新規ヒアルロン酸分解促進因子及びその阻害剤
【課題】ヒアルロン酸の分解に関与する新たな因子KIAA1199を見出し、その活性・発現を制御することにより、ヒアルロン酸やその分解・代謝が介在する疾患に対する治療手段を提供する。
【解決手段】KIAA1199遺伝子とそのタンパクを含むヒアルロン酸分解促進剤、及びその活性又は発現を阻害することを特徴とする(siRNAあるいはモノクローナル抗体を含む)ヒアルロン酸分解阻害剤、ならびにKIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を用いた新規ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法。
【解決手段】KIAA1199遺伝子とそのタンパクを含むヒアルロン酸分解促進剤、及びその活性又は発現を阻害することを特徴とする(siRNAあるいはモノクローナル抗体を含む)ヒアルロン酸分解阻害剤、ならびにKIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を用いた新規ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ヒアルロン酸分解促進因子とその阻害剤に関する。より具体的には、KIAA1199遺伝子とそのタンパクを含むヒアルロン酸分解促進剤、及びこれらの活性又は発現を阻害することを特徴とするヒアルロン酸分解阻害剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は皮膚の真皮に多く存在するムコ多糖で、皮膚の保湿や弾力性に寄与する。皮膚のヒアルロン酸の半減期は約1日と短く、その量は加齢とともに減少することが知られている。そのため、従来よりヒアルロン酸やその分解を抑制する素材は、保湿やアンチエイジングを目的とした化粧品等に利用されてきた。
【0003】
たとえば、いくつかの植物抽出物、ヒスタミンH1-アンタゴニスト(特許文献1)、ヘパリン(特許文献2)はヒアルロン酸分解抑制効果を有することが知られており、化粧品や医薬品への応用が検討されている。一方、コンドロイチン硫酸C誘導体(特許文献3)やカルニチン誘導体(特許文献4)はヒアルロン酸分解促進効果を有することが報告されている。
【0004】
美容医療分野においては、ヒアルロン酸の局所注入によるシワ改善効果が広く知られている。しかし、注入したヒアルロン酸は生体内に存在する酵素によって分解・代謝されてしまうため、その効果は持続しないという問題がある。
【0005】
医薬品分野においては、高分子ヒアルロン酸の関節内注射薬が変形性関節炎や関節リウマチの治療に利用されているが、やはり効果の持続性という問題から、定期的な投与を余議なくされる。ヒアルロン酸の生体内での分解を制御することができれば、それは上述した持続性の問題を解決し、患者のコンプライアンス向上に寄与する。
【0006】
ヒアルロン酸は、D-グルクロン酸とN-アセチルD-グルコサミンの繰り返し構造からなるポリマーで、その分子量は数千から数百万まで多岐にわたるが、分子量に応じて異なる生理活性を示すことが知られている。たとえば、分子量1,600-10,000の低分子ヒアルロン酸は、血管新生作用を示し、分子量約50万以下のヒアルロン酸は炎症に関わる種々の因子を誘導することが知られている。
【0007】
癌、変形性関節炎(OA)、関節リウマチ(RA)などの疾患においては、ヒアルロン酸の合成と分解のバランスが崩れていることが知られている。たとえば、膀胱癌では、尿中及び組織中に大量の低分子ヒアルロン酸が検出されるが、癌の悪性度と組織中ヒアルロン酸の分子量には相関性があり、悪性度の高い癌では高分子量(約200万)と低分子量(約1万)のヒアルロン酸が混在する。また、低分子ヒアルロン酸が腫瘍組織への栄養血管の新生を誘導しているとの報告もある。変形性関節炎患者や関節リウマチ患者の関節液では、ヒアルロン酸濃度や分子量が低下することが知られている。したがって、ヒアルロン酸の分子量を制御することができれば、その分子量に応じた所望の効果を発揮させることで、より効果的な治療にもつながる可能性が高い。
【0008】
ところで、生体内でのヒアルロン酸の分解・代謝には、ヒアルロニダーゼ(HYAL)1, 2及びCD44(HA受容体)が関与するモデルが提唱されている。このモデルによれば、ヒアルロン酸は、HYAL2及びCD44の共同作用により細胞外で分解して、20kDaフラグメントを生成するか、又はCD44に媒介されてエンドソーム/リソソーム経路中に組み込まれ、リソソーム中でHYAL1により四糖類に分解される。
【0009】
現在ヒトでは6種のヒアルロニダーゼ関連遺伝子(HYAL1〜4、SPAM1及びHYALP1)が知られており、HYAL4、SPAM1及びHYALP1がコードするものは精巣に主に発現するが、HYAL1、HYAL2及びHYAL3がコードするものは広範囲で発現している。HYAL3のヒアルロン酸分解能については現在異論もあり、したがって上述したHYAL1及びHYAL2が、ヒアルロン酸分解の中心的役割を演じている可能性が高いと考えられてきた。しかしながら、ヒアルロン酸分解のメカニズムはこれらの既知のヒアルロニダーゼ関連遺伝子だけで全て説明できるものではなく、その実体は解明されていなかった。
【0010】
本発明にかかるKIAA1199遺伝子は、機能未知の遺伝子断片(EST)であり、癌や難聴との関連が示唆されていた。たとえば、KIAA1199遺伝子は耳の内耳で高発現し、そのアミノ酸置換を伴う変異が非症候性難聴家系で複数確認されたことが報告されている(非特許文献1及び2等)。また、培養乳癌細胞や胃癌など種々の癌細胞・組織において、KIAA1199遺伝子が高発現していること(非特許文献3及び4)、結腸直腸癌においてKIAA1199遺伝子が高発現し、抗癌剤投与によりその発現が低下すること(非特許文献5)が報告されている。さらに、上記のような知見に基づき、KIAA1199遺伝子を癌の遺伝子診断や創薬に利用することについて、いくつかの特許出願もなされている(特許文献5〜9)。
【0011】
一方、マイクロアレイを用いた解析により、KIAA1199遺伝子は変形性関節炎(特許文献10)や、関節リウマチ、骨関節炎(特許文献11)のマーカーになりうることも報告されている。
【0012】
しかしながら、癌や炎症のメカニズムは複雑であり、KIAA1199がこれら疾患にどのように関与し、どのような生理活性を有するかなど、その具体的な生理機能は何ら解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平08-225447
【特許文献2】特開平11-80004
【特許文献3】特開平11-80205
【特許文献4】特開2006-76975
【特許文献5】WO2005/011650
【特許文献6】特開2008-118915
【特許文献7】特開2009-276153
【特許文献8】特表2009-502116
【特許文献9】WO2010/011281
【特許文献10】特表2006-506979
【特許文献11】DE10328033
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Abe S, et al., (2003) Am J Hum Genet 72(1):73-82.
【非特許文献2】Abe S, et al., (2003) J Hum Genet 48(11):564-570.
【非特許文献3】Michishita E, et al., (2006) Cancer Lett 239:71-77.
【非特許文献4】Sabates-Bellver J, et al., (2007)Mol Cancer Res 12:1263-75.
【非特許文献5】Galamb O, et al., (2010) Br J Cancer 102(4):765-773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、ヒアルロン酸の分解に関与する因子を見出し、その活性・発現を制御することにより、ヒアルロン酸やその分解・代謝が介在する疾患に対する新たな治療手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、ヒト線維芽細胞においてHYAL1,2, CD44とは異なるヒアルロン酸分解因子が存在することを見出し、候補遺伝子を順にノックダウンすることにより、それが遺伝子シンボルKIAA1199で示される遺伝子(KIAA1199遺伝子)であることを特定した。そして、このKIAA1199こそ、ヒアルロン酸分解に関わる新規な因子であることを見出した。
【0017】
KIAA1199遺伝子は、機能未知の遺伝子断片(EST)であり、上述したとおり癌や難聴との関連が示唆されているものの、ヒアルロン酸やその分解・代謝との関係は何ら報告されていなかった。発明者らは、KIAA1199遺伝子に対するsiRNAやモノクローナル抗体を用いて、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解機序を解明するとともに、その発現や活性を阻害することにより、ヒアルロン酸の分解が効果的に抑制できることを確認した。
すなわち、本発明は、KIAA1199のヒアルロン酸分解促進機能とその阻害に関する。
【0018】
第1の実施態様において、ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法を提供する。
1つの形態において、前記スクリーニング方法は、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を指標として、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0019】
前記方法は、たとえば、下記の工程を含む:
1)細胞を被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)上記細胞のKIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、上記遺伝子又はタンパクの発現量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0020】
用いられる細胞としては、KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞が好ましい。細胞は、KIAA1199遺伝子を強制発現させた組換え細胞であってもよい。
【0021】
別な形態において、前記スクリーニング方法は、外部より添加した標識ヒアルロン酸の分子量を指標として、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
前記方法は、たとえば、下記の工程を含む:
1)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を、標識ヒアルロン酸の共存下で、被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)培養後の培養上清を回収し、標識ヒアルロン酸の分子量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、標識ヒアルロン酸の分子量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0022】
第2の実施態様において、本発明は、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節することを特徴とする、ヒアルロン酸の分解制御方法を提供する。
【0023】
前記方法は、ヒアルロン酸の分解を阻害する方向へ制御する場合、例えば、
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA、
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物を適用(投与、導入)する工程を含む。
【0024】
前記方法は、ヒアルロン酸の分解を促進させる方向へ制御する場合、例えば、
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、又は
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、を適用(投与、導入)する工程を含む。
【0025】
第3の実施態様において、本発明は、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節する物質を含む、ヒアルロン酸分解制御剤を提供する。
【0026】
本発明のヒアルロン酸分解制御剤は、ヒアルロン酸の分解を阻害する方向へ制御する場合(ヒアルロン酸分解阻害剤)、例えば、
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物、を含む。
【0027】
前記siRNAは、たとえば、配列表の配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列、又は前記配列と配列同一性90%以上の塩基配列を有する。
【0028】
前記抗体としては、たとえば、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体を挙げることができる。
【0029】
前記低分子化合物としては、たとえばクロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、オリエンチンなどが挙げられる。
【0030】
上記したヒアルロン酸分解阻害剤は、医薬組成物あるいは化粧料として用いることができる。
【0031】
本発明のヒアルロン酸分解阻害剤は、ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善のために用いられる。具体的には、たとえば、関節機能改善、癌の予防・治療、組織修復、又は荒れ肌、乾燥肌もしくは小ジワ改善のために用いられる。
【0032】
本発明のヒアルロン酸分解制御剤は、ヒアルロン酸の分解を促進させる方向へ制御する場合(ヒアルロン酸分解促進剤)、例えば、
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、もしくは
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、を含む。
【0033】
上記したヒアルロン酸分解促進剤は、医薬組成物あるいは化粧料として用いることができる。
【0034】
本発明のヒアルロン酸分解促進剤は、ヒアルロン酸の異常産生亢進もしくは異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善、ヒアルロン酸による組織修復の補正、又は難聴の予防・治療に用いられる。
【0035】
本発明は、ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、上記したヒアルロン酸分解阻害剤とを含む、局所投与用製剤も提供する。前記局所投与用製剤は、関節機能改善薬、組織修復薬、あるいは化粧料として用いることができる。
【0036】
本発明は、本発明のヒアルロン酸分解制御効果を評価するためのキット(ヒアルロン酸分解制御効果評価用キット)も提供する。前記キットは、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つを含む。
(a)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞
(b)KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体
(c)KIAA1199遺伝子を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー
(d)KIAA1199遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するためのポリヌクレオチドプローブ
【0037】
前記抗体としては、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体を挙げることができる。
【0038】
本発明は、前記したモノクローナル抗体とそのエピトープペプチドも提供する。エピトープペプチドは、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有する。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、生体内におけるヒアルロン酸の分解を制御することで、ヒアルロン酸の枯渇や分子量低下に基づく疾患状態の緩和・治療が可能となる。また、変形性関節症や関節リウマチの治療、あるいは美容医療において、局所投与されたヒアルロン酸の効果を持続させることが可能になる。さらに、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクを標的とした新たなヒアルロン酸分解制御剤の探索や、ヒアルロン酸分解に伴う病態メカニズムの解明が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1a】図1aは、培養正常ヒト皮膚線維芽細胞(Detroit551)におけるヒスタミン及びTGF-β1によるHA分解(左)、RT-PCRによるKIAA1199 mRNAの発現(右上)、ウェスタンブロットによるKIAA1199タンパクの発現(右下)をみた結果を示す。
【図1b】図1bは、培養正常ヒト皮膚線維芽細胞(Detroit551)におけるsiRNAによるHYAL2、CD44のノックダウンによるHA分解(上)、及HYAL2、CD44タンパクの発現(ウェスタンブロット:下)を示す。
【図1c】図1cは、各種培養正常ヒト皮膚線維芽細胞株 Detroit551(左)、HS27(中)、NHDF(右)における、1種又は2種類のsiRNAを用いたKIAA1199ノックダウンとHA分解との関係を示す。
【図1d】図1dは、ヒト皮膚におけるKIAA1199の発現を示す(左:ウェスタンブロット、右:免疫染色)。矢印はKIAA1199抗体で染色された部位を示す。
【図1e】図1eは、ヘパリンによる培養正常ヒト皮膚線維芽細胞におけるHA分解の阻害を示す。
【図2a】図2aは、KIAA1199を強制発現させた細胞(左:HEK293、右:COS-7)における、外的に添加したHA分解、及びKIAA1199発現(ウェスタンブロット)を示す。図中、○(empty)は空ベクター導入細胞、●(KIAA1199)はKIAA1199強制発現細胞。
【図2b】図2bは、難聴で知られる変異型KIAA1199(▲R187H、●R187C、◆H783R、■V1109I)と○野生型KIAA1199によるHA分解を示す。
【図3a】図3a: HA及び、他のグリコサミノグリカン(ヘパリン、へバラン硫酸、コンドロイチン硫酸A,D,E、デルマタン硫酸)に対するKIAA1199の作用を示す。
【図3b】図3bは、KIAA1199による分解産物のサイズ分布を示す(分解物は平均分子量約15,000の低分子量HA)。
【図3c】図3cは、KIAA1199を強制発現させたHEK293細胞におけるエンドサイトーシス阻害剤又はリソソーム機能阻害剤(A:Chlorpromazine, B:N-ethylmaleimide, C:Bafilomycin Al, D:Monensin,E:EDTA,F:Deferoxamine,G:Orientin)によるHA分解の阻害を示す。
【図4a】図4aは、siRNAを用いたKIAAl199のノックダウンによる、正常、OA患者(OA-1、OA-2、OA-3)、RA患者(RA-1、RA-2、RA-3)由来培養滑膜細胞における、外的に添加したHA分解の影響を示す。○ control:無関係なsiRNA導入細胞、●KIAA1199:KIAA1199特異的siRNA導入細胞
【図4b】図4b:正常、OA患者(OA-1、OA-2、OA-3)、RA患者(RA-1、RA-2、RA-3)由来培養滑膜細胞における、KIAA1199の発現を示す。
【図4c】図4cは、RA患者の組織におけるKIAAl199の発現を示す(RT-PCR)。
【図4d】図4dは、RA患者の組織におけるKIAAl199の発現を示す(in situ ハイブリダイゼーション)。矢印はKIAA1199局在部位を示す。
【図4e】図4eは、RA患者の組織におけるKIAAl199の発現を示す(免疫染色)。矢印はKIAA1199抗体で染色された部位を示す。
【図4f】図4fは、各種炎症性メディエーター(PGE2、インターロイキン(IL)-1、IL-6)による、培養RA滑膜細胞におけるKIAAl199発現誘導を示す。
【0041】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2010−128701号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、遺伝子シンボルKIAA1199で示される遺伝子(以下、「KIAA1199遺伝子」という)あるいはKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク(以下、「KIAAタンパク」という)のヒアルロン酸分解促進機能に基づく、治療、診断、創薬への応用に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0043】
1.KIAA1199
本発明にかかる「KIAA1199遺伝子」とは、遺伝子シンボル(Gene Symbol)KIAA1199で示される機能未知の遺伝子断片(EST)であり、TMEM2Lと記載されることもある。
【0044】
ヒトKIAA1199の塩基配列やアミノ酸配列(ORF)は公知であり、その塩基配列(mRNA)は、Accession Number NM_018689として、アミノ酸配列はAccession Number EAW99111として、公共のデータベースであるGenBankに登録されている。
【0045】
本明細書に添付する配列表において、ヒトKIAA1199の塩基配列を配列番号1として、アミノ酸配列を配列番号2として示す。本発明における、KIAA1199遺伝子上の位置や、KIAA1199タンパク アミノ酸配列上の各位置は、この配列番号1あるいは2に示される配列上の位置に基づいて示される。
【0046】
ヒトKIAA1199遺伝子は第15番染色体に位置し、そのmRNAは7080塩基からなり、1361アミノ酸をコードする(配列番号1及び2参照)。KIAA1199遺伝子は、ヒトのみならず、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュで広くその配列が保存されていることが知られている。
【0047】
本発明にかかる「KIAA1199タンパク」とは、KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク質である。ヒトKIAA1199タンパク(ORF)は、1361アミノ酸からなり、コンピューター解析により、GG domain(7つのβ-strandと2つのα-helixからなる約100アミノ酸の配列。何らかの機能を意味しない)や、G8 domain(5つのβ-strandからなるアミノ酸配列。何らかの機能を意味しない)を有することが報告されている。
【0048】
KIAA1199遺伝子は、ある種の癌患者において高発現していることから、こうした癌の診断用マーカーの一つとして利用可能であることが報告されている。また、KIAA1199遺伝子のアミノ酸置換を伴う変異が非症候性難聴家系で複数見つかっていることから、難聴との関連も示唆されている。しかしながら、生体内におけるKIAA1199の具体的な機能は未だ解明されておらず、KIAA1199遺伝子やそのタンパクによる疾患の治療も報告されていない。
【0049】
発明者らは、KIAA1199が、HYAL 1,2やCD44を介した既存のヒアルロン酸分解系とは別個の系において、ヒアルロン酸分解促進因子として作用することを初めて見出した。
【0050】
また、ヒアルロン酸代謝の異常が知られている変形性関節症(OA)や関節リウマチ(RA)患者の培養滑膜細胞と正常滑膜細胞では、KIAA1199遺伝子の発現は正常<OA<RAの順で高く、ヒアルロン酸分解も正常<OA<RAの順で高いことを確認した。さらに、これらの細胞においてKIAA1199遺伝子をノックダウンすると、いずれの細胞においてもヒアルロン酸の分解が抑制されることが確認された。そして、RA患者由来の培養滑膜細胞において、KIAA1199の発現がプロスタグランジンE2やIL-1、IL-6などの炎症性メディエーターの添加によって誘導されることが確認された。以上の事実は、KIAA1199は疾患状態におけるヒアルロン酸の分解(過剰分解)を促進する因子であり、その機能を抑制することは、ヒアルロン酸の分解を通じてOAやRA等の治療に有用であることを裏付ける。
【0051】
2.KIAA1199遺伝子の発現を抑えるアンチセンス核酸又はsiRNA
アンチセンス核酸
「アンチセンス核酸」とは、標的核酸に対して相補的あるいは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有する核酸であって、前記標的核酸のmRNAの少なくとも一部(標的部位)にハイブリダイズし、その発現を抑制する機能を有する核酸である。ここで「実質的に相補的」とは、標的部位にハイブリダイズし、標的核酸の発現を抑制できる限りにおいて、部分的ミスマッチを許容することを意味する。具体的には、「実質的に相補的」な配列とは、標的部位の配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列を言う。
【0052】
アンチセンス核酸を構成する一部の塩基は、生体内での安定性を向上させるため、必要に応じて修飾されていてもよい。そのような修飾としては、リン酸基のホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、及びホスホロジチオネート化、糖(デオキシリボース)部分の2’-O-メチル化、塩基部分の化学修飾、架橋導入(BNA(LNA)オリゴ)等が挙げられる。核酸はDNAであってもRNAであっても、これらのハイブリッド(DNA/RNA)であってもよい。
【0053】
「アンチセンス核酸」の標的部位は、公知の方法・経験則にしたがって選択できる。たとえば、単純に翻訳開始部位を選択する方法、一次配列から二次構造を計算・予測して一本鎖構造をとっている部位を標的部位として選択する方法、ランダムオリゴを用いてもっとも効果的にハイブリダイズし、切断できる部位を選択するランダムスクリーニング法等を用いることができる。
【0054】
アンチセンス核酸の長さは、その目的を達成する限り特に限定されないが、通常10〜40塩基、好ましくは15〜30塩基である。
【0055】
siRNA(small interfering RNA)
「siRNA(small interfering RNA)」は、細胞に2本鎖RNA(dsRNA)が取り込まれると、相補的なmRNAが分解されるRNA干渉を利用して、標的核酸の発現を抑制する小分子RNAである。
【0056】
「siRNA」は、通常21〜30塩基、多くは21-25塩基程度の末端に2塩基程度の突出(オーバーハング)を有する短い二本鎖RNA(あるいはRNA/DNA)として設計される。突出部位はTTとして設計されることが多いが、これに限定されない。また、平滑末端を有するものであってもよい。
【0057】
siRNAを構成する一部の塩基は、アンチセンス核酸と同様に生体内での安定性を向上させるため、必要に応じて修飾されていてもよい。そのような修飾としては、リン酸基のホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、ホスホロジチオネート化や、糖(デオキシリボース)の2’-O-メチル化、塩基部分の化学修飾、架橋導入(BNA(LNA)オリゴ)が挙げられる。核酸はRNAであるが、ハイブリッド(DNA/RNA)であってもよい。
【0058】
siRNAの標的部位は、アンチセンス核酸と同様に、公知の方法・経験則にしたがって選択でき、市販のソフトウェア、サービスを好適に利用することができる。
【0059】
すなわち、本発明の「KIAA1199遺伝子の発現を抑えるsiRNA」は、上記のようにして設定される標的領域の少なくとも一部に相補的あるいは実質的に相補的な配列を有する21〜30塩基、好ましくは21〜25塩基程度の短い二本鎖RNAあるいはRNA/DNAハイブリッドとして設計される。
【0060】
たとえば、本発明のsiRNAは、配列表の配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列を有する。しかしながら、これに限定されるものでなく、前記配列と1又は数個、たとえば1〜3、好ましくは1又は2個程度のミスマッチがあっても、KIAA1199遺伝子の発現を抑えることができる限り、本発明のsiRNAとして利用することができる。換言すれば、配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列と配列同一性80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の塩基配列を有するsiRNAも、KIAA1199遺伝子の発現を抑えることができる限り、本発明のsiRNAとして利用することができる。
【0061】
上記したアンチセンス核酸やsiRNAは、PEGやポリリジン等を付加して細胞膜への親和性を向上させたり、リポソーム、マイクロスフェア等を用いた公知の徐放性システムに組込んでもよい。こうして製剤化されたKIAA1199遺伝子の発現を抑えるアンチセンス核酸やsiRNAは、後述する「ヒアルロン酸分解阻害剤」として好適に利用できる。
【0062】
3.抗KIAA1199抗体
本発明で用いられる「KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体(抗KIAA1199抗体)」は、公知の方法にしたがって調製することができる。すなわち、常法により、抗原となるKIAA1199タンパク、あるいはその任意の部分ポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。
【0063】
抗体は、ポリクローナルであってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体は、公知の方法(たとえば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これより得ることができる。
【0064】
抗体作製用の抗原としては、抗原であるKIAA1199タンパク又はその連続した部分アミノ酸配列からなる部分ポリペプチド(エピトープペプチド)、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(たとえば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。
【0065】
前記抗原ポリペプチドは、KIAA1199タンパク又はその部分ポリペプチド(エピトープペプチド)を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、KIAA1199遺伝子又はその一部を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させればよい。
【0066】
たとえば、抗KIAA1199抗体は、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製することができる。しかしながら、これに限定されるものでなく、前記配列に対して、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製される抗体も、KIAA1199タンパクに特異的に結合し、その機能を抑制できる限り、本発明の抗KIAA1199(モノクローナル)抗体として利用することができる。換言すれば、配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列と配列同一性80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製される抗体も、KIAA1199タンパクに特異的に結合し、その機能を抑制できる限り、本発明の抗KIAA1199(モノクローナル)抗体として利用することができる。
【0067】
抗KIAA1199抗体は、必要に応じて標識してもよい。前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。
【0068】
こうして製剤化された抗体、とくに特異性の高いモノクローナル抗体は、後述する「ヒアルロン酸分解阻害剤」として好適に利用できる。
【0069】
KIAA1199エピトープペプチド
発明者らは、とくに配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製したモノクローナル抗体が高い特異性を有し、優れたKIAA1199抑制効果を有することを確認した。本発明は、この配列番号3〜5で示される「KIAA1199エピトープペプチド」も提供する。
【0070】
エピトープペプチドは、抗KIAA1199抗体エピトープとして機能する限り、配列番号3〜5のいずれかで示される配列に対して、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。換言すれば、配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列と配列同一性80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列を有するペプチドも、本発明の「KIAA1199エピトープペプチド」として利用することができる。
【0071】
4.ヒアルロン酸分解制御剤
本発明にかかる「ヒアルロン酸分解制御剤」とは、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現や活性を制御することにより、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解を制御(阻害又は促進)する物質あるいは調製物である。すなわち、本発明において、「ヒアルロン酸分解制御剤」は、以下に説明する「ヒアルロン酸分解阻害剤」と「ヒアルロン酸分解促進剤」の両方を包含する。
【0072】
4.1 ヒアルロン酸分解阻害剤
本発明にかかる「ヒアルロン酸分解阻害剤」とは、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現や活性を抑制することにより、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解を阻害する物質あるいは調製物である。
【0073】
上記したとおり、KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸やsiRNAは、KIAA1199遺伝子の発現を抑制することで「ヒアルロン酸分解阻害剤」として機能する。また、抗KIAA1199抗体、とくに特異性の高いモノクローナル抗体は、KIAA1199タンパクの活性を特異的に阻害することで、「ヒアルロン酸分解阻害剤」として機能する。さらに、クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、オリエンチンなどの低分子化合物もKIAA1199を介したヒアルロン酸分解を阻害することで、「ヒアルロン酸分解阻害剤」として機能する。
【0074】
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、アンチセンス核酸やsiRNA、抗KIAA1199抗体、上記低分子化合物を1種類の含むものであってもよいし、2種類以上含むものであってもよい。
【0075】
こうしたアンチセンス核酸やsiRNA、抗KIAA1199抗体、低分子化合物は、薬理学的に許容される担体や添加物とともに必要に応じて製剤化される。製剤化は、常法(たとえば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に従って実施することができる。
【0076】
薬理学的に許容される担体・添加物としては、たとえば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。具体的には、たとえば、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として配合することができる。
【0077】
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、経口でも非経口投与であってもよいが、好ましくは非経口投与である。投与方法としては、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。投与は、患者の年齢、症状に応じて適切な投与方法を選択でき、全身的でも局所的でもよいが、局所投与が好適である。
【0078】
投与量は、たとえば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で適宜選択する。あるいは、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で適宜設定するが、これに限定されるものではない。
【0079】
ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善
「ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患」とは、ヒアルロン酸分解が生理的に正常時より亢進している症状又は疾患であって、具体的にはヒアルロン酸の分解が患部で異常亢進しているリウマチ、変形性関節症、乾癬性関節症、痛風、多発性関節炎、外傷性関節炎などの関節症、肝炎、歯肉炎、及び癌等の悪性腫瘍が挙げられる。また血清中でヒアルロン酸量が増大していることから患部でヒアルロン酸の分解が異常に亢進していると考えられる肝硬変、移植拒否、乾癬及び強皮症、また疾患によって臓器が硬化する肝硬変、動脈硬化等の線維症、さらにはヒアルロン酸分解の結果として患部で水分保持能力が低下している乾皮症、乾燥肌、荒れ肌、その他腎炎、ケロイド、過修復、敗血症等の疾患も含まれる。本発明のヒアルロン酸分解阻害剤は、これらの症状や疾患に対して、疾患の症状を取り去るいわゆる治療剤のほか、その症状を軽減する改善剤、症状が現れるのを防止する予防剤として適用することができる。
【0080】
組織修復効果
ヒアルロン酸は、細胞と細胞の間、とりわけ皮膚の真皮に多く含まれ、皮膚の保湿や弾力性に寄与し、加齢に伴うその減少・枯渇は皮膚の乾燥やしわ形成につながる。それゆえ、本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、ヒアルロン酸の分解に伴うシワ形成等を防止する組織修復薬として機能する。
【0081】
美容医療分野ではシワ改善等の組織修復のために高分子ヒアルロン酸ナトリウムの局所注入療法が実施されている。しかしながら、注入されたヒアルロン酸は皮膚内で分解・代謝されてしまうため、効果の持続性に乏しい。本発明にかかる「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした既存のヒアルロン酸製剤と共に用いられることで、局所投与されたヒアルロン酸の分解を抑制しその組織修復(シワ改善)効果に持続性を付与する。
【0082】
また再生医療分野においても、本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」による皮膚組織や関節組織等の修復効果を利用することができ、また人工皮膚においては足場(Scaffold)に用いられているヒアルロン酸の分解を抑制することができる。
【0083】
関節機能改善効果
変形性関節炎や関節リウマチなどの疾患においては、ヒアルロン酸の合成と分解のバランスが崩れ、滑膜内のヒアルロン酸が枯渇、低分子量化することが関節機能の低下をもたらす一因であることが知られている。本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした疾患状態におけるヒアルロン酸の分解を抑制して関節機能の低下を抑制する、関節機能改善薬として機能する。なお、関節機能改善には、軟骨の変性変化、滑膜の炎症、疼痛の抑制など、関節機能に関連するすべての症状の改善を含む。
【0084】
医療分野では関節機能改善のために高分子ヒアルロン酸ナトリウムの局所注入剤が用いられている。しかしながら、ヒアルロン酸は関節内とくに上述した疾患状態の関節内では、容易に分解・代謝されてしまうため、頻回の投与を余議なくされる。本発明にかかる「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした既存のヒアルロン酸製剤と共に用いられることで、ヒアルロン酸の分解を抑制し、関節機能改善効果に持続性を付与する。
【0085】
癌の予防・治療効果
乳癌、胃癌、結腸直腸癌など種々の癌細胞・組織において、KIAA1199遺伝子が高発現していることが知られ、抗癌剤投与によりその発現が低下することも報告されている。
また、多くの癌組織においてヒアルロン酸の産生と分解レベルの増加が癌の進展と関連していること、癌の侵潤・転移には癌細胞が産生するヒアルロン酸と、同時に低分子化されたヒアルロン酸が関与し、これらのヒアルロン酸によって促進されることが知られている。
【0086】
それゆえ、本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうしたヒアルロン酸を介した、癌の進展、転移等を防止する抗癌剤として利用することもできる。
【0087】
化粧料
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、皮膚のヒアルロン酸の分解を阻害することにより、肌荒れや小ジワ、かさつきを防止する化粧料として利用することができる。
【0088】
4.2 ヒアルロン酸分解促進剤
本発明にかかる「ヒアルロン酸分解促進剤」とは、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現や活性を促進することにより、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解を促進する物質あるいは調製物である。
【0089】
上記したとおり、KIAA1199遺伝子やKIAA1199タンパクは、「ヒアルロン酸分解促進剤」として機能する。KIAA1199遺伝子やKIAA1199タンパクもまた、ヒアルロン酸分解阻害剤と同様に、必要に応じて薬理学的に許容される担体や添加物とともに製剤化される。使用可能な担体・添加物は上記したとおりである。
【0090】
本発明の「ヒアルロン酸分解促進剤」は、経口でも非経口投与であってもよいが、好ましくは非経口投与である。投与方法としては、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。投与は、患者の年齢、症状に応じて適切な投与方法を選択でき、全身的でも局所的でもよいが、局所投与が好適である。
【0091】
投与量は、たとえば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で適宜選択する。あるいは、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で適宜設定するが、これに限定されるものではない。
【0092】
ヒアルロン酸の異常産生亢進もしくは異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善
「ヒアルロン酸の異常産生亢進を伴う症状あるいは疾患」とは、ヒアルロン酸合成が生理的に正常時より亢進している症状又は疾患であって、具体的には、乾癬、動脈硬化、骨異常形成、心筋梗塞等が挙げられる。「ヒアルロン酸の異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患」とは、ヒアルロン酸分解が正常時より抑制されている症状又は疾患であって、具体的には、ヒアルロン酸の分解が患部で異常抑制されていると考える脱毛症、若はげ等が挙げられる。
本発明のヒアルロン酸分解促進剤は、これらの症状や疾患に対して、疾患の症状を取り去るいわゆる治療剤のほか、その症状を軽減する改善剤、症状が現れるのを防止する予防剤として適用することができる。
【0093】
組織修復の補正
ヒアルロン酸局所投与製剤を用いた美容医療(組織修復)においては、注入部位の補正として、ヒアルロン酸分解酵素を投与する。本発明の「ヒアルロン酸分解促進剤」は、こうしたヒアルロン酸による組織修復の補正(余分な注入ヒアルロン酸の分解)用として利用することができる。
【0094】
難聴の予防・治療
発明者らは、非症候性難聴患者でみられる変異KIAA1199タンパクが、KIAA1199を介したヒアルロン酸分解機能にも損傷がみられることを確認した。このことは、非症候性難聴の発症とKIAA1199を介したヒアルロン酸分解には何らかの関連があり、KIAA1199の活性又は発現を促進させることにより、難聴の発症を抑制し、症状を改善しうる可能性を示唆する。すなわち、「ヒアルロン酸分解促進剤」は、こうした難聴の予防・治療用として利用することができる。
【0095】
5.本発明のヒアルロン酸分解阻害剤を含む局所投与用製剤
本発明は、「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、本発明のヒアルロン酸分解阻害剤とを含む局所投与用製剤」を提供する。
【0096】
美容医療分野においては、シワ改善薬等の組織修復薬として高分子ヒアルロン酸の局所注入剤が用いられている。また、医療分野においては、変形性関節炎や関節リウマチにおける関節機能改善薬として、高分子ヒアルロン酸の関節内注射薬が利用されている。しかしながら、前述のとおり、投与されたヒアルロン酸は生体内で容易に分解・代謝されてしまうため、その効果は持続せず、患者は定期的な投与を余議なくされる。
【0097】
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした既存のヒアルロン酸(高分子ヒアルロン酸)局所投与製剤に加えて用いられることで、ヒアルロン酸の生体内での分解を抑制し、より持続性の高いヒアルロン酸製剤を提供することができる。
【0098】
ここで、ヒアルロン酸には、ヒアルロン酸のみならず、ヒアルロン酸ナトリウム、架橋ヒアルロン酸のようなヒアルロン酸の薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体も含まれる。また、高分子ヒアルロン酸とは、重量平均分子量10万以上、好ましくは50万以上のヒアルロン酸を意味する。
【0099】
製剤は、ヒアルロン酸のほか、薬理学的に許容される担体を含有してもよい。薬理学的に許容される担体・添加物としては、たとえば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。具体的には、たとえば、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として配合することができる。
【0100】
一般的に、製剤はヒアルロン酸と等張化剤、緩衝液を含む高分子ヒアルロン酸塩の等張化溶液を充填したアンプル製剤、あるいはシリンジ等に充填したプレフィルド製剤として提供される。
【0101】
本発明の局所投与用製剤は、「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体」と「ヒアルロン酸分解阻害剤」があらかじめ混合された状態で提供されてもよいし、それぞれ別個の構成要素としてパッケージされ、用時混合又は順次投与して用いられる形態のキット製剤として提供されてもよい。
【0102】
本発明の「局所投与用製剤」において、「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体」に対する「ヒアルロン酸分解阻害剤」の配合量は、用いるヒアルロン酸の分子量や架橋度、あるいは濃度等に応じて適宜設定される。
【0103】
本発明の「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、本発明のヒアルロン酸分解阻害剤とを含む局所投与用製剤」は、持続性の高い組織修復薬(しわ改善薬)、関節機能改善薬として利用される。なお、前述したとおり、関節機能改善には、軟骨の変性変化、滑膜の炎症、疼痛の抑制など、関節機能に関連するすべての症状の改善を含むものとする。
【0104】
6.ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法
本発明は、KIAA1199を標的とするヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法も提供する。具体的には、被験物質によるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量の増減を指標として、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価するか、あるいは外部より添加したヒアルロン酸の分子量を指標として評価する。
【0105】
スクリーニング系は、培養細胞系であっても動物モデルを用いた系であってもよいが、簡便さという点では培養細胞系が好ましい。
【0106】
6.1 KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量を指標とする方法
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量を指標として評価する方法は、たとえば下記のように実施する:
1)細胞を被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)上記細胞のKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、上記遺伝子又はタンパクの発現量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0107】
細胞
本発明のスクリーニング方法で用いられる細胞は、KIAA1199を一過性あるいは安定的に高発現している細胞であれば特に限定されず、線維芽細胞、滑膜細胞等を選択することができる。なお、「安定的に高発現する」とは、KIAA1199に対する被験物質の作用が十分評価できる程度に該KIAA1199遺伝子あるいはタンパクが高レベルで発現していることを意味する。
【0108】
細胞は、適当な宿主細胞に本発明のKIAA1199遺伝子を導入し強制発現させた細胞を用いてもよい。こうした細胞は、常法に従い(たとえば、(Molecular Cloning, A Laboratory Manual”Maniatis, T., Fritsch, E.F., Sambrook, J. (1982) Cold Spring Harbor Laboratory Press 参照)、クローニングされたKIAA1199遺伝子のcDNAを、適当なベクターを用いて宿主細胞に導入することにより作製される。宿主細胞は、哺乳動物の遺伝子を発現しうる細胞であれば特に限定されず、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞等を用いることができる。たとえば、脊椎動物細胞であれば、サルの細胞であるCOS細胞(ATCC CRL-1650)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)やそのジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4126-4220)等)を用いることができる。昆虫細胞であれば、鱗翅類ヤガ科のSpodoptera frugiperdaの卵巣細胞由来株化細胞(Sf-9又はSf-21)やTrichoplusia niの卵細胞由来High Five細胞(Wickham, T. J. et al, (1992) Biotechnol. Prog.i: 391-396)等を用いることができる。
【0109】
上記した方法のほか、KIAA1199遺伝子のプロモーター支配下に、プロモーター活性の検出を可能にするレポーター遺伝子を利用して、間接的にKIAA1199やKIAA1199遺伝子の発現を検出することもできる。遺伝子導入は一過的なものでも、レポーター遺伝子、及びKIAA1199遺伝子発現ベクターで、宿主細胞を二重に形質転換して選抜した安定的形質転換細胞でもよい。後者の場合には、KIAA1199遺伝子の発現を誘導する条件下でレポーター遺伝子の発現が促進されるような細胞株を樹立することが必要となる。すなわち、導入された遺伝子が、宿主細胞の染色体に組み込まれるなどして、宿主細胞の継代を重ねても保持される安定的に形質転換された細胞を適当な選択マーカーを用いて選抜する。
【0110】
こうして得られた細胞株を、KIAA1199遺伝子の発現が誘導される条件下におくと、KIAA1199遺伝子の発現依存的にレポーター遺伝子の転写が促進される。したがって、レポーター遺伝子の発現が可能な条件下において、培地中に任意の被験物質を添加した場合と添加しない場合でのレポーター遺伝子の発現量変化をみれば、KIAA1199遺伝子の発現量が評価できる。
【0111】
KIAA1199遺伝子発現量の測定
KIAA1199遺伝子発現量は、回収した細胞からまず全RNAを抽出し、この全RNA中におけるKIAA1199遺伝子(mRNA)の発現量を後述するいずれかの方法を用いて測定する。
【0112】
全RNAの抽出方法は特に限定されず、たとえば、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski, P. and Sacchi, N., (1987) Anal. Biochem., 162, 156-159)等を採用することができる。抽出された全RNAは、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いてもよい。
【0113】
遺伝子の発現量は、遺伝子チップ、アレイ等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法など公知の方法を用いて測定することができる。
【0114】
KIAA1199タンパク発現量の測定
KIAA1199タンパク発現量は、たとえば抗原抗体反応を利用した免疫学的方法を用いて測定することができる。
【0115】
免疫学的方法としては、たとえば、免疫沈降法や、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらに改変を加えた公知の変法(サンドイッチELISA、US Patent No.4202875記載の方法、Meagerらの方法(Meager A., Clin Exp Immunol. 2003 Apr, 132(1), p128-36)等)を挙げることができる。すなわち、これらの方法に基づき、KIAA1199タンパクと特異的に結合する抗体を用いてKIAA1199タンパク発現量を測定する。
【0116】
抗KIAA1199抗体は、必要に応じて標識してもよい。標識は、抗KIAA1199抗体を直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で用いてもよい。前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
【0117】
これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
【0118】
発色する基質を用いた場合、ウェスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
【0119】
一方、発光する基質を使用した場合は、ウェスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(たとえば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
【0120】
なお、本発明において、指標とするKIAA1199遺伝子やKIAAタンパクの「発現量」は、その物理的な量に限定されず、これを間接的に示す活性、力価(抗体価等)も含む。
【0121】
評価
評価は、被験物質の存在下(投与条件下)でのKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量と非存在下での発現量を比較して行ってもよいし、標準となるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量の基準値が決定されれば、その基準値と被験物質存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量を比較することにより行ってもよい。
【0122】
たとえば、被験物質存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量が前記した基準値あるいは非存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量に比較して有意に異なる場合、当該被験物質をヒアルロン酸分解制御剤候補として選択する。ここで、有意とは、当該分野で通常用いられる統計的有意、たとえばp値<0.05であることを意味する。
【0123】
ヒアルロン酸分解阻害剤をスクリーニングする場合は、被験物質の存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量が上記基準値あるいは非存在下における発現量に比較して有意に低い場合に、当該被験物質をヒアルロン酸分解阻害剤候補として選択する。
【0124】
6.2 外部より添加したヒアルロン酸の分子量を指標とする方法
KIAA1199を介したヒアルロン酸分解を、ヒアルロン酸の分子量を指標として評価する場合は、たとえば下記のように実施する:
1)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を、標識ヒアルロン酸の共存下、被験物質の存在下又は非存在下で培養する;
2)培養後の培養上清を回収し、ゲル濾過カラムにて標識ヒアルロン酸の分子量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、標識ヒアルロン酸の分子量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0125】
KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞は、前項の記載にしたがって作製することができる。
【0126】
ヒアルロン酸の分子量は、常法にしたがい[3H]等の放射性同位元素で標識したヒアルロン酸を調製し、ゲル濾過等を用いて測定することができる。
【0127】
評価は、前項の記載にしたがい、被験物質の存在及び非存在下における、[3H]標識ヒアルロン酸の分子量を比較して行う。たとえば、被験物質の存在下におけるヒアルロン酸の分子量が、非存在下における分子量に比較して有意に高い場合に、当該被験物質をヒアルロン酸分解阻害剤候補として選択することができる。一方、被験物質の存在下におけるヒアルロン酸の分子量が、非存在下における分子量に比較して有意に低い場合には、当該被験物質をヒアルロン酸分解促進剤候補として選択することができる。
【0128】
7.試薬及びキット
本発明は、ヒアルロン酸分解制御効果を評価するためのキットも提供する。
前記キットは、必須の構成要素として、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つを含む。
(a)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞
(b)KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体
(c)KIAA1199遺伝子を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー
(d)KIAA1199遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するためのポリヌクレオチドプローブ
【0129】
各構成要素のうち、(b)〜(d)はそれぞれ単独でヒアルロン酸分解制御効果評価用試薬として用いられてもよい。
【0130】
(a)KIAA1199遺伝子発現細胞
KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞は、前項に記載した方法によって調製することができる。細胞は、KIAA1199遺伝子を強制発現させた組換え細胞であってもよい。
【0131】
(b)抗KIAA1199モノクローナル抗体
抗KIAA1199モノクローナル抗体(KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体)は、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するエピトープペプチドに特異的な抗体であることが好ましい。
【0132】
また、抗KIAA1199モノクローナル抗体は、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。また、適当な支持体に固相化されていてもよいし、あるいは固相化可能なように別個に支持体がキットに含まれていてもよい。そのような支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド等の蛋白を付着可能な合成樹脂、ガラス、ニトロセルロース、セルロース、及びアガロース製の支持体、あるいはゲル型支持体を使用することができる。支持体の形態は特に限定されないが、極小球あるいはビーズ(たとえば“ラテックス”ビーズ)などの微粒子、微量遠心チューブなどのチューブ(内壁)、マイクロタイタープレート(ウェル)等の形態で提供される。
【0133】
(c)KIAA1199遺伝子増幅用プライマー
KIAA1199遺伝子増幅用プライマーは、KIAA1199遺伝子の少なくとも一部に相補的な配列を有する5〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドである。プライマーはKIAA1199遺伝子増幅用の塩基配列(配列番号1)に基づき、市販のプライマー設計ソフトを用いるなど、常法にしたがい容易に設計し、増幅させて調製することができる。このようなプライマーの例としては、配列表の配列番号9〜13に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0134】
KIAA1199遺伝子増幅用プライマーは、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。
【0135】
(d)KIAA1199遺伝子検出用プローブ
KIAA1199遺伝子検出用プローブは、KIAA1199遺伝子に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、20〜1500塩基長程度のものが好ましい。具体的には、ノーザンハイブリダイゼーション法であれば、20塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドか2本鎖DNAが好適に用いられる。また、マイクロアレイであれば、100〜1500塩基長程度の2本鎖DNA、又は20〜100塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドが好適に用いられる。Affimetrix社のGene Chipシステムの場合は、25塩基長程度の1本鎖オリゴがよい。これらは、特にKIAA1199遺伝子の3’非翻訳領域に存在する配列特異性が高い部分に特異的にハイブリダイズするプローブとして設計することが好ましい。このようなプローブの例としては、配列表の配列番号14〜16に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0136】
KIAA1199遺伝子検出用プローブは、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、ビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。
【0137】
KIAA1199遺伝子増幅用プライマー及びKIAA1199遺伝子検出用プローブは、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。また、KIAA1199遺伝子検出用プローブは、ガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ等の適当な固定されていてもよい。
【0138】
本発明のキットは、上記した構成要素のみならず、抗KIAA1199モノクローナル抗体に特異的な(標識)二次抗体や、ラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液、酵素、基質等、KIAA1199の検出に必要な他の要素を含んでいてもよい。また、ヒアルロン酸の分子量を指標とした評価方法の場合には、[3H]等の放射性同位体で標識したヒアルロン酸を含んでいてもよい。
【実施例】
【0139】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0140】
[方法及び材料]
細胞培養
正常ヒト皮膚線維芽細胞(Detroit 551、ATCC(American Type Culture Collection)、HS-27、NHDF)は、必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム及び10%(vol/vol)ウシ胎児血清(FBS)(JRH Biosciences、Kansas)を補ったイーグル最小必須培地(MEM)(MP Biomedicals、Solon、OH)中で培養した。HEK293、COS-7細胞株及びヒト滑膜線維芽細胞(TOYOBO)は、10%ウシ胎児血清、100単位/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(Sigma)中で維持した。培養は、5%CO2を含有する加湿雰囲気中において37℃で行った。
【0141】
[3H]標識ヒアルロン酸
[3H]標識ヒアルロン酸([3H]HA)は、Underhill及びTooleら(C. B. Underhill and B. P. Toole, Binding of hyaluronate to the surface of cultured cells. J. Cell Biol. 82 (1979) 475-84.)の方法に若干の改変を加えて調製した。簡潔に言えば、コンフルエントなDetroit 551線維芽細胞を、10μCi/mlのD-[1,6-3H(N)]グルコサミン塩酸塩と共にインキュベートした。馴化培地をプールし、プロナーゼ(0.3mg/ml)で消化し、エタノールで沈澱させた。生成したペレットを水に懸濁し、1.5%塩化セチルピリジニウム及び0.03M NaClを用いて再沈澱させた。生成したペレットを0.1%塩化セチルピリジニウム及び0.4M NaCl中に溶解させ、エタノールで再び沈澱させた。生成したペレットを5mMリン酸緩衝液(pH7.5)中に懸濁し、0.5%NaClで平衡化したセファロースCL-2Bカラム(10×600mm)に添加した。Vo画分を収集し、エタノールで沈澱させ、最後に、5mMリン酸緩衝液(pH7.5)中に溶解させた。
【0142】
細胞による[3H]HAの分解アッセイ
[3H]HA(40,000dpm/ml)を含有する培地中で、細胞をコンフルエントになるまで培養した。インキュベーション後、培地を回収し、セファロースCL-2Bカラム(10×600mm)に添加し、流速0.65ml/分で0.5%NaClで溶出し、各々2.55mlの画分を収集した。各画分の放射活性を測定した。
【0143】
抗体
ヒトKIAA1199に対するラットモノクローナル抗体を、常法に従って作製した。抗ヒトHYAL2ポリクローナル抗体は、Harada及びTakahashiら(Hosami Harada and Masaaki Takahashi, CD44-dependent intracellular and extracellular catabolism of hyaluronic acid by hyaluronidase-1 and -2. J. Biol. Chem., 282 (2007) 5597-5607)の方法によって作製した。これらの特異的抗体は、免疫ペプチドを使用してアフィニティー精製した。抗CD44抗体及びGAPDH抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz、CA)から購入した。
【0144】
抗ヒトKIAA1199モノクローナル抗体の作製に用いた3種のエピトープペプチドの配列を下記に示す。
CDRFDTYRSKKESER(配列番号3)
CARYSPHQDADPLKPRE(配列番号4)
CDKVEQSYPGRSHYY(配列番号5)
【0145】
プラスミド
ヒトKIAA1199、HYAL1及びHYAL2のcDNAをPCR増幅し、DNA配列決定によってcDNA配列を確認した。増幅したcDNAは、それぞれ、発現ベクターpcDNA3.1(-)(Invitrogen)に挿入した。一過性導入は、Lipofectamine LTX(Invitrogen、Carlsbad、CA)を使用して行った。
【0146】
安定な形質転換体
G418を含有する培地中で細胞を培養することによって安定な形質転換体を選択し、ウェスタンブロット及び細胞による[3H]HAの分解アッセイによって、KIAA1199の発現を確認した。
【0147】
RNA干渉
KIAA1199、HYAL2、CD44及び陰性対照に対する各25塩基のsiRNA(末端TT2塩基突出、修飾ナシ)は、Invitrogen(Carlsbad、CA)から入手した。siRNAの導入は、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen、Carlsbad、CA)を使用して行った。
【0148】
3種のsiRNAの配列を下記に示す。
5’-AAACAUUGAAAUAUUCGCCAUGCUC(配列番号6)
5’-UUGACAAGGAGGCCAAGACAGUGGU(配列番号7)
5’-UUCAGCUUCAGGAACAACAGCCCUG(配列番号8)
【0149】
発現分析
ウェスタンブロットは、標準的な方法にしたがって実施した。リアルタイムPCRは、RNeasy(Qiagen)を用いて全RNAを分離し、High Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いてcDNA合成を行った。リアルタイムPCRは、TaqMan(登録商標)技術及びABI Prism 7700装置(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いて行った。
【0150】
RT-PCRに用いた3対のプライマー配列を配列表の配列番号9〜13に記載する。
Forward(1): 5’-accatcagctggctcactct-3’(配列番号9)
Reverse(1): 5’-tgtccatgcaactcaagagc-3’(配列番号10)
Forward(2): 5’-gtgggttcaagacgtggagt-3’(配列番号11)
Reverse(2): 5’-tctatctcctccccgatgtg-3’(配列番号12)
Forward(3): 5’- accatcagctggctcactct-3’(forward(1)と同配列:配列番号9)
Reverse(3): 5’-cctcctttaccaaccccaat-3’(配列番号13)
【0151】
in situハイブリダイゼーションは、配列表の配列番号14〜16に示すプローブを用いて常法にしたがって行った(Probe(1): 配列番号14、Probe(2): 配列番号15、Probe(3): 配列番号16)
【0152】
細胞によるヒアルロン酸分解の特性決定
フルオレセインアミンで標識された(FA-)HA、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、デルマタン硫酸、ヘパリン及びヘパラン硫酸を含有する培地(PG Research)中で細胞を培養した。インキュベーションの後、培地を回収し、PBSで平衡化したセファロースCL-6Bカラム(10×35mm)に添加した。0.4ml/分で各々1.6mlの画分を収集し、蛍光(励起、490nm;発光、525nm)を測定した。分解したFA-HAの分子量は、同一条件下のFA-コンドロイチン硫酸D及びコンドロイチン硫酸E、ヘパリン及びヘパラン硫酸によって推定した。分解した[3H]HAの非還元末端の糖は、β-N‐アセチルグルコサミニダーゼとの糖鎖のインキュベーションの後、又はβ-グルクロニダーゼ消化後にβ-N-アセチルグルコサミニダーゼ消化を行った後、セファデックスG-25カラム(1×107cm)でのゲル濾過により同定した。
【0153】
阻害剤実験
細胞を、指示されている濃度の阻害剤と共に3時間インキュベートし、それに続いて、阻害剤の存在下で[3H]HAと共に6時間インキュベートした。
【0154】
[実験及び結果]
1.ヒアルロン酸分解因子KIAA11199の同定
(1)培養ヒト正常線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解系
まず、現在提唱されているHYAL1、HYAL2及びCD44(HA受容体)を介したヒアルロン酸の分解モデルが正常細胞において実際に機能するか否かを培養ヒト正常線維芽細胞を用いて調べた。
【0155】
培養線維芽細胞は、外部から添加した高分子ヒアルロン酸を分解し、その代謝産物は細胞外に蓄積した(図1a)。
【0156】
ヒアルロン酸を線維芽細胞を培養した培地とインキュベートしても、ヒアルロン酸の分解は検出されなかった。細胞を様々な濃度のヒアルロン酸とインキュベートし、培養線維芽細胞によるヒアルロン酸分解の見かけのVmax(370μg/105cells/3 days)及びKm(1480μg/ml)を決定した(データは示していない)。得られた結果は、培養線維芽細胞には有効なヒアルロン酸分解機構が存在することを示唆した。
【0157】
(2)KIAA1199の同定
HYAL1、HYAL2及びCD44のうち、HYAL2とCD44の発現は培養線維芽細胞で検出されたが、siRNAを用いたHYAL2及びCD44のノックダウンは、ヒアルロン酸の分解に影響を与えなかった(図1b)。これらの結果は、培養線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解機構は、HYAL酵素及びCD44に依存しないものであることを示唆した。
【0158】
細胞のヒアルロン酸分解機構が存在することは確認されたが、既報と同様に、線維芽細胞からの細胞溶解物にはpHが中性条件下でヒアルロン酸分解活性を全く検出することができなかった(データは示していない)。
【0159】
図1aに示すように、ヒアルロン酸分解は、ヒスタミンによりアップレギュレートされ、TGF-β1によりダウンレギュレートされた。マイクロアレイ解析により、線維芽細胞において、2倍強の変化率でヒスタミンによりアップレギュレートされ、1/2弱の変化率でTGF-β1によりダウンレギュレートされる25種の遺伝子を抽出した。
【0160】
この25種の遺伝子を順にノックダウンしたところ、KIAA1199遺伝子を標的とする2種のsiRNA導入によって、細胞によるヒアルロン酸分解が著しく阻害されることが確認された(図1c)。同様の結果は、皮膚の他の正常線維芽細胞株HS27及びNHDFを用いても確認された(図1c)。ヒスタミン及びTGF-β1によるKIAA1199のmRNA及びタンパク質の発現変化は、リアルタイムPCR及びウェスタンブロットにより確認した(図1a)。ヒスタミン刺激の後、細胞によるヒアルロン酸分解の見かけのKmは影響されなかった(1500μg/ml)が、Vmaxは3.7倍増加しており(1370μg/105 cells/3 days)、これは、ヒスタミン刺激によるKIAA1199のmRNAの発現増加(3.7倍)と一致していた(図1a)。さらに、培養線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解はヘパリンの添加によって阻害されることが確認された(図1e)。
【0161】
以上より、KIAA1199が培養線維芽細胞のヒアルロン酸分解の速度を決定する重要な因子であることが確認された。
【0162】
抗KIAA1199モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットにより、150kDa付近のKIAA1199タンパク質が、正常なヒト皮膚溶解物中に検出されたが、これは、培養皮膚線維芽細胞の実験結果と一致している(図1d)。同じ抗体を用いた正常なヒト皮膚の切片に対する免疫組織化学検査(免疫染色)により、皮膚線維芽細胞においてKIAA1199の発現が検出された(図1d)。
【0163】
2.KIAA1199の機能決定
(1)KIAA1199によるHA分解
KIAA1199の役割を調べるために、HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)にKIAA1199全長cDNAを導入した。KIAA1199を一過性に発現するHEK293細胞は、培養皮膚線維芽細胞と同様に外部から添加したヒアルロン酸を分解した(図2a)。対照的に、空ベクターを導入した細胞は、ヒアルロン酸を分解しなかった(図2a)。類似の結果は、COS-7細胞(サル腎線維芽細胞)でも確認された(図2a)。以上の結果は、KIAA1199がヒアルロン酸分解機構にとって必須の因子であることを示唆する。
【0164】
KIAA1199 cDNA配列は、1361アミノ酸のタンパク質をコードする予測された4083bpのORFを含有する。KIAA1199は、HYAL酵素及び細菌ヒアルロニダーゼ、さらにはヒアルロン酸結合タンパク質を含む他のいずれの既知のタンパク質とも、何ら実質的な相同性を示さない。
【0165】
(2)変異型KIAA1199によるHA分解
高頻度優性難聴を示す非症候性難聴患者において、アミノ酸置換を伴うKIAA1199の変異(R187C、R187H、H783R又はV1109I)が見出され、これが難聴の原因となりうることが報告されている(前掲)。
【0166】
そこで、この難聴患者で報告されている4種の変異型KIAA1199をHEK293細胞で一過性に発現させた。KIAA1199の4種の変異型タンパク質(R187C、R187H、H783R又はV1109I)は、全て野生型と同程度に発現された(図2b)。このうち、R187C及びR187H変異体を発現する細胞は、野生型と比較してヒアルロン酸分解の部分的低下を示した(図2b)。この結果は、R187におけるアミノ酸置換がKIAA1199タンパク質の機能を損なわせることを示唆している。
【0167】
3.KIAA1199によるヒアルロン酸分解機構の検討
KIAA1199を介したヒアルロン酸分解機構をさらに検討するために、我々は、KIAA1199を安定的に発現するHEK293細胞株(KIAA1199/HEK293)を樹立した。培養KIAA1199/HEK293細胞は、外部から添加したコンドロイチン硫酸A、D、E、デルマタン硫酸、ヘパリン又はヘパラン硫酸を、ヒアルロン酸と異なり消化しなかった(図3a)。分解されたヒアルロン酸の分子量は、約15kDaと推定され(図3b)、その還元及び非還元末端は、それぞれN-アセチルグルコサミン及びグルクロン酸であった。
【0168】
KIAA1199/HEK293細胞は、ヒアルロン酸特異的なエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと同様にヒアルロン酸を分解し、その代謝産物は、中間サイズのヒアルロン酸フラグメントであった。さらに、KIAA1199/HEK293細胞におけるHYAL1及びHYAL2の過剰発現は、ヒアルロン酸分解に影響しないことから、KIAA1199は、HYAL1及びHYAL2に依存することなく作用することが示唆された。
【0169】
KIAA1199/HEK293細胞におけるヒアルロン酸分解は、クロルプロマジン、N-エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、オリエンチンによる前処理で阻害された(図3c)。
【0170】
4.変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)におけるKIAA1199の関与
変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)の滑液は、正常な膝関節の滑液と比較して、低分子量、低濃度のヒアルロン酸を多く含有することが知られている。
【0171】
KIAA1199がこうした観察結果に関与しているか否かを調べるために、正常、OA及びRA由来の培養滑膜線維芽細胞を使用した。
【0172】
全ての細胞は、外部から添加したヒアルロン酸を分解したが、特異的siRNAによるKIAA1199のノックダウンによって、そのいずれもが完全に抑制された(図4a)。細胞によるヒアルロン酸分解、ならびにKIAA1199のmRNA及びタンパク質の発現は、とくにRAの滑膜線維芽細胞において最も増加した(図4a、4b)。OA細胞は、正常及びRA細胞との中間レベルを示した(図4a、4b)。以上の結果は、KIAA1199が、培養滑膜線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解にも関わっており、その発現量の増加は、OA及びRA滑膜細胞におけるヒアルロン酸分解の増加を起こすことを示している。
【0173】
炎症性メディエーターのPGE2ならびにIL-1、IL-6及びTNF-αなどの数種のサイトカインは、RA患者の滑液中に豊富に存在する。我々は、RA滑膜細胞におけるKIAA1199の発現が、このような炎症性メディエーターにより誘発されるか否かを調べた。図4fに示すように、PGE2、IL-1α、IL-β及びIL-6は、KIAA1199のmRNA発現を刺激した。まとめると、RAの病因に関与する炎症促進性メディエーターは、RA滑膜細胞におけるKIAA1199の発現を刺激する。
【0174】
KIAA1199のmRNA発現を、異なるRA患者3名の滑膜から抽出した全RNAにおいてRT-PCRにより検出した(図4c)。in situハイブリダイゼーションでは、滑膜表層細胞及びRA滑膜の表層下細胞において、KIAA1199のmRNAを検出することができた(図4d)。これらのパターンは、抗KIAA1199モノクローナル抗体を用いて行った免疫組織化学検査により、タンパク質レベルで確認された。この分析によって、KIAA1199の発現は、RA滑膜の表層細胞において最も強く、健常人由来より遥かに高く検出されることが判明した(図4e)。
【0175】
以上より、KIAA1199は新規なヒアルロン酸分解促進因子であることが確認された。KIAA1199は広範な組織分布を示し、既存モデルとは異なる、生体内におけるヒアルロン酸代謝の新たな系を提供する。RA滑膜では、RA滑膜の培養線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解に必須であるKIAA1199の発現が、滑液に面した表層細胞中で増加したが、この増加は、RAの公知の分子特性の1つである、滑液ヒアルロン酸濃度及び分子量低下への関連を示唆する。この知見は、RAの病因解明に対する新たな洞察をもたらし得る。
【0176】
KIAA1199は、結腸直腸癌及び胃癌において増加することが報告されている。部分的に代謝されたヒアルロン酸フラグメントは、血管形成を促進し、癌の進行に肝要な炎症性サイトカインの産生を刺激することが知られている。KIAA1199はこうした癌の進展、転移にも関与していることが考えられる。すなわち、KIAA1199活性・発現の阻害は、RAの治療ならびに癌の進行の防止に対する有力な戦略となり得る。
【0177】
一方、非症候性難聴の潜在的な病因である、KIAA1199のR187でのアミノ酸変異は、KIAA1199の機能の損失をもたらした。こうした知見は、ヒアルロン酸分解の低下が聴覚欠損を起こし得るという可能性を示唆する。これは、ヒアルロン酸代謝と聴覚機能との関連性を示唆する最初の報告である。すなわち、本発明は聴覚の機構を理解する新たな手掛りを提供し得る。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、ヒアルロン酸の枯渇や分子量低下に基づく疾患状態の緩和・治療に利用できる。また、本発明のヒアルロン酸分解阻害剤は、変形性関節症や関節リウマチの治療や美容医療で用いられる局所投与用ヒアルロン酸製剤とともに用いることで、より持続性の高い製剤を提供することができる。さらに本発明は、KIAA1199を標的とした新たなヒアルロン酸分解制御剤の探索や、ヒアルロン酸分解に伴う病態メカニズムの解明にも利用できる。
【0179】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0180】
配列番号3−ヒトKIAA1199エピトープペプチド(1)
配列番号4−ヒトKIAA1199エピトープペプチド(2)
配列番号5−ヒトKIAA1199エピトープペプチド(3)
配列番号6−ヒトKIAA1199 siRNA(1)
配列番号7−ヒトKIAA1199 siRNA(2)
配列番号8−ヒトKIAA1199 siRNA(3)
配列番号9−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Forward(1),Forward(3))
配列番号10−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Reverse(1))
配列番号11−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Forward(2))
配列番号12−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Reverse(2))
配列番号13−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Reverse(3))
配列番号14−ヒトKIAA1199検出用プローブ(1)
配列番号15−ヒトKIAA1199検出用プローブ(2)
配列番号16−ヒトKIAA1199検出用プローブ(3)
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ヒアルロン酸分解促進因子とその阻害剤に関する。より具体的には、KIAA1199遺伝子とそのタンパクを含むヒアルロン酸分解促進剤、及びこれらの活性又は発現を阻害することを特徴とするヒアルロン酸分解阻害剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は皮膚の真皮に多く存在するムコ多糖で、皮膚の保湿や弾力性に寄与する。皮膚のヒアルロン酸の半減期は約1日と短く、その量は加齢とともに減少することが知られている。そのため、従来よりヒアルロン酸やその分解を抑制する素材は、保湿やアンチエイジングを目的とした化粧品等に利用されてきた。
【0003】
たとえば、いくつかの植物抽出物、ヒスタミンH1-アンタゴニスト(特許文献1)、ヘパリン(特許文献2)はヒアルロン酸分解抑制効果を有することが知られており、化粧品や医薬品への応用が検討されている。一方、コンドロイチン硫酸C誘導体(特許文献3)やカルニチン誘導体(特許文献4)はヒアルロン酸分解促進効果を有することが報告されている。
【0004】
美容医療分野においては、ヒアルロン酸の局所注入によるシワ改善効果が広く知られている。しかし、注入したヒアルロン酸は生体内に存在する酵素によって分解・代謝されてしまうため、その効果は持続しないという問題がある。
【0005】
医薬品分野においては、高分子ヒアルロン酸の関節内注射薬が変形性関節炎や関節リウマチの治療に利用されているが、やはり効果の持続性という問題から、定期的な投与を余議なくされる。ヒアルロン酸の生体内での分解を制御することができれば、それは上述した持続性の問題を解決し、患者のコンプライアンス向上に寄与する。
【0006】
ヒアルロン酸は、D-グルクロン酸とN-アセチルD-グルコサミンの繰り返し構造からなるポリマーで、その分子量は数千から数百万まで多岐にわたるが、分子量に応じて異なる生理活性を示すことが知られている。たとえば、分子量1,600-10,000の低分子ヒアルロン酸は、血管新生作用を示し、分子量約50万以下のヒアルロン酸は炎症に関わる種々の因子を誘導することが知られている。
【0007】
癌、変形性関節炎(OA)、関節リウマチ(RA)などの疾患においては、ヒアルロン酸の合成と分解のバランスが崩れていることが知られている。たとえば、膀胱癌では、尿中及び組織中に大量の低分子ヒアルロン酸が検出されるが、癌の悪性度と組織中ヒアルロン酸の分子量には相関性があり、悪性度の高い癌では高分子量(約200万)と低分子量(約1万)のヒアルロン酸が混在する。また、低分子ヒアルロン酸が腫瘍組織への栄養血管の新生を誘導しているとの報告もある。変形性関節炎患者や関節リウマチ患者の関節液では、ヒアルロン酸濃度や分子量が低下することが知られている。したがって、ヒアルロン酸の分子量を制御することができれば、その分子量に応じた所望の効果を発揮させることで、より効果的な治療にもつながる可能性が高い。
【0008】
ところで、生体内でのヒアルロン酸の分解・代謝には、ヒアルロニダーゼ(HYAL)1, 2及びCD44(HA受容体)が関与するモデルが提唱されている。このモデルによれば、ヒアルロン酸は、HYAL2及びCD44の共同作用により細胞外で分解して、20kDaフラグメントを生成するか、又はCD44に媒介されてエンドソーム/リソソーム経路中に組み込まれ、リソソーム中でHYAL1により四糖類に分解される。
【0009】
現在ヒトでは6種のヒアルロニダーゼ関連遺伝子(HYAL1〜4、SPAM1及びHYALP1)が知られており、HYAL4、SPAM1及びHYALP1がコードするものは精巣に主に発現するが、HYAL1、HYAL2及びHYAL3がコードするものは広範囲で発現している。HYAL3のヒアルロン酸分解能については現在異論もあり、したがって上述したHYAL1及びHYAL2が、ヒアルロン酸分解の中心的役割を演じている可能性が高いと考えられてきた。しかしながら、ヒアルロン酸分解のメカニズムはこれらの既知のヒアルロニダーゼ関連遺伝子だけで全て説明できるものではなく、その実体は解明されていなかった。
【0010】
本発明にかかるKIAA1199遺伝子は、機能未知の遺伝子断片(EST)であり、癌や難聴との関連が示唆されていた。たとえば、KIAA1199遺伝子は耳の内耳で高発現し、そのアミノ酸置換を伴う変異が非症候性難聴家系で複数確認されたことが報告されている(非特許文献1及び2等)。また、培養乳癌細胞や胃癌など種々の癌細胞・組織において、KIAA1199遺伝子が高発現していること(非特許文献3及び4)、結腸直腸癌においてKIAA1199遺伝子が高発現し、抗癌剤投与によりその発現が低下すること(非特許文献5)が報告されている。さらに、上記のような知見に基づき、KIAA1199遺伝子を癌の遺伝子診断や創薬に利用することについて、いくつかの特許出願もなされている(特許文献5〜9)。
【0011】
一方、マイクロアレイを用いた解析により、KIAA1199遺伝子は変形性関節炎(特許文献10)や、関節リウマチ、骨関節炎(特許文献11)のマーカーになりうることも報告されている。
【0012】
しかしながら、癌や炎症のメカニズムは複雑であり、KIAA1199がこれら疾患にどのように関与し、どのような生理活性を有するかなど、その具体的な生理機能は何ら解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平08-225447
【特許文献2】特開平11-80004
【特許文献3】特開平11-80205
【特許文献4】特開2006-76975
【特許文献5】WO2005/011650
【特許文献6】特開2008-118915
【特許文献7】特開2009-276153
【特許文献8】特表2009-502116
【特許文献9】WO2010/011281
【特許文献10】特表2006-506979
【特許文献11】DE10328033
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Abe S, et al., (2003) Am J Hum Genet 72(1):73-82.
【非特許文献2】Abe S, et al., (2003) J Hum Genet 48(11):564-570.
【非特許文献3】Michishita E, et al., (2006) Cancer Lett 239:71-77.
【非特許文献4】Sabates-Bellver J, et al., (2007)Mol Cancer Res 12:1263-75.
【非特許文献5】Galamb O, et al., (2010) Br J Cancer 102(4):765-773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、ヒアルロン酸の分解に関与する因子を見出し、その活性・発現を制御することにより、ヒアルロン酸やその分解・代謝が介在する疾患に対する新たな治療手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、ヒト線維芽細胞においてHYAL1,2, CD44とは異なるヒアルロン酸分解因子が存在することを見出し、候補遺伝子を順にノックダウンすることにより、それが遺伝子シンボルKIAA1199で示される遺伝子(KIAA1199遺伝子)であることを特定した。そして、このKIAA1199こそ、ヒアルロン酸分解に関わる新規な因子であることを見出した。
【0017】
KIAA1199遺伝子は、機能未知の遺伝子断片(EST)であり、上述したとおり癌や難聴との関連が示唆されているものの、ヒアルロン酸やその分解・代謝との関係は何ら報告されていなかった。発明者らは、KIAA1199遺伝子に対するsiRNAやモノクローナル抗体を用いて、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解機序を解明するとともに、その発現や活性を阻害することにより、ヒアルロン酸の分解が効果的に抑制できることを確認した。
すなわち、本発明は、KIAA1199のヒアルロン酸分解促進機能とその阻害に関する。
【0018】
第1の実施態様において、ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法を提供する。
1つの形態において、前記スクリーニング方法は、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を指標として、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0019】
前記方法は、たとえば、下記の工程を含む:
1)細胞を被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)上記細胞のKIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、上記遺伝子又はタンパクの発現量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0020】
用いられる細胞としては、KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞が好ましい。細胞は、KIAA1199遺伝子を強制発現させた組換え細胞であってもよい。
【0021】
別な形態において、前記スクリーニング方法は、外部より添加した標識ヒアルロン酸の分子量を指標として、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
前記方法は、たとえば、下記の工程を含む:
1)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を、標識ヒアルロン酸の共存下で、被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)培養後の培養上清を回収し、標識ヒアルロン酸の分子量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、標識ヒアルロン酸の分子量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0022】
第2の実施態様において、本発明は、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節することを特徴とする、ヒアルロン酸の分解制御方法を提供する。
【0023】
前記方法は、ヒアルロン酸の分解を阻害する方向へ制御する場合、例えば、
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA、
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物を適用(投与、導入)する工程を含む。
【0024】
前記方法は、ヒアルロン酸の分解を促進させる方向へ制御する場合、例えば、
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、又は
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、を適用(投与、導入)する工程を含む。
【0025】
第3の実施態様において、本発明は、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節する物質を含む、ヒアルロン酸分解制御剤を提供する。
【0026】
本発明のヒアルロン酸分解制御剤は、ヒアルロン酸の分解を阻害する方向へ制御する場合(ヒアルロン酸分解阻害剤)、例えば、
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物、を含む。
【0027】
前記siRNAは、たとえば、配列表の配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列、又は前記配列と配列同一性90%以上の塩基配列を有する。
【0028】
前記抗体としては、たとえば、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体を挙げることができる。
【0029】
前記低分子化合物としては、たとえばクロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、オリエンチンなどが挙げられる。
【0030】
上記したヒアルロン酸分解阻害剤は、医薬組成物あるいは化粧料として用いることができる。
【0031】
本発明のヒアルロン酸分解阻害剤は、ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善のために用いられる。具体的には、たとえば、関節機能改善、癌の予防・治療、組織修復、又は荒れ肌、乾燥肌もしくは小ジワ改善のために用いられる。
【0032】
本発明のヒアルロン酸分解制御剤は、ヒアルロン酸の分解を促進させる方向へ制御する場合(ヒアルロン酸分解促進剤)、例えば、
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、もしくは
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、を含む。
【0033】
上記したヒアルロン酸分解促進剤は、医薬組成物あるいは化粧料として用いることができる。
【0034】
本発明のヒアルロン酸分解促進剤は、ヒアルロン酸の異常産生亢進もしくは異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善、ヒアルロン酸による組織修復の補正、又は難聴の予防・治療に用いられる。
【0035】
本発明は、ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、上記したヒアルロン酸分解阻害剤とを含む、局所投与用製剤も提供する。前記局所投与用製剤は、関節機能改善薬、組織修復薬、あるいは化粧料として用いることができる。
【0036】
本発明は、本発明のヒアルロン酸分解制御効果を評価するためのキット(ヒアルロン酸分解制御効果評価用キット)も提供する。前記キットは、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つを含む。
(a)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞
(b)KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体
(c)KIAA1199遺伝子を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー
(d)KIAA1199遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するためのポリヌクレオチドプローブ
【0037】
前記抗体としては、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体を挙げることができる。
【0038】
本発明は、前記したモノクローナル抗体とそのエピトープペプチドも提供する。エピトープペプチドは、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有する。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、生体内におけるヒアルロン酸の分解を制御することで、ヒアルロン酸の枯渇や分子量低下に基づく疾患状態の緩和・治療が可能となる。また、変形性関節症や関節リウマチの治療、あるいは美容医療において、局所投与されたヒアルロン酸の効果を持続させることが可能になる。さらに、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクを標的とした新たなヒアルロン酸分解制御剤の探索や、ヒアルロン酸分解に伴う病態メカニズムの解明が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1a】図1aは、培養正常ヒト皮膚線維芽細胞(Detroit551)におけるヒスタミン及びTGF-β1によるHA分解(左)、RT-PCRによるKIAA1199 mRNAの発現(右上)、ウェスタンブロットによるKIAA1199タンパクの発現(右下)をみた結果を示す。
【図1b】図1bは、培養正常ヒト皮膚線維芽細胞(Detroit551)におけるsiRNAによるHYAL2、CD44のノックダウンによるHA分解(上)、及HYAL2、CD44タンパクの発現(ウェスタンブロット:下)を示す。
【図1c】図1cは、各種培養正常ヒト皮膚線維芽細胞株 Detroit551(左)、HS27(中)、NHDF(右)における、1種又は2種類のsiRNAを用いたKIAA1199ノックダウンとHA分解との関係を示す。
【図1d】図1dは、ヒト皮膚におけるKIAA1199の発現を示す(左:ウェスタンブロット、右:免疫染色)。矢印はKIAA1199抗体で染色された部位を示す。
【図1e】図1eは、ヘパリンによる培養正常ヒト皮膚線維芽細胞におけるHA分解の阻害を示す。
【図2a】図2aは、KIAA1199を強制発現させた細胞(左:HEK293、右:COS-7)における、外的に添加したHA分解、及びKIAA1199発現(ウェスタンブロット)を示す。図中、○(empty)は空ベクター導入細胞、●(KIAA1199)はKIAA1199強制発現細胞。
【図2b】図2bは、難聴で知られる変異型KIAA1199(▲R187H、●R187C、◆H783R、■V1109I)と○野生型KIAA1199によるHA分解を示す。
【図3a】図3a: HA及び、他のグリコサミノグリカン(ヘパリン、へバラン硫酸、コンドロイチン硫酸A,D,E、デルマタン硫酸)に対するKIAA1199の作用を示す。
【図3b】図3bは、KIAA1199による分解産物のサイズ分布を示す(分解物は平均分子量約15,000の低分子量HA)。
【図3c】図3cは、KIAA1199を強制発現させたHEK293細胞におけるエンドサイトーシス阻害剤又はリソソーム機能阻害剤(A:Chlorpromazine, B:N-ethylmaleimide, C:Bafilomycin Al, D:Monensin,E:EDTA,F:Deferoxamine,G:Orientin)によるHA分解の阻害を示す。
【図4a】図4aは、siRNAを用いたKIAAl199のノックダウンによる、正常、OA患者(OA-1、OA-2、OA-3)、RA患者(RA-1、RA-2、RA-3)由来培養滑膜細胞における、外的に添加したHA分解の影響を示す。○ control:無関係なsiRNA導入細胞、●KIAA1199:KIAA1199特異的siRNA導入細胞
【図4b】図4b:正常、OA患者(OA-1、OA-2、OA-3)、RA患者(RA-1、RA-2、RA-3)由来培養滑膜細胞における、KIAA1199の発現を示す。
【図4c】図4cは、RA患者の組織におけるKIAAl199の発現を示す(RT-PCR)。
【図4d】図4dは、RA患者の組織におけるKIAAl199の発現を示す(in situ ハイブリダイゼーション)。矢印はKIAA1199局在部位を示す。
【図4e】図4eは、RA患者の組織におけるKIAAl199の発現を示す(免疫染色)。矢印はKIAA1199抗体で染色された部位を示す。
【図4f】図4fは、各種炎症性メディエーター(PGE2、インターロイキン(IL)-1、IL-6)による、培養RA滑膜細胞におけるKIAAl199発現誘導を示す。
【0041】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2010−128701号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、遺伝子シンボルKIAA1199で示される遺伝子(以下、「KIAA1199遺伝子」という)あるいはKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク(以下、「KIAAタンパク」という)のヒアルロン酸分解促進機能に基づく、治療、診断、創薬への応用に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0043】
1.KIAA1199
本発明にかかる「KIAA1199遺伝子」とは、遺伝子シンボル(Gene Symbol)KIAA1199で示される機能未知の遺伝子断片(EST)であり、TMEM2Lと記載されることもある。
【0044】
ヒトKIAA1199の塩基配列やアミノ酸配列(ORF)は公知であり、その塩基配列(mRNA)は、Accession Number NM_018689として、アミノ酸配列はAccession Number EAW99111として、公共のデータベースであるGenBankに登録されている。
【0045】
本明細書に添付する配列表において、ヒトKIAA1199の塩基配列を配列番号1として、アミノ酸配列を配列番号2として示す。本発明における、KIAA1199遺伝子上の位置や、KIAA1199タンパク アミノ酸配列上の各位置は、この配列番号1あるいは2に示される配列上の位置に基づいて示される。
【0046】
ヒトKIAA1199遺伝子は第15番染色体に位置し、そのmRNAは7080塩基からなり、1361アミノ酸をコードする(配列番号1及び2参照)。KIAA1199遺伝子は、ヒトのみならず、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュで広くその配列が保存されていることが知られている。
【0047】
本発明にかかる「KIAA1199タンパク」とは、KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク質である。ヒトKIAA1199タンパク(ORF)は、1361アミノ酸からなり、コンピューター解析により、GG domain(7つのβ-strandと2つのα-helixからなる約100アミノ酸の配列。何らかの機能を意味しない)や、G8 domain(5つのβ-strandからなるアミノ酸配列。何らかの機能を意味しない)を有することが報告されている。
【0048】
KIAA1199遺伝子は、ある種の癌患者において高発現していることから、こうした癌の診断用マーカーの一つとして利用可能であることが報告されている。また、KIAA1199遺伝子のアミノ酸置換を伴う変異が非症候性難聴家系で複数見つかっていることから、難聴との関連も示唆されている。しかしながら、生体内におけるKIAA1199の具体的な機能は未だ解明されておらず、KIAA1199遺伝子やそのタンパクによる疾患の治療も報告されていない。
【0049】
発明者らは、KIAA1199が、HYAL 1,2やCD44を介した既存のヒアルロン酸分解系とは別個の系において、ヒアルロン酸分解促進因子として作用することを初めて見出した。
【0050】
また、ヒアルロン酸代謝の異常が知られている変形性関節症(OA)や関節リウマチ(RA)患者の培養滑膜細胞と正常滑膜細胞では、KIAA1199遺伝子の発現は正常<OA<RAの順で高く、ヒアルロン酸分解も正常<OA<RAの順で高いことを確認した。さらに、これらの細胞においてKIAA1199遺伝子をノックダウンすると、いずれの細胞においてもヒアルロン酸の分解が抑制されることが確認された。そして、RA患者由来の培養滑膜細胞において、KIAA1199の発現がプロスタグランジンE2やIL-1、IL-6などの炎症性メディエーターの添加によって誘導されることが確認された。以上の事実は、KIAA1199は疾患状態におけるヒアルロン酸の分解(過剰分解)を促進する因子であり、その機能を抑制することは、ヒアルロン酸の分解を通じてOAやRA等の治療に有用であることを裏付ける。
【0051】
2.KIAA1199遺伝子の発現を抑えるアンチセンス核酸又はsiRNA
アンチセンス核酸
「アンチセンス核酸」とは、標的核酸に対して相補的あるいは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含有する核酸であって、前記標的核酸のmRNAの少なくとも一部(標的部位)にハイブリダイズし、その発現を抑制する機能を有する核酸である。ここで「実質的に相補的」とは、標的部位にハイブリダイズし、標的核酸の発現を抑制できる限りにおいて、部分的ミスマッチを許容することを意味する。具体的には、「実質的に相補的」な配列とは、標的部位の配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列を言う。
【0052】
アンチセンス核酸を構成する一部の塩基は、生体内での安定性を向上させるため、必要に応じて修飾されていてもよい。そのような修飾としては、リン酸基のホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、及びホスホロジチオネート化、糖(デオキシリボース)部分の2’-O-メチル化、塩基部分の化学修飾、架橋導入(BNA(LNA)オリゴ)等が挙げられる。核酸はDNAであってもRNAであっても、これらのハイブリッド(DNA/RNA)であってもよい。
【0053】
「アンチセンス核酸」の標的部位は、公知の方法・経験則にしたがって選択できる。たとえば、単純に翻訳開始部位を選択する方法、一次配列から二次構造を計算・予測して一本鎖構造をとっている部位を標的部位として選択する方法、ランダムオリゴを用いてもっとも効果的にハイブリダイズし、切断できる部位を選択するランダムスクリーニング法等を用いることができる。
【0054】
アンチセンス核酸の長さは、その目的を達成する限り特に限定されないが、通常10〜40塩基、好ましくは15〜30塩基である。
【0055】
siRNA(small interfering RNA)
「siRNA(small interfering RNA)」は、細胞に2本鎖RNA(dsRNA)が取り込まれると、相補的なmRNAが分解されるRNA干渉を利用して、標的核酸の発現を抑制する小分子RNAである。
【0056】
「siRNA」は、通常21〜30塩基、多くは21-25塩基程度の末端に2塩基程度の突出(オーバーハング)を有する短い二本鎖RNA(あるいはRNA/DNA)として設計される。突出部位はTTとして設計されることが多いが、これに限定されない。また、平滑末端を有するものであってもよい。
【0057】
siRNAを構成する一部の塩基は、アンチセンス核酸と同様に生体内での安定性を向上させるため、必要に応じて修飾されていてもよい。そのような修飾としては、リン酸基のホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、ホスホロジチオネート化や、糖(デオキシリボース)の2’-O-メチル化、塩基部分の化学修飾、架橋導入(BNA(LNA)オリゴ)が挙げられる。核酸はRNAであるが、ハイブリッド(DNA/RNA)であってもよい。
【0058】
siRNAの標的部位は、アンチセンス核酸と同様に、公知の方法・経験則にしたがって選択でき、市販のソフトウェア、サービスを好適に利用することができる。
【0059】
すなわち、本発明の「KIAA1199遺伝子の発現を抑えるsiRNA」は、上記のようにして設定される標的領域の少なくとも一部に相補的あるいは実質的に相補的な配列を有する21〜30塩基、好ましくは21〜25塩基程度の短い二本鎖RNAあるいはRNA/DNAハイブリッドとして設計される。
【0060】
たとえば、本発明のsiRNAは、配列表の配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列を有する。しかしながら、これに限定されるものでなく、前記配列と1又は数個、たとえば1〜3、好ましくは1又は2個程度のミスマッチがあっても、KIAA1199遺伝子の発現を抑えることができる限り、本発明のsiRNAとして利用することができる。換言すれば、配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列と配列同一性80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の塩基配列を有するsiRNAも、KIAA1199遺伝子の発現を抑えることができる限り、本発明のsiRNAとして利用することができる。
【0061】
上記したアンチセンス核酸やsiRNAは、PEGやポリリジン等を付加して細胞膜への親和性を向上させたり、リポソーム、マイクロスフェア等を用いた公知の徐放性システムに組込んでもよい。こうして製剤化されたKIAA1199遺伝子の発現を抑えるアンチセンス核酸やsiRNAは、後述する「ヒアルロン酸分解阻害剤」として好適に利用できる。
【0062】
3.抗KIAA1199抗体
本発明で用いられる「KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体(抗KIAA1199抗体)」は、公知の方法にしたがって調製することができる。すなわち、常法により、抗原となるKIAA1199タンパク、あるいはその任意の部分ポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。
【0063】
抗体は、ポリクローナルであってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体は、公知の方法(たとえば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これより得ることができる。
【0064】
抗体作製用の抗原としては、抗原であるKIAA1199タンパク又はその連続した部分アミノ酸配列からなる部分ポリペプチド(エピトープペプチド)、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(たとえば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。
【0065】
前記抗原ポリペプチドは、KIAA1199タンパク又はその部分ポリペプチド(エピトープペプチド)を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、KIAA1199遺伝子又はその一部を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させればよい。
【0066】
たとえば、抗KIAA1199抗体は、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製することができる。しかしながら、これに限定されるものでなく、前記配列に対して、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製される抗体も、KIAA1199タンパクに特異的に結合し、その機能を抑制できる限り、本発明の抗KIAA1199(モノクローナル)抗体として利用することができる。換言すれば、配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列と配列同一性80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製される抗体も、KIAA1199タンパクに特異的に結合し、その機能を抑制できる限り、本発明の抗KIAA1199(モノクローナル)抗体として利用することができる。
【0067】
抗KIAA1199抗体は、必要に応じて標識してもよい。前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。
【0068】
こうして製剤化された抗体、とくに特異性の高いモノクローナル抗体は、後述する「ヒアルロン酸分解阻害剤」として好適に利用できる。
【0069】
KIAA1199エピトープペプチド
発明者らは、とくに配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するペプチドをエピトープとして作製したモノクローナル抗体が高い特異性を有し、優れたKIAA1199抑制効果を有することを確認した。本発明は、この配列番号3〜5で示される「KIAA1199エピトープペプチド」も提供する。
【0070】
エピトープペプチドは、抗KIAA1199抗体エピトープとして機能する限り、配列番号3〜5のいずれかで示される配列に対して、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。換言すれば、配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列と配列同一性80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列を有するペプチドも、本発明の「KIAA1199エピトープペプチド」として利用することができる。
【0071】
4.ヒアルロン酸分解制御剤
本発明にかかる「ヒアルロン酸分解制御剤」とは、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現や活性を制御することにより、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解を制御(阻害又は促進)する物質あるいは調製物である。すなわち、本発明において、「ヒアルロン酸分解制御剤」は、以下に説明する「ヒアルロン酸分解阻害剤」と「ヒアルロン酸分解促進剤」の両方を包含する。
【0072】
4.1 ヒアルロン酸分解阻害剤
本発明にかかる「ヒアルロン酸分解阻害剤」とは、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現や活性を抑制することにより、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解を阻害する物質あるいは調製物である。
【0073】
上記したとおり、KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸やsiRNAは、KIAA1199遺伝子の発現を抑制することで「ヒアルロン酸分解阻害剤」として機能する。また、抗KIAA1199抗体、とくに特異性の高いモノクローナル抗体は、KIAA1199タンパクの活性を特異的に阻害することで、「ヒアルロン酸分解阻害剤」として機能する。さらに、クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、オリエンチンなどの低分子化合物もKIAA1199を介したヒアルロン酸分解を阻害することで、「ヒアルロン酸分解阻害剤」として機能する。
【0074】
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、アンチセンス核酸やsiRNA、抗KIAA1199抗体、上記低分子化合物を1種類の含むものであってもよいし、2種類以上含むものであってもよい。
【0075】
こうしたアンチセンス核酸やsiRNA、抗KIAA1199抗体、低分子化合物は、薬理学的に許容される担体や添加物とともに必要に応じて製剤化される。製剤化は、常法(たとえば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に従って実施することができる。
【0076】
薬理学的に許容される担体・添加物としては、たとえば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。具体的には、たとえば、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として配合することができる。
【0077】
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、経口でも非経口投与であってもよいが、好ましくは非経口投与である。投与方法としては、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。投与は、患者の年齢、症状に応じて適切な投与方法を選択でき、全身的でも局所的でもよいが、局所投与が好適である。
【0078】
投与量は、たとえば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で適宜選択する。あるいは、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で適宜設定するが、これに限定されるものではない。
【0079】
ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善
「ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患」とは、ヒアルロン酸分解が生理的に正常時より亢進している症状又は疾患であって、具体的にはヒアルロン酸の分解が患部で異常亢進しているリウマチ、変形性関節症、乾癬性関節症、痛風、多発性関節炎、外傷性関節炎などの関節症、肝炎、歯肉炎、及び癌等の悪性腫瘍が挙げられる。また血清中でヒアルロン酸量が増大していることから患部でヒアルロン酸の分解が異常に亢進していると考えられる肝硬変、移植拒否、乾癬及び強皮症、また疾患によって臓器が硬化する肝硬変、動脈硬化等の線維症、さらにはヒアルロン酸分解の結果として患部で水分保持能力が低下している乾皮症、乾燥肌、荒れ肌、その他腎炎、ケロイド、過修復、敗血症等の疾患も含まれる。本発明のヒアルロン酸分解阻害剤は、これらの症状や疾患に対して、疾患の症状を取り去るいわゆる治療剤のほか、その症状を軽減する改善剤、症状が現れるのを防止する予防剤として適用することができる。
【0080】
組織修復効果
ヒアルロン酸は、細胞と細胞の間、とりわけ皮膚の真皮に多く含まれ、皮膚の保湿や弾力性に寄与し、加齢に伴うその減少・枯渇は皮膚の乾燥やしわ形成につながる。それゆえ、本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、ヒアルロン酸の分解に伴うシワ形成等を防止する組織修復薬として機能する。
【0081】
美容医療分野ではシワ改善等の組織修復のために高分子ヒアルロン酸ナトリウムの局所注入療法が実施されている。しかしながら、注入されたヒアルロン酸は皮膚内で分解・代謝されてしまうため、効果の持続性に乏しい。本発明にかかる「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした既存のヒアルロン酸製剤と共に用いられることで、局所投与されたヒアルロン酸の分解を抑制しその組織修復(シワ改善)効果に持続性を付与する。
【0082】
また再生医療分野においても、本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」による皮膚組織や関節組織等の修復効果を利用することができ、また人工皮膚においては足場(Scaffold)に用いられているヒアルロン酸の分解を抑制することができる。
【0083】
関節機能改善効果
変形性関節炎や関節リウマチなどの疾患においては、ヒアルロン酸の合成と分解のバランスが崩れ、滑膜内のヒアルロン酸が枯渇、低分子量化することが関節機能の低下をもたらす一因であることが知られている。本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした疾患状態におけるヒアルロン酸の分解を抑制して関節機能の低下を抑制する、関節機能改善薬として機能する。なお、関節機能改善には、軟骨の変性変化、滑膜の炎症、疼痛の抑制など、関節機能に関連するすべての症状の改善を含む。
【0084】
医療分野では関節機能改善のために高分子ヒアルロン酸ナトリウムの局所注入剤が用いられている。しかしながら、ヒアルロン酸は関節内とくに上述した疾患状態の関節内では、容易に分解・代謝されてしまうため、頻回の投与を余議なくされる。本発明にかかる「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした既存のヒアルロン酸製剤と共に用いられることで、ヒアルロン酸の分解を抑制し、関節機能改善効果に持続性を付与する。
【0085】
癌の予防・治療効果
乳癌、胃癌、結腸直腸癌など種々の癌細胞・組織において、KIAA1199遺伝子が高発現していることが知られ、抗癌剤投与によりその発現が低下することも報告されている。
また、多くの癌組織においてヒアルロン酸の産生と分解レベルの増加が癌の進展と関連していること、癌の侵潤・転移には癌細胞が産生するヒアルロン酸と、同時に低分子化されたヒアルロン酸が関与し、これらのヒアルロン酸によって促進されることが知られている。
【0086】
それゆえ、本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうしたヒアルロン酸を介した、癌の進展、転移等を防止する抗癌剤として利用することもできる。
【0087】
化粧料
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、皮膚のヒアルロン酸の分解を阻害することにより、肌荒れや小ジワ、かさつきを防止する化粧料として利用することができる。
【0088】
4.2 ヒアルロン酸分解促進剤
本発明にかかる「ヒアルロン酸分解促進剤」とは、KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現や活性を促進することにより、KIAA1199を介したヒアルロン酸の分解を促進する物質あるいは調製物である。
【0089】
上記したとおり、KIAA1199遺伝子やKIAA1199タンパクは、「ヒアルロン酸分解促進剤」として機能する。KIAA1199遺伝子やKIAA1199タンパクもまた、ヒアルロン酸分解阻害剤と同様に、必要に応じて薬理学的に許容される担体や添加物とともに製剤化される。使用可能な担体・添加物は上記したとおりである。
【0090】
本発明の「ヒアルロン酸分解促進剤」は、経口でも非経口投与であってもよいが、好ましくは非経口投与である。投与方法としては、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。投与は、患者の年齢、症状に応じて適切な投与方法を選択でき、全身的でも局所的でもよいが、局所投与が好適である。
【0091】
投与量は、たとえば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で適宜選択する。あるいは、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で適宜設定するが、これに限定されるものではない。
【0092】
ヒアルロン酸の異常産生亢進もしくは異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善
「ヒアルロン酸の異常産生亢進を伴う症状あるいは疾患」とは、ヒアルロン酸合成が生理的に正常時より亢進している症状又は疾患であって、具体的には、乾癬、動脈硬化、骨異常形成、心筋梗塞等が挙げられる。「ヒアルロン酸の異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患」とは、ヒアルロン酸分解が正常時より抑制されている症状又は疾患であって、具体的には、ヒアルロン酸の分解が患部で異常抑制されていると考える脱毛症、若はげ等が挙げられる。
本発明のヒアルロン酸分解促進剤は、これらの症状や疾患に対して、疾患の症状を取り去るいわゆる治療剤のほか、その症状を軽減する改善剤、症状が現れるのを防止する予防剤として適用することができる。
【0093】
組織修復の補正
ヒアルロン酸局所投与製剤を用いた美容医療(組織修復)においては、注入部位の補正として、ヒアルロン酸分解酵素を投与する。本発明の「ヒアルロン酸分解促進剤」は、こうしたヒアルロン酸による組織修復の補正(余分な注入ヒアルロン酸の分解)用として利用することができる。
【0094】
難聴の予防・治療
発明者らは、非症候性難聴患者でみられる変異KIAA1199タンパクが、KIAA1199を介したヒアルロン酸分解機能にも損傷がみられることを確認した。このことは、非症候性難聴の発症とKIAA1199を介したヒアルロン酸分解には何らかの関連があり、KIAA1199の活性又は発現を促進させることにより、難聴の発症を抑制し、症状を改善しうる可能性を示唆する。すなわち、「ヒアルロン酸分解促進剤」は、こうした難聴の予防・治療用として利用することができる。
【0095】
5.本発明のヒアルロン酸分解阻害剤を含む局所投与用製剤
本発明は、「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、本発明のヒアルロン酸分解阻害剤とを含む局所投与用製剤」を提供する。
【0096】
美容医療分野においては、シワ改善薬等の組織修復薬として高分子ヒアルロン酸の局所注入剤が用いられている。また、医療分野においては、変形性関節炎や関節リウマチにおける関節機能改善薬として、高分子ヒアルロン酸の関節内注射薬が利用されている。しかしながら、前述のとおり、投与されたヒアルロン酸は生体内で容易に分解・代謝されてしまうため、その効果は持続せず、患者は定期的な投与を余議なくされる。
【0097】
本発明の「ヒアルロン酸分解阻害剤」は、こうした既存のヒアルロン酸(高分子ヒアルロン酸)局所投与製剤に加えて用いられることで、ヒアルロン酸の生体内での分解を抑制し、より持続性の高いヒアルロン酸製剤を提供することができる。
【0098】
ここで、ヒアルロン酸には、ヒアルロン酸のみならず、ヒアルロン酸ナトリウム、架橋ヒアルロン酸のようなヒアルロン酸の薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体も含まれる。また、高分子ヒアルロン酸とは、重量平均分子量10万以上、好ましくは50万以上のヒアルロン酸を意味する。
【0099】
製剤は、ヒアルロン酸のほか、薬理学的に許容される担体を含有してもよい。薬理学的に許容される担体・添加物としては、たとえば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。具体的には、たとえば、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として配合することができる。
【0100】
一般的に、製剤はヒアルロン酸と等張化剤、緩衝液を含む高分子ヒアルロン酸塩の等張化溶液を充填したアンプル製剤、あるいはシリンジ等に充填したプレフィルド製剤として提供される。
【0101】
本発明の局所投与用製剤は、「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体」と「ヒアルロン酸分解阻害剤」があらかじめ混合された状態で提供されてもよいし、それぞれ別個の構成要素としてパッケージされ、用時混合又は順次投与して用いられる形態のキット製剤として提供されてもよい。
【0102】
本発明の「局所投与用製剤」において、「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体」に対する「ヒアルロン酸分解阻害剤」の配合量は、用いるヒアルロン酸の分子量や架橋度、あるいは濃度等に応じて適宜設定される。
【0103】
本発明の「ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、本発明のヒアルロン酸分解阻害剤とを含む局所投与用製剤」は、持続性の高い組織修復薬(しわ改善薬)、関節機能改善薬として利用される。なお、前述したとおり、関節機能改善には、軟骨の変性変化、滑膜の炎症、疼痛の抑制など、関節機能に関連するすべての症状の改善を含むものとする。
【0104】
6.ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法
本発明は、KIAA1199を標的とするヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法も提供する。具体的には、被験物質によるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量の増減を指標として、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価するか、あるいは外部より添加したヒアルロン酸の分子量を指標として評価する。
【0105】
スクリーニング系は、培養細胞系であっても動物モデルを用いた系であってもよいが、簡便さという点では培養細胞系が好ましい。
【0106】
6.1 KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量を指標とする方法
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量を指標として評価する方法は、たとえば下記のように実施する:
1)細胞を被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)上記細胞のKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパクの発現量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、上記遺伝子又はタンパクの発現量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0107】
細胞
本発明のスクリーニング方法で用いられる細胞は、KIAA1199を一過性あるいは安定的に高発現している細胞であれば特に限定されず、線維芽細胞、滑膜細胞等を選択することができる。なお、「安定的に高発現する」とは、KIAA1199に対する被験物質の作用が十分評価できる程度に該KIAA1199遺伝子あるいはタンパクが高レベルで発現していることを意味する。
【0108】
細胞は、適当な宿主細胞に本発明のKIAA1199遺伝子を導入し強制発現させた細胞を用いてもよい。こうした細胞は、常法に従い(たとえば、(Molecular Cloning, A Laboratory Manual”Maniatis, T., Fritsch, E.F., Sambrook, J. (1982) Cold Spring Harbor Laboratory Press 参照)、クローニングされたKIAA1199遺伝子のcDNAを、適当なベクターを用いて宿主細胞に導入することにより作製される。宿主細胞は、哺乳動物の遺伝子を発現しうる細胞であれば特に限定されず、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞等を用いることができる。たとえば、脊椎動物細胞であれば、サルの細胞であるCOS細胞(ATCC CRL-1650)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)やそのジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4126-4220)等)を用いることができる。昆虫細胞であれば、鱗翅類ヤガ科のSpodoptera frugiperdaの卵巣細胞由来株化細胞(Sf-9又はSf-21)やTrichoplusia niの卵細胞由来High Five細胞(Wickham, T. J. et al, (1992) Biotechnol. Prog.i: 391-396)等を用いることができる。
【0109】
上記した方法のほか、KIAA1199遺伝子のプロモーター支配下に、プロモーター活性の検出を可能にするレポーター遺伝子を利用して、間接的にKIAA1199やKIAA1199遺伝子の発現を検出することもできる。遺伝子導入は一過的なものでも、レポーター遺伝子、及びKIAA1199遺伝子発現ベクターで、宿主細胞を二重に形質転換して選抜した安定的形質転換細胞でもよい。後者の場合には、KIAA1199遺伝子の発現を誘導する条件下でレポーター遺伝子の発現が促進されるような細胞株を樹立することが必要となる。すなわち、導入された遺伝子が、宿主細胞の染色体に組み込まれるなどして、宿主細胞の継代を重ねても保持される安定的に形質転換された細胞を適当な選択マーカーを用いて選抜する。
【0110】
こうして得られた細胞株を、KIAA1199遺伝子の発現が誘導される条件下におくと、KIAA1199遺伝子の発現依存的にレポーター遺伝子の転写が促進される。したがって、レポーター遺伝子の発現が可能な条件下において、培地中に任意の被験物質を添加した場合と添加しない場合でのレポーター遺伝子の発現量変化をみれば、KIAA1199遺伝子の発現量が評価できる。
【0111】
KIAA1199遺伝子発現量の測定
KIAA1199遺伝子発現量は、回収した細胞からまず全RNAを抽出し、この全RNA中におけるKIAA1199遺伝子(mRNA)の発現量を後述するいずれかの方法を用いて測定する。
【0112】
全RNAの抽出方法は特に限定されず、たとえば、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski, P. and Sacchi, N., (1987) Anal. Biochem., 162, 156-159)等を採用することができる。抽出された全RNAは、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いてもよい。
【0113】
遺伝子の発現量は、遺伝子チップ、アレイ等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法など公知の方法を用いて測定することができる。
【0114】
KIAA1199タンパク発現量の測定
KIAA1199タンパク発現量は、たとえば抗原抗体反応を利用した免疫学的方法を用いて測定することができる。
【0115】
免疫学的方法としては、たとえば、免疫沈降法や、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらに改変を加えた公知の変法(サンドイッチELISA、US Patent No.4202875記載の方法、Meagerらの方法(Meager A., Clin Exp Immunol. 2003 Apr, 132(1), p128-36)等)を挙げることができる。すなわち、これらの方法に基づき、KIAA1199タンパクと特異的に結合する抗体を用いてKIAA1199タンパク発現量を測定する。
【0116】
抗KIAA1199抗体は、必要に応じて標識してもよい。標識は、抗KIAA1199抗体を直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で用いてもよい。前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
【0117】
これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
【0118】
発色する基質を用いた場合、ウェスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
【0119】
一方、発光する基質を使用した場合は、ウェスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(たとえば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
【0120】
なお、本発明において、指標とするKIAA1199遺伝子やKIAAタンパクの「発現量」は、その物理的な量に限定されず、これを間接的に示す活性、力価(抗体価等)も含む。
【0121】
評価
評価は、被験物質の存在下(投与条件下)でのKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量と非存在下での発現量を比較して行ってもよいし、標準となるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量の基準値が決定されれば、その基準値と被験物質存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量を比較することにより行ってもよい。
【0122】
たとえば、被験物質存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量が前記した基準値あるいは非存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量に比較して有意に異なる場合、当該被験物質をヒアルロン酸分解制御剤候補として選択する。ここで、有意とは、当該分野で通常用いられる統計的有意、たとえばp値<0.05であることを意味する。
【0123】
ヒアルロン酸分解阻害剤をスクリーニングする場合は、被験物質の存在下におけるKIAA1199遺伝子又はKIAA1199タンパク発現量が上記基準値あるいは非存在下における発現量に比較して有意に低い場合に、当該被験物質をヒアルロン酸分解阻害剤候補として選択する。
【0124】
6.2 外部より添加したヒアルロン酸の分子量を指標とする方法
KIAA1199を介したヒアルロン酸分解を、ヒアルロン酸の分子量を指標として評価する場合は、たとえば下記のように実施する:
1)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を、標識ヒアルロン酸の共存下、被験物質の存在下又は非存在下で培養する;
2)培養後の培養上清を回収し、ゲル濾過カラムにて標識ヒアルロン酸の分子量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、標識ヒアルロン酸の分子量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【0125】
KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞は、前項の記載にしたがって作製することができる。
【0126】
ヒアルロン酸の分子量は、常法にしたがい[3H]等の放射性同位元素で標識したヒアルロン酸を調製し、ゲル濾過等を用いて測定することができる。
【0127】
評価は、前項の記載にしたがい、被験物質の存在及び非存在下における、[3H]標識ヒアルロン酸の分子量を比較して行う。たとえば、被験物質の存在下におけるヒアルロン酸の分子量が、非存在下における分子量に比較して有意に高い場合に、当該被験物質をヒアルロン酸分解阻害剤候補として選択することができる。一方、被験物質の存在下におけるヒアルロン酸の分子量が、非存在下における分子量に比較して有意に低い場合には、当該被験物質をヒアルロン酸分解促進剤候補として選択することができる。
【0128】
7.試薬及びキット
本発明は、ヒアルロン酸分解制御効果を評価するためのキットも提供する。
前記キットは、必須の構成要素として、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つを含む。
(a)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞
(b)KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体
(c)KIAA1199遺伝子を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー
(d)KIAA1199遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するためのポリヌクレオチドプローブ
【0129】
各構成要素のうち、(b)〜(d)はそれぞれ単独でヒアルロン酸分解制御効果評価用試薬として用いられてもよい。
【0130】
(a)KIAA1199遺伝子発現細胞
KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞は、前項に記載した方法によって調製することができる。細胞は、KIAA1199遺伝子を強制発現させた組換え細胞であってもよい。
【0131】
(b)抗KIAA1199モノクローナル抗体
抗KIAA1199モノクローナル抗体(KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体)は、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するエピトープペプチドに特異的な抗体であることが好ましい。
【0132】
また、抗KIAA1199モノクローナル抗体は、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。また、適当な支持体に固相化されていてもよいし、あるいは固相化可能なように別個に支持体がキットに含まれていてもよい。そのような支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド等の蛋白を付着可能な合成樹脂、ガラス、ニトロセルロース、セルロース、及びアガロース製の支持体、あるいはゲル型支持体を使用することができる。支持体の形態は特に限定されないが、極小球あるいはビーズ(たとえば“ラテックス”ビーズ)などの微粒子、微量遠心チューブなどのチューブ(内壁)、マイクロタイタープレート(ウェル)等の形態で提供される。
【0133】
(c)KIAA1199遺伝子増幅用プライマー
KIAA1199遺伝子増幅用プライマーは、KIAA1199遺伝子の少なくとも一部に相補的な配列を有する5〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドである。プライマーはKIAA1199遺伝子増幅用の塩基配列(配列番号1)に基づき、市販のプライマー設計ソフトを用いるなど、常法にしたがい容易に設計し、増幅させて調製することができる。このようなプライマーの例としては、配列表の配列番号9〜13に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0134】
KIAA1199遺伝子増幅用プライマーは、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。
【0135】
(d)KIAA1199遺伝子検出用プローブ
KIAA1199遺伝子検出用プローブは、KIAA1199遺伝子に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、20〜1500塩基長程度のものが好ましい。具体的には、ノーザンハイブリダイゼーション法であれば、20塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドか2本鎖DNAが好適に用いられる。また、マイクロアレイであれば、100〜1500塩基長程度の2本鎖DNA、又は20〜100塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドが好適に用いられる。Affimetrix社のGene Chipシステムの場合は、25塩基長程度の1本鎖オリゴがよい。これらは、特にKIAA1199遺伝子の3’非翻訳領域に存在する配列特異性が高い部分に特異的にハイブリダイズするプローブとして設計することが好ましい。このようなプローブの例としては、配列表の配列番号14〜16に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0136】
KIAA1199遺伝子検出用プローブは、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、ビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。
【0137】
KIAA1199遺伝子増幅用プライマー及びKIAA1199遺伝子検出用プローブは、適当な標識によりラベル(たとえば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。また、KIAA1199遺伝子検出用プローブは、ガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ等の適当な固定されていてもよい。
【0138】
本発明のキットは、上記した構成要素のみならず、抗KIAA1199モノクローナル抗体に特異的な(標識)二次抗体や、ラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液、酵素、基質等、KIAA1199の検出に必要な他の要素を含んでいてもよい。また、ヒアルロン酸の分子量を指標とした評価方法の場合には、[3H]等の放射性同位体で標識したヒアルロン酸を含んでいてもよい。
【実施例】
【0139】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0140】
[方法及び材料]
細胞培養
正常ヒト皮膚線維芽細胞(Detroit 551、ATCC(American Type Culture Collection)、HS-27、NHDF)は、必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム及び10%(vol/vol)ウシ胎児血清(FBS)(JRH Biosciences、Kansas)を補ったイーグル最小必須培地(MEM)(MP Biomedicals、Solon、OH)中で培養した。HEK293、COS-7細胞株及びヒト滑膜線維芽細胞(TOYOBO)は、10%ウシ胎児血清、100単位/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(Sigma)中で維持した。培養は、5%CO2を含有する加湿雰囲気中において37℃で行った。
【0141】
[3H]標識ヒアルロン酸
[3H]標識ヒアルロン酸([3H]HA)は、Underhill及びTooleら(C. B. Underhill and B. P. Toole, Binding of hyaluronate to the surface of cultured cells. J. Cell Biol. 82 (1979) 475-84.)の方法に若干の改変を加えて調製した。簡潔に言えば、コンフルエントなDetroit 551線維芽細胞を、10μCi/mlのD-[1,6-3H(N)]グルコサミン塩酸塩と共にインキュベートした。馴化培地をプールし、プロナーゼ(0.3mg/ml)で消化し、エタノールで沈澱させた。生成したペレットを水に懸濁し、1.5%塩化セチルピリジニウム及び0.03M NaClを用いて再沈澱させた。生成したペレットを0.1%塩化セチルピリジニウム及び0.4M NaCl中に溶解させ、エタノールで再び沈澱させた。生成したペレットを5mMリン酸緩衝液(pH7.5)中に懸濁し、0.5%NaClで平衡化したセファロースCL-2Bカラム(10×600mm)に添加した。Vo画分を収集し、エタノールで沈澱させ、最後に、5mMリン酸緩衝液(pH7.5)中に溶解させた。
【0142】
細胞による[3H]HAの分解アッセイ
[3H]HA(40,000dpm/ml)を含有する培地中で、細胞をコンフルエントになるまで培養した。インキュベーション後、培地を回収し、セファロースCL-2Bカラム(10×600mm)に添加し、流速0.65ml/分で0.5%NaClで溶出し、各々2.55mlの画分を収集した。各画分の放射活性を測定した。
【0143】
抗体
ヒトKIAA1199に対するラットモノクローナル抗体を、常法に従って作製した。抗ヒトHYAL2ポリクローナル抗体は、Harada及びTakahashiら(Hosami Harada and Masaaki Takahashi, CD44-dependent intracellular and extracellular catabolism of hyaluronic acid by hyaluronidase-1 and -2. J. Biol. Chem., 282 (2007) 5597-5607)の方法によって作製した。これらの特異的抗体は、免疫ペプチドを使用してアフィニティー精製した。抗CD44抗体及びGAPDH抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz、CA)から購入した。
【0144】
抗ヒトKIAA1199モノクローナル抗体の作製に用いた3種のエピトープペプチドの配列を下記に示す。
CDRFDTYRSKKESER(配列番号3)
CARYSPHQDADPLKPRE(配列番号4)
CDKVEQSYPGRSHYY(配列番号5)
【0145】
プラスミド
ヒトKIAA1199、HYAL1及びHYAL2のcDNAをPCR増幅し、DNA配列決定によってcDNA配列を確認した。増幅したcDNAは、それぞれ、発現ベクターpcDNA3.1(-)(Invitrogen)に挿入した。一過性導入は、Lipofectamine LTX(Invitrogen、Carlsbad、CA)を使用して行った。
【0146】
安定な形質転換体
G418を含有する培地中で細胞を培養することによって安定な形質転換体を選択し、ウェスタンブロット及び細胞による[3H]HAの分解アッセイによって、KIAA1199の発現を確認した。
【0147】
RNA干渉
KIAA1199、HYAL2、CD44及び陰性対照に対する各25塩基のsiRNA(末端TT2塩基突出、修飾ナシ)は、Invitrogen(Carlsbad、CA)から入手した。siRNAの導入は、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen、Carlsbad、CA)を使用して行った。
【0148】
3種のsiRNAの配列を下記に示す。
5’-AAACAUUGAAAUAUUCGCCAUGCUC(配列番号6)
5’-UUGACAAGGAGGCCAAGACAGUGGU(配列番号7)
5’-UUCAGCUUCAGGAACAACAGCCCUG(配列番号8)
【0149】
発現分析
ウェスタンブロットは、標準的な方法にしたがって実施した。リアルタイムPCRは、RNeasy(Qiagen)を用いて全RNAを分離し、High Capacity cDNA Archiveキット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いてcDNA合成を行った。リアルタイムPCRは、TaqMan(登録商標)技術及びABI Prism 7700装置(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いて行った。
【0150】
RT-PCRに用いた3対のプライマー配列を配列表の配列番号9〜13に記載する。
Forward(1): 5’-accatcagctggctcactct-3’(配列番号9)
Reverse(1): 5’-tgtccatgcaactcaagagc-3’(配列番号10)
Forward(2): 5’-gtgggttcaagacgtggagt-3’(配列番号11)
Reverse(2): 5’-tctatctcctccccgatgtg-3’(配列番号12)
Forward(3): 5’- accatcagctggctcactct-3’(forward(1)と同配列:配列番号9)
Reverse(3): 5’-cctcctttaccaaccccaat-3’(配列番号13)
【0151】
in situハイブリダイゼーションは、配列表の配列番号14〜16に示すプローブを用いて常法にしたがって行った(Probe(1): 配列番号14、Probe(2): 配列番号15、Probe(3): 配列番号16)
【0152】
細胞によるヒアルロン酸分解の特性決定
フルオレセインアミンで標識された(FA-)HA、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、デルマタン硫酸、ヘパリン及びヘパラン硫酸を含有する培地(PG Research)中で細胞を培養した。インキュベーションの後、培地を回収し、PBSで平衡化したセファロースCL-6Bカラム(10×35mm)に添加した。0.4ml/分で各々1.6mlの画分を収集し、蛍光(励起、490nm;発光、525nm)を測定した。分解したFA-HAの分子量は、同一条件下のFA-コンドロイチン硫酸D及びコンドロイチン硫酸E、ヘパリン及びヘパラン硫酸によって推定した。分解した[3H]HAの非還元末端の糖は、β-N‐アセチルグルコサミニダーゼとの糖鎖のインキュベーションの後、又はβ-グルクロニダーゼ消化後にβ-N-アセチルグルコサミニダーゼ消化を行った後、セファデックスG-25カラム(1×107cm)でのゲル濾過により同定した。
【0153】
阻害剤実験
細胞を、指示されている濃度の阻害剤と共に3時間インキュベートし、それに続いて、阻害剤の存在下で[3H]HAと共に6時間インキュベートした。
【0154】
[実験及び結果]
1.ヒアルロン酸分解因子KIAA11199の同定
(1)培養ヒト正常線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解系
まず、現在提唱されているHYAL1、HYAL2及びCD44(HA受容体)を介したヒアルロン酸の分解モデルが正常細胞において実際に機能するか否かを培養ヒト正常線維芽細胞を用いて調べた。
【0155】
培養線維芽細胞は、外部から添加した高分子ヒアルロン酸を分解し、その代謝産物は細胞外に蓄積した(図1a)。
【0156】
ヒアルロン酸を線維芽細胞を培養した培地とインキュベートしても、ヒアルロン酸の分解は検出されなかった。細胞を様々な濃度のヒアルロン酸とインキュベートし、培養線維芽細胞によるヒアルロン酸分解の見かけのVmax(370μg/105cells/3 days)及びKm(1480μg/ml)を決定した(データは示していない)。得られた結果は、培養線維芽細胞には有効なヒアルロン酸分解機構が存在することを示唆した。
【0157】
(2)KIAA1199の同定
HYAL1、HYAL2及びCD44のうち、HYAL2とCD44の発現は培養線維芽細胞で検出されたが、siRNAを用いたHYAL2及びCD44のノックダウンは、ヒアルロン酸の分解に影響を与えなかった(図1b)。これらの結果は、培養線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解機構は、HYAL酵素及びCD44に依存しないものであることを示唆した。
【0158】
細胞のヒアルロン酸分解機構が存在することは確認されたが、既報と同様に、線維芽細胞からの細胞溶解物にはpHが中性条件下でヒアルロン酸分解活性を全く検出することができなかった(データは示していない)。
【0159】
図1aに示すように、ヒアルロン酸分解は、ヒスタミンによりアップレギュレートされ、TGF-β1によりダウンレギュレートされた。マイクロアレイ解析により、線維芽細胞において、2倍強の変化率でヒスタミンによりアップレギュレートされ、1/2弱の変化率でTGF-β1によりダウンレギュレートされる25種の遺伝子を抽出した。
【0160】
この25種の遺伝子を順にノックダウンしたところ、KIAA1199遺伝子を標的とする2種のsiRNA導入によって、細胞によるヒアルロン酸分解が著しく阻害されることが確認された(図1c)。同様の結果は、皮膚の他の正常線維芽細胞株HS27及びNHDFを用いても確認された(図1c)。ヒスタミン及びTGF-β1によるKIAA1199のmRNA及びタンパク質の発現変化は、リアルタイムPCR及びウェスタンブロットにより確認した(図1a)。ヒスタミン刺激の後、細胞によるヒアルロン酸分解の見かけのKmは影響されなかった(1500μg/ml)が、Vmaxは3.7倍増加しており(1370μg/105 cells/3 days)、これは、ヒスタミン刺激によるKIAA1199のmRNAの発現増加(3.7倍)と一致していた(図1a)。さらに、培養線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解はヘパリンの添加によって阻害されることが確認された(図1e)。
【0161】
以上より、KIAA1199が培養線維芽細胞のヒアルロン酸分解の速度を決定する重要な因子であることが確認された。
【0162】
抗KIAA1199モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットにより、150kDa付近のKIAA1199タンパク質が、正常なヒト皮膚溶解物中に検出されたが、これは、培養皮膚線維芽細胞の実験結果と一致している(図1d)。同じ抗体を用いた正常なヒト皮膚の切片に対する免疫組織化学検査(免疫染色)により、皮膚線維芽細胞においてKIAA1199の発現が検出された(図1d)。
【0163】
2.KIAA1199の機能決定
(1)KIAA1199によるHA分解
KIAA1199の役割を調べるために、HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)にKIAA1199全長cDNAを導入した。KIAA1199を一過性に発現するHEK293細胞は、培養皮膚線維芽細胞と同様に外部から添加したヒアルロン酸を分解した(図2a)。対照的に、空ベクターを導入した細胞は、ヒアルロン酸を分解しなかった(図2a)。類似の結果は、COS-7細胞(サル腎線維芽細胞)でも確認された(図2a)。以上の結果は、KIAA1199がヒアルロン酸分解機構にとって必須の因子であることを示唆する。
【0164】
KIAA1199 cDNA配列は、1361アミノ酸のタンパク質をコードする予測された4083bpのORFを含有する。KIAA1199は、HYAL酵素及び細菌ヒアルロニダーゼ、さらにはヒアルロン酸結合タンパク質を含む他のいずれの既知のタンパク質とも、何ら実質的な相同性を示さない。
【0165】
(2)変異型KIAA1199によるHA分解
高頻度優性難聴を示す非症候性難聴患者において、アミノ酸置換を伴うKIAA1199の変異(R187C、R187H、H783R又はV1109I)が見出され、これが難聴の原因となりうることが報告されている(前掲)。
【0166】
そこで、この難聴患者で報告されている4種の変異型KIAA1199をHEK293細胞で一過性に発現させた。KIAA1199の4種の変異型タンパク質(R187C、R187H、H783R又はV1109I)は、全て野生型と同程度に発現された(図2b)。このうち、R187C及びR187H変異体を発現する細胞は、野生型と比較してヒアルロン酸分解の部分的低下を示した(図2b)。この結果は、R187におけるアミノ酸置換がKIAA1199タンパク質の機能を損なわせることを示唆している。
【0167】
3.KIAA1199によるヒアルロン酸分解機構の検討
KIAA1199を介したヒアルロン酸分解機構をさらに検討するために、我々は、KIAA1199を安定的に発現するHEK293細胞株(KIAA1199/HEK293)を樹立した。培養KIAA1199/HEK293細胞は、外部から添加したコンドロイチン硫酸A、D、E、デルマタン硫酸、ヘパリン又はヘパラン硫酸を、ヒアルロン酸と異なり消化しなかった(図3a)。分解されたヒアルロン酸の分子量は、約15kDaと推定され(図3b)、その還元及び非還元末端は、それぞれN-アセチルグルコサミン及びグルクロン酸であった。
【0168】
KIAA1199/HEK293細胞は、ヒアルロン酸特異的なエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと同様にヒアルロン酸を分解し、その代謝産物は、中間サイズのヒアルロン酸フラグメントであった。さらに、KIAA1199/HEK293細胞におけるHYAL1及びHYAL2の過剰発現は、ヒアルロン酸分解に影響しないことから、KIAA1199は、HYAL1及びHYAL2に依存することなく作用することが示唆された。
【0169】
KIAA1199/HEK293細胞におけるヒアルロン酸分解は、クロルプロマジン、N-エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、オリエンチンによる前処理で阻害された(図3c)。
【0170】
4.変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)におけるKIAA1199の関与
変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)の滑液は、正常な膝関節の滑液と比較して、低分子量、低濃度のヒアルロン酸を多く含有することが知られている。
【0171】
KIAA1199がこうした観察結果に関与しているか否かを調べるために、正常、OA及びRA由来の培養滑膜線維芽細胞を使用した。
【0172】
全ての細胞は、外部から添加したヒアルロン酸を分解したが、特異的siRNAによるKIAA1199のノックダウンによって、そのいずれもが完全に抑制された(図4a)。細胞によるヒアルロン酸分解、ならびにKIAA1199のmRNA及びタンパク質の発現は、とくにRAの滑膜線維芽細胞において最も増加した(図4a、4b)。OA細胞は、正常及びRA細胞との中間レベルを示した(図4a、4b)。以上の結果は、KIAA1199が、培養滑膜線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解にも関わっており、その発現量の増加は、OA及びRA滑膜細胞におけるヒアルロン酸分解の増加を起こすことを示している。
【0173】
炎症性メディエーターのPGE2ならびにIL-1、IL-6及びTNF-αなどの数種のサイトカインは、RA患者の滑液中に豊富に存在する。我々は、RA滑膜細胞におけるKIAA1199の発現が、このような炎症性メディエーターにより誘発されるか否かを調べた。図4fに示すように、PGE2、IL-1α、IL-β及びIL-6は、KIAA1199のmRNA発現を刺激した。まとめると、RAの病因に関与する炎症促進性メディエーターは、RA滑膜細胞におけるKIAA1199の発現を刺激する。
【0174】
KIAA1199のmRNA発現を、異なるRA患者3名の滑膜から抽出した全RNAにおいてRT-PCRにより検出した(図4c)。in situハイブリダイゼーションでは、滑膜表層細胞及びRA滑膜の表層下細胞において、KIAA1199のmRNAを検出することができた(図4d)。これらのパターンは、抗KIAA1199モノクローナル抗体を用いて行った免疫組織化学検査により、タンパク質レベルで確認された。この分析によって、KIAA1199の発現は、RA滑膜の表層細胞において最も強く、健常人由来より遥かに高く検出されることが判明した(図4e)。
【0175】
以上より、KIAA1199は新規なヒアルロン酸分解促進因子であることが確認された。KIAA1199は広範な組織分布を示し、既存モデルとは異なる、生体内におけるヒアルロン酸代謝の新たな系を提供する。RA滑膜では、RA滑膜の培養線維芽細胞におけるヒアルロン酸分解に必須であるKIAA1199の発現が、滑液に面した表層細胞中で増加したが、この増加は、RAの公知の分子特性の1つである、滑液ヒアルロン酸濃度及び分子量低下への関連を示唆する。この知見は、RAの病因解明に対する新たな洞察をもたらし得る。
【0176】
KIAA1199は、結腸直腸癌及び胃癌において増加することが報告されている。部分的に代謝されたヒアルロン酸フラグメントは、血管形成を促進し、癌の進行に肝要な炎症性サイトカインの産生を刺激することが知られている。KIAA1199はこうした癌の進展、転移にも関与していることが考えられる。すなわち、KIAA1199活性・発現の阻害は、RAの治療ならびに癌の進行の防止に対する有力な戦略となり得る。
【0177】
一方、非症候性難聴の潜在的な病因である、KIAA1199のR187でのアミノ酸変異は、KIAA1199の機能の損失をもたらした。こうした知見は、ヒアルロン酸分解の低下が聴覚欠損を起こし得るという可能性を示唆する。これは、ヒアルロン酸代謝と聴覚機能との関連性を示唆する最初の報告である。すなわち、本発明は聴覚の機構を理解する新たな手掛りを提供し得る。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、ヒアルロン酸の枯渇や分子量低下に基づく疾患状態の緩和・治療に利用できる。また、本発明のヒアルロン酸分解阻害剤は、変形性関節症や関節リウマチの治療や美容医療で用いられる局所投与用ヒアルロン酸製剤とともに用いることで、より持続性の高い製剤を提供することができる。さらに本発明は、KIAA1199を標的とした新たなヒアルロン酸分解制御剤の探索や、ヒアルロン酸分解に伴う病態メカニズムの解明にも利用できる。
【0179】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0180】
配列番号3−ヒトKIAA1199エピトープペプチド(1)
配列番号4−ヒトKIAA1199エピトープペプチド(2)
配列番号5−ヒトKIAA1199エピトープペプチド(3)
配列番号6−ヒトKIAA1199 siRNA(1)
配列番号7−ヒトKIAA1199 siRNA(2)
配列番号8−ヒトKIAA1199 siRNA(3)
配列番号9−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Forward(1),Forward(3))
配列番号10−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Reverse(1))
配列番号11−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Forward(2))
配列番号12−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Reverse(2))
配列番号13−ヒトKIAA1199増幅用プライマー(Reverse(3))
配列番号14−ヒトKIAA1199検出用プローブ(1)
配列番号15−ヒトKIAA1199検出用プローブ(2)
配列番号16−ヒトKIAA1199検出用プローブ(3)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を用いて、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価することを特徴とする、ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を指標として、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
下記の工程を含む、請求項1記載の方法:
1)細胞を被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)上記細胞のKIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、上記遺伝子又はタンパクの発現量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【請求項4】
下記の工程を含む、請求項1記載の方法:
1)細胞を、標識ヒアルロン酸の共存下、被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)培養後の培養上清を回収し、標識ヒアルロン酸の分子量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、標識ヒアルロン酸の分子量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【請求項5】
細胞がKIAA1199遺伝子を強制発現させた組換え細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節することを特徴とする、ヒアルロン酸の分解制御方法。
【請求項7】
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA、
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物、
を適用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、又は
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、
を適用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節する物質を含む、ヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項10】
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物、
を含む、請求項9記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項11】
前記siRNAが、配列表の配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列、又は前記配列と配列同一性90%以上の塩基配列を有するものである、請求項10記載のヒアルロン酸分解阻害剤。
【請求項12】
前記抗体が、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体である、請求項10記載のヒアルロン酸分解阻害剤。
【請求項13】
ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善のためのものである、請求項10又は11記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項14】
関節機能改善、癌の予防・治療、組織修復、又は荒れ肌、乾燥肌もしくは小ジワ改善のためのものである、請求項10又は11記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項15】
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、もしくは
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、
を含む、請求項9記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項16】
ヒアルロン酸の異常産生亢進もしくは異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善、ヒアルロン酸による組織修復の補正、又は難聴の予防・治療に用いられるものである、請求項15記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項17】
医薬組成物である、請求項9〜16のいずれか1項に記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項18】
化粧料である、請求項9〜16のいずれか1項に記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項19】
ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、請求項10〜14のいずれか1項に記載のヒアルロン酸分解制御剤とを含む、局所投与用製剤。
【請求項20】
関節機能改善薬又は組織修復薬である、請求項19記載の局所投与用製剤。
【請求項21】
化粧料である、請求項19記載の局所投与用製剤。
【請求項22】
以下の(a)〜(d)の少なくとも1つを含むヒアルロン酸分解制御効果評価用キット:
(a)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞
(b)KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体
(c)KIAA1199遺伝子を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー
(d)KIAA1199遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するためのポリヌクレオチドプローブ。
【請求項23】
モノクローナル抗体が、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体である、請求項22記載のキット。
【請求項24】
配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗KIAA1199モノクローナル抗体。
【請求項25】
配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有する、KIAA1199エピトープペプチド。
【請求項1】
KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞を用いて、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価することを特徴とする、ヒアルロン酸分解制御剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を指標として、被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
下記の工程を含む、請求項1記載の方法:
1)細胞を被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)上記細胞のKIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、上記遺伝子又はタンパクの発現量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【請求項4】
下記の工程を含む、請求項1記載の方法:
1)細胞を、標識ヒアルロン酸の共存下、被験物質の存在又は非存在下で培養する;
2)培養後の培養上清を回収し、標識ヒアルロン酸の分子量を測定する;
3)被験物質の存在及び非存在下における、標識ヒアルロン酸の分子量の相違に基づき、当該被験物質のヒアルロン酸分解制御効果を評価する。
【請求項5】
細胞がKIAA1199遺伝子を強制発現させた組換え細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節することを特徴とする、ヒアルロン酸の分解制御方法。
【請求項7】
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA、
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物、
を適用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、又は
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、
を適用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】
KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を調節する物質を含む、ヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項10】
i) KIAA1199遺伝子に対するアンチセンス核酸又はsiRNA
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的な抗体、又は
iii) クロルプロマジン、N−エチルマレイミド、バフィロマイシンA1、モネンシン、EDTA、デフェロキサミン、及びオリエンチンから選ばれる低分子化合物、
を含む、請求項9記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項11】
前記siRNAが、配列表の配列番号6〜8のいずれかで示される塩基配列、又は前記配列と配列同一性90%以上の塩基配列を有するものである、請求項10記載のヒアルロン酸分解阻害剤。
【請求項12】
前記抗体が、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体である、請求項10記載のヒアルロン酸分解阻害剤。
【請求項13】
ヒアルロン酸の異常分解を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善のためのものである、請求項10又は11記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項14】
関節機能改善、癌の予防・治療、組織修復、又は荒れ肌、乾燥肌もしくは小ジワ改善のためのものである、請求項10又は11記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項15】
i) KIAA1199遺伝子
ii) KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパク、もしくは
iii) KIAA1199遺伝子又はKIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクの発現又は活性を促進させる物質、
を含む、請求項9記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項16】
ヒアルロン酸の異常産生亢進もしくは異常分解抑制を伴う症状あるいは疾患の予防・治療・改善、ヒアルロン酸による組織修復の補正、又は難聴の予防・治療に用いられるものである、請求項15記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項17】
医薬組成物である、請求項9〜16のいずれか1項に記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項18】
化粧料である、請求項9〜16のいずれか1項に記載のヒアルロン酸分解制御剤。
【請求項19】
ヒアルロン酸又はその薬理学的に許容されうる塩もしくは誘導体と、請求項10〜14のいずれか1項に記載のヒアルロン酸分解制御剤とを含む、局所投与用製剤。
【請求項20】
関節機能改善薬又は組織修復薬である、請求項19記載の局所投与用製剤。
【請求項21】
化粧料である、請求項19記載の局所投与用製剤。
【請求項22】
以下の(a)〜(d)の少なくとも1つを含むヒアルロン酸分解制御効果評価用キット:
(a)KIAA1199遺伝子を一過性又は安定的に高発現している細胞
(b)KIAA1199遺伝子によってコードされるタンパクに特異的なモノクローナル抗体
(c)KIAA1199遺伝子を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー
(d)KIAA1199遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するためのポリヌクレオチドプローブ。
【請求項23】
モノクローナル抗体が、配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗体である、請求項22記載のキット。
【請求項24】
配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有するペプチドに特異的な抗KIAA1199モノクローナル抗体。
【請求項25】
配列表の配列番号3〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は前記配列と配列同一性90%以上のアミノ酸配列を有する、KIAA1199エピトープペプチド。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【公開番号】特開2012−10699(P2012−10699A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125167(P2011−125167)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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