説明

新規ホスホン酸およびその製造法ならびにその用途

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は 微生物の培養物より得られる新規化合物2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸、その製造方法およびそれを有効成分とする除草剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、微生物は種々の生理活性物質を産生することが知られており、新規生理活性化合物を微生物代謝産物中に求めることが幅広くなされている。一般に、微生物代謝産物は環境中での生分解性が容易であると考えられており、農薬の探索においても、環境中で易分解性の農薬として、新しい骨格を有する新規活性物質を微生物代謝産物から見いだす努力がなされている(特許公開公報 昭64-38085)。例えば、微生物代謝産物から見いだされた除草活性を有するものとして、ビアラフォス、フォスフィノスリシン、ハービマイシン、ハービシジンなどが知られているが、除草剤として利用されているのはビアラフォスのみである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、一般的に環境中で易分解性と云われる微生物代謝産物から新規植物活性物質を見出すことを課題とし鋭意研究した結果、植物体の種子の発芽を阻害あるいは抑制し、また植物の生長を抑制する植物生長調節活性あるいは除草活性を有する新規化合物を見出すことに成功し、除草活性を有する新規化合物を提供する本発明に到達した。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の構成上の特徴は、下記式(I)で表される構造を有する新規化合物2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸(以下、「本発明化合物」と記す)にある。本発明化合物は、サッカロスリックス(Saccarothrix)属に属する菌株を培養して製造することができる。


また本発明化合物は、植物の生長を抑制し、植物生長調節活性あるいは除草活性を有することから、これを有効成分とする植物成長調節剤および除草剤(以下、両者をあわせて除草剤という。特許請求の範囲の除草剤も同様の意味である)にある。
【0005】以下、本発明を詳しく説明する。本発明化合物は、サッカロスリックス(Saccarothrix)属に属する菌株、例えば、サッカロスリックス sp.888(微工研条寄第3053号)株を培養して得ることができる。サッカロスリックス sp.888 株は、日本国福島県いわき市の土壌から分離された菌株であり、その凍結乾燥試料は、工業技術院微生物工業技術研究所に微工研条寄第3053号の寄託番号のもとに寄託されている。
【0006】本発明化合物は、例えばサッカロリックス sp.888 株のようなサッカロリックス属に属する本発明化合物生産菌株を、同化し得る炭素源および窒素源を含む培地中、例えば、振とう培養、深部培養等の好気条件下に生育しうる場合に生産される。栄養培地中の好ましい炭素源はデンプン、シュクロース、グルコース、グリセリン等の炭化水素である。好ましい窒素源は、肉エキス、ペプトン、グルテン粉、綿実粉、大豆粉、コーン・スチープ・リカー、乾燥酵母、小麦胚芽等および硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、アミノ酸等の無機および有機窒素化合物である。
【0007】(1) 本発明化合物の物理化学的性質物質の性状:無色シロップ状比旋光度:〔α〕D27 -4.1 °(C 0.73、H2O)分子式:C5 116 P分子量:198.11
【0008】紫外線吸収スペクトル:末端吸収赤外線吸収スペクトル: KBrνmax cm-1(第1図の通り)
1715,962プロトン核磁気共鳴スペクトル:(第2図の通り)
軽水と重水の比が5:1中、HDOを4.7ppm とした、 1H- 核磁気共鳴スペクトル(500 MHz) は、次の通りである。
1.85 ppm(1H,dd)2.05 (1H,dd)2.25 (3H,s)3.58 (1H,d)3.75 (1H,d)C−13核磁気共鳴スペクトル:(第3図の通り)
軽水と重水の比が5:1中、ジオキサンを67.4ppm とした、13C- 核磁気共鳴スペクトル(125 MHz)は、次の通りである。
26.86 ppm(s)33.75 (d)68.60 (d)81.79 (d)216.50 (d)P−31核磁気共鳴スペクトル:軽水と重水の比が5:1の水溶液中、85%燐酸を0ppm として測定した31P−核磁気共鳴スペクトルは、次の通りである。
18.57 ppm(t)
【0009】呈色反応: ニンヒドリン反応に陰性、ハーネス反応に陽性溶解性:水 メタノールに可溶、エタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルムに不溶薄層クロマトグラフィーのRf値:吸着剤: セルロースF(メルク社製)
展開溶媒: 酢酸 ブタノール 水 Rf 1 3 1 0.16 1 2 1 0.65検出:ハーネス反応元素分析値: C5 116 P・Na として実測値 炭素 26.79%、 水素4.98%、窒素 0.1%以下、 燐14.2%理論値 炭素 27.29%、 水素4.58%、窒素 0% 、 燐14.1%
【0010】上記試験結果を含む物理化学的性質から、本発明化合物は下記化学式(I)を有することが確認された。


本発明化合物は、使用に際して必要に応じてナトリウム、カリウムのようなアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウムのようなアルカリ土類塩などの塩の形態で用いることができる。
【0011】(2) 本発明化合物生産菌本発明の 本発明化合物を生産するために使用される菌株としては、1例として、本発明者らが日本国福島県いわき市の土壌から新たに分離されたサッカロスリックス sp.888 株があげられる。この菌株の単離は、土壌1gを滅菌水10mlに懸濁し、その上澄みを103 倍程度に希釈した液を V-8寒天平板に塗沫し、28℃にて10日間培養し、生育してきた菌株として単離されたものである。新たに分離されたサッカロスリックス sp.888 株の凍結乾燥試料は、工業技術院微生物工業技術研究所(日本国 305 茨城県つくば市東1丁目1-3)に微工研条寄第3053号の寄託番号(寄託日:1990年8月10日)のもとに寄託されている。本発明化合物の産生は、単に説明のために掲げた明細書記載の特殊な菌の使用のみに限定されるものではない。自然変異株はもちろんのこと、上記菌からX線照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、2−アミノプリン等による処理によって産生され得る人為変異株を含めて本発明化合物を産生し得るいかなる変異株の使用もこの発明に包含される。
【0012】サッカロスリックス sp.888 株は、下記形態学的特徴、培養上の特徴、生物学的特徴、生理学的特徴、及び細胞化学的特徴を有する。
1)形態学的特徴オートミール寒天(ISP培地No3)及び無機塩ーデンプン寒天(ISP培地No4)上、28℃、2ないし4週間生育した培養物について、顕微鏡及び走査電子顕微鏡を用いて形態学的観察を行った。菌株 sp.888 株の基底菌糸は、良好に発育して、不規則に分岐したが、分断しなかった。基底菌糸上の気菌糸は、大部分分断し ループ状、螺旋状、不規則な螺旋状を呈し、10〜50個の胞子の連鎖がみられる。大部分の胞子の形は、楕円状から、長方形状を呈し、その大きさは、0.8 〜 1.4 X 1.3〜2.0 μm である。胞子の表面は、わずかに不規則であるが平滑である。菌核粒、胞子嚢および鞭毛胞子は、観察されなかった。
【0013】2)各種培地上の特徴菌株 sp.888 株の培養上の特徴は、イー・ビー・シャーリング(E.B.Shirling)及びディー・ゴッドトリーブ(D.Gottlieb)の方法(インターナショナル・ジャーンル・オブ・シスマテック・バクテオロジー、16巻、313 頁、1966年)によって調べた。その性状を下記の表1に示す。色調は、標準色としてカラー・ハーモニー・マニュアル(テーラーら編、1948年)に基づいて決定し、色票名と共に括弧内にそのコードを併せて記した。以下は特記しない限り、28℃、2週間目の各培地における観察結果である。基底菌糸の色は、使用した多くの培地上で黄褐色から灰褐色であった。気菌糸の形成は、オートミール寒天、グルコースーアスパラギン寒天、酵母エキス 麦芽エキス寒天、無機塩ーデンプン寒天において観察された。気菌糸の色はグレー系であった。メラミン色素は産生されず、淡黄褐色の可溶性色素がオートミール寒天 酵母エキスー麦芽エキス寒天、無機塩ーデンプン寒天上にて産生された。菌糸中及び培地中の色素はpHによって変化しなかった。
【0014】
【表1】


【0015】3)生理学的特徴菌株 sp.888 株は以下に示す生理学的特徴を有している。
(a)酵素活性レシチナーゼ活性(エッグヨーク培地) 陽性ペプトン化(エッグヨーク培地) 陽性リポリシス(エッグヨーク培地) 陽性ペクチン加水分解 陰性キチン加水分解 陰性硝酸塩の還元 陰性硫化水素の生産 陽性(b)分解活性ヒポキサンチン 陰性エラスチン 陰性L−チロシン 陽性アデニン 陰性キサンチン 陰性澱粉 陽性カゼイン 陽性アラントイン 陰性アルブチン 陽性(c)生育45℃ 陰性pH 4.3 陽性食塩 7 % 陰性アジ化ナトリウム 0.01% 陰性フェノール 0.1 % 陰性亜テレル酸カリウム 0.001 % 陽性(d)窒素源の利用性DL- α- アミノ-n- 酪酸 陰性L-バリン 陰性L-フェニルアラニン 陽性L-ヒスチジン 陽性L-ハイドロキシプロリン 陽性(e)炭素源の利用性シュクロース : 陽性D-フラクトース : 不確定L-アラビノース、D-キシロース、D-ガラクトース、メゾ- イノシトールマンニトール、セロビオースL-ラムノース、ラフィノース、イヌリン、アドニトール、ザリシン、D-メリビオース :陰性
【0016】4)細胞化学菌株 sp.888 株の細胞壁加水分解物は、メソ‐ジアミノピメリン酸を含み、細胞壁タイプは、III 型であった。全細胞は、ガラクトース、グルコース、マンノース、リボースを含み、痕跡量のラムノースを含んでおり、全細胞糖パターンはC型と考えられた。上記、細胞化学の結果及び形態学的特徴を、バージェイス・マニュアル・オブ・システマティク・バクテリオロジー(Bergey's Mannual of Systematic Bacteriology )第4巻:ウイリアムズ&ウィルキンス社(Williams & Wilkins)1989年を参照すると菌株 sp.888 株は、サッカロスリック属に属するのが妥当と考えられた。従って、この菌株はサッカロスリックsp.888株と命名された。
【0017】(3) 本発明化合物の産生本発明化合物は、例えばサッカロスリックスsp.888株のようなサッカロスリックス属に属する本発明化合物生産菌株を、同化しうる炭素源及び窒素源を含む栄養培地中、例えば、振とう培養、深部撹拌培養等の好気条件下に生育しうる場合に産生される。栄養培地中の好ましい炭素源はデンプン、シュクロース、グルコース、グリセリン等のような炭水化物である。好ましい窒素源は、肉エキス、酵母エキス、ペプトン、グルテン粉、綿実粉、大豆粉 コーン スチープ リカー、乾燥酵母、小麦胚芽等ならびに硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩、尿素、アミノ酸等のような無機及び有機窒素化合物である。炭素源および窒素源は組み合わせて使用すると便利であるが、純度の低い物質も痕跡程度の生育因子およびかなりの量の無機栄養素を含んでおり、それらを純粋な形で使用する必要はない。無機物としては、各種燐酸塩、炭酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩等、さらに微量の重金属塩が使用される。
【0018】必要に応じて、とりわけ培養培地が発泡する場合は、流動パラフィン、脂肪油、植物油、鉱油、またはシリコーンのような消泡剤を加えてもよい。培地のpHは中性付近、培養温度は通常約10℃と40℃との間の温度、好ましくは25℃ないし35℃で、約1日間ないし2週間行われるが、発酵条件と規模によって変化させてもよい。培養に伴って培養液中に生産される本発明化合物の力価の経時的変化は下記に示すエノコログサの種子処理による殺草活性により測定される。
エノコログサ種子処理の殺草活性試験法直径90mmのシャーレに濾紙(No.2)2枚を敷き、活性物質を含む水溶液5mlを加え、エノコログサの種子を20粒置床し26℃、照度2000ルックスの条件下発芽、生育させる。5日後にエノコログサ種子の発芽の有無、子葉の成長を観察する。他の生物学的作用物質の大量生産に好ましく使用される培養方法は、本発明に適用できる。本発明化合物の大量生産には深部好気培養条件が好ましく、少量産生にはフラスコ中振とう培養が行われる。さらにまた、生産を大型タンク内で行う場合には、本発明化合物の生産工程における菌の生育遅延を回避するために、生産タンクへの接種には菌の栄養細胞を使用するのが望ましい。すなわち、まず比較的少量の培養培地に菌の細胞を接種してその接種培地を培養することにより菌の栄養細胞を生産し、ついで培養した栄養細胞を大型タンクに移すのが望ましい。栄養細胞を生産する培地は本発明化合物の生産に利用される培地と実質的に同じであるかまたは異なってもよい。培養混合物の撹拌及び通気は種々の方法で行うことができ、撹拌はプロペラまたはこれと同様な機械的撹拌装置によって、発酵器の回転または振とうによって、種々のポンプ装置によって行うことができる。また、通気は発酵混合物中の滅菌空気の通過によって行うことができる。
【0019】主として培養液中の液体部分に存在する本発明化合物は、培養終了後、菌体、その他の固形部分をろ過、あるいは遠心分離によって除去し、その濾液あるいは上清中に存在する本発明化合物をその物理化学的性状を利用して、精製することができる。生物学的作用物質の回収および精製のために常用される種々の操作法、例えば、適切なクロマトグラフィーにより精製される。即ち、本発明化合物は、ダウエクス1(ダウ・ケミカル社)、アンバーライトIRA(オルガノ社)等を用いたイオン交換クロマトグラフィー、セファデックスG−15(ファマルマシア社)等を用いたゲルろ過クロマトグラフィー、ならびに逆相カラムを用いた液体クロマトグラフィーで精製することができる。
【0020】次に 本発明化合物の製造法を実施例をあげて説明するが、本発明は、もちろんこれらの方法に限定されるものではなく、培養基の種類、培養条件、分離、精製方法等は、大幅に変更しうるものであることは言うまでもない。また 本発明化合物の活性はエノコログサの種子を用いた種子処理試験により行った。
【実施例1】サッカロスリックス sp.888 株を、下記の組成の培地(培地組成1)100ml を含む 300ml容三角フラスコに、1〜数白金耳接種し、150rpmの回転振とう培養機により 28℃、2日間培養した。
培地組成 1グルコース 10 g肉エキス 1 gペプトン 2 g酵母エキス 1 g精製水 1000 ml pH 7.2
【0021】この培養液を、50mlを下記の組成の培地(培地組成2)の培地1lを含む 500ml容三角フラスコ(バッフル付き)5本に接種し 80rpmの回転振とう培養機により28℃7日間培養した。
培地組成 2澱粉 5 gグリセリン 5 g酵母エキス 1 g綿実粕 10 g硫酸マグネシウム 7水塩 1 g燐酸一カリウム 1 g燐酸二カリウム 2 g硫酸アンモニウム 1 g野菜ジュース 100 ml精製水 900 ml pH 7.0
【0022】培養終了後、得られた培養液約5lに、活性炭(和光純薬製 クロマトグラフィー用)を3重量%加え、遠心分離により濾液4.5 l(pH約8.0)が得られた。この培養濾液を ダウエックス 1 x 8(50〜100 メッシュ、OHタイプ、ダウ・ケミカル社製)1000mlのカラムに通し活性画分を吸着させた。3lの脱イオン水で水洗後、 0.2N水酸化ナトリウム水溶液2lで溶出し、得られた活性画分を、凍結乾燥により粗粉末約20gを得た。次に、この粗粉末にメタノールを加え、活性画分をメタノール抽出3回行った メタノールを減圧乾固し粗粉末約3g得た。この粗粉末10gを水5lに溶かし、DEAEトヨパールC650樹脂(トーソー社製)1lのカラムに通し、水洗後、水2lと 0.5N食塩水2lの直線濃度勾配により、活性画分の溶出を行った。活性画分は食塩濃度0.15Nにおいて溶出したた。この活性画分を集めて、凍結乾燥を行い、約6gの白色粉末を得た。この白色粉末6gを水10mlに溶かし、水にて平衡化したセファデックスG−15(ファルマシア社製)の1000mlのカラムに吸着させた。その後脱イオン水によって展開溶出し、溶出液を20mlずつ分画した。本発明化合物を含むフラクション60から70を集め凍結乾燥を行い、純度約80%の本発明化合物100mg を得た。
【0023】
【実施例2】実施例1と全く同様の方法で培養し、同様の方法にて単離、精製した純度約80%の本発明化合物100mg を、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによりさらに精製した。即ち、移動相として10%メタノール含有ピックA水溶液(ウォターズ社製)を、流速を7ml/min. 、逆相カラムはマイクロボンダスフェアーC18(7.8mm x 30cm ウォターズ社製)を用いた。試料50μl を注入後、UV210nm でモニターしながら、溶出時間13〜14分のピークを分取した。同様の分取操作を十数回行い目的の本発明化合物を分取した。分取したサンプルを凍結乾燥して白色粉末を得た。この白色粉末をDEAEトヨパールC650(トーソー社製)カラム、セファデックスG−15(ファマルシア社製)カラムにより、脱塩精製し、精製サンプル50mgを得た。
【0024】
【実施例3】サッカロスリックスsp.888を下記の組成(培地組成3)の培地100ml を含む 300ml 容三角フラスコ2本に数白金耳接種し150rpm、28℃、2日間回転振とう培養機により培養した。この培養液200ml を下記の培地組成の培地1.5lを含む、3l容ジャーファメンターに接種し、28℃、撹拌500rpm、通気量2l/minで1週間通気撹拌培養した。
培地組成 3澱粉 10 g酵母エキス 1 g綿実粕 10 g硫酸マグネシウム 7水塩 1 g燐酸一カリウム 1 g燐酸二カリウム 2 g精製水 1000 ml pH 7.0得られた培養液は、実施例1及び実施例2と同様な方法によって分離精製を行って、本発明化合物20mgを得ることができた。この本発明化合物を陽イオン交換樹脂ダウエックス50W、H +型(ダウケミカル社製)に吸着させ、酸性型の本発明化合物10mgを油状物質として得ることができた。
【0025】(4) 本発明化合物の生物学的性質本発明の本発明化合物およびその塩は植物に対して除草作用を示す。後記の試験例1、2から明らかなように、本物質及びその塩は発芽前および発芽後のいずれの処理方法によっても種々の雑草に対して効果を示し、ことに茎葉処理除草剤として有用である。
【0026】本発明化合物は、それらを単独でそのまま使用する事もできるが、通常は製剤補助剤とともに、粉剤、水和剤、粒剤、乳剤などの種々の形態に製剤して使用する。その場合、製剤中に、本発明の化合物をその配合量が 0.1〜95重量%、好ましくは 0.5〜90重量%、より好ましくは2〜70重量%含まれるように製剤すれば良い。製剤補助剤として、使用する担体・希釈剤、界面活性剤としては、つぎのものが例示される。即ち、固体担体としてはタルク、カオリン、ベントナイト、珪藻土、ホワイトカーボン、クレーなどの無機物質、クマロン樹脂、アルキド樹脂等の合成樹脂、パラフィン、ロウ等のワックス等があげられる。液体希釈剤としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、キシレン、トルエン、メチルナフタレン、ソルベントナフサ等の炭化水素類等があげられる。界面活性剤は、乳化剤として、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等、分散剤として、リグニンスルホン酸塩、ジブチルナフタレンスルホン酸塩等、湿潤剤として、アルキルスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩など、を挙げることができる。本発明の除草剤は他の成分、たとえばゼラチン、アラビアゴムカゼイン等のような保護コロイド剤、等一般に農薬用として許容されるその他の成分などを含有させることもできる。本発明の除草剤は他の除草剤、植物生長調節剤、殺虫剤、殺菌剤等と混合し適用範囲を拡大し、省力化をはかることができる。
【0027】次に、本発明の除草剤の製剤例及び試験例をあげて説明するが、担体(希釈剤)及び助剤、その混合比及び有効成分は、広い範囲で変更しうる。
製剤例 1 水和剤本発明化合物 50部リグニンスルホン酸塩 5部アルキルスルホン酸塩 3部珪藻土 42部上記成分を混合粉砕し、水和剤とし、水で希釈して使用する。
製剤例 2 乳剤本発明化合物 25部キシレン 65部ポリオキシエチレンアルキルエーテル 10部上記成分を均一に混合して乳剤として、水で希釈して使用する。
製剤例 3 粒剤本発明化合物 8部ベントナイト 40部クレー 45部リグニンスルホン酸塩 7部上記成分を均一に混合しさらに水を加えて練り合わせ押し出し式造粒機で粒状に加工乾燥して、粒剤とした。
【0028】試験例 1) 茎葉処理による殺草試験ポットで生育させたアオビユ、コセンダングサ、ヤセイカラシナ、ハコベ、エビスグサ、イヌホウズキ、イチビ、セイヨウヒルガオ、カミツレ、エノコログサ、ショクヨウビエ、メヒシバ、ヤエムグラ(各供試植物とも2〜4葉の時)の茎葉部に、上記製剤例に示すような、水和剤を所定濃度に調製した本発明化合物の薬液を12.5及び50g/ha相当量を散布した。散布後14日後に、下記の基準で除草効果を調査した。それらの結果を表2に示す。
調査基準(茎葉枯死の程度を、無散布区と比較)
判定 0:効果無し判定 1:31%未満の除草効果判定 2:31〜50%の除草効果判定 3:51〜70%の除草効果判定 4:71〜90%の除草効果判定 5:91〜100 %の除草効果
【0029】
【表2】


【0030】試験例2 種子発芽試験直径9cm のシャーレ内に、濾紙2枚を重ねて敷き供試化合物の水懸濁液(有効成分 50ppm 、100ppm)を5mlずつ注ぎ、アオビユ、コセンダングサ、カミツレ、イヌホウズキ、タイヌビエ、コゴメカヤツリ、エノコログサの種子を10粒ずつ置床した。その後28℃の恒温室内で発芽させ、置床10日後に発芽及び生育阻害を肉眼観察により次の6段階の基準で判定した。その結果を表3に示す。
調査基準(発芽及び生育抑制の程度を、無散布区と比較)
判定 0:効果無し判定 1:31%未満の除草効果判定 2:31〜50%の除草効果判定 3:51〜70%の除草効果判定 4:71〜90%の除草効果判定 5:91〜100 %の除草効果
【0031】
【表3】


【0032】
【発明の効果】本発明化合物は、文献未記載の新規化合物であって、サッカロスリックス属に属する菌株によって生産される。この化合物は、双子葉植物、単子葉植物に対して幅広い除草効果を示す。従って農薬として有用であることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記式(I)で表される2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸およびその塩類。


【請求項2】 2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタンー1ーホスホン酸を産生しうるサッカロスリックス(Saccharothrix) 属に属する菌株を培養して、培養物中に2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸を産生せしめ、その培養物から、2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸を回収することを特徴とする2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸の製造法。
【請求項3】 サッカロスリックス(Saccharothrix) 属に属する菌株がサッカロスリックス sp.888(微工研条寄第3053号)株である請求項2記載の製造法。
【請求項4】 サッカロスリックス属に属するサッカロスリックスsp.888菌株(微工研条寄第3053号)。
【請求項5】 請求項1記載の式(I)に示される2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−3−オキソブタン−1−ホスホン酸もしくはその塩類を有効成分とする除草剤

【特許番号】第2663096号
【登録日】平成9年(1997)6月20日
【発行日】平成9年(1997)10月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−181962
【出願日】平成5年(1993)6月28日
【公開番号】特開平7−8282
【公開日】平成7年(1995)1月13日
【微生物の受託番号】 FERM BP−3053
【出願人】(000001100)呉羽化学工業株式会社 (477)