説明

新規フェノール性2量体化合物

【課題】優れた抗癌活性を有する新規フェノール性2量体化合物、生成方法、新規フェノール性2量体化合物を抗癌剤、さらには食品、医薬品、医薬部外品を提供すること。
【解決手段】式(1):


で示される新規フェノール性2量体化合物又はその薬学的に許容可能な塩とその利用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規フェノール性2量体化合物および該新規フェノール性2量体化合物の製造方法、前記新規フェノール性2量体化合物を含有する抗癌剤、食品、医薬品及び医薬部外品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シナピン酸は植物の二次代謝産物の一つであり、樹木の主成分であるリグニンやリグナンの前駆体として植物界に多く存在する成分である。例えばリンゴなどの果実や、小麦などの穀物などに含まれている。また、シナピン酸の前駆体がアブラナ科の植物に多く含まれている。
【0003】
シナピン酸やシナピン酸誘導体の有用性の開示がある。例えば、シナピン酸を含有する抗菌剤(特許文献1)、シナピン酸におけるげっ歯類の脳保護効果および認知改善効果(非特許文献1)、シナピン酸誘導体を有効成分とする脳機能改善剤(特許文献2)、シナピン酸を有効成分とする抗酸化剤(特許文献3)、ジヒドロシナピン酸を有効成分とする抗酸化剤および発癌予防剤(特許文献4)が知られている。
【0004】
また、その有用性からシナピン酸誘導体を効率的に製造する技術の提案もなされている。例えば、ヒドロキシけい皮酸誘導体の製造方法(特許文献5)、キノベオン製造方法(特許文献6)、フェノール酸糖エステルの製造法(特許文献7)、キノリノン配糖体の製造方法(特許文献8)、酵素法によるフェルラ酸エステル類化合物の製造方法(特許文献9)、けい皮酸誘導体の酵素合成法(特許文献10)等が知られている。
【0005】
このようにシナピン酸およびその誘導体の有用性から、これらの化合物の製造方法は多数提案されているが、シナピン酸およびその誘導体を用いた更なる新規素材の開発や製造法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−194356号公報
【特許文献2】特開平7−179338号公報
【特許文献3】特開2000−256260号公報
【特許文献4】特開2003−95976号公報
【特許文献5】特開2003−55314号公報
【特許文献6】特許第3337251号公報
【特許文献7】特開平9−322794号公報
【特許文献8】特開平11−269191号公報
【特許文献9】特開2007−10号公報
【特許文献10】特開2009−207492号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】唐木田 文仁,金沢大学十全医学会雑誌 第117巻 第1号 2−9(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、シナピン酸に関する前記の状況を鑑みて、新規な生理活性又は、優れた生理活性を有するシナピン酸誘導体の探索と、その製造方法を確立すべく鋭意検討した結果、意外にもシナピン酸を金属塩存在下で加熱処理するという簡便且つ安全な方法により、シナピン酸には認められない優れた抗癌活性を有する化合物を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明は、優れた抗癌活性を有する新規フェノール性2量体化合物を提供し、さらに該新規フェノール性2量体化合物を、効率よく、安全に生成する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記新規フェノール性2量体化合物を含有することを特徴とする抗癌剤、さらには、食品、医薬品、医薬部外品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、
〔1〕式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
で示される新規フェノール性2量体化合物およびその薬学的に許容可能な塩、
〔2〕前記〔1〕記載の新規フェノール性2量体化合物およびその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤、
〔3〕前記〔1〕記載の新規フェノール性2量体化合物およびその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする食品、医薬品又は医薬部外品、
〔4〕シナピン酸を金属塩存在下で加熱処理することにより目的の化合物を生成することを特徴とする前記〔1〕記載の新規フェノール性2量体化合物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規フェノール性2量体化合物、又はその薬学的に許容可能な塩(以下、新規フェノール性2量体化合物という)は、シナピン酸に見られない優れた抗癌活性を有していることから、新規な抗癌剤として有用である。
また、本発明の新規フェノール性2量体化合物は、前記のような生理活性に優れることに加えて、安全性にも優れることから、食品、医薬品及び医薬部外品に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1で行ったHPLCの分析結果を示す。上から、反応前のクロマトグラム、(1)金属塩としてミネラルウォーターを用いたクロマトグラム、(2)ミネラルプレミックスを用いたクロマトグラム、(3)リン酸マグネシウム・3水和物を用いたクロマトグラムを示している。図中、Aのピークは本発明の新規フェノール性2量体化合物、Bのピークはシナピン酸の分解物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の新規フェノール性2量体化合物は、式(1):
【0016】
【化2】

【0017】
で示される新規フェノール性2量体化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0018】
前記新規フェノール性2量体化合物の薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩;アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩;α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩又はそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
以上のような構造を有する本発明の新規フェノール性2量体化合物は、当該分野で周知の方法に従って化学合成することも可能ではあるが、反応工程が複雑であり、有害な試薬や工程を必要とする。また、化学合成では不純物を除去する煩雑さもあり、さらに安全性の観点から、新規フェノール性2量体化合物の精製を徹底する必要もあり、工業的には不向きな方法である。
【0020】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、シナピン酸を金属塩存在下で加熱処理することで、前記の化学合成法のように有害な試薬や工程を必要とせずに、新規フェノール性2量体化合物を効率的で安全に製造することができることを見出した。以下に、本発明の新規フェノール性2量体化合物の製造方法(以下、本発明の製造方法)について具体的に説明する。
【0021】
本発明の製造方法では、前駆体としてシナピン酸を用いる。シナピン酸は、穀物から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のシナピン酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明の新規フェノール性2量体化合物が得られるから、シナピン酸以外の成分を含む混合物も使用できる。また、シナピン酸には、塩、エステル等の誘導体もあるが、本発明の製造方法では、これらの誘導体も原料として使用することができる。
ただし、新規フェノール性2量体化合物の回収率の観点からは、シナピン酸換算で5重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。このような原料としては、例えば、リンゴ果実、穀物等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0022】
本発明の製造方法では、シナピン酸を適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであれば、シナピン酸の水への溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類については特に制限はなく、シナピン酸が十分に溶解すれば良い。中でも、メタノールやエタノールのみの溶媒や、水とメタノール、水とエタノール等の混合液を使用することが、安全性やコスト面から好ましい。新規フェノール性2量体化合物を含む反応後組成物に対して最終的な精製を十分に適用せずにその組成物を食品に使用する場合には、安全性や法規面から溶媒としてエタノールや含水エタノールを使用することが望ましい。
得られるシナピン酸を含有する溶液中のシナピン酸の濃度について特に制限はないが、シナピン酸の濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、シナピン酸の濃度は溶媒に対しシナピン酸が飽和する濃度近くが好ましい。
【0023】
次に、前記シナピン酸を含有する溶液(以下、シナピン酸含有溶液)のpHを8未満に調整することが好ましい。調整方法として、例えば、シナピン酸含有溶液を調製した後にpH調整剤を添加してpHを調整しても良いし、前記溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。シナピン酸含有溶液の反応開始時のpHは8.0以上であれば、他の反応や目的化合物の分解も一方で生じるために最終的な新規フェノール性2量体化合物の回収量が低下する。したがって、反応開始時のpHは3以上8未満が望ましい。
【0024】
本発明の製造方法では、前記シナピン酸含有溶液中に金属塩を添加する。前記金属塩としては、酸性塩、塩基性塩、正塩のいずれでもよく、また、単塩、複塩、錯塩のいずれでもよい。さらに、金属塩は1種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。金属塩の例としては、食品添加物として認可されているものが安全性の面で好ましい。例えば、食品に添加することが認められているマグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩等が挙げられる。
また、前記金属塩の混合物としては、例えば、ミネラルプレミックス(田辺製薬株式会社、グルコン酸亜鉛、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸カルシウム、グルコン酸銅、リン酸マグネシウムを主成分としたミネラル混合物)のように金属塩を数種類含む物質が挙げられる。また、複数の金属塩を含む混合物として、ミネラルウォーターも挙げることができる。
なお、前記金属塩の含有量としては、新規フェノール性2量体化合物を生成可能な量であればよく、特に限定はない。
【0025】
次に、金属塩存在下で、シナピン酸含有溶液を加熱処理する。この加熱処理により、新規フェノール性2量体化合物の生成反応を行う。生成反応を効率的に進ませるために、シナピン酸含有溶液の加熱温度は110℃以上に調整することが好ましい。また、使用する溶媒の沸点から考え、加圧加温が望ましい。例えば、開放容器にシナピン酸含有溶液を入れ、溶媒の沸点を超える高温で前記容器を加温する、密閉容器にシナピン酸含有溶液を入れて前記容器を加温する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加温する等、少なくとも部分的に溶液温度が110℃以上に達するように加熱することが好ましい。回収効率面から、溶液温度が均一に110℃〜150℃になることが、さらに好ましい。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近で加熱する場合は、5分〜120分の加熱時間が望ましい。また、加熱は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良い。複数回に分けて加熱する場合、蒸発した溶媒を補うために溶媒を新たに追加して行うことが好ましい。
【0026】
前記加熱処理による新規フェノール性2量体化合物の生成反応の終了は、例えば、HPLCによる成分分析により新規フェノール性2量体化合物の生成量を確認して判断すればよい。
【0027】
得られる反応液中には、本発明の新規フェノール性2量体化合物が含有されている。
また、安全な原料のみを用いた工程で新規フェノール性2量体化合物を製造した場合には、前記新規フェノール性2量体化合物を含む混合物の状態で食品、医薬品または医薬部外品に使用することが可能である。例えば、天然由来のシナピン酸を含水エタノール溶媒に溶解し、ミネラルウォーターやミネラルプレミックスを添加して加熱処理した場合には、得られる反応液を食品原料の一つとして使用することが可能である。
【0028】
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記反応液を濃縮して新規フェノール性2量体化合物の濃度を高める、あるいは前記反応液を精製し新規フェノール性2量体化合物の純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出して新規フェノール性2量体化合物を濃縮できる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0029】
また、前記反応液から式(1)で表される新規フェノール性2量体化合物を分離して回収する場合には、カラムクロマトグラフィー、HPLC等を用いてもよい。
【0030】
前記濃縮物や精製物を、必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状の新規フェノール性2量体化合物を得ることができる。
【0031】
以上のようにして得られる本発明の新規フェノール性2量体化合物は、シナピン酸には認められない優れた抗癌活性を有する。したがって、新規フェノール性2量体化合物を有効成分として含有する抗癌剤を提供することができる。
【0032】
特に、本発明の新規フェノール性2量体化合物の生理活性分野を考慮すると、癌予防・治療等の健康増進、さらには疾病治癒分野において用いることが好ましい。
【0033】
なお、本発明で得られた新規フェノール性2量体化合物が持つさらなる効果効能は、得られた生理活性データより類推できる範囲で使用できる。
【0034】
原料であるシナピン酸の安全性が確認されていることから、本発明の新規フェノール性2量体化合物の安全性も同様に優れたものであると考えられる。
【0035】
また、本発明の新規フェノール性2量体化合物は、抗癌効果を目的として、液状、ペースト状、ゲル状、固形状などの様々な形態の食品、医薬品、医薬部外品等に配合して使用することができる。
【0036】
前記食品としては、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子等、どのような形態でもよく、菓子類の中でも、その容量等から保存や携帯に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等が挙げられるが、特に限定はない。また、新規フェノール性2量体化合物は、後述のように、癌に対する優れた抗癌活性を有することから、現在問題になっている癌に対する予防を目的に、容易に摂取できるキャンディー、グミキャンディ、タブレット等にすることができる。なお、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品等も含まれる。
【0037】
前記医薬品としては、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、ゲル剤等が挙げられる。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施してもよいし、胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、前記の製剤を公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、前記液剤を注射剤、点滴剤に配合して使用してもよい。
【0038】
医薬部外品としては、保健薬、ドリンク剤等が挙げられる。
【0039】
本発明の新規フェノール性2量体化合物を用いて食品、医薬品または医薬部外品を調製する場合、本発明の効果が損なわれない範囲内で食品、医薬品または医薬部外品に通常用いられる成分を適宜任意に配合することができる。
例えば、食品の場合には、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤などのような食品に通常配合される原料または素材と組み合わせることができる。
医薬部外品の場合には、主剤、基材、界面活性剤、起泡剤、湿潤剤、増粘剤、透明剤、着香料、着色料、安定剤、防腐剤、殺菌剤などに組み合わせ、常法に基づいて、液状、錠剤などの最終形態等にすることができる。
【0040】
本発明の新規フェノール性2量体化合物を食品に添加する場合には、該食品中に対して、通常は0.001〜20重量%添加することが好ましい。
【0041】
本発明の新規フェノール性2量体化合物を医薬用途で使用する場合、例えば、その摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。前記摂取量は、1日当たり約0.1mg〜1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1〜4回に分けて摂取することができる。
【0042】
本発明の新規フェノール性2量体化合物を医薬部外品に添加する場合には、該医薬部外品中に、通常0.001〜30重量%添加するのが好ましい。
【0043】
また、本発明の新規フェノール性2量体化合物は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤または飼料に配合してもよい。飼料としては、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフードが挙げられる。
【0044】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
(実施例1:シナピン酸からの重合化合物の生成)
シナピン酸(和光純薬工業(株)製)100mgをエタノール2mLに溶解し、(1)ミネラルウォーター(商品名「ゲロルシュタイナー」サッポロ飲料(株)製)2mL、(2)ミネラルプレミックス100mg、水2mL、(3)リン酸マグネシウム・3水和物(和光純薬工業(株)製、ミネラルプレミックスの主成分)100mg、水2mLをそれぞれ加えて、レスベラトロール、フェルラ酸含有溶液(pH:(1)4.8、(2)5.3、(3)5.5)を3種類調製した。3種のシナピン酸含有溶液をオートクレーブ(三洋電機(株)製、「SANYO LABO AUTOCLAVE」)にて130℃、40分間加熱した。得られた反応後組成物1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、このうちの10μLをHPLCにより分析した。
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0046】
実施例1で得られたクロマトグラムを図1に示す。上から、反応前、(1)、(2)、(3)のクロマトグラムを示している。図中Bのピークはシナピン酸の分解物であり、それ以外に顕著な差があったのがAのピークである。また、(1)のミネラルウォーターを用いたものがAのピークの生成量がもっとも多かった。
【0047】
(実施例2:フェノール性2量体化合物の大量反応)
実施例1で得られた結果から、シナピン酸500mgをエタノール10mLに溶解し、ミネラルウォーター10mLを混合してシナピン酸含有溶液(pH=4.8)を得た。このシナピン酸含有溶液をオートクレーブにて130℃、90分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLを取り出して、メタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析したところ、実施例1と同様のクロマトグラムが確認できた。
【0048】
(実施例3:フェノール性2量体化合物の単離・構造決定)
実施例1で得られた反応物のうち、図1のAで示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離した。常法に従って、乾燥したところ、褐色粉末状の化合物(以下、UHA9019)が59.8mg得られた。
【0049】
次いで、前記UHA9019の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization−Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は360.4005であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
UHA9019
理論値C20H24O6(M+): 360.4010
分子式C20246
【0050】
次に、前記UHA9019を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、UHA9019が前記式(1)で表される構造を有することを確認した。このことから、式(1)で表されるフェノール性2量体化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
なお、NMR測定値について、式(1)で表されるUHA9019の各部位を
【0051】
【化3】

【0052】
とし、1H核磁気共鳴スペクトル、13C核磁気共鳴スペクトルをそれぞれ表1で示す。
値はδ、ppmで、メタノール−d3で測定した値である。
【0053】
【表1】

【0054】
また、UHA9019の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
褐色粉末
(溶解性)
水: 難溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
【0055】
(実施例4:UHA9019のヒト骨髄球性白血病細胞に対する抗癌作用)
次に癌細胞に対するUHA9019の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemia cells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0056】
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine シグマアルドリッチジャパン社製)、10%ウシ胎児血清(Foetal Bovine Serum:FBS、バイオロジカルインダストリーズ社製)を含む高栄養培地「RPMI−1640」(シグマアルドリッチジャパン(株)製)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(コーニングジャパン(株)製)を用い、5×105cells/mLとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μLずつ播種して試験に使用した。
【0057】
試料は、シナピン酸及び本発明品であるUHA9019の2種類を用いた。試料調製は、各々の化合物をジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、HL−60細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように添加して、37℃、5%CO2の培養条件下で試験を開始した。なお、溶媒であるDMSOのみを同量添加したものをネガティブコントロールとした。
【0058】
生存細胞数の定量は「Cell counting kit−8」((株)同仁化学研究所製)を用いたMTT法にて行った。つまり、試験開始より24時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μL添加し、よく攪拌した。37℃、5%CO2条件下で1時間の遮光反応を行った。その後にプレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」、バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC50(half maximal inhibitory concentration:50%阻害濃度)を算出した(表2)。これらの結果から、UHA9019は原料であるシナピン酸にはない優れた癌細胞増殖抑制能が認められた。
【0059】
【表2】

【0060】
(実施例5:加熱温度によるUHA9019の生成量の違い)
シナピン酸100mg、エタノール2mL、ミネラルウォーター2mLの混合溶液(pH=4.8)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で30分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0061】
その結果、110℃以上でUHA9019の生成は確認できた。シナピン酸量からの生成比率(重量%)は、70℃、90℃が非生成、110℃が極微量、130℃が4.5%となり、130℃での加熱がもっとも多くUHA9019が生成していた。
【0062】
(実施例6:UHA9019含有エキスの調製)
りんご濃縮7倍果汁15g、エタノール10mL、ミネラルウォーター10mLを加えて調製した混合溶液(pH=3.5)を、オートクレーブにて130℃、90分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、UHA9019含有エキスを10g得た。得られたUHA9019含有エキス10g中には、実施例3と同様の手法で確認したところUHA9019が0.045g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0063】
(実施例7:UHA9019を含有する食品)
実施例6で得たUHA9019含有エキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。このミルクハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できる。
【0064】
(実施例8:UHA9019を含有する医薬品)
実施例2,3と同様の方法で得たUHA9019をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに添加して吸着させた後に、減圧乾燥させた。この吸着物を用いて常法に従い、打錠品を得た。処方は、UHA9019を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌の治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。
【0065】
(実施例9:UHA9019を含有する医薬部外品)
実施例2、3の方法で得たUHA9019 1.2gを10mLのエタノールに溶解し、これにタウリン20g、ビタミンB1硝酸塩0.12g、安息香酸ナトリウム0.6g、クエン酸4g、砂糖60g、ポリビニルピロリドン10gを溶解させた精製水を混合し、さらに精製水で1000mLにメスアップした。なお、pHは、希塩酸を用いて3.2に調整した。得られた溶液1000mLのうち50mLをガラス瓶に充填し、80℃で30分間滅菌して、医薬部外品であるドリンク剤を完成させた。本ドリンク剤は、栄養補給の目的に加えて、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を目的とする医薬部外品として有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示される新規フェノール性2量体化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載の新規フェノール性2量体化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤。
【請求項3】
請求項1記載の新規フェノール性2量体化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする食品、医薬品、又は医薬部外品。
【請求項4】
シナピン酸を金属塩存在下で加熱処理することにより目的の化合物を生成することを特徴とする、下記式(1)で表される新規フェノール性2量体化合物の製造方法。
【化2】


【図1】
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【公開番号】特開2012−224604(P2012−224604A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96223(P2011−96223)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】