説明

新規ビニルエーテル共重合体およびこれを用いた粘着剤組成物

【課題】接着力、凝集力に優れるビニルエーテル共重合体およびこれを用いた粘着剤組成物を提供することであり、特に、皮膚刺激性が低く安全性の高いビニルエーテル共重合体およびこれを用いた医療用粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】下記式(I)および(II)で示される構成単位からなることを特徴とするビニルエーテル共重合体は、接着力、凝集力に優れており、かつ皮膚刺激性が低いため粘着剤用途に好適である。(I)−CHCH[−O−CHCH{CHCH(CHCH)(CHCHCHCH)}]−(II)−CHCH[(−O−CHCHOH)]−

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビニルエーテル共重合体およびこれを用いた粘着剤組成物に関するものであり、特に、医療用途に好適なビニルエーテル共重合体およびこれを用いた粘着剤組成物に関するものである。
【0002】
医療用粘着剤は、包帯やガーゼ等を皮膚表面に固定するためのサージカルテープに利用されている。近年、その用途が、薬剤を経皮投与するためのパップ剤、パッチ剤等へと広がってきている。このような医療用粘着剤には以下のような特性が要求される。
(1)パップ剤、パッチ剤等は、薬剤を経皮吸収させるため比較的長時間、皮膚面から剥離することなく貼付状態が保持される必要がある。そのため医療用粘着剤は、皮膚粘着性に優れていることが求められる。
(2)一方、上記サージカルテープ、パップ剤等は使用後皮膚から剥離するため、接着力が強すぎると、剥離時に物理的刺激による痛みの発生、体毛の脱落、角質層の剥離等が生じるため好ましくない。そのため医療用粘着剤は、使用後は容易に剥離可能で、かつ皮膚表面に粘着剤が残らないことも求められる。
(3)更に、上記サージカルテープ、パップ剤等は直接皮膚に貼付されるため、医療用粘着剤は、皮膚刺激性が低く安全性が高いことが求められる。
【0003】
従来、上記特性を満たす医療用粘着剤としてアクリル系粘着剤が利用されていた。アクリル系粘着剤は、耐久性、耐水性に優れるとともに、モノマーの組合せにより接着力、凝集力等をコントロールすることが可能である。しかし、アクリル系粘着剤は、皮膚刺激性が比較的高く、医療用粘着剤に用いて皮膚に貼付した場合、かぶれ等を生じることがあり十分な安全性が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−220120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、接着力、凝集力に優れたビニルエーテル共重合体およびこれを用いた粘着剤組成物を提供することであり、特に、皮膚刺激性が低く安全性の高いビニルエーテル共重合体およびこれを用いた医療用粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、下記式(I)および(II)で示される構成単位からなることを特徴とするビニルエーテル共重合体が、接着力、凝集力に優れ、かつ皮膚刺激性が低いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【化1】

【発明の効果】
【0008】
本発明のビニルエーテル共重合体は、接着力、凝集力に優れており粘着剤用途に好適である。更に、本発明におけるビニルエーテル共重合体は、皮膚刺激性が低く安全性が高いため、特に、医療用粘着剤に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のビニルエーテル共重合体は、下記式(I)および(II)で示される構成単位からなることを特徴とするものであり、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであっても良いが、製造が容易であることからランダム共重合体が好ましい。
【0010】
【化2】

【0011】
本発明のビニルエーテル共重合体は、用途に応じて、上記式(I)および(II)で示される構成単位のモル組成比を適宜変更することが可能である。本発明のビニルエーテル共重合体において、前記式(II)で示される構成単位のモル組成比を増減させることにより、親水性を制御することが可能である。特に、本発明におけるビニルエーテル共重合体を医療用粘着剤組成物に用いる場合には、親水性、加工性の点から、前記式(I)および(II)で示される構成単位のモル組成比を(I)/(II)=90/10〜99.9/0.1とすることが好ましく、(I)/(II)=95/5〜99/1とすることがより好ましい。
【0012】
本発明のビニルエーテル共重合体は、用途に応じて重量平均分子量(Mw)を適宜変更することが可能であるが、粘着剤組成物に用いる場合、重量平均分子量が50,000〜2,000,000であることが好ましい。特に、医療用粘着剤組成物に用いる場合、重量平均分子量が50,000〜1,000,000であることが好ましく、100,000〜900,000であることがより好ましい。
【0013】
本発明のビニルエーテル共重合体を粘着剤組成物に用いる場合、所望により、金属塩、金属キレート化合物、イソシアネート系化合物等の架橋剤を併用することが可能である。例えば、前記イソシアネート系化合物としては、ジイソシアネート、トリイソシアネート、テトライソシアネート等を用いることができるが、架橋して薬剤移行防止性を向上させる点と、柔軟性を確保する点から、トリイソシアネートが好ましい。上記トリイソシアネートとしては、例えば、トリフェニルメタン−4’,4’’,4’’−トリイソシアネート、トリ(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、トリメチルプロパノール−トリトルエンジイソシアネート付加物、トリメチルプロパノール−トリヘキサメチレンジイソシアネート付加物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
上記架橋剤の使用量は、本発明におけるビニルエーテル共重合体に対して0〜10wt%用いることが好ましく、1〜8wt%用いることがより好ましい。
【0015】
本発明のビニルエーテル共重合体を医療用粘着剤組成物に用いる場合、皮膚に対する粘着性の点から、前記医療用粘着剤組成物はガラスに対する接着力が200g/25mm幅以上であることが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0017】
本願において、「重量平均分子量(以下Mwと略す)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出するものである。
【0018】
(合成例1)
〔下記式(I)および(II)で示される構成単位のモル組成比が99/1のビニルエーテルランダム共重合体の合成〕
十分乾燥し窒素置換した重合管に、2−エチルヘキシルビニルエーテル46.4g(297mmol)、アセトキシエチルビニルエーテル0.390g(3.00mmol)を仕込み、その後、ヘキサン300mLを加え−10℃に冷却した。20分後、三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体64mg(0.451mmol)を添加して重合を開始した。300分後、メタノール1.0mLを添加し重合停止反応を行った。反応終了後、反応液をヘキサンで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒を減圧除去して反応生成物39.2g得た。得られた反応生成物を、トルエン/エタノール=50/50混合溶液に加えて5wt%溶液とし、これに前記反応生成物のアセチル基に対して3倍モル量の炭酸カリウムを添加して、50℃で20時間加水分解した。反応終了後、溶媒を減圧除去した。次いで、生成物をトルエンに溶解し脱イオン水で3回洗浄した後、溶媒を減圧除去した。その結果、下記式(I)および(II)で示される構成単位のモル組成比が(I)/(II)=99/1である、ビニルエーテルランダム共重合体を29.5g得た。
【0019】
【化3】

【0020】
合成例1で得られたビニルエーテルランダム共重合体は、GPC測定により、Mw=270,000であることが確認された。また、前記ビニルエーテルランダム共重合体のHNMRを測定したところ、ビニルエーテル基に由来するビニル基のピークと、アセチル基に由来するピークは消失していた。
【0021】
(実施例1)
〔合成例1で得られたビニルエーテルランダム共重合体を用いた粘着剤組成物〕
合成例1で得られたビニルエーテルランダム共重合体30重量部に、トルエン70重量部を加え、さらに架橋剤としてポリイソシアネート系化合物(日本ポリウレタン社製コロネートL、有効成分75wt%)を0.25重量部添加して粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を、予め剥離処理を施したPETフィルム1上に、乾燥後の膜厚が60μmになるように塗布した。これを100℃で3分間、更に150℃で3分間加熱した後、粘着剤組成物の表面に別のPETフィルム2を設けて25℃、湿度50%の条件下で3日間保持させ、粘着シートを作製した。
【0022】
〔接着力試験〕
得られた上記粘着シートを、25mm×250mmのサイズに裁断してテープ状試料1とした。テープ状試料1からPETフィルム1の一部を剥離し、一端から25mm×120mmの範囲の粘着剤組成物を露出させた。このテープ状試料1を、粘着剤組成物が露出した面がガラスと接触するようにガラス板(厚さ0.2cm)上に設置し、上から2kgのゴム張りローラーを用いて300mm/分の速度で1往復して圧着した。圧着後、すぐにテープ状試料1の他端を180度折り返して300mm/分の速度で剥離し、接着力を測定した。その結果、接着力は23℃で210g/25mm幅であった。
【0023】
〔保持力試験〕
得られた前記粘着シートを25mm×75mmのサイズに裁断し、テープ状試料2とした。テープ状試料2からPETフィルム1の一部を剥離し、一端から25mm×25mmの範囲の粘着剤組成物を露出させた。予めサンドペーパー(#280)で研磨したSUS板を準備し、このSUS板上に、粘着剤組成物が露出した面がSUS板と接触するようにテープ状試料2を設置した。次いで、テープ状試料2の上から、2kgのゴム張りローラーで300mm/分の速さで10往復して圧着した。テープ状試料2の他端に1kgの重りを付け、粘着剤組成物とSUS板との接触面に対し平行に荷重が掛かるようにつり下げ、80℃で17時間保持した。その結果、前記テープ状試料2はSUS板から剥離落下することなく、またテープ状試料2とSUS板との貼付部分にズレも認められなかった。
【0024】
(比較例1)
実施例1のビニルエーテルランダム共重合体を、2−エチルヘキシルアクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとをモル組成比が99/1で重合させたアクリルランダム共重合体(Mw=193,000)に変更した以外は、実施例1と同じ条件で粘着シートを作製し、同様に接着力試験および保持力試験を行った。その結果、接着力試験における接着力は、143g/25mm幅であった。また、保持力試験では、試験開始から35分後にテープ状試料がSUS板から剥離落下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)および(II)で示される構成単位からなることを特徴とするビニルエーテル共重合体。
【化1】

【請求項2】
ランダム共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のビニルエーテル共重合体。
【請求項3】
前記式(I)および(II)で示される構成単位のモル組成比が(I)/(II)=90/10〜99.9/0.1であることを特徴とする、請求項1または2に記載のビニルエーテル共重合体。
【請求項4】
重量平均分子量が50,000〜2,000,000であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のビニルエーテル共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のビニルエーテル共重合体を含有することを特徴とする粘着剤組成物。

【公開番号】特開2011−12228(P2011−12228A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159914(P2009−159914)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】