説明

新規ヒドラジド化合物及びそれを用いた樹脂組成物

【課題】良好な硬化性を有し、また耐湿性に優れる新規ヒドラジド化合物、および耐湿信頼性等の特性に非常に優れる硬化物を実現できる樹脂組成物、さらには該樹脂組成物を用いた接着剤、液晶シール剤用途の提案を課題とする。
【解決手段】下記式(1)で表されるヒドラジド化合物。
【化1】


(式中nは0〜6の整数を表し、mは1〜4の整数を表す。)
また、当該ヒドラジド化合物を用いた樹脂組成物とその接着剤、液晶シール剤用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ヒドラジド化合物に関する。より詳しくは、デカヒドロナフタレン(ビシクロ[4.4.0]デカン)骨格を有するヒドラジド化合物に関し、さらには、これを用いた主に接着剤用途の樹脂組成物、及び液晶シール剤を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
旧来より、ヒドラジド化合物は、エポキシ樹脂硬化剤や、ホルムアルデヒド吸着剤、高分子架橋剤、高分子改質接着剤、スライムコントロール剤、ヒドラジドポリマー原料など、有用な材料として使用されてきた。特に、塗料、接着剤などの分野で幅広く使われているエポキシ樹脂やアクリル等の熱硬化性樹脂の潜在性硬化剤、ケトン基含有アクリルエマルジョンの架橋剤等に多く用いられている。これは、(1)高い反応性をもつために、低温硬化が可能である点、(2)貯蔵安定性に優れ、常温で1液保存が可能な点(3)骨格によって硬化温度、硬化時間の調整が可能な点、(4)硬化物のガラス転移温度が高い点などによることが理由として考えられる。また、ヒドラジド化合物は、エポキシ樹脂のみでなくアクリル樹脂ともマイケル付加反応によって、反応する為、エポキシ樹脂、アクリル樹脂の混合樹脂組成物においても非常に良好な硬化剤である。
【0003】
上記理由から、ヒドラジド化合物は、接着剤用途の樹脂組成物に使用されることが多く、様々な骨格を有するヒドラジド化合物とそれを用いた接着剤が提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−96074号公報
【特許文献2】特開平6−80619号公報
【特許文献3】特開平11−43473号公報
【特許文献4】特開2002−371069号公報
【特許文献5】特開2006−316142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上記状況に鑑みて、新規ヒドラジド化合物を提案するものである。すなわち本発明は、デカヒドロナフタレン骨格(ビシクロ[4.4.0]デカン骨格)を有するヒドラジド化合物に関し、さらには、これを用いた主に接着剤用途の樹脂組成物を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、本発明者らがビシクロ骨格を有する本願記載のヒドラジドが、優れた硬化性、耐湿性を有することを発見したことに基づく発明である。即ち本発明は、次の1)〜13)に関するものである。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び/又は「メタクリル」を意味し、同様に「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び/又は「メタクリロイル」を意味する。
【0007】
1)
下記式(1)で表されるヒドラジド化合物。
【化1】

(式中nは0〜6の整数を表し、mは1〜4の整数を表す。)
2)
前記式(1)において、mが2〜4の整数である上記1)に記載のヒドラジド化合物。
3)
前記式(1)において、nが0である上記1)又は2)に記載のヒドラジド化合物。
4)
前記式(1)において、mが2である上記1)乃至3)のいずれか一項に記載のヒドラジド化合物。
5)
下記式(2)で表される上記1)乃至4)のいずれか一項に記載のヒドラジド化合物。
【化2】

6)
(a)上記1)乃至5)のいずれか一項に記載のヒドラジド化合物、及び(b)硬化性樹脂を含有する樹脂組成物。
7)
上記成分(b)がエポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上である上記6)に記載の樹脂組成物。
8)
更に、(c)無機フィラーを含有することを特徴とする上記6)又は7)に記載の樹脂組成物。
9)
更に、(d)シランカップリング剤を含有することを特徴とする上記6)乃至8)のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
10)
上記6)乃至9)のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた電子部品用接着剤。
11)
上記6)乃至9)のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた液晶表示セル用接着剤。
12)
上記6)乃至9)のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた液晶シール剤。
13)
上記11)又は12)に記載の液晶表示セル用接着剤又は液晶シール剤を用いて接着された液晶表示セル。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規ヒドラジド化合物は、非常に硬化性に優れ、また疎水性が高い為、接着剤用途として使用した場合に、耐湿信頼性の優れる硬化物を実現することができる。また、液晶滴下工法により製造した液晶表示素子において、直鎖アルキル骨格を含むヒドラジド(アジピン酸ジヒドラジド(ADH)やセバシン酸ジヒドラジド(SDH))等を用いたシール剤の硬化物近傍に光り抜けを生じることが多いが、本発明の新規ヒドラジド化合物においてはそのような現象は起こらず、極めて良好な表示特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の、上記式(1)で表されるヒドラジド化合物は、対応するカルボン酸化合物にアルコールを反応させ、アルキルエステルに変換後、水和ヒドラジンを反応させること、または対応するカルボン酸アルキルエステルに水和ヒドラジンを反応させることによって得ることができる。具体的には、まず対応するカルボン酸とアルコールを硫酸等の酸触媒の存在下、50〜100℃程度の温度で5〜10時間、攪拌し、対応するカルボン酸化合物のアルキルエステルを得る。
【0010】
対応するカルボン酸化合物とは、本願発明のビシクロ骨格にカルボキシ基が結合した化合物であり、具体的には、下記式(3)で表される化合物である。
【化3】

(式中nは0〜6の整数を表し、mは1〜4の整数を表す。)
【0011】
使用するアルコールとしては、炭素数1〜4の直鎖又は分岐脂肪族アルコールであれば特に限定されるものではないが、脱離のし易さ、すなわち次の工程での反応性を考えると、メタノールが最も好ましい。アルコールの使用量としては、カルボン酸化合物を1モルとした場合に、10〜100モルである場合が好ましく、さらに好ましくは、20〜50モルの場合である。
【0012】
酸触媒としては、硫酸が特に好ましい。この酸触媒の使用量は、カルボン酸化合物を1モルとした場合に、0.01〜1モルである場合が好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.5モルの場合である。
【0013】
反応温度は50〜100℃であり、反応時間は、3〜10時間程度であることが好ましい。反応は薄層クロマトグラフィー(TLC)等によって追跡することができる。目的のエステルを含む反応液は、そのまま次の反応である、水和ヒドラジンとの反応に用いても良く、また抽出、濃縮、晶析等の分離操作により、反応液から単離精製して、次の反応に用いても良い。
【0014】
上記カルボン酸化合物のアルキルエステルを合成する工程に続いて、当該カルボン酸化合物のアルキルエステルに水和ヒドラジンを0〜30℃で混合した後に、50〜100℃で1〜10時間反応させる。
【0015】
この工程は、必ずしも溶剤を必要とはしないが、水、水溶性有機溶剤を用いて行うことが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコールやN-メチルピロリドン等が挙げられるが、アルコールが好ましく、特に好ましくはイソプロパノールである。
【0016】
本工程は、例えば上記有機溶剤に、上記カルボン酸化合物のアルキルエステルを溶解させ、0℃〜30℃で、水和ヒドラジンを滴下することによって行う。滴下後、50℃から100℃に加熱して1時間〜10時間反応させることによって、目的のヒドラジド化合物を得ることができる。
【0017】
この工程で使用する水和ヒドラジンは、カルボン酸化合物のアルキルエステル、1モルに対し、1〜20モルが好ましく、5〜15モルがさらに好ましい。
【0018】
反応の終点は、薄層クロマトグラフィー(TLC)等によって確認することができるが、有機溶剤としてイソプロパノールを用いた場合には、生成したヒドラジド化合物の溶解性の低さから、白色結晶として、析出してくる。従って、濾別し、乾燥することによって、容易に本願発明のヒドラジド化合物を得ることができる。
【0019】
本願発明のヒドラジド化合物としては、表1〜3に挙げるようなものを例示することができるが、式(1)の構造を充足する限り、特にこれらに限定されるものではない。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
本発明のヒドラジド化合物を用いた樹脂組成物は、成分(b)硬化性樹脂を含有する。この硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー、(メタ)アクリル酸エステルのオリゴマー、部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂等を挙げることができる。また、接着剤用途の場合には、上記のうち、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上からなる硬化性樹脂である場合が特に好ましい。 例えば、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル化エポキシ樹脂の混合物、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂、部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂等が挙げられる。特に液晶表示セル用接着剤として用いる場合であり、液晶と直接接触する部分で使用する場合には、液晶に対する汚染性、溶解性が低いものが好ましく、好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(メタ)アクリロイル化エポキシ樹脂、部分(メタ)アクリロイル化エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の周知の反応により得ることができる。例えば、エポキシ樹脂に所定の当量比の(メタ)アクリル酸と触媒(例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルスチビン等)と、重合防止剤(例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン、ジブチルヒドロキシトルエン等)を添加して、例えば80〜110℃でエステル化反応を行うことにより得られる。原料となるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、2官能以上のエポキシ樹脂が好ましく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられる。これらのうち液晶汚染性の観点から、より好ましいものはビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂である。また、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基との比率は限定されるものではなく、工程適合性及び液晶汚染性の観点から適切に選択される。
【0024】
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー及び/又はオリゴマーを使用しても良い。そのようなモノマー、オリゴマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトールと(メタ)アクリル酸の反応物、ジペンタエリスリトール・カプロラクトンと(メタ)アクリル酸の反応物等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0025】
本発明の樹脂組成物は接着剤用途として好適である。この場合、成分(a)ヒドラジド化合物の含有量は、成分(b)硬化性樹脂100質量部に対し、1〜20質量部含有することが好ましい。また、更に好ましくは1〜10質量部であり、残部としては、無機フィラー、シランカップリング剤、光重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤、熱硬化促進剤等である。
【0026】
本発明の樹脂組成物が含有しても良い無機フィラー(成分(c))としては、溶融シリカ、結晶シリカ、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられ、好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムであり、更に好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルクである。これら無機フィラーは2種以上を混合して用いても良い。特に下記液晶表示セル用接着剤として用いる場合には、その平均粒径は、大きすぎると狭ギャップの液晶表示セル製造時に上下ガラス基板の貼り合わせ時のギャップ形成がうまくできない等の不良要因となるため、3μm以下が適当であり、好ましくは2μm以下である。粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS−30)により測定した。
【0027】
上記無機フィラーの樹脂組成物中の含有量は、本発明の樹脂組成物の全体を100質量部とした場合、通常1〜60質量部、好ましくは5〜50質量部である。無機フィラーの含有量が少な過ぎる場合、接着強度が低下し、また耐湿信頼性も劣るために、吸湿後の接着強度の低下も大きくなる場合がある。又、無機フィラーの含有量が多過ぎる場合、フィラー含有量が多すぎるため、液晶表示セル用接着剤として使用した場合には、セルのギャップ形成ができなくなってしまう場合がある。
【0028】
本発明の樹脂組成物が含有しても良いシランカップリング剤(成分(d))としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−(ビニルベンジルアミノ)エチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の樹脂組成物に占める含有量は、本発明の樹脂組成物の全体を100質量部とした場合、0.01〜3質量部が好適である。
【0029】
本発明の樹脂組成物が含有しても良い光重合開始剤としては、紫外線や可視光等のエネルギー線の照射によって、ラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン、2−エチルアンスラキノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−メチル−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノ−1−プロパン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。また、下記液晶表示セル用接着剤として用いる場合であり、液晶と直接接触する部分で使用する場合には、液晶汚染性の観点から、分子内に(メタ)アクリル基を有するものを使用する事が好ましく、例えば2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2メチル−1−プロパン−1−オンとの反応生成物が好適に用いられる。この化合物は国際公開WO2006/027982号記載の方法にて製造して得ることができる。この光重合開始剤の含有量は、本発明の樹脂組成物の全体を100質量%とした場合、通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%である。
【0030】
本発明の樹脂組成物が含有しても良い熱ラジカル重合開始剤としては、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、有機過酸化物、アゾ化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾピナコール等が挙げられ、ベンゾピナコールが好適に用いられる。例えば、有機過酸化物としては、カヤメックA、カヤメックM、カヤメックR、カヤメックL、カヤメックLH、カヤメックSP-30C、パードックスCH−50L、パードックスBC−FF、カドックスB−40ES、パードックス14、トリゴノックス22−70E、トリゴノックス23−C70、トリゴノックス121、トリゴノックス121−50E、トリゴノックス121−LS50E、トリゴノックス21−LS50E、トリゴノックス42、トリゴノックス42LS、カヤエステルP−70、カヤエステルTMPO−70、カヤエステルCND−C70、カヤエステルO、カヤエステO−50E、カヤエステルAN、カヤブチルB、パードックス16、カヤカルボンBIC−75、カヤカルボンAIC−75(化薬アクゾ株式会社製)、パーメックN、パーメックH、パーメックS、パーメックF、パーメックD、パーメックG、パーヘキサH、パーヘキサHC、パーヘキサTMH、パーヘキサC、パーヘキサV、パーヘキサ22、パーヘキサMC、パーキュアーAH、パーキュアーAL、パーキュアーHB、パーブチルH、パーブチルC、パーブチルND、パーブチルL、パークミルH、パークミルD、パーロイルIB、パーロイルIPP、パーオクタND、(日油株式会社製)などが市販品として入手可能である。また、アゾ化合物としては、VA−044、V−070、VPE−0201、VSP−1001等(和光純薬工業株式会社製)等が市販品として入手可能である。該熱ラジカル重合開始剤の含有量としては、本発明の樹脂組成物の総量を100質量部とした場合、0.0001〜10質量部であることが好ましく、更に好ましくは0.0005〜7質量部であり、0.001〜3質量部が特に好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、有機フィラーならびに顔料、レベリング剤、消泡剤、溶剤などの添加剤を配合することができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物を得る方法の一例としては、次に示す方法がある。まず、硬化性樹脂(成分(b))に対し光重合開始剤を加熱溶解し、室温まで冷却後、本願発明のヒドラジド化合物(成分(a))、無機フィラー(成分(c))、シランカップリング剤(成分(d))、熱ラジカル重合開始剤等を混合し、次いで公知の混合装置、例えば3本ロール、サンドミル、ボールミル等により均一に混合し、金属メッシュにて濾過することにより本発明の樹脂組成物を製造することができる。
【0033】
本願発明の樹脂組成物は電子部品用接着剤として非常に有用である。電子部品用接着剤としては、フレキシブルプリント配線板用接着剤、TAB用接着剤、半導体用接着剤、各種ディスプレイ用接着剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、本願発明の樹脂組成物は、液晶表示セル用接着剤として、特に液晶シール剤として非常に有用である。本発明の樹脂組成物を液晶シール剤として用いた場合の、液晶表示セルについて、以下に例を示す。
【0035】
本願発明の液晶表示セル用接着剤を用いて製造される液晶表示セルは、所定の電極を形成した一対の基板を所定の間隔に対向配置し、周囲を本発明の液晶シール剤でシールし、その間隙に液晶が封入されたものである。封入される液晶の種類は特に限定されない。ここで、基板とはガラス、石英、プラスチック、シリコン等からなる少なくとも一方に光透過性がある組み合わせの基板から構成される。その製法としては、本発明の液晶シール剤に、グラスファイバー等のスペーサー(間隙制御材)を添加後、該一対の基板の一方にディスペンサー、またはスクリーン印刷装置等を用いて該液晶シール剤を塗布した後、必要に応じて、80〜120℃で仮硬化を行う。その後、該液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下し、真空中にてもう一方のガラス基板を重ね合わせ、ギャップ出しを行う。ギャップ形成後、紫外線照射機により液晶シール剤部に紫外線を照射させて光硬化させる。紫外線照射量は、好ましくは500〜6000mJ/cm2、より好ましくは1000〜4000mJ/cm2の照射量が好ましい。その後必要に応じて、90〜130℃で1〜2時間硬化することにより本発明の液晶表示セルを得ることができる。このようにして得られた本発明の液晶表示セルは、液晶汚染による表示不良が無く、接着性、耐湿信頼性に優れたものである。スペーサーとしては、例えばグラスファイバー、シリカビーズ、ポリマービーズ等があげられる。その直径は、目的に応じ異なるが、通常2〜8μm、好ましくは4〜7μmである。その使用量は、本発明の液晶シール剤100質量%に対し通常0.1〜4質量%、好ましくは0.5〜2質量%、更に、好ましくは0.9〜1.5質量%程度である。
【0036】
本発明の新規ヒドラジド化合物は、接着剤用途の使用に非常に適するものである。すなわち、反応性が良好であるにもかかわらず、保存安定性も良好であり、更には、疎水性が高い為、硬化物の耐湿信頼性にも顕著な効果を有する。また、本願発明のヒドラジド化合物を用いた樹脂組成物は、電子部品用接着剤、液晶表示セル用接着剤として非常に有用である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準である。
[実施例1]
2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド(3,8−ビシクロ[4.4.0]デカンジカルボン酸ジヒドラジド)の合成(表2中化合物番号6)
(工程1)
2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸(3,8−ビシクロ[4.4.0]デカンジカルボン酸:特開2004−331645号公報 実施例1に記載の方法で合成)30.0gをメタノール127gに溶解させ、硫酸1.3gを加えた。リフラックスで8時間攪拌した後、エバポレーターにてメタノールを除去した。得られた液体にトルエンを加え、さらに7%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて攪拌し、分液した。次いで、有機層に7%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて攪拌し、分液した。この操作を、PH試験紙を用いて、水層が中性になるまで繰り返した。続いて、有機層にイオン交換水を加えて攪拌し分液した。この操作を2回繰り返した。エバポレーターにてトルエンを除去し、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(3,8−ビシクロ[4.4.0]デカンジカルボン酸ジメチルエステル)32gを得た。また、本化合物は、H−NDCM(三菱ガス化学株式会社製)として、市場から入手することも可能である。
(工程2)
工程1で合成した2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(3,8−ビシクロ[4.4.0]デカンジカルボン酸ジメチルエステル)20.0gをイソプロパノール74mLに溶解し、ヒドラジン1水和物44.4gを滴下ロートにで30分かけて滴下した。その後80℃まで昇温し、3時間攪拌した。析出した結晶を濾取して乾燥させることにより、目的とする2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド(3,8−ビシクロ[4.4.0]デカンジカルボン酸ジヒドラジド)8.8gを得た。(H−NMRデータ:8.9(2H)、4.1(4H)、2.0〜2.1(2H)、1.6〜1.7(4H)、1.4〜1.5(8H)、1.2(2H))
[参考合成例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシアクリレートの合成
ビスフェノールA型エポキシ樹脂282.5g(製品名:YD−8125、新日鉄化学株式会社製)をトルエン266.8gに溶解し、これに重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.8gを加え、60℃まで昇温した。その後、エポキシ基の100%当量のアクリル酸117.5gを加え更に80℃まで昇温し、これに反応触媒であるトリメチルアンモニウムクロライド0.6gを添加して、98℃で約30時間攪拌し、反応液を得た。得られた反応液を水洗し、トルエンを留去することにより、目的とするビスフェノールA型のエポキシアクリレート395gを得た(KAYARADRTMR−93100)。
【0038】
(液晶シール剤の調整)
[実施例2]
下記表1に示す割合で硬化性樹脂成分(成分(b))を混合攪拌した後、光重合開始剤を加え、90℃で加熱溶解した。室温まで冷却し、無機フィラー(成分(c))、シランカップリング剤(成分(d))、実施例1で合成した熱硬化剤(成分(a))を添加し、攪拌した後、3本ロールミルにて分散させ、金属メッシュ(635メッシュ)で濾過し、液晶シール剤を調製した。
[比較例1]
硬化剤として、実施例1で合成した化合物に代えて、アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学株式会社製)0.65gを用いた以外は、実施例2と同様にして、液晶シール剤を調製した。
[比較例2]
硬化剤として、実施例1で合成した化合物に代えて、トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート(日本ファインケム株式会社製)0.96gを用いた以外は、実施例2と同様にして、液晶シール剤を調製した。
【0039】
評価試験は下記の方法で実施した。
【0040】
(接着強度測定)
得られた液晶シール剤100gにスペーサーとして5μmのグラスファイバー1gを添加して混合撹拌を行う。この液晶シール剤を50mm×50mmのガラス基板上に塗布し、その液晶シール剤上に1.5mm×1.5mmのガラス片を貼り合わせUV照射機により3000mJ/cmの紫外線を照射後、オーブンに投入して120℃1時間熱硬化させた。ガラス片のせん断接着強度をボンドテスター(SS−30WD:西進商事株式会社製)にて測定した。結果を表4に示す。
【0041】
(耐湿接着強度測定)
上記の液晶シール剤接着強度テストと同一の測定サンプルを作成する。その測定サンプルを121℃、2気圧、湿度100%の条件で、プレッシャークッカー試験機(TPC−411:タバイエスペック株式会社製)に12時間投入したサンプルを上記ボンドテスターにて測定した。その結果を表4に示す。
【0042】
(パネル表示特性試験)
調整した各液晶滴下工法用シール剤をシリンジに充填・脱泡した後、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製 ショットマスター300)にてガラス基板(配向膜:SE−6414:日産化学社製を塗布後ラビングしたもの)上にシール剤を塗布し、適量の液晶をシール枠内に滴下した。その基板を真空張り合わせ装置に設置し、真空下でもう一方の基板を重ね合わせた後、120℃で1時間硬化した。できた模擬パネルに通電し、偏光フィルム上で観察した。また、液晶とシール剤とが接触している近傍に振動もしくは圧力を複数回加えた後、顕微鏡観察した。観察結果は以下のように判定した。
○ 配向不良が確認されず、シール近傍の光り抜けが見られなかった。
× 配向不良が確認され、シール近傍の光り抜けが見られた。
その結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4の結果より、本願発明のヒドラジド化合物は、良好な硬化性を有し、耐湿性にも優れ、また液晶シール剤用の硬化剤として使用した場合に、良好なパネル表示特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の新規ヒドラジド化合物及びそれを用いた樹脂組成物は、電子部品用接着剤として、特には液晶シール剤として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるヒドラジド化合物。
【化1】

(式中nは0〜6の整数を表し、mは1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)において、mが2〜4の整数である請求項1に記載のヒドラジド化合物。
【請求項3】
前記式(1)において、nが0である請求項1又は2に記載のヒドラジド化合物。
【請求項4】
前記式(1)において、mが2である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヒドラジド化合物。
【請求項5】
下記式(2)で表される請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヒドラジド化合物。
【化2】

【請求項6】
(a)前期請求項1乃至5のいずれか一項に記載のヒドラジド化合物、及び(b)硬化性樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(b)がエポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
更に、(c)無機フィラーを含有することを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
更に、(d)シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた電子部品用接着剤。
【請求項11】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた液晶表示セル用接着剤。
【請求項12】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた液晶シール剤。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の液晶表示セル用接着剤又は液晶シール剤を用いて接着された液晶表示セル。




【公開番号】特開2013−67569(P2013−67569A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205751(P2011−205751)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】