説明

新規フェニルエタノイド配糖体及び皮膚化粧料

【課題】活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤及び抗肥満剤などとして使用できる化合物の提供、並びに皮膚化粧料の提供。
【解決手段】下記式(II)等で表されるフェニルエタノイド配糖体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規フェニルエタノイド配糖体、これを有効成分として含有する活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤及び抗肥満剤、並びに当該化合物を配合した皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に生体成分を酸化させる要因として、活性酸素が注目されており、その生体への悪影響が問題となっている。活性酸素は、生体細胞内のエネルギー代謝過程で生じるものであり、活性酸素としては、スーパーオキサイド(すなわち酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン:・O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシラジカル(・OH)及び一重項酸素()等が挙げられる。これらの活性酸素は、食細胞の殺菌機構にとって必須であり、ウイルスや癌細胞の除去に重要な働きを果たしている。
【0003】
しかしながら、活性酸素の過剰な生成は、生体内の膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、各種疾患を誘発する。通常、生体内で生産され、他の活性酸素の出発物質ともなっているスーパーオキサイドは、細胞内に含まれているスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)の触媒作用により逐次消去されているが、スーパーオキサイドの産生が過剰である場合、又はSODの作用が低下している場合には、スーパーオキサイドの消去が不十分となり、スーパーオキサイド濃度が高くなる。その結果、関節リウマチやベーチェット病等の組織障害、各種動脈硬化症(虚血性心疾患,心筋梗塞,脳虚血,脳梗塞等)、神経変性疾患(アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン舞踏病等)、癌、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、糖尿病、しわ、肩凝り、冷え性等の様々な疾患を誘発する。
【0004】
特に、皮膚は、紫外線等の環境因子の刺激を直接受けることから、スーパーオキサイドが生成しやすい器官であるため、スーパーオキサイド濃度の上昇により、例えば、コラーゲン等の生体組織を分解し、変性し又は架橋したり、油脂類を酸化して細胞に障害を与える過酸化脂質を生成したりすると考えられており、活性酸素によって引き起こされる障害が、皮膚のしわ形成や皮膚の弾力低下等の老化の原因になるものと考えられている(非特許文献1参照)。したがって、活性酸素や生体内ラジカルの生成を阻害・抑制することにより、しわ形成や弾力低下等の皮膚の老化や、活性酸素による酸化ストレスが原因となって誘発される上記の疾患群を予防、治療又は改善できるものと考えられる。
【0005】
また、皮膚においてメラニンは、紫外線から生体を保護する役目も果たしているが、過剰生成や不均一な蓄積は、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着の原因となる。一般にメラニンは、色素細胞(メラノサイト)の中で生合成される酵素チロシナーゼの働きによって、チロシンからドーパ、ドーパからドーパキノンに変化し、ついで5,6−ジヒドロキシインドフェノール等の中間体を経て形成されるものとされている。
【0006】
このようなメラニン生成過程においては、皮膚に紫外線が照射されることによって皮膚の表皮細胞において発生する活性酸素が関与していることが示唆されている。すなわち、活性酸素によってメラノサイトが活性化されるとともに、チロシナーゼが活性化され、結果としてメラニンが生成される。したがって、メラニンの生成を抑制し、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着を予防・改善するためには、表皮細胞における活性酸素を消去することが有効であると考えられている。
【0007】
このような活性酸素消去作用、ラジカル消去作用等を有するものとして、アブラナ科ブラシカ属植物からの抽出物(特許文献1参照)、スターフルーツの果実からの抽出物(特許文献2参照)等が知られている。
【0008】
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンの3つのアミノ酸からなるトリペプチドであり、細胞内の主要なシステイン残基を有する化合物である。細胞内におけるグルタチオンは、ラジカルの捕捉、酸化還元による細胞機能の調節、異物代謝、各種酵素のSH供与体としての機能を果たすものであり、活性酸素等に対する抗酸化成分としても知られている。その作用発現は、システイン残基に由来すると考えられている。しかしながら、過剰な酸化ストレスや異物の付加、加齢などにより、細胞内のグルタチオン量が欠乏又は低下することが報告されており、このことが細胞の酸化ストレスに対する防御能を低下させ、細胞のDNA及びタンパク質等の構成成分にダメージを与える一因であると考えられている。
【0009】
このような、細胞内のグルタチオン量の低下又は欠乏が病態と関連することが知られている疾患として、酸化ストレスが原因となって誘発される上記の疾患群のほか、肝障害(アルコールの多飲,又は重金属や化学物質等の異物の摂取が原因となる)等が知られている。
【0010】
すなわち、グルタチオンの産生を促進することは、細胞の酸化ストレスに対する防御能を高め、細胞内のグルタチオン量が低下又は欠乏することに起因する上記の疾患群を予防・治療することができると考えられる。特に、皮膚においてグルタチオンの産生を促進することは、加齢により衰える酸化ストレスの防御を高め、かつ紫外線による酸化ストレスに対する障害を抑制することにつながり、皮膚の老化の予防・治療、又はシミ等の色素沈着に対する改善が期待できると考えられる。このようなグルタチオン産生促進作用を有するものとして、テンニンカ抽出物(特許文献3参照)、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(特許文献4参照)等が知られている。
【0011】
炎症性疾患、例えば、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等の原因及び発症機構は、多種多様である。その原因として、主に一酸化窒素(NO)の過剰な産生によるもの、ヒスタミンの遊離によるもの、及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼによる血小板凝集によるもの等が知られている。
【0012】
一酸化窒素(NO)は、大気汚染、酸性雨等の要因となる窒素酸化物であるが、近年、この一酸化窒素が、血管内皮由来弛緩因子(EDRF)、神経伝達物質、生体防御における微生物・腫瘍細胞の障害因子等、生体内で多彩な機能を示す生理活性物質であることが見出されている。生体防御においては、特にマクロファージから産生される一酸化窒素が、細菌やウイルスの感染を防御している。
【0013】
しかし、一酸化窒素が大量に生合成されると、生体にとって無毒ではなく、自己組織の破壊を引き起こし、炎症の悪化、リウマチ、糖尿病等の病態の原因となっている。また、大量に生合成された一酸化窒素が血管平滑筋の弛緩と過剰な透過性の増大をもたらし、著しい血圧の低下によってエンドトキシン・ショックを引き起こすことも知られている。
【0014】
したがって、炎症性疾患においては、一酸化窒素の過剰な産生を抑制することが重要となる。一酸化窒素の産生抑制作用を有するものとして、例えば、唐独活、タラ根皮、和続断、車前子、遠子、茜草根、半枝連、槐花、花椒(非特許文献2参照)、ハイドロコタイル属に属する植物からの抽出物(特許文献5参照)、マルツロシルアルギニン(特許文献6参照)等が知られている。
【0015】
ヒスタミン遊離は、肥満細胞内のヒスタミンが細胞外に遊離する現象であり、遊離されたヒスタミンが炎症反応を引き起こす。そのため、ヒスタミン遊離を阻害又は抑制する物質により、アレルギー性疾患及び炎症性疾患を予防又は治療する試みがなされている。しかし、ヒスタミンの遊離を直接的に評価することは困難であり、ヒスタミンの遊離と同時に遊離されることが確認されているヘキソサミニダーゼの遊離を指標にヒスタミンの遊離を評価することができる。したがって、ヘキソサミニダーゼの遊離を抑制することにより、同時にヒスタミンの遊離も抑制でき、これにより接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れに伴う各種皮膚疾患等、様々な炎症性疾患等の予防、治療又は改善に効果があるものと考えられる。
【0016】
また、ヒスタミンは局所伝達物質として細胞間の情報伝達を仲介しており、消化器官においては胃酸分泌を亢進し、中枢神経系における神経伝達物質として機能し、覚醒状態の維持に寄与することが知られている。ここで、ヒスタミン遊離が過剰となると、消化器官においては胃酸過多による潰瘍の原因となり、中枢神経系においては睡眠障害の一因となる。上述したように、ヘキソサミニダーゼの遊離を抑制することにより、同時にヒスタミンの遊離も抑制できることから、これにより、胃酸過多を原因とする胃潰瘍、睡眠障害等を予防、治療又は改善できると考えられる。このようなヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する植物抽出物としては、藤茶からの抽出物(特許文献7参照)、フロリジン及びフロレチン(特許文献8)等が知られている。
【0017】
血小板凝集は、アラキドン酸カスケードのホスホリパーゼA2の活性化を招き、それにより放出されたロイコトリエンB4やプロスタグランジンE2等が炎症反応を引き起こす。このため、血小板の凝集を阻害・抑制する物質によりアレルギー性疾患や炎症性疾患を予防・治療する試みがなされており、そのような血小板凝集阻害物質として、アスピリン、チクロピジン、スルフィピラゾン等が用いられてきた。しかしながら、これらの物質はいずれも副作用があり、安全性の点で問題となっていた。
【0018】
また、血小板の凝集は血小板中のサイクリックAMPの濃度と関係があり、サイクリックAMPホスホジエステラーゼによってサイクリックAMPが分解されてサイクリックAMPの濃度が低下すると、血小板は凝集しやすくなる。従って、サイクリックAMPホスホジエステラーゼの作用を抑制してサイクリックAMP濃度の低下を防止すれば、血小板凝集を防止でき、これによりアレルギー性疾患や炎症性疾患等を予防、治療又は改善できると考えられる。
【0019】
近年、飽食や運動不足等の生活習慣が原因となって体脂肪が増加し、肥満が増えている。このような肥満の増加は、人間ばかりでなく、ペットや家畜においても見られる。肥満は、高脂血症や動脈硬化等の成人病の原因になるため、美容の面で問題となるばかりでなく、健康の面でも大きな問題となる。
【0020】
ここで、サイクリックAMPは、生体内の脂肪分解にも関与することが知られている。サイクリックAMPは生体内に存在するリパーゼを活性化し、活性化されたリパーゼによって脂肪が脂肪酸とグリセロールとに分解される。しかし、サイクリックAMPホスホジエステラーゼが活性化されるとサイクリックAMPの分解が誘発され、リパーゼの活性化が阻害される。そのため、サイクリックAMPホスホジエステラーゼの活性を阻害することにより細胞内におけるサイクリックAMPが増量し、脂肪の分解を促進することができるものと考えられる。このようなサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害作用を有するものとして、ピーナッツ渋皮抽出物(特許文献9参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2003−81848号公報
【特許文献2】特開2003−300893号公報
【特許文献3】特開2008−285422号公報
【特許文献4】特開2009−269889号公報
【特許文献5】特開2006−28036号公報
【特許文献6】特開2010−90076号公報
【特許文献7】特開2003−12532号公報
【特許文献8】特開2007−106712号公報
【特許文献9】特開2004−26719号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】「フレグランスジャーナル臨時増刊」,1995年,No.14,p.156
【非特許文献2】「和漢医薬学雑誌」,1998年,Vol.15,p.302-303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、各種作用を有する新規化合物、作用効果に優れた活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤及び抗肥満剤、並びに皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、千里香抽出物から活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を有する新規フェニルエタノイド配糖体を単離・同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明は、下記式(I)又は(II)で表される新規フェニルエタノイド配糖体、当該フェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有する活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤、並びに当該フェニルエタノイド配糖体を配合した皮膚化粧料を提供する。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、安全性の高い天然物である千里香から得られ、優れた活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を有する、上記式(I)又は式(II)で表される新規フェニルエタノイド配糖体を提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、上記式(I)又は式(II)で表されるフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有させることにより、作用効果に優れた活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤及び抗肥満剤を提供することができる。さらに、当該化合物を配合することにより、上記作用に優れた皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
〔フェニルエタノイド配糖体〕
本実施形態のフェニルエタノイド配糖体は、下記式(I)又は(II)で表されるものである。以下、下記式(I)で表されるフェニルエタノイド配糖体を「ミケリオシドA」と呼び、下記式(II)で表されるフェニルエタノイド配糖体を「ミケリオシドB」と呼ぶ。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
ミケリオシドAが、上記式(I)で表される3,4−ジヒドロキシフェネチルアルコール−(4’−O−カフェオイル−6’−O−β−D−グルコシル−2’,3’−O−α−L−ジラムノシル)−β−D−グルコシドの構造をとることは、後述する実施例において確認されており、ミケリオシドAは、千里香(センリコウ,学名:Michelia yunnanensis Franch.)から単離された新規物質である。
【0034】
また、ミケリオシドBが、上記式(II)で表される3,4−ジヒドロキシフェネチルアルコール−(4’−(p−クマロイル)−2’,3’−O−α−L−ジラムノシル)−β−D−グルコシドの構造をとることは、後述する実施例において確認されており、ミケリオシドBは、千里香(センリコウ,学名:Michelia yunnanensis Franch.)から単離された新規物質である。
【0035】
ミケリオシドA又はミケリオシドBは、千里香から単離することができるが、千里香以外の植物、例えば、千里香と同じモクレン科(Magnoliaceae)オガタマノキ属(Michelia)に属するオガタマノキ(学名:Michelia compressa)、タイワンオガタマ(学名:Michelia compressa var. formosana Kanehira)、カラタネオガタマ(学名:Michelia figo)、ギンコウボク(学名:Michelia alba)、キンコウボク(学名:Michelia champaca)にも存在する可能性がある。したがって、ミケリオシドA又はミケリオシドBの単離源は、千里香に限定されるものではなく、ミケリオシドA又はミケリオシドBを含有するいずれの植物を用いてもよい。
【0036】
ミケリオシドA又はミケリオシドBは、例えば、千里香抽出物に、液−液分配抽出、各種クロマトグラフィー、膜分離、再結晶等、フェニルエタノイド配糖体を単離するのに有効な精製操作を施した後、固定相としてオクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)等を用いた液体クロマトグラフィー処理を行うことにより得ることができる。
【0037】
ミケリオシドA又はミケリオシドBは、具体的には、下記工程(a)〜(c)により得ることができる。
工程(a)
工程(a)は、千里香を水、親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒による抽出処理に供して、千里香抽出物を得る工程である。
【0038】
千里香(Michelia yunnanensis Franch.)は、モクレン科の常緑低木であり、別名ウンナンオガタマノキ、山辛夷(サンシンイ)、羊皮袋(ヨウヒタイ)、皮袋香(ヒタイコウ)とも呼ばれる。千里香は、中国の雲南省に分布しており、この地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る千里香の構成部位としては、例えば、葉部、花(蕾)部、枝部、種子、樹皮等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは花部等の地上部である。
【0039】
ここで、「花」とは、一般に、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、雄しべ、心皮等の器官が含まれる。本発明において抽出原料として使用する「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、その一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
【0040】
千里香からの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、千里香の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0041】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0042】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0043】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0044】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0045】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0046】
工程(b)
工程(b)は、工程(a)で得られた千里香抽出物を吸着剤に吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で溶出する工程である。工程(b)は、上記工程(a)で得られた千里香抽出物におけるフェニルエタノイド配糖体の含量を高めるとともに、脱色、脱臭、活性向上等を目的として精製する工程である。
【0047】
千里香抽出物に含まれ得る親水性有機溶媒は、吸着剤に吸着させる前に、必要に応じて留去する。親水性有機溶媒を留去した抽出物は、例えば、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させた後、吸着剤に吸着させる。吸着剤に千里香抽出物を吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶出させる。
【0048】
溶解、懸濁又は溶出に使用し得る水溶性溶媒としては、上記した親水性有機溶媒が挙げられるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノール等を溶解液、懸濁液又は溶出液として使用するのが好ましい。水と水溶性溶媒との混合溶媒を使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とメタノールとの混合溶媒を使用する場合、水とメタノールとの混合比を90:10〜1:99(容量比)、好ましくは60:40〜20:80(容量比)とすることができる。
【0049】
吸着剤は、フェニルエタノイド配糖体を吸着し得る限り特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、合成吸着樹脂、活性炭、キレート樹脂、シリカゲル、アルミナゲル系吸着剤、多孔質ガラス等の公知の吸着剤を単独で又は組み合わせて用いることができる。好ましくは、多孔性合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP−20(三菱化学社製)等の多孔性合成吸着剤を使用し、当該多孔性合成吸着剤を充填剤としたカラムクロマトグラフィーに千里香抽出物を付し、溶出液により溶出させる。
【0050】
工程(c)
工程(c)は、工程(b)で得られた溶出液を各種クロマトグラフィーに付して、その溶出液に含まれるミケリオシドA及びミケリオシドBを単離する工程である。
【0051】
溶出液からのミケリオシドA及びミケリオシドBの単離は、例えば、逆相カラムクロマトグラフィー、順相カラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種クロマトグラフィーによる処理を組み合わせて行うことができる。溶出液の各種クロマトグラフィーによる処理の順番は、特に限定されるものではない。
【0052】
各種クロマトグラフィーにおける展開溶媒又は移動相としては、水、水溶性溶媒、低極性溶媒若しくはこれらの混合溶媒、又は無極性溶媒を使用することができる。水溶性溶媒としては、上記した親水性有機溶媒、アセトニトリル等を使用することができるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノール等を使用することが好ましい。なお、順相カラムクロマトグラフィーにおいては、移動相として、クロロホルムと水とメタノールとの混合溶媒、n−ヘキサン等の無極性溶媒等を使用するのが好ましい。
【0053】
各種クロマトグラフィーにおける充填剤としては、例えば、オクタデシル化シリカゲル(ODS)、フェニル化シリカゲル、シリカゲル、ヒドロキシプロピル化デキストラン、ポリビニルアルコール(PVA)系ポリマ等を使用することができる。なお、逆相カラムクロマトグラフィーにおいては、ODS又はフェニル化シリカゲルを使用するのが好ましく、順相カラムクロマトグラフィーにおいては、シリカゲルを使用するのが好ましく、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)においては、ヒドロキシプロピル化デキストラン又はPVA系ポリマを使用するのが好ましい。
【0054】
各種クロマトグラフィーを利用してミケリオシドA又はミケリオシドBを含有する画分を分画することにより、精製されたミケリオシドA又はミケリオシドBを得ることができる。
【0055】
〔活性酸素消去剤,ラジカル消去剤,グルタチオン産生抑制剤,美白剤,一酸化窒素産生抑制剤,ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤,サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤,抗肥満剤〕
以上のようにして得られるミケリオシドA及びミケリオシドBは、優れた活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用及び抗肥満作用を有しており、またミケリオシドBは、優れたグルタチオン産生抑制作用を有しているため、それぞれの作用を利用して活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤の有効成分として用いることができる。本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、ミケリオシドA又はミケリオシドBのうちのいずれか一つを上記有効成分として用いてもよいし、これらを混合して上記有効成分として用いてもよい。ミケリオシドA及びミケリオシドBを混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、ミケリオシドA及びミケリオシドBが有する活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は及び抗肥満作用の程度等により適宜調整すればよい。
【0057】
本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤は、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物のみからなるものでもよいし、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物を製剤化したものでもよい。
【0058】
本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物は、他の組成物(例えば,皮膚外用剤,美容用飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0059】
本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤を製剤化した場合、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0060】
なお、本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤は、必要に応じて、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を有する他の天然抽出物等を、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0061】
本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0062】
また、本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0063】
本実施形態の活性酸素消去剤又はラジカル消去剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有する活性酸素消去作用又はラジカル消去作用を通じて、しわ形成や弾力低下等の皮膚の老化を予防・改善できるとともに、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着を予防・改善することができる。ここで、「活性酸素」には、スーパーオキサイド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素等が含まれる。また、「ラジカル」とは、不対電子を1つ又はそれ以上有する分子又は原子を意味し、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、DPPH等が含まれる。
【0064】
また、本実施形態の活性酸素消去剤又はラジカル消去剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有する活性酸素消去作用又はラジカル消去作用を通じて、関節リウマチやベーチェット病等の組織障害、各種動脈硬化症(虚血性心疾患,心筋梗塞,脳虚血,脳梗塞等)、神経変性疾患(アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン舞踏病等)、癌、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、糖尿病、肩凝り、冷え性等の活性酸素が関与する各種疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態の活性酸素消去剤及びラジカル消去剤は、これらの用途以外にも活性酸素消去作用及び/又はラジカル消去作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0065】
本実施形態のグルタチオン産生促進剤は、有効成分であるミケリオシドBが有するグルタチオン産生促進作用を通じて、しわ形成や弾力低下等の皮膚の老化を予防・改善できるとともに、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態のグルタチオン産生促進剤は、ミケリオシドBが有するグルタチオン産生促進作用を通じて、関節リウマチやベーチェット病等の組織障害、各種動脈硬化症(虚血性心疾患,心筋梗塞,脳虚血,脳梗塞等)、神経変性疾患(アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン舞踏病等)、癌、喫煙等が原因の肺疾患、白内障、糖尿病、肩凝り、冷え性、肝障害(アルコールの多飲,又は重金属や化学物質等の異物の摂取が原因となる)等の細胞内グルタチオン量の低下又は欠乏が病態と関連することが知られている疾患等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のグルタチオン産生促進剤は、これらの用途以外にも、グルタチオン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0066】
本実施形態の美白剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有する活性酸素消去作用、ラジカル消去作用及びグルタチオン産生抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態の美白剤は、これらの用途以外にも活性酸素消去作用、ラジカル消去作用及びグルタチオン産生抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0067】
本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有する一酸化窒素産生抑制作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、これらの用途以外にも一酸化窒素産生抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0068】
本実施形態のヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有するヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、アトピー性皮膚炎、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患、関節リウマチ、変形性関節症、喘息等を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態のヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤は、ミケリオシドA又はミケリオシドBが有するヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を通じて、胃酸過多を原因とする胃潰瘍、睡眠障害等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤は、これらの用途以外にもヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0069】
本実施形態のサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有するサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を通じて、サイクリックAMPの産生を促進するため、血小板の凝集を抑制することができ、これによりアレルギー疾患や各種炎症性疾患等を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態のサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、ミケリオシドA又はミケリオシドBが有するサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を通じて、脂肪細胞の分解を促進することができ、この結果、肥満症、それに伴う動脈硬化、糖尿病、メタボリック症候群等の様々な疾患を予防・改善することができる。ただし、本実施形態のサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、これらの用途以外にもサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0070】
本実施形態の抗肥満剤は、有効成分であるミケリオシドA又はミケリオシドBが有するサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を通じて、サイクリックAMPの産生を促進し、脂肪細胞の分解をすることができ、この結果、肥満症、それに伴う動脈硬化、糖尿病、メタボリック症候群等の様々な疾患を予防・改善することができる。ただし、本実施形態の抗肥満剤は、これらの用途以外にもサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0071】
また、本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤は、優れた活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を有するため、例えば、皮膚外用剤又は飲食品に配合するのに好適である。この場合に、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物をそのまま配合してもよいし、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物から製剤化した活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤を配合してもよい。
【0072】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、後述する皮膚化粧料のほか、経皮的に使用される医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。また、飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品等を幅広く含むものである。
【0073】
また、本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤は、優れた活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を有するので、これらの作用に関連する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0074】
〔皮膚化粧料〕
ミケリオシドA、ミケリオシドB及びこれらの混合物は、優れた活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を有しているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物をそのまま配合してもよいし、ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物から製剤化した活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤を配合してもよい。ミケリオシドA、ミケリオシドB若しくはこれらの混合物又は上記活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤若しくは抗肥満剤を皮膚化粧料に配合することによって、皮膚化粧料に活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を付与することができる。
【0075】
ミケリオシドA、ミケリオシドB若しくはこれらの混合物又は上記活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤若しくは抗肥満剤を配合し得る皮膚化粧料としては、特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0076】
ミケリオシドA、ミケリオシドB又はこれらの混合物を皮膚化粧料に配合する場合、その配合量は、皮膚化粧料の種類に応じて適宜調整することができる。この場合、ミケリオシドAの配合率は0.0001〜10質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがより好ましく、0.3〜1質量%であることが特に好ましい。また、ミケリオシドBの配合率は0.0001〜10質量%であることが好ましく、0.001〜5質量%であることがより好ましく、0.03〜2質量%であることがさらに好ましく、0.3〜1質量%であることが特に好ましい。ミケリオシドA及びミケリオシドBの混合物を用いる場合は、それぞれの配合率が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0077】
本実施形態の皮膚化粧料は、ミケリオシドA、ミケリオシドB及びこれらの混合物が有する活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0078】
本実施形態の皮膚化粧料は、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、グルタチオン産生抑制作用、美白作用、一酸化窒素産生抑制作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用又は抗肥満作用を通じて、しわ形成や弾力低下等の皮膚の老化;皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着;活性酸素が関与する各種疾患;細胞内グルタチオン量の低下又は欠乏が関与する各種疾患;各種炎症性疾患;肥満症等;を予防、治療又は改善することができる。
【0079】
なお、本実施形態の活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤、抗肥満剤又は皮膚化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0080】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0081】
〔製造例1〕ミケリオシドA及びミケリオシドBの製造
千里香花部100gを粉砕してフラスコに取り、50%エタノール水溶液を加えて、80℃で2時間抽出した後、ろ過した。ろ液を40℃以下の温度で減圧下濃縮した後、40℃で減圧乾燥を行い、千里香花部抽出物56.0gを得た。
【0082】
得られた千里香花部抽出物50gに水1Lを加え懸濁させ、多孔性樹脂(ダイヤイオンHP−20,三菱化学社製)500g上に付し、水5L、60%メタノール5L、メタノール5Lの順で溶出させた。次いで、60%メタノール5Lで溶出させた画分を減圧下にて濃縮し、60%メタノール溶出画分19.7gを得た。次いで、60%メタノール溶出画分11.6gを、クロロホルム:メタノール:水=10:5:1(容量比)の混合溶媒に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル60,メルク社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、シリカゲルに吸着させた。次いで、移動相としてクロロホルム:メタノール:水=10:5:1(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、粗精製画分A1(1.83g)及び粗精製画分B1(0.94g)を得た。
【0083】
得られた粗精製画分A1をメタノール:水=3:7(容量比)の混合溶媒に溶解し、ODS(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、ODSに吸着させた。次いで、移動相としてメタノール:水=3:7(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、粗精製画分A2(934mg)を得た。次に934mgの粗精製画分A2を下記の高速液体クロマトグラフィー条件1にて分画し、精製物A(748mg)を単離した。
【0084】
<高速液体クロマトグラフィー条件1>
固定相:JAIGEL−GS310(日本分析工業社製)
カラム径:21.5mm
カラム長:500mm
移動相:メタノール
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0085】
一方、得られた粗精製画分B1については、これをメタノール:水=40:60(容量比)の混合溶媒に溶解し、ODS(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、ODSに吸着させた。次いで、移動相としてメタノール:水=4:6(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、粗精製画分B2(524mg)を得た。次に粗精製画分B2を下記の高速液体クロマトグラフィー条件2にて分画し、精製物B(68mg)を単離した。
【0086】
<高速液体クロマトグラフィー条件2>
固定相:YMC−Pack Ph(ワイエムシィ社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:メタノール:水=4:6(容量比)
移動相流量:9.0mL/min
検出:RI
【0087】
上述のようにして単離した精製物A及び精製物Bについて、ESI−Tofマススペクトル、13C−NMR分析を行った。結果を下記に示す。
【0088】
<精製物AのESI−Tofマススペクトル>
m/z:931.3088(M−H)
【0089】
<精製物Aの13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
17.8(2位ラムノース6位),18.1(3位ラムノース6位),34.8(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部7位),60.9(6位グルコース6位),68.0(グルコース6位),68.7(3位ラムノース5位),69.2(2位ラムノース5位),69.3(グルコース4位),69.9(6位グルコース4位),70.3(3位ラムノース2位),70.3(3位ラムノース3位),70.4(2位ラムノース2位),70.5(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部8位),70.5(2位ラムノース3位),71.5(3位ラムノース4位),71.8(2位ラムノース4位),73.0(グルコース5位),73.3(6位グルコース2位),76.4(6位グルコース5位),76.7(6位グルコース3位),100.6(グルコース1位),101.3(3位ラムノース1位),101.8(2位ラムノース1位),103.2(6位グルコース1位),113.4(カフェ酸部8位),114.6(カフェ酸部2位),115.4(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部5位),115.6(カフェ酸部5位),116.1(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部2位),119.3(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部6位),121.3(カフェ酸部6位),125.3(カフェ酸部1位),128.7(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部1位),143.3(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部4位),144.8(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部3位),145.4(カフェ酸部7位),145.5(カフェ酸部3位),148.3(カフェ酸部4位),165.8(カフェ酸部9位)
【0090】
<精製物BのESI−Tofマススペクトル>
m/z:753.2594(M−H)
【0091】
<精製物Bの13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
17.7(2位ラムノース6位),18.0(3位ラムノース6位),34.8(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部7位),60.7(グルコース6位),68.7(3位ラムノース5位),69.2(2位ラムノース5位),69.4(グルコース4位),70.3(3位ラムノース3位),70.3(2位ラムノース3位),70.4(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部8位),70.5(3位ラムノース2位),70.6(2位ラムノース2位),71.5(3位ラムノース4位),71.8(2位ラムノース4位),74.5(グルコース5位),79.0(グルコース2位),79.8(グルコース3位),100.7(グルコース1位),101.3(3位ラムノース1位),101.8(2位ラムノース1位),113.8(p−クマル酸部8位),115.4(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部5位),115.7(p−クマル酸部2位,6位),116.0(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部2位),119.3(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部6位),124.9(p−クマル酸部1位),128.7(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部1位),130.0(p−クマル酸部3位,5位),143.4(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部4位),144.8(p−クマル酸部7位),144.9(3,4ジヒドロキシフェネチルアルコール部3位),159.7(p−クマル酸部4位),165.5(p−クマル酸部9位)
【0092】
以上の分析結果から、千里香花部抽出物から得られた精製物Aが下記式(I)で表されるミケリオシドA(試料1)であり、また精製物Bが下記式(II)で表されるミケリオシドB(試料2)であることが確認された。
【0093】
【化5】

【0094】
【化6】

【0095】
〔試験例1〕スーパーオキサイド消去作用試験(NBT法)
製造例1により得られたミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)について、以下のようにしてスーパーオキサイド消去作用を試験した。
【0096】
試験管に、0.05mol/L炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.2)を2.4mL、並びに3mmol/Lキサンチン、3mmol/L EDTA、1.5mg/mLウシ血清アルブミン溶液及び0.75mmol/L NBT(nitroblue tetrazolium)を0.1mLずつ加え、これに被験試料溶液(試料1及び2,試料濃度は下記表1を参照)0.1mLを添加し、25℃で10分間放置した。放置後、酵素溶液としてのキサンチンオキシダーゼ溶液0.1mLを加えて素早く攪拌し、25℃で20分間反応させた。その後、6mmol/L塩化銅0.1mLを加えて反応を停止させて、波長560nmにおける吸光度を測定した。
【0097】
また、ブランクとして、酵素溶液を添加しない場合についても同様の操作及び吸光度の測定を行った。さらに、コントロールとして、試料溶液を添加せずに蒸留水を添加した場合についても同様の測定を行った。得られた結果から、下記式によりスーパーオキサイド消去率(%)を算出した。
【0098】
スーパーオキサイド消去率(%)={1−(St−Sb)/(Ct−Cb)}×100
式中、Stは「酵素溶液添加・被験試料添加時の吸光度」を表し、Sbは「酵素溶液無添加・被験試料添加時の吸光度」を表し、Ctは「酵素溶液添加・試料無添加時の吸光度」を表し、Cbは「酵素溶液無添加・試料無添加時の吸光度」を表す。
結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すように、ミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)は、優れたスーパーオキサイド消去作用(活性酸素消去作用)を有することが確認された。また、スーパーオキサイド消去作用の程度は、ミケリオシドA又はミケリオシドBの濃度によって調節できることが確認された。
【0101】
〔試験例2〕ラジカル消去作用試験
製造例1により得られたミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)について、以下のようにしてラジカル消去作用を試験した。
【0102】
150μmol/L DPPH(diphenyl-p-picrylhydrazyl)エタノール溶液3mLに被験試料溶液(試料1及び2,試料濃度は下記表2を参照)3mLを加え密栓した後、振り混ぜて30分間放置した。放置後、波長520nmにおける吸光度を測定した。ブランクとして、エタノールに試料溶液3mLを加えた後、直ちに波長520nmの吸光度を測定した。また、コントロールとして、試料溶液に代えて試料の溶解に使用した溶媒のみを加えて同様の操作を行い、波長520nmの吸光度を測定した。得られた結果から、下記式によりラジカル消去率(%)を算出した。
【0103】
ラジカル消去率(%)={C−(St−Sb)}/C×100
式中、Cは「コントロールの吸光度」を表し、Stは「試料溶液添加時の吸光度」を表し、Sbは「ブランクの吸光度」を表す。
結果を表2に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
表2に示すように、ミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)は、優れたラジカル消去作用を有することが確認された。また、ラジカル消去作用の程度は、ミケリオシドA及びミケリオシドBの濃度によって調節できることが確認された。
【0106】
〔試験例3〕グルタチオン産生促進作用試験
製造例1により得られたミケリオシドB(試料2)について、以下のようにしてグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0107】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有α−MEM培地で希釈した後、48ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0108】
培養後、被験試料(試料2,試料濃度は下記表3を参照)を添加した1%FBS含有ダルベッコMEM培地又は試料無添加の1%FBS含有ダルベッコMEM培地を各ウェルに200μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を除去し、400μLのPBS緩衝液にて洗浄した後、150μLのM−PER(PIERCE社製)を使用して細胞を溶解した。
【0109】
このうちの100μLを使用して総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1mol/Lリン酸緩衝液50μL、2mmol/LNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mmol/L 5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式によりグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0110】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
上記式において、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「被験試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表3に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
表3に示すように、ミケリオシドB(試料2)は優れたグルタチオン産生促進作用を有することが確認された。
【0113】
〔試験例4〕一酸化窒素(NO)産生抑制作用試験
製造例1により得られたミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)について、以下のようにして一酸化窒素(NO)産生抑制作用を試験した。
【0114】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を3.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有フェノールレッド不含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、4時間培養した。
【0115】
培養後、培地を除去し、被験試料(試料1及び2,試料濃度は下記表4を参照)を添加した終濃度0.5%DMSOを含む10%FBS含有フェノールレッド不含有ダルベッコMEM培地、又は試料無添加の終濃度0.5%DMSOを含む10%FBS含有フェノールレッド不含有ダルベッコMEM培地を各ウェルに100μL添加し、リポポリサッカライド(LPS,終濃度1μg/mL,E. coli 0111:B4,DIFCO社製)を溶解した10%FBS含有フェノールレッド不含有ダルベッコMEM培地を100μL加え、48時間培養した。
【0116】
一酸化窒素(NO)産生量は、亜硝酸イオン(NO)量を指標に測定した。培養終了後、各ウェルの培養液に、培養上清と同量のグリス試薬(1質量%スルファニルアミド及び0.1質量% N-1-naphthyl ethylendiamine dihydrochlorideを含む5質量%リン酸溶液)を添加し、10分間室温にて反応させた。反応後、波長540nmにおける吸光度を測定した。一酸化窒素(NO)産生抑制率(%)は、試料無添加時(コントロール)の一酸化窒素(NO)産生量を基に、下記式により算出した。
【0117】
NO産生抑制率(%)={(B−A)/B}×100
式中、Aは「被験試料添加時のNO量」を表し、Bは「試料無添加時のNO量」を表す。
結果を表4に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
表4に示すように、ミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)は、優れた一酸化窒素産生抑制作用を有することが確認された。
【0120】
〔試験例5〕ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用試験
製造例1により得られたミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)について、以下のようにしてヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を試験した。
【0121】
ラット好塩基球白血病細胞(RBL−2H3)を15%FBS含有S−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を4.0×10cells/mLの細胞密度になるように15%FBS含有S−MEM培地で希釈し、終濃度0.5μL/mLとなるようにDNP−specific IgEを添加した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0122】
培養後、培地を除去し、シリガリアン緩衝液100μLにて洗浄を2回行った。次に、被験試料(試料1及び2,試料濃度は下記表5を参照)を添加した同緩衝液10μL及び同緩衝液30μL、又は試料無添加として同緩衝液40μLを各ウェルに添加し、37℃にて10分間静置した。続いて、100ng/mL DNP−BSA溶液10μLを加え、37℃にて15分間静置し、ヘキソサミニダーゼを遊離させた。
【0123】
その後、96ウェルプレートを氷上に静置することにより遊離を停止した。各ウェルの細胞上清10μLを新たな96ウェルプレートに採取し、各ウェルに1mmol/L p−NAG(p−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミニド)溶液10μLを添加し、37℃で1時間反応させた。
【0124】
反応終了後、各ウェルに0.1mol/L NaCO/NaHCO250μLを加え、波長415nm及び650nmにおける吸光度を測定し、415nmにおける吸光度から650nmにおける吸光度を減じた値を補正値とした。また、ブランクとして、細胞上清10μLと、0.1mol/L NaCO/NaHCO250μLとの混合液の波長415nm及び650nmにおける吸光度を測定し、補正値を算出した。得られた測定結果から、下記式によりヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)を算出した。
【0125】
ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)={1−(B−C)/A}×100
式中、Aは「試料無添加時の補正値」を表し、Bは「被験試料添加時の補正値」を表し、Cは「被験試料添加・p−NAG無添加時の補正値」を表す。
結果を表5に示す。
【0126】
【表5】

【0127】
表5に示すように、ミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)は、優れたヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することが確認された。
【0128】
〔試験例6〕サイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害作用試験
製造例1により得られたミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)について、以下のようにしてサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害作用を試験した。
【0129】
5mmol/Lの塩化マグネシウムを含有する50mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)0.2mLに、2.5mg/mLウシ血清アルブミン溶液0.1mL、0.1mg/mLサイクリックAMPホスホジエステラーゼ溶液0.1mL、及び被験試料溶液(試料1及び2,試料濃度は下記表6を参照)0.05mLを加え、37℃にて5分間静置した。
【0130】
その後、0.5mg/mLサイクリックAMP溶液0.05mLを加え、37℃で60分間反応させた。反応終了後、3分間沸騰水浴上で煮沸することにより反応を停止させ、これを遠心(2260×g,10分間,4℃)し、上清中の反応基質であるサイクリックAMPを、下記の高速液体クロマトグラフィー条件3にて分析した。また、コントロールとして、試料溶液に代えて試料の溶解に使用した溶媒のみを加えて同様の操作を行った。
【0131】
<高速液体クロマトグラフィー条件3>
製品名:Chromatocorder 12(SYSTEM INSTRUMENTS社製)
固定相:Wakosil C18−ODS 5μm(和光純薬工業社製)
カラム長:250mm
移動相:1mmol/L TBAP in 25mmol/L KHPO:CHCN=90:10
移動相流速:1.0mL/min
検出:260nm
【0132】
次に、サイクリックAMP標準品のピーク面積(A)、試料無添加時におけるサイクリックAMP標準品とサイクリックAMPホスホジエステラーゼとの反応溶液の上清のピーク面積(B1)及び被験試料添加時におけるサイクリックAMP標準品とサイクリックAMPホスホジエステラーゼとの反応溶液の上清のピーク面積(B2)を求めた。得られた結果から、下記式により試料無添加時のサイクリックAMP標準品の分解率(C)及び被験試料添加時のサイクリックAMP標準品の分解率(D)を算出した。
【0133】
試料無添加時の標準品分解率(C,%)=(1−B1/A)×100
被験試料添加時の標準品の分解率(D,%)=(1−B2/A)×100
【0134】
その後、上記式により算出した各分解率(C,D)に基づいて、下記式によりサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害率(%)を算出した。
サイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害率(%)=(1−D/C)×100
結果を表6に示す。
【0135】
【表6】

【0136】
表6に示すように、ミケリオシドA(試料1)及びミケリオシドB(試料2)は、優れたサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0137】
〔配合例1〕
下記組成に従い、乳液を常法により製造した。
ミケリオシドA(試料1) 0.5g
ホホバオイル 4.00g
1,3−ブチレングリコール 3.00g
アルブチン 3.00g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
オリーブオイル 2.00g
スクワラン 2.00g
セタノール 2.00g
モノステアリン酸グリセリル 2.00g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
グリチルリチン酸ステアリル 0.10g
黄杞エキス 0.10g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
イチョウ葉エキス 0.10g
コンキオリン 0.10g
オウバクエキス 0.10g
カミツレエキス 0.10g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0138】
〔配合例2〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
ミケリオシドB(試料2) 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0139】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
ミケリオシドA(試料1) 0.5g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の新規フェニルエタノイド配糖体は、活性酸素消去剤、ラジカル消去剤、グルタチオン産生抑制剤、美白剤、一酸化窒素産生抑制剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤又は抗肥満剤の有効成分として使用することができ、また皮膚化粧料に配合することができる。
【0141】
さらに、本発明の活性酸素消去剤及びラジカル消去剤は、しわ形成や弾力低下等の皮膚の老化;皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着;活性酸素が関与する各種疾患の予防、治療又は改善に、本発明のグルタチオン産生抑制剤は、しわ形成や弾力低下等の皮膚の老化;皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着;細胞内グルタチオン量の低下又は欠乏が関与する各種疾患の予防、治療又は改善に、本発明の美白剤は、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着の予防、治療又は改善に、本発明の一酸化窒素産生抑制剤及びヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤は、各種炎症性疾患の予防、治療又は改善に、本発明のサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤及び抗肥満剤は、肥満症等の疾患の予防、治療又は改善に、それぞれ大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされるフェニルエタノイド配糖体。
【化1】

【請求項2】
下記式(II)で表わされるフェニルエタノイド配糖体。
【化2】

【請求項3】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とする活性酸素消去剤。
【請求項4】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とするラジカル消去剤。
【請求項5】
請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とするグルタチオン産生抑制剤。
【請求項6】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とする美白剤。
【請求項7】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とする一酸化窒素産生抑制剤。
【請求項8】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とするヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤。
【請求項9】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とするサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤。
【請求項10】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を有効成分として含有することを特徴とする抗肥満剤。
【請求項11】
請求項1及び/又は請求項2に記載のフェニルエタノイド配糖体を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。

【公開番号】特開2013−35795(P2013−35795A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174409(P2011−174409)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】