説明

新規プラスミド及びそれを用いたタンパク質生産方法

【課題】 遺伝子工学的手法を用いてパラコッカス(Paracoccus)属細菌からタンパク質を生産するのに有用なプラスミド、および当該プラスミドを用いて遺伝子工学的にタンパク質を生産する方法を提供すること。
【解決手段】 パラコッカス属細菌N−81106株(FERM P−14023)から得られた、全長5174塩基対のポリヌクレオチドからなるプラスミドのうち、プラスミド複製領域のポリヌクレオチドを少なくとも含むプラスミド、および前記プラスミドにタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを用いてパラコッカス属細菌を形質転換することで、前記課題を達成することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なプラスミドおよびそれを用いたタンパク質生産方法に関する。特に本発明は遺伝子工学手法を用いてパラコッカス(Paracoccus)属細菌からタンパク質を生産するのに有用なプラスミドの提供に関する。
【背景技術】
【0002】
パラコッカス(Paracoccus)属細菌の中には菌体内にカロテノイドを生産できる株が知られており(特許文献1から3、および非特許文献1)、特許文献4では前記菌株に対し、pBBR系プラスミドといった広宿主域プラスミドをベクターとして遺伝子組換えを行なうことで、アスタキサンチンを中心としたカロテノイドをより高濃度に菌体内に生産させることを可能にしている。
【0003】
しかしながら、一般に広宿主域プラスミドはサイズが大きく、プラスミドコピー数が低いことや、宿主によっては安定に維持されないことが知られており、遺伝子組換え効率が悪い、目的タンパク質を高発現しにくいといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−184668号公報
【特許文献2】特開2007−181449号公報
【特許文献3】特開2007−143519号公報
【特許文献4】特開2007−244222号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Yokoyama et al.,Biosci.Biotech.,Biochem.,58,1842−1844(1994)
【非特許文献2】Sambrook, J.,Fritsch,E.F.,and Maniatis,T.,Molecular Cloning A Laboratory Manual Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)
【非特許文献3】Kovach M.et al.,Biotechniques,16,800−802(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、遺伝子工学的手法を用いてパラコッカス(Paracoccus)属細菌からタンパク質を生産するのに有用なプラスミド、および当該プラスミドを用いて遺伝子工学的にタンパク質を生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する。
【0008】
(1)配列番号1に示すポリヌクレオチドを含むプラスミド。
【0009】
(2)配列番号2に示すポリヌクレオチドからなるプラスミド。
【0010】
(3)配列番号1に示すポリヌクレオチドの一部が置換および/または付加および/または欠失されたポリヌクレオチドを含むプラスミド。
【0011】
(4)パラコッカス(Paracoccus)属以外の細菌由来のプラスミド複製領域を含むポリヌクレオチドが挿入された、(1)から(3)のプラスミド。
【0012】
(5)タンパク質をコードするポリヌクレオチドが挿入された(1)から(4)のプラスミドを用いて細菌を形質転換することで得られる、前記タンパク質を発現可能な形質転換体。
【0013】
(6)(5)の形質転換体を用いることを特徴とする、前記タンパク質の生産方法。
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のプラスミドは配列番号1に示すポリヌクレオチドを含んでいることを特徴としている。配列番号1は、パラコッカス(Paracoccus)属細菌のうちカロテノイドを生産できる株であるN−81106株(FERM P−14023)(特許文献1)から新たに得られた配列番号2に示すポリヌクレオチドからなるプラスミド(全長5174塩基対)の部分配列である。配列番号2からなるプラスミドは公的データベースを用いてORF(Open Reading Frame)検索を行なったところ、予想されたORFは3つあり、そのうちの一つのORF(配列番号1)が他の細菌由来のプラスミドを自律複製するのに必須な領域(プラスミド複製領域)と相同性を示すことが判明した。パラコッカス属細菌を形質転換するのに用いるプラスミドとしての機能を有するには、少なくともパラコッカス属細菌由来のプラスミド複製領域、すなわち複製開始点およびプラスミド複製に必要な遺伝子を含んでいればよい。よって、少なくとも配列番号1に示すポリヌクレオチドをプラスミド中に含んでいれば、前記プラスミドを用いてパラコッカス属細菌を形質転換できるといえる。
【0016】
配列番号1に示すポリヌクレオチドを含むプラスミドの例としては、前述した配列番号2に示すポリヌクレオチドからなるプラスミドがあげられる。なお、前記プラスミドに、LacZ遺伝子、抗生物質(アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、エリスロマイシンなど)耐性遺伝子などを挿入すると、形質転換体における前記遺伝子の表現型により、形質転換体のスクリーニングが容易となるため好ましい。また、配列番号1に示すポリヌクレオチドの一部が置換および/または付加および/または欠失されたとしても、パラコッカス属細菌由来のプラスミドを複製する機能を有している限り、本発明のプラスミドに含まれる。
【0017】
本発明のプラスミドを用いて形質転換できるパラコッカス属細菌としては、Paracoccus aestuarii、Paracoccus alcaliphilus、Paracoccus alkenifer、Paracoccus aminophilus、Paracoccus aminovorans、Paracoccus bengalensis、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus denitrificans、Paracoccus ferrooxidans、Paracoccus haeundaensis、Paracoccus halotolerans、Paracoccus homiensis、Paracoccus kamogawaensis、Paracoccus kawasakiensis、Paracoccus kocurii、Paracoccus kondratievae、Paracoccus koreensis、Paracoccus marcusii、Paracoccus methylutens、Paracoccus pantotrophus、Paracoccus seriniphilus、Paracoccus solventivorans、Paracoccus thiocyanatus、Paracoccus thiophilus、Paracoccus versutus、Paracoccus yeei、Paracoccus zeaxanthinifaciensを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明のプラスミドの別の態様として、配列番号1に示す(または、配列番号1の一部が置換および/または付加および/または欠失された)ポリヌクレオチドを含むプラスミドに、パラコッカス属以外の細菌由来のプラスミド複製領域を含むポリヌクレオチドを挿入したプラスミドをあげることができる。前記プラスミドはパラコッカス属細菌および挿入したプラスミド複製領域に由来するパラコッカス属以外の細菌内でプラスミドを自律複製することが可能となる。よって、前記プラスミドの調製および前記プラスミドにタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入する操作を、前記パラコッカス属以外の細菌を用いて行なうことができる。前記パラコッカス属以外の細菌としては、通常当業者が形質転換に用いる細菌の中から適宜選択すればよいが、形質転換作業が容易かつ当業者が最も用いる大腸菌が好ましい。大腸菌由来のプラスミド複製領域を含むポリヌクレオチドを取得するには、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218といった大腸菌内で自律複製可能なプラスミドから取得すればよい。
【0019】
本発明のプラスミドはパラコッカス属細菌内で自律複製できることから、本発明のプラスミドにタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入し得られた組換えプラスミドを用いて、パラコッカス属細菌を形質転換することで得られる組換えパラコッカス属細菌は、前記タンパク質を発現させることができる。前記挿入するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、パラコッカス属細菌で発現可能なタンパク質をコードするポリヌクレオチドであれば特に制限はなく、酵素、抗体、レセプター、構造タンパク質、蛍光タンパク質などをコードするポリヌクレオチドを例示することができる。なお、前記ポリヌクレオチドは目的とするタンパク質をコードするポリヌクレオチドをそのまま用いてもよいが、前記ヌクレオチドのコドンをパラコッカス属細菌型に変換したポリヌクレオチドがより好ましい。前記コドン変換したポリヌクレオチドの一態様として、パラコッカス属細菌におけるレアコドン(rare codon、当該宿主におけるコドンの使用頻度が少ないもの)の全部または一部を、コードするアミノ酸を同一のまま、パラコッカス属細菌の翻訳機構において利用頻度が高いコドン(codon)に変換したポリヌクレオチドがあげられる。また、前記組換え菌が酵素を発現する場合、培地に前記酵素の基質を添加して培養することで、酵素工学的に物質生産を行なうことができる。一例として、本発明のプラスミドにカロテノイド合成酵素群(crtE、crtB、crtI、crtY、crtW、crtZ)をコードするポリヌクレオチドを挿入して得られるプラスミドを用いて、カロテノイドを生産できるパラコッカス属細菌を形質転換して得られた組換え菌を用いてアスタキサンチンなどのカロテノイドを効率的に生産する方法があげられる。
【0020】
なお、本発明のプラスミドを用いたタンパク質生産方法において、プラスミドの調製、ポリヌクレオチドの切断および連結、形質転換といった方法は、当業者に周知の方法(例えば非特許文献2に記載の方法)を用いればよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプラスミドは、パラコッカス(Paracoccus)属細菌N−81106株(FERM P−14023)より得られた、全長5174塩基対のポリヌクレオチド(配列番号2)からなるプラスミドのうち、プラスミド複製領域にあたる配列番号1に示すポリヌクレオチドを少なくとも含んでいることを特徴としている。本発明のプラスミドはパラコッカス属細菌内で高いプラスミドコピー数を実現し得るため、パラコッカス属細菌を形質転換するのに用いるプラスミドとして有用である。また本発明のプラスミドは、配列番号2に示すポリヌクレオチドからなるプラスミドをそのまま用いてもよいが、配列番号1に示すポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドを欠失させても、パラコッカス属細菌内でプラスミドを複製する機能に変化はない。そのため、配列番号1に示すポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドを欠失させることで、従来パラコッカス属細菌を形質転換するのに用いられていた広宿主域プラスミドと比較しプラスミドのサイズを小さくすることができ、前記プラスミドはタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入したときのパラコッカス属細菌内におけるプラスミド安定性が向上する。また、前記プラスミドはプラスミドのコピー数が特に高いため、前記プラスミドにタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを用いてパラコッカス属細菌を形質転換することで得られる組換え菌により、前記タンパク質を大量かつ効率的に生産させることができる。
【0022】
本発明のプラスミドの別の態様は、配列番号1に示すポリヌクレオチドおよびパラコッカス属細菌以外の細菌由来のプラスミド複製領域のポリヌクレオチドを含むプラスミドであり、前記プラスミドはパラコッカス属以外の細菌においてもプラスミドの自律複製が可能である。よって、前記細菌が大腸菌のとき、タンパク質をコードするポリヌクレオチドのプラスミドへの挿入といった遺伝子工学的操作の一部を、操作が比較的容易な大腸菌を用いて行なえるため、組換えパラコッカス属細菌の調製をより簡便に行なえる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】パラコッカス(Paracoccus)属細菌N−81106株から抽出したプラスミドの電気泳動写真。図中レーンMは分子量マーカー、レーン1はパラコッカス属細菌N−81106株から抽出したプラスミドである。
【図2】プラスミドpHMの制限酵素地図。
【図3】プラスミドpHMS1の構築を示す図。
【図4】プラスミドpHMS1により形質転換されたパラコッカス属細菌N−81106株から抽出したプラスミドの電気泳動写真。図中レーンMは分子量マーカー、レーン1から5はパラコッカス属細菌N−81106株組換え体より抽出したプラスミド、レーンPCはプラスミドpHMS1、レーンNCはプラスミドpHMである。
【図5】プラスミドpHMS1GFPの構築を示す図。
【図6】プラスミドpHMS1GFPにより形質転換されたパラコッカス属細菌を用いて製造した緑色蛍光タンパク質(GFP)のELISA測定結果。
【実施例】
【0024】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0025】
実施例1 プラスミドの取得
パラコッカス属細菌N−81106株(FERM P−14023)(特許文献1)をOEG液体培地(表1)で培養(25℃、3日間)し、遠心分離により菌体を回収後、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社製)を用いてプラスミドを抽出した。
【0026】
【表1】

抽出したプラスミドをアガロースゲル電気泳動によってサイズを調べた結果、約5kbのプラスミドであった。図1に電気泳動写真を示す。
【0027】
実施例2 プラスミドの塩基配列解析
実施例1で取得したプラスミドについて塩基配列解析を実施した。
(1)実施例1で取得したプラスミドを制限酵素SphIを用いて消化することで、約3.5kbと約1.7kbの2つのDNA断片を得た。
(2)(1)のDNA断片をQIAquick Gel extraction kit(キアゲン社製)を用いてアガロースゲルより抽出後、Ligation Kit(タカラバイオ社製)を用いて、事前にSphI処理したプラスミドpUC19(タカラバイオ社製)に挿入した。
(3)(2)でDNA断片を挿入したpUC19を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換し、50μg/mLのカルベニシリンを含むLB培地にて培養後(37℃、18時間)、プラスミドを抽出した。
(4)前記約3.5kbのDNA断片が挿入されたpUC19、および前記約1.7kbのDNA断片が挿入されたpUC19から配列番号3(5’―CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC―3’)および4(5’―GAGCGGATAACAATTTCACACAGG―3’)に記載のプライマーを用いて、前記2つのDNA断片をPCR反応により増幅した。
(5)(4)で得られた前記2つのDNA断片について、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて塩基配列解析用DNAを調製後、全自動DNAシークエンサーABI PRISM 310 DNA analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)より塩基配列解析を行なった。なお、前記約3.5kbのDNA断片の塩基配列を解析するためのプライマーとしては、配列番号5(5’―CCGTTTCCAATCATCATCCTCACG―3’)、配列番号6(5’―CTGCTTTCTGTGGATCTTCCTGGG―3’)、配列番号7(5’―TCCAGATCCCGCAGATCGAGGGCG―3’)、配列番号8(5’―AAAACCTCAACCAAGCAAGATCGG―3’)、配列番号9(5’―TGCGTTTCTCTGACAAATTCAGCG―3’)、配列番号10(5’―TCACGTAATTCTTTAACTGCTGGC―3’)からなるプライマーを用いた。一方、前記約1.7kbのDNA断片の塩基配列を解析するためのプライマーとしては、配列番号11(5’―GCGTTCCACTGAAACCTTTACGGG―3’)および12(5’―ATCACGGCCAATCGGTCCAGCGCC―3’)からなるプライマーを用いた。さらに、実施例1で得られたプラスミドから、配列番号13(5’―CCGTGGCGTTGAATGGGCTAACAT―3’)、配列番号14(5’―CGCCAGAAAATAGCCAACTTGCGC―3’)、配列番号15(5’―GGCGCGGATCGGCCTGCTGAGTTT―3’)および配列番号16(5’―TATTGCCCCAGATCGCATAGACCC―3’)からなるプライマーを用いて、前記2つのDNA断片の連結部分の塩基配列を解析した。
【0028】
塩基配列解析の結果、実施例1で得られたプラスミドは5174塩基からなる二本鎖の環状DNAであることが判明した。全塩基配列を配列番号2に示す。なお実施例1で得られたプラスミドを、以降プラスミドpHMと命名する。プラスミドpHMの制限酵素地図を図2に示す。
【0029】
実施例3 プラスミドpHMの塩基配列の解析
実施例2で得られたプラスミドpHMの塩基配列から、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi、BLASTP 2.2.16[Mar−11−2007]、アクセス日:2008年11月29日)を用いてORF(Open Reading Frame)解析を行なった。結果、プラスミドpHMには少なくとも3種類のORFが存在することが判明した(図2)。すなわち、186アミノ酸をコードするORF1、297アミノ酸をコードするORF2、456アミノ酸をコードするORF3である。ORF1から3の塩基配列およびコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1、17および18にそれぞれ示す。
【0030】
さらに、プラスミドpHMのORF1についてBLASTによる相同性検索を行なった結果、表2に示すようにパラコッカス属以外の細菌由来のプラスミド複製領域と比較的高い相同性を有していることが判明した。なおパラコッカス属細菌の一つである、Paracoccus pantotrophus DSMZ11072株由来のpWKS1プラスミド複製領域(GenBank No.NP_690579)との相同性を比較したところ、相同性は10%程度と低かった。よってプラスミドpHMのORF1の塩基配列は、パラコッカス属細菌において従来知られていない新規な配列であることが判明した。
【0031】
【表2】

なお、プラスミドpHMのORF2および3について同様にBLASTによる相同性検索を行なった結果を表3および4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

実施例4 大腸菌由来のプラスミド複製領域の挿入
実施例3で示したように、プラスミドpHMのORF1がプラスミド複製領域である可能性が高いことから、前記複製領域を含むプラスミドが大腸菌内でも複製できるよう、大腸菌由来のプラスミド複製領域を前記プラスミドに挿入した(図3)。
(1)pUC19中の複製タンパク質領域を配列番号19(5’−CCCAAGCTTGGGTCGATATCGGATCGCTGAGATAGGTGCC−3’)および20(5’−TCCCCCGGGGGACAGAATCAGGGGATAACGC−3’)からなるプライマーを用いてPCR反応により増幅した。反応液組成および反応条件を以下に示す。
【0034】
(反応液組成)
10%(v/v) 10×Ex Taq buffer(タカラバイオ社製)
0.25mM dNTPs(タカラバイオ社製)
各1μM 増幅用プライマー
0.5ng/μL 鋳型DNA
0.05U/μL TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)
(反応条件)
94℃で5分加熱後、94℃・30秒、65℃・30秒、72℃・1分の温度サ
イクルを25回繰り返し、最後に72℃で7分反応させた。
(2)pBBR1MCS2(非特許文献3)中のカナマイシン遺伝子領域を配列番号21(5’−TCCCCCGGGGGAATGAATGTCAGCTACTGGG−3’)および22(5’−CCCAAGCTTGGGGTACCCCGTGATGGCAGGTTGGGCGTCG−3’)からなるプライマーを用いて(1)と同様の方法でPCR反応により増幅した。
(3)(1)および(2)で調製したDNAをアガロースゲル電気泳動で確認後、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)にて精製した。前記精製DNAは制限酵素HindIIIおよびSmaIで処理し、挿入断片を調製した。
(4)(3)で調製した挿入断片を、Ligation Kit(タカラバイオ社製)を用いて事前にHindIII処理したプラスミドpHMに挿入した。
(5)(4)でDNA断片を挿入したプラスミドpHMを用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地にて培養後(37℃、18時間)、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を用いてプラスミドを抽出した。
【0035】
抽出したプラスミドは適切な制限酵素にて処理後、アガロースゲル電気泳動によりpUC19中のプラスミド複製領域およびカナマイシン遺伝子領域が挿入されていることを確認した。なお本実施例で得られたプラスミドを、以降プラスミドpHMS1と命名する。プラスミドpHMS1の制限酵素地図を図3に示す。
【0036】
実施例5 プラスミドpHMS1を用いたパラコッカス属細菌の形質転換
実施例4で得られたプラスミドpHMS1を用いてパラコッカス属細菌を形質転換した。
(1)パラコッカス属細菌N−81106株(FERM P−14023)をOEG液体培地(表1)により培養後(25℃、18時間)、前記培養液を植継ぐことで対数増殖期の菌体を調製した。
(2)遠心分離により(1)で調製した菌体を回収後(4℃、10000rpm、1分間)、0.2mMリン酸緩衝液(pH7.0)により2回洗浄した。前記洗浄菌体は、1mg/mLのリゾチーム溶液を添加し、室温で1時間反応させることで菌体の細胞壁を破砕後、0.2mMリン酸緩衝液(pH7.0)で再度洗浄することで、形質転換用菌体を調製した。
(3)プラスミドpHMS1は適当な濃度となるように滅菌水に溶解後、(2)で調製した菌体に添加し、エレクトロポレーションにより遺伝子導入を行なった(装置:Gene Pulser(BIO−RAD社製)、電圧:2.2kV)。遺伝子導入後、直ちに1mLのSOC培地を添加し、25℃で2時間穏やかに振とうすることで、再生培養した。
(4)培養後、培養液の一部を75μg/mLのカナマイシンを含むOEG寒天培地(OEG液体培地(表1)に寒天1.5%添加したもの)に塗布し、25℃で3から5日間培養することで、カナマイシン耐性を示す形質転換体を得た。
(5)(4)で得られた形質転換体を75μg/mLのカナマイシンを含むOEG液体培地(表1)により培養し、定法に従って菌体からプラスミドを抽出した。
【0037】
抽出したプラスミドを0.9%アガロースゲル電気泳動により解析したところ、パラコッカス属細菌N−81106株(FERM P−14023)が元来保有していたプラスミドpHMは菌体から放出され、導入したプラスミドpHMS1のみ存在していることが判明した(図4)。よって、プラスミドpHMS1を用いてパラコッカス属細菌N−81106株を形質転換できることを確認した。
【0038】
実施例6 プラスミドpHMS1のベクター機能の評価
実施例4で得られたプラスミドpHMS1がベクターとしてタンパク質の発現ができるか評価した。なお、タンパク質をコードするポリヌクレオチドとしてJelly fish由来のGFP(Green Fluorescent Protein)遺伝子を用いた。
(1)配列番号23(5’−GGGGTACCCCTGAATGTCAGCTGCTGGGCTATCTGG−3’)および24(5’−CTTTACTCATGCGAAACGATCCTCATCC−3’)からなるプライマーを用いて、PCR反応によりプラスミドpBBR1MCS2(図3)中のカナマイシン耐性遺伝子上流領域を増幅することで、GFP遺伝子を発現させるためのプロモーターを調製した。なお、反応液組成および反応条件は実施例4(1)に記載と同様である。また、増幅したプロモーターのうち、3’末端側は後述のGFP遺伝子との重複領域(10塩基)である。
(2)配列番号25に示すGFP遺伝子を人工的に合成した。なお発現タンパク質を容易に検出するために、GFP遺伝子の停止コドンの直前に6つのヒスチジンをコードするDNA(配列番号25の727から744番目の塩基)を付加している。
(3)(2)で合成したGFP遺伝子を、配列番号26(5’−ATCGTTTCGCATGAGTAAAGGAGAAGAACTCTTCACTGG−3’)および27(5’−GGGGTACCCCTCAGTGGTGGTGGTGGTGGTGC−3’)からなるプライマー用いてPCR反応により増幅した。なお、増幅したGFP遺伝子のうち、5’末端側は(1)で調製したプロモーター領域との重複領域(10塩基)である。
(4)(1)で調製したプロモーターと(3)で調製したGFP遺伝子とを下記に示す二段階のPCR反応を用いて連結した。
(4−1)下記反応液組成および反応条件にて一段階目のPCR反応を行なった。
【0039】
(反応液組成)
10%(v/v) 10×Ex Taq buffer(タカラバイオ社製)
0.25mM dNTPs(タカラバイオ社製)
0.5ng/μL (1)で調製したプロモーター
0.5ng/μL (3)で調製したGFP遺伝子
0.05U/μL TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)
(反応条件)
94℃・5分の加熱後、94℃・30秒、60℃・30秒、72℃・2分間の温
度サイクルを5回繰り返し、最後に氷冷した。
(4−2)一段階目のPCR反応後の反応液に、終濃度各1μMとなるよう配列番号23および27からなるプライマーをそれぞれ添加後、下記反応条件にて二段階目のPCR反応を行なった。
【0040】
(反応条件)
94℃で5分加熱後、94℃・30秒、60℃・30秒、72℃・1分の温度サ
イクルを30回繰り返し、最後に72℃で7分反応した。
(5)(4)で得られたプロモーター結合GFP遺伝子を制限酵素KpnIで処理後、Ligation Kit(タカラバイオ社製)を用いて事前にKpnI処理したプラスミドpHMS1に挿入した。
(6)(5)でプロモーター結合GFP遺伝子を挿入したプラスミドpHMS1を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換後、50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地を用いて培養し(37℃、18時間)、培養液からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を用いてプラスミドを抽出して配列を確認した。なお本操作で得られたプラスミドを、以降プラスミドpHMS1GFPと命名する。プラスミドpHMS1GFPの制限酵素地図を図5に示す。
(7)プラスミドpHMS1GFPを用いてパラコッカス属細菌N−81106株を実施例5と同様の方法で形質転換を行なった。すなわち、エレクトロポレーションにより75μg/mLのカナマイシンを含むOEG寒天培地に菌体を塗付し、25℃で3から5日間培養後、カナマイシン耐性を示す形質転換体を得た。
【0041】
得られたパラコッカス属細菌N−81106株形質転換体を1週間程度培養後、培養液に紫外線を照射した結果、GFPに由来する蛍光を確認した。
【0042】
実施例7 パラコッカス属細菌形質転換体からのGFP調製
実施例6で調製したパラコッカス属細菌形質転換体を用いてGFPを調製した。
(1)実施例6で調製した形質転換体培養液からBugBuster Protein Extraction Reagent(タカラバイオ社)を用い、培養後の形質転換体から全タンパク質を抽出した。
(2)実施例6で調製した形質転換体より発現されるGFPのC末端側に存在するHisタグを利用し、下記に示す抗GFP抗体と抗Hisタグ抗体によるサンドウィッチ法ELISAを行なった。
(2−1)96穴のELISAプレート(Nunc社製)に、1μg/mLから段階的に希釈した抗GFP抗体(インビトロジェン社製)を各ウェルに100μLずつ添加後、4℃で18時間静置することで抗体を固相に固定した。
(2−2)TBS緩衝液(0.2%(w/v)Tween 20、150mM NaClを含むTris―HCl緩衝液(pH8.0))で洗浄後、Starting Block Blocking Buffers(PIERCE社製)によりブロッキング操作を施した。
(2−3)TBS緩衝液で洗浄後、形質転換株から調製したタンパク質溶液を適宜希釈し、固定化抗体と反応させた(30℃、2時間)。
(2−4)反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、His−probe(H−15)HRP抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を添加した。
(2−5)反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し450nmの吸光度を測定した。
【0043】
ELISAの結果、実施例6で調製した形質転換体によりGFPを発現していることを確認した(図6)。以上より、プラスミドpHMS1GFPを用いてパラコッカス属細菌を形質転換することで、GFPを発現可能な組換えパラコッカス属細菌が調製できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のプラスミドにより、パラコッカス(Paracoccus)属細菌の遺伝子組換えを効率よく行なうことができる。また、前記組換え菌で発現したタンパク質は、抗体、レセプター、構造タンパク質、蛍光タンパク質としてそのまま用いることもできるし、酵素を発現させることで酵素工学的に物質生産させることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すポリヌクレオチドを含むプラスミド。
【請求項2】
配列番号2に示すポリヌクレオチドからなるプラスミド。
【請求項3】
配列番号1に示すポリヌクレオチドの一部が置換および/または付加および/または欠失されたポリヌクレオチドを含むプラスミド。
【請求項4】
パラコッカス(Paracoccus)属以外の細菌由来のプラスミド複製領域を含むポリヌクレオチドが挿入された、請求項1から3に記載のプラスミド。
【請求項5】
タンパク質をコードするポリヌクレオチドが挿入された請求項1から4に記載のプラスミドを用いて細菌を形質転換することで得られる、前記タンパク質を発現可能な形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を用いることを特徴とする、前記タンパク質の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−24444(P2011−24444A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171446(P2009−171446)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】