説明

新規ベンジル誘導体

【課題】硬化性に優れ、樹脂との相溶性のよい、さらには臭気の小さい硬化物を与え、硬化塗膜からブリードアウトする事の無い、光重合開始剤として使用し得る化合物の開発。
【解決手段】下記の一般式(1)
【化1】{R−(A)p −(B)q −ph−CO−}2(ここで、RはC1−C9のアルキル基を表し、A、Bはそれぞれトランスシクロヘキサン環又はフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環を表し、phは置換基としてフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環を表す。p、qは0または1を表し共に0を除く。)で示される新規ベンジル誘導体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光重合開始剤として、又光重合開始剤や紫外線吸収剤、液晶、医薬、農薬等の原料として有用な新規ベンジル誘導体に関する。
【0002】
【従来の技術】ベンジルは、工業的にはベンゾインを酸化して製造されている。このベンジルは各種有機化合物の原料として有用であるが、特にこれをメチル化して製造される2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(ベンジルジメチルケタール)の原料として広く製造されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記の2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンは、各種光重合性モノマーとの相溶性が良く、硬化速度も非常に早いという特性を有しているので、光重合開始剤として世界的に広く使用されている。しかしこのものは、これを用いて得られた硬化物の臭気が強い事、過剰の光重合開始剤が塗膜からブリードアウトしてくる事等、使用上の問題がある。従って、硬化性に優れ、樹脂との相溶性がよく、さらには臭気の小さい硬化物を与え、硬化塗膜からブリードアウトする事の無い光重合開始剤の開発が求められている。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決すべく、鋭意検討を行い本発明に至った。即ち、本発明は、(1)下記の一般式(1)
【0005】
【化2】
{R−(A)p −(B)q −ph−CO−}2 (1)
【0006】(ここで、RはC1−C9のアルキル基を表し、A、Bはそれぞれトランスシクロヘキサン環又はフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環、好ましくはそれぞれ1,4結合したトランスシクロヘキサン環又はフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよい1,4結合したベンゼン環を表し、phは置換基としてフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環、好ましくは置換基としてフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよい1,4結合したベンゼン環を表す。p及びqは0または1を表し共に0である場合を除く。)で示される新規ベンジル誘導体、(2)Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基である請求項1の新規ベンジル誘導体、(3)pが1である(1)又は(2)の新規ベンジル誘導体、(4)pが1でqが1である(1)又は(2)の新規ベンジル誘導体、(5)A、Bが、それぞれ1,4結合したトランスシクロヘキサン環である(1)ないし(4)のいずれか1項の新規ベンジル誘導体、(6)pが1で、qが0である(1)又は(2)の新規ベンジル誘導体、(7)A、Bが、それぞれ1,4結合したトランスシクロヘキサン環であり、p及びqがそれぞれ1である(1)又は(2)の新規ベンジル誘導体、(8)Aが1,4結合したトランスシクロヘキサン環であり、pが1でqが0である(1)の新規ベンジル誘導体、(9)Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基であり、A、Bが、それぞれ1,4結合したトランスシクロヘキサン環であり、p及びqがそれぞれ1である(1)の新規ベンジル誘導体、(10)Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基であり、Aが1,4結合したトランスシクロヘキサン環であり、pが1でqが0である(1)の新規ベンジル誘導体、(11)Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基であり、Aが1,4結合したペンゼン環であり、pが1でqが0である(1)の新規ベンジル誘導体、に関する。
【0007】
【発明の実施の態様】上記一般式(1)において、RのC1−C9のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基等の直鎖状のC1−C9のアルキル基が好ましく、さらに好ましくはn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基である。
【0008】A、B及びphにおける、フッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環としては、例えば3−フルオロベンゼン−1,4−基、2,3−ジフルオロベンゼン−1,4−基、3−メチルベンゼン−1,4−基等が挙げられる。フッ素原子或いはメチル基のベンゼン環上の置換位置は、2位、3位、2位と3位、2位と5位、2位と6位、3位と5位があるが、2位及び/又は3位が好ましい。又、トランスシクロヘキサン環又はフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環の隣接基(上記一般式(1)におけるR)若しくは隣接環との間の結合は1,4結合が好ましい。尚、一般式(1)のA環において、Rの結合する位置が1位である。
【0009】上記一般式(1)において、R、A、B、p、qの好ましい組み合わせ例としては、例えば上記(2)〜(11)に記載されたものが挙げられる。次に、本発明の上記式(1)で示される新規ベンジル誘導体の具体例を表1に示す。表1中、C−HEはトランスシクロヘキサン環を、phはベンゼン環を表す。
【0010】
【表1】
表1化合物No. R A B ph p q 1 n-C3H7 1,4-C-HE 1,4-C-HE 1,4- 1 1 2 n-C5H11 1,4-C-HE 1,4-C-HE 1,4- 1 1 3 n-C7H15 1,4-C-HE 1,4-C-HE 1,4- 1 1 4 n-C3H7 1,4-C-HE 1,4- 1 0 5 n-C5H11 1,4-C-HE 1,4- 1 0 6 n-C7H15 1,4-C-HE 1,4- 1 0 7 n-C3H7 1,4-ph 1,4- 1 0 8 n-C5H11 1,4-ph 1,4- 1 0 9 n-C7H15 1,4-ph 1,4- 1 0 10 n-C3H7 1,4-C-HE 1,4-C-HE 1,4-(3-F) 1 1 11 n-C5H11 1,4-C-HE 1,4-C-HE 1,4-(3-F) 1 1 12 n-C3H7 1,4-C-HE 1,4-(2-F,3-F) 1 0 13 n-C3H7 1,4-C-HE 1,4-(3-CH3) 1 0
【0011】上記式(1)で示される新規ベンジル誘導体は、下記式(2)
【0012】
【化3】R−(A)p −(B)q −ph (2)
【0013】(ここで、R、A、B、ph、p、qは前記と同じ意味を表す。)表されるアルキル置換2−3環構造のベンゼン誘導体と、0.2〜1.0モル比、好ましくは0.5モル比のオキサリルクロライドを、不活性溶媒中、特に好ましくは二硫化炭素中で、触媒、好ましくは1.0〜3.0モル比の無水塩化アルミニウムの存在下、−10〜30℃にて1〜10時間フリーデルクラフツ反応を行わせることにより得ることが出来る。尚、式(2)で示される化合物の多くは市販品として入手される。(例えば、関東化学(株)製等)
【0014】
【実施例】
【0014】以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中の部は重量部である。
【0015】実施例1二硫化炭素400部中に、トランス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン40.4部、無水塩化アルミニウム50部を加え、5℃以下でオキサリルクロライド12.7部を約30分かけて滴下する。5℃以下で4時間、15−25℃で3時間反応し、氷水600部中に注入する。二硫化炭素を蒸留留去し、冷却後濾過して固化物40部を得る。これをシクロヘキサンから再結晶し、前記No.4の化合物の精製品を得る。融点94−97℃。
【0016】実施例2二硫化炭素400部中に、トランス−1−ペンチル−4−フェニルシクロヘキサン46部、無水塩化アルミニウム50部を加え5#C以下でオキサリルクロライド12.7部を約30分かけて滴下する。5℃以下で4時間、15−25℃で3時間反応し、氷水600部中に注入する。二硫化炭素を蒸留留去し冷却後濾過して固化物40部を得る。これをシクロヘキサンから再結晶し、前記No.5の化合物の精製品を得る。融点100−103℃。
【0017】実施例3二硫化炭素400部中に、トランス−4−(トランス−4−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシルベンゼン31.2部、無水塩化アルミニウム25部を加え5℃以下でオキサリルクロライド6.36部を約30分かけて滴下する。5℃以下で4時間、15−25℃で6時間反応し、氷水400部中に注入する。二硫化炭素を蒸留留去し冷却後水層をデカンテーションで除去し油状物32部を得る。シクロヘキサンに溶解してカラムクロマトで分取精製し、前記No.2の化合物の精製品を得る。融点155−157℃。
【0018】実施例4二硫化炭素400部中に、4−プロピル−ビフェニル39.2部、無水塩化アルミニウム40部を加え5℃以下でオキサリルクロライド12.7部を約30分かけて滴下する。5℃以下で4時間、15−25℃で3時間反応し、氷水600部中に注入する。二硫化炭素を蒸留留去し冷却後濾過して固化物40部を得る。これをシクロヘキサンから再結晶し、前記No.7の化合物の精製品を得る。融点173−174℃。
【0019】実施例5実施例1〜4と同様にし、対応する原料を使用して、前記No.1、3、6、8〜13のベンジル化合物が得られる。
【0020】応用例1〜4、比較例1〜2KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びペンタアクリレートの混合物、日本化薬(株)製)60部、KAYARAD R−114(エポキシアクリレート、日本化薬(株)製)25部、KAYARADTMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート、日本化薬(株)製)15部及びモダフロー(レベリング剤、モンサント(株)製)0.5部を混合してワニスを調製した。次に、このワニス100部に対してカーボンブラック(顔料)15部、実施例1〜4で得たベンジル誘導体各3部を配合し、予備混合後、3本ロールミルで3回混練し、感光性樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物をRIテスターによりポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ75μm)上に厚さ5−7μmになるように塗工した。次にこのフィルムを80W/cmのメタルハライドランプ下10cmの所を通過させ、紫外線を照射して硬化し、この樹脂組成物の硬化性(mJ/cm2 )及びその硬化物の臭気について評価した。評価結果を表2に示した。
【0021】
【表2】
表2 応用例 比較例 1 2 3 4 1 2実施例1の化合物 3実施例2の化合物 3実施例3の化合物 3実施例4の化合物 3IRGACURE 651 *1 3ベンジル *2 3────────────────────────表面硬化性(mJ/cm2) 70 70 70 70 90 90内部硬化性(mJ/cm2) 140 140 140 140 180 180硬化物の臭気 ○ ○ ○ ○ △ ×
【0022】注 *1 IRGAGURE 651:Ciba Geigy社製 光重合開始剤2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン*2 C6 5 COCOC6 5
【0023】硬化性:各樹脂組成物をRIテスターによりポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ75μm)上に厚さ5−7μmになるように塗工した。次にこのフィルムを80W/cmのメタルハライドランプ下10cmの所を通過させ、紫外線を照射した。硬化性の評価は、コート紙を塗膜の硬化面に当てて転写することによる表面硬化性と、指触による内部硬化性によって行い、塗膜を硬化するのに要した紫外光の照射量(mJ/cm2 )を測定した。
【0024】硬化物の臭気:揮発しにくさを硬化物の臭気を次の基準により判定した。
○・・・・ほとんど臭気がない。
△・・・・少し臭気がある。
×・・・・臭気がある。
【0025】前記、応用例及び比較例から明らかなように、本発明の新規ベンジル誘導体を含有する感光性樹脂組成物は硬化性(感光性)に優れ、又臭気がほとんどない硬化物を与える
【0026】
【発明の効果】本発明の新規ベンジル誘導体は光重合開始剤としての機能を有する。この新規ベンジル誘導体は、従来使用されている2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンと比べて分子量がおおよそ2−3倍で、蒸気圧が小さく揮発し難く、硬化物の臭気がほとんどなく、又塗膜からブリードアウトもし難くなっている。しかも、モノマーとの相溶性は向上しており、従来技術の大幅な改善が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下記の一般式(1)
【化1】
{R−(A)p −(B)q −ph−CO−}2 (1)
(ここで、RはC1−C9のアルキル基を表し、A、Bはそれぞれトランスシクロヘキサン環又はフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環を表し、phは置換基としてフッ素原子或いはメチル基を持っていてもよいベンゼン環を表す。p、qは0または1を表し共に0である場合を除く。)で示される新規ベンジル誘導体。
【請求項2】Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基である請求項1の新規ベンジル誘導体。
【請求項3】pが1である請求項1又は2の新規ベンジル誘導体。
【請求項4】pが1で、qが1である請求項1又は2の新規ベンジル誘導体。
【請求項5】A、Bが、それぞれトランスシクロヘキサン環である請求項1ないし4のいずれか1項の新規ベンジル誘導体。
【請求項6】pが1で、qが0である請求項1又は2の新規ベンジル誘導体。
【請求項7】A、Bが、それぞれトランスシクロヘキサン環であり、p、qがそれぞれ1である請求項1又は2の新規ベンジル誘導体。
【請求項8】Aがトランスシクロヘキサン環であり、pが1でqが0である請求項1又は2の新規ベンジル誘導体。
【請求項9】Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基であり、A及びBがいずれもトランスシクロヘキサン環であり、p及びqがそれぞれ1である請求項1の新規ベンジル誘導体。
【請求項10】Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基であり、Aがトランスシクロヘキサン環であり、pが1でqが0である請求項1の新規ベンジル誘導体。
【請求項11】Rがn−プロピル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基であり、Aがペンゼン環であり、pが1でqが0である請求項1の新規ベンジル誘導体。