説明

新規ヘモポエチン受容体蛋白質、NR10

【課題】新規ヒトヘモポエチン受容体蛋白質、それをコードするDNAの提供。
【解決手段】既知のヘモポエチン受容体のアミノ酸配列から保存されているモチーフを抽出し、予測した配列をもとに特定の塩基配列を有する新規なヘモポエチン受容体遺伝子(NR10)を単離する。NR10は生体免疫調節、造血細胞調節に関与する新規なヘモポエチン受容体分子であり、同受容体と機能結合し得る新規造血性因子の検索や、免疫・造血系関連疾患の治療薬の開発に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ヘモポエチン受容体蛋白質、それをコードする遺伝子、それらの製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の細胞の増殖分化、あるいは分化成熟した細胞の機能の賦活化さらには細胞死に関与する体液性因子として数多くのサイトカインの存在が知られている。これらのサイトカインにはそれぞれ特異的な受容体が存在し、これらの受容体は構造上の類似性から幾つかのファミリーに分類されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、受容体間の類似性と比較するとサイトカイン同士の一次構造上の相同性は低く、同一の受容体ファミリーに属するサイトカインメンバーの間でさえアミノ酸レベルでの顕著な相同性は認められない。このことは個々のサイトカインの機能の特異性を説明すると同時に、個々のサイトカインにより誘導される細胞の反応の類似性を説明する。
【0004】
上記サイトカイン受容体ファミリーの代表的なものとして、チロシンキナーゼ受容体、ヘモポエチン受容体、腫瘍壊死因子(TNF)受容体、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)受容体の各ファミリーが挙げられ、それぞれのファミリーで異なるシグナル伝達系の関与が報告されている。これらの受容体ファミリーのうち、特にヘモポエチン受容体ファミリーの多くは血液細胞あるいは免疫担当細胞に発現しており、そのリガンドであるサイトカインはしばしば造血因子あるいはインターロイキンと称される。これら造血因子、あるいはインターロイキン類のあるものは血流中に存在し全身的な造血あるいは免疫機能の体液性調節に関与していると考えられる。
【0005】
このことは他のファミリーに対応するサイトカインがしばしば局所での調節にのみ関与していると考えられる点とは対照的で、これらヘモポエチン類の一部のものはホルモン様因子と捉えることが可能であり、また逆に代表的なペプチド性ホルモンである成長ホルモン、プロラクチンあるいはレプチンの受容体もヘモポエチン受容体ファミリーに属する。上記ホルモン様の全身性調節様式からこれらのヘモポエチン類を投与することによる種々の疾患の治療への応用が期待される。
【0006】
事実、数多いサイトカイン類の中で臨床応用が行われているのは、エリスロポエチン、G-CSF、GM-CSF、IL-2であり、また現在臨床応用に向けた検討が行われている、IL-11、LIF、IL-12に加えて上記ペプチドホルモン類の成長ホルモン、プロラクチンを併せて考えると、上記各種受容体ファミリーのうちヘモポエチン受容体に結合する新規サイトカインを探索することにより、より高い確率で臨床応用可能なサイトカインを見出すことが可能と考えられる。
【0007】
上に述べた様にサイトカイン受容体はファミリーメンバー間で構造上の類似性を有している。この類似性を利用して新規受容体を発見する試みは数多く行われており、特にチロシンキナーゼ受容体に関しては、その触媒部位の高度に保存された配列を利用して既に数多くの受容体がクローニングされている(非特許文献2)。これに対してヘモポエチン受容体はその細胞質領域にチロシンキナーゼの様な酵素活性ドメインを有しておらず、そのシグナル伝達は細胞質中に遊離状態で存在する別のチロシンキナーゼ蛋白との会合を介して行われることが知られている。
【0008】
これらの細胞質性チロシンキナーゼ(JAKキナーゼ)との受容体上の結合部位はファミリーメンバー間で一応保存されてはいるものの、その相同性はあまり高くない(非特許文献3)。一方、これらヘモポエチン受容体を最もよく特徴付ける配列はむしろ細胞外領域に存在し、特にTrp-Ser-Xaa-Trp-Ser(Xaaは任意のアミノ酸)の5アミノ酸から成るモチーフは殆ど全てのヘモポエチン受容体に保存されており、この配列を利用した新規ファミリーメンバーの探索により新規受容体を取得することが期待される。事実、これまでにIL-11受容体(非特許文献4)、レプチン受容体(非特許文献5)及びIL-13受容体(非特許文献6)がこのアプローチにより同定されている。
【0009】
【非特許文献1】Hilton D.J., in "Guidebook to Cytokines and Their Receptors" edited by Nicola N.A.(A Sambrook & Tooze Publication at Oxford University Press), 1994, p8-16
【非特許文献2】Matthews W. et al., Cell, 1991, 65 (7) p1143-52
【非特許文献3】Murakami M. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1991, 88, 11349-11353
【非特許文献4】Robb, L. et al., J. Biol. Chem. 271 (23), 1996, 13754-13761
【非特許文献5】Gainsford T. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996, 93 (25) p14564-8
【非特許文献6】Hilton.D.J. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996, 93 (1) p497-501
【発明の開示】
【0010】
本発明は、新規ヘモポエチン受容体蛋白質、それをコードするDNAを提供する。本発明はまた、該DNAが挿入されたベクター、該DNAを保持する形質転換体、該形質転換体を利用した組換え蛋白質の製造方法を提供する。本発明はさらに、該蛋白質に結合する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0011】
本発明者らは、これまでに、Trp-Ser-Xaa-Trp-Serモチーフ(WSモチーフ)をコードするオリゴヌクレオチドをプローブに用いてプラークハイブリダイゼーションあるいはRT-PCR等の方法により新規受容体の探索を試行してきた。しかし、このモチーフをコードするオリゴヌクレオチドtggag(t/c)nnntggag(t/c)(nは任意の塩基)が15塩基対と短いこと、さらにはg/c含量が高い等の理由から通常のハイブリダイゼーションの実験条件下で厳密に15塩基が完全にハイブリダイズしたものだけを選別することは極めて困難であった。
【0012】
また、比較的広範に分布しかつ発現量も高いと考えられる各種コラーゲンを初めとするヘモポエチン受容体以外の蛋白をコードするcDNA中にも類似の配列が含まれており、これらの原因により上記プラークハイブリダイゼーションあるいはRT-PCRによるスクリーニングは極めて効率の悪いものであった。
【0013】
これらの問題を解決するために、上記WSモチーフ以外の部位において、ヘモポエチン受容体ファミリーに保存されているモチーフを検討した。その結果、同ファミリーの細胞外領域においてWSモチーフより13〜27アミノ酸上流に位置するチロシン残基、あるいはヒスチジン残基が高い確立で保存されており、さらに、そのTyr/His残基からC末端方向の6アミノ酸において、高頻度に出現するコンセンサス配列を検討した結果、(Tyr/His)-Xaa-(Hydrophobic/Ala)-(Gln/Arg)-Hydrophobic-Argといったアミノ酸配列(以下YRモチーフと称する)を見出すことが可能であった。しかしながら、このYRモチーフは必ずしも完全なコンセンサス配列と断定できるものではなく、また、このモチーフをコードする塩基配列の組合わせは複雑性に富んでいる。従って、現実的なスクリーニングの手段となるハイブリダイゼーションのためのプローブや、あるいはRT-PCRを目的とするプライマーとして、このアミノ酸配列の全てをコード可能なオリゴヌクレオチドを合成、且つ供することは事実上不可能に近い。
【0014】
そこで、上記2種類のモチーフをプローブとして利用する具体的な新規ヘモポエチン受容体ファミリーメンバーの検索手段を検討した結果、双方のモチーフ配列を共に含むように、既知ヘモポエチン受容体を断片化した部分アミノ酸配列を質問式(query)として用いる、コンピュータ上でのデータベース検索が妥当であると判断した。実際にGenBankのgss、及びhtgsデータベースに対するTBlastN検索を、複数の既知ヘモポエチン受容体の部分アミノ酸配列を質問式として用いて繰り返し実施した結果、何れの場合においても、多数の疑陽性クローンが得られた。次に上記検索で得られたクローンについて、プローブ配列周辺の塩基配列をアミノ酸配列に変換して既知のヘモポエチン受容体のアミノ酸配列と比較する事により、同受容体ファミリーメンバーをコードすると考えられる遺伝子を選別した。以上の検索により唯一、1クローンの新規ヘモポエチン受容体遺伝子をコードし得ると推測されるヒトゲノム配列を同定し、この遺伝子をNR10と命名した。
【0015】
次に、得られた塩基配列をもとにして、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。これらプライマーを利用した5'-RASE法、及び3'-RACE法をヒト胎児肝細胞、及びヒト胎盤cDNAライブラリーを鋳型としておこなうことにより、最終的に652アミノ酸からなる細胞膜貫通型受容体をコードする完全長cDNA、NR10.1を単離し、その全塩基配列を決定した。同時に3'-RACEの産物においてスプライス変異体と推定されるcDNAクローン、NR10.2の単離にも成功した。その塩基配列を決定した結果、NR10.2は252アミノ酸からなる可溶性受容体様蛋白をコードすることが可能であることを認めた。NR10.1は一次構造上、細胞外領域に他のファミリーメンバー間で保存されているシステイン残基、プロリンに富んだモチーフ、WSXWSモチーフ、細胞内領域にシグナル伝達に関与すると考えられるbox1モチーフ、等がよく保存されており典型的なヘモポエチン受容体をコードしていると考えられた。
【0016】
その後、さらにNR10.1、及びNR10.2のそれぞれに特異的なプライマーセットを用いたRT-PCR法を、各ヒト臓器由来のmRNAに対しておこない、当該遺伝子の発現組織を検索すると共に、同遺伝子の各ヒト臓器における発現分布、及び、発現様態の解析をおこなった。RT-PCRによって増幅された標的遺伝子は、NR10.1及びNR10.2それぞれに特異的なcDNA断片をプローブとして用いたサザンブロッティング法を実施することで確認をおこない、それが非特異的な増幅である可能性を否定すると同時に、RT-PCR産物の定量的評価をおこなった。その結果、解析した全ての臓器において構成的に一定量の発現分布が認められたNR10.2遺伝子に対し、NR10.1は成人心臓、胎盤、精巣、胸腺、末梢白血球において強い発現を示し、さらに脾臓、骨髄、前立腺、卵巣、膵臓、肺において弱い発現が検出されるなど、その遺伝子発現を認める臓器、及び組織は制限されるものであった。
【0017】
また、本発明者等は、NR10.1の完全長ORFの単離を目的とするPCRクローニングにおいて、NR10.1の僅か1塩基が欠損した塩基配列を有し、662アミノ酸からなる細胞膜貫通型受容体蛋白をコードするcDNAクローン、NR10.3を単離した。NR10.3は、NR10.1と構造的に近似していることから、NR10.1と同等の機能を有していると考えられた。
【0018】
以上のようなNR10の特性から、NR10は生体免疫調節、或いは造血細胞調節に関与する新規なヘモポエチン受容体分子と推定され、同受容体と機能結合し得る新規造血性因子の検索に、同遺伝子を利用することは極めて有用であると考えられる。
【0019】
すなわち、本発明は、新規なヘモポエチン受容体およびそれらの遺伝子、ならびにそれらの製造および利用に関し、より具体的には、
(1) 下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:2、4、または17に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:1、3、または16かに記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2、4、または17に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列からなる、配列番号:2、4、または17に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNA
(d)配列番号:1、3、または16に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:2、4、または17に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNA
(2) 配列番号:2、4、または17に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の部分ペプチドをコードするDNA、
(3) (1)または(2)に記載のDNAが挿入されたベクター、
(4) (1)または(2)に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換体、
(5) (1)または(2)に記載のDNAによりコードされる蛋白質またはペプチド、
(6) (4)に記載の形質転換体を培養し、該形質転換体またはその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、(5)に記載の蛋白質またはペプチドの製造方法、
(7) (5)に記載の蛋白質に結合する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)(5)に記載の蛋白質またはその部分ペプチドに被験試料を接触させる工程、および
(b)(5)に記載の蛋白質またはその部分ペプチドと被検試料との結合活性を検出する工程、
(c)(5)に記載の蛋白質またはその部分ペプチドに結合する活性を有する化合物を選択する工程、を含む方法、
(8) (5)に記載の蛋白質に結合する抗体、
(9) (8)に記載の抗体と、(5)に記載の蛋白質が含まれると予想される試料とを接触せしめ、該抗体と該蛋白質との免疫複合体の生成を検出又は測定することを含む、(5)に記載の蛋白質の検出又は測定方法、および
(10) 配列番号:1、3または16に記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、を提供するものである。
【0020】
本発明は、新規ヘモポエチン受容体「NR10」を提供する。GenBankデータベース解析、および5'-RACE及び3'-RACEによる解析の結果から、本発明者らは新規ヘモポエチン受容体遺伝子NR10を同定し単離することに成功した。NR10の転写産物には、少なくとも2種のスプライス変異体の存在が確認された。このうち、細胞膜貫通型受容体蛋白をコードするcDNAクローンをNR10.1とし、他方、252アミノ酸からなる可溶性受容体様蛋白をコードすると考えられるcDNAクローンをNR10.2とした。また、本発明者等は、NR10.1 cDNAの完全長ORFの単離を目的とするPCRクローニングにおいて、662アミノ酸からなる細胞膜貫通型受容体蛋白をコードするcDNAクローンの完全長ORFの単離に成功し、このcDNAクローンをNR10.3と命名した。
【0021】
NR10.1 cDNAの塩基配列を配列番号:1に、該cDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、NR10.2 cDNAの塩基配列を配列番号:3に、該cDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。また、NR10.3 cDNAの塩基配列を配列番号:16に、該cDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:17に示す。
【0022】
NR10.1に対してNR10.3 cDNAクローンは、終止コドン近傍に存在するアデニン基クラスターにおける、僅か1塩基の欠損が認められ、これによって発生したフレームシフトに起因するアミノ酸配列読み枠の相違を示す。従って、これら両クローンの相違は、スプライシング変異体であることに基づく転写産物の相違ではない。また、その1塩基の欠損以外においては、NR10.1とNR10.3 cDNAクローンの相違は認めれない。細胞外領域においては、双方共に全く同一であるため両者は同様の立体構造を保有し、さらに同一の特異的リガンドを認識すると考えられる。一方、細胞内領域においては、細胞膜貫通領域直下に存在するBox1モチーフ(数個の塩基性アミノ酸と複数の疎水性アミノ酸に続く、Pro-Xxx-Pro配列)を保有していることから、JAKキナーゼの結合が予測される。従って、これらがコードする蛋白質は、機能的に同等であること推測される。
【0023】
RT-PCR法を用いて各ヒト臓器における遺伝子発現解析を実施した結果、解析した全ての臓器において構成的に一定量の発現分布が認められたNR10.2遺伝子に対し、NR10.1は成人心臓、胎盤、精巣、胸腺、末梢白血球において強い発現を示し、さらに脾臓、骨髄、前立腺、卵巣、膵臓、肺において弱い発現が検出されるなど、その遺伝子発現を認める臓器、及び組織は制限されるものであった。以上のことから、NR10は新規造血因子受容体をコードするものと推定される。
【0024】
上記NR10タンパク質には、医療への応用が考えられる。NR10.1が胸腺、末梢白血球及び脾臓に発現していることから未知の造血因子の受容体である可能性が示唆される。従って、NR10タンパク質はこの未知の造血因子を得るための有用な材料を提供するものと考えられる。また、NR10分子と機能結合し得るアゴニスト、或いはアンタゴニストの検索を、ペプチドライブラリー、または合成化学材料に対しておこない、単離同定することも考えられる。さらに、NR10分子に機能結合する新規分子、及びNR10分子機能を制限し得る特異的抗体の検索による、生体免疫応答制御や造血細胞制御といった臨床応用が期待される。
【0025】
また、NR10の発現はこれら造血組織中の限られた細胞集団に特異的に発現している可能性が想定され、この細胞集団を分離する手段として抗NR10抗体は有用である。この様にして分離された細胞集団は細胞移植療法への応用が可能である。さらに抗NR10抗体は白血病を初めとした疾患の病型診断あるいは治療への応用も期待される。
【0026】
一方、NR10蛋白質の細胞外ドメインを含む可溶性蛋白質、あるいはNR10のスプライス変異体であるNR10.2はデコイ型受容体としてNR10リガンドの阻害剤としての利用が想定され、NR10が関与する白血病を初めとする疾患の治療への応用が期待できる。
【0027】
本発明は、NR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質を包含する。このようなタンパク質には、例えば、ヒトNR10タンパク質に対応する他の生物のホモログタンパク質やヒトNR10タンパク質の変異体が含まれる。本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、上記NR10タンパク質と同等の生物学的活性を有することを指す。生物学的活性としては、例えば、膜結合型または可溶型の造血因子受容体蛋白質活性である。
【0028】
あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、ヒトNR10タンパク質のアミノ酸に適宜変異を導入することによりヒトNR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、ヒトNR10タンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、ヒトNR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質もまた本発明のタンパク質に含まれる。
【0029】
本発明のNR10蛋白質と機能的に同等な蛋白質としては、具体的には、配列番号:2、4、または17に示されるアミノ酸配列中の1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸が欠失したもの、配列番号:2、4、または17に示されるアミノ酸配列に1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸が付加したもの、配列番号:2、4、または17に示されるアミノ酸配列中の1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものが挙げられる。
【0030】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0031】
なお、あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、 Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413 )。
【0032】
ヒトNR10タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2、4、または17)に1又は複数個のアミノ酸残基が付加されたタンパク質としては、例えば、ヒトNR10タンパク質を含む融合タンパク質が挙げられる。融合タンパク質は、ヒトNR10タンパク質と他のペプチド又はタンパク質とが融合したものであり、本発明に含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、本発明のヒトNR10タンパク質をコードするDNAと他のペプチド又はタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明のタンパク質との融合に付される他のペプチド又はタンパク質としては、特に限定されない。
【0033】
本発明のタンパク質との融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210 )、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α-tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。
市販されているこれらペプチドまたはタンパク質をコードするDNAを本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合DNAを発現させることにより、融合タンパク質を調製することができる。
【0034】
また、あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者であれば、ヒトNR10タンパク質をコードするDNA配列(配列番号:1、3、または16)もしくはその一部を基に、これと相同性の高いDNAを単離して、該DNAからヒトNR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質を単離することも通常行いうることである。このように、ヒトNR10タンパク質をコードするDNAもしくはその一部からなるDNAとハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質であって、ヒトNR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質もまた本発明のタンパク質に含まれる。このようなタンパク質としては、例えば、ヒト以外の哺乳動物のホモログ(例えば、サル、マウス、ラット、ウサギ、ウシの遺伝子がコードするタンパク質)が挙げられる。ヒトNR10タンパク質をコードするDNAと相同性の高いcDNAを、動物から単離する場合、特に心臓、胎盤、精巣などの組織を用いることが好ましいと考えられる。
【0035】
ヒトNR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離するためのストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントの条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられ、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。またより好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、2×SSC及び0.1%SDSが挙げられる。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAを得ることができる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度以外にも塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0036】
また、ハイブリダイゼーションにかえて、ヒトNR10タンパク質をコードするDNA(配列番号:1、3、または16)の配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して目的のDNAを単離することも可能である。
これらハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードするヒトNR10タンパク質と機能的に同等なタンパク質は、通常、ヒトNR10タンパク質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明のタンパク質には、ヒトNR10蛋白質と機能的に同等であり、かつ配列番号:2、4、または17に示されるアミノ酸配列と高い相同性を有する蛋白質も含まれる。高い相同性とは、通常、70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。タンパク質の相同性を決定するには、文献(Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。
【0037】
本発明のタンパク質は、後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られたタンパク質が、本発明のヒトNR10タンパク質(配列番号:2、4、または17)と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明の蛋白質を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の蛋白質のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。また、真核細胞、例えば哺乳動物細胞で発現させた場合、N末端のシグナル配列は除去される。本発明の蛋白質はこのような蛋白質も包含する。
例えば、文献(Von Heijne, G. Nucleic Acids Research (1986) 14, 4683-4690)に記載の方法に基づいて、本発明の蛋白質を解析した結果、シグナル配列は配列番号:2、4、および17のアミノ酸配列において、1位のMetから32位のAlaまでと推定された。したがって、本発明は配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、33位のAlaから652位のAspまでからなる蛋白質を包含する。同様に、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、33位のAlaから252位のValまでからなる蛋白質を包含する。同様に、配列番号:17に記載のアミノ酸配列において、33位のAlaから662位のIleまでからなる蛋白質を包含する。
【0038】
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、組み換えタンパク質として、また天然のタンパク質として調製することが可能である。組み換えタンパク質であれば、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば配列番号:1、3、または16に記載の塩基配列を有するDNA)を、適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明のタンパク質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
【0039】
また、本発明のタンパク質をグルタチオンSトランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えタンパク質として宿主細胞(例えば、動物細胞や大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換えタンパク質はグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。
融合タンパク質の精製後、必要に応じて融合タンパク質のうち目的のタンパク質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
【0040】
天然のタンパク質であれば、当業者に周知の方法、例えば、本発明のタンパク質を発現している組織や細胞の抽出物に対し、後述するNR10タンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0041】
本発明は、また、本発明のタンパク質の部分ペプチドを包含する。本発明のタンパク質に特異的なアミノ酸配列からなる部分ペプチドは、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸以上、さらに好ましくは9アミノ酸以上のアミノ酸配列からなる。該部分ペプチドは、例えば、本発明のタンパク質に対する抗体の作製、本発明のタンパク質に結合する化合物のスクリーニングや、本発明のタンパク質の促進剤や阻害剤のスクリーニングに利用し得る。また、本発明のタンパク質のリガンドに対するアンタゴニストになり得る。本発明のタンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、配列番号:2、4、または17に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の活性中心からなる部分ペプチドが挙げられる。また、疎水性プロット解析から推定される疎水性領域や親水性領域の1つあるいは複数の領域を含む部分ペプチドが挙げられる。これらの部分ペプチドは1つの疎水性領域の一部あるいは全部を含んでいてもよいし、1つの親水性領域の一部あるいは全部を含んでいてもよい。また、例えば、本発明のタンパク質の可溶型蛋白質や細胞外領域からなるタンパク質も本発明に包含される。
本発明の部分ペプチドは、遺伝子工学的手法、公知のペプチド合成法、あるいは本発明のタンパク質を適切なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチド合成法としては、たとえば固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。
【0042】
また、本発明は、本発明のタンパク質をコードするDNAを提供する。本発明のDNAは、上述したような本発明のタンパク質のin vivoやin vitroにおける生産に利用される他、例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の異常に起因する疾患の遺伝子治療などへの応用も考えられる。本発明のDNAは、本発明のタンパク質をコードしうるものであれば、いかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0043】
本発明のDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明のタンパク質を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNAの配列(例えば、配列番号:1または3)の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えばSambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法により調製してもよいし、市販のDNAライブラリーを用いてもよい。また、本発明のタンパク質を発現している細胞よりRNAを調製し、本発明のDNAの配列(例えば、配列番号:1、3、または16)に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0044】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、本発明のタンパク質のアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
具体的には、次のようにすればよい。まず、本発明のタンパク質を発現する細胞、組織、臓器(例えば卵巣、精巣、胎盤など)から、mRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0045】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)等を用いて行うこともできる。また、本明細書に記載されたプライマー等を用いて、5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction ; PCR)を用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 8998-9002 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932)にしたがい、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
【0046】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を調製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により確認することができる。
【0047】
また、本発明のDNAにおいては、発現に使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、より発現効率の高い塩基配列を設計することができる(Grantham, R. et al., Nucelic Acids Research (1981) 9, r43-74)。また、本発明のDNAは、市販のキットや公知の方法によって改変することができる。改変としては、例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドや適当なDNAフラグメントの挿入、リンカーの付加、開始コドン(ATG)及び/又は終止コドン(TAA、TGA、又はTAG)の挿入等が挙げられる。
【0048】
本発明のDNAは、具体的には、配列番号:1の塩基配列において523位の塩基Aから2478位の塩基CからなるDNA、配列番号:3の塩基配列において523位の塩基Aから1278位の塩基GからなるDNA、および配列番号:16の塩基配列において11位の塩基Aから1996位の塩基AからなるDNAを包含する。
【0049】
本発明のDNAはまた、配列番号:1、3、または16に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、且つ上記本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを含む。
【0050】
ストリンジェントな条件としては、当業者であれば適宜選択することができるが、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントの条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられ、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。またより好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、2×SSC及び0.1%SDSが挙げられる。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAを得ることができる。上記のハイブリダイズするDNAは好ましくは天然由来のDNA、例えばcDNA又は染色体DNAであってよい。
【0051】
また、本発明は、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、宿主細胞内において本発明のDNAを保持したり、本発明のタンパク質を発現させるために有用である。
【0052】
ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。本発明のタンパク質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(Qiagen社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0053】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。タンパク質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0054】
大腸菌以外にも、例えば、本発明のタンパク質を製造するために、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS(Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(In vitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0055】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0056】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製機転を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0057】
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、本発明のNR10遺伝子の変異に起因する疾患に対する遺伝子治療を行うことが可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning ,5.61-5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0058】
また、本発明は、本発明のDNAを発現可能の保持する形質転換体を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の形質転換体は、例えば、本発明のタンパク質の製造や発現のための産生系として使用することができる。タンパク質製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0059】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358-340)、あるいは昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220)やCHO K-1(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0060】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞がタンパク質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
【0061】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0062】
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりタンパク質が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0063】
一方、in vivoでタンパク質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内でタンパク質を産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0064】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0065】
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のタンパク質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるタンパク質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0066】
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のタンパク質をコードするDNAを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のタンパク質を得ることができる(Susumu, M. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。
【0067】
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするタンパク質をコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチドを得ることができる(Julian K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-138)。
【0068】
これにより得られた本発明のタンパク質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0069】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたタンパク質も包含する。
【0070】
なお、タンパク質を精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0071】
また、本発明は、本発明のタンパク質と結合する抗体を提供する。本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、ポリクローナル抗体の他、モノクローナル抗体も含まれる。また、ウサギなどの免疫動物に本発明のタンパク質を免疫して得た抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、さらにヒト抗体や遺伝子組み換えによるヒト型化抗体も含まれる。
【0072】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のタンパク質は、その由来となる動物種に制限されないが哺乳動物、例えばヒト、マウス又はラット由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて得ることができる。
【0073】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質であってもよいし、また、タンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書で述べる「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0074】
本発明のタンパク質又はその断片をコードする遺伝子を公知の発現ベクター系に挿入し、該ベクターで本明細書で述べた宿主細胞を形質転換させ、該宿主細胞内外から目的のタンパク質又はその断片を公知の方法で得て、これらを感作抗原として用いればよい。また、タンパク質を発現する細胞又はその溶解物あるいは化学的に合成した本発明のタンパク質を感作抗原として使用してもよい。
【0075】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が使用される。
【0076】
げっ歯目の動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。ウサギ目の動物としては、例えば、ウサギが使用される。霊長目の動物としては、例えば、サルが使用される。サルとしては、狭鼻下目のサル(旧世界ザル)、例えば、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等が使用される。
【0077】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。一般的方法としては、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに対し、所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に投与する。さらに、その後、フロイント不完全アジュバントに適量混合した感作抗原を、4〜21日毎に数回投与することが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを常法により確認する。
【0078】
ここで、本発明のタンパク質に対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、本発明のタンパク質をカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、本発明のタンパク質のみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。
【0079】
モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物の血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合に付せばよい。この際、細胞融合に使用される好ましい免疫細胞として、特に脾細胞が挙げられる。前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、好ましくは哺乳動物のミエローマ細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞選別のための特性を獲得したミエローマ細胞が挙げられる。
【0080】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre, G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0081】
細胞融合により得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常、数日・数週間継続して行う。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0082】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる(特開昭63-17688号公報)。
【0083】
次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のタンパク質をカップリングしたアフィニティーカラムなどにより精製することで調製することが可能である。本発明の抗体は、本発明のタンパク質の精製、検出に用いられる他、本発明のタンパク質のアゴニストやアンタゴニストの候補になる。また、この抗体を本発明のタンパク質が関与する疾患の抗体治療へ応用することも考えられる。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0084】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物を免疫して抗体産生細胞を取得し、これをミエローマ細胞と融合させたハイブリドーマを用いてタンパク質に対するヒト抗体を取得することができる(国際公開番号WO92-03918、WO93-2227、WO94-02602、WO94-25585、WO96-33735およびWO96-34096参照)。
【0085】
ハイブリドーマを用いて抗体を産生する以外に、抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞を癌遺伝子(oncogene)により不死化させた細胞を用いてもよい。
【0086】
このように得られたモノクローナル抗体はまた、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体として得ることができる(例えば、Borrebaeck, C. A. K. and Larrick, J. W., THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ又は抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させる。本発明は、この組換え型抗体を包含する。
【0087】
さらに、本発明の抗体は、本発明のタンパク質に結合する限り、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv) (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0088】
抗体修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明の「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0089】
また、本発明の抗体は、公知の技術を使用して非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなるキメラ抗体又は非ヒト抗体由来のCDR(相補性決定領域)とヒト抗体由来のFR(フレームワーク領域)及び定常領域からなるヒト型化抗体として得ることができる。
【0090】
前記のように得られた抗体は、均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製は通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)等により行うことができる。
【0091】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Pharmacia)等が挙げられる。
【0092】
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization : A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0093】
また、本発明の抗体の抗原結合活性を測定する方法として、例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。ELISAを用いる場合、本発明の抗体を固相化したプレートに本発明のタンパク質を添加し、次いで目的の抗体を含む試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。酵素、例えば、アルカリフォスファターゼ等で標識した抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションし、次いで洗浄した後、p-ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。タンパク質としてタンパク質の断片、例えばそのC末端からなる断片あるいはN末端からなる断片を使用してもよい。本発明の抗体の活性評価には、BIAcore(Pharmacia製)を使用することができる。
【0094】
これらの手法を用いることにより、本発明の抗体と試料中に含まれる本発明のタンパク質が含まれると予想される試料とを接触せしめ、該抗体と該タンパク質との免疫複合体を検出又は測定することからなる、本発明のタンパク質の検出又は測定方法を実施することができる。
本発明のタンパク質の検出又は測定方法は、タンパク質を特異的に検出又は測定することができるため、タンパク質を用いた種々の実験等に有用である。
本発明はまた、ヒトNR10タンパク質をコードするDNA(配列番号:1、3、または16)またはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを提供する。
【0095】
ここで「相補鎖」とは、A:T、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは本明細書に記載したものを使用すればよい。
【0096】
このようなポリヌクレオチドには、本発明のタンパク質をコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、本発明のタンパク質の発現を抑制するためのヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイム等)が含まれる。また、このようなポリヌクレオチドは、DNAチップの作製に利用することもできる。
【0097】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号:1、3、または16の塩基配列中のいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは配列番号:1、3、または16の塩基配列中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0098】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができる。修飾体として、例えばメチルホスホネート型又はエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体等が挙げられる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが全て相補配列であるもののみならず、DNAまたはmRNAとオリゴヌクレオチドとが配列番号:1、3、または16に示される塩基配列に特異的にハイブリダイズできる限り、1又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在していてもよい。
【0099】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、本発明のタンパク質の産生細胞に作用して、該タンパク質をコードするDNA又はmRNAに結合することにより、その転写又は翻訳を阻害したり、mRNAの分解を促進したりして、本発明のタンパク質の発現を抑制することにより、結果的に本発明のタンパク質の作用を抑制する効果を有する。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、それらに対して不活性な適当な基剤と混和して塗布剤、パップ剤等の外用剤とすることができる。
また、必要に応じて、賦形剤、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、無痛化剤等を加えて錠剤、散財、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻剤など、さらに凍結乾燥剤とすることができる。これらは常法にしたがって調製することができる。
【0100】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は患者の患部に直接適用するか、又は血管内に投与するなどして結果的に患部に到達し得るように患者に適用する。さらには、持続性、膜透過性を高めるアンチセンス封入素材を用いることもできる。例えば、リポソーム、ポリ-L-リジン、リピッド、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が挙げられる。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に応じて適宜調整し、好ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲で投与することができる。
【0101】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは本発明のタンパク質の発現を阻害し、従って本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制することにおいて有用である。また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する発現阻害剤は、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制することが可能である点で有用である。
【0102】
本発明の蛋白質は、これに結合する化合物のスクリーニングに有用である。すなわち、本発明の蛋白質と、該蛋白質に結合する化合物を含むと予想される被験試料とを接触せしめ、そして本発明の蛋白質と該化合物との結合活性を検出し、本発明の蛋白質に結合する活性を有する化合物を選択する、ことからなる本発明の蛋白質に結合する化合物をスクリーニングする方法において使用される。
【0103】
スクリーニングに用いられる本発明のタンパク質は組換えタンパク質であっても、天然由来のタンパク質であってもよい。また部分ペプチドであってもよい。また細胞表面に発現させた形態、または膜画分としての形態であってもよい。被検試料としては特に制限はなく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。被検試料を接触させる本発明のタンパク質は、例えば、精製したタンパク質として、可溶型タンパク質として、担体に結合させた形態として、他のタンパク質との融合タンパク質として、細胞膜上に発現させた形態として、また、膜画分として被検試料に接触させることができる。
【0104】
本発明のタンパク質を用いて、例えば該タンパク質に結合するタンパク質(リガンド等)をスクリーニングする方法としては、当業者に公知の多くの方法を用いることが可能である。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により行うことができる。具体的には、以下のように行うことができる。本発明のタンパク質をコードする遺伝子を、pSV2neo, pcDNA I, pCD8などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしてはSV40 early promoter(Rigby In Williamson (ed.), Genetic Engineering, Vol.3. Academic Press, London, p.83-141(1982)), EF-1 α promoter(Kimら Gene 91, p.217-223 (1990)), CAG promoter(Niwa et al. Gene 108, p.193-200 (1991)), RSV LTR promoter(Cullen Methods in Enzymology 152, p.684-704 (1987), SR α promoter(Takebe et al. Mol. Cell. Biol. 8, p.466 (1988)), CMV immediate early promoter (Seed and Aruffo Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, p.3365-3369 (1987)), SV40 late promoter(Gheysen and Fiers J. Mol. Appl. Genet. 1, p.385-394 (1982)), Adenovirus late promoter(Kaufman et al. Mol. Cell. Biol. 9, p. 946 (1989)), HSV TK promoter等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法(Chu, G. et al. Nucl. Acid Res. 15, 1311-1326 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen, C and Okayama, H. Mol. Cell. Biol. 7, 2745-2752 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata, M. A. et al. Nucl. Acids Res. 12, 5707-5717 (1984); Sussman, D. J. and Milman, G. Mol. Cell. Biol. 4, 1642-1643 (1985))、リポフェクチン法(Derijard, B. Cell 7, 1025-1037 (1994); Lamb, B. T. et al. Nature Genetics 5, 22-30 (1993); Rabindran, S. K. et al. Science 259, 230-234 (1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を本発明のタンパク質のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合タンパク質として本発明のタンパク質を発現させることができる。用いるエピトープー抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学 13, 85-90 (1995))。マルチクローニングサイトを介して、βーガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSートランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現することができるベクターが市販されている。
【0105】
融合タンパク質にすることにより本発明のタンパク質の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合タンパク質を調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His-tag)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、Vesicular stomatitisウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7 gene10タンパク質(T7-tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV-tag)、E-tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、本発明のタンパク質に結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として利用できる(実験医学 13, 85-90 (1995))。
【0106】
免疫沈降においては、これらの抗体を、適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体は本発明のタンパク質、それと結合能を有するタンパク質、および抗体からなる。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、本発明のタンパク質に対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。本発明のタンパク質に対する抗体は、例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させたタンパク質を精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成した本発明のタンパク質の部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
【0107】
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、本発明のタンパク質を、例えば、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製した場合には、グルタチオン-Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して、本発明のタンパク質の抗体を利用した場合と同様に、免疫複合体を形成させることができる。
【0108】
免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E. and Lane, D.: Antibodies, pp.511-552, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
【0109】
免疫沈降されたタンパク質の解析にはSDS-PAGEが一般的であり、適当な濃度のゲルを用いることでタンパク質の分子量により結合していたタンパク質を解析することができる。また、この際、一般的には本発明のタンパク質に結合したタンパク質は、クマシー染色や銀染色といったタンパク質の通常の染色法では検出することは困難であるので、放射性同位元素である35S-メチオニンや35S-システインを含んだ培養液で細胞を培養し、該細胞内のタンパク質を標識して、これを検出することで検出感度を向上させることができる。タンパク質の分子量が判明すれば直接SDS-ポリアクリルアミドゲルから目的のタンパク質を精製し、その配列を決定することもできる。
【0110】
また、本発明のタンパク質を用いた、これに結合するタンパク質の単離は、例えば、ウエストウエスタンブロッティング法(Skolnik, E. Y. et al.,Cell (1991) 65, 83-90)を用いて行うことができる。すなわち、本発明のタンパク質と結合する結合タンパク質を発現していることが予想される細胞、組織、臓器(例えば心臓、胎盤、精巣、胸腺、抹消血白血球などの組織・細胞や培養細胞など)よりファージベクター(λgt11, ZAPなど)を用いたcDNAライブラリーを作製し、これをLB-アガロース上で発現させフィルターに発現させたタンパク質を固定し、精製して標識した本発明のタンパク質と上記フィルターとを反応させ、本発明のタンパク質と結合したタンパク質を発現するプラークを標識により検出すればよい。本発明のタンパク質を標識する方法としては、ビオチンとアビジンの結合性を利用する方法、本発明のタンパク質又は本発明のタンパク質に融合したペプチド又はポリペプチド(例えばGSTなど)に特異的に結合する抗体を利用する方法、ラジオアイソトープを利用する方法又は蛍光を利用する方法等が挙げられる。
【0111】
また、本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、細胞を用いた2-ハイブリッドシステム(Fields, S., and Sternglanz, R.,Trends. Genet. (1994) 10, 286-292、Dalton S, and Treisman R (1992)Characterization of SAP-1, a protein recruited by serum response factor to the c-fos serum response element. Cell 68, 597-612、「MATCHMARKER Two-Hybrid System」,「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One-Hybrid System」(いずれもClontech社製)、「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(Stratagene社製))を用いて行う方法が挙げられる。2-ハイブリッドシステムにおいては、本発明のタンパク質をSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、本発明のタンパク質と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞より、VP16またはGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製し、これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する(酵母細胞内で本発明のタンパク質と結合するタンパク質が発現すると、両者の結合によりレポーター遺伝子が活性化され、陽性のクローンが確認できる)。単離したcDNAを大腸菌に導入して発現させることにより、該cDNAがコードするタンパク質を得ることができる。これにより本発明のタンパク質に結合するタンパク質またはその遺伝子を調製することが可能である。2-ハイブリッドシステムにおいて用いられるレポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI-1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0112】
本発明のタンパク質と結合する化合物のスクリーニングは、アフィニティクロマトグラフィーを用いて行うこともできる。例えば、本発明のタンパク質をアフィニティーカラムの担体に固定し、ここに本発明のタンパク質と結合するタンパク質を発現していることが予想される被検試料を適用する。この場合の被検試料としては、例えば細胞抽出物、細胞溶解物等が挙げられる。被検試料を適用した後、カラムを洗浄し、本発明のタンパク質に結合したタンパク質を調製することができる。
得られたタンパク質は、そのアミノ酸配列を分析し、それを基にオリゴDNAを合成し、該DNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、該タンパク質をコードするDNAを得ることができる。
【0113】
本発明において、結合した化合物を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは本発明のタンパク質と被検化合物との間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることにより本発明のタンパク質と被検化合物との結合を評価することが可能である。
【0114】
また、タンパク質に限らず、本発明のタンパク質に結合する化合物(アゴニスト、およびアンタゴニストを含む)を単離する方法としては、例えば、固定した本発明のタンパク質に、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、本発明のタンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton NC; Farrell FX; Chang R; Kashyap AK; Barbone FP; Mulcahy LS;Johnson DL; Barrett RW; Jolliffe LK; Dower WJ., Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin, Science (UNITED STATES) Jul 26 1996, 273 p458-64、Verdine GL., The combinatorial chemistry of nature. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p11-13、Hogan JC Jr.,Directed combinatorial chemistry. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p17-9)が当業者に公知である。
【0115】
また、本発明蛋白質に結合するリガンドのスクリーニングは、本発明蛋白質の細胞外ドメインと既知のシグナル伝達能を有するヘモポエチン受容体蛋白質の細胞膜貫通ドメインを含む細胞内ドメインとを連結せしめて作製したキメラ受容体を、適当な細胞株、好ましくは適当な増殖因子の存在下でのみ生存および増殖可能な細胞株(増殖因子依存性細胞株)の細胞表面に発現せしめた後、該細胞株を種々の増殖因子、サイトカイン、または造血因子等を含むことが期待される材料を添加して培養することにより実施可能である。この方法は、被検材料中に本発明蛋白質の細胞外ドメインと特異的に結合するリガンドが存在する場合にのみ、上記増殖因子依存性細胞株が生存および増殖が可能であることを利用している。既知のヘモポエチン受容体としては、例えば、トロンボポエチン受容体、エリスロポエチン受容体、G-CSF受容体、gp130等が挙げられるが、本発明のスクリーニング系に用いるキメラ受容体のパートナーは、これら既知のヘモポエチン受容体に限定されるものではなく、細胞質ドメインにシグナル伝達活性に必要な構造を備えているものであれば何を用いても構わない。増殖因子依存性細胞株としては、例えば、BaF3やFDC-P1を初めとしたIL3依存性細胞株を利用することが可能である。
【0116】
本発明の蛋白質と特異的に結合するリガンドとしては、希ではあるが可溶性蛋白質ではなく細胞膜結合型蛋白質である可能性も想定される。この様な場合にはむしろ本発明の蛋白質の細胞外ドメインのみを含む蛋白質あるいは当該細胞外ドメインに他の可溶性蛋白質の部分配列を付加した融合蛋白質を標識後、リガンドを発現していることが期待される細胞との結合を測定することによりスクリーニングすることが可能である。本発明の蛋白質の細胞外ドメインのみを含む蛋白質としては、例えば、細胞膜貫通ドメインのN端側に終止コドンを挿入することにより人為的に作成した可溶性受容体蛋白質、あるいはNR10-2等の可溶型蛋白質が利用可能である。一方、本発明のタンパク質の細胞外ドメインに他の可溶性蛋白質の部分配列を付加した融合蛋白質としては、例えば、免疫グロブリンのFc部位やFLAGペプチド等を細胞外ドメインのC端に付加して調製した蛋白質が利用可能である。これらの可溶性標識蛋白質は上述したウエストウエスタン法における検出にも利用可能である。
【0117】
例えば、本発明の蛋白質の細胞外領域と抗体(例えばヒトIgG抗体)のFc領域とのキメラ蛋白質は、プロテインAカラム等を用いて精製することができる。このような抗体様キメラ蛋白質は、リガンドの結合活性を有することから、適宜、放射性同位元素等で標識した後、リガンドのスクリーニングに用いることができる(Suda, T. et al., Cell, 175, 1169-1178 (1993))。また、TNFファミリー分子などのある種のサイトカインでは、その多くが膜結合型でも存在することから、各種の細胞と抗体様キメラ蛋白質を反応させて、結合活性を示した細胞から、リガンドを単離する事ができる可能性もある。また、cDNAライブラリーを導入した細胞を用いて同様にリガンドを単離することができる。さらに、抗体様キメラ蛋白質をアンタゴニストとして用いることも可能である。
【0118】
スクリーニングにより単離され得る化合物は、本発明のタンパク質の活性を促進または阻害するための薬剤の候補となり、本発明のタンパク質の発現異常や機能異常などに起因する疾患の治療への応用が考えられる。本発明のスクリーニング方法を用いて得られる、本発明のタンパク質に結合する活性を有する化合物の構造の一部を、付加、欠失及び/又は置換により変換される物質も、本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物に含まれる。
【0119】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物や本発明のタンパク質(デコイ型(可溶性型))をヒトや哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、マントヒヒ、チンパンジーの医薬として使用する場合には、単離された化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0120】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0121】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0122】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0123】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
例えば、本発明のタンパク質(デコイ型(可溶性型))の投与量は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約100μgから10〜20mgであると考えられる。
【0124】
例えば、本発明のタンパク質と結合する化合物や本発明のタンパク質の活性を阻害する化合物の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgである。
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0125】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 NR10.1遺伝子およびNR10.2遺伝子の単離
(1) Blast 検索
ヘモポエチン受容体ファミリーに保存されているTrp-Ser-Xaa-Trp-Serモチーフ(WSモチーフ)以外にファミリー内で保存されているモチーフが見出されれば、これら双方のモチーフ配列を包括的に含有するオリゴヌクレオチドプローブ配列を設計することが考えられる。そこで、ヘモポエチン受容体ファミリーに保存されているTrp-Ser-Xaa-Trp-Serモチーフ(WSモチーフ)以外の部位において、ファミリー内で保存されているモチーフを検討した。その結果、同ファミリーの細胞外領域においてWSモチーフより13〜27アミノ酸上流に位置するチロシン残基、あるいはヒスチジン残基が高い確立で保存されていることを見出した。さらに、そのTyr/His残基からC末端方向の6アミノ酸において、高頻度に出現するコンセンサス配列を検討した結果、(Tyr/His)-Xaa-(Hydrophobic/Ala)-(Gln/Arg)-Hydrophobic-Argといったアミノ酸配列(以下YRモチーフと称する)を見出した。しかしながら、このYRモチーフは必ずしも完全なコンセンサス配列と断定できるものではなく、また、このモチーフをコードする塩基配列の組合わせは複雑性に富んでいる。従って、現実的なスクリーニングの手段となるハイブリダイゼーションのためのプローブや、あるいはRT-PCRを目的とするプライマーとして、このアミノ酸配列の全てをコード可能なオリゴヌクレオチドを合成、且つスクリーニング実験に供することは困難であると考えられた。
【0126】
そこで、上記2種類のモチーフをプローブとして利用する具体的な新規ヘモポエチン受容体ファミリーメンバーの検索手段を検討した結果、双方のモチーフ配列を共に含むように、既知ヘモポエチン受容体を断片化した部分アミノ酸配列を質問式として用いる、コンピュータ上でのデータベース検索が妥当であると判断した。
【0127】
はじめに、両モチーフの必要条件を満たすアミノ酸配列を模造し、データベース検索に応用可能な質問式配列を調製した。同受容体群においては、この両モチーフ間に通常7個〜10数個程度の任意のアミノ酸スペースを挟んでいる。そこで、先ずこのスペース数の平均値をとり10アミノ酸に固定した。ここで、標的遺伝子と質問式配列の間で、このスペース配列の長さが異なる場合でも、さらにギャップスペースによって補足されることで、検索上の支障とはならないと判断した。また、可能な限り質問式配列の未決定アミノ酸数を減少させ、配列の質を高めることで、検索感度の向上を試みた。そこで、既知ヘモポエチン受容体において出現率の高かった配列に基づき、表1のようにYRモチーフ配列、スペース両端に位置するそれぞれ2個のアミノ酸、及びWSモチーフ中央とC末端のアミノ酸について、各々暫定的に3パターンを模造した。
【0128】
〔表1〕
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
YRモチーフ スペーサーアミノ酸 WSモチーフ
YTVQVR AR XXXXXX GT WSEWSP
YEARVR VQ XXXXXX GY WSDWSE
YSLQLR CK XXXXXX GI WSPWSQ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
表1に記したYRモチーフ、スペース、及びWSモチーフの組合わせにより、27通りの質問式配列を作成することが可能である。ここで作成した質問式配列を利用し、GenBankのnrデータベースに対してTblastN(Advanced TblastN 2.0.8)プログラムを用いた検索を試みた。検索のパラメータはExpect値=100、Descriptions値=100、Alignments値=100を用いた。その結果、多数の既知ヘモポエチン受容体が陽性を示したことで、以上の検索方法が正しく作用することを確認した。そこで次に新規ヘモポエチン受容体をコード可能な配列を検出する目的で、同様の質問式配列を利用しESTデータベース、及びgss、htgsデータベースに対する検索をおこなった。しかしながら、結果は新規性を示す陽性クローンは1つも得られなかった。ここで上記27通りの質問式では、その配列の多様性に制限があることが、最大の原因であると考えられた。従って、質問式配列作成のさらなる多様化も検討したが、その配列の組合わせが、あまりにも複雑性に富んでいたため、マニュアルによるこれ以上の配列模造は断念した。これらの理由により、上記検索に用いる質問式配列を便宜的に作成する手段として、YRモチーフとWSモチーフ双方の配列を共に含むように既知ヘモポエチン受容体を断片化した部分アミノ酸配列の作成を検討した。
【0129】
ここで同受容体群のゲノム構造をファミリー間で比較すると、検討した全ての既知ヘモポエチン受容体において、上記YRモチーフとWSモチーフは同一のエキソン部分にコードされていた。このことは即ち、両モチーフ配列の連続的並存性が、ゲノム配列上においても成立する可能性の高いことを意味する。従って、ESTデータベースのみならず、ゲノムデータベースに対する標的遺伝子の検索手段として、既知ヘモポエチン受容体における、この両モチーフ配列をコードするエキソン部分を質問式として用いることで有効に作用することが期待された。また、本実験では既知ヘモポエチン受容体配列としてヒトgp130、及びヒトLIF受容体を用いた。その理由は同受容体ファミリー群の中でも、比較的これら受容体は構造的に相同性を有しており、この両者に保存された相同性が、新規標的受容体遺伝子でも保存されていることを期待したものである。なお、ヒトgp130、及びヒトLIF受容体配列は既に公知の配列であるが、本発明者らは敢えて、以前より行なっていたWSモチーフをプローブに用いたプラークハイブリダイゼーション、及びRT-PCRによって、独自に単離したcDNAクローンがコードするアミノ酸配列を利用した。
【0130】
ここで既知ヘモポエチン受容体のゲノム構造上、これらYRモチーフ、及びWSモチーフをコードするエキソンが、およそ50から70アミノ酸程度であることから、ヒトgp130、及びヒトLIF受容体のそれぞれについて、便宜的にYRモチーフの1番目のコドンであるTyr残基を基準として、N末端側に29アミノ酸、C末端側に30アミノ酸の合計60アミノ酸を切り取り質問式配列とした。尚、WSモチーフを2箇所繰り返して保有しているLIF受容体については、YRモチーフの保存性を考慮し、2箇所目(C末端側)の配列を用いた。以上の配列を質問式とし、TblastN (Advanced TblastN 2.0.8)プログラムを用いた検索を、GenBankのgss (Genomic Survey Sequence)、及びhtgsデータベースに対しておこなった。検索のパラメータは「Expect値=50、Descriptions値=100、Alignments値=100」を用いた。
【0131】
選択した60アミノ酸は、厳密には実際のエキソン配列の長さと若干異なる。しかしながら、このエクソンの長さは既知ヘモポエチン受容体遺伝子毎においても若干異なることと、上記のYRモチーフ、及びWSモチーフの保存度を指標として重視することによって、検索を行う上での支障とはならないと判断した。また、検索対象としてGenBankのgss、及びhtgsデータベースを選択した理由は、これらのゲノム配列はその複雑性から完全に解析がなされていないのが現状であるため、未知の受容体遺伝子の発掘を目的とする材料として、適宜であると判断したことによる。本実験での検索パラメータで「Expect値=50、Descriptions値=100、Alignments値=100」とした理由は、前記27通りの模造配列を質問式とした場合よりも質問式配列が長鎖であるため、検索感度を下げて疑陽性クローンの増加誘因を回避したことによる。このことが、標的としたモチーフ配列以外の部分での、相同性を示すような疑陽性クローンの検出抑制に作用し、標的遺伝子の検出を可能にすると考えられる。
【0132】
検索の結果、多数の疑陽性クローンがヒットしたが、ここで上記YRモチーフとWSモチーフが同一の読み枠にコードされていないもの、あるいは双方のモチーフ配列間に終止コドンのあるものは排除した。また、YRモチーフを保有していても、WSモチーフを保存していないクローンも検索対象から除外した。それは、前述のようにYRモチーフは完全に確立できたコンセンサス配列ではないため、WSモチーフの保存度の優位性を重要視したものである。以上の選別により唯一、1クローンの新規ヘモポエチン受容体遺伝子の一部をコードし得ると推測されるヒトゲノム配列(Gen Bank Accession#AQ022781)を同定し、この遺伝子をNR10と命名した。
【0133】
AQ022781はgssデータベースに登録されている459 bpのBACクローン末端配列であり、ヒトgp130、LIF受容体、何れの部分アミノ酸配列を質問式とした場合においても陽性を示した唯一のクローンであった。その得られた塩基配列は途中2箇所にnを含むことと、Genomic Survey Sequenceそのものの登録特質上、信頼度の高い配列ではない危険性は充分に推測された。しかしながら、図1に示すように175番目〜218番目のc/t高含有配列に続くag配列より、スプライスコンセンサスが認められ、その後に続くatgからの配列がエキソン部位であることが予測可能であった。次に、この予測したエキソン配列を質問式として、GenBankのnrデータベースに対するBlastX(Advanced BlastX 2.0.8)検索をおこなった結果、図2に示すように複数の既知ヘモポエチン受容体遺伝子との相同性を検出した。AQ022781はYRモチーフとして[YVIALR]配列を有し、WSモチーフとして[WSDWS]配列を完全に保存していたことや、複数の既知同受容体との相同性を示したこと、さらにWSモチーフ内のSer残基をコードする塩基コドンが、2箇所ともAG(C/T)であったことなどから、新規ヘモポエチン受容体遺伝子をコードし得ると予測した。既知同受容体群のWSモチーフ内におけるSer残基の塩基コドンは、EPO受容体、TPO受容体、マウスIL-6受容体においてのみ、2番目のSer残基がTCNのコドンによってコードされているが、それ以外の殆どの場合AG(C/T)である。実際、偶然にWSモチーフ様配列を有していた疑陽性クローンの場合、TCNコドンのSer残基であることが多く、AG(C/T)コドンのSer残基は陽性クローン選別における1つの指標ともなった。そこで、AQ022781内の予測したエキソン配列上に、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、これらプライマーを後述の5'-RASE法、及び3'-RACE法に提供した。
【0134】
(2) オリゴヌクレオチドプライマーの設計
(1)に示したように、AQ022781配列内にエキソン部位を予測し、その予測した配列をもとに、下記配列に示すNR10特異的なオリゴヌクレオチドプライマーをデザインした。プライマーは、センス側(下流方向)にNR10-S1、NR10-S2、及びNR10-S3の3本を、またアンチセンス側(上流方向)にNR10-A1、NR10-A2、及びNR10-A3の3本をそれぞれ合成した。プライマーの合成には、ABI社の394 DNA/RNA Synthesizerを使用し、5'-末端トリチル基付加条件にて実施した。その後、OPC column(ABI#400771)にて、完全長の合成産物を精製した。
NR10-S1; 5'-ATG GAA GTC AAC TTC GCT AAG AAC CGT AAG-3'(配列番号:5)
NR10-S2; 5'-CCA AAC GTA CAA CCT CAC GGG GCT GCA ACC-3'(配列番号:6)
NR10-S3; 5'-GTC ATA GCT CTG CGA TGT GCG GTC AAG GAG-3'(配列番号:7)
NR10-A1; 5'-agt agc ttg cgT TCT TCC TCA GCT ATT CCC-3'(配列番号:8)
NR10-A2; 5'-CTT TGA CTC CTT GAC CGC ACA TCG CAG AGC-3'(配列番号:9)
NR10-A3; 5'-GGT TGC AGC CCC GTG AGG TTG TAC GTT TGG-3'(配列番号:10)
これらプライマー配列を設計するにあたって、図1に示したAQ022781配列の376番目の塩基nについては仮にcと想定し、その部位に対応するNR10-A1プライマー配列の11番目の塩基をgに置換した。また、AQ022781配列内におけるスプライシングコンセンサス配列の検討より予測可能であった、最小エキソン部位は211番目の塩基aから399番目の塩基cまでであり、次のgt配列からイントロンであると推測された。ところが、後述の3'-RACE産物の解析結果より、376番目の塩基n、或いは377番目の塩基gからイントロンに突入することが判明した。従って、結果的に上記NR10-A1プライマー配列中、小文字で記した部分のmRNA転写は起こらないため、この11塩基はPCR反応の際に正しく結合できない。しかし、残る19塩基の3'-末端配列が特異的に結合可能であったため、PCR反応が正しく作用したものと考えられる。
【0135】
(3) 3'-RACE法によるC末端 cDNAのクローニング
NR10の全長cDNAを単離するために、(2)に記載のNR10-S1プライマーを一次PCRに用い、また、NR10-S2プライマーを二次PCRに用いて3'-RACE PCRを試みた。鋳型としてHuman Fetal Liver Marathon-Ready cDNA Library(Clontech#7403-1)を用い、PCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mix(Clontech#8417-1)を使用した。Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用し、下記のPCR条件で実施した結果、選択的スプライシングによる2種類のサイズを示すPCR産物が得られた。
一次PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で100秒」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で100秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で100秒」を28サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結である。
【0136】
二次PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、70℃で100秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で100秒」を25サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結である。
得られた2種類のPCR産物は双方とも、pGEM-T Easy vector(Promega #A1360)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。PCR産物のpGEM-T Easy vectorへの組換えは、T4 DNA Ligase(Promega#A1360)によって、4℃/12時間の反応をおこなった。PCR 産物とpGEM-T Easy vectorの遺伝子組換え体は、大腸菌株DH5α(Toyobo#DNA-903)を形質転換することによって得られた。また、遺伝子組換え体の選別には、Insert Check Ready Blue(Toyobo#PIK-201)を用いた。さらに、塩基配列の決定には、BigDye Terminator Cycle Sequencing SF Ready Reaction Kit(ABI/Perkin Elmer#4303150)を使用し、ABI PRISM 377 DNA Sequencerによって解析をおこなった。独立する6クローンの遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列を決定した結果、塩基対の長さ、及び配列の相違により、それぞれ3クローンずつの二種類のグループに区別することができた。これは、選択的スプライシングに起因する産物の相違であり、この得られた配列が、双方共にNR10の部分塩基配列である事を認めた。ここで、膜貫通領域を含む長いORFをコードし得るcDNAクローンをNR10.1と命名し、膜貫通領域を保有しない短いORFをコードするcDNAクローンをNR10.2と命名することで区別した。
【0137】
(4) 5'-RACE法によるN末端 cDNAのクローニング
NR10の全長cDNAを単離するために、実施例2のNR10-A1プライマーを一次PCRに用い、また、NR10-A2プライマーを二次PCRに用いて5'-RACE PCRを試みた。3'-RACE法同様に鋳型としてHuman Fetal Liver Marathon-Ready cDNA Libraryを用い、PCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mixを使用した。Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用し、(3)と同様のPCR条件で実施した結果、3種類のサイズの異なるPCR産物が得られた。得られた3種類のPCR産物は全て、前述同様、pGEM-T Easy vectorにサブクローニングし、塩基配列を決定した。PCR産物のpGEM-T Easy vectorへの組換えは、T4 DNA Ligaseによって、4℃/12時間の反応をおこなった。PCR産物とpGEM-T Easy vectorの遺伝子組換え体は、大腸菌株DH5αを形質転換することによって得られた。また、遺伝子組換え体の選別も前述と同様に、Insert Check Ready Blueを用いた。塩基配列の決定においても、BigDye Terminator Cycle Sequencing SF Ready Reaction Kitを使用し、ABI PRISM 377 DNA Sequencerによって解析を実施した。その結果、得られたサイズの異なる3種類の5'-RACE産物は全て、同一のmRNA転写産物に由来することが判明した。ここで、3種類の産物が異なるサイズを示した理由は、5'-RACEの伸長反応が不完全であったことに起因するためであり、スプライス変異体に由来した産物である可能性は否定された。しかし、これら3種類の5'-RACE産物のうち、最も長い伸長産物を示したcDNAクローンであっても、完全長の5'-末端には伸長が及んでいなかった。また、(2)のNR10-A2プライマーを一次PCRに用い、NR10-A3 プライマーを二次PCRに用いた5'-RACE PCRを試みた場合でも同様の結果しか得られなかった。そこで、さらなる5'-RACE伸長反応をおこなうために、得られた塩基配列のN末端近傍に、新たなオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。プライマーの合成は、実施例2に従い、アンチセンス側(上流方向)に下記配列のNR10-A4、及びNR10-A5オリゴヌクレオチドプライマーを準備した。
NR10-A4; 5'-ATC AGA TGA AAC AGG CGC CAA CTC AGG-3'(配列番号:11)
NR10-A5; 5'-TGG TTT CAC ACG GAA AAT CTT AGG TGG-3'(配列番号:12)
【0138】
上記同様にHuman Fetal Liver Marathon-Ready cDNA Libraryを鋳型として、NR10-A4プライマーを一次PCRに用い、NR10-A5プライマーを二次PCRに用いた5'-RACE PCRを実施した。PCR条件、サブクローニング方法、及び塩基配列の決定方法は(3)に従った。しかしながら、塩基配列を決定した結果、上記のNR10-A1プライマー、NR10-A2プライマー、及びNR10-A3プライマーを用いておこなった5'-RACE PCRと全く同じ配列で伸長反応が終結している、不完全伸長産物しか得られなかった。この原因として、NR10 mRNAがこの部分で立体高次構造をとるために、一次鎖cDNA合成を阻害している可能性や、或いはこれより上流領域の塩基配列におけるg/c含有率が高いためにPCR反応を阻害している可能性が考えられた。何れにせよ、cDNAライブラリー調製時における、ライブラリーそれ自体の品質に問題がある場合も充分考えられるため、次項に記すように鋳型をHuman Placenta Marathon-Ready cDNA Library(Clontech#7411-1)に変更して用いることとした。ここでヒトPlacenta由来の材料を選択した理由は後述の、RT-PCR法によるNR10遺伝子の臓器発現分布解析の結果を参考にしたものである。
【0139】
(5) 5'-RACE法の継続的伸長によるN末端 cDNAのクローニング
完全長NR10に相当するcDNAクローンのN末端配列を単離するために、(4)のNR10-A4プライマーを一次PCRに用い、また、NR10-A5プライマーを二次PCRに用いて5'-RACE PCRを試みた。前項の理由により、鋳型としてHuman Placenta Marathon-Ready cDNA Libraryを用いた。PCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mixを使用した。Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用し、下記のPCR条件で5'-RACE PCR反応を実施した結果、単一なサイズのPCR産物が得られた。
一次PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で2分」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で2分」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で90秒」を28サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結である。
二次PCRの条件は、94℃で4分、「94℃で20秒、70℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で90秒」を25サイクル、72℃で3分、および4℃で終結である。
得られたPCR産物は実施例3に従い、pGEM-T Easy vectorにサブクローニングし、塩基配列を決定した。独立する4クローンの遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列の決定をおこなった結果、完全長NR10 cDNAクローンのN末端配列を含んでいることを認めた。この5'RACE-PCRの結果、決定できた塩基配列と、(3)において決定した3'RACE-PCR産物の塩基配列とを総合することによって、最終的に完全長NR10.1、及び完全長NR10.2 cDNAの全塩基配列を決定した。決定したNR10.1 cDNAの塩基配列(配列番号:1)、及びそれがコードするアミノ酸配列(配列番号:2)を図3〜5に示す。また、決定したNR10.2 cDNAの塩基配列(配列番号:3)と、それがコードするアミノ酸配列(配列番号:4)を図6〜7に示す。
【0140】
NR10 cDNA全塩基配列を決定した結果、図1で示したAQ022781内の281番目の塩基nについては、正しくはtであることが明らかとなった。しかし、376番目の塩基nについては、丁度この配列付近からイントロンに突入するため、配列の決定には至らなかった。ところが、この376番目の塩基nを何れの塩基に置換しても、この位置にスプライシングコンセンサス配列(ag/gtaag等)を認めることができない。これは、gssデータベースの情報性質上、問題としたAQ022781配列の376番目の塩基n周辺配列[an/gcaag]が、実際には[ag/gtaag]であると推測される。NR10.1、及びNR10.2の全塩基配列を決定した結果、両者はこの問題となった不明瞭なスプライシングサイトから、選択的スプライシングによって、それぞれ全く独立したエキソンに接続し、以降のC末端は異なるアミノ酸配列をコードしていた。一次構造上NR10.1は652アミノ酸からなる細胞膜貫通型ヘモポエチン受容体蛋白をコードすることが可能であり、また、NR10.2においては252アミノ酸からなる可溶性分泌型受容体様蛋白をコード可能であった。それらNR10の特徴として以下の構造が認められる。
【0141】
先ずNR10.1、及びNR10.2の共通した細胞外領域において、アミノ酸番号1位のMetから32位のAlaまでが典型的な分泌シグナル配列であると予測される。ここで、1位のMetよりマイナス2位の位置に、インフレームの終止コドンが存在するため、このMet残基が翻訳開始部位であると推定される。次に43位のCysから53位のCys、及び55位のTrp残基までが、典型的なリガンド結合部位配列であり、さらに81位と94位のCys残基は他のヘモポエチン受容体メンバーにもよく保存されたCys残基の繰り返し構造を示す。続いて137位と138位に連続するPro残基と、157位のTrp残基までによって、Pro-rich領域(PP-Wモチーフ)が保存されており、210位のTyrから215位のArg残基までが前記YRモチーフに相当する。さらに、224位のTrpから228位のSer残基までに典型的なWSXWS-box(WSモチーフ)が認められる。
【0142】
ここで、NR10.2においてはWSXWS配列の後、24アミノ酸をコードし、次の終止コドンによって翻訳フレームが終結する。これによって、細胞膜貫通ドメインを保持しない、可溶性ヘモポエチン受容体様蛋白をコードしている。一方NR10.1においては、上記の各保存モチーフに続き、533位のIleから556位のLeu残基までの24アミノ酸に典型的な細胞膜貫通ドメインを保有している。さらに、その直後の細胞内領域における、571位、及び573位のPro残基は、他のヘモポエチン受容体メンバーにもよく保存されたBox-1コンセンサス配列(PXPモチーフ)であり、ここがシグナル伝達に深く関与すると考えられる。以上のような構造的特徴を保有していることから、NR10遺伝子は新規ヘモポエチン受容体蛋白をコードしているものと断定される。
【0143】
〔実施例2〕 RT-PCR法によるNR10遺伝子発現組織の検索と発現様態の解析
各ヒト臓器におけるNR10.1、及びNR10.2遺伝子の発現分布、及び、遺伝子発現様態を解析するために、RT-PCR法によるmRNAの検出を行った。RT-PCR解析に用いるためのプライマーとして、下記配列のオリゴヌクレオチドプライマーを新たに合成した。センス側(下流方向)プライマーとしてNR10-S0プライマーを用い、アンチセンス側(上流方向)プライマーとしてNR10.1-A0、及びNR10.2-A0プライマーを用いた。プライマーの合成、及び精製は実施例2に従った。下記プライマーのうちNR10-S0は、NR10.1とNR10.2の共通配列上に設計し、また、NR10.1-A0はNR10.1特異的配列上に、一方NR10.2-A0はNR10.2特異的配列をもとに設計している。
hNR10-S0; 5'-GCA TTC AGG ACA GTC AAC AGT ACC AGC-3'(配列番号:13)
hNR10.1-A0; 5'-AGC TGG AAT CCT CAG GGT GGC CAC TGG-3'(配列番号:14)
hNR10.2-A0; 5'-GCC CAT CAC CAG AGT AGA CAG GAC GGG-3'(配列番号:15)
【0144】
鋳型として、Human Multiple Tissuue cDNA (MTC) Panel I(Clontech #K1420-1)、Human MTC Panel II(Clontech#K1421-1)、Human Immune System MTC Panel(Clontech#K1426-1)、及びHuman Fetal MTC Panel(Clontech#K1425-1)を用いた。PCRにはAdvantage cDNA Polymerase Mix(Clontech#8417-1)を用い、Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用した。NR10.1の検出のために[NR10-S0 対NR10.1-A0]を、またNR10.2の検出のために[NR10-S0 対NR10.2-A0]プライマーセットをそれぞれ用いた。PCR反応は、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で1分」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で1分」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で1分」を25サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結、のサイクル条件にて実施することで、標的遺伝子の増幅を試みた。
【0145】
この結果NR10.2については図9に示す通り、解析をおこなった全てのヒト臓器、及び組織由来のmRNAにおいて殆ど一定量の構成的な遺伝子発現が検出された。これに対し図8に示すようにNR10.1の場合、遺伝子発現が検出された臓器、及び組織は制限されており、その発現量には大きな偏差が認められた。また解析に使用した全ての鋳型に対して、ヒトG3PDHプライマーを用い上記PCR条件にてハウスキーピング遺伝子G3PDHの発現を検出することで、予め鋳型mRNAのコピー数がサンプル間で標準化(Normalize)されていることを確認している。以下、NR10.1の遺伝子発現が検出された臓器を列挙すると、ヒト成体では、心臓、胎盤、精巣、胸腺、末梢白血球において強い発現を示し、さらに脾臓、骨髄、前立腺、卵巣、膵臓、肺において弱い発現が検出された。また、ヒト胎児においては、骨格筋、胸腺、心臓、腎臓で強い発現が認められ、さらに肺、肝臓、脾臓で弱い発現が検出された。その一方、ヒト成体において、脳、骨格筋、腎臓、小腸、直腸では全く発現が認めらず、また、ヒト胎児脳においても、全く発現は認められなかった。
【0146】
ここで、検出されたRT-PCR増幅産物のサイズは、NR10.1の場合480 bp、またNR10.2においては243 bpであり、これは決定したそれぞれの塩基配列から計算されるサイズと一致する。従って、これらは、それぞれ特異的なPCR増幅反応による産物であると考えられた。このことを更に次項のサザンブロッティング法によって確認することで、それらが非特異的なPCR増幅による産物である可能性を否定した。
【0147】
NR10.1の遺伝子発現分布を総合すると、主に免疫担当細胞、及び造血細胞を含むと考えられる臓器に強く検出されたことより、NR10が新規ヘモポエチン受容体として機能し得る可能性が、さらに強く示唆された。また生殖器系細胞、或いは内分泌系細胞や心臓においても発現分布が認められたことは、NR10が免疫系及び造血系のみならず、多岐にわたる生体内の生理機能を調節し得る可能性をも示唆している。
【0148】
NR10.2の遺伝子発現が全ての臓器で検出されたことは、解析対象とした臓器を構成する全ての細胞において、活性を有する分泌型蛋白が産生される可能性を示唆している。ただ、ある組織間や特定の細胞群において、その機能特異性を決定するための転写調節、及び選択的なスプライシング調節がお行なわれることによって、NR10の遺伝子発現が厳密な転写制御を受けている可能性が非常に高い。
【0149】
〔実施例3〕 サザンブロッティング法によるRT-PCR産物の特異性の確認
実施例2におけるRT-PCRによって増幅された標的遺伝子産物は、NR10.1及びNR10.2それぞれに特異的なcDNA断片をプローブとして用いたサザンブロッティング法を実施することで、それが特異的な増幅であることを確認した。また、それと同時に、RT-PCR産物を定量的に検出することで、ヒト各臓器間における遺伝子発現の比較測定的評価を試みた。前項のRT-PCR産物をアガロースゲル電気泳動後、Hybond N(+) (Amersham,cat#RPN303B)付電荷ナイロン膜にブロッティングし、ハイブリダイゼーションに供した。NR10.1及びNR10.2それぞれに特異的なプローブとして、実施例3にて得られた、それぞれのcDNA断片を用いた。プローブの調製は、Mega Prime Kit(Amersham, cat#RPN1607)を使用し[α-32P]dCTP(Amersham,cat#AA0005)によってラジオアイソトープ標識した。ハイブリダイゼーションにはExpress Hyb-ridization Solution (Clontech#8015-2)を用い、68℃/30分のプレハイブリダイゼーションの後、熱変性させた標識プローブを加え、68℃/120分のハイブリダイゼーションを実施した。(1) 1x SSC / 0.1% SDS, 室温で5分、(2) 1x SSC / 0.1% SDS,50℃で30分、(3) 0.1x SSC / 0.1% SDS,50℃で30分の条件にて洗浄をおこなった後、Imaging Plate(FUJI#BAS-III)に露光させ、Image Analyzer(FUJIX, BAS-2000 II)によって、NR10特異的なシグナルを検出した。
【0150】
NR10.1の検出結果を図10に、またNR10.2の検出結果を図11に示す通り、前項のRT-PCRによって増幅されたPCR産物は、全てNR10.1及びNR10.2それぞれに特異的な増幅産物であることが確認された。また各臓器における発現量の比較定量についても、前項の評価を支持するものであった。一方、RT-PCR法とサザンブロッティング法を組合わせた、ここでの標的遺伝子発現の検出方法は、他の発現解析方法と比較しても極めて感度の高い検出手段であるにも関わらず、成人脳や胎児脳といった神経系、及び成人消化管ではNR10.1の発現が全く検出されなかった。さらに、胎児で強い発現が認められた骨格筋と腎臓においても、成人では全く検出されていない。
【0151】
〔実施例4〕 ノーザンブロッティング法によるNR10遺伝子発現解析
各ヒト臓器、及びヒト癌細胞株におけるNR10の遺伝子発現様態の解析と、NR10転写サイズの同定を目的として、ノーザンブロッティング法によるNR10遺伝子の発現解析を試みた。また、NR10.1及びNR10.2以外のさらなるスプライシング変異体の存在する可能性についても検討をおこなった。ブロットにはHuman Multiple Tissue Northern(MTN) Blot(Clontech #7760-1)、Human MTN Blot II(Clontech #7759-1)、Human MTN Blot III(Clontech#7767-1)、及びHuman Cancer Cell Line MTN Blot(Clontech#7757-1)を使用した。
【0152】
プローブには実施例1(5)にて得られた、5'-RACE産物のcDNA断片を用いた。プローブの調製は実施例3同様、Mega Prime Kitを用い[α-32P]dCTPによってラジオアイソトープ標識した。ハイブリダイゼーションにはExpress Hyb-ridization Solutionを用い、65℃/30分のプレハイブリダイゼーションの後、熱変性させた標識プローブを加え、65℃/16時間のハイブリダイゼーションを実施した。(1) 1x SSC / 0.1% SDS,室温で5分、(2) 1x SSC / 0.1% SDS,48℃で30分、(3) 0.5x SSC / 0.1% SDS,48℃で30分の条件にて洗浄をおこなった後、前項同様にImaging Plateに対して露光させ、Image Analyzerを使用することで、NR10特異的なシグナルを検出を試みた。
しかしながらその結果、何れのヒト臓器においてもシグナルは検出されなかった。原因として、ノーザン解析法の場合、RT-PCRレベルと比較して検出感度がかなり低いため、発現量の低いmRNAを検出することができなかったものと考えられる。
【0153】
〔実施例5〕 プラークスクリーニング
上記のNR10遺伝子の完全長cDNA獲得の過程は、PCRクローニングによる手法が用いられた。これらPCRクローニングをおこなった場合、その産物配列中にしばしば点変異が発生する危険を含んでいる。そこで、前述までに得られたcDNAクローンについて、その塩基配列を再確認する目的で、ラムダファージcDNAライブラリーに対するプラークハイブリダイゼーションをおこない、標的遺伝子の再単離を試みた。RT-PCRによるNR10遺伝子発現解析の結果、NR10遺伝子発現が認められた、ヒト胎盤cDNAライブラリー(Clontech#HL1144X)を用い、プラークスクリーニングを行った。プローブには前項同様、実施例1(5)にて得られた、5'-RACE産物のcDNA断片を用いた。プローブの調製は実施例3同様、Mega Prime Kitを用い[α-32P]dCTPによってラジオアイソトープ標識した。ハイブリダイゼーションにはExpress Hyb-ridization Solutionを用い、65℃/30分のプレハイブリダイゼーションの後、熱変性させた標識プローブを加え、65℃/16時間のハイブリダイゼーションを実施した。(1) 1x SSC / 0.1% SDS, 室温で5分、(2) 1x SSC / 0.1% SDS,58℃で30分、(3) 0.5x SSC / 0.1% SDS, 58℃で30分の条件にて洗浄をおこなった後、X線フィルム(Kodak, cat#165-1512)に露光し、NR10陽性プラークを検出した。
その結果、陽性クローンは1つも得らなかった。これも実施例4と同様、標的遺伝子の発現コピー数が少ないため、cDNAクローンの単離に至らなかったものと考えられる。標的遺伝子の単離には、RT-PCR解析の結果、最も遺伝子発現量の高かった臓器である、ヒト胎児骨格筋由来のラムダファージcDNAライブラリーに対するプラークハイブリダイゼーションが好ましいと考えられる。
【0154】
〔実施例6〕 リガンドスクリーニング
(1) NR10キメラ受容体の構築
NR10に特異的に結合し得るリガンド、即ち新規ヘモポエチンを検索するためのスクリーニング系を構築する。先ず最初にNR10.1の細胞外領域(1位のMetから238位のGluまで、あるいは1位のMetから532位のGluまで)をコードするcDNA配列をPCRによって増幅し、このDNA断片を既知のヘモポエチン受容体の細胞膜貫通領域、及び細胞内領域をコードするDNA断片とインフレームで結合させることによって、キメラ受容体をコードする融合配列を作製する。ここで、パートナーとなる既知ヘモポエチン受容体として、前述のようにいくつかの候補が挙げられるが、その中からヒトTPO受容体(Human MPL-P)を選択して用いる。すなわち、ヒトTPO受容体の細胞膜貫通領域を含む細胞内領域をコードするDNA配列をPCRによって増幅した後、NR10.1の細胞外領域をコードするcDNA配列とインフレームで結合させ、哺乳動物細胞で発現可能なプラスミドベクター(pEF-BOS)に挿入する。構築した発現ベクターはpEF-NR10/TPO-Rと称する。構築されるNR10/TPO-Rキメラ受容体の構造の模式図を図12に示す。NR10/TPO-Rキメラ受容体発現ベクターはブラストサイジンS耐性遺伝子を含む発現ベクターpSV2bsr(科研製薬株式会社製)と共に増殖因子依存性細胞株Ba/F3に導入して強制発現させた後、8μg/mlの塩酸ブラストサイジンS(科研製薬株式会社製)とIL3の共存下で培養することにより遺伝子導入細胞を選別する。得られたキメラ受容体導入細胞をIL-3非存在下に切り替え、標的リガンドを含むことが期待される材料を添加して培養することにより、NR10と特異的に結合するリガンドが存在する場合にのみ生存/増殖可能であることを利用したスクリーニングが実施可能である。
【0155】
(2) NR10/IgG1-Fc可溶性融合タンパク質の調製
細胞膜結合型リガンドの探索、あるいはBIAcore(Pharmacia社)やウエストウエスタン法による可溶性リガンドの検出に利用すべくNR10/IgG1-Fc可溶性融合タンパク質の調製を行う。実施例6(1)で調製したNR10.1の細胞外領域(1位のMetから238位のGluまで、あるいは1位のMetから532位のGluまで)をコードするDNA断片をヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域をコードするDNA断片とインフレームで結合させることによって、該可溶性融合タンパク質をコードする融合配列を作製する。構築したNR10/IgG1-Fcがコードする可溶性融合タンパク質の構造の模式図を図12に示す)。該融合遺伝子断片を哺乳動物細胞で発現可能なプラスミドベクター(pEF-BOS)に挿入し、構築した発現ベクターをpEF-NR10/IgG1-Fcと名付ける。このpEF-NR10/IgG1-Fcを哺乳動物細胞に強制発現させ、安定した遺伝子導入細胞を選択した後、その培養上清に分泌される当該リコンビナントタンパク質を、抗ヒトIgG1-Fc抗体を用いた免疫沈降、あるいはアフィニティーカラム等により精製することが可能である。
【0156】
(3) NR10.2の発現系構築とリコンビナントNR10.2タンパク質の精製
細胞膜結合型リガンドの探索、あるいはBIAcore(Pharmacia社)やウエストウエスタン法による可溶性リガンドの検出に利用すべくリコンビナントNR10.2タンパク質の調製を行う。NR10.2 cDNAのアミノ酸コーディング配列を用い、終止コドンを点変異によって任意のアミノ酸残基をコードする塩基配列に置換した後、インフレームでFLAGペプチドをコードする塩基配列に結合させる。その結合断片を哺乳動物細胞で発現可能なプラスミドベクターに挿入し、構築した発現ベクターをpEF-BOS/NR10.2 FLAGと名付ける。構築した発現ベクター中の挿入断片NR10.2 FLAGの構造の模式図を図12に示す。このpEF-BOS/NR10.2 FLAGを哺乳動物細胞に強制発現させ、安定した遺伝子導入細胞を選択した後、その培養上清に分泌される当該リコンビナントタンパク質を、抗FLAGペプチド抗体を用いて免疫沈降を行うことが可能であり、あるいはアフィニティーカラム等により精製することが可能である。
【0157】
〔実施例7〕 NR10.3遺伝子の単離
(1) オリゴヌクレオチドプライマーの設計
連続する完全長コーディング配列を含むNR10.1遺伝子の再単離を試みた。まず最初に、NR10.1 cDNAの塩基配列内の5'-UTR 及び3'-UTR部位を選択し、下記配列のセンスプライマー(下流方向)、及びアンチセンスプライマー(上流方向)を設計した。プライマーの合成は、実施例1(2)に従った。即ち、ABI社の394 DNA/RNA Synthesizerを使用し、5'-末端トリチル基付加条件にて実施し、その後、OPC column(ABI#400771)にて、完全長の合成産物を精製した。
NR10-5UTR(SN);5'-CCC CTG ATA CAT GAA GCT CTC TCC CCA GCC-3'(配列番号:18)
NR10-3UTR(AS);5'-CCA GTC TTC GGA GAT GGT TCT CTT GGG GCC-3'(配列番号:19)
【0158】
(2) PCRクローニング
NR10の完全長CDSを単離するために、実施例7(1)のNR10-5UTRプライマーをセンスプライマーに用い、また、NR10-3UTR primerをアンチセンスプライマーとして用いたPCR クローニングを試みた。鋳型としてHuman Placenta Marathon-Ready cDNA Library(Clontech#7411-1)を使用し、PCR実験にはAdvantage cDNA Polymerase Mix(Clontech#8417-1)を用いた。Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラーを使用し、94℃で4分、「94℃で20秒、72℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、70℃で90秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で90秒」を28サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結、のサイクル条件にてPCRを実施した。その結果、2119 bpの増幅産物が得られた。
【0159】
得られたPCR産物は実施例1(3)に従い、pGEM-T Easy vector(Promega #A1360)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。PCR産物のpGEM-T Easy vectorへの組換えは、T4 DNA Ligase(Promega#A1360)によって、4℃/12時間の反応をおこなった。PCR 産物とpGEM-T Easy vectorの遺伝子組換え体は、大腸菌株DH5 alpha(Toyobo#DNA-903)を形質転換することによって得られた。また、遺伝子組換え体の選別には、Insert Check Ready Blue(Toyobo#PIK-201)を用いた。さらに、塩基配列の決定には、BigDye Terminator Cycle Sequencing SF Ready Reaction Kit(ABI/Perkin Elmer#4303150)を使用し、ABI PRISM 377 DNA Sequencerによって解析を行なった。独立する5クローンの遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列を解析した結果、膜貫通領域を含むNR10の完全長CDSをコードし得るcDNAクローンの塩基配列を決定した。しかしながら、決定した配列にNR10.1は認められず、代替的に662アミノ酸からなる細胞膜貫通型受容体蛋白をコード可能なcDNAクローンを示した。本発明者等は、このcDNAクローンをNR10.3と命名することで、NR10.1 cDNAクローンと区別した。
【0160】
このcDNAクローンが導入された大腸菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。
(イ)寄託機関の名称・あて名
名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)
(ロ)寄託日(原寄託日):平成11年7月23日
(ハ)寄託番号 生命研条寄第6793号(FERM BP-6793)
【0161】
NR10.1に対してNR10.3 cDNAクローンは、終止コドン近傍に存在するアデニン基クラスターにおける、僅か1塩基の欠損が認められ、これによってフレームシフトが発生する。NR10.1とNR10.3は、そのフレームシフトによって終止コドン近傍のアミノ酸配列の読み枠に相違性を示す。決定したNR10.3の塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列を配列番号:16および17、並びに図13および14に示した。
【0162】
(3) NR10.1とNR10.3の存在意義
前記の通り、NR10.1とNR10.3は終止コドン近傍における1塩基の相違によって生じた配列を示すものであり、従ってスプライシング変異体による転写産物の相違ではない。また、その1塩基の欠損以外においては、NR10.1とNR10.3 cDNAクローンの相違は認めれず、それらがコードする造血因子受容体蛋白は、機能的に同等であると推測される。このような点欠損、点変異といったものが何らかの疾患に関与している可能性や、或いは家系的、または人種依存的に配列の多様性を生じている可能性もあると考え得る。
【0163】
〔実施例8〕 NR10の染色体上の局在
(1) オリゴヌクレオチドプライマーの設計
NR10の染色体地図作成のため、下記配列のオリゴヌクレオチドプライマー、NR10-イントロンを合成した。NR10-イントロンプライマーはgasデータベースに登録されているAQ022781の配列中、NR10 mRNAには転写されないイントロン部位を選択し、センス方向(下流方向)に設計した。プライマーの合成は、実施例1(2)に従った。即ち、ABI社の394 DNA/RNA Synthesizerを使用し、5'-末端トリチル基付加条件にて実施し、その後、OPC column(ABI#400771)にて、完全長の合成産物を精製した。
NR10-イントロン(SN); 5'-CTG TGT AAG TAC CAA TTG TTC CCA GGC-3'(配列番号:20)
【0164】
(2) NR10遺伝子のクロモソームマッピング
NR10の染色体地図作成のため、24本のクロモソームのヒト/マウス体細胞系(Dubois B.L. and Naylor S., 1993, Genomics; 16, 315-319)のそれぞれから得られるDNAを鋳型として、PCR解析を試みた。
実施例8(1)のNR10-イントロンプライマーをセンスプライマーに用い、また、実施例1(2)にて作成したNA10-A1プライマーをアンチセンスプライマーとして利用した。PCR実験には、Advantage cDNA Polymerase Mix(Clontech#8417-1)を用いた。Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400サーマルサイクラ―を使用し、下記のPCR条件で実施した結果、ヒトクロモソーム染色体第5番にNR10遺伝子が存在する可能性を示唆する359bpの標的増幅産物が得られた。
【0165】
PCRは、94℃で4分、「94℃で20秒、70℃で60秒」を5サイクル、「94℃で20秒、68℃で60秒」を28サイクル、72℃で3分、および4℃にて終結、の条件にて実施した。
得られたPCR産物は、実施例1(3)に従い、pGEM-T Easy vector(Promega #A1360)にサブクローニングし、ABI PRISM 337 DNA Sequencerでの解析によって塩基配列を決定した。独立する8クローンの遺伝子組換え体に対し、全インサート断片の塩基配列を解析した結果、NR10の部分配列を含む、標的ゲノムDNA断片の塩基配列であることを認め、それが非特異的な増幅産物である可能性を否定した。
【0166】
上記により使用したプライマーセットが特異的に正しく作用していることを確認した後、さらに、NR10遺伝子の領域座を、GeneBridge 4ラジエイションハイブリッドパネル93(Walter et al.,1994, Nature Genetics; 7,22-28.)を用いて決定した。上記同様に、NR10-イントロン、及びNA10-A1プライマーセットを用い、GeneBridge4ラジエイションハイブリッドパネル93を鋳型としたPCR解析を、上記同様の反応条件にて実施した。それぞれのハイブリッドにおける増幅産物に対して正、或いは負の定量的評価を行った。その結果を2進符号に置換した後、アドレス[http://www.carbon.wi.mit.edu:8000/cgi-bin/contig/rhmapper.pl]にあるサーバ内のプログラムを用いて、フレムワーク地図を作成する遺伝子地図マーカーについての類似コードと比較し、染色体上の位置を同定した。その結果、NR10は、確かに染色体第5番の中心体付近にマップされ、さらにマーカーWI-3071(60-61 cM)とAFM183YB8(67 cM)の間に存在することが確認された。
染色体第5番領域には、本発明者等が当初データベース検索によってNR10を同定するために利用した、質問式配列であるヒトgp130、及びヒトLIF受容体遺伝子もマップされている。即ち、ヒトgp130遺伝子は染色体第5番q11(67.2-69.6 cM)にマップされており、ヒトLIF受容体遺伝子は染色体第5番p12-p13(59.9-61.1 cM)にマップされている。
【0167】
一方NR10がこれら双方の中間である、染色体第5番61-67 cMにマップされたことは、進化遺伝子学的にも大変意義深い。即ち、同受容体ファミリー遺伝子群の中において構造的に比較的高い相同性を示すこれら、ヒトgp130、ヒトLIF受容体、及びヒトNR10遺伝子がヒト染色体第5番の、しかも極く限られた領域に近接して位置している事実は、これら3種の異なる受容体遺伝子が、本来は同一の祖先遺伝子に由来し、長い生物進化の過程において、その構造性のみならず、機能性においても多様的遺伝子進化を成し遂げたとの仮設をも充分に示唆し得る。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明により新規なヘモポエチン受容体蛋白質及びそれをコードするDNAが提供された。また、該DNAが挿入されたベクター、該DNAを保持する形質転換体、該形質転換体を利用した組換え蛋白質の製造方法が提供された。さらに、該蛋白質に結合する天然のリガンドあるいは化合物のスクリーニング方法が提供された。本発明の蛋白質は、免疫や造血機能に関与すると考えられることから、免疫関連疾患や造血関連疾患の診断や治療への応用が期待される。
【0169】
上に述べた通り、NR10遺伝子は、それがコードする受容体蛋白と機能結合し得る、未知の造血因子やアゴニストを得るための有用な材料を提供するものと考えられる。このような機能結合物質、或いはNR10分子機能を活性化し得る特異的抗体の生体投与により、生体の細胞性免疫の増強や造血機能の増強が可能であると予測される。つまり、免疫担当細胞、或いは造血細胞の増殖促進剤、または分化促進剤、或いは免疫細胞機能活性化剤としての臨床応用が可能である。また、それらを介して、ある特定種の癌組織に対する細胞傷害性免疫を高めることも可能であると考える。さらに、NR10.1の発現はこれら造血組織中の限られた細胞集団に特異的に発現している可能性が想定され、この細胞集団を分離する手段として抗 NR10抗体は有用である。この様にして分離された細胞集団は細胞移植療法への応用が可能である。
【0170】
一方、NR10のスプライス変異体であるNR10.2はデコイ型受容体としてNR10リガンドに対する阻害剤としての利用が想定される。また、NR10分子に機能結合し得るアンタゴニストや、その他阻害剤、或いはNR10分子機能を阻害し得る特異的抗体の生体投与により、生体の細胞性免疫の抑制や造血細胞の増殖抑制が可能であると予測される。このような阻害物質は免疫担当細胞や造血細胞の増殖抑制剤、または分化抑制剤、或いは免疫抑制剤や抗炎症剤としての臨床応用が可能である。具体的には、自己組織傷害性に起因する自己免疫疾患発症の抑制や、移植免疫の領域において最大の問題となる、生体免疫による組織拒絶応答の抑制にも応用できる可能性もある。さらには、免疫反応の異常亢進により惹起された疾患領域に対して、極めて有効であると考えられ、金属や花粉などに対する種々の抗原特異的アレルギーに対しても、上記阻害剤を用いた免疫抑制による解決が有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】gssデータベース内に同定したAQ022781の塩基配列を記載した図である。予測可能であったエキソン配列の下にアミノ酸配列も併記した。標的としたYRモチーフ配列、及びWSモチーフ配列のアミノ酸をそれぞれ枠で囲って示した。また、塩基配列中、2箇所の n についても枠で囲った。
【図2】AQ022781配列内に見出したNR10の部分アミノ酸配列と相同性を示す、既知ヘモポエチン受容体の部分アミノ酸配列をそれぞれ併記した図である。一致するアミノ酸配列に枠付きの影を施し、また、類似性質を示すアミノ酸配列に影を施した。さらにギャップスペースはバーで補足した。上段から順に、ヒトgp130(Gen Bank Accession#NM002184.1 IL6ST)、ヒトLIF受容体(GenBank Accession #NM002310.1 LIFR)、ヒトOncostatin M 受容体ベータサブユニット(Gen Bank Accession#NM003999.1 OSMR)、ヒトIL-12受容体ベータ2サブユニット(GenBank Accession#NM001559.1 IL12RB2)、及びヒトNR6(GenBank Accession#AC003112)を記載した。
【図3】5'-RACE、及び3'-RACEによって得られた産物を複合した、NR10.1の完全長 cDNA の塩基配列を示した図である。NR10.1がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、膜貫通領域と予測されるアミノ酸配列に影を施した。保存されたシステイン残基、及びWSモチーフのアミノ配列を枠付きで示した。
【図4】図3の続きを示す図である。
【図5】図4の続きを示す図である。
【図6】5'-RACE、及び3'-RACEによって得られた産物を複合した、NR10.2の完全長cDNA の塩基配列を示した図である。NR10.2がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、保存されたシステイン残基、及びWSモチーフのアミノ配列を枠付きで示した。
【図7】図6の続きを示す図である。
【図8】RT-PCR法により各ヒト臓器におけるNR10.1の遺伝子発現分布を解析した結果を示す写真である。
【図9】RT-PCR法により各ヒト臓器におけるNR10.2の遺伝子発現分布を解析した結果を示す写真である。
【図10】サザンブロッティングにより各ヒト臓器におけるNR10.1の遺伝子発現分布を定量解析した結果を示す写真である。
【図11】サザンブロッティングにより各ヒト臓器におけるNR10.2の遺伝子発現分布を定量解析した結果を示す写真である。
【図12】発現ベクターにおいて構築した発現可能なタンパク質の構造模式を示す図である。
【図13】NR10.3完全長cDNA の塩基配列を示す図である。NR10.3がコードするアミノ酸配列も併記した。また、分泌シグナル配列と予測されるアミノ酸配列に下線を施した。さらに、膜貫通領域と予測されるアミノ酸配列に色塗りを施した。保存されたシステイン残基、及びWSモチーフのアミノ酸配列を枠付きで示した。
【図14】図13の続きを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において33番目のアラニンから532番目のグルタミン酸までのアミノ酸配列を有する細胞外ドメインと、トロンボポエチン受容体、エリスロポエチン受容体、G-CSF受容体、gp130から選択されるヘモポエチン受容体の細胞膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含むキメラ受容体。
【請求項2】
請求項1に記載のキメラ受容体を発現した細胞。
【請求項3】
細胞が増殖因子依存性細胞であることを特徴とする請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
被検材料存在下で請求項3に記載の細胞を培養し、当該細胞が生存または増殖する被検材料を選択することを特徴とするヘモポエチン受容体のリガンドのスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスクリーニング方法により得られるリガンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−137978(P2009−137978A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330001(P2008−330001)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【分割の表示】特願2006−289770(P2006−289770)の分割
【原出願日】平成12年6月1日(2000.6.1)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】