓性等を向上させることができる。用いることができる有機高分子に特に制限はなく、ナノカーボン分散能を示すことが知られている種々のポリマーを分散剤として用いることが可能であるが、基板上への製膜性等の点で熱可塑性ポリマーが好ましい。
【0042】
熱可塑性ポリマーの具体例としては、アリール基またはヘテロアリール基をペンダント基として有するポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等が挙げられる。特に好ましい熱可塑性ポリマーは、アントラセン、ピレン、フルオレンなどのナノカーボンと親和性のある分子構造を含むポリマーやポリ(エチレン−ビニルアセテート)コポリマーなどポリオレフィン構造を有するポリマーである。これらは単独で用いてもよく、任意の2以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0043】
熱硬化性ポリマーを用いる場合には、後述する工程Bにおいてキャストフィルムを形成後、加熱処理して硬化させることにより、ナノカーボン薄膜の機械的強度をさらに向上させることができる。熱硬化性ポリマーの具体例としては、骨格中にアリール基またはヘテロアリール基を有するノボラック、メラミン樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、任意の2以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0044】
さらに、分散剤としてDNA等の天然高分子またはその誘導体、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子を用いてもよい。後者の場合、ナノカーボン分子間の界面抵抗を低減させ、最終生成物であるナノカーボン薄膜の導電性を向上させる効果が期待される。
【0045】
ナノカーボン分散剤を含む有機溶媒にナノカーボンを加え、均一に分散させることによりナノカーボン分散液を調製する。ナノカーボンの分散方法は特に限定されず、超音波分散(超音波洗浄機、カップホーン型ホモジナイザー等)、振動ミル分散、ビーズミル分散等の任意の公知の方法および装置を用いることができる。分散剤を加える場合には、ナノカーボンを加える前に有機溶媒中に予め溶解させておくことが好ましい。有機溶媒に加えるナノカーボンの量は、ナノカーボンの沈降等を生じることなく均一で長時間にわたり安定なキャスト液が得られるよう、ナノカーボンの種類、有機溶媒の比重等に応じて適宜調節される。分散剤を用いる場合における分散剤の量についても、加えるナノカーボンの量や有機溶媒に対する分散剤の溶解度等に応じて適宜調節される。なお、分散剤として導電性を有しない有機高分子を用いる場合、加える有機高分子の量が多すぎると、得られるナノカーボン薄膜の機械的強度が増大する反面、ナノカーボン分子間が有機高分子で被覆された状態で接触する部分の割合が増大するため、導電性が低下する。添加剤として、製膜性向上のため各種ポリマーや光や熱よりポリマー形成または架橋が可能なモノマーや架橋剤を共存させても良い。またナノカーボン膜の特異構造形成を促進させるために、OH基、カルボン酸基、アミド基などの極性基を一部に有するポリマーを共存させるのが好ましい。特に限定されないが、具体的にはノニルフェノールからなるノボラックポリマーやポリ(ラウリルアクリレートーアクリル酸)コポリマーなどである。これらナノカーボン膜の特異構造形成を促進させるために添加するポリマー量は、用いるポリマー種、溶剤、製膜条件等により適宜調整され、特に限定されないが、好ましくは全ポリマー(ナノカーボン分散剤およびナノカーボン膜の特異構造形成促進用のポリマー)重量に対し5〜20重量%が好ましい。
【0046】
本発明の第3の実施の形態に係るナノカーボン薄膜の製造方法(以下、「本製造方法」と略称する場合がある。)は、本発明の第1の実施の形態に係るナノカーボン分散剤を含む有機溶媒中にナノカーボンを溶解または分散した、本発明の第2の実施の形態に係るナノカーボン分散液を調製する工程Aと、ナノカーボン分散液を基材上にキャストし、有機溶媒を蒸発させ、キャストフィルムを作製する工程Bとを有する。
工程Aについては、上述したナノカーボン分散液の調製と同様であるため、詳しい説明を省略し、工程Bについてより詳細に説明する。
【0047】
(2)工程B
上記のようにして得られたナノカーボン分散液を基材上にキャストし、有機溶媒を蒸発させることにより、キャストフィルムを作製する。このとき、有機溶剤として疎水性有機溶剤を用い、相対湿度60%以上の雰囲気中でキャストを行うと、溶媒の蒸発潜熱によって溶液表面に結露した水滴を鋳型にして規則性の高い多孔質薄膜を自発的に形成することを利用してナノカーボン薄膜を製造する。キャストフィルムの製膜方法に特に制限はなく、既存のディップコート、スピンコート、キャストコート、バーコート等のいずれでもよいが、キャストコートが好ましい。なお、基材の材質に特に制限はない。
【0048】
結露による溶液表面への水滴の生成および疎水性溶媒の蒸発を円滑に行うため、キャストフィルム製膜時の相対湿度は60%以上とすることが好ましい。また、キャストフィルム製膜時の温度は特に限定されず、分散液に用いる溶剤種や相対湿度により、適宜調整される。用いる疎水性有機溶媒が同一であっても、乾燥過程の違いによりナノカーボン薄膜の孔径を制御することが可能であることから、ナノカーボン薄膜の使用目的や疎水性有機溶媒の種類に応じて、温度を適宜調整する。
【0049】
(3)工程C
製膜後の後処理は必ずしも必要でないが、上記工程Bの後に、キャストフィルムを溶解または膨潤させない溶媒に酸を溶解した酸溶液に該キャストフィルムを接触させる工程Cをさらに有していてもよい。このような処理を行うことにより、下式のような反応によりヘミアセタールエステル構造が分解し、カルボン酸、アルコールおよびフェノール等と、ビニルエーテルを生成する。そのため、嵩高い置換基がポリマー鎖上から除去され、ナノカーボン分散剤による立体反発が低減される。
【0050】
【化5】

【0051】
また、分散剤からビニルエーテルのみを選択的に除去することにより、ナノカーボンにより形成された特異構造を破壊することなく、導電性の向上や透明度の向上を図ることが可能である。分散剤から脱離したビニルエーテルを選択的に除去する方法は特に限定されないが、ナノカーボン薄膜(キャストフィルム)を溶解、膨潤等させない溶媒を用いてキャストフィルムを洗浄する方法が挙げられる。洗浄は、溶媒中へのキャストフィルムの浸漬、キャストフィルムへの溶媒の噴霧等の任意の方法を用いて行うことができる。
【0052】
あるいは、モノマーや架橋剤をキャスト液中に共存させ、あるいは浸透等の方法により製膜後のキャストフィルム中に導入後、熱や光等で重合反応させることで、ナノカーボン同士の間隙を狭くして導電性の向上を図ったり、ポリマー間の架橋の形成により耐熱性の向上などを図ることが可能である。熱プレス等の方法を用いて熱可塑性樹脂からなる分散剤を融着させてもよい。
【0053】
更に、フォトリソグラフィ分野において用いられている光酸発生剤(可視光や紫外光等の特定の光や熱により、分子構造が変化し、中性分子から酸性を示す分子へ変化するもの)を、ナノカーボン分散液に共存させた分散液を調製することも可能である。その分散液を用いて製膜後、ナノカーボン薄膜を露光またはマスキングによる部分露光、それに続く洗浄を行うことで、分散剤の部分構造であったビニルエーテルの除去やナノカーボン薄膜の特定箇所のみの分散剤の部分構造であったビニルエーテルの除去(フォトリソグラフィ技術)も可能である。
【0054】
また、基板がガラスや耐熱性プラスチック等の耐熱性の高いものである場合は、加熱により分散剤の部分構造であったビニルエーテルの除去が可能である。ヘミアセタール部の分子構造(ビニルエーテル種)によりビニルエーテルの除去可能温度は異なるため特に限定されないが、好ましい温度条件として200℃〜350℃の範囲内で加熱することで、選択的に分散剤の部分構造であったビニルエーテルの除去が可能となる。加熱雰囲気も特に限定されず、窒素雰囲気下または空気雰囲気下などで良いが、加熱温度が高くなる場合はナノカーボンやバインダー的機能を有する分散剤の残存部分(ビニルエーテル脱離後の)の燃焼を避けるために窒素、アルゴン、真空などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0055】
以上のようにして得られるナノカーボン薄膜は、ナノカーボンがハニカム構造を呈している。膜厚ならびにハニカム構造の形状および大きさは、キャスト液の濃度やキャストフィルム製造時の温度および相対湿度等により制御できる。また、ナノカーボン薄膜は、ランダムに配向した層の上にハニカム構造を有する層が積層された2層構造を有していてもよい。
【0056】
ナノカーボン薄膜は、10Ω/□以下の面抵抗率を有している。「面抵抗率」は、一様な厚さを有する物質の単位厚さあたりの抵抗率であり、4端子法、4探針法、2端子法等の方法で測定することができるが、本発明においては4探針法で測定されたものをいう。
また、ナノカーボン薄膜の可視光透過率は、下式で定義される。
可視光透過率(%)=((基材+ナノカーボン薄膜の透過率)/基材の透過率)×100
【実施例】
【0057】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
モノマーの合成
(1)1−ピレンメタノールアクリレート合成
窒素雰囲気下、1−ピレンメタノール4.65gを脱水メチルエチルケトン100mLに溶解させ、脱水トリエチルアミンを3.34mL加えた。前述調製した液を0℃に冷却し、別途調製したアクリル酸クロリド1.94mL、脱水メチルエチルケトン10mLからなる混合液をゆっくりと前述調製した液へ加え0℃にて反応させた。反応終了後、抽出操作を行いシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、1−ピレンメタノールアクリレートを得た。
【0058】
(2)オクタデシルオキシエチルメタクリレートの合成
微量のカテコール、オクタデシルビニルエーテル14.83gをクロロホルム5mL溶かし、メタクリル酸5.1mLを加え攪拌し、リン酸を30μL加え、室温にて2日攪拌した。反応終了後、ヘキサン及びNaHCO水を用いて抽出操作を行い、オクタデシルオキシエチルメタクリレートを得た。
【0059】
(3)オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレートの合成
微量のカテコール、オクタデシルビニルエーテル14.83g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7.26mLを加え、わずかに加熱攪拌し溶解した後、室温に戻した。次に濃塩酸を5μL加え、室温にて2時間攪拌した。反応終了後、ヘキサン及びNaHCO3水を用いて抽出操作を行い、シリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレートを得た。
【0060】
参考例1:ラウリルアクリレート−アクリル酸コポリマーの合成
ラウリルアクリレート2.2mL、アクリル酸0.138mL、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)41.3mgを2mLのジオキサンに溶かし、窒素雰囲気下、65℃で12時間攪拌し、反応させた。その後、反応物を少量のジオキサンに溶かし、大過剰のメタノールへ滴下し重合物を析出させ、分取し50℃にて一晩真空乾燥することで、ラウリルアクリレート−アクリル酸コポリマーを得た。
【0061】
参考例2:オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレートの合成
4−ヒドロキシフェニルメタクリレート4.895g、オクタデシルビニルエーテル7.41gを10mLジオキサンに溶かし、濃塩酸5μL加え、室温にて一晩攪拌した。反応終了後、ヘキサン及びNaOH水を用いて抽出操作を行い、アルミナクロマトグラフィーにて精製し、オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレートを得た。
【0062】
実施例1:オクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーの合成
モノマー合成(1)で合成した1−ピレンメタノールアクリレート0.286g、参考例2で合成したオクタデシルオキシエチルメタクリレート3.44g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)59.4mgを2mLのトルエンに溶かし、窒素雰囲気下、65℃で12時間攪拌し、反応させた。その後、反応物を少量のTHFに溶かし、大過剰のメタノールへ滴下し重合物を析出させ、分取し50℃にて一晩真空乾燥することで、オクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーを得た。
【0063】
実施例2:オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーの合成
実施例1のオクタデシルオキシエチルメタクリレートの代わりに、モノマー合成(3)で合成したオクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレートを用いて、実施例1と同様の操作により、オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーを得た。
【0064】
実施例3:オクタデシルオキシエチルメタクリレート−オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーの合成
モノマー合成(2)で合成した1−ピレンメタノールアクリレート0.286g、モノマー合成(2)、(3)で合成したオクタデシルオキシエチルメタクリレート1.72g、オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート1.92g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)59.4mgを2mLのトルエンに溶かし、窒素雰囲気下、65℃で12時間攪拌し、反応させた。その後、反応物を少量のTHFに溶かし、大過剰のメタノールへ滴下し重合物を析出させ、分取し50℃にて一晩真空乾燥することで、オクタデシルオキシエチルメタクリレート−オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーを得た。
【0065】
実施例4:単層カーボンナノチューブ(SWNT)を含む分散液(1)
サンプル管瓶に、SWNT1mg、THF2.2mLを加え、バス型超音波洗浄機にて0.5時間超音波照射により、カーボンナノチューブ粗分散液を調製し、実施例1記載のオクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーのTHF溶液(10mg/mL)を0.8mL加え、バス型超音波洗浄機にて1.5時間超音波照射により、単層カーボンナノチューブを含む分散液を得た。その後10分間/10000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散な単層カーボンナノチューブを含む分散液を得ることも出来た。この分散液をTHFにて10倍希釈した分散液は、側長1cmセルにてフォトルミネッセンス測定が可能なほどSWNTを充分に分散していた。
【0066】
実施例5:単層カーボンナノチューブ(SWNT)を含む分散液(2)
実施例4のTHF溶媒の代わりに酢酸ブチルを用いても同様の分散液を得ることが出来た。
【0067】
実施例6:多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む分散液(1)
サンプル管瓶に、MWNT2mg、トルエン2.2mLを加え、バス型超音波洗浄機にて0.5時間超音波照射により、カーボンナノチューブ粗分散液を調製し、実施例1記載のオクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーのトルエン溶液(10mg/mL)を0.8mL加え、バス型超音波洗浄機にて1.5時間超音波照射により、MWNTを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なMWNTを含む分散液を得ることも出来た。
【0068】
実施例7:多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む分散液(2)
サンプル管瓶に、MWNT2mg、クロロホルム3.2mL、クロロベンゼン0.8mL、実施例1にて合成したオクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマー7.2mg、参考例1にて合成したラウリルアクリレート−アクリル酸コポリマー0.8mgを加え、バス型超音波洗浄機にて2時間超音波照射により、MWNTを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なMWNTを含む分散液を得ることも出来た。
【0069】
実施例8:多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む分散液(3)
実施例7にて用いたオクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーの代わりに、実施例2にて合成したオクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーを用いて、実施例7同様の操作にてMWNTを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なMWNTを含む分散液を得ることも出来た。
【0070】
実施例9:多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む分散液(4)
実施例7にて用いたオクタデシルオキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーの代わりに、実施例3にて合成したオクタデシルオキシエチルメタクリレート−オクタデシルオキシエトキシエチルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーを用いて、実施例7同様の操作にてMWNTを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なMWNTを含む分散液を得ることも出来た。
【0071】
実施例10:カーボンブラックを含む分散液
実施例7にて用いたMWNTの代わりに、カーボンブラックであるケッチェンブラックECP600JDを用いて、実施例7同様の操作にてカーボンブラックを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なカーボンブラックを含む分散液を得ることも出来た。
【0072】
実施例11:単層カーボンナノチューブ(SWNT)を含む分散液の分散・凝集制御
実施例4にて調製した分散液5mLに、1mol/Lのメタンスルホン酸/メタノール溶液または、1mol/Lの塩酸/メタノール溶液を10μL加え攪拌するだけで、速やかに分散液からSWNTを凝集させることが出来た(図1参照)。
【0073】
実施例12:カーボンナノチューブを含む特異的な構造膜(1)
実施例7にて調製した分散液を用いて膜を作成した。温度25℃、相対湿度90%の雰囲気下にて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に分散液をキャストし、乾燥させ製膜することにより、カーボンナノチューブを含む特異的な構造膜を得た。得られた構造膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
得られた膜の抵抗値を4端子法にて測定したところ、2.8×10Ω/□であった。
得られた膜の可視光透過率を朝日分光(株)製MODEL304測定機にて測定したところ、透過率75%であった。
【0074】
更に、得られた膜を1mom/Lの塩酸メタノール溶液に室温にて浸し、その後、メタノール、クロロホルムで洗浄後乾燥させることで、分散剤が部分的に脱離したカーボンナノチューブを含む特異的な構造膜を得た。得られた構造膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。
得られた膜の抵抗値を4端子法にて測定したところ、4.1×10Ω/□であった。
得られた膜の可視光透過率を朝日分光(株)製MODEL304測定機にて測定したところ、透過率88%であった。
【0075】
実施例13:カーボンナノチューブを含む特異的な構造膜(2)
実施例8にて調製した分散液を用いて膜を作成した。温度25℃、相対湿度90%の雰囲気下にて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に分散液をキャストし、乾燥させ製膜することにより、カーボンナノチューブを含む特異的な構造膜を得た。
得られた膜の抵抗値を4端子法にて測定したところ、10Ω/□オーダー以上で測定不能であった。
得られた膜の可視光透過率を朝日分光(株)製MODEL304測定機にて測定したところ、透過率74%であった。
更に、得られた膜を1mom/Lの塩酸メタノール溶液に室温にて浸し、その後、メタノール、クロロホルムで洗浄後乾燥させることで、分散剤が部分的に脱離したカーボンナノチューブを含む特異的な構造膜を得た。
得られた膜の抵抗値を4端子法にて測定したところ、1.1×10Ω/□であった。
得られた膜の可視光透過率を朝日分光(株)製MODEL304測定機にて測定したところ、透過率91%であった。
【0076】
実施例14 カーボンブラックを含む特異的な構造膜
実施例10にて調製した分散液を用いて膜を作成した。温度25℃、相対湿度90%の雰囲気下にて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に分散液をキャストし、乾燥させ製膜することにより、カーボンブラックを含む特異的な構造膜を得た。得られた構造膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。
【0077】
得られた膜の抵抗値を4端子法にて測定したところ、2.1×10Ω/□であった。
得られた膜の可視光透過率を朝日分光(株)製MODEL304測定機にて測定したところ、透過率60%であった。
【0078】
更に、得られた膜を1mom/Lの塩酸メタノール溶液に室温にて浸し、その後、メタノール、クロロホルムで洗浄後乾燥させることで、分散剤が部分的に脱離したカーボンブラックを含む特異的な構造膜を得た。
得られた膜の抵抗値を4端子法にて測定したところ、6.2×10Ω/□であった。
得られた膜の可視光透過率を朝日分光(株)製MODEL304測定機にて測定したところ、透過率74%であった。
【0079】
実施例15:ポリ(オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート)の合成
モノマー合成(2)にて合成したオクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート2.37g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)47.4mgをトルエン1mL、ブチルアセテート1mLの混合溶媒に溶かし、窒素雰囲気下、65℃で12時間撹拌し、更に75℃にて8時間撹拌した。その後、反応物を少量のTHFに溶かし、大過剰のメタノールへ滴下し重合物を析出させ、分取し50℃にて一晩真空乾燥することで、ポリ(オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート)を得た。
【0080】
実施例16:オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーの合成
モノマー合成(2)にて合成したオクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート4.27g、1−ピレンメタノールアクリレート0.286g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)59.4mgをジオキサン4mLに溶かし、窒素雰囲気下、65℃で22時間撹拌した。その後、反応物を少量のTHFに溶かし、大過剰のメタノールへ滴下し重合物を析出させ、分取し50℃にて一晩真空乾燥することで、オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーを得た。
【0081】
実施例17:多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む分散液(5)
サンプル管瓶に、MWNT2mg、THF2.2mLを加え、バス型超音波洗浄機にて0.5時間超音波照射により、カーボンナノチューブ粗分散液を調製し、実施例15記載のポリ(オクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート)のTHF溶液(10mg/mL)を0.8mL加え、バス型超音波洗浄機にて1.5時間超音波照射により、MWNTを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なMWNTを含む分散液を得ることも出来た。
【0082】
実施例18:多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含む分散液(6)
サンプル管瓶に、MWNT2mg、THF2.2mLを加え、バス型超音波洗浄機にて0.5時間超音波照射により、カーボンナノチューブ粗分散液を調製し、実施例16記載のオクタデシルオキシエトキシフェニルメタクリレート−1−ピレンメタノールアクリレートコポリマーのTHF溶液(10mg/mL)を0.8mL加え、バス型超音波洗浄機にて1.5時間超音波照射により、MWNTを含む分散液を得た。その後10分間/5000Gにて遠心分離し、上清を採取することで、安定分散なMWNTを含む分散液を得ることも出来た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするナノカーボン分散剤。
【化1】

式(I)において、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子(H)およびメチル基(CH)からなる群より選択され、
は、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のアルキレン基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30のアリーレン基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30の置換アルキレン基、および骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30の置換アリーレン基のいずれかであり、
pは0または1の整数であり、
は、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のアルキル基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30のアリール基、骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜30の置換アルキル基、および骨格中に1または複数のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数5〜30の置換アリール基のいずれかであり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子(H)および炭素数1〜3のアルキル基からなる群より選択され、
は、ナノカーボンと相互作用し、その表面に吸着可能な官能基を含む原子団であり、
mおよびnは、それぞれ自然数であり、両者の間には、
5≦(m+n)≦1000、および
0.5≦m/(m+n)≦1なる関係が成立する。
【請求項2】
前記原子団Rが、ナノカーボンのπ電子系と相互作用可能な1または複数の官能基を含むことを特徴とする請求項1記載のナノカーボン分散剤。
【請求項3】
前記官能基が、アリール基、置換アリール基、アミノ基、およびアミド基からなる群より選択されることを特徴とする請求項2記載のナノカーボン分散剤。
【請求項4】
前記官能基が、9−アントラニル基および1−ピレニル基のいずれかであることを特徴とする請求項3記載のナノカーボン分散剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のナノカーボン分散剤が表面に吸着したナノカーボンが有機溶媒中に均一に溶解または分散していることを特徴とするナノカーボン分散液。
【請求項6】
前記有機溶媒が疎水性有機溶媒であることを特徴とする請求項5記載のナノカーボン分散液。
【請求項7】
前記ナノカーボンがカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項5または6記載のナノカーボン分散液。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが酸化剤による酸化処理を受けていないことを特徴とする請求項7記載のナノカーボン分散液。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか1項記載のナノカーボン分散剤を含む有機溶媒中にナノカーボンを溶解または分散したナノカーボン分散液を調製する工程Aと、
前記キャスト液を基材上にキャストし、前記有機溶媒を蒸発させ、キャストフィルムを作製する工程Bとを有することを特徴とするナノカーボン薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記工程Bの後に、前記キャストフィルムを溶解または膨潤させない溶媒に酸を溶解した酸溶液に該キャストフィルムを接触させる工程Cをさらに有することを特徴とする請求項9記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記工程Aにおいて、前記ナノカーボンがカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項9または10記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記工程Aにおいて、前記カーボンナノチューブとして、酸化剤による酸化処理を受けていないものを使用することを特徴とする請求項11記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記工程Aにおいて、前記有機溶媒が疎水性有機溶媒であり、前記工程Bにおいて前記キャストフィルムの作製を相対湿度60%以上の雰囲気中で行うことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項記載のナノカーボン薄膜の製造方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項記載の方法で製造されるナノカーボン薄膜。
【請求項15】
面抵抗率が10Ω/□以下であることを特徴とする請求項14記載のナノカーボン薄膜。
【請求項16】
可視光の透過率が60%以上であることを特徴とする請求項14または15記載のナノカーボン薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82120(P2012−82120A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232040(P2010−232040)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】