説明

新規フルオレン化合物

【課題】発光特性や電荷輸送能などを有する新規なフルオレン化合物を提供する。
【解決手段】塩基の存在下で、下記式(1a)で表されるジカルボン酸のエステルと、下記式(1b)で表される化合物とを反応させる。


(式中、R、R、Rは同一又は異なって水素原子又は置換基、Rは置換基、mは0〜3の整数を示し、2つのRは互いに結合して環を形成していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料(又はその原料又は前駆体)などとして使用できる新規なフルオレン化合物、このフルオレン化合物の製造方法および前記フルオレン化合物を含む配位化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光、高速応答性、高視野角の特徴を有するフラットパネルディスプレイとして、有機エレクトロルミネッセンス素子などが注目されている。そして、このような有機エレクトロルミネッセンス素子の構成材料として、有機発光材料への関心が高まっている。
【0003】
例えば、特許第4149072号公報(特許文献1)には、特定の構造を有する環状アジン化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。
【0004】
ホウ素錯体や金属錯体を発光材料や電子輸送材料として用いる試みもなされている。例えば、特許第3896947号公報(特許文献2)には、フェニルピリジンなどの窒素原子含有芳香族化合物と、イリジウムなどとの錯体化合物をりん光発光剤として使用できることが記載されている。また、特開2000−30869号公報(特許文献3)には、陽極、発光層、陰極とを少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層と前記陰極との間に、特定のホウ素又は金属のβ−ジケトン錯体を含む電子輸送層を設けた有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。
【0005】
しかし、このような従来の材料では、発光特性そのものが十分でなかったり、溶媒に対する溶解性や樹脂(例えば、発光層や電荷輸送層を構成する樹脂)などに対する相溶性に乏しいため、成形性の点で十分でなかったり、析出などにより安定的な発光特性を維持しにくいなど、改善すべき点もあった。このような状況の中、さらなる優れた材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4149072号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3896947号公報(特許請求の範囲、段落[0039])
【特許文献3】特開2000−30869号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、発光材料(又は発光材料の原料又はその前駆体)などとして有用な新規なフルオレン化合物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、発光材料や電荷輸送剤などとしての実用性に優れる新規なフルオレン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格と2つのβ−ジケトン構造(又はそのエノール構造)とを有する新規なフルオレン化合物やこの化合物(又はβ−ジケトン)を配位子とする配位化合物(例えば、ホウ素錯体)が、発光材料などとして好適であること、また、このような化合物が溶媒溶解性や樹脂に対する相溶性(又は分散性)などに優れ、発光材料や電荷輸送材料などとして実用に優れた材料であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のフルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R、R、Rは同一又は異なって水素原子又は置換基、Rは置換基、mは0〜3の整数を示し、2つのRは互いに結合して環を形成していてもよい。)
上記式(1)において、Rは、例えば、炭化水素基、複素環基又は2つのRが互いに結合して形成された炭化水素環であってもよく、Rは、炭化水素基であってもよく、mは0又は1であってもよく、Rは水素原子又は炭化水素基であってもよく、Rは脂肪族基又は芳香族基であってもよく、R〜Rはさらに置換基(例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基など)を有していてもよい。
【0013】
代表的には、前記式(1)において、Rは、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基(例えば、C4−20アルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、又は2つのRが互いに結合して形成された芳香族炭化水素環(例えば、フルオレン環など)であってもよく、mは0であってもよく、Rは水素原子であってもよく、Rは芳香族基[例えば、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基(例えば、アリール基)]であってもよく、R〜Rはさらに置換基を有していてもよい。
【0014】
前記式(1)において、Rは、さらに、ハロゲン原子、アルカンスルホニルオキシ基、ハロアルカンスルホニルオキシ基、又はアリールスルホニルオキシ基を置換基として有していてもよい。このような置換基は、カップリング反応における脱離基として利用でき、前記フルオレン化合物を用いてさらに高分子量化する場合に好適である。脱離基をさらに有する基Rとしては、代表的には、ハロゲン原子を有する芳香族炭化水素基(又はハロアリール基)などが挙げられる。
【0015】
本発明には、塩基の存在下で、下記式(1a)で表されるジカルボン酸のエステルと、下記式(1b)で表される化合物とを反応させ、前記フルオレン化合物を製造する方法も含む。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
本発明のフルオレン化合物は、配位化合物(又は錯体)の配位子として用いることで、さらに、発光特性などを向上できる。そのため、本発明には、前記フルオレン化合物(前記式(1)で表される化合物)を配位子とする配位化合物(前記式(1)で表される化合物を構成する2つのエノール骨格の少なくとも一方が配位した化合物)も含まれる。このような配位化合物は、例えば、下記式(2)で表される構造を有する化合物であってもよい。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Mはホウ素、リン又は金属を示し、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
上記式(2)において、Mは、例えば、ホウ素又は遷移金属(例えば、希土類元素、貴金属など)であってもよい。
【0020】
代表的な配位化合物には、下記式(2A)で表される化合物などが含まれる。
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、Lは配位子及び/又は置換基を示し、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
上記式(2A)において、Lは、特に、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子など)であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のフルオレン化合物(又はその配位化合物)は、フルオレン骨格(特に、9位に置換基が置換したカルド構造)と2つのβ−ジケトン構造(又はそのエノール構造)とを有する構造を有しており、発光特性(蛍光やりん光を発する性質)や電荷輸送能を有している。そのため、本発明のフルオレン化合物は、発光材料(又は発光材料の原料又はその前駆体)などとして有用である。
【0024】
また、このような本発明のフルオレン化合物(又はその配位化合物)は、カルド構造を有している場合が多く、特に、フルオレン骨格(例えば、フルオレンの9位)に、アルキル基やアリール基などの置換基を導入することなどにより、容易に結晶性を低下させることができる。そのため、本発明のフルオレン化合物は、溶媒溶解性に優れ、樹脂に対する相溶性(又は分散性)などにも優れ、発光特性などの特性のムラや、析出などに伴う諸特性(発光特性、電荷輸送能など)の低下を抑制できる。さらに、他の発光材料などに対する分散性にも優れているため、他の発光材料などと組み合わせても容易に発光特性などを向上させやすい。このように、本発明のフルオレン化合物(又はその配位化合物)は、成形性に優れているとともに、諸特性(発光特性、電荷輸送能など)を長期に亘って安定的に維持できる材料であり、発光材料や電荷輸送剤などとしての実用性に極めて優れている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[フルオレン化合物]
本発明の新規なフルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R、R、Rは同一又は異なって水素原子又は置換基、Rは置換基、mは0〜3の整数を示し、2つのRは互いに結合して環を形成していてもよい。)
上記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、飽和脂肪族炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基などのC1−20アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基)]、不飽和脂肪族炭化水素基[例えば、アルケニル基(例えば、アリル基などのC2−20アルケニル基)、シクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基などのC5−10シクロアルケニル基)など]、芳香族炭化水素基[例えば、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−10アリール基)、ビフェニリル基など]、芳香脂肪族炭化水素基[例えば、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリールC1−4アルキル基)など]などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1−10アルコキシ基、好ましくはC1−6アルコキシ基など)などの基−OR10[式中、R10は炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基、好ましくはC1−6アルキルチオ基など)などの基−SR10(式中、R10は前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−10アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシ基;アミノ基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0028】
なお、置換基としてのR[例えば、炭化水素基(アルキル基、アリール基など)など]は、さらに、置換基を有していてもよい。置換基としては、上記例示の置換基(例えば、基−OR10、基−SR10、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基などの炭化水素基でない基)が挙げられる。置換基Rに置換する置換基は単独で又は2種以上組み合わせて置換していてもよい。
【0029】
また、前記式(1)において、2つの基Rは、互いに結合して環を形成していてもよい(すなわち、2つの基Rはフルオレン環とともにスピロ環を形成してもよい)。環としては、炭化水素環[例えば、シクロアルカン環(例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環などのC5−10シクロアルカン環)などの脂肪族炭化水素環;単環式アレーン環(例えば、ベンゼン環などのC6−10単環式アレーン環)、縮合多環式アレーン環(例えば、ナフタレン環、フルオレン環などの縮合2乃至4環式アレーン環など)などの芳香族炭化水素環]、複素環[例えば、窒素含有複素環(例えば、ピペリジン環など)、酸素含有複素環(例えば、キサンテン環など)など]などが挙げられる。
【0030】
これらの環もまた、前記と同様に、さらに、単独で又は2種以上組み合わせて置換基(例えば、基−OR10、基−SR10、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基などの炭化水素基でない基)を有していてもよい。
【0031】
代表的な基Rとしては、例えば、置換基を有していてもよい炭化水素基{例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基[例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基(4−ヒドロキシフェニル基など)、ヒドロキシトリル基(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル基など)、ヒドロキシキシリル基(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル基など)、ヒドロキシビフェニリル基(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル基など)、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基(例えば、6−ヒドロキシ−2−ナフチル基など)、アルコキシフェニル基(例えば、メトキシフェニル基など)など]、アラルキル基(例えば、ベンジル基)など}、2つの基Rが互いに結合して環を形成した基などが挙げられる。
【0032】
好ましい基Rとしては、溶媒溶解性や製膜性などの観点から、長鎖アルキル基[例えば、炭素数4以上のアルキル基(例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのC4−20アルキル基、好ましくはC4−16アルキル基、さらに好ましくはC4−12アルキル基、特にC6−12アルキル基)など]、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)などの炭素数が比較的大きな基(特に疎水性基)などが含まれる。また、好ましい基Rには、2つの基Rが結合して置換基を有していてもよい炭化水素環(例えば、フルオレン環などの芳香族炭化水素環)を形成した環も含まれる。
【0033】
なお、2つの基Rがフルオレン環(置換基を有していてもよいフルオレン環)を形成した化合物としては、例えば、下記式で表される化合物(すなわち、2つのフルオレン環の9位でスピロ環を形成した化合物)が挙げられる。
【0034】
【化6】

【0035】
(式中、R〜R、mは前記と同じ。)
前記式(1)において、基Rとしては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、特に、アルキル基などである場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−12アルキル基(例えば、C1−8アルキル基、特にメチル基などのC1−4アルキル基)などが例示できる。なお、mが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数mは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0036】
前記式(1)において、置換基Rとしては、前記RおよびRの項で例示の置換基が挙げられる。なお、置換基Rが嵩高すぎる(又は大きすぎる)と、後述の配位化合物を形成しにくくなる場合がある。そのため、配位化合物を形成する場合、置換基Rは、比較的嵩高くない置換基であるのが好ましい。代表的な置換基Rとしては、炭化水素基(例えば、アルキル基など)などが含まれる。好ましい基Rは、水素原子、アルキル基などであり、特に、水素原子であってもよい。2つの基Rは、同一又は異なる基であってもよい。なお、置換基R(例えば、炭化水素基など)は、Rが水素原子である化合物を利用して得ることもできる。
【0037】
前記式(1)において、置換基Rとしては、脂肪族基[例えば、前記RおよびRの項で例示の脂肪族基[例えば、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基など)、基−OR10(アルコキシ基など)、基−SR10、アシル基、アルコキシカルボニル基など]、芳香族基(又は芳香環基)などが挙げられる。
【0038】
好ましい基Rとしては、発光特性などの観点から、芳香環基(芳香族基)、例えば、芳香族炭化水素基[例えば、単環式アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基など)、縮合多環式芳香族炭化水素基(例えば、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基などの縮合2乃至4環式芳香族炭化水素基など)などのアリール基]、芳香族複素環基{例えば、単環式芳香族複素環基[例えば、窒素原子含有単環式芳香環(ピロール環など)基、酸素含有単環式芳香環(フラン環など)基、硫黄原子含有単環式芳香環(チオフェン環など)基など]、縮合多環式芳香族複素環基[例えば、窒素含有縮合多環式芳香族環(例えば、キノリン環、カルバゾール環、フェナトリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環など)基、酸素含有縮合多環式芳香族環(例えば、キサンテン環など)基、硫黄含有縮合多環式芳香族環(例えば、チアントレン環など)基、複数のヘテロ原子を含む縮合多環式芳香族環基(例えば、フェノチアジン環、フェノキサジン環など)基など]など}、これらの芳香族基が直接結合(−)又は連結基(例えば、エーテル基(−O−)、カルボニル基(−CO−)、オキシカルボニル基(−OCO−)、チオ基(−S−)、スルホニル基(−SO−)など)を介して結合した基(例えば、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基が結合した基、ビチオフェン環基などの芳香族複素環が結合した基)などが挙げられる。特に、基Rは、芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基などの単環式アリール基)であってもよい。
【0039】
なお、置換基R(例えば、芳香環基)もまた、前記と同様に、さらに、単独で又は2種以上組み合わせて置換基[例えば、炭化水素基(アルキル基など)、基−OR10(アルコキシ基など)、基−SR10(アルキルチオ基など)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基などの前記例示の置換基]を有していてもよい。
【0040】
特に、置換基R(例えば、芳香族基)は、カップリング反応(例えば、鈴木−宮浦クロスカップリング反応)に利用できる脱離可能な置換基(脱離性置換基)として有していてもよい。このような脱離性の置換基(又は官能基)を置換基として有しているフルオレン化合物は、カップリング反応の基質(例えば、ボロン酸など)との反応により、容易に高分子化ないしポリマー化できる場合があるため、このような高分子化又はポリマー化のための原料(又は前駆体)として好適に用いることができる。このような脱離性の置換基としては、前記例示のハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)の他、基RSO−(式中、Rはハロゲン原子により置換されていてもよい炭化水素基を示す。)などが含まれる。基RSO−において、炭化水素基としては前記例示の炭化水素基などが挙げられ、ハロゲン原子もまた前記例示のハロゲン原子が挙げられる。代表的な脱離性の置換基(脱離基)としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルカンスルホニルオキシ基(例えば、メタンスルホニルオキシ基などのC1−4アルカンスルホニルオキシ基)、ハロアルカンスルホニルオキシ基(例えば、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基などのハロC1−4アルカンスルホニルオキシ基)、アリールスルホニルオキシ基(例えば、トシルオキシなどのC6−10アリールスルホニルオキシ基など)などが挙げられる。脱離基は、単独で又は2種以上組み合わせてもよく、通常、置換基Rに1つの脱離基が置換していてもよい。また、2つの置換基としてのRに置換する脱離基は、同一又は異なる基であってもよい。
【0041】
代表的な脱離基を有する基Rとしては、脱離基を有する芳香族炭化水素基[例えば、ハロアリール基(例えば、ハロフェニル基、ハロナフチル基など)など]などの脱離基を有する芳香環基などが挙げられる。
【0042】
なお、式(1)において、2つの基−COCR=CR(OH)の置換位置は、フルオレン骨格の1〜4位のいずれかの位置および5〜8位のいずれかの位置であればよいが、通常、フルオレン骨格の2位および7位である場合が多い。
【0043】
なお、本発明のフルオレン化合物は、前記式(1)に示すように、1,3−ジケトン(β−ジケトン)構造の異性体であるエノール構造(すなわち、基−CO−CR=C(OH)−)を有しているが、このエノール構造の一部は、ケト−エノール互変異性により、1,3−ジケトン構造(すなわち、基−CO−CR−CO−)を有していてもよい(すなわち、下記式(1’)で表される化合物であってもよい)。
【0044】
【化7】

【0045】
(式中、R〜R、mは前記と同じ。)
具体的な式(1)で表されるフルオレン化合物としては、例えば、9,9−ジアルキル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−アリール−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン{例えば、9,9−ジ(2−エチルヘキシル)−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−フェニル−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン[又は3,3’−(9,9−ジ(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−フェニルプロパン−3−オン)]などの9,9−ジC4−20アルキル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−C6−10アリール−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン}、9,9−ジアリール−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−アリール−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン{例えば、9,9−ジフェニル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−フェニル−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレンなどの9,9−ジC6−10アリール−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−C6−10アリール−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン}、2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−アリール−2−プロペン−1−オン−1−イル]−9,9’−スピロビフルオレン{例えば、2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−フェニル−2−プロペン−1−オン−1−イル]−9,9’−スピロビフルオレンなどの2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−C6−10アリール−2−プロペン−1−オン−1−イル]−9,9’−スピロビフルオレン}、9,9−ジアルキル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−(アルコキシアリール)−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン{例えば、9,9−ジ(2−エチルヘキシル)−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−(4−メトキシフェニル)−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレンなどの9,9−ジC4−20アルキル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−(C1−4アルコキシC6−10アリール)−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン}、9,9−ジアルキル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−(ハロアリール)−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン{例えば、9,9−ジ(2−エチルヘキシル)−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−(4−ヨードフェニル)−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレンなどの9,9−ジC4−20アルキル−2,7−ジ[3−ヒドロキシ−3−(ハロC6−10アリール)−2−プロペン−1−オン−1−イル]フルオレン}などの前記式(1)において、2つのRが炭化水素基(特に、アルキル基、アリール基など)であるか又は互いに結合して炭化水素環(特に、芳香族炭化水素環)を形成し、mが0、Rが水素原子、Rが置換基[特にハロゲン原子などの脱離基(カップリング反応における脱離基)]を有していてもよい芳香族基である化合物などが挙げられる。
【0046】
(フルオレン化合物の製造方法)
本発明のフルオレン化合物(前記式(1)で表される化合物)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、塩基の存在下で、下記式(1a)で表されるジカルボン酸又はその誘導体(例えば、エステルなどの誘導体)と、下記式(1b)で表される化合物(カルボニル化合物)とを反応させることにより効率よく得ることができる。すなわち、塩基の存在下で、これらを反応させることで、クライゼン縮合様の反応が進行し、前記式(1)で表される化合物(β−ジケトンのエノール形化合物)が得られる。
【0047】
【化8】

【0048】
(式中、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
代表的な上記式(1a)で表される化合物としては、例えば、9,9−ジアルキル−2,7−ジカルボキシフルオレン{例えば、9,9−ジ(2−エチルヘキシル)−2,7−ジカルボキシフルオレンなどの9,9−ジC4−20アルキル−2,7−ジカルボキシフルオレン}、9,9−ジアリール−2,7−ジカルボキシフルオレン{例えば、9,9−ジフェニル−2,7−ジカルボキシフルオレンなどの9,9−ジC6−10アリール−2,7−ジカルボキシフルオレン}、2,7−ジカルボキシ−9,9’−スピロビフルオレン{例えば、2,7−ジカルボキシ−9,9’−スピロビフルオレンなどの2,7−ジカルボキシ−9,9’−スピロビフルオレン}などの前記式(1a)において、2つのRが炭化水素基(特に、アルキル基、アリール基など)であるか又は互いに結合して炭化水素環(特に、芳香族炭化水素環)を形成し、mが0である化合物などが挙げられる。
【0049】
反応において、前記式(1a)で表される化合物(ジカルボン酸)は、誘導体化して用いる場合が多い。誘導体としては、式(1b)で表される化合物との反応を阻害しない誘導体であれば特に限定されず、エステルや酸ハライド(酸クロライドなど)などであってもよいが、特に、効率よく反応させるという観点からは、前記式(1a)で表される化合物のエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル(低級アルキルエステル)、好ましくはC1−2アルキルエステル)を好適に用いることができる。なお、エステルは、通常、ジエステルであってもよい。
【0050】
なお、式(1a)で表されるジカルボン酸の誘導体(エステルなど)は、市販品を利用してもよく、式(1a)で表されるジカルボン酸を慣用の方法により誘導体化したものを用いてもよい。例えば、エステルは、式(1a)で表される化合物と、アルコール(例えば、メタノール、エタノールなど)とを、触媒[酸触媒(例えば、塩酸、硫酸などの無機酸;スルホン酸(例えば、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸など)などの有機酸)、塩基触媒など]の存在下で、反応させることにより得ることができる。
【0051】
代表的な前記式(1b)で表される化合物としては、アレーンカルバルデヒド(例えば、ベンズアルデヒドなどのC6−10アレーン−カルバルデヒド)などのアルデヒド類;アルキルアリールケトン(例えば、アセトフェノンなどのメチルC6−10アリールケトン)、アルキル(アルコキシアリール)ケトン[例えば、4−メトキシアセトフェノンなどのメチル(C1−4アルコキシC6−10アリール)ケトン]、アルキル(ハロアリール)ケトン[例えば、4−ヨードアセトフェノンなどのメチル(ハロC6−10アリール)ケトン]などのケトン類{例えば、前記式(1b)において、Rが水素原子、Rが置換基[特にハロゲン原子などの脱離基(カップリング反応における脱離基)]を有していてもよい芳香族基である化合物など}などが挙げられる。
【0052】
反応において、式(1a)で表されるジカルボン酸又はその誘導体(エステルなど)と、式(1b)で表される化合物との使用割合は、通常、理論量程度[例えば、前者/後者(モル比)=0.75/1〜0.35/1、好ましくは0.65/1〜0.4/1、さらに好ましくは0.55/1〜0.45/1程度]であってもよい。
【0053】
反応に使用する塩基(塩基触媒)としては、クライゼン縮合(又はクライゼン縮合様の反応)を効率よく進行させることができれば特に限定されず、例えば、水素化金属[例えば、水素化アルカリ金属(例えば、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなど)、水素化アルカリ土類金属(例えば、水素化カルシウムなど)、水素化アルミニウム、水素化アルミニウムリチウムなど]、金属アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド)、有機金属化合物(例えば、リチウムジイソプロピルアミドなど)などが挙げられる。これらの塩基は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0054】
塩基の使用量は、式(1a)で表されるジカルボン酸又はその誘導体1モルに対して、例えば、2モル以上(例えば、2〜15モル)、好ましくは2〜10モル(例えば、2.5〜8モル)、さらに好ましくは2〜7モル(例えば、3〜5モル)程度であってもよい。
【0055】
反応は、必要に応じて、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、通常、非プロトン性溶媒、例えば、エーテル系溶媒(ジフェニルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなど)、スルホン類(スルホラン、ジメチルスルホンなどの脂肪族スルホン、ジフェニルスルホンなどの芳香族スルホンなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)が挙げられる。溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0056】
溶媒の使用量は、例えば、前記式(1a)で表されるジカルボン酸又はその誘導体および前記式(1b)で表される化合物の総量1重量部に対して、例えば、0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、好ましくは1〜15重量部程度であってもよい。
【0057】
反応温度は、例えば、0〜150℃、好ましくは20〜100℃、さらに好ましくは30〜80℃(例えば、40〜70℃)程度であってもよい。また、反応時間は、例えば、30分〜60時間、好ましくは1〜48時間、好ましくは3〜36時間程度であってもよい。
【0058】
反応は、空気中で行ってもよく、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下又は流通下で行ってもよい。また、反応は、常圧下、加圧下、又は減圧下で行ってもよい。さらに、反応は、攪拌しながら行ってもよく、還流しながら行ってもよい。
【0059】
前記反応後、生成物は、塩基によりアニオン化(1,3−ジケトン構造の2位の炭素原子がアニオン化)されている場合が多い。そのため、反応後、適当な方法で、生成物をプロトン化し、最終生成物を得てもよい。プロトン化方法としては、特に限定されないが、反応後の生成物に、プロトン性溶媒(例えば、水など)を混合する場合が多い。なお、効率よくプロトン化を行うため、プロトン性溶媒は、通常、酸成分(例えば、塩化水素などの無機酸)を含んでいてもよい。
【0060】
生成物(最終生成物)は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0061】
[配位化合物]
本発明のフルオレン化合物は、フルオレン骨格[特に、9位に置換基(炭化水素基など)を有するフルオレン骨格]と、1,3−ジケトン骨格(又はそのエノール体骨格)とを組み合わせて有しており、通常、発光特性、電荷輸送能などを有している。また、溶媒に対する溶解性や、樹脂に対する分散性又は相溶性にも優れている。
【0062】
このような本発明のフルオレン化合物は、前記のように発光特性などを有するため単独でも使用可能であるが、1,3−ジケトン骨格を利用して配位化合物を形成することにより、より一層、発光特性などを向上できる。そのため、本発明のフルオレン化合物は、このような配位化合物を得るための中間体(前駆体又は原料)としても利用できる。以下、配位化合物について詳述する。
【0063】
本発明の配位化合物(錯体又は錯体化合物)は、前記フルオレン化合物(式(1)で表される化合物)を配位子(二座配位子)とする配位化合物である。すなわち、配位化合物は、電子供与体又は配位子(ドナー)としてのフルオレン化合物(又はその1,3−ジケトン骨格又はそのエノール体骨格)と、電子受容体(アクセプター)とを含む化合物である。
【0064】
電子受容体は、1,3−ジケトン骨格と錯形成できればよく(すなわち、配位数2以上であればよく)、金属{例えば、典型金属[例えば、アルカリ金属(リチウムなど)、アルカリ土類金属(例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなど)、周期表第13〜16族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ビスマスなど)など]、遷移金属[例えば、周期表第3族金属(スカンジウム、イットリウム、ランタノイド(ランタン、セリウム、サマリウム、ルテチウムなど)など)、周期表第4族金属(チタン、ジルコニウム、ハフニウムなど)、周期表第5族金属(例えば、バナジウム、ニオブ、タンタルなど)、周期表第6族金属(例えば、クロム、モリブデン、タングステンなど)、周期表第7族金属(例えば、マンガン、レニウムなど)、周期表第8族金属(例えば、鉄、ルテニウム、オスミウムなど)、周期表第9族金属(例えば、コバルト、ロジウム、イリジウムなど)、周期表第10族金属(例えば、ニッケル、パラジウム、白金など)、周期表第11族金属(例えば、銅、銀など)、周期表第12族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)など]など}、非金属又は半金属(例えば、ホウ素、リン、セレンなど)のいずれであってもよい。
【0065】
好ましい電子受容体は、ホウ素、遷移金属[例えば、周期表第3族金属(例えば、希土類元素)など]などであり、特にホウ素が好ましい。ホウ素を電子受容体とする配位化合物は、希土類などを電子受容体とする配位化合物などに比べて、発光効率が高いにもかかわらず比較的安価に得ることができ、極めて有用である。
【0066】
配位化合物において、電子受容体の配位数が2以上である場合、電子受容体はさらに他の配位子とともに、配位化合物を形成していてもよい(すなわち、配位化合物は、さらに、他の配位子(電子受容体に配位結合した他の配位子)を含んでいてもよい)。
【0067】
他の配位子としては、特に限定されず、無機配位子[例えば、水素原子(ヒドリド)、酸素原子(オキソ)、ヒドロキシ(ヒドロキソ)、水(アクア又はアコ)、ハロゲン原子(フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードなど)、一酸化炭素(カルボニル)、炭酸イオン(カルボナト、CO2−)、シュウ酸イオン(オキサラト、C2−)など]、有機配位子{例えば、アルコキシ(例えば、メトキシなどのC1−4アルコキシ)、アシル[アセチル(アセタト)など]、アルコキシカルボニル、アセチルアセトナト、シクロアルカジエニル(シクロペンタジエニルなど)、ジシクロペンタジエニル(ジシクロペンタジエニルなど)、エーテル(例えば、ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル)、炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基などの前記例示の基)など}、窒素含有配位子[例えば、アンモニア(アンミン)、ニトロシル、ニトロ、ニトリト(NO)、トリオキソニトラト、シアノ、シアナト、イソシアナト、アルキルアミド(ジメチルアミドなど)、エチレンジアミン、エチレンジアミンテトラアセタト、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリン、ニトリロトリアセタトなど]、リン含有配位子(ホスフィト、ホスファト、ジホスファト、ホスフィドなど)、硫黄含有配位子(チオシアナト、イソチオシアナト、スルフィトなど)などが挙げられる。他の配位子は、単独又は2種以上組み合わせて電子受容体に配位していてもよい。
【0068】
また、電子受容体は、置換基(電子受容体に共有結合(配位結合ではない共有結合)した置換基)を有していてもよい。置換基としては、前記Rの項で例示の置換基や上記配位子に対応する置換基、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基、ハロフェニル基(ペンタフルオロフェニル基など)など)など]、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アシル基(アセチル基など)などが挙げられる。電子受容体に置換する置換基の数は、電子受容体の種類や配位数に応じて適宜選択できる。
【0069】
なお、配位化合物において電子受容体の配位数をnとするとき、配位化合物の1,3−ジケトン骨格1個あたりの他の配位子の数は、n−2で表される。電子受容体の配位数は、特に限定されないが、例えば、2〜12、好ましくは3〜10、さらに好ましくは4〜8程度であってもよい。
【0070】
なお、配位化合物は、他の配位子の種類などによって、イオン性化合物であってもよく、アニオン又はカチオンとともに塩を形成してもよい。また、他の配位子を含む配位化合物は、イオン結合型錯体であってもよく、共有結合型錯体であってもよい。また、フルオレン化合物は、2つの1,3−ジケトン骨格を有しているが、配位化合物において、これらの2つの骨格がいずれも配位していてもよく、いずれか一方が配位していてもよい。さらに、2つの1,3−ジケトン骨格は、異なる電子受容体と配位していてもよい。
【0071】
代表的な配位化合物には、下記式(2)で表される構造を有する化合物が含まれる。
【0072】
【化9】

【0073】
(式中、Mは非金属(原子)、半金属(原子)又は金属(原子)を示し、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
上記式(2)において、Mは、前記電子受容体(アクセプター)の項で例示の非金属(原子)、半金属(原子)、金属(原子)が挙げられる。代表的なMとしては、ホウ素、リン、金属[例えば、希土類元素、貴金属(ロジウム、イリジウムなど)などの遷移金属など]などが挙げられる。2つのMは同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0074】
配位化合物は、上記式(2)で表される化合物であってもよく、上記式(2)で表される構造を含み、さらに他の配位子や置換基を含む化合物であってもよい。このような他の配位子や置換基を含んでいてもよい配位化合物には、例えば、下記式(2’)で表される化合物が含まれる。
【0075】
【化10】

【0076】
(式中、Mは非金属、半金属又は金属、Lは配位子及び/又は置換基、nは0以上の整数を示し、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
上記式(2’)において、配位子又は置換基Lとしては、前記例示の配位子や置換基などが挙げられる。式(2’)において、nの数は、Mの配位数などに応じて選択でき、例えば、0〜10、好ましくは0〜6、さらに好ましくは1〜4(例えば、2)程度であってもよい。なお、nの値が2以上である場合、複数のLは、同一又は異なる配位子及び/又は置換基であってもよい。また、2つのMに結合するLは、同一又は異なる配位子及び/又は置換基であってもよい。
【0077】
好ましい配位化合物には、電子受容体がホウ素である化合物[例えば、前記式(2)において、Mがホウ素(B)である構造を有する化合物、前記式(2’)において、Mがホウ素(B)である化合物]などが含まれる。なお、ホウ素の配位数は、通常、4であり、前記式(2’)においてMがホウ素である化合物は、例えば、下記式(2A)で表される。
【0078】
【化11】

【0079】
(式中、R〜R、Lおよびmは前記と同じ。)
上記式(2A)において、R〜R、Lおよびmは前記と同様である。好ましいLには、ハロゲン原子、特にフッ素原子が挙げられる。ホウ素−フッ素結合は安定であり、高い発光効率を配位化合物に安定的に付与しやすい。
【0080】
なお、配位化合物は、フルオレン化合物(前記式(1)で表される化合物)と、電子受容体を含む化合物とを反応させることにより容易に得ることができる。例えば、本発明の配位化合物は、フルオレン化合物と、このフルオレン化合物の1,3−ジケトン骨格(β−ジケトン骨格)と置換可能な配位子を有する錯体(配位化合物)とを反応させることで得ることができる。例えば、電子受容体がホウ素であり、他の配位子又は置換基がハロゲン原子である場合、ハロゲン原子と、β−ジケトン骨格と置換しやすい配位子(例えば、エーテルなど)とを有するホウ素錯体と、フルオレン化合物とを反応させることで、置換基又は配位子(前記式(2A)における基L)としてハロゲン原子を有する配位化合物を得ることができる。
【0081】
なお、配位化合物は、前記のように、フルオレン化合物を構成する2つのエノール骨格(又はエノール構造、すなわち、基−CO−CR=C(OH)−)のうち、両方が電子受容体に配位した化合物であっても、一方が配位した化合物であってもよく、これらの混合物であってもよい。換言すれば、配位化合物は、フルオレン化合物を構成する2つのエノール骨格の少なくとも一方が配位した構造を有する化合物であればよい。また、配位化合物は、フルオレン化合物(すなわち、フルオレン化合物を構成する2つの1,3−ジケトン骨格の両方が配位していない化合物)との混合物であってもよい。
【0082】
このようなエノール骨格(残存するエノール骨格)を有する配位化合物(フルオレン化合物との混合物を含む)において、配位しているエノール骨格の割合(錯形成割合)は、フルオレン化合物を構成するエノール骨格全体に対して、例えば、1〜99モル%(例えば、3〜95モル%)、好ましくは5〜90モル%(例えば、8〜85モル%)、さらに好ましくは10〜80モル%(例えば、15〜70モル%)程度であってもよく、通常3〜60モル%(例えば、5〜50モル%、好ましくは10〜40モル%)程度であってもよい。なお、配位割合は、NMRなどの慣用の方法又は分析手段により測定できる。
【0083】
このようにエノール骨格(又は1,3−ジケトン骨格)の一部を配位させることなく残存させることにより、より良好な発光特性などが得られる場合がある。なお、錯形成割合は、フルオレン化合物と反応させる電子受容体を含む化合物との反応割合などを調整することにより容易に調整可能である。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
なお、実施例において、各種物性や特性は以下のようにして測定した。
【0086】
(NMR)
サンプルを重クロロホルムに溶解し、日本電子製核磁気共鳴装置EX−400型で測定した。
【0087】
(分子量)
サンプルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、東ソー製高速GPC装置HLC−8020(基準樹脂:ポリスチレン)で測定した。
【0088】
(発光特性)
溶液:サンプルをクロロホルムに溶解し1×10−5Mに調製し、吸収スペクトルは島津製作所製紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3600で測定した。発光スペクトルおよび蛍光量子収率は蛍光分光光度計(堀場製作所製、Fluoromax−4)で測定した。
【0089】
フィルム:サンプルをジクロロメタンに溶解し、石英板に塗布後、乾燥してフィルムを作製した。吸収スペクトルは島津製作所製紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3600で測定した。発光スペクトル・蛍光量子収率・りん光スペクトルは蛍光分光光度計(堀場製作所製、Fluoromax−4)で測定した。りん光スペクトルは液体窒素で冷却した状態で測定した。
【0090】
(合成例1)
9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸(大阪ガスケミカル(株)製)10.0重量部と、メタノール100.0重量部とを反応槽に投入し、さらに、触媒として濃硫酸1.0重量部を反応槽に投入し、撹拌しながら17時間還流を行った。メタノールを除去し、トルエンと水を添加し水洗を行った。トルエンを除去し、ヘキサンから再結晶し白色の結晶を得た。得られた結晶は、NMRにより、9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸ジメチルであることを確認した。
【0091】
H−NMR:δ(ppm)=0.5−2.1(n−オクチル基)、3.96(メチルエステル基)、7.7−8.1(アリール基)。
【0092】
(実施例1)
合成例1で得られた9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸ジメチル1.000重量部及び水素化ナトリウム(油性)0.514重量部を反応槽に投入して窒素雰囲気にした後、さらに、テトラヒドロフラン(THF)15.000重量部を投入し、9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸ジメチルを溶解させた。50℃に昇温後、THF15.000重量部に溶解させた4−メトキシアセトフェノン0.593重量部を50分かけて滴下し、50℃を保ち24時間撹拌した。反応後、室温にまで冷却し、トルエンと塩酸水溶液を添加し水洗を行った。トルエンを除去し、溶出液としてクロロホルムとヘキサンを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、溶媒を除去し、メタノールから再結晶し黄色の結晶を得た。得られた化合物は、NMRにより、下記式で表される化合物[すなわち、3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−メトキシフェニル)−1−プロペン−3−オン)]であることを確認した。
【0093】
【化12】

【0094】
H−NMR:δ(ppm)=0.5−2.2(n−オクチル基)、3.90(メトキシ基)、6.88(エノールCH)、6.9−8.1(アリール基)、17.19(エノールOH)。
【0095】
(実施例2)
実施例1で得られた化合物[3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−メトキシフェニル)プロパン−3−オン)]0.300重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン13.255重量部を投入し、溶解させた。そして、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.226重量部を投入し、室温で24時間撹拌した。反応後、ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、溶出液としてクロロホルムとヘキサンを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、ジクロロメタンとヘキサンから再結晶し、橙色の結晶を得た。得られた化合物は、NMRにより、下記式で表される化合物[すなわち、3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−メトキシフェニル)プロパン−3−オン)の二フッ化ホウ素錯体]であることを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、457nmにモル吸光係数1.45×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、474nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.68であった。
【0096】
【化13】

【0097】
H−NMR:δ(ppm)=0.4−2.3(n−オクチル基)、3.96(メトキシ基)、7.18(ボロンジケトネートCH)、7.0−8.3(アリール基)
11B−NMR:δ(ppm)=1.08(ボロンジケトネート)。
【0098】
(実施例3)
合成例1で得られた9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸ジメチル1.000重量部及び水素化ナトリウム(油性)0.514重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、THF13.320重量部を投入し、9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジカルボン酸ジメチルを溶解させた。50℃に昇温後、THF13.320重量部に溶解させた4−ヨードアセトフェノン0.972重量部を50分かけて滴下し、50℃を保ち24時間撹拌した。反応後室温にまで冷却し、トルエンと塩酸水溶液を添加し水洗を行った。トルエンを除去し、溶出液としてクロロホルムとヘキサンを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、溶媒を除去し、メタノールから再結晶し黄色の結晶を得た。得られた化合物は、H−NMRにより、下記式で表される化合物[すなわち、3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)]であることを確認した。
【0099】
【化14】

【0100】
H−NMR:δ(ppm)=0.5−2.2(n−オクチル基)、6.89(エノールCH)、7.6−8.1(アリール基)、16.98(エノールOH)。
【0101】
(実施例4)
実施例3で得られた化合物[3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)]0.300重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン13.255重量部を投入して溶解させた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.226重量部を投入し、室温で24時間撹拌した。反応後ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、溶出液としてクロロホルムとヘキサンを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、ジクロロメタンとヘキサンから再結晶し橙色の結晶を得た。得られた化合物は、NMRにより、下記式で表される化合物[すなわち、3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)の二フッ化ホウ素錯体]であることを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、455nmにモル吸光係数1.33×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、473nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.20であった。
【0102】
【化15】

【0103】
H−NMR:δ(ppm)=0.4−2.2(n−オクチル基)、7.23(ボロンジケトネートCH)、7.8−8.3(アリール基)
11B−NMR:δ(ppm)=1.08(ボロンジケトネート)。
【0104】
(実施例5)
実施例4で得られた化合物[3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)の二フッ化ホウ素錯体]0.1000重量部、(9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジイル)ジボロン酸0.0464重量部、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.0009重量部、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル0.0016重量部、炭酸セシウム0.3162重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、トルエン1.7320重量部、水2.0000重量部を投入し、80℃に昇温し、18時間撹拌した。反応後THFとエタノールから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物(粉末)の数平均分子量は6400であった。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、421nmにモル吸光係数6.75×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、534nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.61であった。また、フィルムにおいて425nmに極大吸収波長を持ち、571nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.04であった。液体窒素で冷却した状態において、励起後0.1ミリ秒後にりん光と考えられる発光が604nmに見られた。なお、得られた化合物は、析出などを生じることなく均一な膜を形成できた。
【0105】
【化16】

【0106】
(実施例6)
実施例3で得られた化合物[3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)]0.7985重量部、二炭酸ジ−t−ブチル1.8644重量部、N,N−ジメチルアミノピリジン0.0497重量部、1,4−ジオキサン103.3000重量部を反応槽に投入し、室温で24時間撹拌した。1,4−ジオキサンを除去し、溶出液としてクロロホルムを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、濃縮することで黄色の粉末を得た。得られた化合物0.0200重量部、(9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジイル)ジボロン酸0.0843重量部、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.0016重量部、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル0.0029重量部、炭酸セシウム0.5745重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、トルエン3.4640重量部、水4.0000重量部を投入し、80℃に昇温し、5時間撹拌した。反応後THFとメタノールから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物0.0150重量部、ピペリジン0.0302重量部、ジクロロメタン53.0200重量部を反応槽に投入し、室温で24時間撹拌した。反応後、塩酸水溶液を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い黄色の粉末を得た。得られた化合物(粉末)の数平均分子量は21,400であった。得られた化合物は、NMRにより、下記式で表される繰り返し単位を有するポリマーであることを確認した。
【0107】
【化17】

【0108】
(実施例7)
実施例6で得られた化合物0.0500重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン132.5500重量部を投入して溶解させた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体1.1500重量部を投入し、室温で6時間撹拌した。反応後ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物は、NMRにより、実施例5で得られたポリマーと同様の構造を有するポリマーであることを確認した。また、NMRにより、実施例6で得られた化合物を構成するエノール骨格の100モル%が、ホウ素との錯体(>BF)を形成している(すなわち、エノール骨格の錯形成比率が100モル%である)ことを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、480nmにモル吸光係数9.53×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、534nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.21であった。なお、得られた化合物は、析出などを生じることなく均一な膜を形成できた。
【0109】
(実施例8)
実施例3で得られた化合物[3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)]0.7985重量部、二炭酸ジ−t−ブチル1.8644重量部、N,N−ジメチルアミノピリジン0.0497重量部、1,4−ジオキサン103.3000重量部を反応槽に投入し、室温で24時間撹拌した。1,4−ジオキサンを除去し、溶出液としてクロロホルムを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、濃縮することで黄色の粉末を得た。得られた化合物0.0200重量部、(9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジイル)ジボロン酸0.0843重量部、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.0016重量部、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル0.0029重量部、炭酸セシウム0.5745重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、トルエン3.4640重量部、水4.0000重量部を投入し、80℃に昇温し、5時間撹拌した。反応後THFとメタノールから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物0.0150重量部、ピペリジン0.0302重量部、ジクロロメタン53.0200重量部を反応槽に投入し、室温で24時間撹拌した。反応後、塩酸水溶液を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い黄色の粉末を得た。得られた化合物は、NMRにより、実施例6で得られたポリマーと同様の構造を有するポリマーであることを確認した。
【0110】
(実施例9)
実施例8で得られた化合物0.0300重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン26.5100重量部を投入して溶解させた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.0040重量部を投入し、室温で6時間撹拌した。反応後ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物(粉末)は、NMRにより、実施例5で得られたポリマーと同様の構造を有するポリマー(ただし、エノール骨格の一部がホウ素との錯体を形成していないポリマー)であることを確認した。また、NMRにより、実施例8で得られた化合物を構成するエノール骨格の22モル%が、ホウ素との錯体(>BF)を形成している(すなわち、エノール骨格の錯形成比率が22モル%である)ことを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、421nmにモル吸光係数6.36×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、531nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.51であった。また、フィルムにおいて、406nmに極大吸収波長を持ち、551nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.05であった。なお、得られた化合物は、析出などを生じることなく均一な膜を形成できた。
【0111】
(実施例10)
実施例6で得られた化合物0.0300重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン26.5100重量部を投入して溶解させた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.5750重量部を投入し、室温で6時間撹拌した。反応後ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物(粉末)は、NMRにより、実施例5で得られたポリマーと同様の構造を有するポリマーであることを確認した。また、NMRにより、実施例8で得られた化合物のエノール骨格の100モル%が、ホウ素との錯体(>BF)を形成している(すなわち、エノール骨格の錯形成比率が100モル%である)ことを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、477nmにモル吸光係数8.40×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、537nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.37であった。また、フィルムにおいて461nmに極大吸収波長を持ち、583nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.04であった。なお、得られた化合物は、析出などを生じることなく均一な膜を形成できた。
【0112】
(実施例11)
実施例3で得られた化合物[3,3’−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジイル)ビス(1−ヒドロキシ−1−(4−ヨードフェニル)プロパン−3−オン)]0.7985重量部、二炭酸ジ−t−ブチル1.8644重量部、N,N−ジメチルアミノピリジン0.0497重量部、1,4−ジオキサン103.3000重量部を反応槽に投入し、室温で24時間撹拌した。1,4−ジオキサンを除去し、溶出液としてクロロホルムを用いカラムクロマトグラフィーで目的物を分離し、濃縮することで黄色の粉末を得た。得られた化合物0.1600重量部、9,9’−スピロビフルオレン−2,7−ジボロン酸0.0570重量部、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.0013重量部、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル0.0023重量部、炭酸セシウム0.4597重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、トルエン2.5980重量部、水3.0000重量部を投入し、80℃に昇温し、5時間撹拌した。反応後THFとメタノールから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物0.0850重量部、ピペリジン0.0302重量部、ジクロロメタン26.5100重量部を反応槽に投入し、室温で24時間撹拌した。反応後、塩酸水溶液を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い黄色の粉末を得た。得られた化合物(粉末)の数平均分子量は4,400であった。得られた化合物は、NMRにより、下記式で表される繰り返し単位を有するポリマーであることを確認した。
【0113】
【化18】

【0114】
(実施例12)
実施例11で得られた化合物0.0250重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン26.5100重量部を投入して溶解させた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.0036重量部を投入し、室温で6時間撹拌した。反応後ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物は、NMRにより、実施例11で得られた化合物のエノール骨格の20モル%が、ホウ素との錯体(>BF)を形成している(すなわち、エノール骨格の錯形成比率が20モル%である)ことを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、421nmにモル吸光係数6.17×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、529nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.39であった。また、フィルムにおいて405nmに極大吸収波長を持ち、560nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.02であった。なお、得られた化合物は、析出などを生じることなく均一な膜を形成できた。
【0115】
(実施例13)
実施例11で得られた化合物0.0200重量部を反応槽に投入し、窒素雰囲気にした後、さらに、ジクロロメタン26.5100重量部を投入して溶解させた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.5750重量部を投入し、室温で6時間撹拌した。反応後ジクロロメタンと水を添加し水洗を行った。ジクロロメタンを除去し、THFとヘキサンから再沈を行い橙色の粉末を得た。得られた化合物(粉末)は、下記式で表される構造単位を有するポリマーであることを確認した。また、NMRにより、実施例11で得られた化合物を構成するエノール骨格の100モル%が、ホウ素との錯体(>BF)を形成している(すなわち、エノール骨格の錯形成比率が100モル%である)ことを確認した。得られた化合物は、クロロホルム溶液において、472nmにモル吸光係数8.82×10−1cm−1の極大吸収波長を持ち、531nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.21であった。また、フィルムにおいて461nmに極大吸収波長を持ち、592nmの発光を示し、蛍光量子収率は0.01であった。なお、得られた化合物は、析出などを生じることなく均一な膜を形成できた。
【0116】
【化19】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の化合物(フルオレン化合物および配位化合物)は、蛍光やりん光を発する発光特性や、電荷輸送能などを備えている。しかも、溶媒溶解性に優れ、樹脂や他の発光材料などに対する相溶性(又は分散性)などにも優れている。そのため、本発明の化合物は、発光材料(蛍光材料、りん光材料)や電荷輸送材料などとして、極めて実用性が高い。
【0118】
しかも、本発明の化合物は、カップリング反応などを利用して高分子量化できる。このような高分子量化された化合物は、同様に発光特性や電荷輸送能を備えているだけでなく、高分子量化により、樹脂などに分散させることなく発光膜や電荷輸送膜を形成できる。そのため、本発明の化合物は、このような高分子量化のためのモノマー(前駆体又は中間体)としても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオレン化合物。
【化1】

(式中、R、R、Rは同一又は異なって水素原子又は置換基、Rは置換基、mは0〜3の整数を示し、2つのRは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
式(1)において、Rが、炭化水素基、複素環基又は2つのRが互いに結合して形成された炭化水素環であり、Rが炭化水素基であり、mが0又は1であり、Rが水素原子又は炭化水素基であり、Rが脂肪族基又は芳香族基であり、R〜Rはさらに置換基を有していてもよい請求項1記載の化合物。
【請求項3】
式(1)において、Rが、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基、又は2つのRが互いに結合して形成された芳香族炭化水素環であり、mが0であり、Rが水素原子であり、Rが芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であり、R〜Rはさらに置換基を有していてもよい請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
式(1)において、Rが、さらに、ハロゲン原子、アルカンスルホニルオキシ基、ハロアルカンスルホニルオキシ基、又はアリールスルホニルオキシ基を置換基として有する請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
式(1)において、Rが、ハロゲン原子を有する芳香族炭化水素基である請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
塩基の存在下で、下記式(1a)で表されるジカルボン酸のエステルと、下記式(1b)で表される化合物とを反応させ、請求項1〜5のいずれかに記載のフルオレン化合物を製造する方法。
【化2】

(式中、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物を配位子とする配位化合物。
【請求項8】
下記式(2)で表される構造を有する化合物である請求項7記載の配位化合物。
【化3】

(式中、Mはホウ素、リン又は金属を示し、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
【請求項9】
式(2)において、Mがホウ素又は遷移金属である請求項8記載の配位化合物。
【請求項10】
下記式(2A)で表される化合物である請求項7〜9のいずれかに記載の配位化合物。
【化4】

(式中、Lは配位子及び/又は置換基を示し、R〜Rおよびmは前記と同じ。)
【請求項11】
Lが、ハロゲン原子である請求項10記載の配位化合物。

【公開番号】特開2012−197259(P2012−197259A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196913(P2011−196913)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:日本化学会第91春季年会(2011) 講演予稿集III、発行所:社団法人日本化学会、発行日:平成23(2011)年3月11日 刊行物名:第60回高分子学会年次大会 高分子学会予稿集 60巻1号[2011]、発行所:社団法人高分子学会、発行日:平成23(2011)年5月10日 研究集会名:第60回高分子学会年次大会、主催者名:社団法人高分子学会、開催日(発明を発表した日):平成23(2011)年5月25日
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】