説明

新規ポリガラテノシド化合物およびそれを含む抗鬱剤

【課題】抗鬱剤として有効な新規な化合物を提供する。
【解決手段】下記化学式(1)(式中、R、R’およびR”は、各々独立して水素原子またはRであり(R、R’およびR”が全て水素原子になることはない)、Rは、ベンゾイル基等)で表される化合物またはその薬剤として許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒメハギ(Polygala)の水溶性抽出物から精製された新規化合物に関するものであり、また該化合物の抗鬱剤としての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不安や神経症などの精神障害は近年増加しており、種々の抗鬱剤が現在用いられている。ベンラファキシン(ノルエピネフリン再取り込み阻害剤)やブプロピオン(ノルエピネフリン/ドーパミン再取り込み阻害剤)のような近年開発された抗鬱剤は、中枢神経系内の複数の受容体と相互作用することによってその作用を発揮することが、多数の研究により明らかにされている。
【0003】
遠志(Yuan Zhi)(ヒメハギ科、イトメハギ(Polygala tenuifolia Willd)の根)は、中枢神経系に対して鎮静作用、抗精神作用、認知向上、神経保護、消炎作用などの治療効果を有するため、漢方で処方される重要な薬草である。遠志はまた、不眠症、神経衰弱症、健忘症、不安に伴う動悸、情緒不安定、見当識障害にも適用され、また認知症や物忘れに対する予防にも用いられる。遠志から抽出された種々のキサントン、サポニン、およびオリゴ糖エステルが従来より報告されている(例えば、非特許文献1〜9)。
【0004】
特許文献1では、薬剤として許容される有効成分のキャリアーまたは希釈剤との混合物として治療効果量の有効成分を含む抗鬱剤組成物が開示されている。該有効性成分は、i)極性溶媒が水または水とメタノールもしくはエタノールとの混合物であるヒメハギの極性溶媒抽出物、ii)有機溶媒を用いて抽出した極性溶媒抽出物から抽出される水溶液フラクション、iii)逆相クラマトグラフカラム中の極性溶媒抽出物または水溶液フラクションを用い、次に水および有機溶媒によりカラムを溶出することによって得られる有機溶出液、またはiv)有機溶出液中の30000ダルトン未満の分子量を有するろ液である。
【0005】
特許文献2では、ノルエピネフリンの再取り込みを阻害することが有効な身体的もしくは精神的疾患、不調、状態に罹患しているヒトを治療する、またはそのような疾患に罹患することを予防するための方法および組成物が開示されている。上記身体的もしくは精神的疾患、不調、状態は、嗜癖障害(アルコール、ニコチン、他の精神活性物質によるものを含む)および禁断症候群、適応障害(憂鬱感、不安、不安と憂鬱感の併発、行動障害、行動と感情障害の併発)、加齢性の学習障害や精神障害(アルツハイマー病を含む)、拒食症、無気力、一般的な健康状態による注意力欠如(または他の認知)障害、注意力欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、多食症、慢性疲労症候群、慢性的なまたは急性のストレス、慢性疼痛、行為障害、気分循環性障害、鬱病(青年期の鬱病、小鬱病を含む)、気分変調性障害、線維筋痛および他の身体型障害(身体化障害、転換性障害、疼痛性障害、心気症、身体醜形障害、鑑別不能型身体表現性障害、および特定不能の身体表現性障害)、全般性不安障害(GAD)、失禁(すなわち、緊張性失禁、ストレス性失禁、原因が混在した失禁)、吸息障害、中毒症(アルコール中毒)、躁病、偏頭痛、肥満(すなわち、肥満または過重量の患者の体重を減らすこと)、強迫性障害および関連するスペクトラム障害、反抗挑戦性障害、パニック障害、末梢神経障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不機嫌性障害(すなわち、月経前症候群および後期黄体期不機嫌性障害)、精神異常(統合失調症、統合失調性感情障害および統合失調症様障害を含む)、季節性情動障害、睡眠障害(ナルコプレシー、夜尿症など)、対人恐怖症(社会不安障害を含む)、特異的発達障害、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)耐性症候群(すなわち、初期に効果が現れるものの、その後はSSRI治療の効果が持続しない患者)、およびチック障害(例えば、トゥレット症候群)からなる群から選択される。
【特許文献1】英国特許出願公開第2383951号公報
【特許文献2】米国特許第6,642,235号明細書
【非特許文献1】Fujita,T.;Liu,D.Y.;Ueda,S.;Takeda,Y.,Phytochemistry1992,31,3997−4000
【非特許文献2】Ikeya,Y.;Sugama,K.;Okada,M.;Mitsuhashi,H.,Phytochemistry1991,30,2061−2065
【非特許文献3】Ikeya,Y.;Sugama,K.;Okada,M.;Mitsuhashi,H.,Chem.Pharm.Bull.1991,39,2600−2605
【非特許文献4】Miyase,T.;Iwata,Y.;Ueno,A.,Chem.Pharm.Bull.1991,39,3082−3084
【非特許文献5】Jiang,Y.;Tu,P.F.,Phytochemistry2002,60,813−816
【非特許文献6】Sakuma,S.;Shojji,J.,Chem.Pharm.Bull.1981,30,810−821
【非特許文献7】Jiang,Y.;Tu,P.,Chem.Pharm.Bull.2005,53,1164−1166
【非特許文献8】Jiang,Y.;Tu,P.J.,Asian Nat.Prod.Res.2003,5,279−283
【非特許文献9】Jiang,Y.;Zhang,W.;Tu,P.Xu,X.J.,Nat.Prod.2005,68,875−879
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第一の目的は、抗鬱剤の有効成分として有用な新規化合物を提供することにある。
【0007】
本発明の第二の目的は、本発明の新規化合物の抗鬱剤としての使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、イトメハギ(P.tenuifolia)の根の水溶性抽出物のメタノール溶出液の抑制作用を、[125I]RTI−55(3β−(4−ヨードフェニル)−tropan−2β−カルボン酸メチルエステル)の膜タンパク質への結合に対して調べた。本願発明者らはバイオアッセイによりイトメハギ(P.tenuifolia)の抽出物から5つの新規なオリゴ糖誘導体(化合物1〜5)を単離し、これらがノルエピネフリントランスポーター(以下、NETとする)への[125I]RTI−55結合を阻害することを見出した。前記化合物の中でも、化合物1および2が他の化合物に比べてより効果があることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイトメハギから抽出された新規化合物は、抗鬱剤の有効成分として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、下記化学式(1)で表される化合物または薬剤として許容される塩を提供するものである。なお、本明細書では、下記化学式(1)で表される化合物または薬剤として許容される塩を総称して「ポリガラテノシド(polygalatenosides)」と称することもある。
【0011】
【化1】

【0012】
化学式(1)中、R、R’およびR”は、各々独立して水素原子またはRであり(この際、R、R’およびR”が全て水素原子になることはない)、Rは、下記化学式(2);
【0013】
【化2】

【0014】
式中、R2は水素原子、C1〜6のアルキル基、C1〜6のアルコキシ基またはハロゲン原子からなる群から選択されたものを表す。C1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、cyclo−ヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−iso−プロピルプロピル基、および1,2−ジメチルブチル基などが挙げられる。C1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、ペントキシ基、ネオペントキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、cyclo−ヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−iso−プロピルプロポキシ基および1,2−ジメチルブトキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およおびヨウ素原子などが挙げられる。
【0015】
好ましくは、R2は水素原子である。
【0016】
また、好ましくはR、R’およびR”のうちいずれか1つがRであり、その他2つが水素原子である。すなわち、好ましくはRがRであり、R’およびR”が水素原子である。また、好ましくは、R’がRであり、RおよびR”が水素原子である。また、好ましくは、R”がRであり、RおよびR’が水素原子である。
【0017】
化学式(1)のポリガラテノシドには、光学活性化合物のラセミ混合物または光学的に純粋なRおよびS立体異性体が含まれる。
【0018】
本発明はさらに、薬剤的に許容できるキャリアーおよび希釈剤とともに上記式(1)によって表されるポリガラテノシドまたは薬剤として許容されるこれらの塩を有効成分として治療学的に有効量含む抗鬱剤組成物を提供する。
【0019】
本発明の抗鬱剤組成物は、薬剤的に許容できるキャリアーと配合したまたは薬剤的に許容できる希釈剤に溶解もしくは懸濁した組成物として、経口的または非経口的に患者に投与できる。
【0020】
本剤を経口投与用とする場合には、前記ポリガラテノシドを適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤または希釈剤等と適宜混合して、錠剤、散剤(粉末)、丸剤、および顆粒剤等の固型製剤にすることができる。また、硬質または軟質のゼラチンカプセル等を用いてカプセル剤としてもよい。これらの固型製剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートフタレート、メタアクリレートコポリマー等の被覆用基剤を用いて腸溶性被覆を施してもよい。さらに、前記ポリガラテノシドを、精製水等の一般的に用いられる不活性希釈剤に溶解して、必要に応じて、この溶液に浸潤剤、乳化剤、分散助剤、界面活性剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、シロップ剤、エリキシル剤等の液状製剤とすることもできる。
【0021】
また、本発明の抗鬱剤組成物を非経口投与用とする場合には、前記ポリガラテノシドを精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンガー溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、エタノール、グリセリン及び慣用される界面活性剤等と適当に組み合わせた滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソームまたはエマルジョンとして、好ましくは注射用注入用または噴霧用滅菌水溶液として、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、腸内、気管支内等に投与される。この際、液状製剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHを有することが好ましい。さらに、本発明の抗鬱剤組成物は、ペレットによる埋め込み、または坐薬用基剤を用いた坐薬として投与されることも可能である。
【0022】
上述したうち、好ましい製剤や投与形態等は、担当の医師によって選択される。
【0023】
本発明の抗鬱剤組成物の投与量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与形態や方法、治療効果、および処置期間等によって異なり、正確な量は医師により適宜決定される。
【0024】
本発明はさらに、ノルエピネフリンの再取り込み阻害が有効である疾病に罹患している患者を治療するための薬剤組成物を提供するものである。前記薬剤組成物は、薬剤的に許容できるキャリアーおよび希釈剤とともに、上記式によって表されるポリガラテノシドまたは薬剤として許容されるこれらの塩を治療学的に有効量含むものである。上記式(1)によって表されるポリガラテノシドまたは薬剤として許容されるこれらの塩は、ノルエピネフリン輸送を遮断することによってノルエピネフリンの再取り込み阻害剤として作用する。前記薬剤組成物におけるキャリアーおよび希釈剤は、上記抗鬱剤組成物で記載してものと同様のものが使用できる。また、投与方法(経口等)、製剤化方法や投与形態(錠剤等)、投与量は上記抗鬱剤組成物で記載したのと同様である。
【0025】
本発明の組成物が適用される疾病としては、好ましくは、嗜癖障害、禁断症候群、適応障害、加齢性の学習障害や精神障害、拒食症、無気力、注意力欠如障害、注意力欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、または肥満が挙げられる。
【0026】
イトメハギ(Polygala tenuifolia)の根からの水溶液抽出物の[125I]RTI−55−膜結合アッセイによる分別および精製により、5つの新規なオリゴ糖誘導体、ポリガラテノシドA〜E(化合物1〜5)を得た。これらの新規オリゴ糖誘導体の構造は、分光学的証拠に基づいて解析した。ポリガラテノシドAおよびB(化合物1および2)は、本実施例による結合アッセイにおいて、IC50値でそれぞれ30.0および6.04μMという顕著な阻害活性を示し、ノルエピネフリン輸送阻害によるノルエピネフリン再取り込み阻害剤として作用することが明らかとなった。
【実施例】
【0027】
[実験手順]
旋光度は、旋光度測定装置(JASCO DIP−370)を使って測定した。UVスペクトルは、分光光度計(Hitachi UV−3210、日立製作所社製)を使って測定した。IRスペクトルは、KBr disc法で分光光度計(JASCO IR Report−100)を使って測定した。HPLCは、Cosmosil(登録商標)5C−18−MS−IIカラム(20×250mmおよび4.6×250mm、5μm)を用いて、島津製作所社LC−10ATVPシステムにより行った。H、13C、HMQC、HMBC、およびNOESY NMRは、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて、Bruker社AMX−400およびVarian−400 Unity PlusNMR分光計で行い、全ての化学シフトの単位は、100万分の1(ppm、δ)である。質量スペクトル(EIまたはFAB)は、VG70−250S分光計で行った。
【0028】
[植物材料]
P.tenuifoliaの根は、2003年5月に台湾台北のマーケットで購入し、C.S.Kuoh教授(国立Cheng Kung大学、生命科学部)によって本物であることが確認された。植物証拠標本(No.920021)は、醫藥工業技術發展中心(台湾、台北市)の標本集に寄託している。
【0029】
[抽出および単離]
P.tenuifolia(1.25kg)の風乾根を粉末状にし、還流下で2時間、HO(5L)で2回抽出した。HO抽出物を、Diaion HP−20カラムクロマトグラフにかけ、HO(45L)、50%MeOH(30L)、およびMeOH(25L)で連続して溶出させた。50%MeOH溶出液を減圧下濃縮し、淡黄色シロップ(44g)を得、6フラクションとるために、CHCl/MeOH(80:20、75:25、70:30、65:35、および50:50)と100%メタノールとの混合物を用いてシリカゲルカラム(203〜400メッシュ、E.Merck社、800g)でクロマトグラフを行った。フラクション2(1.0g)を移動相としてHO/CHCNの混合物(HO:CHCN=70:30、流速:10mL/min;UV230nm)を用いてリサイクル式高性能液体クロマトグラフィー(preparative HPLC)[ODS−5(20×250mm)]にかけ、3つのサブ−フラクション:2−1(125.3mg)、保持時間5〜13分;2−2(121.3mg)、保持時間13〜18分、および2−3(27.1mg)、保持時間18〜23分を得た。サブフラクション2−2をHPLC[カラム:移動相HO−MeOH(80:20)のODS−5(4.6×250mm);流速:1.0mL/分;UV:230nm]によって分離し、化合物2(保持時間:13.3分)(3.1mg)、化合物5(保持時間:17.7分)(1.6mg)、化合物4(保持時間:19.4分)(3.8mg)、化合物3(保持時間:20.9分)(4.6mg)、および化合物1(保持時間:22.2分)(33.8mg)を得た。それぞれの化合物の構造式は以下の通りである。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
[ポリガラテノシドA(化合物1)]
無色シロップ様、[α]+171(c0.01,MeOH);UV(MeOH)λmax(logε)228(4.12),273(3.41),279(sh)(3.37)nm;IR(KBr)νmax3411,1713,1634,1603,1585,1285,1080cm−1Hおよび13CNMR,表1および2参照;FABMS m/z 431([M+H],3),307(40),291(24),289(18),267(8),154(100),139(11),138(28),137(56),136(58),107(15);HRFABMS m/z 431.1557[M+1](calcd for C192711,431.1553)。
【0034】
[ポリガラテノシドB(化合物2)]
無色シロップ様、[α]+343.1(c0.003,MeOH);UV(MeOH)λmax(logε)228(3.94),272(3.69)nm;IR(KBr)νmax3415,2927,1713,1602,1452,1280cm−1Hおよび13CNMR,表1および2参照;FABMS m/z 431[M+H],307,291,289,154,137,136,107;HRFABMS m/z 431.1552[M+1](calcd for C192711,431.1553)。
【0035】
[ポリガラテノシドC(化合物3)]
無色シロップ様、[α]+256.6(c0.005,MeOH);UV(MeOH)λmax(logε)229(3.87),273(3.72),301(3.55)nm;IR(KBr)νmax3402,1713,1631,1602,1452,1280cm−1Hおよび13CNMR,表1および2参照;FABMS m/z 431([M+H],3.4),307(33),291(21),289(15),267(8),155(27),154(100),139(11),138(29),137(57),136(61),107(16);HRFABMS m/z 431.1554[M+1](calcd for C192711,431.1553)。
【0036】
[ポリガラテノシドD(化合物4)]
無色シロップ様、[α]+103.7(c0.004,MeOH);UV(MeOH)λmax(logε)216(3.98),258(4.02)nm;IR(KBr)νmax3414,1708,1606,1512,1464cm−1Hおよび13CNMR,表1および2参照;HRFABMS m/z 477.1606[M+1](calcd for C202913, 477.1611)。
【0037】
[ポリガラテノシドE(化合物5)]
無色シロップ様、[α]+616.8(c0.001,MeOH);UV(MeOH)λmax(logε)258(4.15)nm;IR(KBr)νmax3400,1585,1505,1464,1405cm−1Hおよび13CNMR,表1および2参照;FABMS m/z 505 ([M+H],0.5),503(2),459(3),371(3),369(3),297(4),277(11),241(16),185(100),149(28),117(10),93(98),75(40);HRFABMS m/z 505.1920[M+1](calcd for C223313:505.1923)。
【0038】
【表1−1】

【0039】
【表1−2】

【0040】
【表2】

【0041】
[膜結合アッセイ]
ヒトノルエピネフリントランスポーターが安定導入されたイヌ腎臓MDCK細胞由来の膜を用いた。500cm組織培養プレート中でコンフルエンスに培養された、トランスフェクションされた細胞から、全細胞膜を準備した。細胞を遠心チューブ中に掻き取り、900g、4℃、10分間で沈殿させた。改変したトリス−塩酸緩衝液(50mMトリス−塩酸、100mMNaCl、1μMleupetin、10μMPMSF;pH7.4)で沈殿物を再懸濁し、17000g、4℃、30分間遠心を行った。その後、沈殿物を再懸濁し、テフロンペストルを備えたガラスホモジナイザーでホモジナイズし、17000g、4℃、90分間遠心を行った。沈殿物を回収し、改変したトリス−塩酸緩衝液中に再懸濁した。タンパク質濃度はBCAタンパク質測定試薬(Pierce社,ロックフォード)を用いて定量した。結合アッセイ用に膜タンパク質40μgアリコートを0.2nM[125I]RTI−55(3β−(4−ヨードフェニル)−tropan−2β−カルボン酸メチルエステル)とともに4℃、3時間インキュベートした。0.3%ポリエチレンイミンを浸したWhatman GF/Bを使って急速真空濾過し、冷バッファー1mLで3回急速で洗うことによって結合を止めた。ガンマ線分光分析によって結合した放射活性を測定した。非特異性の結合は、10μMデシプラミン存在下で測定し、特異的結合を算出するためにデシプラミン非存在下のデータから、非特異性結合を差し引いた。
【0042】
[結果]
P.tenuifolia(1.25kg)の風乾根を粉末状にし、還流下、水で抽出した。HO抽出物は、Diaion HP−20カラムクロマトグラフにかけ、順にHO、50%MeOH、および100%MeOHで溶出した。6フラクションとるために、CHCl/MeOHを用いてシリカゲルカラム上で50%MeOH溶出液をクロマトグラフにかけた。得られたもののうち、フラクション2が濃度依存的にMDCK細胞のノルエピネフリントランスポーターに対する[125I]RTI−55を阻害した。IC50値は、4.6μg/mLであった。次にフラクション2を逆相ODSカラムを用いたリサイクル式高性能液体クロマトグラフィー(preparative HPLC)にかけ、5つの新規オリゴ糖誘導体ポリガラテノシドA〜E(化合物1〜5)を得た。
【0043】
ポリガラテノシドA(化合物1)は無色シロップ様で分離された。化合物1のHRFABMSでは、m/z 431.1557[M+H]でプロトン化した分子イオンピークを示し、C192611であることが判明した。紫外スペクトルは、ベンゾイル残基の存在を示す最大吸収を示した。IRスペクトルでは、3411および1713cm−1にバンドがあり、ヒドロキシル基および共役エステルカルボニル基が存在することがわかった。H NMRスペクトルにおいて、ガラクトシルおよびポリガリトシル(polygalitosyl)残基によるシグナルに加え、ベンゾイル基(δ7.99,2H d;7.61,1H,t;7.47,2H,d)に対するシグナルが現れた(表1参照)。また、ベンゾイル、ガラクトシル、およびポリガリトシル部分による13C NMRシグナル(表2参照)により、化合物1は安息香酸のポリガリトシルガラクトシドであることもまた明らかとなった。全てのプロトンおよびカーボンNMRシグナルは、H−H COSY、HMQC、およびHMBC NMR実験によって決めた。ポリガリトール(下記式(3))と比較してポリガリトシルユニットのC−2が4ppm低磁場へとシフトしていること、およびガラクトシルユニットのC−1がδ 95.7へと低磁場側にシフトしていることから、ポリガリトシル(2→1)−α−ガラクトシドとして化合物1中にグリコシド内の結合があることが明らかとなった。
【0044】
【化6】

【0045】
これは、HMBC実験におけるガラクトシルユニットのH−1(δ5.00)およびポリガリトール部分のC−2(δ73.3)の間のJ結合定数(correlation)によっても支持される(図1参照)。NMRスペクトルにおいて、ガラクトシル残基のメチレンプロトンシグナルがδ4.49および4.39へと低磁場シフトしていること、ならびにガラクトシル残基のC−6炭素がδ64.3へと低磁場シフトシフトしていることから、C-6位がベンゾイル基結合位であると判断される。これは、H−6(δ4.49および4.39)ならびにベンゾイル残基のエステルカルボニル炭素(δ168.2)の間のJ結合定数(correlation)によって確認した。以上のデータの解析から、ポリガラテノシドA(化合物1)は、6−O−ベンゾイル−ポリガリトシル(2→1)−α−ガラクトース(6−O−benzoyl−polygalitosyl−(2→1)−α−galactose)であると判断した。
【0046】
ポリガラテノシドB(化合物2)およびポリガラテノシドC(化合物3)は無色シロップ様で分離された。化合物2および3のHRFABMSでは、各々m/z 431.1552および431.1554[M+H]でプロトン化した分子イオンピークを示し、化合物1と同じくC192611であることが判明した。紫外スペクトルでは、ベンゾイル残基に対応する最大吸収を各々示した。IRスペクトルでは、3415および1713cm−1にバンドがあり、ヒドロキシル基および共役エステルカルボニル基が存在することがわかった。ポリガラテノシドBおよびCのNMRスペクトルにおいては、化合物1と同様にエステル部分としてベンゾイル残基、および糖部分としてガラクトシルおよびポリガリトシル(polygalitosyl)残基の存在が明らかとなった。H−H COSYおよびHMQCスペクトルから全てのプロトンシグナルを割り当てた後、これらの残基の置換位置を、NOE(図2参照)およびHMBC(図1参照)により決定した。13CNMRスペクトルおよび化合物2および3のHMBCスペクトル中のH−1(ガラクトシル)およびC−2(ポリガリトシル)の間のJ結合定数(correlation)において、ポリガリトシル部分のC−2およびガラクトシル部分のC−1が低磁場シフトすることから、化合物1と同様にポリガリトシル(2→1)−α−ガラクトシドとして糖残基が存在することが明らかとなった。しかしながら、化合物2および3は、エステル結合部位が異なることがわかった。化合物2においては、ガラクトシルユニットのH−3およびC−3のシグナルがδ5.29およびδ75.3へと低磁場シフトしていることから、ガラクトシル残基のC−3位にベンゾイル基が存在することが明らかとなった。化合物3においては、ガラクトシルユニットのH−4およびC−4のシグナルは、それぞれδ5.59およびδ73.5へと低磁場シフトし、ガラクトシルC−4の位置でベンゾイル基が結合していることが明らかとなった。これは、HMBCスペクトルにおいてガラクトシルユニットのH−4(δ5.59)およびベンゾイル基のカルボニル炭素C−7(δ167.9)の間のJ結合定数(correlation)によっても支持される。したがって、構造的に化合物2は3−O−ベンゾイル−ポリガラクトシル−(2→1)−α−ガラクトース(3−O−benzoyl−polygalitosyl−(2→1)−α−galactose)および化合物3は4−O−ベンゾイル−ポリガラクトシル−(2→1)−α−ガラクトース(4−O−benzoyl−polygalitosyl−(2→1)−α−galactose)であることがわかった。
【0047】
ポリガラテノシドD(化合物4)は無色シロップ様で得られた。HRFABMSでは、m/z477.1606でプロトン化した分子イオンピークを示し、C202913であることが判明した。化合物4の紫外スペクトルでは、216および258nmで吸収を示した。IRスペクトルでは、3414および1708cm−1にバンドがあり、ヒドロキシル基および共役エステルカルボニル基が存在することがわかった。HNMRスペクトルは、スクロース部分に対するシグナルに加え、A−タイプの芳香族プロトン(各々の2Hに対してδ8.06および7.01)およびメトキシ基(δ3.86,3H,s)に対するシグナルを示した。化合物4の13C NMRスペクトルもまた、p−メトキシベンゾイル基およびスクロース残基によるシグナル(表2参照)を示した。Hおよび13C NMRシグナルの全ての割り当ては、COSY、HMQC、およびHMBC実験によって確かめた。フルクトシル部分のオキシメチンプロトンおよびカーボン(H−3およびC−3)が各々δ5.56およびδ80.6へと低磁場シフトしていることから、p−メトキシベンゾイル部分が化合物4のC−3’に位置することが示された。これはHMBCスペクトルによって支持される。なぜならば、フルクトシル残基のH−3(δ5.56)は、δ167.7でp−メトキシベンゾイル部分のエステルカルボニル炭素に相関するからである。したがって、化合物4の構造は、3’−O−p−メトキシベンゾイル−スクロース(3’−O−p−methoxybenzoyl−sucrose)であると推定される。
【0048】
ポリガラテノシドE(化合物5)は無色シロップ様で分離され、HRFABMS([M+H]m/z 505.1920)からC223213の元素組成を有すると推定される。3400、1585、1505、1464cm−1でのIR吸収バンドは、ヒドロキシルおよび芳香族部分の存在を示す。化合物5のNMRデータは、cis−シナピルアルコール部分シグナルを示した。前記cis−シナピルアルコール部分シグナルは、化合物5の13C NMRスペクトルにおいて、δ103.2、79.2、79.2、71.8、78.5および63.1でのグルコシルならびにδ110.9、78.6、81.4、76.1および66.9でのアピオシル(apiosyl)のシグナルに加えて、δ6.55(2H,s)での2つの同等な芳香族プロトン、δ3.83(6H,s)での2つのメトキシ基、δ6.48(1H,d,J=11.6Hz)および5.80(1H,dt,J=11.6,6.4Hz)での2つのcis−オレフィンのプロトン、ならびにδ4.34(2H,dd,J=6.4,1.6Hz)でのオキシメチレンプロトンを含むものである。上記データとカロパナキシンD(kalopanaxin D)[Kazuko,S.;Shuichi,S.;Yoshiteru I.;Junzo,S.Chem.Pharm.Bull.1991,39,865−870)とを比較すると、糖部分は、β−アピオシル−(1→2)−β−グルコシド(β−apiosyl−(1→2)−β−glucoside)部分であると推定される。これは、HMBC実験においてグルコシルのC−2のδ79.2への低磁場シフトおよびグルコシルユニットのH−2プロトン(δ3.69)とアピオシルユニットのC−1(δ 110.9)との間のJ結合定数(correlation)によって支持される(図1参照)。また、グルコシルH−1(δ5.10)とcis−シナピルC−4(δ135.5)との間のHMBC相関で観察されたことに基づき、シナピルアルコールはグルコシルC−1に位置する。上記データから、化合物5は、シナピルアルコール4−O−β−アピオシル−(1→2)−β−グルコース(4−O−β−apiosyl−(1→2)−β−glucose)であることが明らかとなった。
【0049】
化合物1〜5がノルエピネフリントランスポータープロテインへのアイソトープラベルしたRTI−55の結合を阻害するかどうかをin vitroで試験した[Galli,A.;Defelice L.J.;Duke,B.J.;Moore,K.R.;Blakely,R.D.J.Exp.Biol.1995,198,2197−2212]。膜結合アッセイにおいて、ポリガラテノシドA(化合物1)およびB(化合物2)は、IC50値が各々30.0および6.04μMという顕著な阻害活性を示した。三環系抗鬱剤であるデシプラミンは、IC50値が0.93nMでNETへの[125I]RTI−55結合を阻害した。以上の結果より本発明の化合物がNETへの結合を特異的に阻害することによってノルエピネフリン再取り込み阻害剤として作用することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】イトメハギ(Polygala tenuifolia)の根からの水溶液抽出物から精製した本発明の化合物1〜5のHMBC(Heteronuclear Multiple Bond Correlation)相関を示す図である。
【図2】イトメハギ(Polygala tenuifolia)の根からの水溶液抽出物から精製した本発明の化合物2、3のNOESY(Nuclear Overhauser Effect Spectroscopy)相関を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1):
【化1】

式中、R、R’およびR”は、各々独立して水素原子またはRであり(この際、R、R’およびR”が全て水素原子になることはない)、Rは、下記化学式(2);
【化2】

式中、R2は水素原子、C1〜6のアルキル基、C1〜6のアルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択されたものを表す:で表される化合物またはその薬剤として許容される塩。
【請求項2】
前記Rが水素原子である請求項1に記載の化合物またはその薬剤として許容される塩。
【請求項3】
前記R、R’、R”のいずれか1つがRであり、その他2つが水素原子である、請求項2に記載の化合物またはその薬剤として許容される塩。
【請求項4】
薬剤的に許容できるキャリアーまたは希釈剤とともに請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその薬剤として許容される塩を有効成分として含む抗鬱剤。
【請求項5】
薬剤的に許容できるキャリアーおよび希釈剤とともにノルエピネフリン輸送遮断によるノルエピネフリンの再取り込み阻害剤として請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその薬剤として許容される塩を含む、ノルエピネフリンの再取り込み阻害が有効な疾病用薬剤組成物。
【請求項6】
前記疾病が嗜癖障害、禁断症候群、適応障害、加齢性の学習障害や精神障害、拒食症、無気力、注意力欠如障害、注意力欠陥多動性障害(ADHD)、双極性障害、または肥満である請求項5に記載の薬剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−74824(P2008−74824A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313551(P2006−313551)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月9日http://pubs.acs.org/cgi−bin/abstract.cgi/jnprdf/2006/69/i09/abs/np060207r.htmlを通じて発表、平成18年9月http://pubs3.acs.org/acs/journals/toc.page?incoden=jnprdf&indecade=0&involume=69&inissue=9を通じて発表、平成18年9月9日J.Nat.prod.2006,69,1305−1309にWebにて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500390032)財団法人醫藥工業技術發展中心 (3)
【Fターム(参考)】