説明

新規ピペリジン化合物、その製造法、およびそれを含有する薬学的組成物

【課題】新規な置換ピペリジン化合物、その製造法、およびそれを含有する薬学的組成物、ならびにそれを含有する中枢神経系の病態に伴う認知障害の処置における記憶および認知の促進剤の提供。
【解決手段】下記式(I),


[式中、R1は、水素原子またはメチル基を表し、R2は、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す]で示される化合物、およびそれを含有する薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な置換ピペリジン化合物、その製造法、およびそれを含有する薬学的組成物、ならびに中枢神経系の病態に伴う認知障害の処置における記憶および認知の促進剤としてのその使用に関するものである。
【0002】
平均余命の延長による人口の高齢化は、それとともに、正常な脳の加齢、およびたとえばアルツハイマー病のような神経変性性疾患に際して発生する病的な脳加齢に伴う認知障害の重大な増加をもたらしている。
【0003】
加齢に伴う認知障害を処置するのに現在用いられている物質の大多数は、中枢コリン作動系を、アセチルコリンエステラーゼインヒビター(タクリン(tacrine)、ドネペジル)およびコリン作動性アゴニスト(ネフィラセタム(nefiracetam))の場合のように直接的にか、または向精神薬(ピラセタム、プラミラセタム(pramiracetam))および脳血管拡張剤(ビンポセチン(vinpocetine))の場合のように間接的に促進することによって作用する。
【0004】
その認知特性に加え、中枢コリン作動系に直接作用する物質は、望ましくないことがある体温降下特性を有することが多い。
【0005】
そのため、加齢に伴う認知障害に対抗すること、および/または体温降下活性がなくて認知過程を改善することができる新規化合物を合成することは、特に貴重になっている。
【0006】
合成の生成物および/またはアルカロイドとして記載された置換ピペリジン化合物が、文献から公知である[J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1991, 3, pp,611-616;Heterocycles, 1985, 23(4), pp.831-834;Can. J. Chem., 1996, 74(12), pp.2444-2453]。
【0007】
本発明の化合物は、新規であり、かつ薬理学的観点からは特に貴重な特性を有する。
【0008】
より特別には、本発明は、式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、
1は、水素原子またはメチル基を表し、
2は、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す]
で示される化合物、その鏡像異性体、および薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩に関するものである。
【0011】
薬学的に許容され得る酸のうちでも、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、メタンスルホン酸、ショウノウ酸、シュウ酸等々を、いかなる限定も意味せずに列挙し得る。
【0012】
薬学的に許容され得る塩基のうちでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、t−ブチルアミン等々を、いかなる限定も意味せずに列挙し得る。
【0013】
1基は、好都合には、メチル基を表す。
【0014】
好ましいR2は、臭素原子である。
【0015】
本発明は、好ましくは、
・1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート、
・(3S)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート、
・(3R)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
である化合物に関するものである。
【0016】
薬学的に許容され得る酸または塩基との本発明の好適化合物の付加塩は、本発明の不可欠の部分を形成する。
【0017】
本発明は、式(I)の化合物を製造する方法であって、出発材料として、式(II):
【0018】
【化2】

【0019】
で示される化合物を用いて、これを窒素原子を保護する工程に付して、式(III):
【0020】
【化3】

【0021】
[式中、R’は、たとえばt−ブチルオキシカルボニル基のようなアミン官能基の保護基を表す]
で示される化合物を得て、次いで、これを式(IV):
【0022】
【化4】

【0023】
[式中、R2は、式(I)について定義されたとおりである]
で示される化合物の作用に付して、式(V):
【0024】
【化5】

【0025】
[式中、R2およびR’は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得て、次いで、これを、たとえばトリフルオロ酢酸の存在下で、アミン官能基を脱保護する反応に付して、式(I)の化合物の特定の場合である式(I/a):
【0026】
【化6】

【0027】
[式中、R2は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得て、場合により、これをメチル化反応に付して、式(I)の化合物の特定の場合である式(I/b):
【0028】
【化7】

【0029】
[式中、R2は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得てもよく、
式(I/b)の化合物を製造するための一変化形は、出発材料として式(VI):
【0030】
【化8】

【0031】
で示される化合物を用いて、これを式(IV)の化合物の作用に付することからなり、
これら式(I)の化合物の全体を構成する式(I/a)および(I/b)の化合物を、次いで慣用の分離手法に従って精製してもよく、これを、望みであれば、薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩へと転換し、この鏡像異性体を、慣用の分離手法に従ってキラルカラムで分離してもよいことを特徴とする方法にも関するものである。
【0032】
式(II)、(IV)および(VI)の化合物は、商業的に入手可能であるか、または慣用の化学反応、もしくは文献に記載された化学的反応によって、当業者には容易に利用可能である。
【0033】
本発明の化合物は、新規であることに加え、認知過程を促進する特性を有するために、脳の加齢に、またアルツハイマー病、パーキンソン病、ピック病、コルサコフ病、血管性認知症、前頭および皮質下認知症ならびに統合失調症のような神経変性性疾患に伴う認知障害の処置に役立つ。
【0034】
本発明は、活性成分として式(I)の少なくとも一つの化合物を、不活性かつ無毒性の一つまたはそれ以上の適切な賦形剤と一緒に含む薬学的組成物にも関するものである。本発明の薬学的組成物のうちでも、より格別には、経口、非経口(静脈内または皮下)または経鼻投与に、また錠剤または糖衣錠、舌下錠、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、クリーム剤、軟膏、皮膚ゲル剤、注射用製剤および飲用懸濁液等々に適切であるものを列挙し得る。
【0035】
有用な投与量は、障害の性質および重篤度、投与経路、ならびに患者の年齢および体重に左右されることになり、1日につき1回またはそれ以上の投与で0.01mg〜1gの範囲にわたる。
【0036】
以下の実施例は、本発明を例示するが、いかなる方途でもそれを限定しない。
【0037】
実施例に記載された化合物の構造は、慣用の分光分析手法(赤外線、NMR、質量分析)によって決定した。
【0038】
実施例1
1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
無水トルエン(50ml)中の3−ヒドロキシ−1−メチルピペリジン(21.2mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、イソシアン酸p−ブロモフェニル(25.4mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を、60℃で24時間撹拌した。フリット上で濾別した後、固体の材料をジクロロメタンで洗浄した。ろ液を、減圧下で蒸発乾固し、次いでジクロロメタンに溶解した。有機相を、飽和NaHCO3水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させた。得られた黄色の固体を、ジイソプロピルエーテル(60ml)中で摩砕した。ろ過した後、標記生成物を白色粉末の形態で得た。
融点:127℃
【0039】
実施例2
(3R)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
実施例1で得たラセミ混合物の分離によって、R鏡像異性体を得た。分離は、環境温度でのキラルパック(Chiralpak)ASなるカラムにて、アセトニトリル/ジエチルアミンの100/0.1混合物を溶離剤として用いて、275nmでのUV検出で実施した。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例3
(3S)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
実施例2に記載されたのと同じ条件下で,実施例1で得たラセミ混合物から出発して、S鏡像異性体を得た。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例4
1−メチルピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
無水トルエン(50ml)中の3−ヒドロキシ−1−メチルピペリジン(34.7mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、イソシアン酸p−フルオロフェニル(44.0mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を、60℃で48時間撹拌した。フリット上でろ別して、固体の材料をジクロロメタンで洗浄した。ろ液を、減圧下で蒸発乾固し、次いでジクロロメタンに溶解した。有機相を、飽和NaHCO3水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させた。得られた橙色の油を、ジクロロメタン/メタノール混合物(99/1〜95/5の勾配)を溶離剤として用いる、シリカゲルでのクロマトグラフィーによって精製した。得られた白色固体を、最小量のジイソプロピルエーテルから再結晶させて、標記生成物を白色粉末の形態で得た。
融点:97〜98℃
【0044】
実施例5
(3R)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、R鏡像異性体を得た。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例6
(3S)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、S鏡像異性体を得た。
【0047】
実施例7
1−メチルピペリジン−3−イル=(4−トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
無水トルエン(10ml)中の3−ヒドロキシ−1−メチルピペリジン(4.8mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、イソシアン酸p−トリフルオロメチルフェニル(7mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を、55℃で17時間撹拌した。未精製反応生成物をフリット上でろ過し、次いで,固体材料をジクロロメタンで洗浄した。ろ液を、減圧下で蒸発乾固し、次いでジクロロメタンに溶解した。有機相を、飽和NaHCO3水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させた。固体材料を、ジクロロメタン/メタノール混合物(98/2〜95/5の勾配)を溶離剤として用いる、シリカゲルのカラムでのクロマトグラフィーによって精製して、標記生成物を白色粉末の形態で得た。
融点:119〜120℃
【0048】
実施例8
(3S)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、S鏡像異性体を得た。
【0049】
【表4】

【0050】
実施例9
(3R)−1−メチルピペリジン−3−イル=4−(トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、R鏡像異性体を得た。
【0051】
【表5】

【0052】
実施例10
ピペリジン−3−イル=(4−トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
工程A:3−ヒドロキシピペリジン−1−カルボン酸t−ブチル
水(200ml)中の3−ヒドロキシピペリジン(39.6mmol)の撹拌溶液に、NaHCO3(119mmol)、次いで炭酸ジ−t−ブチル(47.5mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を環境温度で3日間撹拌し、次いで、水相をジクロロメタンで3回抽出した。有機相を併せて、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させた。得られた無色の油を、環境温度で4日間、蓋をせずに放置した。次いで、形成された結晶を、粉末に摩砕し、ベーンポンプ下に24時間置いた。標記生成物を白色結晶の形態で得て、それ以上精製しなかった。
【0053】
工程B:3−{[(4−トリフルオロメチルフェニル)アミノ]カルボニル}オキシピペリジン−1−カルボン酸t−ブチル
無水トルエン(30ml)中の上記工程で得た化合物(8.4mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、イソシアン酸p−トリフルオロメチルフェニル(13.3mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を55℃で48時間撹拌した。フリット上で濾過した後、固体の材料を大量のジクロロメタンで洗浄した。ろ液を減圧下で蒸発乾固して、標記生成物を白色粉末の形態で得た。
【0054】
工程C:ピペリジン−3−イル=(4−トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
無水ジクロロメタン(24ml)中の上記工程で得た化合物(6.9mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、トリフルオロ酢酸(10.2ml)を氷浴中で加えた。反応混合物を環境温度で1時間撹拌した。未精製の反応生成物を、氷浴によって冷却した2M水酸化ナトリウム水溶液(100ml)に注ぎ込んだ。塩基性の水相をジクロロメタンで2回抽出した。有機相を併せて、飽和NaCl水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させて、標記生成物を粉末の形態で得た。
融点:150〜151℃
【0055】
実施例11
(3S)−ピペリジン−3−イル=(4−トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
実施例10で得たラセミ混合物の分離によって、S鏡像異性体を得た。分離は、環境温度でのキラルパックADなるカラムにて、アセトニトリル/ジエチルアミンの100/0.1混合物を溶離剤として用いて、245nmでのUV検出で実施した。
【0056】
【表6】

【0057】
実施例12
(3R)−ピペリジン−3−イル=(4−トリフルオロメチルフェニル)カルバマート
実施例11に記載されたのと同じ条件下で,実施例10で得たラセミ混合物から出発して、R鏡像異性体を得た。
【0058】
【表7】

【0059】
実施例13
ピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
工程A:3−{[(4−ブロモフェニル)アミノ]カルボニル}オキシピペリジン−1−カルボン酸t−ブチル
無水トルエン(10ml)中の実施例10の工程Aで得た化合物(2.49mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、イソシアン酸p−ブロモフェニル(5.05mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を60℃で72時間撹拌した。未精製の反応生成物を、フリット上でろ過し、減圧下で蒸発乾固し、次いでジクロロメタン/ジエチルエーテル混合物(100/0〜90/10の勾配)を溶離剤として用いる、シリカゲルでのクロマトグラフィーによって精製した。標記生成物を白色粉末の形態で得た。
【0060】
工程B:ピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
無水ジクロロメタン(50ml)中の上記工程で得た化合物(10mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、トリフルオロ酢酸(13ml)を氷浴中で加えた。反応混合物を環境温度で2時間撹拌した。未精製の反応生成物を、0℃の飽和K2CO3溶液に注ぎ込んだ。水相をジクロロメタンで2回抽出した。有機相を併せ、2N水酸化ナトリウム溶液、次いで飽和NaCl溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで蒸発させて、標記生成物を白色固体の形態で得た。
融点:169〜170℃
【0061】
実施例14
(3S)−ピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、S鏡像異性体を得た。
【0062】
【表8】

【0063】
実施例15
(3R)−ピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、R鏡像異性体を得た。
【0064】
実施例16
ピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
工程A:3−{[(4−フルオロフェニル)アミノ]カルボニル}オキシピペリジン−1−カルボン酸t−ブチル
無水トルエン(50ml)中の実施例10の工程Aで得た化合物(15mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、イソシアン酸p−フルオロフェニル(18mmol)を環境温度で加えた。反応混合物を60℃で72時間撹拌した。フリット上でろ過して、固体の材料を、ジクロロメタン(40ml)に溶解し、次いで再度フリット上でろ過した。有機相を、飽和NaHCO3水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させた。標記生成物を白色粉末の形態で得た。
【0065】
工程B:ピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
無水ジクロロメタン(100ml)中の上記工程で得た化合物(18.4mmol)のアルゴン雰囲気下の撹拌溶液に、トリフルオロ酢酸(23ml)を氷浴中で加えた。反応混合物を環境温度で3時間撹拌した。未精製の反応生成物を、氷浴中に置いた2M水酸化ナトリウム水溶液(100ml)に注ぎ込んだ。水相をジクロロメタンで2回抽出した。有機相を併せ、飽和NaCl水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させた。未精製生成物を、ジクロロメタン/メタノール混合物(98/2〜95/5の勾配)を溶離剤として用いる、アルミナのカラムでのクロマトグラフィーによって精製して、標記生成物を白色粉末の形態で得た。
融点:147〜148℃
【0066】
実施例17
(3R)−ピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、R鏡像異性体を得た。
【0067】
実施例18
(3S)−ピペリジン−3−イル=(4−フルオロフェニル)カルバマート
キラル分取カラムでの分離によって、S鏡像異性体を得た。
【0068】
薬理学的研究
実施例A
急性毒性および体温降下効果の研究
マウス5匹の群(26±2g)への経口投与後に、急性毒性を評価した。第1日の間は定期的な間隔で、また投与後2週間は毎日、動物を観察した。
【0069】
結果から、本発明の化合物は、試験された最高用量である経口100mg/kgまで、いかなる望ましくない効果、または温度による変化も生じないことが示された。
【0070】
実施例B
ウィスター系ラットにおける社会認識
社会認識は、1982年にThorおよびHolloway[J. Comp. Physiol., 1982, 96, 1000-1006]が最初に記載し、その後、様々な著者[Dantzer et al., Psychopharmacology, 1987, 91, 363-368;Perio et al., Psychopharmacology, 1989, 97, 262-268]が、新規化合物の記憶認知(mnemocognitive)効果を調べるために提唱されている。この試験は、ラットの嗅覚記憶の自然な発現、およびその忘却する自然な性癖に基づくもので、成体ラットによる若い同属動物の認識によって記銘の評価を可能にする。無作為に得た若いラット(21日齢)を、成体ラットを収容したケージに5分間入れた。ビデオ装置を援用して、実験者は、成体ラットの社会認識行動を観察し、その持続時間全体を測定した。次いで、若いラットを成体ラットのケージから取り出し、2回目の導入まで自身のケージに入れた。次いで、成体ラットに、試験下の化合物を与え、2時間後、若いラットの存在(5分間)につき合わせた。そうして、社会認識行動を観察し、その持続時間を測定した。評価の基準は、2回の出会いの間の「認識」時間の、秒で表された差(T2−T1)である。
【0071】
得られた結果は、0.3〜3mg/kgの範囲の用量に対して、両端を含む−19〜−40秒の差(T2−T1)を示した。これらの結果から、少ない用量で、記銘が非常に実質的に増大することが示された。
【0072】
実施例C
ウィスター系ラットにおける物体認識
ウィスター系ラットにおける物体認識試験は、EnnaceurおよびDelacour[Behav. Brain Res., 1988, 31, 47-59]が最初に開発した。この試験は、動物の自発的な探査活動に基づくもので、ヒトにおけるエピソード記憶の特徴を有する。この記憶試験は、加齢[Scali et al., Eur. J. Pharmacol., 1997, 325, 173-180]およびコリン作動性機能不全[Bartolini et al., Pharm. Biochem. Behav., 1996, 53(2), 277-283]に感度があり、酷似する形状の2物体(一方は見慣れたもの、他方は新規なもの)の探査における差に基づく。試験に先立って、動物を環境に馴化させた(物体なしの囲い)。最初の試行の際は、同一の2物体が存在する囲いにラットを入れた(3分間)。各物体について、探査の持続時間を測定した。24時間後の2回目の試行(3分間)の際は、2物体の一方を新規な物体と置き換えた。各物体について、探査の持続時間を測定した。評価の基準は、第2の試行の際の新規な物体と見慣れた物体とについての探査時間の、秒で表された差Δである。対照動物は、予め各試行の60分前に担体を経口経路で投与されていて、見慣れた物体と新規な物体とを同一の仕方で探査したが、これは、初めに導入された物体が忘却されたことを示す。記憶認知を促進する化合物を投与された動物は、新規な物体を優先的に探査したが、これは、先に導入された物体が記憶されていたことを示す。
【0073】
得られた結果は、0.3〜3mg/kgの範囲の用量に対して、両端を含む6〜12秒の差Δを示した。これらの結果から、非常に少ない用量で、記銘が実質的に増大することが示された。
【0074】
実施例D
薬学的組成物
それぞれ(3S)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマート(実施例3)10mgを含有する、1,000錠の製造のための処方
実施例3の化合物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10g
ヒドロキシプロピルセルロース・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2g
コムギデンプン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10g
乳糖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100g
ステアリン酸マグネシウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3g
タルク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化9】


[式中、
1は、水素原子またはメチル基を表し、
2は、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す]
で示される化合物、その鏡像異性体、および薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩。
【請求項2】
1基がメチルを表すことを特徴とする、請求項1記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
2基が臭素原子を表すことを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の式(I)の化合物。
【請求項4】
1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマートである、請求項1記載の式(I)の化合物、その鏡像異性体、および薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩。
【請求項5】
(3S)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマートである、請求項1記載の式(I)の化合物、および薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩。
【請求項6】
(3R)−1−メチルピペリジン−3−イル=(4−ブロモフェニル)カルバマートである、請求項1記載の式(I)の化合物、および薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩。
【請求項7】
請求項1記載の式(I)の化合物を製造する方法であって、出発材料として、式(II):
【化10】


で示される化合物を用いて、これを窒素原子を保護する工程に付して、式(III):
【化11】


[式中、R’は、たとえばt−ブチルオキシカルボニル基のようなアミン官能基の保護基を表す]
で示される化合物を得て、次いで、これを式(IV):
【化12】


[式中、R2は、請求項1に定義されたとおりである]
で示される化合物の作用に付して、式(V):
【化13】


[式中、R2およびR’は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得て、次いで、これを、たとえばトリフルオロ酢酸の存在下で、アミン官能基を脱保護する反応に付して、式(I)の化合物の特定の場合である式(I/a):
【化14】


[式中、R2は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得て、場合により、これをメチル化反応に付して、式(I)の化合物の特定の場合である式(I/b):
【化15】


[式中、R2は、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得てもよく、
式(I/b)の化合物を製造するための一変化形は、出発材料として式(VI):
【化16】


で示される化合物を用いて、これを式(IV)の化合物の作用に付することからなり、
これら式(I)の化合物の全体を構成する式(I/a)および(I/b)の化合物を、次いで慣用の分離手法に従って精製してもよく、これを、望みであれば、薬学的に許容され得る酸または塩基とのその付加塩へと転換し、この鏡像異性体を、慣用の分離手法に従ってキラルカラムで分離してもよいことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の少なくとも一つの化合物または薬学的に許容され得る酸もしくは塩基とのその付加塩を、薬学的に許容され得る一つまたはそれ以上の賦形剤と併せて含む薬学的組成物。
【請求項9】
脳の加齢に、またアルツハイマー病、パーキンソン病、ピック病、コルサコフ病、血管性認知症、前頭および皮質下認知症ならびに統合失調症のような神経変性性疾患に伴う記憶障害の処置用の医薬の製造に用いるための、請求項8記載の薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用であって、脳の加齢に、またアルツハイマー病、パーキンソン病、ピック病、コルサコフ病、血管性認知症、前頭および皮質下認知症ならびに統合失調症のような神経変性性疾患に伴う記憶障害を処置するのに用いられる医薬の製造における使用。
【請求項11】
脳の加齢に、またアルツハイマー病、パーキンソン病、ピック病、コルサコフ病、血管性認知症、前頭および皮質下認知症ならびに統合失調症のような神経変性性疾患に伴う記憶障害を処置するのに用いるための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。

【公開番号】特開2011−37845(P2011−37845A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−162551(P2010−162551)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【出願人】(507421289)ユニヴェルシテ・ドゥ・ナント (6)
【Fターム(参考)】