説明

新規ホスホリパーゼD

【課題】リン脂質からホスファチジルイノシトール(PI)を製造する方法を提供する。
【解決手段】(A)Streptomyces antibioticus由来の未改変型ホスホリパーゼDアミノ酸配列の187位、191位、および385位のアミノ酸残基の少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列、(B)該(A)アミノ酸配列において、該187位、191位、および385位に位置するアミノ酸残基とは異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を有するアミノ酸配列、を有し、ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する改変型ホスホリパーゼD。前記改変型ホスホリパーゼDを用いた、リン脂質からホスファチジルイノシトールを効率的に製造する方法。グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するホスホリパーゼDをスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する新規なホスホリパーゼDに関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質は、乳化剤、化粧品の成分、医薬処方物として、およびリポソーム調製のために用いられ得る。天然物由来のリン脂質は、通常、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、スフィンゴミエリンなどの混合物からなる。天然のリン脂質から特定のリン脂質を分画するために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、クロロホルムなどの溶剤による抽出や再結晶などの溶剤分別法、シリカゲル、アルミナ、イオン交換樹脂などの吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィー分画法、CdCl複合体やアセチル化物などの誘導体の利用による分画法が行われている。
【0003】
天然物(ダイズレシチンなど)からのPIの分離および精製は、例えば、特開平5−97873号公報および特開平5−97872号公報に記載されている。特開平5−97873号公報には、PIを含有する脂質を非極性溶媒に溶かし、これを塩基性物質を含有する含水極性溶媒と接触させた後、非極性溶媒層を、塩基性物質を含まない新たな含水極性溶媒と液液分配させ、PIを含水極性溶媒層に抽出する方法が記載されている。特開平5−97872号公報には、PIを含有する混合リン脂質を、水または酢酸水溶液を含む、低級アルコールと非極性溶媒との混合溶媒に溶解させて、高速液体クロマトグラフィーに供する方法が記載されている。このような方法では多量の溶媒が必要であることなどの理由により、得られるPIの高純度化は難しく、高純度品はきわめて高価である。
【0004】
また、有機化学的にPIを合成する方法もあるが、保護および脱保護を含む多数の工程からなる複雑な合成経路であるため、効率はあまりよくない。
【0005】
リン脂質を酵素的に製造する試みもまた従来から行われている。ホスホリパーゼD[EC 3.1.4.4](以下、「PLD」ともいう)は、グリセロリン脂質のリンジエステル結合を加水分解して、PAおよびアルコール部分の生成を触媒する酵素である。この加水分解活性に加えて、PLDはまた、リン脂質の極性基の相互変換も触媒する。このプロセスは、「ホスファチジル基転移反応」と呼ばれる。ホスファチジル基転移反応を利用すると、天然には量の少ないリン脂質を天然に豊富なリン脂質から合成することができる。
【0006】
ホスファチジルグリセロール(PG)、PE、またはPSのようないくつかの天然リン脂質は、PLD触媒ホスファチジル基転移反応を用いてレシチンまたはPCから合成されている(例えば、特開平6−269287号公報、特開平5−292981号公報、特開2002−51794号公報、および特開2005−261362号公報)。特開平6−269287号公報には、ストレプトマイセス属の微生物を起源とするPLDを用いて、特定の反応条件で塩基交換反応を行って目的のリン脂質を得る方法が記載され、PG、PE、PS、およびホスファチジルプロパノールの生成に成功している。特開平5−292981号公報では、微生物由来のPLDでの塩基変換反応により目的のリン脂質を得るに当たり、キレート剤を用いる方法が記載され、PG、PE、およびPSの生成に成功している。PIも生成されているが、塩基変換率は低いようである。特開2002−51794号公報では、原料となるリン脂質、水酸基を有する受容体、PLD、および水を、有機溶媒を用いることなく十分に混合して均質化して、15〜65℃にて酵素反応を行う方法が記載され、PSおよびPGの生成が成功している。特開2005−261362号公報には、ホスファチジル基転移反応を利用したホスファチジルセリンの生成方法が記載されている。
【0007】
特開平3−87191号公報には、PLDを用いてPIを製造する方法が記載されている。この方法では、PLDを原料の混合リン脂質に作用させた場合に、PLDがリン脂質中のPIには作用せず、他のリン脂質成分を選択的に加水分解することを利用して、未反応のPIを採取する。この方法は、PLDを添加した後、さらにアルカリまたは酸性ホスファターゼを添加することを必要とする。
【0008】
PLDは、これまで、その性質および構造について研究されている(例えば、R. Ulbrich-Hofmannら、Biotechnology Letters, 2005年, 27巻, pp.535-544)。また、PLDは、その有用性を高めるために種々の改変が行われている(例えば、特開2004−97011号公報および特開2005−80519号公報、ならびに西川ら、日本農芸化学会2004年度大会講演要旨,268頁)。特開2004−97011号公報および特開2005−80519号公報には、有機溶媒や熱に対する安定性が高められた改変型PLDが記載されている。さらに、西川ら、日本農芸化学会2004年度大会講演要旨,268頁には、ナフチル基を有するリン脂質であるホスファチジル−1−ナフトール(P1NAP)に対する分解活性を有する変異PLDの取得について記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リン脂質からホスファチジルイノシトール(PI)を効率的に製造できる方法を提供することを目的とする。本発明はまた、PIを合成する能力を有する改変型PLDを提供することも目的とする。さらに、本発明は、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDをスクリーニングする方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する改変型ホスホリパーゼD(以下、「PI合成改変型PLD」ともいう)を提供する。該PI合成改変型PLDは、ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する改変型ホスホリパーゼDであって、
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列の187位、191位、および385位のアミノ酸残基の少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;または
(B)該(A)のアミノ酸配列において、該187位、191位、および385位に位置するアミノ酸残基とは異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を有し、かつホスファチジルイノシトールを合成する能力を有するポリペプチドのアミノ酸配列、
を含む。
【0011】
1つの実施形態では、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基は、フェニルアラニン残基、セリン残基、チロシン残基、バリン残基、グリシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン残基、およびロイシン残基からなる群より選択される1つのアミノ酸残基と置換され、かつ/または
上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基は、アルギニン残基、トレオニン残基、イソロイシン残基、グリシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、アスパラギン酸残基、メチオニン残基、トリプトファン残基、およびアラニン残基からなる群より選択される1つのアミノ酸残基と置換され、かつ/または
上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基は、システイン残基、トリプトファン残基、ロイシン残基、メチオニン残基、アルギニン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、フェニルアラニン残基、バリン残基、およびプロリン残基からなる群より選択される1つのアミノ酸残基と置換されている。
【0012】
さらなる実施形態では、上記改変型ホスホリパーゼDは、以下からなる群より選択される:
(1)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(2)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がトレオニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がシステイン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(3)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がイソロイシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(4)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がグリシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(5)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がバリン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がロイシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(6)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がバリン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(7)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(8)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がアルギニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(9)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がグルタミン酸残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(10)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(11)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(12)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(13)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がアルギニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(14)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(15)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(16)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がグルタミン酸残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(17)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がグリシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がロイシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(18)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(19)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がセリン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(20)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(21)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(22)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がメチオニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がバリン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(23)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(24)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(25)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(26)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(27)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型ホスホリパーゼD;
(28)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がプロリン残基である、改変型ホスホリパーゼD;および
(29)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、改変型ホスホリパーゼD。
【0013】
本発明はまた、上記PI合成改変型PLDをコードする遺伝子を提供する。
【0014】
本発明はまた、ホスファチジルイノシトールまたはその誘導体を製造する方法を提供する。該方法は、原料リン脂質と、イノシトールまたはその誘導体と、上記PI合成改変型PLDとを反応させる工程を含む。
【0015】
さらに、本発明は、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDをスクリーニングする方法を提供する。該方法は、
原料リン脂質と、グリコール基を有する化合物と、PLDとを用いてホスファチジル基転移反応を生じさせ、該グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を生成させる工程;
生成した該グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を酸化してアルデヒドを生成させる工程;および
生成した該アルデヒドを検出する工程を含む。ここで該アルデヒドの生成は、該PLDが該目的とするアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有することの指標である。
【0016】
1つの実施形態では、上記グリコール基を有する化合物は、イノシトールまたはその誘導体である。
【0017】
別の実施形態では、上記酸化工程において、過ヨウ素酸またはその塩、四酢酸鉛、およびビスマス酸ナトリウムからなる群から選択される酸化剤が用いられる。
【0018】
さらに別の実施形態では、上記アルデヒドの検出は、該アルデヒドとヒドラジン化合物とを反応させて生成されるヒドラゾン化合物の検出により行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アシルグリセロリン脂質のホスファチジル基転移反応において、イノシトールのような嵩高い化合物をリン脂質に導入する能力を有するPLDが得られる。このPLDを用いることにより、リン脂質からPIを簡便かつ効率的に製造できる。さらに、本発明によれば、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有する新規なPLDを迅速にスクリーニングできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
イノシトール環のような嵩高い極性部分を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDは、未改変型PLDの酵素触媒部位の特定の位置のアミノ酸残基が置換されて、その立体障害が緩和されていると思われる構造を有するPLDであり得ることが見出された。
【0021】
本明細書において、「未改変型PLD」は、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質(例えば、ホスファチジルイノシトール(PI))の合成能を有しないPLDをいう。「未改変型PLD」には、生物において天然に生じる天然型PLDおよび該天然型PLDをコードする核酸を本来の起源とは異なる生物に導入して発現させることにより得られた組換えPLDが含まれる。また、合成能を獲得するPLDを得ることを目的とした置換を除く変異を有するPLD(変異型PLD)もまた、この用語の範囲内に含まれる。また、人工的に作製されたキメラ型PLDも含まれる。
【0022】
本明細書では、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質(例えば、PI)の合成能を有するPLDは、上記未改変型PLDにおいて特定の位置のアミノ酸残基が変化しているアミノ酸配列を有するため、便宜上、「改変型PLD」ともいう。「改変型PLD」は、例えば、未改変型PLDから、上記合成能を獲得するPLDを得るためのアミノ酸置換がなされているアミノ酸配列を有するPLDである。このアミノ酸置換は、天然に生じた置換および人為的に作製した置換の両方であり得る。
【0023】
(ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する改変型PLD)
本発明は、ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する改変型ホスホリパーゼD(PI合成改変型PLD)を提供する。上記PI合成改変型PLDは、未改変型PLDの酵素触媒部位の特定の位置のアミノ酸残基が置換されて、その立体障害が緩和されていると思われる構造を有する。なお、現在までにPI合成能力を有するPLDは知られていない。
【0024】
本発明のPI合成改変型PLDは、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列の187位、191位、および385位のアミノ酸残基の少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;または(B)該(A)のアミノ酸配列において、該187位、191位、および385位に位置するアミノ酸残基とは異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を有し、かつホスファチジルイノシトールを合成する能力を有するポリペプチドのアミノ酸配列、を含む。
【0025】
本発明において、置換、欠失、挿入、および/または付加され得るアミノ酸残基の数は、所望の酵素活性を有する酵素となる限り、任意の数である。例えば、下記で説明する配列同一性を有する配列となるような任意の数であり得る。通常250以下、例えば150以下、100以下、あるいは50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは16以下、さらにより好ましくは5以下、さらにより好ましくは0〜3アミノ酸残基である。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、タンパク質の構造を改変することができる。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもあるので、人工的にアミノ酸を変異した酵素のみならず、自然界においてアミノ酸が変異した酵素も、所望の酵素活性を有する限り、意図されるPLDに含まれる。所望の酵素活性の有無を決定する方法および手段は、当業者に周知であり、例えば、以下に説明する方法に基づいて実施され得る。
【0026】
1つの実施形態では、本発明のPI合成改変型PLDは、
配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基が、フェニルアラニン残基、セリン残基、チロシン残基、バリン残基、グリシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン残基、およびロイシン残基からなる群より選択される1つのアミノ酸残基と置換され、かつ/または
配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基が、アルギニン残基、トレオニン残基、イソロイシン残基、グリシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、アスパラギン酸残基、メチオニン残基、トリプトファン残基、およびアラニン残基からなる群より選択される1つのアミノ酸残基と置換され、かつ/または
配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基が、システイン残基、トリプトファン残基、ロイシン残基、メチオニン残基、アルギニン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、フェニルアラニン残基、バリン残基、およびプロリン残基からなる群より選択される1つのアミノ酸残基と置換されている。
【0027】
本発明のPI合成改変型PLDとしては、より具体的には、以下の改変型PLDが挙げられる:
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がトレオニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がシステイン残基である、改変型PLD;
(3)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がイソロイシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、改変型PLD;
(4)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がグリシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(5)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がバリン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がロイシン残基である、改変型PLD;
(6)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がバリン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(7)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である、改変型PLD;
(8)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がアルギニン残基である、改変型PLD;
(9)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がグルタミン酸残基である、改変型PLD;
(10)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である、改変型PLD;
(11)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である、改変型PLD;
(12)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(13)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がアルギニン残基である、改変型PLD;
(14)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(15)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(16)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がグルタミン酸残基である、改変型PLD;
(17)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がグリシン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がロイシン残基である、改変型PLD;
(18)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、改変型PLD;
(19)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がセリン残基である、改変型PLD;
(20)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(21)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基である、改変型PLD;
(22)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がメチオニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がバリン残基である、改変型PLD;
(23)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(24)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(25)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(26)配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基である、改変型PLD;
(27)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である、改変型PLD;
(28)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がプロリン残基である、改変型PLD;および
(29)上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ上記配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、改変型PLD。
【0028】
本発明のPI合成改変型PLDは、例えば、当業者が通常用いる部位特異的変異導入方法を用いて、未改変型PLDから製造することができる。より詳細には、未改変型PLDのアミノ酸配列を含有するPLDをコードする核酸において、上述の置換を生じさせるための変異導入を行ない、核酸構築物を得る工程;得られた核酸構築物を宿主に導入し、形質転換体を得る工程;および得られた形質転換体を培養して、核酸構築物の発現産物として上記PI合成改変型PLDを得る工程を含む手順により製造され得る。
【0029】
未改変型PLDとして、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を含有するPLDが挙げられる。このアミノ酸配列は、ストレプトマイセス・アンチビオティカス(Streptomyces antibioticus)株由来PLDのアミノ酸配列である。また、本発明においては、PLD活性を呈するものである限り、配列番号2に示されるアミノ酸配列と異なる配列を有し得る。上記異なる配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のトリプトファン残基、191位のチロシン残基、および385位のチロシン残基以外のアミノ酸残基が異なる配列であり得る。例えば、上記未改変型PLDは、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有し、かつPLD活性を示すポリペプチドのアミノ酸配列を含有するポリペプチドであり得る。上記未改変型PLDは、配列番号2に示されるアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を有し(但し、合成能を獲得するPLDを得ることを目的とした置換を除く)、かつPLD活性を示すポリペプチドのアミノ酸配列を含有するポリペプチドでもあり得る。
【0030】
本明細書では、アミノ酸配列における「配列同一性」は、BLASTのblastpプログラム、GENETYXなどのプログラムを使用して算出される。その際の条件、例えば、期待値、Wordsize、Gapなどの設定は、当該技術分野で一般的な手法で行われ得る。本発明においては、上記配列同一性は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも79%、さらに好ましくは少なくとも90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%である。
【0031】
PLDの活性は、加水分解活性および/またはホスファチジル基転移活性により評価され得る。上記加水分解活性は、例えば、95%卵黄製ホスファチジルコリンを基質とし、基質濃度0.16%の0.2M酢酸緩衝液(pH4.0、10mMのCaCl、1.3%のTriton X−100を含む)を37℃にて反応させた時に、1分間あたりのコリンの生成量を算出することにより評価され得る。ここで、PLDの加水分解活性の1単位は、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。上記転移活性は、例えば、95%卵黄製ホスファチジルコリンおよびエタノールを基質とし、基質濃度0.16%の0.2M酢酸緩衝液(pH4.0、10mMのCaCl、1.3%のTriton X−100を含む)を37℃にて反応させた時に、1分間あたりのコリンの生成量を算出することにより評価され得る。ここで、PLDの転移活性の1単位は、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。また、上記転移活性は、ホスファチジルパラニトロフェノールおよびエタノールを用いて転移反応を行い、遊離するパラニトロフェノールを測定することによっても評価できる(例えば、Hagishiutaら、Anal. Biochem.,1999年,276巻(2)号,pp.161-165)。
【0032】
上記未改変型PLDとしては、放線菌、特に、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ストレプトベルチシリウム(Streptoverticillium)属、ミクロモノスポーラ(Micromonospora)属、ノカルディア(Nocardia)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属、アクチノマデューラ(Actinomadura)属などに属する微生物に由来するPLDが好ましく用いられる。より具体的には、ストレプトマイセス・アンチビオティカス(Streptomyces antibioticus)、ストレプトマイセス・アシドマイセティカス(Streptomyces acidomyceticus)、ストレプトマイセス・AA586種(Streptomyces sp. AA586)、ストレプトマイセス・PMF種(Streptomyces sp. PMF)、ストレプトベルチシリウム・シンナモネウム(Streptoverticillium cinnamoneum)、ストレプトマイセス・シンナモネウム(Streptomyces cinnamoneum IFO 12852)、ミクロモノスポラ・チヤルセア(Micromonospora chalcea ATCC 12452)、ノカルディア・メディテラーネイ(Nocardia mediterranei IFO 13142)、ノカルディオプシス・ダソンビレイ(Nocardiopsis dassonvillei IFO 13908)、アクチノマデューラ・リバノチカ(Actinomadura libanotica IFO 14095)などに由来するPLDが挙げられる。
【0033】
変異導入は、例えば、当業者が通常用いる部位特異的変異導入方法、具体的には、ギャップド・デュプレックス(gapped duplex)法、クンケル(Kunkel)法、PCRによる変異導入法などにより行われ得る。なお、アミノ酸残基の置換に用いられる核酸は、PI合成改変型PLDを発現させるための宿主のコドン使用頻度に合わせ、設計され得る。
【0034】
上記核酸構築物の作製には、使用する宿主に応じて、慣用のベクターを用い得る。ベクターとしては、例えば、宿主が、大腸菌の場合、pUC18およびその誘導体、pBR322及びその誘導体、pBluescript IIおよびその誘導体、pGEMおよびその誘導体などのプラスミドベクター、λZAPII、λgt11等のファージベクターが挙げられ、宿主が、酵母の場合、pYAC誘導体などが挙げられる。核酸構築物は、誘導可能なプロモーター、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を含有してもよい。また、核酸構築物は、発現対象のポリペプチドの単離精製が容易になるように、発現対象のポリペプチドが、HisタグポリペプチドまたはGST融合ポリペプチドとして発現され得る配列を含有してもよい。
【0035】
アミノ酸の置換の位置および置換されるべきアミノ酸残基の種類は、上述の通りである。
【0036】
宿主への核酸構築物の導入は、当業者が通常用いる形質転換法、例えば、特に限定されないが、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法などが用いられ得る。
【0037】
上記宿主としては、特に限定されないが、例えば、大腸菌、酵母、枯草菌、緑濃菌、サルモネラ菌、L細胞、COS細胞、CHO細胞、sf9細胞などが挙げられる。大腸菌としては、具体的には、HB101株、C600株、JM109株、DH5α株、BL21(DE3)株などが挙げられる。なかでも、発現制御の観点から、大腸菌BL21(DE3)株が好適である。
【0038】
形質転換体の培養条件は、使用する宿主、ベクターなどに応じて、適宜設定できる。培養に用いられる培地としては、Luria−Bertani(LB)培地、SOC培地、L培地などが挙げられる。上記培養条件としては、具体的には、宿主として大腸菌BL21(DE3)株を用い、ベクターとしてpETKmS1を用いる場合、下述の実施例2に記載の培地を用いて、形質転換体を30℃で8時間培養し、その後、イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)(1mM)を培地に添加し、30℃で16時間培養する条件が挙げられる。
【0039】
核酸構築物の発現産物として得られるPI合成改変型PLDは、形質転換体の培養物から、一般的な精製方法によって単離精製され得る。精製方法としては、塩析、超遠心分離、イオン交換カラムクロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、疎水カラムクロマトグラフィー、アフィニティーカラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0040】
上記の精製方法を、適宜組み合わせて、PI合成改変型PLDを精製し、各精製段階において、上記加水分解活性および/または転移活性の評価法によりPLD活性を測定し、かつ慣用のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法および未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により精製物の精製度を評価することにより、発現産物を得ることができる。得られた発現産物は、転移活性評価法(例えば、上記のホスファチジル基転移活性評価法)において基質としてイノシトールを用いてPLD活性を測定することにより、所望のPI合成能を有するPLDであると確認することができる。
【0041】
当業者は、本願明細書に記載の情報に基づいて、PI合成改変型PLDをコードする遺伝子を得ることができる。PI合成改変型PLDをコードする遺伝子もまた、本発明に含まれる。本発明の遺伝子は、DNA、RNAなどの天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であり得る。また本発明の遺伝子は、DNA−RNAのキメラ分子であり得る。この遺伝子を用いて、例えば、上記で説明されるような組換え技術を用いて、PI合成改変型PLDを製造することができる。
【0042】
本発明のPI合成改変型PLDは、アシルグリセロリン脂質のホスファチジル基転移反応において、未改変型PLDでは導入が困難であった嵩高い化合物であるイノシトールをリン脂質に導入できる。したがって、本発明のPI合成改変型PLDを用いて、原料リン脂質からPIを効率的に製造できる。
【0043】
(ホスファチジルイノシトールの製造方法)
本発明はまた、ホスファチジルイノシトールまたはその誘導体を製造する方法を提供する。この方法は、原料リン脂質と、イノシトールまたはその誘導体と、PI合成改変型PLDとを反応させる工程を含む。
【0044】
本発明の方法において使用するPI合成改変型PLDは、上記のいずれかのPI合成改変型PLDである。これは、上述のように、PLDを発現する微生物から調製され得る。
【0045】
本発明の方法で用いられるPI合成改変型PLDの使用量は、原料リン脂質1gに対し、10〜200単位の範囲で選択することができる。なお、酵素活性の1単位は、大豆レシチンを基質とし、基質濃度1%の0.01M Tris-maleate-NaOH緩衝液(pH5.5)を37℃にて反応させた時、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。
【0046】
本発明の方法での原料リン脂質としては、PLDの基質となり得るものであれば、天然から抽出したもの、抽出後精製したもの、または合成したもののいずれでも使用できる。また、市販のもの、または公知の方法で調製したものを使用してもよい。例えば、大豆レシチン、脱脂大豆レシチン、菜種レシチン、ひまわりレシチンなどの植物由来のレシチン;卵黄レシチン、ヒツジ、ウシ由来レシチンなどの動物由来のレシチン;イカ、マグロのような水産物由来レシチン;酵母などの微生物由来のレシチンなどがあり得る。これらのレシチンの組成成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、リゾレシチン、ホスファチジン酸などの単品またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0047】
本発明の方法において、イノシトールまたはその誘導体がホスファチジル基転移反応の受容体として用いられる。受容体として用いられるイノシトールまたはその誘導体としては、イノシトール、イノシトールリン酸(例えば、一リン酸、ビスリン酸、またはポリリン酸)、イノシトールグリカン(例えば、イノシトールマンノシド)などが挙げられる。
【0048】
原料リン脂質と受容体のイノシトールまたはその誘導体とのモル比は、原料リン脂質の種類により適宜選択する必要がある。一般にPC1モルに対し、5〜50倍モルの受容体を用いるのが適切である。
【0049】
本発明の方法においてホスファチジル基転移反応に使用される反応溶媒は、水系溶媒と有機溶媒との混合溶媒を用いても、水系溶媒を単独で用いてもよい。有機溶媒としては、n−ヘプタン、n−ヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;四塩化炭素、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類を挙げることができる。水系溶媒とは、水および水性の緩衝液をいう。水としては、イオン交換水、精製水、または蒸留水を用いることが好ましく、水道水も使用できる。水性の緩衝液としては、例えば、pH4〜6の酢酸緩衝液、pH7〜8のリン酸緩衝液などが好ましく用いられる。
【0050】
本発明の方法で使用する反応溶媒が水系溶媒と有機溶媒との混合溶媒である場合、反応溶媒中の水系溶媒と有機溶媒との混合比は、使用する有機溶媒の種類に応じて適宜選択することができる。一般的には、水系溶媒:有機溶媒を容量比率で1:0.65〜1:100の範囲で混合して用いることができる。副反応である原料リン脂質のホスファチジル基の加水分解反応を抑制し、目的のホスファチジル基転移反応を効率的に行うためには、反応系内の水系溶媒の含量を10容量%以下で行うことが好ましい。また、有機溶媒の選択および混合比は任意に選択することができる。
【0051】
上記酵素反応に使用する反応溶媒中の有機溶媒の量は、原料として用いるリン脂質の重量の5〜500容量倍が好ましく、さらに好ましくは、10〜100容量倍である。有機溶媒量が5容量倍未満では、原料基質を溶解した溶液の粘度が高くなって反応効率の低下を招く。逆に500容量倍を超えるとホスファチジル基転移反応効率が悪くなる。
【0052】
本発明の方法においてホスファチジル基転移反応の温度は、10〜60℃が好ましく、25〜45℃がより好ましい。反応の所要時間は、酵素量や反応温度により変動するが、概ね0.5〜48時間である。本発明の方法で使用する反応溶媒が水系溶媒と有機溶媒との混合溶媒である場合は2相系となるので、水層と有機溶媒層とを十分に混合させるために、反応中に適宜撹拌、振とうなどの処理を施すことが好ましい。
【0053】
上記反応後、例えば、加熱などの処理でPLDを失活させ、静置処理、遠心分離法などにより水層を除去して有機溶媒層を得、有機溶媒を減圧下で除去することによって、目的のアシルグリセロリン脂質(例えば、ホスファチジルイノシトール)を得ることができる。さらに、得られたアシルグリセロリン脂質を、溶剤分別、シリカゲル分画、高速液体クロマトグラフィーなどの処理に供して高純度に精製することも可能である。
【0054】
あるいは、上記反応後、静置処理や遠心分離法などにより、水層と有機溶媒層とを分別し、必要に応じて、水層にPLDや各種受容体アルコールを追加し、新たに原料リン脂質を溶解した有機溶媒に混合することによって、水層を繰り返してこの反応に使用することもできる。反応後分別された有機溶媒層から、上記と同様にして目的のアシルグリセロリン脂質(例えば、ホスファチジルイノシトール)を得ることができる。
【0055】
(グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDのスクリーニング方法)
本発明はまた、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDをスクリーニングする方法を提供する。
【0056】
グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDを得るためのスクリーニングの対象となるPLDは特に限定されないが、例えば、未改変型PLDのアミノ酸配列とは少数(例えば、1〜数個(例えば、2または3まで))のアミノ酸残基が異なるアミノ酸配列を有するポリペプチド(改変したPLD)であり得る。このようなポリペプチドは、人為的に作製されたポリペプチドであり得る。これは、当業者が通常用いる部位特異的変異導入方法、具体的には、ギャップド・デュプレックス(gapped duplex)法、クンケル(Kunkel)法、PCRによる変異導入法(例えば、オーバーラッピングPCR)などを用いて作製され得る。このようなポリペプチドは、天然に生じた変異により得られるポリペプチドでもあり得る。スクリーニングに供されるPLDは、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するか否かが不明であるPLDを天然に生成し得る生物から単離されたポリペプチドでもあり得る。
【0057】
スクリーニングの対象となる改変したPLDは、例えば、以下のような手順により得られ得る。未改変型PLD(特に、天然型PLD)のアミノ酸配列とは少数(例えば、1〜数個(例えば、2または3まで))の特定または無作為の位置でアミノ酸残基が異なるアミノ酸配列を有する種々のポリペプチドをコードするDNA断片を生成する。これらのDNA断片を発現ベクターに連結して核酸構築物を得る。得られた核酸構築物を宿主に導入し、形質転換体を得る。得られた形質転換体を培養して、核酸構築物の発現産物として元のPLDとは多種類の改変したPLDが生成されたプラスミドライブラリーを得る。核酸構築物の作製、宿主への導入、形質転換体の培養については、上述の通りである。プラスミドライブラリーにより発現される改変したPLDについて、スクリーニングが行われ得る。
【0058】
PLDは、例えば、以下のようにして、スクリーニングに供され得る。該PLDをコードする遺伝子を含むプラスミドライブラリーを宿主に導入し、形質転換体を得る。この形質転換体を培養し、得られたコロニーを膜(例えば、ニトロセルロース膜)に転写させる。ここで、該培地はマスタープレートとして保存されるべきである。膜上でコロニーを生育させ、IPTG含有培地にて該PLDを発現および分泌させる。これにより、発現されたPLDは、該膜上に吸着する。
【0059】
本発明のスクリーニング方法においては、アシルグリセロリン脂質に導入される受容体として、グリコール基を含有する化合物が用いられ得る。このような化合物としては、糖類(好ましくは、オリゴ糖類(例えば、1〜10糖で構成される糖類)、イノシトールまたはその誘導体(例えば、イノシトールリン酸(例えば、一リン酸、ビスリン酸、またはポリリン酸))が挙げられる。好ましくは、イノシトールまたはその誘導体が用いられる。
【0060】
本発明のスクリーニング方法において用いられる原料リン脂質もまた、上述したとおり、PLDの基質となり得るリン脂質であれば、いずれでもよい。
【0061】
原料リン脂質、受容体、およびPLDを用いてホスファチジル基転移反応を行う。反応温度は、10〜60℃が好ましく、25〜40℃がより好ましい。反応の所要時間は、反応温度により変動するが、概ね0.5〜48時間である。目的のPLDが存在する場合、この反応により、目的とするアシルグリセロリン脂質が生じる。
【0062】
上記ホスファチジル基転移反応は、例えば、上記のPLD吸着膜を、原料リン脂質および受容体を含む反応水溶液に浸漬することにより実施され得る。この反応水溶液に、カルシウム塩を含有させることが好ましい。上記ホスファチジル基転移反応により目的とするアシルグリセロリン脂質が生成すると、水溶液中に共存するカルシウムイオンと水不溶性の塩を形成し、膜上で酵素反応が生じた場所に沈着する。この場所は、目的とするPLDを発現するコロニーが存在していた場所を意味する。
【0063】
ホスファチジル基転移反応により生じたアシルグリセロリン脂質のグリコール部分は酸化により開裂され、アルデヒドへと誘導され得る。酸化は、酸化剤を用いて行われるが、この酸化剤は、グリコール部分を開裂してアルデヒドに誘導し得るものであれば、いずれの酸化剤も使用できる。このような酸化剤としては、好ましくは、過ヨウ素酸またはその塩、四酢酸鉛、およびビスマス酸ナトリウムが用いられ得る。過ヨウ素酸またはその塩としては、例えば、メタ過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸カリウム、メタ過ヨウ素酸ナトリウム、およびオルト過ヨウ素酸ナトリウムが挙げられる。この酸化反応の温度は、10〜60℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。反応の所要時間は、反応温度により変動するが、概ね5〜60分間である。
【0064】
上記アルデヒドは、当業者が通常用いる手法により検出され得る。アルデヒドの検出のための手法として、例えば、上記アルデヒドをヒドラジン化合物(例えば、ジニトロフェニルヒドラジン、7−ニトロ−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(NBD)−ヒドラジンなど)とカップリングさせることにより、該ヒドラジンがヒドラゾンとなる反応を利用することができるが、該反応に限定されない。銀鏡反応およびフェーリング反応を利用することもできる。例えば、NBDヒドラジンを上記アルデヒドと反応させると、NBDヒドラジンがNBDヒドラゾンとなり、強い蛍光を呈する。この蛍光を測定することにより、アルデヒドの存在が検出できる。
【0065】
アルデヒドの存在の決定により、アルデヒドを生成したグリコール部分を含有するアシルグリセロリン脂質の存在、そしてさらには、ホスファチジル基転移反応により、グリコール部分を含有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有するPLDの存在が認定できる。
【0066】
上記PLD吸着膜を用いてこれらの一連の反応を行った場合、その膜上でアルデヒドの存在を検出できる。したがって、膜における検出の有無により、目的とする合成能を有するPLDを獲得したか否かが認定できる。さらに、この膜に対応するマスタープレートにこの合成能を有するPLDを発現する形質転換体が存在するため、合成能を有するPLDの遺伝子を保有する形質転換体を得ることができる。さらに、合成能を有するPLDの遺伝子の塩基配列の解析により、目的とする合成能を有するPLDを同定することができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されることはない。
【0068】
なお本実施例において、組換えベクターの構築、形質転換体の作製、形質転換細胞またはクローンからのプラスミドの調製などは、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野の当業者が通常用いる方法に準じて行った。
【0069】
(実施例1:ライブラリーの作成)
pPELB−PLD1(Y. Iwasakiら、J. Ferment. Bioeng.,1995年,79巻,pp.417-421の記載に基づいて調製)を制限酵素XbaIおよびXhoIで消化し、リボゾーム結合部位、pET22b(Novagen)由来のpelBシグナルおよびストレプトマイセス・アンチビオティカス由来PLD遺伝子の全長(1530bp;塩基配列は配列表の配列番号1に示す通りである)を含む断片を回収し、予めXbaIおよびXhoIで消化しておいたpBluescriptII KS+(東洋紡製)に挿入し、pPELB-PLD-KSを作成した。これを制限酵素ApaIで消化し、該PLD遺伝子の終止コドン周囲の断片とともに該PLD遺伝子の下流の逆向き繰り返し配列を除去した。一方、pSA1(Y. Iwasakiら、Appl. Microbiol. Biotechnol.,1994年,42巻,pp.290-299の記載に基づいて調製)を制限酵素BamHIおよびSalIで消化し、該PLD遺伝子の後半部分を含む断片を切り出し、予めBamHIおよびSalIで消化しておいたpBluescript II SK+(東洋紡製)に挿入し、pSA1-BSを得た。pSA1-BSを制限酵素ApaIで消化し、該PLD遺伝子の終止コドン周囲の断片を切り出した。この切り出された断片と、ApaI消化したpPELB-PLD-KSとを連結し、次いでKpnIおよびXbaIで切断し、pelBシグナルおよびPLD遺伝子の全長(1530bp)を含む断片を得た。この断片を、予めSalIおよびXbaIで切断しておいたpBluescript II KS+プラスミド(東洋紡製)と連結し、プラスミドpPELB-PLD-KS IIを得た。
【0070】
cat遺伝子を含むプラスミドpHSG399(宝酒造製)をプライマーCAT-F1(配列番号3)およびCAT-R1(配列番号4)を用いてPCR{反応液組成(各濃度は終濃度):10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/10容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、プラスミドpHSG399(10ng/μL)、プライマーCAT-F1(0.5μM)、プライマーCAT-R1(0.5μM)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.025Units/μL)/温度プログラム:94℃1分の後、94℃10秒−50℃10秒−72℃40秒を30サイクル、続いて72℃7分、4℃∞}により増幅し、BglIIで消化し、catを含む断片を得た。pETKmS1(Mishima N.ら、Biotechnol. Prog.,1997年,13巻,pp.864-868の記載に基づいて調製)をBglIIで切断し、cat遺伝子断片を逆方向に連結し、プラスミドpETKmS1-CATを得た。次いで、このプラスミドをSacIおよびXbaIで切断して、cat逆方向配列およびT7-lacプロモーターを含む断片を切り出した。この断片を、予めSacIおよびXbaIで切断しておいたpPELB-PLD-KS IIに連結し、プラスミドpPELB-PLD-KS II-CAT(5581bp)を得た。このプラスミドpPELB-PLD-KS II-CATを、部位特異的ランダムアミノ酸置換導入のためのオーバーラッピングPCRの鋳型として使用した。
【0071】
pPELB-PLD-KS II-CATを鋳型にして、プライマーPL-F1(配列番号5)およびOL-R1(配列番号6)を用いてPCR{反応液組成(各濃度は終濃度):10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/10容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、pPELB-PLD-KSII-CAT(10ng/μL)、プライマーPL-F1(0.5μM)、プライマーOL-R1(0.5μM)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.025Units/μL)/温度プログラム:94℃2分の後、95℃10秒−60℃10秒−72℃1分10秒を30サイクル、72℃10分、4℃∞分}により増幅し、この鋳型プラスミドのcat遺伝子、T7-lacプロモータ、リボゾーム結合部位、pelBシグナル配列および成熟PLDの一部を含む増幅断片(フラグメント1)を得た。
【0072】
ストレプトマイセス・アンチビオティカス由来PLDの成熟タンパク質の全アミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示す通りである。このストレプトマイセス・アンチビオティカス由来PLDの成熟アミノ酸のN末端から187番目のトリプトファン残基および191番目のチロシン残基が置換されるように、pPELB-PLD-KSII-CATを鋳型にして、プライマーOL-F1(配列番号7)およびOL-R2(配列番号8)を用いてPCR{反応液組成(各濃度は終濃度):10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/10容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、pPELB-PLD-KSII-CAT(10ng/μL)、プライマーOL-F1(0.5μM)、プライマーOL-R2(0.5μM)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.025Units/μL)/温度プログラム:94℃2分の後、95℃10秒−67℃10秒−72℃30秒を25サイクル、続いて72℃7分、4℃∞}により増幅し、2つのアミノ酸変異箇所で種々の塩基配列を有する断片(フラグメント2)を得た。
【0073】
また、この成熟アミノ酸のN末端から385番目のチロシン残基が置換されるように、pPELB-PLD-KSII-CATを鋳型にして、プライマー対OL-F2(配列番号9)およびPL-R1(配列番号10)を用いてPCR{反応液組成(各濃度は終濃度):10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/10容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、pPELB-PLD-KSII-CAT(10ng/μL)、プライマーOL-F2(0.5μM)、プライマーPL-R1(0.5μM)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.025Units/μL)/温度プログラム:94℃2分の後、95℃10秒−62℃10秒−72℃30秒を25サイクル、続いて72℃10分、4℃∞}により増幅し、1つのアミノ酸変異箇所で種々の塩基配列を有する断片(フラグメント3)を得た。
【0074】
次にフラグメント2とフラグメント3とを、それらのオーバーラップ部分を利用してハイブリダイズさせ、さらにプライマーOL-F1(配列番号7)およびPL-R1(配列番号10)を用いてPCR{反応液組成(各濃度は終濃度):10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/10容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、フラグメント2(10ng/μL)、フラグメント3(10ng/μL)、プライマーOL-F1(0.5μM)、プライマーPL-R1(0.5μM)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.025Units/μL)/温度プログラム:94℃2分の後、95℃10秒−62℃10秒−72℃45秒を25サイクル、続いて72℃10分、4℃∞}を行い、増幅断片(フラグメント4)を得た。
【0075】
続いてフラグメント1とフラグメント4とを、それらのオーバーラップ部分を利用してハイブリダイズさせ、プライマーを加えずにオーバーラップエクステンション反応{反応液組成(各濃度は終濃度):10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/10容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、フラグメント1(0.2ng/μL)、フラグメント4(0.2ng/μL)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.05Units/μL)/温度プログラム:94℃5分の後、98℃10秒−59℃10秒−72℃2分を20サイクル、続いて4℃∞}を行った。続いてこのオーバーラップエクステンション反応後の反応液を鋳型とし、プライマーPL-F1(配列番号5)およびPL-R1(配列番号10)を用いてPCR{反応液組成(各濃度は終濃度):オーバーラップエクステンション反応後の反応液1/2容、10×LA Taqポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製、1/20容)、MgCl2(2.5mM)、dATP(0.2mM)、dGTP(0.2mM)、dCTP(0.2mM)、dTTP(0.2mM)、フラグメント1(10ng/μL)、フラグメント4(10ng/μL)、プライマーPL-F1(0.5μM)、プライマーPL-R1(0.5μM)、LA TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製、0.025Units/μL)/温度プログラム:94℃3分の後、98℃10秒−59℃10秒−72℃2分を30サイクル、続いて72℃10分、4℃∞}を行い、増幅断片を得た。このようにして、3つのアミノ酸変異箇所で種々の塩基配列を有する増幅断片を得た。
【0076】
この増幅断片を制限酵素SpeIおよびXhoIで切断し、予め制限酵素SpeIおよびSalIで切断しておいたpETKmS1-Termにライゲーションし、発現ベクターを得た。pETKmS1-Termは、上記pETKmS1-CATをBamHIで切断し、自己連結することにより作成した。この発現ベクターで大腸菌(E.coli)DH5αを形質転換した。この形質転換した大腸菌DH5αをLB寒天培地(50μg/mlカナマイシンおよび30μg/mlクロラムフェニコールを含む;10g/Lトリプトン(ディフコ製)、5g/L酵母エキス(ディフコ製)、10g/L NaCl、15g/L寒天(和光純薬製))に撒いて生育させ、コロニーを形成させた。寒天培地上のコロニーにLB液体培地(10g/Lトリプトン(ディフコ製)、5g/L酵母エキス(ディフコ製)、10g/L NaCl)をかけて、コロニーを掻き取った。得られた細胞からプラスミドを調製し、変異PLD遺伝子を含む混合物をプラスミドライブラリーとして得た。
【0077】
(実施例2:プラスミドライブラリーの発現)
上記のプラスミド混合物を発現用宿主である大腸菌BL21(DE3)に導入し、実施例1に記載と同じ組成のLB寒天培地上で37℃にて16時間生育させた。得られたコロニー上にニトロセルロース膜(Hybond C;アマシャム製)を置き、コロニーを転写した。次いで、合成培地(組成は以下の通り(1Lあたりの質量を示す):KHPO 5g、KHPO 5g、NaHPO 4.4g、(NHSO 3g、グルコース5g、MgSO・7HO 3g、FeSO・7HO 40mg、CaCl 40mg、MnSO・7HO 10mg、CoCl・6HO 2.9mg、CuSO・5HO 3mg、NaMoO・2HO 0.36mg、HBO 10mg、ZnSO・7HO 10mgに1.5%の寒天を添加したもの)上に膜を移して、30℃で8時間保温して膜上でコロニーを生育させた。LB寒天培地上のコロニーはマスタープレートとして、冷蔵庫に保管した。1mM IPTGを添加した上記合成培地上に膜を移し、30℃で16時間保温して、膜上でPLDの発現を誘導した。この発現系では、発現したPLDは細胞の外に放出され、膜上に吸着する。超音波洗浄機を用いて、この膜から菌体の残渣を洗い流した。
【0078】
(実施例3:PI合成改変型PLDの発現に関するクローンのスクリーニング)
上記の膜を基質液(10%大豆レシチン(SLP−PC70 ツルーレシチン工業製)、20%イノシトール、2%塩化カルシウム、および50mM酢酸緩衝液、pH5.6)中に30℃で14時間浸漬し、膜上で酵素反応を行った。この酵素反応により酸性リン脂質であるホスファチジルイノシトール(PI)が生成すると、これらは、共存するカルシウムイオンと水不溶性の塩を形成し、反応が生じた場所に沈着する。反応後、過剰の基質液を水で洗い流し、膜を10%過ヨウ素酸ナトリウム水溶液中に室温で10分間浸漬した。この過ヨウ素酸ナトリウム処理により、沈着しているPIのグリコール部分が酸化開裂し、アルデヒドに誘導される。過剰の過ヨウ素酸ナトリウム溶液を水で洗い流し、膜にNBD−ヒドラジン水溶液(0.05%NBD−H、10%DMSO)を塗布した。NBD−Hはアルデヒドと反応してNBD−ヒドラゾンとなり、強い蛍光を呈する。この蛍光を紫外線(365nm)照射下で観察し、明るいスポットを識別した。このスポットは、膜上のPIが存在していた場所に相当する。このスポットと一致するコロニーをマスタープレートから単離し、陽性クローンを得た。これにより、49個の陽性クローンが得られた(表1)。
【0079】
(実施例4:陽性クローンの配列決定)
実施例3で得られた陽性クローンからプラスミドを調製し、PLD遺伝子の変異内容をダイデオキシ法により決定した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例5:改変型PLDによるPIの合成)
表1中の全ての番号のクローンを、実施例2に記載と同じ組成の合成培地(但し、寒天は含まない)中で30℃にて液体培養した。約8時間後、IPTGを終濃度1mMになるように加え、PLDの発現を誘導した。誘導から16時間後に遠心分離により除菌して得られた上清を硫安分画してPLD粗酵素品を調製した。
【0082】
ジパルミトイルホスファチジルコリン5mg、myo−イノシトール40mg、塩化カルシウム4mg、50mM酢酸緩衝液180μLおよび上記PLD粗酵素品20μL(約1単位)を30℃にて攪拌しながら14時間反応させた。
【0083】
リン脂質の定性分析は、下記の条件の薄層クロマトグラフ法(TLC法)にて行った:
TLCプレート・・・シリカゲル60プレート(メルク社製)
展開溶媒・・・クロロホルム:メタノール:石油エーテル:酢酸=4:2:3:1(V/V/V/V)
展開時間・・・約20分
検出・・・展開後0.1%2,7−ジクロロフルオレッセインのエタノール溶液を噴霧後、365nmの紫外線照射下で観察するか、ディトマー試薬を噴霧し放置することで、リン脂質のスポットを検出した。その結果、いずれのクローンから調製したPLDにおいても、イノシトールを基質として用いた場合に、ジパルミトイルPIに相当する新たなスポットが検出された。
【0084】
また質量分析によっても分析した。質量分析は、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS、商品名PHITRIFT III、アルバックファイ社製)によるバルク測定、負イオンモードで行った。その結果、いずれのクローンから調製したPLDにおいても、イノシトールを基質として用いた場合、ジパルミトイルPIに相当するイオンが検出された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の新規なPLDは、アシルグリセロリン脂質のホスファチジル基転移反応において、イノシトールのような嵩高い化合物をリン脂質に導入できるので、このPLDを用いて安価で入手可能なリン脂質(例えば、レシチン)からPIを簡便かつ効率的に製造できる。さらに、本発明によれば、グリコール基を有するアシルグリセロリン脂質を合成する能力を有する新規なPLDを簡便かつ迅速にスクリーニングする方法も提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルイノシトールを合成する能力を有する改変型ホスホリパーゼDであって、
配列番号2に示されるアミノ酸配列の187位、191位、および385位のアミノ酸残基が、以下の(1)から(29):
(1)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(2)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がトレオニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がシステイン残基である;
(3)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がイソロイシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である;
(4)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がグリシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(5)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がバリン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がロイシン残基である;
(6)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がバリン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(7)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である;
(8)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がアルギニン残基である;
(9)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がグルタミン酸残基である;
(10)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である;
(11)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がセリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がメチオニン残基である;
(12)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(13)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がアルギニン残基である;
(14)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(15)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(16)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がグルタミン酸残基である;
(17)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がグリシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がロイシン残基である;
(18)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である;
(19)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がセリン残基である;
(20)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(21)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基である;
(22)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がメチオニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がバリン残基である;
(23)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアルギニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(24)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がアスパラギン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(25)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(26)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がアラニン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基である;
(27)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がロイシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がチロシン残基である;
(28)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がトリプトファン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がプロリン残基である;および
(29)該配列番号2に示されるアミノ酸配列における187位のアミノ酸残基がバリン残基であり、該配列番号2に示されるアミノ酸配列における191位のアミノ酸残基がチロシン残基であり、かつ該配列番号2に示されるアミノ酸配列における385位のアミノ酸残基がトリプトファン残基である、
からなる群から選択されるアミノ酸残基である以外は、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対し、該187位、191位、および385位に位置するアミノ酸残基とは異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を有しかつ少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有し、かつホスファチジルイノシトールを合成する能力を有するポリペプチド、
である、改変型ホスホリパーゼD。
【請求項2】
請求項1に記載の改変型ホスホリパーゼDをコードする遺伝子。
【請求項3】
ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールリン酸またはホスファチジルイノシトールグリカンを製造する方法であって、原料リン脂質と、イノシトール、イノシトールリン酸またはイノシトールグリカンと、請求項1に記載の改変型ホスホリパーゼDとを反応させる工程を含む、方法。

【公開番号】特開2012−187108(P2012−187108A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109179(P2012−109179)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2007−556953(P2007−556953)の分割
【原出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度、経済産業省 地域新生コンソーシアム研究開発事業、「機能性リン脂質の省エネ型合成法の開発」で得られた成果に基づくものであり、産業再生法第30条の適用をうけるもの)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】