説明

新規ビニルアルコール系樹脂及びその用途

【課題】 水溶液の粘度安定性、高速塗工性、木材との接着性能に優れ、さらには水溶性に優れたフィルムを提供できる新規なビニルアルコール系樹脂及びその用途を提供する。
【解決手段】 ビニルエステル系モノマーとビニルエチレンカーボネートとを、滴下重合好ましくはHANNA法に基づいて得られた共重合体をケン化及び脱炭酸して得られる、側鎖に1,2−グリコールを含有する新規ビニルアルコール系樹脂およびそれを用いた接着剤、成形物、被覆剤、乳化剤、懸濁剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖に1,2−グリコール成分を含有する新規ビニルアルコール系樹脂、とりわけポリビニルアルコール系樹脂に関し、更に詳しくは水溶液の粘度安定性に優れた新規ビニルアルコール系樹脂及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール系樹脂は、その製膜特性(造膜性、耐油性、強度等)、水溶性等を利用して、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルム等として広く用いられている。そして、特殊な場合を除いて通常は、水溶液として使用に供せられている。
使用目的により種々のケン化度のポリビニルアルコールが使用されるが、比較的ケン化度の高いポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合、水に溶解して水溶液とすると、水温の低い冬期等においては、時間と共に該水溶液の粘度が上昇し、流動性が悪くなり、極端な場合には水溶液がゲル化して流動性が全くなくなることもあり、大きな問題となっている。
【0003】
かかるポリビニルアルコール系樹脂の水溶液の低温粘度安定性を良くする方法として、ケン化度を低くする、疎水基を導入する、イオン性基を導入する等の方法が挙げられる。疎水基を導入する方法では、ポリビニルアルコール系樹脂を溶解する際、かなり高温で溶解する必要があったり、曇点が低くなったりする欠点がある。又、イオン性基を導入する方法では乾燥被膜の耐水性が低いという欠点がある。更に、ケン化度の低いポリビニルアルコール系樹脂では、フィルム等に供した場合に、酢酸臭が起こる等の問題があり、食品用や化粧品用の包装用途では嫌われている。又、ユニット包装用の水溶性フィルムとして冷水溶性及び機械的強度の点で優れていることより、けん化度の低い部分ケン化のポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムが使用されてきている。しかし、包装する薬剤の種類、例えばアルカリ性の薬剤(硼砂、炭酸ソーダ、各種洗剤)の場合には、貯蔵中に次第にけん化が進んで、完全ケン化のポリビニルアルコール系樹脂に変化する等して冷水不溶性もしくは難溶解性になるという問題点がある。
【0004】
このようなポリビニルアルコール系樹脂水溶液の低温粘度安定性の向上を図るものとして、特許文献1(特開平11−279210号公報)には、脂肪族ビニルエステルの重合の際に重合機内の圧力を大気圧よりも高い圧力に保ち、反応温度が大気圧下での反応液の沸点温度より2〜80℃高い温度で重合し、得られた脂肪族ポリビニルエステルをケン化してなるポリビニルアルコールが提案されており、更に特許文献2(特開平11−279986号公報)には、同ポリビニルアルコールが高速塗工性に良好であることが提案されている。又、特許文献3(特開平9−272775号公報)にはスルフォン酸変性による水溶解性向上技術が開示されており、特許文献4(特開昭63−168437号公報)には、オキシアルキレン変性による水溶解性向上技術が開示されている。更に、特許文献3には、鹸化度50〜99モル%のポリビニルアルコール系樹脂に、アルキレンオキサイドを所定量付加反応して得られた多価アルコールを配合してなる水溶性フィルムの技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1や特許文献2の開示技術では、重合温度を上げるために加圧する必要があり、製造上加圧設備を設けなければならないといった問題点があり、又、得られたポリビニルアルコールは、その主鎖中に1,2−グリコールが存在するため、2級アルコールとして水酸基が存在することとなり、架橋剤等との反応性に乏しく、又、ポリビニルアルコールの耐熱性にも乏しく、着色し易いという欠点があった。更に、導入できる1,2−グリコール量の制御も容易ではなく、又、水溶液の粘度安定性や高速塗工時の塗工性についてもまだまだ満足のいくものではなく、更なる向上が求められている。又、特許文献5(特開平11−222546号公報)に開示の技術では、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度を上げることは容易ではなく、機械的強度の高いポリビニルアルコール系樹脂フィルムが得られがたく、又硬水に対してフィルムが難溶解性になる等の問題がある。特許文献4に開示の技術のオキシアルキレン基変性では、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度を1000以上に上げることが困難であったり、又アルキレンオキサイドが酸により切断されやすく、フィルムの水溶性が経時変化し易いという問題点がある。さらに特許文献3に開示の技術では、酸性物質又はアルカリ性物質を包装した場合のけん化度が経時的に上昇するという問題の解決には至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−279210
【特許文献2】特開平11−279986
【特許文献3】特開平9−272775
【特許文献4】特開昭63−168437
【特許文献5】特開平11−222546
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、重合方法を工夫することにより、水溶液の粘度安定性、水溶性に優れ、かつ高速塗工時の塗工性や被着材との接着性能にも優れ、更に架橋剤等との反応性が高く、架橋により耐水性に優れたフィルムを得ることができる新規なビニルアルコール系樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の新規なビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系モノマー(A)と一般式(2)で示されるビニルエチレンカーボネート(B)とを共重合してなる共重合体(A−B)をケン化及び脱炭酸してなる一般式(1)で示される1,2−グリコール構造単位を含有するビニルアルコール系樹脂であって、前記共重合体(A−B)は、滴下重合による共重合によって得られるものである。
【化3】


但し、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【化4】


但し、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【0009】
ビニルエステル系モノマー(A)と一般式(2)で示される共重合体(A−B)は、HANNA法に基づき共重合されたものであることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のビニルコール系樹脂において、一般式(2)で示されるビニルエチレンカーボネート(B)の含有量は0.1〜20モル%であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、かかる新規ビニルアルコール系樹脂を、接着剤、成形物、被覆剤、乳化剤、懸濁剤、等といった各種用途に有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂は、側鎖に1,2−グリコール成分を有し、滴下重合により得られる共重合体に基づいて得られるものなので、水溶液の粘度安定性が高く、かつ高速塗工時の塗工性や被着材との接着性能にも優れ、更に架橋剤等との反応性が高く、架橋により耐水性に優れたフィルムを提供することができる。また、本発明のポリビニルアルコール系樹脂は、耐アルカリ性及び耐酸性に優れ且つ水溶性にも優れるフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に述べる。
本発明の新規ビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系モノマー(A)と一般式(2)で示されるビニルエチレンカーボネート(B)とを共重合してなる共重合体(A−B)をケン化及び脱炭酸してなる一般式(1)で示される1,2−グリコール構造単位を含有するビニルアルコール系樹脂であって、前記共重合体(A−B)は、滴下重合による共重合によって得られるものである。
【0014】
【化5】


但し、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【化6】


但し、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【0015】
上記一般式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。該アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。かかるアルキル基は必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0016】
本発明に係る上記一般式(1)で示される1,2−グリコール構造単位を含有するビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系モノマー(A)と上記一般式(2)で示されるビニルエチレンカーボネート(B)との共重合体(A−B)をケン化及び脱炭酸することにより得られるものである。
【0017】
ビニルエステル系モノマー(A)としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0018】
ビニルエチレンカーボネート(B)としては、上記一般式(2)で示される構造のものであれば特に限定されず、上記一般式(2)において、R、R、Rは上記一般式(1)と同様のものが挙げられる。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R、R、Rが水素であるビニルエチレンカーボネートが好適である。
【0019】
かかるビニルエステル系モノマー(A)とビニルエチレンカーボネート(B)との共重合は、滴下重合することによって行なわれる。滴下重合を行なうことにより、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等により共重合を行なう場合と比べて、ビニルエチレンカーボネート(B)がポリビニルエステル系ポリマーの分子鎖中に均一に分布させることが可能となり、また架橋剤との反応性が向上し、ポリビニルアルコールの融点が降下する等の有利な物性が得られるからである。好ましくは、HANNA法(反応性比:r(VEC)=5.4、r(VAc)=0.85)に基づき共重合される。
尚、一方の重合モノマー成分を滴下する方法であれば、共重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又はエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0020】
かかる重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体(A−B)の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜3(重量比)程度の範囲から選択される。
【0021】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、重合触媒により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマー(A)に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、特には0.02〜0.15モル%が好ましい。
又、共重合反応の反応温度は40℃〜沸点(使用する溶媒による)程度とすることが好ましい。
【0022】
本発明のビニルアルコール系樹脂において、ビニルエチレンカーボネート(B)の含有量は特に限定されないが、0.1〜20モル%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜15モル%、特に好ましくは1〜10モル%、殊に好ましくは2〜7モル%である。かかるビニルエチレンカーボネート(B)の含有量が0.1モル%未満では架橋剤等との反応性が低く、水溶液の粘度安定性の点で改善効果は認められず、更に高速塗工時の塗工性も低くなり、20モル%を越えるとポリビニルアルコール系樹脂被膜の耐水性が低くなり好ましくない。
【0023】
かくして得られたビニル系モノマー(A)とビニルエチレンカーボネート(B)との共重合体(A−B)は、次にケン化及び脱炭酸される。
ケン化に当たっては、該共重合体(A−B)をアルコール又は含水アルコールに溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体(A−B)の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0024】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー(A)に対して0.1〜30モル%、好ましくは2〜15モル%が適当である。
又、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10〜150℃が好ましく、さらには10〜60℃、特には20〜50℃が好ましい。
【0025】
脱炭酸については、本発明では通常、ケン化後に特別な処理を施すことなく、上記ケン化条件下で該ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することで1,2−グリコール成分に変換される。
かくして本発明の側鎖に1,2−グリコール成分を含有した新規なビニルアルコール系樹脂、とりわけポリビニルアルコール系樹脂が得られる。
又、一定圧力下(常圧〜100Kg/cm)で且つ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、かかる場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
【0026】
本発明のビニルアルコール系樹脂の重合度はその使用目的により適宜選択され特に限定されないが、300〜4000が好ましく、より好ましくは300〜2600、特に好ましくは500〜2200である。重合度が300未満では架橋剤と反応して得られる塗膜やフィルムの強度が低くなり、4000を越える場合、1,2グリコールの変性量を本発明の目的とする変性量の範囲で導入することが困難となり好ましくない。
【0027】
本発明のビニルアルコール系樹脂のケン化度についても特に限定されないが、63〜100モル%が好ましく、より好ましくは75〜100モル%、特に好ましくは85〜100モル%であり、更に好ましくは、98.1〜100モル%。特に好ましくは、99.5〜100モル%。ケン化度が63モル%未満では水溶性が低くなり好ましくない。
又、ビニル系モノマー(A)及びビニルエチレンカーボネート(B)の他に、共重合成分として、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン(C)、グリセリンモノアリルエーテル(D)が含まれていてもよく、あるいはエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のαーオレフィンを共重合させ、αーオレフィン−ビニルアルコール系樹脂とすることもビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度安定性の点で好ましく、かかるα-オレフィンの含有量は0.1〜10モル%が好ましく、特に2〜8モル%が好ましい。
【0028】
更に、その他の不飽和単量体を共重合性成分として共重合することもできる。該不飽和単量体として、例えばビニレンカーボネート類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0029】
更に、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等も挙げられる。又、重合温度を100℃以上にすることにより、PVA主鎖中に1,2−グリコールを導入したものを使用することが可能である。
【0030】
側鎖に1,2−グリコール成分を含有する新規なビニルアルコール系樹脂は水溶液の粘度安定性に非常に優れた効果を示し、更に1級アルコールとして水酸基が存在するため、イソシアネート系化合物、ポリアミドエピクロルヒドリン、グリオキザール、メラミン系樹脂、メチロールメラミン、メチロール化ビスフェノールS等の架橋剤との反応性も高いものである。又、高速塗工時の高剪断下においても増粘することなく良好な塗工性を有するものである。
【0031】
中でも該イソシアネート系化合物としては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであり、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、水素化TDI、トリメチロールプロパン−TDIアダクト(例えばバイエル社製、「Desmodur L」)、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビスジフェニルイソシアネート(MDI)、水素化MDI、重合MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。その他、ポリオールに過剰のポリイソシアネートで予めポリマー化した末端基がイソシアネート基を持つプレポリマーも挙げられる。かかるイソシアネート系化合物の配合割合としては、イソシアネート基と水酸基のモル比(NCO/OH)で0.1〜2であることが好ましい。
【0032】
更に、本発明のビニルアルコール系樹脂はその特性を利用して各種用途に使用することができ、具体例として以下のものが挙げられる。
(1)接着剤関係
木材、紙、アルミ箔、プラスチック等の接着剤、粘着剤、再湿剤、不織布 用バインダー、石膏ボードや繊維板等の各種建材用バインダー、各種粉体造粒用バインダー、セメントやモルタル用添加剤、ホットメルト型接着力、感圧接着剤、アニオン性塗料の固着剤等を挙げることができる。
【0033】
(2)成形物関係
繊維、フィルム(特に農薬、洗剤、洗濯用衣類、土木用添加剤、殺菌剤、染料、顔料等の物品包装用の水溶性フィルム)、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、暫定皮膜、ケミカルレース用、水溶性繊維等を挙げることができ、特にかかる水溶性フィルムとして用いる場合には有用で、かかる用途についてさらに詳細に説明する。
【0034】
かかるフィルム用途に用いるときのビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂)のケン化度は、65〜98モル%が好ましく、更に耐酸、耐アルカリ性も付与した易水溶性の点では、ビニルアルコール系樹脂のケン化度は98.1〜100モル%が好ましく、更には99モル%〜100モル%が好ましい。かかるケン化度が98.1モル%未満では酸性物質やアルカリ性物質からなる薬剤等を内包して保管する際に、フィルムの水溶解性が経時により低下して好ましくない。また、薬剤包装用途における1,2−グリコールの変性量は、0.5〜15モル%が好ましく、さらには1〜10モル%で、特には3〜7モル%、殊には4〜7モル%が好ましく、かかる変性量が0.5モル%未満ではフィルムの冷水溶解性が低下し、逆に15モル%を越えると結晶性が低下しすぎる為か、フィルム強度が低下して好ましくない。また、フィルムに用いるときのビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、400〜4000が好ましく、さらには500〜2600、特には550〜2000、殊に700〜1800が好ましく、かかる平均重合度が400未満ではフィルムの機械的強度、タフネス、耐衝撃性が低下し、逆に4000を越えるとフィルムを調製する時の溶液粘度が上昇し成形が困難となったり、溶液中の泡を脱泡出来なかったりして好ましくない。
【0035】
また、本発明のビニルアルコール系樹脂を用いてフィルムを製造する方法は特に制限はなく、必要とされるフィルム厚みや使用目的により適宜選択される。通常、ビニルアルコール系樹脂からのキャスト製膜法、乾式製膜法[空気中や窒素等不活性気体中への押し出し]、湿式製膜法[ビニルアルコール系樹脂の貧溶媒中への押し出し]、ゲル製膜法等によって行われる。ビニルアルコール系樹脂溶液を調製する際に使用される溶剤としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、グリセリン、水、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール等を挙げることが出来る。また、塩化リチウム、塩化カルシウム等の無機塩の水溶液も単独又は先の有機溶剤と混合して使用出来る。これらの中でも、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシドと水の混合液、グリセリン、エチレングリコールが好ましい。製膜時に使用するビニルアルコール系樹脂溶液の濃度は、製膜方法によって異なるが、通常10〜60重量%であり、製膜時の温度は、通常室温〜250℃の範囲である。製膜後は、更に必要に応じて、一軸又は二軸延伸や圧延処理を施すことができる。かかるフィルムの延伸時の温度は、通常室温〜270℃の範囲である。また、製膜後に100〜150℃程度の熱処理を加えることによってフィルムの溶解速度の制御がある程度の範囲で可能である。また、フィルムのブロッキング防止性や水溶性を改善する為に、フィルム表面にマット加工、エンボス加工やブロッキング防止剤の散布が好ましい。フィルムの形状及び透明性は特に制限はない。フィルム厚みは、アルカリ物質や酸性物質の種類、アルカリ物質や酸性物質の量、包装形態、溶解速度により個々に決定されるが、通常20〜100μm程度が好ましい。
【0036】
主な包装対象は、上記のアルカリ性物質や酸性物質以外に、塩素含有物質、銅やコバルト等の多価金属塩を有する物質、多価カルボン酸含有物質、多価アミン含有物質、硼酸含有物質、農薬等が挙げられる。
なお、上記のアルカリ性物質としては、水に溶解又は分散した際の溶液、分散液、スラリー液のpHが7を越えるものであれば特に制限はないが、好ましくはpHが8以上のもの、より好ましくは、pHが8.5以上のもの、更に好ましくはpHが9以上のものである。具体例としては、家庭用衣料用洗剤、工業用衣料用洗剤、家庭食器用洗剤、工業用食器洗剤、建物や自動車洗剤、工業用水洗浄剤、無機物粉体の分散剤、各種界面活性剤等が挙げられる。個々の薬剤としては、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等の無機酸のアルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩、また酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩等やアミン化合物、アルカロイド等が挙げられ、その形状としては、粉末状、スラリー状、ゲル状、或いはこれらの数種の複合形態の何れでもよい。
【0037】
また、農薬とは農薬取締法で定められた薬剤のことであり、例えば、農作物や農林産物を害する菌、線虫、ダニ、ネズミ等の動物駆除に使用される殺菌剤、殺虫剤等が挙げられる。具体的には、ボルドー剤等の殺菌散布剤、クロルピクリン等の土壌、種子消毒剤、有機リンやDDT等の殺虫剤、シュラーダン等の浸透殺虫剤、ナフチル酢酸等の成長調整剤、誘引剤、忌避剤等が挙げられる。
【0038】
なお、上記のフィルムも含めて成形物を製造するに当たっては、可塑剤を添加することが好ましく、該可塑剤としては3価〜6価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、キシロール、アラビノース、リブロース、ソルビトール等)、各種アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの混合付加体等)が挙げられる。また、没食子酸、没食子酸の塩、そのエステルや還元性を有するヒドロキシルカルボン酸(クエン酸、酒石酸、L-アスコロビン酸等)が添加されていてもよい。
【0039】
(3)被覆剤関係
紙のクリアーコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙のサイジング
剤、繊維製品用サイズ剤、経糸糊剤、繊維加工剤、皮革仕上げ剤、塗料、
防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤、導電剤、暫
定塗料、等。
【0040】
(4)乳化剤関係
エチレン性不飽和化合物、ブタジエン性化合物、各種アクリル系モノマー
の乳化重合用乳化剤、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂等の疎水性樹脂
、エポキシ樹脂、パラフィン、ビチューメン等の後乳化剤、等。
【0041】
(5)懸濁剤関係
塗料、墨汁、水性カラー、接着剤等の顔料分散安定剤、塩化ビニル、塩化
ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニ
ル化合物の懸濁重合用分散安定剤、等。
【0042】
(6)疎水性樹脂用ブレンド剤関係
疎水性樹脂の帯電防止剤、及び親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他
成形物用添加剤、等。
【0043】
(7)増粘剤関係
各種水溶液やエマルジョンの増粘剤、等。
(8)凝集剤関係
水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、パルプ、スラリーの濾水性、等。
(9)土壌改良剤関係
(10)感光剤、感電子関係、感光性レジスト樹脂、等。
(11)その他イオン交換樹脂、イオン交換膜関係、キレート交換樹脂、等。
上記の中でも、(1)〜(5)の用途に特にその有用性が期待される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0045】
〔比較例1〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル(A)1300g、メタノール260g、ビニルエチレンカーボネート(B)(R、R、Rはいずれも水素である)51.69g(3モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.04モル%(対仕込み酢酸ビニルモノマー)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ重合を行った。重合を開始して2時間後に、更にアゾビスイソブチロニトリル0.04モル%(対初期の仕込み酢酸ビニルモノマー)を添加し更に重合を続けた。その後、酢酸ビニル(A)の重合率が83.9%となった時点で、重合禁止剤仕込み重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体(A−B)のメタノール溶液を得た。
【0046】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル(A)1モルに対して8ミリモルとなる量を加えてケン化及び脱炭酸を行った。ケン化及び脱炭酸が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。生成したポリビニルアルコールを濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物を得た。
【0047】
得られたポリビニルアルコールのケン化度は、残存酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.2モル%であり、重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、1260であった。又、該ポリビニルアルコールの4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、15.4mPa・s(20℃)であり、変性量はNMR測定より算出したところ2.7モル%であった。
【0048】
得られたポリビニルアルコールのIRスペクトル及びH−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)スペクトルの帰属は以下の通りであった。IRチャートを図1に、NMRチャートを図2に示す。
尚、IR測定には日立製作所製『270−30』、NMR測定には日本ブルカー社製『AVANCE DPX400』を用いた。
【0049】
[IR](図1参照)
3360cm-1:OH(strong)
2950、2910cm-1:メチレン(strong)
1440cm-1:メチレン(strong)
1240cm-1:メチン(weak)
1144cm-1:結晶バンド(HとOH間,strong)
1100cm-1:C−O(medium)
850cm-1:メチレン(medium)
660cm-1:OH(mediumu broad)
【0050】
H−NMR](図2参照)
1.376〜1.538ppm:メチレンプロトン
3.528ppm:1級メチロールのメチレンプロトン
3.849ppm:メチンプロトン
4.139〜4.668ppm:水酸基
【0051】
尚、ケン化及び脱炭酸前の共重合体(A−B)のIRスペクトルの帰属は以下の通りであった。IRチャートを図3に示す。
【0052】
[IR](図3参照)
2980、2940cm-1:メチレン(medium)
1810cm-1:C=O(strong、カーボネートのカルボニル基)
1740cm-1:C=O(strong、残酢酸基)
1438cm-1:メチレン、
1379cm-1:CHCOO
1240cm-1:メチレン
【0053】
得られたポリビニルアルコールについて以下の評価を行った。
(水溶液の粘度安定性)
ポリビニルアルコールの8%水溶液をガラス容器に入れ、水溶液の温度を20℃とした。次に、ガラス容器を5℃の恒温水槽内に放置して、1時間及び24時間放置後の粘度を測定し、増粘倍率を求め以下の通り評価した。
○・・・増粘倍率が2.5倍未満である。
×・・・増粘倍率が2.5倍以上である。
尚、増粘倍率は下式より算出される。
増粘倍率=(5℃で24時間後の粘度)/(5℃で1時間後の粘度)
【0054】
(高速塗工性)
紙コート剤として、30℃でポリビニルアルコールの10%水溶液の高剪断速度下での粘度上昇を測定し、下記の通り評価した。尚、測定装置としては島津製作所製のフローテスターCFT−500Cを用いた。
○・・・剪断速度が6×10/s以上で粘度上昇の極大値がくる場合
×・・・剪断速度が6×10/s未満で粘度上昇の極大値がくる場合
【0055】
(木材接着性能)
得られたポリビニルアルコールを80℃の蒸留水中で撹拌し完全に溶解した後約15%濃度の水溶液を調製し、テトラフルオロエチレン樹脂製の型に、かかるポリビニルアルコール水溶液と架橋剤としてのイソシアネート化合物(MDI、イソシアネート基量:6.71×10-3mol/g)を入れ接着剤を作製した。
尚、イソシアネート化合物とポリビニルアルコールの配合割合は、イソシアネート基とポリビニルアルコール中の水酸基の割合がモル比(NCO/OH)で0.2となるように配合した。
得られた接着剤を、被着材(マカバ:平均比重0.73、含水率約12%)に塗布量が220g/mとなるように塗布し、塗布後は約1MPaで20℃×1日圧締し、その後120℃×2時間熱処理行い、シングルラップ引っ張り剪断型の試験片として、クロスヘッドスピード10mm/分で、引っ張り試験を行い、以下の通り評価した。
○・・・接着強さが30Kgf/cm以上
×・・・接着強さが30Kgf/cm未満
【0056】
(フィルムの耐水性)
得られたポリビニルアルコールを80℃の蒸留水中で撹拌し完全に溶解した後9%濃度の水溶液を調製し、かかるポリビニルアルコール水溶液と、架橋剤としてメチロール化メラミンをポリビニルアルコールに対して10%混合して、キャストフィルム(100μm×1.5cm×4cm)を作製した。尚、キャスト後の乾燥条件は25℃×4日である。
得られたフィルムを200ml、80℃の熱水に無撹拌で1時間浸漬した時の、重量膨潤倍率と溶出率を下式より算出し、耐水性を評価した。評価基準は以下の通りである。
【0057】
重量膨潤倍率=膨潤したフィルムの重量/膨潤したフィルムの絶乾重量
溶出率=〔(浸漬前のフィルムの絶乾重量−膨潤したフィルムの絶乾重量)/
浸漬前のフィルムの絶乾重量〕×100
ここで、膨潤したフィルムの絶乾重量とはフィルムを浸漬した後105℃で1時間乾燥したときの重量であり、浸漬前のフィルムの絶乾重量とは上記で得られたフィルムを105℃で5分間乾燥した時の重量である。
【0058】
[膨潤倍率]
○・・・3倍未満
△・・・3〜5倍未満
×・・・5倍以上
[溶出率(%)]
○・・・5%未満
△・・・5〜10%未満
×・・・10%以上の場合
【0059】
(フィルムの水溶性)
得られたポリビニルアルコールの10%水溶液を作成し、60℃の熱ロールへ流延し、厚さ30μmのフィルムを調製した。フィルムサンプルを40mm×40mmの正方形に切り、これをスライドマウントにはさみ、20℃で撹拌している水中に浸漬して、フィルムが完全に溶解するまでの時間(秒数)を測定し、以下の通り評価した。
○・・・40秒以内
△・・・40〜70秒以内
×・・・70秒を越える
【0060】
〔実施例1〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル(A)1300g、メタノール190g、ビニルエチレンカーボネート(B)(R、R、Rはいずれも水素である。)40.1g(2.28モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.06モル%(対仕込み酢酸ビニルモノマー)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、67℃で重合を開始したと同時にビニルエチレンカーボネート(B)の10.17%メタノール溶液の仕込みをHANNA法に従って開始し、重合率85.3%までに116ml仕込んだ。
【0061】
尚、ビニルエチレンカーボネート(B)は、酢酸ビニル(A)と均一に重合するように、HANNAの式[ビニルエチレンカーボネート(B)の反応性比(r)=5.4、酢酸ビニル(A)の反応性比(r)=0.85]から求めた量を重合速度に合わせて仕込んだ。
酢酸ビニル(A)の重合率が85.3%となった時点で、重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体(A−B)のメタノール溶液を得た。
【0062】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体(A−B)中の酢酸ビニル(A)1モルに対して9ミリモルとなる量を加えてケン化及び脱炭酸を行った。ケン化及び脱炭酸が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。生成したポリビニルアルコールを濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物を得た。
【0063】
得られたポリビニルアルコールのケン化度は、残存酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.6モル%であり、重合度は、JIS K 6726に準して分析を行ったところ、1360であった。又、該ポリビニルアルコールの4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、18.5mPa・s(20℃)であり、変性量はNMR測定より算出したところ3.1モル%であった。
【0064】
得られたポリビニルアルコールのIRスペクトル、H−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)スペクトル及び13C−NMR(内部標準物質:3-(Trimethylsilyl)propionic-2,2,3,3-dacid,sodiumsalt、溶媒:DO/HO=1/1)スペクトルの帰属は以下の通りであった。13C−NMRチャートを図4及び図5(拡大図)に示す。
【0065】
[IR]
比較例1の図1と同様のスペクトルが得られた。
H−NMR]
比較例1の図2と同様のスペクトルが得られた。
【0066】
13C−NMR](図4及び図5参照)
30.2〜31.0ppm:メチレン炭素
37.0〜37.2ppm:メチレン炭素
39.9〜41.1ppm:メチレン炭素
46.2〜47.4ppm:メチレン炭素
66.3〜66.7ppm:メチロールの1級炭素
67.8〜68.1ppm:メチン炭素
69.0〜69.6ppm:メチン炭素
70.5〜77.2ppm:メチン炭素
77.1〜77.4ppm:メチン炭素
得られたポリビニルアルコールについて比較例1と同様の評価を行った。
【0067】
〔比較例2〕
実施例1において、ビニルエチレンカーボネート(B)を仕込まないで、酢酸ビニル(A)のみを重合(S/M=0.5、S:メタノール、M:酢酸ビニル)し、ケン化を行った以外は同様に行い、ポリビニルアルコールを得た。
得られたポリビニルアルコールのケン化度は、残存酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.5モル%であり、重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、1200であった。又、該ポリビニルアルコールの4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、15mPa・s(20℃)であった。
得られたポリビニルアルコールについて比較例1と同様の評価を行った。
実施例1、及び比較例1、2の評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
〔実施例2〕
実施例1に準じて重合及びケン化を行って、重合度1250、側鎖の1,2−グリコール変性量が、6.6モル%、ケン化度98.5モルのポリビニルアルコールを得た。該ポリビニルアルコールの4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、15.2mPa・s(20℃)であった。
得られたポリビニルアルコールの15%水溶液を100部調製し、グリセリン15部を添加し、70℃の熱ロールへ流延し、厚さ50μmのフィルムを作製して、以下の評価を行った。
【0070】
(冷水溶解性)
1リットルのビーカーに入った10℃の水1000ccに、得られたフィルム(3cm×3cm)を浸漬し、スターラーで攪拌(250rpm)下に完溶するまでの時間(秒)を測定した。
【0071】
(耐アルカリ性)
得られたフィルムを用いて、熱シールして10cm×15cmの袋を作製して、中に炭酸ナトリウム30gを実包して、40℃×85%RHの条件にて半年間放置し、その後該袋から、3cm×3cmのフィルム片を採集し、上記に準じて15℃の水1000ccに浸漬し、攪拌下に完溶するまでの時間(秒)を測定した。
【0072】
(耐薬剤性)
得られたフィルムを用いて、熱シールして10cm×15cmの袋を作製して、中にジクロロイソシアヌル酸ナトリウム30gを実包して、40℃×85%RHの条件にて半年間放置し、その後該袋から、3cm×3cmのフィルム片を採集し、上記に準じて15℃の水1000ccに浸漬し、攪拌下に完溶するまでの時間(秒)を測定した。
【0073】
〔実施例3〕
実施例1に準じて重合及びケン化を行い、重合度1300、側鎖の1,2−グリコール変性量が、4.5モル%、ケン化度99.5モル%のポリビニルアルコールを得た。該ポリビニルアルコールの4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、16.8mPa・s(20℃)であった。
得られたポリビニルアルコールを用いて実施例2と同様にしてフィルムを作製し、冷水溶解性、耐アルカリ性、耐薬剤性を評価した。結果を表2に示す。
【0074】
〔実施例4〕
上記の実施例1で得られたポリビニルアルコールを用いて実施例2と同様にしてフィルムを作製し、冷水溶解性、耐アルカリ性、耐薬剤性を評価した。結果を表2に示す。
【0075】
〔比較例3〕
上記の比較例1で得られたポリビニルアルコールを用いて実施例2と同様にしてフィルムを作製し、冷水溶解性、耐アルカリ性、耐薬剤性を評価した。結果を表2に示す。
【0076】
〔比較例4〕
比較例2に準じて、重合度1400、けん化度88モル%の未変性のポリビニルアルコールを得た。該ポリビニルアルコールの4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、15.5mPa・s(20℃)であった。得られたポリビニルアルコールを用いて実施例2と同様にしてフィルムを作製し、冷水溶解性、耐アルカリ性、耐薬剤性を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表1及び表2の結果からわかるように、側鎖に1,2−グリコール成分を有する本実施例1のポリビニルアルコールは、主鎖にしか1,2−グリコール成分を有していない従来のポリビニルアルコール(比較例2)と比べて、水溶液の粘液安定性、高速塗工性、木材接着性、フィルムの耐水性、フイルムの水溶性に優れていた。また、冷水溶解性に優れ、アルカリ物質(炭酸ナトリウム)、薬品(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム)包装後の水溶性についても、側鎖に1,2−グリコール成分を有するポリビニルアルコールを用いて作製したフィルム(実施例2〜4)は、従来の主鎖にしか1,2−グリコール成分を有していないポリビニルアルコールを用いて作製されるフィルム(比較例4)と比べて、優れていた。
【0079】
また、側鎖に1,2−グリコール成分を有するポリビニルアルコールにおいて、HANNA法により共重合体に基づいて製造したポリビニルアルコール系樹脂と、一括仕込みにより共重合させた共重合体に基づいて製造したポリビニルアルコール系樹脂と比べると、水溶液の粘液安定性、高速塗工性、木材接着性、架橋フィルムの耐水性という点では差違はなかったものの(実施例1と比較例1)、フィルムの冷水溶解性、耐アルカリ性、耐薬剤性という点においては、HANNA法による共重合体に基づいて製造したポリビニルアルコール系樹脂製フィルム(実施例2,3,4)は、一括仕込みにより共重合させた共重合体に基づいて製造したポリビニルアルコール系樹脂製フィルム(比較例3)と比べて、いずれも完溶に要する時間が短くて済み、水溶性について優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の滴下重合して得られた共重合体で、側鎖に1,2−グリコール成分を有するポリビニルアルコール系樹脂は、水溶液の粘液安定性、高速塗工性、木材接着性、フィルムの耐水性、フイルムの水溶性に優れ、着剤関係、成形物関係、被覆剤関係、乳化剤関係、懸濁剤等に好適に用いることができる。
特に、本発明のビニルアルコール系樹脂からなるフィルムは、耐アルカリ性、耐酸性等に優れ、しかも長期間アルカリ性物質や酸性物質を包装していても冷水溶解性が低下することがないので、各種アルカリ性物質や各種農薬用の包装用フィルムとしても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】比較例1で得られたポリビニルアルコールのIRチャートである。
【図2】比較例1で得られたポリビニルアルコールのH−NMRチャートである。
【図3】比較例1で得られた共重合体(A−B)のIRチャートである。
【図4】実施例1で得られたポリビニルアルコールの13C−NMRチャートである。
【図5】実施例1で得られたポリビニルアルコールの13C−NMRチャートの部分的拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル系モノマー(A)と一般式(2)で示されるビニルエチレンカーボネート(B)とを共重合してなる共重合体(A−B)をケン化及び脱炭酸してなる一般式(1)で示される1,2−グリコール構造単位を含有するビニルアルコール系樹脂であって、
前記共重合体(A−B)は、滴下重合による共重合によって得られるものである新規ビニルアルコール系樹脂。
【化1】


但し、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【化2】


但し、R、R、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【請求項2】
前記滴下重合による共重合は、HANNA法に基づいて行なわれる請求項1記載の新規ビルニアルコール系樹脂。
【請求項3】
一般式(2)で示されるビニルエチレンカーボネート(B)の含有量が0.1〜20モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載の新規ビニルアルコール系樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の新規ビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする接着剤。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の新規ビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする成形物。
【請求項6】
農薬、洗剤、洗濯用衣類、土木用添加剤、殺菌剤、染料及び顔料から選ばれる物品の包装用水溶性フィルムであることを特徴とする請求項5記載の成形物。
【請求項7】
ケン化度が98.1モル%以上の新規ビニルアルコール系樹脂を用い、かつアルカリ性物質の包装用水溶性フィルムであることを特徴とする請求項6記載の成形物。
【請求項8】
ケン化度が98.1モル%以上の新規ビニルアルコール系樹脂を用い、かつ農薬の包装用水溶性フィルムであることを特徴とする請求項6記載の成形物。
【請求項9】
請求項1〜3いずれか記載の新規ビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする被覆剤。
【請求項10】
請求項1〜3いずれか記載の新規ビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする乳化剤。
【請求項11】
請求項1〜3いずれか記載の新規ビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする懸濁剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−126655(P2007−126655A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293500(P2006−293500)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【分割の表示】特願2001−375398(P2001−375398)の分割
【原出願日】平成13年12月10日(2001.12.10)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】