新規ペプチドおよびその用途
本発明は下記一般式(I)で表示されるペプチド、または薬学的に許容可能なその塩、前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分で含む軟骨損傷または関節炎中から選択された一つ以上の治療または予防用組成物、および前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1を含む組成物を提供しながら、前記ペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩は軟骨損傷および/または関節炎などの治療および/または予防に効果的で、軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および/または軟骨組織骨化抑制などの効果を示すことが。
X1−Leu−X2−Leu−X3 (I)
前記式で、X1はGluまたはAspであり、X2はHis、LysまたはArgであり、X3はAspまたはGluであり、前記Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸、Leuはロイシン、Hisはヒスチジン、LysはリシンでArgはアルギニンである。
X1−Leu−X2−Leu−X3 (I)
前記式で、X1はGluまたはAspであり、X2はHis、LysまたはArgであり、X3はAspまたはGluであり、前記Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸、Leuはロイシン、Hisはヒスチジン、LysはリシンでArgはアルギニンである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ペプチドに関し、詳細には軟骨損傷、関節炎治療および/または予防に有効な新規ペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟骨組織は基質(matrix)と軟骨細胞(chondrocyte)で構成されている。このうち、基質の膠原繊維(collagen、proteoglycan)は、非膠原性蛋白質(noncollagenous protein)と共に軟骨に水分を吸収排出しつつ軟骨特有の物理的性質を維持するのに重要な役割をはたす。軟骨組織は、主に関節疾患で損傷し、関節の軟骨組織は大きく4つの層、最も外側表面の表層(superficial tangential zone)、中間層(middle zone)、深層(deep zone)、石灰化層(calcified zone)に区分される(Clouet J et al. Drug Discovery Today (2009) 14:19/20、913−925)。表層は比較的に少ない基質を含む部位で、膠原線維が関節表面に沿って緻密に配列されており細く平たい形態の軟骨細胞が存在し、関節運動の剪斷力を吸収する。中間層は表層より厚く、太い膠原繊維と球形の軟骨細胞で形成されておりプロテオグリカンと水を含む基質比率が高く荷重に耐える役割をはたす。深層はプロテオグリカンと非膠原性蛋白質が豊富で基質成分が最も多いが水分比率は最も少ない部分で、円形に近い比較的少数の軟骨細胞と膠原繊維が垂直に配列され組織の安全性に付与する。石灰化層は石灰化線(tidemark)という特異構造を含み、軟骨組織を骨組織に固定させる役割をはたす。
【0003】
関節を構成する軟骨組織が損傷すると、腫れ、熱感、疼痛を伴った関節炎(arthritis)が誘発されるが、関節炎は人種に関係がなく発病し、その原因によって100種以上に分けられる。そのうち最もありふれている形態が主に老化によって発病する変形性関節疾患{せい かんせつ しっかん}(degenerative joint disease)である骨関節炎(osteoarthritis)であり、その他、自己免疫疾患の関節リウマチ(rheumatoid arthritis)と乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、感染による敗血症性関節炎(septic arthritis)等がある。特に変形性関節症は老年層の代表的な疾患で主に関節の老化によって発病するが、その他にも遺伝的要因、栄養の不均衡、運動不足、過激な運動やケガ、過度な労働のように関節に無理をあたえる行動や、正しくない姿勢、肥満による過負荷などのさまざまな要因が複合的に作用して発病するため、若年層でも頻繁に発病する疾患である(Clouet J et al. Drug Discovery Today(2009)14:19/20、913−925;Gegout PP et al. Joint Bone Spine(2008)669−671)。
【0004】
外傷や退行性変化で関節を支持する組織が弱化すると緩衝作用をする軟骨組織が損傷し骨の間の摩擦を増加させて疼痛と炎症を誘発する。炎症は関節周囲で骨棘(osteophyte)の生成を促進させ、運動性を制限し、より大きい疼痛を誘発することになる。
【0005】
関節炎は幅広い年齢層で発病頻度が高い疾患であるが、一度損傷した組織は自然には再生や復旧がされずらく、長期間患者の社会的活動を制限し生活の質を低下させる原因となる。
【0006】
現在までの治療法は大きく、体重調節を含む運動療法、食事療法、注射療法、薬物療法のような保存的な治療法と、成長因子(growth factor)を使用する組織再生技術(tissue regeneration)、人工培養細胞を使用する移植法(implantation)、損傷の程度が激しい場合に使用する人工関節置換術のような手術療法に区分される(Clouet J et al. Drug Discovery Today(2009)14:19/20、913−925)。
【0007】
関節に無理を与えない範囲の運動療法は、関節周辺組織を強化させ症状悪化を遅延させる効果はあるが、損傷した組織を根本的に再生させるものではなく症状が激しい場合、疼痛によって行うことは難しい。
【0008】
関節の組織再生を促進したり炎症を軽減させる目的で、軟骨構成成分であるグルコサミン(glucosamine)やコンドロイチン(chondroitin)、消炎作用がある魚油(fish oil)、その他生薬組成物などが使用されている(Derfoul A et al. Osteoarthritis Cartilage (2007)15、646−655;Tiraloche G et al. Arthritis Rheum.(2005)52、1118−1128;McAlindon TE et al.JAMA(2000)283(11):1469−147;Zainal Z et al. Osteoarthritis Cartilage(2009)17(7):896−905)。
【0009】
また損傷した部位の摩擦を減らし、疼痛を軽減させて症状の悪化を防ぐために関節の潤滑液成分であるヒアルロン酸(hyaluronic acid;HA)を注射する方法も行われている(Waddell DD et al. Arthroscopy(2010)26(1):105−11;Wang CT et al.J.Bone Joint Surg.Am.(2004)86−A 538−545)。
【0010】
このような保存的な治療療法の一部は肯定的な効果を見せるものと報告されているが、疼痛の軽減や治療効果が微々たるものであったり、その作用機序がよく明らかになっていない場合が大部分であるため、治療療法として使用するためには追加検証が要求されている(McAlindon TE et al. JAMA(2000)283(11):1469−147)。
【0011】
炎症や疼痛を軽減させる目的でアスピリン(aspirin)、アセトアミノフェン(acetaminophen)、またはさまざまな種類の非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs、NSAIDs)とコルチゾン(cortisone)のようなステロイド性薬品が使用されている。しかし、このような薬物療法も損傷した組織を復旧させることができる根本的な治療法ではなく、長期間使用時に副作用として胃腸や組織、骨を損傷させるものと報告されている(Clouet J et al. Drug Discovery Today(2009)14:19/20、913−925;Glass GG Dis. Mon. (2006)343−362;Zhang W et al. Ann. Rheum. Dis. (2004)63、901−907);Frampton JE et al. Drugs(2007)67(16):2433−72;McDonough AL. Phys Ther. (1982)62(6):835−9.)。
【0012】
損傷した軟骨組織を再生、復旧する目的でアピゲニン、FGF、BMPs (BMP7/OP−1)、TGFβ1のような成長因子(growth factor)あるいはその一部を含む組成物の使用が考慮されている(Clouet J et al. Drug Discovery Today (2009) 14:19/20、913−925;SHi S et al. J. Biol. Chem. (2009) 284 (1):6697−6704;Moore EE et al. Osteoarthritis Cartilage (2005) 13、623−631)。しかし関節炎患者に蛋白質から成る高分子の成長因子を直接的で反復的に注入することは容易でなく、実際に患者に適用するためにはこのような成長因子の伝達方法についての追加研究が要求される。
【0013】
前述した保存的な治療法で効果がなかったり、深刻な疼痛が持続する場合、人工関節に置き換える手術的療法が使用されるが、人工関節は寿命が約10年程度と限定されており必要により再手術が必要である。この場合、骨に狭窄した人工関節除去の難しさ、より大きい人工関節移植の必要性、より広範囲な周辺骨組織が必要になり再手術に制限がともなう。このような問題点で人工関節置換術を若年層に適用する時はより慎重を期さなければならない。
【0014】
最近では人工細胞培養技術が発達するのにともない多能性幹細胞(multipotent stem cell)や自家間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)から軟骨細胞(chondrocyte)を人工的に培養して移植(implantation)する方法が報告された(Csaki C et al. Ann Anat. (2008) 190(5):395−412)。しかし、充分な自家細胞を得るのは容易でなく、移植した細胞の付着、再生効率、安全性の側面で多くの患者に適用するには技術的、費用的な側面でいまだ解決しなければならない問題点が多い。
【0015】
高齢化社会に入りつつ関節炎によって苦痛を受ける老年層の人口が着実に増加しており、過度な運動、栄養の不均衡、肥満などによる関節疾患が若年層でも増加傾向にある。これにともなう経済的損失と社会的費用を低減させ老齢人口の生活の質を改善するためには、既存の炎症や疼痛を軽減させる保存的な食餌、薬物療法や、人工関節置換術のような手術療法、人工培養した軟骨細胞を移植する方法でなく、関節炎で損傷した軟骨組織をより手軽で安全に根源的に再生、復旧させることができる新しい概念の関節炎治療剤の開発が早急に要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、新規なペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩を提供するものである。
【0017】
また、本発明が解決しようとする課題は、軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上の治療および/または予防用組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明が解決しようとする課題は、軟骨損傷または関節炎などに効果的な組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は下記一般式(I)で示されるペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0020】
X1−Leu−X2−Leu−X3 (I)
前記式で、X1はGluまたはAspであり、X2はHis、LysまたはArgであり、X3はAspまたはGluであり、前記Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸、Leuはロイシン、Hisはヒスチジン、LysはリシンでArgはアルギニンである。
【0021】
望ましくは、前記ペプチドのX1はGluであり、前記X2はHisであり、前記X3はAspであるペプチド(配列番号1;Glu−Leu−His−Leu−Asp)である。
【0022】
アミノ酸はR基(アミノ酸に共通に結合されたカルボキシル基、アミノ基、水素以外に可変的な基)の属性にしたがい分類し、前記GluまたはAspは酸性アミノ酸{Negatively Charged(Acidic) R Groups}に分類され、前記His、LysまたはArgは塩基性アミノ酸{Positively Charged(Basic) R Groups}に分類される。前記酸性アミノ酸はpH7.0で負電荷を有するR基を有し、また1つのカルボキシル基を有する。前記塩基性アミノ酸はpH7.0で正電荷を有するR基を有する。前記同一分類に属するアミノ酸は類似の特性を示す。
【0023】
前記ペプチドを構成するアミノ酸にはL−体、D−体、DL−体が存在し、本発明のペプチドを構成するアミノ酸はこれらをすべて含む。
【0024】
前記薬学的に許容可能なその塩は例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などをあげることができる。
【0025】
また、本発明は本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩の軟骨損傷または関節炎治療および/または予防用途を提供する。
【0026】
したがって、本発明は本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分として含む軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上の治療および/または予防用組成物を提供する。
【0027】
前記治療および/または予防は軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および軟骨組織骨化抑制のうちから選択された一つ以上によるものでありえ、前記関節炎は望ましく軟骨および軟骨下骨の変成をともなう関節疾患である。
【0028】
また、本発明は本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1 (Transforming growth factor beta 1)を含む組成物を提供する。
【0029】
前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩とTGFβ1は重量比で1:20〜40でありうる。
【0030】
本発明の組成物は薬学組成物であることもありえ、薬学的に許容される担体を添加して製剤化することができる。
【0031】
本発明のペプチドはペプチド化学で通常使用される方法によって製造することができる。例えば、ペプチドをSchroder and Lubke著、「The Peptides」第1巻、Acadmeic Press、New York (1965)等に記載された方法によって製造することができ、溶液相合成または固体相合成二つのうち一つによって製造することができる。
【0032】
ペプチド結合を形成するための方法の例はアジド法、酸クロリド法、対称無水物法、混合無水物法、カルボジイミド法、カルボジイミド−付加物法、活性エステル法、カルボジイミダゾール法、酸化−還元法、およびWoodward試薬Kを使用する方法などがある。
【0033】
縮合反応を行う前に、反応に関与しなかったカルボキシル基、アミノ基などを保護させることができ、縮合反応に関与するカルボキシル基およびアミノ基を当分野に公示された方法で活性化させることができる。
【0034】
カルボキシル基を保護する基の例はメチル、エチル、ベンジル、p−ニトロベンジル、t−ブチルおよびシクロヘキシルのようなエステル−形成基をあげることができる。
【0035】
アミノ基を保護する基の例はベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、および/または9−フルオレニルメチルオキシカルボニルなどをあげることができる。
【0036】
カルボキシル基の活性形態の例は対称的な無水物、アジドおよび活性エステル[アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2、4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、p−ニトロフェノール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシフタルイミドまたは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)とのエステル]などをあげることができる。
【0037】
活性化アミノ基の例はアミドホスファイトである。
【0038】
反応をクロロホルム、ジクロロメタン、エチルアセテート、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、水、メタノールおよびこれらの混合物のような溶媒で行う。
【0039】
反応温度は反応に一般的に使用される約−30℃〜50℃の範囲でありうる。
【0040】
ペプチド保護基を除去する反応は保護基の種類によって異なるが、ペプチド結合にどのような影響も与えずに保護基の離脱を可能にしなければならない。
【0041】
保護基を酸処理例えば、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびこれら酸の混合物で処理することによって除去することができる。また、液体アンモニアでナトリウム金属を使用する還元またはパラジウム−炭素を使用する触媒性還元を使用することができる。
【0042】
前記酸処理で保護基を除去する反応を行う時、アニソール、フェノールおよびチオアニソールなどを添加することができる。
【0043】
反応完結後、本発明の製造されたペプチドを通常のペプチド精製{せいせい}方法、例えば、抽出、分配、再沈殿、再結晶またはカラムクロマトグラフィーによって回収することができる。
【0044】
また、本発明のペプチドを通常の方法にしたがい、その変異体または薬学的に許容可能なその塩に転換させることができる。
【0045】
本発明によるペプチドは自動ペプチド合成器によって合成することができ、遺伝子操作技術によっても生産することができる。例えば遺伝子操作によって融合パートナーと本発明のペプチドとされた融合蛋白質をコーディングする融合遺伝子を製造し、それをもって宿主微生物を形質転換させた後、宿主微生物で融合蛋白質形態に発現させた後、蛋白質分解酵素または化合物を利用して融合蛋白質から本発明のペプチドを切断、分離して所望するペプチドを生産することができる。
【0046】
前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩の投与量は、非経口投与時、150μg/日〜1mg/日であり、望ましくは0.5mg/日〜1mg/日である。経口投与の場合、投与量は非経口投与量の1.2〜1.5倍である。本発明のペプチドまたは組成物を主に非経口方法で、例えば局所注射(関節腔内注射)、静脈または皮下注射、あるいは経皮投与で投与する。また、場合に応じて経口で投与することができる。
【0047】
本発明のペプチド、薬学的に許容可能なその塩、または組成物は、薬学的に許される担体とともに製剤化し、注射剤、粉末、点鼻剤、顆粒、錠剤などの形態で製造することができる。
【0048】
薬学的に許される担体は当業者によく知られたさまざまな因子により製造されるが、例をあげれば、利用された特定生理活性物質、これの濃度、安定性および意図的生体利用性;治療しようとする疾患、病気および状態;治療を受ける個体、年齢、大きさおよび一般的な状態;組成物を投与するのに利用される経路、例えば局所、静脈、筋肉、経皮、口腔および鼻腔などの要因を考慮しなければならないが、これに制限されはしない。一般的に経口投与経路以外の生理活性物質投与に利用される薬剤学的に利用可能な担体にはD5W(水のうち5%葡萄糖)、デキストロースおよび生理学的塩を容積の5%以内で含む水溶液などを含み、病巣内局所注射の場合、治療効果を増進させて持続時間を増加させるためにさまざまな注射可能なヒドロゲル(hydrogel)を使用することができる。また薬学的に利用可能な担体には保存剤および抗酸化剤のような活性成分の安定性を補強できる追加成分を含むことができる。本発明のペプチドまたは組成物は該当分野の適切な方法で製造することができ、例えばRemington’s Pharmaceutical Science、Mack Publishing Company、Easton PA(最近版)等に開示されている方法を参照して各疾患に応じて、または成分に応じて、望ましいように製剤化することができる。
【0049】
本発明のペプチドを生理食塩水溶液で保管することができ、マンニトールまたはソルビトールの添加後にアンプル(ample)として凍結乾燥することができ、これを投与するために使用する時は生理食塩水などに溶解させることができる。
【0050】
本発明はまた、本発明のペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩の投与を必要とする人間を含む哺乳類に、投与するステップを含む軟骨損傷または関節炎の治療および/または予防法を提供する。
【0051】
本発明はまた、本発明のペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩の医薬用途、望ましくは軟骨損傷または関節炎の治療および/または予防用途を提供する。
【0052】
本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩と組成物において言及した事項は本発明の用途、治療および/または予防法に矛盾しない限り同様に適用される。
【発明の効果】
【0053】
本発明のペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩は、軟骨損傷または関節炎などの治療または予防に効果的であり、軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および/または軟骨組織骨化抑制などの効果を示しうる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】損傷した軟骨組織において、本発明による一実施例によって起きる軟骨組織の変化を撮影した写真である。
【図2】本発明の一実施例によって起きる軟骨組織再生効果をヘマトキシリンとエオシンで染色して観察した結果である。
【図3】本発明の一実施例によって起きる軟骨組織再生効果を、コラーゲンを染色して観察した結果である。
【図4】本発明の一実施例によって起きる軟骨組織再生効果をヘマトキシリンとエオシンで染色して観察した結果である。
【図5】本発明の一実施例による軟骨組織培養細胞のうち、コラーゲンタイプIIの発現の変化を測定した結果である。
【図6】本発明の一実施例による軟骨組織培養細胞のうちMMP13の発現の変化を測定した結果である。
【図7】本発明の一実施例による軟骨組織培養細胞のうちコラーゲンタイプXの発現の変化を測定した結果である。
【図8】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果を肉眼で確認した結果写真である。
【図9】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果をヘマトキシリンとエオシン染色で確認した結果である。
【図10】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果をSafranin0染色で確認した結果である。
【図11】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果をMasson’s Trichrome染色で確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の理解を促すために実施例を示す。下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるのみであり、実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
ペプチドの製造
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド(Glu−Leu−His−Leu−Asp:配列番号1)を(株)ペプトロン(Peptron Inc)(韓国)に依頼して製造した。具体的に自動合成器(ASP48S、Peptron Inc)を使用してFmoc SPPS(9−Fluorenylmethyloxycarbonyl solid phase peptide synthesis)方法を利用してC−末端から一つずつカップリング(coupling)した。
【0057】
ペプチドのC−末端の最初のアミノ酸が樹脂(resin)に付着(attached)したNH2−His(Trt)−2−chloro−Trityl Resinを使用した。ペプチド合成に使用したすべてのアミノ酸の原料はN−末端がFmocで保護され、残基はすべて酸で除去されるトリチル(Trt)、t−ブチルオキシカーボニル(Boc)、t−ブチル(t−Bu)等で保護されたものを使用した。カップリング試薬としてはHBTU(2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1、1、3、3−tetramethyluronium hexafluorophosphate)/HOBt(Hydroxxybenzotriazole)/NMM(N−methylmorpholine)を使用した。(1)保護アミノ酸(8当量)とカップリング試薬 HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)をDMF(Dimethylformamide)に溶かして添加した後、常温で2時間反応させた。(2)Fmoc除去は20% piperidine in DMFを加えて常温で5分間、2回反応させた。(1)と(2)の反応を反復して行い、ペプチドの基本骨格を作った後、TFA(trifluoroacetic acid)/EDT(1、2−ethanedithiol)/Thioanisole/TIS(triisopropylsilane)/H2O=90/2.5/2.5/2.5/2.5を使用してペプチドをResinから分離した。Vydac Everest C18 column(250mm×22mm、10μm)を使用してreverse phase HPLC方法で精製した後、0.1%(v/v)trifluoroacetic acidを含むwater−acetonitrile linear gradient(10〜75%(v/v) of acetonitrile)方法で分離した。精製されたペプチドの分子量は、LC/MS(Agilent HP1100 series)を使用して確認し凍結乾燥した。
【0058】
〔実施例2〜12〕
ペプチドの製造
実施例1のアミノ酸配列の代わりに、下記の表1に記載されたアミノ酸配列としたものを除き、実施例1のような方法で実施例2〜12のペプチドを製造した。
【0059】
【表1】
【0060】
〔実施例13〕
損傷した軟骨組織移植片(explant)を使用した軟骨再生効果確認
軟骨組織移植片(articular chondrocyte explant)は、地域の屠殺場(大韓民国大田市梧井洞所在)で屠殺されて1時間が経過していない3才以下の牛のかかとの関節から分離して使用した。関節から骨を除いた軟骨の部分を均一に切り出した後、手術用ナイフで約3mmx3mmに切って軟骨組織移植片を作った。先端を短く切って研磨した21ゲージ(21G)の注射針を使用して移植片の中央に表面と垂直となるように均一に穴をあけて損傷部位を作った。
【0061】
穴をあけた組織移植片を、対照群を含み4つの群に分けてアスコルベート(Ascorbate、50ug/ml;Sigma)と10%牛胎児血清(Fetal bovine serum、FBS;Invitrogen)を添加したDMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium/F12、1:1;Welgene)で、各々実施例1のペプチド25uM、形質転換成長因子ベータ1(Transforming growth factor beta 1、TGFβ1;Promokine)2ng/ml、実施例1のペプチド25uMとTGFβ1 2ng/mlを混合して処理し、それぞれの群をさらに2つに分けて1週間および6週間培養した。6週間培養した群に対しては1週間ごとに損傷部位を顕微鏡で観察して写真に撮影した。また、1週間培養した組織移植片と6週間培養した組織移植片各々を3.7%ホルムアルデヒド/リン酸塩緩衝液(3.7% formaldehyde/PBS)で固定した後、標準組織化学(histochemistry)実験法にしたがいパラフィン切片(paraffin section)スライドを作り、ヘマトキシリンとエオシン(Hematoxylin & Eosin;H&E)で染色して顕微鏡で細胞の形、分布を形態学的に観察した。コラーゲンはMasson’s trichromeで染色して組織内で細胞の形、分布を顕微鏡で観察した。対照のために実施例1のペプチドを処理しないものを除き、実施例1のペプチド処理群と同様に処理した組織移植片を対照群とした。
【0062】
その結果を図1〜4に示した。
【0063】
図1は関節軟骨組織移植片に実施例1または実施例1とTGFβ1を処理した後、時間経過による軟骨組織の変化を顕微鏡で観察し、写真に撮影した結果である。
【0064】
図1で見られるように、実施例1の単独処理によって、2週以後から損傷部位が順次縮小され4週後から損傷部位周辺に細胞が付着し始め、6週後には顕著に小さくなり、実施例1のペプチドによって損傷部位が再生することが観察された(図1F〜J)。また、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した場合、3週以後から切断面周囲に細胞が増殖し始め、6週後には完全に損傷部位を満たした(図1P〜T)。実施例の1ペプチド単独処理に比べてTGFβ1を共に処理した場合、再生が1週間程度早く進行し、3週目に切断面にだけ見えた細胞が4週目には完全に満たされたことが分かる。
【0065】
図2は実施例1、または実施例1とTGFβ1を処理した関節軟骨組織移植片を1週間培養した後、ヘマトキシリンとエオシンで染色して組織再生効果を観察した結果を示し、図3はコラーゲンを染色した結果を示す。また、図4は実施例1、または実施例1とTGFβ1を処理した関節軟骨組織移植片を6週間培養した後、ヘマトキシリンとエオシンで染色して組織再生効果を観察した結果を示す。図2と図3の矢印は軟骨組織移植片の表層(superficial layer)を意味する。図4のCとFは各々図BとEの四角形の拡大図であり、矢印は軟骨組織移植片の表層(superficial layer)部位を意味する。
【0066】
図2と図3で見られるように、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した場合、軟骨組織移植片の表層(superficial layer)厚さが対照群に比べて2倍以上増加することが分かり(図2D、図3D)、コラーゲン染色がさらに濃くなり実施例1のペプチドによってコラーゲン合成が増加したことが分かる(図3D)。
【0067】
また、図4で見られるように、実施例1のペプチドで6週処理時に損傷部位が狭くなっており、損傷部位周囲に新しい細胞が付着していることが分かり(図4B、4C)、TGFβ1を共に処理した場合、軟骨組織移植片の損傷部位が表層部位(図4Fの矢印部位)を含み軟骨組織が本来の形態に再生され完全に満たされることが分かる(図4E、4F)。反面、対照群やTGFβ1を単独で処理した場合は移植片の損傷部位の変化はほぼなかった(図4A、4D)。
【0068】
このような結果から、実施例1のペプチドによって主要基質成分であるコラーゲンの合成を増加させつつ、損傷部位に軟骨細胞の付着と増殖を促進させることによって損傷軟骨が再生されうることが分かり、TGFβ1によってその速度がさらに増加することが分かる。また、実施例1のペプチドと類似のアミノ酸配列を有する変異体である実施例2〜12のペプチドでも類似の効果を示すものと見られる。
【0069】
〔実施例14〕
関節軟骨ペレット(pellet)を使用した軟骨再生効果確認
<遺伝子発現に対する実施例1のペプチドの影響>
関節軟骨細胞(articular chondrocyte)の性質を生体組織と類似するように維持するために細胞をペレット形態に作って培養した。
【0070】
軟骨組織は、地域の屠殺場(大韓民国大田市梧井洞所在)で屠殺されて1時間が経過していない3才以下の牛のかかと関節全体から骨を除いた軟骨の部分を手術用ナイフで切り集めて使用した。一辺の長さが約1mmの六面体形態に細かく切った軟骨組織をプロナーゼ(Pronase、1mg/ml;Roche)を添加したDMEM/F12(Welgene)培地に入れて摂氏37度、5% CO2培養基で1時間30分反応させた。プロナーゼで処理した組織をリン酸塩緩衝液(PBS)で2回、DMEM/F12培養液で1回洗浄した。洗浄した軟骨組織を5%牛胎児血清(Fetal bovine serum、FBS;Invitrogen)、コラゲナーゼP(Collagenase P、0.25mg/ml;Roche)、ディーエヌアーゼ(DNase I、20ug/ml;Sigma)を添加したDMEM/F12培地に入れて摂氏37度、5% CO2培養基で8〜12時間反応させて組織が完全に分解されるようにした。分解が終わると500xgで15分間遠心分離して細胞を集め、リン酸塩緩衝液(PBS)で2回洗浄した。細胞濃度が2x106 cells/mlとなるように10%牛胎児血清とアスコルベート(Ascorbate、50ug/ml;Sigma)を添加したDMEM/F12培地に混濁して15ml円錘形チューブ(conical tube)に各々1mlずつ分配した。500xgで10分間遠心分離してペレット形態に作り、摂氏37度、5% CO2培養基で2日間培養して解けない細胞ペレットを作った。ペレットを24wellプレートに移して5日間培養した後、各々DMSO(Dimethyl sulfoxide)、形質転換成長因子ベータ1(Transforming growth factor beta 1、TGFβ1;Promokine)2ng/ml、実施例1のペプチド25uMとTGFβ1 2ng/mlの混合物、実施例1のペプチド25uMを処理して5日間さらに培養した。細胞分離後、13日目には無血清培地(Serum free medium)で24時間培養し、14日目は無血清培地に各々TGFβ1 2ng/ml、実施例1のペプチド25uMとTGFβ1 2ng/mlの混合物、実施例1のペプチド25uMを処理して24時間培養した。
【0071】
培養が終わったペレットはトリゾール(TRIZOL;Invitrogen)を使用してRNAを分離し、260nm吸光度でRNAを定量した。RNA2.25ugからrandom hexamerと5x Reverse Transcriptase Master premix(Elpis biotech)を使用してcDNAを合成した。cDNA合成液1ulを使用して重合酵素連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)で増幅し遺伝子の発現の程度を調査した。調査対象とされた遺伝子は、関節軟骨組織の再生の可否を確認するための遺伝子で軟骨細胞に特徴的なタイプIIコラーゲン(type II collagen、COL2A1)、追加的な軟骨損傷を予防できるかの可否を確認するための遺伝子で損傷した軟骨組織で過剰発現して基質分解に関与する基質メタロペプチダーゼ13(Matrix metallopeptidase 13、MMP13)、過多な活性化で骨化(ossification)と進行するのかの可否を確認するための遺伝子で関節組織の骨化に関与する肥厚性軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)に特徴的なタイプXコラーゲン(type X collagen、COL10A1)であった。
【0072】
各遺伝子の増幅に使用されたPCRプライマーの塩基配列とPCR産物の大きさは次の通りである。
【0073】
Type II collagen (product size:381bp)
forward primer:5’−CAGGACCAAAGGGACAGAAA−3’(配列番号13)
reverse primer:5’−GGTTGCCTTGAAATCCTTGA−3’(配列番号14)
MMP13 (product size:600bp)
forward primer:5’−ATGGACCCTCTGGTCTGTTG−3’(配列番号15)
reverse primer:5’−CGTGTTTTGGAAATCCCAGT−3’(配列番号16)
Type X collagen (product size:454bp)
forward primer:5’−CAGTCAAGGGCCTTAATGGA−3’(配列番号17)
reverse primer:5’−CCTGAAGCCTGATCCAGGTA−3’(配列番号18)
GAPDH(Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase) (product size:345bp)
forward primer:5’−ACCCAGAAGACTGTGGATGG−3’(配列番号19)
reverse primer:5’−CCCAGCATCGAAGGTAGAAG−3’(配列番号20)
具体的に、次のような条件でPCRを行った。PCR反応額はcDNA 1ul、2x Taq polymerase master mix(Solgent)10ul、各primer(10pmole/ul)0.5ulずつ、蒸溜水8ulを使用した。PCR反応は、摂氏94度で2分間変成させた後、摂氏94度で30秒、摂氏58度で45秒、摂氏72度で1分の条件で、Type II collagen、Type X collagen、MMP13は、各々32サイクル、GAPDHは26サイクルのあいだ増幅させた。PCR増幅産物は、1% agarose gelで電気泳動し、EtBr(ethidium bromide、2ug/ml)で15分間染色した後、UV上で確認し、Image J(NIH)プログラムを使用してGAPDH発現量で平均化させた後、相対的な発現量を比較した。
【0074】
その結果を図5ないし図7に示した。図5は関節軟骨組織培養細胞に実施例1のペプチド処理によるコラーゲンタイプII(COL2A1)の発現の変化を観察した結果であり、図6はMMP13の発現の変化を観察した結果であり、図7はコラーゲンタイプX(COL10A1)の発現の変化を観察した結果である。それぞれの図(図5〜図7)において、上はPCR増幅産物を1%アガロースゲル上で電気泳動した写真であり、下は電気泳動したバンドをImage J(NIH)プログラムを使用して定量したグラフである。グラフのうちy軸は対照群のバンドの濃さを100%とした時、対照群と比較した実施例試料の相対的なバンドの濃さを%で計算した値を示す。
【0075】
図5ないし図7で見られるように、実施例1のペプチドは、軟骨組織の再生と関連したタイプIIコラーゲンの発現をTGFβ1無処理対照群と比較して55%増加させ、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した時は、TGFβ1単独処理群と比較して27%増加させた(図5)。そして実施例1のペプチドは軟骨組織の基質分解と関連した基質メタロペプチダーゼ13(matrix metallopeptidase 13、MMP13)の発現をTGFβ1無処理対照群と比較して10%減少させ、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した時はTGFβ1単独処理群と比較して150%減少させた(図6)。実施例1のペプチドは過多な活性化による関節組織の骨化(occification)に関与する肥厚性軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)に特徴的なタイプXコラーゲン(type X collagen、COL10A1)の発現はTGFβ1無処理対照群と比較して69%減少させ、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した時はTGFβ1単独処理群と比較して78%減少させた(図7)。
【0076】
前記結果から、実施例1のペプチドは関節組織の軟骨細胞を活性化させて軟骨を構成する主要基質蛋白質の合成は促進し、主要基質分解酵素の発現は阻害することによって、効果的に損傷した関節軟骨組織の再生を促進する効果を示す。また、実施例1のペプチドは軟骨細胞の活性化を促進するにもかかわらず、関節組織が骨化(ossification;osteophyte formation)に進行しうる肥厚性軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)での分化は抑制することによって、正常な組織としての再生を促進する効果を有する。
【0077】
<遺伝子発現に対する実施例2〜実施例12ペプチドの影響>
また、実施例1のペプチドの代わりに実施例2〜12のペプチド各々を使用したものを除き、<遺伝子発現に対する実施例1のペプチドの影響>と同一の方法でペプチドの影響を評価した。実施例1〜12のペプチドが軟骨組織培養細胞のうちコラーゲンタイプIIの発現に及ぼす影響に対する実験結果を下記表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
表2は実施例1のペプチドと類似のアミノ酸配列を有する変異体の実施例2〜12のペプチドによる軟骨組織培養細胞のうちコラーゲンタイプIIの発現の変化を相互比較したものである。参考のために無処理についての結果も共に示した。表の数値は平均標準偏差で、試料の数はそれぞれの場合3つであった。データはPASW Statistics(ver.17.0、SPSS Inc.)統計プログラムを利用して算出し、平均±標準偏差はp<0.05水準で一元配置分散分析法(one−way analysis of variance)を行いLSD(最小有意差検定法)で各試験群平均値間の有意性を検定した。実施例1と類似に、実施例2〜12もやはり無処理群に比べてコラーゲンタイプIIの発現を有意に増加させた。その結果、実施例1のアミノ酸配列変異体である実施例2〜実施例12のペプチドもやはり実施例1のペプチドと類似するように軟骨の主な細胞外マトリックス要素(extracellular matrix(ECM) component)のコラーゲンタイプIIの発現に影響を及ぼすことを示す。したがって、実施例1〜12のペプチドはすべて軟骨再生効果を示すことが分かる。
【0080】
〔実施例15〕
変形性関節症モデルを利用した軟骨再生効果確認
すべての動物実験はSamsung Biomedical Research Institute(SBRI、Seoul、Korea)のInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認の下に、the Institute of Laboratory Animal Resources(ILAR)guidelineを遵守して18〜22週齢の体重3〜3.5kgの雄ウサギ(New Zealand whites rabbits;(株)オリエントバイオ(韓国))10匹に対する実験を実施した。関節軟骨変成は膝前十字靭帯を手術で切開した後、4週間ケージで飼育して誘発させ、対照群と試験群で分けて実験を行った。
【0081】
ウサギにキシラジン(xylazine)(Rompun、Bayer)2.5mg/kgとチレタミン(Tiletamine)/ゾラゼパム(Zolazepam)(Zoletil、Virbac)8mg/kgを筋肉注射して全身麻酔した後、右後肢膝関節部位を剃って消毒を行った。膝蓋骨部の皮膚を切開して関節嚢を切開した後膝蓋骨を転位させ、前十字靭帯を露出させた。この後ブレイド(No.11)で靭帯を切開した後、関節嚢と皮膚縫合を行った。手術後、ウサギは4週間ケージで日常的な動きを許容し飼育した。飼育条件は温度20−25℃、湿度10%〜50%、照明午前8時〜午後8時であり、餌は一日に一度供給した。手術後4週目、ウサギを二群に分けて関節腔内注射を行った。対照群は溶媒(5% lactose/生理食塩液)を注射し、試験群の場合、実施例1のペプチド30uM投与群は52.5 uM 200 ul、90uM投与群は157.5 uM 200 ulを各々注射した。前記ペプチドは溶媒の5% lactose/生理食塩水額に溶解して使用した。注射は1週に一回ずつ4週間にかけて行われ、最後の注射した後、各々1週、5週経過時(最初の手術後、各々8週目、12週目)実験動物を深麻酔状態でKCl1〜2mM/kg血管注射で安楽死させた。
【0082】
膝関節骨の近位部(大腿骨部位)を摘出し、正常組織との比較のために左側正常関節部位も追加摘出した。India inkを塗布して肉眼所見を観察した後、写真撮影を行った。その後、摘出された関節部位は10%ホルマリンに固定後、脱灰液(CalciClear Rapid、National Diagnostics)を使用して脱灰をさせた後パラフィンブロックを作った。関節骨の観賞面を4um厚さで切りスライドを作り、細胞の構造と分布を観察するためにヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色を行い、基質内プロテオグリカンの分布を観察するためにSafranin O染色を行い、コラーゲンの分布を観察するためにMasson’s Trichrome染色を行った。ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色はスライドをXylene、100%、90%、70%エタノールに各々10分間連続的に脱水させた後、Harris hematoxylin(Melrose J. et al、Spine (2002)1756−1764)を使用して行い、Safranin O染色はスライドをH&E staining方法と同様に脱水させた後、0.02% Fast greenで3分、1% acetic acidで30秒、0.1% Safranin Oで5分間染色した後、70%、90%.100%エタノール、Xylenで10度連続的に浸漬して脱水して行い、Masson’s Trichrome染色はTrichromeを使用して行った(Melrose J. et al. Eur. Spine J.(2007)2193−2205)。スライドは正常群、対照群(ラクトース投与群)、そして試験群(実施例1のペプチド投与群)で分けて作られ、微細顕微鏡下でそれぞれの所見を観察した。
【0083】
肉眼観察の結果を図8に示した。図8で見られるように、正常群の関節軟骨組織はなめらかで光沢がある反面、変形性関節症モデルの対照群(ラクトース投与群)は軟骨組織が損傷して削られていった部分が観察され、光沢が減少していた。反面、試験群(実施例1のペプチド投与群;30uM、90uM)の関節軟骨組織は再生して正常に近く、なめらかな表面と光沢が観察された。
【0084】
H&E染色結果は図9に示した。図9で見られるように、軟骨組織の表層(superficial layer)で、対照群(ラクトース投与群)にのみ繊維性軟骨細胞(濃く染色)が観察され、試験群(実施例1のペプチド投与群)では正常群と類似の染色パターンを見せ、細胞が活性化して大きさが大きくなっていることが観察された。したがって、試験群において実施例1のペプチドは関節軟骨細胞を活性化させることが分かった。
【0085】
軟骨基質内プロテオグリカン染色(Safranin O)結果を図10に示した。図10で見られるように、対照群(ラクトース投与群)では正常群と比較して中間層(middle layer)と深層(deep layer)でのプロテオグリカンの合成が顕著に減少した反面、試験群(実施例1のペプチド投与群)では投与濃度に比例してプロテオグリカンの合成が増加したことが観察された。したがって試験群において、実施例1のペプチドは関節軟骨組織の主要基質成分であるプロテオグリカンの合成を増加させて再生を促進すると確認された。
【0086】
コラーゲン染色(Masson’s Trichrome)結果を図11に示した。図11で見られるように、正常群と試験群(実施例1のペプチド投与群)は類似の染色パターンを示したが、対照群(ラクトース投与群)の損傷部位では濃い染色を示し、損傷部位に繊維性コラーゲンの合成が増加したことが観察された。したがって実施例1のペプチドは正常表面軟骨組織(hyaline cartilage、主にコラーゲンタイプII)の再生を促進させた反面、対照群(ラクトース投与群)は退行性変化に対する適応過程(adaptive process)で物理的性質が弱いため、簡単に損傷になる繊維性軟骨組織(fibrocartilage、主にコラーゲンタイプI)の合成が増加することが確認された。
【0087】
対照群(ラクトース投与群)のコラーゲン染色結果において観察された繊維性コラーゲン合成の増加はH&E染色で対照群の損傷部位に観察された表層での繊維性軟骨細胞の増加と相応する結果で、退行性変化に対する適応過程では正常な組織再生を誘導できないが、試験群では実施例1のペプチドによって正常組織の再生が誘導されることを見せた。
【0088】
結果的に、変形性関節症モデルを利用した実験で実施例1のペプチドが軟骨細胞の活性化と軟骨基質成分(プロテオグリカン、コラーゲンタイプII)の合成を促進させ損傷した軟骨組織を正常組織と類似するように再生させるに卓越した効能が有ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩、前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分として含む軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上の治療または予防用組成物、および前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1を含む組成物を提供し、前記ペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩は、軟骨損傷、関節炎などの治療および/または予防に効果的で、軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および/または軟骨組織骨化抑制などの効果を示すことができ産業上の利用可能性がある。
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ペプチドに関し、詳細には軟骨損傷、関節炎治療および/または予防に有効な新規ペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟骨組織は基質(matrix)と軟骨細胞(chondrocyte)で構成されている。このうち、基質の膠原繊維(collagen、proteoglycan)は、非膠原性蛋白質(noncollagenous protein)と共に軟骨に水分を吸収排出しつつ軟骨特有の物理的性質を維持するのに重要な役割をはたす。軟骨組織は、主に関節疾患で損傷し、関節の軟骨組織は大きく4つの層、最も外側表面の表層(superficial tangential zone)、中間層(middle zone)、深層(deep zone)、石灰化層(calcified zone)に区分される(Clouet J et al. Drug Discovery Today (2009) 14:19/20、913−925)。表層は比較的に少ない基質を含む部位で、膠原線維が関節表面に沿って緻密に配列されており細く平たい形態の軟骨細胞が存在し、関節運動の剪斷力を吸収する。中間層は表層より厚く、太い膠原繊維と球形の軟骨細胞で形成されておりプロテオグリカンと水を含む基質比率が高く荷重に耐える役割をはたす。深層はプロテオグリカンと非膠原性蛋白質が豊富で基質成分が最も多いが水分比率は最も少ない部分で、円形に近い比較的少数の軟骨細胞と膠原繊維が垂直に配列され組織の安全性に付与する。石灰化層は石灰化線(tidemark)という特異構造を含み、軟骨組織を骨組織に固定させる役割をはたす。
【0003】
関節を構成する軟骨組織が損傷すると、腫れ、熱感、疼痛を伴った関節炎(arthritis)が誘発されるが、関節炎は人種に関係がなく発病し、その原因によって100種以上に分けられる。そのうち最もありふれている形態が主に老化によって発病する変形性関節疾患{せい かんせつ しっかん}(degenerative joint disease)である骨関節炎(osteoarthritis)であり、その他、自己免疫疾患の関節リウマチ(rheumatoid arthritis)と乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、感染による敗血症性関節炎(septic arthritis)等がある。特に変形性関節症は老年層の代表的な疾患で主に関節の老化によって発病するが、その他にも遺伝的要因、栄養の不均衡、運動不足、過激な運動やケガ、過度な労働のように関節に無理をあたえる行動や、正しくない姿勢、肥満による過負荷などのさまざまな要因が複合的に作用して発病するため、若年層でも頻繁に発病する疾患である(Clouet J et al. Drug Discovery Today(2009)14:19/20、913−925;Gegout PP et al. Joint Bone Spine(2008)669−671)。
【0004】
外傷や退行性変化で関節を支持する組織が弱化すると緩衝作用をする軟骨組織が損傷し骨の間の摩擦を増加させて疼痛と炎症を誘発する。炎症は関節周囲で骨棘(osteophyte)の生成を促進させ、運動性を制限し、より大きい疼痛を誘発することになる。
【0005】
関節炎は幅広い年齢層で発病頻度が高い疾患であるが、一度損傷した組織は自然には再生や復旧がされずらく、長期間患者の社会的活動を制限し生活の質を低下させる原因となる。
【0006】
現在までの治療法は大きく、体重調節を含む運動療法、食事療法、注射療法、薬物療法のような保存的な治療法と、成長因子(growth factor)を使用する組織再生技術(tissue regeneration)、人工培養細胞を使用する移植法(implantation)、損傷の程度が激しい場合に使用する人工関節置換術のような手術療法に区分される(Clouet J et al. Drug Discovery Today(2009)14:19/20、913−925)。
【0007】
関節に無理を与えない範囲の運動療法は、関節周辺組織を強化させ症状悪化を遅延させる効果はあるが、損傷した組織を根本的に再生させるものではなく症状が激しい場合、疼痛によって行うことは難しい。
【0008】
関節の組織再生を促進したり炎症を軽減させる目的で、軟骨構成成分であるグルコサミン(glucosamine)やコンドロイチン(chondroitin)、消炎作用がある魚油(fish oil)、その他生薬組成物などが使用されている(Derfoul A et al. Osteoarthritis Cartilage (2007)15、646−655;Tiraloche G et al. Arthritis Rheum.(2005)52、1118−1128;McAlindon TE et al.JAMA(2000)283(11):1469−147;Zainal Z et al. Osteoarthritis Cartilage(2009)17(7):896−905)。
【0009】
また損傷した部位の摩擦を減らし、疼痛を軽減させて症状の悪化を防ぐために関節の潤滑液成分であるヒアルロン酸(hyaluronic acid;HA)を注射する方法も行われている(Waddell DD et al. Arthroscopy(2010)26(1):105−11;Wang CT et al.J.Bone Joint Surg.Am.(2004)86−A 538−545)。
【0010】
このような保存的な治療療法の一部は肯定的な効果を見せるものと報告されているが、疼痛の軽減や治療効果が微々たるものであったり、その作用機序がよく明らかになっていない場合が大部分であるため、治療療法として使用するためには追加検証が要求されている(McAlindon TE et al. JAMA(2000)283(11):1469−147)。
【0011】
炎症や疼痛を軽減させる目的でアスピリン(aspirin)、アセトアミノフェン(acetaminophen)、またはさまざまな種類の非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs、NSAIDs)とコルチゾン(cortisone)のようなステロイド性薬品が使用されている。しかし、このような薬物療法も損傷した組織を復旧させることができる根本的な治療法ではなく、長期間使用時に副作用として胃腸や組織、骨を損傷させるものと報告されている(Clouet J et al. Drug Discovery Today(2009)14:19/20、913−925;Glass GG Dis. Mon. (2006)343−362;Zhang W et al. Ann. Rheum. Dis. (2004)63、901−907);Frampton JE et al. Drugs(2007)67(16):2433−72;McDonough AL. Phys Ther. (1982)62(6):835−9.)。
【0012】
損傷した軟骨組織を再生、復旧する目的でアピゲニン、FGF、BMPs (BMP7/OP−1)、TGFβ1のような成長因子(growth factor)あるいはその一部を含む組成物の使用が考慮されている(Clouet J et al. Drug Discovery Today (2009) 14:19/20、913−925;SHi S et al. J. Biol. Chem. (2009) 284 (1):6697−6704;Moore EE et al. Osteoarthritis Cartilage (2005) 13、623−631)。しかし関節炎患者に蛋白質から成る高分子の成長因子を直接的で反復的に注入することは容易でなく、実際に患者に適用するためにはこのような成長因子の伝達方法についての追加研究が要求される。
【0013】
前述した保存的な治療法で効果がなかったり、深刻な疼痛が持続する場合、人工関節に置き換える手術的療法が使用されるが、人工関節は寿命が約10年程度と限定されており必要により再手術が必要である。この場合、骨に狭窄した人工関節除去の難しさ、より大きい人工関節移植の必要性、より広範囲な周辺骨組織が必要になり再手術に制限がともなう。このような問題点で人工関節置換術を若年層に適用する時はより慎重を期さなければならない。
【0014】
最近では人工細胞培養技術が発達するのにともない多能性幹細胞(multipotent stem cell)や自家間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)から軟骨細胞(chondrocyte)を人工的に培養して移植(implantation)する方法が報告された(Csaki C et al. Ann Anat. (2008) 190(5):395−412)。しかし、充分な自家細胞を得るのは容易でなく、移植した細胞の付着、再生効率、安全性の側面で多くの患者に適用するには技術的、費用的な側面でいまだ解決しなければならない問題点が多い。
【0015】
高齢化社会に入りつつ関節炎によって苦痛を受ける老年層の人口が着実に増加しており、過度な運動、栄養の不均衡、肥満などによる関節疾患が若年層でも増加傾向にある。これにともなう経済的損失と社会的費用を低減させ老齢人口の生活の質を改善するためには、既存の炎症や疼痛を軽減させる保存的な食餌、薬物療法や、人工関節置換術のような手術療法、人工培養した軟骨細胞を移植する方法でなく、関節炎で損傷した軟骨組織をより手軽で安全に根源的に再生、復旧させることができる新しい概念の関節炎治療剤の開発が早急に要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、新規なペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩を提供するものである。
【0017】
また、本発明が解決しようとする課題は、軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上の治療および/または予防用組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明が解決しようとする課題は、軟骨損傷または関節炎などに効果的な組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は下記一般式(I)で示されるペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0020】
X1−Leu−X2−Leu−X3 (I)
前記式で、X1はGluまたはAspであり、X2はHis、LysまたはArgであり、X3はAspまたはGluであり、前記Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸、Leuはロイシン、Hisはヒスチジン、LysはリシンでArgはアルギニンである。
【0021】
望ましくは、前記ペプチドのX1はGluであり、前記X2はHisであり、前記X3はAspであるペプチド(配列番号1;Glu−Leu−His−Leu−Asp)である。
【0022】
アミノ酸はR基(アミノ酸に共通に結合されたカルボキシル基、アミノ基、水素以外に可変的な基)の属性にしたがい分類し、前記GluまたはAspは酸性アミノ酸{Negatively Charged(Acidic) R Groups}に分類され、前記His、LysまたはArgは塩基性アミノ酸{Positively Charged(Basic) R Groups}に分類される。前記酸性アミノ酸はpH7.0で負電荷を有するR基を有し、また1つのカルボキシル基を有する。前記塩基性アミノ酸はpH7.0で正電荷を有するR基を有する。前記同一分類に属するアミノ酸は類似の特性を示す。
【0023】
前記ペプチドを構成するアミノ酸にはL−体、D−体、DL−体が存在し、本発明のペプチドを構成するアミノ酸はこれらをすべて含む。
【0024】
前記薬学的に許容可能なその塩は例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などをあげることができる。
【0025】
また、本発明は本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩の軟骨損傷または関節炎治療および/または予防用途を提供する。
【0026】
したがって、本発明は本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分として含む軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上の治療および/または予防用組成物を提供する。
【0027】
前記治療および/または予防は軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および軟骨組織骨化抑制のうちから選択された一つ以上によるものでありえ、前記関節炎は望ましく軟骨および軟骨下骨の変成をともなう関節疾患である。
【0028】
また、本発明は本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1 (Transforming growth factor beta 1)を含む組成物を提供する。
【0029】
前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩とTGFβ1は重量比で1:20〜40でありうる。
【0030】
本発明の組成物は薬学組成物であることもありえ、薬学的に許容される担体を添加して製剤化することができる。
【0031】
本発明のペプチドはペプチド化学で通常使用される方法によって製造することができる。例えば、ペプチドをSchroder and Lubke著、「The Peptides」第1巻、Acadmeic Press、New York (1965)等に記載された方法によって製造することができ、溶液相合成または固体相合成二つのうち一つによって製造することができる。
【0032】
ペプチド結合を形成するための方法の例はアジド法、酸クロリド法、対称無水物法、混合無水物法、カルボジイミド法、カルボジイミド−付加物法、活性エステル法、カルボジイミダゾール法、酸化−還元法、およびWoodward試薬Kを使用する方法などがある。
【0033】
縮合反応を行う前に、反応に関与しなかったカルボキシル基、アミノ基などを保護させることができ、縮合反応に関与するカルボキシル基およびアミノ基を当分野に公示された方法で活性化させることができる。
【0034】
カルボキシル基を保護する基の例はメチル、エチル、ベンジル、p−ニトロベンジル、t−ブチルおよびシクロヘキシルのようなエステル−形成基をあげることができる。
【0035】
アミノ基を保護する基の例はベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、および/または9−フルオレニルメチルオキシカルボニルなどをあげることができる。
【0036】
カルボキシル基の活性形態の例は対称的な無水物、アジドおよび活性エステル[アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2、4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、p−ニトロフェノール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシフタルイミドまたは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)とのエステル]などをあげることができる。
【0037】
活性化アミノ基の例はアミドホスファイトである。
【0038】
反応をクロロホルム、ジクロロメタン、エチルアセテート、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、水、メタノールおよびこれらの混合物のような溶媒で行う。
【0039】
反応温度は反応に一般的に使用される約−30℃〜50℃の範囲でありうる。
【0040】
ペプチド保護基を除去する反応は保護基の種類によって異なるが、ペプチド結合にどのような影響も与えずに保護基の離脱を可能にしなければならない。
【0041】
保護基を酸処理例えば、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびこれら酸の混合物で処理することによって除去することができる。また、液体アンモニアでナトリウム金属を使用する還元またはパラジウム−炭素を使用する触媒性還元を使用することができる。
【0042】
前記酸処理で保護基を除去する反応を行う時、アニソール、フェノールおよびチオアニソールなどを添加することができる。
【0043】
反応完結後、本発明の製造されたペプチドを通常のペプチド精製{せいせい}方法、例えば、抽出、分配、再沈殿、再結晶またはカラムクロマトグラフィーによって回収することができる。
【0044】
また、本発明のペプチドを通常の方法にしたがい、その変異体または薬学的に許容可能なその塩に転換させることができる。
【0045】
本発明によるペプチドは自動ペプチド合成器によって合成することができ、遺伝子操作技術によっても生産することができる。例えば遺伝子操作によって融合パートナーと本発明のペプチドとされた融合蛋白質をコーディングする融合遺伝子を製造し、それをもって宿主微生物を形質転換させた後、宿主微生物で融合蛋白質形態に発現させた後、蛋白質分解酵素または化合物を利用して融合蛋白質から本発明のペプチドを切断、分離して所望するペプチドを生産することができる。
【0046】
前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩の投与量は、非経口投与時、150μg/日〜1mg/日であり、望ましくは0.5mg/日〜1mg/日である。経口投与の場合、投与量は非経口投与量の1.2〜1.5倍である。本発明のペプチドまたは組成物を主に非経口方法で、例えば局所注射(関節腔内注射)、静脈または皮下注射、あるいは経皮投与で投与する。また、場合に応じて経口で投与することができる。
【0047】
本発明のペプチド、薬学的に許容可能なその塩、または組成物は、薬学的に許される担体とともに製剤化し、注射剤、粉末、点鼻剤、顆粒、錠剤などの形態で製造することができる。
【0048】
薬学的に許される担体は当業者によく知られたさまざまな因子により製造されるが、例をあげれば、利用された特定生理活性物質、これの濃度、安定性および意図的生体利用性;治療しようとする疾患、病気および状態;治療を受ける個体、年齢、大きさおよび一般的な状態;組成物を投与するのに利用される経路、例えば局所、静脈、筋肉、経皮、口腔および鼻腔などの要因を考慮しなければならないが、これに制限されはしない。一般的に経口投与経路以外の生理活性物質投与に利用される薬剤学的に利用可能な担体にはD5W(水のうち5%葡萄糖)、デキストロースおよび生理学的塩を容積の5%以内で含む水溶液などを含み、病巣内局所注射の場合、治療効果を増進させて持続時間を増加させるためにさまざまな注射可能なヒドロゲル(hydrogel)を使用することができる。また薬学的に利用可能な担体には保存剤および抗酸化剤のような活性成分の安定性を補強できる追加成分を含むことができる。本発明のペプチドまたは組成物は該当分野の適切な方法で製造することができ、例えばRemington’s Pharmaceutical Science、Mack Publishing Company、Easton PA(最近版)等に開示されている方法を参照して各疾患に応じて、または成分に応じて、望ましいように製剤化することができる。
【0049】
本発明のペプチドを生理食塩水溶液で保管することができ、マンニトールまたはソルビトールの添加後にアンプル(ample)として凍結乾燥することができ、これを投与するために使用する時は生理食塩水などに溶解させることができる。
【0050】
本発明はまた、本発明のペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩の投与を必要とする人間を含む哺乳類に、投与するステップを含む軟骨損傷または関節炎の治療および/または予防法を提供する。
【0051】
本発明はまた、本発明のペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩の医薬用途、望ましくは軟骨損傷または関節炎の治療および/または予防用途を提供する。
【0052】
本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩と組成物において言及した事項は本発明の用途、治療および/または予防法に矛盾しない限り同様に適用される。
【発明の効果】
【0053】
本発明のペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩は、軟骨損傷または関節炎などの治療または予防に効果的であり、軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および/または軟骨組織骨化抑制などの効果を示しうる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】損傷した軟骨組織において、本発明による一実施例によって起きる軟骨組織の変化を撮影した写真である。
【図2】本発明の一実施例によって起きる軟骨組織再生効果をヘマトキシリンとエオシンで染色して観察した結果である。
【図3】本発明の一実施例によって起きる軟骨組織再生効果を、コラーゲンを染色して観察した結果である。
【図4】本発明の一実施例によって起きる軟骨組織再生効果をヘマトキシリンとエオシンで染色して観察した結果である。
【図5】本発明の一実施例による軟骨組織培養細胞のうち、コラーゲンタイプIIの発現の変化を測定した結果である。
【図6】本発明の一実施例による軟骨組織培養細胞のうちMMP13の発現の変化を測定した結果である。
【図7】本発明の一実施例による軟骨組織培養細胞のうちコラーゲンタイプXの発現の変化を測定した結果である。
【図8】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果を肉眼で確認した結果写真である。
【図9】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果をヘマトキシリンとエオシン染色で確認した結果である。
【図10】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果をSafranin0染色で確認した結果である。
【図11】変形性関節症モデルにおいて、本発明の一実施例による軟骨再生効果をMasson’s Trichrome染色で確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の理解を促すために実施例を示す。下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるのみであり、実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
ペプチドの製造
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド(Glu−Leu−His−Leu−Asp:配列番号1)を(株)ペプトロン(Peptron Inc)(韓国)に依頼して製造した。具体的に自動合成器(ASP48S、Peptron Inc)を使用してFmoc SPPS(9−Fluorenylmethyloxycarbonyl solid phase peptide synthesis)方法を利用してC−末端から一つずつカップリング(coupling)した。
【0057】
ペプチドのC−末端の最初のアミノ酸が樹脂(resin)に付着(attached)したNH2−His(Trt)−2−chloro−Trityl Resinを使用した。ペプチド合成に使用したすべてのアミノ酸の原料はN−末端がFmocで保護され、残基はすべて酸で除去されるトリチル(Trt)、t−ブチルオキシカーボニル(Boc)、t−ブチル(t−Bu)等で保護されたものを使用した。カップリング試薬としてはHBTU(2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1、1、3、3−tetramethyluronium hexafluorophosphate)/HOBt(Hydroxxybenzotriazole)/NMM(N−methylmorpholine)を使用した。(1)保護アミノ酸(8当量)とカップリング試薬 HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)をDMF(Dimethylformamide)に溶かして添加した後、常温で2時間反応させた。(2)Fmoc除去は20% piperidine in DMFを加えて常温で5分間、2回反応させた。(1)と(2)の反応を反復して行い、ペプチドの基本骨格を作った後、TFA(trifluoroacetic acid)/EDT(1、2−ethanedithiol)/Thioanisole/TIS(triisopropylsilane)/H2O=90/2.5/2.5/2.5/2.5を使用してペプチドをResinから分離した。Vydac Everest C18 column(250mm×22mm、10μm)を使用してreverse phase HPLC方法で精製した後、0.1%(v/v)trifluoroacetic acidを含むwater−acetonitrile linear gradient(10〜75%(v/v) of acetonitrile)方法で分離した。精製されたペプチドの分子量は、LC/MS(Agilent HP1100 series)を使用して確認し凍結乾燥した。
【0058】
〔実施例2〜12〕
ペプチドの製造
実施例1のアミノ酸配列の代わりに、下記の表1に記載されたアミノ酸配列としたものを除き、実施例1のような方法で実施例2〜12のペプチドを製造した。
【0059】
【表1】
【0060】
〔実施例13〕
損傷した軟骨組織移植片(explant)を使用した軟骨再生効果確認
軟骨組織移植片(articular chondrocyte explant)は、地域の屠殺場(大韓民国大田市梧井洞所在)で屠殺されて1時間が経過していない3才以下の牛のかかとの関節から分離して使用した。関節から骨を除いた軟骨の部分を均一に切り出した後、手術用ナイフで約3mmx3mmに切って軟骨組織移植片を作った。先端を短く切って研磨した21ゲージ(21G)の注射針を使用して移植片の中央に表面と垂直となるように均一に穴をあけて損傷部位を作った。
【0061】
穴をあけた組織移植片を、対照群を含み4つの群に分けてアスコルベート(Ascorbate、50ug/ml;Sigma)と10%牛胎児血清(Fetal bovine serum、FBS;Invitrogen)を添加したDMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium/F12、1:1;Welgene)で、各々実施例1のペプチド25uM、形質転換成長因子ベータ1(Transforming growth factor beta 1、TGFβ1;Promokine)2ng/ml、実施例1のペプチド25uMとTGFβ1 2ng/mlを混合して処理し、それぞれの群をさらに2つに分けて1週間および6週間培養した。6週間培養した群に対しては1週間ごとに損傷部位を顕微鏡で観察して写真に撮影した。また、1週間培養した組織移植片と6週間培養した組織移植片各々を3.7%ホルムアルデヒド/リン酸塩緩衝液(3.7% formaldehyde/PBS)で固定した後、標準組織化学(histochemistry)実験法にしたがいパラフィン切片(paraffin section)スライドを作り、ヘマトキシリンとエオシン(Hematoxylin & Eosin;H&E)で染色して顕微鏡で細胞の形、分布を形態学的に観察した。コラーゲンはMasson’s trichromeで染色して組織内で細胞の形、分布を顕微鏡で観察した。対照のために実施例1のペプチドを処理しないものを除き、実施例1のペプチド処理群と同様に処理した組織移植片を対照群とした。
【0062】
その結果を図1〜4に示した。
【0063】
図1は関節軟骨組織移植片に実施例1または実施例1とTGFβ1を処理した後、時間経過による軟骨組織の変化を顕微鏡で観察し、写真に撮影した結果である。
【0064】
図1で見られるように、実施例1の単独処理によって、2週以後から損傷部位が順次縮小され4週後から損傷部位周辺に細胞が付着し始め、6週後には顕著に小さくなり、実施例1のペプチドによって損傷部位が再生することが観察された(図1F〜J)。また、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した場合、3週以後から切断面周囲に細胞が増殖し始め、6週後には完全に損傷部位を満たした(図1P〜T)。実施例の1ペプチド単独処理に比べてTGFβ1を共に処理した場合、再生が1週間程度早く進行し、3週目に切断面にだけ見えた細胞が4週目には完全に満たされたことが分かる。
【0065】
図2は実施例1、または実施例1とTGFβ1を処理した関節軟骨組織移植片を1週間培養した後、ヘマトキシリンとエオシンで染色して組織再生効果を観察した結果を示し、図3はコラーゲンを染色した結果を示す。また、図4は実施例1、または実施例1とTGFβ1を処理した関節軟骨組織移植片を6週間培養した後、ヘマトキシリンとエオシンで染色して組織再生効果を観察した結果を示す。図2と図3の矢印は軟骨組織移植片の表層(superficial layer)を意味する。図4のCとFは各々図BとEの四角形の拡大図であり、矢印は軟骨組織移植片の表層(superficial layer)部位を意味する。
【0066】
図2と図3で見られるように、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した場合、軟骨組織移植片の表層(superficial layer)厚さが対照群に比べて2倍以上増加することが分かり(図2D、図3D)、コラーゲン染色がさらに濃くなり実施例1のペプチドによってコラーゲン合成が増加したことが分かる(図3D)。
【0067】
また、図4で見られるように、実施例1のペプチドで6週処理時に損傷部位が狭くなっており、損傷部位周囲に新しい細胞が付着していることが分かり(図4B、4C)、TGFβ1を共に処理した場合、軟骨組織移植片の損傷部位が表層部位(図4Fの矢印部位)を含み軟骨組織が本来の形態に再生され完全に満たされることが分かる(図4E、4F)。反面、対照群やTGFβ1を単独で処理した場合は移植片の損傷部位の変化はほぼなかった(図4A、4D)。
【0068】
このような結果から、実施例1のペプチドによって主要基質成分であるコラーゲンの合成を増加させつつ、損傷部位に軟骨細胞の付着と増殖を促進させることによって損傷軟骨が再生されうることが分かり、TGFβ1によってその速度がさらに増加することが分かる。また、実施例1のペプチドと類似のアミノ酸配列を有する変異体である実施例2〜12のペプチドでも類似の効果を示すものと見られる。
【0069】
〔実施例14〕
関節軟骨ペレット(pellet)を使用した軟骨再生効果確認
<遺伝子発現に対する実施例1のペプチドの影響>
関節軟骨細胞(articular chondrocyte)の性質を生体組織と類似するように維持するために細胞をペレット形態に作って培養した。
【0070】
軟骨組織は、地域の屠殺場(大韓民国大田市梧井洞所在)で屠殺されて1時間が経過していない3才以下の牛のかかと関節全体から骨を除いた軟骨の部分を手術用ナイフで切り集めて使用した。一辺の長さが約1mmの六面体形態に細かく切った軟骨組織をプロナーゼ(Pronase、1mg/ml;Roche)を添加したDMEM/F12(Welgene)培地に入れて摂氏37度、5% CO2培養基で1時間30分反応させた。プロナーゼで処理した組織をリン酸塩緩衝液(PBS)で2回、DMEM/F12培養液で1回洗浄した。洗浄した軟骨組織を5%牛胎児血清(Fetal bovine serum、FBS;Invitrogen)、コラゲナーゼP(Collagenase P、0.25mg/ml;Roche)、ディーエヌアーゼ(DNase I、20ug/ml;Sigma)を添加したDMEM/F12培地に入れて摂氏37度、5% CO2培養基で8〜12時間反応させて組織が完全に分解されるようにした。分解が終わると500xgで15分間遠心分離して細胞を集め、リン酸塩緩衝液(PBS)で2回洗浄した。細胞濃度が2x106 cells/mlとなるように10%牛胎児血清とアスコルベート(Ascorbate、50ug/ml;Sigma)を添加したDMEM/F12培地に混濁して15ml円錘形チューブ(conical tube)に各々1mlずつ分配した。500xgで10分間遠心分離してペレット形態に作り、摂氏37度、5% CO2培養基で2日間培養して解けない細胞ペレットを作った。ペレットを24wellプレートに移して5日間培養した後、各々DMSO(Dimethyl sulfoxide)、形質転換成長因子ベータ1(Transforming growth factor beta 1、TGFβ1;Promokine)2ng/ml、実施例1のペプチド25uMとTGFβ1 2ng/mlの混合物、実施例1のペプチド25uMを処理して5日間さらに培養した。細胞分離後、13日目には無血清培地(Serum free medium)で24時間培養し、14日目は無血清培地に各々TGFβ1 2ng/ml、実施例1のペプチド25uMとTGFβ1 2ng/mlの混合物、実施例1のペプチド25uMを処理して24時間培養した。
【0071】
培養が終わったペレットはトリゾール(TRIZOL;Invitrogen)を使用してRNAを分離し、260nm吸光度でRNAを定量した。RNA2.25ugからrandom hexamerと5x Reverse Transcriptase Master premix(Elpis biotech)を使用してcDNAを合成した。cDNA合成液1ulを使用して重合酵素連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)で増幅し遺伝子の発現の程度を調査した。調査対象とされた遺伝子は、関節軟骨組織の再生の可否を確認するための遺伝子で軟骨細胞に特徴的なタイプIIコラーゲン(type II collagen、COL2A1)、追加的な軟骨損傷を予防できるかの可否を確認するための遺伝子で損傷した軟骨組織で過剰発現して基質分解に関与する基質メタロペプチダーゼ13(Matrix metallopeptidase 13、MMP13)、過多な活性化で骨化(ossification)と進行するのかの可否を確認するための遺伝子で関節組織の骨化に関与する肥厚性軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)に特徴的なタイプXコラーゲン(type X collagen、COL10A1)であった。
【0072】
各遺伝子の増幅に使用されたPCRプライマーの塩基配列とPCR産物の大きさは次の通りである。
【0073】
Type II collagen (product size:381bp)
forward primer:5’−CAGGACCAAAGGGACAGAAA−3’(配列番号13)
reverse primer:5’−GGTTGCCTTGAAATCCTTGA−3’(配列番号14)
MMP13 (product size:600bp)
forward primer:5’−ATGGACCCTCTGGTCTGTTG−3’(配列番号15)
reverse primer:5’−CGTGTTTTGGAAATCCCAGT−3’(配列番号16)
Type X collagen (product size:454bp)
forward primer:5’−CAGTCAAGGGCCTTAATGGA−3’(配列番号17)
reverse primer:5’−CCTGAAGCCTGATCCAGGTA−3’(配列番号18)
GAPDH(Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase) (product size:345bp)
forward primer:5’−ACCCAGAAGACTGTGGATGG−3’(配列番号19)
reverse primer:5’−CCCAGCATCGAAGGTAGAAG−3’(配列番号20)
具体的に、次のような条件でPCRを行った。PCR反応額はcDNA 1ul、2x Taq polymerase master mix(Solgent)10ul、各primer(10pmole/ul)0.5ulずつ、蒸溜水8ulを使用した。PCR反応は、摂氏94度で2分間変成させた後、摂氏94度で30秒、摂氏58度で45秒、摂氏72度で1分の条件で、Type II collagen、Type X collagen、MMP13は、各々32サイクル、GAPDHは26サイクルのあいだ増幅させた。PCR増幅産物は、1% agarose gelで電気泳動し、EtBr(ethidium bromide、2ug/ml)で15分間染色した後、UV上で確認し、Image J(NIH)プログラムを使用してGAPDH発現量で平均化させた後、相対的な発現量を比較した。
【0074】
その結果を図5ないし図7に示した。図5は関節軟骨組織培養細胞に実施例1のペプチド処理によるコラーゲンタイプII(COL2A1)の発現の変化を観察した結果であり、図6はMMP13の発現の変化を観察した結果であり、図7はコラーゲンタイプX(COL10A1)の発現の変化を観察した結果である。それぞれの図(図5〜図7)において、上はPCR増幅産物を1%アガロースゲル上で電気泳動した写真であり、下は電気泳動したバンドをImage J(NIH)プログラムを使用して定量したグラフである。グラフのうちy軸は対照群のバンドの濃さを100%とした時、対照群と比較した実施例試料の相対的なバンドの濃さを%で計算した値を示す。
【0075】
図5ないし図7で見られるように、実施例1のペプチドは、軟骨組織の再生と関連したタイプIIコラーゲンの発現をTGFβ1無処理対照群と比較して55%増加させ、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した時は、TGFβ1単独処理群と比較して27%増加させた(図5)。そして実施例1のペプチドは軟骨組織の基質分解と関連した基質メタロペプチダーゼ13(matrix metallopeptidase 13、MMP13)の発現をTGFβ1無処理対照群と比較して10%減少させ、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した時はTGFβ1単独処理群と比較して150%減少させた(図6)。実施例1のペプチドは過多な活性化による関節組織の骨化(occification)に関与する肥厚性軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)に特徴的なタイプXコラーゲン(type X collagen、COL10A1)の発現はTGFβ1無処理対照群と比較して69%減少させ、実施例1のペプチドとTGFβ1を共に処理した時はTGFβ1単独処理群と比較して78%減少させた(図7)。
【0076】
前記結果から、実施例1のペプチドは関節組織の軟骨細胞を活性化させて軟骨を構成する主要基質蛋白質の合成は促進し、主要基質分解酵素の発現は阻害することによって、効果的に損傷した関節軟骨組織の再生を促進する効果を示す。また、実施例1のペプチドは軟骨細胞の活性化を促進するにもかかわらず、関節組織が骨化(ossification;osteophyte formation)に進行しうる肥厚性軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)での分化は抑制することによって、正常な組織としての再生を促進する効果を有する。
【0077】
<遺伝子発現に対する実施例2〜実施例12ペプチドの影響>
また、実施例1のペプチドの代わりに実施例2〜12のペプチド各々を使用したものを除き、<遺伝子発現に対する実施例1のペプチドの影響>と同一の方法でペプチドの影響を評価した。実施例1〜12のペプチドが軟骨組織培養細胞のうちコラーゲンタイプIIの発現に及ぼす影響に対する実験結果を下記表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
表2は実施例1のペプチドと類似のアミノ酸配列を有する変異体の実施例2〜12のペプチドによる軟骨組織培養細胞のうちコラーゲンタイプIIの発現の変化を相互比較したものである。参考のために無処理についての結果も共に示した。表の数値は平均標準偏差で、試料の数はそれぞれの場合3つであった。データはPASW Statistics(ver.17.0、SPSS Inc.)統計プログラムを利用して算出し、平均±標準偏差はp<0.05水準で一元配置分散分析法(one−way analysis of variance)を行いLSD(最小有意差検定法)で各試験群平均値間の有意性を検定した。実施例1と類似に、実施例2〜12もやはり無処理群に比べてコラーゲンタイプIIの発現を有意に増加させた。その結果、実施例1のアミノ酸配列変異体である実施例2〜実施例12のペプチドもやはり実施例1のペプチドと類似するように軟骨の主な細胞外マトリックス要素(extracellular matrix(ECM) component)のコラーゲンタイプIIの発現に影響を及ぼすことを示す。したがって、実施例1〜12のペプチドはすべて軟骨再生効果を示すことが分かる。
【0080】
〔実施例15〕
変形性関節症モデルを利用した軟骨再生効果確認
すべての動物実験はSamsung Biomedical Research Institute(SBRI、Seoul、Korea)のInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認の下に、the Institute of Laboratory Animal Resources(ILAR)guidelineを遵守して18〜22週齢の体重3〜3.5kgの雄ウサギ(New Zealand whites rabbits;(株)オリエントバイオ(韓国))10匹に対する実験を実施した。関節軟骨変成は膝前十字靭帯を手術で切開した後、4週間ケージで飼育して誘発させ、対照群と試験群で分けて実験を行った。
【0081】
ウサギにキシラジン(xylazine)(Rompun、Bayer)2.5mg/kgとチレタミン(Tiletamine)/ゾラゼパム(Zolazepam)(Zoletil、Virbac)8mg/kgを筋肉注射して全身麻酔した後、右後肢膝関節部位を剃って消毒を行った。膝蓋骨部の皮膚を切開して関節嚢を切開した後膝蓋骨を転位させ、前十字靭帯を露出させた。この後ブレイド(No.11)で靭帯を切開した後、関節嚢と皮膚縫合を行った。手術後、ウサギは4週間ケージで日常的な動きを許容し飼育した。飼育条件は温度20−25℃、湿度10%〜50%、照明午前8時〜午後8時であり、餌は一日に一度供給した。手術後4週目、ウサギを二群に分けて関節腔内注射を行った。対照群は溶媒(5% lactose/生理食塩液)を注射し、試験群の場合、実施例1のペプチド30uM投与群は52.5 uM 200 ul、90uM投与群は157.5 uM 200 ulを各々注射した。前記ペプチドは溶媒の5% lactose/生理食塩水額に溶解して使用した。注射は1週に一回ずつ4週間にかけて行われ、最後の注射した後、各々1週、5週経過時(最初の手術後、各々8週目、12週目)実験動物を深麻酔状態でKCl1〜2mM/kg血管注射で安楽死させた。
【0082】
膝関節骨の近位部(大腿骨部位)を摘出し、正常組織との比較のために左側正常関節部位も追加摘出した。India inkを塗布して肉眼所見を観察した後、写真撮影を行った。その後、摘出された関節部位は10%ホルマリンに固定後、脱灰液(CalciClear Rapid、National Diagnostics)を使用して脱灰をさせた後パラフィンブロックを作った。関節骨の観賞面を4um厚さで切りスライドを作り、細胞の構造と分布を観察するためにヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色を行い、基質内プロテオグリカンの分布を観察するためにSafranin O染色を行い、コラーゲンの分布を観察するためにMasson’s Trichrome染色を行った。ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色はスライドをXylene、100%、90%、70%エタノールに各々10分間連続的に脱水させた後、Harris hematoxylin(Melrose J. et al、Spine (2002)1756−1764)を使用して行い、Safranin O染色はスライドをH&E staining方法と同様に脱水させた後、0.02% Fast greenで3分、1% acetic acidで30秒、0.1% Safranin Oで5分間染色した後、70%、90%.100%エタノール、Xylenで10度連続的に浸漬して脱水して行い、Masson’s Trichrome染色はTrichromeを使用して行った(Melrose J. et al. Eur. Spine J.(2007)2193−2205)。スライドは正常群、対照群(ラクトース投与群)、そして試験群(実施例1のペプチド投与群)で分けて作られ、微細顕微鏡下でそれぞれの所見を観察した。
【0083】
肉眼観察の結果を図8に示した。図8で見られるように、正常群の関節軟骨組織はなめらかで光沢がある反面、変形性関節症モデルの対照群(ラクトース投与群)は軟骨組織が損傷して削られていった部分が観察され、光沢が減少していた。反面、試験群(実施例1のペプチド投与群;30uM、90uM)の関節軟骨組織は再生して正常に近く、なめらかな表面と光沢が観察された。
【0084】
H&E染色結果は図9に示した。図9で見られるように、軟骨組織の表層(superficial layer)で、対照群(ラクトース投与群)にのみ繊維性軟骨細胞(濃く染色)が観察され、試験群(実施例1のペプチド投与群)では正常群と類似の染色パターンを見せ、細胞が活性化して大きさが大きくなっていることが観察された。したがって、試験群において実施例1のペプチドは関節軟骨細胞を活性化させることが分かった。
【0085】
軟骨基質内プロテオグリカン染色(Safranin O)結果を図10に示した。図10で見られるように、対照群(ラクトース投与群)では正常群と比較して中間層(middle layer)と深層(deep layer)でのプロテオグリカンの合成が顕著に減少した反面、試験群(実施例1のペプチド投与群)では投与濃度に比例してプロテオグリカンの合成が増加したことが観察された。したがって試験群において、実施例1のペプチドは関節軟骨組織の主要基質成分であるプロテオグリカンの合成を増加させて再生を促進すると確認された。
【0086】
コラーゲン染色(Masson’s Trichrome)結果を図11に示した。図11で見られるように、正常群と試験群(実施例1のペプチド投与群)は類似の染色パターンを示したが、対照群(ラクトース投与群)の損傷部位では濃い染色を示し、損傷部位に繊維性コラーゲンの合成が増加したことが観察された。したがって実施例1のペプチドは正常表面軟骨組織(hyaline cartilage、主にコラーゲンタイプII)の再生を促進させた反面、対照群(ラクトース投与群)は退行性変化に対する適応過程(adaptive process)で物理的性質が弱いため、簡単に損傷になる繊維性軟骨組織(fibrocartilage、主にコラーゲンタイプI)の合成が増加することが確認された。
【0087】
対照群(ラクトース投与群)のコラーゲン染色結果において観察された繊維性コラーゲン合成の増加はH&E染色で対照群の損傷部位に観察された表層での繊維性軟骨細胞の増加と相応する結果で、退行性変化に対する適応過程では正常な組織再生を誘導できないが、試験群では実施例1のペプチドによって正常組織の再生が誘導されることを見せた。
【0088】
結果的に、変形性関節症モデルを利用した実験で実施例1のペプチドが軟骨細胞の活性化と軟骨基質成分(プロテオグリカン、コラーゲンタイプII)の合成を促進させ損傷した軟骨組織を正常組織と類似するように再生させるに卓越した効能が有ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩、前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分として含む軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上の治療または予防用組成物、および前記ペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1を含む組成物を提供し、前記ペプチドまたは薬学的に許容可能なその塩は、軟骨損傷、関節炎などの治療および/または予防に効果的で、軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および/または軟骨組織骨化抑制などの効果を示すことができ産業上の利用可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるペプチド、または薬学的に許容可能なその塩、
X1−Leu−X2−Leu−X3 (I)
前記式で、X1はGluまたはAspであり、X2はHis、LysまたはArgであり、X3はAspまたはGluであり、前記Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸、Leuはロイシン、Hisはヒスチジン、LysはリシンでArgはアルギニンである。
【請求項2】
前記X1はGluで、前記X2はHisであり、前記X3はAspであることを特徴とする請求項1に記載のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項3】
請求項1または請求項2のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分として含む軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上であることを特徴とする治療または予防用組成物。
【請求項4】
前記治療または予防は軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および軟骨組織骨化抑制のうちから選択された一つ以上によるものであることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記関節炎は、軟骨および軟骨下骨の変成を伴う関節疾患であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、薬学組成物であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1または請求項2のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1(Transforming growth factor beta 1;形質転換成長因子ベータ1)を含むことを特徴とする組成物。
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるペプチド、または薬学的に許容可能なその塩、
X1−Leu−X2−Leu−X3 (I)
前記式で、X1はGluまたはAspであり、X2はHis、LysまたはArgであり、X3はAspまたはGluであり、前記Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸、Leuはロイシン、Hisはヒスチジン、LysはリシンでArgはアルギニンである。
【請求項2】
前記X1はGluで、前記X2はHisであり、前記X3はAspであることを特徴とする請求項1に記載のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩。
【請求項3】
請求項1または請求項2のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩を有効性分として含む軟骨損傷または関節炎のうちから選択された一つ以上であることを特徴とする治療または予防用組成物。
【請求項4】
前記治療または予防は軟骨組織再生、軟骨組織基質分解酵素発現抑制、および軟骨組織骨化抑制のうちから選択された一つ以上によるものであることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記関節炎は、軟骨および軟骨下骨の変成を伴う関節疾患であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、薬学組成物であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1または請求項2のペプチド、または薬学的に許容可能なその塩およびTGFβ1(Transforming growth factor beta 1;形質転換成長因子ベータ1)を含むことを特徴とする組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2013−513657(P2013−513657A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544408(P2012−544408)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【国際出願番号】PCT/KR2011/004541
【国際公開番号】WO2012/002668
【国際公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【出願人】(512031471)エンソルテク カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】ENSOLTEK CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Techno 10−ro 51,Yuseong−gu,Daejeon 305−510,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【国際出願番号】PCT/KR2011/004541
【国際公開番号】WO2012/002668
【国際公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【出願人】(512031471)エンソルテク カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】ENSOLTEK CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Techno 10−ro 51,Yuseong−gu,Daejeon 305−510,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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